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特表2022-520204S-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物およびS-エナンチオマー富化組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-29
(54)【発明の名称】S-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物およびS-エナンチオマー富化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20220322BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220322BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220322BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220322BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220322BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220322BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20220322BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220322BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220322BHJP
   A23G 3/42 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K9/14
A61P3/00
A61K9/48
A61K9/20
A61P3/02
A61K31/215
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
A23G3/42
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546767
(86)(22)【出願日】2020-02-10
(85)【翻訳文提出日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 US2020017556
(87)【国際公開番号】W WO2020167693
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】16/272,192
(32)【優先日】2019-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/783,886
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520178065
【氏名又は名称】アクセス・グローバル・サイエンシーズ・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】AXCESS GLOBAL SCIENCES, LLC
【住所又は居所原語表記】2157 LINCOLN STREET, SALT LAKE CITY, UTAH 84106, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ミレット,ゲーリー
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B117
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4B014GB06
4B014GB07
4B014GB08
4B014GB09
4B014GL03
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018MD01
4B018MD08
4B018MD09
4B018MD23
4B018ME14
4B018MF10
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4B117LC04
4B117LK06
4B117LK16
4C076AA29
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC21
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA07
4C206KA12
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA63
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZC21
(57)【要約】
ケトジェニック組成物は、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩と酸との混合物、またはS-エナンチオマーで富化されたベータ-ヒドロキシブチレート塩と酸との非ラセミ混合物を含む。前記S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーは、対象におけるケトン体の効果を調節し、ケトーシスが達成される速度を制御する。ベータ-ヒドロキシ酪酸は、塩またはエステルに比べて体内への吸収および利用が早く、味を引き立て、クエン酸または他の食用酸を含める必要性を減少させる。ベータ-ヒドロキシ酪酸は、よりゆっくりと体内に吸収および利用され、1つ以上の電解質を提供することができる。対象におけるケトン体レベルを制御するための組成物は、食物的または薬学的に許容される担体と、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートまたはS-ベータ-ヒドロキシブチレートで富化された非ラセミ混合物を含有し得、ここで、前記組成物は、エナンチオマー当量で約50.5%~100%のS-ベータ-ヒドロキシブチレート、およびエナンチオマー当量で約49.5%~0%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象にケトン体および/またはケトン体前駆体を投与するための組成物であって、ケトン体組成物が、
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはエナンチオマー当量で50%超および100%未満のS-ベータ-ヒドロキシブチレートとエナンチオマー当量で50%未満および0%超のR-ベータ-ヒドロキシブチレートとを含むS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物、を含有し、
前記光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートが、少なくとも1つの光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩と光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物を含み、または、
S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの前記非ラセミ混合物が、
少なくとも1つのS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、
少なくとも1つのR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、および、
少なくとも1つのS-またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸、を含み、
前記組成物が、粉末である、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、複数の光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、および光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、エナンチオマー当量で50.5%~99.5%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびエナンチオマー当量で49.5%~0.5%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートを含む非ラセミ混合物を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記非ラセミ混合物が、エナンチオマー当量で51%~99%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびエナンチオマー当量で49%~1%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記非ラセミ混合物が、エナンチオマー当量で52%~98%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびエナンチオマー当量で48%~2%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記非ラセミ混合物が、モル当量で90%~99.9%のS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩とR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩との組み合わせ、およびモル当量で10%~0.1%のS-ベータ-ヒドロキシ酪酸および/またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記非ラセミ混合物が、モル当量で94%~99.5%のS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩とR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩との組み合わせ、およびモル当量で6%~0.5%のS-ベータ-ヒドロキシ酪酸および/またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記非ラセミ混合物が、モル当量で96%~99%のS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩とR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩との組み合わせ、およびモル当量で4%~1%のS-ベータ-ヒドロキシ酪酸および/またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記非ラセミ混合物が、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレートの少なくとも1つのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、またはアミノ酸塩を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
6個未満の炭素を有する少なくとも1つの短鎖脂肪酸、または前記少なくとも1つの短鎖脂肪酸のモノ-、ジ-、もしくはトリグリセリドをさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
ビタミン、ミネラル、向知性薬、およびハーブサプリメントから選択される少なくとも1つのサプリメントをさらに含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
対象にケトン体および/またはケトン体前駆体を投与するための組成物であって、前記ケトン体組成物が、
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはエナンチオマー当量で50%超および100%未満のS-ベータ-ヒドロキシブチレートとエナンチオマー当量で50%未満および0%超のR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を含有し、
前記光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートが、少なくとも1つの光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩と光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物を含み、または、
S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの前記非ラセミ混合物が、少なくとも1つのS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、少なくとも1つのR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、および少なくとも1つのS-またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および、
前記組成物が、錠剤、カプセル、粉末、食品、食品添加物、フレーバー付き飲料、ビタミン強化飲料、ノンアルコール飲料、フレーバー付き飲料添加物、ビタミン強化飲料添加物、ノンアルコール飲料添加物、キャンディー、棒付きキャンディー、トローチ、栄養補助食品、フレーバー付きマウススプレー、もしくは座薬として、またはそれらの中に入れられて提供される、組成物。
【請求項13】
前記組成物が、エナンチオマー当量で50.5%~99.5%のS-ベータ-ヒドロキシブチレート、およびエナンチオマー当量で49.5%~0.5%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、モル当量で94%~99.5%のS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩とR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩との組み合わせ、およびモル当量で6%~0.5%のS-ベータ-ヒドロキシ酪酸および/またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、S-ベータ-ヒドロキシブチレートの少なくとも1つのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、またはアミノ酸塩を含み、前記組成物が粉末である、請求項12~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
ビタミン、ミネラル、向知性薬、およびハーブサプリメントから選択される少なくとも1つのサプリメントをさらに含む、請求項12から15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
対象にケトン体を投与するための組成物であって、
錠剤、カプセル、粉末、食品、食品添加物、フレーバー付き飲料、ビタミン強化飲料、ノンアルコール飲料、フレーバー付き飲料添加物、ビタミン強化飲料添加物、ノンアルコール飲料添加物、キャンディー、棒付きキャンディー、トローチ、栄養補助食品、フレーバー付きマウススプレー、および座薬からなる群から選択される食物的にまたは薬学的に許容される担体、および、
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはエナンチオマー当量で50%超および100%未満のS-ベータ-ヒドロキシブチレートとエナンチオマー当量で50%未満および0%超のR-ベータ-ヒドロキシブチレートとを含むS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物、を含有し、
前記光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートが、少なくとも1つの光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩と光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物を含み、または、
S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの前記非ラセミ混合物が、少なくとも1つのS-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、少なくとも1つのR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、および少なくとも1つのS-またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、組成物。
【請求項18】
対象にケトン体を投与するためのキットであって、
請求項1~17のいずれか1項に記載の組成物、
前記組成物が置かれている容器、および、
前記組成物の単位用量またはその画分を中に保持するように構成されている測定装置であって、前記組成物の単位用量が、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートまたはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物の約0.5g~約25gを含む、測定装置、を含む、キット。
【請求項19】
前記容器が、カートン、箱、缶、ジャー、バッグ、ポーチ、ボトル、水差し、および小樽からなる群から選択される、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記測定装置が、カップ、スクープ、シリンジ、スポイト、スパチュラ、スプーン、および結腸灌水装置からなる群から選択される、請求項18に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、S-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物、非ラセミ体のベータ-ヒドロキシブチレート化合物、その塩、酸、およびエステル、およびベータ-ヒドロキシブチレートのS-エナンチオマーを富化した組成物、ならびに対象におけるケトン体の血中レベルおよび/または作用を制御または調節するための方法が、開示される。
【背景技術】
【0002】
絶食、激しい運動、および/または低炭水化物消費の期間には、体内のグルコースおよびグリコーゲンの貯蔵が急激に消費され、急速に枯渇する可能性がある。それらの枯渇に伴うグルコース貯蔵の補給に失敗すると、身体はエネルギーのためにケトン体を生成して使用することに代謝的に移行するようになる(「ケトーシス」)。ケトン体は、脳や心臓の需要を含む身体のエネルギー需要を満たすための燃料として、身体の細胞で使用され得る。例えば、長期間の絶食中に、血中ケトンレベルが2~3mmol/L以上に増加する可能性がある。血中ケトンが0.5mmol/Lを超えて上昇すると、心臓、脳、および末梢組織が、主要燃料源としてケトン体(例えば、ベータ-ヒドロキシブチレート、およびアセトアセテート)を使用していることが従来から理解されている。この状態をケトーシスと称する。血中レベルが1.0mmol/Lから3.0mmol/Lの間の状態は、「栄養学的ケトーシス」と呼ばれる。
【0003】
ケトーシスに移行すると、言い換えれば、肝臓でのケトジェニック代謝の間、身体は食事の脂肪および身体の脂肪を主要なエネルギー源として使用する。その結果、ケトーシスに移行すると、食事による脂肪摂取を制御して、ケトーシスを維持させるための低炭水化物の摂取および血中レベルを維持することにより、身体の脂肪の減少を誘導することができる。
【0004】
ケトーシス中は、身体はケトン生成状態になり、基本的に脂肪を主要燃料源として燃焼させている。体内では脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解され、脂肪酸はアセチルCoA分子へと変換され、このアセチルCoA分子は、ケトン生成を経て肝臓中で水溶性ケトン体β-ヒドロキシブチレート(すなわち「β-ヒドロキシブチレート」または「BHB」)、アセトアセテート(アセチルアセトネートとしても公知)、およびアセトンへと最終的に変換される。ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートは、体内でエネルギーとして使われる主要なケトン体であり、アセトンはケトン生成の副産物として除去され排出される。
【0005】
ケトン体の代謝は、抗痙攣効果、脳代謝の促進、神経保護、筋肉温存特性、ならびに認知能力および身体能力の改善を含むいくつかの有益な効果と関連がある。ケトン補給により管理される、細胞代謝の効率性における科学に基づく改善は、身体的、認知的健康、および心理的健康に有益な影響を及ぼし、肥満、循環器系疾患、神経変性疾患、糖尿病、および癌などの一般的な回避できる疾患に関する健康に対して長期的な影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
ケトジェニックダイエットやライフスタイルを追求し、栄養学的ケトーシスの状態を維持することは、健康に多数の利点があるが、ケトジェニック状態を追求し維持することには大きな障壁が残っている。その障壁の1つは、ケトジェニック状態への移行の難しさである。体内におけるグルコースの貯蔵の枯渇を経てケトーシスに移行する最速の内因的方法は、運動を組み合わせた絶食によるものである。これは、身体的および精神的要求が厳しく、最も意欲的で規律正しい人であっても非常に困難である。
【0007】
さらに、ケトーシスへの移行にはしばしば低血糖を伴い、これにより多くの場合で無気力および立ち眩みが起こる可能性があり、結果として、一般的に「低糖質風邪」と呼ばれる不快な身体的および精神的状態に陥ることがある。また、身体が自然に「省エネ」モードになるので、多くの人々は、代謝におけるダウンレギュレーションを経験する。これらの一過性の症状は、2~3週間もの期間続く可能性があるという意見もある。この移行期間中に、もし対象が制限量を超える炭水化物を含む食事または軽食を摂取すると、直ちにケトン生成が終了し、身体がケトーシスの状態から脱却し、身体が主要燃料としてグルコースを利用する状態へと戻り、ケトーシスへの移行は改めて開始しないといけなくなる。
【0008】
もし対象がケトーシスの確立に成功すると、食事の際、脂肪に対する炭水化物およびタンパク質の比率を厳格に維持する必要があるため、ケトーシスを維持することは、それほど困難でないにしても、同様に困難である。それは、さらに、ケトジェニック状態へ移行しその状態を維持する時によく起こる正常な電解質平衡の崩壊により複雑化される。肝臓および筋肉におけるグリコーゲンの貯蔵の枯渇および低下により、身体が水分を保持する能力が低下し、排尿回数が増え、それにより電解質がより多量に消失する。また、ケトーシスによるインスリンレベルの低下は、一定の電解質が腎臓により排出される速度に影響を及ぼし、さらに体内の電解質レベルを低下させる。電解質不均衡のマイナス効果は、筋肉痛、痙攣、ひきつりおよび脱力、不穏状態、不安、頻繁な頭痛、非常にのどが渇くこと、不眠症、発熱、心臓の動悸または不整脈、消化器症状(急激な腹痛、便秘、または下痢など)、混乱および集中することの困難、骨障害、関節痛、血圧の変化、食欲または体重の変化、疲労(慢性疲労症候群を含む)、関節のしびれ、および眩暈(特に急に起立したとき)を含む。
【0009】
哺乳類においてケトーシスを促進するのに使用されるいくつかの組成物には、ベータ-ヒドロキシブチレート(RS-ベータ-ヒドロキシブチレートまたはDL-ベータ-ヒドロキシブチレート)のラセミ混合物が含まれる。米国特許出願公開第2017/0296501号で開示されたLoweryらによるものなどの他の組成物は、内因性の形態のベータ-ヒドロキシブチレート、R-ベータ-ヒドロキシブチレートを含み、一方でLoweryらは、非内因性のエナンチオマー、S-ベータ-ヒドロキシブチレートの使用を薦めていない。また、Clarkeらの米国特許第8,642,654号に開示されているような他の組成物は、大部分または全部を単一のベータ-ヒドロキシブチレートエステル(3R)-ヒドロキシブチル(3R)-ヒドロキシブチレートから構成されている。その他のエナンチオマー、例えば、(3R)-ヒドロキシブチル(3S)-ヒドロキシブチレート、(3S)-ヒドロキシブチル(3R)-ヒドロキシブチレート、(3S)-ヒドロキシブチル(3S)-ヒドロキシブチレートなどは、大部分または全部が除外されている。ベータ-ヒドロキシブチレートの内因性形態ではないエナンチオマーが除外されているのは、S-ベータ-ヒドロキシブチレート(別名(3S)-ヒドロキシブチレート)は効果がない、あるいは有害であるという見解に基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0296501号
【特許文献2】米国特許第8,642,654号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(概要)
本明細書では、対象におけるケトーシスの促進および/または持続を含む、対象におけるケトン体レベルを制御するための組成物および方法が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
例示的な組成物は、S-ベータ-ヒドロキシブチレート、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を含み、ここで、前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーと比較してS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化されており、例えば、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをエナンチオマー当量(Enantiomeric equivqlent)で51%~99.5%、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをエナンチオマー当量で49.5%~0.5%含むことによる。
【0013】
S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物は、ラセミ混合物および/またはR-エナンチオマーで富化された組成物と比較して、より制御された持続的なケトジェニック効果を提供するために、哺乳類によって生成される内因性形態(R-エナンチオマー)よりも、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより多く含む。R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーは、ケトーシス時に哺乳動物によって内因的に産生されるため、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを対象に投与すると、エネルギーを産生するためなどに(例えば、グルコースに代わるエネルギー源として)、身体によって直ちに利用することができる量が得られる。しかし、この効果は、S-エナンチオマーが主成分である場合に変調および拡張される。
【0014】
R-エナンチオマーが意図的に富化されているか、またはS-エナンチオマーを最小限にするかもしくは完全に排除する組成物とは対照的に、前記非ラセミ混合物は、本明細書で述べられるように、哺乳類において1つ以上の所望の効果をもたらすために、哺乳類によって内因性に産生されないS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化されている。
【0015】
さらに、従来の組成物は通常、ベータ-ヒドロキシブチレートのポリマー、オリゴマー、エステル、または塩形態を含むが、S-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物、およびR-ベータ-ヒドロキシブチレートと比較してS-ベータ-ヒドロキシブチレートを富化させた非ラセミ混合物は、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレートの遊離酸形態を含み得る。例えば、前記S-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物または非ラセミ混合物は、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートの1つ以上の塩もしくはエステル、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を、S-ベータ-ヒドロキシ酪酸、および任意にR-ベータ-ヒドロキシ酪酸と組み合わせて含み得る。ベータ-ヒドロキシ酪酸を1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレート塩と組み合わせることは、電解質負荷を軽減し、吸収率を高め、味を改善し、製剤化を容易にし、中性または酸性のpHを有する組成物を得るためにクエン酸または他の食用酸を加える必要性を減らすので、有益である。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物は、栄養学的または薬学的に有効な量の本明細書に開示される1つ以上の組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象におけるケトン体レベルの増加させる方法(対象においてケトーシスを促進するおよび/または維持することを含む)において使用されてもよい。対象におけるケトン体レベルが増加することの有益な効果の例としては、食欲抑制、体重減少、脂肪減少、血中グルコースレベルの低下、精神的敏しょう性の改善、身体的エネルギーの増加、認知機能の改善、外傷性脳損傷の軽減、糖尿病の影響の軽減、神経障害の改善、癌の軽減、炎症の軽減、老化防止、抗糖化、てんかん性発作の軽減、気分の改善、体力の増強、筋肉量の増加、または身体組成の改善のうちの1つ以上が含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるエナンチオマー比率または割合で、S-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を投与することにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートの内因性産生の増加、S-ベータ-ヒドロキシブチレートからR-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートのうちの一つまたは両方への内因性変換、S-ベータ-ヒドロキシブチレートから脂肪酸およびステロールへの内因性変換、ケトーシスの延長、R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはアセトアセテートへの変換とは独立したS-ベータ-ヒドロキシブチレートの代謝、胎児の発育の増大、成長年数の増加、ケトーシス中のアセトンの内因性産生の減少、R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびグルコースの代謝を調節するS-ベータ-ヒドロキシブチレートによるシグナル伝達、抗酸化活性、およびアセチル-CoAの産生のうちの1つ以上が提供される。
【0018】
前記組成物は、食物的に(dietetically)または薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0019】
さらなる特徴および利点を以下の記載における一部で説明し、一部は記載により明らかになるか、または本明細書に開示された実施形態の実行により習得できるであろう。前述の短い概要と以下の詳細な説明の両方は、例示および説明のみを目的としており、本明細書に記載されている実施形態または特許請求の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(詳細な説明)
1.定義
化合物「ベータ-ヒドロキシブチレート」は、β-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート、βHB、またはBHBとしても知られており、一般式CHCHOHCHCOOHを有するヒドロキシカルボン酸であるベータ-ヒドロキシ酪酸の脱プロトン化した形態である。典型的な生物学的pHレベルで存在する脱プロトン化形態は、CHCHOHCHCOOである。以下に示す一般的な化学構造は、開示された組成物で利用され得るベータ-ヒドロキシブチレート化合物を表す。
【化1】

(式中、
Xは、水素、金属イオン、アミノ酸からなどのアミノカチオン、アルキル、アルケニル、アリール、またはアシルであってもよい。)
【0021】
Xが水素の場合、前記化合物はベータ-ヒドロキシ酪酸である。Xが金属イオンまたはアミノカチオンの場合、前記化合物はベータ-ヒドロキシブチレート塩である。Xがアルキル、アルケニル、アリール、またはアシルの場合、前記化合物はベータ-ヒドロキシブチレートエステルである。前述の化合物は、結晶、粉末、固体、液体、溶液、懸濁液、またはゲルなどの任意の所望の物理的形態であり得る。
【0022】
別段の定めがない限り、「塩」という用語は、水に溶解して溶液を形成し、液体に分散して懸濁液またはゲルを形成する、結晶、粉末、その他の固体形態などのいずれかの特定の物理的状態を意味または暗示するものではない。塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、または重炭酸塩、塩基性アミノ酸などの強塩基または弱塩基でベータ-ヒドロキシ酪酸を少なくとも部分的に中和することなどにより、溶液中で形成され得る。
【0023】
いくつかのケースでは、前記組成物は、1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレート塩とベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物を含み得る。R-ベータ-ヒドロキシブチレートをその酸形態で提供することは、塩形態と比較して吸収応答時間がはるかに迅速であるので有益であり得る。それにもかかわらず、酸形態それ自体が極端に低いpHおよび口に合わない味の液体であるにもかかわらず、塩形態と作製されるかまたは組み合わされ、ベータ-ヒドロキシ酪酸の量が塩形態に比べて少ない場合、組成物は依然として塩形態の典型的な固体、粉末または他の形態を形成し得る。このような場合、BHBの塩と酸の組み合わせの形態は、許容できるpHと味を有する。塩と酸の両方の形態を含むBHB組成物は、吸収率の向上、バイオアベイラビリティの向上、電解質負荷の軽減、製造の容易さ、味の大幅な改善、中性または酸性のpHの組成物を得るためのクエン酸または他の食用酸の必要性の軽減などの利点がある。また、BHBの塩および/またはエステルと、BHBの酸形態との混合物を用いても有益な効果が得られることが理解されるであろう。
【0024】
「遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸」という用語は、非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸分子と脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸分子との合計を意味する。脱プロトン化されたベータ-ヒドロキシ酪酸分子とは、一般に、プロトンを放出してヒドロニウムイオン(HO+)およびベータ-ヒドロキシブチレートアニオンを形成した(例えば、水に溶解した)分子を意味する。
【0025】
遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸分子は、乾燥粉末または他の固体形態のベータ-ヒドロキシブチレート混合塩酸組成物に含まれる場合、典型的には有意な程度に脱プロトン化されていない。このような場合、重量ベースでのベータ-ヒドロキシブチレート混合塩酸組成物中の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸の分数量(fractional amount)は、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸の重量を、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸とベータ-ヒドロキシブチレート塩との合計重量で割ったものである。モルベースでは、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩酸組成物中の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸の分数量は、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸のモル当量を、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸と、ベータ-ヒドロキシブチレート塩によって提供されるベータ-ヒドロキシブチレートアニオンとのモル当量の合計で割ったものである。
【0026】
水に溶解した場合、ベータ-ヒドロキシ酪酸の一部は、典型的にはベータ-ヒドロキシブチレートアニオンとヒドロニウムイオン(HO+)に解離する。その結果、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子は、溶解したベータ-ヒドロキシブチレート塩とプロトンとカチオンを交換し得る。ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物中のベータ-ヒドロキシ酪酸およびベータ-ヒドロキシブチレート塩の相対量を規定する目的で、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の解離およびプロトンとカチオンとの交換は、ベータ-ヒドロキシブチレート塩からのベータ-ヒドロキシブチレートアニオンに対する遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸のモル比を変化させるものとは理解されない。溶液中の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の総量は、脱プロトン化されていない溶解したベータ-ヒドロキシ酪酸分子と、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の脱プロトン化によって形成されたベータ-ヒドロキシブチレートアニオンとの合計である。
【0027】
別の言い方をすると、溶液中のベータ-ヒドロキシ酪酸の総モル当量は、脱プロトン化されているか否かにかかわらず、(i)溶液中の非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸分子のモル当量とベータ-ヒドロキシブチレートアニオンの総モル当量(すべての供給源から)の合計と、(ii)ベータ-ヒドロキシブチレート塩化合物からのカチオンによって提供されるカチオン電荷の総モル当量(これはベータ-ヒドロキシブチレート塩によって提供されるベータ-ヒドロキシブチレートアニオンの総モル当量に等しい)との間の差であると理解される。ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属カチオンは、金属カチオン1モルあたり1モルのカチオン電荷を提供する。一方、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属のカチオンは、金属カチオン1モルあたり2モルのカチオン電荷を提供する。脱プロトン化されたベータ-ヒドロキシ酪酸分子1モルは、1モルのアニオン電荷および1モルのカチオン電荷を提供する。
【0028】
以上のことから、溶液中のベータ-ヒドロキシ酪酸混合塩-酸組成物からのベータ-ヒドロキシブチレート分子の総モル数に対する溶液中のベータ-ヒドロキシ酪酸のモル分率は、[(i)-(ii)÷(i)]であり、溶液中のベータ-ヒドロキシブチレート塩からのベータ-ヒドロキシブチレート分子のモル分率は、[(ii)÷(i)]である。それぞれのモル分率に100をかけると、溶液中のそれぞれのパーセンテージがわかる。
【0029】
例として、乾燥粉末状態における100モル当量のベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物が、モルベースで5%の遊離非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸および95%のベータ-ヒドロキシブチレート塩を含んでいた場合、実質的に5モル当量のベータ-ヒドロキシ酪酸分子および95モル当量のベータ-ヒドロキシブチレートアニオンが存在することになる。ベータ-ヒドロキシブチレート塩を溶解するのに十分な水があり、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の一部が脱プロトン化されている場合、非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸のモル当量は5未満であり、ベータ-ヒドロキシブチレートアニオンのモル当量は95よりも大きいであろう。溶液中のベータ-ヒドロキシ酪酸の脱プロトン化の程度は、溶液のpHに関連している。
【0030】
ベータ-ヒドロキシブチレートがS-エナンチオマーであるかR-エナンチオマーであるかは、平面カルボキシル基との関係における3-炭素(ベータ-炭素)上のヒドロキシ(またはエステルの場合はオキシ基)の四面体の配向に依存する。
【0031】
ベータ-ヒドロキシブチレート、典型的には内因性形態であるR-ベータ-ヒドロキシブチレートは、対象におけるグルコースレベルが低い場合に、または患者の身体が、使用可能な形態のベータ-ヒドロキシブチレートの補給を受ける場合、燃料源として患者の身体によって利用され得る。ベータ-ヒドロキシブチレートは、一般的に「ケトン体」と呼ばれている。
【0032】
本明細書で使用される「ケトジェニック組成物」は、それが投与される対象において、ケトーシスなどの所望のレベルでケトン体が上昇した状態を誘発および/または持続させることを含め、対象においてケトン体レベルを上昇させるために処方される。
【0033】
本明細書で使用される「対象」または「患者」は、動物界のメンバーを指し、哺乳類を含み、これらに限定されないが、ヒトおよび他の霊長類、げっ歯類、魚類、爬虫類、および鳥類などを含む。前記対象は、治療、処置、もしくは、予防が必要な任意の動物、または治療、処置、もしくは予防が必要と疑われる任意の動物であってもよい。予防は、高グルコースまたは糖尿病が認められる場合などに起こるもしれない事象を防ぐために行われることを意味する。「患者」および「対象」は、本明細書では互いに互換可能に使用される。
【0034】
「単位用量」という用語は、特定の量または用量の組成物またはその成分を送達するように構成された剤形を指す。剤形の例としては、錠剤、カプセル、粉末、食品、食品添加物、飲料(フレーバー付き、ビタミン強化、またはノンアルコールなど)、飲料添加物(フレーバー付き、ビタミン強化、またはノンアルコールなど)、キャンディー、棒付きキャンディー(sucker)、トローチ(pastilles)、栄養補助食品、食物的に許容されるスプレー(フレーバー付きマウススプレーなど)、注射剤(アルコールフリーの注射剤など)、および坐薬が挙げられるが、これらに限定されない。このような剤形は、完全な単位用量またはその画分(fraction)(例えば、単位用量の1/2、1/3、または1/4)を提供するように構成され得る。
【0035】
組成物またはその成分の単位用量を提供するために使用することができる別の剤形は、カップ、スクープ、シリンジ、スポイト、スプーン、スパチュラ、または結腸灌水装置などの単位用量測定装置であり、完全な単位用量またはその画分(例えば、単位用量の1/2、1/3、または1/4)に等しい組成物の測定量をその中に保持するように構成される。例えば、いくつかの単位用量の組成物(例えば、5~250または10~150単位用量)を含むカートン、箱、缶、ジャー、バッグ、ポーチ、ボトル、水差し、または小樽などのバルク容器を、組成物またはその成分の単位用量またはその画分を提供するように構成される単位用量測定装置と一緒にユーザに提供され得る。
【0036】
本明細書に開示されている組成物をバルク形態で提供し、一方で組成物の単位用量を提供するために使用するキットは、ある量の組成物をその中に保持するバルク容器と、組成物またはその成分の単位用量またはその画分を提供するように構成されている単位用量測定装置とを含んでもよい。1つ以上の単位用量測定装置は、販売時に前記バルク容器内に配置されてもよいし、前記バルク容器の外側に取り付けられてもよいし、より大きなパッケージ内で前記バルク容器と一緒に事前に包装されてもよいし、1つ以上のバルク容器と一緒に使用するために販売者または製造者によって提供されてもよい。
【0037】
前記キットには、単位用量またはその画分のサイズ、ならびに投与方法および頻度に関する説明書が含まれていてもよい。前記説明書は、バルク容器に記載されていてもよいし、バルク容器と一緒に事前に包装されていてもよいし、バルク容器と一緒に販売されている包装材に置かれていてもよいし、販売者または製造者によって提供されていてもよい(例えば、ウェブサイト、メーラー、チラシ、製品資料など)。使用説明書は、単位用量またはその画分を適切に提供するための単位用量測定装置の使用方法に関する言及を含んでいてもよい。前記説明書は、追加的または代替的に、バルク容器に付属していないスプーン、スパチュラ、カップなどの一般的な単位用量測定装置についての言及を含んでいてもよい(例えば、提供された単位用量測定装置を紛失したり、置き忘れたりした場合に備えて)。このような場合には、バルク容器に添付された説明書、または製品、組成物の単位用量またはその画分を適切に提供する方法に関する、販売者から提供された説明書に従って、エンドユーザーによりキットが構築され得る。
【0038】
本明細書で使用される「ケトーシス」は、対象において約0.5mmol/L~約16mmol/Lの範囲内の血中ケトンレベルを有する対象を指す。ケトーシスは、ミトコンドリア機能を改善し、活性酸素種の産生を減少させ、炎症を軽減し、神経栄養因子の活性を増加させ得る。本明細書で使用される「ケト適応」は、維持された非病理性の「穏やかなケトーシス」または「治療的ケトーシス」を得るための長期の栄養学的ケトーシス(>1週間)のことを指す。
【0039】
いくつかの場合、「上昇したケトン体レベル」は、対象が「臨床的ケトーシス」の状態にあることを意味しないかもしれないが、それにもかかわらずエネルギーの生成するおよび/またはケトン体の他の有益な作用を及ぼすためのケトンの供給の上昇を意味する。例えば、「ケト適応(ketone adapted)」された対象は、必ずしもケトン体血清レベルが上昇していないかもしれないが、「ケト適応(ketone adapted)」されていない対象と比較して、より迅速に、利用可能なケトン体をむしろ利用できる。このような場合、「上昇したケトン体レベル」は、血漿レベルよりむしろ、対象によって利用されているケトン体の総量および/または比率を指し得る。
【0040】
用語「短鎖トリグリセリド」(SCT)は、3つの中鎖脂肪酸が付いたグリセロール骨格を有する分子を指す。短鎖脂肪酸は、長さで2~5個の炭素原子の範囲に及び得る。短鎖脂肪酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などが挙げられる。SCTの例としては、トリブチリンが挙げられる。
【0041】
用語「中鎖トリグリセリド(MCT)」は、3つの中鎖脂肪酸が付いたグリセロール骨格を有する分子を指す。中鎖脂肪酸は、長さで6~12個の炭素原子の範囲に及び得、長さで8~10個の炭素原子の範囲である可能性が高い。脂肪酸の例は、オクタン酸としても知られる、8個の炭素分子を有するカプリル酸、および、デカン酸としても知られる、10個の炭素分子を有するカプリン酸である。MCT、中鎖脂肪酸、ならびにモノおよびジグリセリドは、ベータ-ヒドロキシブチレートとは独立してケトン体の産生用の追加源を提供できるケトン体前駆体である。
【0042】
用語「長鎖トリグリセリド」(LCT)という用語は、3つの中鎖脂肪酸が付いたグリセロール骨格を有する分子を指す。長鎖脂肪酸は、長さで12個を超える炭素原子を有し得る。
【0043】
本明細書で使用される用語「投与」または「投与する」は、開示された組成物を対象に送達する過程を説明するために使用される。前記組成物は、数ある中で経口、胃内、および非経口(静脈内および動脈内、ならびに他の適切な非経口経路を指す)を含む様々な方法で投与され得る。
【0044】
II.S-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物およびS-ベータ-ヒドロキシブチレートが富化された非ラセミ混合物
ケトーシスを制御および/または調節することを含む、対象におけるケトン体レベルを上昇させるための組成物は、光学的に純粋な(100%)S-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-エナンチオマーで富化されたS-ベータ-ヒドロキシブチレートの非ラセミ混合物(すなわち、エナンチオマー当量で50%超100%未満のS-ベータ-ヒドロキシブチレート、およびエナンチオマー当量で50%未満および0%超のR-ベータ-ヒドロキシブチレート)を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物は、エナンチオマー当量で50.5%~99.5%、51%~99%、52%~98%、53%~97%、55%~96%、57%~93%、60%~90%、または65%~85%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマー、およびエナンチオマー当量で49.5%~0.5%、49%~1%、48%~2%、47%~3%、45%~4%、3%~7%、40%~10%、または35%~15%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含む。
【0046】
S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化されたラセミ混合物または組成物と比較して、より制御された、緩やかな、拡張された、および/または調節されたケトジェニック効果を提供するために、哺乳類によって生成される内因性形態であるR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーよりも、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより多く含む。前記R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーは、ケトーシス時に哺乳動物によって内因性に産生されるため、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを対象に投与すると、エネルギー生成するため(例えば、グルコースに代わるエネルギー源として)など、体内で直ちに利用される追加の量が提供され、および/または血漿レベルが増加する。しかし、この効果は、S-エナンチオマーが主成分であることにより、調節され、拡張される。
【0047】
S-ベータ-ヒドロキシブチレートを意図的に最小限にするかまたは排除する組成物とは対照的に、前記非ラセミ混合物は、哺乳類において1つ以上の所望の効果をもたらすために、哺乳類によって内因性に産生されないS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを多量(majority quantity)に含む。例えば、S-ベータ-ヒドロキシブチレートをR-ベータ-ヒドロキシブチレートと一緒に投与することで、(1)R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートの内因性産生の増加、(2)S-ベータ-ヒドロキシブチレートからR-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートの一方または両方への内因性変換、(3)S-ベータ-ヒドロキシブチレートから脂肪酸およびステロールへの内因性変換、(4)ケトーシスの延長、(5)R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはアセトアセテートへの変換とは独立したS-ベータ-ヒドロキシブチレートの代謝、(6)胎児の発育の増大、(7)成長年数の増加、(8)ケトーシス中のアセトンの内因性産生の減少、(9)R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびグルコースの代謝を調節するS-ベータ-ヒドロキシブチレートによるシグナル伝達、(10)抗酸化活性、および(11)アセチル-CoAの産生、のうち1つ以上の結果が提供される可能性がある。
【0048】
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物は、これらに限定されないが、例えば、食欲抑制、体重減少、脂肪減少、血中グルコースレベルの低下、精神的敏しょう性の改善、身体的エネルギーの増加、認知機能の改善、外傷性脳損傷の軽減、糖尿病の影響の軽減、神経障害の改善、癌の軽減、炎症の軽減、老化防止、抗糖化、てんかん性発作の軽減、気分の改善、体力の増強、筋肉量の増加、または身体組成の改善を含む、対象における1つ以上の所望の効果を生み出すために使用され得る。
【0049】
前記組成物は、栄養学的または薬学的に許容される担体を含んでもよい。
【0050】
S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびR-ベータ-ヒドロキシブチレートは、塩および/またはエステルのような様々な形態で、ある量の遊離酸形態と共に提供され得る。S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびR-ベータ-ヒドロキシブチレートのそれぞれに対するエナンチオマー当量のパーセントは、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの合計モル量で割ったS-ベータ-ヒドロキシブチレートまたはR-ベータ-ヒドロキシブチレートのいずれかのモル量で定義される。塩を形成するいずれかのカチオンおよび/またはエステルを形成するアルコールの量は除外され、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびR-ベータ-ヒドロキシブチレートのそれぞれについてのエナンチオマー当量のパーセントを決定するのに計算に入れない。例えば、R-BHBおよびS-BHBのエナンチオマー当量に影響を与えないように、カチオン、アルコール、錯化剤などの重量が、考慮され得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物は、食物的にまたは薬学的に許容できる担体を含む組成物において提供される。例としては、粉末、液体、錠剤、カプセル、食品、食品添加物、ビタミン強化飲料、飲料添加物、キャンディー、棒付きキャンディー、トローチ、栄養補助食品、スプレー、注射剤、および座薬が挙げられる。
【0052】
いくつかの実施形態では、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アミノ酸、またはアミノ酸の代謝産物の1つ以上の塩など、塩として提供され得る。例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩(鉄(II)および/または鉄(III)として)、クロム塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、モリブデン塩、セレニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ロイシン塩、イソロイシン塩、ヒスチジン塩、オルニチン塩、シトルリン塩、グルタミン塩、およびクレアチン塩が挙げられる。いくつかの実施形態では、前記塩は、S-ベータ-ヒドロキシブチレートのカルシウム塩ではない。
【0053】
いくつかの実施形態において、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物は、モノ-、ジ-、トリ-、オリゴ-、およびポリエステルなどの1つ以上のエステルとして提供され得る。例えば、エタノールのモノエステル、1-プロパノールのモノエステル、1,2-プロパンジオールのモノエステル、1,2-プロパンジオールのジエステル、1,3-プロパンジオールのモノエステル、1,3-プロパンジオールのジエステル、S-、R-、またはS-R-1,3-ブタンジオールのモノエステル、S-、R-、またはS-R-1,3-ブタンジオールのジエステル、グリセリンのモノエステル、(3S)-ヒドロキシブチル(3S)-ヒドロキシブチレートのモノエステル、(3R)-ヒドロキシブチル(3S)-ヒドロキシブチレートのモノエステル、グリセリンのジエステル、グリセリンのトリエステル、アセトアセテートのエステル、ベータ-ヒドロキシブチレートの繰り返し単位を有する二量体、三量体、オリゴマー、および、ポリエステル、ならびにベータ-ヒドロキシブチレートと1つ以上の乳酸、クエン酸、アセト酢酸、キナ酸、シキミ酸、サリチル酸、酒石酸、およびリンゴ酸などの他のヒドロキシカルボン酸との、および/または、ベータ-ヒドロキシブチレートと1,3-プロパンジオールおよび1,3-ブタンジオールなどの1つ以上のジオール、および、1つ以上の酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、および、フマル酸などのポリ酸との、複雑なオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。(3R)-ヒドロキシブチル(3R)-ヒドロキシブチレートモノエステルを含むことができるが、R-ヒドロキシブチレートの量がエナンチオマー当量で48%を超えてはならない。
【0054】
いくつかの実施形態では、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートは、S-ベータ-ヒドロキシブチレートの1つ以上の塩形態を、比較的少量のS-ベータ-ヒドロキシブチレートの酸形態と組み合わせて含み得る。非ラセミ混合物は、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびR-ベータ-ヒドロキシブチレートのうちの1つ以上の塩形態を、比較的少量の、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレートの酸形態と組み合わせて含み得る。S-ベータ-ヒドロキシブチレートの酸形態に対する塩の比率は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートの酸形態に対する塩の比率(含まれる場合)とは必ずしも同じではない。これにより、前記組成物の薬物動態および電解質バランスを制御する際の、より柔軟で幅広い利点を得ることができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、前記光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートまたは非ラセミ混合物は、100%未満の1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレート塩および0%を超える遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸、例えば、モル当量で、最大で99.9%、99.8%、99.7%、99.6%、99.5%、99.4%、99.3%、99.2%、99.1%、99%、98.8%、98.65%、98.5%、98.35%、98.2%、98%、97.75%、97.5%、97.25%、または97%、および少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、94%、95%、96%、または97%の1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩、およびモル当量で、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.2%、1.35%、1.5%、1.65%、1.8%、2%、2.25%、2.5%、2.75%、または3%であり、25%、20%、15%、10%、8%、6%、5%、4%、または3%未満の遊離S-ベータ-ヒドロキシ酪酸および/または遊離R-ベータ-ヒドロキシ酪酸、を含む。
【0056】
非ラセミ混合物がR-エナンチオマーと比較して大量のS-エナンチオマーを含む場合、R-ベータ-ヒドロキシブチレート塩と比較してより高い比率の遊離R-ベータ-ヒドロキシ酪酸を使用しても、中性またはその他の所望のpHを有する組成物を得ることが可能である。すなわち、R-ベータ-ヒドロキシブチレート塩と比較してR-ベータ-ヒドロキシ酪酸の相対量が多くても、S-ベータ-ヒドロキシブチレート塩の量が多ければ、全体の酸の量は比較的少なくなる可能性がある。
【0057】
他の実施形態では、前記非ラセミ混合物は、比較的少量のS-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレートの酸形態と組み合わせて、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートの1つ以上のエステル形態、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を含み得る。さらに他の実施形態では、前記非ラセミ混合物は、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレートの塩形態およびエステル形態の両方を、比較的少ない量の、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレートの酸形態と組み合わせて含み得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、前記組成物は、少なくとも1つの中鎖脂肪酸、または少なくとも1つの中鎖脂肪酸のモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドを含んでもよく、ここで前記中鎖脂肪酸は、6~12個、好ましくは8~10個の炭素を有する。前記組成物は、少なくとも1つの短鎖脂肪酸、または前記少なくとも1つの短鎖脂肪酸のモノ、ジ、もしくはトリグリセリドを含んでもよく、ここで、前記短鎖脂肪酸は、6個未満の炭素を有する。あまり好ましくないが、前記組成物は、12個を超える炭素を有する、少なくとも1つの長鎖脂肪酸または前記少なくとも1つの長鎖脂肪酸のモノ、ジもしくはトリグリセリドを含んでもよい。
【0059】
短鎖脂肪酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、およびイソ吉草酸が挙げられる。中鎖脂肪酸の例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、およびラウリン酸が挙げられる。長鎖脂肪酸の例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸、オメガ7脂肪酸、オメガ9脂肪酸が挙げられる。
【0060】
中鎖脂肪酸、または中鎖トリグリセリドなどのそのエステルの例および供給源としては、ココナッツ油、ココナッツミルクパウダー、ヤシ油、パーム油、パーム核油、カプリル酸、カプリン酸、単離中鎖脂肪酸(単離ヘキサン酸、単離オクタン酸、単離デカン酸など)、精製されたまたは天然の形態(ココナッツ油など)におけるいずれかの中鎖トリグリセリド、および中鎖脂肪酸エトキシル化トリグリセリドのエステル誘導体、エノントリグリセリド誘導体、アルデヒドトリグリセリド誘導体、モノグリセリド誘導体、ジグリセリド誘導体、およびトリグリセリド誘導体、ならびに中鎖トリグリセリドの塩を含む。エステル誘導体は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルなどのアルキルエステル誘導体を任意に含む。
【0061】
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を投与すると、ケトン体の血中レベルが制御され、延長され、調節され、それにより持続的なケトーシスの代謝的および生理的な利点を利用することができる。血中のケトン体レベルを上昇させることにより、食事のみに基づきケトーシスを誘導および維持することを目標とする方法(例えば、絶食および/または炭水化物の摂取を制限する方法)と比較して、対象がより柔軟に食事を選択できるようになる。例えば、適切な量のS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物が投与された対象は、ケトジェニック状態を危険にさらすことなくおよびグルコースに基づく代謝状態に戻ることなく、炭水化物または糖に基づく食物を時々摂取することができようになる。さらに、このような投与は、ケトーシス状態への移行を容易にすると共に、ケトーシス状態への移行に伴う典型的な有害な影響を軽減または排除する。
【0062】
いくつかの実施形態において、ケトジェニック組成物は、治療有効量のビタミンDをさらに含む。ビタミンDは、マグネシウムおよびカルシウムと共に作用して良好な骨の健康を促進し、軟部組織の望ましくない石灰化を防止すると考えられている。好ましい実施形態において、前記ケトジェニック組成物の平均一日量が、ビタミンDを例えば約200IU(「国際単位」)~約8000IU、または約400IU~約4000IU、または約600IU~約3000IU含むような量で、ビタミンDは含有される。いくつかの実施形態において、前記ケトジェニック組成物の平均一日量がビタミンDを例えば約5μg~約200μg、または約10μg~約100μg、または約15μg~約75μg含むような量で、ビタミンDは含有される。
【0063】
いくつかの実施形態はまた、1つ以上の追加のケトン前駆体またはサプリメントを含む。これらの追加のケトン前駆体またはサプリメントは、アセトアセテート、ケトンエステル、および/またはもっと多くの電解質を血流中に加えることなく血中ケトンレベルの上昇を引き起こす他の化合物を含んでもよい。その他の添加物は、効果を高めるかまたはミトコンドリアへのケトン体の輸送を促進する代謝産物、カフェイン、テオブロミン、およびL-アルファグリセリルホスホリルコリン(「アルファGPC」)などの向知性薬を含む。
【0064】
前記組成物は、ベータ-ヒドロキシブチレート化合物の悪い食味を隠すのに役立つ香味料を含んでもよい。これらには、ペパーミントなどの精油、天然および人工の甘味料、ならびに当該技術で公知の他の香味料が含まれる。
【0065】
いくつかの実施形態において、ケトジェニック組成物はさらに、組成物の吸湿性を低下させるように構成された1つ以上の追加の成分を含有してもよい。例えば、種々の固化防止剤、流動剤、および/または吸湿剤が、摂取するのに安全なタイプおよび量で含有されてもよい。このような追加の成分には、アルミノケイ酸塩、フェロシアン化物、炭酸塩または重炭酸塩、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カルシウム)、シリカ、リン酸塩(例えば、リン酸二カルシウムまたはリン酸三カルシウム)、タルク、粉末セルロース、炭酸カルシウムなどのうちの1つ以上が含まれてもよい。
【0066】
III.投与
いくつかの実施形態において、本明細書で開示される組成物は、ケトーシスを促進するおよび/または維持することを含む、対象におけるケトン体レベルを増加させる方法において使用されてもよく、この方法は、栄養学的にまたは薬学的に有効な量の本明細書で開示される1つ以上の組成物を、投与を必要とする対象に投与することを含む。ケトーシスを促進するおよび/または維持することを含む、対象におけるケトン体レベルを増加させることの有益な効果の例としては、食欲抑制、体重減少、脂肪減少、血中グルコースレベルの低下、精神的敏しょう性の改善、身体的エネルギーの増加、認知機能の改善、外傷性脳損傷の軽減、糖尿病の影響の軽減、神経障害の改善、癌の軽減、炎症の軽減、老化防止、抗糖化、てんかん性発作の軽減、気分の改善、体力の増強、筋肉量の増加、または身体組成の改善のうちの1つ以上が挙げられる。
【0067】
いくつかの実施形態では、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を、本明細書に記載のエナンチオマー比率または割合で投与することにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートの内因性産生の増加、S-ベータ-ヒドロキシブチレートからR-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートのうちの1つまたは両方への内因性変換、S-ベータ-ヒドロキシブチレートから脂肪酸およびステロールへの内因性変換、ケトーシスの延長、R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはアセトアセテートへの変換とは独立したS-ベータ-ヒドロキシブチレートの代謝、胎児発達の増大、成長年数の増加、ケトーシス中のアセトンの内因性産生の減少、R-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびグルコースの代謝を調節するS-ベータ-ヒドロキシブチレートによるシグナル伝達、抗酸化活性、およびアセチルCoAの産生、のうちの1つ以上が提供される。
【0068】
本明細書に記載されるケトジェニック組成物は、治療有効量で、および/またはケトーシスを誘導もしくは維持する頻度で、対象に投与され得る。いくつかの実施形態において、単回量は、約0.5グラム~約25グラム、または約0.75グラム~約20グラム、または約1グラム~約15グラム、または約1.5グラム~約12グラムの範囲に及ぶ、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物の、ある量を含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、前記ケトジェニック組成物は、ビタミンD、ビタミン、ミネラル、向知性薬など、当技術分野で公知の他のサプリメントを含むか、またはそれらと一緒に投与され得る。前記ケトジェニック組成物に添加され得るビタミン、ミネラルおよびハーブサプリメントの例としては、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、5-MTHF、ビタミンB12、ヨウ素、亜鉛、銅、マンガン、クロム、カフェイン、テオブロミン、テアクリン、メチルリベリン、フペルジンA、エピカテキン、および酵素のうちの1つ以上が挙げられる。
【0070】
いくつかの実施形態では、S-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物それ自体と比較してより長い期間ケトーシスを維持するため、本明細書で述べたケトン体の追加源を提供するために、前記組成物は、1つ以上の中鎖脂肪酸、脂肪酸エステル、または中鎖脂肪酸のモノ-、ジ-、もしくはトリグリセリドをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記組成物は、好ましくは、S-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物と、中鎖脂肪酸(またはそのエステル)との比率が、約4:1から約1:4、または約2:1から約1:2、または約1.5:1から約1:1.5の範囲になるように投与される。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記対象は、好ましくは、前記組成物の投与期間中に炭水化物およびタンパク質の摂取を制限するケトジェニックダイエットに従う。1つの実施形態において、前記対象は、食事の摂取を約65%の脂肪、約25%のタンパク質、および約10%の炭水化物の比率に制限してもよい。結果として得られる治療的ケトーシスは、広範囲な代謝障害に対する代謝的療法としての迅速で持続的なケト適応を提供し、治療的絶食、体重減少、およびパフォーマンス向上のための栄養サポートを提供する。これを踏まえ、前記組成物は通常、ケトーシス状態を促進および/または維持したいと望む対象に1日1回、1日2回、または1日3回投与される。
【0072】
好ましい実施形態において、ケトジェニック組成物は、固体および/または粉末混合物(例えば、粉末充填ゼラチンカプセル)などの粉末形態、強くプレスされた錠剤、または当該技術で公知の他の経口投与経路で経口投与されてもよい。
【0073】
いくつかの実施形態において、前記組成物が複数回用量で、ある期間にわたって投与される。前記組成物の投与頻度は、以前の処置からの処置のタイミング、処置の目的などのいずれかの様々な要因によって変わる可能性がある。前記組成物の投与期間(例えば、薬物が投与される期間)は、対象の反応、処置の所望の効果などを含むいずれかの様々な要因によって変わる可能性がある。
【0074】
投与される前記組成物の量は、個体の感受性の程度、個体の年齢、性別、および体重、個体の特異体質反応などの要因によって変わる可能性がある。「治療有効量」は、生体内で治療的に有効な結果(すなわち、治療的ケトーシス)を促進するのに必要な量である。本開示に従えば、適切な単回量のサイズは、適切な期間にわたって1回以上投与される場合の患者における症状を防止するまたは緩和する(軽減または排除する)ことができる量である。
【0075】
投与される組成物の量は、未使用のケトン体の効能、吸収、分布、代謝、および排泄率、電解質、投与方法、処置されている特定の障害、ならびに当業者に公知のその他の要因によって決まる。緩和させる状態の重症度を考慮に入れ、前記用量は、特定の障害または状態に対する治療反応または予防反応などの所望の反応に影響を及ぼすのに十分であるものとする。前記組成物は、1回投与されるか、または、分割し時間をかけて投与されてもよい。前記投与は、個々の必要性、および前記組成物を投与するまたは前記組成物の投与を監督する人の専門的な判断に従って調整され得ることが理解されるべきである。
【実施例
【0076】
IV.実施例
以下に、例となる、対象におけるケトンレベルを上昇させるのに有用な、S-ベータ-ヒドロキシブチレート、およびS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレート組成物との非ラセミ混合物、および他のケトジェニック組成物が記載され、それらを投与される対象におけるケトジェニック状態を誘導および/または調節することを含む。実施例で記載されるベータ-ヒドロキシブチレート化合物は、本明細書で述べる塩、エステル、二量体、三量体、オリゴマーおよびポリマーの形態であってもよいことが認識されるべきである。実施例の観点から重要なことは、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよびR-ベータ-ヒドロキシブチレートのエナンチオマー割合または比率である。
【0077】
いくつかの場合において、前記組成物は、所望の電解質平衡、味、および/または薬物動態学的反応を提供するために、ベータ-ヒドロキシブチレート塩の混合物、ベータ-ヒドロキシブチレートエステルの混合物、ベータ-ヒドロキシブチレート塩とエステルとの混合物、ベータ-ヒドロキシブチレート塩と遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物、ベータ-ヒドロキシブチレートエステルと遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物、またはベータ-ヒドロキシブチレート塩と、ベータ-ヒドロキシブチレートエステルと、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物であってもよい。また、前記組成物は、所望のレベルの上昇したケトン体および他の作用を提供するために、本明細書に開示された短鎖、中鎖、または長鎖の脂肪酸、エステル、グリセリド、および他のサプリメントと混ぜ合わされ得る。
【0078】
実施例1
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で51%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で49%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0079】
前記非ラセミ混合物は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品としての粉末形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0080】
実施例2
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で52%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で48%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0081】
実施例3
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で53%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で47%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1および実施例2の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0082】
実施例4
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で55%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で45%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例3の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0083】
実施例5
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で57%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で43%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例4の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0084】
実施例6
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で60%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で40%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例5の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0085】
実施例7
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で65%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で35%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例6の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0086】
実施例8
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で70%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で30%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例7の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0087】
実施例9
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で75%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で25%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例8の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0088】
実施例10
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で80%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよびエナンチオマー当量で20%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーをより少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例9の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーで富化された組成物と比較して、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0089】
実施例11
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物と、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレート組成物とのラセミ混合物とを混ぜることによって、S-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を調製し、エナンチオマー当量で90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および99.5%のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマー、およびエナンチオマー当量で10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、または0.5%のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを提供する。前記非ラセミ混合物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを実質的により少なく含むので、所定の投与量で、ラセミ混合物、または実施例1~実施例10の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が著しく遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、より長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0090】
実施例12
1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレート化合物を含む組成物を担体と混合し、100%当量のS-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーおよび0%当量のR-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを有する組成物を形成する。前記組成物は、R-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含有しないので、所定の投与量で、ラセミ混合物または実施例1~実施例11の非ラセミ混合物の同投与量と比べてケトーシスの発生が著しく遅れる。一方、S-ベータ-ヒドロキシブチレートエナンチオマーを含むことにより、遅れたおよび/または長期のケトーシス状態および/または本明細書で開示される他の利益がもたらされる。
【0091】
実施例13
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を、食物的または薬学的に許容される担体と組み合わせることにより、前述の実施例のいずれかは、改変される。
【0092】
実施例14
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を、1つ以上の中鎖トリグリセリドおよび/または1つ以上の中鎖脂肪酸および/または1つ以上の中鎖脂肪酸のモノ-もしくはジグリセリドと組み合わせることにより、前述の実施例のいずれかは、改変される。
【0093】
実施例15
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を、1つ以上の中鎖トリグリセリドおよび/または1つ以上の短鎖脂肪酸および/または1つ以上の短鎖脂肪酸のモノ-もしくはジグリセリドと組み合わせることにより、前述の実施例のいずれかは、改変される。
【0094】
実施例16
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を、1つ以上の長鎖トリグリセリドおよび/または1つ以上の長鎖脂肪酸および/または1つ以上の長鎖脂肪酸のモノ-もしくはジグリセリドと組み合わせることにより、前述の実施例のいずれかは、改変される。
【0095】
実施例17
光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレート、またはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物を、ビタミンD、ビタミン類、ミネラルおよび当該技術で公知のその他の栄養補助食品などの1つ以上の栄養補助食品と組み合わせることにより、前述の実施例のいずれかは、改変される。
【0096】
実施例18
前述の例のいずれかは、光学的に純粋なS-ベータ-ヒドロキシブチレートまたはS-ベータ-ヒドロキシブチレートとR-ベータ-ヒドロキシブチレートとの非ラセミ混合物の1つ以上の塩と、S-ベータ-ヒドロキシ酪酸またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも1つとを含むことによって変更され、S-および/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩と、遊離S-および/またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物を提供する。ここで、前記混合物は、100%未満の1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレート塩および0%を超える遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、モル当量で最大99.9%、99.8%、99.7%、99.6%、99.5%、99.4%、99.3%、99.2%、99.1%、99%、98.8%、98.65%、98.5%、98.35%、98.2%、98%、97.75%、97.5%、97.25%、または97%の1つ以上のS-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレート塩を含み、モル当量で少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.2%、1.35%、1.5%、1.65%、1.8%、2%、2.25%、2.5%、2.75%、または3%の遊離S-ベータ-ヒドロキシ酪酸および/または遊離R-ベータ-ヒドロキシ酪酸を含む。
【0097】
実施例19
前述の実施例のいずれかは、S-ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/またはR-ベータ-ヒドロキシブチレートの1つ以上のエステルと、S-ベータ-ヒドロキシ酪酸またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸のうちの少なくとも1つとを含むことによって変更され、ベータ-ヒドロキシブチレートエステルと、遊離S-および/またはR-ベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物を提供する。ここで、前記混合物は、1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレートエステルを100%未満、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を0%超含む。
【0098】
本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなく他の具体的な形態により具体化され得る。記載された実施形態は、全ての態様において例示のみ行い、限定されないとみなされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の記載よりむしろ添付の特許請求の範囲により指し示される。特許請求の範囲の均等の意味および範囲に入る全ての改変は、それらの範囲内に包含されるべきである。
【国際調査報告】