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特表2022-520062直接噴射火花点火エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-28
(54)【発明の名称】直接噴射火花点火エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20220318BHJP
   C10M 125/08 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 125/26 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 159/22 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 159/20 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 159/24 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 129/40 20060101ALI20220318BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20220318BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20220318BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20220318BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220318BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20220318BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220318BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M125/08
C10M125/26
C10M159/22
C10M159/20
C10M159/24
C10M129/10
C10M129/54
C10M129/40
C10M135/10
C10N10:08
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:00 Z
C10N40:25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546266
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(85)【翻訳文提出日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 IB2020050913
(87)【国際公開番号】W WO2020161635
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】62/802,745
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリオット、イアン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】チャーペック、リチャード ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】ミラー、ジョン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ガナワン、テレサ リャン
(72)【発明者】
【氏名】マリア、アミール ガマル
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA12C
4H104AA21C
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB05C
4H104BB08A
4H104BB17C
4H104BB24C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BG06C
4H104BH03A
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104DB05C
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104EB07
4H104FA02
4H104FA04
4H104FA06
4H104LA20
4H104PA44
(57)【要約】
主要成分として潤滑油基剤と、少なくとも1つの金属または半金属水素原子ドナー化合物とを含む、潤滑エンジンオイル組成物が開示される。直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための方法、及び直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための潤滑エンジンオイル組成物における少なくとも1つの金属もしくは半金属水素原子ドナー化合物の使用も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、及び水素化スズからなる群から選択される金属または半金属水素原子ドナー化合物を含む、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化1】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、またはスズ原子である、請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化2】

式中、R及びRは、それぞれ独立して、C6-C14アリール基、アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択され、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、またはスズ原子である、請求項2に記載の潤滑油。
【請求項4】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化3】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である、請求項2に記載の潤滑油。
【請求項5】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化4】

式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択され、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である、請求項4に記載の潤滑油。
【請求項6】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化5】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化6】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化7】

式中、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、nは、0または1~400の整数である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化8】

式中、nは、0または1~400の整数である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
前記金属または半金属水素原子ドナー化合物が、以下の式を有し、
【化9】

式中、Rは、C6-C14アリール基、飽和または不飽和C1-C30アルキル基であり、mは、1~20の整数である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記組成物が、カルシウム洗浄剤、マグネシウム洗浄剤、ナトリウム洗浄剤、リチウム洗浄剤、及びカリウム洗浄剤から選択される洗浄剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
前記洗浄剤が、カルボキシレート、サリチレート、フェネート、またはスルホネート洗浄剤である、請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
前記組成物が、モリブデン含有化合物をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
前記組成物が、無灰分散剤、無灰抗酸化剤、リン含有耐摩耗添加剤、摩擦調整剤、及びポリマー粘度調整剤から選択される少なくとも1つの他の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための方法であって、前記方法が、潤滑油組成物の総重量に基づいて、水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、及び水素化スズからなる群から選択される少なくとも1つの金属または半金属水素原子ドナー化合物から約25~約3000ppmの金属を含む前記潤滑油組成物を用いて、前記エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む、前記方法。
【請求項16】
直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンでの低速プレイグニッションを防止または低減するための潤滑エンジンオイル組成物中の、水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、及び水素化スズからなる群から選択される少なくとも1つの金属または半金属水素原子ドナー化合物の使用。
【請求項17】
前記少なくとも1つの金属または半金属水素原子ドナー化合物は、前記潤滑油組成物の前記総重量に基づいて、前記金属水素化物からの金属が約25~約3000ppmで、存在する、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記エンジンが、0.5リットル~3.6リットルの範囲の小型化ブーストエンジンである、請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、少なくとも1つの金属水素化物化合物を含有する潤滑剤組成物に関する。本開示はまた、直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンのための、少なくとも1つの金属または半金属水素原子ドナー化合物を含有する潤滑剤組成物に関する。本開示はまた、配合油で潤滑されたエンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための方法に関する。配合油は、少なくとも1つの油溶性もしくは油分散性の金属または半金属水素原子ドナー化合物を含む組成物を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
近年、エンジンメーカーは、摩擦損失及びポンピング損失を低減しながら、より高い出力密度と優れた性能を提供する、より小さい(小型化された)エンジンを開発している。これは、ターボチャージャーまたはメカニカルスーパーチャージャーを使用してブースト圧を高めることによって、及びより高いトランスミッションギア比を使用してエンジンを低速化することによって達成され、より低いエンジン速度でより高いトルクを発生させることができる。しかし、より低いエンジン速度でトルクをより高くすると、低速でのエンジンのランダムなプレイグニッション(「低速プレイグニッション」または「LSPI」として知られている現象)を引き起こし、極めて高いシリンダーピーク圧力がもたらされ、壊滅的なエンジン故障につながる可能性があることが判明した。LSPIの可能性により、エンジンメーカーは、このような小さな高出力エンジンでは、低いエンジン速度でエンジントルクを完全に最適化することができない。
【0003】
低速プレイグニッション(LSPI)の原因をめぐる有力な理論の1つは、少なくとも部分的には、エンジンオイルの液滴の自発着火によるもので、エンジンを低速で運転させ、圧縮行程の時間が最も長いときに、エンジンオイルの液滴が、高圧下、ピストンクレビスからエンジン燃焼室に入る(Amann et al..SAE 2012-01-1140)。
【0004】
いくつかのエンジンノック及びプレイグニッションの問題は、電子制御及びノックセンサなどの新しいエンジン技術を使用することによって、ならびにエンジン動作条件を最適化することによって解決され得るが、LSPIの問題を低減または防止し、また摩耗及び酸化保護などの他の性能を改善または維持することができる潤滑油組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、金属水素化物化合物を使用することによって、LSPIの問題に対処するための解決策を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
主要成分として、潤滑油基剤(base stock)、微量成分として、1つ以上の水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、及び水素化スズを含む小型化ブーストエンジンで使用するための潤滑エンジンオイル組成物が開示され、小型化エンジンは、0.5リットル~3.6リットルの範囲である。
【0007】
また、直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための方法も開示され、当該方法は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、1つ以上の水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、及び水素化スズ由来の金属または半金属水素原子ドナーから約25~約3000ppmの金属または半金属を含む潤滑油組成物を用いて、エンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む。
【0008】
直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための潤滑エンジンオイル組成物における1つ以上の水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、及び水素化スズの使用が、さらに開示される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な記述
「ブースト(boosting)」という用語は、本明細書全体を通して使用される。ブーストとは、自然吸気エンジンよりも高い吸気圧力でエンジンを運転することを指す。ターボチャージャー(排気駆動)またはスーパーチャージャー(エンジン駆動)を使用することで、ブースト状態に達し得る。「ブースト」によって、エンジンメーカーは、小さなエンジンを使用することができ、摩擦損失及びポンピング損失を低減しながら、より高い出力密度を提供して、優れた性能を提供する。
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、油溶性または分散性という表現が使用される。油溶性または分散性とは、所望のレベルの活動または性能を提供するために必要な量が、潤滑粘度のオイルに溶解、分散、または懸濁されることによって組み込まれ得ることを意味する。通常、これは、少なくとも約0.001重量%の材料が、潤滑油組成物に組み込まれ得ることを意味する。油溶性及び分散性、特に「安定して分散可能」という用語のさらなる考察については、米国特許第4,320,019号を参照されたい(この点で関連する教示について、参照により本明細書に明示的に援用される)。
【0011】
本明細書で使用される「硫酸灰分(sulfated ash)」という用語は、潤滑油中の洗浄剤及び金属添加剤から生じる不燃残渣を指す。硫酸灰分は、ASTM試験D874を使用して決定され得る。「全塩基価」または「TBN」という用語は、本明細書で使用される場合、1グラムの試料中のKOHのミリグラム数に相当する塩基の量を指す。したがって、より高いTBN数は、より多くのアルカリ性生成物、したがって、より強いアルカリ性を反映する。TBNは、ASTM D 2896試験を使用して決定された。
【0012】
別段の指定がない限り、すべてのパーセンテージは、重量パーセントである。
【0013】
一般に、本発明の潤滑油組成物中の硫黄のレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.7重量%以下であり、例えば、約0.01重量%~約0.70重量%、0.01~0.6重量%、0.01~0.5重量%、0.01~0.4重量%、0.01~0.3重量%、0.01~0.2重量%、0.01重量%~0.10重量%の硫黄のレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中の硫黄のレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.60重量%以下、約0.50重量%以下、約0.40重量%以下、約0.30重量%以下、約0.20重量%以下、約0.10重量%以下である。
【0014】
一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.12重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.12重量%のリンのレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.11重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.11重量%のリンのレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.10重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.10重量%のリンのレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.09重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.09重量%のリンのレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.08重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.08重量%のリンのレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.07重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.07重量%のリンのレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.05重量%以下、例えば、約0.01重量%~約0.05重量%のリンのレベルである。
【0015】
一実施形態では、本発明の潤滑油組成物によって生成される硫酸灰分のレベルは、ASTM D 874によって決定される場合、約1.60重量%以下、例えば、ASTM D 874によって決定される場合、約0.10~約1.60重量%の硫酸灰分のレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物によって生成される硫酸灰分のレベルは、ASTM D 874によって決定される場合、約1.00重量%以下、例えば、ASTM D 874によって決定される場合、約0.10~約1.00重量%の硫酸灰分のレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物によって生成される硫酸灰分のレベルは、ASTM D 874によって決定される場合、約0.80重量%以下、例えば、ASTM D 874によって決定される場合、約0.10~約0.80重量%の硫酸灰分のレベルである。一実施形態では、本発明の潤滑油組成物によって生成される硫酸灰分のレベルは、ASTM D 874によって決定される場合、約0.60重量%以下、例えば、ASTM D 874によって決定される場合、約0.10~約0.60重量%の硫酸灰分のレベルである。
【0016】
好適には、本潤滑油組成物は、4~15mg KOH/g(例えば、5~12mg KOH/g、6~12mg KOH/g、または8~12mg KOH/g)の全塩基価(TBN)を有してよい。
【0017】
低速プレイグニッションは、直接噴射ブースト(ターボチャージまたはスーパーチャージ)火花点火(ガソリン)内燃エンジンで発生する可能性が最も高く、動作中、約15バール(bar)(ピークトルク)を超える正味平均有効圧力レベルを生成する(少なくとも約18バール、特に、毎分約1500~約2500回転(rpm)のエンジン速度、例えば、約1500~約2000rpmのエンジン速度では、少なくとも約20バール)。本明細書で使用される場合、正味平均有効圧力(BMEP)は、1回のエンジンサイクル中に達成された仕事をエンジン排気量で割ったものとして定義され、エンジントルクは、エンジン排気量によって正規化される。「ブレーキ(brake)」という単語は、動力計で測定された、エンジンフライホイールで利用可能な実際のトルク/出力を示す。したがって、BMEPは、エンジンの有用な出力の尺度である。
【0018】
本発明の一実施形態では、エンジンは、500rpm~3000rpm、または800rpm~2800rpm、または1000rpm~2600rpmの速度で動作する。さらに、エンジンは、10バール~30バール、または12バール~24バールの正味平均有効圧力で動作してもよい。
【0019】
LSPI事象は、比較的珍しいものであるが、本質的に破滅的である可能性がある。したがって、燃料直噴エンジンの正常なまたは持続的な運転中のLSPI事象の大幅な削減または排除さえ望ましい。一実施形態では、本発明の方法は、150LSPI事象/百万燃焼サイクル未満(15LSPI事象/十万燃焼サイクルとしても表すことができる)、もしくは100LSPI事象/百万燃焼サイクル未満、もしくは70LSPI事象/百万燃焼サイクル未満、もしくは60LSPI事象/百万燃焼サイクル未満、もしくは50LSPI事象/百万燃焼サイクル未満、もしくは40LSPI事象/百万燃焼サイクル未満、30LSPI事象/百万燃焼サイクル未満、20LSPI事象/百万燃焼サイクル未満、10LSPI事象/百万燃焼サイクル未満であるようなもの、または0LSPI事象/百万燃焼サイクルであり得るようなものである。
【0020】
したがって、ある態様では、本開示は、直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための方法を提供し、当該方法は、少なくとも1つの金属水素化物化合物を含む潤滑油組成物を用いてエンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む。一実施形態では、少なくとも1つの金属水素化物からの金属の量は、潤滑油組成物中に、約100~約3000ppm、約200~約3000ppm、約250~約2500ppm、約300~約2500ppm、約350~約2500ppm、約400ppm~約2500ppm、約500~約2500ppm、約600~約2500ppm、約700~約2500ppm、約700~約2000ppm、約700~約1500ppmである。一実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物からの金属の量は、潤滑油組成物中に、約2000ppm以下または1500ppm以下である。
【0021】
一実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの金属水素化物化合物を含まない油と比較して、少なくとも10パーセント、または少なくとも20パーセント、または少なくとも30パーセント、または少なくとも50パーセント、または少なくとも60パーセント、または少なくとも70パーセント、または少なくとも80パーセント、または少なくとも90パーセント、または少なくとも95パーセントのLSPI事象の数の低減を提供する。
【0022】
別の態様では、本開示は、直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッション事象の重大度(severity)を低減するための方法を提供し、当該方法は、少なくとも1つの金属水素化物化合物を含む潤滑油組成物を用いてエンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む。LSPI事象は、シリンダー内の燃料チャージのピークシリンダー圧力(PP)及び2%の質量燃焼分率(mass fraction burn)(MFB02)のクランク角をモニタリングすることによって決定される。両方の基準が満たされると、LSPI事象が発生したと言える。ピークシリンダー圧力の閾値は試験によって異なるが、典型的には、平均シリンダー圧力の4~5標準偏差分上回る。同様に、MFB02クランク角の閾値は、典型的には、平均MFB02クランク角よりも4~5標準偏差分早い。LSPI事象は、1試験あたりの平均事象、100,000燃焼サイクルあたりの事象、1サイクルあたりの事象、及び/または1事象あたりの燃焼サイクルとして報告することができる。一実施形態では、LSPI事象の数は、MFB02及びピーク圧力(PP)の両方の要件が90バールを超える圧力であった場合、100,000燃焼サイクルあたり15事象未満、14事象未満、13事象未満、12事象未満、11事象未満、10事象未満、9事象未満、8事象未満、7事象未満、6事象未満、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、90バール超であったLSPI事象の数は、0事象であった。言い換えれば、90バール超のLSPI事象が、完全に抑制された。一実施形態では、LSPI事象の数は、MFB02及びピーク圧力(PP)の両方の要件が100バールを超える圧力であった場合、100,000燃焼サイクルあたり15事象未満、14事象未満、13事象未満、12事象未満、11事象未満、10事象未満、9事象未満、8事象未満、7事象未満、6事象未満、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、100バール超であったLSPI事象の数は、0事象であった。言い換えれば、100バール超のLSPI事象が、完全に抑制された。一実施形態では、LSPI事象の数は、MFB02及びピーク圧力(PP)の両方の要件が110バールを超える圧力であった場合、100,000燃焼サイクルあたり15事象未満、14事象未満、13事象未満、12事象未満、11事象未満、10事象未満、9事象未満、8事象未満、7事象未満、6事象未満、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、110バール超であったLSPI事象の数は、0事象であった。言い換えれば、110バール超のLSPI事象が、完全に抑制された。例えば、LSPI事象の数は、MFB02及びピーク圧力(PP)の両方の要件が120バールを超える圧力であった場合、100,000燃焼サイクルあたり15事象未満、14事象未満、13事象未満、12事象未満、11事象未満、10事象未満、9事象未満、8事象未満、7事象未満、6事象未満、5事象未満、4事象未満、3事象未満、2事象未満、または1事象未満である。一実施形態では、120バール超であったLSPI事象の数は、0事象であった。言い換えれば、非常に深刻なLSPI事象(すなわち、120バール超の事象)が、完全に抑制された。
【0023】
LSPIが発生しやすいエンジンでのLSPIの発生は、かかるエンジンを、金属水素化物化合物を含む潤滑油組成物で潤滑することによって低減され得ることが分かった。
【0024】
本開示はさらに、エンジンが、液体炭化水素燃料、液体非炭化水素燃料、またはそれらの混合物で燃料供給される、本明細書に記載の方法が提供される。
【0025】
乗用車用モーターオイルとしての使用に好適な潤滑油組成物は、従来、灰分含有化合物を含む、主要量の潤滑粘度の油及び少量の性能増強添加剤を含む。好都合には、本明細書に記載の金属は、潤滑油組成物に導入され、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物によって本開示の実施において使用される。
【0026】
潤滑粘度の油/基油成分
本開示の潤滑油組成物で使用するための潤滑粘度の油は、基油とも呼ばれ、典型的には、組成物の総重量に基づいて、主要量(例えば、50重量%超、好ましくは、約70重量%超、より好ましくは、約80重量%~約99.5重量%、及び最も好ましくは、約85重量%~約98重量%の量)で存在する。本明細書で使用される場合、「基油」という表現は、(供給源またはメーカーの場所に関係なく)単一のメーカーによって同じ仕様で製造され、同じのメーカーの仕様を満たし、固有の配合、製品識別番号、またはその両方によって識別される、潤滑剤成分である基剤または基剤のブレンドを意味すると理解されるべきである。本明細書で使用する基油は、現在知られている、もしくは後に発見された、ありとあらゆる、かかる用途のための潤滑油組成物、例えば、エンジンオイル、船舶用シリンダーオイル、機能性流体(例えば、油圧オイル、ギアオイル、トランスミッション液)などの配合に使用される潤滑粘度のオイルであり得る。さらに、本明細書で使用する基油は、任意選択的に、粘度指数向上剤、例えば、アルキルメタクリレートポリマー、オレフィン系コポリマー(例えば、エチレン-プロピレンコポリマーまたはスチレン-ジエンコポリマー)など、及びそれらの混合物を含有することができる。
【0027】
当業者は容易に理解するであろうが、基油の粘度は、用途に依存する。したがって、本明細書で使用する基油の粘度は、100℃(C.)では、通常、約2~約2000センチストーク(cST)の範囲である。一般に、エンジンオイルとして使用される基油は、個別に、100℃で、約2cST~約30cST、好ましくは、約3cST~約16cST、及び最も好ましくは、約4cST~約12cSTの運動粘度範囲を有し、所望の最終用途及び最終オイル中の添加物に応じて選択またはブレンドして、所望のグレードのエンジンオイル(例えば、0W、0W-4、0W-8、0W-12、0W-16、0W-20、0W-26、0W-30、0W-40、0W-50、0W-60、5W、5W-20、5W-30、5W-40、5W-50、5W-60、10W、10W-20、10W-30、10W-40、10W-50、15W、15W-20、15W-30、15W-40、30、40などのSAE粘度グレードを有する潤滑油組成物)が得られる。
【0028】
グループI基油は、概して、90重量%未満の飽和物含有量(ASTM D 2007によって測定される)及び/または300ppm超の総硫黄含有量(ASTM D 2622、ASTM D 4294、ASTM D 4297、またはASTM D 3120によって測定される)を有し、80以上120未満の粘度指数(VI)(ASTM D 2270によって測定される)を有する、石油由来の潤滑基油を指す。
【0029】
グループII基油は、概して、総硫黄含有量が300百万分率(ppm)以下(ASTM D 2622、ASTM D 4294、ASTM D 4927、またはASTM D 3120によって決定される)、飽和物含有量が90重量%以上(ASTM D 2007によって決定される)、及び粘度指数(VI)が80~120の間(ASTM D 2270によって決定される)である、石油由来の潤滑基油を指す。
【0030】
グループIII基油は、概して、硫黄が300ppm未満、飽和物含有量が90重量%超、及びVIが120以上を有する、石油由来の潤滑基油を指す。
【0031】
グループIV基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。
【0032】
グループV基油は、グループI、II、III、またはIVに含まれない他のすべての基油を含む。
【0033】
潤滑油組成物は、少量の他の基油成分を含み得る。例えば、潤滑油組成物は、天然潤滑油、合成潤滑油、またはそれらの混合物に由来する少量の基油を含有することができる。好適な基油としては、合成ワックス及びスラックワックスの異性化によって得られる基剤、ならびに原油の芳香族成分及び極性成分(溶媒抽出ではなく)を水素化分解することによって生成される水素化分解基剤が挙げられる。好適な天然油としては、鉱油系潤滑油(例えば、液状石油)、パラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン系-ナフテン系の混合型が溶媒処理もしくは酸処理された鉱油系潤滑油、石炭またはシェールに由来する油、動物油、植物油(例えば、ナタネ油、ヒマシ油及びラード油)などが挙げられる。
【0034】
好適な合成潤滑油としては、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油(例えば、重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)など)、及びそれらの混合物)、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)-ベンゼンなど)、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニルなど)、アルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにそれらの誘導体、類似体及び相同体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
他の合成潤滑油としては、炭素原子が5個未満のオレフィンを重合させることによって作製される油(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、ペンテン、及びそれらの混合物など)が挙げられるが、これらに限定されない。かかるポリマー油の調製方法は、当業者に周知である。
【0036】
さらなる合成炭化水素油としては、適切な粘度を有するアルファオレフィンの液状ポリマーが挙げられる。特に有用な合成炭化水素油は、例えば、1-デセン三量体などのC~C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマーである。
【0037】
別のクラスの合成潤滑油としては、これらに限定されないが、アルキレンオキシドポリマー、すなわち、ホモポリマー、インターポリマー、及びそれらの誘導体が挙げられ、ここで、末端ヒドロキシル基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって修飾されている。これらの油は、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合によって調製された油、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルエーテル及びフェニルエーテル(例えば、1,000の平均分子量を有するメチルポリプロピレングリコールエーテル、500~1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、1,000~1,500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)、またはそれらのモノカルボン酸エステル及びポリカルボン酸エステル(例えば、酢酸エステル、混合C~C脂肪酸エステル、もしくはテトラエチレングリコールのC13オキソ酸ジエステルなど)によって例示される。
【0038】
さらに別のクラスの合成潤滑油としては、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)の様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステル、が挙げられるが、これらに限定されない。これらのエステルの具体例としては、アジピン酸ジブチル、ジ(2-エチルヘキシル)セバセート、ジ-n-ヘキシルフマレート、ジオクチルセバセート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバセート、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、複合エステル(1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより形成される)などが挙げられる。
【0039】
合成油として有用なエステルとしては、アルコール(例えば、メタノール、エタノールなど)、ポリオール及びポリオールエーテル(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール)などと約5~約12個の炭素原子を有するカルボン酸から作製されるエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
シリコンベースの油(例えば、ポリアルキルシロキサン油、ポリアリールシロキサン油、ポリアルコキシシロキサン油、またはポリアリールオキシシロキサン油、及びケイ酸油など)は、別の有用なクラスの合成潤滑油を構成する。これらの具体例としては、テトラエチルシリケート、テトラ-イソプロピルシリケート、テトラ-(2-エチルヘキシル)シリケート、テトラ-(4-メチル-ヘキシル)シリケート、テトラ-(p-tert-ブチルフェニル)シリケート、へキシル-(4-メチル-2-ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、ポリ(メチルフェニル)シロキサンなどが挙げられるが、これらに限定されない。またさらに他の有用な合成潤滑油としては、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デカンホスホン酸のジエチルエステルなど)、テトラヒドロフランポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
潤滑油は、上に開示されたこれらのタイプのうちのいずれかの2つ以上の天然、合成、または混合物のいずれかの、未精製油、精製油、及び再精製油に由来し得る。未精製油は、さらなる精製または処理なしで、天然源または合成源(例えば、石炭、シェール、またはタールサンドビチューメン)から直接得られるものである。未精製油の例としては、これらに限定されないが、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油、またはエステル化プロセスから直接得られたエステル油が挙げられ、これらの各々は、その後、さらなる処理なしで使用される。精製油は、1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製ステップでさらに処理されていることを除いて、未精製油と同様である。これらの精製技術は、当業者に既知であり、例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸抽出または塩基抽出、濾過、パーコレーション、水素処理、脱蝋などが挙げられる。再精製油は、精製油を得るために使用されるものと同様のプロセスで、使用済み油を処理することによって得られる。かかる再精製油は、再生油または再処理油としても知られており、多くの場合、追加的に、使用済みの添加剤及び油分解産物の除去を目的とした技術によって処理される。
【0042】
ワックスの水素化異性化に由来する潤滑油基剤も、単独で、または前述の天然基剤及び/もしくは合成基剤と組み合わせて使用され得る。かかるワックスの異性化油は、天然ワックスもしくは合成ワックスまたはそれらの混合物を、水素化異性化触媒上で水素化異性化することによって生成される。
【0043】
天然ワックスは、典型的には、鉱物油の溶剤脱蝋によって回収されたスラックワックスである。合成ワックスは、典型的には、フィッシャー・トロプシュ法によって生成されたワックスである。
【0044】
潤滑粘度の他の有用な流体としては、好ましくは、触媒的に、または高性能潤滑特性を提供するように合成された非従来型(non-conventional)または非従来型(unconventional)の基剤が挙げられる。
【0045】
金属または半金属水素原子ドナー化合物
本明細書における潤滑油組成物は、水素化ケイ素、水素化ゲルマニウム、及び水素化スズからなる群から選択される1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物を含み得る。
【0046】
一態様では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化1】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、またはスズ原子である。
【0047】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化2】

式中、R及びRは、それぞれ独立して、C6-C14アリール基、アルキル基、もしくはC3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択され、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Mは、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、またはスズ原子である。
【0048】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化3】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である。
【0049】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化4】

式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択され、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である。
【0050】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化5】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である。
【0051】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化6】

式中、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、C3-C10シクロアルキル基、-(OR)、-NR、-O(=O)R、または塩素原子から選択されるが、R、R、及びRのうちの2つ以上が水素原子ではなく、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、H、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1-C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基である。
【0052】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化7】

式中、Rは、C6-C14アリール基、飽和もしくは不飽和C1~C30アルキル基、またはC3-C10シクロアルキル基であり、nは、0または1~400の整数である。
【0053】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化8】

式中、nは、0または1~400の整数である。
【0054】
一実施形態では、1つ以上の金属または半金属水素原子ドナー化合物は、以下の式を有する:
【化9】

式中、Rは、C6-C14アリール基、飽和または不飽和C1-C30アルキル基であり、mは、1~20の整数である。
【0055】
一実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物は、水素化物が金属原子に直接結合している化合物である。一実施形態では、金属水素化物は、シラザンではない。
【0056】
一般に、金属または半金属水素原子ドナー化合物の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.001重量%~約25重量%、約0.05重量%~約20重量%、または約0.1重量%~約15重量%、または約0.1重量%~約5重量%、約0.1重量%~約4.0重量%であり得る。
【0057】
ある態様では、本開示は、少なくとも1つの金属水素化物化合物を含む、直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンのための潤滑エンジンオイル組成物を提供する。一実施形態では、少なくとも1つの金属または半金属水素原子ドナー化合物からの金属の量は、約25~約3000ppm、約100~約3000ppm、約200~約3000ppm、または約250~約2500ppm、約300~約2500ppm、約350~約2500ppm、約400ppm~約2500ppm、約500~約2500ppm、約600~約2500ppm、約700~約2500ppm、約700~約2000ppm、約700~約1500ppmである。一実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物からの金属の量は、約2000ppm以下または約1500ppm以下である。これらの実施形態の各々における金属は、シリコン、ゲルマニウム、スズ、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0058】
一実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物は、マグネシウム及び/またはカルシウムを含有する従来の潤滑油洗浄剤添加剤と組み合わされ得る。一実施形態では、カルシウム洗浄剤(複数可)は、潤滑油組成物に、潤滑油組成物中0~約2400ppmのカルシウム金属、0~約2200ppmのカルシウム金属、100~約2000ppmのカルシウム金属、200~約1800ppmのカルシウム金属、または約100~約1800ppmのカルシウム金属、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのカルシウム金属を提供するのに十分な量で添加され得る。一実施形態では、マグネシウム洗浄剤(複数可)は、潤滑油組成物に、潤滑油組成物中約100~約1000ppmのマグネシウム金属、または約100~約600ppm、または約100~約500ppm、または約200~約500ppmのマグネシウム金属を提供するのに十分な量で添加され得る。
【0059】
一実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物は、リチウムを含有する従来の潤滑油洗浄剤添加剤と組み合わされ得る。一実施形態では、リチウム洗浄剤(複数可)は、潤滑油組成物に、潤滑油組成物中0~約2400ppmのリチウム金属、0~約2200ppmのリチウム金属、100~約2000ppmのリチウム金属、200~約1800ppmのリチウム金属、または約100~約1800ppm、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのリチウム金属を提供するのに十分な量で添加され得る。
【0060】
一実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物は、ナトリウムを含有する従来の潤滑油洗浄剤添加剤と組み合わされ得る。一実施形態では、ナトリウム洗浄剤(複数可)は、潤滑油組成物に、潤滑油組成物中0~約2400ppmのナトリウム金属、0~約2200ppmのナトリウム金属、100~約2000ppmのナトリウム金属、200~約1800ppmのナトリウム金属、または約100~約1800ppm、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのナトリウム金属を提供するのに十分な量で添加され得る。
【0061】
一実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物は、カリウムを含有する従来の潤滑油洗浄剤添加剤と組み合わされ得る。一実施形態では、カリウム洗浄剤(複数可)は、潤滑油組成物に、潤滑油組成物中0~約2400ppmのカリウム金属、0~約2200ppmのカリウム金属、100~約2000ppmのカリウム金属、200~約1800ppmのカリウム金属、または約100~約1800ppm、または約200~約1500ppm、または約300~約1400ppm、または約400~約1400ppmのカリウム金属を提供するのに十分な量で添加され得る。
【0062】
一実施形態では、本開示は、主要成分として潤滑油基剤と、微量成分として少なくとも1つの金属水素化物化合物とを含む潤滑エンジンオイル組成物を提供し、エンジンは、100,000エンジンサイクルあたりの正規化された低速プレイグニッション(LSPI)カウント、1分あたり500~3,000回転でのエンジン動作、及び10~30バールの正味平均有効圧力(BMEP)に基づいて、少なくとも1つの金属水素化物化合物を含まない潤滑油を使用してエンジンで達成される低速プレイグニッション性能と比較して、50%超低減された低速プレイグニッションを示す。
【0063】
一態様では、本開示は、主要成分として潤滑油基剤と、微量成分として少なくとも1つの金属水素化物化合物とを含む、小型化ブーストエンジンで使用するための潤滑油組成物を提供し、小型化エンジンは、約0.5~約3.6リットル、約0.5~約3.0リットル、約0.8~約3.0リットル、約0.5~約2.0リットル、または約1.0~約2.0リットルの範囲である。エンジンは、2気筒、3気筒、4気筒、5気筒、または6気筒を有し得る。
【0064】
一態様では、本開示は、直接噴射ブースト火花点火内燃エンジンにおける低速プレイグニッションを防止または低減するための、少なくとも1つの金属または半金属水素原子ドナー化合物の使用を提供する。
【0065】
潤滑油添加剤
本明細書に記載の金属または半金属水素原子ドナー化合物に加えて、潤滑油組成物は、追加の潤滑油添加剤を含み得る。
【0066】
本開示の潤滑油組成物はまた、これらの添加剤が分散または溶解されている潤滑油組成物の任意の所望の特性を付与または改善することができる他の従来の添加剤を含有してもよい。当業者に既知の任意の添加剤を、本明細書に開示される潤滑油組成物に使用することができる。いくつかの好適な添加剤は、Mortier et al., “Chemistry and Technology of Lubricants,” 2nd Edition, London, Springer, (1996)、及びLeslie R. Rudnick, “Lubricant Additives: Chemistry and Applications,” New York, Marcel Dekker (2003)に記載されており、これらの双方は、参照により本明細書に援用される。例えば、潤滑油組成物は、抗酸化剤、抗摩耗剤、金属洗浄剤、防錆剤、曇り除去剤、脱乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、腐食抑制剤、無灰分散剤、多機能性剤、染料、極圧剤など、及びそれらの混合物、とブレンドすることができる。様々な添加剤が既知であり、市販されている。これらの添加剤、またはそれらの類似化合物は、通常のブレンド手順による本開示の潤滑油組成物の調製のために使用され得る。
【0067】
本発明の潤滑油組成物は、1つ以上の洗浄剤を含有することができる。金属含有洗浄剤または灰形成洗浄剤は、堆積物を低減または除去するための洗浄剤、及び酸中和剤または防錆剤の両方として機能し、それによって摩耗及び腐食を低減し、エンジン寿命を延ばす。洗浄剤は、一般に、長い疎水性の尾部を有する極性の頭部を含む。極性の頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は、実質的に化学量論的な量の金属を含有してもよく、その場合、それらは通常、正塩または中性塩として記載されている。過剰の金属化合物(例えば、酸化物または水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることによって、大量の金属塩基が組み込まれ得る。
【0068】
使用され得る洗浄剤としては、油溶性中性及び過塩基スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート、及びナフテネート、ならびに金属(特に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(例えば、バリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウム)の他の油溶性カルボキシレートが挙げられる。最も一般的に使用される金属は、カルシウム及びマグネシウムであり、その両方は、潤滑剤で使用される洗浄剤中、ならびにカルシウム及び/またはマグネシウムとナトリウムとの混合物中に存在し得る。
【0069】
本発明の潤滑油組成物は、摩擦及び過度の摩耗を低減することができる1つ以上の抗摩耗剤を含有することができる。当業者に既知の任意の抗摩耗剤が、潤滑油組成物に使用され得る。好適な抗摩耗剤の非限定的な例としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸の金属塩(例えば、Pb、Sb、Moなど)、ジチオカルバミン酸の金属塩(例えば、Zn、Pb、Sb、Moなど)、脂肪酸の金属塩(例えば、Zn、Pb、Sbなど)、ホウ素化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルまたはチオリン酸エステルのアミン塩、ジシクロペンタジエン及びチオリン酸の反応生成物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。抗摩耗剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.01重量%~約5重量%、約0.05重量%~約3重量%、または約0.1重量%~約1重量%で変化し得る。
【0070】
特定の実施形態では、抗摩耗剤は、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物であるか、またはそれを含む。ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩の金属は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルもしくは銅であってもよい。一部の実施形態では、金属は、亜鉛である。他の実施形態では、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩のアルキル基は、約3~約22個の炭素原子、約3~約18個の炭素原子、約3~約12個の炭素原子、または約3~約8個の炭素原子を有する。さらなる実施形態では、アルキル基は、直鎖状または分枝状である。
【0071】
本明細書に開示される潤滑油組成物中のジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩(ジアルキルジチオリン酸亜鉛塩を含む)の量は、そのリン含有量によって測定される。一部の実施形態では、本明細書に開示される潤滑油組成物のリン含有量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.01重量%~約0.14重量%である。
【0072】
本発明の潤滑油組成物は、可動部品間の摩擦を低減することができる1つ以上の摩擦調整剤を含有し得る。当業者に既知の任意の摩擦調整剤を、潤滑油組成物に使用してもよい。好適な摩擦調整剤の非限定的な例としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の誘導体(例えば、アルコール、エステル、ホウ酸エステル、アミド、金属塩など)、モノ-、ジ-、もしくはトリ-アルキル置換リン酸またはホスホン酸、モノ-、ジ-、もしくはトリ-アルキル置換リン酸またはホスホン酸の誘導体(例えば、エステル、アミド、金属塩など)、モノ-、ジ-、もしくはトリ-アルキル置換アミン、モノ-、ジ-、もしくはトリ-アルキル置換アミド、及びそれらの組み合わせが挙げられる。一部の実施形態では、摩擦調整剤の例としては、アルコキシル化脂肪族アミン、ホウ素化脂肪族エポキシド、脂肪亜ホスファイト、脂肪族エポキシド、脂肪族アミン、ホウ素化アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ素化グリセロールエステル、及び米国特許第6,372,696号(それらの内容は、参照により本明細書に援用される)に開示されている脂肪族イミダゾリン、C~C75またはC~C24またはC~C20の脂肪酸エステルとアンモニア及びアルカノールアミンなどからなる群から選択される窒素含有化合物との反応生成物から得られる摩擦調整剤、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。摩擦調整剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づいて、約0.01重量%~約10重量%、約0.05重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約3重量%と変化し得る。
【0073】
本開示の潤滑油組成物は、モリブデン含有摩擦調整剤を含み得る。モリブデン含有摩擦調整剤は、既知のモリブデン含有摩擦調整剤または既知のモリブデン含有摩擦調整剤組成物のうちのいずれか1つであり得る。
【0074】
好ましいモリブデン含有摩擦調整剤は、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジチオリン酸、アミン-モリブデン錯体化合物、オキシモリブデンジエチレートアミド、及びオキシモリブデンモノグリセリドである。最も好ましいものは、モリブデンジチオカルバメート摩擦調整剤である。
【0075】
本発明の潤滑油組成物は、概して、モリブデン含有量に関して、0.01~0.15重量%の量のモリブデン含有摩擦調整剤を含有する。
【0076】
本発明の潤滑油組成物は、好ましくは、0.01~5重量%、好ましくは、0.1~3重量%の量の有機酸化防止剤を含有する。酸化防止剤は、ヒンダード(hindered)フェノール酸化防止剤またはジアリールアミン酸化防止剤であり得る。ジアリールアミン酸化防止剤は、窒素原子に由来する塩基価を与えるのに有利である。ヒンダードフェノール酸化防止剤は、NOxガスを生成しない点で有利である。
【0077】
ヒンダードフェノール酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、及びオクチル3-(3,54-ブチル-4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロピオネート、ならびに、これらに限定されないが、Irganox L135(登録商標)(BASF)、Naugalube 531(登録商標)(Chemtura)、及びEthanox 376(登録商標)(SI Group)などの市販製品が挙げられる。
【0078】
ジアリールアミン酸化防止剤の例としては、3~9個の炭素原子のアルキル基、p,p-ジオクチルジフェニルアミン、フェニル-ナフチルアミン、アルキル化-ナフチルアミン、及びアルキル化フェニル-ナフチルアミンの混合物を有するアルキルジフェニルアミンが挙げられる。ジアリールアミン酸化防止剤は、1~3個のアルキル基を有し得る。
【0079】
ヒンダードフェノール酸化防止剤及びジアリールアミン酸化防止剤の各々は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。必要であれば、他の油溶性酸化防止剤を、上述の酸化防止剤(複数可)と組み合わせて用いることができる。
【0080】
本発明の潤滑油組成物は、スクシンイミドのオキシモリブデン錯体、特に、スクシンイミドの硫黄含有オキシモリブデン錯体をさらに含有してもよい。スクシンイミドの硫黄含有オキシモリブデン錯体は、上記のフェノール酸化防止剤またはアミン酸化防止剤と組み合わせて用いる場合、酸化防止の増加をもたらし得る。
【0081】
潤滑油製剤の調製において、添加剤は、炭化水素油(例えば、鉱油系潤滑油または他の好適な溶媒)中に活性成分の濃縮物が10~80重量%の形態で導入されるのが一般的である。
【0082】
通常、これらの濃縮物は、完成品の潤滑剤(例えば、クランクケースモーターオイル)を形成する際に、添加剤パッケージ1重量部あたり3~100重量部(例えば、5~40重量部)の潤滑油で希釈され得る。もちろん、濃縮物の目的は、様々な材料の取り扱いを容易にかつ簡単にすること、ならびに最終ブレンドにおける溶解または分散を促進することである。
【0083】
潤滑油組成物の調製プロセス
本明細書に開示される潤滑油組成物は、潤滑油を製造するための当業者に既知の任意の方法によって調製することができる。一部の実施形態では、基油は、本明細書に記載の金属または半金属水素原子ドナー化合物とブレンドまたは混合され得る。任意選択的に、金属または半金属水素原子ドナー化合物に加えて、1つ以上の他の添加剤を添加することができる。金属または半金属水素原子ドナー化合物及び任意選択的な添加剤は、個別にまたは同時に基油に添加してもよい。一部の実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物及び任意の添加剤は、個別に、1回または複数回の添加で、基油に添加され、添加は、任意の順序であってもよい。他の実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物及び添加剤は、任意選択的に、添加剤濃縮物の形態で、基油に同時に添加される。一部の実施形態では、金属または半金属水素原子ドナー化合物または基油中の任意の固体添加剤の可溶化は、混合物を約25℃~約200℃、約50℃~約150℃、または約75℃~約125℃の温度に加熱することによって補助され得る。
【0084】
当業者に既知の任意の混合装置または分散装置は、成分のブレンド、混合、または可溶化に使用され得る。ブレンド、混合、または可溶化は、ブレンダー、攪拌機、分散機、混合機(例えば、プラネタリーミキサー及び二重プラネタリーミキサー)、ホモジナイザー(例えば、ガウリンホモジナイザー及びラニーホモジナイザー)、粉砕機(例えば、コロイドミル、ボールミル、及びサンドミル)、または当該技術分野で既知の任意の他の混合装置または分散装置で行われ得る。
【0085】
潤滑油組成物の適用
本明細書に開示される潤滑油組成物は、火花点火内燃エンジン、特に、直接噴射ブーストエンジン(すなわち、低速プレイグニッションを受けやすい)におけるモーターオイル(すなわち、エンジンオイルまたはクランクケースオイル)としての使用に好適であり得る。
【0086】
以下の実施例は、本発明の実施形態を例示するために提示されるが、記載される特定の実施形態に本発明を限定することを意図するものではない。異なる指示がない限り、すべての部及びパーセンテージは重量による。すべての数値は近似値である。数値範囲が与えられるとき、記載された範囲外の実施形態は、依然として本発明の範囲内に含まれ得ることを理解されたい。各実施例に記載される具体的な詳細は、本発明の必要な特徴として解釈されるべきではない。
【実施例
【0087】
以下の実施例は、例示的な目的のみを意図しており、本発明の範囲をいかなる形でも限定しない。
【0088】
試験化合物を潤滑油中にブレンドし、LSPI事象を低減するそれらの能力を、以下に記載される試験方法を使用して決定した。
【0089】
低速プレイグニッション事象をFord 2.0L Ecoboostエンジンで測定した。このエンジンは、ターボチャージャー付きガソリン直接噴射(GDI)エンジンである。Ford Ecoboostのエンジンを、およそ4時間の4反復で運転する。エンジンを、95℃のオイルサンプ温度で、1750rpm、及び1.7MPaの正味平均有効圧力(BMEP)で運転する。エンジンを、各ステージで175,000燃焼サイクル稼働させ、LSPI事象をカウントする。
【0090】
LSPI事象は、シリンダー内の燃料チャージのピークシリンダー圧力(PP)及び2%の質量燃焼分率(MFB02)のクランク角をモニタリングすることによって決定される。両方の基準が満たされると、LSPI事象が発生したと言える。ピークシリンダー圧力の閾値は試験によって異なるが、典型的には、平均シリンダー圧力の4~5標準偏差分上回る。同様に、MFB02の閾値は、典型的には、平均MFB02(クランク角度で表される)よりも4~5標準偏差分早い。LSPI事象は、1試験あたりの平均事象、100,000燃焼サイクルあたりの事象、1サイクルあたりの事象、及び/または1事象あたりの燃焼サイクルとして報告することができる。この試験の結果を、以下に示す。
【0091】
LSPI頻度を低減する試験潤滑剤に関連する添加剤は、対応するベースライン潤滑剤と比較して、LSPI頻度を軽減する添加剤と見なされる。試験結果を表1に示す。
【0092】
ベースライン配合
ベースライン配合は、グループ2基油、潤滑油組成物に737~814ppmのリンを提供する量の第一級及び第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物、ポリイソブテニルスクシンイミド分散剤(ホウ化及び炭酸エチレン後処理)、モリブデンスクシンイミド錯体、アルキル化ジフェニルアミン抗酸化剤、ホウ化摩擦調整剤、発泡阻害剤、流動点降下剤、及びオレフィンコポリマー粘度指数向上剤を含有した。
【0093】
潤滑油組成物を、5W-30の粘度グレードの油にブレンドした。
【0094】
金属または半金属水素原子ドナー化合物A
(トリフェニルシラン)
トリフェニルシランは、Millipore Sigma(登録商標)またはGelest(登録商標)から市販されていた。
【0095】
金属または半金属水素原子ドナー化合物B
(トリブチルゲルマン)
トリブチルゲルマンは、Millipore Sigma(登録商標)から市販されていた。
【0096】
実施例1
トリフェニルシランからの458ppmのケイ素及び過塩基Caスルホネート洗浄剤とフェネート洗浄剤の組み合わせからの2164ppmのカルシウムをベースライン配合に添加することによって、潤滑油組成物を調製した。
【0097】
比較例1
過塩基Caスルホネート洗浄剤とフェネート洗浄剤の組み合わせからの2255ppmのカルシウムをベースライン配合に添加することによって、潤滑油組成物を調製した。
【0098】
実施例2
トリブチルゲルマンからの1483ppmのゲルマニウム、及び過塩基Caスルホネート洗浄剤とフェネート洗浄剤の組み合わせから2204ppmのカルシウムをベースライン配合に添加することにより、潤滑油組成物を調製した。
【表1】
【0099】
これらのデータは、本開示の金属または半金属水素原子ドナー化合物を含む本出願人の発明の実施例が、Fordエンジンにおいて、金属または半金属水素原子ドナーを含まない比較例と比較して、事象数及び重大なLSPIの事象数の両方の点で、著しく優れたLSPI性能を提供したことを示す。重大度は、エンジンに損傷を与える可能性のある高圧事象(すなわち120バール以上)の数を減らすことによって低減される。
【国際調査報告】