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特表2022-520217耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の製造方法、このような耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-29
(54)【発明の名称】耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の製造方法、このような耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/08 20060101AFI20220322BHJP
   C25D 11/10 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C25D11/08
C25D11/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546822
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(85)【翻訳文提出日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2020053715
(87)【国際公開番号】W WO2020165319
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】19157520.8
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521353333
【氏名又は名称】コヴェンツィア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アキル,カン
(72)【発明者】
【氏名】アフシン,ピナル
(72)【発明者】
【氏名】アクダス,ギュネイ
(72)【発明者】
【氏名】クルム,ミハエル
(57)【要約】
本発明は、陽極酸化処理による金属表面調製の分野に関するものであり、耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の製造方法、より詳細には、多段階陽極酸化サイクルを用いることによる、高いシリコン含有量の陽極酸化鋳造アルミニウム部品の最適化に関するものである。更に、本発明は、耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物及びその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a)アルミニウム‐シリコン合金鋳物を準備する工程、及び
b)以下のb1)及びb2):
b1)1~40Vの電圧にて前記鋳物の表面でアルミニウムを酸化するための事前陽極酸化の第1の段階;
b2)25~50Vの電圧にて前記鋳物の表面でアルミニウムとシリコンを酸化するための第2の陽極酸化段階
を含む多段階陽極酸化方法を用いて、前記アルミニウム‐シリコン合金鋳物の表面上に少なくとも部分的に腐食保護層を成長させる工程
を含み、前記の第2の陽極酸化段階b2)の電圧が、事前陽極酸化の前記第1の段階b1)の電圧よりも高いこと、及び、前記第1の段階b1)及び第2の段階b2)が、異なる有機添加剤を含む酸性浴中で行われる
ことを特徴とする耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の製造方法。
【請求項2】
前記第1の段階b1)の間に印加される電圧が5~30V、好ましくは10~20Vであり、及び/又は、前記第2の段階b2)の間に印加される電圧が25~40Vであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の段階b1)が、1~50℃の温度、好ましくは5~30℃の温度、より好ましくは10~20℃の温度で行われ、及び/又は、前記第2の段階b2)が、1~50℃の温度、好ましくは5~30℃の温度、より好ましくは10~20℃の温度で行われることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
これらの2つの段階が、酸性浴中で、好ましくは、硫酸を含む酸性浴中で行われ、この際、硫酸の濃度が、好ましくは50~250g/L、より好ましくは100~200g/Lであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記の酸性浴が、好ましくはシュウ酸、酒石酸、グリコール酸、エチレングリコール及びそれらの組合せからなるグループより選択される有機添加剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
以下の前処理工程の少なくとも1つ:
a)前記のアルミニウム‐シリコン合金鋳物を、酸、好ましくは硝酸、リン酸、硫酸、フッ化物含有酸性媒体及び任意の有機酸からなるグループより選ばれた酸に曝すスマット除去工程で、それらの組合せは、過酸化水素又は過硫酸塩又は硫酸鉄などの任意の触媒に限定されない、
b)前記のアルミニウム‐シリコン合金鋳物を酸に曝す酸前処理工程、
c)前記のアルミニウム‐シリコン合金鋳物を洗浄剤に曝す脱脂工程
が、事前陽極酸化の前記第1の段階b1)よりも前に行われることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法:
【請求項7】
前記第2の陽極酸化段階b2)に続いてシール工程が行われ、当該シール工程が好ましくは以下の工程:
a)前記の陽極酸化アルミニウム合金を90~100℃の温度の水及び/又は界面活性剤に曝してスマットを除去するホットシール;
b)前記の陽極酸化アルミニウム合金を、シール品質を改善するために、酢酸ニッケル又は酢酸マグネシウムなどの任意の有機剤又は金属塩に曝す、中温度シール;
c)前記の陽極酸化アルミニウム合金鋳物を、ニッケル塩及び/又はマグネシウム塩及び/又はクロム塩及び/又はジルコニウム塩、好ましくはフッ化ニッケル及び/又は酢酸ニッケル及び/又は三価クロム及び/又はジルコニウム塩及び/又は酢酸マグネシウム及び/又は水酸化リチウム、より好ましくはフッ化ニッケル及び/又は酢酸ニッケルのグループから選択される金属塩と、少なくとも1つの界面活性剤に曝す第1のシール工程と、前記の陽極酸化アルミニウム合金を、前記表面に形成されたスマットを除去するために脱イオン水及び/又は少なくとも1つの界面活性剤に曝す第2のエージング工程を有するコールドシール
のうちの1つから選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
腐食保護層として、平均厚さが4~90μmの酸化アルミニウム膜を有する耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物であって、基材の表面がゼロスポットを実質的に含まず、これは前記酸化物による当該表面の被覆率が88%を超えることを意味し、この際、前記被覆率及びゼロスポット測定が、フォルクスワーゲンからの2016-12発行のノルムTL 212に従って決定され、前記表面の被覆率が、検査された測定長さのパーセンテージによって決定され、検鏡用薄切片におけるゼロ点幅が60μmを超えてはならない、ことを特徴とするアルミニウム‐シリコン合金鋳物。
【請求項9】
前記の酸化アルミニウム膜が、5~90μm、好ましくは10~50μmの平均厚さを有することを特徴とする請求項8に記載の耐食鋳物。
【請求項10】
前記の酸化アルミニウム膜が、平均最大被膜厚さと平均最小被膜厚さとの比8:1、好ましくは6:1、より好ましくは4:1を有し、前記の比が、SEM 250Xにより300μmの断面の画像を撮影し、最大被膜厚さを有する3点と、最小被膜厚さを有する3点を決定し、それらの厚さを測定し、平均最大被膜厚さと平均最小被膜厚さを計算することによって計算されることを特徴とする請求項8又は9に記載の耐食鋳物。
【請求項11】
前記基材の表面に、ゼロスポットが全く存在しないことを特徴とする請求項8~10のいずれかに1項に記載の耐食鋳物。
【請求項12】
前記の耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物アルミニウム酸化皮膜が、Lについて49~65、aについて-0.7~-0.1、bについて1.7~4、好ましくは、Lについて52~60、aについて-0.5~-0.3、bについて1.8~3.8であるL、a、b値を有することを特徴とする請求項8~11のいずれか1項に記載の耐食鋳物。
【請求項13】
前記酸化アルミニウム膜が、5重量%、好ましくは0.5~2重量%の最大純シリコン濃度を有することを特徴とする請求項8~12のいずれか1項に記載の耐食鋳物。
【請求項14】
前記鋳物が、0.5重量%~70重量%のシリコン、好ましくは5~20重量%、より好ましくは6~15重量%のシリコンを含むことを特徴とする請求項8~13のいずれか1項に記載の耐食鋳物
【請求項15】
前記鋳物が、マグネシウム、鉄、マンガン、チタン、銅、クロム、亜鉛、スズ、ニッケル、鉛、銀、ベリリウム、ビスマス、リチウム、カドミウム、ジルコニウム、バナジウム、スカンジウム、及びこれらの組合せからなるグループより選択されるさらなる金属を含むことを特徴とする、請求項8~14のいずれか1項に記載の耐食鋳物。
【請求項16】
前記鋳物が、AlSi7Mg合金、AlSi10合金、AlSi12(Fe)合金、及びそれらの組み合わせを含むか、又はそれらからなることを特徴とする請求項8~15のいずれか1項に記載の耐食鋳物。
【請求項17】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により得られる、請求項8~16のいずれか1項に記載の耐食鋳物。
【請求項18】
自動車、航空宇宙及び機器産業、特にヒューズボックス、電子部品、フレーム及びブレーキキャリパーのための、請求項8~16のいずれか1項に記載の耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極酸化処理による金属表面製造の分野に関するものであり、しかも、耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の製造方法に関連し、より詳細には、多段陽極酸化サイクルを用いた、シリコン含有量の高い陽極酸化鋳造アルミニウム部品の最適化に関する。さらに、本発明は、耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物及びその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、アルミニウムは、その優れた重量対強度比のために、これまで以上に使用分野として新しい産業、特に自動車産業における用途が見い出される傾向にある。温室効果ガス排出削減のために軽量化を図ろうとする自動車会社は、アルミニウム合金を使用する傾向がある。さらに、重量の軽減は、現在のバッテリーの容量によって強く制限される、電気モビリティのための重要な目標の一つである。現行のバッテリー技術に起因する電気自動車の短い走行距離という欠点を乗り越えるためには、軽量化がこの障害を克服する鍵である。
【0003】
金属間化合物が豊富である鋳造アルミニウム合金は、特に鋼部品に代わる自動車用途で最も利用されるタイプの一つである。しかしながら、アルミニウムは他の全ての金属と同様に、攻撃性イオンの存在下で腐食(特に孔食(pitting corrosion))を受け易くなる。金属間化合物は、酸化膜下で電池対物質(galvanic couples)として作用し、孔食現象を開始する。従って、孔食及び他の局部腐食形態は、それらの偏析組織及び種々の化学組成の合金元素含有量のために鋳造合金にとって本当の問題である。
【0004】
アルミニウムの耐食性を改善するための最も効果的で一般的な方法の中に、アルミニウム上の酸化物層の厚さを増加させる「陽極酸化」方法がある。陽極酸化は、主にアルミニウム、マグネシウム及びチタンに適用される電気化学方法である。この方法では、基材金属上の固有酸化膜の膜厚が厚くなって、表面特性が向上する。陽極酸化処理の概念は、基材に陽極電位を印加することに依存し、それゆえ、表面の溶解に有利である。しかしながら、印加される電位は、表面上の基準電位を不動態化(passivation)に向かってシフトさせ、そのため、酸化膜が成長するのに適した環境を作り出す。
【0005】
陽極酸化の最大の課題の一つは、異物、すなわち合金元素の含有量である。アルミニウムの溶解の間、それらは方法を中断する傾向がある。陽極酸化効率と品質に最も悪影響を及ぼす合金元素の一つはシリコン含有量である。シリコンはその不活性で低導電性の性質のために、基材表面上の障壁のように作用し、酸化物の成長を妨げる。この問題は、ダイキャストプロセスに伴う鋳造性の増加のためにシリコンを添加した高シリコン合金では特に強力になる。比較的不活性な性質のために、シリコンは酸化アルミニウムが成長するのを妨げ、それにより、陽極酸化膜のない領域を作り出し、また、酸化膜の厚さを制限する。一旦プロセスが終了すると、中央にシリコン二次相を有するこれらの空ゾーン(empty zones)が、不連続な陽極酸化膜中に陰極ゾーンを作り出し、耐用期間中の孔食の問題を高める。
【0006】
EP1774067B1には、特にマグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、又はこれらの混合物の表面、又はこのような金属材料を含有する表面又は表面の混合物の、マイクロアーク酸化処理による陽極酸化の方法及び組成物が開示されている。この特許は、孔食の問題及び均一な酸化物膜を得る方法に取り組んでいない。
【0007】
国際公開第2017/089687号には、化学変換処理剤との反応によってストリップの表面上に化学変換被膜を形成する工程を含む、アルミニウム合金ストリップの連続処理のための方法が開示されている。この文献は、アルミニウム合金の表面上に被膜を形成するための、追加のコストを発生させる更なる異なる金属を教示している。
【0008】
L. E. Fratila-Apachitei et al. 2003には、異なる電流波形(すなわち、方形波、ランプ方形波、ランプ‐ダウン及びランプ‐ダウンスパイク)を用いたAl、AlSi10及びAlSi10Cu3の陽極酸化の異なる技術が開示されている。
【0009】
これらの先行技術文献のいずれにも、腐食問題から保護することが可能な均一な酸化アルミニウム膜を得る方法は開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえ、本発明の提起される課題は、耐食性を向上させたアルミニウム合金基材を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この問題は、請求項1に記載の特徴を有する耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の製造方法及び、請求項8に記載の特徴を有する耐食性アルミニウム‐シリコン鋳物によって解決される。請求項17は、耐食性鋳物の使用を提供する。さらなる従属請求項は、好ましい実施形態を表す。
【0012】
腐食保護層として平均厚さ4~90μmの均一な酸化アルミニウム皮膜を有する耐食性アルミニウム‐シリコン合金基材が提供される。本発明の文脈におけるアルミニウム‐シリコン合金は、アルミニウムとシリコンを含むが、マグネシウム、鉄、マンガン、チタン、銅、クロム、亜鉛、スズ、ニッケル、鉛、銀、ベリリウム、ビスマス、リチウム、カドミウム、ジルコニウム、バナジウム、スカンジウム、及びそれらの組み合わせなどのさらなる金属を含むことができる。さらに、前記合金は、0.1重量%までの他の不純物を含んでもよい。
【0013】
この問題を解決するために、本発明は、以下の工程を含む耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物の製造方法を提案する:
a)アルミニウム‐シリコン合金鋳物を準備する工程、及び
b)以下のb1)及びb2)を含む多段階(multi-step)陽極酸化方法を用いて、前記アルミニウム‐シリコン合金鋳物の表面上に少なくとも部分的に腐食保護層を成長させる工程:
b1)1~40Vの電圧にて前記鋳物の表面でアルミニウムを酸化するための事前陽極酸化の第1の段階;
b2)20~50Vの電圧にて前記鋳物の表面でアルミニウムとシリコンを酸化するための第2の陽極酸化段階。
【0014】
前記方法の第2の陽極酸化段階の電圧は、事前陽極酸化の第1段階の電圧よりも高い。
【発明の効果】
【0015】
この技術を使用することによって、前記被膜はより厚くなり、前記方法は古典的な陽極酸化において酸化を減速又は停止させる抑制剤として作用するシリコン二次相の活性化のために、80パーセントまで短縮することができる。これは、この技術を使用することによって、より短い処理時間につながる。
【0016】
また、シール層(封孔層)と組み合わされた、より密で、より厚みのある膜は、優れた耐食性だけでなく、より均一な層を提供し、これは、ゼロスポットを伴わずに、美的により適している。ゼロスポットは、陽極酸化後に表面上に酸化アルミニウム膜がないアルミニウム合金のゾーンである。これらのスポットは、アルミニウム合金中に、アルミニウムにより適した低電圧で酸化しないシリコン金属間化合物が存在することによって生じる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1には、古典的な陽極酸化処理によって生成された表面(図1a)と、2段階の陽極酸化処理を用いて得られた表面(図1b)のOM 200 X断面像が示されている。古典的な陽極酸化処理によって製造されたサンプル(図1a)の表面には、ゼロスポットを見ることができる。しかしながら、2段階の陽極酸化を用いて得られた図1b)のサンプルの表面には、均一でゼロスポットのない陽極酸化物層が見られる。シリコン濃度が高いと、局所的に陽極酸化物の形成が妨げられることがある。ゼロスポットを有する酸化物層によって覆われていないゾーンは、被膜特性に影響を及ぼすことはなく、これは最小85%の酸化物被覆率でのみ可能である。
図2図2には、対照グループとしてのサンプルA(図2a)、硫酸及び独自の有機陽極酸化添加剤で陽極酸化されたサンプルB(図2b)、4分間前処理され、硫酸及び独自の有機陽極酸化添加剤で陽極酸化されたサンプルC(図2c)、ならびに10分間前処理され、硫酸及び独自の有機陽極酸化添加剤で陽極酸化されたサンプルD(図2d)のSEM SEI 500 X断面画像が示されている。
図3図3には、対照グループとしてのサンプルA(図3a)、硫酸及び独自の有機陽極酸化添加剤で陽極酸化されたサンプルB(図3b)、4分間前処理され、硫酸及び独自の有機陽極酸化添加剤で陽極酸化されたサンプルC(図3c)、ならびに10分間前処理され、硫酸及び独自の有機陽極酸化添加剤で陽極酸化されたサンプルD(図3d)のSEM SEI 500 X表面画像が示されている。
図4図4には、ISO 9227に従って480時間NSSに供した後のサンプルA、B、C及びDのNSS結果が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のより特定の実施形態では、第1の段階中に印加される電圧は5~30V、好ましくは10~20Vであり、好ましくは第1の段階の継続時間は2~8分である。この第1の段階は、好ましくは1~50℃の温度で、より好ましくは5~30℃の温度で、最も好ましくは10~20℃の温度で行われる。
【0019】
本発明のより特定の実施形態では、第2の段階中に印加される電圧は25~40Vであり、好ましくは第2の段階の継続時間は2分~20分である。この第2の段階は、好ましくは1~50℃の温度で、より好ましくは5~30℃の温度で、最も好ましくは10~20℃の温度で行われる。
【0020】
本発明のより特定の実施形態では、これらの2つの段階が、異なる有機添加剤を含む酸性浴中で行われる。換言すれば、浴は有機添加剤が相違するにもかかわらず、これらの2つの段階において同じままであり、すなわち、浴が存在する容器は同じままである。工業ライン上で2つの異なる浴(容器)を準備する必要がないので、この実施形態の処理によって、時間及びコストが節約される。
【0021】
本発明のより特定の実施形態では、前記酸性浴は硫酸を含み、浴中の硫酸の濃度は好ましくは50g/L~250g/L、より好ましくは100g/L~200g/L、最も好ましくは150g/L~190g/Lである。
【0022】
本発明の別の実施形態では、事前陽極酸化の第1の段階の前に、アルミニウム合金を酸に曝すスマット除去(desmutting)工程が行われる。スマット除去は、アルミニウム自体に必然的に著しい攻撃を与えることなく、合金金属間化合物種の攻撃から生じる前処理残留物(スマット、smuts)を除去するための化学作用である。
【0023】
本発明のより特定の実施形態では、前記酸は、硝酸、リン酸、硫酸、酸性媒体を含有するフッ化物、及び任意の有機酸からなるグループから選択され、それらの組合せは過酸化水素又は過硫酸塩又は硫酸鉄などの任意の触媒に限定されない。
【0024】
本発明のより特定の実施形態では、スマット除去工程の継続時間は0.1~40分、好ましくは0.5~20分、より好ましくは0.8~10分である。
【0025】
本発明の別の実施形態では、スマット除去工程の前に、アルミニウム合金を酸と接触させることを含む酸前処理工程がある。酸前処理工程の時間は、好ましくは1~40分、より好ましくは2~20分、最も好ましくは3~10分である。この酸前処理工程は、好ましくは60~120℃の温度で、より好ましくは70~100℃の温度で、最も好ましくは80~95℃の温度で行われる。
【0026】
本発明のより特定の実施形態では、前記の酸前処理工程は、6未満、好ましくは4未満、より好ましくは2未満のpHで行われる。
【0027】
本発明の別の実施形態では、前記酸前処理工程の前に、アルミニウム合金を洗浄剤に曝す脱脂工程が行われる。洗浄剤は、好ましくはアルカリ性、酸性又は溶媒ベースの洗浄剤であり、より好ましくは酸性ベースの洗浄剤である。脱脂工程の時間は、好ましくは1~40分、より好ましくは2~20分、最も好ましくは3~15分である。さらに、前記脱脂工程は、好ましくは30~80℃の温度、より好ましくは40~70℃の温度、最も好ましくは50~65℃の温度で行われる。
【0028】
本発明の別の実施形態では、陽極酸化の第2の工程の後に、以下のシール処理A)、B)及びC)のうちの少なくとも1つを含むシール処理(封孔処理)が続いて行われる:
A)前記陽極酸化アルミニウム‐シリコン合金鋳物を、90~100℃の温度の水及び/又は少なくとも1種の界面活性剤に曝してスマットを除去するホットシール(Hot seal)
B)前記陽極酸化アルミニウム‐シリコン合金鋳物を、シール品質を改善するために、酢酸ニッケル又は酢酸マグネシウムなどの任意の有機剤又は金属塩に曝す、中温度シール(Medium temperature seal)
C)以下の工程を含むコールドシール(Cold seal):
1.前記陽極酸化アルミニウム‐シリコン合金鋳物を、ニッケル塩及び/又はマグネシウム塩及び/又はクロム塩及び/又はジルコニウム塩、好ましくはフッ化ニッケル及び/又は酢酸ニッケル及び/又は3価のクロム及び/又はジルコニウム塩及び/又は酢酸マグネシウム及び/又は水酸化リチウム、より好ましくはフッ化ニッケル及び/又は酢酸ニッケルのグループから選択される金属塩、ならびに少なくとも1つの界面活性剤に曝す、コールドシールの第1の工程、及び
2.前記陽極酸化アルミニウム‐シリコン合金鋳物を、脱イオン水又は少なくとも1つの界面活性剤に曝して、表面上に形成されたスマットをすべて除去する第2のエージング工程
【0029】
本発明のより特定の実施形態では、ホットシールの継続時間は10~50分、好ましくは20~40分、より好ましくは25~35分である。このホットシールは、80~130℃の温度、より好ましくは85~120℃の温度、最も好ましくは90~110℃の温度で行われることが好ましい。好ましくは、ホットシールは、4~7のpH、より好ましくは5~6.5のpHで行われる。
【0030】
本発明のより特定の実施形態では、コールドシールの第1の工程の継続時間は5~40分、好ましくは10~30分、より好ましくは15~25分である。コールドシールの第1の工程は、好ましくは10~50℃の温度で、より好ましくは15~40℃の温度で、最も好ましくは20~30℃の温度で行われる。コールドシールの第1工程は、5~7、より好ましくは5.5~6.5のpHで行われることが好ましい。
【0031】
本発明のより特定の実施形態では、エージング工程(第2の工程)の継続時間は1~30分、好ましくは2~20分、より好ましくは5~15分であり、エージング工程は、好ましくは50~100℃の温度、より好ましくは60~90℃の温度、最も好ましくは65~85℃の温度で行われる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、前記の酸化アルミニウム膜は、以下の工程の少なくとも1つ、より好ましくは全てを含む多段階陽極酸化方法によって得られる:
a)脱脂工程、
b)酸前処理工程、
c)スマット除去工程、
d)1~40Vの電圧にて鋳物の表面でアルミニウムを酸化するための事前陽極酸化工程、
e)20~50Vの電圧にて鋳物の表面でアルミニウム及びシリコンを酸化するための第2の陽極酸化工程(この際、当該方法の第2の陽極酸化工程の電圧は、事前陽極酸化の第1工程の電圧より高い)、
f)コールドシール工程、及び
g)エージング工程。
【0033】
さらに、腐食保護層として平均厚さ4~90μmの酸化アルミニウム皮膜を有する耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物。
【0034】
ゼロスポットのパーセンテージは、光学顕微鏡を用いた酸化アルミニウムの表面の1cm2の観察によって決定される。続いて、ゼロスポットの表面が決定され、観察された全表面と比較して、ゼロスポットのパーセンテージが得られる。
【0035】
さらに、事前陽極酸化を用い、一般的な導電率を低下させることによって、より高い電流密度での電気的絶縁破壊の危険性も低減され、生産性が増大し、再加工パーセンテージが低下する。
【0036】
本発明のより特定の実施形態では、酸化アルミニウム膜は1~90μm、好ましくは5~70μm、より好ましくは10~50μmの平均厚さを有する。
【0037】
膜厚はDIN EN ISO 1463に従って決定される。この平均膜厚は、断面上の適切な数の測定点で計算される。断面上の少なくとも3つの局所的な個々の測定値が、各測定点に対して使用されなければならない。
【0038】
本発明のより特定の実施形態では、酸化アルミニウム膜は平均最大被膜厚さと平均最小被膜厚さとの比が8:1、好ましくは6:1の比、より好ましくは4:1の比を有する。
【0039】
この比は、SEM 250Xにより300μmの断面を撮影することにより算出される。次に、最も大きい被膜厚さを有する3点及び最も小さい被膜厚さを有する3点を決定し、それらの厚さを測定する。続いて、平均最大被膜厚さと平均最小被膜厚さを計算することができる。
【0040】
より特定の実施形態では、基材の表面は、ゼロスポットを実質的に含まず、これは、酸化物による表面の被覆率が88%を超える、好ましくは92%を超える、より好ましくはゼロスポットが全く存在しないことを意味しており、ゼロスポットは、好ましくは60μmの最大幅を有する。
【0041】
被覆率とゼロスポット測定は、Volkswagenからの2016-12発行のノルム(norm)TL 212に従って決定される。表面の被覆率は、検査された測定長さのパーセンテージによって決定される。検鏡用薄切片(microsection)におけるゼロ点幅は、60μmを超えてはならない。
【0042】
本発明のより特定の実施形態では、前記酸化アルミニウム膜は5重量%、好ましくは0.5~2重量%の最大純シリコン濃度を有する。
【0043】
本発明のより特定の実施形態では、前記酸化アルミニウム膜中のSi-O対Si比は60%以下ではない。
【0044】
本発明のより特定の実施において、耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物(すなわち、酸化アルミニウム膜で被覆された鋳物)は、光学分光光度法を用いて得られたそのL、a、b値によって特徴付けることができる。これらのL、a、b値は、Lについては49~65、aについては-0.7~-0.1、bについては1.7~4、好ましくはLについては52~60、aについては-0.5~-0.3及びbについては1.8~3.8の間に含まれる。
【0045】
L、a、b値は、BS EN ISO 6719及びBN EN ISO 11664-4に従って決定される。
【0046】
本発明のより特定の実施形態では、前記のアルミニウム合金は0.5~70重量%、好ましくは5~20重量%、より好ましくは6~15重量%のケイ素を含む。
【0047】
本発明のより特定の実施形態では、前記のアルミニウム合金は、マグネシウム、鉄、マンガン、チタン、銅、クロム、亜鉛、スズ、ニッケル、鉛、銀、ベリリウム、ビスマス、リチウム、カドミウム、ジルコニウム、バナジウム、スカンジウム、及びこれらの組み合わせからなるグループより選択されるさらなる金属、好ましくはマグネシウム、鉄、マンガン、チタン、銅、クロム、より好ましくはマグネシウム、鉄からなるグループより選択されるさらなる金属を含む。
【0048】
本発明のより特定の実施形態では、前記のアルミニウム合金は、AlSi7Mg合金、AlSi10合金及びAlSi12(Fe)合金である。
【0049】
この耐食性アルミニウム‐シリコン合金鋳物は、前記のような方法によって得ることが好ましい。
【0050】
以下の図面及び実施例を参照して、本発明による前記主題は、当該主題を本明細書に示される特定の実施形態に限定することを望まずに、より詳細に説明されることが意図される。
【実施例
【0051】
1.サンプル調製
鋳造アルミニウム合金AlSi7Mg、AlSi10及びAlSi12(Fe)サンプルを5X5インチの大きさに切断し、産業界で入手可能な標準的な固有化学物質を用いて脱脂した。第1の組のサンプルを、異なる有機添加剤を含む酸ベースの浴中で直流を用いて陽極酸化した。
【0052】
脱脂は、40g/Lの洗浄用界面活性剤を主成分とするAlumal Clean 118 L中で行う。酸前処理は例えば、100%の純リン酸(濃縮)を用いて行われる。スマット除去は、硝酸中で250g/Lで行われる。陽極酸化のための酸性浴は、200g/lの濃度の硫酸と、30g/lの濃度の有機添加剤Alumal Elox 557とから構成される。
【0053】
陽極酸化後、NSS試験のために選択したサンプルのみを66℃で15分間黒色に着色した。表面調査研究のためのサンプルを、6g/lの濃度及びpH=5.9にてフッ化ニッケルに直接置き、コールドシール処理に続いて、25マイクロシーメンスの導電率を有する脱イオン水を用いた温かいすすぎ浴にかけた。再現性を示すために、結果を3回繰り返した。
【0054】
最後に、酸化アルミニウム膜の特性を改善するために、別の酸前処理を行った。
【0055】
酸化アルミニウム膜を、光学顕微鏡法(OM)と走査型電子顕微鏡法/エネルギー分散分光法(SEM/EDS)と分光測光法(spectrophotometry)とXPSを用いて確認した。耐食性は、天然塩水噴霧(Natural Salt Spray, (NSS))を用いて試験した。
【0056】
L、a、b値はShimadzu UV-2600分光計にて測定し、測定波長は220~1400nmであった。次に、ソフトウェア(COL-UVPC色測定ソフトウェア)にて、分光光度計によって得られたスペクトルから測定対象物の色値を計算する。
【0057】
シリコン金属間化合物の負の効果を示すために、標準陽極酸化サンプルを、偏光下のOMとSEM/EDSで調べた。断面検査のために、上記サンプルを精密カッターで切断し、研磨し、最終的に低温樹脂で成形した。断面SEM研究のために、準備したサンプルを電荷の蓄積を防止するために、少なくとも20秒間、Auでスパッタした。最後に、NSSを、ISO 9227:2017規格に従って、全ての黒色染色部品に最大480時間適用し、腐食の最初の開始及び色の退色を報告した。
【0058】
上記サンプルで使用した種々の条件が、以下の表1~3に記載されている。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
2.サンプルの特徴
サンプルAを対照試料として用い、サンプルB、C及びDと比較する。酸化アルミニウム膜の特性は、図2及び図3に示されるように、SEM断面及び表面分析を用いて調べた。
【0063】
図2a)及び3a)は、サンプルAに属する古典的な陽極酸化処理から得られたものである。比較的不活性な性質であることによるSiの不利益な効果、高シリコン含有ゾーン上の酸化アルミニウム膜成長は弱められ、これにより、不連続で非常に薄い(0.15~0.2ミルまで)酸化物層が生じる。
【0064】
2段階の陽極酸化方法を使用することによって、第2のサンプルセットであるサンプルBは、対照グループサンプルAと同じパラメータを用いて製造された。図2a)と比較して図2b)から分かるように、酸化物成長は、0.47ミルまでより高い厚さを有する。さらに、増加した厚さもまた、図3b)の表面SEM像から分かるように、シリコン金属間化合物の抑制効果と共に逆の作用をし、連続した酸化アルミニウム膜をもたらし、そこでは、シリコン二次相が酸化膜中/酸化膜上にトラップされる。
【0065】
前記の前処理は、図2c)及びd)から分かるように、表面上により密な被膜を有した、0.98ミルから1.37ミルまで酸化物層の厚さをさらに改善することを可能にする。また、これらの表面像は、酸化アルミニウム膜中に大部分埋め込まれているシリコン粒子を有した層の連続性が高められていることを示しており、図3b)のサンプルBよりもはるかに少ない亀裂を示している。前処理時間を4分から10分に増加させたサンプルC及びDについての図2及び3からの画像を比較すると、層の厚さ及び/又は完全性の有意な改善は観察されなかった。しかしながら、図3からの表面画像を見ると、前処理の増白効果(brightening effect)のために、10分の選択により、より滑らかな外観が得られると言うことができる。
【0066】
サンプルB、F、J、K、L、N、O、R、V、W、Yを、この方法によって得られたアルミニウム鋳物のL、a、b値を測定するために用いた。これらの値は、各サンプルについて得られた色について、以下の表4及び表5に見出すことができる。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
鋳造された酸化アルミニウム層の最終的な色は、ベース金属の光沢及び色に依存する。透明な陽極酸化物の色は、耐久性があり美観的に魅力的な最終色を得る主要な条件である。古典的に陽極酸化されたサンプルと、2段階の陽極酸化されたサンプルの色比較を表5に示す。異なる陽極酸化パラメータを用いてサンプルを陽極酸化し、無機金染料(inorganic gold dye)中で着色した。2段階の陽極酸化を用いることによって、より鮮明で透明な色を得ることができる。
【0070】
3.耐食性の判定
異なる表面処理の耐食性への寄与を決定するために、耐食性サンプルをNSS試験に供した。腐食スポットをより明確に見ることができ、また色の退色に対するこの試験の効果を観察することができるように、上記のサンプルを黒色に染色した。
【0071】
NSS試験(表6に示す)からの結果はSEM観察と一致し、最良の腐食挙動が、予想通りにサンプルC及びDについて達成された。サンプルBについては、腐食徴候は検出されなかったが、変色の存在は、色の完全性(integrity)について酸化物フィルムの厚さが重要な役割を果たすことを示した。
【0072】
【表6】
【0073】
NSSの480時間後のサンプルC及びDの良好な性能のために、腐食及び/又は退色の最初の兆候がどこで始まるかを見るための試験を繰り返すために、より大きな面積のサンプルが製造された。
図1a)】
図1b)】
図2a)】
図2b)】
図2c)】
図2d)】
図3a)】
図3b)】
図3c)】
図3d)】
図4a)】
図4b)】
図4c)】
図4d)】
【国際調査報告】