(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(54)【発明の名称】流体中の粒子の存在を検出するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/14 20060101AFI20220323BHJP
G01N 15/02 20060101ALI20220323BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220323BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20220323BHJP
G01N 21/05 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
G01N15/14 B
G01N15/02 A
G01N37/00 101
G01N21/49 Z
G01N21/05
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569588
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(85)【翻訳文提出日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 EP2020052499
(87)【国際公開番号】W WO2020164932
(87)【国際公開日】2020-08-20
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521353425
【氏名又は名称】クリストフ、ランハンマー
【氏名又は名称原語表記】LANGHAMMER, CHRISTOPH
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ、ランハンマー
(72)【発明者】
【氏名】ヨアキム、フリッチェ
(72)【発明者】
【氏名】バルボラ、スパッコバ
【テーマコード(参考)】
2G057
2G059
【Fターム(参考)】
2G057AA02
2G057AC01
2G057AC03
2G057BA05
2G057BB04
2G057BB06
2G057CA01
2G057DB01
2G059AA05
2G059BB01
2G059BB06
2G059BB12
2G059CC16
2G059CC19
2G059DD12
2G059EE02
2G059FF03
2G059GG01
2G059JJ11
2G059KK04
2G059MM01
(57)【要約】
本発明は流体中の粒子(106)の存在を無標識で検出するシステム(10、20)に関する。このシステム(10、20)は、流体を受け入れるよう構成されているナノチャネル(102)と、光源(110)と、ナノチャネル(102)の一部分からの散乱光(108)の量を測定するよう構成されている光センサ(120)と、を含む。ナノチャネル(102)の一部分、ナノチャネル(102)の一部分の中の流体、および、粒子(106)(ナノチャネル(102)の一部分の中に存在する場合)により散乱された光。処理部(130)は、光センサ(120)と通信を行って光センサ(120)から受信したデータに基づいてナノチャネル(102)の一部分の中の流体中の粒子(106)の存在を判定するよう構成される。また、流体中の粒子(106)の存在を判定する方法(30)も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中の粒子(106)の存在を無標識で判定するシステム(10、20)であって、
前記粒子(106)を含む前記流体を受け入れるよう構成されるナノチャネル(102)と、
前記ナノチャネル(102)を照らすよう配置される光源(110)と、
前記ナノチャネル(102)の一部分、前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記流体、および、前記粒子(106)(前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中に存在する場合)により散乱された、前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの散乱光(108)の量を測定し、前記散乱光(108)の量に基づいたデータを出力するよう構成される光センサ(120)と、
前記光センサ(120)と通信を行って前記散乱光(108)の量に基づいた前記データを受信し、前記受信データに基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記流体中の前記粒子(106)の存在を判定するよう構成されている処理部(130)と、
を含む、システム(10、20)。
【請求項2】
前記処理部(130)はさらに、第1時点に関する前記散乱光(108)の量に基づいた前記データを第2時点に関する前記散乱光(108)の量に基づいた前記データと比較することで前記粒子(106)の存在を判定するよう構成される、請求項1に記載のシステム(10、20)。
【請求項3】
前記光センサ(120)の結像面(122)上で前記ナノチャネル(102)の前記一部分を撮像するように配置されている光学素子(140、240)をさらに含む、請求項1または2に記載のシステム(10、20)。
【請求項4】
前記処理部(130)は、前記受信データに基づいて前記ナノチャネル(102)の撮像された部分のデジタル表現を作成するよう構成される、請求項3に記載のシステム(10、20)。
【請求項5】
前記処理部(130)はさらに、前記デジタル表現に基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの前記散乱光(108)の空間分布を求めるよう構成される、請求項4に記載のシステム(10、20)。
【請求項6】
前記処理部(130)はさらに、前記空間分布に基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分に沿った前記粒子(106)の位置を特定するよう構成される、請求項5に記載のシステム(10、20)。
【請求項7】
前記光センサ(120)の結像面(122)の一部の上で前記ナノチャネル(102)の前記一部分を撮像するように配置されている光学素子(140、240)をさらに含む、請求項1または2に記載のシステム(10、20)。
【請求項8】
粒子を含まない基準流体を受け入れるよう構成されている基準ナノチャネル(104)をさらに含み、
前記光源(110)は前記基準ナノチャネル(104)を照らすよう配置され、
前記光学素子(140、240)はさらに、前記結像面(122)の前記一部とは異なる前記結像面(122)の更なる一部の上で前記基準ナノチャネル(104)の一部分を撮像するように配置され、
前記光センサ(120)はさらに、前記基準ナノチャネル(104)の前記一部分および前記基準ナノチャネル(104)の前記一部分の中の前記基準流体により散乱された、前記基準ナノチャネル(104)の前記一部分からの散乱光の基準量を測定し、前記散乱光の基準量に基づいた基準データを出力するよう構成され、
前記処理部(130)はさらに、前記光センサ(120)と通信を行って前記基準データを受信し、前記受信データおよび前記受信した基準データに基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記流体中の前記粒子(106)の存在を判定するよう構成される、
請求項7に記載のシステム(10、20)。
【請求項9】
前記処理部(130)は、前記受信データに基づいて前記ナノチャネル(102)の撮像された部分のデジタル表現を作成し、前記受信した基準データに基づいて前記基準ナノチャネル(104)の撮像された部分の基準デジタル表現を作成するよう構成される、請求項8に記載のシステム(10、20)。
【請求項10】
前記処理部(130)はさらに、前記デジタル表現および前記基準デジタル表現に基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの前記散乱光(108)の空間分布を求めるよう構成される、請求項9に記載のシステム(10、20)。
【請求項11】
前記処理部(130)はさらに、前記空間分布に基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記粒子(106)の位置を特定するよう構成される、請求項10に記載のシステム(10、20)。
【請求項12】
前記処理部(130)はさらに、前記空間分布のコントラストレベルの分布に基づいて前記粒子の分極率を求めるよう構成される、請求項10または11に記載のシステム(10、20)。
【請求項13】
前記システム(10、20)は、異なる時点に関する前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの散乱光の複数の空間分布を求めるよう構成され、前記処理部(130)はさらに、前記複数の空間分布に基づいて前記粒子の大きさを特定するよう構成される、請求項10から12のいずれか一項に記載のシステム(10、20)。
【請求項14】
前記光源(110)、前記光センサ(120)、および前記光学素子(140、240)は前記ナノチャネル(102)に対する暗視野顕微鏡法のために配置される、請求項3から13のいずれか一項に記載のシステム(10、20)。
【請求項15】
前記光源(110)は、前記ナノチャネル(102)の外側を直接照らすように配置される、請求項1から14のいずれか一項に記載のシステム(10、20)。
【請求項16】
前記ナノチャネル(102)の前記一部分の少なくとも一部は、前記粒子(106)が機能層(101)に結合されるよう構成されている機能層(101)をその内壁に含む、請求項1から15のいずれか一項に記載のシステム(10、20)。
【請求項17】
流体中の粒子(106)の存在を無標識で判定する方法(30)であって、
前記粒子(106)を含む前記流体をナノチャネル(102)で受け入れること(S302)、
前記ナノチャネル(102)を照らすこと(S304)、
前記ナノチャネル(102)の一部分、前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記流体、および、前記粒子(106)(前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中に存在する場合)により散乱された、前記ナノチャネルの前記一部分からの散乱光(108)の量を測定すること(S306)、
測定された前記散乱光(108)の量に基づいて、前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記流体中の前記粒子(106)の存在を判定すること(S308)、
を含む、方法(30)。
【請求項18】
光センサ(120)の結像面(122)上で前記ナノチャネル(102)の前記一部分を撮像すること(S310)、
前記光センサ(120)の前記結像面(122)上で撮像された前記ナノチャネル(102)の前記一部分のデジタル表現を作成すること(S312)、
をさらに含む、請求項17に記載の方法(30)。
【請求項19】
前記デジタル表現に基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの前記散乱光(108)の空間分布を作成すること(S314)、
をさらに含む、請求項18に記載の方法(30)。
【請求項20】
前記デジタル表現に基づいて前記ナノチャネル(102)の前記一部分に沿った前記粒子(106)の位置を特定すること(S316)、
をさらに含む、請求項19に記載の方法(30)。
【請求項21】
粒子を含まない基準ナノチャネルを照らすこと、
前記基準ナノチャネルから散乱された更なる散乱光の量を測定すること、
をさらに含み、
前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記流体中の前記粒子(106)の存在を判定する行為(S308)はさらに、前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの前記散乱光(108)の量と前記基準ナノチャネルからの前記更なる散乱光の量との比較に基づく、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法(30)。
【請求項22】
前記ナノチャネル(102)の前記一部分の中の前記流体中の前記粒子(106)の存在を判定する行為(S308)において、前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの前記散乱光(108)の量と前記基準ナノチャネルからの前記更なる散乱光の量との比較は、以下の数式による比率に基づき、
【数1】
I
1
mおよびI
2
mは、それぞれ第1時点および第2時点での前記ナノチャネル(102)の前記一部分からの散乱光の量であり、I
1
rおよびI
2
rは、それぞれ前記第1時点および前記第2時点での前記基準ナノチャネル(104)からの更なる散乱光の量である、請求項21に記載の方法(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体中の粒子の存在を検出するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
少量の粒子の検出は、いくつかの異なる技術分野、いくつか例を挙げると、化学、生物学、医学、環境モニタリングなどにおいて重要である。しかし、少量の粒子の検出は一般的には困難である。少量の粒子、あるいは一つの粒子を検出可能ないくつかの方法があるが、これらの方法では標識化が必要とされ、低い被分析物濃度で一つの粒子の検出が必要とされる場合には効果がなく、ナノスケールの量には適合しない、あるいは特定の波長の励起光源および高いコストが必要となる。
【0003】
標識法は最も一般的であり、ナノ粒子または既知の特性の分子を用いて粒子が標識化される方法である。通常、粒子は例えば蛍光を利用する光学技術を使って検出可能である。したがって、標識法は間接的な検出法であり、基本的には粒子そのものに付着した標識を検出する。しかし、そのような標識の存在は多くの理由で問題がある。主な欠点は、標識そのものが対象粒子の特性を変化させる可能性があることと、フルオロフォア(蛍光色素)の本質的に低い放出率により測定速度が制限されることで、後者は速いプロセスを測定できないことを意味する。さらに、標識を検出対象の粒子に付着させることは困難で煩雑になりうる。
【0004】
したがって、改善された粒子検出法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
以上を考慮し、本発明は、流体中の粒子の存在を検出するシステムおよび方法を提供することを目的とする。当技術分野における上で特定した欠点のうちの1つまたは複数を軽減、緩和、または除去することを目的とする。
【0006】
本発明の概念は、ナノチャネルにより散乱された光の強度はナノチャネルの内側の粒子の存在に非常に影響されるという認識に基づいている。有限の大きさのあらゆる物体は、散乱は光と物質の相互作用における基本過程であるため、光を弾性的に散乱させる能力を持つ。散乱光の強度(I=I0σ)は、入射電界強度(I0)および物体の散乱断面積(σ)により決まる。その大きさが入射光の波長(λ)よりもずっと小さい三次元の粒子(例えば分子やナノ粒子)では、この過程はレイリー散乱として知られており、散乱断面積は光の波数(k)および粒子の分極率(α)により決まり、σ=k4/(6π)|α|2である。
【0007】
二次元で有限(サブ波長)の大きさを有する物体であるナノチャネルは、光を同様に散乱させる。その散乱断面積は、ナノチャネルの大きさ、形状、そして該当する場合はナノチャネルの内側の流体の比誘電率(ε)およびナノチャネルが埋め込まれている材料の比誘電率(εm)の関数である。ナノチャネルの内側の材料が更なる粒子を含む流体、例えば分極率α=α’+iα’’(α’およびα’’は分極率の実数部および虚数部である)により規定される分子やナノ粒子であると仮定すると、これらの粒子の寄与はそのバルク光学特性、すなわち実効誘電率で説明できる。
【0008】
【0009】
ここでεfは流体の比誘電率であり、n=N/Vは粒子の体積密度であり、υはナノチャネルの形状により決まる偏光解消度である。流体中の粒子の存在により、実効誘電率が変化し(Δε=ε2-ε1)、その結果、ナノチャネルからの散乱光の強度が変化する。
【0010】
ナノチャネルからの散乱光は、例えば暗視野顕微鏡法などの従来の顕微鏡検査技術を用いて集光することができる。粒子を表す所望の信号の他に、収集信号(I)(像点全体での積分強度)は、好ましくは除去される他の寄与を含む。概して、信号はナノチャネルにより散乱された光と、検出対象の粒子、また検出器の暗信号およびナノチャネル、光源、検出器の間の界面で散乱された光で構成される不要なバックグラウンド信号も含む。さらに、集光された全散乱信号の空間的変動には、概して粒子の寄与(ナノチャネル内での粒子の空間分布)が含まれ、また不均質な照明と表面粗さに関連する寄与も含まれる。後者の寄与は、その大きさにおいて粒子から発生する変動と同程度でありうる。信号の時間的変動には、概して粒子の局所的分布の変化(粒子が像点に現れたり消えたりする)による寄与が含まれ、また光源の不安定性または機械的ドリフトに由来する寄与も含まれる。粒子の検出を表す、一般的に必要な信号はこのように正規化された信号変化から数式2で抽出することができる。
【0011】
【0012】
添字の1および2はそれぞれ異なる時刻に集光された信号に対応し、添字mおよびrはそれぞれ測定ナノチャネル(粒子を含むナノチャネル)から集光された信号と基準チャネル(粒子を含まないナノチャネル)から集光された信号に対応する。各信号から、バックグラウンド信号を除去することができる。そして、正規化された信号変化は数式3に対応する。
【0013】
【0014】
Sは感度を表す。信号中の不確かさは雑音により制限されると仮定すると、1つまたは複数の粒子の存在は、通常は
【0015】
【0016】
が所定の閾値より大きい場合に検出される。例えば、閾値は雑音レベルの標準偏差の3倍とすることができる。
【0017】
【0018】
の時間的列および空間的列から、ナノチャネル内の粒子の空間分布および時間的分布を求めることができる。半径r≪λ(レイリー限界)で円形断面を有するナノチャネルでは、TM偏波およびTE偏波(円柱軸に対して電界がそれぞれ平行および垂直な入射波)に対する散乱断面積を数式4で解析的に求めることができる。
【0019】
【0020】
ここでLはナノチャネルの照射される部分の長さであり、V=πr2Lはナノチャネルの照射される部分の容積であり、kmはナノチャネルを取り囲む材料内の光の波数である。数式1(TM偏波ではυ=0、TE偏波ではυ=1/2)および数式4を使って、ナノチャネルにより散乱された光が回折限界の光学系により撮像されると仮定すると、L=λ/(2NA)となり、ここでNAは画像システムの開口数であり、ナノチャネル内に存在する粒子の寄与が小さいと仮定すると、すなわちnα≪V(εf+εm)/(εf-εm)とすると、回折限界スポットで集光された光の強度は数式5のように書くことができる。
【0021】
【0022】
ここで、TM偏波に対してa=3NA/2nmであり、TE偏波に対してa=(3NA/2nm)*(ε2
m/ε2)であり、Ic=I0σcは粒子を含まないナノチャネルからの散乱光の集光強度であり、Ip=I0k4/(6π)|Nα|2は粒子が無限媒質に置かれた場合の散乱光の強度であり、I’p=I0k4/(6π)|Nα’|2である。数式5は、散乱光の強度はナノチャネルにより散乱された光の強度と粒子により散乱された光の強度の合計であるだけでなく、追加の項≒2√(IcIp)も散乱光の強度にかなり寄与していることを示す。この目的のため、小さい粒子で弾性的に散乱された光は、粒子の断面σpが非常に小さいため、通常は直接検出することは不可能である。しかし、数式5の右辺の第3項は、ナノチャネルがかなり多くを散乱させる(σc>σp)ように設計できるため、数桁は大きくすることができる。この事実により、少量の粒子であっても、あるいは個々の粒子であっても、ナノチャネルの内側に置かれた場合は検出することができる。数式5に続き、感度(数式3)は数式6のように書くことができる。
【0023】
【0024】
円形(楕円形、矩形)以外の断面、および/またはレイリー限界を超える大きさを有するナノチャネルでは、Sは数値的有限差分時間領域法(FDTD)を使って計算できる。その特徴的な大きさがレイリー限界を超えるナノチャネルではSは大きさと共に減少すること、および、レイリー限界以内の大きさのナノチャネルではSは円形断面で同一の断面積を有するナノチャネルの場合とほぼ同等であることを、このようにして示すことができる。実験的にはSは校正測定値から抽出することができる。
【0025】
数式1は粒子間の相互作用、および粒子とナノチャネルの壁との相互作用を無視しており、体積分率(すべての粒子の体積をナノチャネルの容積で割ったもの)の1桁目まで正確であることに留意されたい。この事実により、数式6におけるSはナノチャネル内の粒子の位置にも粒子密度にも依存しない。しかし、FDTD計算を使って示すことができるように、粒子間の相互作用、および粒子と壁との相互作用により、分極率、および対応するSは、壁からの距離、ならびに、粒子の大きさおよび密度とともに、わずかに変化する。こうした依存関係はTMとTEとで異なるので、TM偏波およびTE偏波において同時に測定された個々の値、例えばナノチャネル内の粒子の空間的位置、または、壁に付着した粒子の大きさおよび密度から逆畳み込みで追加情報を得ることができる。
【0026】
第1態様によれば、流体中の粒子の存在を検出するシステムが提供される。このシステムは、粒子を含む流体を受け入れるよう構成されているナノチャネルと、ナノチャネルを照らすよう配置されている光源と、ナノチャネルの一部分、ナノチャネルの一部分の中の流体、および、粒子(ナノチャネルの一部分の中に存在する場合)により散乱された、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量を測定し、散乱光の量に基づいたデータを出力するよう構成されている光センサと、光センサと通信を行って散乱光の量に基づいたデータを受信し、受信データに基づいてナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定するよう構成されている処理部と、を含む。
【0027】
「ナノチャネル」という表現は、本願の文脈の中では、光源から放出される光の波長よりも小さな厚さおよび幅を有する流路/流体チャネルと解釈されるべきである。ナノチャネルの縦方向長さは任意であってもよい。例えば、ナノチャネルの縦方向長さは、光源から放出される光の波長より大きくてもよい。
【0028】
「ナノチャネルの一部分からの散乱光の量」という表現は、本願の文脈の中では、ナノチャネルの一部分からのすべての散乱光と解釈されるべきである。例えば、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量は、ナノチャネルの一部自体により散乱された光、ナノチャネルの一部分の中の流体により散乱された光、および、粒子(ナノチャネルの一部分の中に存在する場合)により散乱された光を含みうる。
【0029】
本システムを用いて、粒子を標識化する必要、または粒子以外の物体から散乱された光を遮断する必要もなしに、流体中の粒子の存在を検出することができる。これにより、測定準備の複雑さを軽減することが可能である。典型的には従来技術のシステムにおいて行われる粒子の標識化は検出方法を複雑にし、着目する粒子の特性を変える可能性がある。さらに、測定速度は、低い蛍光発光量、および/または標識の寿命により制限される。それゆえ、本システムにおいて粒子の標識化の必要性を低減させることで、検出方法の複雑さを軽減し、粒子の特性を維持することが可能となりえて、同時に測定速度をより大きくすることができる。
【0030】
本システムはさらに、従来の無標識の光学的方法の分解能で充分に、中程度の大きさのタンパク質の結合事象を一つ一つ検出できるようにすることができる。
【0031】
本システムはさらに、検出領域を大幅に増加させることで極めて低い濃度において結合事象を一つ一つ検出することが可能となりうる。これは、ナノチャネルの一部分の内面すべてが活性表面として機能しうるからである。複数(数十から数百)の平行ナノチャネルを配置することで、所望の効果を高めることができる。複数の平行ナノチャネルを配置することの利点は、ナノチャネルを通過する流体の量のスループットを改善できることである。
【0032】
本システムはさらに、ただ一つの材料を含む検出面を可能とし、これにより複雑な生体直交機能化の必要性を取り除くことができる。複雑な生体直交機能化の必要性を取り除くことの利点は、特に誘電体基板の不動態化が必要となるナノプラズモニックシステムと比較して、測定システムの複雑さをさらに低減できることである。
【0033】
ナノチャネルを2つの異なる光偏光で照らすことで、本システムはさらに、ナノチャネルの一部分の内面に吸着された粒子の層の屈折率、および/または厚さの測定を可能としうる。
【0034】
本システムはさらに、極めて小さい容積中のごく少量の分子を効果的に捕捉および検出することを可能としうる。例えば、一つの細菌または細胞により放出されるごく少量。従来技術のシステムではそのような少数の分子は拡散および即座に強く希釈されることで通常は失われるので、従来技術のシステムで少数の分子を検出することは不可能になる。
【0035】
ナノチャネルは流体を受け入れるよう構成される。流体はナノチャネルの内側で静止していることがある。流体はナノチャネルの内側で流動していることがある。ナノチャネルには少なくとも部分的に流体を充填することができる。つまり、流体はナノチャネルの内側にある。ナノチャネルは光源から放出される光を透過する材料で作ることができる、またはそのような材料に埋め込むことができる。ナノチャネルは誘電材料で作ることができる、または誘電材料に埋め込むことができる。ナノチャネルは半導体材料に刻み込むことができる。ナノチャネルは中空コアの光ファイバ、または毛細管とすることができる。ナノチャネルの内壁の少なくとも一部は追加の層を含みうる。追加の層は生体機能層、触媒粒子、光活性分子、高分子、および/または機能性酸化物を含みうる。流体は粒子を含む。流体は液体、および/もしくは気体、または両者の混合物を含みうる。流体は、水、緩衝材、エタノール、有機溶媒、血清、細胞質、塩の水溶液、空気、アルゴン、ヘリウム、水素、NO、NO2、COのうちの一つまたは複数でありうる。粒子は、有機分子、無機分子、生体高分子、ウイルス、細胞外小胞、エクソソーム、流体中の気泡、誘電体ナノ粒子、ポリマーナノ粒子、および/または金属ナノ粒子でありうる。粒子はナノチャネルの内壁に結合、または吸着されることがある。粒子はナノチャネルの内壁に結合されない、または脱離されることがある。粒子は流体中で自由に動くことができる。
【0036】
システムはナノチャネルのアレイを含みうる。ナノチャネルのアレイを含むシステムの利点は、多重化を利用する用途が可能となりうることである。
【0037】
光源はナノチャネルを照らすよう配置される。光源は、ナノチャネルの少なくとも一部を照らすように配置可能である。光源はコヒーレント光を放出することができる。例えば、光源はレーザーまたはレーザーダイオードとすることができる。光源は準コヒーレント光を放出することができる。例えば、光源はスーパールミネッセントダイオードとすることができる。光源はインコヒーレント光を放出することができる。例えば、光源はハロゲンランプとすることができる。光源から放出される光は偏波されていることがある。
【0038】
光センサは、ナノチャネル、ナノチャネルの一部分の中の流体、および、粒子(ナノチャネルの一部分の中に存在する場合)により散乱された、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量を測定し、散乱光の量に基づいたデータを出力するよう構成される。光センサは、ナノチャネルの一部分からの光センサに到達する散乱光の量に基づいたデータを出力することができる。つまり、光センサは、ナノチャネルの一部分、ナノチャネルの一部分の中の流体、および、粒子(ナノチャネルの一部分の中に存在する場合)により散乱された、光源から放出された光の一部を検出するよう構成される。したがって、光センサは散乱されていない光を避ける、または、無視するよう構成される。例えば、散乱されていない光は鏡面的に反射された光、または光源から直接放出された光でありうる。光センサは結像面を含みうる。光センサは撮像するタイプのセンサとすることができる。
【0039】
光センサを配置してナノチャネル、流体、および粒子に散乱された散乱光の量を測定することの利点は、散乱光を遮断する、または弱める必要がないことである。より詳細には、流体中の粒子の存在を検出する場合は、ナノチャネルおよび流体に散乱された光を遮断する、および/または(例えばフィルタをかけることで)弱める必要がなく、これによりシステムの複雑さを軽減することができる。
【0040】
処理部は光センサと通信を行って散乱光の量に基づいたデータを受信するよう構成される。処理部は、有線および/または無線で通信を行うよう構成可能である。例えば、処理部はUSB、イーサネット、Firewire、Wi-Fiなどにより光センサと通信を行うことができる。処理部はさらに、受信データに基づいてナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定するよう構成される。受信データは、処理部が受信した、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量に基づいたデータである。処理部はさらに、光源から放出される光の量を調整するよう構成可能である。例えば、処理部は光センサにより検出された光の量に基づいて、光源から放出される光の量を増加させる、または減少させるように光源へ伝えることができる。処理部はさらに、受信データの変化に基づいてナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定するよう構成可能である。受信データの変化は、ナノチャネルの一部分からの第1の散乱光の量と第2の散乱光の量の間の差分に対応しうる。第1/第2の散乱光の量は、ナノチャネルの一部分の第1部分/第2部分からの散乱光でありうる。第1/第2の散乱光の量は、第1時点/第2時点におけるナノチャネルの一部分の中の一部からの散乱光でありうる。つまり、ナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在は、ナノチャネルの一部分からの散乱光の微分量または相対的変化に基づきうる。
【0041】
システムはさらに基準ナノチャネルを含みうる。基準ナノチャネルは粒子を含まないことがある。処理部はさらに、基準ナノチャネルからの更なる散乱光の量に基づいて粒子の存在を判定するよう構成可能である。
【0042】
処理部はさらに、第1時点に関する散乱光の量に基づいたデータを第2時点に関する散乱光の量に基づいたデータと比較することで粒子の存在を判定するよう構成可能であり、これは、処理部が例えば散乱光の量の時間的変化に基づいて粒子の存在を判定することができる点で有利である。つまり、ナノチャネルの一部分の中の粒子の存在は、ナノチャネルからの散乱光の微分量または相対的変化に基づいて判定することができる。
【0043】
システムはさらに、光センサの結像面上でナノチャネルの一部分を撮像するように配置される光学素子を含みうる。
【0044】
光学素子にはレンズが含まれうる。光学素子にはカメラ対物レンズが含まれうる。光学素子にはズームカメラ対物レンズが含まれうる。光学素子には他の光学部品、例えば絞り、窓、および/または光学フィルタが含まれうることを理解されたい。
【0045】
光センサの結像面上でナノチャネルの一部分を撮像するように光学素子を配置することの利点は、ナノチャネルの一部分の空間的情報を光センサにより検出できることである。これにより、ナノチャネルの一部分の中の粒子の位置を特定することができる。ナノチャネルの一部分の中の粒子の特定された位置の空間分解能は、光学素子の空間分解能により制限されることがある。
【0046】
処理部は、受信データに基づいてナノチャネルの撮像された部分のデジタル表現を作成するよう構成可能である。
【0047】
「デジタル表現」という表現は、本願の文脈の中では、デジタルバイナリ形式で記憶された情報と解釈されるべきである。
【0048】
ナノチャネルの撮像された部分のデジタル表現は処理することができる。例えば、デジタル表現における雑音は時間的または空間的平均化により減少させることができる。
【0049】
ナノチャネルの撮像された部分のデジタル表現を作成する利点は、デジタル表現はデジタルで記憶、および/または処理が可能なことである。ナノチャネルの撮像された部分のデジタル表現をデジタルで処理することは、デジタル処理によりシステムの感度、および/または正確さを高めることが可能なため、有益である。
【0050】
処理部はさらに、デジタル表現に基づいてナノチャネルの一部分からの散乱光の空間分布を求めるよう構成可能である。空間分布はデジタル画像でありうる。
【0051】
デジタル表現に基づいてナノチャネルの一部分からの散乱光の空間分布を求めることの利点は、ナノチャネルの一部分、ナノチャネルの一部分の中の流体、および/または粒子(ナノチャネルの一部分の中に存在する場合)の空間的情報をデジタル表現から抽出できることである。デジタル表現に基づいてナノチャネルの一部分からの散乱光の空間分布を求めることの更なる利点は、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量はナノチャネルの一部分の空間的位置と相関している可能性があることである。つまり、ナノチャネルの一部分の中の他の部分よりも多くの光を散乱させる、ナノチャネルの一部分の中の一部を特定することが可能となりうる。
【0052】
処理部はさらに、空間分布に基づいて、ナノチャネルの一部分に沿った粒子の位置を特定するよう構成可能である。例えば、ナノチャネルの一部分に沿った粒子の位置は散乱された光の量に関連することがある。つまり、粒子の位置は、ナノチャネルの一部分の中の他の部分よりも多くの光を散乱させる、ナノチャネルの一部分の中の一部でありうる。あるいは、粒子の位置は、ナノチャネルの一部分の中の他の部分よりも少ない光を散乱させる、ナノチャネルの一部分の中の一部でありうる。
【0053】
光学素子には顕微鏡が含まれうる。
【0054】
「顕微鏡」という表現は、本願の文脈の中では、物体の拡大像を作成するよう構成されている計器と解釈されるべきである。例えば、顕微鏡は光センサの結像面上にナノチャネルの拡大像を作成するよう構成可能である。
【0055】
顕微鏡は、光学顕微鏡、可視光顕微鏡、赤外線顕微鏡、または紫外線顕微鏡とすることができる。顕微鏡は優先的には光学顕微鏡である。システムで使用される顕微鏡の種類は光源の波長により決まりうることを理解されたい。
【0056】
システムはさらに、光センサの結像面の一部の上でナノチャネルの一部分を撮像するように配置される光学素子を含みうる。
【0057】
システムは粒子を含まない基準流体を受け入れるよう構成されている基準ナノチャネルをさらに含むことができて、光源はさらに基準ナノチャネルを照らすように配置可能であり、光学素子はさらに、結像面の一部とは異なる結像面の更なる一部の上で基準ナノチャネルの一部分を撮像するように配置可能であり、光センサはさらに、基準ナノチャネルの一部分および基準ナノチャネルの一部分の中の基準流体により散乱された、基準ナノチャネルの一部分からの光の量を測定して散乱光の基準量に基づいた基準データを出力するよう構成可能であり、処理部はさらに、光センサと通信を行って基準データを受信し、受信データおよび受信した基準データに基づいてナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定するよう構成可能である。
【0058】
関連する利点は、受信した基準データ(すなわち、散乱光の基準量と関連するデータ)を受信データ(すなわち、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量と関連するデータ)から除去することができる(例えば減算される)ため、粒子の存在をより正確に判定することが可能となりうることである。
【0059】
処理部は、受信データに基づいてナノチャネルの撮像された部分のデジタル表現を作成し、受信した基準データに基づいて基準ナノチャネルの撮像された部分の基準デジタル表現を作成するよう構成可能である。
【0060】
関連する利点は、デジタル表現および基準デジタル表現はデジタルで記憶、および/または処理が可能なことである。ナノチャネルの撮像された部分のデジタル表現、および基準ナノチャネルの撮像された部分の基準デジタル表現をデジタルで処理することは、デジタル処理によりシステムの感度、および/または正確さを高めることが可能なため、有益である。
【0061】
処理部はさらに、デジタル表現および基準デジタル表現に基づいて、ナノチャネルの一部分からの散乱光の空間分布を求めるよう構成可能である。
【0062】
デジタル表現および基準デジタル表現に基づいてナノチャネルの一部分からの散乱光の空間分布を求めることで、空間分布におけるバックグラウンド信号(すなわち、基準ナノチャネルからの散乱された光の量と関連する)を低減させることができる。
【0063】
関連する利点は、ナノチャネルの一部分、ナノチャネルの一部分の中の流体、および/または粒子(ナノチャネルの一部分の中に存在する場合)の空間的情報をデジタル表現から抽出できることである。更なる関連する利点は、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量はナノチャネルの一部分の空間的位置と相関している可能性があることである。つまり、ナノチャネルの一部分の中の他の部分よりも多くの光を散乱させる、ナノチャネルの一部分の中の一部を特定することが可能となりうる。
【0064】
処理部はさらに、空間分布に基づいて、ナノチャネルの一部分の中の粒子の位置を特定するよう構成可能である。
【0065】
より多くの/少ない光を散乱させるナノチャネルの一部分の中の一部を特定することで、ナノチャネルの一部分の中の粒子の位置を特定することが可能となりうる。例えば、粒子の位置は、ナノチャネルの一部分の中の他の部分よりも多くの光を散乱させる、ナノチャネルの一部分の中の一部でありうる。あるいは、粒子の位置は、ナノチャネルの一部分の中の他の部分よりも少ない光を散乱させる、ナノチャネルの一部分の中の一部でありうる。
【0066】
処理部はさらに、空間分布のコントラストレベルの分布に基づいて粒子の分極率を求めるよう構成可能である。
【0067】
関連する利点は、粒子に関する特性を求められることである。そのような特性は、例えばナノチャネルに存在する流体サンプル中の特定の粒子の存在を検出するのに使用可能である。
【0068】
システムは異なる時点に関するナノチャネルの一部分からの散乱光の複数の空間分布を求めるよう構成可能であり、処理部はさらに、複数の空間分布に基づいて粒子の大きさを特定するよう構成可能である。
【0069】
関連する利点は、粒子に関する特性を求められることである。そのような特性は、例えばナノチャネルに存在する流体サンプル中の特定の粒子の存在を検出するのに使用可能である。
【0070】
光源、光センサ、および光学素子は、ナノチャネルに対する暗視野顕微鏡法のために配置されることがある。つまり、ナノチャネルから散乱されていない光は光センサに到達しないことがある。
【0071】
「暗視野顕微鏡法」という表現は、顕微鏡検査技術として一般的に知られており、光センサに到達しない光が直接サンプルに照射される。つまり、暗視野顕微鏡法は、撮像される物体、例えばナノチャネルにより散乱された光だけを捕捉する。暗視野顕微鏡法に適したいくつかの構成がある。例えば、光源から放出される光線の中心部は遮断されることがあり、その結果、光線の外輪だけが物体を照らす。暗視野顕微鏡の光学素子は、典型的にはサンプルを透過する光(すなわち、サンプルにより散乱されていない光)が光センサに到達しないように配置される。暗視野顕微鏡法の構成の別の例では、光源はナノチャネルを浅い角度で照らすように配置可能であり、その結果、鏡面的に反射された光は光センサに到達しない。暗視野顕微鏡法のさらに別の例は全反射顕微鏡法でありえて、この顕微鏡法ではナノチャネル、流体、および粒子がエバネセント場によって照射される。
【0072】
光源、光センサ、および光学素子をナノチャネルに対する暗視野顕微鏡法のために配置することの利点は、散乱されていない光は光センサに到達しないことがあり、このことにより、散乱されていない光は光センサにより出力される/登録されるデータから除外される。光源、光センサ、および光学素子をナノチャネルに対する暗視野顕微鏡法のために配置することの更なる利点は、散乱光のみが、または実質的に散乱光のみが撮像されるナノチャネルのデジタル表現、例えばデジタル画像を形成するのに使用しうることである。
【0073】
光源は、ナノチャネルの外側を直接照らすように配置可能である。光源は、ナノチャネルの外側の少なくとも一部を直接照らすように配置可能である。光源は、ナノチャネルの外側からナノチャネルの外側を直接照らすように配置可能である。光源は、少なくとも一つの方向からナノチャネルの外側を直接照らすように配置可能である。
【0074】
本願の文脈の中では、「直接照らす」という表現は、光源がナノチャネルの外側に配置されて光源から放出される光がナノチャネルの外側へ作用する構成であると解釈されるべきである。そのような構成は、光ファイバでは通常そうなっている、光源が光をナノチャネルへ結合するために配置される構成とは区別する必要がある。光源から放出される光は、ナノチャネルへ作用する前に追加の光学部品、例えばフィルタ、レンズ、および/または窓を通過しうることも理解されたい。
【0075】
ナノチャネルの厚さ、および/または幅は、光源から放出される光の波長より小さくてもよい。
【0076】
本願の文脈の中では、ナノチャネルの「厚さ」および「幅」という表現は、前記ナノチャネルの横方向の空間的長さであると解釈されるべきである。
【0077】
光源が多色である場合、厚さ、および/または幅は光源から放出される光の最も長い波長よりも小さいことがある。ナノチャネルの厚さ、および/または幅は、優先的には500nm未満でありえる。ナノチャネルの厚さ、および/または幅は、さらに優先的には200nm未満でありえる。例えば、ナノチャネルは10nm~100nmの範囲の幅を有することができる。
【0078】
ナノチャネルの一部分の少なくとも一部は、粒子が機能層に結合されるよう構成されている機能層をその内壁に含みうる。
【0079】
機能層は、特定の特性を有する粒子を結合するよう構成可能である。例えば、特定の特性を有する第1種類の粒子は機能層へ結合することができて、異なる特性を有する第2種類の粒子は機能層へ結合されないことがある。
【0080】
ナノチャネルの一部分の中の一部がその内壁に粒子が機能層に結合されるよう構成されている機能層を含むことの利点は、特定の特性を有する粒子の検出を改善することが可能となりうることである。
【0081】
本発明の概念の第2態様によれば、流体中の粒子の存在を判定する方法が提供される。この方法は、粒子を含む流体をナノチャネルで受け入れ、ナノチャネルを照らし、ナノチャネル、ナノチャネルの一部分の中の流体、および、粒子(ナノチャネルの一部分の中に存在する場合)により散乱された、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量を測定し、測定された散乱光の量に基づいてナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定する、ことを含む。
【0082】
システムの上述した特徴および利点は、適用可能な場合は第2態様にも同様に当てはまる。必要以上に繰り返すことを避けるため、上記へ参照がなされる。
【0083】
測定された散乱光の量に基づいてナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定する行為はさらに、第1時点に関する散乱光の量を第2時点に関する散乱光の量と比較することを含みうる。つまり、ナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在は、ナノチャネルからの散乱光の微分量または相対的変化に基づいて判定することができる。
【0084】
方法はさらに、光センサの結像面上でナノチャネルの一部分を撮像し、光センサの結像面上で撮像されたナノチャネルの一部分のデジタル表現を作成する、ことを含みうる。
【0085】
方法はさらに、デジタル表現に基づいてナノチャネルの一部分からの散乱光の空間分布を作成することを含みうる。
【0086】
方法はさらに、デジタル表現に基づいてナノチャネルの一部分に沿った粒子の位置を特定することを含みうる。
【0087】
方法はさらに、粒子を含まない基準ナノチャネルを照らし、基準ナノチャネルから散乱された更なる散乱光の量を測定する、ことを含むことができて、ナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定する行為はさらに、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量と基準ナノチャネルからの更なる散乱光の量との比較に基づく。
【0088】
基準ナノチャネルはナノチャネルと同じ種類であってもよい。更なる散乱光の量を散乱光の基準量としてもよい。
【0089】
ナノチャネルの一部分の中の流体中の粒子の存在を判定する行為において、ナノチャネルの一部分からの散乱光の量と基準ナノチャネルからの更なる散乱光の量との比較は、以下の数式による比率となりうる。
【0090】
【0091】
ここで、I1
mおよびI2
mは、それぞれ第1時点および第2時点でのナノチャネルの一部分からの散乱光の量であり、I1
rおよびI2
rは、それぞれ第1時点および第2時点での基準ナノチャネルからの更なる散乱光の量である。
【0092】
本開示が適用可能な更なる範囲は、以下に与えられる詳細な説明から明らかになるであろう。ただし、詳細な説明および具体的な例は、本発明の概念の好ましい変形を示しているものの、本発明の概念の範囲内で様々な変更および修正がその詳細な説明から当業者には明らかとなるため、例証として与えられているに過ぎないことを理解されたい。
【0093】
それゆえ、記載されている方法およびシステムは変わりうるので、本発明の概念はそのような方法の特定のステップおよびそのようなシステムの構成部品には限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される専門用語は特定の実施形態を説明する目的のためだけで、制限する意図はないことも理解されたい。本明細書および添付の請求項で使用される場合、冠詞の「a」、「an」、「the」および「前記(said)」は、別途文脈により明確に指示されていない限り、1つまたは複数の要素があることを意味するという意図があることに留意する必要がある。したがって、例えば「装置(a unit)」または「装置(the unit)」への言及には、いくつかの装置、および同種のものが含まれうる。さらに、単語、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」、および類似の表現は、他の要素やステップを排除しない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
これより、本発明の上記および他の態様について、本発明の実施形態を示す添付の図面を参照してより詳細に説明する。図は本発明を特定の実施形態に制限すると考えられるべきではなく、むしろ、本発明の説明および理解のために使用される。
図で示されるように、層および領域の大きさは例証目的で誇張されており、したがって、本発明の実施形態の概略の構造を示すために提供される。あらゆる場所において、類似の参照数字は類似の要素を指す。
【0095】
【
図1A】ナノチャネルに対して暗視野照明を利用して流体中の粒子の存在を検出するよう適合されているシステムを示す。
【
図1B】粒子を含む流体が充填された、矩形断面を有するナノチャネルを示す。
【
図2】暗視野顕微鏡法を利用して流体中の粒子の存在を検出するよう適合されているシステムを示す。
【
図3】流体中の粒子の存在を判定する方法のブロック図である。
【
図4A】第1時点でのサンプルナノチャネルおよび基準ナノチャネルを示す。
【
図4B】第2時点での
図4Aのサンプルナノチャネルおよび基準ナノチャネルを示す。
【
図5A】ナノチャネルの撮像された部分のデジタル表現の空間分布を示す。
【
図5B】ナノチャネルの撮像された部分の(
図5Aで空間分布として示される)デジタル表現と基準ナノチャネルの撮像された部分の基準デジタル表現の間の差異に基づいて求められた空間分布を示す。
【
図6】複数の空間分布に基づくタイムラプス画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0096】
これより、本発明の概念について、本発明の概念の現時点で好ましい変形が示される添付の図面を参照し、以下でさらに詳細に説明する。ただし、本発明の概念は多くの異なる形態で実現可能であり、本明細書に記載される変形に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの変形は徹底さおよび網羅性のために提供されており、本発明の概念の範囲を当業者へ充分に伝える。
【0097】
本発明の概念から恩恵を受けうる多くの用途、および/または方法が存在し、例えば、アフィニティバイオセンシング、電気泳動、触媒反応の研究方法、溶液内の粒子の動態の研究方法である。
【0098】
図1Aおよび
図2の図は、一つのナノチャネルだけが照射されることを示しているが、これは例証目的に過ぎず、多数のナノチャネルが同時に照射されうる。
【0099】
図1Aは、ナノチャネルに対して暗視野照明を利用して流体中の粒子の存在を検出するよう適合されているシステム10を示す。
図1Aに描かれているシステム10は、基板100に埋め込まれているナノチャネル102と、光源110と、光センサ120と、処理部130とを含む。
図1Aのナノチャネル102について、
図1Bと関連させてさらに詳細に説明する。基板100は誘電材料、例えばS
iO
2で作ることができる。あるいは、基板は他の材料、例えばS
i、S
iN
x、Al
2O
3、T
iO
2、石英、および/またはポリマーで作ることができる。基板はIR透過性材料で作ることができる。ナノチャネル102は流体を受け入れるよう構成され、流体は粒子を含む。この場合、流体はH
2Oであるが、ナノチャネル102へ供給されて、それゆえナノチャネル102によって受け入れ可能な、複数の異なる液体および気体が存在する。例えば、水、緩衝材、エタノール、有機溶媒、血清、細胞質、塩の水溶液、空気、アルゴン、ヘリウム、水素、NO、NO
2、COのうちの一つまたは複数がナノチャネル102によって受け入れ可能な流体でありうる。
図1Bに示される粒子106は金属ナノ粒子とすることができる。しかし、流体に含まれうる複数の異なる粒子が存在する。例えば、粒子106は有機分子もしくは無機分子、生体高分子、流体中の気泡、および/または誘電体ナノ粒子でありうる。粒子106は5nm~100nmの範囲の大きさを有することができる。ここで、粒子106の大きさはナノチャネル102の幅より小さいことがあると理解される。
【0100】
光源110はナノチャネル102を照らすように配置される。
図1Aに示される例では、光源110は532nmの波長のコヒーレント光を放出するレーザーである。あるいは、光源110は異なる種類であってもよく、単色波長もしくは多色波長の準コヒーレント光、またはインコヒーレント光を放出してもよい。光源110は、例えばスーパールミネッセントダイオード、スーパーコンティニュウムレーザー、またはハロゲンランプであってもよい。光源110から放出される光は、基板100の大半を照らすためにビーム拡大器を通過することがある。入射光線114はナノチャネル102の一部分に入射角116で直接作用する。つまり、光源110はナノチャネル102の一部分の外側を直接照らすように配置される。言い換えれば、ナノチャネル102の一部分の外側はナノチャネル102の一部分の内側からは照射されない。入射光線114は、ナノチャネル102の一部分、ナノチャネル102の一部分の中の流体、および、粒子106(ナノチャネル102の一部分の中に存在する場合)により部分的に散乱される。散乱光108の一部は光学素子、例えばレンズ140により集光される。つまり、散乱光108は、ナノチャネル102の一部分、ナノチャネル102の一部分の中の流体、および、粒子106(ナノチャネル102の一部分の中に存在する場合)により散乱された光を含む。粒子106の存在が従来技術のシステムで判定される場合、ナノチャネル102および/または流体で散乱された光は一般的に遮断する必要がある。しかし、そのような遮断は本明細書に記載される本システム10では必要ない。その代わり、レンズ140により集光される散乱光108の一部は、ナノチャネル102の一部分、ナノチャネル102の一部分の中の流体、および、粒子106(ナノチャネル102の一部分の中に存在する場合)により散乱された光を含む。
【0101】
光センサ120はナノチャネル102の一部分からの散乱光108の量を測定するよう構成される。光センサ120はさらに、散乱光の量に基づいたデータを出力するよう構成される。
図1Aに示される例では、レンズ140は光センサ120の結像面122上でナノチャネル102の一部分を撮像するように配置される。レンズ140(光学素子)は、光センサ120の結像面122の一部の上でナノチャネル102の一部分を撮像するように配置可能である。あるいは、光学素子には、例えば窓、フィルタ、絞り、カメラ対物レンズ、ズーム対物レンズ、および/または顕微鏡などの異なる種類の光学素子、および複数の光学素子の組み合わせが含まれうる。暗視野顕微鏡法を利用するシステムについて、
図2Aに関連させて説明する。つまり、
図1Aに示されるレンズ140は他の光学素子と交換されうることを理解されたい。また、光学素子は省略してもよい。
【0102】
図1Aに見られるように、入射光線114はナノチャネル102の一部分で部分的に反射されることがある。さらに、ナノチャネル102、光源110、および光センサ120は反射光線118が光センサ120へ到達しないように配置される。つまり、光センサ120へ到達する光は散乱光108の一部を含み、反射光118を含まない。
図1Aの光センサ120は光センサ120に到達する散乱光108の量に基づいたデータを出力する。データは光センサ120に到達する散乱光108の強度に基づきうる。
図1Aには明示的に示されていないが、入射光線114は部分的に基板100を透過しうることを理解されたい。
【0103】
処理部130は、光センサ120と通信を行って、光センサ120に到達するナノチャネル102の一部分からの散乱光108の量に基づいたデータを受信するよう構成される。
図1Aに示される例では、光センサ120および処理部130はUSBなどの有線接続を介して接続される。しかし、当業者は通信に用いる複数の異なる有線および無線の代替手段があることを認識する。
図1Aに示される例では、処理部130は、受信データに基づいてナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現を作成するよう構成される。
【0104】
処理部130は、受信データに基づいてナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在を判定するよう構成される。例えば、ナノチャネル102の一部分の中の粒子106の存在は、光センサ120に到達するナノチャネル102の一部分からの散乱光108の量がいつ所定の閾値を上回る、または下回るか、として判定されうる。処理部130はさらに、受信データの変化に基づいてナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在を判定するよう構成可能である。受信データの変化は、ナノチャネル102の一部分からの第1および第2の散乱光108の量の間の差分に対応しうる。第1/第2の散乱光108の量は、ナノチャネル102の一部分の第1部分/第2部分からの散乱光でありうる。第1/第2の散乱光108の量は、第1時点/第2時点におけるナノチャネル102の一部分の中の一部からの散乱光でありうる。つまり、ナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在は、ナノチャネル102の一部分からの散乱光の相対的変化または微分量に基づきうる。
【0105】
処理部130はさらに、第1時点に関する散乱光108の量に基づいたデータを第2時点に関する散乱光108の量に基づいたデータと比較することで粒子106の存在を判定するよう構成可能である。つまり、ナノチャネル102の一部分の中の粒子106の存在は、ナノチャネル102からの散乱光108の相対的変化または微分量に基づいて判定することができる。
【0106】
処理部130はさらに、デジタル表現に基づいて光センサ120に到達するナノチャネル102の一部分からの散乱光108の空間分布を求めるよう構成可能である。例えば、光センサ120に到達するナノチャネル102の一部分からの散乱光108の空間分布は、ナノチャネル102の一部分のデジタル画像でありうる。処理部130が光センサ120に到達するナノチャネル102の一部分からの散乱光108の空間分布を求めるよう構成される場合、ナノチャネル102の一部分に沿った粒子106の位置は処理部130により特定することができる。
【0107】
また、ナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在は、光センサ120に到達する散乱光108の基準量との比較に基づいて検出することができる。例えば、粒子を含まない基準ナノチャネル104が光センサ120に到達する散乱光108の基準量を決定するのに使用可能である。また、ナノチャネル102は、サンプルナノチャネル102と呼ばれることもある。光源110の強度の変動は、したがってナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在を判定する際に考慮されうる。基準ナノチャネル104は、粒子を含まない基準流体を受け入れるよう構成可能である。光源110はさらに、基準ナノチャネル104を照らすように配置可能である。光学素子140はさらに、結像面122の一部とは異なる結像面122の更なる一部(すなわち、ナノチャネル102の一部が撮像されうる結像面122の一部)の上で基準ナノチャネル104の一部分を撮像するように配置可能である。光センサ120はさらに、基準ナノチャネル104の一部分および基準ナノチャネルの一部分の中の基準流体により散乱された、基準ナノチャネル104の一部分からの散乱光の基準量を測定し、散乱光の基準量に基づいた基準データを出力するよう構成可能である。
図1Aにはナノチャネル102からの散乱光108が示されている。しかし、
図1Aには明示的に示されていないが基準ナノチャネル104も同様に光を散乱させる。基準ナノチャネル104から散乱された光は、
図1Aでは
図1Aの視認性を向上させるために描かれていない。
【0108】
処理部130はさらに、光センサ120と通信を行って基準データを受信し、受信データおよび受信した基準データに基づいてナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在を判定するよう構成可能である。
【0109】
処理部130は、受信データに基づいてナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現を作成し、受信した基準データに基づいて基準ナノチャネル104の撮像された部分の基準デジタル表現を作成するよう構成可能である。デジタル表現および基準デジタル表現は、一般的なデジタル表現(例えばデジタル画像)の別の部分でありうる。
【0110】
ナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現の空間分布502の例が
図5Aに示されている。
図5Aの水平方向はナノチャネル102の一部分の縦方向長さを表し、
図5Aの垂直方向はナノチャネル102の一部分の横方向長さを表す。基準ナノチャネル104の撮像された部分の基準デジタル表現の空間分布(示されていない)は、
図5Aに示される、ナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現の空間分布502と類似していることがある。
【0111】
処理部130はさらに、デジタル表現および基準デジタル表現に基づいて、ナノチャネル102の一部分からの散乱光の空間分布512を求めるよう構成可能である。処理部130はさらに、空間分布512に基づいて、ナノチャネル102の一部分の中の粒子106の位置を特定するよう構成可能である。
【0112】
図5Bは、ナノチャネル102の撮像された部分の(
図5Aで空間分布502として示される)デジタル表現と基準ナノチャネル104の撮像された部分の基準デジタル表現(示されていない)の間の差異に基づいて求められた空間分布512を示す。空間分布は、ナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現と基準ナノチャネル104の撮像された部分の基準デジタル表現の比率に基づいて求めることができる。
図5Aにおけるように、
図5Bの水平方向はナノチャネル102の一部分の縦方向長さを表し、
図5Bの垂直方向はナノチャネル102の一部分の横方向長さを表す。つまり、
図5Bの空間分布512を求める際にバックグラウンド信号レベル(すなわち、基準ナノチャネル104の撮像された部分の基準デジタル表現の信号レベルと関連する)がデジタル表現の信号レベル(すなわち、ナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現の信号レベルと関連する)から減算される。ナノチャネル102の一部分の中のナノ粒子106の存在および位置は、
図5Bにおいてダークスポット506としてはっきりと見える。
【0113】
空間分布512がナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現と基準ナノチャネル104の撮像された部分の基準デジタル表現の間の差異に基づいて求められる場合、処理部130はさらに、空間分布512のコントラストレベルの分布に基づいて粒子106の分極率を求めるよう構成可能である。
図5Bに見られるように、空間分布512のコントラスト(強度コントラスト)は変動し、粒子の重さ(分子量)は変動するコントラストから求めることができる。粒子106の分極率は
図5Bのコントラストから(数式3を使って)求めることができる。
【0114】
空間分布がナノチャネル102の撮像された部分のデジタル表現と基準ナノチャネル104の撮像された部分の基準デジタル表現の比率に基づいて求められる場合、処理部130はさらに、正規化された信号変化、
【0115】
【0116】
の分布に基づき、数式3および数式6を使って粒子106の分極率を求めるよう構成可能である。
【0117】
当技術分野で周知のように、粒子106の分極率は粒子の大きさ、粒子の屈折率、およびその環境(すなわち、ナノチャネル102の一部分の中の周囲の流体)に依存しうる。粒子が生体分子(例えばタンパク質)である場合、分極率は粒子106の分子量に線形従属であると仮定することができる。そして、未知の生体分子の分子量は較正曲線から求めることができる。較正曲線は、既知の分子量の生体分子を使って決定することができる。それゆえ、較正曲線は、生体分子の既知の分子量が既知の分子量の生体分子と関連する空間分布における強度コントラストにどのように依存しているかについての情報を含みうる。
【0118】
システム10は、異なる時点に関するナノチャネル102の一部分からの散乱光の複数の空間分布512を求めるよう構成可能である。処理部130はさらに、複数の空間分布512に基づいて、粒子106の大きさを特定するよう構成可能である。粒子106の拡散係数は、当技術分野で既知の方法を使って、経時的に測定された粒子106の空間的変位量から求めることができる。粒子106の半径(粒子106が生体分子である場合、半径は流体力学半径と呼ばれることがある)は、その拡散係数に反比例することがある。そして、粒子106の大きさは較正曲線から特定することができる。較正曲線は既知の大きさの粒子(例えば生体分子)を使って決定することができる。それゆえ、較正曲線は既知の粒子の大きさが拡散係数にどのように依存するかについての情報を含みうる。
図6は、ナノチャネルからの散乱光の複数の空間分布に基づくタイムラプス画像(キモグラフ)を示し、各空間分布はある時点に対応する。この例では、粒子は6nmの半径および65kDaの分子量を持つタンパク質である。
図6の横軸は時間に対応し、
図6の縦軸はナノチャネル内の縦方向位置に対応する。
図6の各列はそれぞれの行に関連する時点に対する空間分布の横方向平均に対応する。ここで、横方向平均とはナノチャネルの横方向に対応する寸法に沿った空間分布の平均が決定されることを意味する。これにより、アレイ画像がもたらされる。例えば、空間分布がm×nの画素解像度を持つ場合、横方向平均は(どの寸法がナノチャネルの横方向に対応するかに応じて)1×nまたはm×1の画素解像度を持ちうる。つまり、
図6で見える黒い線602は、粒子がナノチャネルを通って流れて拡散する際の粒子の軌跡に対応する。
図6の粒子の位置を時間の関数として追跡することで、粒子の拡散係数を求めることができる。当技術分野で周知のように、粒子の拡散係数がわかることで、粒子の大きさを特定することができる。
【0119】
図1Bは、
図1Aに示されるシステム10のサンプルナノチャネル102の概略表現を示す。サンプルナノチャネル102は、
図1Bに示されるように、矩形断面を持つことがある。ナノチャネル102は、粒子106を含む流体を受け入れている。つまり、ナノチャネル102には粒子106を含む流体が充填されている。ナノチャネル102は、流体を含む、ナノチャネル102に結合された容器から充填されることがある。容器はマイクロ流体チャネルであってもよい。サンプルナノチャネル102の幅103Bおよび高さ103Cは、光源110により放出される光の波長よりも小さい。さらに、サンプルナノチャネルの長さ103Aは任意とすることができて、典型的には光源110により放出される光の波長より大きくすることができる。ナノチャネル102は矩形とは異なる断面、例えば正方形断面、楕円形断面、円形断面を持つことがある。ただし、断面の寸法は、好ましくは光源110により放出される光の波長より小さい。サンプルナノチャネル102の内壁の少なくとも一部は追加の層を含みうる。追加の層は生体機能層、触媒粒子、光活性分子、高分子、および/または機能性酸化物を含みうる。追加の層は、光/電磁放射で照らされると局在プラズモン共振状態を許容する金属粒子を含みうる。そのような金属粒子は、当技術分野においてはプラズモニック粒子と呼ばれることがある。
【0120】
ナノチャネル102の一部分の少なくとも一部は、
図1Bに例示されるように、粒子106が機能層101に結合されるよう構成されている機能層101をその内壁に含みうる。機能層101は、特定の特性を有する粒子を結合するよう構成可能である。例えば、特定の特性を有する第1種類の粒子は機能層101へ結合することができて、異なる特性を有する第2種類の粒子は機能層101へ結合されないことがある。
【0121】
基準ナノチャネル104を使用する場合、基準ナノチャネル104は好ましくは基準ナノチャネル104からの散乱光の量がサンプルナノチャネル102からの散乱光の量と類似するような寸法を有する。
【0122】
図2は、暗視野顕微鏡法を利用して流体中の粒子の存在を検出するよう構成されているシステム20を示す。システム20は、基板100に埋め込まれているナノチャネル102と、光源110と、光センサ120と、処理部130とを含む。
図2の基板100は、
図1Aに関連して説明された基板100に対応する。ナノチャネル102は、粒子106を含む流体を受け入れるよう構成される。つまり、ナノチャネル102には粒子106を含む流体が充填されている。基板100およびナノチャネル102に関する更なる詳細は、
図1Aおよび
図1Bに関連した説明と類似しているので、ここでは繰り返さない。それゆえ上記へ参照がなされる。
【0123】
システム20は光学素子配列212および顕微鏡対物レンズ242をさらに含む。光学素子配列212は、光源110から放出される光の一部を遮るよう構成される。この一部は、光源110から放出される光の中心部でありうる。
図2に示される例では、光学素子配列212は第1レンズ212-1、第2レンズ212-2、および光ストップ(light stop)212-3を含む。第1レンズ212-1は、光源110から放出される光を平行にするよう構成可能である。光ストップ212-3は、光源110から放出される光の中心部を遮ることで光の外輪を残すよう構成可能である。第2レンズ212-2は光の外輪を集光するよう構成可能である。第2レンズ212-2の後の光は、これ以降は入射光214と呼ばれる。光学素子配列212はここに含まれていない追加の光学部品を含みうることを理解されたい。
【0124】
入射光214はナノチャネル102に作用し、ナノチャネル102の一部分の外側からナノチャネル102の一部分の外側を直接照らす。
図2では、入射光214はナノチャネル102に作用しているとして示されている。しかし、
図2には明示的に示されていないが、入射光はさらに基準ナノチャネル104に作用しうる/照らしうる。基準ナノチャネル104から散乱された光は、
図2では
図2の視認性を向上させるために描かれていない。入射光214は、散乱することなく部分的に基板100を透過する。散乱することなく基板100を透過する光は、これ以降は透過光218と呼ばれる。光センサ120は透過光218が光センサ120へ到達しないように配置される。それゆえ、コリメート光の中心部は遮断されているので、透過光218は光センサ120へ到達しない。顕微鏡対物レンズ242は、光センサ120の結像面122上でナノチャネル102の一部分を撮像するように配置される。入射光214の一部は、ナノチャネル102の一部分、ナノチャネル102の一部分の中の流体、および、粒子106(ナノチャネル102の一部分の中に存在する場合)により散乱される。ナノチャネル102の一部分からの散乱光108の一部は顕微鏡対物レンズ242により捉えられる。したがって、顕微鏡対物レンズ242に到達するナノチャネル102の一部分からの散乱光108の一部は、結像面122上でナノチャネル102の一部分を撮像する際に用いられる。つまり、結像面122上のナノチャネル102の一部分の像は散乱光のみを含む。
【0125】
図2の光センサ120および処理部130は
図1Aにおけるそれぞれの構成部品に対応し、それらに関する詳細は、
図1Aに関連した説明と類似しているので、ここでは繰り返さない。それゆえ上記へ参照がなされる。
【0126】
これより、ナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子の存在を判定する方法30について、
図3を参照して説明する。方法30は以下のステップまたは行為を含む。
【0127】
粒子106を含む流体をナノチャネル102で受け入れること(S302)。
【0128】
ナノチャネル102を照らすこと(S304)。ナノチャネル102はその外側を直接照射されることがある。つまり、ナノチャネル102は、ナノチャネル102の外側からナノチャネル102の外側を直接照射されることがある。ナノチャネル102は光源110により照射されることがある。
【0129】
ナノチャネル102、ナノチャネル102の一部分の中の流体、および、粒子106(ナノチャネル102の一部分の中に存在する場合)により散乱された、ナノチャネルの一部分からの散乱光108の量を測定すること(S306)。散乱光108の量は光センサ120により測定可能である。
【0130】
散乱光108の測定された量に基づいて、ナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在を判定すること(S308)。粒子106の存在は、散乱光108の量が閾値を上回る、または下回ることにより判定されうる。
【0131】
方法30はさらに、光センサ120の結像面122上でナノチャネル102の一部分を撮像すること(S310)、光センサ120の結像面122上で撮像されたナノチャネル102の一部分のデジタル表現を作成すること(S312)、を含みうる。
【0132】
方法30はさらに、デジタル表現に基づいてナノチャネル102の一部分からの散乱光108の空間分布を作成すること(S314)を含みうる。
【0133】
方法30はさらに、デジタル表現に基づいてナノチャネル102の一部分に沿った粒子106の位置を特定すること(S316)を含みうる。
【0134】
方法30はさらに、粒子106を含まない基準ナノチャネル104を照らすことを含みうる。
【0135】
方法30はさらに、基準ナノチャネル104から散乱された更なる散乱光の量を測定することを含みうる。基準ナノチャネル104から散乱された更なる散乱光の量は光センサ110により測定可能である。基準ナノチャネル104から散乱された更なる散乱光の量は、ナノチャネル102の一部分からの散乱光の量が測定される(S306)のと同じ時点において、光センサ110により測定可能である。
【0136】
ナノチャネル102の一部分の中の流体中の粒子106の存在を判定する行為(S308)はさらに、ナノチャネル102の一部分からの散乱光108の量と基準ナノチャネル104からの更なる散乱光の量との比較に基づきうる。
【0137】
当業者は、方法30は連続的に説明されたにも関わらず、いくつかの行為は同時に、または本明細書で記載されたのとは異なる順序で実行可能であることを認識する。例えば、ナノチャネル102を照らす行為S304は、粒子106を含む流体をナノチャネル102で受け入れることS302より先に行うことができる。
【0138】
これより、ナノチャネル102の部分402の中の流体中の粒子106の存在の判定について、
図4Aおよび
図4Bを参照して説明する。
【0139】
図4Aは、第1時点における、円形断面を有する基準ナノチャネル104およびサンプルナノチャネル102を示す。基準ナノチャネル104およびサンプルナノチャネル102は、
図1Aおよび
図2に関連して説明された基板100に埋め込まれたナノチャネルでありうる。基準ナノチャネル104からの更なる散乱光の量は光源110の強度変動を決定するのに使用することができる。
【0140】
図4Aのナノチャネル102は、粒子106を含む流体を受け入れている。
図4Aにおいて、ナノチャネル102の部分402からの散乱光の第1量I
1
mを測定することができる。ナノチャネル102の部分402からの散乱光の第1量は、ナノチャネル102の部分402およびナノチャネル102の部分402の中の流体により散乱された光を含む。粒子106はナノチャネル102の部分402の中には存在しないため、ナノチャネル102の部分402から散乱された光の第1量には粒子106により散乱された光は含まれない。つまり、散乱光の量は粒子106に影響されない。ナノチャネル102の部分402からの散乱光の第1量を測定するのと同時に、基準ナノチャネル104からの更なる散乱光の第1量I
1
rを測定することができる。
【0141】
図4Bは、第2時点における
図4Aの基準ナノチャネル104およびサンプルナノチャネル102を示す。
図4Bにおいて、ナノチャネル102の部分402から散乱された光の第2量I
2
mを測定することができる。ナノチャネル102の部分402からの散乱光の第2量は、ナノチャネル102の部分402、ナノチャネル102の部分402の中の流体、および粒子106により散乱された光を含む。ナノチャネル102の部分402からの散乱光の第2量を測定するのと同時に、基準ナノチャネル104からの更なる散乱光の第2量1
2
rを測定することができる。
【0142】
そして、正規化された信号変化、
【0143】
【0144】
を以下の数式に従って比率として特定することができる。
【0145】
【0146】
そして、ナノチャネル102の部分402の中の流体中の粒子106の存在は、正規化された信号変化が閾値より大きい場合に判定されうる。閾値は所定の閾値とすることができる。閾値は、信号雑音レベルの標準偏差の倍数とすることができる。例えば、閾値は信号雑音レベルの標準偏差の3倍とすることができる。
【0147】
比率I2
m/I1
mは、ナノチャネル102の異なる空間部分から測定された散乱光の第1量(I1
m)および第2量(I2
m)に基づくことがあることを理解されたい。そのような場合、散乱光の第1量および第2量は同じ時点において測定することができる。比率I2
r/I1
rは対応する方法で特定することができる。
【0148】
当業者は、本発明の概念は前述の好ましい変形に決して限定されないことを認識する。それどころか、多くの修正および変形が添付の請求の範囲内で可能である。
【0149】
例えば、ナノチャネルは
図1Aおよび
図1Bに例示される誘電材料に埋め込まれている必要はなく、代わりに、中空コアのファイバまたは毛細管であってもよい。
【0150】
加えて、当業者は、開示された変形に対する変化を、特許請求される発明を実践する際に図面、本開示、および添付の請求項を検討することで、理解、達成することができる。
【国際調査報告】