(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-29
(54)【発明の名称】不連続なフィルムの裂け目を有するシートに基づく防弾物品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20220322BHJP
F41H 5/04 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B32B27/32 E
F41H5/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546775
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(85)【翻訳文提出日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2020053540
(87)【国際公開番号】W WO2020165212
(87)【国際公開日】2020-08-20
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】501469803
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Teijin Aramid B.V.
【住所又は居所原語表記】Velperweg 76, NL-6824 BM Arnhem, Netherlands
(71)【出願人】
【識別番号】502036011
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン カリス
(72)【発明者】
【氏名】ベン ローリンク
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ベットガー
(72)【発明者】
【氏名】マーク-ヤン デ ハース
(72)【発明者】
【氏名】マーチン ドンブロウスキー
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアヌス ピエリック
【テーマコード(参考)】
2C014
4F100
【Fターム(参考)】
2C014KK01
4F100AK04A
4F100AK04B
4F100AK05C
4F100AK06C
4F100AK41
4F100AK46
4F100AK54
4F100AK55
4F100AR00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA16
4F100BA22
4F100DC13A
4F100DC13B
4F100EC082
4F100EC08A
4F100EC08B
4F100EJ37B
4F100EJ37C
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
本発明は、不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルムのシートに基づき、柔軟性と良好な防弾特性とを兼備し、軟質防弾用途と硬質防弾用途との両方に適する防弾物品、およびその製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの積層体を含む防弾物品であって、前記シートは少なくとも、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層と、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第2の層とを含み、前記第1の層におけるフィルムの方向は、前記第2の層におけるフィルムの方向に対して角度をなしており、前記シートは少なくともフィルムの第1の層および第2の層を通じた不連続なフィルムの裂け目を含み、前記フィルムの裂け目の密度は1m
2あたり1000~500000のフィルムの裂け目であり、且つ前記積層体におけるシートは固結されており、第1の層の裂け目中心の少なくとも50%は、隣接する第2の層の裂け目中心を有する層の表面に対して本質的に垂直なラインに沿って配列している、前記防弾物品。
【請求項2】
前記フィルムの裂け目が、フィルム層表面の任意の方向において、裂け目中心と、隣り合う裂け目中心との間の距離として定義される半径距離0.5~100mm、または1~60mm、または2~40mm、または1.5~20mmによって分離されている、請求項1に記載の防弾物品。
【請求項3】
前記不連続なフィルムの裂け目の密度が、1m
2あたり5000~200000、または10000~100000のフィルムの裂け目である、請求項2に記載の防弾物品。
【請求項4】
フィルムの裂け目の裂け目中心が、直線状のラインを形成して分布しており、前記直線状のラインは、任意にUHMWPEフィルムの長手方向に対して角度をなしている、請求項1から3までのいずれか1項に記載の防弾物品。
【請求項5】
前記不連続なフィルムの裂け目の少なくとも一部を通じて縫われた糸を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の防弾物品。
【請求項6】
前記糸が線密度10~500dtex、または20~200dtex、または40~100dtexを有する、請求項5に記載の防弾物品。
【請求項7】
前記第1の層におけるUHMWPEフィルムの方向の、前記第2の層におけるフィルムの方向に対する角度が、45~135度、または60~120度、または85~95度、または約90度である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の防弾物品。
【請求項8】
前記シートが2層のUHMWPEフィルム、または少なくとも3、または少なくとも4、または少なくとも6層のUHMWPEフィルムを含む、請求項1から7までのいずれか1項に記載の防弾物品。
【請求項9】
有機マトリックス材料が少なくともUHMWPEフィルムの第1の層と第2の層との間に存在し、前記有機マトリックス材料は、好ましくは有機マトリックス材料とUHMWPEフィルムとの合計質量に対して0.1~10質量%、または0.2~6質量%、または0.5~4質量%、または0.75~3質量%の量で存在する、請求項2から8までのいずれか1項に記載の防弾物品。
【請求項10】
前記有機マトリックス材料が、高密度ポリエチレン(HDPE)または低密度ポリエチレン(LDPE)である、請求項9に記載の防弾物品。
【請求項11】
前記シートの積層体が、それらの周縁部で一緒に縫われたシートを有し、且つ/または前記シートの積層体が保持袋内に入れられており、且つ/または前記シートの積層体が成形されている、請求項1から10までのいずれか1項に記載の防弾物品。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に定義されるシートの積層体を含む防弾物品の製造方法であって、
a. 一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層を準備する段階、
b. 前記UHMWPEフィルムの第1の層の上部に、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第2の層を準備して、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を少なくとも含み、前記第1の層におけるフィルムの方向が前記第2の層におけるフィルムの方向に対して角度をなしているシートを形成する段階、
c. 任意に、段階a)および/または段階b)の前、その後および/またはその間に、有機マトリックス材料をUHMWPEフィルムに施与し、前記有機マトリックス材料は、使用される場合、少なくともフィルムの第1の層と第2の層との間に存在する段階、
d. 少なくともUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を通じる不連続なフィルムの裂け目を誘導して、1m
2あたり1000~500000のフィルムの裂け目のフィルムの裂け目密度で、不連続なフィルムの裂け目を含むシートを形成する段階、
e. 段階d)によって誘導された不連続なフィルムの裂け目を含む複数のシートを積層して、シートの積層体を形成する段階、
f. 段階e)による積層の前、および/またはその後に、圧力および任意に熱を印加することによって前記シートを固結する段階
を含む前記方法。
【請求項13】
段階d)の不連続なフィルムの裂け目の誘導が、不連続なフィルムの裂け目を有するシートを形成するための針によって、任意に糸付きの針によって実施され、それにより前記シートは不連続なフィルムの裂け目の少なくとも一部を通じて縫われた糸を備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記シートの積層体を周縁部で一緒に縫うこと、および/または前記シートの積層体を保持袋内に入れること、および/または前記シートの積層体をモールド成形によって成形することをさらに含み、前記シートの積層体のモールド成形による成形は、シートの固結と同時に実施される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項12から14までのいずれか1項に記載の方法によって得られる防弾物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルムのシートに基づく防弾物品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UHMWPEフィルムを含む集成材は、その魅力的な防弾特性ゆえに防弾物品として使用されている。例えば、欧州特許第1627719号明細書(EP1627719)は、本質的に超高分子量ポリエチレンからなる防弾物品であって、互いに対して角度をなしてクロスプライ化され、且つ樹脂、結合マトリックスまたはその種のものを用いずに互いに付着した一方向に配向した複数のポリエチレンシートを含む前記物品を記載している。国際公開第2009/109632号(WO2009/109632)は、テープおよび有機マトリックス材料を含むシートの圧縮積層体を含む防弾成形物品であって、前記圧縮積層体内でのテープの方向が一方向ではなく、前記積層体が0.2~8質量%の有機マトリックス材料を含む、前記防弾成形物品を記載している。
【0003】
しかしながら、UHMWPEフィルムの使用は一般に、硬い傾向のある集成体をもたらし、それらの使用は多くの場合、硬質の防弾用途に限定されている。
【0004】
軟質防弾用途については、防弾物品は繊維材料、例えば繊維または糸の使用に依存する傾向があり、なぜならそれらは柔軟性の性質の集成材をもたらす傾向があるからである。例えば、国際公開第2006/002977号(WO2006/002977)は、高強度繊維のネットワークを含有する少なくとも1つの層を含む複数の柔軟性の部材の積層体を含む防弾集成材を記載している。国際公開第92/08607号(WO92/08607)は、複数の柔軟な繊維層を含み、その少なくとも2つが固着手段によって一緒に固着されている物品を記載している。それらの文献がリボン、ストリップまたはテープの使用に言及していても、それらは繊維(例えば貼り合わせられた繊維の布および織物繊維の布)の使用に焦点を当てている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第1627719号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/109632号
【特許文献3】国際公開第2006/002977号
【特許文献4】国際公開第92/08607号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
UHMWPEフィルムに基づく集成材の防弾特性は、軟質防弾用途についても魅力的になる。しかしながら、そのような用途にとって、柔軟性も重要である。柔軟性は、硬質防弾用途のための防弾物品であっても、防弾物品の成形において重要であり得る。
【0007】
従って、柔軟であり且つ良好な防弾特性を兼備するUHMWPEフィルムに基づく防弾物品についてのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この度、良好な防弾特性および柔軟特性を有するUHMWPEシートに基づく防弾物品が見出された。特に、前記防弾物品は、不連続なフィルムの裂け目を含むUHMWPEフィルムのシートの積層体を含む。特に、本発明は、シートの積層体を含む防弾物品であって、前記シートが少なくとも、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層と、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第2の層とを含み、前記第1の層におけるフィルムの方向は、前記第2の層におけるフィルムの配向に対して角度をなしており、前記シートはフィルムの少なくとも第1の層および第2の層を通じた不連続なフィルムの裂け目を含み、前記フィルムの裂け目の密度は1m2あたり1000~500000のフィルムの裂け目であり、且つ、前記積層体中のシートは固結されている、前記防弾物品に関する。本発明による防弾物品において、第1の層の裂け目中心の少なくとも50%は、隣接する第2の層の裂け目中心を有する層の表面に対して本質的に垂直なラインに沿って配列している。
【0009】
本明細書の文脈において、フィルムとの用語は、長さ、つまり物体の最も長い寸法が、幅、つまり物体の2番目に小さい寸法、および厚さ、つまり物体の最も小さな寸法よりも大きい一方で、幅は厚さよりも大きい物体を意味する。本明細書の目的では、UHMWPEフィルムは、2つのフィルム表面、つまりフィルムの長さおよび幅の寸法によって定義される上面と下面とを有するとみなされる。
【0010】
本願内に記載されるフィルムの長さと幅との間の比は、一般に少なくとも10である。フィルムの幅に依存して、前記の比はより大きく、例えば少なくとも100または少なくとも1000であってよい。最大の比は本発明にとって重要ではない。一般的な値として、長さの幅に対する最大の比1000000が言及され得る。幅と厚さとの間の比は一般に、10超:1、特に50超:1、さらにより特に100超:1である。幅と厚さとの間の最大の比は本発明にとって重要ではない。それは一般に最大10000:1である。
【0011】
本願内で記載されるフィルムの超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は一般に、質量平均分子量(Mw)少なくとも300000グラム/モル、特に少なくとも500000グラム/モル、より特に1×106グラム/モル~1×108グラム/モルを有し得る。
【0012】
質量平均分子量(Mw)は、ASTM D6474-99に準拠して、温度160℃で、溶剤として1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を使用して特定され得る。高温試料前処理機器(PL-SP260)を含む適切なクロマトグラフィー装置(PL-GPC220、Polymer Laboratories製)を使用できる。前記システムは、分子量範囲5×103~8×106g/モルにおける16のポリスチレン標準(Mw/Mn<1.1)を使用して較正されている。
【0013】
分子量分布は、溶融流体測定を使用して特定することもできる。熱酸化分解を防ぐために0.5質量%の酸化防止剤(例えばIRGANOX 1010)が添加されたポリエチレン試料を、まず50℃且つ200barで焼結する。焼結されたポリエチレンから得られた直径8mm且つ厚さ1mmのディスクを迅速に(約30℃/分で)、窒素雰囲気下でレオメータにおける平衡溶融温度の充分上へと加熱する。例えば、ディスクを180℃で2時間以上保持してよい。試料とレオメータディスクとの間の滑りを、オシロスコープを用いてチェックできる。動的な実験の間、レオメータからの2つの出力信号、つまり正弦ひずみに相応する1つの信号と、生じる応力応答に対する他の信号とを連続的にオシロスコープによってモニターする。完全な正弦応力応答(小さな値のひずみで実現できる)は、試料とディスクとの間の滑りがないことを示す。流体測定を、プレート・プレートレオメータ、例えばRheometrics RMS 800(TA Instruments製)を使用して行うことができる。TA Instrumentsによって提供されるOrchestratorソフトウェア(ミードアルゴリズムを使用)を使用して、ポリマー溶融物について特定された弾性率対周波数のデータからモル質量およびモル質量分布を特定できる。前記データは160~220℃の等温条件下で得られる。良好なフィットを得るためには、0.001~100ラジアン/秒の角周波数の範囲および0.5~2%の線形粘弾性範囲における一定のひずみが選択されるべきである。時間・温度の重ね合わせを、参照温度190℃で適用する。0.001周波数(ラジアン/秒)未満の弾性率を特定するために、応力緩和実験を実施できる。その応力緩和実験においては、固定された温度でポリマー溶融物に対する単一の過渡的変形(段階ひずみ)を適用し、試料上で保持し、応力の経時的な減衰を記録する。
【0014】
本願内に記載されるUHMWPEフィルムは一般に、以下でより詳細に説明されるとおり、その製造方法に起因してポリマー溶媒不含であることができる。例えば、一般にUHMWPEフィルムは、0.05質量%未満、特に0.025質量%未満、より特に0.01質量%未満のポリマー溶媒含有率を有し得る。
【0015】
本発明において使用できるUHMWPEフィルムを、UHMWPEの固体状態での加工によって製造でき、その方法は、好ましくはポリマーの加工の間のどの時点でも温度がその融点を超える値には上昇しないという条件下で、UHMWPE粉末をパネルへと圧縮すること、得られる圧縮されたパネルを圧延および任意に延伸してフィルムを形成することを含む。UHMWPEの固体状態での加工のために適した方法は当該技術分野において公知であり、ここでさらなる説明は必要とされない。例えば国際公開第2009/109632号(WO2009/109632)、国際公開第2009/153318号(WO 2009/153318)、および国際公開第2010/079172号(WO2010/079172)が参照される。適したUHMWPEフィルムは、例えば帝人から、商品名Endumax(登録商標)として市販されている。
【0016】
そのようなUHMWPEフィルムを製造するための出発材料は、からみ合いが非常に解除されたUHMWPEであることができる。160℃での溶融直後のせん断弾性率G°Nは、ポリマーのからみ合いの程度についての尺度である。特に、出発ポリマーは160℃での溶融直後に特定されたせん断弾性率G°N最大1.4MPa、特に最大1.0MPa、より特に最大0.9MPa、さらにより特に最大0.8MPa、さらにより特に最大0.7MPaを有し得る。「溶融直後」との文言は、弾性率が、ポリマーが溶融されるとすぐに、特にポリマーが溶融された後15秒以内に特定されることを意味する。このポリマー溶融物について、弾性率は典型的には数時間で0.6MPaから2.0MPaに増加する。G°Nはゴム状態のプラトー領域におけるせん断弾性率である。これはからみ合い間の平均分子量(Me)と関連し、それはからみ合い密度に反比例する。からみ合いの均質な分布を有する熱力学的に安定な溶融物において、MeはG°Nから、式G°N=gNρRT/Meを介して計算でき、前記式中、gNは1で設定される数因子であり、ロー(ρ)はg/cm3での密度であり、Rは気体定数であり、且つTはKでの絶対温度である。従って、低い弾性率は、からみ合い間のポリマーの長い延伸を表し、ひいてはからみ合いの程度が低いことを表す。前記方法は、Rastogi,S., Lippits,D., Peters,G., Graf,R., Yefeng,Y.およびSpiess,H.の「Heterogeneity in Polymer Melts from Melting of Polymer Crystals」という表題の文献(Nature Materials,4(8),2005年8月1日, 635-641)、およびLippits,D.R.の「Controlling the melting kinetics of polymers; a route to a new melt state」という表題の博士学位論文(Eindhoven University of Technology, 2007年3月6日付, ISBN978-90-386-0895-2)に記載されるように、からみ合いの形成における変化の調査から採用されている。
【0017】
シングルサイト重合触媒の存在下で、ポリマーの結晶化未満の温度でエチレンを重合し、ポリマーが形成後に直ちに結晶化する重合法によって、そのようなからみ合っていないポリエチレンを製造できる。本発明において使用されるポリエチレンの製造のために適した方法は当該技術分野において公知である。例えば、国際公開第01/21668(WO01/21668)および米国特許出願公開第2006/0142521号明細書(US20060142521)が参照される。
【0018】
1つの実施態様において、本発明において使用されるUHMWPEフィルムは、XRD回折パターンによって証明されるとおり、高分子配向を有する。
【0019】
特定の実施態様において、UHMWPEフィルムは少なくとも3の200/110の一面配向パラメータΦを有する。200/110の一面配向パラメータΦは、反射形状において特定される、フィルム試料のX線回折(XRD)パターンにおける200ピークと110ピークとの間の比として定義される。200/110の一面配向パラメータは、フィルム表面に対する200および110結晶面の配向の程度についての情報をもたらす。高い200/110の一面配向を有するフィルム試料について、200結晶面はフィルム表面に対して平行に高度に配向している。高度な一面配向は一般に、高い弾性率、高い引張強さ、および高い破断引張エネルギーを伴うことが判明した。ランダム配向の微結晶を有する試験体についての200ピークと110ピークとの間の比は約0.4である。しかしながら、本発明の1つの実施態様において優先的に使用されるフィルムにおいて、指数200を有する微結晶は、フィルム表面に対して平行に優先配向し、高い値の200/110ピーク面積比をもたらし、ひいては高い値の一面配向パラメータをもたらす。このパラメータは、国際公開第2009/109632号(WO2009/109632)内に記載されるように測定できる。
【0020】
本発明による防弾材料の1つの実施態様において使用されるUHMWPEフィルムは、少なくとも3の200/110の一面配向パラメータを有する。この値について、少なくとも4、より特に少なくとも5、または少なくとも7であることが好ましいことがある。より高い値、例えば少なくとも10、またはさらには少なくとも15の値が特に好ましいことがある。このパラメータの理論上の最大値は、110のピーク面積がゼロであれば無限大である。
【0021】
本願内に記載される防弾物品において、UHMWPEフィルムは厚さ10~100マイクロメートル、特に20~80マイクロメートル、より特に30~70マイクロメートル、さらにより特に40~65マイクロメートルの厚さを有することができ、且つ少なくとも2mm、特に少なくとも10mm、より特に少なくとも20mmの幅を有することができる。フィルムの最大幅は重要ではなく、且つ一般に最大500mmであってよい。
【0022】
本願内で使用されるUHMWPEフィルムは一般に、高い引張強さ、高い引張弾性率、および高いエネルギー吸収を有することができ、それは高い破断エネルギーに反映される。
【0023】
1つの実施態様において、UHMWPEフィルムの引張強さは少なくとも1.2GPa、より特に少なくとも1.5GPa、さらにより特に少なくとも1.8GPa、さらにより特に少なくとも2.0GPaである。1つの実施態様において、UHMWPEフィルムの引張強さは少なくとも2.0GPa、特に少なくとも2.5GPa、さらにより特に少なくとも3.0GPa、さらにより特に少なくとも4GPaである。引張強さはASTM D7744-11に準拠して測定される。
【0024】
1つの実施態様において、UHMWPEフィルムは少なくとも50GPaの引張弾性率を有する。より特に、前記フィルムは少なくとも80GPa、より特に少なくとも100GPa、さらにより特に少なくとも120GPa、さらにより特に少なくとも140GPa、または少なくとも150GPaの引張弾性率を有し得る。該弾性率はASTM D7744-11に準拠して測定される。
【0025】
1つの実施態様において、UHMWPEフィルムは少なくとも20J/g、特に少なくとも25J/gの破断引張エネルギーを有する。他の実施態様において、前記テープは少なくとも30J/g、特に少なくとも35J/g、より特に少なくとも40J/g、さらにより特に少なくとも50J/gの破断引張エネルギーを有する。破断引張エネルギーはASTM D7744-11に準拠して測定される。それは、応力・ひずみ曲線下で単位質量あたりのエネルギーを積分することによって計算される。
【0026】
本発明において使用されるUHMWPEフィルムは、高い強さを、高い線密度と共に有し得る。dtexで表される線密度は、10000メートルのフィルムのグラムでの重量である。1つの実施態様において、UHMWPEフィルムは、少なくとも3000dtex、特に少なくとも5000dtex、より特に少なくとも10000dtex、さらにより特に少なくとも15000dtex、またはさらに少なくとも20000dtexのデニールを、任意に、上記で特定されたとおり、少なくとも2.0GPa、特に少なくとも2.5GPa、より特に少なくとも3.0GPa、さらにより特に少なくとも3.5GPa、およびさらにより特に少なくとも4の強さと共に有する。
【0027】
望ましい場合、UHMWPEフィルムをプラズマまたはコロナ処理に供し、例えばそれらの結合特性を改善できる。
【0028】
本願内に記載される防弾物品のシートは少なくとも、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層と、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第2の層とを含む。望ましい場合、有機マトリックス材料が、少なくとも、UHMWPEフィルムの第1の層と第2の層との間に存在できる。
【0029】
本願内で記載される防弾物品において、シートは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィルムの少なくとも2つの層を含む。特に、シートは少なくとも3、少なくとも4、または少なくとも6層のフィルム、および最大20、最大15、または最大10層のフィルムを含み得る。2層のフィルムを含むシートが好ましいことがある。
【0030】
有機マトリックス材料は、少なくとも、シートにおけるUHMWPEフィルムの第1の層と第2の層との間に存在できる。例えば、有機マトリックス材料はUHMWPEフィルムの第1の層および/または第2の層の上面および/または下面上に存在でき、ただしそれは少なくとも、第1の層と第2の層との間に存在する。2層より多くのUHMWPEフィルムを有するシートにおいては、有機マトリックス材料は好ましくは少なくとも、全ての層のフィルムの間(つまり、フィルムの1つの層と、フィルムの隣接する層との間)に存在する。いくつかの実施態様において、有機マトリックス材料はさらに、シートの上部層の上面上、またはシートの下部層の下面上、つまり、フィルムの隣接する層のない露出する表面上に存在できる。シートの上部層または下部層上に有機マトリックス材料を有することは、例えばその製造、取り扱いおよび/または使用の間に、シートをフィブリル化から保護すること、シートおよび防弾物品の耐摩耗性を改善すること、およびに寄与できる。
【0031】
有機マトリックス材料は、UHMWPEフィルムの第1の層と第2の層との間で、および存在し得る任意の引き続く層の間で、均質に分布していても不均質に分布していてもよく、且つ連続的または不連続的に分布していてもよい。有機材料がUHMWPEフィルムの層の間に均質且つ連続的に分布していることが好ましい。
【0032】
前記有機マトリックス材料はUHMWPEフィルムと共に結合するポリマーである。
【0033】
有機マトリックス材料は好ましくは、UHMWPEフィルムの融点より低い融点を有し得る。
【0034】
有機マトリックス材料は、UHMWPEフィルムと同じ化学構造を有し得る。代替的に、異なる化学構造を有するポリマーを有機マトリックス材料として使用することができる。適した有機マトリックス材料の例は、ポリマー、例えば熱可塑性エラストマーまたはポリオレフィン系ポリマーを含む。適した熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン、ポリビニル、ポリアクリレート、それらのブロックコポリマーおよび混合物を含む。1つの実施態様において、熱可塑性エラストマーは、スチレンのブロックコポリマー、およびαーオレフィンコモノマーである。適したコモノマーは、C4~C12-α-オレフィン、例えばエチレン、プロピレンおよびブタジエンを含む。特定の例は、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンポリマー、またはポリスチレン-イソプレン-ポリスチレンを含む。そのようなポリマーは例えば商品名KratonまたはStyroflexとして市販されている。ポリオレフィン系ポリマーが有機マトリックス材料として好ましいことがある。それらのポリオレフィンは、ポリプロピレン; ポリエチレン、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE); エチレンα-オレフィンコポリマー、例えばエチレン-プロピレンコポリマー、およびエチレン酢酸ビニルコポリマー; またはそれらの組み合わせを含む。
【0035】
有機マトリックスポリマー材料がポリエチレン、好ましくはLDPEまたはHDPEであることが好ましいことがある。そのようなポリマーはUHMWPEフィルムと同じ化学構造を有し、それは有利なことに、有機マトリックス材料を備えるUHMWPEフィルムおよびそこから製造された防弾物品のより容易なリサイクルを可能にする。さらにポリエチレンは良好な付着特性を有し、且つUHMWPEと完全に相溶性がある。
【0036】
1つの実施態様において、有機マトリックス材料は、有機マトリックス材料とUHMWPEフィルムとの総質量に対して、0.1~10質量%、または0.2~6質量%、または0.5~4質量%、または0.75~3%の量で存在する。有機マトリックス材料の量が少ない、例えば0.1~4質量%であることが好ましいことがある。有機マトリックス材料(一般には防弾性能の低い材料)が少量であることにより、UHMWPEフィルム(防弾性能が高い材料)の性能の破壊は最小限である。
【0037】
上述のようなマトリックス材料の存在が好ましいとみなされる一方で、本発明のいくつかの実施態様においては、マトリックス材料を省くことができる。これは特に、UHMWPEフィルムがフィルムを固結するためのマトリックスとしてはたらくことができる低分子量のPEの画分を含有する場合に該当する。低分子量PEのそのような画分の存在は、例えばUHMWPEフィルムの溶融プロファイルから、または先述のようなサイズ排除クロマトグラフィーまたは溶融流体測定による分子量分布の特定からわかる。
【0038】
フィルムの層内のUHMWPEフィルムの配向は一方向である。従って、UHMWPEフィルムは平行に配列して層を形成する。
【0039】
UHMWPEフィルムは層内で部分的に重複していてもよいし、または隣接するフィルムの間で重複領域なく配列されていてもよく、例えば、フィルムが突き合わせで接触していてもよいし、または隣り合うフィルムの間に小さな隙間があってもよい。小さな隙間とは、層の面表面の5%未満が隙間に相応すると理解される。フィルムが層内で重複せず、特にフィルムが隣り合うフィルム間で著しい隙間を有さないで突き合わせで接触して配列される、例えば層の面表面の0.5%未満が隙間に相応することが好ましいことがある。
【0040】
本願内に記載される防弾物品のシートにおいて、第1の層におけるUHMWPEフィルムの方向は、第2の層におけるフィルムの方向に対して角度をなしている。1つの層におけるフィルムの配向と、隣接する層におけるフィルムの配向との間の角度は、45~135度、または60~120度、または85~95度、または約90度であってよい。
【0041】
特定の実施態様において、1つの層におけるフィルムの配向は、交互の層におけるフィルムの配向に対して平行であってよい。他の実施態様において、1つの層におけるフィルムの配向は、交互の層におけるフィルムの配向に対して角度をなしていてよい。隣接する層の間の角度に関して上記で述べられたことが、交互の層の間の角度にも該当する。
【0042】
本願内で記載される防弾物品において、シートは、UHMWPEフィルムの少なくとも第1の層および第2の層を通じた不連続なフィルムの裂け目を含む。2層より多くの層を含むシートにおいて、不連続なフィルムの裂け目は、好ましくはシートを構成する全ての層を通じて存在する。
【0043】
本願内で使用される場合、「不連続なフィルムの裂け目」との用語は、フィルムを構成するUHMWPEポリマー繊維の方向(フィルムの長手方向とも称される)に沿ってフィルムが部分的に裂けている、フィルムの局所的な領域に関する。従って、各々のフィルムの層において、フィルムの裂け目はUHMWPEフィルムの長手方向に延在するが、前記裂け目は同じ長さのフィルムに沿って不連続である。
【0044】
裂け目は一般に、フィルム中の一点の上に力をかけ、そこから裂け目が広がる(フィルムの長手方向に沿って延伸する)ことによってUHMWPEフィルムに誘導され、そのような点は裂け目中心と称されることがある。不連続なフィルムの裂け目を誘導するための方法は、以下でより詳細に説明される。
【0045】
そのような不連続なフィルムの裂け目は、UHMWPEフィルムが、該フィルムの統合性を損なうことなく、UHMWPEフィルムを構成するポリマー繊維の長さに沿って曲がり、それによってシートの柔軟性が増加することを可能にする。
【0046】
本願内で使用されるシートは少なくとも2つの層を有し、1つの層のフィルムの方向は、隣接する層におけるフィルムの方向に対して角度をなしているので、フィルムの1つの層におけるフィルムの裂け目も、隣接するフィルムの層におけるフィルムの裂け目に対して角度をなしており、そのことによりシートの柔軟性は少なくとも2つの方向において高められる。
【0047】
意外なことに、不連続なフィルムの裂け目の存在が、防弾物品の防弾特性に悪影響することなく、シートの柔軟性およびそれを含む防弾物品の柔軟性に寄与することが判明した。特に、不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルムのシートを含む防弾物品は、同じ構成であるが不連続なフィルムの裂け目を有さない防弾物品と同等の防弾特性(例えばv50、つまり50%の弾丸が止められる速度、およびv0、つまり貫通ゼロの速度)を有する。
【0048】
本発明による防弾物品において、第1の層の裂け目中心の少なくとも50%は、隣接する第2の層の裂け目中心を有する層の表面に対して本質的に垂直なラインに沿って配列している。換言すれば、本発明による防弾物品において、第1および第2のフィルム層における全ての裂け目の少なくとも50%が、裂け目中心が互いの直上になるようなものである。これは一般に、第1の層および第2の層における裂け目を一段階でもたらすことによって、つまり、例えば針を使用して、フィルムよりはむしろシートに裂け目をもたらすことによって実現され得る。これは、プロセスの観点から非常に効率的なだけではなく、製品の観点から非常に魅力的であることも判明しており、なぜなら、それは均質な製品を作るからである。第1の層の裂け目中心の少なくとも70%、特に少なくとも85%、より特に少なくとも95%が、隣接する第2の層の裂け目中心を有する層の表面に対して本質的に垂直であるラインに沿って配列されていることが好ましい。本発明の1つの実施態様においては、第1の層の裂け目中心の本質的に全てが、隣接する第2の層の裂け目中心を有する層の表面に対して本質的に垂直なラインに沿って配列している。これに関し、本質的に全てとは、第1の層における裂け目の全ての裂け目中心が、偶発的な層の滑りを除き、隣接する第2の層の裂け目中心を有する層の表面に対して本質的に垂直なラインに沿って配列していることを意味する。本明細書に関し、本質的に垂直との文言は、当業者にとって受け容れ可能な通常の技術的な許容差を考慮に入れて、方向がシートの表面に対して垂直であることを意味する。
【0049】
不連続なフィルムの裂け目の密度は1m2あたり1000~500000の裂け目である。特に、シートにおける不連続なフィルムの裂け目の密度は、1m2あたり5000~200000の裂け目、さらにより特に1m2あたり10000~100000の誘導されるフィルムの裂け目であってよい。フィルムの裂け目の密度がより低いと、シートの柔軟性に著しく寄与せず、他方で、フィルムの裂け目の密度がより高いと、防弾物品の防弾特性および/または統合性に悪影響しかねないことが判明した。
【0050】
フィルムの裂け目は、フィルムの層表面の任意の方向において、裂け目中心と隣り合う裂け目中心との間の距離として定義される半径方向距離0.5~100mmだけ分離されていてよい。特に、半径方向距離は1~60mm、または2~40mm、または1.5~20mmであってよい。特定された裂け目中心の半径方向距離が、シートの柔軟性、最終的には防弾物品の柔軟性にさらに寄与し得ることが判明した。
【0051】
フィルムの長手方向におけるフィルムの裂け目の間の距離(裂け目と裂け目との距離)は、フィルムの長さの方向における、裂け目中心と、最も近い裂け目中心との間の距離として定義して、2~100mm、4~60mm、または6~40mmであってよい。
【0052】
フィルムの長さ以外の方向における、裂け目中心と、最も近い裂け目中心との間の裂け目と裂け目との距離は、好ましくは0.5~20mm、1~15mm、または1.5~10mmであってよい。
【0053】
裂け目中心の間の距離は、裂け目が誘導された点の位置を知ることによって容易に特定できる。例えば、(例えば糸付きの針を使用して)縫い目を有するシートをもたらすことによって裂け目が誘導される場合、裂け目の間の距離は縫い目の長さおよび縫い目のライン間の距離によって定義される。
【0054】
不連続なフィルムの裂け目は好ましくはシートの表面にわたって均質に分布して、その表面全体で均質な特性を有するシートおよび防弾物品をもたらすことができる。
【0055】
1つの実施態様において、フィルムの裂け目の裂け目中心は直線状のラインを形成して分布され得る。そのようなラインは、好ましくはUHMWPEフィルムの長手方向に対して角度をなしていてよい。1つのライン内での裂け目中心の間の距離は、隣り合うラインの裂け目の中心の間よりも小さくてよい。追加的または代替的に、そのようなラインはシートの表面全体で等しく間隔をあけられて、連続的なフィルムの裂け目の全体的に均質な分布をもたらすことができる。特定の実施態様において、前記の直線状のラインは縫い目のラインであることができる。
【0056】
本願内に記載される防弾物品のシートの積層体におけるシートは固結されている。例えば、シートをそれ自体で(個々に)固結してもよいし、またはシートの積層体全体を(一緒に)固結してもよい。シート自体が個々に固結される場合、積層体全体が固結される必要はないが、固結されてもよい。
【0057】
本願内で使用される場合、固結との用語は、シートの層内のUHMWPEフィルムが有機のマトリックス材料によって互いにしっかりと付着することを意味する。
【0058】
1つの実施態様において、防弾物品は個々に固結されたシートを含み、ここで、少なくともシート内のUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層は互いにしっかりと付着している。2層より多くのUHMWPEフィルムを含む固結されたシートにおいては、固結されたシートにおける全ての層のフィルムが互いにしっかりと付着しており、つまり、1つの層におけるフィルムは隣接する層におけるフィルムにしっかりと付着している。
【0059】
他の実施態様において、防弾物品のシートの積層体は全体として固結されており、つまり、シート内に有機マトリックス材料を備えるUHMWPEフィルムの層および隣接するシートの層は、互いにしっかりと付着している。
【0060】
本願内に記載される個々に固結されたシートの積層体を、例えば軟質防弾用途のための防弾物品において使用できる。
【0061】
本願内に記載されるシートの固結された積層体を、例えば硬質防弾用途のための防弾物品において使用できる。
【0062】
固結はシートの統合性に、および防弾物品の防弾特性に寄与する。
【0063】
さらに、意外なことに、シートの固結後であっても、シートは、連続的なフィルムの裂け目のおかげで提供される柔軟性の著しい部分を保持し、特に、柔軟性は不連続なフィルムの裂け目を有さない固結されたシートに比して明らかに向上することが判明した。従って、不連続なフィルムの裂け目を有する個々に固結されたシートを有することによって、シートの積層体を軟質防弾用途における防弾物品、例えば防弾チョッキとして有利に使用できる。
【0064】
当該技術分野において公知のとおり、且つ以下でより詳細に説明されるとおり、圧力および任意に熱を印加することによってシートを固結させることができる。
【0065】
いくつかの実施態様において、本願内に記載される防弾物品は不連続なフィルムの裂け目の少なくとも一部を通じて縫われた糸を含むことができ、それによってシートは縫い目を備える。糸はシートの統合性に寄与し得る。特に糸は、以下で詳細に説明されるとおり、固結前、および場合により固結後に、UHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を一緒に保持することによって防弾物品を製造するために有用であり得る。さらに、糸は、例えば弾道衝撃に際し、防弾物品内の防弾シートの統合性に寄与し得る。
【0066】
存在する場合、縫い目は好ましくはフィルム層におけるUHMWPEフィルムの幅よりも短くてよい。
【0067】
いくつかの実施態様において、縫い目は直線状のラインを形成できる。特定の実施態様において、縫い目のラインの方向は、フィルム層におけるUHMWPEフィルムの長手方向に対して角度をなしていてよい。例えば、0-90の層構成を有するシートにおいて、縫い目のラインは0°および90°の層の両方に対して45°の角度であってよい。
【0068】
本願内で記載されるシートの積層体は一般に、少なくとも2枚のシート、特に少なくとも4枚、少なくとも6枚、または少なくとも8枚のシートを含み得る。一般に、シートの積層体は最大1000枚のシート、および好ましくは最大500枚のシート、または最大250枚のシートを含み得る。シートの量は1枚のシート内のフィルム層の量および必要とされる防弾の脅威レベルに依存する。当業者は層およびシートの適切な数を特定できる。
【0069】
本願内に記載されるシートの積層体は、それ自体、防弾物品に適合できる。代替的に、本願内で記載されたシートの積層体をさらに加工して、防弾物品を形成できる。
【0070】
例えば、シートの積層体を周縁部で一緒に縫うか、または保持袋内に入れて、防弾物品に適合できる。
【0071】
代替的または追加的に、シートの積層体を他の防弾材料の積層体またはシート、例えば不織の一方向層(UD)またはUHMWPE繊維、アラミド繊維またはアラミドコポリマーの織布と組み合わせることができる。例えば、いくつかの実施態様において、シートの積層体をアラミド布のシートの積層体、特にアラミドの織物シート、またはアラミドの不織の一方向層(アラミドUD)と組み合わせる。特定の実施態様において、防弾物品は衝撃側から下に、織物のアラミドシートの積層体、本願内で記載される不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEシートの積層体、および任意に織物のアラミドシートのさらなる積層体を含む。それらの構成は、外傷の低減に関して改善された防弾性能を示す一方で、織物のアラミドまたはアラミドUDのみのシートで構成される標準的なアラミド軟質防弾物品に比して良好なv50(つまり、弾丸の50%が止まる速度)およびv0(つまり貫通がゼロの速度)を保持することが判明した。
【0072】
そのような防弾物品は軟質防弾用途、例えば軟質防弾チョッキのために特に適することができる。
【0073】
代替的または追加的に、シートの積層体を成形して、特定の形状を有する防弾物品、例えばヘルメット、単曲面パネル、二曲面パネル、または多曲面パネルをもたらすことができる。
【0074】
代替的または追加的に、シートの積層体を他の防弾材料、例えばセラミックまたは鋼のストライクフェイスと組み合わせて使用できる。特定の実施態様において、シートの積層体を、例えば以下で詳細に説明される真空固結化を使用してそのような防弾材料と一緒に成形して、シートの積層体をさらなる防弾材料、例えば予め成形されたセラミックまたは鋼のストライクフェイスの形状に適合させることができる。
【0075】
積層体のシートにおける不連続なフィルムの裂け目の存在は、防弾物品の成形を容易にし、改善された形状、例えば成形に起因するしわの低減、厚さ分布の改善、例えば成形物品全体にわたるより均質な厚さを有する防弾物品をもたらすことが判明した。
【0076】
成形物品は所望の形状に固化された積層体全体を有することができる。従って、以下でより詳細に記載されるとおり、成形を固結と同時に実施できる。そのような物品は、個々に固結された積層体におけるシートを追加的に有してもよいし、有さなくてもよい。成形物品が、個々に固結された積層体におけるシートを有さないことが好ましいことがあり、なぜなら、個々に固結されていないシートはより大きな柔軟性を有し、良好なドレープ性を示し、且つさらに防弾物品の成形のために、個々に固結されたシートよりも適することができるからである。そのような成形された防弾物品は、硬質防弾用途、例えば硬質防弾チョッキ、ヘルメットおよび保護パネルまたはシェルのために特に適することができる。
【0077】
本発明はさらに、請求項1から11までのいずれか1項に定義されるシートの積層体を含む防弾物品の製造方法であって、
a. 一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層を準備する段階、
b. 前記UHMWPEフィルムの第1の層の上部に、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第2の層を準備して、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を少なくとも含み、前記第1の層におけるフィルムの方向が前記第2の層におけるフィルムの方向に対して角度をなしているシートを形成する段階、
c. 任意に、段階a)および/または段階b)の前、その後および/またはその間に、有機マトリックス材料をUHMWPEフィルムに施与し、それにより、使用される場合、前記有機マトリックス材料が少なくともフィルムの第1の層と第2の層との間に存在する段階、
d. 少なくともUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を通じる不連続なフィルムの裂け目を誘導して、1m2あたり1000~500000個のフィルムの裂け目のフィルムの裂け目密度で、不連続なフィルムの裂け目を含むシートを形成する段階、
e. 段階d)によって誘導された不連続なフィルムの裂け目を含む複数のシートを積層して、シートの積層体を形成する段階、
f. 段階e)による積層の前、および/またはその後に、圧力および任意に熱を印加することによって前記シートを固結する段階
を含む前記方法に関する。
【0078】
本願内に記載される方法により得られるシートの積層体はそれ自体防弾物品に適合できるか、またはさらに加工して防弾物品を得ることができる。
【0079】
本願内で記載される方法は、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層を準備すること(段階a)、および前記UHMWPEフィルムの第1の層の上部に、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第2の層を準備して、一方向に配向したUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を少なくとも含むシートであって、前記第1の層におけるフィルムの方向は、前記第2の層におけるフィルムの方向に対して角度をなしている前記シートを形成する段階(段階b)を含む。
【0080】
第1の層および第2の層を準備するために、UHMWPEフィルムを平行に配列させ、それによって一方向に配向したUHMWPEフィルムの層を形成し、または換言すれば、フィルムの層内のUHMWPEフィルムの配向は一方向である。
【0081】
前記フィルムを重複するように平行に配列できる。代替的且つ好ましくは、防弾物品について上述のとおり、フィルムを、それらが重複しないように平行に配列させ、例えばフィルムを突き合わせで接触させてもよいし、または隣り合うフィルムの間に小さな隙間があり、好ましくは隣り合うフィルムの間に著しい隙間を有さずに突き合わせで接触させることができる。それにより、均質な厚さを有する、つまり重複領域のない層が得られる。
【0082】
シートは、複数のUHMWPEフィルムを配列させて、フィルムの第1の層を形成し、前記第1の層の上部に直接的に複数のUHMWPEフィルムを配列させることによって第1の層の上部にフィルムの第2の層を積層し、それによってフィルムの少なくとも2つの層のシートを形成することによって形成できる。
【0083】
フィルムの追加的な層を同様に積層して、防弾物品について上述のとおり、例えば少なくとも3、4、6またはより多くの層のシートを形成できる。
【0084】
フィルムの配列と積層を実施して、上記で詳細に説明したとおり、第1の層におけるフィルムの配向に対する第2の層におけるフィルムの、および任意に引き続く層の、所望の配向をもたらす。特に、UHMWPEフィルムを、UHMWPEフィルムの第1の層の上部で配列させて、UHMWPEフィルムの第2の層を形成でき、それによって第1の層におけるフィルムの配向は第2の層におけるフィルムの配向に対して角度をなす。配向の好ましい角度に関し、防弾物品について上述されたことが参照される。例えば、シートは0-90構成における少なくとも2つの層を備えることができる。追加的な層のUHMWPEフィルムを積層して、所望の数の層を有するシートが得られるまでそのような構造を保持することができる。
【0085】
本願内に記載される方法は、段階a)および/または段階b)の前、その後および/またはその間に、有機マトリックス材料をUHMWPEフィルムに施与し、それにより前記有機マトリックス材料は少なくともフィルムの第1の層と第2の層との間に存在する段階(段階c)を含む。
【0086】
有機マトリックス材料は防弾物品に関して上述されている。
【0087】
使用される場合、有機マトリックス材料を当該技術分野において公知の方式でUHMWPEフィルムに施与できる。施与方法は有機マトリックス材料の種類および形態に依存することがある。例えば、溶液または分散液の形態、溶融形態または固体の形態で施与できる。
【0088】
有機マトリックス材料の溶液または分散液は、ロールコーティングによって好ましく施与されるが、噴霧も使用できる。マトリックス材料の溶液または分散液が使用される場合、フィルム層の形成の前、その間またはその後に、溶剤または分散剤の蒸発が生じ得る。例えば、マトリックス材料を真空で、または加熱下で施与して、蒸発を容易にすることができる。
【0089】
溶融した有機マトリックス材料を、例えばホットメルト施与システム、例えばいわゆるホットメルトピストルを使用して施与できる。溶融マトリックス材料が使用される場合、溶融マトリックス材料の凝固は、フィルム層の形成の前、その間またはその後に生じ得る。
【0090】
固形の有機マトリックス材料、例えばマトリックス材料のモノフィラメント、ストリップ、テープ、糸、フィルムまたはネットを、UHMWPEフィルムの上に配置でき、且つ/または例えば固形の有機マトリックス材料をフィルムおよび/または層と一緒に熱プレスを通すことによって、フィルム層が好ましくはフィルムおよび/またはフィルム層に対して押し付けられる。フィルムおよび固形の有機マトリックス材料を、任意に一緒に延伸できる。
【0091】
有機マトリックス材料を連続的または不連続に施与できる。例えば、有機マトリックス材料を、1つ以上の連続的または断続的なラインまたはストリップを定義して施与できる。マトリックス材料を、UHMWPEフィルムおよび/またはフィルム層の上でランダムまたは規則的に分布したドットとして(例えば断続的なラインを定義して)施与することもできる。前記マトリックス材料を、規則的または不規則なパターンを定義して施与することもできる。
【0092】
有機マトリックス材料を、上述の方法により、UHMWPEフィルムまたはフィルム層の表面領域の一部または全てを覆う連続的な層として施与することができる。例えば、有機マトリックス材料の溶液、有機マトリックス材料の懸濁液、または固体または溶融状態の有機マトリックス材料を、UHMWPEフィルムおよび/またはフィルム層の表面領域上に貼り合わせ、ロールまたは噴霧することができる。
【0093】
上述のとおり、有機マトリックス材料は、少なくとも第1のフィルム層と第2のフィルム層との間に存在する。従って、有機マトリックス材料を、UHMWPEフィルムの第1の層および/または第2の層の上面および/または下面上に施与でき、ただしそれは少なくとも、第1の層と第2の層との間に存在する。2層より多くのフィルムを含むシートにおいては、有機マトリックス材料は好ましくは少なくとも、シートにおける全ての層のフィルムの間、つまり1層のフィルムと、隣接する層のフィルムと間に施与される。いくつかの実施態様において、有機マトリックス材料はさらに、シートの上部層の上面上、またはシートの下層の下面上、フィルムの隣接する層のない表面上に施与され得る。
【0094】
本願内で記載される方法は、少なくともUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を通じる不連続なフィルムの裂け目を誘導して、1m2あたり1000~500000のフィルムの裂け目のフィルムの裂け目密度で、不連続なフィルムの裂け目を含むシートを形成すること(段階d)を含む。この施与方法において、フィルムの裂け目は少なくともUHMWPEフィルムの第1の層および第2の層を通じて同時に施与される。2層より多くのUHMWPEフィルムを有するシートにおいて、不連続なフィルムの裂け目の誘導は、好ましくは全てのシート層を通じて実施される。
【0095】
不連続なフィルムの裂け目の誘導を、当該技術分野において公知の方法によって実施できる。例えば、針を使用すること、または小さなピンを備える回転ドラム上にシートを通すことによる。不連続なフィルムの裂け目の誘導を、好ましくは針によって実施できる。任意に、不連続なフィルムの裂け目の誘導を糸付きの針によって実施でき、それにより、不連続なフィルムの裂け目を含むシートは、不連続なフィルムの裂け目の少なくとも一部を通じて縫われた糸を備える。特定の実施態様において、シートは不連続なフィルムの裂け目の少なくとも50%、75%または95%を通じて、さらに特定の実施態様においてはシートにおける不連続なフィルムの裂け目の全てを通じて縫われた糸を備える。
【0096】
存在する場合、糸は好ましくは、細く、例えば線密度10~500dtex、特に20~200dtex、より特に40~100dtexであり、重量および防弾物品の防弾特性に寄与しない材料の追加を防ぐ。
【0097】
糸は任意の適した材料のもの、例えばポリエステル(PES)糸、ポリオレフィン糸、例えばポリエチレン糸、ポリアミド糸、コポリアミド糸、およびアラミド糸であってよい。1つの実施態様において、糸は有機マトリックス材料と同じ材料のもの、例えばポリエチレン糸であってよい。
【0098】
1つの実施態様において、UHMWPEフィルムより低い融点を有する糸を使用できる。特に、UHMWPEフィルムの融点より低い融点を有するポリエチレン(PE)糸の使用が好ましいことがある。
【0099】
有機マトリックスの材料と同じ材料である糸が特に好ましいことがある。有利には、そのような糸は、特に引き続く固結段階の間のフィルムの層の付着に寄与できる。そのような糸の使用は、硬質防弾用途のために特に有利であることがあり、例えばその際、少なくとも積層後にシートが固結され、換言すればシートの積層体が全体として固結される。
【0100】
他の実施態様において、UHMWPEフィルムよりも高い融点を有する糸、例えばポリエステルまたはアラミド糸を使用できる。それらの糸の特性は、シートの固結後も保持される。そのような糸の使用は、軟質防弾用途のために特に有利であることがあり、例えばその際、シートが個々に固結される、換言すればシートが積層前に固結される。
【0101】
防弾物品についてフィルムの裂け目の密度、距離および分布に関して上記で述べたことは、(糸を用いるまたは用いない)製造方法にも該当する。
【0102】
本願内で記載される方法は、段階d)によって誘導された不連続なフィルムの裂け目を含む複数のシートを積層して、シートの積層体を形成すること(段階e)を含む。それにより、シートが互いの上に積層される。該工程は、防弾物品について上述されたとおり、少なくとも2枚のシート、および任意により多くのシートを積層して、所望のシート数を有する積層体を得ることを含む。
【0103】
シートの積層を実施して、積層体内で所望のフィルムの配向を実現できる。例えば、0-90構成の2枚のシートを積層して、0-90-0-90の積層体構成または0-90-90-0の積層体構成をもたらすことができる。さらなるシートを積層して、積層体内でそのような構成を、所望のシート数を有する積層体が得られるまで保持することができる。防弾物品におけるシートの配向および数について上述したことが、その製造方法にも該当する。
【0104】
本願内で記載された方法は、段階e)による積層の前、および/またはその後に、圧力および任意に熱を印加することによってシートを固結することを含む(段階f)。
【0105】
固結は当該技術分野において公知のように実施できる。例えば、積層前に、不連続なフィルムの裂け目を有する個々のシートを、または積層後に、シートの全体の積層体をプレスに設置して、圧縮に供することができる。必要な圧縮時間および圧縮温度はUHMWPEフィルムおよび有機マトリックス材料の性質、不連続なフィルムの裂け目を通じて縫われた糸の存在および性質、および固結されるべきシートの厚さに依存し、当業者は容易に特定できる。例えば少なくとも0.1MPa、および最大50MPaの圧力を印加できる。シート中のUHMWPEフィルムが、有機マトリックス材料を通じて互いに付着することを引き起こすために、圧力の使用が充分であることができる。しかしながら、適宜、マトリックス材料がUHMWPEフィルムを互いに付着させることを助けることを引き起こすために必要とされるのであれば、圧縮の間の温度を、有機マトリックス材料および/または縫っている糸(もしあれば)が、その軟化点または融点を上回るように選択できる。
【0106】
固結を、有機マトリックス材料の軟化点または融点を上回り且つUHMWPEフィルムの融点を下回る圧縮温度で実施できる。そのような温度で圧縮を行う場合、圧縮された材料(つまり不連続なフィルムの裂け目を有するシート)の冷却が、圧力下でも行われることが好ましいことがあり、その際、冷却の間、少なくともシートの構造が大気圧下ではもはや緩和し得ない温度に達するまで所定の最小圧力が保持される。個々の場合に応じてこの温度を特定することは当業者の範囲内である。適用可能な場合、冷却を所定の最小圧力で実施して、有機マトリックス材料が大々的または完全に硬化または結晶化する温度であって、且つUHMWPEフィルムの緩和温度を下回る温度に達することが好ましい。冷却の間の圧力は、固結のために使用される圧力と等しい必要はない。冷却の間、適正な圧力値が保持されて、プレスにおけるシートまたはシートの積層体の収縮によって引き起こされる圧力低下が補償されるように、圧力を監視することができる。
【0107】
上述の固結を静的プレスにおいて、または連続的な方法において実施できる。適した連続的な方法は、限定されずに貼り合わせ、カレンダー処理、ダブルベルトプレスを含む。
【0108】
本願内で記載される方法は、それ自体防弾物品に適合することができるか、またはさらに加工して防弾物品を得ることができるシートの積層体をもたらす。
【0109】
例えば、本願内に記載される方法におけるさらなる段階は、シートの積層体の周縁部を一緒に縫うか、またはシートの積層体を保持袋内に入れることを含み得る。
【0110】
前記方法はさらに、不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルム層のシートの積層体を、他の防弾材料の積層体またはシートと組み合わせることを含み得る。特に、防弾物品について上述のとおり、他の防弾材料の複数のシート(例えばアラミド布、例えば織物またはUDアラミドシート)を、不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルム層のシートの積層体の上部、および任意に下部にも積層して、衝撃側から下に、織物またはUDのアラミドシートの積層体、本願内で記載される不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEシートの積層体、および任意に織物またはUDのアラミドシートのさらなる積層体を含む防弾物品を形成できる。
【0111】
前記方法はさらに、上述のとおり、不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルム層のシートの積層体を成形して、特定の形状を有する防弾物品、例えばヘルメット、曲面パネル、多曲面パネルをもたらすことを含み得る。
【0112】
本願内で記載されるシートの積層体を、セラミックまたは鋼のストライクフェイスと組み合わせることもでき、特に積層体を予め成形されたセラミックまたは鋼のストライクフェイスに対して成形できる。これを例えばパネルをバキュームフォームすること、つまりセラミックまたは鋼のストライクフェイスと、本願内で記載される不連続なフィルムの裂け目を含むシートの積層体とを真空チャンバー内に入れ、真空を適用することにより固結する、つまり真空固結することによって実施できる。
【0113】
積層体のシートにおける不連続なフィルムの裂け目の存在は、防弾物品の成形を容易にすることが判明した。特に、本願内で記載される不連続なフィルムの裂け目を含むシートの積層体は、成形のために有利である良好なドレープ特性を有する。成形はシートの積層体全体を、例えば圧力および任意に熱の下でモールド成形することを含み得る。この特定の実施態様において、積層体全体をモールド成形法によって所望の形状に固結することができる。従って、モールド成形によるシートの積層体の成形を、積層後のシートの固結と同時に実施できる。
【0114】
シートの積層体からのヘルメットの形成については、国際公開第2013/124233号(WO2013/124233)が参照され、それは凹状のモールド内で高められた温度および圧力を印加することにより固結された複数のカットを有するプライの積層体を含む二重に曲げられたシェルを含む防弾物品を記載している。
【0115】
本発明は本願内で記載される方法によって得られる防弾物品にも関する。
【0116】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、該実施例に、または該実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0117】
例1 フィルムの裂け目を有するシートの製造
例1A HDPEマトリックスおよび裂け目を通じたPES糸を有する2つのUHMPE層のシート集成材
共に延伸されたHDPEマトリックス含有率1.5質量%を有し、厚さ47μm、幅132.8mmおよび弾性率186.4N/texを有するUHMWPEフィルムを出発材料として使用した。
【0118】
第1の層のフィルムを、ベルトの走行方向に対して45度の角度で、移動ベルト上に配置した。第2の層のフィルムを、第1の層の上部に、第1の層に対して90度の角度で配置した。
【0119】
2つのフィルム層の集成材を縫製ステーションに搬送した。前記の層を48dtexのポリエステル(PES)の縫い糸で一緒に縫った。縫い目のラインは移動ベルトの方向に対して平行に走る。縫い目のラインは0.2インチ(0.51cm)分離された。縫い目の長さの距離は2.6mmであった。縫うことにより、針がフィルム層に衝撃を与えた点の周りを中心とするフィルムの裂け目の形成がもたらされた。縫製ステーションの後、シートを芯に巻き取った。
【0120】
例1B HDPEマトリックスおよび裂け目の一部を通じたPES糸を有する2つのUHMWPE層のシート集成材
例1Aと同様のシートを製造したが、縫製ステーションにおいて5つの等間隔の針のうちの1つのみがPES縫い糸を備えていたことが異なる。これにより、0.2インチ(0.51cm)だけ分離された裂け目のラインがもたらされ、つまり製造方向に対して垂直に0.2インチ(0.51cm)のフィルムの裂け目の距離を有するが、5つの裂け目のラインのうちの1つのみが縫い目のラインを定義する糸を有し、つまり縫い糸と縫い糸との距離1インチ(2.54cm)を定義する。
【0121】
例1C HDPEマトリックスおよび裂け目を通じたコポリアミド溶融性糸を有する2つのUHMWPE層のシート集成材
例1Aと同様のシートを製造したが、縫い糸をGrilon K-85 75dtexとして市販されているコポリアミド溶融性糸で置き換えた。
【0122】
例1D LDPEマトリックスおよび裂け目を通じたPES糸を有する2つのUHMWPE層のシート集成材
例1Aと同様のシートを製造したが、マトリックスをHDPEからLDPEへと変更し、マトリックス含有率は2質量%であった。
【0123】
例2 不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルムのシートからのヘルメット
例1Aに従ってシートを製造したが、縫い目のラインの距離が0.4インチ(1.02cm)であったことが異なる。
【0124】
各々のシートをSchott&Meisnerのラミネータにおいて温度135℃で固結した。2つの固結されたシートを一緒に貼り合わせて4プライの固結されたシートを形成した。それらの4プライの固結されたシートを、中央の円および4つの葉からなるパターンへと切断した。
【0125】
上述のように切断された合計52の4プライのシートを一緒に積層し、その際、各々のシートを前のシートに対して3.9°の角度で回転させた。中間で、積層体を90℃での熱溶着によって固定した。その積層体をヘルメット型のプレフォーム内に入れ、それを温度60℃且つ圧力4barで4分間保持した。引き続き、そのプレフォームを60℃に予熱されたヘルメットのモールドに入れ、55barでプレスした。モールドを加熱し、圧力を55barに保ち、30分後に温度136℃に達した。その温度をさらに30分間保持し、引き続き、モールドを55barの圧力下で60℃へと30分のうちに冷却した。次いで、固結された成型体をモールドから取り外す。帯鋸を用いて、固結された成型体を最終的なヘルメットの形状へと切断する。
【0126】
そのヘルメットを、発射物を模倣する破片(FSP)1.1gを使用して評価した。結果を表1に示す。
【0127】
比較例1 不連続なフィルムの裂け目を有さないUHMWPEフィルムのシートからのヘルメット
例2と同じ方法を使用し、ヘルメットを市販のEndumax XF33に基づいて製造した。Endumax XF33は0-0-90-90構成における4つのUHMWPEフィルム層の層成品であり、ここで最初の2つの層はレンガ構成で配置され(つまり、同じ方向であるが互いに対してオフセットしている)、且つ3番目と4番目の層は1番目の層および2番目の層に対して90°回転しており、前記の3番目と4番目の層も互いに対してレンガ構成で配置されている。全てのフィルム層を、Kraton系接着剤を使用して互いに付着させる。
【0128】
合計52のシートのEndumax XF33を使用して、例2のものと同じ質量のヘルメットを実現した。
【0129】
そのヘルメットを、発射物を模倣する破片(FSP)1.1gを使用して評価した。結果を表1に示す。
【0130】
【0131】
表1の結果は、本発明により製造されたヘルメットのシェル(例2)が、市販の材料を用いて得られたヘルメット(比較例1)よりも遙かに良好な性能を有することを明らかに示す。さらに、プレフォーム段階においても最終的な固結段階においても、本発明による材料(例2)はより容易にドレープ可能であり、必要とされる形状へとより容易に成形され、より均一な厚さ分布を有するヘルメットの成型体をもたらした。
【0132】
例3 不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルムの裏地を有する硬質防弾セラミックインサート
例1Aに従って得られたUHMWPEシートの材料を寸法280×320mmを有するシートへと切断した。68のそれらの280×320mmのシートを8.5mmのAlotecセラミックインサートの上部に積層した。68のシートの積層体の合計の目付(セラミックインサートは除く)は5.1kg/m2であった。接着剤としてはたらく1層の250g/m2の市販のNolaxのホイルF222031を、Alotecセラミックインサートとシートの積層体との間に配置した。
【0133】
完成した集成材を真空袋内に入れ、真空オーブン内、135℃で50分間処理した。中心温度が135℃に達した後、その温度を10分間保持し、その後、冷却を開始して中心が60℃に達した。サイクル全体の間、真空を保持した。
【0134】
集成材を固結する間、積層体の中間部に差し込まれた熱電対で中心温度を測定した。
【0135】
本発明による材料は良好なドレープ性を有し、UMHPWEフィルムに基づく裏地を備えた高品質のセラミックインサートの製造を可能にすることが判明した。
【0136】
比較例2 不連続なフィルムの裂け目を有さないUHMWPEフィルムの裏地を備えた硬質防弾セラミックインサート
例3と同じ手順を使用してUHMWPE裏地を備えたセラミックインサートを製造し、その際、例1Aのフィルムの裂け目を有するUHMPEシートの代わりに、市販のEndumax XF33のシート(比較例1に記載されたものと同じ構成を有する)を使用した。35のEndumax XF33シートを8.5mmのAlotecセラミックインサートの上部に積層して、合計目付5.1kg/m2(セラミックインサートを除く)を有するUHMWPE裏地を形成した。完成した集成材を真空袋内に入れ、真空オーブン内、140℃で処理した。46分後、中心温度は129℃に達した。その温度を10分間保持し、その後、冷却を開始して中心が60℃に達した。サイクル全体の間、真空を保持した。
【0137】
そのUHMWPE裏地のドレープ性は本発明による例3の裏地のドレープ性ほど良好ではなかった。固結後、比較例2の裏地は大きなしわを示し、そのことは性能の観点から望ましくなく、且つUMHPWEフィルムに基づく裏地を備えた高品質なセラミックインサートの製造のために適さなくなる。
【0138】
比較例3 アラミドのストライクフェイスと、不連続なフィルムの裂け目を有さないUHMWPEフィルムの裏地とを備えた軟質防弾パネル
共に延伸されたHDPEマトリックス含有率1.5質量%を有し、厚さ47μm、幅132.8mmおよび弾性率186.4N/texを有するUHMWPEフィルムを出発材料として使用した。
【0139】
この材料の第1の0-90のクロスプライ(シートA)をMeyerのラボ用ラミネータにおいて以下のように製造した:
前記UHMWPEの133mm幅のフィルムの3つのロールを巻出ステーションに設置した。それらのフィルムを、フィルム間の隙間を最小にしてラミネータにみちびき、3つのフィルムを突き合わせ接触であるが重複はさせずに平行に配列させて、下部の0度のフィルム層を形成した。この0度の層の上部に、ラミネータの入り口直前で、同じ幅且つ長さ40cmの3つのフィルムを前記0度の層に対して垂直に配置して、90度のフィルム層を形成した。90度の層におけるフィルムを、重なりが最小限になるように手動で配置した。貼り合わせ後、固結された0-90のクロスプライが得られ、それを巻き取りステーションで巻き取った。
【0140】
第2の段階において、第2の0-90のクロスプライ(シートB)をシートAについて上述したものと同じラミネータにおいて製造し、ただし、3つの133mm幅のフィルムの代わりに、4つのフィルムをラミネータに供給し、そのうち2つは幅66.5mmを有し、2つは幅133mmを有した。
【0141】
第3の段階において、クロスプライシートAおよびクロスプライシートBを巻き出し、ラミネータに同時にみちびいて、クロスプライシートの0-90-0-90積層体を形成して固結した。シートの固結された積層体を、巻き取りステーションで巻き取った。
【0142】
その0-90-0-90の固結されたクロスプライシートを、30×30cmの寸法に切断し、24のそれらの30×30cmの片を互いの上部に積層した。この積層体を、ストライクフェイス上で6層のTwaron CT619布(強力アラミド織布)と合わせ、縁部の周りを完全に縫って、目付4.7kg/m2を有する軟質防弾パネルが得られた。
【0143】
合計で2つのパネルを製造し、それを各々4回、44マグナムで撃った。全8発のショットについて裏面変形を平均化し、45mmであることが判明した。
【0144】
例4 アラミドのストライクフェイスと、不連続なフィルムの裂け目を有するUHMWPEフィルムの裏地とを備えた軟質防弾パネル
例1Aに記載されるとおり、HDPEマトリックスおよび避け目を通じたPES糸を有する2つのUHMPE層の2枚のシート集成材をラミネータに供給して、0-90-0-90構成における4つのフィルム層からなる固結された材料が得られた。そのような4フィルムの層状化材料の24枚のシートを、30×30cmの寸法で切断し、互いの上部に積層した。この積層体を、ストライクフェイス上で6層のTwaron CT619布と合わせ、周りを完全に縫って、目付4.7kg/m2を有する軟質防弾パネルが得られた。
【0145】
合計で2つのパネルを製造し、それを各々4回、44マグナムで撃った。平均の裏面変形は42mmであり、比較例3に記載されたフィルムの裂け目を有さない材料を上回る改善された防弾性能を明らかに示した。
【0146】
剛性の評価
種々のシート材料構成の剛性をASTM 4032から導出される方法で測定した。
【0147】
例1A、1Bおよび1Cの各々のシート集成材をSchott&Meisnerのラミネータにおいて温度135℃で固結した。例1Dのシート集成材を静的プレスにおいて25bar且つ130℃で固結した。
【0148】
比較として、Endumax XF33シート集成材(比較例1および2において使用された0-0-90-90構成における4つのUHMWPEフィルム層の層成品)について、およびシートAの集成材(比較例3においてシートAについて記載された、0-90構成における2つのUHMWPEフィルムの層成品)について、剛性を評価した。
【0149】
各々のシート材料から10.2×20.4cmの試料を、縫い目のライン(存在する場合)の方向において長さ10.2cmで切った。2つの試料を折りたたんで、10.2×10.2cmの4シート層の試料が得られた。いくつかの試料を同じように互いの上部に配置して、積層体を形成した。その積層体を、中心に直径1インチの円形の孔を有する平らで平滑な研磨された金属プレート上に設置した。その金属プレートを、孔の中心の上に位置するロッドを備えた引張試験機のホルダに配置した。剛性の測定において、ロッドが孔を通じて速度5mm/秒で積層体を押した。剛性は力と変位の曲線から、0~5mmの変位領域における最初の傾きとして計算された。試料間の比較のために、剛性を目付で除算して比弾性率(N/g)をもたらした。
【0150】
いくつかの材料の比弾性率を表2に示す。比弾性率がより低いことは柔軟性の増加を示す。
【0151】
表2から理解されるとおり、フィルムの裂け目を含まない材料(Endumax XF33およびシートA)と比較して、本発明によるフィルムの裂け目を含む材料(例1A~1D)では剛性が明らかに減少する。
【0152】
【国際調査報告】