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特表2022-520212加工困難な材料を機械加工するための被覆ツール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-29
(54)【発明の名称】加工困難な材料を機械加工するための被覆ツール
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220322BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20220322BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C23C14/06 A
C23C14/06 P
C23C14/06 H
C23C14/06 M
B23B27/14 A
B23C5/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546783
(86)(22)【出願日】2020-02-10
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2020053327
(87)【国際公開番号】W WO2020165093
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】102019103363.2
(32)【優先日】2019-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラポフ,デニス
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF13
3C046FF17
3C046FF19
3C046FF25
4K029AA02
4K029BA35
4K029BA54
4K029BA60
4K029BB08
4K029BD05
(57)【要約】
本発明は、ワークピース(200)を機械加工するためのツール(100)に関する。ツール(100)は、PVDによって堆積された耐摩耗性被膜(120)によって少なくとも部分的に被覆された表面(110)を含む。耐摩耗性被膜(120)は、1層以上の耐摩耗性層(121、122)を含む。この被膜は、300GPa≦E<350GPaの弾性係数Eを有すると共に、30GPaを超える硬度Hを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピース(200)を機械加工するためのツール(100)であって、
PVDによって堆積された耐摩耗性被膜(120)によって少なくとも部分的に被覆された表面(110)を含み、
前記耐摩耗性被膜(120)は、1層以上の耐摩耗性層(121、122)を含み、
前記被膜は、300GPa≦E<350GPaの弾性係数Eを有すると共に、30GPaを超える硬度Hを有する、ツール(100)。
【請求項2】
前記耐摩耗性層(121、122)の各々は、300GPa≦E<350GPaの弾性係数Eを有すると共に、30GPaを超える硬度Hを有することを特徴とする、請求項1に記載のツール(100)。
【請求項3】
前記耐摩耗性層のうちの少なくとも1つは、原子百分率化学組成AlTi1-xN(0.5<x≦0.9、特に0.6≦x≦0.8)を有する窒化アルミニウムチタン層、すなわち、AlTiN層であることを特徴とする、請求項1または2に記載のツール(100)。
【請求項4】
前記表面(110)と前記耐摩耗性被膜(120)との間には、接着層(130)が塗布され、
前記接着層(130)は、前記表面(110)に対する前記耐摩耗性被膜(120)の接着性を改善し、10nm~1μmの厚さを有し、
特に、前記接着層の厚さは、前記耐摩耗性被膜(120)の厚さよりも小さく、好ましくは少なくとも3倍小さいことを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項5】
前記耐摩耗性被膜(120)は、2層以上の耐摩耗性層(121、122)を含み、
前記2層以上の耐摩耗性層(121、122)のうちの少なくとも2層は、異なる化学組成で同じ元素を含む材料から形成されることを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項6】
前記耐摩耗性被膜(120)は、2層以上の耐摩耗性層(121、122)を含み、
前記2層以上の耐摩耗性層(121、122)のうちの少なくとも2層は、同じ化学組成で同じ元素を含み、弾性係数および/または硬度などの機械特性が異なる材料から形成されることを特徴とする、前述した請求項1から5のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項7】
前記耐摩耗性被膜(120)は、2層以上の層(121、122)を含み、
前記2層以上の耐摩耗性層(121、122)のうちの少なくとも2層は、異なる材料から形成されることを特徴とする、前述した請求項1から5のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項8】
前記耐摩耗性被膜(120)は、
少なくとも1層のTiAlN層、および/または、
少なくとも1つのTiSiN層、および/または、
少なくとも1つのAlCrN層を含むことを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項9】
前記耐摩耗性被膜(120)は、少なくとも1層の窒化物層を含み、特に1層以上の窒化物層からなることを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項10】
前記耐摩耗性被膜(120)は、少なくとも1層の炭窒化物層、または少なくとも1層のカルボキシ窒化物層、または少なくとも1層のオキシ窒化物層を含むことを特徴とする、前述した請求項1から9のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項11】
前記耐摩耗性被膜(120)は、0.5~20μm、特に1~7μmまたは5~20μmの層厚を有することを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項12】
前記耐摩耗性被膜(120)は、結晶または多結晶構造を有することを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項13】
前記耐摩耗性被膜(120)は、可変テクスチャを有することを特徴とする、請求項12に記載のツール(100)。
【請求項14】
前記耐摩耗性被膜(120)は、立方相を示す少なくとも1層の耐摩耗性層を含むことを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項15】
前記耐摩耗性被膜(120)および/または前記少なくとも1層の耐摩耗性層(121、122)および/または前記接着層(130)は、物理気相堆積、特にアーク蒸発によって堆積されることを特徴とする、前述した請求項のいずれか一項に記載のツール(100)。
【請求項16】
前記耐摩耗性被膜(120)は、AlTiN層とTiSiN層とを含む二層被膜、またはAlTiN層とAlCrN層とを含む二層被膜であることを特徴とする、前述した請求項3から15のいずれか1項に記載のツール(100)。
【請求項17】
前述した請求項のいずれか1項に記載された切削困難な材料を機械加工するため、特に切削困難な材料をエンドミル加工するための前記被覆ツール(100)の用途。
【請求項18】
前記切削困難な材料は、少なくとも部分的にステンレス鋼またはニッケル系合金、特にインコネル(登録商標)718であることを特徴とする、請求項17に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1に記載のツールに関する。
【背景技術】
【0002】
切削、穴あけ、研削、剪断または他の変形に使用される機械加工ツールは、特に高い硬度または強度を有する材料、例えばニッケル系合金(例えば、インコネル(登録商標)718)、ステンレススチール、特にオーステナイト系ステンレススチール、または一定量の強度増強添加剤、例えばクロム、モリブデン、ニッケル、マンガン、炭素、窒素または酸素を含むスチールを加工する場合、摩耗される。機械加工ツールの耐久性を高めるために、機械加工ツールの表面に耐摩耗性被膜を堆積させることができる。
【0003】
これらの被膜は各々、個別の組み合わせの機械特性、特に弾性係数(ヤング率または弾性率とも称する)および硬度を有する。これらの機械特性は、ツールの性能および寿命を高めることができる。寿命は、以下、耐用年数または使用寿命とも称する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、本発明の被膜を使用して、材料、特にツールの付着摩耗を生じやすい切削困難な材料を機械加工する場合、特にエンドミル加工する場合、大きな利点がある。
【0005】
一般に、材料を機械加工する時のツール性能を改善するために、多種多様な被膜が使用される。しかしながら、既知のツールの耐摩耗性は、依然として不十分である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、上述した欠点を少なくとも部分的に無くし、より長い寿命を有すると共に、ワークピースの機械加工を改善することができるツールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、30GPaを超える硬度値H(すなわち、H>30GPa)および300GPa~350GPaの弾性係数値E(すなわち、300≦E<350GPa)を示す被膜でツールを被覆することによって、摩耗の低減およびツールの一般性能の向上を驚くほど高く達成することを発見した。
【0008】
上記課題は、請求項1の特徴を有する装置によって解決される。
本発明によれば、ワークピースを機械加工するためのツールが提案される。このツールは、耐摩耗性被膜によって少なくとも部分的に被覆される表面を含み、この耐摩耗性被膜は、300~350GPaの弾性係数を有すると共に、30GPaを超える硬度H(すなわち、H>30GPa)を有する。
【0009】
なお、耐摩耗性被膜の弾性係数および硬度に関する特定値は、具体的に、標準条件、すなわち、室内環境温度、室内環境圧力など(換言すれば、通常の環境条件)で測定された値を指す。
【0010】
代表例において示されたように、これらの2つの機械特性の組み合わせは、驚くべきことに、ツール寿命を延長することができ、機械加工性を改善することができる。硬度が30GPaを超える場合、300~350GPaの弾性係数を有する被膜は、この範囲を下回るまたは超えるものよりも著しく優れた性能を示す。
【0011】
機械加工は、少なくとも、回転削り(turning)、穴あけ(drilling)、皿穴加工(countersinking)、リーミング(reaming)、ミリング加工(milling)、平削り(planing)、成形(shaping)、ブローチ加工(broaching)、鋸切断(sawing)、やすり仕上げ(filing)、ラッピング(rasping)、ブラッシング(brushing)、きず取り(scraping)、またはチゼル取り(chiselling)を含むことができる。本発明のツールは、加工困難な材料、特に切断困難な材料に特に適している。
【0012】
弾性係数またはヤング率、引張弾性率、弾性率、または伸び係数は、材料のパラメータである。線形弾性挙動の場合、弾性係数は、固形物の変形中に応力と歪みとの間の比例関係を示す。したがって、弾性係数は、フックの法則の比例定数である。
【0013】
硬度は、別の固形物を機械的に貫通する時の材料の機械抵抗であり、様々な方法で決定することができる。硬度値は、ビッカース硬度の試験に基づくことができるが、本発明の範囲は、これに限定されない。専門家なら、ビッカース硬度から、他の硬度、例えばロックウェル硬度まで結論を引き出すことができる。
【0014】
本発明の表面は、ツールを形成する材料と同じ材料から形成される。したがって、最も簡単な場合、この表面は、被覆されていない表面である。このことは、表面が環境の空気に接触する時に、常に形成される酸化層を排除しない。ツールの他の部分は、通常、少なくとも1つのバルク材料で作られる。
【0015】
耐摩耗性被膜によって被覆された領域は、ツールがワークピースと機械的に接触する場所に配置されてもよい。これは、ツールを完全に被覆する必要がないという利点を提供する。殆どの堆積処理の場合、基板(この場合、ツール)を保持具に固定しなければならないため、ツールの表面の全体を被覆することは、著しく高いコストをもたらす。保持具がツールを挟む位置は、層を堆積させることができない。したがって、被膜でツールの全体を被覆するために、保持具を別の位置に移動しなければならない。したがって、ツールがワークピースと接触する場所のみを被覆することによって、機能性を維持しながら製造コストを低減することができる。
【0016】
本発明において耐摩耗性層で被覆することは、この層がツールにしっかりと付着されることを意味し、特に意図した方法でツールを使用しない場合、容易に除去されない。
【0017】
さらに、本発明の耐摩耗性被膜は、1層以上の耐摩耗性層を含むことができ、各々の耐摩耗性層は、300~350GPaの弾性係数を有すると共に、30GPaを超える硬度を有する。
【0018】
このことは、異なる材料の特性、例えば耐薬品性を組み合わせることによって、最終的にはより長い寿命をもたらすという利点を提供する。また、特に2層の界面におけるモードIの割れ(開口モード)を防止することができる。
【0019】
有利なことに、表面と耐摩耗性被膜との間には、接着層が塗布され、接着層は、表面に対する耐摩耗性被膜の接着性を改善し、10nm~1μmの間の厚さを有し、特に、接着層の厚さは、耐摩耗性被膜の厚さよりも小さく、好ましくは少なくとも3倍小さい。
【0020】
このことは、ツールの材料および/またはその機械特性が耐摩耗性被膜と著しく異なる場合に特に重要であり得る。耐摩耗性被膜がAlTix-1N被膜である場合、TiNまたはAlNからなる接着層は、耐摩耗性被膜の接着性を著しく改善することができる。また、接着性の改善は、ツール寿命の増加をもたらす。
【0021】
10nm~1μmの間の厚さまたは耐摩耗性被膜より少なくとも3倍小さい厚さを有する接着層は、耐摩耗性被膜の機能性(耐摩耗性)を低下させることがなく、耐摩耗性被膜の接着性を増加するという利点を有する。層厚が薄くなると、接着性を低下させる可能性があり、層厚が厚くなると、耐摩耗性被膜の機能性を損なう可能性がある。これによって、加工性能を改善するという利点を実現する。
【0022】
さらに、接着層は、10nm~0.5μmの厚さ、特に10nm~0.25μmの厚さを有してもよい。これによって、機能性を維持すると共に、接着層の堆積に必要な時間を更に短縮するため、製造コストを削減することができる。
【0023】
また、耐摩耗性被膜は、2層以上の耐摩耗性層を含んでもよく、2層以上の耐摩耗性層のうちの少なくとも2層は、異なる化学組成で同じ元素を含む材料から形成されてもよい。これによって、堆積処理をより柔軟に行うことができるという利点がある。例えば、ツールに対する被膜の接着性をより良くするために、ツール上に直接に堆積される層は、ワークピースと接触する層よりも、1つの材料の量を僅かに高くする必要がある。このことは、ツールの表面上の耐摩耗性被膜の改善をカスタマイズすることができ、より長い寿命およびより良好な機械加工性を可能にする。本発明の文脈において、異なる化学組成は、具体的に、関連する元素が異なる量で存在するという組成と、関連する元素が立体配置のみで異なるという組成との両方を意味し得る。
【0024】
さらに、有利なことに、耐摩耗性被膜は、2層以上の耐摩耗性層を含んでもよく、2層以上の耐摩耗性層のうちの少なくとも2層は、同じ化学組成で同じ元素を含み、弾性係数および/または硬度などの機械特性が異なる材料から形成されてもよい。これによって、特定の用途に応じて、耐摩耗性層をより柔軟に調整することができるという利点がある。例えば、特定のワークピースをより迅速に機械加工するために、より硬い耐摩耗性被膜を必要とするが、寿命を改善するために、より低い硬度を必要とする。したがって、ツールの表面と接触する層がより低い硬度を有する耐摩耗性被膜と、ワークピースと機械的に接触する層がより高い硬度を有する耐摩耗性被膜とを組み合わせることができる。したがって、異なる機械特性を組み合わせることによって、より長い寿命およびより良好な機械加工性を実現することができる。異なる機械特性は、好ましくは、温度、圧力、成膜時間、バイアス電圧、放電電流などの被膜パラメータを具体的に変更することによって、調整されてもよい。
【0025】
耐摩耗性被膜は、2層以上の耐摩耗性層を含んでもよく、2層以上の耐摩耗性層のうちの少なくとも2層は、異なる材料から形成されてもよい。2層以上の耐摩耗性層を堆積させることによって、例えばワークピースに面する層の特性をワークピースの特性に応じて調整し、ツールの表面に面する層の特性をツールの特性に応じて調整することによって、寿命の延長および機械加工の改善を実現することができる。
【0026】
耐摩耗性被膜は、少なくとも1層のTiAlN層(本発明の文脈において、TiAlN層は、好ましくは、原子百分率化学組成Ti1-qAlN(0.5<q≦0.9)を有する窒化チタンアルミニウム層である)、または少なくとも1層のTiSiN層、または少なくとも1層のAlCrN層を含んでもよい。窒化チタンアルミニウム(TiAlN)および窒化アルミニウムチタン(AlTiN)は、金属元素アルミニウムおよびチタンと、窒素とからなる準安定な硬質被膜のグループを表す。TiAlN層およびAlTiN層の機械特性は、研磨材の機械加工に特に適している。これによって、寿命の延長および機械加工の改善を実現することができる。窒化チタンシリコン(TiSiN)は、工作ツールの高いエッジ保持率および高い耐食性という利点を有し、最終的には寿命および機械加工を向上させる硬質被膜のグループを表す。窒化アルミニウムクロム(AlCrN)層は、熱衝撃に対する優れた耐性と高い熱耐久性を有する。これは、寿命の延長および機械加工の改善という利点をもたらす。
【0027】
好ましい実施形態によれば、耐摩耗性被膜は、AlTiN層とTiSiN層とを含む二層被膜、またはAlTiN層とAlCrN層とを含む二層被膜である。
【0028】
有利なことに、耐摩耗性被膜は、少なくとも1層の窒化物層、または少なくとも1層の炭窒化物層、または少なくとも1層のカルボキシ窒化物層、または少なくとも1層のオキシ窒化物層を含む。場合によって、例えば、切断困難な材料をエンドミル加工する場合、耐摩耗性被膜は、好ましくは、窒化物層のみまたは主に窒化物層を含んでもよい。窒化物層は、殆どの表面を硬化させるという利点を有するため、より高い耐摩耗性を実現することができる。カルボキシ窒化物層は、低い摩擦係数を有すると共に、高い硬度を有する。また、カルボキシ窒化物層は、低い摩擦係数を有すると共に、被膜内で低い固有応力を有する。オキシ窒化物層は、良好な耐薬品性を有する。これらの全ての代替物またはその組み合わせは、寿命の延長および/または機械加工の改善という利点を提供する。
【0029】
さらに、有利なことに、耐摩耗性被膜に含まれる少なくとも1層の耐摩耗性層の化学組成は、少なくとも2つの金属、特にアルミニウムおよびチタンを含む。少なくとも2つの金属を含有する被膜は、金属を含まない被膜または1つのみの金属を含む被膜に比べて、良好な機械特性を有する。アルミニウムおよびチタンは、寿命および機械加工性に関して特に良好な性能を示した。
【0030】
さらに、耐摩耗性被膜に含まれる少なくとも1層の耐摩耗性層の化学組成は、AlTi1-xNであってもよい。式中、xは、0.5~0.9の間の値(すなわち、0.5<x≦0.9)、好ましくは0.6~0.8の間の値(すなわち、0.6≦x≦0.8)を有する。本発明の特性を有するAlTiN被膜は、長い寿命および良好な機械加工性を有する。AlTi1-xN(0.5<x≦0.9の範囲、特に0.6≦x≦0.8)被膜は、特に良好な特性を示し、x=0.66の被膜は、特に好ましい。
【0031】
耐摩耗性被膜に含まれる少なくとも1層の耐摩耗性層の化学組成は、少なくともチタンおよびシリコンを含んでもよく、特に窒素を追加的に含んでもよい。チタンおよびシリコンを含む耐摩耗性被膜は、ツールの表面および/または接着層に対する優れた接着性を有する。さらに、耐摩耗性層に窒素を追加的に組み込むと、被膜の耐薬品性を向上させる。いずれの場合に、寿命が長くなる。
【0032】
耐摩耗性被膜は、0.5~20μm、特に1~7μmまたは5~20μmの層厚を有してもよい。耐摩耗性被膜の厚さは、寿命に大きな影響を及ぼす。被膜が薄すぎると、摩耗が比較的に早くなる。被膜が非常に厚くなると、容易に剥離され得る。本発明の特性を有する耐摩耗性被膜は、層厚が0.5~20μmである場合、特に優れた寿命を示し、層厚が1~7μmまたは5~20μmの範囲にある場合、寿命がさらに改善される。この挙動の代表例は、図面の説明において記載される。
【0033】
さらに、有利なことに、耐摩耗性被膜は、結晶または多結晶構造を有する。結晶または多結晶構造を有する耐摩耗性被膜は、研磨摩耗に対して特に耐性を有するため、寿命を延長する。
【0034】
耐摩耗性被膜は、可変テクスチャを有してもよい。テクスチャは、多結晶試料の結晶方位の分布を指す。可変テクスチャは、少なくとも2つの優勢な方位が存在することを指す。可変テクスチャが耐磨耗性被膜に存在する場合、耐磨耗性被膜の寿命が長くなる。少なくとも2つの層が耐摩耗性被膜に存在する場合、各層は、他の被膜のテクスチャと異なる特定のテクスチャを有してもよい。これによって、堆積処理をより柔軟に行うことができ、ツールの寿命を延長することができる。
【0035】
耐摩耗性被膜は、立方相を示す少なくとも1層の耐摩耗性層を含んでもよい。立方相を示す層を含む耐摩耗性被膜は、硬度の改善および熱安定性の向上という利点を提供する。
【0036】
さらに、有利なことに、耐摩耗性被膜および/または少なくとも1層の耐摩耗性層および/または接着層は、物理気相堆積、特にアーク蒸発を用いて堆積される。物理気相堆積(PVD)を用いて堆積された被膜および層は、電気めっきなどの他のプロセスによって塗布された被膜よりも硬く、より高い耐腐食性を有するという利点がある。さらに、CVDプロセスに比べて、PVDプロセスは、堆積層が本質的に残留引張応力または塩素残留物を有しないという利点を有する。さらに、塗布温度は、通常望ましくない後処理を必要とするCVDプロセスにおいて著しく高い。PVDプロセスにおいてアーク蒸発、特に濾過アーク蒸着を使用することによって、被膜の寿命をさらに改善することができる。
【0037】
また、本発明は、上述した切削困難な材料を機械加工するため、特に切削困難な材料をエンドミル加工するためのツールの用途を含む。本発明の文脈において、切削困難な材料は、具体的に、100℃の温度で180MPa超の降伏強度、好ましくは500MPa超の降伏強度、特に1000MPa超の降伏強度および/または100℃の温度で400MPa超の引張強度、好ましくは800MPa超の引張強度、特に1200MPa超の引張強度を有する材料であると理解することができる。
【0038】
さらに、切削困難な材料を機械加工するためのツールの用途を提供することができる。切削困難な材料は、少なくとも部分的にステンレス鋼またはニッケル系合金(すなわち、インコネル(登録商標)718)である。また、切削困難な材料は、オーステナイト系ステンレススチール、または一定量の強度増強添加剤、例えばクロム、モリブデン、ニッケル、マンガン、炭素、窒素または酸素を含むスチールであってもよい。
【0039】
本発明のさらなる特徴および詳細は、従属請求項、明細書および図面から得られる。本発明の装置に関連して説明された特徴および詳細は、本発明のシステムおよび/または本発明の方法に適用され、その逆も同様である。開示された本発明の個々の態様は、相互に参照されてもよい。
【0040】
本発明を改善するためのさらなる対策は、図面に概略的に示され、本発明を実現するためのいくつかの例の以下の説明から得られる。設計の詳細、空間的配置、および処理ステップを含む、特許請求の範囲、説明、または図面から得られる全ての特徴および/または利点は、それ自体および様々な組み合わせの両方が本発明にとって必須である。なお、図面は、単に説明的ものであり、決して本発明を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明のツールを示す概略図である。
図2】接着層を含む本発明のツールを示す概略図である。
図3】2つの耐摩耗性層を含む本発明のツールを示す概略図である。
図4】被膜の代表的な集合を示す図(図中、弾性係数は、硬度の関数として示される)である。
図5】従来技術の機械特性および本発明の機械特性を有する様々な厚さの代表的な被膜を示す図(図中、ツール寿命は、被膜の厚さの関数として示される)である。
図6】1.3571 SUS316Tiから形成されたワークピースを機械加工するための摩耗の関数として弾性係数を有する代表的な被膜を示す図である。
図7】インコネル718から形成されたワークピースを機械加工するための摩耗の関数として弾性係数を有する代表的な被膜を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1から3は、本発明のツールの例を示す概略図である。以下の図4から7は、本発明のツールの代表的なセットの利点を示すように、測定された代表的なツールおよび被膜の特性を示す。なお、提示された例に示された利点は、本発明の特性を維持できる限り、様々な化学組成、積層方式、および厚さなどを有する他の被膜にも実現することができる。
【0043】
図1は、ワークピース200を機械加工するための本発明のツール100の例を示す。ツールの表面110は、耐摩耗性被膜120によって少なくとも部分的に被覆される。耐摩耗性被膜120は、300~350GPaの弾性係数Eを有すると共に、30GPaを超える硬度Hを有する。ツール100は、耐摩耗性被膜120と異なる機械性質を有し得る少なくとも1つのバルク材料101から形成される。
【0044】
図2は、本発明のツール100の別の例を示す。表面110と耐摩耗性被膜120との間には、接着層130が塗布される。接着層130は、表面110に対する耐摩耗性被膜120の接着性を改善し、10nm~1μmの厚さ、好ましくは10nm~0.5μmの厚さ、特に10nm~0.25μmの厚さを有することができる。代替的にまたは追加的に、接着層の厚さは、耐摩耗性被膜120の厚さよりも小さく、好ましくは少なくとも3倍小さい。層厚が薄くなると、接着性を低下させる可能性があり、層厚が厚くなると、耐摩耗性被膜の機能性を損なう可能性がある。これによって、加工性能の向上という利点を実現することができる。
【0045】
図3は、本発明のツール100のさらなる例を示す。この例において、示された耐摩耗性被膜120は、接着層130に加えて、2層の耐摩耗性層121、122を含む。耐摩耗性層121、122の各々は、300~350GPaの弾性係数Eを有すると共に、30GPaを超える硬度Hを有する。これによって、異なる材料の特性、例えば耐薬品性を組み合わせることができ、最終的には寿命を延長することができる。
【0046】
以下の図面(4~7)は、本発明のツール100の利点を示すために、測定されたツール100および被膜の代表的なセットの特性を示す。
【0047】
図4に示された、上述した本発明の範囲内の弾性係数および硬度を有する全ての被膜に対して、材料の機械加工、特に材料のエンドミル加工、特に切断困難な材料の機械加工時に優れた結果が得られた。これらの結果は、本発明の範囲内の弾性係数および硬度を有しない被膜を使用する場合よりも遥かに良好であった。
【0048】
図4は、カソードアーク堆積技術を用いて堆積されたAlTiN被膜の弾性係数および硬度の範囲値の組み合わせを示す。各々の被膜を堆積するために、4つのAlTiターゲットは、金属材料源として使用される。4つのターゲットは、既知の方法で使用される。各ターゲットは、対応するアーク蒸発器のカソードとして使用され、窒素ガスは、反応性ガスとして使用される。同様の傾向は、他の被膜材料、特にAlCrN、TiSiN並びに少なくとも2つの金属および/または少なくとも1層の窒化物層もしくは少なくとも1層の炭窒化物層もしくは少なくとも1層のカルボキシ窒化物層もしくは少なくとも1層のオキシ窒化物層を含む層の組み合わせにも観察された。
【0049】
本発明に従って、ツール100を提供することができる。当該ツールの耐摩耗性被膜120は、少なくとも1層のTiAlN層、または少なくとも1層のTiSiN層、または少なくとも1層のAlCrN層を含む。代替的にまたは追加的に、耐摩耗性被膜120は、少なくとも1層の窒化物層、または少なくとも1層の炭窒化物層、または少なくとも1層のカルボキシ窒化物層、または少なくとも1層のオキシ窒化物層を含んでもよい。さらに、代替的にまたは追加的に、耐摩耗性被膜120に含まれる少なくとも1層の耐摩耗性層121、122の化学組成は、少なくとも2つの金属、特にアルミニウムおよびチタンを含んでもよい。
【0050】
本発明のツール100において、耐摩耗性被膜120に含まれる少なくとも1層の層121、122の化学組成は、AlTi1-xNであり、xは、0.5~0.9の間の値、好ましくは0.6~0.8の間の値、特に好ましくは0.66という値を有する。代替的にまたは追加的に、耐摩耗性被膜120に含まれる少なくとも1層の耐摩耗性層121、122の化学組成は、少なくともチタンおよびシリコンを含み、特に窒素を追加的に含むことができる。
【0051】
図4に示された被膜の弾性係数および硬度の異なる値を得るために、被膜のパラメータ(例えば、基板温度、バイアス電圧)を変更した。
【0052】
本発明の説明に使用された耐摩耗性被膜の弾性係数および硬度の全ての値は、フィッシャースコープ(FISCHERSCOPE)H100Cを用いて測定した。加えられた負荷力は、10mNwであった。測定は、最大窪みの深さが耐摩耗性被膜120の全体厚さの1%であるように行った。測定を行うために、スチール試料の表面を研磨した後、試験される被膜でそれぞれ被覆した。機械特性およびさらなる被膜特性を確実に測定するために、被膜の厚さは、少なくとも2μmであった。
【0053】
本発明によって達成される大きな改善を示すために、本発明者は、とりわけ、アーク蒸着に属するPVD(物理蒸着技術)を使用することによって、異なる窒化アルミニウムチタン(AlTiN)被膜を堆積させた。
【0054】
堆積されたAlTiNは、30GPaを超える硬度値を有するが、300GPa~350GPaの間の弾性係数値を有しない。
【0055】
以下、本発明および本発明によって達成された技術的改良をより良く説明するために、本発明のいくつかの実施例および比較例をより詳細に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を限定するものではなく、本発明を例示するものとして理解されるべきである。
【0056】
例1-従来例
AlTiターゲットの反応性カソードアーク蒸発によって、従来技術の単層AlTiN被膜をエンドミリングツール上の耐摩耗性被膜として堆積させた。AlおよびTiの蒸気を生成するために、ターゲットは、窒素ガスの存在下で、対応するアーク蒸発器のカソードとして使用された。窒素ガスは、AlTiN被膜を形成するようにAlおよびTiと反応するための反応性ガスとして被覆チャンバに導入された。製造されたAlTiN被膜は、AlTi1-xN(x=0.66)に対応する原子百分率化学組成、400GPaに対応する弾性係数値、および40GPaに対応する硬度値を有する。同様の傾向は、他の被膜材料、特にAlCrN、TiSiN並びに少なくとも2つの金属および/または少なくとも1層の窒化物層もしくは少なくとも1層の炭窒化物層もしくは少なくとも1層のカルボキシ窒化物層もしくは少なくとも1層のオキシ窒化物層を含む層の組み合わせにも観察された。
【0057】
例1の被膜でエンドミリングツールを被膜した。1μm、2μmおよび3μmの膜厚のAlTiN被膜をそれぞれ含むツールを製造するために、AlTiN被膜の膜厚を変更した。同様の傾向は、他の被膜材料にも観察された。
【0058】
例2-発明例
AlTiターゲットの反応性カソードアーク蒸発によって、本発明の単層AlTiN被膜をエンドミリングツール100上の耐摩耗性被膜120として堆積させた。AlおよびTiの蒸気を生成するために、ターゲットは、窒素ガスの存在下で、対応するアーク蒸発器のカソードとして使用された。窒素ガスは、AlTiN被膜を形成するようにAlおよびTiと反応するための反応性ガスとして被覆チャンバに導入された。製造されたAlTiN被膜120は、AlTi1-xN(x=0.66)に対応する原子百分率化学組成、304GPaに対応する弾性係数値、および35GPaに対応する硬度値を有する。物理気相堆積などの別の蒸着プロセスを使用することによって、同様の傾向および本発明の利点を得ることもできる。
【0059】
上記の例1および例2はいずれも、単層構造(すなわち、1層のみを含む構造)を有するように堆積された。しかしながら、前述したように、本発明は、単層構造を有する耐摩耗性被膜120に限定されず、多層構造(すなわち、互いに堆積された2層以上を含む構造)を有する耐摩耗性被膜120を含む。
【0060】
本発明に従って、材料、特に切削困難な材料を機械加工するため、特にエンドミル加工するためのツール100、特にエンドミル上に設けられた耐摩耗性被膜は、上述した本発明の範囲値、すなわち、300GPa≦E<350GPaの弾性係数およびH>30GPaの硬度を示す。本発明の耐摩耗性被膜120が1層以上の耐摩耗性層121、122を含む場合、耐摩耗性層121、122の各々は、300~350GPaの弾性係数を有すると共に、30GPaを超える硬度を有することができる。
【0061】
接着層130は、ツール110の表面と耐摩耗性被膜120との間に堆積させられてもよい。このような接着層130は、被覆されるツール110の表面と耐摩耗性被膜120との接着性を向上させることができる。接着層130は、耐摩耗性被膜120を形成する層(または複数の層)とは異なる範囲値の弾性係数および硬度を有するように設けられてもよい。
【0062】
接着層130を設ける場合、接着層の厚さは、好ましくは1μmを超えない。また、接着層130を使用する場合、接着層130の厚さは、好ましくは耐摩耗性被膜120の厚さを超えない。
【0063】
例1の従来の被膜で被覆されたエンドミリングツールのツール寿命および例2の本発明の被膜で被覆されたエンドミリングツールのツール寿命は、図5に示される。
【0064】
図5に示す結果を生成するために、以下の切削試験パラメータを用いて、異なる被膜厚さを有する例1および例2の耐摩耗性被膜120で被膜されたエンドミリングツール100の切削試験を行った。
- ワークピース材料:1.4571 SUS316Ti
- ツールの種類:直径d=10mmのエンドミル
- 切削パラメータ:Vc=110m/分、f=0.04mm、ap=8mm、ae=4mm、湿潤状態
図5(右側)は、例2に従って製造されたAlTiN被膜は、エンドミーリングツール用の耐摩耗性被膜として使用され、切削困難な材料である1.4571 SUS316Tiを機械加工する時にツール寿命を延長することを示している。また、耐摩耗性被膜の厚さが厚くなるほど、達成されたツール寿命が長くなることが観察され得る。
【0065】
対照的に、図5(左側)は、従来のAlTiN被膜がツール寿命を増加しないことを示している。これらの従来の耐摩耗性被膜の場合、被膜厚さの効果は、完全に逆であり、すなわち、耐摩耗性被膜の厚さが厚くなるほど、ツール寿命が短くなる。
【0066】
図5に示された結果から、付着摩耗が支配的である機械加工、特に切削作業(例えば、ステンレス鋼の機械加工、特にエンドミル加工、またはインコネル(登録商標)の機械加工)の場合、耐摩耗性被膜の厚さを増加させることによって、ツール性能、したがってツール寿命を大幅に増加することができるという結論を得ることができる。しかしながら、本発明に従って耐摩耗性被膜を設ける場合のみ、換言すれば、上述した本発明の範囲内の弾性係数および硬度の値を有する耐磨耗性被膜120を設ける場合のみ、耐摩耗性被膜のより厚い厚さは、有益であり得る。
【0067】
驚くべきことに、本発明の発明者は、耐摩耗性層120の被膜特性、例えば化学組成、(多)結晶構造および(可変)テクスチャを変更することによって、さらなる利点を達成することができることを発見したが、上述の効果は、本特許出願の請求項1に記載され、上述した範囲の弾性係数および硬度の組み合わせ、すなわち、300GPa≦E<350GPaおよびH>30GPaを維持することによって得られる。したがって、同様の傾向は、他の被膜材料、特にAlCrN、TiSiN並びに少なくとも2つの金属および/または少なくとも1層の窒化物層もしくは少なくとも1層の炭窒化物層もしくは少なくとも1層のカルボキシ窒化物層もしくは少なくとも1層のオキシ窒化物層を含む層の組み合わせにも観察され得る。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によれば、耐摩耗性被膜120は、結晶または多結晶構造を有することができる。代替的にまたは追加的に、耐摩耗性被膜120は、可変テクスチャを有することができ、および/または立方相を示すことができる。
【0069】
本発明の好ましい実施形態によれば、耐摩耗性被膜120は、AlTiNからなるまたは主にAlTiNを含有する少なくとも1層を含む。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によれば、耐摩耗性被膜120は、少なくとも2層の耐摩耗性層121、122を含み、2層のうちの一方の層は、AlTiNからなるまたは主にAlTiNを含み、他方の層は、TiSiNからなるまたは主にTiSiNを含む。また、耐摩耗性被膜120は、2層以上の耐摩耗性層121、122を含むことができ、2層以上の耐摩耗性層121、122のうちの少なくとも2層は、同じ化学組成で同じ元素を含み、弾性係数および/または硬度などの機械特性が異なる材料から形成される。代替的にまたは追加的に、耐摩耗性被膜120は、2層以上の層121、122を含むことができ、2層以上の耐摩耗性層121、122のうちの少なくとも2層は、異なる材料から形成される。本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、耐摩耗性被膜120は、2層以上の層121、122を含み、2層以上の層121、122は、化学組成、結晶構造およびテクスチャからなるグループに含まれる材料特性のうちの少なくとも1つで異なる。
【0071】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、耐摩耗性被膜の厚さは、0.5μm~20μm、例えば図3に示すように1μm~7μm、好ましくは5~20μmである。
【0072】
本発明の弾性係数および硬度の組み合わせに関する所望の被覆特性は、採用される被覆プロセスの種類に応じて、被覆パラメータの適切な組み合わせを選択することによって達成することができる。
【0073】
例えば、AlTiN被膜を堆積する場合、本発明の発明者は、バイアス電圧および基板温度の適切な組み合わせの選択が、達成される弾性係数と硬度の組み合わせに大きな影響を及ぼすことを発見した。また、本発明のAlTiN被膜を堆積するための被膜パラメータの適切な組み合わせは、Al含有量にも依存する。
【0074】
図6では、本発明の代表例に従って被覆されたツール100の摩耗挙動を観察することができる。図6に示すように、ツール100は、30GPaを超える硬度と弾性係数(縦軸-左側の指標目盛り)の組み合わせを示す。被膜されたツールは、ステンレス鋼の機械加工によって試験された。24m切削距離後の摩耗写真から摩耗量を測定した。
【0075】
図6に示す結果を生成するために、以下の切削パラメータを使用した。
- ワークピース材料:1.4571 SUS316Ti
- ツールの種類:直径d=10mmのエンドミル
- 切削パラメータ:Vc=110m/分、ft=0.04mm、ap=8mm、ae=4mm、湿潤状態
得られた結果は、代表例にすぎない。同様の傾向は、他の被膜材料、特にAlCrN、TiSiN並びに少なくとも2つの金属および/または少なくとも1層の窒化物層もしくは少なくとも1層の炭窒化物層もしくは少なくとも1層のカルボキシ窒化物層もしくは少なくとも1層のオキシ窒化物層を含む層の組み合わせにも観察された。また、他の蒸着プロセス、ワークピース材料および積層方式を使用することができる。
【0076】
図7では、本発明に従って被覆されたツールの代表例の摩耗挙動を観察することができる。図7に示すように、このツールは、30GPaを超える硬度と弾性係数(縦軸-左側の指標目盛り)の組み合わせを示す。被膜されたツールは、インコネルの機械加工によって試験された。6.8m切削距離後に摩耗量を測定した。
【0077】
図7に示す結果を生成するために、以下の切削パラメータを使用した。
- ワークピース材料:インコネル718
- ツールの種類:直径d=10mmのエンドミル
- 切削パラメータ:Vc=50m/min、ft=0.06mm、ap=5mm、ae=0.5mm、湿潤状態
得られた結果は、代表例にすぎない。同様の傾向は、他の被膜材料、特にAlCrN、TiSiN並びに少なくとも2つの金属および/または少なくとも1層の窒化物層もしくは少なくとも1層の炭窒化物層もしくは少なくとも1層のカルボキシ窒化物層もしくは少なくとも1層のオキシ窒化物層を含む層の組み合わせにも観察された。また、他の蒸着プロセス、ワークピース材料および積層方式を使用することができる。
【0078】
実施形態の上記説明は、例示として本発明を排他的に説明している。言うまでもなく、本発明の範囲を逸脱しない限り、技術的に妥当であれば、設計形態の個々の特徴を自由に組み合わせることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】