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特表2022-520494高血圧又は心不全を処置するための化合物及びそれらを含む組成物
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  • 特表-高血圧又は心不全を処置するための化合物及びそれらを含む組成物 図1
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  • 特表-高血圧又は心不全を処置するための化合物及びそれらを含む組成物 図3a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(54)【発明の名称】高血圧又は心不全を処置するための化合物及びそれらを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/66 20060101AFI20220323BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220323BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220323BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C07C323/66 CSP
A61P9/12
A61P9/00
A61P9/04
A61P27/02
A61P13/12
A61P9/10
A61P9/14
A61P13/02
A61P3/10
A61P27/06
A61P25/00
A61P25/28
A61K31/198
A61P43/00 123
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021554368
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(85)【翻訳文提出日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2020056483
(87)【国際公開番号】W WO2020182870
(87)【国際公開日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】19305286.7
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521180441
【氏名又は名称】クワンタム・ゲノミクス
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】519226908
【氏名又は名称】コレージュ・ド・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス・バラボワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーヌ・コンペール
(72)【発明者】
【氏名】マチルド・ケック
(72)【発明者】
【氏名】ヤニック・マルク
(72)【発明者】
【氏名】カトリーヌ・ロレンス-コルテス
(72)【発明者】
【氏名】ソレーヌ・ウ・ボアタール
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206JA08
4C206JA61
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA33
4C206MA36
4C206MA37
4C206MA42
4C206MA43
4C206MA48
4C206MA51
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA61
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA78
4C206MA79
4C206MA80
4C206MA83
4C206MA86
4C206NA14
4C206NA15
4C206ZA01
4C206ZA15
4C206ZA33
4C206ZA36
4C206ZA37
4C206ZA40
4C206ZA42
4C206ZA81
4C206ZC35
4H006AA01
4H006AB20
(57)【要約】
本発明は、化合物、それを含む組成物、該化合物を調製する方法、及び治療におけるこれらの化合物の使用に関する。特に、本発明は、原発性及び続発性動脈高血圧症、発作、心筋虚血、心臓及び腎臓機能不全、心筋梗塞、末梢血管疾患、糖尿病性タンパク尿、X症候群及び緑内障の処置及び予防に有用な化合物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】
を有する、より具体的には以下の式(II):
【化2】
を有する化合物
(式中、
AHは-CO2H、-SO3H、-PO3H2を表し;
mは1、2又は3であり;
R1及びR2は、H、C1~6アルキル、C2~6アルケニル又はC2~6アルキニル基を独立に表し、各アルキル、アルケニル又はアルキニル基は、アリール、複素環、シクロアルキル、O-アリール、O-アリールアルキル又はO-シクロアルキル基から選択される基の少なくとも1つにより任意選択で置換されており;前記アリール、複素環、シクロアルキル、O-アリール、O-アリールアルキル、O-シクロアルキル基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、アシル基、O-シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、O-アリール基、O-アリールアルキル基、アリール基、複素環基又はアリールアルキル基から選択される1個又は複数の基により任意選択で置換されている);
それらの薬学的塩、溶媒和物、双性イオン形態又は任意のプロドラッグ。
【請求項2】
R1及びR2が、H又はC1~6アルキルを独立に表し、各アルキル基は、アリール、複素環又はシクロアルキル基から選択される基の少なくとも1つにより任意選択で置換されており;前記アリール、複素環、シクロアルキル基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、アシル基、O-シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、O-アリール基、O-アリールアルキル基、アリール基、複素環基又はアリールアルキル基から選択される1個又は複数の基により任意選択で置換されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R1及びR2が両方ともHであるか、或いは、R1はHであり、R2はベンジル又はフェネチル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
化合物が、一般式(I)、より具体的には式(II)に対応し、式中、以下の特徴:
- mが2若しくは3であること;及び/又は
- AHがCO2H若しくはSO3Hであること;及び/又は
- R1がHであること;及び/又は
- R2が、H若しくはアルキル、好ましくは、フェニル基により置換されたアルキルであること
の1、2、3又は4つが満たされ、好ましくは各特徴が満たされる、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
化合物が、一般式(I)、より具体的には式(II)に対応し、式中、以下の特徴:
- mが2であること;及び/又は
- AHがSO3Hであること;及び/又は
- R1及びR2が両方ともHであるか、或いは、R1がHであり、R2がフェネチル基であること
の1、2又は3つが満たされ、好ましくは各特徴が満たされる、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
(2R)-2-アミノ-3-{[(2S)-2-アミノ-4-スルホブチル]ジスルファニル}プロピオン酸、
(2R)-2-アミノ-3-{[(3S,4S)-4-アミノ-1-フェニル-6-スルホヘキサン-3-イル]ジスルファニル}プロピオン酸及びそれらの薬学的塩、溶媒和物、双性イオン形態又は任意のプロドラッグ
からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
医薬としての使用のための、請求項1から6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1種の化合物を、好ましくは薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物。
【請求項9】
動脈高血圧症及び直接又は間接的に関係する疾患の処置における使用のための、請求項1から6のいずれか一項に記載の化合物又は請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
心臓疾患、心不全、脳卒中、末梢及び/又は大脳血管系疾患、脳、眼及び/又は腎臓の疾患からなる群において選択される動脈高血圧症に直接又は間接的に関係する障害の処置における使用のための、請求項9に記載の使用のための化合物又は組成物。
【請求項11】
原発性及び/又は続発性動脈高血圧症、発作、心筋虚血、心臓機能不全、腎臓機能不全、心筋梗塞、末梢血管疾患、糖尿病性タンパク尿、X症候群、緑内障、神経変性疾患及び記憶障害からなる群において選択される障害の処置における使用のための、請求項9に記載の使用のための化合物又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、それを含む組成物、該化合物を調製する方法、及び治療におけるこの化合物の使用に関する。特に、本発明は、原発性及び続発性動脈高血圧症、発作、心筋虚血、心臓及び腎臓機能不全、心筋梗塞、末梢血管疾患、糖尿病性タンパク尿、X症候群及び緑内障の処置及び予防に有用な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
本態性高血圧(HTN)及び心不全(HF)は、心臓血管疾患における2つの主要な病状である。HTNは、世界中でおよそ10億人の個人に影響を及ぼしている。それは、冠動脈心疾患、HF、脳卒中及び腎臓機能不全の主要なリスク要因である。有効で安全な薬物の有効性にもかかわらず、HTN及びその付随するリスク要因は、多くの患者で制御されていないままである。HFは、西洋の国々における65歳を超える患者について依然として入院の主要な原因である。HFは、工業国において千人中1から5に影響し、全ての年齢を考慮に入れて、千人中3から20人の有病率である。多くの薬物が利用可能であるにもかかわらず、1年生存は、全てのステージを考慮に入れて約65%であるから、HFの予後は良くない。HFは、依然として心臓血管死の第1の原因の1つであり、その結果として、新規な効率的で安全なクラスの薬物を開発することにはまだ満たされていない医学的必要性がある。
【0003】
全身的レニン-アンジオテンシン系(RAS)は、血圧(BP)調節及びナトリウム代謝において中心的役割を果たすことが公知である。アンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害剤及びアンジオテンシン-II受容体タイプ1(AT1)アンタゴニスト等のRASを標的とする全身的薬物は、BPを低下させること、及び患者における心臓血管及び腎臓の病的状態及び死を予防することに臨床的に有効である。更に、レニン-アンジオテンシンアルドステロン系(RAAS)の活性は、HFを有する患者で上昇しており、その適応不良の機構は、心臓の構造変化及び交感神経の活性化等の有害な効果をもたらし得る。最新の証拠に基づくガイドラインIAで、駆出分率の低下したHFのために薦められる医薬は、主としてACE阻害剤又はAT1受容体遮断薬及びベータ-アドレナリン作用性の受容体遮断剤のようなRAAS作用分子である。
【0004】
心臓血管機能及び体液のホメオスタシスを制御する機能性RASは、脳にも存在する。幾つかの研究は、脳RASの上昇した活性は、交感神経のニューロン活性及びバソプレシン放出における増大を生じさせること、及び脳RASの活性亢進は、HTNの種々の動物モデルで高BPを媒介すること、並びにHFの動物モデルで心臓の構造変化及び機能障害に非常に重要な役割を果たすことを示唆する(Marc Y、Llorens-Cortes、C Progress in Neurobiology 2011、95、pp 89-103; Westcott KV et al、Can. J. Physiol. Pharmacol. 2009、87、pp 979-988)。最近の証拠は、アンジオテンシンIII(Ang III)が、AT1受容体に対するその作用を通して、BPの中枢制御のための脳RASの真のペプチドエフェクターであり得ることを支持するので、脳においてアンジオテンシンII(Ang II)からAng IIIを発生させる脳アミノペプチダーゼA(APA)酵素は、HTNの処置及びHFの処置のための有望な治療薬の目標となる。
【0005】
アミノペプチダーゼA(APA、EC3.4.11.7)は、脳中におけるAngIIのAngIIIへの変換を担当する酵素として特徴づけられた、膜に結合した亜鉛メタロプロテアーゼである(Zini S et al、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1996、93、pp 11968-11973)。これまでに、数種のAPA阻害剤が開発されている(Chauvel EN et al、J. Med. Chem. 1994、37、pp 1339-1346; Chauvel EN et al、J. Med. Chem. 1994、37、pp 2950-2957; David C et al、J. Med. Chem. 1999、42、pp 5197-5211; Georgiadis D et al、Biochemistry 2000、39、pp1152-1155; Inguimbert N et al、J. Peptide Res. 2005、65、pp 175-188)。それらの中で、EC33((3S)-3-アミノ-4-チオール-ブチルスルホネート)が、特異的及び選択的APA阻害剤として報告された。EC33の中枢点滴が、脳APA活性を阻害して、Ang IIの脳室内(icv)点滴に対する昇圧応答を遮蔽して、数匹の高血圧症の実験モデルでBPを低下させることが見出された(Fournie-Zaluski MC et al Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2004、101、pp 7775-7780)。
【0006】
意識のある高血圧のDOCA-塩ラット及びRB150のSHRラット(firibastatとしても公知である)(15から150mg/kg)における短期の経口投与で、EC33の脳に浸透するプロドラッグは、用量依存性のBP低下を誘発することが更に示された(Bodineau L et al、Hypertension 2008、51、pp 1318-1325; Marc Y et al、Hypertension 2012、60、pp 411-418)。興味深いことに、RB150は、第1に、バソプレシン放出を減少させ、水性利尿及びナトリウム排泄を増大させ、それにより血液体積を減少させてBPを制御値に低下させることにより、第2に、交感神経の感受性を低下させて、それにより血管抵抗を低下させて、その結果としてBPを低下させることにより、DOCA塩ラット及びSHRにおけるBPを低下させることが見出された。RB150、及びACE阻害剤、エナラプリルの長期経口投与は、心筋梗塞(MI)後のHFを有するラットで観察される心臓の機能障害を阻止することに同様に有効であることも報告された(Boitard S et al, Journal of Molecular and Cellular Cardiology 2019, 127, pp215-222)。RB150は、経口投与後に脳に進入することができて、脳のAPA活性を遮断し、高血圧のラットにおけるBPを正常化して、ラットにおけるMIに続く心臓の機能障害を予防して、脳APAの阻害剤は、HTN及びHFの処置のための中枢に作用する新しいクラスの薬剤となることを示唆する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際出願WO99/36066号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Marc Y、Llorens-Cortes、C Progress in Neurobiology 2011、95、pp 89-103;
【非特許文献2】Westcott KV et al、Can. J. Physiol. Pharmacol. 2009、87、pp 979-988
【非特許文献3】Zini S et al、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1996、93、pp 11968-11973
【非特許文献4】Chauvel EN et al、J. Med. Chem. 1994、37、pp 1339-1346
【非特許文献5】Chauvel EN et al、J. Med. Chem. 1994、37、pp 2950-2957
【非特許文献6】David C et al、J. Med. Chem. 1999、42、pp 5197-5211
【非特許文献7】Georgiadis D et al、Biochemistry 2000、39、pp1152-1155
【非特許文献8】Inguimbert N et al、J. Peptide Res. 2005、65、pp 175-188
【非特許文献9】Fournie-Zaluski MC et al Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2004、101、pp 7775-7780
【非特許文献10】Bodineau L et al、Hypertension 2008、51、pp 1318-1325
【非特許文献11】Marc Y et al、Hypertension 2012、60、pp 411-418
【非特許文献12】Boitard S et al, Journal of Molecular and Cellular Cardiology 2019, 127, pp215-222
【非特許文献13】T. Higuchi及びV. Stella、「Pro-drugs as Novel Delivery system」、Vol.14、A.C.S Symposium Series、American Chemical Society(1975)
【非特許文献14】「Bioreversible Carriers in Grug Design: Theroy and Application」、edited by E.B.Roche、Pergamon Press: New York、14~21(1987)
【非特許文献15】Stereochemistry of Carbon Compounds、E. L. Eliel (Mcgraw Hill、1962)
【非特許文献16】Tables of Resolving Agents、S. H. Wilen
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、強い脳APA阻害剤としてインビボで作用し、その関係で動脈高血圧を低下させることに有効であり得、動脈高血圧症、及び心不全等の、それが間接及び直接的に一因となる疾患の処置に効用を有することができる新規化合物を、現在特定した。前記化合物は、満足なバイオアベイラビリティ及び薬物動態パラメーターも示し、そのことが前記化合物を経口又は非経口的投与の優れた候補にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、以下の式(I):
【化1】
を有する、より具体的には、以下の式(II):
【化2】
を有する化合物
(式中、
AHは、-CO2H、-SO3H、-PO3H2を表し;
mは1、2又は3であり;
R1及びR2は、H、C1~6アルキル、C2~6アルケニル又はC2~6アルキニル基を独立に表し、各アルキル、アルケニル又はアルキニル基は、アリール、複素環、シクロアルキル、O-アリール、O-アリールアルキル又はO-シクロアルキル基から選択される基の少なくとも1つにより任意選択で置換されており;前記アリール、複素環、シクロアルキル、O-アリール、O-アリールアルキル、O-シクロアルキル基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、アシル基、O-シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、O-アリール基、O-アリールアルキル基、アリール基、複素環基又はアリールアルキル基から選択される1個又は複数の基により任意選択で置換されている);
それらの薬学的塩、溶媒和物、双性イオン形態又は任意のプロドラッグを提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、式(I)、より具体的には式(II)の前記化合物を含む組成物を開示する。該組成物は、より詳細には医薬組成物である。したがって、本発明は、少なくとも1種の本発明の化合物を、好ましくは薬学的に許容される希釈剤又は担体と共に含む医薬組成物を提供する。
【0012】
別の態様によれば、本発明は、治療有効量の本発明の化合物の投与を含む、動脈高血圧症及び間接的に及び直接関係する疾患の予防又は処置のための方法に関する。別の態様において、本発明は、治療又は医薬において、活性医薬成分として、特に、ヒトの医薬において、より具体的には動脈高血圧症及び間接的に及び直接関係する疾患又は障害の処置のために使用するための本発明の化合物を提供する。
【0013】
別の態様において、本発明は、動脈高血圧症並びに間接的に及び直接関係する疾患又は障害を処置するための医薬を製造するための本発明の化合物の使用を提供する。
【0014】
別の態様において、本発明は、治療有効量の本発明の化合物の投与を含む、動脈高血圧症及び間接的に及び直接関係する疾患を患う患者を処置する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の静脈内(i.v.)投与(50mg/kg)後のマウス脳APAエクスビボ活性の阻害を記載する図である。
図2】実施例2の経口(p.o.)投与(8mg/kg)後における高血圧のラット脳APAエクスビボ活性の阻害を記載する図である。
図3a】実施例2のp.o.投与(8mg/kg)の、高血圧ラットにおける血圧及び心拍数に対する効果を示す図である。
図3b】実施例2のp.o.投与(8mg/kg)の、高血圧ラットにおける血圧及び心拍数に対する効果を示す図である。
図4】マウスにおけるMIの4週間後におけるフィリバスタット、ラミプリル、又は実施例2の長期経口投与の左心室の駆出分率(LVEF)に対する効果を示す図である。値はn=9からn=15の平均±SEMとして表される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、本発明は、以下の式(I):
【化3】
を有する、より具体的には、以下の式(II):
【化4】
を有する化合物
(式中、
AHは、-CO2H、-SO3H、-PO3H2を表し;
mは1、2又は3であり;
R1及びR2は、H、C1~6アルキル、C2~6アルケニル又はC2~6アルキニル基を独立に表し、各アルキル、アルケニル又はアルキニル基は、アリール、複素環、シクロアルキル、O-アリール、O-アリールアルキル又はO-シクロアルキル基から選択される基の少なくとも1つにより任意選択で置換されており;前記アリール、複素環、シクロアルキル、O-アリール、O-アリールアルキル、O-シクロアルキル基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、アシル基、O-シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、O-アリール基、O-アリールアルキル基、アリール基、複素環基又はアリールアルキル基から選択される1個又は複数の基により任意選択で置換されている)
に関する。
【0017】
本発明は、動脈高血圧症及び動脈高血圧症が直接又は間接的に一因となる疾患を予防又は処置する方法に使用するための、本発明による化合物を提供する。そのような疾患には、心臓、末梢及び大脳血管系、脳、眼及び腎臓の疾患が含まれる。特に、疾患には、原発性及び続発性動脈高血圧症、発作、心筋虚血、心臓又は腎臓機能不全、心筋梗塞、末梢血管疾患、糖尿病性タンパク尿、X症候群及び緑内障が含まれる。
【0018】
本明細書において使用する「本発明の化合物」は、上で記載された化合物又はそれらのプロドラッグ若しくはそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物若しくは任意の双性イオン形態を意味する。
【0019】
本発明の文脈内で、
用語「アルキル」又は「Alk」は、1価の又は2価の、直鎖状又は分岐した、1~6個の炭素原子を含む飽和炭化水素鎖、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、tert-ブチル-メチル、n-ペンチル、又はn-ヘキシル基等を意味する。好ましい実施形態において、「アルキル」は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はtert-ブチル、より好ましくはメチル又はエチル基である。
【0020】
用語「アルケニル」は、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含む不飽和の、直鎖状又は分岐した脂肪族基を指す。用語「(C2~C6)アルケニル」は、より具体的には、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、又はヘキセニル基を含む。
【0021】
用語「アルキニル」は、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を含む不飽和の、直鎖状又は分岐した脂肪族基を指す。用語「(C2~C6)アルキニル」は、より具体的には、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、イソペンチニル、又はヘキシニル基を含む。
【0022】
用語「アシル」は、Rが、前に規定されたアルキル基又はフェニル基である-C(O)R基を意味する。アシル基は、例えば、アセチル、エチルカルボニル、又はベンゾイル基を含む。
【0023】
用語「アルコキシ」又は「アルキルオキシ」は、Alkが上に規定されたアルキル基である-OAlk基を意味する。アルコキシ基は、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、又はtert-ブチルオキシ基を含む。
【0024】
用語「アリール」又は「Ar」は、4~10個の炭素原子を含む芳香族の単環式又は二環式系を意味し、二環式系の場合には、環の1つが芳香族であり、他の環が芳香族又は不飽和であると理解される。アリール基は、例えば、フェニル、ナフチル、インデニル、又はベンゾシクロブテニル基、好ましくはフェニル基を含む。
【0025】
用語「アリールアルキル」は、Alkが前に規定されたアルキル基を表し、Arが前に規定されたアリール基を表す-Alk-Ar基を意味する。
【0026】
用語「シクロアルキル」は、3~12個の炭素原子を含む、飽和した単環式又は多環式系、例えば、融合した又は架橋された二環式系等、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル、デカリニル、又はノルボルニル基等を意味する。
【0027】
用語「O-シクロアルキル」は、酸素原子を通して分子の残部と接続した前に規定されたシクロアルキル基を意味する。O-シクロアルキルは、例えば、O-シクロペンチル又はO-シクロヘキシル基を含む。
【0028】
用語「O-アリール」は、酸素原子を通して分子の残部と接続した前に規定されたアリール基を意味する。O-アリールは、例えば、O-フェニル基を含む。
【0029】
用語「O-アリールアルキル」は、酸素原子を通して分子の残部と接続した前に規定されたアリールアルキル基を意味する。O-アリールアルキルは、例えば、O-ベンジル基を含む。
【0030】
用語「ハロアルキル」は、1~6個の炭素原子を含み、1個又は複数の、とりわけ1~6個のハロゲン原子で置換された直鎖状又は分岐した飽和炭化水素鎖、例えば、トリフルオロメチル又は2,2,2-トリフルオロエチル基等を意味する。
【0031】
用語「ハロアルコキシ」は、1~6個の炭素原子を含み、1個又は複数の、とりわけ1~6個のハロゲン原子で置換された直鎖状又は分岐した飽和炭化水素鎖を意味し、前記鎖は、酸素原子を通して化合物に接続しており、例えば、トリフルオロメトキシ又は2,2,2-トリフルオロエトキシ基等である。
【0032】
用語「複素環」は、1個又は2個のオキソ(=O)又はチオキソ(=S)基を含有する可能性のある、酸素、イオウ及び窒素から選択される同一の又は異なる1~4個のヘテロ原子を含む、飽和した、不飽和の又は芳香族の、融合した、スピロ融合した又は架橋された、3~12員の単環式又は二環式系を意味し、二環式系の場合には、環の1つは芳香族であってもよく、他の環は、芳香族、飽和又は不飽和であると理解される。複素環は、例えば、ピペリジル、ピペラジル、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピラジジニル、ベンゾフリル、ベンゾチエニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキシニル、ベンゾ[1,2,5]チアジアゾリル、ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾリル、[1,2,3]トリアゾリル、又は[1,2,4]トリアゾリル基を含む。
【0033】
用語「ヘテロアルキル」は、1から5個の炭素原子及び少なくとも1個又は2個のヘテロ原子、例えば、イオウ、窒素又は酸素原子等を含む直鎖状又は分岐した飽和炭化水素鎖を意味する。ヘテロアルキルは、例えば、-O(CH2)2OCH3又は-(CH2)2OCH3基を含む。
【0034】
用語「ハロゲン原子」は、フッ素、臭素、塩素又はヨウ素原子を意味する。
【0035】
用語「保護基(protective group)」又は「保護基(protection group)」は、化学反応が、別の保護されていない反応性部位で選択的に実施され得るように、多官能性化合物中の反応性部位を選択的に遮断する基を意味し、その意味は、従来、合成化学において後者と関連する。
【0036】
本発明において、用語「薬学的に許容される」は、生物学的に又はその他で、一般的に安全な、無毒性で且つ望ましくないことがなく、獣医学の又はヒトの医薬で使用するために一般的に受け入れられている医薬組成物の調製に使用され得ることを指す。
【0037】
本発明の化合物の「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的に許容される無機若しくは有機酸又は塩基並びに第四級アンモニウム塩から形成される従来の塩を含む。適当な酸塩のより特定の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ギ酸、乳酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、パルモ酸、マロン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ヒドロキシナフト酸、ヨウ化水素酸、リンゴ酸、ステロ酸、タンニン酸その他の塩を含む。適当な塩基塩のより特定の例は、ナトリウム、リチウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン及びプロカイン塩を含む。
【0038】
例えば、好ましい塩の形態は塩酸塩を含む。
【0039】
用語「プロドラッグ」は、生理学的媒体との、とりわけ酵素反応による1種又は複数の自発的化学反応、光分解及び/又は代謝性反応によってインビボで発生する本発明の目的の化合物の化学的誘導体を意味する。存在する場合に、本発明の化合物のプロドラッグは、アミノペプチダーゼAの阻害剤と同定される化合物をインビボで発生する。
【0040】
プロドラッグは、特定の不安定な部分を有する官能基を誘導体化することにより得ることができる。酸官能基(ホスフィン酸、カルボン酸、スルホン酸又はホスホン酸等)を有するプロドラッグは、とりわけエステルを含み、アミン官能基を有するプロドラッグは、とりわけ[(2-メチルプロパノイル)オキシ]エトキシカルボニルを含む。
【0041】
他の例は、T. Higuchi及びV. Stella、「Pro-drugs as Novel Delivery system」、Vol.14、A.C.S Symposium Series、American Chemical Society(1975)及び「Bioreversible Carriers in Grug Design: Theroy and Application」、edited by E.B.Roche、Pergamon Press: New York、14~21(1987)に記載されている。
【0042】
本発明によれば、用語「異性体」は、本明細書で同定されたものと同一の分子式を有するが、それらの性質により又は原子の結合配列又は空間におけるそれらの原子配置が異なる本発明の化合物を指す。空間におけるそれらの原子配置が異なる異性体は、「立体異性体」により表示される。互いに鏡像でない立体異性体は、「ジアステレオ異性体」と表示され、互いに重ね合わされ得ない鏡像である立体異性体は、「鏡像異性体」又は「光学異性体」と表示される。「立体異性体」とはラセミ体、鏡像異性体及びジアステレオ異性体を指す。
【0043】
当業者は、立体中心が本発明の化合物に存在することを認識するであろう。本発明の化合物の任意のキラル中心は、(R)、(S)又はラセミ体であり得る。したがって、本発明は、式(I)の化合物の全ての可能な立体異性体及び幾何異性体を含み、ラセミ化合物だけでなく、光学活性異性体も同様に含む。好ましい実施形態によれば、本発明の化合物は、式(II)のものである。式(I)の化合物が単一の鏡像異性体として望まれる場合、それは、最終の生成物の分割によるか又は異性体として純粋な出発原料若しくは任意の適当な中間体のいずれかからの立体特異的合成によるかのいずれかで得ることができる。最終の生成物、中間体又は出発原料の分割は、当技術分野において公知の任意の適当な方法によって実行することができる。例えば、Stereochemistry of Carbon Compounds by E. L. Eliel (Mcgraw Hill、1962)及びTables of Resolving Agents by S. H. Wilenを参照されたい。
【0044】
当業者は、本発明の化合物が、少なくとも1個の正電荷及び1個の負電荷を含有することができ、その結果本発明の化合物は、それらの双性イオン形態を含むことを認識するであろう。化学において、両性イオン(内部塩とも呼ばれる)は、2つ以上の官能基を有する分子であり、分子の官能基の少なくとも1つは正の電荷を有し、1つは負の電荷を有し、異なる官能基の電荷が互いに均衡して、分子は全体として電気的に中性である。このことが起こるpHは、等電点として公知である。したがって、それらのプロドラッグを含む本発明の化合物の任意の双性イオン形態は、本発明の範囲内である。
【0045】
有機化学分野の専門家は、多くの有機化合物が、それらが溶媒中で反応するか又は沈殿して又は結晶化して溶媒と錯体を形成することができることを認識するであろう。これらの錯体は、「溶媒和物」として公知である。例えば、水との錯体は「水和物」として公知である。式(I)又は(II)の化合物の溶媒和物は、本発明の範囲内である。
【0046】
多くの有機化合物が、2種以上の結晶形で存在し得ることも、有機化学における専門家によって認識されているであろう。例えば、結晶形は、或る溶媒和物から別の溶媒和物へと変化し得る。したがって、全ての本発明の化合物又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物の結晶形は本発明の範囲内である。
【0047】
本発明による化合物に対する本明細書における言及は、式(I)又は(II)の化合物の両方及びそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物、双性イオン形態又はプロドラッグを含む。
【0048】
特定の実施形態によれば、本発明の化合物は、一般式(I)、より具体的には式(II)に対応し、式中、R1及びR2は、H又はC1~6アルキルを独立に表し、各アルキル基は、アリール、複素環又はシクロアルキル基から選択される基の少なくとも1つにより任意選択で置換されており;前記アリール、複素環、シクロアルキル基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、アシル基、O-シクロアルキル基、ヘテロアルキル基、O-アリール基、O-アリールアルキル基、アリール基、複素環基又はアリールアルキル基から選択される1個又は複数の基により任意選択で置換されている。
【0049】
別の特定の実施形態によれば、本発明の化合物は、一般式(I)、より具体的には式(II)に対応し、式中、R1及びR2は両方ともHであるか、或いは、R1はHであり、R2はベンジル(即ち、-CH2-フェニル)又はフェネチル基(即ち、-(CH2)2フェニル)である。
【0050】
好ましい実施形態によれば、本発明の化合物は、一般式(I)、より具体的には式(II)に対応し、式中、以下の特徴:
- mが2若しくは3であること;及び/又は
- AHがCO2H若しくはSO3Hであること;及び/又は
- R1がHであること;及び/又は
- R2が、H若しくはアルキル、好ましくは、フェニル基により置換されたアルキルであること
の1、2、3又は4つが満たされ、好ましくは各特徴が満たされる。
【0051】
より好ましい実施形態によれば、本発明の化合物は、一般式(I)、より具体的には式(II) に対応し、式中、以下の特徴:
- mが2であること;及び/又は
- AHがSO3Hであること;及び/又は
- R1及びR2が両方ともHであるか、或いは、R1がHであり、R2はフェネチル基(即ち、-(CH2)2フェニル)であること
の1、2、又は3つが満たされ、好ましくは各特徴が満たされる。
【0052】
特定の実施形態によれば、本発明の化合物は:
(2R)-2-アミノ-3-{[(2S)-2-アミノ-4-スルホブチル]ジスルファニル}プロピオン酸、
(2R)-2-アミノ-3-{[(3S,4S)-4-アミノ-1-フェニル-6-スルホヘキサン-3-イル]ジスルファニル}プロピオン酸及びそれらの薬学的塩、溶媒和物、双性イオン形態又は任意のプロドラッグ
からなる群から選択される。
【0053】
特定の実施形態によれば、本発明の化合物は、医薬として使用するためのものである。
【0054】
本発明の化合物は、医薬組成物の形態で便利に投与される。そのような組成物は、従来様式で、1種又は複数の生理学的に許容される担体又は賦形剤との混合物で便利に使用するために提供され得る。担体は、製剤の他の成分と適合性であり、それらを受ける対象者に有害でないという意味で「許容される」ものでなければならない。
【0055】
本発明の化合物は、未加工の化学物質として治療に投与することができることは実現可能であるが、有効成分を医薬製剤として提供することも可能である。
【0056】
したがって、本発明は、1種又は複数の薬学的に許容される担体、及び任意選択で、他の有効成分と共に本発明の化合物を含む医薬組成物を更に提供する。
【0057】
該医薬組成物は、経口、非経口(例えば、皮下注射により又はデポ錠剤、皮内、髄腔内、眼内、筋肉内、例えば、デポ及び静脈内によりを含む)、眼、直腸及び局所(真皮(即ち、皮膚に)、バッカル及び舌下を含む)で、又は吸入又は吹入による投与に適当な形態で適当なものを含むが、最も適当な経路は、例えば、受容者の状態及び障害に依存し得る。該組成物は、単位剤形で便利に提供することができ、製薬分野において周知の任意の方法によって調製することができる。全ての方法は、本発明の化合物を、任意選択で少なくとも1種の他の有効成分と、1種又は複数の付属の成分を構成する担体と合体させる工程を含む。一般的に、製剤は、均一に及び密に、有効成分を、液体担体又は微細に分割された固体担体と又は両方と合体させて、次に、必要であれば、生成物を所望の製剤に成形することにより調製される。
【0058】
経口投与のために適当な医薬組成物は、所定の量の有効成分を、散剤又は顆粒剤として、水性液体若しくは非水性液体中の溶液剤若しくは懸濁液剤として; 又は水中油液体エマルション剤若しくは油中水液体エマルション剤として各々含有するカプセル、カシェ剤又は錠剤(例えば、特に小児用投与のための噛むことができる錠剤)等の離散的単位として提供することができる。有効成分は、ボーラス、舐剤又はペーストとして提供することもできる。
【0059】
錠剤は、圧縮又は鋳型成型により、任意選択で1種又は複数の付属の成分と共に作製することができる。圧縮された錠剤は、適当な機械で、粉末又は顆粒等の自由に流動する形態にある有効成分を、任意選択で、他の従来の賦形剤、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、デンプン糊、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、スクロース、微結晶セルロース、トウモロコシ-デンプン、リン酸カルシウム又はソルビトール)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール又はシリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン又はナトリウムデンプングリコレート)又はラウリル硫酸ナトリウム等の湿潤剤等と混合して圧縮することにより調製することができる。鋳型成型された錠剤は、適当な機械で、不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末状化合物の混合物で鋳型成型することにより作製することができる。錠剤は、任意選択で、コートされても又は刻み目をつけられてもよく、その中の有効成分の遅延又は制御された放出を提供するように、製剤化することができる。錠剤は、当技術分野において周知の方法に従ってコートされてもよい。
【0060】
或いは、本発明の化合物は、経口液体調製物、例えば、水性又は油性の懸濁液剤、溶液剤、エマルション剤、及び例えば、シロップ剤又はエリキシル剤等に組み込むことができる。その上、これらの化合物を含有する医薬組成物(又は製剤)は、使用前に水又は他の適当なビヒクルで構成するための乾燥した製品として提供することができる。そのような液体調製物は、従来の添加剤、例えば、懸濁剤等、例えば、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、グルコース/糖シロップ、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル又は水素化された可食性脂肪; 乳化剤、例えば、レシチン、ソルビタンモノオレエート又はアラビアゴム、非水性ビヒクル(それは可食性油を含んでもよい)、例えば、アーモンド油、分画されたココナツ油、油性エステル、プロピレングリコール又はエチルアルコール等; 及び、p-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはプロピル又はソルビン酸等の防腐剤を含有することができる。これらの調製物は、例えば、ココアバター又は他のグリセリド等の従来坐薬賦形剤を含有する坐薬としても製剤化され得る。
【0061】
非経口的投与のための製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤及び意図される受容者の血液と等張の製剤を与える溶質を含有してもよい水性及び非水性滅菌注射溶液; 並びに懸濁剤及び増粘剤を含んでいてもよい水性及び非水性滅菌懸濁液剤を含む。製剤は、単位用量又は複数用量の容器、例えば、封じられたアンプル及びバイアルで提供することもでき、使用直前に、滅菌液体担体、例えば、注射用の水の添加だけが必要な凍結乾燥された(lyophilized)状態で貯蔵することもできる。即席の注射溶液及び懸濁液は、前に記載された種類の滅菌散剤、顆粒剤及び錠剤から調製することができる。
【0062】
直腸投与のための組成物は、ココアバター、硬質脂肪又はポリエチレングリコール等の通常の担体を用いて、坐薬として調製することができる。
【0063】
口で、例えば、バッカルで又は舌下に局所投与するための製剤は、ゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアラビアゴム等の賦形剤中に有効成分を含む香味料を含む賦形剤、例えば、スクロース及びアラビアゴム又はトラガカント、及びトローチ剤中に有効成分を含むロゼンジを含む。皮膚上に局所投与するために、化合物は、クリーム剤、ゲル剤、軟膏又はローション剤として又は経皮パッチとして製剤化され得る。眼投与のために、組成物は、液体溶液剤(点眼溶液剤等)、ゲル剤、クリーム剤又は任意のタイプの眼科組成物であり得る。
【0064】
化合物は、デポ調製物としても製剤化され得る。これらの長く作用する製剤は、埋め込みにより(例えば、皮下又は筋肉内に)又は筋肉内注射により投与され得る。したがって、例えば、該化合物は、適当なポリマー又は疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルションとして)又はイオン交換樹脂を用いて、又はやや溶けにくい誘導体として、例えば、やや溶けにくい塩として製剤化され得る。
【0065】
鼻内投与のためには、本発明の化合物を、例えば、液体スプレーとして、散剤として又は液滴の形態で使用することができる。
【0066】
吸入による投与のためには、本発明による化合物は、加圧された容器又はネブライザーから、適当な噴射剤、例えば、1,1,1,2-トリフルオロエタン(HFA134A)及び1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA227)、二酸化炭素又は他の適当なガスを使用して、エアロゾルスプレー調製物の形態で、便利に送達される。加圧されたエアロゾルの場合に厳密な投薬は、計量された量を送達するために適合されたバルブを備えることにより決定することができる。例えば、ゼラチンのカプセル及びカートリッジは、吸入器又は吹入器中で使用するために、本発明の化合物及びラクトース又はデンプン等の適当な粉末賦形剤の粉末混合物を含有するように製剤化することができる。
【0067】
上で特に言及した成分に加えて、製剤は、問題の製剤のタイプに関係を有する技術で従来の他の薬剤を含むことができ、例えば、経口投与のために適当なものは、香味剤を含むことができる。
【0068】
処置に対する本明細書における言及が、確立された疾患又は症状の防御並びに処置に拡張されることは、当業者により認識されるであろう。その上、処置で使用するために必要な本発明の化合物の量は、処置されている状態の性質並びに患者の年齢及び状態で変化するので、最終的には、付き添う医師又は獣医師の裁量によるであろうということは認識されるであろう。患者は、ヒト又は非ヒト哺乳類を含む任意の哺乳類であり得る。本発明は、より具体的にはヒト哺乳類、より具体的には成人を志向する。一般的に、成人のヒトの処置のために使用される用量は、典型的には、1日に0.02~5000mg、好ましくは1日に1~1500mgの範囲内であろう。所望の用量は、単一の用量で、又は例えば、1日当たり2、3、4又はそれを超える分割用量のように適当な間隔で投与される分割された用量として、便利に提供され得る。本発明による製剤は、0.1~99%の間の有効成分、便利には、錠剤及びカプセルについては30~95%及び液体調製物については3~50%を含有することができる。
【0069】
本発明で使用するための本発明の化合物は、1種又は複数の他の有効な治療剤、例えば、ベータ-アドレナリン作用性の受容体アンタゴニスト、カルシウムチャンネル遮断剤、チアジド利尿剤、アンジオテンシン受容体アンタゴニスト及びアンジオテンシン変換酵素阻害剤と共に使用することができる。したがって、本発明は、更なる態様で、動脈高血圧症の処置において、本発明の化合物と更なる治療剤とを含む組み合わせの使用を提供する。
【0070】
本発明の化合物が他の治療剤と共に使用される場合、該化合物は、順次又は同時のいずれかで任意の適当な経路により投与されてもよい。
【0071】
上で言及した併用は、医薬製剤の形態で使用するために適当に提供され得るので、薬学的に許容される担体又は賦形剤と最適に一緒にした上に規定された併用を含む医薬製剤は、本発明の更なる態様である。そのような併用の個々の構成要素は、順次又は同時のいずれかで、別々に又は組み合わされた医薬製剤で投与されてもよい。
【0072】
同じ製剤中に組み合わされる場合には、その2種の化合物が、安定で且つ及び製剤の他の構成要素と適合性でなければならず、投与のために製剤化され得ることは認識されるであろう。別々に製剤化される場合、それらは、当技術分野でそのような化合物のために公知の様式で適当に、任意の適当な製剤で提供することができる。
【0073】
本発明の化合物が、第2の治療剤の活性物質と共に同じ疾患に対して使用される場合、各化合物の用量は、該化合物が単独で使用される場合に投与される量と異なり得る。適当な用量は当業者により容易に決定されるであろう。
【0074】
別の態様では、本発明の対象は、動脈高血圧症及び直接及び間接的に関係する疾患の予防又は処置のための、治療有効量の本発明の化合物の投与を含む方法である。
【0075】
別の態様では、本発明は、治療薬で使用するために、特に獣医学又はヒトの医学で、本発明の化合物を提供する。
【0076】
本発明は、アミノペプチダーゼAに関する選択的阻害剤としての式(I)又は(II)の化合物の使用にも関する。
【0077】
別の態様では、本発明は、動脈高血圧症並びに直接及び間接的に関係する疾患の処置で使用するための医薬品を製造又は調製するための本発明の化合物の使用を提供する。
【0078】
別の態様では、本発明は、動脈高血圧症及び直接及び間接的に関係する疾患を患う患者を処置する方法であって、前記患者に治療有効量の本発明の化合物を投与することを含む方法を提供する。
【0079】
本発明は、動脈高血圧症及び動脈高血圧症が直接又は間接的に一因となる疾患の予防又は処置のための方法を提供する。これらの疾患は、心臓疾患、心不全、脳卒中、末梢及び/又は大脳血管系疾患、脳、眼及び腎臓の疾患を含む。特に、該疾患は、原発性及び続発性動脈高血圧症、発作、心筋虚血、心臓機能不全又は腎臓機能不全、心筋梗塞、末梢血管疾患、糖尿病性タンパク尿、X症候群、緑内障、神経変性疾患及び記憶障害を含む。
【0080】
式(I)又は好ましくは(II)の化合物は、数通りの方法によって調製することができる。出発製品は市販の製品であるか又は市販の化合物からの公知の合成により調製されるか若しくは当業者に公知の製品である。より具体的には、本発明の化合物を調製する方法は、下に記載されるようであり、したがって、以下の連続的工程を含む。
【0081】
式(I)の化合物は、中間体(V)から以下の方法:
【化5】
(式中、
R1、R2、m及びAHは、上で定義された通りであり、
X、Y及びZは、アミノ又は酸性官能基の保護基であり、,
Aは、-SO3W、-CO2W又は-P(O) (OW)2を表し、Wは、アルキル及びアリールアルキル基からなる群から選択される)
によって調製することができる。
【0082】
この合成経路によれば、中間体(V)は、塩基性条件下においてリチン試薬(LiOH.H2O)を用いて、例えば、メタノールと水の混合物中で加水分解されて、中間体(IV)に導かれる。中間体(IV)は、式(III)の化合物を提供するために保護されている式(VI)の2-アミノ-3-メルカプトプロピオン酸と反応することができる。次に、化合物(III)の脱保護は、アニソールの存在下でトリフルオロ酢酸の還流により起こることができて、式(I)の本発明の化合物の形成に至る。
【0083】
R1=R2=Hである場合には、式(I)の化合物は、合成が特許WO2012/045849に記載されている中間体(V)から得ることができる。
【0084】
R1≠R2≠Hである場合には、式(I)の化合物は、以下の式(VII)の前駆体から得ることができ、中間体(V)が導かれる、
【化6】
(式中、X及びAは上で定義された通りである)。
【0085】
前駆体(VII)の合成も、特許WO2012/045849に記載されている。
【0086】
或いは、式(I)の化合物は、中間体(VIII)から以下の方法によって調製することができる:
【化7】
この代替合成経路によれば、式(III)の化合物を提供するために、式(VIII)のホモダイマーは、式(VI)の保護されている2-アミノ-3-メルカプトプロピオン酸と反応することができる。次に、化合物(III)の脱保護は、アニソールの存在下におけるトリフルオロ酢酸の還流により生ずることができて、式(I)の本発明の化合物の形成に導かれる。
【0087】
中間体(VIII)も特許WO2012/045849に記載されている。
【0088】
以下の実施例は、本発明のさらなる詳細を与えるが、しかしながら、それらは、それらへの限定となると解釈されるべきではない。
【実施例
【0089】
使用される出発製品は、市販の製品であるか又は市販の化合物から公知の合成によって調製された又は当業者に公知の製品である。例示された調製は本発明の化合物を調製するために有用な合成中間体を導く。
【0090】
実施例に記載された化合物の構造は、通常の分光学的技法(核磁気共鳴(NMR)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を含む質量分析法)によって決定し、純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により決定した。
【0091】
合成中間体及び本発明の化合物は、IUPAC(国際純正応用化学連合)の命名法に従って命名し、それらの中性形態で記載した。
【0092】
以下の略記号を使用した:
【0093】
(Boc)2O: ジ-tert-ブチルジカーボネート
AcSK: チオ酢酸カリウム
AcOH: 酢酸
Cbz: カルボキシベンジル
CH2Cl2又はDCM:ジクロロメタン
CHCl3: クロロホルム
cHex: シクロヘキサン
DMF: ジメチルホルムアミド
DIPEA: N,N-ジヨードプロピルエチルアミン
Et2O: ジエチルエーテル
EtOAc: 酢酸エチル
EtOH: エタノール
HCl: 塩酸
I2: ヨウ素
i-PrOH: イソプロパノール
K2CO3: 炭酸カリウム
LiAlH(OtBu)3: 水素化リチウムトリ-tert-ブトキシアルミニウム
LiAlH4: 水素化リチウムアルミニウム
LiOH.H2O: 水酸化リチウム一水和物(リチン)
MeOH: メタノール
MTBE: メチルtert-ブチルエーテル
Na2S2O3: チオ硫酸ナトリウム
Na2SO4: 硫酸ナトリウム
NaBH4: 水素化ホウ素ナトリウム
NaHCO3: 重炭酸ナトリウム
NEt3: トリエチルアミン
NH4Cl: 塩化アンモニウム
TBTU: 2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボレート
TFA: トリフルオロ酢酸
THF: テトラヒドロフラン
Eq.: 当量
ESI: エレクトロスプレーイオン化
HPLC: 高速液体クロマトグラフィー
NMR: 核磁気共鳴
【0094】
tert-ブチル(2R)-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}-3-スルファニルプロパノエートの調製
工程1: (2R)-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}-3-{[(2R)-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}-2-カルボキシエチル]ジスルファニル}プロピオン酸
炭酸ナトリウムの水溶液(10%、72mL)及びジオキサン(72mL)の混合物中で、ジ-tert-ブチル-ジカーボネート(12.7g、58.2mmol)を、(2R)-2-アミノ-3-{[(2R)-2-アミノ-2-カルボキシエチル]ジスルファニル}プロピオン酸とも呼ばれるL-シスチン(5.0g、20.8mmol)の冷却された溶液に0℃で加えた。媒体が室温に温まるに任せた。終夜撹拌した後、該混合物を真空下で濃縮した。残渣をEtOAcと水との間に分配させた。冷却された混合物を0℃で2N HCl溶液を用いて注意深くpH1に酸性化した。水性層を抽出して(EtOAc)、合わせた有機層をブラインで洗浄し、Na2SO4で脱水し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮し、表題化合物(10.1g、定量的収率)を白色固体として得た。
MS(ESI-): [M-H]-=439.3
【0095】
工程2: tert-ブチル(2R)-3-{[(2R)-3-(tert-ブトキシ)-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}-3-オキソプロピル]ジスルファニル}-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}プロパノエート
前の工程から得られた化合物(5.0g、11.3mmol)のDCM(150mL)中の懸濁液にトリクロロアセトイミデート(13.2mL、79.4mmol)を滴下添加した。該混合物を室温で2時間撹拌してから、真空下で濃縮した。残渣をDCM(30mL)に溶解し、生じた懸濁液を濾過して、濾液を減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィーにより残渣を精製すると、表題化合物(5.10g、81%)が白色固体として生じた。
MS (ESI+): [M+H]+ = 553.5
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 5.31 (bs, 2H); 4.44 (m, 2H); 3.19 (dd, 2H, J = 13.7及び4.5 Hz); 3.11 (dd, 2H, J = 13.7及び5.4 Hz); 1.47 (s, 18H); 1.44 (s, 18H)
【0096】
工程3: tert-ブチル(2R)-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}-3-スルファニルプロパノエート
THF(50mL)中の前段化合物(5.0g、9.0mmol)の溶液に、トリブチルホスフィン(3.35mL、13.6mmol)を、続いて水(5mL)を滴下添加した。該混合物を終夜室温で撹拌して、次に減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製して表題化合物(2.51g、60%)を白色固体として得た。
MS(ESI+): [M+H]+=278.3
【0097】
(実施例1)
(2R)-2-アミノ-3-{[(2S)-2-アミノ-4-スルホブチル]ジスルファニル}プロピオン酸
工程1: tert-ブチル(2R)-3-{[(2S)-2-{[(ベンジルオキシ)カルボニル]アミノ}-4-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]ブチル]ジスルファニル}-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}プロパノエート
DMF(35mL)中のベンジルN-[(2S)-1-{[(2S)-2-{[(ベンジルオキシ)カルボニル]アミノ}-4-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]ブチル]ジスルファニル}-4-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]ブタン-2-イル]カルバメート(特許WO2012/045849に記載された中間体E) (2.0g、2.57mmol)の溶液に、DMF(15mL)中のtert-ブチル(2R)-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}-3-スルファニルプロパノエート(1.43g、5.15mmol)の溶液を滴下添加した。終夜室温で撹拌した後、該混合物を蒸発乾固した。残渣をEtOH(15mL)に溶解し、EtOH中のヨウ素の溶液(約4mL中に380mg)を、濃い橙色着色(約2mL)が持続するまで滴下添加した。該混合物を真空下で濃縮した。2回の引き続くフラッシュクロマトグラフィーにより残渣を精製して、表題化合物(1.20g、35%)を白色固体として得た。
MS (ESI+): [M+H]+ = 665.7
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.37-7.30 (m, 5H); 5.30 (m, 1H); 5.18 (m, 1H); 5.11 (m, 2H); 4.46 (m, 1H); 3.99 (m, 1H); 3.85 (s, 2H); 3.21-3.16 (m, 3H); 3.07-3.04 (m, 1H); 2.93 (m, 2H); 2.26-2.18 (m, 1H); 2.07-2.04 (m, 1H); 1.46 (s, 9H); 1.44 (s, 9H); 0.97 (s, 9H)
【0098】
工程2: (2R)-2-アミノ-3-{[(2S)-2-アミノ-4-スルホブチル]ジスルファニル}プロピオン酸
アニソール(400μL)中の前段化合物(1.1g、1.65mmol)の溶液に、TFA(2mL)を滴下添加した。該混合物を75℃で加熱して完全に変換し(3時間)して、真空下で濃縮した。残渣を水に溶解し、DCMで抽出して(6回)、水性層を減圧下で濃縮した。EtOH/H2O(95/5)中で残渣を結晶化させて、表題化合物(302mg、59%)を白色固体として得た。
推定純度: 95%(NMRに基づく)
MS (ESI+): [M+H]+ = 305.2.
1H NMR (D2O, 500 MHz) δ (ppm): 4.14 (dd, 1H, J = 7.5及び4.2 Hz); 3.90 (五重線, 1H, J = 6.5 Hz); 3.40 (dd, 1H, J = 14.9及び4.2 Hz); 3.29-3.22 (m, 2H); 3.15-3.11 (m, 2H); 3.08 (dd, 1H, J = 14.9 Hz及び7.5 Hz); 2.35-2.23 (m, 2H)
【0099】
(実施例2)
(2R)-2-アミノ-3-{[(3S,4S)-4-アミノ-1-フェニル-6-スルホヘキサン-3-イル]ジスルファニル}プロピオン酸
工程1: (2S)-2-{[(ベンジルオキシ)カルボニル]アミノ}-4-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]ブタン酸
THF/水(5/1、60mL)中のエチル(2S)-2-{[(ベンジルオキシ)カルボニル]アミノ}-4-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]ブタノエート(特許WO2012/045849に記載された中間体A) (5.9g、14.2mmol、1.0eq.)の溶液に、室温で、LiOH.H2O(425mg、17.8mmol、1.25eq.)を加えた。該混合物を室温で2時間撹拌した。反応混合物をEtOAcで希釈して1N HCl溶液でpH=1まで酸性化した。層を分離して水性相をEtOAcで抽出した(2回)。合わせた有機抽出物をNa2SO4で脱水して、濾過し、減圧下で濃縮して、表題化合物(5.9g、定量的収率)を無色油状物として得た。
MS (ESI-): [M-H]- = 386.1; [(Mx2)-H]- = 773.3
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.43-7.28 (m, 5H); 5.47 (d, J = 6.9 Hz, 1H); 5.13 (s, 2H); 4.51 (s, 1H); 3.87 (s, 2H); 3.47-3.05 (m, 2H); 2.51 (s, 1H); 2.27 (s, 1H); 0.98 (s, 9H)
【0100】
工程2:ベンジルN-[(1S)-3-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]-1-[メトキシ(メチル)カルバモイル]プロピル]カルバメート
DMF(50mL)中の前段化合物(5.5g、14.2mmol、1.0当量)の溶液に、0℃で、TBTU(5.01g、15.6mmol、1.1当量)及びDIPEA(4.95mL、28.4mmol、2.0eq.)を続いて添加した。生じた溶液を室温で20分間撹拌して、次にN,O-ジメチルヒドロキシルアミン塩酸塩(1.52g、15.6mmol、1.1当量)を添加した。該混合物を室温で16時間撹拌した。該混合物をMTBEで希釈して、該有機溶液をNH4Clの飽和水溶液で洗浄した。水性相をMTBEで抽出して(3回)、合わせた有機抽出物をNaHCO3の半飽和した水溶液(3回)及びブラインで洗浄し、Na2SO4で脱水して濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製して、表題化合物(5.15g、84%)を無色油状物として得た。
MS (ESI+): [M+H]+ = 431.1
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.42-7.28 (m, 5H); 5.63 (d, J = 8.5 Hz, 1H); 5.20-5.01 (m, 2H); 4.92-4.67 (m, 1H); 3.85 (s, 2H); 3.78 (s, 3H); 3.29-3.06 (m, 5H); 2.49-2.24 (m, 1H); 2.16-2.05 (m, 1H); 0.97 (s, 9H)
【0101】
工程3:ベンジルN-[(3S)-l-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]-4-オキソ-6-フェニルヘキサン-3-イル]カルバメート
THF(60mL)中の(5.15g、12.0mmol、1.当量)の前段化合物の溶液に、0℃で、フェネチルマグネシウムクロリドの市販の溶液(THF中の1M溶液、35.9mL、35.9mmol、3.0当量)を滴下添加した。生じた混合物を3時間撹拌した後、追加のフェネチルマグネシウムクロリドを加えた(8mL、8mmol、0.63当量)。さらに1時間0℃で撹拌した後、反応混合物をNH4Clの飽和水溶液中にゆっくり注いだ。EtOAcを添加して層を分離した。水性相をEtOAcで抽出して(2回)、合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、Na2SO4で脱水して濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製して、表題化合物(4.75g、84%)を無色油状物として得た。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.43-7.02 (m, 10H); 5.53 (d, J = 7.5 Hz, 1H); 5.10 (s, 2H); 4.44 (s, 1H); 3.83 (s, 2H); 3.32-2.99 (m, 1H); 2.99-2.67 (m, 5H); 2.43 (td, J = 10.2, 5.4 Hz, 1H); 1.99 (m, 1H); 0.96 (s, 9H)
【0102】
工程4:ベンジルN-[(3S,4R)-1-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]-4-ヒドロキシ-6-フェニルヘキサン-3-イル]カルバメート
絶対EtOH(170mL)に、-78℃でLiAlH(Ot-Bu)3(5.08g、20.0mmol、2.0当量)を少量ずつ加え、内部温度が-50℃を超えないようにモニターしながら添加した(完全には溶解しないことが観察された)。40分間-78℃で撹拌した後、前の工程で得られた(4.75g、10.0mmol、1.0当量)化合物の絶対EtOH(20mL)中の溶液を、内部温度が-60℃を超えないようにモニターしながら10分かけて滴下添加した。生じた混合物を-78℃で1.5時間撹拌して、次に1N HCl(25mL)溶液を添加した。生じた混合物をEtOAcと水の間に分配させた。層を分離して、水性相をEtOAcで抽出した。合わせた有機抽出物をNa2SO4で脱水し、濾過し、減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製して表題化合物(4.51g、95%)を無色油状物として得た。
MS (ESI+): [M+H]+ = 478.2
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.53-6.94 (m, 10H); 5.18 (d, J = 9.0 Hz, 1H); 5.09 (s, 2H); 3.84 (s, 2H); 3.79-3.54 (m, 2H); 3.29-3.00 (m, 2H); 2.91-2.74 (m, 1H); 2.74-2.54 (m, 1H); 2.21-2.09 (m, 1H); 2.02-1.91 (m, 1H); 1.87-1.71 (m, 2H); 0.96 (s, 9H)
【0103】
工程5:ベンジルN-[(3S,4R)-1-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]-4-(メタンスルホニルオキシ)-6-フェニルヘキサン-3-イル]カルバメート
前段化合物(2.0g、4.19mmol、1.0当量)のDCM(42mL)中の溶液に、0℃で、メタンスルホニルクロリド(389μL、5.02mmol、1.2当量)及びDIPEA(1.48mL、8.37mmol、2.0当量)を引き続いて滴下添加した。生じた溶液を室温で2時間撹拌した。反応混合物をMTBEと1N HCl溶液との間に分配させた。層を分離して、水性相をMTBEで抽出した。合わせた有機抽出物を1N HCl溶液、ブラインで引き続いて洗浄し、次にNa2SO4で脱水し、濾過して減圧下で濃縮して、表題化合物(2.45g、定量的収率)を白色泡状物として得た。
MS (ESI+): [M+H]+ = 556.2
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.32-7.20 (m, 7H); 7.18-7.07 (m, 3H); 5.31 (d, J = 9.7 Hz, 1H); 5.10-4.98 (m, 2H); 4.85-4.76 (m, 1H); 4.04-3.89 (m, 1H); 3.78 (s, 2H); 3.13-2.98 (m, 2H); 2.94 (s, 3H); 2.78-2.58 (m, 2H); 2.17-1.94 (m, 2H); 1.94 -1.79 (m, 2H); 0.90 (s, 9H)
【0104】
工程6:ベンジルN-[(3S,4S)-4-(アセチルスルファニル)-1-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]-6-フェニルヘキサン-3-イル]カルバメート
前の工程で得られた粗メシレート化合物(4.19mmol、1.0当量)のアセトン(21mL)中の溶液に、室温で、AcSK(957mg、8.38mmol、2.0当量)を添加した。反応混合物を50℃で18時間撹拌した。反応混合物をMTBEとNaHCO3の飽和水溶液との間に分配させた。層を分離して、水性相をMTBEで抽出した。合わせた有機抽出物をNaHCO3の飽和水溶液、ブラインで引き続いて洗浄した、次にNa2SO4で脱水して、濾過して減圧下で濃縮した。残渣をカラムにより精製して、表題化合物(2.02g、2工程かけて90%)を明橙色油状物として得た。
MS (ESI+): [M+H]+ = 536.1
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.42-7.29 (m, 7H); 7.25-7.18 (m, 1H); 7.15 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 5.20-5.06 (m, 2H); 4.81 (d, J = 10.1 Hz, 1H); 4.09 (tt, J = 9.6, 4.2 Hz, 1H); 3.86 (s, 2H); 3.68-3.60 (m, 1H); 3.20 (td, J = 11.2, 10.4, 5.5 Hz, 1H); 3.10 (ddd, J = 14.0, 11.2, 4.5 Hz, 1H); 2.84-2.65 (m, 2H); 2.38 (s, 3H); 2.17-1.78 (m, 4H); 1.00 (s, 9H)
【0105】
工程7:ベンジルN-[(3S,4S)-1-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]-6-フェニル-4-スルファニルヘキサン-3-イル]カルバメート
前の工程で得られたチオアセテート化合物(2.02g、3.77mmol、1.0当量)の脱気したMeOH(15mL、真空-アルゴンパージの3サイクル)中の溶液に、室温で、LiOH.H2O(181mg、7.54mmol、2.0当量)の水(1.6mL)中の溶液を加えた。生じた溶液を室温で1時間撹拌した。反応混合物を、MTBEとNH4Clの飽和水溶液との間に分配させた。層を分離して、水性相をMTBEで抽出した。合わせた有機抽出物をブラインで洗浄して、Na2SO4で脱水し、濾過して減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーにより精製して、表題化合物(1.72g、92%)を淡黄色油状物として得た。
MS (ESI+): [M+H]+ = 494.1
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.44-7.29 (m, 7H); 7.26-7.15 (m, 3H); 5.24-5.02 (m, 3H); 4.03 (ddt, J = 10.4, 6.2, 3.5 Hz, 1H); 3.88 (s, 2H); 3.29-3.10 (m, 2H); 2.96-2.73 (m, 3H); 2.23-2.08 (m, 1H); 2.03-1.88 (m, 2H); 1.88-1.74 (m, 1H); 1.35-1.24 (m, 1H):1.00 (s, 9H)
【0106】
工程8: tert-ブチル(2R)-3-{[(3S,4S)-4-{[(ベンジルオキシ)カルボニル]アミノ}-6-[(2,2-ジメチルプロポキシ)スルホニル]-1-フェニルヘキサン-3-イル]ジスルファニル}-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}プロパノエート
N-クロロベンゾトリアゾール(774mg、5.04mmol、1.5当量)及びベンゾトリアゾール(400mg、3.36mmol、1.0当量)のDCM(25mL)中の溶液に、-78℃で、前の工程で得られたチオール化合物(1.66g、3.36mmol、1.0当量)のDCM(5mL)中の溶液を滴下添加した。該混合物を-78℃で2時間撹拌した。tert-ブチル(2R)-2-{[(tert-ブトキシ)カルボニル]アミノ}-3-スルファニルプロパノエート(1.40g、5.04mmol、1.5当量)のDCM(5mL)中の溶液を次に滴下添加した。該反応混合物を-78℃で4時間撹拌した。Na2S2O3の水溶液(20mLの水中に1.2g)及びNaHCO3(30mL)の飽和水溶液を引き続いて加えて、該混合物を室温に温まるに任せて、室温で10分間撹拌した。層を分離して水性相をDCMで抽出した(2回)。合わせた有機抽出物をNa2SO4で脱水し、濾過して減圧下で濃縮して橙色油状物を得た。残渣を2回のカラムクロマトグラフィーにより精製すると、表題化合物が異なる純度の2つの分画で得られた淡黄色泡状物として生成した(1.21g、純粋な分画、収率47%)及び(0.91g、純度80%の分画、収率35%)。
MS (ESI+): [M+H]+ = 769.4
1H NMR (CDCl3, 500 MHz) δ (ppm): 7.51-7.04 (m, 10H); 5.08 (s, 2H); 4.52-4.29 (m, 1H); 4.11 (d, J = 10.6 Hz, 1H); 3.90 (s, 2H); 3.31-3.12 (m, 3H); 3.05-2.85 (m, 3H); 2.84-2.69 (m, 1H); 2.33-2.22 (m, 1H); 2.12-1.94 (m, 2H); 1.83-1.65 (m, 1H); 1.54-1.43 (m, 18H); 1.00 (s, 9H)
【0107】
工程9: (2R)-2-アミノ-3-{[(3S,4S)-4-アミノ-1-フェニル-6-スルホヘキサン-3-イル]ジスルファニル}プロピオン酸
前の工程で得られたジスルフィド(1.2g、1.56mmol、1.0当量)のアニソール(4.26mL、39.0mmol、25当量)中の溶液に、室温で、トリフルオロ酢酸(6.19mL、78mmol、50当量)を加えた。該混合物を還流させて16時間撹拌した。室温に冷却した後、反応混合物を減圧下で濃縮した。生じた固体/ペーストを、水(120mL)に溶解して、該水溶液をDCM(4×50mL)で洗浄した。水性相を凍結乾燥した。残渣を逆相フラッシュクロマトグラフィーにより精製して、関心の分画を合わせて凍結乾燥し、表題化合物(500mg、78%)を、明白色の固体としてジアステレオマー(R,S,S)/(R,R,R)の93/7混合物で得た。
推定純度: >97%(LCMSに基づく)及び95%(NMRに基づく)
MS (ESI+): [M+H]+ = 409.0
MS (ESI-): [M-H]- = 407.1
1H NMR (D2O, 500 MHz) δ (ppm): 7.40-7.28 (m, 4H); 7.28-7.22 (m, 1H); 4.04 (dd, J = 8.4, 4.0 Hz, 1H); 3.77 (dt, J = 7.9, 5.0 Hz, 1H); 3.34 (dd, J = 14.8, 4.1 Hz, 1H); 3.10 (dd, J = 14.8, 8.4 Hz, 1H); 3.04 (ddd, J = 10.6, 5.0, 3.6 Hz, 1H); 3.00-2.88 (m, 3H); 2.82-2.74 (m, 1H); 2.43-2.31 (m, 1H); 2.13-1.98 (m, 2H); 1.94-1.80 (m, 1H)
【0108】
(実施例3)
APA活性のインビトロにおける測定
インビトロにおけるAPA活性の測定は、マイクロプレート上におけるアッセイの尺度にされたGoldbargのプロトコルに基づく(Pro Bind TM3915)(Chauvel et al.、1994)。インビトロにおいて、カルシウムイオンの存在下で、APAは、合成基質α-L-グルタミル-β-ナフチルアミド(GluβNa)をグルタメート及びβ-ナフチルアミン(βNa)に加水分解する。酸性媒体中におけるジアゾ化反応は、紫に着色した錯体の形成により、β-ナフチルアミンを明示することを可能にする: 次に、分光学的測定が、β-ナフチルアミンの増大する濃度で生じる標準曲線を参照することにより、形成された複合体の量を知ること、及び、試料の酵素活性を導き出すことを可能にする。
【0109】
試薬
Glu-βNa基質(Bachem社)及びβ-ナフチルアミン(Sigma社)を50%DMSO(ジメチルスルホキシド)及び0.1N HClにそれぞれ溶解して、-20℃、10-2Mの濃度で保存した。ジアゾ化反応は、亜硝酸ナトリウム(87mM)、スルファミン酸アンモニウム(130mM)及びN-(1-ナフチル)-エチレンジアミン二塩酸塩(95%エタノール中23mM)の存在下で実施した。
【0110】
酵素反応
酵素反応は、pH7.4の50mMトリスHCl緩衝剤中において、ジチオスレイトール(1当量の阻害剤当たり100当量)及びカルシウム(4mM CaCl2)の存在下で起こる; 組換えマウスAPAを、37℃で基質(200μM Glu-βNa)の存在下、種々の濃度の試験されるべき阻害剤の存在又は非存在下で、100μLの最終体積でインキュベートする。反応を、10μLの3N HClを添加することにより停止させる。β-ナフチルアミンの標準曲線は、0.1N HCl中で増大する濃度(0.2mMまで)の2-ナフチルアミンをジアゾ化することにより、平行して準備した。
【0111】
形成された生成物の明示
以下のものを各ウェルに添加する: 25μLの亜硝酸ナトリウム(NaNO2)(室温で混合して、5分待つ)、50μLのスルファミン酸アンモニウム(室温で混合して、5分待つ)、次に25μLのN-(1-ナフチル)エチレンジアミン二塩酸塩(37℃で混合して、紫色の安定化する間およそ30分間待つ)を添加する。
【0112】
次に吸光度を540nmで測定する。
【0113】
国際出願WO99/36066号に記載された化合物EC33((S)-3アミノ-4-メルカプト-ブチルスルホン酸)を参照化合物として使用した。
【0114】
Table 1(表1)で報告される結果は、実施例1及び実施例2がAPA-阻害活性を表すことを示す。
【0115】
【表1】
【0116】
(実施例4)
脳APA活性の測定(エクスビボにおける実験)
脳のAPA活性は、上で記載したようにして決定した。
【0117】
インビボで、マウス(雄、18~20g、Charles River)に、実施例1をi.v.で投与した(50mg/kg、200μLの体積で)。
【0118】
インビボで、DOCA-塩ラット(雄、250g、Charles River)に、実施例2をp.o.で投与した(8mg/kg、400μLの体積で)。
【0119】
各条件について、4から16匹のマウス及び5から7匹のラットを使用した。動物を投与の180分後に屠殺した。脳を直ちに取り出して、10体積の氷冷50mMトリス-HCl緩衝液(pH7.4)中で超音波処置によりホモジナイズした。APAの酵素活性を脳ホモジネートで測定した。この目的のために、組織ホモジネートのアリコート(16μL)を、合計体積が100μLの50mMトリス-HCl緩衝液(pH7.4)中で、5μMのEC33を添加するか又は添加せずに、200μMのGluβNa、4mM CaCl2、及び1μMベスタチン阻害剤と共に、37℃で30分間インキュベートした。次に、アッセイを上で記載したように遂行した。
【0120】
図1は、i.v.経路により与えられた実施例1の血液脳関門を越えて脳に進入する能力を、意識のあるマウスにおける脳APA活性の阻害を測定することにより示す。実施例1(1匹のマウス当たり50mg/kg、i.v.、3285nmol)は、180分後に脳APA活性を有意に45%低下させた(1時間に1mgのタンパク質当たり、72.3±3.7nmolに対して39.6±5.2nmolのGlu-βNaが加水分解された、P<0.001、クラスカル・ウォリス検定に続くダネットの検定)。
【0121】
図2は、p.o.経路により与えられた実施例2の血液脳関門越えて脳に進入する能力を、意識のあるDOCA-塩ラットにおける脳APA活性の阻害を測定することにより示す。実施例2(1匹のラット当たり8mg/kg、p.o.、4895nmol)は、180分後に有意に脳APA活性を29%低下させた(1時間に1mgのタンパク質当たり65.4±5.1nmolに対して46.1±2.4nmolのGlu-βNaが加水分解された、P<0.01、マン-ホイットニー検定)。
【0122】
(実施例5)
平均動脈血圧(MABP)及び心拍数(HR)の測定(インビボ実験)。
雄DOCA-塩ラットを、誘導のために3%イソフラン(Iso-vet(登録商標)Piramal社、英国)及び維持のために1.5~2%のイソフランで麻酔した。カテーテルを右大腿動脈中に挿入してMABP及びHRをモニターした。カテーテルを皮下に通して首から出した。動物を動物室中で2日間、頻繁な観察下で維持した後、MABP及びHRを記録した。ベースラインのMABP及びHRを少なくとも60分間記録した後、実施例2をp.o.投与した(8mg/kg、400μLの体積で)。MABP及びHRを処置後6時間の間連続的に記録した。
【0123】
図3a及び図3bは、p.o.経路により与えられた実施例2が高血圧ラットの血圧を低下させる能力を、意識のあるDOCA-塩ラットにおけるMABP及びHRを記録することにより示す。図3aにおいて、実施例2(1匹のラット当たり、8mg/kg、p.o.、4895nmol)は、投与の3時間後から、高血圧DOCA-塩ラットにおけるMABPを低下させて(-27±11mmHgのMABP低下で)、それは処置後6時間持続した(-44±8mmHgのMABP低下で)。
【0124】
図3bにおいて、実施例2のp.o.投与(8mg/kg)は、投与及び記録(0から6時間)の間の時間経過に拘わらず、DOCA-塩ラットにおけるHRに効果を有しなかった、。
【0125】
(実施例6)
心エコー検査により左心室の駆出分率(LVEF)を測定することによる心機能の評価(インビボ実験)。
実験手順
成熟雄CD1マウスを、100mg/kgケタミン(Imalgene 1000、Merial社、Lyon、フランス)と10mg/kgキシラジン(Rompun 2%、Bayer Healthcare社、Loos、フランス)の混合物を用いて、腹腔内注射により麻酔して、インキュベートし、200吸入/分の速度で、0.2mLの平均吹き込み体積で通気した(Bioseb社、フランス)。皮膚を消毒して、第2及び第3肋間隙の間を切開して、左開胸により心臓を露出させた。心嚢を開いて左側の前下降枝(LAD)冠状動脈梗塞を、肺動脈神経幹と左心房付属器との間で、8/0絹縫合糸で永久的に結紮した。(PVDFモノフィラメント、8-0、Peters Surgical社、Bobigny、フランス)。虚血を可視の結紮下の左心室(LV)白化により確認した。次に胸郭を3カ所の不連続点により閉じて(PVDFモノフィラメント、6/0、Peters Surgical社、Bobigny、フランス)、次にマウスは、長期の鎮痛のために、メロキシカム1mg/kgの皮下注射を受けた(Metacam、Boehringer Ingelheim社、ドイツ)。気胸を排出した。次に、筋及び皮膚を縫合して(prolene糸6-0、Peters Surgical社、フランス)、動物を生理食塩水で、37℃で再水和した。動物が自発的に呼吸できるようになったら、すぐに管状器官を取り除いた。動物をケージに入れて48時間にわたって規則的にモニターした。マウスは、手術後24時間及び72時間まで、メロキシカム1mg/kgの注射を受けた。同じ手術手順を、LAD冠状動脈結紮なしで、擬似手術されたマウスで実施した。
【0126】
MI後のマウスは、長期の経口処置としてフィリバスタット(脳APA阻害剤の参照として使用されるRB150)を150mg/kgで、ラミプリル(標準的処置としてのACE阻害剤)を1.25mg/kgで、又は実施例2を25mg/kgでピーナツバタービヒクルと共に受けた。適応期間を満たした後、処置を開始して、そこでマウスは1週間毎朝、ケージの壁に適用された投与量のピーナツバターを与えられた。処置はMIの2日後に開始され、異なる薬剤を4週間続けて、毎日1回、午前中に投与された。MIの4週間後に、心臓の機能を胸部透視心エコー検査により規則的に評価して、心臓収縮性に対する異なる長期経口処置の効果を分析した。
【0127】
結果
図4は、フィリバスタット、ラミプリル、又は実施例2の長期経口投与の、MIの4週間後のマウスにおける左心室の駆出分率(LVEF)に対する効果を示す。値は、n=9からn=15で平均±SEMとして表した。一元配置分散分析はダネットの検定によった。MIの4週間後に、ビヒクルで処置されたマウスにおけるLVEFは疑似群と比較して、擬似手術されたマウスに対してMI+ビヒクルマウスで、58±1.5%、n=11から44.5±1%、n=12に有意に減少した(図4) (p<0.0001))。LVEFの著しい減少は、MI後の心臓の収縮性の劣化を反映する。ラミプリル及びフィリバスタットは、本研究における陽性対照として含まれた。1.25及び150mg/kgにおける経口の長期フィリバスタット及びラミプリルのそれぞれ4週間の処置は、MI後のマウスの心臓の機能を改善して、MI+ビヒクルのマウスと比較してMI+フィリバスタット及びMI+ラミプリルのマウスで有意のLVEF増大があり、MI+ビヒクルのマウスにおける44.5±1%、n=12に対して、MI+フィリバスタットで(50.9±1%、n=14 (p=0.0002)、MI+ラミプリルマウスで48.4±1.2%、n=9 (p=0.0874)である。図4において、経口長期実施例2による処置(4週間にわたって25mg/kgで)は、MI後のマウスのLVEFをビヒクル処置と比較して有意に増大させ、フィリバスタットと同じ効力を有した。50.6±0.9%、n=15 (p=0.0007)。
【0128】
結論
経口投与量が、4週間与えられたフィリバスタットで使用されたよりも低い6分の1の実施例2は、フィリバスタットと同じ有効度を示して、MI後のマウスにおける心臓の機能を改善するためのラミプリルの参照処置よりもさらに優れている。
図1
図2
図3a
図3b
図4
【国際調査報告】