IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウの特許一覧

<>
  • 特表-ガラス基板の強度を高める方法 図1
  • 特表-ガラス基板の強度を高める方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(54)【発明の名称】ガラス基板の強度を高める方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
C03C23/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547675
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(85)【翻訳文提出日】2021-08-13
(86)【国際出願番号】 EP2020053725
(87)【国際公開番号】W WO2020165325
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】102019103947.9
(32)【優先日】2019-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102019134818.8
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マヌエラ ユングヘーネル
(72)【発明者】
【氏名】ヤスパー ヴェストファーレン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス プロイスナー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィープケ ヴァルター
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB19
4G059AC16
(57)【要約】
本発明は、板状または帯状のガラス基板(11;21)の強度を高める方法に関する。ガラス基板(11;21)に、180nm~1100nmの波長範囲の電磁放射の少なくとも1つのパルスが照射され、少なくとも1つのパルスが少なくとも100nmの放射帯域幅を有し、ガラス基板が少なくとも1つのパルスの作用を受ける前に最大200℃の温度を有し、電磁放射の少なくとも1つのパルスのパルスエネルギ密度が0.1Jcm-2~100Jcm-2の範囲に設定されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状または帯状のガラス基板(11;21)の強度を高める方法において、
前記ガラス基板(11;21)に、180nm~1100nmの波長範囲の電磁放射の少なくとも1つのパルスが照射され、前記少なくとも1つのパルスが少なくとも100nmの放射帯域幅を有し、前記ガラス基板が、前記少なくとも1つのパルスの作用を受ける前に最大200℃の温度を有し、前記電磁放射の前記少なくとも1つのパルスのパルスエネルギ密度が、0.1Jcm-2~100Jcm-2の範囲に設定されている
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
ガラス基板(11;21)として、アルカリ含有珪酸塩ガラスまたはホウ珪酸ガラスが用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
最大で24mmの厚さを有するガラス基板(11;21)が用いられる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記電磁放射がガス放電ランプ(15;25)により生成される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記電磁放射がキセノン閃光ランプ(15;25)により生成される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記電磁放射がレーザー装置を用いて生成される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記電磁放射の前記少なくとも1つのパルスの持続時間が0.2ms~100msの範囲において設定される、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス基板の背後に、かつ/または前記電磁放射の前記少なくとも1つのパルスを生成するための装置の背後に、前記電磁放射に対する反射器(26)が配置される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に板状または帯状に形成されたガラス基板の強度を高める方法に関する。
【0002】
例えば、建設業、自動車製造、および太陽光発電用途において、対応する製品の長寿命を図るために、高い強度を有するガラス基板が求められる。
【0003】
例えばガラス板またはガラス瓶などのガラス品の強度は、主に表面の品質によって定まる。ガラスの表面に例えば微細亀裂または擦痕などの欠陥が少ないほど、ガラス品の達成可能な強度は高まる。
【0004】
ガラス物品の表面を加工して、これによりガラス物品の欠陥密度を低減するための、または強度を高めるための様々な手段が存在する。例えば、溶融塩中にガラス物品を浸漬させ、その際にガラス表面からのナトリウムイオンをカリウムイオンと交換する、化学的な拡散駆動交換プロセスが知られている。ナトリウムイオンの代わりに、より大きなカリウムイオンを取り込むことにより、表面層内に圧縮応力が生じ、これによりガラスの強度が高まる。この手法により、500MPaの領域のガラス強度を達成することができる。この場合、拡散駆動交換プロセスにはきわめて長い時間がかかり、24時間までのプロセス時間が必要となるという欠点がある。また、ここでのプロセスに用いられる溶融塩の精製および回収に要する時間および費用はきわめて大きくなる。
【0005】
欧州特許出願公開第2319814号明細書には、イオン交換を行うために、ガラス製品をその上方冷却温度を超える温度で溶融塩に浸漬させることが提案されている。このようにすることで、交換プロセスを時間的に短縮することができる。しかし、この手法でも、使用する溶融塩の調整に時間および費用がかかるという欠点が残る。
【0006】
さらに、ガラス基板を、変態温度を超える温度へ加熱し、続けて急激に冷却する、ガラスの焼き戻しのための熱的方法も知られている(独国特許出願公開第2049719号明細書)。この場合、ガラス表面のガラスネットワークは膨張した状態で冷却されるが、ガラスのコア部分は収縮することになる。表面とコアとで膨張係数が異なるため、ガラスの表面には圧縮応力が発生し、これが強度を高めるように作用する。ガラス基板は、気体状、液体状、または固体状の媒体で急冷することができる。この手法の欠点は、例えば化学的焼き戻しに比べて達成可能な強度が低いことである。この手法では、硫化ニッケル核が制御されない状態でランダムに発生し、その結果、再結晶化によって後にガラスの自然破壊に至る可能性がある。ガラス基板を薄く形成するほど、より高い温度勾配および冷却速度が要求され、そのため、この手法は、いまだ3mm未満のガラス厚さには適していない。
【0007】
ガラス基板の強度は、さらに、例えば独国特許出願公開第102010033041号明細書に記載されているように、ガラス表面を機械的に研磨することによって高めることができる。また、バーナーの炎によりガラス基板を加熱することで、ガラス基板から揮発性成分を蒸発させ(欧州特許出願公開第2204354号明細書)、同時にガラスの微細亀裂を修復することによって、ガラスの強度を高めうることが知られている。この方法の欠点は、ガラスの蒸発成分が、ガラス品の加熱された部分近傍のより低温の領域において析出することである。また、ガラスが炎に直接に接触することで、局所的な過熱が発生することもある。さらに、ガラスを平面的に処理する場合は、複雑なバーナー技術および冷却技術が要求される。大面積のガラス基板を処理する際には大量の排ガスが発生するため、この排ガスをプロセス空間から排出させて浄化する必要もある。
【0008】
よって、本発明の基礎とする技術的課題は、先行技術の欠点を克服することのできる、ガラス基板の強度を高めるための方法を提供することにある。また特に、本発明による方法によれば、厚さが3mm未満の薄肉のガラス基板の強度を高めることも可能となる。
【0009】
当該技術的課題の解決手段は、請求項1の特徴を有する対象によって提供される。本発明の有利な別の実施形態は、各従属請求項から得られる。
【0010】
驚くべきことに、板状または帯状のガラス基板に閃光を照射すると、ガラス基板の強度が増すことがわかった。したがって、板状または帯状のガラス基板の強度を高めるための本発明による方法によれば、180nm~1100nmの波長範囲の電磁放射の少なくとも1つのパルスが、ガラス基板に照射される。ガラス基板に対する閃光の作用により、ガラス基板の表面領域において局所的な温度上昇が発生する。これにより、揮発性成分がガラス基板から脱出し、このときにガラス基板の微細亀裂も修復されると考えることができ、強度向上はこれに基づくものでありうる。
【0011】
本発明による方法により、板状および帯状のガラス基板の強度を、曲げ荷重に対して50%超、向上させることが可能となる。本発明による方法では、ガラス基板として、例えば、アルカリ含有珪酸塩ガラスまたはホウ珪酸ガラスを用いることができる。
【0012】
本発明による方法は、大面積の板状および帯状の、基板厚さが薄いガラス基板に特に適している。特に薄いガラスの場合、このために必要なガラス基板へのエネルギ入力を発生させるには、少なくとも100nmの放射帯域幅を有する閃光パルスが本発明による方法に適している。この場合、基板厚さが3mm未満のガラス基板も処理することができる。一実施形態において、最大で24mmの厚さのガラス基板が用いられる。
【0013】
本発明による方法に必要な電磁放射は、例えば、ガス放電ランプを用いて生成することができる。この目的には、例えばキセノン閃光ランプが適している。キセノン閃光ランプは、通常、約180nm~1100nmの波長範囲の電磁放射を生成し、当該キセノン閃光ランプの閃光パルスは約920nmの放射帯域幅を有する。したがって、キセノン閃光ランプは、特にガラス厚さが3mm未満のガラスを本発明により硬化させることにも適している。
【0014】
板状または帯状のガラス基板への少なくとも1つの閃光パルスによる照射は、静的なプロセスとしても、また閃光発生装置と処理すべきガラス基板とが互いに相対的な速度を有する動的なプロセスとしても、実施することができる。
【0015】
本発明による方法は、比較的少ないコストでガラス基板の製造工程に組み込むことができ、例えばガラス製造の直後に続けて行うことができる。また、本発明による方法における環境条件は、様々に設定可能である。本発明による方法は、例えば、大気圧条件下、真空状態、または保護ガスの存在下で実施することができる。本発明による方法が真空室内で実施される場合、真空室内の真空を維持するためのポンプを同時に用いて、ガラス基板から脱出する揮発性成分を真空室から排出することができる。また、処理すべきガラス基板が真空室内に配置されている場合に本発明による方法を実施する際には、同様に、少なくとも1つの閃光パルスを発生させる装置が真空室の内側または外側のいずれに配置されていてもよく、有利である。閃光パルス発生装置は、例えば、真空室の外側で、真空室壁内の窓の前に配置することができ、窓を通して真空室内のガラス基板に少なくとも1つの閃光パルスを照射することができる。
【0016】
多くの用途において、ガラス基板は、少なくとも1つの閃光パルスの作用を受ける前に、室温に相当する温度を有していれば十分である。しかし、少なくとも1つの閃光パルスの作用を受ける前に、ガラス基板を最大で200℃の温度まで加熱しておいてもよく、これにより、少なくとも1つの閃光パルスによってガラス基板に導入すべきエネルギ量を低減することができる。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの閃光パルスの持続時間は、0.2ms~100msの範囲において設定される。
【0018】
本発明による方法において重要なパラメータは、少なくとも1つの閃光パルスのパルスエネルギ密度である。パルスエネルギ密度が過度に低く選定されると、ガラス基板の強度が高くならない。パルスエネルギ密度が高すぎると、ガラス基板が溶融することがあり、これにより、ガラス基板の強度が低下し、または極端な場合はガラス基板が破損することもある。したがって、本発明による方法において、少なくとも1つの閃光パルスのパルスエネルギ密度は、0.1Jcm-2~100Jcm-2の範囲に設定される。ガラス基板の強度を高めるうえで特に良好な結果が得られたのは、少なくとも1つの閃光パルスのパルスエネルギ密度を1Jcm-2~50Jcm-2の範囲に設定した場合であった。
【0019】
本発明の別の実施形態によれば、ガラス基板の背後に、かつ/または電磁放射の少なくとも1つの閃光パルスを生成するための装置の背後に、電磁放射に対する反射器が配置される。
【0020】
以下、実施例を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による方法を実施するのに適した装置の概略図である。
図2】本発明による方法を実施するのに適した別の装置の概略図である。
【0022】
図1に示す装置により、帯状のガラス基板11の強度が高められる。この目的のために、帯状のガラス基板11は、大気条件下で第1のローラ12から繰り出され、基板支持体13上を案内されて、第2のローラ14に巻き取られる。帯状のガラス基板が基板支持体13上を案内されるとき、帯状のガラス基板11に、キセノン閃光ランプとして形成されたガス放電ランプ15の電磁放射が照射される。ここで説明している実施例では、帯状のガラス基板11の送り速度とガス放電ランプ15の閃光の持続時間とは、ガス放電ランプ15の実質的に1つのみの閃光の電磁放射が帯状のガラス基板11の各表面領域に照射されるように互いに調整されている。ただし、代替的に、帯状のガラス基板11の送り速度とガス放電ランプ15の閃光の持続時間とは、ガス放電ランプ15の複数の閃光の電磁放射が帯状ガラス基板11の各表面領域に照射されるように互いに調整されていてもよい。帯状のガラス基板11に閃光が照射されると、ガラス基板の表面領域に局所的な温度上昇が生じ、これにより揮発性成分がガラス基板から放出されて、ガラス基板の微細亀裂も修復されると考えることができ、その結果、帯状のガラス基板の強度が高まる。
【0023】
図2は、アルカリ土類アルカリ珪酸塩ガラスからなるガラス厚さ3mmの板状のガラス基板21の強度を高めるための代替的な装置を概略的に示す。真空室22内には、ガラス基板21が基板支持体23上に配置されている。真空室22の壁内の石英ガラス窓24の前には、キセノン閃光ランプとして形成されたガス放電ランプ25が配置されている。ガス放電ランプ25は、石英ガラス窓24を透過した後、ガラス基板21に入射する電磁放射パルスを生成する。図2を参照して説明している実施例において、各ガラス基板21には、ガス放電ランプ25の1つのみの閃光パルスの電磁放射が照射される。ただし、代替的に、ガラス基板21に、ガス放電ランプ25の複数の閃光パルスが照射されてもよく、この場合、ガラス基板21の隣接する、または相重なる、異なる表面領域にガス放電ランプ25の1つまたは複数の閃光パルスが照射されてよい。
【0024】
したがって、別の代替的な実施形態においては、まず、ガラス基板21の表面の1つの部分領域のみにガス放電ランプ25の1つまたは複数の閃光パルスが照射され、その後、ガラス基板21および/またはガス放電ランプ25の位置変更が行われ、続いて、ガラス基板21の表面の別の部分領域にガス放電ランプ25の1つまたは複数の閃光パルスが照射される。
【0025】
図2に示す装置は、さらに、ガラス基板21に対してガス放電ランプ25の背後に配置される反射器26を含み、この反射器26は、ガス放電ランプ25によって生成されてガラス基板21の方向へ照射される電磁放射の割合を増大させる。
【0026】
使用されるガラス基板21の種類および厚さによっては、所望の強度向上を実現するために、ガラス基板21の片面だけにガス放電ランプ25の電磁放射が照射されれば十分な場合もある。ただし、少なくとも1つの閃光パルスを、まずガラス基板21の一方の面に、次にガラス基板21の他方の面に照射してもよい。さらに、ガラス基板内の電磁放射の光路を延長して効果を増幅するために、基板支持体23を、ガス放電ランプ25によって生成された電磁放射に対する反射器として形成してもよい。
【0027】
図2に示す試験用システムを用いて、複数のガラス基板21に、それぞれ、ガス放電ランプ25の異なるパルスエネルギ密度を有する単一の閃光パルスを照射した。なお、ここでは、常に少なくとも30枚のガラス基板に同じパルスエネルギ密度を印加した後、強度試験を行い、各パルスエネルギ密度値に対して、1バッチのガラス基板21の強度の平均値を求めた。基板21の強度試験は、DIN EN 1288-5:2000-09に準拠したダブルリング曲げ試験により行った。以下の表は一連の試験の結果を示すものであり、第1の列は、それぞれのガラス基板21に対してガス放電ランプ25から放出された閃光パルスのパルスエネルギ密度値をJ/cmで示しており、第2の列は、対応するバッチについてガラス基板21において特定されたその強度に対する中央値をMPaで示している。
【0028】
【表1】
【0029】
表から、本発明による方法により処理されたガラス基板21が、未処理のガラス基板21に比して少なくとも30%高い強度を有することが見て取れる。
【0030】
なお、本実施例において挙げたガラスの種類、ガラスの厚さ、および動作パラメータは単に例示であり、本発明の範囲を限定するものではないことをここで述べておく。
図1
図2
【国際調査報告】