(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(54)【発明の名称】癌細胞上に存在するケラチン14(KRT14)の細胞外部分を標的とすることによる癌の治療または予防のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220323BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220323BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220323BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220323BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20220323BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20220323BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220323BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220323BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220323BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220323BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220323BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220323BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20220323BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 111
A61P15/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P1/18
A61P1/00
A61P11/04
A61P11/00
A61P13/10
A61P25/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/00 H
A61K39/395 C
A61K47/68
C12N15/12
G01N33/574 D
A61K39/395 L
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546809
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(85)【翻訳文提出日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 AU2020050106
(87)【国際公開番号】W WO2020160628
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517437379
【氏名又は名称】ハドソン インスティテュート オブ メディカル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー、ニコラス、スティーブンズ
(72)【発明者】
【氏名】マレー、ビランドジック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF34
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZB072
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4C084ZC212
4C084ZC411
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4C085AA14
4C085AA16
4C085AA21
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA28
4H045EA51
(57)【要約】
癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストの産生を誘導する薬剤の一定量を対象に投与することを含んでなる、哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法、使用および組成物が開示される。本開示はまた、対象において癌を監視および/または診断する方法にも及ぶ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストの産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を前記対象に投与することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記癌が婦人科癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記婦人科癌が卵巣癌またはある病期もしくは形態の卵巣癌である、請求項2の方法。
【請求項4】
前記癌が脳癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、腸癌、結腸癌、消化管癌、胃癌、咽頭癌、子宮内膜癌および結腸直腸癌から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物対象がヒトである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記KRT14の細胞外部分が配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体により定義される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記薬剤が配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体内のエピトープのアンタゴニストである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アンタゴニストが配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体内のエピトープに特異的な抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がモノクローナル抗体またはその脱免疫化形態である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤がKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を含んでなる癌細胞に特異的な免疫応答を誘導するワクチンである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記ワクチンが、配列番号1またはその機能的等価物もしくは変異体に特異的な抗体を誘導するアンタゴニスト分子を含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤が、細胞傷害性分子にコンジュゲートされた、配列番号1またはその機能的等価物もしくは変異体に特異的な抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
ヒト対象における卵巣癌の治療のための方法であって、卵巣癌細胞上に存在する配列番号1により特定されるKRT14の細胞外部分を標的とする抗体の、卵巣癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を前記対象に投与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
哺乳動物対象の癌の治療における薬剤の製造における、癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいはKRT14の細胞外部分またはその機能的等価物もしくは変異体のアンタゴニストの産生を誘導する薬剤の使用。
【請求項15】
前記癌が婦人科癌である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記婦人科癌が卵巣癌またはある病期もしくは形態の卵巣癌である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記癌が脳癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、腸癌、結腸癌、消化管癌、胃癌、咽頭癌、子宮内膜癌および結腸直腸癌から選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項18】
前記哺乳動物対象がヒトである、請求項14~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記KRT14の細胞外部分が配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体により定義される、請求項14~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記薬剤が配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体内のエピトープのアンタゴニストである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記アンタゴニストが配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体内のエピトープに特異的な抗体である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記抗体がモノクローナル抗体またはその脱免疫化形態である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記薬剤が、KRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を含んでなる癌細胞に特異的な免疫応答を誘導するワクチンである、請求項19に記載の使用。
【請求項24】
前記ワクチンが、配列番号1またはその機能的等価物もしくは変異体に特異的な抗体を誘導するアンタゴニスト分子を含んでなる、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記薬剤が、細胞傷害性分子にコンジュゲートされた、配列番号1またはその機能的等価物もしくは変異体に特異的な抗体である、請求項19に記載の使用。
【請求項26】
哺乳動物対象における癌細胞上のKRT14の細胞外部分を特異的に標的とする薬剤を含んでなり、前記薬剤は前記癌細胞の細胞傷害性もしくは細胞増殖抑制を直接誘導するか、または哺乳動物対象の体内で、細胞において前記癌の細胞傷害性もしくは細胞増殖抑制を誘導するアンタゴニストを誘導する、医薬組成物
【請求項27】
前記癌が婦人科癌である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記婦人科癌が卵巣癌またはある病期もしくは形態の卵巣癌である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記癌が脳癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、腸癌、結腸癌、消化管癌、胃癌、咽頭癌、子宮内膜癌および結腸直腸癌から選択される、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記哺乳動物対象がヒトである、請求項26~29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記KRT14の細胞外部分が配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体により定義される、請求項26~30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記薬剤が配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体内のエピトープのアンタゴニストである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記アンタゴニストが配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体内のエピトープに特異的な抗体である、請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記抗体がモノクローナル抗体またはその脱免疫化形態である、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記薬剤が、KRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を含んでなる癌細胞に特異的な免疫応答を誘導するワクチンである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記ワクチンが、配列番号1またはその機能的等価物もしくは変異体に特異的な抗体を誘導するアンタゴニスト分子を含んでなる、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記薬剤が、細胞傷害性分子にコンジュゲートされた、配列番号1またはその機能的等価物もしくは変異体に特異的な抗体である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項38】
リポーター分子にコンジュゲートされた、癌細胞上のKRT14の細胞外部分に特異的な抗体を含んでなる、診断試薬。
【請求項39】
患者において癌を検出するための方法であって、
(a)前記患者からサンプルを得ること;
(b)前記サンプルをKRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させてそのレベルを決定し、そのレベルを、癌を有する患者の確率指数を得るためのアルゴリズムにかけること;および
(c)前記確率指数に基づき患者が癌を有するリスクを診断すること
を含んでなる、方法。
【請求項40】
患者において循環KRT14陽性癌細胞を検出するための方法であって、
(a)前記患者から血液サンプルを得ること;
(b)前記血液サンプルを、KRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させてサンプル中のKRT14陽性癌細胞の存在を判定すること
を含んでなる、方法。
【請求項41】
患者における癌を監視する方法であって、
(a)第1の時点で患者から血液サンプルを得ること;
(b)(a)のサンプルをKRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させて、前記サンプル中のKRT14陽性癌細胞のレベルを決定すること;
(c)第2の時点で患者から血液サンプルを得ること、この第1の時点と第2の時点は異なる、
(d)(c)のサンプルをKRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させて、前記サンプル中のKRT14陽性癌細胞のレベルを決定すること;および
(e)前記患者においてKRT14陽性癌細胞のレベルが第1の時点と第2の時点の間で変化したかどうかを決定すること
を含んでなり、
第1の時点と第2の時点の間での患者におけるKRT14陽性癌細胞のレベルの変化が患者における癌の状態の変化を示す、方法。
【請求項42】
癌、またはそのサブタイプもしくは病期に関して対象の状態を決定する方法であって、
(a)通信ネットワークによってKRT14の細胞外部分の存在の形態におけるデータを受信すること;
(b)前記対象データを、疾病指数値を提供するアルゴリズムによって処理すること;
(c)所定の値と比較した疾病指数値の結果に従って対象の状態を決定すること;および
(d)対象の状態の指標を通信ネットワークによってユーザーに伝達すること
を含んでなる、方法。
【請求項43】
癌細胞上のKRT14の細胞外部分に特異的に結合し、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでなり、VHは、配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VH CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR2および配列番号8のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR3を含んでなり、かつ、VLは、配列番号9のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VL CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR3を含んでなる薬剤、またはそのKRT14結合フラグメント。
【請求項44】
VHが、
(a)配列番号12と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVHフレームワーク領域1(FR1);
(b)配列番号13と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR2;
(c)配列番号14と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR3;および
(d)配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR4
を含んでなり;かつ、VLが、
(e)配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR1;
(f)配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR2;
(g)配列番号18と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR3;および
(h)配列番号19と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR4
を含んでなる、請求項43に記載の薬剤またはそのKRT14結合フラグメント。
【請求項45】
(a)VHが配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつ、
(b)VLが配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる、
請求項44に記載の薬剤またはそのKRT14結合フラグメント。
【請求項46】
薬剤が免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでなり、VHが配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VH CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR3を含んでなり;かつ、VLが配列番号9のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VL CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR3を含んでなる、請求項7~9、12および39~41のいずれか一項に記載の方法、請求項20~22および25のいずれか一項に記載の使用、または請求項32~34および37のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項47】
VHが、
(a)配列番号12と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVHフレームワーク領域1(FR1);
(b)配列番号13と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR2;
(c)配列番号14と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR3;および
(d)配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR4
を含んでなり;かつ、VLが、
(e)配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR1;
(f)配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR2;
(g)配列番号18と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR3;および
(h)配列番号19と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR4
を含んでなる、請求項46に記載の方法、使用または医薬組成物。
【請求項48】
(a)VHが配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつ
(b)VLが配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる、
請求項47に記載の方法、使用または医薬組成物。
【請求項49】
抗体が免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでなり、VHが、配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VH CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR3を含んでなり;かつ、VLが、配列番号9のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VL CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR3を含んでなる、請求項13に記載の方法または請求項38に記載の診断試薬。
【請求項50】
VHが、
(a)配列番号12と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVHフレームワーク領域1(FR1);
(b)配列番号13と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR2;
(c)配列番号14と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR3;および
(d)配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR4
を含んでなり;かつ、VLが、
(e)配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR1;
(f)配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR2;
(g)配列番号18と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR3;および
(h)配列番号19と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR4
を含んでなる、請求項49に記載の方法または診断薬。
【請求項51】
(a)VHが配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつ、
(b)VLが配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる、
請求項50に記載の方法または診断薬。
【請求項52】
前記癌が婦人科癌である、請求項39~42のいずれか一項に記載の方法または請求項43~45のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項53】
前記婦人科癌が卵巣癌またはある病期もしくは形態の卵巣癌である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記癌が脳癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、腸癌、結腸癌、消化管癌、胃癌、咽頭癌、子宮内膜癌および結腸直腸癌から選択される、請求項39~42のいずれか一項に記載の方法または請求項43~45のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項55】
前記対象に同時もしくは逐次に付加的抗癌薬を投与すること、ならびに/または前記対象に免疫療法、放射線療法および/もしくは外科的介入を行うことをさらに含んでなる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記薬剤が付加的抗癌薬ならびに/または免疫療法、放射線療法および/もしくは外科的介入からなる群から選択される付加的療法との同時または逐次投与のために処方される、請求項14~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項57】
付加的抗癌薬をさらに含んでなる、請求項26~37のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項58】
前記付加的抗癌薬がダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシンおよびミトキサントロン、白金系薬剤、代謝拮抗剤、プライムT細胞およびサイトカインからなる群から選択される、請求項55に記載の方法、請求項56に記載の使用または請求項57に記載の医薬組成物。
【請求項59】
代謝拮抗剤がアザセリン、D-サイクロセリン、ニコフェノール酸、トリメトプリム、5-フルオロウラシル、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)およびフルダラビンからなる群から選択される、請求項58に記載の方法、使用または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、癌の発生または転移の治療、予防または遅延を含む癌療法、およびそのために有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において著者により言及される刊行物の書誌詳細は、本明細書の末尾にアルファベット順にまとめてある。
【0003】
本明細書におけるいずれの事前掲載(もしくはそれから派生する情報)、またはいずれの既知の事項についての言及も、その事前掲載(もしくはそれから派生する情報)または既知の事項が、本明細書が関連する努力傾注分野における共通の一般知識の一部をなすことを承認または自認または何らかの形で示唆するものではなく、そのように見なされるべきではない。
【0004】
癌は依然として、高い罹患率および死亡率でヒトおよび動物を侵す最も重大な疾患の1つである。例えば、卵巣癌は、女性に診断される9番目に多い癌である。事実、卵巣癌は、全ての婦人科癌の中で最も致死的である。多大な資源が卵巣癌の早期診断および治療に費やされてきた。外科的および化学療法薬の介入の改善にも関わらず、卵巣癌の生存率はなおおよそ25%に留まっている(Vaughan et al. (2011) Nat Rev Cancer 11(10):719-725)。
【0005】
75%を超える卵巣癌患者が最初の臨床像で後期転移疾患と診断される。治療はもっぱら侵襲的手術および化学療法に限定される。しかしながら、90%を超える患者が、多くの場合治療後1年以内に再発する。これらの患者の大多数において、再発腫瘍は化学療法耐性を呈する。この現象は治療選択肢をさらに限定し、卵巣癌の極めて高い死亡率の根拠をなす。
【0006】
潜在的治療標的を同定するための遺伝的スクリーニングの試みは、実質的な努力にも関わらず、往々にして上手くいかなかった。これは卵巣癌組織の性質が極めて不均質なためであると思われる。
【0007】
ケラチン-14(KRT14)は、一般に健常成人組織の筋上皮および上皮ニッチに存在する前駆細胞の始原的系統で発現される、細胞骨格の細胞内タンパク質成分である(Chu et al. (2001) Histopathology 39(1):9-16; Paraskevopoulou et al. (2016) Cell Cycle 15(23):3161-3162)。腫瘍組織において、KRT14は、健常組織に侵入するために腫瘍付着能を制御する特殊化した細胞(代わりに「リーダー細胞」、「癌幹細胞」または「腫瘍誘発細胞」とも呼ばれる)の集団のマークとなっている。KRT14発現細胞は、ある範囲の固形腫瘍種(乳癌、膀胱癌および肺癌を含む)における腫瘍浸潤の制御に機構的に関連付けられている。これらの腫瘍において、KRT14を発現する細胞の存在は、腫瘍浸潤能ならびに無病生存期間および全生存期間の短縮に直接的な相関がある(Chu et al. (2001)前掲; Cheah et al. (2015) Proc Natl Acad Sci USA 112(15):4725-4730; Volkmer et al. (2012) Proc Natl Acad Sci USA 109(6):2078-2083; Ho et al. (2012) Nat Rev Urol 9(10):583-594; Cheung et al. (2016) Proc Natl Acad Sci USA 113(7):E854-863; Cheung et al. (2013) Cell 155(7):1639-1651; Papafotiou et al. (2016) Nat Commun 7:11914)。
【0008】
患者の予後および生活の質を改善し得る治療的アプローチの差し迫った必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明において、KRT14は、in vitroでは中皮層を経た卵巣癌細胞浸潤に、in vivoでは卵巣腫瘍の移植の成功に不可欠であることが確立されている。また、KRT14は結腸直腸癌、子宮内膜癌、脳癌、乳癌および肺癌細胞を含む他の癌細胞種の遊走および浸潤に役割を果たすことも本明細書において確立されている。KRT14は、卵巣および卵管などの正常な生殖管を含む健常組織では発現されない。重要なこととして、KRT14は男性および女性対象の両方においてある範囲の癌に存在する細胞外部分を持つことが決定付けられている。「細胞外」という用語は、細胞の外側に位置する、細胞の外側に露出している、またはそうでなければ細胞の外側から接近可能な、KRT14の一部、セグメントまたはドメインを意味すると理解される。
【0010】
よって、本明細書において、ヒトおよび動物対象を含む哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、または癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が教示される。対象に「投与すること」とは、癌細胞に接触させることを含む。「対象」は、男性または女性であり得る。
【0011】
ある実施形態において、癌は、限定されるものではないが、卵巣癌またはある形態もしくは病期の卵巣癌を含む婦人科癌である。ある実施形態において、癌は、子宮内膜癌または結腸直腸癌である。ある実施形態において、癌は、脳癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、腸癌、結腸癌、消化管癌、胃癌、咽頭癌、子宮内膜癌および結腸直腸癌から選択される。
【0012】
ある実施形態において、薬剤は、ペプチド配列(一文字コードで):GFGGGYGGGLGAGLGGGFGGGFAGGDGL(配列番号1)、または最適アラインメントの後に配列番号1と少なくとも80%の類似性を有するその機能的ホモログもしくは変異体を含んでなるタンパク質内に含まれるエピトープを標的とする抗体である。配列番号1のアンタゴニストまたは標的化薬剤として働く他の薬剤も本明細書において企図される。配列番号1は、ヒト配列を表す。本明細書においては、他種のホモログも治療標的および診断標的として企図される。「抗体」には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体およびKRT14結合抗血清ならびにKRT14の外的部分またはその一部と結合する組換え型、フラグメントおよび誘導体が含まれる。
【0013】
ある実施形態において、本明細書では、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでなり、VHは、配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VH CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR2および配列番号8のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR3を含んでなり;かつ、VLは、配列番号9のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VL CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR3を含んでなる薬剤が開示される。
【0014】
ある実施形態において、VHは、
(a)配列番号12と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVHフレームワーク領域1(FR1);
(b)配列番号13と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR2;
(c)配列番号14と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR3;および
(d)配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR4
を含んでなり;かつ、VLは、
(e)配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR1;
(f)配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR2;
(g)配列番号18と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR3;および
(h)配列番号19と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR4
を含んでなる。
【0015】
ある実施形態において、VHは、配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつ、VLは、配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる。
【0016】
ある実施形態において、哺乳動物対象は、女性または男性である。しかしながら、本発明は、非ヒト雄または雌哺乳動物での獣医学的適用にも及ぶ。
【0017】
本明細書において教示されるように、KRT14の新規な機能は、卵巣癌の浸潤および付着の重要な初期レギュレーターであるとして特定されている。KRT14遺伝子の機能的コピーを欠く細胞は、浸潤不能であり、in vivoにおいて卵巣腫瘍を確立することができない。配列番号1により特定されるエピトープを外的に加えた配列番号1を標的とする薬剤で標的化すると、in vitroにおいて、機能的KRT14欠損の影響を模倣する癌細胞の浸潤能が完全に排除される。同様に、配列番号1を有する細胞に特異的な免疫応答などのin vivo応答の誘導も癌発生の軽減に有効である。
【0018】
ある実施形態において、本明細書は、ヒト対象における卵巣癌の治療のための方法であって、卵巣癌細胞上に存在する配列番号1により定義されるKRT14の細胞外部分を標的とする抗体の、卵巣癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法を教示する。
【0019】
多くの他の固形腫瘍種(例えば、乳癌、膀胱癌、肺癌およびその他)は、このKRT14により媒介される浸潤機序を用いていることが提案され、抗KRT14に向けた療法がある範囲の固形腫瘍種で広く適用可能であることを示している。
【0020】
配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的化し、それにより癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を排除する薬剤が本明細書において効果的である。ある実施形態において、薬剤は、配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体に特異的な抗体を含んでなる。上記に示されるように、この抗体は、ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体もしくはKRT14結合抗体を含んでなる抗血清であってもよいし、または以上のいずれかの合成(例えば、組換え)抗体またはKRT14結合フラグメントもしくは誘導体であってもよい。抗体はまた、軟骨動物由来抗体またはそのKRT14結合フラグメントもしくは誘導体であってもよい。この薬剤は、抗体であることに加え、限定されるものではないが、アプタマー、モノボディ、アンチカリン、DARPinおよびナノボディなどを含むいずれのアフィニティー試薬であってもよい。
【0021】
本発明は、KRT14を標的とする薬剤またはin vivo KRT14アンタゴニストを誘導する薬剤が別の抗癌薬および/または放射線療法および/または外科的介入とともに与えられる併用療法に及ぶ。付加的薬剤の例としては、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシンおよびミトキサントロンのうち1以上などの化学療法薬、または白金系薬剤もしくは代謝拮抗剤が挙げられる。代謝拮抗剤は、タンパク質、DNA、ならびに細胞増殖および生殖に必要とされる他の化学物質を作り出すなどの身体の化学プロセスに干渉する物質であり、癌治療において、代謝拮抗剤はDNA産生を妨害し、その後、細胞分裂を妨げる。例としては、アザセリン、D-サイクロセリン、ニコフェノール酸(nycophenolic acid)、トリメトプリム、5-フルオロウラシル、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)およびフルダラビンが挙げられる。プライムT細胞およびサイトカインなどの他の免疫試薬を投与してもよい。併用療法は、同時にまたはいずれかの順序で互いに数秒以内、数分以内、数時間以内、数日以内もしくは数週間以内に逐次に提供されてよい。
【0022】
本開示はまた、癌細胞上のKRT14の細胞外部分に特異的に結合する薬剤、またはそのKRT14結合フラグメントにも及び、その薬剤は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでなり、VHは、配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VH CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR2および配列番号8のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR3を含んでなり、かつ、VLは、配列番号9のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VL CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR3を含んでなる。
【0023】
ある実施形態において、VHは、
(a)配列番号12と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVHフレームワーク領域1(FR1);
(b)配列番号13と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR2;
(c)配列番号14と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR3;および
(d)配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR4
を含んでなり;かつ、VLは、
(e)配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR1;
(f)配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR2;
(g)配列番号18と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR3;および
(h)配列番号19と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR4
を含んでなる。
【0024】
ある実施形態において、VHは、配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつ、VLは、配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる。
【0025】
アミノ酸配列は、配列識別番号(配列番号)により表される。配列番号は、配列識別番号<400>1(配列番号1)、<400>2(配列番号2)などに数的に相当する。配列表は特許請求の範囲の後に提供される。
【0026】
本明細書中に使用される配列識別番号の概要を表1に示す。
【0027】
【0028】
アミノ酸は名称で、または一文字コードもしくは三文字コ-ドで呼称される場合がある(表2)。
【0029】
【0030】
一部の図面にはカラー表示またはカラーの実体が含まれる。カラー写真は求めに応じて特許権者から、または適当な特許庁から入手可能である。特許庁から入手した場合には費用が課されることがある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】
図1A~Cは、浸潤性卵巣癌付着前縁におけるKRT14の同定を示す写真である。(A)卵巣癌スフェロイドは、腹膜微小環境モデルを用いて培養し、中皮バリアを経た浸潤を監視した。LP9中皮細胞単層を活発に突き破っているスフェロイドを含む凍結切片は、(B)MALDIイメージング質量分析により評価し、これにより浸潤界面においていくつかのタンパク質の中からKRT14が同定された。(C)浸潤突起への局在を示す、KRT14に対する拡散卵巣癌細胞(OVCAR4)の免疫染色。拡大領域が示される(右上)。KRT14染色は、黒い背景に緑に見える。核染色はDAPIにより青。
【
図1B】
図1A~Cは、浸潤性卵巣癌付着前縁におけるKRT14の同定を示す写真である。(A)卵巣癌スフェロイドは、腹膜微小環境モデルを用いて培養し、中皮バリアを経た浸潤を監視した。LP9中皮細胞単層を活発に突き破っているスフェロイドを含む凍結切片は、(B)MALDIイメージング質量分析により評価し、これにより浸潤界面においていくつかのタンパク質の中からKRT14が同定された。(C)浸潤突起への局在を示す、KRT14に対する拡散卵巣癌細胞(OVCAR4)の免疫染色。拡大領域が示される(右上)。KRT14染色は、黒い背景に緑に見える。核染色はDAPIにより青。
【
図1C】
図1A~Cは、浸潤性卵巣癌付着前縁におけるKRT14の同定を示す写真である。(A)卵巣癌スフェロイドは、腹膜微小環境モデルを用いて培養し、中皮バリアを経た浸潤を監視した。LP9中皮細胞単層を活発に突き破っているスフェロイドを含む凍結切片は、(B)MALDIイメージング質量分析により評価し、これにより浸潤界面においていくつかのタンパク質の中からKRT14が同定された。(C)浸潤突起への局在を示す、KRT14に対する拡散卵巣癌細胞(OVCAR4)の免疫染色。拡大領域が示される(右上)。KRT14染色は、黒い背景に緑に見える。核染色はDAPIにより青。
【
図2A】
図2AおよびBは、in vitroにおいて卵巣癌細胞の遊走および浸潤に必要とされるKRT14発現を示すグラフおよび写真である。KRT14遺伝子発現は、卵巣癌細胞株OVCAR4およびCaOV3においてCRISPR技術を用いて破壊された。代表的な実験を示す。(A)増殖および浸潤はxCELLigenceを用いて測定した。KRT14の発現の欠損は増殖には影響がなかったが、in vitroにおいて中皮単層からの浸潤を完全に排除した。(B)KRT14を欠いた細胞は、in vitro掻爬試験を用いて一晩、傷を修復することができない。
【
図2B】
図2AおよびBは、in vitroにおいて卵巣癌細胞の遊走および浸潤に必要とされるKRT14発現を示すグラフおよび写真である。KRT14遺伝子発現は、卵巣癌細胞株OVCAR4およびCaOV3においてCRISPR技術を用いて破壊された。代表的な実験を示す。(A)増殖および浸潤はxCELLigenceを用いて測定した。KRT14の発現の欠損は増殖には影響がなかったが、in vitroにおいて中皮単層からの浸潤を完全に排除した。(B)KRT14を欠いた細胞は、in vitro掻爬試験を用いて一晩、傷を修復することができない。
【
図3A】
図3A~Cは、in vivoにおいて腫瘍移植の成功にKRT14発現が必要とされることを示す写真およびグラフである。KRT14を発現する(「野生型」;WT)またはKRT14発現を欠く(「KRT14
KO」)マウスID8卵巣癌細胞を、野生型C57BL/6マウスの嚢内に移植した。腫瘍成長を、in vivo蛍光を用いてリアルタイムで監視した。(A)ID8細胞は、各マウスの一卵巣に上手く移植され、移植部位で検出可能であってそこに局在していた。4週間後、K14
KO細胞を移植したマウスから蛍光が消失した。(B)野生型腫瘍細胞を担持するマウスでは約3~4週間で蛍光が増強し、KRT14
-KO細胞を移植したマウスでは、同様の蛍光増強は検出されなかった。(C)マウスを約7週目に犠牲にし、剖検を行った。野生型ID8細胞を移植したマウスは大きな原発卵巣腫瘍を形成しており、反対側の卵巣、腹膜壁、肝臓、腸および横隔膜に転移があり、腹腔内に腹水の顕著な蓄積を示した。対照的に、KRT14
KO細胞を移植したマウスには腹水の蓄積はなく、腫瘍は見られなかった。これらのマウスの剖検において腫瘍細胞は検出できなかった。
【
図3B】
図3A~Cは、in vivoにおいて腫瘍移植の成功にKRT14発現が必要とされることを示す写真およびグラフである。KRT14を発現する(「野生型」;WT)またはKRT14発現を欠く(「KRT14
KO」)マウスID8卵巣癌細胞を、野生型C57BL/6マウスの嚢内に移植した。腫瘍成長を、in vivo蛍光を用いてリアルタイムで監視した。(A)ID8細胞は、各マウスの一卵巣に上手く移植され、移植部位で検出可能であってそこに局在していた。4週間後、K14
KO細胞を移植したマウスから蛍光が消失した。(B)野生型腫瘍細胞を担持するマウスでは約3~4週間で蛍光が増強し、KRT14
-KO細胞を移植したマウスでは、同様の蛍光増強は検出されなかった。(C)マウスを約7週目に犠牲にし、剖検を行った。野生型ID8細胞を移植したマウスは大きな原発卵巣腫瘍を形成しており、反対側の卵巣、腹膜壁、肝臓、腸および横隔膜に転移があり、腹腔内に腹水の顕著な蓄積を示した。対照的に、KRT14
KO細胞を移植したマウスには腹水の蓄積はなく、腫瘍は見られなかった。これらのマウスの剖検において腫瘍細胞は検出できなかった。
【
図3C】
図3A~Cは、in vivoにおいて腫瘍移植の成功にKRT14発現が必要とされることを示す写真およびグラフである。KRT14を発現する(「野生型」;WT)またはKRT14発現を欠く(「KRT14
KO」)マウスID8卵巣癌細胞を、野生型C57BL/6マウスの嚢内に移植した。腫瘍成長を、in vivo蛍光を用いてリアルタイムで監視した。(A)ID8細胞は、各マウスの一卵巣に上手く移植され、移植部位で検出可能であってそこに局在していた。4週間後、K14
KO細胞を移植したマウスから蛍光が消失した。(B)野生型腫瘍細胞を担持するマウスでは約3~4週間で蛍光が増強し、KRT14
-KO細胞を移植したマウスでは、同様の蛍光増強は検出されなかった。(C)マウスを約7週目に犠牲にし、剖検を行った。野生型ID8細胞を移植したマウスは大きな原発卵巣腫瘍を形成しており、反対側の卵巣、腹膜壁、肝臓、腸および横隔膜に転移があり、腹腔内に腹水の顕著な蓄積を示した。対照的に、KRT14
KO細胞を移植したマウスには腹水の蓄積はなく、腫瘍は見られなかった。これらのマウスの剖検において腫瘍細胞は検出できなかった。
【
図4A】
図4AおよびBは、KRT14のN末端が細胞表面に露出しており、外的に加えた抗体に接近可能であることを示すグラフおよび写真である。(A)KRT14のN末端領域に対するポリクローナル抗体を用いて、無傷の非透過処理卵巣癌細胞(示されたような属性)でフローサイトメトリーを行った。細胞の30~50%が細胞表面KRT14に関して陽性染色された。無傷の培養細胞の免疫染色により、抗KRT14抗体による細胞のサブセットの染色が確認された。(B)KRT14のN末端およびC末端に対する抗体の、in vitroにおいて卵巣癌細胞による浸潤を阻害する能力を試験した。抗C末端抗体(C-term)は浸潤に対する効果がなかったが、抗N末端抗体(N-term)は浸潤を完全に遮断した。外的に加えた全長組換えKRT14タンパク質(rK14)は単独でもC-term抗体と組み合わせても効果がなかった。しかしながら、rK14は、N-term抗体と上手く競合してin vitroにおいて浸潤能を回復させた。
【
図4B】
図4AおよびBは、KRT14のN末端が細胞表面に露出しており、外的に加えた抗体に接近可能であることを示すグラフおよび写真である。(A)KRT14のN末端領域に対するポリクローナル抗体を用いて、無傷の非透過処理卵巣癌細胞(示されたような属性)でフローサイトメトリーを行った。細胞の30~50%が細胞表面KRT14に関して陽性染色された。無傷の培養細胞の免疫染色により、抗KRT14抗体による細胞のサブセットの染色が確認された。(B)KRT14のN末端およびC末端に対する抗体の、in vitroにおいて卵巣癌細胞による浸潤を阻害する能力を試験した。抗C末端抗体(C-term)は浸潤に対する効果がなかったが、抗N末端抗体(N-term)は浸潤を完全に遮断した。外的に加えた全長組換えKRT14タンパク質(rK14)は単独でもC-term抗体と組み合わせても効果がなかった。しかしながら、rK14は、N-term抗体と上手く競合してin vitroにおいて浸潤能を回復させた。
【
図5A】
図5A~Cは、KRT14のN末端単一の抗原性領域が露出しており、in vitroにおいて浸潤を遮断するために標的化され得ることを示すグラフおよび写真である。(A)KRT14のN末端の抗原性および疎水性は、公開IEDBポータル(http://tools.iedb.org/bcell/)を用いてin silicoで推定した。潜在的抗原性の5領域を推定し、対応する6つのペプチドを合成した。(B)個々のペプチドを用いた競合アッセイを使用して、ポリクローナル抗体により認識されるKRT14の関連領域をマッピングした。アミノ酸83~110(ヒト配列)を包含する2つのペプチドが、Xcelligenceアッセイにおいて浸潤能を上手く回復した。(C)並行した創傷治癒試験では、この同じ2つのペプチド(#4および#5)が、抗N末端KRT14抗体と上手く競合して細胞遊走を回復させ、16時間で完全な創傷閉鎖を果たした。
【
図5B】
図5A~Cは、KRT14のN末端単一の抗原性領域が露出しており、in vitroにおいて浸潤を遮断するために標的化され得ることを示すグラフおよび写真である。(A)KRT14のN末端の抗原性および疎水性は、公開IEDBポータル(http://tools.iedb.org/bcell/)を用いてin silicoで推定した。潜在的抗原性の5領域を推定し、対応する6つのペプチドを合成した。(B)個々のペプチドを用いた競合アッセイを使用して、ポリクローナル抗体により認識されるKRT14の関連領域をマッピングした。アミノ酸83~110(ヒト配列)を包含する2つのペプチドが、Xcelligenceアッセイにおいて浸潤能を上手く回復した。(C)並行した創傷治癒試験では、この同じ2つのペプチド(#4および#5)が、抗N末端KRT14抗体と上手く競合して細胞遊走を回復させ、16時間で完全な創傷閉鎖を果たした。
【
図5C】
図5A~Cは、KRT14のN末端単一の抗原性領域が露出しており、in vitroにおいて浸潤を遮断するために標的化され得ることを示すグラフおよび写真である。(A)KRT14のN末端の抗原性および疎水性は、公開IEDBポータル(http://tools.iedb.org/bcell/)を用いてin silicoで推定した。潜在的抗原性の5領域を推定し、対応する6つのペプチドを合成した。(B)個々のペプチドを用いた競合アッセイを使用して、ポリクローナル抗体により認識されるKRT14の関連領域をマッピングした。アミノ酸83~110(ヒト配列)を包含する2つのペプチドが、Xcelligenceアッセイにおいて浸潤能を上手く回復した。(C)並行した創傷治癒試験では、この同じ2つのペプチド(#4および#5)が、抗N末端KRT14抗体と上手く競合して細胞遊走を回復させ、16時間で完全な創傷閉鎖を果たした。
【
図6A】
図6AおよびBは、抗血清AN-17 O20023がin vitroにおいて癌細胞浸潤を効果的に遮断することを示すグラフである。(A)特定のKRT14エピトープに対して作製された抗血清は、市販のポリクローナル抗体(Sigma SAB4501657)に匹敵する有効性で、浸潤を効果的に阻害した。(B)抗KRT14による浸潤の阻害は、細胞生存率に影響を示さなかった。
【
図6B】
図6AおよびBは、抗血清AN-17 O20023がin vitroにおいて癌細胞浸潤を効果的に遮断することを示すグラフである。(A)特定のKRT14エピトープに対して作製された抗血清は、市販のポリクローナル抗体(Sigma SAB4501657)に匹敵する有効性で、浸潤を効果的に阻害した。(B)抗KRT14による浸潤の阻害は、細胞生存率に影響を示さなかった。
【
図7】
図7は、非卵巣癌細胞種の遊走がin vitroにおいて抗KRT14抗体により損なわれることを示す写真である。抗KRT14抗体は、子宮内膜癌または結腸直腸癌細胞により構成される細胞単層において創傷閉鎖を妨げる。対象とするKRT14エピトープを模倣する短いペプチド(ペプチド4および5)は、in vitroにおいて、抗体結合に関して効果的に競合して遊走を再確立することができた。
【
図8A】
図8AおよびBは、マウス卵巣癌細胞の遊走がin vitroにおいて抗KRT14抗体により損なわれることを示す写真およびグラフである。(A)抗KRT14抗体は、マウスID8卵巣癌細胞から構成される細胞単層において創傷閉鎖を妨げた。対象とするKRT14エピトープを模倣する短いペプチド(ペプチド4および5)は、in vitroにおいて、抗体結合に関して効果的に競合して遊走を再確立することができた。(B)RTCA分析により、抗ヒトKRT14抗体はin vitroにおいてマウス卵巣癌細胞の浸潤を遮断したことが確認された。
【
図8B】
図8AおよびBは、マウス卵巣癌細胞の遊走がin vitroにおいて抗KRT14抗体により損なわれることを示す写真およびグラフである。(A)抗KRT14抗体は、マウスID8卵巣癌細胞から構成される細胞単層において創傷閉鎖を妨げた。対象とするKRT14エピトープを模倣する短いペプチド(ペプチド4および5)は、in vitroにおいて、抗体結合に関して効果的に競合して遊走を再確立することができた。(B)RTCA分析により、抗ヒトKRT14抗体はin vitroにおいてマウス卵巣癌細胞の浸潤を遮断したことが確認された。
【
図9】
図9は、モノクローナル抗KRT14抗体AN-17(mAb AN-17)がin vitroにおいて白金化学療法に対する感受性を増強することを示す。OVCAR4卵巣癌細胞を、mAb AN-17、シスプラチンまたはこれら2つの組合せとともにインキュベートし、72時間にわたって細胞増殖を監視した。mAb AN-17とシスプラチンの組合せで処理した細胞は、シスプラチン単独に比べて有意に低いIC50を示した。特に、mAb AN-17は、亜致死用量で使用したシスプラチンの毒性を有意に増強した(n=3/処理、平均細胞指数)。
【
図10】
図10は、mAb AN-17はin vitroにおいて複数のタンパク質抗原と交差反応性を示さないことを示す。mAb AN-17により潜在的に認識され得る交差反応性タンパク質を同定するためにタンパク質アレイを使用した。明確な交差反応性はなく、KRT14に対するmAb AN-17の高い特異性が示唆された。
【
図11】
図11は、mAb AN-17を用いたKRT14検出のためのウエスタンブロット法を示す。1:1000~1:10,000の抗体希釈率で、ウエスタンブロット法により上手くKRT14タンパク質が検出された。
【
図12】
図12は、mAb AN-17がヒトおよびマウス卵巣癌細胞においてKRT14+細胞を同定可能であることを示す。mAb AN-17またはKRT14に対する市販のポリクローナル抗体(Sigma SAB4501657)を用い、OVCAR3、CAOV4、ID8および患者由来3.1937-07細胞株を、BD LSRFortessa X-20(BD Biosciences)フローサイトメーターにてKRT14+細胞集団に関して分析した。
【
図13】
図13は、上皮卵巣腫瘍を担持するマウスにおけるmAb AN17による循環腫瘍細胞検出を示す。12週齢ID8 iRFP720+上皮卵巣腫瘍を担持するマウスから心臓血液を採取し、抗CD45およびmAb AN-17を用いて染色した。循環ID8腫瘍細胞はKRT14+CD45-細胞と同定され、iRFP720+状態により確認された。血液中に添加したiRFP720+ID8細胞を陽性対照として使用した。
【
図14】
図14は、免疫蛍光染色によるKRT14+細胞の検出を示す。癌細胞を無傷の(左)または透過処理後の(右)mAb AN-17とともにインキュベートして、それぞれ表面KRT14または細胞内KRT14を標識した。
【
図15】
図15は、mAb AN-17を用いた腫瘍組織の免疫組織化学染色を示す。染色は腫瘍上皮に限定され、市販のポリクローナル抗KRT14抗体(Sigma SAB4501657)と同様であった。
【
図16】
図16は、mAb AN-17の非特異的組織取り込みおよび7日にわたるクリアランスを示す。腫瘍のないマウスに0.5mg/kg(i.p.)のmAb AN-17を注射し、組織分布を、蛍光を監視することにより経時的に評価した。非標的IgG-κアイソタイプ対照抗体との比較を行った。mAb AN-17の非特異的保持は見られず、両抗体(mAb AN-17および対照IgG-κ)は7日後にほぼ検出不能であった。検討した組織は、生殖器官(卵巣、卵管、子宮);腸;肝臓;肝臓;腎臓;脾臓;肺;心臓;および脳(n=2個体/群、平均+/-SD)を含んだ。各時点における測定を軸に対して相殺して重複するデータセットを明らかにした。
【
図17】
図17は、mAb AN-17の非特異的組織取り込みおよび7日にわたるクリアランスを示す。腫瘍のないマウスにmAb AN-17を0.5、1.0、2.5、5.0または10.0mg/kg(i.p.)で注射し、組織分布を、蛍光を監視することにより経時的に評価した。非標的IgG-κアイソタイプ対照抗体との比較を行った。評価した組織においてmAb AN-17の非特異的保持は見られず、mAb AN-17は7日後に大部分、検出不能となった。検討組織は、生殖器官(卵巣、卵管、子宮);腸;肝臓;肝臓;腎臓;脾臓;肺;心臓;および脳(n=2個体/群、平均+/-SD)を含んだ。
【
図18】
図18は、mAb AN-17が腫瘍組織に対して高い特異性を有することを示す。原発卵巣腫瘍が確立したマウス(n=2/群/時点)に5mg/kgまたは10mg/kg用量のmAb AN-17を腹腔内注射により投与した。対照動物にはアイソタイプが適合した対照抗体を同じ用量で施した。投与後1、3、5および7日目に、マウスを犠牲にし、抗体の局在を蛍光により評価した(上記の通り)。蛍光は、単位組織面積当たりの平均放射蛍光強度として経時的に表した。(A)腫瘍特異的蛍光シグナル。(B)特異的シグナルの不在を示す非腫瘍生殖組織蛍光。(C)死後に単離された腫瘍と比較のための非腫瘍生殖組織におけるmAb AN-17蛍光(赤)の画像(n=2/群/時点;平均+/-SD)。
【
図19】
図19は、mAb AN-17の投与がマウスにおいて確立された腫瘍塊の直接的退縮を引き起こすことを示す。原発卵巣腫瘍が確立されたマウス(n=10/群)に、mAb AN-17を週2回(月曜および木曜)、5mg/kg用量で腹腔内注射により投与した。対照動物には、アイソタイプが適合した対照抗体、またはPBSビヒクル単独を施した。3週間の連続処置の後、総ての動物を犠牲にし、検査し、死後に腫瘍重を測定した。ビヒクルまたはアイソタイプ対照抗体を受容したマウスの60%が犠牲時に原発卵巣腫瘍を有していた。対照的に、mAb AN-17で処置したマウスでは腫瘍は確認されなかった(平均+/-SD)。
【
図20】
図20は、(A)モノクローナル抗体AN-17(クローンAN-17A RG4.E5b.A7.B4)の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)の核酸配列およびアミノ酸配列、ならびに(B)非再配列生殖細胞系マウス抗体配列に対するmAb AN-17のVHおよびVLアミノ酸配列間の類似性%(IMGT/V-Questプログラムを使用)を示す。N/A=適用不可;nt=ヌクレオチド。
【
図21】
図21は、mAb AN-17のVHおよびVLの核酸配列およびアミノ酸配列を示す。
【
図22】
図22は、フレームワーク領域(FWR)および相補性決定領域(CDR)を強調するために太字および下線付きのテキストで注釈されたmAb AN-17のVH(A)およびVL(B)アミノ酸配列を示す。
【
図23】
図23は、非卵巣癌細胞(BT16非定型奇形腫様ラブドイド(脳)癌、NCI-H1573肺腺癌、SJ-GBM2原発多形性膠芽腫、AN3CA子宮内膜癌、SW620結腸直腸癌およびMDA-MB-468乳癌細胞株)の遊走がin vitroにおいてmAb AN-17により損なわれることを示す。
【発明の具体的説明】
【0032】
本明細書中、文脈がそうではないことを必要としない限り、「を含んでなる(comprise)」、または「を含んでなる(comprises)」または「を含んでなる(comprising)」などの変形形態は、記載の要素もしくは整数もしくは方法工程または要素もしくは整数もしくは方法工程の群の包含を意味するが、他のいずれの要素もしくは整数もしくは方法工程または要素もしくは整数もしくは方法工程の群の排除は意味しないと理解される。
【0033】
本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかにそうではないことを示さない限り、複数の側面を含む。よって、例えば、「1つの癌細胞」という場合には、単一の癌細胞、ならびに2つ以上の癌細胞を含み;「1つのエピトープ」という場合には、単一のエピトープ、ならびに2つ以上のエピトープを含み;「その開示」という場合には、その開示により教示される単一および複数の側面を含むなどである。本明細書において教示され、可能となる側面は、「発明」という用語によって包含される。本明細書において企図されるいずれの変異体および誘導体も、本発明の「形態」により包含される。本発明の総ての側面は、特許請求の範囲の幅で可能となる。
【0034】
本発明は、哺乳動物対象において癌を治療するまたは予防するまたはそうでなければその進行を改善するための治療プロトコールを対象とする。この対象は雄または雌であり得る。進行の改善には、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減して、それにより癌を治療、予防するまたはその発生を遅延させる、あるいはその転移能を低減することを含む。用語「癌」および「腫瘍」は、本明細書では互換的に使用される。
【0035】
よって、本明細書では、哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法が可能となる。その方法は、哺乳動物対象に、
(i)癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を直接標的とする薬剤;薬剤の例としては、KRT14の細胞外部分を直接標的とするフラグメントおよび誘導体を含む抗体、および適宜脱免疫化された抗体または他の標的化部分またはリガンド;あるいは
(ii)in vivoにおいて、癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする内因性因子を誘導する薬剤;内因性因子の例としては、限定されるものではないが、抗体、T細胞およびマクロファージが挙げられる、
を投与することを含んでなる。
【0036】
いずれの場合でも、薬剤または内因性因子は、KRT14の細胞外部分を有する癌細胞の細胞傷害性または細胞増殖抑制を誘導して、それにより、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減する。例えば、(i)に関して、抗体は、補体媒介またはマクロファージもしくはサイトカイン媒介細胞溶解または老化の誘導と結びつけることができる。あるいは、抗体または他の標的化薬剤は、細胞傷害性分子にコンジュゲートしてもよいし、またはリンパ球をプライムするために使用してもよい。「抗体」という場合には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、KRT-14結合抗体を含んでなる抗血清およびKRT14の外的部分またはその一部と結合する合成または組換え形態、フラグメントおよび誘導体を含む。薬剤は、抗体であることに加え、限定されるものではないが、アプタマー、モノボディ、アンチカリン、DARPinおよびナノボディなどを含むいずれのアフィニティー試薬であってもよい。
【0037】
ある実施形態において、ヒトKRT14の細胞外部分は、アミノ酸配列(一文字コードで):NH2-GFGGGYGGGLGAGLGGGFGGGFAGGDGL(配列番号1)により定義される。
【0038】
本明細書には、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の機能的ホモログ、およびまたは変異体が包含される。一例として、配列番号1の機能的ホモログまたは変異体は、最適アラインメントの後に配列番号1と少なくとも80%の類似性を有するアミノ酸配列を含んでなるタンパク質を含む。「少なくとも80%の類似性」とは、配列番号1と少なくとも80、81、82、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99および100%の類似性または同一性を含む。このような配列は、KRT14ホモログまたは変異体の細胞外部分の配列である。
【0039】
配列番号1と少なくとも約80%の類似性を有するホモログの例を表3に示す。
【0040】
【0041】
用語「類似性」は、本明細書で使用される場合、比較される配列間でのアミノ酸レベルにおける正確な同一性を含む。アミノ酸レベルで非同一性が存在する場合、「類似性」は、構造レベル、機能レベル、生化学レベルおよび/または立体配座レベルでやはり互いに関連のあるアミノ酸を含む。ある実施形態において、アミノ酸配列比較(amino acid and sequence comparisons)は、類似性ではなく同一性のレベルで行われる。
【0042】
2以上のポリペプチド間の配列関係を表すために使用される用語としては、「参照配列」、「比較ウインドウ」、「配列類似性」、「配列同一性」、「配列類似性パーセンテージ」、「配列同一性パーセンテージ」、「実質的に類似」および「実質的に同一」がある。「参照配列」は、5~20のアミノ酸長である。「比較ウインドウ」は、参照配列と比較される一般に5~20の連続する残基の概念的セグメントを指す。比較ウインドウは、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較される場合に、2配列の最適アラインメントのために約20%以下の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。比較ウインドウをアラインするための配列の最適アラインメントは、Wisconsin Geneticsソフトウエアパッケージリリース7.0、Genetics Computer Group、575 Science Drive マディソン、WI、USA)中のアルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)のコンピューター実装によるか、または検査および選択される様々な方法のいずれかにより生成されるベストアラインメント(すなわち、比較ウインドウに最も高い相同性パーセンテージをもたらす)によって行うことができる。また、例えば、Altschul et al. (1997) Nucl. Acids. Res. 25:3389により開示されているようなBLAST系列のプログラムを参照することもできる。配列分析の詳細な考察は、Ausubel et al. (1994-1998) In: Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Incのユニット19.3に見出すことができる。
【0043】
用語「配列類似性」および「配列同一性」は、本明細書において使用する場合、配列が比較ウインドウにわたってアミノ酸どうしが同一であるか、または機能的もしくは構造的に類似している程度を表す。よって、例えば、「配列同一性パーセンテージ」は、2つの最適にアラインされた配列を比較ウインドウにわたって比較し、両配列に同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が存在する位置の数を決定してマッチした位置の数を求め、そのマッチした位置の数をその比較ウインドウの位置の総数(すなわち、ウインドウサイズ)で割り、その商に100を掛けて配列同一性パーセンテージを求めることによって計算される。
【0044】
よって、用語「変異体」よび「誘導体」には、参照アミノ酸配列(すなわち、配列番号1またはその部分配列)と実質的な配列同一性または類似性を示すアミノ酸配列を指す。用語「変異体」および「誘導体」はまた、天然に存在する対立遺伝子変異体が含まれる。
【0045】
「誘導体」にはまた、配列番号1またはその機能的ホモログと比べた場合の突然変異体、フラグメント、部分、一部またはハイブリッド分子も含まれる。誘導体は、他を排除するものではないが一般に、単一または複数のアミノ酸置換、付加および/または欠失を有する。
【0046】
「ホモログ」には、別の動物種に由来するまたは同種内の異なる遺伝子座に由来する、少なくとも約80%類似のアミノ酸配列を有する類似のポリペプチドが含まれる。
【0047】
変異体にはまた、一般に化学類似体である「類似体」も含まれる。本明細書で企図される配列番号1の化学類似体としては、限定されるものではないが、側鎖の修飾、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質合成中の非天然アミノ酸および/またはそれらの誘導体の組み込み、ならびに架橋剤およびタンパク質性分子またはそれらの類似体に立体配座的拘束を課すその他の方法の使用が挙げられる。
【0048】
本発明により企図される側鎖修飾の例としては、アルデヒドとの反応とその後のNaBH4による還元による還元的アルキル化;メチルアセトイミダートによるアミジン化;無水酢酸によるアシル化;シアン酸塩によるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびにピリドキサール-5-リン酸塩によるリシンのピリドキシル化とその後のNaBH4による還元が挙げられる。
【0049】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールなどの試薬による複素環式縮合生成物の形成により修飾され得る。
【0050】
カルボキシル基は、例えば、O-アシルイソ尿素の形成によるカルボジイミド活性化とその後の対応するアミドへの誘導体化により修飾され得る。
【0051】
スルヒドリル基は、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;過ギ酸のシステイン酸への酸化;他のチオール化合物による混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸またはその他の置換マレイミドとの反応;4-クロロマーキュリ安息香酸塩、4-クロロマーキュリフェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2-クロロマーキュリ-4-ニトロフェノールおよびその他の水銀物質を用いた水銀誘導体の形成;アルカリ性pHでのシアン酸塩によるカルバモイル化などの方法により修飾され得る。
【0052】
トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシンイミドによる酸化または2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミドもしくはスルフェニルハリドによるインドール環のアルキル化により修飾され得る。他方、チロシン残基は、テトラニトロメタンによるニトロ化により変化して3-ニトロチロシン誘導体を形成し得る。
【0053】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化またはジエチルピロカーボネートによるN-カルボエトキシル化によって達成され得る。
【0054】
架橋剤は、例えば、(CH2)nスペーサー基(n=1~n=6)を有する二官能性イミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどのホモ二官能性架橋剤、ならびにN-ヒドロキシスクシンイミドなどのアミノ反応性部分およびマレイミドまたはジチオ部分(SH)またはカルボジイミド(COOH)などの別の基特異的反応性部分を通常含有するヘテロ二官能性試薬を用いて、3D立体配座を安定化させるために使用することができる。加えて、ペプチドは、例えば、CαおよびNα-メチルアミノ酸の組み込み、アミノ酸のCα原子とCβ原子の間の二重結合の導入、ならびにN末端とC末端の間、2つの側鎖の間または側鎖とN末端もしくはC末端の間にアミド結合を形成するなど、共有結合を導入することによる環状ペプチドまたは類似体の形成によって立体配座的に拘束することもできる。
【0055】
このような類似体は、合成ワクチンにおいてまたは標的化薬剤として使用するための抗体を生成するために有用であり得る。類似体は、血清半減期の延長などの性質を有し得る。抗体はまた、KRT14結合抗体を含んでなる抗血清中にあってもよい。
【0056】
本明細書において、哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分もしくはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤または癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が教示される。
【0057】
本明細書において、哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する、配列番号1で示されるアミノ酸配列もしくは最適アラインメントの後に配列番号1と少なくとも約80%の類似性を有するアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が可能となる。
【0058】
さらに、本明細書において、哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する、配列番号1で示されるアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分または癌細胞上のその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が教示される。
【0059】
なおさらに、ヒト対象における卵巣癌の治療のための方法であって、卵巣癌細胞上に存在する、配列番号1により定義されるKRT14の細胞外部分を標的とする抗体の、卵巣癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が可能となる。この薬剤は、抗体であることに加え、限定されるものではないが、アプタマー、モノボディ、アンチカリン、DARPinおよびナノボディなどを含むいずれのアフィニティー試薬であってもよい。
【0060】
用語「対象に投与すること」は、薬剤と癌細胞上のKRT14の細胞外部分を接触させるための任意の手段により癌細胞を接触させることを含む。哺乳動物対象は雄であっても雌であってもよく、いずれの年齢でもよい。
【0061】
本明細書では、細胞表面に露出したKRT14タンパク質の短いエピトープが特定され、外的に加えられた薬剤または特異的に誘導される内因性分子との相互作用ために利用可能である。その露出配列を認識する抗体またはその他の標的化薬剤を用いてこの領域を標的化すれば、KRT14遺伝子アブレーションの効果を模倣するin vitroにおいて癌細胞の浸潤を完全に防ぐことができる。これらのデータは、有向性のアンタゴニスト療法のための、腫瘍細胞上のこれまでに認識されていなかった特異性の高い標的に相当することを示す。
【0062】
また、マウスにおいて固形腫瘍を形成できないことが認められている。移植した、機能的KRT14遺伝子を欠く癌細胞は数週間後に検出不能となる。このことは、これらの癌細胞がおそらくは例えば免疫介在性クリアランスによって動物から除去されることを示す。従って、本明細書では、抗KRT14療法の使用は腫瘍の安定化(移植/浸潤の障害による)、および腫瘍退縮を促進し得るということが提案される。標的抗KRT14療法は、以下の理由で癌治療に高い能力を有する:
(i)KRT14は広く発現されることはなく、細胞に毒性が無いようにアンタゴニストが選択されるので、抗KRT14療法は毒性が無いと思われる;
ii)抗KRT14療法は、原発および転移性付着物の両方を標的とするためにあらゆる病期の疾患に適用可能である;
iii)KRT14発現細胞は経時的かつ化学療法に応答して特異的に高密度となり、従って、抗KRT14療法は再発性の化学療法耐性疾患を生じ、これ以上の従来の治療選択肢が利用できない患者に大いに適用可能となる;
iv)抗KRT14療法は、既存の疾患の安定化に加え、潜在的に腫瘍の退縮を促進することができる。
【0063】
また、抗KRT14(ani-KRT14)療法にはいくつかのさらなる適用もある:
i)浸潤性癌幹細胞集団に対して向けられる療法では、細胞傷害性「弾頭」とのコンジュゲーション;
ii)抗腫瘍細胞傷害性T細胞に腫瘍誘発細胞集団を破壊させるように設計したCAR-T療法における使用;
iii)治療用または予防用ワクチン;
iv)獣医学的適用における「脱ヒト化」抗体産生の形成;
v)例えば、治療応答/化学療法耐性/腫瘍再発または進行を予測するためのセラノスティック適用。
【0064】
KRT14依存性の腫瘍進行はまた、いくつかの他の固形腫瘍種に関与する重要な機序としても特定されており、腫瘍拡散の基礎にある保存された機序に当たる可能性がある。よって、抗KRT14療法は、卵巣癌以外にも十分適用があり、広範囲の固形腫瘍の治療に適用可能であることが証明できる。本明細書において使用する場合、「癌」は、それらの細胞を特殊化した異なる細胞に分化させることなく、制御を欠いた細胞成長(例えば、腫瘍の形成)を特徴とする一群の疾患および障害を指す。本明細書において治療のために企図される癌としては、限定されるものではないが、卵巣癌などの婦人病態に加え、ABL1原癌遺伝子、AIDS関連癌、聴神経腫、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺嚢癌腫、副腎皮質癌、特発性骨髄化生、脱毛症、胞巣状軟部肉腫、肛門癌、血管肉腫、再生不良性貧血、星状細胞腫、毛細血管拡張性運動失調症、基底細胞癌(皮膚)、膀胱癌、骨癌、腸癌、脳幹膠腫、脳およびCNS腫瘍、乳癌、CNS腫瘍、カルチノイド腫瘍、子宮頸癌、小児脳腫瘍、小児癌、小児白血病、小児軟組織肉腫、軟骨肉腫、絨毛癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸直腸癌、皮膚T細胞リンパ腫、隆起性皮膚線維肉腫、線維形成性小細胞腫瘍、乳管癌、内分泌癌、子宮内膜癌、脳室上衣細胞腫、食道癌、ユーイング肉腫、肝外胆管癌、眼癌、黒色腫、網膜芽細胞腫、卵管癌、ファンコーニ貧血、線維肉腫、胆嚢癌、胃癌、消化管癌、消化管カルチノイド腫瘍、尿生殖器癌、生殖細胞腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、神経膠腫、婦人科癌、血液系悪性腫瘍、有毛細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞癌、遺伝性乳癌、組織球増殖症、ホジキン病、ヒト乳頭腫ウイルス、胞状奇胎、高カルシウム血症、下咽頭癌、眼内黒色腫、膵島細胞癌、カポジ肉腫、腎臓癌、ランゲルハンス細胞組織球症、喉頭癌、平滑筋肉腫、白血病、リ・フラウメニ症候群、口唇癌、脂肪肉腫、肝臓癌、肺癌、リンパ浮腫、リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、男性乳癌、腎臓悪性ラブドイド腫瘍、髄芽細胞腫、黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫、転移癌、口腔癌、多発性内分泌腺腫症、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄腫、骨髄増殖性障害、鼻腔癌、鼻咽頭癌、腎芽細胞腫、神経芽腫、神経線維腫症、ナイミーヘン染色体不安定症候群、非黒色腫皮膚癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、眼癌、食道癌、口腔癌、中咽頭癌、骨肉腫、膵臓癌、副鼻腔癌、副甲状腺癌、耳下腺腺癌、陰茎癌、末梢神経外胚葉腫瘍、下垂体癌、真性赤血球増加症、前立腺癌、希少癌および関連障害、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ロスムンド-トムソン症候群、唾液腺癌、肉腫、神経鞘腫、セザリー症候群、皮膚癌、小細胞肺癌(SCLC)、小腸癌、軟組織肉腫、脊髄腫瘍、扁平上皮癌(皮膚)、胃癌、滑膜肉腫、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、移行上皮癌(膀胱)、移行上皮癌(腎盂-/-尿管)、絨毛性癌、尿道癌、尿路系癌、ウロプラキン、子宮肉腫、子宮癌、膣癌、外陰癌、ワルデンストロームマクログロブリン血症およびビルムス腫瘍が挙げられる。また、子宮内膜癌および結腸直腸癌も治療可能である。これらの癌は男性対象も女性対象も侵すことがあり、本発明においてはいずれも治療可能である。
【0065】
ある実施形態において、癌は婦人科癌である。ある実施形態において、婦人科癌は、卵巣癌またはある病期もしくは形態の卵巣癌である。あるいは、癌は、男性または女性対象の他の癌の中でもとりわけ、肝臓、膀胱、肺、結腸、消化管、腸、膵臓および/または咽喉の癌である。本発明は、KRT14を標的とする薬剤またはin vivoにおいてKRT14アンタゴニストを誘導する薬剤が別の抗癌薬および/または放射線療法および/または外科的介入とともに与えられる併用療法に及ぶ。ある実施形態において、本明細書において開示される方法は、さらに、対象に付加的抗癌薬を投与することならびに/または患者に免疫療法、放射線療法および/もしくは外科的介入を施すことをさらに含んでなる。付加的抗癌薬の具体例としては、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシンおよびミトキサントロンのうち1以上などの化学療法薬、または白金系薬剤もしくは代謝拮抗剤が挙げられる。代謝拮抗剤は、タンパク質、DNA、ならびに細胞増殖および生殖に必要とされる他の化学物質を作り出すなどの身体の化学プロセスに干渉する物質であり、癌治療において、代謝拮抗剤はDNA産生を妨害し、その後、細胞分裂を妨げる。例としては、アザセリン、D-サイクロセリン、ニコフェノール酸(nycophenolic acid)、トリメトプリム、5-フルオロウラシル、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)およびフルダラビンが挙げられる。プライムT細胞およびサイトカインなどの他の免疫試薬も投与可能である。併用療法は、同時にまたはいずれかの順序で互いに数秒以内、数分以内、数時間以内、数日以内もしくは数週間以内に逐次に提供されてよい。ある実施形態において、付加的抗癌薬は、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシンおよびミトキサントロン、白金系薬剤、代謝拮抗剤、プライムT細胞およびサイトカインからなる群から選択される。ある実施形態において、代謝拮抗剤は、アザセリン、D-サイクロセリン、ニコフェノール酸(nycophenolic acid)、トリメトプリム、5-フルオロウラシル、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)およびフルダラビンからなる群から選択される。
【0066】
ある実施形態において、哺乳動物対象はヒトである。婦人科癌の場合、対象は女性である。しかしながら、他の総ての癌の場合、対象は男性または女性であり得る。
【0067】
よって、本明細書において、ヒト対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vitro産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が教示される。
【0068】
本明細書において、ヒト対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する、配列番号1で示されるアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは前記対象による、癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストの産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が可能となる。
【0069】
さらに本明細書において、ヒト対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する、配列番号1で示されるアミノ酸配列または最適アラインメントの後に配列番号1と少なくとも約80%の類似性を有するアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法も教示される。
【0070】
ある実施形態において、癌は卵巣癌であり、対象は女性対象である。
【0071】
よって、本明細書において、女性対象における卵巣癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vitro産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が教示される。
【0072】
本明細書において、女性対象における卵巣癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する、配列番号1で示されるアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは前記対象による、癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストの産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法を可能とする。
【0073】
さらに本明細書において、女性対象における卵巣癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する、配列番号1で示されるアミノ酸配列または最適アラインメントの後に配列番号1と少なくとも約80%の類似性を有するアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法も教示される。
【0074】
本発明にはまた、伴侶動物(例えば、イヌおよびネコ)または農用動物(例えば、ウマ科動物、ブタ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ラマおよびアルパカ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスター)および野生捕獲動物(例えば、タスマニアデビル)などの他の非ヒト動物における癌の治療などの獣医学的適用もある。治療に企図される他の動物としては、テナガザル、チンパンジー、アカゲザル、ミドリザル、オランウータン、ヒヒ、トガリネズミ、ゴリラ、ハリネズミ、ガラゴ、カンガルー、ラット、野生ヤク、フィリピンメガネザル、フェレット、ゾウおよびコウモリが挙げられる。ウマ科動物については、これらにはウマ、モウコノウマ、シマウマおよびロバが挙げられる。ウマについては、これらにはサラブレッド種、温血種、クォーター種およびスタンダード種ならびに競走馬およびパフォーマンス馬が挙げられる。
【0075】
よって、本明細書において、非ヒト哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在するKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法が教示される。
【0076】
さらに本明細書において、非ヒト哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する、配列番号1で示されるアミノ酸配列または最適アラインメントの後に配列番号1と少なくとも約80%の類似性を有するアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは前記対象による、癌細胞上のKRT14の細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法も教示される。
【0077】
本明細書において、非ヒト哺乳動物対象における癌の治療または予防のための方法であって、癌細胞上に存在する配列番号1で示されるアミノ酸配列により定義される細胞外部分またはその機能的ホモログもしくは変異体を標的とする薬剤、あるいは癌細胞上のKRT14の細胞外部分または癌細胞上のその機能的ホモログもしくは変異体のアンタゴニストのin vivo産生を誘導する薬剤の、癌細胞の浸潤、遊走および/または転移を予防または軽減するために有効な量を対象に投与することを含んでなる方法を可能とする。
【0078】
非ヒト哺乳動物対象は雄または雌であり得る。ある実施形態において、薬剤は抗体である。抗体は、ヒト由来抗体または脱免疫化抗体または特定の哺乳動物対象に好適な哺乳動物化抗体であり得る。例えば、マウス抗体は、ヒトにおいて使用するためにヒト化することができる。ゆえに、抗体は、ある哺乳動物において使用するためにその哺乳動物種で作製してもよいし、または必要に応じて哺乳動物化もしくは脱免疫化してもよい。疑念を避けるため、「抗体」は、ポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体、またはKRT14結合抗体もしくはKRT14結合変異体もしくは誘導体を含んでなる抗血清、またはこれらの抗体もしくは合成もしくは組換え型のフラグメント(F’(ab)結合フラグメントを含む)であり得る。この薬剤は、抗体であることに加え、限定されるものではないが、アプタマー、モノボディ、アンチカリン、DARPinおよびナノボディなどを含むいずれのアフィニティー試薬であってもよい。
【0079】
ゆえに、本発明はさらに、ある動物に由来する抗体を同種または異種の別の動物において実質的に非免疫原性とするための生化学的技術の適用も提供する。この生化学的プロセスは、本明細書では「脱免疫化」と呼ばれる。本明細書において「脱免疫化」という場合には、相補性決定領域(CDR)グラフティング、免疫相互作用分子のフレームワーク領域に関する「再形成」および可変(v)領域突然変異などのプロセスを含み、総て、特定の宿主(例えば、ヒト対象)において免疫相互作用分子(例えば、抗体)の免疫原性を低減することを目的とする。ある実施形態において、好ましい免疫相互作用分子は、KRT14の細胞外部分を有する癌細胞に特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体などの抗体である。ある実施形態において、免疫相互作用分子は、ある動物に由来し、同種または限定されるものではないがヒトなどの異種の別の動物において免疫原性の低減を示すモノクローナル抗体である。
【0080】
「実質的に非免疫原性」という場合には、親抗体、すなわち、脱免疫化プロセスに曝される前の抗体と比較した場合の免疫原性の低減を含む。用語「免疫原性」は、宿主動物において体液性および/またはT細胞媒介性応答を惹起する、誘導するまたはそうでなければ助長する能力を含む。好都合な免疫原性基準としては、抗体の可変(v)領域に由来するアミノ酸配列に対する、MHCクラスII分子と相互作用して、それにより、T細胞により補助される体液性応答を含むT細胞介在応答を刺激または助長する能力を含む。
【0081】
「抗体」は、抗原と結合する、相互作用するまたはそうでなければ会合する能力のある免疫グロブリン系列のタンパク質を意味する。従って、抗体は、抗原結合分子である。「抗体」は、免疫相互作用分子の一例であり、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体または抗血清を含む。ある実施形態において、本発明の免疫相互作用分子はモノクローナル抗体である。
【0082】
用語「抗原」は、本明細書では、その最も広い意味において、免疫応答において反応し、かつ/または免疫応答を誘導する能力を有する物質を指して使用される。「抗原」という場合には、配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体によって定義される抗原決定基またはエピトープまたは癌細胞を含む。
【0083】
「抗原結合分子」は、標的抗原(すなわち、配列番号1)に対して結合親和性を有するいずれの分子も意味する。この用語は、抗原結合活性を示す免疫グロブリン(例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)、免疫グロブリンフラグメントおよび非免疫グロブリン由来タンパク質フレームワークに及ぶと理解される。用語「抗体」および「抗原結合分子」には、これらの分子の脱免疫化形態を含む。
【0084】
「抗原決定基」または「エピトープ」は、免疫応答が向けられ得る細胞外ドメインを有するKRT14の一部を意味する。
【0085】
本発明の抗体は一般にヒトで使用するためのマウスモノクローナル抗体の脱免疫化形態であるが、本発明は、いずれの供給源に由来するものでもよく、いずれの宿主において使用するために脱免疫化されてもよい抗体に及ぶ。動物源および宿主の例としては、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、モルモット、ハムスター)および伴侶動物(例えば、イヌ、ネコ)が挙げられる。
【0086】
免疫誘導およびその後のモノクローナル抗体の産生は、例えば、Kohler and Milstein (Kohler et al. (1975) Nature 256:495-499およびKohler et al. (1976) Eur. J. Immunol. 6(7):511-519;, Coligan et al. Current Protocols in Immunology, 1991-1997またはToyama et al. (1987) Monoclonal Antibody, Experiment Manual, Kodansha Scientificにより刊行)に記載されているような標準的プロトコールを用いて行うことができる。本質的に、動物を、抗体産生細胞、特に、抗体を産生する体細胞(例えば、Bリンパ球)を生成するための標準的方法により、抗原(すなわち、配列番号1またはその機能的ホモログもしくは変異体を含んでなるタンパク質またはタンパク質類似体)で免疫する。次に、これらの細胞を不死化のために免疫動物から取り出すことができる。抗原はまず担体と会合させる必要がある場合がある。
【0087】
「担体」は、その免疫原性を増強するために非免疫原性または低免疫原性物質(例えば、ハプテン)が天然にまたは人為的に連結されている、一般に高分子量のいずれの物質も意味する。
【0088】
抗体産生細胞の不死化は、当技術分野で周知の方法を用いて行うことができる。例えば、不死化は、エプスタイン-バーウイルス(EBV)を用いた形質転換法によって達成され得る[Kozbor et al. (1986) Methods in Enzymology 121:140]。好ましい実施形態では、抗体産生細胞は、モノクローナル抗体の産生に広く用いられている細胞融合法を用いて不死化される([Coligan et al. (1991-1997)前掲]に記載)。この方法では、抗体を産生する能力のある抗体を産生する体細胞、特に、B細胞を、骨髄腫細胞株と融合させる。これらの体細胞は、マウスおよびラットを含む齧歯類動物などのプライム動物のリンパ節、脾臓および末梢血に由来し得る。本発明の例示的実施形態においては、マウス脾臓細胞が使用される。しかしながら、代わりにラット、ウサギ、ヒツジもしくはヤギ細胞、または他の動物種からの細胞を使用することもできるであろう。
【0089】
ハイブリドーマ産生融合法において使用するための特殊な骨髄腫細胞株がリンパ球性腫瘍から開発されている(Kohler et al. (1976) 前掲; Kozbor et al. (1986) 前掲;およびVolk et al. (1982) J. Virol. 42(1):220-227)。
【0090】
例えば、P3X63-Ag8、P3X63-AG8.653、P3/NS1-Ag4-1(NS-1)、Sp2/0-Ag14およびS194/5.XXO.Bu.1を含む多くの骨髄腫細胞株が融合細胞ハイブリッドの産生に使用可能である。P3X63-Ag8細胞株およびNS-1細胞株が、Kohler and Milstein (Kohler et al. (1976) 前掲)により記載されている。Shulman et al. (1978) Nature 276:269-270は、Sp2/0-Ag14骨髄腫株を開発した。S194/5.XXO.Bu.1株が、Trowbridge (1982) J. Exp. Med. 148(1):220-227により報告されている。
【0091】
抗体産生脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞のハイブリッドを作製するための方法は、通常、細胞膜の融合を促進する1または複数の(化学的、ウイルスまたは電気的)因子の存在下で体細胞と骨髄腫細胞をそれぞれ10:1の割合(ただし、割合は約20:1~約1:1で変更可能である)で混合することを含む。融合法は記載されている(Kohler et al. (1975)前掲、Kohler et al. (1976)前掲、Gefter et al. (1977) Somatic Cell Genet. 3:231-236およびVolk et al. (1982)前掲)。研究者らによって使用される融合促進因子は、センダイウイルスおよびポリエチレングリコール(PEG)であった。
【0092】
融合法は生存能のあるハイブリッドを極めて低頻度で生産する(例えば、脾臓が体細胞源として使用される場合には、だいたい1×105脾臓細胞に1個のハイブリッドが得られるだけである)ことから、融合細胞ハイブリッドを残存する非融合細胞、特に、非融合骨髄腫細胞から選択する手段があることが望ましい。生じた他の融合細胞ハイブリッドの中から所望の抗体産生ハイブリドーマを検出する手段も必要である。一般に、融合細胞ハイブリッドの選択は、ハイブリドーマの増殖を補助するが、通常は無限に分裂し続ける非融合骨髄腫細胞の増殖を妨げる培地で細胞を培養することによって達成される。融合に使用される体細胞は、in vitro培養で長期間生存力を維持しないので問題はない。本発明の例では、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼを欠く(HPRT陰性)骨髄腫細胞を使用した。これらの細胞に対する選択は、ヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地で行われ、この培地では、融合細胞ハイブリッドが脾臓細胞のHPRT陽性遺伝子型のために生残する。また、遺伝子型的に適格なハイブリッドの増殖を補助する培地で選択可能な種々の遺伝的欠損(薬剤感受性など)を有する骨髄腫細胞の使用も可能である。
【0093】
融合細胞ハイブリッドを選択的に培養するには数週間が必要とされる。この期間の早期に、所望の抗体を産生するハイブリッドを同定することが必要であり、これにより、次にそれらをクローン化し、増殖させることができる。一般に、得られるハイブリッドの10%前後が所望の抗体を産生するが、約1~約30%の範囲もめずらしくない。抗体産生ハイブリッドの検出は、例えば、Kennet et al. (Chou et al. 米国特許第6,056,957号)に記載されるような酵素結合イムノアッセイおよびラジオイムノアッセイ技術を含むいくつかの標準的アッセイ法のいずれか1つによって達成することができる。
【0094】
所望の融合細胞ハイブリッドが選択され、個々の抗体産生細胞株にクローニングされており、各細胞株は2つの標準的方法のいずれかで増殖させることができる。ハイブリドーマ細胞の懸濁液を組織適合性動物に注射することができる。注射された動物はその後、融合細胞ハイブリッドにより産生された特定のモノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発達させる。この動物の、血清または腹水などの体液を穿刺してモノクローナル抗体を高濃度で得ることができる。あるいは、個々の細胞株をin vitroにて実験用培養容器内で増殖させてもよい。高濃度の単一の特定のモノクローナル抗体を含有する培養培地を傾瀉、濾過または遠心分離によって採取した後、精製することができる。
【0095】
これらの細胞株を、任意の好適な免疫検出手段により対象とする抗原を検出するためのそれらの特異性に関して試験する。例えば、細胞株を複数のウェルに分注し、インキュベートし、各ウェルの上清を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、間接蛍光抗体法などによって分析する。標的抗原を認識することができるが非標的エピトープを認識しないモノクローナル抗体を産生する細胞株を同定し、次に、直接in vitroで培養するか、または組織適合性動物に注射して腫瘍を形成させ、必要な抗体を産生、回収および精製する。
【0096】
よって、本発明は、第1のステップにおいて、配列番号1またはその変異体またはそのエピトープを含む細胞外部分を含んでなるタンパク質と特異的に相互作用するモノクローナル抗体を提供する。
【0097】
次に、一般に、モノクローナル抗体を脱免疫化手段に付す。このようなプロセスは、本発明に従って作製されるモノクローナル抗体と同じまたは類似の特異性を有するキメラ抗体の調製を含むいくつかの形態のいずれを採ってもよい。キメラ抗体は、軽鎖および重鎖遺伝子が、一般に遺伝子工学によって、異種に属す免疫グロブリン可変および定常領域遺伝子から構築された抗体である。よって、本発明においては、所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが得られたところで、ある種の結合領域が別種の抗体の非結合領域と組み合わせられている種間モノクローナル抗体を作製するための技術を用いる(Liu et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443)。例えば、非ヒト(例えば、マウス)モノクローナル抗体由来のCDRをヒト抗体にグラフトし、それにより、マウス抗体を「ヒト化」することができる(欧州特許公報第0239400号、Jones et al. (1986) Nature 321:522-525、Verhoeyen et al. (1988) Science 239:1534-1536およびRichmann et al. (1988) Nature 332:323-327)。この場合、脱免疫化法はヒトに特化している。より詳しくは、CDRは、ヒト定常領域を有するまたは有さないヒト抗体可変領域にグラフトすることができる。CDRを提供する非ヒト抗体は一般に「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト抗体は一般に「アクセプター」と呼ばれる。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合には、ヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち、少なくとも約85~90%、好ましくは約95%以上同一でなければならない。ゆえに、ヒト化抗体の、おそらくCDRを除く総ての部分が天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。よって、「ヒト化抗体」は、ヒト化軽鎖とヒト化重鎖免疫グロブリンを含んでなる抗体である。得られるヒト化抗体はCDRを提供するドナー抗体と同じ抗原に結合すると思われるので、ドナー抗体は「ヒト化」のプロセスによって「ヒト化」されると言われる。本明細書において「ヒト化」という場合には、特定の宿主、この場合には、ヒト宿主に対して脱免疫化された抗体である場合を含む。
【0098】
脱免疫化抗体は、抗原結合またはその他の免疫グロブリン機能に実質的に影響のない付加的な保存的アミノ酸置換を有してもよいと理解される。
【0099】
本発明に従って脱免疫化抗体を生産するために使用され得る例示的方法は、例えば、(Richmann et al. (1988) 前掲、Chou et al. 米国特許第6,056,957号)、Queen et al. (米国特許第6,180,377号)、Morgan et al. (米国特許第6,180,377号)およびChochia et al. (1987) J. Mol. Biol. 196:901)に記載されている。
【0100】
別の形態の抗体としては、「免疫グロブリン新抗原受容体」(IgNAR)が挙げられ、これは、海洋動物(サメおよびエイ)の軟骨にのみに見られる、血流の強い尿素環境中で安定に発現されるように何億年もかけて進化してきた抗体アイソタイプである(Greenberg et al. (1995) Nature 374:168-173; Nuttall et al. (2001) Mol Immunol 38:313-326)。IgNAR応答はサメでは抗原駆動性であり、IgNAR可変ドメインの免疫分子ライブラリーおよびナイーブ分子ライブラリーの両方が構築され、抗原特異的結合試薬のスクリーニングに成功している(Greenberg et al. (1995) 前掲; Nuttall et al. (2001) 前掲)。IgNARは二価であるが、様々な数の定常ドメインと結合した2つの相補性決定領域(CDR)ループを提示する単一免疫グロブリン可変ドメイン(約14kDa)を介して抗原を標的化する(Nuttall et al. (2003) Eur J Biochem 270:3543-3554; Roux et al. (1998) Proc Natl Acad Sci USA 95:11804-11809)。対照的に、従来の免疫グロブリン(Ig)抗体は、重鎖可変(VH)ドメイン+軽鎖可変(VL)ドメイン形式(約26kDa)を有し、最大6つのCDRを介して抗原と結合する(Chothia et al. (1989) Nature 342:877-883; Padlan (1994) Mol Immunol 31:169-217)。IgNAR可変ドメイン(VNAR)の小さなサイズ、および熱力学的・化学的安定性は、従来の抗体に優る明白な利点を与える。さらに、小さなVNARサイズは、この異常な抗体ドメインが、異常に長いおよび可変のCDR3ループを介して潜在性抗原エピトープに接近することを可能とする(Greenberg et al. 1995 前掲; Ewert et al. (2002) Biochemistry 41:3628-2636; Nuttall et al. (2004) Proteins 55:187-197; Stanfield et al. (2004) Science 305:1770-1773; Streltsov et al. (2004) Proc Natl Acad Sci USA 101:12444-12449; Streltsov et al (2005) Protein Sci 14:2901-2909)。IgNARドメインは、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)の頂端膜タンパク質1(AMA-1)(Nuttall et al, 2004 前掲);ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)由来のKgpプロテアーゼ(Nuttall et al. (2002) FEBS Lett 516:80-86);コレラ毒素(Goldman et al, Anal Chem 78:8245-8255, 2006);Tom70ミトコンドリア膜貫通タンパク質(Nuttall et al. (2003) 前掲)、およびリゾチーム(Streltsov et al. (2004) 前掲)を含む様々な標的抗原を認識することが特定されている。
【0101】
IgNARまたはさらに従来の抗体は、それら自体治療薬として使用可能であるか、または癌細胞に細胞傷害性分子を運ぶために使用可能である。それらはまた診断において使用することもできる。
【0102】
正確および高感受性の結合試薬は、タンパク質系治療薬および診断産業の基礎である。世界で癌の割合が高いことを考えれば、治療および診断プロトコールにおいて使用するための癌抗原を標的とするこのような試薬の差し迫った必要がある。KRT14の細胞外部分およびKRT14の役割の特定は、これらの治療および診断適用の開発を可能とする。
【0103】
別の実施形態において、薬剤は、KRT14の細胞外部分を有する癌細胞に対して免疫応答を生じるのに十分なKRT14の細胞外部分を含んでなるペプチド部分を含んでなるワクチンである。
【0104】
ワクチンは、KRT14もしくはKRT14の類似体の細胞外部分および/または配列番号1を含んでなるペプチドワクチンまたはコンポジットもしくはコンジュゲート薬剤であり得る。ある実施形態において、ワクチンは、配列番号1で示されるアミノ酸配列またはその機能的ホモログもしくはその変異体を含んでなるペプチド部分(最適アラインメントの後に配列番号1と少なくとも80%の類似性を有するペプチド配列を含む)と1種類以上の薬学上許容される担体、希釈剤または賦形剤とを含んでなる。本発明はまた、KRT14の細胞外部分に対する抗体を含んでなる医薬組成物を可能とする。
【0105】
用語「薬学上許容可能な」とは、担体、希釈剤または賦形剤の生理学上および薬学上許容可能な形態を指す。
【0106】
本発明はまた、KRT14の発現を下方調節するためのアンチセンスまたはセンス化合物を含む医薬組成物および処方物を含む。本発明の医薬組成物は、局所処置が望まれるか全身処置が望まれるかによって、また、処置される領域によって、いくつかの方法で投与することができる。投与は、局所投与(膣送達および直腸送達を含む)、ネブライザーによるものを含む、例えば、粉末もしくはエアロゾルの吸入もしくは吹送による肺投与;気管内、鼻腔内、表皮および経皮投与)、経口または非経口投与であり得る。経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内または筋肉内注射もしくは注入;または頭蓋内、例えば、くも膜下腔内もしくは脳室内投与が含まれる。局所的投与用の医薬組成物および処方物は、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、坐剤、スプレー、液体および散剤を含み得る。従来の医薬担体、水性、粉末または油性基剤、増粘剤などが必要な場合または望ましい場合がある。好都合には単位投与形で提供され得る本発明の医薬製剤は、製薬工業において周知の従来技術に従って調製され得る。このような技術としては、有効成分を医薬担体または賦形剤と会合させる工程を含む。一般に、これらの処方物は、有効成分を液体担体または微粉固体担体またはその両方と均一かつ緊密に会合させた後、必要に応じて、生成物を成形することによって調製される。ある実施形態において、医薬組成物は、付加的抗癌薬をさらに含んでなり、その具体例は当業者に公知であり、本明細書の他所に記載される。ある実施形態において、付加的抗癌薬は、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシンおよびミトキサントロン、白金系薬剤、代謝拮抗剤、プライムT細胞およびサイトカインからなる群から選択される。ある実施形態において、代謝拮抗剤は、アザセリン、D-サイクロセリン、ニコフェノール酸(nycophenolic acid)、トリメトプリム、5-フルオロウラシル、カペシタビン、メトトレキサート、ゲムシタビン、シタラビン(ara-C)およびフルダラビンからなる群から選択される。
【0107】
迅速、効率的かつ高感度のアッセイはまた、卵巣癌などの婦人科癌を含む癌の同定も提供する。このアッセイは、癌および特に、卵巣癌の早期検出を可能とする。しかしながら、本発明は、このアッセイが例えば婦人科癌のいずれの病期、またはその処置、またはそれから生じるいずれの合併症においても使用可能であることから、卵巣癌の早期検出にだけ限定されない。
【0108】
「婦人科病態」に関して「癌」という場合には、卵巣癌ならびに粘液性もしくは子宮内膜卵巣癌などの卵巣癌の亜種または病期I、II、IIIもしくはIVなどの卵巣癌病期を含む。「卵巣癌」、「上皮性卵巣癌」および「卵巣悪性腫瘍」などの用語は、本明細書においては互換的に使用され得る。本発明は症状のある女性の診断に適用する場合に有用であるが、無症状の女性および/または婦人科病態を発症するリスクのある女性の診断にも等しく適用され得る。しかしながら、本発明は男性および女性対象の広範囲の癌を包含する。
【0109】
本発明は、「リガンド」または「結合剤」および他の類似の用語に及び、KRT14上の細胞外エピトープに特異的にまたは実質的に特異的に(すなわち、限定された交差反応性で)結合し得るいずれの化合物、組成物または分子を指す。「結合剤」は一般に、単一の特異性を有する。しかしながらやはり、2つ以上のエピトープに複数の特異性を有する結合剤もまた本明細書において企図される。結合剤(またはリガンド)は一般に、モノクローナル抗体などの抗体、またはその誘導体もしくは類似体であるが、また、限定されるものではないが、Fvフラグメント;一本鎖Fv(scFv)フラグメント;Fab’フラグメント;F(ab’)2フラグメント;ヒト化抗体および抗体フラグメント;ラクダ化抗体および抗体フラグメント;ならびに前記のものの多価形態も含む。また、必要に応じて、限定されるものではないが、単一特異性または二重特異性抗体;例えば、ジスルフィド安定化Fvフラグメント、scFvタンデム[(scFv)2フラグメント]、ダイアボディ、トリボディまたはテトラボディを含む多価結合試薬も使用可能であり、これらは一般に共有結合されているか、またはそうでなければ安定化されている(すなわち、ロイシンジッパーまたはヘリックス安定化)scFvフラグメントである。「結合剤」はまた、当技術分野で記載されているようにアプタマーを含む。
【0110】
抗体の好適な抗原結合フラグメントの他の限定されない例としては、(i)Fdフラグメント;(ii)dAbフラグメント;および(iii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチドなどの単離されたCDR)、または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドが挙げられる。本開示はまた、ドメイン特異的抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠損抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、一腕抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(small modular immunopharmaceuticals)(SMIPs)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作分子にも及ぶ。
【0111】
ある実施形態において、抗原結合抗体フラグメントは、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメインを含んでなる。可変ドメインは、いずれの好適な長さまたは組成のアミノ酸配列を含んでなってもよく、一般に、1以上のフレームワーク配列に隣接するか、または1以上のフレームワーク配列とともにフレーム内にある少なくとも1つのCDRを含んでなる。抗原結合フラグメントがVHドメインおよびVLドメインを含んでなる場合、VHおよびVLドメインは、いずれの好適な配置で互いに相対的に位置してもよい。例えば、可変領域は二量体であり得、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有する。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは単量体VHまたはVLドメインを含有してもよい。
【0112】
いくつかの実施形態において、抗原結合抗体フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインと共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含んでなり得る。抗原結合フラグメント内に見出すことができる可変ドメインおよび定常ドメインの限定されない構成としては、(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLが挙げられる。上記に挙げた例示的構成のいずれをも含め、可変ドメインおよび定常ドメインのいずれの構成においても、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結されてもよいし、あるいは完全もしくは部分的ヒンジ領域またはリンカー領域によって連結されてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子内の隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメインの間にフレキシブルまたは半フレキシブルな連結を形成する少なくとも2個(例えば、5個、10個、15個、20個、40個、60個以上)のアミノ酸からなり得る。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるような抗原結合フラグメントは、互いのおよび/また1以上の単量体VHまたはVLドメインとの(例えば、ジスルフィド結合による)非共有結合的会合で、上記に挙げた可変ドメインおよび定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(またはその他の多量体)を含んでなり得る。多重特異的抗原結合分子は一般に、各可変ドメインが別の抗原にまたは同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合し得る、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含んでなる。二重特異的抗原結合分子形式を含め、多重特異的抗原結合分子形式はいずれも、当技術分野で利用可能な慣例技術を用い、本開示の抗体の抗原結合フラグメントに関する使用向けに適合させることができる。
【0113】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、標的抗原との結合に関与する免疫グロブリン重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は一般に、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域と3つの超可変領域(HVR)を含んでなるという類似の構造を有する。例えば、Kindt et al., Kuby Immunology, 第6版, W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)参照。抗原結合特異性を付与するには、単一のVHまたはVLドメインで十分であり得る。
【0114】
治療適用のためには、標的種、すなわち、結合剤が投与される種と適合させるために結合剤を改変することが望ましい場合がある。ある実施形態において、結合剤はヒト化結合剤である。
【0115】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるように、抗体またはその抗原結合フラグメントを含む結合剤のFRは、標的種(すなわち、結合剤が投与される種)の生殖細胞系配列のFRと同一であり得る。いくつかの実施形態において、FRは、天然にまたは人為的に改変され得る。一般に、標的種の対象に投与した際にその結合分子に対して生じる免疫応答を最小化することを含め、FR配列のそれぞれは標的種の1以上の免疫グロブリン分子に由来するFR配列と同一であることが望ましいが、いくつかの実施形態では、結合剤は、そのFR配列の1以上に、標的種に由来する1以上のFRの対応する位置において外来となる1以上のアミノ酸残基を含んでなってもよい。好ましくは、結合剤が、そのFR配列の1以上に、標的種の対応する位置において外来となる1以上のアミノ酸残基を含んでなる場合、その「外来」アミノ酸残基は、(i)結合剤の、その標的抗原(KRT14)に対する結合特異性に悪影響を及ぼさず、かつ/または(ii)標的種の対象に投与した際にその結合剤に対して惹起される免疫応答を生じない。
【0116】
本明細書で開示されるある実施形態において、薬剤(本明細書に記載されるように、KRT14の細胞外部分およびそのKRT14結合フラグメントに結合する抗体を含む)は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでなり、VHは、配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VH CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR3を含んでなり;かつ、VLは、配列番号9のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VL CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR3を含んでなる。
【0117】
ある実施形態において、VHは、
(a)配列番号12と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVHフレームワーク領域1(FR1);
(b)配列番号13と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR2;
(c)配列番号14と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR3;および
(d)配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR4
を含んでなり;かつ、VLは、
(e)配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR1;
(f)配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR2;
(g)配列番号18と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR3;および
(h)配列番号19と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR4
を含んでなる。
【0118】
ある実施形態において、VHは、配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつ、VLは、配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる。
【0119】
本開示はまた、癌細胞上のKRT14の細胞外部分、またはそのKRT14結合フラグメントに特異的に結合する薬剤に及び、その薬剤は、免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(VH)および免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでなり、VHは、配列番号6のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VH CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR2、および配列番号8のアミノ酸配列を含んでなるVH CDR3を含んでなり、かつ、VLは、配列番号9のアミノ酸配列を含んでなる相補性決定領域1(VL CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR2、および配列番号11のアミノ酸配列を含んでなるVL CDR3を含んでなる。
【0120】
ある実施形態において、VHは、
(a)配列番号12と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVHフレームワーク領域1(FR1);
(b)配列番号13と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR2;
(c)配列番号14と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR3;および
(d)配列番号15と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVH FR4
を含んでなり;かつ、VLは、
(e)配列番号16と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR1;
(f)配列番号17と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR2;
(g)配列番号18と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR3;および
(h)配列番号19と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるVL FR4
を含んでなる。
【0121】
ある実施形態において、VHは、配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、かつ、VLは、配列番号5と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる。
【0122】
これらのリガンドおよび結合剤は、KRT14を有する細胞の存在を検出するためにアッセイにおいて使用可能である。ECLIA、ELISAおよびLuminex LabMAPイムノアッセイは、バイオマーカーのレベルを検出するために好適なアッセイの例である。一例において、第1の結合試薬/抗体は表面に付着させ、検出可能な基を含んでなる第2の結合試薬/抗体がこの第1の抗体に結合する。検出可能な基の例としては、例えば、限定されるものではないが、第2の結合試薬に結合するための蛍光色素、酵素、エピトープ(例えば、第2の結合試薬/抗体がマウス抗体である場合には、蛍光標識された抗マウス抗体により検出される)、例えば、抗原またはビオチンなどの結合対のメンバーが挙げられる。表面は、典型的な格子型アレイ(例えば、限定されるものではないが、96ウェルプレートおよび平面マイクロアレイ)の場合などの平面、または各「種」のビーズが、例えば、蛍光色素(例えば、米国特許第6,599,331号、同第6,592,822号および同第6,268,222号に記載のLuminex技術)、もしくは量子ドット技術(例えば、米国特許第6,306.610号に記載のとおり)で標識されるコーティングビーズアレイ技術を用いるような非平面であり得る。このようなアッセイは、実験室情報管理システム(laboratory information management systems)(LIMS)と見なすこともできる。
【0123】
本明細書において使用する場合、「イムノアッセイ」は、免疫アッセイ、一般に、他を排除するものではないが、所望のバイオマーカー、すなわち、KRT14の細胞外部分を検出および定量することができるサンドイッチアッセイを指す。
【0124】
KRT14の細胞外部分の存在を決定し、この細胞外部分のレベルを、既知の疾患を有する患者における既知量のKRT14の第1の知識ベースを用いて作成されたアルゴリズムにおいて第2の知識ベースデータとして使用することにより婦人科病態またはその他の癌を診断するための方法。また、対象のサンプルにおいてKRT14の存在および/または速度を決定することを含んでなる、症状発現前の卵巣癌またはその他の癌を検出する方法も提供する。「速度」とは、患者のサンプル中のKRT14の濃度の経時的変化を意味する。
【0125】
上記に示されるように、婦人科病態としては、癌またはその合併症が含まれる。用語「癌」には、本明細書において使用する場合、限定されるものではないが「婦人科癌」を含むあらゆる癌が含まれる。1つの実施形態において、婦人科癌は、限定されるものではないが、卵管化生、卵巣漿液性境界新生物、漿液性腺癌、低悪性度粘液性新生物および子宮内膜腫瘍を含む。特定の実施形態において、婦人科癌は、異常なミューラー管上皮分化を受けている卵巣新生物である。本明細書において企図されるその他の婦人科病態としては、子宮内膜症などの炎症性障害が含まれる。上記に示されるように、本発明は、雄および雌対象による広範囲の癌に及ぶ。
【0126】
用語「サンプル」は、本明細書において使用する場合、限定されるものではないが、体液(血液、血漿、血清、腹水を含む)、組織抽出液、新たに採取した細胞、および細胞培養物としてインキュベートされた細胞の溶解液を含め、検出しようとする癌細胞を含有するいずれのサンプルも意味する。特定の実施形態において、サンプルは、婦人組織、血液、血清、血漿または腹水である。
【0127】
上記に示されるように、「対象」は、婦人科病態またはその他の癌を有する疑いのある、または有する任意の哺乳動物、一般にはヒトであり得る。対象は患者と呼ばれることもあり、癌を有する疑いのあるまたは有するまたは癌を発症するリスクのある哺乳動物である。用語「病態」はまた、それから生じる合併症も含む。
【0128】
用語「対照サンプル」は、既知の病態を有する対象からのデータの第1の知識ベースを確立するために使用可能ないずれのサンプルも含む。
【0129】
本発明の方法は、卵巣癌を含む婦人科癌などの癌の診断および病期分類で使用され得る。本発明はまた、病態の進行を監視するため、および特定の治療が有効であるか否かを監視するためにも使用可能である。特に、この方法は、手術、化学療法、免疫療法、および/または放射線療法の後などに病態の症状の不在または改善を確認するために使用可能である。これらの方法はさらに、化学療法および異常組織の再発を監視するために使用することもできる。
【0130】
上記に示されるように、抗体は、バイオマーカーの抗原決定基と抗体の間の結合相互作用によるいくつかのイムノアッセイのいずれにおいても使用可能である。このようなアッセイの例としては、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(例えば、ECLIA、ELISA)、免疫蛍光、免疫沈降、ラテックス凝集、血球凝集および組織化学的検査が挙げられる。抗体は、癌におけるその役割を決定することおよび癌を診断する目的で、サンプルにおいてバイオマーカーを検出し、そのレベルを定量するために使用可能である。
【0131】
特に、本発明の抗体はまた、免疫組織化学分析において、例えば、細胞レベルおよび細胞下レベルで、バイオマーカーを検出するために、それを特定の細胞および組織および特定の細胞下部位に局在させるために、ならびに発現レベルを定量するために使用可能である。この薬剤は、抗体であることに加え、限定されるものではないが、アプタマー、モノボディ、アンチカリン、DARPinおよびナノボディなどを含むいずれのアフィニティー試薬であってもよい。
【0132】
光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて抗原を位置決定するための当技術分野で公知の細胞化学的技術は、KRT14の細胞外ドメインを有する細胞を検出するために使用することができる。一般に、本発明の抗体を検出可能な物質で標識することができ、バイオマーカータンパク質を、その検出可能な物質の存在に基づいて組織および細胞内で位置決定することができる。検出可能な物質の例としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる:放射性同位元素(例えば、3H、14C 35S、125I、131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニドリン)、ルミノールなどの発光標識;酵素標識(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ)、ビオチニル基(マークされたアビジン、例えば、光学的方法または熱量計測定方法により検出可能な蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジンにより検出することができる)、二次リポーターにより認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン;エピトープタグ)。ある実施形態において、標識は、潜在的立体障害を軽減するために様々な長さのスペーサーアームを介して結合される。抗体は、電子顕微鏡により容易に可視化されるフェリチンまたは金コロイドなどの高電子密度物質とカップリングさせることもできる。
【0133】
抗体またはサンプルは、細胞、抗体などを固定することができる担体または固相支持体上に固定されていてもよい。例えば、担体または支持体は、ニトロセルロース、またはガラス、ポリアクリルアミド、斑れい岩および磁鉄鋼であり得る。この支持体素材は、球形(例えば、ビーズ)、円柱形(例えば、試験管もしくはウェルの内面、またはロッドの外面)、または平坦(例えば、シート、試験紙)を含む、いずれのあり得る構成であってよい。また、一次抗原-抗体反応が、バイオマーカータンパク質に対する抗体反応性に特異性を有する第2の抗体の導入によって増幅される間接的方法も使用可能である。例として、KRT14の細胞外ドメインに対して特異性を有する抗体がウサギIgG抗体である場合、第2の抗体は、本明細書に記載されるように検出可能な物質で標識されたヤギ抗ウサギγ-グロブリンであり得る。
【0134】
放射性標識が検出可能な物質として使用される場合、KRT14バイオマーカーは、ラジオオートグラフィーによって位置決定することができる。ラジオオートグラフィーの結果は、ラジオオートグラフにおいて粒子の密度を、様々な光学的方法により、または粒子を数えることによって定量することができる。
【0135】
KRT14に対する標識抗体は、手術を受けている患者において、すなわち、イメージングにおいて腫瘍組織を位置決定する際に使用可能である。一般に、in vivo適用のためには、抗体は、放射性標識(例えば、ヨウ素-123、ヨウ素-125、ヨウ素-131、ガリウム-67、テクネチウム-99、およびインジウム-111)で標識される。標識抗体調製物は、組織がイメージングされる数時間~4日前に適当な担体で一度、患者に静脈内に投与することができる。この期間中、結合しなかった画分は患者からクリアリングされ、残った抗体だけが腫瘍組織と会合したものである。同位体の存在は好適なγカメラを用いて検出される。標識された組織は、外科医に腫瘍の位置を正確に示すために患者の身体上の既知のマーカーと相関させることができる。
【0136】
よって、別の実施形態において、本発明は、患者において癌を検出するための方法であって、
(a)患者からサンプルを得ること;
(b)前記サンプルをKRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させてそのレベルを決定し、そのレベルを、癌を有する患者の確率指数を得るためのアルゴリズムにかけること;および
(c)確率指数に基づき患者が癌を有するリスクを診断すること
を含んでなる方法を提供する。
【0137】
別の実施形態において、本発明は、患者において循環KRT14陽性癌細胞を検出するための方法であって、
(a)患者から血液サンプルを得ること;
(b)前記血液サンプルを、KRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させてサンプル中のKRT14陽性癌細胞の存在を判定すること
を含んでなる方法を提供する。
【0138】
本明細書に記載の方法は、本発明の方法のいずれかを実施するために必要な試薬を含んでなるプレパック診断キットを使用することにより実施することができる。例えば、これらのキットは、KRT14の細胞外部分に特異的な少なくとも1つの抗体を含んでよく、これらは例えば、臨床現場において、患者をスクリーニングおよび診断するため、ならびに癌を発症する素因を示す個体をスクリーニングおよび特定するために好都合に使用され得る。このキットはまた、本発明の方法を実施するための詳細な説明書も含む。
【0139】
本発明はさらに、患者由来のサンプルをスクリーニングするためのアルゴリズムに基づくスクリーニングアッセイを提供する。一般に、入力データをKRT14のレベルに基づいて収集し、レベルの上昇または低下の統計的有意性を評価するためのアルゴリズムにかけ、その後、その情報が出力データとなる。入力データを評価するためのコンピューターソフトウエアおよびハードウエアは本発明に包含される。
【0140】
本発明のアッセイは、既存のまたは新たに開発された病理アーキテクチャまたはプラットフォームシステムへの統合を可能とする。例えば、本発明は、ユーザーが癌、またはそのサブタイプもしくは病期に関する対象の状態を決定することを可能にする方法を企図し、その方法は、
(a)通信ネットワークによってKRT14の細胞外部分の存在の形態におけるデータを受信すること;
(b)前記対象データを、疾病指数値を提供するアルゴリズムによって処理すること;
(c)所定の値と比較した疾病指数値の結果に従って対象の状態を決定すること;および
(d)対象の状態の指標を通信ネットワークによってユーザーに伝達すること
を含んでなる。
【0141】
本明細書に開示される別の実施形態において、患者において癌を監視する方法が提供され、その方法は、
(a)第1の時点で患者から血液サンプルを得ること;
(b)(a)のサンプルをKRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させて、前記サンプル中のKRT14陽性癌細胞のレベルを決定すること;
(c)第2の時点で患者から血液サンプルを得ること、この第1の時点は第2の時点と異なる、
(d)(c)のサンプルをKRT14の細胞外エピトープに結合する薬剤と接触させて、前記サンプル中のKRT14陽性癌細胞のレベルを決定すること;および
(e)前記患者においてKRT14陽性癌細胞のレベルが第1の時点と第2の時点の間で変化したかどうかを決定すること
を含んでなり、
第1の時点と第2の時点の間での患者におけるKRT14陽性癌細胞のレベルの変化が患者における癌の状態の変化を示す。
【0142】
このような方法は、癌の状態または病期の(例えば、療法に応答した)変化を監視するためまたは再発(例えば、腫瘍切除後)を検出するために好適に使用され得る。
【0143】
ある実施形態において、癌は、婦人科癌である。ある実施形態において、婦人科癌は、卵巣癌またはある病期もしくは形態の卵巣癌である。別の実施形態において、癌は、脳癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、腸癌、結腸癌、消化管癌、胃癌、咽頭癌、子宮内膜癌および結腸直腸癌から選択される。
【0144】
上記に概略を示すように「アルゴリズム」または「アルゴリズム関数」という場合には、多変量解析関数の実行を含む。上記のものの他、ある範囲の異なるアーキテクチャおよびプラットフォームは実施可能である。本発明の実施に好適ないずれの形態のアーキテクチャも使用可能であることが理解されよう。
【実施例】
【0145】
本明細書に開示される側面を、以下の限定されない例によりさらに説明する。以下の材料および方法が使用可能である。
【0146】
細胞培養 細胞株OVCAR-4(NIH-OVCAR4)およびCaOV-3 #HTB-75はATCCおよびNIHから購入した。OVCAR-4細胞はRoswell Park Memorial Institute medium-1640(RPMI)(Life Technologies、21870092)で維持し、CaOV-3細胞はダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)(Thermo Scientific、#11965118)で維持し、SKOV3細胞(ATCC(登録商標)#HTB-77(商標))はダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)/ハムのF-12(DMEM/F12)(Thermo Scientific、#11965118)で維持し、COV362.4、Sigma Aldrich(Sigma #07071904)は高グルコースダルベッコの改変イーグル培地(DMEM-HG)で維持し、BT-16、非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍(CVCL_M156)およびNCI-H1573肺腺癌(NCI-H1573)は両方ともRosswel Park Memorial Institute(RPMI)、MDA-MB-468で維持し、トリプルネガティブ乳癌細胞(CVCL_0419)はDMEMで、ANE CA(ATCC HTB-11)はイーグル最小必須培地EMEMで維持し、SW620細胞(ATCC CCL-227)はライボビッツL-15培地で維持した。総ての培地に10%ウシ胎仔血清(FCS)(Thermo Fisher、#16000044)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Scientific、#15240062)を添加した。ID8マウス上皮OC細胞株(Dr. Kathy Roby、Kansas University Medical Center、Kansas City、KA、USA)を、1%インスリン-トランスフェリン-セレナイト(ITS)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)とともに4%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するGibco DMEM(Thermo Fisher Scientific)で増殖させた。ヒト中皮細胞株LP9(Coriell Institute Cell Repository #AG07086)を、10%v/v FCS、1%v/vペニシリン-ストレプトマイシン、10ng/ml EGFおよび0.4ug/mlヒドロコルチゾンを含むHamsF12/199培地で維持した。総ての細胞株を37℃、5%v/v CO2で維持し、細胞生存率の計数は、総てのアッセイを始める前にCountess(登録商標)II FL自動セルカウンターを用いて行った。患者の同意の後に、確立された精製法(Latifi et al. (2012) PLoS ONE 7(10))を用い、低接着プレートのMCDB:F12培地および10%v/v FCS中で培養することにより分析する前に低接着条件下で維持した悪性腹水から接着腫瘍細胞は得られなかった。
【0147】
CRISPR KRT14標的破壊およびKRT14の過剰発現 CRISPR媒介遺伝子サイレンシングは、遺伝子当たり3つのガイドストランドを用い、Zhang labプロトコール(Cong et al. (2013) Science 339(6121):819-23)に従って行った。生産者のプロトコールに従い、DMEM中、リポフェクタミン(登録商標)2000トランスフェクション試薬(Invitrogen、#11668019)を用い、細胞をガイドストランド(1-3)、非標的対照またはKRT14過剰発現構築物KRT14OE(Origene #RC214907)でトランスフェクトした。トランスフェクションおよび12時間の回復期間の後、細胞を選択培地で継代培養し、1μg/mlのピューロマイシン(Sigma-Aldrich、#P8833)またはジェネティシン(商標)選択抗生物質(G418硫酸塩)(Life Technologies Australia #10131-035)の添加により選択圧下で維持した。細胞に制限希釈を行い、選択培地はおよそ2週間、2日毎に置き換えた。個々のコロニーを拡大培養し、標的遺伝子のノックダウンをウエスタンブロット分析により評価し、サンガーシークエンシングによって確認した。
【0148】
ヒト組織アレイおよび免疫組織化学 免疫組織化学は、USBIOMAX(#ov2085、#ov20811)から購入した、または[Bilandzic et al. (2014) Cancer Lett 354(1):107-114; Rainczuk et al. (2013) J Proteome Res; Salamonsen et al. (2013) Fertil Steril 99(4):1086-92] (補足データ6および7)に従前に記載されているように自家生成した(腫瘍および卵管)組織マイクロアレイ(micrarray)(TMA)切片で行った。抗原賦活のために、50mMグリシン(pH3.5)中、90℃で10分間、切片をインキュベートした。これらの切片を0.1%w/v BSA/PBS中、Rb-KRT14抗体(1:100、Sigma、SAB4501657)およびmAb AN-17(1:500)とともに4℃で一晩インキュベートした。その後の工程は、インキュベーション間にPBS洗浄を挟んで、室温で行った。切片をヤギ抗ウサギIgGペルオキシダーゼコンジュゲート(1:1000、Dako、グロストルプ、デンマーク;カタログアイテムPO448)、ビオチン化ウサギ抗ヤギIgG抗体(1:1000、Vector Laboratoriesカタログ番号BA-5000)またはビオチン化ウサギ抗マウスIgG抗体(1:1000、Vector Laboratoriesカタログ番号BA-9200)とともに1時間インキュベートした後、生産者の説明書に従い、Vectastain Elite ABCキットを用いた(Vector Laboratories、バーリンゲーム、カリフォルニア州)。抗体結合は、3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩を用いた現像の後に褐色沈澱として検出され、ハリスヘマトキシリンを対比染色として使用した。これらの切片をカバーガラス下、Depex(BDH Laboratory Supplies、プール、英国)で封入した。陽性免疫染色は、アイソタイプ(IgG)対照に曝した並行切片と比較して評価した。腫瘍および間質組織の免疫染色は、記載の通りに(Rainczuk et al. (2013) 前掲)、Aperio ImageScope(v 12.3.3)を用いて評価した。
【0149】
ウエスタンブロット分析 SDS-PAGEおよびウエスタンブロット法は、従前にBilandzic et al. (2013) Mol Endocrinol, 2013. 27(3):466-79に記載されているように行った。ブロットを、KRT14に対する抗体(1:1000、SAB4501657)、mAb AN-17およびβ-アクチン(1:20,000;Sigma-Aldrich、キャッスル・ヒル、オーストラリア)を用いてプローブした。二次抗体HRPコンジュゲートヤギ抗マウス、抗ウサギおよびロバ抗ヤギ(1:50,000;Merck Millipore、キルシス、オーストラリア)を使用した(Bilandzic et al. (2013) Mol Endocrinol, 2013. 27(3):466-79)。タンパク質バンドをClarity Western ECLブロッティング基質(Biorad #1705061)を用いて検出し、ChemiDoc(商標)MPシステム(Bio-Rad、#1708280)を用いて可視化した。
【0150】
xCELLigenceリアルタイム細胞分析(RTCA) リアルタイム細胞分析(RTCA)は、xCELLigence RTCA SP 96ウェル装置(ACEA Biosciences)を用いて行った。開始前に細胞株を血清不含培地で一晩インキュベートすることによりGo期に同調させた。増殖アッセイとしては、細胞を0.5×103細胞/0.14ml/ウェルで播種し(実験テキストに概説される通り)、インピーダンスの読み取りを8時間、5分毎(細胞接着を監視するため)、その後、24時間、15分毎(細胞増殖を監視するため)に行った。浸潤アッセイとしては、CIM-16ウェルプレートの上のチャンバーをマトリゲルマトリックス(SFM中1:10;BD Biosciences、サンノゼ、CA)でコーティングした。細胞を上のチャンバーに播種し(上記の通り)、下のチャンバーには培地+/-10%v/v FBSを加えた。アッセイは総て2反復または3反復で行い、少なくとも3回の独立した実験を行った。
【0151】
腹膜微小環境モデル 腹膜微小環境のモデルを確立するために、2チャンバーRTCA CIMプレートウェルを、上のチャンバーにマトリゲル(SFM中1:10;BD Biosciences)をコーティングすることにより準備した後、7×104のLP9細胞/ウェルを加え、コンフルエント単層が形成されるまで監視した(Domcke et al. (2013) Nat Commun 4:2126)。スフェロイド(新鮮な患者腹水から取得;10スフェア/ウェル)を上のチャンバーのSFMに播種し、下のチャンバーには培地±10%v/v FBSを加えた。MALDIイメージング分析の収集点として使用するための最適時間を決定するためにリアルタイム読み取りを用い、サンプルは総て、実験ごとに2反復または3反復のウェルで調製した。さらなる対照として、本発明者らはまた、改変型Boydenチャンバーを用い、同時エンドポント浸潤アッセイも並行して行った。この場合、中皮LP9細胞を、卵巣癌スフェロイドを植え込む前にCell Trace(商標)CFSEを用いて標識した。中皮浸潤は、Cytation(商標)3マルチモードイメージャー(BioTek Instruments、ウィヌースキ USA)を用い、CSFE標識中皮細胞がスフェロイドの下に退縮していることに従って評価した。
【0152】
MALDI-IMSのサンプル調製 スフェロイド中皮界面をThermanox(商標)セクショナブルカバーガラス上で共培養し、浸潤前、浸潤中および浸潤後(RTCAアッセイにより測定される通り)に相当する所定の時点で、寒天で蓋をした。サンプルを5μmの切片とし、浸潤界面を周期的切片でH&E染色により位置決定した。識別されたところで、界面における2つの非染色切片をMALDI処理用のインジウム-酸化スズ(ITO)スライド(Bruker Daltonik、GmbH)に置いた。
【0153】
MALDI IMS 卵巣癌スフェロイド中皮界面におけるトリプシン処理ペプチドを、ImageIDワークフロー(Bruker)を用いて識別した。トリプシンは、ImagePrepスプレー装置(Bruker)を用いた噴霧化により連続組織切片に適用した。サンプルを90分間加湿チャンバーで消化した後、ペプチドを抽出し、C18ピペットチップを用いて精製した。LC-MALDI分析は、(Rainczuk et al. (2014) Int J Cancer 134(3):530-41)に記載されているように、ultrafleXtreme MALDI-TOF/TOF(Bruker)およびDionex Ultimate 3000 RSLCシステム(Thermo)を用いて行った。次に、続いて消化された連続切片のMALDIイメージング取得を、従前に記載されているように(Rainczuk et al. (2014) 前掲)、flexImaging 4.1(Bruker)を用いて行った。LC-MALDIデータおよびMALDIイメージングデータを、ImageIDソフトウエア(Bruker)を用いて比較およびフィルタリングを行い、イメージングデータとLC-MALDI分析の間で質量ピークをマッチさせた。ピークマッチングの質量許容差をImageIDソフトウエアにより自動計算した。
【0154】
メチルセルロースの重層およびスフェアの形成 卵巣癌細胞をトリプシン化により溶解させ、完全細胞培養培地に再懸濁させた(countessセルカウンターにより決定した場合に最小生存率98%)。スフェア当たり2,500細胞を無血清培地中0.25%w/vメチルセルロース(Sigma Aldrich、キャッスル・ヒル、オーストラリア)中で重層し、96ウェルCELLSTAR(登録商標)U底懸濁培養プレート(Greiner Bio One、Interpath Services PTY、ビクトリア州、オーストラリア)の単一のウェルに播種した。各細胞株のスフェロイドの凝集および形成を観察し、定期的に光学顕微鏡を用いて画像を得た。形成したスフェアは、大口径チップおよび遠心分離を用いて採取した。
【0155】
中皮置換アッセイ ヒト中皮細胞株LP9を上記のように播種し、コンフルエント単層が形成されるまで37℃でインキュベートした。卵巣癌スフェア(上記の通り)は採取し、16スフェアを、コンフルエント中皮単層を含有するウェルに播種した。位相差顕微鏡を用いて定期的に中皮の置換および成長の画像を得た。
【0156】
in vitro創傷修復アッセイ 卵巣癌細胞(またはその他の癌細胞株-BT16、NCI-H1573、AN3CA、SW620およびMDA-MB-468)を12ウェルプレートにて完全培地中でコンフルエントに達するまで増殖させた後、一晩、血清飢餓状態にしてG0で同調させた。翌日、細胞培養培地を除去し、吸引を取り付けたピペットチップで擦過することにより細胞単層に創傷を形成した。PBSで穏やかに洗浄することにより非接着細胞を除去し、mAb AN-17(1μg/ml)または市販のKRT14ポリクローナル抗体(1μg/ml)を含むまたは含まない完全増殖培地で置換した。0~72時間の範囲で定期的に位相差顕微鏡(Leica)を用いて創傷領域の画像を得た。創傷の閉鎖はAnalySIS LS Researchソフトウエア(Olympus)を用いて画像系で測定し、各日の創傷面積を求めた。各増殖条件で観察した少なくとも6か所の創傷領域で3回実験を繰り返した。
【0157】
マトリゲルおよびコラーゲンI増殖アッセイ:染色およびイメージング Nguyen-Ngoc et al. (2012) Proc Natl Acad Sci U S A. 109(39):E2595-604からのプロトコールを適合させた。簡単に述べれば、卵巣癌スフェロイドを採取し、各マトリックス6スフェアの懸濁液を得た。スフェアを3Dマトリゲル(354230;BD Biosciences)またはラットテールコラーゲンI(354236;BD Biosciences)のいずれかに包埋した。Nguyen-Ngoc et al. (2012)前掲に従い、カバーガラススライド(94.6190.802、Starstedt)上、8ウェルに培養を設定した。抗体染色のために、マトリゲルまたはコラーゲンIのいずれかで培養したスフェアを、4%w/vパラホルムアルデヒドで30分間固定し、PBS中で10分間2回すすぎ、PBS中0.5%v/v Triton X-100で20分間透過処理を施し、PBSで10分間2回すすぎ、室温で2時間PBS中10%v/v FBSでブロッキングした後、一次抗体(1:1000、抗Nカドヘリン抗体[5D5]ab98952 AbCamおよび1:500、KRT14)とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、サンプルをPBSで3回洗浄し、二次抗体:1:2000ヤギ抗ウサギIgG Alexa 467、ab150083および1:2000ヤギ抗マウスIgG Alexa 488、ab150117)とともに室温で3時間インキュベートした後、PBSで10分間3回すすいだ。Cytation(商標)3 Mulitmode Imager(BioTek Instruments、ウィヌースキー USA)をGen5 Image+ソフトウエアまたはNikon C1共焦顕微鏡(Monash Micro Imaging Facility、モナシュ)とともに用いてサンプルの画像を得た。
【0158】
リアルタイムPCR 全RNAを原発高悪性度漿液性卵巣腫瘍(n=3)および全正常卵巣(n=3)から、Tissue Lyser LTシステムを5mmステンレス鋼ビーズおよびRNeasyミニキット(Qiagen)を用いて抽出した。全RNAを卵巣癌細胞株OVCAR4およびCaOV3から抽出し、単層またはスフェロイド(KRT14KOおよび野生型株);腹水由来卵巣癌(n=3)または良性線維腫(n=2)スフェロイド;標的腹膜細胞層LP-9として、RNeasyミニキット(Qiagen)を生産者のプロトコールに従って用いて増殖させた。KRT14、HNRN、FNDC3B、18S、CDCA8に対するセンスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドプライマーを公開ヒト配列に対して設計し、従前に記載されているように確認した(Bilandzic et al. (2009) Mol Endocrinol, 23(4):539-48)。cDNAを、スーパースクリプトIII逆転写酵素(Life Technologies、グランドアイランド、NY)を用いて合成した。Applied Biosystems ABI SYBRミックス(Scoresby、ビクトリア州、オーストラリア)を用い、リアルタイムPCRサンプルを10μlの終容量に調製した。定量的リアルタイムPCRは、Applied Biosystems ABI 7900 HT Fastリアルタイムマシーンを用いて、従前に記載されているように(Bilandzic et al. (2009) 前掲)遂行し、総ての反応を3反復で行った。生成量は各PCR産物の標準曲線に基づいてフェムトグラムに変換し、得られるmRNAレベルを各サンプルの18S mRNAレベルに対して正規化した。
【0159】
統計分析 統計分析は、GraphPad Prism(バージョン6;GraphPad Software Inc.,サンディエゴ、CA)を用いて行った。細胞アッセイから得られたデータについて、示されているように、平均を一元配置または2元配置ANOVAをボンフェローニ、ダネット、またはテューキーの事後検定とともに用いて比較した。mRNA発現がサンプル間で有意に異なったかどうかを決定するために、マン・ホイットニー-U検定または対応のないt検定を行った。p<0.05である場合に平均を有意に異なると見なした。総ての実験を独立に少なくとも3回繰り返した。
【0160】
カプラン・マイヤー曲線 15の公開卵巣癌データベースの漿液性卵巣癌患者からのmRNAデータを用いて生存曲線を作成するために、カプラン・マイヤーオンラインプロッターツール(http://kmplot.com/ analysis/)を使用し、ベストカットオフ値はこのプロッターツールにより自動選択され、ログランク、p値およびハザード比(および95%信頼区間)を計算した(Lanczky et al. (2016) Breast Cancer Res Treat. 3 (160):439-446)。
【0161】
実施例1
接着および増殖は細胞の浸潤能の予測にはならない
転移性卵巣癌細胞は、腹腔および器官の内面の中皮単層と相互作用して、浸潤し、基礎にある基質に付着して二次結節を形成する(Kenny et al. (20017) Int J Cancer 121(7):1463-72; Burleson et al. (2006) J Transl Med 4:6; Sodek et al. (2012) Cancer Metastasis Rev 31(1-2):397-414)。初代腹水由来腫瘍細胞を用い、中皮置換は、in vitroにおいて長期の時間枠にわたってスフェロイドからの浸潤性糸状仮足の出現により評価した。アッセイ開始時に、良性または悪性サンプルからのスフェロイドは同様のサイズであり、明らかな形態学的違いを示さなかった。広範囲の糸状仮足の成長および下層の中皮層の消失は総ての悪性サンプルで24時間以内に見られ、対照的に、良性スフェロイドは、成長または浸潤の明らかな証拠を示さなかった。浸潤の欠如は接着不全または細胞増殖の低下によるものではなく、実際に、良性細胞は非コーティングおよびフィブロネクチンコーティング培養プレートへの比較的高い接着を示し、RTCAアッセイにおいて悪性細胞サンプルよりも高い増殖性指数を達成した。これらのデータは、悪性細胞だけが浸潤能を示したこと、および浸潤能はin vitroにおける細胞の接着能または増殖能から予測できないことを示す。
【0162】
実施例2
プロテオミクスプロファイリングは浸潤界面に独特のタンパク質を同定する
活発に浸潤する癌細胞および中皮の間の界面で直接タンパク質を調べた研究はこれまでにはなかった。浸潤関連タンパク質の存在量および局在を評価するために、スフェロイド/中皮共培養物を中皮への接着後、浸潤(RTCAアッセイで判定)の開始前に採取した。並行エンドポイントBoydenチャンバーアッセイを用い、MALDI IMS分析に使用したサンプルにおいて中皮接着は見られたが浸潤は見られなかったことを確認した。
【0163】
細胞-スフェロイド界面培養物をアガロースに包埋し、切片とし、IHCにより位置決定し(
図1A)、次に、連続切片を、浸潤界面に局在したタンパク質を同定するためにIMSにより分析した。分析はまた、サンプル間の異型分散について制御するために、良性線維腫を有する患者からの腹水由来スフェロイドを含んだ(示されていない)。MALDI IMSおよびその後のLC-MALDI-MS/MSは、スフェロイド/中皮界面において、悪性スフェロイドを含有する共培養物には独特に存在するが良性スフェロイドを含有する共培養物には存在しない26のタンパク質を同定した。これらの中には卵巣癌に従前に関連付けられているいくつかのタンパク質があり(例えば、HSP90、AMHおよびOSM)[Vesci et al. (2014) Int J Oncol 45(4):1421-9; Liu et al. (2013) Clin Cancer Res 19(18):5053-67; Kim et al. (2014) Obstet Gynecol Sci .57(5):343-57; Richards (2013) ISRN Inflammation 2013: 23]、このアプローチのバリデーションを行い、それらが浸潤の初期段階に重要な役割を果たす可能性のあることを示唆する。分析にはさらに、(i)総ての悪性高グレード漿液性卵巣癌(HGSC)サンプルで同定されたタンパク質のみを含むこと;および(ii)中皮細胞単層においても同定されたタンパク質を除くという制限があった。4つのタンパク質(KRT14、HRNR、CDCA8およびFNDC3B)は、高ストリンジェンシーアプローチ後に癌中皮界面において、総ての患者HGSC細胞に独特であることが確認された。また、組織学的に正常な卵巣組織に比べて独立した腫瘍組織における候補の発現および局在を確認するために、TMAに対する免疫染色および新鮮な凍結組織に対するRT-PCRも使用した。
【0164】
実施例3
卵巣癌細胞の浸潤には浸潤界面でKRT14が必要とされる
HRNR、KRT14、CDCA8およびFNDC3Bの存在量を、ウエスタンブロットにより複数のHGSC細胞株(OVCAR3、OVCAR4およびCaOV3)において調べた(Domcke et al. (2013) 前掲)。プロテオミクスプロファイリングと一致して、HRNR、KRT14およびCDCA8は、癌細胞溶解液において検出されたが、中皮細胞対照においては検出されなかった。FNDC3BはLP9中皮細胞において検出されさらなる分析から除外した。次に、CRISPRを用いてKRT14、CDCA8およびHRNRをノックアウトし(CaOV3およびOVCAR4細胞株)、それらの特異的欠損をクローン集団においてシークエンシングPCRおよびウエスタンブロットにより確認した。細胞増殖および浸潤に対する機能的KRT14、CDCA8またはHRNR欠損の効果をRTCAにより試験した。非処理対照または非標的対照に比べて、HRNRまたはCDCA8を欠いた細胞は有意に低下した増殖を示し(示されていない)、対照的に、KRT14の欠損は増殖に影響せず(
図2)、それは腫瘍細胞の生存率または増殖に必要とされないことが示唆される。また、CDCA8およびHRNRノックアウト細胞はいずれも浸潤能を保持し、CDCA8ノックアウト細胞は、非処理細胞または非標的細胞と同等の浸潤速度を示したが、HRNRノックアウト細胞は、浸潤の開始に遅延を示した。しかしながら、機能的KRT14を欠く細胞は浸潤能の完全な欠損を示し(
図2A)、30時間後に(または最大7日の長期にわたって)浸潤が見られなかった。KRT14により媒介される浸潤能の欠損は2D創傷治癒アッセイで確認され(
図2B)、ここでは、KRT14ノックアウト(KRT14
KO)細胞は、48時間後に創傷単層を修復できなかった。従って、さらなる研究では悪性卵巣癌細胞の浸潤能を制御する重要な遺伝子としてKRT14に焦点を当てた。
【0165】
実施例4
腹膜微小環境モデル
腹膜微小環境モデルを用い、KRT14が転移の最も早い段階で浸潤性卵巣癌細胞の「前縁」で発現されることを検出した。これらの細胞は、「リーダー細胞」と定義される。このモデルでは、CIM-16 RTCAプレート中で、卵巣癌スフェロイドを中皮単層上に重層し、マトリゲルマトリックス上に確立した。スフェロイドの接着および中皮単層/マトリックスを経た浸潤を、浸潤細胞挙動の動的速写が得られるxCELLigence装置を用いてリアルタイムで監視した。
【0166】
良性(卵巣線維腫)または悪性(HGSC)疾患のいずれかを有する患者からのスフェロイドを腹水から単離し、浸潤能を評価した。悪性HGSC細胞は急速に中皮単層を経て浸潤し、総てのサンプルが添加4時間以内に活発な浸潤を示した。対照的に、良性線維腫を有する患者から得られたスフェロイドは、中皮単層を破壊することができなかった。よって、癌細胞浸潤の開始はin vitroにおいて中皮単層と接触すると速やかに見られ、浸潤に関与する初期イベントの分析の時間枠が示唆される。
【0167】
実施例5
リアルタイムin vitro浸潤アッセイ
リアルタイムin vitro浸潤アッセイ(Bilandzic and Stenvers (2014) J Vis Exp 87)を用いて中皮単層を経た卵巣癌細胞浸潤を測定し、KRT14の遺伝的除去(K14
KO)が複数の卵巣癌細胞株(CVAR4およびCaOV3)(
図2)、ならびに腹水から回収された初代卵巣癌細胞(n=5)(データは示されていない)の浸潤能を完全に排除したことが示された。他の研究と一致して(Papafoliou et al. (2016) 前掲; Rock et al. (2009) Proc Natl Acad Sci USA 106(31):12771-12775)、KRT14発現の欠損は、細胞生存率および増殖能に対して効果がなかった。KRT14
KO卵巣癌細胞はまた、創傷治癒アッセイにおいて傷害された細胞単層を修復することもできず、遊走能の欠如を示した(
図2B)。また、多細胞スフェロイドとして培養されたKRT14
KO卵巣癌細胞は、中皮単層に対する結合の低下を示し、上皮性卵巣癌(EOC)浸潤の重要な要件である(Iwanicki et al. (2011) Cancer Discov 1(2):144-157)中皮の排除を開始することができなかった(示されていない)ことも認められた。同系卵巣癌マウスモデル(Roby et al. (2000) Carcinogenesis 21(4):585-591)を用いたin vivo研究は、マウスの嚢内に移植したKRT14
KO卵巣癌細胞は腫瘍を確立できず(
図3)、KRT14
KO細胞を移植したマウスは腹部膨満または他のいずれの症状も生じなかったことを示した。
【0168】
実施例6
遊走細胞はKRT14発現の上昇を示す
(i)原発腫瘍組織;(ii)腹水由来HGSC細胞;および(iii)良性細胞;(iv)組織学的に正常な卵巣;および(v)標的腹膜細胞層LP9単独(各群n=3)を含む臨床検体からの遊走細胞においてKRT14 mRNA発現を測定した。総ての悪性細胞はアッセイ開始時にKRT14を発現し、良性線維腫、正常卵巣またはLP9中皮細胞では発現は検出されなかった。細胞株と一致して、遊走細胞は悪性サンプル(すなわち、腫瘍組織または腹水由来)でのみ検出され、良性腹水、正常対照から単離された細胞またはLP9細胞単独は浸潤することができなかった。KRT14発現は、原発腫瘍サンプルでは、遊走前サンプルに比べて、下方チャンバーに遊走した浸潤細胞において有意に高密度であり、腹水由来卵巣癌細胞集団が最高レベルのKRT14 mRNAを示した。これらのデータを合わせると、KRT14は細胞生存率または増殖に影響を及ぼさないが、in vitroにおいて遊走癌細胞サブセットの浸潤能を維持するために特に必要とされ、
活発に浸潤している細胞では有意に高密度であることを示す。
【0169】
実施例7
KRT14はスフェロイドのアセンブリおよび中皮への接着に影響を及ぼすHGSC細胞の亜集団に限定される
KRT14の存在量および卵巣癌細胞(不死化および初代腹水由来の両方)における局在を免疫染色により決定した。単層培養において、KRT14は少数の単独細胞に限定されたが、低接着条件下で培養したスフェロイドは、もっぱらスフェロイド外縁に局在したKRT14免疫染色を示した。抗N-カドヘリン抗体はスフェロイド全体に効果的に浸透したことから、内部KRT14染色が存在しないのは、スフェロイドから抗体が閉め出されているためではなかった。KRT14KOおよびKRT14過剰発現(KRT14OE)株を調べることによって、in vitroにおけるスフェロイド形成にKRT14発現が必要とされるかどうかを評価した。野生型OVCAR4細胞および非標的CRISPR対照でトランスフェクトされた細胞は、低接着培養12時間後にスフェロイドを形成し、対照的に、KRT14ノックアウト細胞は12時間後も主として分散したままであった。しかしながら、長期インキュベーション(48時間)は、対照に匹敵するサイズおよび形態のスフェロイドの形成をもたらした。これに対して、KRT14OE株は、速やかに高密度でコンパクトなスフェアを形成し、12時間の培養期間の後に元のスフェアからの目に見える成長を明らかに示した。非処理対照に比べて、KRT14KOスフェロイドは、in vitroにおいて中皮単層に対する接着能が有意に低下していた。
【0170】
実施例8
KRT14+細胞は浸潤突起の形成および中皮の排除をもたらす
中皮単層上に植え込んだ場合、野生型HGSCスフェロイドは24時間以内に成長、中皮の排除および広範囲の付着および遊走を示した。K14を過剰発現する細胞は速やかに分散し、中皮層に取って代わり、対照的に、KRT14KO細胞は中皮単層を破壊することができなかった。マトリックスタイプが浸潤に影響を及ぼすかどうかを調べるために、スフェロイド(細胞株および腹水由来HGSC細胞の両方)をマトリゲルまたはコラーゲン-Iマトリックスのいずれかに包埋し、浸潤突起の成長を経時的に監視した。コラーゲンIマトリックスでは12時間後に野生型スフェロイドからKRT14+浸潤突起が出現したが、マトリゲルでは明らかになるまでに48~72時間(細胞種に依存)を要した。免疫染色は、KRT14+細胞は特に浸潤突起に局在することを示し、非浸潤性スフェロイドコア細胞はKRT14-表現型を維持していた。このことは単層掻爬アッセイで確認され、ここでは、KRT14+細胞は特に創傷閉鎖領域に局在した。それらの浸潤能の欠損と一致して、KRT14KO細胞は、いずれのマトリックスでも目に見える浸潤突起を形成することはできなかった。これらのデータを合わせると、KRT14の発現は活発に浸潤している細胞の特徴であること、およびその欠損は、腫瘍成長中にスフェロイドが中皮に取って代わり拡散する能力を有意に妨げることが示唆される。
【0171】
実施例9
KRT14は腫瘍病期に関連し、卵巣癌患者の無増悪生存の負の予測因子となる
KRT14の発現の臨床的関連を確立するために、卵巣癌の複数の組織学的サブタイプ、グレードおよび病期、ならびに正常卵巣および卵管切片を含んでなる組織マイクロアレイ(n=292)をKRT14の存在量および局在に関して染色した。KRT14の発現は一般に、正常卵巣組織(5%、1/20)または卵管組織(0%、0/8)では検出されなかったが、検討した総ての卵巣癌サブタイプによって普遍的に発現された。染色は腫瘍上皮に局在し、間質組織におけるKRT14の証拠はほとんどなかった。特に、KRT14は、HGSC組織の100%に検出され、正常卵巣に比べて有意に上昇していた(p=0.0362、テューキーの事後検定を用いる対応のないt検定)。
【0172】
次に、15の公開卵巣癌データセット(http://www.cbioportal.org/) [Lanczky et al. (2016) 前掲]において、KRT14の発現と患者の予後の間の潜在的関係を問い合わせた。高いKRT14発現は無増悪生存期間(PFS)の短縮と関連があり(HR1.17;95%CI1.03~1.33 P<0.015)、特に、初期段階(病期I~II)の疾患を有すると診断された患者で関連があった(HR 1.96;95%CI1.08~3.56 P<0.025)。高いKRT14発現はまた、白金およびタキソールに基づく化学療法後のPFSの短縮とも関連があり(HR1.27;95%CI1.07~1.51 P<0.006)、最適な腫瘍減量後のPFSの負の予測因子であった(HR1.24;95%CI1.03~1.5 P<0.026)。よって、KRT14に軽度の欠失を有する患者は、化学療法に対する感受性がより高くなり、一次療法に対する応答の改善を示した。よって、KRT14の発現は、高悪性度漿液性卵巣癌を有する患者の予後の独立した予測因子である。
【0173】
実施例10
マウスへの移植
KRT14
KO細胞を移植したマウスにおいて、剖検において腫瘍の定着、または蛍光腫瘍細胞でさえ検出されなかったが、このことは、腫瘍が移植できなかったことだけでなく、その後、術後に排除されたことを示唆する(
図3)。無傷細胞のフローサイトメトリーおよび免疫細胞化学染色を用い、KRT14のN末端が細胞表面に露出していることを見出した(
図4)。他の研究と一致して(Papafotiou et al. (2016) 前掲; Rock et al. (2009) 前掲)、KRT14+細胞は、腫瘍細胞集団のあるサブセットだけを表した(
図4A)。KRT14のN末端またはC末端のいずれかに対するポリクローナル抗体を用い、N末端に対する抗体がin vitroにおいて浸潤を妨げることができ、KRT14遺伝子ノックアウトの効果を模倣することが確認された(
図4B)。抗C末端抗体は、KRT14のC末端領域の十分に確立された細胞内局在と一致して、浸潤に影響を及ぼさなかった(
図4B)。外的に加えた全長組換えKRT14タンパク質は抗体結合に関して競合することができ、in vitroにおいて浸潤を回復させた(resprted)(
図4B)。よって、浸潤能の欠損は直接的にKRT14の抗体の結合によるものであった。さらに、この効果は、KRT14のN末端への抗体結合によって媒介され、このN末端は、抗体結合に接近可能な細胞の外側に露出していた。
【0174】
実施例11
抗原性および疎水性プロット
in silicoでKRT14の最初の200個のアミノ酸を調べるために抗原性および疎水性プロットを用いた(
図5A)。5つの潜在的に抗原性の領域を推定し、これらの領域を包含する6つのペプチドを、さらなる競合アッセイで使用するために合成した。ペプチド#4および#5によるN末端抗体のブロックは、in vitroにおいて卵巣癌細胞の浸潤(
図5B)および遊走(
図5C)を回復させた。ペプチド1、2、3および6は、使用するポリクローナル抗体により認識されるにもかかわらず、完全な浸潤能および/または遊走能を回復させることはできなかった。抗体およびペプチド競合アッセイに基づき、KRT14タンパク質の表面露出領域は、アミノ配列NH2-GFGGGYGGGLGAGLGGGFGGGFAGGDGL(配列番号1)内に定義された。このアミノ酸配列が、無傷の細胞においてKRT14のN末端を標的とするモノクローナル抗体の産生を目的にマウスを免疫するために使用された。
【0175】
実施例12
KRT14の抗血清
in vitroにおいてブロッキングされる癌細胞浸潤の能力に関して、指定されたKRT14エピトープを含有するタンパク質フラグメントに対して本発明者らが作製した自家製マウス抗血清AN-17 O20023を評価するために、機能的試験が使用される。
【0176】
リアルタイム浸潤アッセイを、xCELLigenceリアルタイム細胞分析(RTCA)DP 6ウェル装置(ACEA Biosciences)を用いて行った。卵巣癌細胞(SKOV3)を無血清培地(SFM)でのインキュベーションによりGo期に同調させ、マトリゲルマトリックス(SFM中1:10;BD Biosciences、サンノゼ、CA)でコーティングしたCIM-16ウェルプレートの上のチャンバーに播種した(4×104細胞/ウェル)。10%v/v FBSを含有する培地を下のチャンバーに化学遊走物質として添加した。マウスAN-17 O20023由来の抗血清(SFMで1:100希釈)、対照血清またはKRT14に対する市販のポリクローナル抗体((Sigma SAB4501657;SFM中1μg/ml)を上のチャンバーに加え、24時間、15分毎に浸潤の測定を行った。アッセイの完了時に細胞生存率をアラマーブルー染色により評価した。総てのアッセイを3反復で行った。抗血清AN-17 O20023を、指定されたKRT14エピトープを含有するタンパク質フラグメントに対して作製した。
【0177】
非処理および血清単独対照ウェルでは、植え込み5時間以内に浸潤が見られた(
図6A)。市販のポリクローナル抗KRT14(Sigma SAB4501657;指定されたKRT14エピトープを認識し得る)で処理した細胞は、浸潤の阻害を示した。抗血清AN-17 O20023は、in vitroにおいて、精製された抗KRT14ポリクローナル抗体に対するものと同様の有効性で効果的に浸潤を遮断し(
図6A)、その効果的な標的認識を示した。エンドポイントにおいて非処理細胞と対照または抗血清処理細胞(
図6B)の間に生存率に関する有意差はなく、浸潤の欠如は増殖能の傷害によるものではなかったことが示唆される。
【0178】
抗血清AN-17 O20023は、in vitroにおいて卵巣癌細胞の浸潤能を、商業的に入手可能な製剤と同等の有効性で効果的に遮断した。この効果は増殖の傷害によるものではなく、従前に見られたように浸潤に特異的なものであった。この抗体は、進行中のリード化合物としての特性決定に好適である。
【0179】
実施例13
非卵巣癌細胞に対する効果
抗KRT14抗体を、それらが他の(非卵巣)固形腫瘍種に由来する癌細胞による浸潤を防ぐことができるかどうか試験するために使用した。
【0180】
in vitro創傷修復アッセイは、AN3CA子宮内膜癌およびSW620結腸直腸癌細胞株を用いて行った。細胞を12ウェルプレートにて完全培地中でコンフルエントに達するまで増殖させ、次いで、一晩、血清飢餓状態としてG0で同調させた。翌日、細胞培養培地を除去し、吸引を取り付けたピペットチップで擦過することにより細胞単層に創傷を形成した。PBSで穏やかに洗浄することにより非接着細胞を除去した。細胞を、完全増殖培地+/-市販KRT14抗体(1μg/ml)単独中で、または1μg/mlの競合ペプチドと組み合わせてインキュベートした。0~72時間の範囲で、定期的に位相差顕微鏡(Leica)下で創傷領域の画像を得た。創傷の閉鎖はAnalySIS LS Researchソフトウエア(Olympus)を用いて画像系で測定し、各日の創傷面積を求めた。各増殖条件で観察した少なくとも6か所の創傷領域で3回実験を繰り返し、16時間の収集点からのデータを示した。
【0181】
子宮内膜癌および結腸直腸癌細胞株は、培養16時間後に抗KRT14抗体の存在下で創傷治癒の障害を示した(
図7)。競合KRT14エピトープの存在下で、創傷治癒能は非処理対照で見られたレベルにまで回復した。
【0182】
抗KRT14抗体は、卵巣癌細胞で見られた阻害と同様に、結腸直腸癌および子宮内膜癌細胞株の遊走挙動を阻害した。競合アッセイから明らかなように、阻害は定義されたKRT14エピトープに特異的である。これらのデータは、抗体により媒介されるKRT14の阻害は複数の固形腫瘍種において浸潤を阻害する汎癌機構として働き得ることを示唆する。
【0183】
実施例14
抗体の異種間効果
抗ヒトKRT14抗体を、非ヒト卵巣癌細胞において浸潤を妨げるそれらの能力に関して評価した。
【0184】
実験は総て、マウスID8卵巣癌細胞株を用いて行った。リアルタイム浸潤アッセイ(実施例5の通り)およびin vitro創傷修復アッセイ(実施例6の通り)を記載のように行った。
【0185】
ヒトKRT14エピトープに特異的な抗KRT14抗体は、in vitroにおいてマウス癌細胞の遊走を効果的に遮断した(
図8A)。ペプチド競合アッセイ(実施例6に記載の通り)はこれらの細胞で遊走能を回復させ(
図8A)、KRT14エピトープに対する特異性を示す。
【0186】
リアルタイム浸潤アッセイにより、抗KRT14抗体がin vitroにおいてID8細胞の浸潤を、ヒト細胞株において見られたものと同等の有効性で遮断したことが確認された(
図8B)。
【0187】
KRT14の抗原エピトープは、複数の種の間で高い相同性(>80%)を示す。従って、このヒトエピトープに対する抗体は、in vitroにおいて、非ヒトタンパク質に効果的に結合して細胞の遊走および浸潤を阻害し得る。これらのデータは、抗KRT14療法が種にわたって適用可能であることを示唆する。
【0188】
実施例15
mAb AN-17はin vitroにおいて標準治療の化学療法と相乗作用する
本研究は、遊走および浸潤を損なうことが示されている(本明細書の他所に示される通り)モノクローナル抗体AN-17(mAb AN-17)により細胞表面抗原KRT14を標的化することが卵巣細胞を標準的な第1選択化学療法薬、シスプラチンに対して感受性とするかどうかを決定するために行った。
【0189】
リアルタイム細胞分析(RTCA)を従前に記載されているように(PMID:31443478;Bilandzic et al., Cancers (Basel). 2019; 11(9), E1228)、xCELLigence RTCA SP 96ウェル装置(ACEA Biosciences)を用いて行った。細胞株を無血清培地中で一晩のインキュベーションによりG
0で同調させ、0.5×10
3細胞/0.15ml/ウェルで播種した。24時間後、シスプラチン単独(1.25mg/ml)、mAb AN-17単独(1ug/ml)またはシスプラチンとmAb AN-17のいずれかの組合せを加えた。実験期間に15分毎にインピーダンスの読み取りを行った。mAb AN-17は、それぞれ配列番号2および4の核酸配列によりコードされた配列番号3の重鎖可変領域および配列番号5の軽鎖可変領域を含んでなる(
図21および22もまた参照)。
【0190】
15μg/mlまたは20μg/mlでの細胞のシスプラチン処理は完全な細胞死をもたらしたが、1.25μg/mlの用量は亜致死量であり、細胞は増殖し続けた(
図9)。従前に示したように、mAb AN-17単独は、細胞生存率または増殖に効果を及ぼさなかった。しかしながら、細胞の、mAb AN-17およびシスプラチンとの同時インキュベーションは、試験した総ての用量で化学療法に比べて細胞生存率および増殖を有意に低下させた(
図9)。最も顕著な効果は、シスプラチンが1.25μg/mlの亜致死用量で使用された場合に認められ、mAb AN-17との同時インキュベーションは、約50時間後に、12倍多いシスプラチン用量単独と同様に完全細胞死をもたらした(
図9)。よって、mAb AN-17は、in vitroにおける標準的な白金化学療法に対して細胞感受性を少なくとも10倍高める働きをする。
【0191】
実施例16
mAb AN-17は、約10,000抗原のパネルに対して検出可能な交差反応性を示す
mAb AN-17がタンパク質抗原のパネルに対して交差反応性を示すかどうかを確認するための以下の実験を行った。
【0192】
mAb AN-17抗体反応性のプロテオミクスプロファイリングを、2反復でスポットした9,184の各組換えヒトタンパク質を含んでなるInvitrogen(商標)ProtoArray(商標)ヒトタンパク質マイクロアレイv5.0(ThermoFisher Scientific、ウォルサム MA)を用いて行った。総ての手順を従前に記載したように行った(PMID:29141850; Wilson et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2018; 27(2):183-192)。アレイを、洗浄バッファーで1:500希釈したmAb AN-17を用いてプローブした。IgG重鎖および軽鎖に対する蛍光検出抗体は、Abcam(#ab150119 ヤギ抗マウスIgG H&L Alexa Fluor(登録商標)647、予備吸着)からのものであり、使用前に洗浄バッファーで2mg/mlに希釈した。検出抗体単独とともにインキュベートした単一のアレイを非特異的抗体結合の対照として使用した。
【0193】
アレイイメージングは、635nm励起レーザーおよびデュアルバンドパスCy3/Cy5フィルターを用い、記載されているように(PMID: 29141850; Wilson et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2018; 27(2):183-192)Fuji FLA5100マルチ波長スキャナーを使用して行った。画像は、1000VでPMTセットを用いて、10μm分解能で取得した。アレイアラインメント、特徴の抽出およびデータの正規化は、従前に記載されているように行った(PMID: 29141850; Wilson et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2018; 27(2):183-192)。アレイ座標は、生産者が提供するダウンロード可能なGALファイル(Thermo Fisher Scientific;(http://www.lifetechnologies.com/au/en/home/life-science/protein-expression-and-analysis/biomarker-discovery/protoarray/resources/lot-specific-information.html)か入手した。
【0194】
mAb AN-17または二次抗体単独との抗原反応性を示す各アレイ画像は、
図10に示す。対照アレイとmAb AN-1処理アレイの間に有意差は無く、mAb AN-17は供試アレイ上に存在するタンパク質のいずれとも反応なかったことが示唆される。
【0195】
これらのデータは、in vitroにおけるその標的抗原(KRT14)に対するmAb AN-17の高い特異性を示す。mAB AN-17は、いくつかの関連のケラチンタンパク質を含む、アレイ上に存在する抗原のいずれとも反応せず、よって、mAb AN-17はその標的抗原と高い親和性を示す。
【0196】
実施例17
mAb AN-17はウエスタンブロット法によりKRT14を検出する
全長組換えKRT14タンパク質(Abcam #ab73637)の1μgアリコートをSDS PAGEにより分離し、標準法(PMID:23952987)を用いてPVDF膜に転写した。この膜を1:1000、1:5000および1:10,000の希釈率のmAb AN-17でプローブした。二次抗体は、ヤギ抗マウスHRPコンジュゲート(1:50,000希釈)であり、標準プロトコール(PMID: 23952987; Rainczuk et al., J Proteome Res. 2013; 12(9):4074-88)に従って化学発光を用いてKRT14を検出した。
【0197】
全長KRT14タンパク質は、一次抗体としてmAb AN-17を用い、ウエスタンブロット法により上手く検出された(
図11)。複数の希釈液から強いシグナルが得られた。
【0198】
実施例18
mAb AN-17はフローサイトメトリーによりKRT14+リーダー細胞および循環腫瘍細胞を識別する
フローサイトメトリーを標準プロトコール(PMID:30602661)に従って行い、データはBD LSRFortessa X-20(BD Biosciences)を用いて取得し、FlowJoソフトウエアv10.5.0(BD Biosciences)を用いて分析した。KRT14+細胞集団に関して評価したサンプルは、OVCAR3、CAOV4、ID8マウス卵巣癌細胞、臨床検体(#3.1937-07と呼称)から得られた腹水由来卵巣癌細胞および上皮卵巣腫瘍を担持する12週齢のマウスからの心血液を含んだ。細胞株については、細胞株当たり1×106細胞を、mAb AN-17(1:200希釈)または陽性対照としての市販の抗KRT14ポリクローナル抗体(Sigma SAB4501657;1:50希釈)とともに、室温、非免疫血清中で45分間インキュベートした。二次抗体、ヤギ抗マウスAlexa647(mAb AN-17)またはヤギ抗ウサギIgG Alexa 488(市販のAb)を1:500希釈し、30分間インキュベートした。血液サンプルについては、2×106細胞をAlexa Fluor(登録商標)488コンジュゲートmAb AN-17抗体とともに45分間インキュベートした。PBS洗浄後、細胞をPBS/2%FBSに再懸濁させ、データはBD LSRFortessa X-20(BD Biosciences)フローサイトメーターを用いて取得した。
【0199】
KRT14を発現する細胞をフローサイトメトリーにより検出し、細胞株(ヒト-OVCAR4、CAOV4;マウス-ID8)および臨床的に得られた卵巣癌細胞(3:19367-03)において、市販のポリクローナル抗体Sigma SAB4501657(
図12)と比較して、mAb AN-17を用いた場合も同等の検出であった。
【0200】
細胞外KRT14の発現はまた、循環腫瘍細胞(CTC)集団もマークする。従前にPMID:30602661(Wilson et al. Cancers (Basel). 2018; 11(1), E32)に記載されているようにマウス卵巣癌モデルを用い、CTCは、近赤外線蛍光団iRFP720を強制的に発現する。卵巣癌を有するマウスからの全血をプローブするためにmAb AN-17を使用し、KRT14+iRFP+細胞に関してフローサイトメトリーにより分析した。mAB AN-17は全血からiRFP+細胞を正しく識別することができ、CTCを識別および捕捉するためのその有用性を示す。
【0201】
mAb AN-17は、フローサイトメトリーにより、市販の抗KRT14ポリクローナル抗体(Sigma SAB4501657)に匹敵する感受性でKRT14+細胞を識別した。さらに、mAb AN-17は、ID8 iRFP720+上皮卵巣腫瘍を担持するマウスから、フローサイトメトリーによりKRT14+ CTCを検出および単離することができた。よって、mAb AN-17などの抗KRT14結合剤は、CTCの捕捉および分析を含む診断および/または予後試験における使用に可能性を有する。これらのデータはまた、mAb AN-17などの抗KRT14結合剤は、in vivoにおいてこれらの細胞を治療的に標的とするために使用可能であることも示した。
【0202】
実施例19
mAb AN-17は、免疫蛍光染色によりKRT14+細胞を検出する
卵巣癌細胞株SKOV-3、Ovcar4およびCov362.3は、96ウェルブラックフルオルトラックイメージングプレートに播種した。無傷細胞または固定細胞(1%パラホルムアルデヒド;PFA)および透過処理細胞(0.1%Triton X)をmAb AN-17で染色した。固定細胞の場合、サンプルを10%ウシ胎仔血清(FBS)でブロッキングした後、室温で1時間、1μg/ml mAb AN-17で染色した。その後、室温で1時間、細胞をPBSで洗浄し、1:2000のAlexa Fluor(登録商標)-647ヤギ抗マウス二次抗体で染色した。無傷細胞の場合、サンプルを 1%FBSを含有するPBS中、Alexa-647にコンジュゲートした1μg/mlのmAb AN-17で37℃にて2時間染色し、培地を新鮮なPBS/1%FBSで置換し、すぐに細胞の画像を得た。サンプルの画像はCytation 3マルチモードリーダーを用いて倍率4倍で得た。
【0203】
mAb AN-17の特異的細胞内細胞質局在は、透過処理を施した卵巣癌細胞株サンプルで見られた(
図14)。無傷の生細胞において、mAb AN-17の所定の細胞表面局在を観察した。
【0204】
これらのデータは、mAb AN17が細胞において免疫蛍光によりKRT14に関して染色するために効果的に使用可能であることを示す。染色は、生きた無傷細胞と固定透過処理細胞の両方で有効である。
【0205】
実施例20
mAb AN-17は癌組織切片において免疫組織化学染色によりKRT14+細胞を検出する
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルに対する免疫組織化学法は、標準プロトコール(PMID:31443478;Bilandzic et al., Cancers (Basel). 2019; 11(9), E1228)を用いて行った。mAb AN-17の有効性をある濃度範囲(2μg/ml~0.25μg/ml)で試験し、一晩のインキュベーションの後に、市販の抗KRT14抗体(Sigma SAB4501657、1:100希釈)およびマウスIgG対照と比較した。記載のように二次抗体とのインキュベーションの後、抗体結合および局在を、Vectastain Elite ABCキットを産生者(Vector Laboratories、バーリンゲーム、CA、USA)の説明書に従って用い、褐色沈澱として可視化した。
【0206】
mAb A-17を用いて染色した組織は、市販の抗KRT14ポリクローナル抗体(Sigma SAB4501657)と同一の局在を示し、染色は腫瘍上皮に特異的に見られた(
図15)。間質組織に染色の証拠はほとんど見られず、マウスIgG対照に対する染色は見られなかった。シグナル存在量は、市販のポリクローナル抗体(Sigma SAB4501657)と比較した場合、拡散が少なかった。
【0207】
これらのデータは、mAb AN-17が腫瘍組織切片においてKRT14を局在させるために効果的に使用可能であることを示す。
【0208】
実施例21
mAb AN-17はin vivoにおいて検出可能な急性毒性を持たない
卵巣腫瘍の誘導;従前に記載されているように(PMID:30602661; Wilson et al. Cancers (Basel). 2018; 11(1), E32)、マウスID8卵巣腫瘍細胞をC57BL/6マウスの嚢内に移植し、原発腫瘍を約4週間発達させた。
【0209】
mAb AN-17毒性の評価;マウス(n=2/用量/時点)に腹腔内注射により単一用量のmAb AN-17またはアイソタイプ適合対照IgGκ抗体(Ultra-LEAF(商標)精製マウスIgG1、κアイソタイプCtrl、Biolegend #401411)を施した後、最大7日間、毒性に関する臨床徴候を監視した。0.5、1.0、2.5、5.0および10mg/kgの用量を評価した。7日後、マウスを犠牲にし、毒性の証拠(顕微鏡的組織外観、炎症の存在、または明らかな病変)に関して死後検査した。
【0210】
総てのマウス(腫瘍および非腫瘍)の試験期間の毒性作用(注射後の初期反応、苦痛の徴候)の証拠、および死後の毒性の証拠(上記の通り)を評価した。いずれの時点でも、またはいずれの供試用量でも、注目される毒性作用の証拠は無かった。
【0211】
実施例22
mAb AN-17はin vivoにおいて腫瘍組織に特異的に局在し、健常組織には保持されない
mAb AN-17またはアイソタイプ適合対照IgGκ抗体(Ultra-LEAF(商標)精製マウスIgG1、κアイソタイプCtrl、Biolegend #401411)を、製造者の説明書に従い、1:10比のALEXA647またはALEXA750蛍光色素(Thermo Fischer Scientific)で標識した。マウス(n=2/群)に、腹腔内注射(100μl)により0.5、1.0、2.5、5.0または10.0mg/kgのALEXA標識mAb AN-17またはアイソタイプ対照IgGκ(上記の通り)を施した。対照マウスにはビヒクル(PBS)単独を施した。注射後4時間~7日の時点でマウスを犠牲にし、選択された組織(肝臓、腎臓、脾臓、腸、卵巣+卵管/卵巣腫瘍(該当する場合)、脳、心臓、肺)を採取した。組織分布およびクリアランスを、IVIS Lumina IIIイメージングシステム(Perkin Elmer)を用いてALEXA647またはALEXA750蛍光により評価した。明視野(自動露出)および蛍光イメージング(ALEXA647 ex640、em670;またはALEXA750 ex740、em790nm)。スペクトルのアンミキシングおよび画像解析は、従前に記載されているように行った(PMID: 30602661; Wilson et al., Cancers (Basel). 2018 Dec 31;11(1), E32)。各ケースで、ビヒクル処置動物からのバックグラウンド平均放射効率を蛍光測定値から減算し、得られたデータを比較のためにプロットした。
【0212】
単一用量の0.5mg/kgの投与の後に、7日間にわたって健常組織(卵巣腫瘍を持たないマウスを使用)におけるmAb AN-17の局在を非標的アイソタイプ対照抗体と比較した。各場合において、死後検出を補助するために、抗体を蛍光標識した。抗体会合蛍光は腸、生殖器官、肝臓、腎臓、脾臓、肺および心臓で見られ、脳では蛍光は検出されなかった(
図16)。しかしながら、AN-17とアイソタイプ対照IgGκ抗体の間に有意差はなく、調べた健常組織のいずれにおいてもmAb AN-17の特異的蓄積は示されなかった。さらに、7日までに、各抗体は総ての器官から大部分クリアランスされており(蛍光シグナルの欠如により判断)、mAb AN-17は長時間保持されなかったことが示唆される(
図16)。
【0213】
抗体クリアランスは、低用量で7日までに完了したと思われるので、健常組織からのmAb AN-17のクリアランスは、同様に複数の漸増用量(0.5mg/kg~10mg/kg)で評価した。最高用量(10mg/kg)であっても、mAb AN-17は、総ての器官で7日後に視覚的に検出不能であり、一般に、対照抗体よりも低いレベルで存在した(
図17)。これらのデータは、mAb AN-17が健常組織において非選択的蓄積または保持を示さないことを示唆する。
【0214】
次に、mAb AN-17の分布を、原発卵巣腫瘍を有するマウスにおいて、5mg/kgおよび10mg/kgの単一用量を用いて評価した。評価は7日間行った。投与後24時間に、mAb AN-17は腫瘍組織に強い局在を示した(
図18)。健常組織とは異なり、mAb AN-17は腫瘍組織に持続し、7日後であってもなお検出可能であった(
図18)。より高い蛍光収量がまず10mg/kg用量を施したマウスに見られたが、注射後3日までに、用量に関わらず同等レベルのmAb AN-17が検出され、腫瘍は5mg/kg用量で飽和していた可能性があることが示唆される。さらに、腫瘍組織におけるmAb AN-17検出の初期レベルは、腫瘍を持っていなかったマウスの生殖管において検出されたものよりも2桁高かった(
図18:パネルA、B、Cを比較)。
【0215】
これらのデータは、mAb AN-17が腫瘍組織に特異的であり、投与後少なくとも1週間、腫瘍部位に持続することを示す。
【0216】
本明細書に示されたデータは、mAb AN-17がその標的(KRT14)に対する高い特異性、最小の標的外効果および非標的組織における低い保持を示す。健常な非腫瘍担持マウスでは、mAb AN-17は健常器官における特異的保持を示さず、急速にクリアランスされると思われた。対照的に、mAb AN-17は卵巣腫瘍と会合して特異的に検出され、それはそこに少なくとも1週間持続した。いずれの用量またはいずれの時点においても注目される毒性はなく、このmAb AN-17の高い特異性は、注射した際に有利な安全性プロファイルを付与することが示唆される。さらに、最大耐用量には達しなかった。よって、mAb AN-17は、良好な安全性プロファイルおよび腫瘍組織に対する高いin vivo特異性を有する。
【0217】
実施例23
mAb AN-17処置はin vivoにおいて確立された卵巣腫瘍を上手く退縮する
これらの試験の目的は、mAb AN-17が同系マウスモデルにおいて確立された原発悪性腫瘍のモデルで腫瘍進行に影響を与えるように使用可能であるかどうか確認することであった。
【0218】
従前に記載されているように(PMID:30602661)、マウスID8卵巣腫瘍細胞をC57BL/6マウスの嚢内に移植し、原発腫瘍を約4週間発達させた。原発腫瘍(n=10/群)を有するマウスに、3週間、週2回の腹腔内注射により5mg/kgでmAb AN-17を施した。対照動物には等用量のアイソタイプ適合対照IgGκ抗体(対照群1)または等容量のビヒクル(PBS)単独(対照群2)を施した。3週間の週2回の処置(月曜および木曜)の後、総てのマウスを犠牲にし、腫瘍のサイズおよび重量を評価した。2個体のさらなる非腫瘍担持動物を非手術対照として使用した。
【0219】
mAb AN-17の週2回投与は、従前に単一用量試験(上記)により示されるように、動物に観察可能な有害作用を及ぼさなかった。3週間の継続的処置の後に、総てのマウスを犠牲にし、腫瘍サイズに対するmAb AN-17投与の影響を評価した。ビヒクル単独で処置したマウス(対照群2)では、6/10の動物(60%)が原発卵巣腫瘍を有し(
図19)、同様に、アイソタイプ対照抗体で処置した6/10個体(60%)のマウス(対照群1)もまた原発腫瘍を有し、この非標的抗体は腫瘍進行に影響を及ぼさなかったことを示す。
【0220】
mAb AN-17を施したマウスを分析した際、右卵巣(移植部位)の内部または表面にもそれらの動物の他所にも腫瘍は特定できなかった(
図19)。さらに、これらのマウスから抽出した卵巣は健常と思われ、非処理、非外科術対照との観察可能な形態学的差違はなかった。
【0221】
mAb AN-17によるマウスの処置は、3週間後に検出不能なレベルにまで、確立された原発卵巣腫瘍の完全な退縮をもたらした。処置期間中に注目される有害作用はなく、mAb AN-17の投与が、in vivoにおいて確立された固形腫瘍を治療するための安全かつ高効率の治療アプローチであることを示唆する。
【0222】
実施例24
mAb AN-17は複数の癌細胞において遊走および浸潤を遮断する
上記に概略を示した試験は、卵巣癌、結腸直腸癌および子宮内膜癌細胞株において、mAb AN-17による細胞遊走および浸潤の抗体特異的阻害を示した。他の癌細胞種の遊走および浸潤に対するmAb AN-17の効果を調べるために以下の試験を行った。
【0223】
in vitro創傷修復アッセイを以下の癌細胞株で行った:BT16非定型奇形腫様ラブドイド(脳)癌、NCI-H1573肺腺癌、SJ-GBM2原発多形性膠芽腫、AN3CA子宮内膜癌、SW620結腸直腸癌およびMDA-MB-468乳癌。細胞を12ウェルプレートにて完全培地中、コンフルエントに達するまで増殖させ、その後、一晩、血清飢餓状態としてG0で同調させた。翌日、細胞培養培地を除去し、吸引を取り付けたピペットチップで擦過することにより細胞単層に創傷を形成した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で穏やかに洗浄することにより非接着細胞を除去し、mAb AN-17(1μg/ml)の不在下または存在下、各ウェルに完全増殖培地を加えた。0~24時間、毎時間、創傷領域の画像を得た。創傷の閉鎖はAnalySIS LS Researchソフトウエア(Olympus)を用いて画像系で測定して各日の創傷面積を求めた。実験は、各増殖条件で観察した少なくとも6か所の創傷領域で3回実験を繰り返した。
【0224】
図23に示されるように、in vitro創傷修復アッセイを用いて刺激した場合、非処理細胞は、16時間後に遊走し、創傷を閉鎖することができた。対照的に、mAb AN-17で処理した総ての細胞株は、同じ条件下で創傷を閉鎖することができなかった。これらのデータは、結腸直腸癌、子宮内膜癌および複数の卵巣癌細胞株において同様の効果を示す従前のデータと相応に、mAb AN-17が癌細胞の細胞遊走および浸潤を阻害することを示す。
【0225】
これらのデータは、KRT14のアンタゴニストが、少なくとも卵巣癌細胞、子宮内膜癌細胞、脳癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞を含む複数の癌細胞種の遊走挙動を阻害することを示す。これらの癌種の異なる性質は、mAb AN-17などのKRT14のアンタゴニストが癌細胞において保存性の高い経路を標的とし、従って、複数の腫瘍種の診断、予後および治療に適用可能であることを示唆する。
【0226】
当業者は、本明細書に記載される開示が、具体的に記載されるもの以外の変形および改変を許容することを認識するであろう。本開示はこのような総ての変形および改変を企図すると理解されるべきである。本開示はまた、本明細書に個々にまたは集合的に言及されるまたは示される工程、特徴、組成物および化合物の総て、ならびにこれらの工程または特徴または組成物または化合物の任意の2つ以上のありとあらゆる組合せを可能とする。
【0227】
【配列表】
【国際調査報告】