(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-29
(54)【発明の名称】マイクロニードルパッチを利用した最小浸湿的皮膚生体検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220322BHJP
A61B 10/02 20060101ALI20220322BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220322BHJP
A61K 47/36 20060101ALN20220322BHJP
A61K 9/70 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
A61B10/02
G01N33/48 S
A61K47/36
A61K9/70 401
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544337
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(85)【翻訳文提出日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 KR2019007413
(87)【国際公開番号】W WO2020159013
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0011763
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516220457
【氏名又は名称】ラファス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RAPHAS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】62,Magokjungang 8-ro 1-gil,Gangseo-gu,Seoul 07793 (Republic of Korea)
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リ,クン ホ
(72)【発明者】
【氏名】アン,ユン チン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン チン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,チャン ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュン トン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ト ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】リ,カン フン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C076
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB09
2G045DA36
2G045FB03
4C076AA73
4C076BB31
4C076EE37A
(57)【要約】
本発明は最小浸湿的皮膚生体検査方法に関する。本発明に係る最小浸湿的皮膚生体検査方法は、マイクロニードルパッチを準備する段階と;前記マイクロニードルパッチを対象体の皮膚に付着する段階と;前記マイクロニードルパッチを対象体の皮膚に付着した状態で所定時間維持する段階と;前記所定時間が経過した後にマイクロニードルパッチを対象体の皮膚から分離して、マイクロニードルにくっついてきた対象体の蛋白質成分を分析する段階を含む。前記マイクロニードルは生体適合性高分子物質からなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小浸湿的皮膚生体検査方法であって、
マイクロニードルパッチを準備する段階と;
前記マイクロニードルパッチを対象体の皮膚に付着する段階と;
前記マイクロニードルパッチを対象体の皮膚に付着した状態で所定時間維持する段階と;
前記所定時間が経過した後にマイクロニードルパッチを対象体の皮膚から分離して、マイクロニードルにくっついてきた対象体の蛋白質成分を分析する段階と、を含み、
前記マイクロニードルは生体適合性高分子物質からなる、最小浸湿的皮膚生体検査方法。
【請求項2】
前記マイクロニードルの材質である生体適合性高分子物質はヒアルロン酸またはキトサンである、請求項1に記載の最小浸湿的皮膚生体検査方法。
【請求項3】
前記マイクロニードルの材質がヒアルロン酸である場合、前記所定時間は分子量による溶解速度を考慮して事前に決定されることを特徴とする、請求項2に記載の最小浸湿的皮膚生体検査方法。
【請求項4】
ヒアルロン酸の分子量が低分子量から高分子量に行くほど対象体の皮膚への付着時間を長くすることができ、生体検出性能が向上する、請求項3に記載の最小浸湿的皮膚生体検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロニードルパッチを利用した最小浸湿的皮膚生体検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病気の治療のための数多くの薬物および生理活性物質などが開発されたが、薬物および生理活性物質を身体内に伝達するにおいて、生物学的障壁(biological barrier、例えば皮膚、口腔粘膜および脳-血管障壁など)の通過問題および薬物伝達の効率問題は依然として改善されなければならない点として残っている。
【0003】
薬物および生理活性物質は一般的に錠剤剤形またはカプセル剤形で経口投与されるが、数多くの薬物が胃腸管で消化または吸収されるか、肝のメカニズムによって消失するなどの理由で前記のような投与方法だけでは有効に伝達され得ない。しかも、いくつかの薬物は臓の粘膜を通過して有効に拡散することができない。また、患者の順応度も問題となる(例えば特定の間隔で薬物を服用しなければならないか、薬を服用できない重篤な患者の場合等)。
【0004】
薬物および生理活性物質の伝達においてさらに他の一般的な技術は、従来の注射針(needle)を利用することである。この方法は経口投与に比べて効果的である反面、注射部位での痛みの随伴および皮膚の局部的損傷、出血および注射部位での疾病感染などを惹き起こす問題点がある。
【0005】
前記経口投与および皮下注射の問題点を解決するためにパッチ剤を通じての経皮投与方法が利用される。パッチ剤を使用した経皮投与は副作用が少なく、患者の順応度が高いため、薬物の血中濃度を一定に維持しやすい。
【0006】
前述したような経皮投与方式の1つとして、マイクロニードル(microneedle)を含む多様なマイクロ構造体が開発された。マイクロニードルの材質としては金属および多様な高分子物質が使われた。最近ではマイクロニードルの材質として生分解性の高分子物質が脚光を浴びている。
【0007】
生分解性材質のマイクロ構造体を製作するための方法として代表的なものは、モールドを利用した方式である。半導体製造工程を応用して形成しようとするマイクロ構造体の形態を陰刻で備えたモールドを先に製作し、このようなモールドにマイクロ構造体材料を注いで凝固させたてから引き離すと、マイクロ構造体すなわち、マイクロニードルが形成される。
【0008】
本出願人はこのようなモールディング方式のマイクロ構造体の製作方法を代替できる新しい製作方法として、送風引張方式の製作方法について国内外に多数の特許権を獲得したことがある。送風引張方式を簡単に説明すると、粘性を帯びた生体親和性の高分子物質を基板上に位置したパッチの底層またはパッチに結合される前の底層にスポッティングした後、他の基板上に位置したパッチの底層またはパッチに結合される前の底層に同一の生体親和性高分子物質をスポッティングするかこれを省略し、前記他の基板を反転させ前記スポッティングされた生体親和性高分子物質側に接近させて最終的には接触するようにし、その後、両基板の間の相対的な距離を離隔させて接触した粘性を有した生体親和性高分子物質が伸びるようにし、このような引張工程が完了した後、送風を実施して引張された状態で形態が固定されるようにし、中間部分を切断して2つの異なる基板上にそれぞれ同一のマイクロ構造体が形成されるようにする方法である。
【0009】
以上、薬物および生理活性物質伝達手段としてのマイクロ構造体の技術的意味とこれを製作するための方法などについて簡略に説明した。本発明者らは本発明で、マイクロ構造体を薬物および生理活性物質の伝達ではなく新しい用途で活用することを提案しようとする。それはマイクロ構造体すなわち、マイクロニードルを含むパッチを最小浸湿的皮膚生体検査に活用することである。
図1には皮膚生体検査の従来技術が図示されている。
図1によると、既存の皮膚生体検査方式は皮膚内にある蛋白質組織を信頼性があるように確保して検査に提供することができたが、非常に浸湿的な方式であるため患者に苦痛を与えたし、患者の皮膚に出血を誘発し、傷跡を残すなどの短所を有していた。
【0010】
皮膚生体検査の他の従来技術としてテーピング技術がある。2018年1月26日にSCIENTIFIC REPORTSにのせられた「Measurements of AMPs in stratum corneum of atopic dermatitis and healthy skin-tape stripping technique」という表題の論文には、粘着性のあるテープを所定時間の間皮膚に付着してから剥がし、テープに付着されて出た皮膚の組織を検査する皮膚生体検査方法を紹介している。
【0011】
さらに他の論文として、2016年9月2日にAllergy and Immunologyにのせられた「Stratum Corneum Tape Stripping:Monitoring of Inflammatory Mediators in Atopic Dermatitis Patients Using Topical Therapy」という表題の論文にも、atopic dermatitisすなわち、アトピー皮膚炎患者の皮膚生体検査において粘着性のあるテープを活用する方法を紹介している。
【0012】
このようなテーピング方式は、簡便であり、浸湿的な方式ではないため、出血、傷跡などの問題を全く起こさないという長所があるが、生体検査のための蛋白質組織の獲得の側面では
図1の生体検査方法に比べてその信頼性が非常に低いという問題があった。
【0013】
本発明者は前述した二つの皮膚生体方法の短所を補完して、信頼性のある検査結果を提供できる程度に十分な皮膚蛋白質を得ることができながらも、最小浸湿的であるため患者の苦痛を誘発せず、簡便な皮膚生体方法を提供する目的で研究を持続してきたのであり、その結果、本発明に至ることになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は信頼性のある検査結果を提供できる程度に十分な皮膚蛋白質を得ることができながらも、最小浸湿的であるため患者の苦痛を誘発せず、簡便な皮膚生体方法を提供できる、マイクロニードルパッチを利用した皮膚生体検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施形態に係る最小浸湿的皮膚生体検査方法は、マイクロニードルパッチを準備する段階と;前記マイクロニードルパッチを対象体の皮膚に付着する段階と;前記マイクロニードルパッチを対象体の皮膚に付着した状態で所定時間維持する段階と;前記所定時間が経過した後にマイクロニードルパッチを対象体の皮膚から分離して、マイクロニードルにくっついてきた対象体の蛋白質成分を分析する段階を含む。前記マイクロニードルは生体適合性高分子物質からなる。
【0016】
前記マイクロニードルの材質である生体適合性高分子物質はヒアルロン酸またはキトサンであり得る。
【0017】
前記マイクロニードルの材質がヒアルロン酸である場合、前記所定時間は分子量による溶解速度を考慮して事前に決定されることが好ましい。
【0018】
ヒアルロン酸の分子量が低分子量から高分子量に行くほど対象体の皮膚への付着時間を長くすることができ、生体検出性能が向上し得る。
【0019】
その他にも追加的な構成が本発明に係る最小浸湿的皮膚生体検査方法にさらに提供され得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、信頼性のある検査結果を提供できる程度に十分な皮膚蛋白質を得ることができながらも、最小浸湿的であるため患者の苦痛を誘発せず、簡便な皮膚生体検査方法を提供できる、マイクロニードルパッチを利用した皮膚生体検査方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】従来技術の皮膚生体検査方法を図示する図面である。
【
図2】本発明に係る皮膚生体検査方法を概念的に図示する図面である。
【
図3】本発明の第1実施形態で実験対象となった4つの対照群を図示する図面であり、1)マイクロニードルが形成されていない空きパッチ、2)金属材質の中実(solid)マイクロニードル、3)低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチ、4)高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチを図示する。
【
図4】本発明の第1実施形態で使用した4つの対照群を使って、30代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対してPro-Collagen 1検出テストを行った結果を図示する表である。
【
図5】本発明の第1実施形態で使用した4つの対照群を使って、30代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対してPro-Collagen 1検出テストを行った結果を図示する表であって、y軸が吸光度に図示された表である。
【
図6】本発明の第1実施形態で使用した4つの対照群のうち、低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチと高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチの生体検査適用前後の長さ変化測定結果を図示した表である。
【
図7】本発明の第2実施形態の実験結果を図示した表であって、ここで使われた対照群は1)マイクロニードルが形成されていない空きパッチ、2)低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチ、3)高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチであり、それぞれの対照群は20代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対して5秒と60秒の間皮膚に適用された後に剥がされてPro-Collagen 1検出結果が測定された。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る対照群が、20代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対してそれぞれ10秒と30秒の間皮膚に適用された後に剥がされてPro-Collagen 1検出結果が測定された結果を図示した表である。
【
図9】本発明の第3実施形態の実験結果を図示した表であって、ここで使われた対照群は1)低分子量のキトサンマイクロニードルパッチ、2)高分子量のキトサンマイクロニードルパッチであり、それぞれの対照群は5秒、60秒および300秒の間皮膚に適用された後に剥がされてPro-Collagen 1検出結果が測定された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
後述する本発明に対する詳細な説明は、本発明が実施され得る特定の実施形態を例示として図示する添付図面を参照する。このような実施形態は当業者が本発明を充分に実施できるほど詳細に説明される。本発明の多様な実施形態は互いに異なるが互いに排他的である必要はないことが理解されるべきである。例えば、本明細書に記載されている特定形状、構造および特性は、本発明の精神と範囲を逸脱することなく一実施形態から他の実施形態に変更されて具現され得る。また、それぞれの実施形態内の個別構成要素の位置または配置も本発明の精神と範囲を逸脱することなく変更され得ることが理解されるべきである。したがって、後述する詳細な説明は限定的な意味として行われるものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲の請求項が請求する範囲およびそれと均等なすべての範囲を含むものと理解されるべきである。図面で類似する参照符号は多様な側面に亘って同一または類似する構成要素を示す。
【0023】
以下では、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が本発明を容易に実施できるようにするために、本発明の多様な好ましい実施形態に関して添付された図面を参照して詳細に説明することにする。
【0024】
図2は、本発明に係る皮膚生体検査方法を概念的に図示する図面である。
【0025】
図2の左側上端には製品名「Therapass」である市販中のマイクロニードルパッチが図示されている。この製品は、本出願人の会社で市場に発売して販売中の製品であって、分子量が1000kDaである高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチである。
図2の左側下端にはこのようなマイクロニードルパッチが皮膚に適用された姿が図示されており、より具体的には、パッチのマイクロニードルが皮膚の真皮層まで浸透した姿を図示する。
図2の右側部分には、皮膚炎患者にマイクロニードルパッチが適用された後にパッチのマイクロニードルにくっついてきた皮膚内の蛋白質を活用して生体検査を実施する本発明の代表的な技術的思想が概念的に図示されている。ここに表示された用語であるバイオマイニング(Bio-Mining)は、生体検査のために対象体の皮膚内の蛋白質を掘り出すという意味で使われた。
【0026】
図3は、本発明の第1実施形態で実験対象となった4つの対照群を図示している。この4つの対照群のうち、第1群はマイクロニードルが形成されていない空きパッチである。第2群は金属材質の中実(solid)マイクロニードルである。第3群は低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチである。低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチに使われたヒアルロン酸の分子量は110kDaである。第4群は高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチである。高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチに使われたヒアルロン酸の分子量は1000kDaである。
【0027】
図4は、本発明の第1実施形態で使用した4つの対照群を使って、30代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対してPro-Collagen 1検出テストを行った結果を図示する表である。
【0028】
図4のx軸には空きパッチ、低分子量ヒアルロン酸パッチと高分子量ヒアルロン酸パッチが表示されている。y軸は検出されたPro-Collagen 1の単位体積当たり質量がミリリットル当たりピコグラムの単位で表示されている。4つの対照群のうち、金属材質の中実(solid)マイクロニードルは表示されていない。その理由は蛋白質の定量そのものが全くなされていないためである。
図4に表示されたELISAという表記は、抗体や抗原に酵素を標識して酵素の活性を測定して抗原-抗体反応の強度とその量を定量的に測定する方法であって、現代生命工学で利用されている方法を指し示し、本発明の実験の全般に使われた。
【0029】
図4の表で注意を払って見なければならないのは第1対照群である空きパッチとの実質的な差別性の有無である。空きパッチは本発明の出願前に存在していた従来技術であって、検出結果が空きパッチと実質的に差別化されないのであれば、本発明が生体検出効果の向上に資するところがないということになるためである。
図4の結果を見ると、低分子量(110kDa)ヒアルロン酸パッチでのPro-Collagen 1検出量は空きパッチの場合と実質的に差別化されていない。しかし、高分子量(1000kDa)ヒアルロン酸パッチでのPro-Collagen 1検出量は空きパッチおよび低分子量ヒアルロン酸パッチの場合と対比して顕著に増加したことが分かる。
【0030】
さらに他の実験結果が
図5に図示される。
図5は、本発明の第1実施形態で使用した4つの対照群を使って、30代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対してPro-Collagen 1検出テストを行った結果を図示する表であって、y軸が吸光度(OD)で図示された表である。
図4の表においてはy軸が検出されたPro-Collagen 1の単位体積当たり質量であるのと対比して、
図5の表では吸光度(OD)であるという点に差がある。標準物質を利用した検量曲線に基づいて生体組織が抽出される定量を類推することができる。したがって、各群の吸光度(OD)値を測定してPro-Collagen 1の定量を類推することができる。
図5の結果を見ると、低分子量ヒアルロン酸パッチでの吸光度値が空きパッチと多少区分される結果を示しているものの、依然として空きパッチと低分子量ヒアルロン酸パッチでの結果が大同小異であり、高分子量ヒアルロン酸パッチでの結果が顕著に差別化される。
【0031】
マイクロニードルパッチの成分となるヒアルロン酸の分子量によって、どうしてこのように顕著な結果の差別性が示されるのかについて、本発明者らは実験を持続してその原因を分析したのであり、その原因を分子量の差による皮膚内への溶解速度で探した。現在商用化されているマイクロニードルパッチのマイクロニードル成分は生体適合性なものであって、生分解性の高分子物質が大勢である。「生体適合性物質」とは、人体に毒性がなく、化学的に不活性な物質を意味する。そして、「生分解性物質」は生体内で体液、酵素または微生物などによって分解され得る物質を意味する。また、生分解性物質の中では、分子量が小さいほど生体内への溶解速度が速くなり、分子量が大きいほど生体内への溶解速度が遅くなる傾向性が知られている。一方、生体適合性高分子(biocompatible polymer)としては次のような物質が知られている:
ヒアルロン酸(hyaluronicacid;HA)、ゼラチン(gelatin)、キトサン(chitosan)、コラーゲン(collagen)、アルギン酸、ペクチン、カラギナン、コンドロイチン(サルフェート)、デキストラン(サルフェート)、ポリリジン(polylysine)、カルボキシメチルキチン、フィブリン、アガロース、フルラン、セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアルコール、アラビアゴム、アルギネート、シクロデキストリン、デキストリン、葡萄糖、果糖、澱粉、トレハロース、グルコース、マルトース、ラクトース、ラクツロース、フルクトース、ツラノース、メリトース、メレチトース、デキストラン、ソルビトール、キシリトール、パラチニット、ポリ乳酸(polylactic acid)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリエチレングリコール-ポリエーテル共重合体(poly(ethyleneglycol)/polyester)、キトサン-グリセロールホスフェート(Chitosan/glycerol phosphate)、ポリホスファゼン(Polyphosphazene)、ポリカプロラクトン(Polycaprolactone)、ポリカーボネート(Polycarbonate)、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(Poly(ethylene glycol)/poly(propylene glycol)、ポリシアノアクリレート(Polycyanoacrylate)、ポリオルトエステル(Polyorthoester)、ポリヒドロキシエチルメタメタクリルアミド乳酸(Poly(N-(2-hydroxyethyl)methacrylamide-lactate)、ポリプロピレンホスフェート(Poly(propylene phosphate)等がある。
【0032】
マイクロニードルパッチを皮膚に付着させると、パッチのマイクロニードルが皮膚の真皮層まで進入する過程で、そして進入後維持される過程で、生体適合性マイクロニードル構造に蛋白質がくっついてから抽出され得る。ところが、低分子量のヒアルロン酸マイクロニードルは、生体の蛋白質がその表面にくっついても溶解速度が相対的にはやいため、長時間皮膚に付着される場合、そのもの自体が溶解しながら表面についた蛋白質が流失され得る。このような原因で
図4の実験結果が得られたものと分析された。これを裏打ちする結果が
図6に図示されている。
【0033】
図6は、本発明の第1実施形態で使用した4つの対照群のうち、低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチと高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチの生体検査適用前後の長さ変化測定結果を図示した表である。
【0034】
図6の結果によると、110kDaの低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチのマイクロニードルは、人体の皮膚に付着している間、略30%の長さの減少を示した。一方、1000kDaの高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチのマイクロニードルは皮膚に付着している間、略10%だけの長さの減少を示した。低分子量のヒアルロン酸マイクロニードルは、生体の蛋白質がその表面にくっついても溶解速度が相対的にはやいため、長時間皮膚に付着する場合、そのもの自体が溶解しながら表面についた蛋白質が流失され得るものと分析される。
図4~
図6に図示された第1実施形態の実験で各対照群の皮膚付着時間は5分であった。これに対し、本発明者らは皮膚への付着時間を5分より減らしてそれぞれ異なる時間の長さの間実験を遂行する必要を発見したのであり、実施形態2の実験を企画した。
【0035】
図7は、本発明の第2実施形態の実験結果を図示した表であって、ここで使われた対照群は1)マイクロニードルが形成されていない空きパッチ、2)低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチ、3)高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチであり、それぞれの対照群は20代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対して5秒と60秒の間皮膚に適用された後に剥がされてPro-Collagen 1検出結果が測定された。低分子量ヒアルロン酸の分子量および高分子量ヒアルロン酸の分子量は実施形態1の実験と同一である。低分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチとしては本出願人が市販中の美容用途のマイクロニードルパッチが使われ、高分子量ヒアルロン酸マイクロニードルパッチとしては本出願人が市販中の医療機器用途のマイクロニードルパッチ(商品名:「Therapass」)が使われた。実施形態1の実験結果、金属材質の中実マイクロニードルは生体蛋白質抽出性能が非常に不十分であったため、本実施形態で対照群として使われていない。
【0036】
図7の実験結果から次の事実が分かる。第1に、5秒の付着時間ではマイクロニードルパッチの空きパッチ対比有意味な結果の向上を期待することができない。第2に、60秒の付着時間ではマイクロニードルパッチ(低分子量および高分子量)が空きパッチ対比顕著に優れた生体蛋白質抽出性能を示す。第3に、60秒の付着時間においても高分子量マイクロニードルパッチの生体蛋白質抽出性能が低分子量マイクロニードルパッチの生体蛋白質抽出性能より優れている。本発明者らは
図7の実験結果に基づいて、付着時間が5秒を超過し60秒よりは短い時間帯に対してさらなる結果を得るために
図8の実験を追加的に進行した。
【0037】
図8は、本発明の第2実施形態に係る対照群が、20代年齢の患者群と60代年齢の患者群に対してそれぞれ10秒と30秒の間皮膚に適用された後に剥がされてPro-Collagen 1検出結果が測定された結果を図示した表である。
【0038】
空きパッチの場合には、10秒付着時や30秒付着時に結果の有意味な変化がなかったため、
図8の表には30秒付着時の結果のみを表記した。
図8の結果から分かることは次の通りである。第1に、10秒の付着時間でも空きパッチ対比大幅に向上したマイクロニードルパッチ(低分子量および高分子量)の生体蛋白質抽出性能を確認することが加能である。第2に、10秒の付着時間では低分子量マイクロニードルパッチと高分子量マイクロニードルパッチの蛋白質抽出性能が大同小異である。第3に、30秒の付着時間では高分子量マイクロニードルパッチの蛋白質抽出性能が低分子量マイクロニードルパッチの蛋白質抽出性能を明確に分かるように凌駕している。
【0039】
10秒以上の付着時間を維持する場合、マイクロニードルパッチの生体検査性能が有意味に発揮され得るという点、低分子量マイクロニードルが皮膚に溶解する程度の時間が経過する前である10秒程度の付着時間では、低分子量マイクロニードルパッチが高分子量マイクロニードルパッチと大同小異の生体検査性能を示すという点を確認したことに
図8の実験の技術的な意味があると評価される。
【0040】
最後に、本発明者らはヒアルロン酸以外に他の生体適合性高分子物質からなるマイクロニードルパッチが生体検査用途として活用されるのに適合しているかどうかを調べるために、キトサン材質のマイクロニードルパッチを使って
図9の実験を進行した。キトサンはヒアルロン酸と同様に生体適合性高分子物質ではあるものの、生分解性ではない。キトサンは甲殻類に含まれているキチンを人体に容易に吸収されるように加工した物質であって、老廃した細胞を活性化して老化を抑制し免疫力を強化させる効果が知られている。皮膚細胞の活性化の側面でも効果が立証されて化粧品の成分物質として広く使われており、皮膚の美容目的のマイクロニードルパッチの成分としても使われている。
【0041】
図9は、本発明の第3実施形態の実験結果を図示した表であって、ここで使われた対照群は1)低分子量のキトサンマイクロニードルパッチ、2)高分子量のキトサンマイクロニードルパッチであり、それぞれの対照群は5秒、60秒および300秒の間皮膚に適用された後に剥がされてPro-Collagen 1検出結果が測定された。
【0042】
図9の実験で低分子量キトサン1の分子量は50~100kDaである。高分子量キトサン2の分子量は250~350kDaである。20代年齢の患者群に対して5秒、1分、5分付着後Pro-Collagen Iの発現を確認した。
図9に表示した実施形態3の実験結果から、本発明者らは生体適合性高分子物質の中の1つであるキトサンもヒアルロン酸と同様に生体検査のための蛋白質抽出機能を発揮できるという点である。本明細書に例示したヒアルロン酸とキトサン以外の多様な他の生体適合性高分子物質も最小浸湿的皮膚生体検査のためのマイクロニードルパッチ材質の候補群となる可能性は十分に開いていると言える。
【0043】
以上、本発明が具体的な構成要素などのような特定事項と限定された実施形態および図面によって説明されたが、これは本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたものに過ぎず、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であればこのような記載から多様な修正および変形を試みることができる。
【0044】
したがって、本発明の思想は前記説明された実施形態に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなくこの特許請求の範囲と均等にまたは等価的に変形されたすべてのものは本発明の思想の範疇に属すると言える。
【国際調査報告】