(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-29
(54)【発明の名称】低酸素応答性キメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220322BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220322BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220322BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220322BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220322BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220322BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220322BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220322BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220322BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N5/10
A61P35/00
A61K35/17 Z
A61P37/04
A61K48/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548250
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 GB2020050401
(87)【国際公開番号】W WO2020169974
(87)【国際公開日】2020-08-27
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド,ジェームス ノーブル
(72)【発明者】
【氏名】マーハー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】コスティ,パラスケバス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC48
4C087AA01
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4C087AA03
4C087BB37
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA55
4C087MA56
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、治療剤、特には治療用ポリペプチドおよび低酸素の条件下での選択的発現のための能力を有する核酸、該核酸を組み込んだ細胞および療法における、特に低酸素の条件、例えば、典型的には固形がんにおいて見出される該条件下での選択的発現を要求する方法における、それらの使用に関する。核酸は、新規の低酸素応答性キメラ抗原受容体(CAR)をコードする。本発明はまた低酸素応答性調節性核酸に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)および抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子であって、前記核酸分子の発現が、低酸素応答性調節性核酸により低酸素応答性の方式で調節される、核酸分子。
【請求項2】
前記低酸素応答性調節性核酸が、複数の低酸素応答エレメント(HRE)を含み、から本質的になり、またはからなり、前記複数のHREの各個々のHREが、独立して、(i)少なくとも1つのHIF結合部位(HBS):5’-(A/G)CGT(G/C)-3’(配列番号1)、および任意選択的に(ii)少なくとも1つのHIF補助部位(HAS):5’-CA(C/G)(G/A)(T/C/G)-3’(配列番号2)、および(iii)さらに任意選択的に少なくとも1つのHNF-4部位:5’-TGACCT-3’(配列番号3)を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記HBSおよび存在する場合に前記HASがリンカーにより分離されており、任意選択的に前記リンカーが少なくとも6ヌクレオチドの長さ、例えば6または8ヌクレオチドの長さである、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記複数のHREが、表1(配列番号5~17)に示される少なくとも1つもしくは複数の配列または配列番号5~17のいずれかに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくはより高い配列同一性を有し、かつ表1に示されるもしくは配列番号1および2により表される前記HBSおよび任意選択的にHASを含む配列を含む、請求項2または3に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記複数が、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多くの個々のHREであり、前記個々のHREが、連続的に位置していてもよいかつ/または空間的に分離していてもよい、請求項2~4のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項6】
前記複数が、任意選択的に連続的に位置した、少なくとも3つの個々のHREであり、または前記複数が、任意選択的に連続的に位置した、少なくとも9つの個々のHREである、請求項2~5のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項7】
前記低酸素応答性調節性核酸が、配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26もしくは27またはその機能的断片もしくはそのホモログのいずれかを含み、から本質的になり、またはからなり、前記機能的断片およびホモログが複数のHREを含む、請求項2~6のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項8】
前記低酸素応答性調節性核酸が、配列番号19もしくは26またはそれに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくはより高い配列同一性を有するそのホモログを含む、から本質的になる、またはからなる、請求項2~7のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項9】
前記低酸素応答性調節性核酸が、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクター中、任意選択的にSFGレトロウイルスベクター中に含まれる、請求項2~8のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項10】
前記レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターのエンハンサー領域が、複数のHRE、好ましくは、連続的に位置していてもよいかつ/または空間的に分離していてもよい9つのHREを含むように改変されている、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
前記エンハンサー領域が複数のHREで置き換えられており、かつ任意選択的に前記レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターのプロモーターが改変されていない、請求項9または10に記載の核酸分子。
【請求項12】
前記HREが、以下の酸素応答性遺伝子のいずれか1つもしくは複数またはそのオルソログもしくはパラログ:エリスロポエチン(EPO)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、グルコーストランスポーター(例えばGlut-1)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、アルドラーゼ(ALD)、エノラーゼ(例えばENO3)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、一酸化窒素シンテターゼ(NOS)、ヘムオキシゲナーゼ、筋肉解糖酵素ピルビン酸キナーゼ(PKM)、エンドセリン-1(ET-1)に由来し、前記HREが哺乳動物遺伝子、任意選択的にヒトに由来し、かつ/または人工的に合成されていてもよい、請求項2~11のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項13】
前記ODDが、配列番号28:X
1X
2LEMLAPYIXMDDDX
3X
4X
5により表され、「X
1~5」が任意のアミノ酸残基であることができ、任意選択的に、X
1が「L」または任意の保存的置換であり、X
2が「D」または任意の保存的置換であり、X
3が「F」または任意の保存的置換であり、X
4が「Q」または任意の保存的置換であり、X
5が「L」または任意の保存的置換である、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項14】
前記ODDが、配列番号29、30もしくは31、またはそれに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくはより高い配列同一性を有し、かつ配列番号28を含むそのホモログにより表される、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記ODDが、配列番号5、または配列番号5に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくはより高い配列同一性を有するそのバリアントにより表され、前記機能的断片またはバリアントが配列番号4を含む、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項16】
抗腫瘍特性を有する前記ポリペプチドが細胞外抗原特異的標的化領域を含む、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項17】
抗腫瘍特性を有する前記ポリペプチドが、腫瘍への送達のための1つまたは複数のタンパク質を含み、前記タンパク質が、免疫刺激抗体;細胞活性化および腫瘍殺傷能力を付与する表面もしくは細胞内受容体;T細胞受容体(TCR);免疫調節性サイトカイン(例えば、IL-12、IL-15)、デコイ抗体(例えば、PDアクシス相互作用性抗体)、ならびに/または宿主細胞機能を有益に変更する任意の他の核酸(Lck、TCRゼータ鎖、ZAP70など)を含むがこれらに限定されない、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項18】
抗腫瘍特性を有する前記ポリペプチドが正常酸素条件下で分解される、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項19】
低酸素が、5%より低い、好ましくは3%より低いO
2濃度、または対応する非がん性臓器、組織もしくは細胞のO
2利用可能性もしくは分圧と比べて低減したO
2利用可能性を含み、かつ正常酸素が5%より高いO
2濃度を含む、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項20】
前記CARが、任意選択的に請求項10~12において定義される、少なくとも1つの酸素依存性分解ドメイン(ODD)を含むまたはそれと会合した任意のCARであり、かつ前記CARの発現が請求項2~12のいずれかに記載の調節性核酸配列の制御下にある、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項21】
前記CARが、第1、第2、第3、第4世代CAR、スプリットCAR設計、アーマードCARから選択される、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項22】
前記CARがErbBファミリーの受容体に対して特異性を有する、任意の先行する請求項に記載の核酸分子。
【請求項23】
任意の先行する請求項に記載のCARを含むかつ/または発現する免疫応答細胞であって、任意選択的に以下:(i)腫瘍局在化、例えばケモカイン受容体、(ii)オフターゲット効果を予防すること、(iii)エクスビボ拡大増殖を促すことのいずれか1つまたは複数を促すための少なくとも1つの追加のCARおよび/またはさらなるキメラポリペプチドおよび/またはポリペプチドを含む、免疫応答細胞。
【請求項24】
前記さらなるキメラポリペプチドが、1つまたは複数のODD、例えば、少なくとも1つのODDと組み合わせたインターロイキン(インターロイキン-ODD)を含み、前記インターロイキンが、任意選択的にIL12、IL18、IFNgである、請求項23に記載の免疫応答細胞。
【請求項25】
前記CARが低酸素の条件下で発現され、かつ正常酸素条件下で実質的に発現されず、かつ抗腫瘍特性を有する前記ポリペプチドが正常酸素条件下で実質的に分解される、請求項23または24に記載の免疫応答細胞。
【請求項26】
免疫応答細胞の調製方法であって、
a.対象からリンパ系または骨髄由来細胞を単離すること、
b.前記細胞を改変して、請求項1~22のいずれか1項に記載の核酸分子を導入すること、
c.前記改変された細胞をエクスビボで拡大増殖させること、
d.低酸素の条件下で前記核酸分子を発現することができる拡大増殖された細胞を得ること
を含む、方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法により得られ得る免疫応答細胞。
【請求項28】
リンパ系由来細胞、例えばナチュラルキラー細胞、B細胞またはT細胞、好ましくはT細胞であり、任意選択的に前記免疫応答細胞が骨髄由来細胞、例えばマクロファージまたは好中球であり、任意選択的に前記免疫応答細胞が幹細胞、例えばiPSCである、請求項23~25のいずれかに記載の免疫応答細胞。
【請求項29】
血液または固形がんの治療方法であって、それを必要とする患者に請求項26に記載の方法により得られ得る改変された免疫応答細胞を投与することまたは請求項23~25、28および28のいずれかに記載の改変された免疫応答細胞を投与することを含む、方法。
【請求項30】
前記固形がんが頭頸部扁平細胞癌(HNSCC)である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記固形がんが早期ステージがんである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記投与することが、以下:腫瘍内、静脈内、胸水、腹腔内のいずれかにより実行される、請求項29~31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
請求項26に記載の方法により得られ得る免疫応答細胞または請求項23~25、27および28のいずれかに記載の免疫応答細胞を含む、医薬組成物。
【請求項34】
請求項26に記載の方法により得られ得る免疫応答細胞または請求項23~25、27および28のいずれかに記載の免疫応答細胞ならびに/または請求項33に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項35】
がん、特には固形がんの治療における、請求項26に記載の方法により得られ得る免疫応答細胞の使用または請求項23~25、27および28のいずれかに記載の免疫応答細胞の使用ならびに/または請求項33に記載の医薬組成物の使用。
【請求項36】
持続性CARシグナル伝達の予防における、請求項2~23のいずれかに記載の低酸素応答性調節性核酸の使用および/または請求項1~22のいずれかに記載の核酸の使用。
【請求項37】
少なくとも9つの個々のHREを含む低酸素応答性調節性核酸であって、任意選択的に前記HREがレトロウイルスまたはレンチウイルスベクター中、任意選択的にSFGレトロウイルスベクター中に含まれる、低酸素応答性調節性核酸。
【請求項38】
前記レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターのエンハンサー領域が、前記少なくとも9つのHREを含むように改変されている、低酸素応答性調節性核酸。
【請求項39】
前記レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターのエンハンサー領域が複数のHREで実質的に置き換えられており、かつ任意選択的に前記レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターのプロモーターが改変されていない、請求項37または38に記載の低酸素応答性調節性核酸。
【請求項40】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸分子の発現を駆動するための、請求項37~39のいずれかに記載の低酸素応答性調節性核酸の使用であって、任意選択的に、前記CARが任意選択的に1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)を含むまたはそれと関連付けられている、使用。
【請求項41】
請求項29~32のいずれかに記載の治療に対する対象の好適性を決定する方法であって、前記方法が、少なくとも2、3、4つまたは5つ全ての以下の遺伝子:PGK1、SLC2A1、CA9、ALDOAおよびVEGFAの共発現についてモニターすることを含み、前記対象における前記遺伝子の共発現が治療に対する前記対象の好適性を指し示し、かつ/または、前記方法が、対象からの腫瘍生検の免疫組織化学染色ならびに前記腫瘍もしくは間質中のHIF安定化および/もしくは前記腫瘍のHIF安定化領域へのT細胞浸潤(および/もしくは他の免疫応答細胞の前記浸潤)を評価することを含み、前記腫瘍のHIF安定化領域への前記免疫応答細胞の浸潤が治療に対する対象の好適性を指し示す、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療剤、特には治療用ポリペプチドおよび低酸素応答性発現が可能な核酸、それを組み込んだ細胞および治療的または予防的処置における、特に低酸素の条件、例えば、典型的には固形がん環境中に見出される該条件下での治療剤の選択的発現を要求する方法における、それらの使用に関する。核酸は、新規の低酸素応答性キメラ抗原受容体(CAR)をコードしてもよい。本発明はまた低酸素応答性調節性核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(CAR)または操作されたT細胞受容体(TCR)を発現するように操作されたT細胞は、ヒト身体中のがん細胞を標的化してそれを破壊するように免疫系を再方向付けする有効なやり方である。特にCAR T細胞(CAR-T)療法は、血液がんに対する有効かつ実行可能な治療として大きな見込みを示している。しかしながら、固形がん微環境の複雑性は現行のCAR-Tアプローチに対して課題を提起する。1つの主な障害は腫瘍特異的な標的抗原の不足であり、その非存在は、結果的な副作用と共に正常組織内でのオフターゲットCAR T細胞活性化を結果としてもたらし得る。抗原に結合すると、CARは堅牢なT細胞活性化および標的細胞のその後の細胞溶解性殺傷を開始させる。しかしながら、腫瘍細胞のCAR媒介性殺傷の選択性は現在、CAR抗原の体内分布によってのみ支配されている。現行のアプローチにおいて、CAR T細胞のオンターゲットオフ腫瘍活性化は潜在的に致死的な毒性を結果としてもたらし得るので、腫瘍選択性はしたがってCAR-T療法の成功にとって決定的なものである。
【0003】
低酸素はほとんどの固形腫瘍に特徴的であり、固形腫瘍において腫瘍細胞の増殖性および高い代謝性の要求は、非効率的な腫瘍血管系と共に、健常臓器/組織の酸素供給(5~10%のO2)と比較して不十分な酸素供給(<2%のO2)の状態を結果としてもたらす。臨床的に、低酸素は、予後不良、ならびに化学療法および放射線療法の両方に対する抵抗性と関連付けられている。細胞は、構成的に発現される転写因子低酸素誘導因子アルファ(HIF1α)を通じて低酸素を検出しかつそれに急速に応答するためのエレガントな生物学的機構を進化させてきた。十分なO2の条件下で、HIF1αは、その構造内の酸素依存性分解ドメイン(ODD)中の2つのプロリンのヒドロキシル化を通じて分解される。ヒドロキシル化されたODDはその後にフォンヒッペル-リンドウ腫瘍抑制因子により認識され、これは、HIF1αをユビキチン化し、それによりプロテアソーム分解に対してそれを標的化する、E3ユビキチンリガーゼ複合体の部分を形成する。反対に、限定的O2濃度下でHIF1αは安定化され、核に移行して、そこでHIF1βおよびp300/CBPに結合する。この複合体は次に、転写を開始させるいくつかの低酸素応答性遺伝子のプロモーター領域中の低酸素応答エレメント(HRE)と会合し得る。
【0004】
低い酸素張力を活用する様々ながん療法が開発中であり、これには特に、低酸素特異的遺伝子療法、低酸素活性化プロドラッグ、HIF1相互作用性薬物および偏性嫌気性細菌が含まれる。低酸素は腫瘍微環境を健常な正常酸素組織のそれから区別するので、CAR T細胞発現の誘導のための望ましいマーカーとなる。Juillerat et al.,2017,(Scientific Reports 7,39833)は、ODDと融合したCARを調べた。このアプローチはCAR T細胞に、インビトロの低酸素条件下で腫瘍細胞を殺傷する向上した能力を付与したが、著者らは、正常酸素条件下で残余の腫瘍殺傷を観察しており、システムの望ましくない漏出性を指し示した。
【0005】
オフターゲット効果を低減させるように低酸素の区画に発現を厳密に制限することができる、例えばCARおよびCAR T細胞の形態の、治療用核酸、ポリペプチド、および操作された細胞を開発することが望ましい。これは次いで、治療、特には固形がんの治療を、より広い種類の腫瘍抗原、特には正常組織上の他に腫瘍上に見出される腫瘍抗原に拡張することを可能とする。
【0006】
腫瘍部位において治療剤の発現を駆動および調節することを可能にする技術を向上させることもまた望ましい。
【0007】
治療前に、CAR T細胞療法に対する対象の好適性を決定できるようにすることもまた望ましい。
【発明の概要】
【0008】
本出願人は、1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)および抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むキメラポリペプチドをコードする核酸分子を含む二重酸素感知システムであって、該核酸分子が、複数の低酸素応答エレメント(HRE)を含む、から本質的になる、またはからなる低酸素応答性調節性核酸に作動可能に連結している、システムを発明した。これは、核酸分子が低酸素条件下で発現されるが、正常酸素条件下で無視できる発現を伴うことを可能とする。二重酸素感知システムは、低酸素応答性調節性核酸の作用と組み合わせて、ODDの存在のため、正常酸素条件における、抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドの分解をさらに提供する。核酸分子および/またはキメラポリペプチドは、例えば、キメラ抗原受容体(CAR)中および/または免疫応答細胞中に含まれかつ/または発現されてもよい。1つまたは複数のODDに連結されかつ低酸素応答性調節性核酸の制御下で発現されるCARの組み合わせた使用は本明細書において「hypoxiCAR」と称される。抗腫瘍特性を有するポリペプチドの正常酸素条件における分解を引き起こす1つまたは複数のODDにより付与される能力と共に、実質的に低酸素の条件においてのみ発現を可能とする低酸素応答性調節性核酸の組み合わせた使用は、任意のオフターゲット効果の低減または実質的な排除を可能とする。
【0009】
本出願人はまた、hypoxiCARを用いる治療に対する対象の好適性を決定する方法を開発した。これは、任意の2、3、4または5つの以下の遺伝子:PGK1、SLC2A1、CA9、ALDOAおよびVEGFAの共発現をモニターすることにより為されてもよく、そのような共発現は治療に対する対象の好適性を指し示す。代替的または追加的に、対象からの腫瘍生検は、免疫組織化学的に染色され、かつ腫瘍もしくは間質中のHIF安定化および/または腫瘍のHIF安定化領域へのT細胞もしくは他の免疫応答細胞の浸潤について評価されてもよく、そのようなHIF安定化または腫瘍のHIF安定化領域への免疫応答細胞の浸潤は治療に対する対象の好適性を指し示す。
【0010】
本出願人はまた、本発明の低酸素応答性調節性核酸は、従来の調節性核酸と比べて、固形腫瘍の部位において発現をより良好に駆動および調節できることを発見した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
低酸素応答性調節性核酸
本発明の第1の態様は、複数の低酸素応答エレメント(HRE)を含む、から本質的になる、またはからなる低酸素応答性調節性核酸を提供する。低酸素応答性調節性核酸は、優先的に低酸素の条件下で核酸分子の発現を駆動および調節することができる。
【0012】
低酸素応答性調節性核酸は、複数のHREをその中に導入するように改変された既知の調節性核酸に由来しまたは基づいてもよい。代替的に、複数のHREは単独でそれら自体が、調節機能、すなわち、転写を開始させかつそれに作動可能に連結した核酸分子の発現を駆動する能力を有してもよい。そのような場合、複数のHREは単独で低酸素応答性調節性核酸を構成する。
【0013】
本発明の低酸素応答性調節性核酸は低酸素応答性であり、すなわち、それに作動可能に連結した核酸分子の発現は優先的に低酸素条件下で誘導される。これは、有利なことに、発現が身体の低酸素性領域中、例えば固形腫瘍、低酸素性組織および低酸素性臓器中(地理的標的化);またはある特定の時間的期間の間、例えば低酸素、虚血の期間の間(時間的標的化);またはある特定の環境条件に応答して、例えば条件が低酸素性である場合(環境的標的化もしくはトリガーによる標的化)においてのみ誘導されることを可能とする。本明細書における「優先的」な発現に対する言及は、正常酸素条件に対して選好的に低酸素条件下で発現が駆動されることを意味するものと解釈される。調節性核酸は場合により「漏出性」の発現を有するが、本発明の低酸素応答性調節性核酸は、インビトロおよびインビボの両方で正常酸素条件または組織における活性化の証拠を示さなかった。
【0014】
さらには、低酸素環境において、本発明の調節性核酸は、予想外および有利なことに、SFGプロモーターなどの現行の使用における最も強いレンチウイルスおよびレトロウイルスプロモーターのいくつかよりも強い。結果として、本発明の調節性核酸を使用した場合に、低酸素環境において従来のレトロウイルスおよびレンチウイルスプロモーターを使用した場合に見られる発現レベルと比較して、腫瘍の部位における(すなわち、低酸素環境における)発現レベルの増加が可能である。これは、例えば、一過性もしくは低レベルの低酸素において標的化する場合、または特異的に低酸素性微環境中での治療剤の高い負荷の送達が要求される場合、または低密度抗原を標的化する場合、または弱い治療剤、例えば弱いCARを使用する場合に、特に有利に本発明の調節性核酸を利用する。
【0015】
本発明の低酸素応答性調節性核酸の使用は、腫瘍の部位における発現が所望される応用に限定される必要はない。それらは、低酸素応答性発現が所望される任意の応用のために使用されてもよい。
【0016】
本明細書において定義される「調節性核酸」という用語は、それに作動可能に連結した核酸分子の発現を駆動することができる核酸を指し、「発現を駆動する」は転写の開始を指す。調節性核酸に作動可能に連結した核酸分子の発現はまた転写の調節に依存性であり、該調節は、要因、例えば、(例えば1細胞当たりで発現される導入遺伝子の数により決定されるような)発現の強さ、核酸分子が発現される場所(例えば組織特異的発現)、および核酸分子が発現される時(例えば誘導性発現)を決定する。本明細書において定義される「低酸素応答性調節性核酸」は、したがって、低酸素の条件下でそれに作動可能に連結した核酸分子の発現を優先的に駆動することができる。
【0017】
発現の調節は、転写制御エレメントを介して媒介されてもよく、転写制御エレメントは、一般に、発現される核酸分子の5’隣接または上流の核酸配列中に埋め込まれている。この上流核酸領域は多くの場合に「プロモーター」と称され、その理由は、それは転写開始複合体の結合、形成および/または活性化を促進し、したがって、3’下流の核酸分子の発現を駆動および/または調節することができるからである。
【0018】
「プロモーター」という用語は、本明細書において使用される場合、それらが作動可能に連結した配列の発現をもたらす(駆動および/または調節する)ことができる調節性核酸を指す。「プロモーター」は、古典的なゲノム遺伝子に由来する転写調節性核酸を包含する。通常、プロモーターはTATAボックスを含み、TATAボックスは、転写開始複合体を適切な転写開始の開始部位に方向付けることができる。しかしながら、一部のプロモーターはTATAボックスを有さないが(TATAレスプロモーター)、発現を駆動および/または調節するために依然として十分に機能的である。プロモーターはCCAATボックス配列ならびに追加の調節エレメント(すなわち、上流活性化配列またはシス-エレメント、例えばエンハンサーおよびサイレンサー)を追加的に含んでもよい。(低酸素応答性)「調節性核酸」、「調節配列」および「プロモーター」という用語は本明細書において交換可能に使用される。調節性核酸は、「単離され」ていてもよく、すなわち、その元々の供給源から除去されていてもよい。
【0019】
プロモーターまたは調節性核酸に「作動可能に連結した」に対する本明細書における言及は、発現されるべき核酸分子の発現をプロモーター/調節性核酸が駆動できるような、プロモーター/調節性核酸および該核酸分子の配置および相対的な位置取りを指す。「核酸分子」は、好適には、遺伝子、導入遺伝子、コーディングもしくは非コーディング配列、RNA分子(例えばmRNAもしくはサイレンシング用のRNA分子、例えば(shRNA、RNAi)、調節マイクロRNA(micro-RNA regulation;miR)、触媒性RNA、アンチセンスRNA、RNAアプタマーなど)、発現ベクター、TCR、CAR(第1、第2、第3、第4もしくは任意のその後の世代のCAR)、または任意の他の関心対象の核酸配列であってもよい。
【0020】
低酸素応答性調節性核酸は、複数のHREを含むようにまたは追加のHREを付加するように改変された既知の調節配列であってもよい。複数のHREは、既知のプロモーター(該プロモーターは、追加の調節エレメント、例えば上流活性化配列もしくはシス-エレメント、例えばエンハンサーおよびサイレンサーを含んでもよい)内のいずれの場所に位置していてもよく、低酸素応答性を付与してもよく、または低酸素応答性の既存のレベルを増強してもよい。複数のHREは、既知のプロモーター配列内の挿入であってもよく、かつ/または既知のプロモーターの全てのもしくは1つもしくは複数の部分を置換してもよい。追加的または代替的に、複数のHREは、既知のエンハンサー内の挿入であってもよく、かつ/または既知のエンハンサーの全てのもしくは1つもしくは複数の部分を置換してもよい。複数のHREは、空間的に分離していてもよく、もしくは連続的であってもよく、または両方の組み合わせであってもよい。
【0021】
複数のHREを含むように改変されるプロモーターは、原核性または真核性プロモーター、例えば、以下の機能的断片および最小バージョンを含めて、SFG、hACTB、hEF-1アルファ、CAG、CMV、HSV-TK、hACTB、hACTB-R、LTR、EF1a、SV40、PGK1、Ubc、ヒトベータアクチン、TRE、UAS、Ac5、ポリヘドリン、CaMKIIa、GAL1,10、TEF1、GDS、ADH1、CaMV35S、Ubi、H1、U6、T7、T7lac、Sp6、araBAD、trp、lac、Ptac、pL、NFAT相互作用性プロモーター(IL-2プロモーターなど)から選択されてもよい。複数のHREを含むように改変されてもよい他のプロモーターとしては、Powel et al.,(Discov Med.2015,19(102),49-57)からの以下の表1に列記されるプロモーターが挙げられ、これには、表1に列記されるプロモーターの機能的断片および最小バージョンも含まれる。
【0022】
本発明の低酸素応答性調節性核酸は、複数のHREに加えて別のプロモーターからの1つまたは複数の部分、好ましくは機能的部分を含んでもよい、「ハイブリッドプロモーター」、例えばキメラプロモーターであってもよい。そのような部分の例は、最小プロモーター、活性をさらに増強するためならびに/または空間的および/もしくは時間的発現パターンを変更するための追加の調節エレメントを含む。
【0023】
【0024】
(複数のHREの)各単一のHREエレメントは独立して、任意の順序で、少なくとも1つのHIF結合部位(HBS)および任意選択的に少なくとも1つのHIF補助部位(HIF ancillary site;HAS)を含み、から本質的になり、またはからなり、任意選択的に前記HBSおよびHASはリンカーにより分離されている。好適には、HREはHNF-4部位をさらに含んでもよい。
【0025】
HBSおよびHASの両方を含むHREが好ましいが、HASの存在は任意選択的である。したがって、HREに対する本明細書における任意の言及はまた、HREがHASエレメントを有しないオプションを含む。
【0026】
HIF結合部位(HBS):5’-(A/G)CGT(G/C)-3’(配列番号1)。HBSは任意選択的にACGTGであってもよい。
【0027】
HIF補助部位(HAS):5’-CA(C/G)(G/A)(T/C/G)-3’(配列番号2)。HASは任意選択的にCACAGであってもよい。
【0028】
HNF-4部位:5’-TGACCT-3’(配列番号3)。
【0029】
HBSおよびHAS(存在する場合)は、剛性または柔軟であってもよいリンカーにより分離されていてもよい。好適には、リンカーは少なくとも6ヌクレオチドの長さであり、任意選択的に8ヌクレオチドより長い。好ましくは、リンカーは6または8ヌクレオチドの長さである。
【0030】
リンカーは、酸素応答性遺伝子のプロモーター領域中に天然に見出されるリンカーに対応してもよい。好適なリンカーの例は配列番号4(5’-GTCTCA-3’)に与えられる。他の好適なリンカーは当該技術分野において周知であり、当業者はリンカー設計の原理に精通している。
【0031】
以下の表2は、HREの代表的であるが非限定的な例を示す。HREが由来する遺伝子供給源は左手列に示される。HBSおよびHAS(存在する場合)は太字および下線で示される。
【0032】
【0033】
上記の表2に示されるHRE含有遺伝子に加えて、他の遺伝子供給源としては、アルドラーゼA、アルドラーゼC、HIF-1β、HIF-2β、CTLA-4、PHD2、PHD3、エノラーゼ1、エノラーゼ2、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ1、HIF-3α、1L-10、インターフェロン-γ、リンパ球活性化遺伝子3、ミトコンドリアによりコードされる12S rRNA、6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビホスファターゼ3(fructose-2,6-biphosphatase 3)、ホスホフルクトキナーゼ;ホスホグリセリン酸キナーゼ1、ホスホグルコムターゼ2、ピルビン酸キナーゼ、パーフォリン1、glut1、glut3、トリオースリン酸イソメラーゼ1、血管内皮増殖因子A、フォンヒッペル-リンドウ腫瘍抑制因子が挙げられる。上述の遺伝子は、低酸素への曝露でT細胞中で上方調節されることがGropper et al.,2017(Cell Reports 20,2547-2555)により示された。低酸素応答性調節性核酸中に含まれるHREは、したがって、上述の遺伝子のいずれかまたは表2に列記される遺伝子のいずれかに由来してもよい。代替的に、低酸素応答性調節性核酸中に含まれるHREは人工的に合成されてもよい。
【0034】
低酸素応答性調節性核酸は、表2(配列番号5~17)に示される少なくとも1つもしくは複数の配列または配列番号7~19のいずれかに対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはより高い配列同一性を有する配列であって、表1に示されるようなもしくは本明細書において定義されるような少なくともHBS(および任意選択的にHASも)を含む、本質的にからなる、もしくはからなる配列を含む、本質的にからなる、またはからなるものであってもよい。
【0035】
低酸素応答性調節性核酸は複数のHREを含み、本質的にからなり、またはからなり、各個々のHREエレメントは、任意の順序で以下:
(i)例えば配列番号1により表されるような、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15またはそれより多くのHIF結合部位(HBS)、および任意選択的に
(ii)例えば配列番号2により表されるような、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15またはそれより多くのHIF補助部位(HAS)、および任意選択的に
(iii)例えば配列番号3により表されるような、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15またはそれより多くのHNF-4部位
の任意の組み合わせを含む、本質的にからなる、またはからなる。
【0036】
低酸素応答性調節性核酸は、配列番号1の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多くのコピー、および任意選択的に配列番号2の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多くのコピー、およびさらに任意選択的に配列番号3の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多くのコピーを含む、本質的にからなる、またはからなるものであってもよい。
【0037】
本明細書において定義される「複数」のHREは、単一のHREエレメントの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多くのコピーを意味するものと解釈され、単一のHREエレメントは本明細書において定義される通りである。複数のHREを構成する単一(個々)のHREエレメントは、空間的に分離していてもよく(例えばエレメント、例えばエンハンサー、リンカー、介在性配列により分離されている)、または連続的、もしくは両方の組み合わせであってもよい。有利には、低酸素応答性の強さは、低酸素応答性における増加と相関するHREの数における増加を用いて必要性にしたがって適応されてもよい。
【0038】
1つの実施形態によれば、低酸素応答性調節性核酸または複数のHREは、3つの連続的な「HBS-リンカー-HAS」配列、すなわち、HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HASを含む、から本質的になる、またはからなる。リンカーは、本明細書において定義される通りであるか、または任意の好適なリンカーである。代替的な実施形態において、リンカーは存在せず、またはあらゆるHBS-HASがリンカーにより分離されているわけではない。代替的な実施形態において、HASエレメントは存在しない。
【0039】
1つの実施形態によれば、低酸素応答性調節性核酸または複数のHREは、6つの連続的な「HBS-リンカー-HAS」配列、すなわち、HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HASを含む、から本質的になる、またはからなる。リンカーは、本明細書において定義される通りであるか、または任意の好適なリンカーである。代替的な実施形態において、リンカーは存在せず、またはあらゆるHBS-HASがリンカーにより分離されているわけではない。代替的な実施形態において、HASエレメントは存在しない。
【0040】
1つの実施形態によれば、低酸素応答性調節性核酸または複数のHREは、9つの連続的な「HBS-リンカー-HAS」配列、すなわち、HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HAS-リンカー-HBS-リンカー-HASを含む、から本質的になるまたはからなる。リンカーは、本明細書において定義される通りであるか、または任意の好適なリンカーである。代替的な実施形態において、リンカーは存在せず、またはあらゆるHBS-HASがリンカーにより分離されているわけではない。代替的な実施形態において、HASエレメントは存在しない。
【0041】
各個々のHREエレメントを構成する部分、すなわち、HBS、および任意選択的にHASおよびさらに任意選択的にHNF-4は、任意の順序であってもよい。部分は連続的に位置していてもよく、かつ/または、例えば好適なリンカー、介在性配列などの使用を通じて、空間的に分離していてもよい。連続的な位置取りは本明細書において「タンデムで」または「スタックして」(stacked)と称されることもある。
【0042】
HREまたはHREを構成する部分(すなわち、HBS、および任意選択的にHASおよびさらに任意選択的にHNF-4)は、好適には、好ましくは哺乳動物遺伝子供給源、例えばヒト遺伝子供給源からの、任意の酸素応答性遺伝子に由来してもよく、またはそれらは人工的に合成されてもよい。そのような酸素応答性遺伝子の例としては、とりわけ、表2に列記される遺伝子;低酸素への曝露でT細胞において上方調節されることがGropper et al.,2017(Cell Reports 20,2547-2555)により示されたような本明細書中で上記に列記された遺伝子;エリスロポエチン(EPO)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、グルコーストランスポーター(例えば、Glut-1)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、アルドラーゼ(ALD)、エノラーゼ(例えばENO3)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、一酸化窒素シンテターゼ(NOS)、ヘムオキシゲナーゼ、筋肉解糖酵素ピルビン酸キナーゼ(PKM)、エンドセリン-1(ET-1)が挙げられ、これには上述の任意のもののオルソログまたはパラログが含まれる。「オルソログ」および「パラログ」は、遺伝子の祖先関係性を記載するために使用される進化的概念を包含する相同性の2つの形態である。「パラログ」という用語は、パラロガス遺伝子に繋がる種のゲノム内の遺伝子重複に関する。「オルソログ」という用語は、種分化に起因する異なる生物における相同遺伝子に関する。オルソログおよびパラログは、(相互)blast検索を使用して当業者により容易に同定され得る。
【0043】
複数のHREは、発現ベクター、レトロウイルスベクター、またはレンチウイルスベクター、例えばpELNSなど、またはCARを発現するために好適な任意のベクター内のいずれかの場所に置かれてもよい。任意選択的に、複数のHREは、レトロウイルス発現ベクター中、例えばレトロウイルスプロモーターのプロモーターまたは長鎖末端反復(LTR)中のいずれかの場所に置かれる。複数のHREは、例えばLTR中のいずれかの場所に置かれてもよく、かつ/またはオープンリーディングフレーム(ORF)に並置されてもよい。複数のHREは、例えば、LTR、エンハンサーおよび/またはプロモーターの実質的に全体または部分をHREで置換してもよい。任意選択的に、LRTの3’末端は、複数のHREを含むように改変される。任意選択的に、SFGレトロウイルスベクターの3’LTRは、任意選択的に天然プロモーターまたはその部分を保持しながら、天然のエンハンサーの実質的に全体を複数のHREで置き換えるように改変される。
【0044】
以下の配列番号18は、SFGレトロウイルスベクター中の非改変の3’LTRを示す。
配列番号18
CTGAATATGGGCCAAACAGGATATCTGTGGTAAGCAGTTCCTGCCCCGGCTCAGGGCCAAGAACAGATGGAACAGCTGAATATGGGCCAAACAGGATATCTGTGGTAAGCAGTTCCTGCCCCGGCTCAGGGCCAAGAACAGATGGTCCCCAGATGCGGTCCAGCCCTCAGCAGTTTCTAGAGAACCATCAGATGTTTCCAGGGTGCCCCAAGGACCTGAAATGACCCTGTGCCTTATTTGAACTAACCAATCAGTTCGCTTCTCGCTTCTGTTCGCGCGCTTCTGCTCCCCGAGCTCAATAAAAGAGCCCACAACCCCTCACTCGGGGCGCCAGTCCTCCGATTGACTGAGTCGCCCGGGTACCCGTGTATCCAATAAACCCTCTTGCAGTTGCATCCGACTTGTGGTCTCGCTGTTCCTTGGGAGGGTCTCCTCTGAGTGATTGACTACCCGTCAGCGGGGGTCTTTCA
【0045】
9つのHREを含むように改変されたSFGレトロウイルスベクターのMLVエンハンサー領域を以下に示す。以下の配列番号19は、HRE改変された3’LTRの配列を示す。下線を引いたセクションは、9つの連続的に置かれたHREを示し、単一のHREエレメントは太字下線で指し示される。
【0046】
【0047】
配列番号20~25は、配列番号18および19の構成部分をアノテートする。当業者に明らかなように、全ての構成部分が機能のために必要なわけではない。また、配列番号20~25により表される構成部分の1つまたは複数が、本明細書において定義されるようなハイブリッドプロモーターを作成するために使用されてもよい。
【0048】
MLVプロモーター:配列番号20
GAACCATCAGATGTTTCCAGGGTGCCCCAAGGACCTGAAATGACCCTGTGCCTTATTTGAACTAACCAATCAGTTCGCTTCTCGCTTCTGTTCGCGCGCTTCTGCTCCCCGAGCTCAATAAAAGAGCCCACAACCCCTCACTCGG
【0049】
CCAATボックス:配列番号21
CTAGAGAACCATCAGATGTTTCCAGGGTGCCCCAAGGACCTGAAATGACCCTGTGCCTTATTTGAACTAACCAATCAGTTCGCTTCTCGCTTCTGTTCGCGCGCTTC
【0050】
TATAボックス:配列番号22
TGCTCCCCGAGCTCAATAAAAGAGCCCACAACCCCTCACTCGGGGCGCCAGTCCTCCGAT
【0051】
ポリA部位:配列番号23
TGACTGAGTCGCCCGGGTACCCGTGTATCCAATAAACCCTCTTGCAGTTGCA
【0052】
strong-stop-cDNA用のRNA鋳型:配列番号24
GCGCCAGTCCTCCGATTGACTGAGTCGCCCGGGTACCCGTGTATCCAATAAACCCTCTTGCAGTTGCATCCGACTTGTGGTCTCGCTGTTCCTTGGGAGGGTCTCCTCTGAGTGATTGACTACCCGTCAGCGGGGGTCTTTCA
【0053】
11塩基逆位反復:配列番号25
GGGGTCTTTCA
【0054】
代替的に、複数のHREはそれら自体が十分な調節機能/プロモーター活性、すなわち、転写を開始させかつそれに作動可能に連結した核酸分子の発現を駆動および調節する能力を有してもよく、その場合、複数のHREは単独で低酸素応答性調節性核酸を構成する。複数のHREの各個々のHREエレメントは、空間的に分離されていてもよく(例えばエレメント、例えばエンハンサー、リンカー、介在性配列により分離されている)、または連続的、もしくは両方の組み合わせであってもよい。
【0055】
以下の配列番号26は、複数のHRE自体が低酸素応答性調節性核酸を構成する例を示す。HREの9つの連続的なコピーが示され、単一のHREエレメントに下線を引いている。
【0056】
配列番号26
GGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGACGGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGACGGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGACGGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGACGGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGACGGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGACGGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGACGGCCCTACGTGCTGTCT
【0057】
以下の配列番号27は単一のHREエレメントの例を示し、HBSおよびHASを太字で示している。低酸素応答性調節性核酸は、少なくともHBSおよび任意選択的にHASエレメントを含む配列番号27またはその部分の複数のコピー、例えば、配列番号27またはその部分の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多くのコピーを含む、本質的にからなる、またはからなるものであってもよい。各個々のHREコピーは、空間的に分離していてもよく(例えばエレメント、例えばエンハンサー、リンカー、介在性配列により分離されている)、または連続的(本明細書において「タンデムで」もしくは「スタックして」と称されることもある)、もしくは両方の組み合わせであってもよい。
【0058】
【0059】
本発明はまた、本発明の調節性核酸の機能的断片を提供し、本明細書において定義される該「機能的断片」は、複数のHREを含み、から本質的になり、またはからなり、かつそれに作動可能に連結した核酸分子の発現を駆動および調節する能力を保持する。機能的断片は、それらが由来する、または断片が基づく非改変の配列と同じやり方で(但し、同じ程度ではない可能性がある)発現を駆動および/または調節する能力を保持する。好適な機能的断片は、当業者に周知の標準的な技術を使用して発現を駆動および/または調節するそれらの能力について試験されてもよい。機能的断片は、それらが由来する配列の少なくとも20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345、350、355、360、365、370、375、380、385、390、395、400、405、410、415、420、425、430、435、440、445、450、455、460、465、470、475、480、485、490、495、500またはそれより多くの連続するヌクレオチドを含む。特定の実施形態において、機能的断片は、配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26または27の機能的断片であり、かつ該機能的断片は、本明細書において定義されるような複数のHREを含むまたはからなる。
【0060】
別の実施形態によれば、低酸素応答性調節性核酸は、配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26もしくは27またはその機能的断片もしくはその相補体により表され、またはそれを含む、本質的にからなる、もしくはからなる。
【0061】
低酸素応答性調節性核酸はまた、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26もしくは27のいずれかと、または本明細書において定義されるような機能的断片とハイブリダイズすることができる配列を含む、本質的にからなる、またはからなるものであってもよく、該ハイブリダイズする配列は、複数のHREを含み、から本質的になり、またはからなり、かつそれに作動可能に連結した核酸分子の発現を駆動および調節する能力を保持する。ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、温度および塩濃度の定義された条件下で標的核酸分子にハイブリダイズする核酸分子の能力を指す。典型的には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、ネイティブなデュプレックスの融解温度(Tm)より25℃~30℃以下(例えば20℃、15℃、10℃または5℃)だけ低い。Tmを算出する方法は当該技術分野において周知である。非限定的な例として、ストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成するための代表的な塩および温度条件は、1×SSC、0.5%のSDS、65℃である。略語SSCは、核酸ハイブリダイゼーション溶液において使用される緩衝液を指す。1リットルの20×(20倍濃縮)ストックSSC緩衝溶液(pH 7.0)は175.3gの塩化ナトリウムおよび88.2gのクエン酸ナトリウムを含有する。ハイブリダイゼーションを達成するための代表的な期間は12時間である。
【0062】
低酸素応答性調節性核酸は、配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26もしくは27またはその機能的断片に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはより高い配列同一性を有するホモログを含むまたはからなるものであってもよく、該ホモログは、複数のHREを含む、本質的にからなる、またはからなる。同一性パーセンテージは、アライメントプログラムを使用して算出されてもよい。好ましくは、ペアワイズグローバルアライメントプログラムが使用されてもよく、これはNeedleman-Wunsch(J.Mol.Biol.48:443-453,1970)のアルゴリズムを実行する。このアルゴリズムは、マッチの数を最大化し、かつギャップの数を最小化する。そのようなプログラムは、例えば、GAP、Needle(EMBOSSパッケージ)、stretcher(EMBOSSパッケージ)またはAlign X(Vector NTI suite 5.5)であり、標準的なパラメーター(例えばギャップオープニングペナルティ15およびギャップ伸長ペナルティ6.66)を使用してもよい。代替的に、Smith-Waterman(Advances in Applied Mathematics 2,482-489(1981))のアルゴリズムを実行するローカルアライメントプログラムが使用されてもよい。そのようなプログラムは、例えばWater(EMBOSSパッケージ)またはmatcher(EMBOSSパッケージ)である。
【0063】
本発明の低酸素応答性調節性核酸の他のバリアントまたは配列番号18、19、20、21、22、23、24、25、26もしくは27のバリアントとしては、突然変異バリアント、置換バリアント、挿入バリアント、誘導体、介在性配列を含むバリアント、スプライスバリアントおよびアレルバリアントが挙げられ、該バリアントは複数のHREを含むまたはからなる。
【0064】
核酸の「突然変異バリアント」は、組換えDNAマニピュレーション技術またはヌクレオチド合成を使用して容易に作ることができる。そのような技術の例としては、M13突然変異誘発、T7-Genインビトロ突然変異誘発(USB、Cleveland、Ohio)、QuickChange部位特異的突然変異誘発(Stratagene、San Diego、Calif.)、PCR媒介性部位特異的突然変異誘発または他の部位特異的突然変異誘発プロトコールを介する部位特異的突然変異誘発が挙げられる。代替的に、本発明の核酸は、無作為に突然変異していてもよい。
【0065】
「置換バリアント」は、核酸配列中の少なくとも1つの残基が除去され、異なる残基がその場所に挿入されたバリアントを指す。核酸置換は典型的には単一の残基のものであるが、核酸配列に課される機能的な制約に依存してクラスター化されてもよく、挿入は、通常、約1~約10個の核酸残基のオーダーであり、欠失は約1~約20個の残基の範囲に及び得る。
【0066】
核酸の「挿入バリアント」は、1つまたは複数の核酸残基がその核酸中の予め決定された部位に導入されているバリアントである。挿入は、5’末端および/または3’末端融合の他に、単一または複数のヌクレオチドの配列内挿入を含んでもよい。一般に、核酸配列内の挿入は、約1~10個の残基のオーダーで、5’または3’末端融合よりも小さい。5’または3’末端融合の例としては、酵母2ハイブリッドシステムもしくは酵母1ハイブリッドシステムにおいて使用されるような転写活性化因子の結合ドメインもしくは活性化ドメインの、またはファージコートタンパク質のコーディング配列、(ヒスチジン)6タグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼタグ、プロテインA、マルトース結合タンパク質、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、Tag・100エピトープ、c-mycエピトープ、FLAG(登録商標)-エピトープ、lacZ、CMP(カルモジュリン結合ペプチド)、HAエピトープ、プロテインCエピトープおよびVSVエピトープが挙げられる。
【0067】
核酸の「誘導体」という用語は、天然の核酸と比較して天然に存在するおよび天然に存在しない核酸残基の置換、および/または欠失および/または付加を含んでもよい。誘導体は、例えば、メチル化されたヌクレオチド、または人工的なヌクレオチドを含んでもよい。
【0068】
調節配列は、介在性配列により割り込まれていてもよい。「介在性配列」により、別の配列に割り込んだ任意の核酸またはヌクレオチドが意味される。介在性配列の例は、イントロン、核酸タグ、T-DNAおよび移動可能な核酸配列、例えば組換えを介して移動可能なトランスポゾンまたは核酸を含む。特定のトランスポゾンの例は、Ac(活性化因子)、Ds(解離)、Spm(抑制因子-ミューテーター)またはEnを含む。介在性配列がイントロンである場合、選択的スプライスバリアントが生じることがある。「選択的スプライスバリアント」という用語は、本明細書において使用される場合、介在するイントロンが切除、置き換えまたは付加された核酸配列のバリアントを包含する。そのようなスプライスバリアントは天然に見出されるものであってもよく、または人工的なものであってもよい。
【0069】
本発明の低酸素応答性調節性核酸は、低酸素の条件下で発現を駆動することができ、本明細書において定義される低酸素の条件は、5%より低い(4%、3%、2%、1%、0.5%、0.25%もしくは0.1%より低いもしくはmmHg相当など)のO2濃度または対応する非がん性臓器、組織もしくは細胞のO2利用可能性もしくは分圧と比べて低減したO2利用可能性を意味するものと解釈される。反対に、本明細書において定義される「正常酸素」は、5%より高いO2濃度または健常臓器と関連付けられるO2利用可能性を意味するものと解釈される。当業者は、任意の所与の環境が低酸素または正常酸素のいずれであるのかを容易に決定することができる。プロモーターの想定される使用に依存して、当業者は、低酸素応答性の程度を調整するために異なる数のHREコピーを使用することができ、HREコピーにおける増加は低酸素応答性における増加に相関する。
【0070】
低酸素応答性調節性核酸は、核酸分子の発現を駆動することができ、該核酸分子は、好適には、遺伝子、導入遺伝子、コーディングもしくは非コーディング配列、RNA分子(例えばmRNAもしくはサイレンシング用のRNA分子、例えば(shRNA、RNAi)、調節マイクロRNA(miR)、触媒性RNA、アンチセンスRNA、RNAアプタマーなど)、発現ベクター、および操作された受容体、例えばCAR(第1、第2、第3、第4もしくは任意のその後の世代のCAR)もしくはTCR、または任意の他の関心対象の配列であってもよい。
【0071】
操作された受容体
1つの態様において、低酸素応答性調節性核酸は、操作された受容体の発現を駆動し、該操作された受容体は、免疫応答細胞中で発現される場合、予め決定された抗原特異性を該細胞に付与し、かつ予め決定された抗原への該細胞の結合で、活性化シグナル、および任意選択的に1つまたは複数の共刺激シグナルを該細胞に送出する。典型的な実施形態において、免疫応答細胞は、ナチュラルキラー細胞、インバリアントNKT細胞、NK T細胞、B細胞、T細胞、例えば細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞もしくは制御性T細胞、αβ T細胞、γδ T細胞、または骨髄由来細胞、例えばマクロファージもしくは好中球、幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0072】
操作された受容体をコードするポリヌクレオチドに低酸素応答性調節性核酸を作動可能に連結することは、操作された受容体に低酸素応答性発現を付与し、かつ/またはそれを、免疫応答細胞を固形腫瘍塊に標的化するために好適なものとする。
【0073】
最初期のキメラ抗体-TCRは、Kuwana et al.1987(Biochemical and Biophysical Research Communications,Vol.149,No.3)により作られた。最初期のCARの1つは、Zelig Eshhar et al.,Weizmann Institute,Israel(Gross et al.,1989(PNAS,Vol.86,pp.10024-10028);Eshhar et al.,1993(PNAS,Vol.90,pp.720-724))により開発された。それらの発見に基づいて、細胞内TCRシグナル伝達ドメインを有する抗体からのFab抗原結合領域の融合物はキメラ受容体を生じさせ、これは、T細胞上に発現された場合に機能的であり、指定されたMHC/HLA非依存性抗原に応答してTCRシグナルを送出する。様々な機能性ドメインを含む、CARのモジュール式の構造は、抗原特異性の選択およびシグナル伝達強度の微細な制御を可能にする。CARは単鎖可変断片(scFv)を含むことができ、scFvは、TAAまたは受容体に対するペプチドリガンドまたはペプチドの融合物に特異的な抗体の可変重鎖(VH)および軽鎖(VL)領域、好適なスペーサードメイン、例えばCD8、CD28またはIgG-Fc(その他が当該技術分野において周知である)、膜貫通ドメインならびにエンドドメインを含有する。スペーサーは、効率的なシグナル伝達が起こるようにscFvをT細胞形質膜から最適な距離に置く。これ以外に、スペーサーは、受容体のホモ二量体化、柔軟性ならびに分離および凝集において重要な役割を果たす。シグナル伝達エンドドメインは、ネイティブなTCR活性化のための共刺激を提供するシグナル伝達モチーフを含有するタンパク質から作られている。エンドドメインは、とりわけ、CD3ζ、FcRγ、CD28、OX40および/または4-1BBを含有することができ、これらのドメインの組み合わせは、時間と共により洗練されてきたキメラ受容体の世代を決定する。
【0074】
本発明の第1の態様による低酸素応答性調節性核酸の調節エレメントは、任意の操作された受容体の発現を駆動および調節するために使用されてもよい。
【0075】
追加的に、ある特定の実施形態において、操作された受容体、例えばCARは、本明細書において定義されるような1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)、および抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む。
【0076】
CARのモジュール式の性質に起因して、1つまたは複数のODDまたはキメラポリペプチドは、任意の公知のCAR設計において容易に含めることができ、例えば、それらは、第1、第2、第3、第4もしくはその後の世代のCAR;スプリットCARシステム;TRUCKまたはアーマードCAR(armoured CAR)などに含めることができる。公知のCARは、本明細書において定義されるような1つもしくは複数のODDの包含を通じて、かつ/または本発明の第1の態様による低酸素応答性調節性核酸の使用を通じて、低酸素応答性を付与しまたは低酸素応答性を向上させるように適応されてもよい。
【0077】
第1世代CARは、細胞外結合ドメイン、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、および1つまたは複数の細胞内シグナル伝達ドメインから構成される。一般的に、細胞外結合ドメインは、腫瘍抗原反応性抗体に由来する単鎖可変断片(scFv)を含み、腫瘍抗原に対する高い特異性を通常有する。第1世代CARは、典型的には、シグナルの一次トランスミッターである細胞内シグナル伝達ドメインとしてCD3ζ鎖ドメインまたはその改変された誘導体を含む。
【0078】
第2世代CARもまた、共刺激ドメイン、例えばCD28および/または4-1BBを含有する。細胞内共刺激ドメインの包含は、T細胞の増殖、サイトカイン分泌、アポトーシスに対する抵抗性、およびインビボ持続を向上させる。第2世代CARの共刺激ドメインは、典型的には、1つまたは複数の細胞内シグナル伝達ドメインとシスであり、その上流にある。
【0079】
第3世代CARは、T細胞活性を増大させるために、1つまたは複数の細胞内シグナル伝達ドメインとシスで複数の共刺激ドメインを組み合わせている。例えば、第3世代CARは、CD3zに由来する細胞内シグナル伝達ドメインと共に、CD28および41BBに由来する共刺激ドメインを含んでもよい。他の第3世代CARは、CD3zに由来する細胞内シグナル伝達ドメインと共に、CD28およびOX40に由来する共刺激ドメインを含んでもよい。
【0080】
第4世代CAR(TRUCKまたはアーマードCARとしても公知)は、第2世代CARの発現を、抗腫瘍活性を増強する因子(例えば、サイトカイン、共刺激リガンド、ケモカイン受容体または免疫調節もしくはサイトカイン受容体のさらなるキメラ受容体)と組み合わせている。因子は、CARとトランスまたはシスであってもよく、典型的にはCARとトランスである。
【0081】
CARまたはCARをコードする核酸は、オフターゲット効果、用量制御、活性化の位置およびタイミングに対処するための他の機構を追加的に含んでもよい。例えば、CARをコードする核酸は、自殺遺伝子、例えば単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)もしくは誘導性カスパーゼ9(iCas9)、またはオフターゲット効果を制御するための他の手段を含んでもよい。CAR活性の制御のための他の手段としては、(例えばGiordano-Attinese et al.,2020,Nature Biotechnology Lettersにおいて報告されるような)小分子剤の使用が挙げられる。これらの制御システムは、免疫応答細胞のアポトーシスを誘導するために細胞外分子により活性化され得る。
【0082】
別の例としては、2つまたはそれより多くの抗原特異的標的化領域(本明細書において定義される)を発現するように設計されたCARが挙げられる。CARは、CARの治療機能が腫瘍抗原および良性外因性分子の両方の存在を要求するスプリットCARシステムであってもよい。そのようなシステムは、ODDの配置を制御するために本発明において使用されてもよい。
【0083】
様々な実施形態において、操作された受容体は第1世代CAR、例えばEshhar et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90(2):720-724に記載されるものである。
【0084】
様々な実施形態において、操作された受容体は共刺激キメラ受容体、例えばKrause et al.,J.Exp.Med.(1998)188(4):619-26に記載されるものである。
【0085】
様々な実施形態において、操作された受容体は第2世代CAR、例えばFinney et al.,J.Immunol.(1998)161(6):2791-7;Maher et al.,Nat.Biotechnol.(2002)20(1):70-75;Finney et al.,J.Immunol.(2004)172(1):104-113;およびImai et al.,Leukemia(2005)18(4):676-84に記載されるものである。
【0086】
様々な実施形態において、操作された受容体は第3世代CAR、例えばPule et al.(2005),Mol.Ther.12(5):933-941;Geiger et al.,Blood(2001)98:2364-71;およびWilkie et al.J.Immunol.(2008)180(7):4901-9に記載されるものである。
【0087】
様々な実施形態において、操作された受容体は、Ahmed et al.,Mol.Ther.Nucleic Acids(2013)2:e105に記載されるようなタンデム(Tan)CARである。
【0088】
様々な実施形態において、操作された受容体は、Chmielewski et al.,Cancer Res.(2011),71:5697-5706(2011)に記載されるようなTRUCK CARである。
【0089】
様々な実施形態において、操作された受容体は、Pegram et al.,Blood(2012)119:4133-4141およびCurran et al.,Mol.Ther.(2015)23(4):769-78に記載されるようなArmoured CARである。
【0090】
様々な実施形態において、操作された受容体は、WO2013/019615に記載されるようなスイッチ受容体(Switch Receptor)である。
【0091】
様々な実施形態において、操作された受容体は、他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。
【0092】
これらの一部の実施形態において、操作された受容体は、Stephan et al.Nat.Med.(2007)13(12):1440-49に記載されるような、シスおよびトランスで共刺激を提供するための他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。
【0093】
これらの一部の実施形態において、操作された受容体は、二重標的化CARを提供するための他の操作された構築物、例えばWilkie et al.,J.Clin.Immunol.(2012)32(5):1059-70に記載されるものと共に細胞中で発現される。
【0094】
これらの一部の実施形態において、操作された受容体は、Fedorov et al.,Sci.Transl.Med.(2013)5(215):215ra172に記載されるような、阻害性CAR(NOTゲート)を提供するための他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。
【0095】
これらの一部の実施形態において、操作された受容体は、Kloss et al.,Nat.Biotechnol.(2013)31(1):71-5およびWO2014/055668に記載されるような、コンビナトリアルCAR(ANDゲート)を提供するための他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。
【0096】
これらの一部の実施形態において、操作された受容体は、Foster et al.,(2014),Abstract,http://www.bloodjournal.org/content/124/21/1121?sso-checked=trueに記載されるような、Go-CAR Tを提供するための他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。
【0097】
これらの一部の実施形態において、操作された受容体は、Zhao et al.,Cancer Cell(2015)28:415028に記載されるような、操作された共刺激を提供するための他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。
【0098】
これらの一部の実施形態において、操作された受容体は、Roybal et al.,Cell(2016)164:770-79に記載されるような、SynNotch/連続ANDゲートを提供するための他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。
【0099】
ある特定の好ましい実施形態において、操作された受容体は、WO2017/021701に記載されるような、パラレルCAR(pCAR)を提供するための他の操作された構築物と共に細胞中で発現される。pCARは、
(a)シグナル伝達領域、
(b)共刺激シグナル伝達領域、
(c)膜貫通ドメイン、および
(d)標的抗原上の第1のエピトープと特異的に相互作用する結合エレメント
を含む第2世代キメラ抗原受容体、ならびに
(e)(b)のものとは異なる共刺激シグナル伝達領域、
(f)膜貫通ドメイン、および
(g)標的抗原上の第2のエピトープと特異的に相互作用する結合エレメント
を含むキメラ共刺激受容体
を含んでもよい。
【0100】
様々な実施形態において、操作された受容体は、操作されたT細胞受容体、例えばWO2010/026377、WO2010/133828、WO2011/001152、WO20123/013913、WO2013/041865、WO2017/109496、WO2017/163064、およびWO2018/234319に記載されるものである。
【0101】
実施形態において、CARは、腫瘍床にホーミングまたは浸潤するための手段を含む。例えば、CARは、1つまたは複数のケモカイン受容体を含んでもよい。
【0102】
さらなる操作された受容体を含めることができる。追加の操作された受容体は、腫瘍床にホーミングまたは浸潤するための手段を含むように設計されてもよい。例えば、追加の操作された受容体は、キメラサイトカイン受容体またはケモカイン受容体を含んでもよい。
【0103】
以下にさらに議論されるように、任意の公知のCAR設計または種類、例えば上述の任意のものは、1つもしくは複数のODDの使用を通じて、かつ/または本発明の第1の態様による低酸素誘導性調節配列の使用を通じて、低酸素条件下での発現および調節のための能力を含むように適応されてもよい。
【0104】
低酸素誘導性調節配列の使用および以下にさらに議論されるような1つまたは複数のODDの任意選択的な包含に加えて、CARは、典型的には、以下のI~IVの下で記載される以下の公知の成分を含む。
【0105】
I.細胞外抗原特異的標的化領域(または抗腫瘍特性を有するポリペプチド)
少なくとも1つのODDに加えて、キメラポリペプチドは、本明細書において細胞外抗原特異的標的化領域と称されることもある、抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む。細胞外抗原特異的標的化領域および1つまたは複数のODDは連結していてもよい。
【0106】
腫瘍への送達のためのそのようなタンパク質としては、以下:免疫刺激抗体;細胞活性化および腫瘍殺傷能力を付与する表面または細胞内受容体;T細胞受容体(TCR)のいずれか1つまたは複数が挙げられるがこれらに限定されない。
【0107】
抗原特異的標的化領域は、予め決定された関心対象の抗原に結合する能力をCARに提供する。抗原特異的標的化領域は、好ましくは、臨床的な関心対象の抗原を標的化する。抗原特異的標的化領域は、生物学的分子(例えば細胞表面受容体またはその成分)を特異的に認識して結合する能力を有する任意のタンパク質またはペプチドであってもよい。抗原特異的標的化領域としては、関心対象の生物学的分子の任意の天然に存在する、合成の、半合成の、または組換えにより製造された結合パートナーが挙げられる。実例的な抗原特異的標的化領域としては、抗体もしくは抗体断片または誘導体、受容体の細胞外ドメイン、細胞表面分子/受容体のリガンド、またはその受容体結合ドメイン、および腫瘍結合タンパク質が挙げられる。
【0108】
好ましい実施形態において、抗原特異的標的化領域は、抗体である、または抗体に由来する。抗体由来の標的化ドメインは、抗体の断片または抗体の1つもしくは複数の断片の遺伝子操作された生成物を含むことができ、該断片は抗原との結合に関与する。例としては、可変領域(Fv)、相補性決定領域(CDR)、Fab、単鎖抗体(scFv)、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)および単一ドメイン抗体(VHH)が挙げられる。抗原特異的標的化領域は、追加的または代替的にモノボディを含むまたはからなるまたはそれに由来するものであってもよい。好ましい実施形態において、結合ドメインは単鎖抗体(scFv)である。scFvは、マウス、ヒトまたはヒト化scFvであってもよい。
【0109】
抗体またはその抗原結合断片に関する「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体の重鎖または軽鎖の可変領域中の高度に可変のループを指す。CDRは、抗原コンホメーションと相互作用し、抗原への結合をおおかた決定し得る(但し、一部のフレームワーク領域は結合に関与することが公知である)。重鎖可変領域および軽鎖可変領域はそれぞれ3つのCDRを含有する。「重鎖可変領域」または「VH」は、CDRよりも高度に保存された、CDRをサポートするためのスキャフォールドを形成する、フレームワーク領域として公知の隣接ストレッチの間に挿入された3つのCDRを含有する抗体の重鎖の断片を指す。「軽鎖可変領域」または「VL」は、フレームワーク領域の間に挿入された3つのCDRを含有する抗体の軽鎖の断片を指す。
【0110】
「Fv」は、完全な抗原結合部位を有するための抗体の最小の断片を指す。Fv断片は、単一の重鎖の可変領域に結合した単一の軽鎖の可変領域からなる。「単鎖Fv抗体」または「scFv」は、互いに直接的にまたはペプチドリンカー配列を介して接続された軽鎖可変領域および重鎖可変領域からなる操作された抗体を指す。
【0111】
予め決定された抗原に特異的に結合するCARの抗原結合領域は、当該技術分野において周知の方法を使用して調製することができる。そのような方法としては、ファージディスプレイ、ヒトもしくはヒト化抗体を生成する方法、またはヒト抗体を産生するように操作されたトランスジェニック動物もしくは植物を使用する方法が挙げられる。部分的または全体的に合成の抗体のファージディスプレイライブラリーが利用可能であり、標的分子に結合できる抗体またはその断片についてそれをスクリーニングすることができる。ヒト抗体のファージディスプレイライブラリーもまた利用可能である。抗体のアミノ酸配列またはそれをコードするポリヌクレオチド配列が同定されたら、それを単離および/または決定することができる。
【0112】
本CARにより標的化され得る抗原としては、固形がんと関連付けられる細胞上に発現される抗原が挙げられるがこれらに限定されない。
【0113】
標的化される抗原は限定されないが、以下ならびにその誘導体およびバリアントの1つまたは複数および任意の組み合わせから選択されてもよい:拡張されたErbBファミリー、Erbb1、Erbb3、Erbb4、Erbb2/HER-2、ムチン、PSMA、CEA、メソテリン、GD2、MUC1、葉酸受容体、GPC3、CAIX、FAP、NY-ESO-1、gp100、PSCA、ROR1、PD-L1、PD-L2、EpCAM、EGFRvIII、CD19、GD3、CLL-1、腺管上皮ムチン、Gp36、TAG-72、スフィンゴ糖脂質、神経膠腫関連抗原、ベータ-hCG、AFP(アルファ-フェトプロテイン)およびレクチン反応性AFP、サイログロブリン、終末糖化産物受容体(RAGE)、TERT、テロメラーゼ、カルボキシルエステラーゼ、M-CSF、PSA、サバイビン、PCTA-1、MAGE、CD22、IGF-1、IGF-2、IGF-1受容体、MHC関連腫瘍ペプチド、5T4、腫瘍間質関連抗原、WT1、MLANA、CA 19-9、BCMA、αvβ6インテグリン、ウイルス特異的抗原。
【0114】
好ましい細胞外抗原特異的標的化領域はT1E(Davies et al.,2012,Mol Med 18:565-576)、配列番号32である。その機能的断片およびバリアントであって、バリアントが、配列番号32に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%またはより高い配列同一性を有するものもまた、含まれる。
【0115】
T1Eペプチド(ヒトTGFαおよびEGFに由来する);配列番号32
VVSHFNDCPLSHDGYCLHDGVCMYIEALDKYACNCVVGYIGERCQYRDLKWWELR(配列番号32)。
【0116】
II.細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメインとも称される)
好適な細胞内シグナル伝達ドメインは当該技術分野において公知であり、例えば、例えばLove et al.Cold Spring Harbor Perspect.Biol 2010 2(6)l a002485により総説されるような、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を含む任意の領域が挙げられる。特定の実施形態において、シグナル伝達領域は、例えば米国特許第7,446,190号明細書に記載されるようなヒトCD3[ゼータ]鎖の細胞内ドメイン、またはそのバリアントを含む。
【0117】
細胞内シグナル伝達ドメインはまた、間接的なシグナル伝達のための転写因子であってもよい。
【0118】
細胞内ドメインは、配列番号33またはその機能的断片もしくはバリアントにより表されてもよく、バリアントは、配列番号33に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%またはより高い配列同一性を有する。
【0119】
CD3zまたはCD3ゼータ(細胞内ドメイン);配列番号33
RVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号33)。
【0120】
III.膜貫通ドメイン
CARは、細胞膜の表面上に発現され、したがって典型的には膜貫通ドメインを含む。好適な膜貫通ドメインは当該技術分野において公知であり、例えば、I型、II型またはIII型膜貫通タンパク質のいずれかを含む、膜貫通ドメインを有する任意のタンパク質からの膜貫通配列を含む。CARの膜貫通ドメインはまた人工的な疎水性配列を含んでもよい。CARの膜貫通ドメインは、二量体化しないように選択されてもよい。好適な膜貫通ドメインとしては、CD8α、CD28、CD4またはCD3ζ膜貫通ドメインが挙げられる。
【0121】
実施形態において、膜貫通ドメインは、配列番号34またはその機能的断片もしくはバリアントにより表され、バリアントは、配列番号34に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%またはより高い配列同一性を有する。
【0122】
CD28(膜貫通ドメイン);配列番号34
IEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS(配列番号34)。
【0123】
IV.共刺激ドメイン
好適な共刺激ドメインもまた当該技術分野において周知であり、B7/CD28ファミリーのメンバー、例えばB7-1、B7-2、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H6、B7-H7、BTLA、CD28、CTLA-4、Gi24、ICOS、PD-1、PD-L2もしくはPDCD6;またはILT/CD85ファミリータンパク質、例えばLILRA3、LILRA4、LILRB1、LILRB2、LILRB3もしくはLILRB4;または腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーメンバー、例えば4-1BB、BAFF、BAFF R、CD27、CD30、CD40、DR3、GITR、HVEM、LIGHT、リンホトキシン-アルファ、OX40、RELT、TACI、TL1A、TNF-アルファもしくはTNF RII;またはSLAMファミリーのメンバー、例えば2B4、BLAME、CD2、CD2F-10、CD48、CD58、CD84、CD229、CRACC、NTB-AもしくはSLAM;またはTIMファミリーのメンバー、例えばTIM-1、TIM-3もしくはTIM-4;または他の共刺激分子、例えばCD7、CD96、CD160、CD200、CD300a、CRTAM、DAP12、デクチン-1、DPPIV、EphB6、インテグリンアルファ4ベータ1、インテグリンアルファ4ベータ7/LPAM-1、LAG-3もしくはTSLP Rが挙げられる。
【0124】
実施形態において、CARは複数の共刺激ドメイン、例えば2つまたはそれより多くの共刺激ドメインを含む。一部の実施形態において、共刺激ドメインは、CD28、4-1BBおよび/またはOX40に由来する。
【0125】
実施形態において、共刺激ドメインはCD28であり、またはCD28に由来する。
【0126】
実施形態において、共刺激ドメインは4-1BBであり、または4-1BBに由来する。
【0127】
ODDを含むキメラポリペプチド
1つの実施形態によれば、低酸素応答性調節性核酸は、(i)1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)および(ii)抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むキメラポリペプチドをコードする核酸分子に作動可能に連結している。
【0128】
ODDは、任意のODD含有タンパク質、例えばATF-4、HIF1-アルファ、HIF2-アルファおよびHIF3-アルファに由来してもよく、これらは、哺乳動物供給源、例えばヒト供給源からのものであってもよく、または人工的に作成されてもよい。
【0129】
ODDは、配列番号28(X1X2LEMLAPYIXMDDDX3X4X5)(ここで「X1~5」は任意のアミノ酸残基であり得る)により表されてもよい。任意選択的に、X1は「L」または任意の保存的置換であり、X2は「D」または任意の保存的置換であり、X3は「F」または任意の保存的置換であり、X4は「Q」または任意の保存的置換であり、X5は「L」または任意の保存的置換である。
【0130】
任意選択的に、ODDは、配列番号29、30もしくは31、または配列番号29、30もしくは31に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくはより高い配列同一性を有するそのホモログもしくはバリアントにより表されてもよく、ホモログまたはバリアントは配列番号28を含む。
【0131】
配列番号29(HIF1-アルファアミノ酸401~603、配列番号28を太字としている)
【0132】
配列番号30(HIF1-アルファアミノ酸530~603、配列番号28を太字としている)
【0133】
配列番号31(HIF1-アルファアミノ酸530~653、配列番号28を太字としている)
【0134】
追加的または代替的に、ODDは、配列番号29、30もしくは31、または配列番号29、30もしくは31に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%もしくはより高い配列同一性を有しかつ配列番号28を含むそのホモログもしくはバリアントをコードする核酸によりコードされてもよい。
【0135】
本明細書において定義される「ホモログ」は、配列番号29、30または31に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはより高い配列同一性を有し、かつ配列番号27を含む。この文脈における(および本出願中の他の箇所において言及される)同一性は、塩基配列として例えば配列番号29、30または31を用いて、BLASTPコンピュータプログラムを使用して決定されてもよい。BLASTソフトウェアはhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi(2009年3月12日時点でアクセス可能)において公開されている。
【0136】
より一般には、他に記載されなければ、「バリアント」という用語は、本明細書において言及される場合、鎖内の1つまたは複数のアミノ酸が挿入、除去または置き換えされた、基本的な配列の天然に存在する多型形態であるポリペプチド配列の他に合成バリアントを指す。バリアントは、基本的な配列の生物学的効果に類似した生物学的効果を生じさせる。
【0137】
アミノ酸置換は、アミノ酸が、大まかに類似した特性を有する同じクラス中の異なるアミノ酸で置き換えられる場合に「保存的」とみなされ得る。非保存的置換は、アミノ酸が、異なる種類またはクラスのアミノ酸で置き換えられる場合である。
【0138】
アミノ酸クラスは以下のように定義される:
クラス アミノ酸の例
非極性: A、V、L、I、P、M、F、W
非荷電極性: G、S、T、C、Y、N、Q
酸性: D、E
塩基性: K、R、H。
【0139】
当業者に周知のように、ペプチドの一次構造を保存的置換により変更することは、そのペプチドの活性を有意に変更しないことがあり、その理由は、配列に挿入されるアミノ酸の側鎖は、置換除去されたアミノ酸の側鎖と類似した結合および接触を形成できることがあるためである。置換がペプチドのコンホメーションの決定において不可欠な領域中にある場合にもこれはその通りである。
【0140】
非保存的置換はまた、これらが上記のようなポリペプチドの機能を妨害しないという条件で可能なことがある。大まかに言えば、より少数の非保存的置換はポリペプチドの生物学的活性を変更することなく可能である。
【0141】
低酸素応答性調節性核酸は、1つまたは複数のODDを含むキメラポリペプチドをコードする核酸分子に作動可能に連結している。キメラポリペプチドは、例えば、配列番号29、30および31のいずれか、ならびに配列番号28を含む本明細書において定義されるようなそのホモログおよびバリアントにより表されるような、少なくとも1、2、3、4、5またはそれより多くのODDを含んでもよい。1つより多くのODDの使用が想定される場合、それらは、同じ構築物中または別々の構築物中に提供されてもよく、同じ構築物上の場合、それらは連続的であってもよく、または空間的に分離していてもよい。
【0142】
1つまたは複数のODDは、ポリペプチドまたは核酸(RNAを含む)中のいずれかの場所に位置していてもよい。例えば、それらは、CもしくはN末端においてまたはポリペプチド鎖の間のいずれかの場所において、ポリペプチド鎖に直接的に取り付けられているか、またはリンカーを使用してポリペプチド鎖に連結されているかのいずれかで、位置していてもよく、ポリペプチドは抗腫瘍特性を有する。好適なリンカーは当該技術分野において周知であり、剛性または柔軟であってもよい。1つの実施形態において、ODDは、任意選択的にCARのC末端に融合して、CARに含まれてもよい。
【0143】
本発明のポリペプチドおよびそれをコードする核酸、CARならびに免疫応答細胞は、二重感知/二重発現、すなわち、固形がん環境中に見出されるような低酸素の条件下で腫瘍標的化ポリペプチドの活性または発現を引き起こすが、正常酸素環境中でほとんどまたは全く活性または発現を有しないことが可能である。これは、本発明の第1の態様に記載の低酸素応答性調節性核酸により駆動される発現と組み合わせたODDによりもたらされるような抗腫瘍特性を有するポリペプチドの分解のおかげである。
【0144】
本発明の第1の態様による低酸素応答性調節性核酸は、1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)および抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むキメラポリペプチドをコードする核酸分子の発現を調節することができる。キメラポリペプチドの発現は、1つまたは複数のODDと組み合わせた調節配列の作用のおかげで低酸素応答性の方式で制御され、システムの厳密性は、例えば、HREコピーの数および/またはODDの数を調整することにより調整され得る。
【0145】
少なくとも1つのODDに加えて、キメラポリペプチドは、抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む。腫瘍への送達のためのそのようなタンパク質としては、以下:免疫刺激抗体;細胞活性化および腫瘍殺傷能力を付与する表面または細胞内受容体;T細胞受容体(TCR)、NK受容体、Toll様受容体のいずれか1つまたは複数が挙げられるがこれらに限定されない。抗腫瘍特性を有するポリペプチドと会合して、例えば細胞内シグナル伝達を促す、補助受容体もまた挙げられる。
【0146】
1つの実施形態によれば、核酸によりコードされるキメラポリペプチドはCARポリペプチド配列を含むまたはからなる。本発明のさらなる態様は、その発現が本発明の第1の態様による調節性核酸配列により駆動され、そしてまた1つまたは複数のODDおよび抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む、CARを提供する。
【0147】
本発明によるCARの例が以下において提供され、アミノ酸配列(配列番号35)および対応するヌクレオチド配列(配列番号36)が提示され、それにおいてCSF1-Rリーダー配列(任意選択的な追加のグリシンを含む)を太字および下線としており、T1Eペプチド(ヒトTGFαおよびEGFに由来する)を太字としており、CD28(細胞外、膜貫通および細胞内ドメイン)を斜体としており、CD3ζ(細胞内ドメイン)に下線を引いており、ODDドメイン(ヒトHIF1-アルファに由来する)を灰色の影付きとしている。
【0148】
T1E28z CARおよび融合したODDアミノ酸配列(配列番号35)
【0149】
【0150】
ポリヌクレオチド
本発明の1つの態様によれば、キメラポリペプチドをコードする核酸分子が提供され、該キメラポリペプチドはCARを含んでもよい。
【0151】
本発明のポリヌクレオチドはDNAまたはRNAを含んでもよい。それらは一本鎖または二本鎖であってもよい。多数の異なるポリヌクレオチドは遺伝コードの縮重の結果として同じポリペプチドをコードできることが当業者により理解されるであろう。追加的に、当業者は、常用の技術を使用して、本発明のポリペプチドが発現されるべき任意の特定の宿主生物のコドン用法を反映するために本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド配列に影響しないヌクレオチド置換を行ってもよいことが理解されるべきである。
【0152】
ポリヌクレオチドは、当該技術分野において利用可能な任意の方法により改変されてもよい。そのような改変は、本発明のポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を増強するために実行されてもよい。
【0153】
ポリヌクレオチド、例えばDNAポリヌクレオチドは、組換えにより、合成的に、または当業者に利用可能な任意の手段により製造されてもよい。それらはまた、標準的な技術によりクローニングされてもよい。
【0154】
より長いポリヌクレオチドは、一般に、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を使用して、組換え手段を使用して製造される。これは、クローニングが所望される標的配列に隣接する(例えば約15~30ヌクレオチドの)プライマーのペアを作ること、プライマーを、動物またはヒト細胞から得られたmRNAまたはcDNAと接触させること、所望の領域の増幅をもたらす条件下でポリメラーゼ連鎖反応を行うこと、増幅された断片を(例えば、アガロースゲルを用いて反応混合物を精製することにより)単離することおよび増幅されたDNAを回収することを伴う。プライマーは、増幅されるDNAを好適なベクターにクローニングできるような好適な制限酵素認識部位を含有するように設計されてもよい。
【0155】
本ポリヌクレオチドは、選択マーカーをコードする核酸配列をさらに含んでもよい。好適な選択マーカーは当該技術分野において周知であり、蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)が挙げられるがこれに限定されない。選択マーカーをコードする核酸配列は、ポリシストロン性核酸構築物の形態で本CARをコードする核酸配列と組み合わせて提供されてもよい。そのような核酸構築物はベクター中で提供されてもよい。
【0156】
CARおよび選択マーカーをコードする核酸配列は、別々の実体としての各ポリペプチドの発現を可能にする共発現部位により分離されていてもよい。
【0157】
好適な共発現部位は当該技術分野において公知であり、例えば内部リボソーム進入部位(IRES)および自己切断性ペプチドが挙げられる。
【0158】
さらなる好適な共発現部位/配列としては、自己切断または切断ドメインが挙げられる。
【0159】
そのような配列は、タンパク質製造の間に自己切断してもよく、または細胞中に存在する一般的な酵素により切断されてもよい。よって、ポリペプチド配列中にそのような自己切断または切断ドメインを含めることは、第1および第2のポリペプチドが単一のポリペプチドとして発現され、それがその後に切断されて、別々の分離された機能的なポリペプチドを提供することを可能にする。
【0160】
選択マーカーの使用は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターが成功裏に導入された(それにより、コードされるCARが発現される)細胞が、一般的な方法、例えばフローサイトメトリーを使用して出発細胞集団から選択および単離されることを可能とするので、有利である。
【0161】
コドン最適化
本発明において使用されるポリヌクレオチドはコドン最適化されていてもよい。コドン最適化は、WO1999/41397およびWO2001/79518において以前に記載されている。
【0162】
異なる細胞は特定のコドンの用法において異なる。このコドンバイアスは、細胞種における特定のtRNAの相対的な存在量におけるバイアスに対応する。対応するtRNAの相対的な存在量とマッチするように配列中のコドンを変更することにより、発現を増加させることが可能である。同様に、対応するtRNAが特定の細胞種において希少であることが公知であるコドンを故意に選択することにより、発現を減少させることが可能である。そのため、追加の程度の翻訳制御が利用可能である。
【0163】
ベクター
本発明のさらなる態様は、本発明のポリヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。
【0164】
ベクターは、1つの環境から別の環境への実体の移動を可能とするまたは促すツールである。本発明によれば、および例として、組換え核酸技術において使用される一部のベクターは、実体、例えば核酸のセグメント(例えば異種DNAセグメント、例えば異種cDNAセグメント)が標的細胞中に移動させられることを可能とする。ベクターは非ウイルス性またはウイルス性であってもよい。組換え核酸技術において使用されるベクターの例としては、プラスミド、mRNA分子(例えば、インビトロで転写されるmRNA)、染色体、人工染色体およびウイルスが挙げられるがこれらに限定されない。ベクターはまた、例えば、ネイキッドの核酸(例えばDNA)であってもよい。その最も単純な形態において、ベクターはそれ自体が関心対象のヌクレオチドであってもよい。
【0165】
本発明において使用されるベクターは、例えば、プラスミド、mRNAまたはウイルスベクターであってもよく、ポリヌクレオチドの発現のためのプロモーターおよび任意選択的にプロモーターの調節因子を含んでもよい。
【0166】
本発明のポリヌクレオチドを含むベクターは、当該技術分野において公知の様々な技術、例えば形質転換および形質導入を使用して細胞に導入されてもよい。いくつかの技術が当該技術分野において公知であり、これは例えば、組換えウイルスベクター、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、バキュロウイルスおよび単純ヘルペスウイルスベクターを用いた感染;核酸の直接注射ならびに微粒子銃形質転換である。
【0167】
非ウイルス送達システムとしてはDNAトランスフェクション方法が挙げられるがこれに限定されない。ここで、トランスフェクションとしては、非ウイルスベクターを使用して遺伝子を標的細胞に送達する方法が挙げられる。
【0168】
典型的なトランスフェクション方法としては、エレクトロポレーション、DNA微粒子銃、脂質媒介性トランスフェクション、コンパクト化DNA媒介性トランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性剤媒介性トランスフェクション、陽イオン性面両親媒性物質(CFA)(Nat.Biotechnol.(1996)14:556)およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0169】
トランスフェクションのための他の方法としては、DNA、RNA、mRNA、タンパク質、プラスミド、トランスポザーゼ活性を有するタンパク質、DNAを切断する能力を有するタンパク質(例えば、sgRNA(スモールガイドRNA)に結合したCasタンパク質)、核酸を編集するための分子、例えば、単独でのまたはガイドRNA(gRNA)に連結したCas9タンパク質が挙げられる。
【0170】
例えば、遺伝子ノックアウト、ノックインもしくは遺伝子の発現の下方調節もしくは過剰発現を引き起こすため、または1つもしくは複数の欠失、挿入もしくは置換の形態で突然変異を導入するために、核酸を編集するための様々な方法が当該技術分野において公知である。例えば、様々なヌクレアーゼシステム、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、またはこれらの組み合わせの使用が核酸を編集するために当該技術分野において公知であり、これらは本発明において使用されてもよい。最近では、clustered regularly interspersed short palindromic repeats(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼシステムがゲノム操作のためにより一般的に使用されている。CRISPR/Casシステムは、例えば、WO2013/176772、WO2014/093635およびWO2014/089290において詳述されている。
【0171】
例えば、CRISPR/Cas9は、Cas9に対する結合部位を有するガイドRNA(gRNA)配列および改変されるべき区画に特異的な標的化配列を含んでもよい。Cas9はgRNAに結合して、標的区画に結合してそれを切断するリボ核タンパク質を形成する。CRISPR/Cas 9プラットフォーム(これはII型CRISPR/Casシステムである)に加えて、I型CRISPR/Casシステム、III型CRISPR/Casシステム、およびV型CRISPR/Casシステムを含む、代替的なシステムが存在する。本発明のポリヌクレオチド配列を含むベクターを調製するために上記のCRISPRシステムのいずれかが使用されてもよい。
【0172】
免疫応答細胞
さらなる態様で本発明は、1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)および抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むキメラポリペプチドをコードする核酸分子を含む免疫応答細胞を提供する。複数の核酸は、IRESまたは自己切断2Aペプチドにより分離された2シストロン性またはポリシストロン性ベクターの形態で前記低酸素応答性調節性核酸に作動可能に連結され得る。さらなる態様において、本発明は、免疫応答細胞中の1つまたは複数の酸素依存性分解ドメイン(ODD)および抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むCARを提供する。
【0173】
1つの実施形態において、免疫応答細胞は、CARをコードする核酸を発現することができる。これらの細胞は「操作された細胞」であり、すなわち、細胞は、該細胞により天然にコードされないポリヌクレオチドを含むまたは発現するように改変されている。代替的に、操作された細胞は、天然に発現されるポリヌクレオチドを過剰発現するようにまたは天然の発現を低減/サイレンシングさせる(例えばshRNAを用いたノックダウン)ように改変されてもよい。細胞を操作する方法は当該技術分野において公知であり、例えば形質導入、例えばレトロウイルスまたはレンチウイルス形質導入、トランスフェクション(例えばDNAまたはRNAベースの一過性トランスフェクション)、例えばリポフェクション、ポリエチレングリコール、リン酸カルシウムおよびエレクトロポレーションによる、細胞の遺伝子改変が挙げられるがこれらに限定されない。核酸配列を細胞に導入するために任意の好適な方法が使用されてもよい。
【0174】
よって、本明細書に記載されるようなCARをコードする核酸分子は、対応する非改変の細胞により天然に発現されない。好適には、操作された細胞は、そのゲノムが、例えば形質導入またはトランスフェクションにより、改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、そのゲノムがレトロウイルス形質導入により改変された細胞である。好適には、操作された細胞は、そのゲノムがレンチウイルス形質導入により改変された細胞である。
【0175】
本明細書において使用される場合、「導入される」という用語は、外来DNAまたはRNAを細胞に挿入する方法を指す。本明細書において使用される場合、導入されるという用語は、形質導入およびトランスフェクションの両方の方法を含む。トランスフェクションは、非ウイルス的方法により核酸を細胞に導入する方法である。形質導入は、ウイルスベクターを介して外来DNAまたはRNAを細胞に導入する方法である。本発明による操作された細胞は、ウイルスベクターを用いる形質導入、DNAまたはRNAを用いるトランスフェクションを含む多くの手段の1つにより本明細書に記載されるようなCARをコードするDNAまたはRNAを導入することにより生成されてもよい。細胞は、本明細書に記載されるようなCARをコードするポリヌクレオチドの導入の前、または後に、活性化および/または拡大増殖されてもよい。本明細書において使用される場合、「活性化される」は、細胞の増殖を引き起こすように該細胞が刺激されていることを意味する。本明細書において使用される場合、「拡大増殖される」は、細胞または細胞の集団が増殖を誘導されていることを意味する。細胞の集団の拡大増殖は、例えば、集団中に存在する細胞の数をカウントすることにより、測定されてもよい。細胞の表現型は、当該技術分野において公知の方法、例えばフローサイトメトリーにより決定されてもよい。
【0176】
1つまたは複数のODD、および抗腫瘍特性を有する少なくとも1つのポリペプチドを含むキメラポリペプチドをコードする核酸分子は、任意の哺乳動物細胞、好ましくは免疫応答細胞または腫瘍細胞中に含まれてもよい。細胞はインビトロまたはインビボであってもよい。免疫応答細胞は、それ自体がキメラ抗原受容体(CAR)中に含まれていてもよいキメラポリペプチドを含んでもよく、CARは低酸素の条件下で発現され、正常酸素条件下で実質的に発現されない。
【0177】
好適な免疫応答細胞としては、リンパ系由来細胞、例えばナチュラルキラー細胞、NK T細胞、インバリアントNKT細胞、もしくはT細胞、例えば細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞もしくは制御性T細胞;αβ T細胞、γδ T細胞、B細胞、または骨髄由来細胞、例えばマクロファージもしくは好中球;幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0178】
好適には、免疫応答細胞、例えばT細胞は、対象から得られた末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。好適には、対象は哺乳動物、好ましくはヒトである。T細胞ががんを有する対象に必ずしも由来しない「オフザシェルフ」CAR T細胞の場合、免疫応答細胞は任意選択的に同種異系であってもよい(例えば、Depil et al.,2020(Nature Reviews Drug Discovery)を参照)。
【0179】
好適には、細胞は対象にマッチしている、または自己である。細胞は、患者自身の末梢血から(ファーストパーティー)、またはドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状況において(セカンドパーティー)、または繋がりのないドナーからの末梢血から(サードパーティー)エクスビボで生成されてもよい。好適には、細胞は対象にマッチしている、または自己である。
【0180】
本発明のさらなる態様は、本発明の方法により得られ得るまたは得られた免疫応答細胞、特にT細胞の他に、それを含む医薬組成物を提供する。
【0181】
免疫応答細胞の調製方法
本発明のさらなる態様において、免疫応答細胞を調製する方法であって、
- 対象(がん患者または健常ドナーであってもよい)からリンパ系由来または骨髄由来細胞を単離すること、
- 本明細書において定義されるような核酸分子および/またはCARを導入するように前記細胞を改変すること、
- 前記改変された細胞をエクスビボで拡大増殖させること、
- 低酸素の条件下で核酸分子および/またはCARを発現することができる細胞を得ること
を含む、方法が提供される。
【0182】
核酸分子またはCARの発現は、本明細書において定義されるように、複数のHREを含む低酸素応答性調節性核酸により駆動される。
【0183】
本発明の免疫応答細胞は、ウイルスベクターを用いる形質導入、DNAまたはRNAを用いるトランスフェクションを含む多くの手段の1つにより、本明細書において定義されるような核酸分子および/またはCARをコードするDNAまたはRNAを導入することにより生成されてもよい。
【0184】
本発明の細胞は、(例えば形質導入またはトランスフェクションにより)本明細書において定義されるようなポリヌクレオチドまたはベクターを細胞に導入することにより作られてもよい。好適には、細胞は、対象から単離された試料からのものであってもよい。
【0185】
本発明のさらなる態様は、本発明の方法により得られ得る免疫応答細胞の他に、それを含む医薬組成物を提供する。
【0186】
医薬組成物
医薬組成物は、治療有効量の薬学的活性剤を含む、本質的にからなる、またはからなる組成物であり、ここで薬学的活性剤は改変された免疫応答細胞である。それは、好ましくは、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤(これらの組み合わせを含む)を含む。治療的使用のための許容される担体または希釈剤は周知であり、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,(A.R.Gennaro edit.1985)において記載されている。薬学的担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与の経路および標準的な薬学プラクティスに関して選択され得る。医薬組成物は、担体、賦形剤もしくは希釈剤として、またはそれに加えて、任意の好適な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤または可溶化剤を含んでもよい。
【0187】
薬学的に許容される担体の例としては、例えば、水、塩溶液、アルコール、シリコーン、ワックス、石油ゼリー、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチル-セルロース、およびポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0188】
治療方法
本発明のさらなる態様は、腫瘍の治療方法であって、それを必要とする対象に本発明の免疫応答細胞を投与することを含む、方法を提供する。
【0189】
本明細書に記載されるような治療のために好適な対象としては、哺乳動物、例えばヒト、非ヒト霊長動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、または齧歯動物が挙げられる。好ましい実施形態において、対象はヒトである。他の哺乳動物対象における、特に、ヒトにおける治療有効性を実証するためのモデルとして慣習的に使用されている哺乳動物(例えばマウス、霊長動物、ブタ、イヌ、またはウサギ動物)における本明細書に記載の方法の実施もまた包含される。投薬量および投薬スケジュールを最適化するために標準的な用量応答研究が使用される。
【0190】
「投与する」は、様々な公知の方法および送達システムのいずれかを使用する対象への免疫応答細胞の物理的導入を指す。例としては、腫瘍内(i.t.)、静脈内(i.v.)、筋肉内、皮下、腹腔内、胸膜内、脊髄、胸水、または他の非経口の投与経路、例えば注射もしくは注入によるものが挙げられる。「非経口投与」という語句は、本明細書において使用される場合、通常は注射による、経腸および外用投与以外の投与のモードを意味し、非限定的に、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ内、病巣内、嚢内、腔内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射および注入の他に、インビボエレクトロポレーションが挙げられる。投与することはまた、例えば、1回、複数回、および/または1つもしくは複数の長期間にかけて行われ得る。
【0191】
免疫応答細胞は、標的細胞集団に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激するために療法または予防的処置において有用である。本発明はさらに、それを必要とする患者において標的細胞集団に対するT細胞媒介性免疫応答を刺激する方法であって、患者に上記のような免疫応答細胞の集団を投与することを含む、方法を提供する。
【0192】
免疫応答細胞は、固形がんの治療において特に有用である。本発明によるCARベースの抗がん免疫療法において、Tリンパ球ががん患者(または健常ドナー)から単離され、例えばレトロ/レンチウイルスベクターにより、エクスビボで改変および拡大増殖されて、腫瘍細胞により表面上に発現される腫瘍関連抗原(TAA)に対する結合特異性を有するCAR分子を細胞表面に構成的に発現するようにされ、次に患者に再注入される(
図1)。結果として、患者自己T細胞および/または非患者由来同種異系T細胞の大きい集団はがん性細胞の殺傷に再方向付けされる。さらには、CARの二重酸素感知特性は、(ODDの活性と組み合わせて低酸素応答性プロモーターの使用を通じて)オフターゲット効果が低減または排除されることを可能とし、さらには、従来の構成的なレトロウイルスプロモーターと比較して低酸素応答性プロモーターの予想外に増加した強さに起因して腫瘍の部位において抗腫瘍ポリペプチドの発現が増加する。
【0193】
疾患を治療する方法は、本発明の免疫応答細胞の治療的使用に関する。これに関して、細胞は、疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状を減じ、低減させもしくは改善させるためおよび/または疾患の進行を減速させ、低減させもしくは遮断するために既存の疾患または状態を有する対象に投与されてもよい。
【0194】
治療方法は、本発明の細胞の予防的使用を含んでもよい。これに関して、細胞は、疾患の原因を予防しもしくは減退させるためまたは疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状の発生を低減させもしくは予防するために疾患に未だ罹患していないかつ/または疾患のいかなる症状も示していない対象に投与されてもよい。対象は、疾患となる、またはその発症のリスクがあると考えられる素因を有してもよい。
【0195】
治療方法は、T細胞を使用して実行される必要はないが、他の好適な免疫応答細胞、例えばリンパ系由来細胞、例えばナチュラルキラー細胞、B細胞、インバリアントNKT細胞もしくはT細胞、例えば細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞もしくは制御性T細胞;または骨髄由来細胞、例えばマクロファージもしくは好中球を使用して実行されてもよい。
【0196】
開示される方法は、がんを治療するため、例えば、完全ながんの軽快を含む、がん成長を阻害するため、がん転移を阻害するため、およびがん抵抗性を促進するために有用である。「がん成長」という用語は、一般に、より進んだ形態へのがん内の変化を示唆する多数の指数のいずれか1つを指す。がん成長の阻害を測定するための指数としては、がん細胞生存における減少、(例えばコンピュータ断層撮影法(CT)、超音波検査、または他のイメージング方法を使用して決定されるような)腫瘍体積または形態における減少、腫瘍成長の遅延、腫瘍血管系の破壊、遅延過敏皮膚試験における成績の向上、細胞溶解性Tリンパ球の活性における増加、および腫瘍特異的抗原のレベルにおける減少が挙げられるがこれらに限定されない。「がん抵抗性」という用語は、がん成長、特に既に有するがんの成長に抵抗する対象の向上した能力を指す。換言すれば、「がん抵抗性」という用語は、対象におけるがん成長の減少した傾向を指す。
【0197】
がんを有する個体におけるがん細胞は、該個体における正常な体細胞とは免疫学的に別個であってもよい。例えば、がん細胞は、該個体において正常な体細胞により発現されない抗原(すなわち、腫瘍抗原)を発現してもよい。腫瘍抗原は当該技術分野において周知であり、本明細書においてより詳細に記載される。
【0198】
様々な種類のがんが当該技術分野において公知である。がんは転移性または非転移性であってもよい。がんは家族性または弧発性であってもよい。一部の実施形態において、がんは、白血病および多発性骨髄腫からなる群から選択される。本発明の方法を使用して治療され得る追加のがんとしては、例えば、良性および悪性固形腫瘍ならびに良性および悪性非固形腫瘍が挙げられる。
【0199】
例えば、がんは、固形腫瘍、例えば癌腫または肉腫を含んでもよい。
【0200】
癌腫としては、周囲組織に浸潤(infiltrate)、例えば侵入(invade)して、転移を生じさせる上皮細胞に由来する悪性新生物が挙げられる。腺癌は、腺組織、または認識可能な腺構造を形成する組織に由来する癌腫である。
【0201】
治療され得る癌腫としては、副腎皮質、腺房、腺房細胞、房状(acinous)、腺嚢胞性、腺様嚢胞性、腺様扁平細胞、腺腫性がん(cancer adenomatosum)、腺扁平上皮、付属器(adnexel)、副腎皮質のがん、副腎皮質、アルドステロン産生性、アルドステロン分泌性、肺胞、肺胞細胞、エナメル芽細胞、膨大部、甲状腺の退形成がん、アポクリン、基底細胞、基底細胞、肺胞、面皰基底細胞、嚢胞性基底細胞、斑状強皮症様基底細胞、多中心性基底細胞、結節潰瘍性(nodulo-ulcerative)基底細胞、色素性基底細胞、硬化性基底細胞、表在性基底細胞、類基底、基底扁平細胞、胆管、肝臓外胆管、肝臓内胆管、気管支肺胞上皮、細気管支、細気管支肺胞性、気管支肺胞、気管支肺胞細胞、気管支原性、大脳様、胆管細胞(cholangiocelluarl)、絨毛性、脈絡叢、明細胞、総排泄肛門(cloacogenic anal)、コロイド、面皰、体(corpus)、子宮体のがん、コルチゾール産生性、篩状、円筒状、円筒細胞、腺管(duct)、腺管(ductal)、前立腺の腺管がん、原位置腺管がん(DCIS)、エクリン、胎児性、鎧状がん(cancer en cuirasse)、子宮内膜、子宮内膜のがん、子宮内膜様、類表皮、混合腫瘍から生じたがん、多形性腺腫から生じたがん、外方増殖性、線維性層板状、線維性がん(cancer fibro’sum)、甲状腺の濾胞がん、胃、ゼラチン状、ゼラチン様、巨細胞、甲状腺の巨細胞がん、巨細胞がん、腺、顆粒膜細胞(granulose cell)、肝細胞、ハースル細胞、副腎様、乳胎児性、膵島細胞癌、乳房の炎症性がん、原位置がん、腺管内、表皮内、上皮内、若年胎児性(juvenile embryonal)、クルチッキー細胞、大細胞、軟膜、小葉、浸潤性小葉、侵入性小葉、原位置小葉がん(LCIS)、リンパ上皮、髄様がん、髄様、甲状腺の髄様がん、髄様性甲状腺、黒色性、髄膜、メルケル細胞、変型性(metatypical)細胞、微小乳頭状、粘液性、粘液性がん(cancer muciparum)、粘液細胞がん(cancer mucocellulare)、粘膜表皮性、粘液がん(cancer mucosum)、粘液、鼻咽頭、皮膚の神経内分泌がん、非浸潤性、非小細胞、非小細胞肺がん(NSCLC)、燕麦細胞、骨化性がん、類骨、パジェット、乳頭状、甲状腺の乳頭がん、膨大部周囲、前浸潤性、有棘細胞、原発性骨内(primary intrasseous)、腎臓細胞、瘢痕、住血吸虫性膀胱、シュナイダー、スキルス、脂腺、印環細胞、単純がん、小細胞、小細胞肺がん(SCLC)、紡錘細胞、海綿体がん、扁平、扁平細胞、終末管、退形成性甲状腺、濾胞性甲状腺、髄様性甲状腺、乳頭状甲状腺、皮膚の小柱状(trabecular)がん、移行細胞、管状、甲状腺の未分化がん、子宮体部、疣状、絨毛状、絨毛がん、卵黄嚢、特に頭頸部の扁平細胞、食道扁平細胞、ならびに口腔がんおよび癌腫が挙げられる。
【0202】
がんの別の広いカテゴリーとしては肉腫および線維肉腫が挙げられ、これらは、その細胞が線維状または均質な物質、例えば胚性結合組織中に包埋されている腫瘍である。
【0203】
標的化され得る肉腫としては、脂肪、肺胞軟部、エナメル芽細胞、鳥類、葡萄状、葡萄状肉腫、ニワトリ、緑色、軟骨芽細胞、腎臓の明細胞肉腫、胎児性、子宮内膜間質、類上皮、ユーイング、筋膜、線維芽細胞、家禽、巨細胞、顆粒球性、血管内皮、ホジキン、特発性多発性色素性出血性、B細胞の免疫芽球性肉腫、T細胞の免疫芽球性肉腫、イェンセン、カポジ、クッパー細胞、白血球、リンパ、黒色性、混合細胞、多発性、リンパ管、特発性出血性、骨の多能性(multipotential)原発性肉腫、骨芽細胞性、骨原性、傍骨性、多形性、偽カポジ、細網細胞、脳の細網細胞肉腫、横紋筋肉腫、ラウス、軟組織、紡錘細胞、滑膜、毛細血管拡張性、骨の肉腫(骨肉腫)/悪性繊維性組織球腫、および軟組織肉腫が挙げられる。
【0204】
治療され得るリンパ腫としては、後天性免疫不全症候群(AIDS)関連、非ホジキン、ホジキン、T細胞、T細胞白血病/リンパ腫、アフリカ、B細胞、単球様B細胞、ウシ悪性、バーキット、中心細胞性、皮膚リンパ腫、びまん性、びまん性、大細胞、びまん性、混合小および大細胞、びまん性、小分割細胞、濾胞性、濾胞中心細胞、濾胞性、混合小分割および大細胞、濾胞性、主に大細胞、濾胞性、主に小分割細胞、巨大濾胞、巨大濾胞性、肉芽腫性、組織球性、大細胞、免疫芽球性、大分割細胞、大非分割細胞、レンネルト、リンパ芽球性、リンパ球性、中間;リンパ球性、中分化、形質細胞性;低分化リンパ球性、小リンパ球性、高分化リンパ球性、ウシのリンパ腫;粘膜関連リンパ系組織(MALT)、マントル細胞、外套帯、辺縁帯、地中海リンパ腫、混合リンパ球性-組織球性、結節性、形質細胞性、多形性、原発性中枢神経系、原発性滲出液、小B細胞、小分割細胞、小型非分割細胞、T細胞リンパ腫;回旋T細胞、皮膚T細胞、小リンパ球性T細胞、不確定リンパ腫、u細胞、未分化、aids関連、中枢神経系、皮膚T細胞、滲出液(身体腔ベース)、胸腺リンパ腫、ならびに皮膚T細胞リンパ腫が挙げられる。
【0205】
標的化され得る白血病および他の血液細胞悪性腫瘍としては、急性リンパ芽球性、急性骨髄、急性リンパ球性、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性、有毛細胞、赤白血病、リンパ芽球性、骨髄、リンパ球性、骨髄性、白血病、有毛細胞、T細胞、単球性、骨髄芽球性、顆粒球性、肉眼的(gross)、ハンドミラー細胞、好塩基性、血芽球性(haemoblastic)、組織球性、白血球減少性、リンパ、シリング、幹細胞、骨髄単球性、単球性、前リンパ球性、前骨髄球性、小骨髄芽球性、巨核芽球性、巨核球性(megakaryoctyic)、リーデル細胞、ウシ、非白血病性、肥満細胞、骨髄球性、血漿細胞、亜白血病性、多発性骨髄腫、非リンパ球性、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、真性多血症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性および高悪性度形態)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームのマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、脊髄形成異常ならびに慢性骨髄球性白血病が挙げられる。
【0206】
治療され得る脳および中枢神経系(CNS)がんおよび腫瘍としては、星状細胞腫(小脳および大脳のものを含む)、脳幹部神経膠腫、脳腫瘍、悪性神経膠腫、上衣腫、膠芽腫、髄芽腫、テント上未分化神経外胚葉性腫瘍、視覚路および視床下部神経膠腫、原発性中枢神経系リンパ腫、上衣腫、脳幹部神経膠腫、視覚路および視床下部神経膠腫、頭蓋外生殖細胞腫瘍、髄芽腫、骨髄異形成症候群、乏突起膠腫、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性白血病、骨髄性白血病、多発性骨髄腫、骨髄増殖性障害、神経芽腫、血漿細胞新生物/多発性骨髄腫、中枢神経系リンパ腫、内因性脳腫瘍、星状細胞脳腫瘍、神経膠腫、ならびに中枢神経系における転移性腫瘍細胞浸潤が挙げられる。
【0207】
治療され得る胃腸がんとしては、肝臓外胆管がん、結腸がん、結腸および直腸がん、結腸直腸がん、胆嚢がん、胃(gastricまたはstomach)がん、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、膀胱がん、膵島細胞癌(内分泌性膵臓)、膵臓がん、膵島細胞膵臓がん、前立腺がん、直腸がん、唾液腺がん、小腸がん、結腸がん、ならびに結腸直腸新形成と関連付けられるポリープが挙げられる。
【0208】
治療され得る肺および呼吸器がんとしては、気管支腺腫/カルチノイド、食道がん、下咽頭がん、喉頭がん、下咽頭がん、肺カルチノイド腫瘍、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、肺の小細胞癌、中皮腫、鼻腔および副鼻腔がん、鼻咽頭がん、鼻咽頭がん、口腔がん、口腔および口唇がん、口咽頭がん;副鼻腔および鼻腔がん、ならびに肺胸膜芽細胞腫が挙げられる。
【0209】
治療され得る尿路および生殖器がんとしては、子宮頸がん、子宮内膜がん、卵巣上皮がん、性腺外生殖細胞腫瘍、頭蓋外生殖細胞腫瘍、性腺外生殖細胞腫瘍、卵巣生殖細胞腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、脾臓、腎臓がん、卵巣がん、卵巣上皮がん、高悪性度漿液性卵巣がん、卵巣生殖細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、陰茎がん、腎臓細胞がん(癌腫を含む)、腎臓細胞がん、腎盂および尿管(移行細胞がん)、腎盂および尿管の移行細胞がん、妊娠性絨毛腫瘍、精巣がん、尿管および腎盂、移行細胞がん、尿道がん、子宮内膜子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、卵巣癌、原発性腹膜上皮新生物、子宮頸癌、卵胞中の子宮がんおよび固形腫瘍、表在性膀胱腫瘍、膀胱の浸潤性移行細胞癌、ならびに筋肉浸潤性膀胱がんが挙げられる。
【0210】
治療され得る皮膚がんならびに黒色腫(および非黒色腫)としては、皮膚T細胞リンパ腫、眼内黒色腫、ヒト皮膚ケラチノサイトの腫瘍進行、基底細胞癌、および扁平細胞がんが挙げられる。標的化され得る肝臓がんとしては、肝臓外胆管がん、および肝細胞がんが挙げられる。標的化され得る眼がんとしては、眼内黒色腫、網膜芽腫、および眼内黒色腫が挙げられる。
【0211】
治療され得るホルモン性がんとしては、副甲状腺がん、松果体およびテント上未分化神経外胚葉性腫瘍、下垂体腫瘍、胸腺腫および胸腺癌、胸腺腫、胸腺がん、甲状腺がん、副腎皮質のがん、ならびに副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍が挙げられる。
【0212】
標的化され得る種々雑多な他のがんとしては、進行性がん、AIDS関連、肛門がん、副腎皮質、再生不良性貧血、アニリン誘導性およびキンマ(betel)誘導性がん、頬部がん(buyo cheek cancer)、大脳様(cerebriform)、煙突掃除人癌、クレイパイプ誘導性がん、コロイドがん、嚢胞性、樹状性、同棲がん(cancer a deux)、腺管、染料職人、脳様癌、鎧状がん、子宮内膜、内皮、上皮、腺、原位置がん(cancer in situ)、カング(Kang)がん、カングリ(Kangri)がん、潜伏性、髄質、黒色性、木綿紡績工、潜在性がん、パラフィン、アスファルト労働者、瘢痕、住血吸虫性膀胱、スキルス、リンパ節、軟性、煤煙、紡錘細胞、沼沢、タール、ならびに管状がんが挙げられる。
【0213】
標的化され得る種々雑多な他のがんとしてはまた、カルチノイド(胃腸および気管支)、キャッスルマン病、慢性骨髄増殖性障害、腱鞘の明細胞肉腫、ユーイングファミリー腫瘍、頭頸部がん、唇および口腔がん、原発不明の転移性扁平頸部がん、多発性内分泌腺腫症候群、ウィルムス腫瘍、菌状息肉症、褐色細胞腫、セザリー症候群、テント上未分化神経外胚葉性腫瘍、原発部位不明の腫瘍、腹膜滲出液、悪性胸水、栄養膜新生物、ならびに血管周囲細胞腫が挙げられる。
【0214】
がんは、以下:肺、乳房、卵巣、頭頸部、膵臓、上皮腫、肉腫、神経芽腫、前立腺、結腸直腸、胃、小腸、肝臓、骨、精巣、腎臓、甲状腺がんのいずれかを特に含んでもよいがこれらに限定されない。
【0215】
治療に対する対象の好適性を決定する方法
本発明のさらなる態様は、本発明の免疫応答細胞を用いる治療に対する対象の好適性を決定する方法を提供する。方法は、以下の遺伝子:PGK1、SLC2A1、CA9、ALDOAおよびVEGFAの少なくとも2、3、4つまたは5つ全ての共発現をモニターすることを含んでもよく、前記対象における前記遺伝子の共発現は治療に対する対象の好適性を指し示す。上述の遺伝子の発現レベルは、健常な対照における遺伝子発現レベルと比較して増加または変化していてもよい。
【0216】
追加的または代替的に、本発明の免疫応答細胞を用いる治療に対する対象の好適性は、対象からの生検組織を免疫組織化学的に染色することならびに腫瘍もしくは間質中のHIF安定化を評価することおよび/または腫瘍のHIF安定化領域へのT細胞(および/もしくは他の免疫応答細胞)の浸潤をモニターすることにより決定されてもよい。腫瘍のHIF安定化領域への免疫応答細胞の浸潤は、HypoxiCARシステムを含む本発明の免疫応答細胞を用いる治療に対する対象の好適性を指し示す。
【0217】
キット
本発明のさらなる態様は、本発明のポリペプチド、核酸、構築物、ベクター、CAR、免疫応答細胞および/または医薬組成物のいずれか1つまたは複数を含む、キットを提供する。
【0218】
核酸、ポリペプチド、CAR構築物、CARベクターはキット中に組み合わせられてもよく、該キットは、インサイチュで本発明の免疫応答細胞を生成させることを目的として供給される。
【0219】
使用
本発明のさらなる態様は、がん、特には固形がんの治療における本発明による免疫応答細胞またはそれを含む医薬組成物の使用を提供する。
【0220】
がん、特には固形がんの治療における本発明によるポリペプチド、核酸、構築物、ベクター、CARおよび免疫応答細胞の使用、またはそれを含む医薬組成物の使用もまた提供される。
【0221】
本発明はまた、同じ条件下での対応する非改変の野生型対応物と比較して低酸素条件下でCARの増加した発現を駆動するための本発明の調節性核酸の使用を提供する。本発明の低酸素応答性調節配列の使用は、一過性または低レベルの低酸素中で標的化する場合、低密度抗原を標的化する場合、および弱い治療剤、例えば弱いCARを使用する場合に特に有利である。
【0222】
持続性CARシグナル伝達の予防または低減における本発明の第1の態様による低酸素応答性調節性核酸の使用もまた提供される。持続性CARシグナル伝達の予防における本発明の二重感知システムの使用(すなわち、1つまたは複数のODDの使用と組み合わせた低酸素応答性調節性核酸の使用)もまた提供される。
【0223】
有利には、持続性CARシグナル伝達は、本発明の二重感知システムを通じて実質的に予防または低減される。それらのエクスビボ拡大増殖の間およびそれらのインビボ注入後の両方における、CAR T細胞中の持続性抗原非依存性シグナル伝達は、インビボでT細胞の分化および疲弊を増加させて効力を減少させ得る。この底質の持続性シグナル伝達は、CARの高い細胞表面密度および自己凝集特性に起因して一般的に存在する。有利には、本発明の方法において、CARコーディングDNAを含有する免疫応答細胞は、低酸素環境、すなわち固形腫瘍中にあるまでは、その細胞表面上にいかなるCARも発現しない(または最小の数のみのCARを発現する)。このCAR T細胞が低酸素の区画中または腫瘍微環境中に見出される場合、それは高密度でその表面上にCARを発現し、これは、抗原標的が存在する場合に持続的なT細胞活性化およびT細胞媒介性腫瘍殺傷を引き起こす。
【0224】
本明細書および請求項の全体を通じて、「含む」(comprise)および「含有する」という語ならびにこれらの語のバリエーション、例えば「含む」(comprising)および「含む」(comprises)は、「含むがそれに限定されない」を意味し、他の成分、整数またはステップを除外しない。さらに、文脈が他に要求しなければ、単数は複数を包含し、特に、不定冠詞が使用される場合、文脈が他に要求しなければ、特定化は複数の他に単数を想定することが理解されるべきである。
【0225】
本発明の各態様の好ましい特徴が他の態様のいずれかとの繋がりで記載されることがある。本出願の範囲内で、以上の段落、請求項ならびに/または以下の記載および図面に記載の様々な態様、実施形態、例および選択肢、ならびに特にその個々の特徴は、独立してまたは任意の組み合わせで解釈され得ることが明示的に意図される。すなわち、そのような特徴が不適合でなければ、任意の実施形態の全ての実施形態および/または特徴を任意のやり方および/または組み合わせで組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0226】
本発明の1つまたは複数の実施形態が、単に例として添付の図面を参照して、これより記載される。
【
図1】
図1は、CAR T細胞免疫療法の図式的な表現を示す。CAR T細胞免疫療法の実施において、T細胞ががん患者から単離され、例えばレトロもしくはレンチウイルス粒子またはRNAエレクトロポレーションを使用して、エクスビボで遺伝子改変される。この手段により、T細胞は、関心対象の腫瘍抗原に対して特異的な結合親和性を有するキメラ受容体(CAR)を発現するように操作される。この遺伝子改変後に、結果物のCAR発現T細胞は、適切なサイトカインを使用して拡大増殖され、拡大増殖された集団は患者に再注入されて、がんのT細胞媒介性標的化に繋がる。
【
図2】
図2は、哺乳動物細胞における酸素感知の図式的な表現(represenation)を示す。正常酸素の条件下(左)で、HIF1αは、酸素を要求するプロセスにおいてPHD酵素によりヒドロキシル化される。ヒドロキシル化されたHIF1αは次にpVHLユビキチンリガーゼに結合することができ、pVHLユビキチンリガーゼはHIF1α分子上にユビキチンを付加してそのプロテアソーム分解を引き起こす。低酸素の条件下(右)で、酸素の欠如に起因してHIF1αのヒドロキシル化および分解は遮断され、HIF1αの安定化に繋がる。安定化されたHIF1αは次に核に移行し、そこでHIF1βならびに他の分子(例えばP300およびCBP)と複合体を形成する。この複合体は次に、低酸素誘導性遺伝子の上流に存在してHIF結合部位(HRE)に結合することができ、それらの転写を活性化させる。
【
図3】
図3は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が、循環中または正常酸素張力下の組織中にある場合に、その表面上にいかなる人工的な受容体も発現しない、本発明のシステムの図式的な表現を示す。しかしながら、CTLが低酸素性領域中に位置する場合、それは、関心対象のがん抗原に対して特異的な結合親和性を有する細胞表面CARを発現する。したがって、CTL媒介性殺傷は、低酸素応答性調節性核酸の存在のおかげで、低酸素および関心対象の抗原の両方が存在する場合にのみ起こる。
【
図4】
図4は、HIF結合または補助部位中のヌクレオチドの頻度ロゴを示す:A.ヒト低酸素誘導性遺伝子中のHIF結合ヌクレオチドの頻度 B.マウス低酸素誘導性遺伝子中のHIF結合ヌクレオチドの頻度 C.低酸素誘導性遺伝子中のHIF補助ヌクレオチドの頻度。各文字の高さは、各位置における対応するヌクレオチドの出現の頻度を代表する。
【
図5】
図5は、3つのタンデムHRE設計の例を示す。ヒトエリスロポエチン(hEPO)HREはタンデムで3つのHREを含み、各単一のHREは、ヒトEPO遺伝子に由来するHIF結合-リンカー-HIF補助配列を含む。ヒト血管内皮増殖因子A(hVEGFA)HREはタンデムで3つのHREを含み、各単一のHREは、ヒトVEGFA遺伝子に由来するHIF結合-リンカー-HIF補助配列を含む。ヒトグルコーストランスポーター3(hGLUT3)HREはタンデムで3つのHREを含み、各単一のHREは、ヒトGLUT3遺伝子に由来するHIF結合-リンカー-HIF補助配列を含む。
【
図6】
図6は、技術を最適化するために使用した構築物の直線マップ表現を示す:A.クリックビートルルシフェラーゼ(cbluc)および増強型緑色蛍光タンパク質(eGFP)cDNAを含有する長鎖末端反復(LTR)非改変SFGレポーターレトロウイルス構築物(レポーターSFG)、B.hEPO HREが3’LTR内に挿入された改変されたレポーターSFGベクター、C.hVEGF HREが3’LTR内に挿入された改変されたレポーターSFGベクター、D.hGLUT3 HREが3’LTR内に挿入された改変されたレポーターSFGベクター。
【
図7】
図7は、HIF1αアミノ酸配列(Uniprotデータベース)を示す。
【
図8】
図8は、技術を最適化するために使用したさらなる構築物の直線マップ表現を示す:A.cblucルシフェラーゼ-ODD融合物を含有するレポーターSFGベクター、B.cblucルシフェラーゼ-ODD融合物およびhEPO HRE LTR改変を含有するレポーターSFGベクター、C.cblucルシフェラーゼ-ODD融合物およびhVEGFA HRE LTR改変を含有するレポーターSFGベクター、D.cblucルシフェラーゼ-ODD融合物およびhGLUT3 HRE LTR改変を含有するレポーターSFGベクター。
【
図9】
図9は、ウエスタンブロットの結果を示す。これらの結果は、0.1%の酸素および20%の酸素中でのインキュベーション後に細胞系(293T、HT1080、T47DおよびJurkat)において検出されたHIF1αタンパク質レベル(およびβ-アクチン参照)を表す。棒グラフはHIF1αバンドの強度を描写する。これは、ImageJを使用してバンドをプロットし、曲線下面積(AUC)を算出することにより算出された。
【
図10】
図10は、形質導入された細胞のeGFP蛍光シグナルを測定することによるゲーティング戦略および(非改変SFGレポーター構築物の)形質導入効率の決定を示す(
図6および
図8)。7-AAD陰性細胞(生存細胞)をゲーティングし、ヒストグラムにおけるeGFP蛍光の評価において使用する。
【
図11】
図11はqPCRアッセイの検証を示す。グラフは、形質導入された細胞におけるゲノムTATAボックス結合タンパク質遺伝子(TBP)およびルシフェラーゼ(luc;構築物によりコードされる)を検出するための熱サイクル数およびナノグラムでのDNA量(Logスケール)の間の直線的(y=x)関係性を示す。
【
図12】
図12は、指し示される構築物についての各々の正常酸素条件(左バー)と比較した5%(A)、1%(B)および0.1%(C)の酸素(右バー)での18時間のインキュベーション後に293T細胞から得られた相対光単位(RLU)データを示す。
【
図13】
図13は、指し示される構築物についての100または0μMの塩化コバルト中での18時間の293T細胞の培養後に得られた相対光単位(RLU)データを示す。
【
図14】
図14は、健常マウス組織中のErbB受容体(egfrおよびerbb2-4)ならびにインテグリンβ6(intgb6)遺伝子のmRNA発現を示す。合計で13の組織をこの実験において分析した。組織は、ハウスキーピング遺伝子、Tbpと比べた各mRNAの発現レベルにしたがって順位付けされている。
【
図15】
図15は、正常酸素の条件下でのルシフェラーゼの発現における対照(構成的)と対比した3および9つのHREコピーの効果を示す。HREの包含は、下流のレポーター導入遺伝子(ルシフェラーゼ)の発現を有意にサイレンシングした。NT:非形質導入;構成的:野生型非HRE改変LTR;3HRE:3つのタンデムHREエレメントを含有するように改変されたLTR;9HRE:9つのタンデムHREエレメントを含有するように改変されたLTR。HREエレメントはヒトEPO遺伝子プロモーターに由来した。複数のHREを含有するようにLTR(レトロウイルスプロモーター)を改変することにより、ルシフェラーゼの発現は正常酸素の条件下で有意に低減された。
【
図16】
図16は、低酸素の条件下でのルシフェラーゼ発現の倍数誘導(低酸素の条件下での遺伝子発現を正常酸素の条件下で観察されたもので割ることにより算出される)を示す。構成的:野生型非HRE改変LTR;3HRE:3つのタンデムHREエレメントを含有するように改変されたLTR;9HRE:9つのタンデムHREエレメントを含有するように改変されたLTR。低酸素条件(0.1%のO
2)下で、ルシフェラーゼの発現はプロモーター中に含まれるHRE数と相関する。
【
図17】
図17は、非改変LTRを含有するSFGベクター中のクリックビートルルシフェラーゼのC末端への異なる長さのヒトHIF1α ODD(アミノ酸番号を指し示す)の融合の効果を示す。遺伝子発現を正常酸素条件において評価した。構成的:ODD付加なしと、ルシフェラーゼへの異なる指し示される長さのODDの融合物との対比。
【
図17A】クリックビートルルシフェラーゼのC末端に融合した可変ODDを含有する構築物。
【
図17B】Aに示される構築物の形質導入、非形質導入(NT)または構成的な形質導入(野生型非ODD改変クリックビートルルシフェラーゼ)を行ったT47D細胞を低酸素(0.1%の酸素)に18h曝露した。倍数誘導は、各構築物において正常酸素発現と比べた低酸素において見られたルシフェラーゼ発現誘導である。N=3、線=平均、エラーバーはSEM。
【
図18】
図18は、ルシフェラーゼのC末端に融合したヒトHIF1α ODD(アミノ酸401~603)との9つのHREプロモーター構造の組み合わせを示す。この二重酸素感知システムは、正常酸素の条件下でルシフェラーゼの検出可能な発現を示さなかったが、低酸素条件(0.1%の酸素)においてオンに切り替わった。
【
図19】
図19は、T4-CAR T細胞がi.v.注入後に急性的に肝臓および肺に存在することを示す。ルシフェラーゼレポーターを共発現するT4-CAR T細胞を、確立された皮下SKOV3腫瘍を有するNSG免疫不全マウスにi.v.で注射した。IVIS生物発光イメージャーを使用してCAR T細胞を追跡した。(a)は、注入の4日後の、皮下に移植された確立されたSKOV3ヒト卵巣腫瘍を有する3匹のマウス(左)および代表的なマウスからの解剖された臓器/腫瘍(右)においてT4-CAR T細胞内に発現されるルシフェラーゼからの検出された光(写真上で青色/緑色に示される)を示す。(b)各指し示される臓器中のルシフェラーゼシグナルの定量(n=6の個々のマウス)。注入の4日後の時点で見ることができるように、これらの細胞は腫瘍よりも肺および肝臓中に優先的に存在する。(c)T4-CAR T細胞は、全てではないにしてもほとんどの上皮細胞により発現されるErbb受容体ファミリーにより形成される8つのホモおよびヘテロ二量体に対して特異性を有する。ErbbファミリーのmRNA発現(ハウスキーピング遺伝子Tbpと比べて提示される)についての重要臓器の分析は、T4-CAR T細胞が初期に蓄積する肺および肝臓の両方は共にCARリガンドの豊富な供給源であることを実証した。N=6(組み合わせた生物学的複製物)。
【
図20】
図20は、0.1%の酸素への曝露の20h後の指し示される群におけるゲーティングされた検出可能なCAR T細胞上のCAR発現のメジアン蛍光強度(MFI)を示す(例えば低酸素条件;n=3の個々のCAR調製物)。「T4」は標準的なSFGベクター(LTRベースのレトロウイルスプロモーター)を使用して発現され、「HRE-CAR」は改変されたSFGベクター(9つのHREエレメントがSFGベクターのLTRに挿入されている)を使用して発現される。コードされるHRE CARは追加のODDを含有しない。予想外なことに、CAR発現のメジアン蛍光強度(MFI)はHRE-CAR群においてより大きかった。
【
図21】
図21は、HypoxiCAR T細胞エフェクター機能は低酸素条件に厳密に制限されることを示す:(a)ヒトT細胞に形質導入されたCAR構築物(タンデムで9つのHREを有する、図示せず)、およびそれらのモジュール式の構成(ゲノム中に組み込まれた場合)を描写する模式図;LTR-長鎖末端反復。(b)表面CARおよびCD8α(CD8
+ T細胞を同定するため)を評価する代表的なフローサイトメトリードットプロット。データは、染色およびフローサイトメトリー分析の前に18h、正常酸素または低酸素(0.1%のO
2)条件に維持された生存(7AAD
-)CD3
+ T4-CAR、HypoxiCARまたは非形質導入T細胞によるCAR発現を実証する。(c~h)健常ドナーCD3
+ T細胞(n=6)への形質導入を行ってT4-CARまたはHypoxiCAR T細胞を生成し、(c)18hまで0.1%のO
2の低酸素条件に置いた後に正常酸素条件に戻し、フローサイトメトリー分析を使用して指し示される時点においてCAR発現を評価した。(d)パネル(c)からの0.1%のO
2の低酸素への曝露の18h時におけるT4-CARおよびHypoxiCAR T細胞上のCAR発現のメジアン蛍光強度(MFI)。(e)減少性濃度のO
2への18hの曝露後のHypoxiCAR T細胞上の検出可能な表面CAR発現;統計的有意性を正常酸素条件下での発現と比較して評価した。(f)正常酸素および0.1%のO
2の低酸素条件における指し示される時点でのT4 CAR、HypoxiCAR、またはCD3切断HypoxiCAR(細胞内シグナル伝達を予防するためにCD3ζエンドドメインを除去した)T細胞によるインビトロSKOV3腫瘍細胞殺傷。(f)において使用されたT細胞から放出されたIL-2(g)およびIFN-γ(h)の定量化。SKOV3細胞への曝露の72h後に収集した培地に対してELISA分析を行い、非形質導入T細胞(「T細胞」)を使用して行った共培養物と比較した。実行した全ての統計的比較を示す。棒グラフ上のバーは群平均を示し、各ドットは群中の個々の健常ドナーを表す。* P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001、**** P<0.0001。
【
図22】
図22は、T細胞のゲノムに組み込まれた場合のHypoxiCARレトロウイルス構築物の図式をパネルA)に示す。HypoxiCAR T細胞をHN3腫瘍保有NSGマウスにi.v.またはi.t.のいずれかで注射した。B)注入の24時間後に、腫瘍を切除し、酵素消化し、関心対象のマーカーについて染色した後にフローサイトメトリー分析を行った。指し示される組織中に存在するゲーティングされたHypoxiCAR T細胞(CD3
+およびCD45
+)を示し、これを細胞表面CAR発現(ヒストグラムのx軸)について評価した。CAR発現は、腫瘍中に存在するT細胞においてのみ検出された。C)(Bに見られるような)表面CAR発現の定量化であり、各ドットは各々の組織について個々のマウスを表す。
【
図23】
図23は、HypoxiCARはSKOV3およびLL2腫瘍において腫瘍選択的なCAR発現を提供することを示す:(a)NSGマウスにおいて成長したSKOV3腫瘍の成長曲線(n=6のマウス)。(b)屠殺の24h前にHypoxiCAR T細胞をi.v.およびi.t.で注射されたSKOV3腫瘍保有マウスの酵素分散組織および血液における検出可能な細胞表面HypoxiCAR発現を示す代表的な積み重ねヒストグラム。ヒストグラムは、(n=6の個々のマウスにわたる)各々の組織におけるCARアイソタイプ染色腫瘍と共にゲーティングされた生存(7AAD
-)Ter119
- CD45
+ CD3
+ T細胞(灰色ヒストグラム)(左)および検出可能なCARを有するT細胞のパーセントの全コホート定量化を示す。(c)bに記載のものと同等であるがLL2腫瘍保有Rag2
-/-マウスを用いた実験であり、(n=3の個々のマウスにわたる)各々の組織における各々の組織内のT細胞による代表的な細胞表面HypoxiCAR発現(左)およびHypoxiCAR T細胞を発現するCARのパーセントの定量化(右)を示す。棒グラフ上のバーは群平均を示し、各ドットは群中の個々の健常マウスを表す。* P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001、**** P<0.0001。
【
図24】
図24:T4-CAR T細胞は健常臓器において炎症を引き起こす。(A)T4-CARを描写する図式。(B)フローサイトメトリーを使用して評価された、生存(7AAD
-)CD3
+ T4-CARまたは非形質導入ヒトT細胞上の細胞表面CAR発現を示す代表的なヒストグラム。(C~E)皮下HN3腫瘍細胞接種後13日目に、マウスにビヒクルまたは10×10
6個の非形質導入もしくはT4-CAR T細胞をi.v.で注入した(n=5)。(C)実験を描写する模式図。(D)マウスの体重変化。矢印はT細胞注入を表し、クロスは、人道的なエンドポイントを超えたために選別した動物を指し示す。(E)注入の24h後の血清サイトカイン。(F)低用量ヒトErbB-CAR/Luc T細胞(4.5×10
6)をSKOV3腫瘍保有NSGマウスにi.v.で注入し、4日後に生物発光イメージングを全身および解剖した臓器に対して行った。(G)全ての臓器のパーセントとしてのフォトン/s/単位面積の定量化(n=6)、LN-鼠径部リンパ節、SI-小腸。(H、I)低用量(4.5×10
6個の細胞)T4-CARもしくは非形質導入T細胞またはビヒクルのi.v.での注入の5日後の肺(H)および肝臓(I)におけるH&E染色切片(左)および骨髄浸潤の定量(右)。矢印は骨髄浸潤を指し示した。(J、K)腫瘍保有NSGマウスにおける還元的に活性化されたピモニダゾールについての組織切片の免疫組織化学(IHC)染色(J)および染色の定量(K)。全ての実験は生物学的反復の代表である。線チャート、ドットは平均を示し、エラーバーはs.e.m.を表す。棒グラフは平均を示し、ドットは個々のマウスを示す。* P<0.05、** P<0.01。
【
図25】
図25:HypoxiCAR T細胞エフェクター機能は低酸素に厳密に制限される。(A)正常酸素および低酸素の条件下でのHypoxiCARを描写する図式。(B)フローサイトメトリーを使用して評価された、正常酸素または18hの低酸素(0.1%のO
2)条件における生存(7AAD
-)CD3
+ T4-CAR、HypoxiCARおよび非形質導入ヒトT細胞上の細胞表面CAR発現を示す代表的なヒストグラム。(C)フローサイトメトリー分析を使用して評価された低酸素(0.1%のO
2)または正常酸素の条件下での指し示される時点におけるHypoxiCAR T細胞上の表面CAR発現。値を18hの低酸素において見られたものに対して正規化した(n=6)。(D)0.1、1、5%、20%のO
2への18hの曝露後のHypoxiCAR T細胞上の表面CAR発現(n=6)。値を0.1%のO
2において見られたものに対して正規化した。(E~G)正常酸素および0.1%のO
2の低酸素条件におけるT4-CAR、HypoxiCAR、CD3ζ切断HypoxiCAR(CD3
-;細胞内シグナル伝達を予防するため)および非形質導入T細胞(CAR
+エフェクター対標的腫瘍細胞比1:1)によるインビトロSKOV3腫瘍細胞殺傷。(F)正常酸素および0.1%のO
2の低酸素条件下での、それぞれSKOV3細胞への24hおよび48hの曝露後に各々のT細胞から培地に放出されたIL-2および(G)IFNγの定量化。チャート上のバーは平均を示し、ドットは各個々の健常ドナーを表す。データ点は並行して収集し、生物学的反復の代表である。線チャートにおいて、ドットは平均を示し、エラーバーはs.e.m.を表す。* P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001、**** P<0.0001。
【
図26】
図26:HypoxiCAR T細胞は全身毒性なしに抗腫瘍有効性を提供する。(A~C)皮下HN3腫瘍保有NSGマウスにヒトHypoxiCAR T細胞(i.t.で2.5×10
5個の細胞およびi.v.で7.5×10
5個の細胞)をi.v.およびi.t.の両方で注射し、72h後に屠殺した。(A)実験を描写する模式図。(B)指し示される酵素分散組織および血液中の生存有核細胞(7AAD
-、Ter119
-)、CD45
+ CD3
+ HypoxiCAR T細胞上の表面CAR発現を示す代表的なヒストグラムならびに(C)n=9の個々のマウスにわたる各々の組織における定量化。(D~F)皮下HN3腫瘍細胞接種の16日後に、マウスにビヒクルまたは10×10
6個のT4-CAR、HypoxiCARもしくは非形質導入ヒトT細胞(対照)のいずれかをi.v.で注入した(n=4のマウス)。(D)実験を描写する模式図。(E)マウスの体重変化。(F)注入の24h後の血清サイトカイン。(G、H)低用量(4.5×10
6)T4-CARまたはHypoxiCAR T細胞をNSGマウスにi.v.で注入した。5日後に指し示される組織を切除し、骨髄浸潤を肺(G)および肝臓(H)においてスコア付けした。(I)(D~F)からのHN3腫瘍成長曲線であり、矢印はCAR T細胞注入の時点を示す。全ての実験は生物学的反復の代表である。棒グラフは平均を示し、各ドットは個々のマウスを示す。線チャートにおいて、ドットは平均を示し、エラーバーはs.e.m.を表す。* P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001、**** P<0.0001。
【
図27】
図27:T細胞は、低酸素性頭頸部扁平細胞癌(SCCHN)のHIF1α安定化領域から排除されない。(A~C)HRE調節遺伝子シグネチャーをSCCHN腫瘍において公知のHRE調節遺伝子から構築した(n=528)。(A)個々の遺伝子についてのピアソン相関係数を示すヒートマップ。(B)腫瘍(T)ステージ(T1 n=48、T2 n=136、T3 n=99、T4 n=174)に基づくシグネチャー発現。(C)HRE調節遺伝子シグネチャーの高および低発現についてのステージ3および4のSCCHNを有する患者の生存曲線(それぞれn=87)。(D)HIF1α(赤)およびCD3(茶)についての代表的なIHC染色SCCHN切片(n=60)。(E~F)SCCHN腫瘍中の上皮内T細胞(IET)の存在量を低い/非存在(n=40)および高い(n=55)としてグループ化した。IETの例を(D)において黒矢印により示す。IET数を腫瘍のHIF1α安定化(H)-スコアに対して評価した(E)。大きい数のIETが存在する腫瘍について、腫瘍のHIF-1α安定化領域に直接的に浸潤する腫瘍浸潤性リンパ球(H-TIL)を非存在(55の腫瘍のうちn=6)または存在(55の腫瘍のうちn=46)としてグループ化した。H-TILの例を(D)において白矢印により示す。H-IET数を腫瘍のH-スコアに対して評価した(F)。(G)DAPI(核;青)ならびにCD3(緑)およびHIF1α(赤)に対する抗体を用いて染色された口腔舌癌の共焦点画像;白色はCD3およびHIF1α共局在性を表す。ボックスプロットはメジアンおよび上位/下位四分位数を示し、ひげは最高および最低値を示す。* P<0.05、** P<0.01、*** P<0.001、**** P<0.0001。
【
図28】
図28:HypoxiCAR T細胞は確立されたSKOV3腫瘍に対して抗腫瘍有効性を提供する。ヒトHypoxiCAR T細胞(10×10
6 i.v.)または非形質導入対照T細胞を、確立された皮下SKOV3腫瘍を有するNSGマウスにi.v.で注射した。チャートは、マウスの各々のコホートの成長曲線を示す。矢印はCAR T細胞注入の時点を示す。ドットは平均を示し、エラーバーはs.e.m.を示す。
【
図29】
図29:T4(構成的非HRE改変)またはHRE改変(HRE単独、ODDを欠いている)CAR T細胞を正常酸素(20%の酸素)または低酸素条件(0.1%の酸素)において指し示されるCAR+エフェクター対標的比でSCOV3標的細胞系と24h培養した。A.は24hの共培養後の共培養物中の生存標的の%を示し、B.は標的によるT細胞の抗原特異的な刺激後の共培養物中に放出されたIL-2を示す。示されるデータは、パネルAについて4人の独立したドナーからのT細胞を使用するn=4の独立した実験からの平均、およびパネルBについて3人の独立したドナーからのT細胞を使用するn=3の独立した実験からの平均である。エラーバーはSEMを示す。
【実施例】
【0227】
本発明をこれより以下の実施例を参照して説明する。
【0228】
材料および方法
構築物
それぞれヒトEPO、VEGFAおよびGLUT3からのHBSをタンデムで3つ含有する3つのHRE配列がGeneArt(ThermoFisher Scientific)により合成され、NheIおよびXbaI制限部位により隣接させた。これらの配列をサブクローニングし、SFGモロニーマウス白血病ウイルスプラスミドの3’LTR内の天然のNheI/XhoI配列を置き換えた。3’LTRの特異的な改変は、制限酵素部位および各々のHREカセットに対する相補的配列を含有するプライマーを使用して達成された、HREを含有するXhoI/EcoRI隣接中間断片の合成により達成した。断片のオーバーラップPCRおよびサブクローニングによりSFGベクターへの挿入を達成した。次に、P2Aにより分離されたクリックビートルルシフェラーゼの緑色発光バリアントおよび緑色蛍光タンパク質をコードするタンパク質コーディング配列をSFGのNcoI/XhoI部位にクローニングした。New England Biolabから購入した酵素および緩衝液を使用して制限消化を37℃で行った。臭化エチジウム染色1.2%アガロースゲル中でDNAを検出し、DNAラダーにしたがって評価されるような適切なサイズのバンドを切除し、QIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を使用してゲルから抽出した。付着末端ライゲーションは、16℃で1時間のT4 DNAリガーゼ(ThermoFisher Scientific)により触媒された。
【0229】
CAR/レポーター構築物のクローニング
ヒトT1E CAR含有SFGレトロウイルスベクターを改変して、この研究において利用する構築物を生成させた。ヒトHIF1αからのアミノ酸401~603(配列番号29)をコードする全長ODD cDNAはgBlock(登録商標)(Integrated DNA Technologies)として合成され、プライマー;5’-TCCAGCGGCTGGGGCGCGAGGGGGCAGGGCC-3’および5’-GGCCCTGCCCCCTCGCGCCCCAGCCGCTGGA-3’を用いて生産者の使用説明書にしたがってPlatinum Pfx DNA polymerase(Thermo Fisher Scientific)を使用してオーバーラップPCRを通じてT1E CAR内のCD3ζのC末端にこれを付加した。PCR生成物を1.2%アガロース(Sigma-Aldrich)ゲルに流し、1kb Plus DNA ladder(Thermo Fisher Scientific)に対して生成物サイズを推定した。予期されるサイズの断片を切除し、QIAquick(登録商標) Gel Extraction kitを使用して精製した。SFGプラスミド中のおよびT1E CAR-ODD cDNAに組み込まれたAgeIおよびXhoI制限酵素部位を切断するためにAgeIおよびXhoI制限エンドヌクレアーゼ(New England BioLabs)を使用してT1E CAR-ODDをSFGベクターにクローニングした。制限エンドヌクレアーゼ消化されたベクターおよび構築物をQIAquick PCR purification kit(QIGEN)を使用して精製し、T4リガーゼ(Thermo Fisher Scientific)を使用してライゲートした後にOne Shot Stbl3(商標)chemically competent E.coli(Thermo Fisher Scientific)への形質転換を行った。形質転換されたE.coliを、アンピシリン(Santa Cruz Biotechnology)含有Luria Bertani(LB)Agar(Sigma-Aldrich)プレートを使用して選択した。形質転換されたコロニーをそこで100μg/mlのアンピシリンを含むLBブロス(Sigma-Aldrich)中で生育し、次にQIAGEN Plasmid MidiまたはMaxiのいずれかのキットを使用して精製した。最終構築物の配列の検証を行った(Source BioScience)。類似したアプローチを使用して、以下の追加の改変を行った:ウイルスP2A配列により分離されたクリックビートルルシフェラーゼ(Luc)およびeGFPを使用して構成的レポーター構築物を生成し、レポーター構築物は研究室において以前に生成してあった。これは、フォワードプライマー5’-CCATGGTGAAGCGTGAGAAAAATG-3’およびリバースプライマー5’-CTCGAGTTACTTGTACAGCTCGTCCATGC-3’を用いて生産者のプロトコールにしたがってPlatinum Pfx DNA polymerase(Thermo Fisher Scientific)を使用してPCR増幅により達成された。NcoIおよびXhoI(New England BioLabs)を用いて増幅生成物を消化し、NcoIおよびXhoIならびにT4 DNAリガーゼ(Thermo Fisher Scientific)を使用してSFGベクターにクローニングした。(上記のような)全長ODDをまた、プライマー:フォワード5’-GAGAAGGCCGGCGGTGCCCCAGCCGCTGGA-3’およびリバース5’-CCTCAAAGCACAGTTACAGTATTCCAGGGAAGCGGAGCTACTAACTTCAG-3’を使用してオーバーラップPCRによりレポーター構築物からのLucのC末端に付加して、相補的(complimentary)オーバーハングに隣接されたODDを増幅した。その後に、プライマー:フォワード5’-CCATGGTGAAGCGTGAGAAAAATG-3’およびリバース5’-CTCGAGTTACTTGTACAGCTCGTCCATGC-3’を使用してオーバーラッピングフュージョンPCRを行って、NcoIおよびXhoI制限部位により隣接されるルシフェラーゼ-ODD-P2A-eGFPをコードする断片を生成させ、NcoIおよびXhoI制限部位を使用してルシフェラーゼ-ODD-P2A-eGFPをSFGベクターに挿入した。3’LTR領域は組み込みで5’LTRにコピーされるので、HRE改変をSFGレトロウイルスベクターの3’LTRに標的化した。HIF結合部位および補助部位の両方を含有する9つのタンデムの5’-GGCCCTACGTGCTGTCTCACACAGCCTGTCTGAC-3’HREモチーフを含有するDNAをgBlock(登録商標)(Integrated DNA Technologies)として合成し、NheIおよびXba1制限エンドヌクレアーゼ(New England BioLabs)を使用してNheIおよびXbaI制限エンドヌクレアーゼ部位の間でSFGベクターの3’LTRにサブクローニングした。T1E CAR CD3-切断対照構築物を、隣接するSbfIおよびXhoI制限部位と共にgBlock(登録商標)(Integrated DNA Technologies)として合成し、SbfIおよびXhoI制限エンドヌクレアーゼ(New England BioLabs)を使用してHRE改変SFGベクターにサブクローニングした。2シストロン性ルシフェラーゼ-T2A-CAR構築物を生成させるために、AgeIおよびNotI制限部位に隣接されたルシフェラーゼ-T2A-T1Eペプチド結合剤を含むように設計されたgBlock(登録商標)(Integrated DNA Technologies)をT1E CAR構築物に挿入した。
【0230】
細菌形質転換
One Shot Stbl3 Chemically Competent E.coli(ThermoFisher Scientific)を形質転換のために使用した。氷上で解凍したOne Shot Stbl3細胞のバイアルに5μlのライゲーション混合物を加えた。細胞をその後に氷上で30分間インキュベートした。次に、細胞を熱ショック(45秒、42℃)し、氷上に2分間置き、次に250μlのS.O.C.Mediaを加え、37℃の細菌シェーカー中でバイアルをインキュベートした。細胞をアンピシリン(100μg/ml)寒天プレート上に広げ、加湿された細菌インキュベーター中37℃で終夜インキュベートした。コロニーを摘み取り、100μg/mlのアンピシリンを含有する3mlのLBブロス中で生育させた。生産者のプロトコールにしたがってQIAprep Miniprep Kit(Qiagen)を使用してDNAを細菌から抽出した。280nmでnanodrop分光光度計によりDNAを定量化し、Source BioScienceによりシークエンシングした。SnapGeneソフトウェアをシークエンシングアライメントおよび検証のために使用した。
【0231】
細胞系
全ての細胞系は加湿インキュベーター中37℃および5%のCO2で生育させた。ヒト胎児腎臓(HEK)293、Phoenix-ECO(Sandra Dieboldからの供与)、ヒト線維肉腫細胞系HT1080、BW5147.G.1.4(ATCCから購入)、Jurkat(Clone E6-1)(ATCC)を、10%の胎仔ウシ血清(FCS;Thermo Fisher Scientific)を補足したRPMI 1640培地(Gibco)中で維持した。10%のFCSおよびインスリン(0.2U/ml)を補足したRPMI 1640培地(Gibco)中でT47D細胞を維持した。
【0232】
SKOV3ヒト卵巣腺癌細胞は元々ATCCから購入し、この研究のためにATCCにより再立証された。HN3ヒト頭頸部腺癌はLudwig Institute for Cancer Research、Londonから入手し、D10培地、10%のFCSおよびGlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco)中で生育させた。マウスルイス肺癌(LL2)細胞はATCCから購入し、10%のFCSを補足したRPMI 1640中で培養した。MycoAlert(登録商標) Mycoplasma Detection Kit(Lonza)を使用してこの研究のために細胞系はマイコプラズマを含まないことを確認した。
【0233】
マウス
NSG(NOD-scid IL2Rgammanull)マウスはCharles Riverから購入し、内部で飼育した。Balb/c Rag2-/-マウスはProfessor Adrian Hayday(KCL)から供与された。HN3を伴う研究のために雄マウスを使用し、SKOV3およびLL2研究を伴う研究のために雌マウスを使用した。異所性腫瘍研究のために使用した全てのマウスは6~8週齢であり、約22gの体重であった。
【0234】
レトロウイルスの生成
ヒト細胞に対するトロピズムを有するレトロウイルスを製造するために、FuGENE HDトランスフェクション試薬を使用して50%~60%コンフルエントHEK 293T細胞(Promega、US)への(6ウェルプレートのウェル当たり)1.5μgのPeq-Pamプラスミド(Moloney GagPol)、1μgのRDFプラスミド(RD114 envelope)および1.5μgのSFGプラスミドを使用する三重トランスフェクションによりRD114シュードタイプ一過性レトロウイルス粒子を生成させた。Peq-Pam、RDFおよびSFGプラスミドを単純なRPMI 1640培地(Gibco)中室温(RT)で15分間インキュベートし、次に293T細胞に滴下で加えた。レトロウイルス含有上清を48時間後に回収し、ヒト細胞系への形質導入のために使用した。
【0235】
低酸素条件
低酸素チャンバーはSTEMCELL Technologies(Canada)から購入し、一定の5%のCO2と共に残余としてN2を使用して0.1%、1%または5%のO2を含有するBOCにより供給される認証されたガスを用いてパージした。生産者のプロトコールにしたがって1回目のパージの1時間後にチャンバーを再パージした。等数の細胞を2つの並列プレートにプレーティングし、18時間、1つは低酸素条件に曝露し、他方は正常酸素に維持した。Perkin Elmer Fusion α-FPプレートリーダー(Life Sciences)上で生産者のプロトコールにしたがってルシフェラーゼアッセイ(Promega、US)を使用してルシフェラーゼ活性を次に測定した。低酸素応答性遺伝子発現を評価するためのインキュベーション時間は公知の研究に基づいた。低酸素条件もまた、100μMの最終濃度で塩化コバルト(II)(Sigma-Aldrich、US)(PHD阻害剤)を使用して模倣した。
【0236】
ウエスタンブロット解析
1倍濃度のプロテアーゼ阻害剤カクテル(Thermo Scientific)を含有するウエスタン溶解緩衝液(2.5mlの1M Tris pH 6.8、1gのSDS、5mlのグリセロール、17.5mlの水)に細胞を溶解させた。Pierce BCA Protein Assay Kit(ThermoFisher Scientific)を使用して細胞溶解液中の総タンパク質を定量化した。SeeBlue pre-stained protein ladder(ThermoFisher Scientific)と共に各溶解液からの10ugのタンパク質を150Vで12%のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE)を使用して分離させ、30Vで2時間、活性化PVDFニトロセルロース膜(Thermo Scientific、Pierce)に転写させた。膜をRTで1h、PBS 0.1% Tween-20中の1%のミルクを用いてブロッキングし、次に1%のミルク中のウサギ抗HIF1α抗体(Novus Biologicals、Littleton、CO)(1:2000)と4℃で終夜、またはポリクローナル抗β-アクチン(1:5000;Abcam)とインキュベートした。洗浄後、1%のミルク中の二次抗ウサギホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:5000;Invitrogen)と膜をインキュベートした。次に、HRP基質3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン(TMB)をPVDF膜に加え、CL-XPosure Film(Thermo Scientific)およびウエスタンブロットX線分析機を使用してシグナルを読み取った。
【0237】
定量PCR
生産者のプロトコールにしたがってDNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN、Germany)を使用してゲノムDNAを細胞系から抽出し、280nmの吸光度でnanodrop分光光度計を用いて測定した。ゲノム中のTbp、LucまたはT2A配列からアンプリコンを生成させるための特別に設計されたプライマーを使用して生産者のプロトコールにしたがってKiCqStart SYBR Green qPCR ReadyMix with ROX(Sigma-Aldrich、USから購入)を使用してqPCRを行った。使用したプライマーは、マウスTbp 5’-TGTCTGTCGCAGTAAGAATGGA-3’および5’-AAAATCCCAGACACGGTGGG-3’、ヒトTbp 5’-TTTGGTGTTTGCTTCAGTCAG-3’および5’-ATACCTAGAAAACAGGAGTTGCTCA-3’、Luc 5’-ATTTGACTGCCGGCGAAATG-3’および5’-AAGATTCATCGCCGACCACAT-3’、T2A 5’-CGGAGAAAGCGCAGC-3’および5’- GGGTCCGGGGTTCTCTT-3’であった。関心対象の遺伝子の増幅をABI 7900HT Fast Real Time PCR機器(ThermoFisher Scientific)上で検出した。
【0238】
定量的逆転写PCR
健常な雌C57BL/6マウスを屠殺し、以下の臓器を抽出した:乳腺、脂肪、肝臓、腎臓、結腸、小腸、胃、骨格筋、肺、心臓、脳、嗅球および目(n=13)。臓器をRNAlater(Sigma-Aldrich、US)試薬に浸して細胞性RNAを安定化および保護し、終夜4℃に保った。生産者のプロトコールにしたがってPrepEase RNA Spin Kit(Affymetrix、US)を使用してRNAを組織から単離し、280nmでNanoDrop分光光度計を使用して定量化した。Egfr Mm01187858_m1、Erbb2 Mm00658541_m1 Erbb3 Mm01159999_m1、Erbb4 Mm01256793_m1、Itgb6 Mm01269869_m1、Tbp Mm01277042_m1を含む関心対象の遺伝子についての要求に応じたアッセイと共に、EXPRESS One-step Superscript qRT-PCR kit(ThermoFisher Scientific)を使用して定量的逆転写酵素PCRにより精製されたmRNAにおいてErbb1-4およびインテグリンβ-6 mRNA発現を分析した。ABI 7900HT Fast Real Time PCR機器(ThermoFisher Scientific)を使用してqRT PCRを行い、データ解析をExcelで行った。RNAを-80℃で貯蔵した。全ての遺伝子の発現は、ハウスキーピング遺伝子Tata結合タンパク質(Tbp)と比べて表される。
【0239】
【0240】
細胞生存
冷ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)(Gibco)を用いて細胞を2回洗浄し、PE Annexin V Apoptosis Detection Kit(BD Biosciences)中に供給される1X結合緩衝液に再懸濁した。細胞を次にPE Annexin V Apoptosis Detection Kitのプロトコール(BD Biosciences)にしたがって暗所中RTで15分間PEアネキシンVおよび7-アミノ-アクチノマイシン(7-AAD)を用いて染色し、洗浄し、1X結合緩衝液に再懸濁し、フローサイトメトリー(FACSCanto II Flow cytometer、BD Biosciences)により分析した。FlowJoソフトウェアを使用してフローデータを分析した。PEアネキシンVおよび7-AAD陰性細胞を生存と考え、PEアネキシンV陽性および7-AAD陰性細胞を早期アポトーシスとし、PEアネキシンVおよび7-AAD陽性細胞を後期アポトーシスまたは死亡とする。
【0241】
T細胞単離
ヒトT細胞を単離するために、Guy’s and St Thomas’Research Ethics Committee(REC reference 09/H0804/92)の承認の下で健常ボランティアから血液を得た。抗凝固剤(10%のクエン酸塩)を含有するファルコンチューブに血液を収集し、RPMI 1640と1:1で混合し、Ficoll-Paque Plus(GE Healthcare)上で層化した。試料を20℃において750gで30分間遠心分離して、末梢血単核(PBMC)細胞画分を分離した。PBMCを含有する血漿およびFicoll層の間の境界面を無菌パスツールピペットを使用して回収し、RPMI 1640中で洗浄した。human Pan T-cell isolation kit(Miltenyi Biotec)を使用してT細胞をPBMC画分から精製し、生産者のプロトコールにしたがってMidiMACs(商標)セパレーターおよびLSカラム(Miltenyi Biotec)を使用して単離した。CD3/CD28 Human T-Activator Dynabeads(Gibco)を1:1の細胞対ビーズ比で使用して、精製されたヒトT細胞を活性化させ、組織培養プレート中、5%のヒト血清(Sigma-Aldrich)および1Xペニシリン/ストレプトマイシンを補足したRPMI 1640中に3×106で播種した。翌日、100IU/mlの組換えヒトIL-2(PROLEUKIN)を培養物に加えた。
【0242】
T細胞および細胞系の形質導入
ヒト細胞に対するトロピズムを有するレトロウイルスを製造するために、以前に記載されたようなHEK 293T細胞の、FuGENE HD transfection reagent(Promega)を使用し、Peq-Pamプラスミド(Moloney GagPol)、RDFプラスミド(RD114エンベロープ)および関心対象のSFGプラスミドを使用する三重トランスフェクションにより、RD114シュードタイプレトロウイルス粒子を生成した。マウス細胞トロピズムを有するレトロウイルスを製造するために、関連するプラスミドを用いてFuGENE HD(Promega)を使用してPhoenix-ECOレトロウイルスプロデューサー細胞へのトランスフェクションを行った。ウイルス粒子を含有する上清を回収し、関心対象の細胞と少なくとも48hインキュベートしてそれらに形質導入させた。4℃で終夜4μg/cm2のRetroNectin(Takara Bio)を事前コーティングした非組織培養処理プレート中でT細胞への形質導入を行った。ヒトT細胞のレトロウイルス形質導入の前に、CD3/CD28 Human T-Activator Dynabeads(Gibco)を除去し、T細胞単離のセクションにおいて記載したように新鮮なIL-2を加えた。2シストロン性4αβ-T2A-CAR構築物を用いるT細胞形質導入の場合、T細胞形質導入後に、30ng/mlの最終濃度でヒトIL-4(Peprotech)を培養物に加えて、形質導入されたT細胞集団を富化した。SKOV-3およびHN3を含む接着細胞系に、感染効率を増加させるために4μg/mlの最終濃度でポリブレン(Santa Cruz Biotechnology Inc)を含有する培地溶液中、以前に指し示したように製造されたレトロウイルスを用いて形質導入を行った。Luc/eGFPを発現するように改変された細胞を、eGFP蛍光に基づくBD FACSAria III(BD Biosciences)を使用する細胞選別により精製した。
【0243】
インビトロ研究
0.1、1、5%のいずれかのO2、5%のCO2および残余として窒素を含有するガス(BOC)を用いて25L/分で4分間パージした低酸素インキュベーターチャンバー(Stemcell Technologies)を使用してインビトロ低酸素を達成し、その後にチャンバーを密封した。このプロセスを1h後に再び繰り返した。低酸素媒介性HIF1α安定化は、一部の場合には、他に記載されなければ100μMの最終濃度で、HIF1αヒドロキシル化を阻害する化学物質CoCl2(Sigma-Aldrich)を使用することにより模倣した。インビトロ細胞傷害性アッセイで、1×104個のLuc/eGFP発現SKOV3細胞を96ウェル組織培養プレートに播種し、形質導入または非形質導入T細胞を、指し示されるエフェクター対標的比でウェルに加えた。共培養物を24、48および72hの時点にわたりインキュベートし、標的細胞生存をルシフェラーゼ定量化(正常酸素条件において、100μlの培地当たりPBS中の1μlの15mg/mlのXenoLight D-ルシフェリン(PerkinElmer)の添加後)により決定した。FLUOstar Omegaプレートリーダー(BMG Labtech)を使用して発光を定量化した。24および48hの共培養時点に培地の試料を共培養物から取り、その後にそれぞれIL-2およびIFNγ定量化のために使用した。生産者のプロトコールの通りにHuman IL-2 ELISA Ready-SET-Go!Kit,2nd Generation(eBioscience)を使用してIL-2を定量化した。生産者のプロトコールの通りにHuman IFN-gamma DuoSet ELISA kit(Bio-Techne)を使用してIFNγを定量化した。両方のELISAにおいて、Fusion alpha-FP分光光度計(Perkin-Elmer)での450nmにおける吸光度測定によりサイトカイン濃度を決定した。
【0244】
インビボ研究
6~8週齢の雌(SKOV3およびLL2について)ならびに雄(HN3について)マウスへの皮下(s.c.)注射により腫瘍細胞系(PBS中2.5×105個の細胞)を接種した。腫瘍が触知可能となったら、腫瘍の長(L)および短(S)寸法のデジタルキャリパー測定を2または3日毎に行った。以下の式:体積=(S2×L)/2を使用して腫瘍体積を確立した。マウスから血液試料をEDTAコーティングMicrovette(商標)チューブ(Sarstedt)に採取し、2,000gで5分間のこれらの試料の遠心分離により血漿を抽出した。30G針を使用して尾静脈を通じて200μlのPBS中で指し示される用量のCAR T細胞を注射した。フローサイトメトリー分析用の腫瘍組織、および他の臓器を、以前に記載されたように酵素消化して単一細胞に解離させた。簡潔に述べれば、外科用メスを使用して組織をミンチし、次にRPMI(Gibco)中のClostridium Histolyticumからの1mg/mlのCollagenase I(Sigma-Aldrich)および0.1mg/mlのDeoxyribonuclese I(AppliChem)を用いる37℃で60分間のインキュベーションにより単一細胞を解放させた。解離された細胞を次に70μmの細胞濾過器に通過させた後にフローサイトメトリー分析のために染色した。トリパンブルー(Sigma-Aldrich)排除と共に血球計を使用して生存細胞を数えた。
【0245】
生物発光イメージング
インビボでルシフェラーゼ体内分布を評価するために、マウスの腹腔内(i.p.)に無菌PBS中の200μl(15mg/ml)のXenoLight D-ルシフェリン(PerkinElmer)を注射し、10分後にイメージングを行った。イメージングのために動物を麻酔し、In vivo Imaging System(IVIS(登録商標))Lumina Series III(PerkinElmer)を使用して発光を検出し、Living Image software(PerkinElmer)を使用してデータを分析した。光をフォトン/秒/単位面積で定量化した。
【0246】
フローサイトメトリー
以前に記載されたようにフローサイトメトリーを行った。以下の抗体をeBioscienceから購入し、他に記載されなければ1μg/mlで使用した:anti-human CD3ε Brilliant Violet 421(商標)(SK7;Biolegend(登録商標))、anti-human CD8α Alexa Fluor 488(RPA-T8)、anti-human CD4 PE(RPA-T4)、anti-human CD45 Brilliant Violet 510(商標)(HI30 Biolegend(登録商標))、anti-mouse CD4 FITC(Clone:RM4-5)、anti-mouse CD8α eFluor(登録商標)450(Clone:53-6.7)、anti-mouse CD3ε PE(Clone:145-2C11)、neutralizing anti-mouse CD16/CD32(Clone:2.4G2)。蛍光マイナス1染色試料を使用してバックグラウンド染色を確立した。ビオチン化抗ヒトEGF抗体(Bio-Techne:BAF236)を用いてT1E CARを染色し、ストレプトアビジンAPCを使用して検出した。eGFPをそのネイティブな蛍光により検出した。anti-Ter-119 PerCP-Cy5.5(Ter-119;eBioscience)と共に1μg/mlの7-アミノアクチノマイシンD(Cayman Chemical Company)を使用して死細胞および赤血球細胞を排除した。データをBD FACS Canto II(BD Biosciences)上で収集した。FlowJoソフトウェア(Freestar Inc.)を使用してデータを分析した。
【0247】
統計
分散の正規性および均質性をそれぞれシャピロ-ウィルク正規性検定およびF検定を使用して決定した。次に、GraphPad Prism 6ソフトウェアを使用して、パラメトリックなデータについて両側の対応のないスチューデントt検定またはノンパラメトリックなデータについてマン-ホイットニー検定を使用して統計的有意性を決定した。対になったデータを比較する場合、ペア比スチューデントt検定を行った。不等分散の群を比較する場合、ウェルチ補正を適用した。statmodソフトウェアパッケージの「CompareGrowthCurves」機能を使用して腫瘍成長曲線の統計解析を行った。提示したいかなるデータからも外れ値を排除しなかった。
【0248】
結果
HREの設計
Ensemblデータベースから得られたゲノムデータの分析に基づいて、種間および低酸素誘導性遺伝子の間で保存されている推定上のHIF1結合部位(HBS)を同定した。HIFに結合する6ヌクレオチド(nt)配列中の各位置における各ヌクレオチドの頻度に基づいてヒト、マウスおよびラットにおける異なる酸素感受性遺伝子からの推定上の6-nt長HBSを比較し、ヒトおよびマウスHBSについて配列ロゴを構築した(
図4Aおよび
図4B)。HBSエレメントの外側に、酸素制御される転写と関連付けられるゲノムHBS配列の8nt下流の配列もある。この部位はHIF補助部位(HAS)として公知である(
図4C)。
【0249】
HRE設計は、ゲノム配列から取られた8ntリンカー領域により分離されたHBSおよびHAS部位を含んだ。第1の事例において、3つの連続的なHBS-HAS配列を使用した。また、異なるHBS配列がHIFに対して異なる感受性を有するかどうかを調べるために、3つの連続的なHBS-HAS(簡便性のためにHRE)配列をそれぞれ含有する3つの構築物を最初に設計した。これらの構築物の間の差異は、各構築物中のHBSは異なる遺伝子に由来することであった(
図5)。これらの遺伝子はヒトEpo、ヒトVEGFAおよびヒトGLUT-3であった。
【0250】
LTR中のHRE
宿主細胞のゲノムに構築物を安定的に組み込むために、以前に記載したように改変されたLTRを有するSFGレトロウイルスベクターを使用した。SFGベクターはモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)に由来する。宿主細胞ゲノムへの導入遺伝子の組み込みに影響することなくLTR内のレトロウイルスエンハンサー領域を改変することを試みた。これは、ウイルスプロモーターの上流のLTRのNheI/XbaI部位にHREをクローニングすることにより以前に達成されている。ベクターまたは宿主ゲノムに組み込むためのその能力を不活性化することを回避するために、NheI/XbaI領域を類似した長さの断片で置き換えた。
【0251】
5’NheIおよび3’Xbal制限部位を含む我々のHRE配列を含有するDNA配列はGeneArtにより合成された。これらの配列をSFG MMLVベクターの3’LTR中のNheI/XbaI部位にサブクローニングした。逆転写が起こる場合に、改変された3’LTR U3領域は5’LTRにコピーされるので、5’LTRではなく3’LTRを改変した。NheI/XbaIはSFG中に独特の制限部位ではないという事実に起因して、3’LTR中のNheI/XbaI部位の特異的な改変を達成するために、独特の制限部位(XhoI/EcoRI)を含有する連続的なオーバーラップPCRを使用するいくつかのステップにおいて断片を合成した。酸素感知性レポーター構築物を作るために、P2Aペプチド(自己切断性ペプチド)により分離されたクリックビートルルシフェラーゼの緑色発光バリアントおよび緑色蛍光タンパク質をSFGベクターのNcoI/XhoI部位にクローニングした。結果としてもたらされた構築物を
図7に示す。
【0252】
ODDの追加
正常酸素の条件下でタンパク質分解を促すためにルシフェラーゼレポーターに取り付けられたODDドメインを有するベクターの追加のセットを同時にクローニングした。HIF1α安定性は、ODD中のプロリン(p402およびp564)の酸素依存性ヒドロキシル化により制御される。この配列を関心対象のタンパク質と融合させて、タンパク質の分解を酸素依存性とさせた。Uniprotデータベースに基づけば、ヒトHIF1αのODDドメイン(
図7中で強調されている)は203アミノ酸の長さであり、マウスオルソログは213アミノ酸からなる。オーバーラップPCRを使用して、HIF1αからのアミノ酸配列557~574(
図7中で太字)をルシフェラーゼのC末端に融合させた。正確なアミノ酸配列557~574(LDLEMLAPYIPMDDDFQL)はヒトおよびマウスにおいて保存されている。
図8に描写されるように、結果としてもたらされた断片(ルシフェラーゼ-ODD融合物)をLTR改変およびLTR非改変SFGレポーター構築物に挿入した。
【0253】
その後の実験において配列番号29、30、31を融合させた。3つ全ての配列番号は酸素感受性を融合パートナーに付与し、最適な結果は配列番号29、すなわち、ODD全体(401~603)を用いて得られた(
図17)。
【0254】
異なる細胞系における正常酸素または低酸素下でのHIF1α安定性
正常酸素または低酸素条件、それぞれ20%または0.1%のO
2中で細胞系を18時間培養した。以下のヒト細胞系をこれらの条件下でスクリーニングした:HEK293 T、HT1080、T47DおよびJurkat(Clone E6-1)。18時間の曝露の直後に、細胞を溶解し、方法に記載されるようにウエスタンブロットを行ってHIF1αを定量化した。試験した全ての細胞系において、正常酸素(20%のO
2)と比較した場合に、低酸素条件(0.1%のO
2)下でHIF1αは安定化されたことが見出された(
図10)。ImageJ Softwareを使用してデンシトメトリーを使用してタンパク質を定量化した。293T細胞およびHT1080細胞は低酸素条件下で最も高い量のHIF1αを有したが、これらの細胞系において正常酸素条件においてもある程度のHIF1αが検出された。T47DおよびJurkat細胞の両方は低酸素条件下で検出可能なHIF1αタンパク質を有したが、正常酸素条件下でT47DおよびJurkat細胞について検出可能なHIF1αバンドは見られなかった。
【0255】
細胞選択
3つの理由から初期実験において293T細胞を使用することを選択した。第1に、HIF1αウエスタンブロット解析は、293T細胞は、正常酸素において見出されるものより5倍高いレベルで、低酸素条件下でHIF1αタンパク質の強い発現を有することを示した。第2に、293TはT47Dと比較した場合に急速に増殖する細胞であり、複数の実験を短い期間に行うことを可能とすることを我々は観察した。第3に、293T細胞は、レトロウイルスを製造するために我々が使用するパッケージング細胞系である。したがって、レトロウイルスを製造するための293T細胞のトランスフェクションは、293T細胞自体のオート形質導入を結果としてもたらす。
【0256】
フローサイトメトリーに基づく形質導入効率
我々の構築物中の導入遺伝子の発現は酸素感受性であるので、正確な形質導入効率を決定するためにフローサイトメトリーに依拠することはできない。構成的ルシフェラーゼ-P2A-GFP構築物(SFGレポーター構築物)を形質導入された293T細胞のフローサイトメトリー分析は、生細胞集団(7-AAD陰性)における83%の形質導入効率を明らかにした(
図10)。これらの結果は、我々が使用したレトロウイルス形質導入方法は効率的に機能することを指し示した。
【0257】
LTR内の組み込み後HRE配置を検証するためのシークエンシング
3’LTR中の改変が5’LTRに複製されており、組み込まれたプロウイルス中で正確に配置されたことを確認するために、形質導入後に5’LTR領域をシークエンシングした。形質導入された293T細胞からゲノムDNAを単離し、PCRを介して5’LTR領域を増幅し、1.2%アガロースゲルに流した。正確な長さのバンドを切除し、ゲルを精製し、次にシークエンシングした。配列解析は、3’LTRに対するHRE改変は正確にコピーされ、5’LTR中で正確な配置を有することを明らかにした。
【0258】
コピー数アッセイ/qPCR(コピー数)アッセイ検証の確立
低酸素条件下でルシフェラーゼ発現を定量化する我々のアッセイのために、我々のデータを正規化する必要があり、これは、あらゆる細胞が形質導入されるわけではなく、一部の細胞はレポーター構築物の複数のコピーを含有している可能性があるためである。これを可能にするために、あらゆる細胞中に2コピー(ネイティブなゲノムDNA)として存在する参照遺伝子(TBP)の増幅の他に、組み込まれた導入遺伝子の数を算出することを可能とする導入遺伝子(ルシフェラーゼ)の増幅を使用する定量PCR(qPCR)を利用した。qPCRプライマーを設計するために、Ensemblデータベースを使用してインシリコで複数の可能なプライマー配列をスクリーニングして結合の高い特異性を確実にした。PCRにより生成されるアンプリコンが参照および導入遺伝子の遺伝子量の指標となるような関心対象の遺伝子中の独特の部位に結合するプライマーを選択した。クリックビートルルシフェラーゼならびにヒトおよびマウスTBP(ヒトおよびマウスの両方の細胞系を使用しているため)に結合するプライマーセットを設計した。このアプローチを使用して、以下の3セットのプライマーを設計した:マウスTBP遺伝子からの94nt断片を特異的に増幅するフォワードマウスTBP(5’-TGT CTG TCG CAG TAA GAA TGG A-3’)およびリバースマウスTBP(5’-AAA ATC CCA GAC ACG GTG GG-3’)、ヒトTBPからの103nt断片を特異的に増幅するフォワードヒトTBP(5’-TTT GGT GTT TGC TTC AGT CAG-3’)およびリバースヒトTBP(5’-ATA CCT AGA AAA CAG GAG TTG CTC A-3’)、ならびにルシフェラーゼ導入遺伝子からの90nt断片を特異的に増幅するフォワードルシフェラーゼ(5’-ATT TGA CTG CCG GCG AAA TG-3’)およびリバースルシフェラーゼ(5’-AAG ATT CAT CGC CGA CCA CAT-3’)。
【0259】
プライマー結合特異性(単一の増幅生成物)を決定するために、細胞から抽出されたゲノムDNAに対してqPCRを行い、PCR生成物をアガロースゲルに流した。全てのPCR生成物は適切な長さの単一のバンドを与え、プライマーは特異的であることを実証した。
【0260】
コピー数アッセイを検証するために、非形質導入細胞からおよびクリックビートルルシフェラーゼを含有する構築物を形質導入された細胞からゲノムDNAを抽出した。200ngのDNAを段階希釈(1:2)し、設計されたプライマーを使用してqPCRを行った。各反応を3連で行った。予期されたように、非形質導入細胞から抽出されたDNA中にルシフェラーゼアンプリコンは検出されなかった。形質導入された細胞から抽出されたDNAを使用して生成されたqPCRデータは、ルシフェラーゼおよびTBPの両方のプライマーセットからのqPCRシグナルならびに反応のサイクル数の間に直線的関係性があることを実証し、アッセイが検証された。
【0261】
20%、5%、1%および0.1%の酸素中での293T細胞の18時間のインキュベーション
レトロウイルスを用いて293T細胞への形質導入を行い、形質導入効率をqPCRにより決定した。非形質導入293T細胞およびルシフェラーゼ構築物1~8を形質導入された293T細胞(
図6および
図8のA、B、CおよびD)を播種し、5%、1%および0.1%の酸素ならびに正常酸素(20%の酸素)中で培養した。これらの条件下での18時間のインキュベーション後に、ルシフェラーゼ発現、および細胞生存を決定した。5%の酸素および正常酸素中での293T細胞の18hのインキュベーション後に得られた未加工の相対光単位(RLU)データは、酸素制御されたルシフェラーゼ発現システムが生成されたことを指し示す(
図14A)。全てのHREおよび/またはODD改変構築物は、正常酸素と比較して低酸素(5%)中でRLUにおける中程度の増加を与えたが、これはより低い酸素濃度において見られなかった。一般に、LTR HRE改変構築物は、細胞を0.1%の酸素に維持した場合にそれらのLTR野生型対応物と比較してより低いRLUを与えた。先行する刊行物に基づけば、より深刻な低酸素は、正常酸素条件と対比して低酸素条件下でのタンパク質発現における倍数誘導を増加させる傾向がある。しかしながら、我々のデータにおいてこの傾向は見られなかった(
図12C)。
【0262】
構築物内にODDドメインを追加する効果は、構成的発現性非改変LTR構築物+/-ODDを比較することにより最良に評価される。
図17および
図18を参照。実験にわたり、ODDの追加は、これらの条件においてルシフェラーゼの検出を中程度にのみ減少させた。低酸素の有意な誘導の非存在は装置または実験手順の結果であった可能性が残っているので、これを排除するために、(HIF1α分解のコバルト媒介性阻害により)低酸素条件を模倣する18時間の100μMの塩化コバルトを用いて、形質導入された293T細胞を刺激した。しかしながら、塩化コバルトの非存在と比較して100μMの塩化コバルトの存在下でルシフェラーゼ誘導は観察されなかった(
図13)。
【0263】
図29は、野生型と対比したHREプロモーターの優位性を実証する。HRE改変は、低酸素、例えば、腫瘍環境において、同じ条件におけるその非改変の野生型対応物と比較して下流の遺伝子のより良好な発現を駆動する優位なプロモーターに繋がることを我々は観察した。
図29AおよびBは、HRE改変は単独で、全てのエフェクター:標的比において(1:2などの低いE:Tにおいても)低酸素(固形腫瘍)環境中でのT細胞における優位な標的殺傷および活性化能力に繋がることを実証する。患者において確立された固形腫瘍におけるエフェクター対標的比は通常低いため低いE:T比において効率的であるHRE-CARの能力は決定的であり、CAR T細胞免疫療法のアウトカムを決定し得るため、これは極めて重要である。追加的に、この増強したCAR発現は、その低酸素状態のために固形腫瘍内でのみ起こり、したがって、増強した発現は腫瘍特異的であるため、WT CARからのリスクよりも高いオフ腫瘍毒性のいかなるリスクも課さない。
【0264】
プロモーター中のHREエレメントの数の増加の存在下での低酸素誘導可能性
図15および
図16に示されるように、低酸素誘導可能性は、プロモーター中のHREエレメントの数の増加と共に増加する。複数のHREを含有するようにLTR(レトロウイルスプロモーター)を改変することにより、正常酸素の条件におけるルシフェラーゼの発現は有効にサイレンシングされた。
【0265】
正常酸素(+/-ODD)中でのルシフェラーゼ安定性
様々なODDセグメントをルシフェラーゼのC末端に融合させ、その結果を
図20および
図21に示す。配列番号29:ODDセグメント401~603、配列番号30:ODDセグメント530~603および配列番号31:ODDセグメント530~653を試験した。3つのODDセグメントのそれぞれの追加は、正常酸素条件において発現の低減を結果としてもたらし、配列番号29(401~603のODD)との9つのHREプロモーター構造の組み合わせは、正常酸素中でルシフェラーゼの発現を示さなかったが、低酸素においてオンに切り替わった(
図18)。
【0266】
インビトロおよびインビボでのT4-CARの結果
マウスおよびヒトの両方において可能なErbBホモおよびヘテロ二量体の8/10に対して特異性を有するpan-ErbB CAR T1E28zを利用した。T細胞に形質導入されるとインビボでの追跡を可能にするレポータークリックビートルルシフェラーゼ(Luc)を同時に共発現するようにCAR構築物を改変した。皮下SKOV3卵巣がん異種移植片を有する免疫不全NSGマウスにErbB-CAR/Luc T細胞をi.v.で注入した。CAR T細胞の体内分布を注入の4日後に分析した。この早い時点において、細胞の大部分は肺および肝臓に存在することが見られ、腫瘍への取り込みは最小であった(
図19b)。ErbB1-4 mRNA発現についての臓器のプロファイリングは、ファミリーからの全ての受容体は、CAR T細胞が注入後に蓄積されることが観察された肺および肝臓を含む全ての重要臓器にわたり発現されることを裏付けた。
【0267】
低酸素は腫瘍微環境を健常組織から区別するので、これを活用して低酸素感知T4-CARを作成することを試みた。T4は、細胞外ドメインへのIL-4の結合で細胞内IL-2/IL-15シグナルを送出し、それにより、T細胞のCAR依存性殺傷能力に影響することなくエクスビボ拡大増殖の間にCAR T細胞を選択的に富化するための手段を提供するキメラIL-4受容体と共発現される次世代抗ErbB CARである。C末端203アミノ酸のODDを含有するように抗ErbB CARを操作し、T細胞に形質導入された場合にCARを低酸素に対して選択的に応答性とさせる一連の9つのHREを含有するように長鎖末端反復中のCARプロモーターを改変した(図式的な
図21)。インビトロで、「HypoxiCAR’」と命名したこのCARは、CD4
+およびCD8
+の両方のT細胞集団において厳密な低酸素特異的表面CAR発現を実証した(
図21b)。
【0268】
CAR発現は高度にダイナミックであり、O
2依存性の方式で「オン」および「オフ」され得るスイッチとなった(
図21c)。HREは、低酸素条件において、同等の形質導入効率および等しいCD4/CD8
+ T細胞比にもかかわらず、親T4-CARと比較してわずかにのみ低い総細胞表面CAR発現が観察されたので、堅牢なプロモーターであることが判明した(
図21d)。HypoxiCARは、環境上のO
2に対する応答の好都合な感受性を実証し、CAR発現は、健常臓器中で見出されるO
2濃度(≧5%)で存在しないが、腫瘍微環境中に見られるO
2レベル(≦1%)で検出可能であった。さらに、CAR発現は低酸素の深刻度と正に相関した(
図21e)。
【0269】
低酸素を感知するHypoxiCARの能力が検証されたので、標的細胞の低酸素依存性殺傷を誘発するその能力を調べることを試みた。このために、ErbB1-4を発現するSKOV3卵巣がん細胞を使用した。細胞を培養プレートに播種し、正常酸素(20%のO
2)および低酸素(0.1%のO
2)条件下でT4-CARまたはHypoxiCARと共インキュベートした。同等の形質導入効率にもかかわらず、HypoxiCARは、SKOV3細胞の効率的な低酸素依存性殺傷を示し、正常酸素条件下で有意な殺傷はなかった。HypoxiCARの細胞内テイルを切断してシグナル伝達を予防した場合(CD3
-)に殺傷は妨げられたので、標的細胞殺傷はCAR媒介性であった(
図21f)。T細胞応答において重要な役割を果たす2つのサイトカインであるIL-2(
図21g)およびIFNγ(
図21g~h)の両方の分泌もこれらの共培養物において評価した。hypoxiCAR T細胞によるサイトカイン産生はまた、検出可能なレベルは低酸素条件下でのみ見出されるように厳密に調節された。
【0270】
これらの観察をインビボに翻訳するために、HypoxiCARはErbB-CAR T細胞のオフ腫瘍毒性を回避し得るかどうかを評価した。これは、診療所におけるそれらの全身投与を不可能にする主要な障害である。腫瘍状況においてこの技術を評価するために、HypoxiCAR T細胞をHN3腫瘍保有NSGマウスにi.v.およびi.t.で並行して注射した。この手段により、エクスビボ研究のために腫瘍および重要臓器中のこれらの細胞の急速な蓄積を達成した(
図22A)。HypoxiCAR注入の4日後に、組織を回収し、酵素消化し、フローサイトメトリーを使用してCAR発現についてT細胞を評価した。HypoxiCARは発現の腫瘍選択性を達成し、低酸素性腫瘍微環境内でのみ表面CAR分子を提示し、T細胞が血液、肺、および肝臓に位置する場合にはCAR発現は存在しなかった(
図22B~C)。この観察は、SKOV3腫瘍を有するNSGマウスおよびマウスルイス肺癌(LL2)腫瘍を有するRag2
-/-マウスにおいても観察されたので、モデル特異的ではなかった。
【0271】
結果は、不十分な酸素供給により特徴付けられる微環境である固形腫瘍内でのpanErbB標的化CARの選択的発現を達成する厳密な低酸素感知CAR T細胞アプローチを示す。健常臓器中でのErbB受容体の広範な発現にもかかわらず、アプローチは、マウス異種移植モデルにおいてオフ腫瘍毒性なしで抗腫瘍有効性を提供する。このダイナミックな酸素感知安全性スイッチは、固形悪性腫瘍を治療するためのCAR T細胞標的レパートリーの限りない拡大増殖を潜在的に促す。
【0272】
オフ腫瘍毒性を回避するためのアプローチの同定は、現在限られている、癌腫に対するCAR抗原標的の完全に新たなレパートリーの鍵を開ける潜在能力を有する。
【0273】
この問題を調べるために、可能なErbB受容体ホモおよびヘテロ二量体の8/10に対して特異性を有し、かつ種の障壁を越えてマウスおよびヒトの両方の受容体に同等に結合する、第2世代pan-anti-ErbB CAR T1E28zを利用した。このCARは現在、SCCHNを有する患者における腫瘍内(i.t.)送達によるフェーズI評価を受けている。CARは、細胞外ドメインへのIL-4の結合でIL-2/IL-15シグナルを送出するキメラサイトカイン受容体(4αβ)と共発現され(
図24AおよびB)、エクスビボ拡大増殖の間にCAR T細胞を選択的に富化するための手段を提供するが、T細胞のCAR依存性殺傷能力に影響しない。この組み合わせはT4免疫療法と称される。T4-CAR T細胞のi.t.送達は人間において安全であることが判明しているが、i.v.注入は、これらの細胞が原発性腫瘍および転移の両方にホーミングすることを可能にするので望ましい。ErbB1-4を発現するHN3腫瘍を有する免疫不全NSGマウスへのヒトT4-CAR T細胞のi.v.注入(
図24C)は、これらの動物における体重の急速な損失により明らかな致死的な毒性を結果としてもたらした(
図24D)。臨床的に観察されたように、これらのマウスの血液の分析は、炎症促進性サイトカインにおける増加の証拠を明らかにした(
図24E)。CAR T細胞の体内分布を解明することを試みて、ルシフェラーゼ(Luc)レポーターを同時に発現するようにCAR構築物を改変して、形質導入されたT細胞のインビボでの追跡を可能にした(
図24F)。亜致死用量のレポーターヒトCAR T細胞のi.v.注入の4日後のイメージング分析は、大部分は肺および肝臓に蓄積し、これらの細胞上のErbB1-4(CAR標的)の発現にもかかわらず少数のみが腫瘍中に存在することを明らかにした(
図24G)。同じレポーターCARを発現するようにマウスT細胞への形質導入を行い、それらをRag2
-/-マウスにi.v.で注入した場合(
図24C)に、それらは同じ組織中および脾臓中に蓄積した(
図S3)ので、肝臓および肺中の蓄積は異種移植システムのアーチファクトではなかった。顕著なことに、Lucレポーターを単独で発現するT細胞は肝臓において有意に少なかったので、肺ではなく肝臓中のマウスT細胞の蓄積はCAR依存性であった。肺におけるCAR非依存性T細胞蓄積はインテグリン依存性相互作用に起因する可能性があった。ErbB1-4 mRNA発現のプロファイリングは、4つ全ての受容体が、肺および肝臓を含む全ての重要臓器において発現されることを裏付けた。T4-CAR T細胞媒介性の組織損傷の直接的な証拠を調べるために、亜致死用量のヒトT4-CAR T細胞をNSGマウスにi.v.で注入し、肝臓および肺のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色組織切片を使用する病理組織学的検査を5日後に実行した。この分析は、CAR媒介性炎症のサロゲートマーカーとなる、肺および肝臓中の骨髄細胞浸潤物の存在を明らかにした(
図24HおよびI)。浸潤物は、血管周囲分布中に観察され、かつ実質の全体を通じて散乱しており、好中球(多形核細胞)、およびマクロファージの可能性がある、豊富な細胞質を有する大きい単核細胞の両方からなるものであった。肝細胞壊死/アポトーシスもまた一部の動物において見られた。T4-CAR T細胞は、より低いレベルで腎臓中に蓄積し(
図24G)、この組織における炎症の有意な証拠はなかった。これらのデータは、肝臓および肺はオフ腫瘍CAR T細胞活性化のための2つの鍵となる臓器となることを指し示す。
【0274】
低酸素はほとんどの固形腫瘍に特徴的である。腫瘍細胞の増殖性および高い代謝性の要求は、非効率的な腫瘍血管系と共に、健常臓器/組織(5~10%のO
2)と比較して不十分な酸素供給(<2%のO
2)の状態を結果としてもたらす(
図24JおよびK)。低酸素は腫瘍微環境を健常な正常酸素組織から区別するので、それはCAR T細胞発現の誘導のための望ましいマーカーとなる(
図24JおよびK)。厳密な低酸素調節性CAR発現システムを作成するために、T4-CARのための二重酸素感知アプローチを開発した(
図25A)。これは、CAR発現を低酸素に対して選択的に応答性とさせる一連の9つの連続するHREを含有するように長鎖末端反復(LTR)エンハンサー領域中のCARプロモーターを改変することと同時に、C末端203アミノ酸のODDを抗ErbB CARに付加することにより達成された。インビトロで、「HypoxiCAR」と命名したこのCARは、ヒトT細胞の細胞表面上のCAR分子の厳密な低酸素特異的提示を実証した(
図25B)。二重酸素感知システムは、9つのHREカセットまたはODDのいずれかを単独で使用したバリアントより優位であることを我々は実証した。両方の場合に、これらの代替的なアプローチは正常酸素の条件下でCAR発現の漏出性を示し、正常酸素条件下での腫瘍細胞殺傷を許容した。HypoxiCARのCARの発現はまた高度にダイナミックであり、O
2依存性の方式で「オン」および「オフ」され得るスイッチとなった(
図25C)。さらなるインビトロの特徴付けにおいて、CAR発現は健常臓器と合致するO
2濃度(≧5%)下で存在しなかったが、腫瘍微環境中で見出されるものと同等であるO
2濃度(≦1%)で細胞表面上に検出可能となったので、HypoxiCARの精巧なO
2感受性が裏付けられた(
図25D)。腫瘍に浸潤したT細胞は腫瘍微環境から出て行くことが実証されており、CARを発現する低酸素を経験したHypoxiCAR T細胞が健常な正常酸素組織に再び入った場合に潜在的な安全性の懸念を強調している。しかしながら、標的細胞の細胞溶解性T細胞媒介性殺傷は最大6時間を要し得るので(25)、その時間の間に正常酸素において、HypoxiCARの表面CARの約62±8%は既に分解されている可能性を予期することができ(
図2C)、出て行ったHypoxiCAR T細胞による任意のオフ腫瘍殺傷は限定されることが予期される。さらに、CD8
+ T細胞遊走はそれがそのコグネイト抗原を発現する腫瘍細胞に遭遇する領域において止まることが実証されているので、標的を殺傷するために十分なCARをHypoxiCARが発現したら細胞放出は限定される。
【0275】
低酸素を感知するHypoxiCARの能力が検証されたので、腫瘍標的細胞の低酸素依存性殺傷を誘発するその能力を調べることを試みた。SKOV3卵巣がん細胞を培養プレートに播種し、正常酸素および低酸素(0.1%のO
2)条件下でT4-CARまたはHypoxiCARと共インキュベートした。同等の形質導入効率およびCD4
+:CD8
+ T細胞比にもかかわらず、HypoxiCAR T細胞は、T4-CAR T細胞とほぼ同等の、SKOV3細胞の効率的な低酸素依存性殺傷を示し、正常酸素条件下では有意な殺傷は観察されなかった(
図25E)。HypoxiCARの細胞内テイルを切断してCD3ζシグナル伝達を予防した場合、殺傷は妨げられた(
図25E)ので、標的細胞破壊は厳密にCAR依存性であった。追加的に、HypoxiCARは、T細胞応答において重要な役割を果たす2つのサイトカインであるIL-2(
図25F)およびIFNγ(
図25G)の両方の厳密な低酸素に制限されたT細胞分泌を提供した。
【0276】
HypoxiCARがインビボで腫瘍に制限されたCAR発現を提供し得るかどうかを評価するために、HN3腫瘍を有するNSGマウスに並行してi.v.およびi.t.でヒトHypoxiCAR T細胞を注射した。これらの腫瘍はおおよそ500mm
3の体積を有し(
図26A)、それにおける低酸素の存在が確認された(
図24J、K)。HypoxiCAR T細胞注入の4日後に、組織を回収し、酵素消化し、フローサイトメトリーを使用してCAR発現についてT細胞を評価した。インビトロ分析(
図25)により予測されたように、注入後のマウスの血液、肺、または肝臓から回収された場合にHypoxiCAR T細胞は検出可能な細胞表面CAR分子を発現しなかったが、それらは低酸素性腫瘍微環境内で細胞表面上にCAR分子を発現した(
図26B、C)。類似した観察が、SKOV3腫瘍を有するNSGマウスおよびマウスルイス肺癌(LL2)腫瘍を有するRag2
-/-マウスの両方においてなされたので、この発見はモデル特異的ではなかった。「Hypoxi」構築物エレメントが腫瘍成長の異なるステージにわたり活性であるかどうかを確立するために、HREプロモーターを使用してルシフェラーゼ-ODDの発現が駆動されるHypoxi-ルシフェラーゼレポーターを開発した。このレポーターを直接的にSKOV3およびHN3細胞系に安定的に形質導入した。ルシフェラーゼ-ODDは、正常酸素条件下の腫瘍細胞中で検出可能でなかったにもかかわらず、SKOV3およびHN3の両方の腫瘍において、腫瘍が触知可能となる前であっても、腫瘍成長の全てのステージにおいてインビボで検出された。これは、HypoxiCAR T細胞は早期ステージの腫瘍に対してさえ活性である可能性を示唆した。これを試験するために、腫瘍が触知可能になる直前の、HN3腫瘍細胞の注射後16日目にHypoxiCAR T細胞をマウスに注入した。正常酸素組織中でのT細胞上のCAR発現の非存在と合致して、HypoxiCARはまた、高用量T4-CAR T細胞のi.v.注入を使用してその後に見られる治療制限毒性を回避した。実際に、ヒトHypoxiCAR T細胞をi.v.で注入されたマウスは、注入後に体重における急速な低下を示さず(
図26D、E)、全身循環における炎症促進性サイトカインの証拠はなく(
図26F)、肺、肝臓および腎臓のいずれにおいても組織損傷のいかなる徴候もなかった(
図26G、H)。重要なことに、ヒトT4-CAR T細胞をi.v.で注入されたマウスは全て28h時にそれらの人道的なエンドポイントに達したが(
図26E)、HypoxiCAR T細胞を注入されたマウスはオフ腫瘍毒性の徴候を示さず、腫瘍成長を予防した(
図26I)。そのため、HypoxiCARは、身体の全体を通じて正常組織中に発現される抗原を標的化するCAR T細胞の全身投与を現在不可能にしている主要な障害を克服する。
【0277】
低酸素はSCCHNにおいて大規模に研究されてきた。いずれの患者がHypoxiCAR T細胞免疫療法のために最も適切であり得るのかを評価するために、患者腫瘍トランスクリプトームデータを使用してHRE調節遺伝子シグネチャーを最初に生成させた。公知のHRE調節遺伝子を共発現について分析し、遺伝子PGK1、SLC2A1、CA9、ALDOAおよびVEGFAを利用する精密化されたシグネチャーを、これらの遺伝子の間に有意な正の相関が観察されたので選択した(
図27A)。異なるSCCHNサブタイプ(下咽頭、喉頭、口腔、および中咽頭)にわたりこのシグネチャーの発現において差異はなかった。しかしながら、この5遺伝子シグネチャーの発現は腫瘍サイズと共に有意に増加し(T-スコア;
図27B)、そしてまたステージ3および4のHNSCC患者におけるより不良な生存を予示した(
図27C)。HRE調節遺伝子シグネチャーを利用して生検材料から低酸素を予測することは、HypoxiCAR療法に最良に応答し得る患者を評価するための単純な手段を提供し得る。
【0278】
HypoxiCARのCAR発現のためのマスター転写因子である安定化されたHIF1αについてのSCCHN腫瘍切片の免疫組織化学染色は、HIF1αが安定化された腫瘍の大きい領域を明らかにした(
図27D)。いくつかの因子がHIF1αを安定化させ得るが、低酸素はこの観察について最も可能性のある説明となる。HIF1α安定化および腫瘍内T細胞浸潤の両方における不均質性が患者の間で見られた。しかしながら有望なことに、HIF1α安定化の最も高い頻度および/または強度を有する腫瘍は、T細胞が上皮内空間に入ることも、腫瘍のHIF1α安定化領域に入ることも排除しなかった(
図27E、F)。免疫蛍光を使用して、HIF1α安定化腫瘍領域に浸潤するCD3
+ T細胞はHIF1α自体も安定化させることも我々は実証し、これは、これらの環境においてHypoxiCAR T細胞が活性化されることを示唆する(
図27G)。これらの観察は、HypoxiCARは、低酸素性腫瘍種、例えばSCCHNにおいて臨床応用を有し得ることを示唆し、該腫瘍種において、遺伝子発現(
図27A~C)、HIF1α/CD3についての生検試料の染色(
図27D~G)およびイメージング技術、例えば
64Cu-ATSMなどの低酸素放射性トレーサーを使用するPET/CTは、低酸素性腫瘍微環境の存在を裏付けかつ患者選択をガイドするためのバイオマーカーを提供し得る。
【0279】
CAR T細胞の腫瘍特異性を向上させるためのアプローチ、例えば、HLA提示抗原に対する特異性を有するT細胞受容体模倣性CAR、腫瘍抗原の組み合わせた標的化、または高密度抗原を優先的に標的化するためのCAR親和性のチューニングが開発された。この研究は、腫瘍微環境の最も先天的な特徴の1つを活用する、がん選択的な免疫療法を達成するための代替的なアプローチを実証する。ここに記載される「二重低酸素感知」システムは、正常組織中の複数の標的を認識するCARのオフ腫瘍毒性を妨げながら有力な抗腫瘍有効性を達成する。CARに付加された低酸素感知HREモジュールおよびODDは相乗的に作用して、厳密な低酸素特異的標的殺傷を提供する(
図25E)。このアプローチは正常酸素の条件下でCARの転写(HRE)および安定性(ODD)の両方を制限し、これらの2つのシステムが同時に利用された場合に、それらは、いずれかのシステムが単独で使用された場合に観察される漏出性を克服した。
【0280】
低酸素性腫瘍微環境は効率的な免疫反応に資さない。低酸素は、間質細胞、例えばマクロファージにおいて免疫抑制プログラムを活性化させ、免疫チェックポイント分子の発現を調節し、かつより高悪性度の腫瘍細胞表現型を促進することができる。しかしながら、有望なことに、低酸素はインビトロで直接的にT細胞エフェクター機能に負に影響しない(
図25E~G)ことを我々は見出し、これは他の者により観察されたことと合致する。HypoxiCAR T細胞はまた、低酸素性腫瘍の成長を予防することができ(
図26I)、これは、試験されたインビボモデルにおいて、腫瘍微環境は、インビボ抗腫瘍治療有効性を与えるためのHypoxiCARの能力に対する完全な障壁ではなかったことを示唆する。将来的に、腫瘍を標的化するHypoxiCAR T細胞の能力をさらに向上させ得る微環境修飾剤、例えば免疫チェックポイント阻害剤とHypoxiCAR T細胞療法を組み合わせる可能性もある。さらには、T細胞はヒト腫瘍のHIF1α安定化領域から排除されない(
図27D~F)ので、HypoxiCAR T細胞は、CAR発現を活性化させるために適切な微環境にアクセスできる可能性がある。高用量HypoxiCAR T細胞を注入されたマウスにおいて治療制限毒性の証拠を我々は観察しなかったが(
図26EおよびI)、「生理学的低酸素」が観察されている腸粘膜などの健常組織中の微環境がある。そのような組織は、HypoxiCAR T細胞のオフ腫瘍活性化が起こり得る部位となる可能性がある。そのため、最も広汎性のCARのために追加のレベルの安全性を提供するために自殺スイッチがHypoxiCARに組み込まれ得る。汎ErbB標的化CARを使用して「HypoxiCAR」二重酸素感知システムを例示したが、固形悪性腫瘍の治療のために利用可能な安全な標的の不足を克服するために、広く応用可能な戦略が使用され得る。
【配列表】
【国際調査報告】