(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-30
(54)【発明の名称】細胞外小胞(EV)除去培地を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20220323BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220323BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220323BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K35/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569589
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(85)【翻訳文提出日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 EP2020053049
(87)【国際公開番号】W WO2020161267
(87)【国際公開日】2020-08-13
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】521353229
【氏名又は名称】エタ・フランセ,セルヴィス・ドゥ・サンテ・デ・アルメ・ルプレザンテ・パル・ル・デレグ・ジェネラル・ドゥ・ラルメメン
【氏名又は名称原語表記】ETAT FRANCAIS, SERVICE DE SANTE DES ARMEES REPRESENTE PAR LE DELEGUE GENERAL DE L’ARMEMENT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ユザン,ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ラタイヤード,ジャン-ジャック
(72)【発明者】
【氏名】モーデュイ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】バンゼット,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】グリネ,シルヴィ
(72)【発明者】
【氏名】ペルツァー,ジュリエット
(72)【発明者】
【氏名】リヴァル,バスチアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB31
4B065BD00
4B065BD04
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
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4C087BB64
4C087MA13
4C087MA17
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4C087MA56
4C087MA58
4C087MA59
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZC02
(57)【要約】
細胞治療は、ヒトにおける広範囲の適応症において関心が高まっている。多くの場合、治療効果の大部分は細胞分泌因子に依拠し、細胞外小胞(EV)は、細胞治療のための無細胞代理物として提案される。現在、EV生産段階では、ヒト細胞を無血清培地に入れてEVを生産するが、細胞生存は限定的である。今回、本発明者らは、GMP適合性ヒト細胞由来EVのための新たな手順であって、ヒト血小板溶解物(HPL)を生産し、そこから接線流濾過によりEVを除去してEV除去HPLを得る新たな手順について記載する。次いで、前記EV除去HPLは、目的の細胞によるEVの産生のための培養培地として使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地から細胞外小胞を除去するための方法であって、i)100kDa~50nmの細孔径を有するフィルタを用いて接線流濾過により前記培地を濾過する工程であって、膜間圧力差(TMP)が1~6psiであり、せん断速度が2000~8000s
-1である工程、及びii)前記接線流濾過後に透過液を収集する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記培地が無血清培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地が血小板溶解物、より具体的にはヒト血小板溶解物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
約100kDa、約150kDa、約200kDa、約250kDa、約300kDa、約350kDa、約400kDa、約500kDa、約550kDa、約600kDa、約650kDa、約700kDa、約750kDa、約750kDa、約800kDa、約850kDa、約900kDa、約950kDa、約1000kDaの細孔径が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細孔径が約500kDaである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フィルタが、フィルタ膜の束を含む中空糸モジュールを含み、各フィルタ膜が中空管の形態で成形されている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
約1psi、約1,5psi、約2psi、約2,5psi、約3psi、約3,5psi、約4psi、約4,5psi、約5psi、約5,5psi又は約6psiのTMPが使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記TMPが約2psiに設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
約2000s
-1、約2500s
-1、約3000s
-1、約3500s
-1、約4000s
-1、約4500s
-1、約5000s
-1、約5500s
-1、約6000s
-1、約6500s
-1、約7000s
-1、約7500s
-1又は約8000s
-1のせん断速度が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記せん断速度が約4000s
-1に設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法により取得可能な細胞外小胞除去培地。
【請求項12】
細胞の集団から細胞外小胞を生産するための方法であって、i)請求項1に記載の方法によりEV除去培地を調製する工程、ii)前記細胞によるEVの産生を可能にする条件下、工程i)で調製された前記EV除去培地を補充した培養培地中で、前記細胞の集団を培養する工程、及びiii)工程ii)で生産されたEVを回収する工程を含む、方法。
【請求項13】
細胞の集団が間葉系幹細胞の集団である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法により取得可能な細胞外小胞の集団。
【請求項15】
治療において使用するための、請求項12に記載の細胞外小胞の集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、目的の細胞の集団からEVを生産するために適切な細胞外小胞(EV)除去培地を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
ヒト細胞は、複数の洗練された伝達様式を使用する。これらとしては、サイトカイン、ケモカイン又は成長因子の分泌、異なる細胞表面マーカーの発現による直接的な細胞伝達、及びさらにはタンパク質、DNA、mRNA、miRNA等を含有する細胞外小胞(EV)の産生が挙げられる。細胞外カーゴを介したこの細胞間伝達は(細菌からヒトまでの)種間で非常に保存されているので、EVは、細胞間で情報を交換する非常に効率的でロバストかつ経済的な方法である可能性がある。
【0003】
EVは、老廃物又は薬物の蓄積から細胞を保護し、生理機能及び病理に寄与し得るので、バイオマーカーから抗ガン療法に至る無数の潜在的な臨床応用を有する。それらはまた、血液脳関門を通過し得る。これらのEVは、それらが由来する細胞のほとんどの効果を再現し、治療目的でそれらの細胞の代替物として使用され得る。
【0004】
EVは、大規模生産中に特性評価され、保管及び運搬のための便利な方法で凍結され、治療剤として即時に利用可能でなければならない。典型的には、EVは、超遠心分離、接線濾過、免疫捕捉、沈殿等を含む様々な方法を使用して培養培地から単離され得る。細胞を培養するために一般的に使用される培養培地は、細胞分泌EVから区別及び分離され得ない大量のEVを含有する血清又は血小板溶解物を必要とする。したがって、培養細胞からのEVの精製及び特性評価は、血清(例えば、ウシ胎仔血清、FBS)又はヒト血小板溶解物(HPL)に含まれる外因性EVの事前排除を必要とする。(今日最も使用されている)不十分な解決策は、これらのEVの生産段階中に、血清又は血小板溶解物の非存在下で細胞をインキュベーションすることである。しかしながら、これらの培養条件はストレスフルであり、HPL又はFBS含有培地中の初期培養条件で観察されたものと比べて細胞の生理機能を変化させる。また、これらの飢餓条件では、細胞を長期間培養し得ず、これがEVの生産を大幅に制限する。別の選択肢は、(成長因子及び添加物の特定のカクテルを含有する)無血清又はHPL完全培地を使用することであろう。しかしながら、これらの培地は重大な制限を有し、それらは非常に細胞特異的であり、これらの培地を用いていくつかの細胞を成長させ得ず、それらは非常に高価であり、大量の馴化培地を生産する可能性を大幅に制限する。これらの問題を部分的に克服する1つの方法は、市販の「エクソソームフリー」血清を使用することであろう。しかしながら、これらの調製物は90%除去にすぎない。このような量のウシEVの残存は、これらの小胞の臨床使用を妨げる。また、規制当局は、細胞を増幅する工程においては動物成分の使用を避けることを推奨するため、FBSは除外される。FBSによる潜在的な汚染リスクは、生体異物不含培養条件の使用を好むことにつながる。その結果として、生体異物不含培養条件もまた、EV生産に考慮されなければならない。これらの条件では、HPLのみがこのような可能性を提供する。HPLは、ヒト細胞を単離、増幅及び維持するための有用なFBS代替物である。しかしながら、これまで、培養細胞の高精製EVを生産するためのEV除去HPLの生産及び使用は報告されていない。
【発明の概要】
【0005】
特許請求の範囲により定義されるように、本発明は、目的の細胞の集団からEVを生産するために適切な細胞外小胞(EV)除去培地を調製するための方法に関する。
【0006】
発明の詳細な説明:
細胞治療は、ヒトにおける広範囲の適応症において関心が高まっている。多くの場合、治療効果の大部分は細胞分泌因子に依拠し、細胞外小胞(EV)は、細胞治療のための無細胞代理物として提案される。現在、EV生産段階では、ヒト細胞を無血清培地に入れてEVを生産するが、細胞生存は限定的である。今回、本発明者らは、GMP適合性ヒト細胞由来EVのための新たな手順について記載する。ヒト血漿溶解物(HPL)を生産し、続いて、接線流濾過によりEVを除去してEV不含HPLを得る。次いで、目的の細胞によるEVの産生のための培養培地として、前記EV不含HPLを使用し得る。
【0007】
したがって、本発明の第1の目的は、培地から細胞外小胞を除去するための方法であって、i)100kDa~50nmの細孔径を有するフィルタを用いて接線流濾過により前記培地を濾過する工程であって、膜間圧力差(TMP)が1~6psiであり、せん断速度が2000~8000s-1である工程、及びii)前記接線流濾過後に濾過生成物を収集する工程を含む方法に関する。
【0008】
本明細書で使用される場合、細胞培養に関して使用される「培地」という用語は、細胞の周囲の環境の成分を含む。いくつかの実施態様では、培地は無血清培地である。本明細書で使用される場合、「無血清」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト又は動物血清を欠くと理解される。いくつかの実施態様では、培地は、血小板溶解物、より具体的にはヒト血小板溶解物である。本明細書で使用される場合、「血小板溶解物」という用語は、血小板溶解の産物を指す。血小板溶解物はまた、溶解された血小板が含まれる任意の培地を含み得る。凍結及び融解は、本開示において血小板を溶解させるための典型的な方法であるが、唯一の方法ではない。典型的には、せん断力の使用による機械的溶解は、溶解物を生産するために企図される別の方法である。典型的には、細胞を低張液に入れることにより作用する溶解バッファーは、さらに別の選択肢である。溶解プロセスは、これらの方法の組み合わせからなり得る。いくつかの実施態様では、得られた溶解物は、細胞培養培地と組み合わされる。いくつかの実施態様では、無血清血小板溶解物培地は、PLTMax(登録商標)血小板溶解物を含む。例えば、PLTMax(登録商標)血小板溶解物は、フィーダー細胞を含まない無血清血小板溶解物含有培地の総重量を基準にして5wt%の量で存在し得る。
【0009】
本明細書で使用される場合、「細胞外小胞」又は「EV」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、重複する組成、密度及びサイズ(直径30から>1000nmの範囲)を有する異なるタイプの膜に囲まれた構造の総称である。International Society for Extracellular Vesicles (ISEV)にしたがって、この用語は、限定されないが、エキソソーム、エクトソーム、微小胞粒子アポトーシス小体、アルゴソーム、ブレブ形成小胞、出芽小胞、デキソソーム、エクトソーム、エキソソーム様小胞、エキソソーム、エキソベシクル、細胞外膜小胞、マトリックス小胞、膜粒子、膜小胞、微粒子、微小胞、ナノ小胞、オンコソーム、プロミノソーム、プロスタソーム、放出微小胞、放出小胞及びトレロソームを含む。これまで、EVは、全ての細胞タイプから分泌されると考えられており、これまでに分析された全ての生体液(血清、尿/血漿、唾液、脳脊髄液等)中に大量に存在する。EVは、約10nm~約5000nm(例えば、約50nm~1500nm、約75nm~1500nm、約75nm~1250nm、約50nm~1250nm、約30nm~1000nm、約50nm~1000nm、約100nm~1000nm、約50nm~750nmなど)の直径(又は粒子が球状ではない場合には最大寸法)を有し得る。
【0010】
本明細書で使用される場合、「除去する」という用語は、濾過工程後の培地中のEVの完全な除去を指し得る。
【0011】
本明細書で使用される場合、「接線流濾過」又は「TFF」という用語は、濾過により除去すべきEVを含有する培地を、フィルタ膜の平面に対して接線方向で高速に循環させるプロセスを指す。このような濾過では、膜の長さに沿って圧力差を適用して、フィルタを通して流体及び濾過可能な溶質を流す。本発明によれば、EVの全てが保持液中に留まるのに対して、培地の他の成分は透過液(これを供給リザーバーに再循環させて、さらなるサイクルで再濾過し得る)に入るように、本発明で使用されるフィルタは選択されるであろう。以下で使用される場合、「保持液」という用語は、TFFデバイス中のフィルタの表面を流れるがフィルタを通過しない材料を指す。流体組成物がTFFデバイスを通って流れると、TFFフィルタの平均細孔径よりも大きなサイズを有する粒子(例えば、EV)はフィルタを通過し得ず、保持液の成分として残る可能性がある。以下で使用される場合、「透過液」という用語は、TFFデバイス中のフィルタを通過する材料を指す。流体組成物がTFFデバイスを通って流れると、TFFフィルタの平均細孔径よりも小さなサイズを有する粒子はフィルタを通過して、透過液の成分になり得る。
【0012】
フィルタ膜は、培地の通過を可能にするために十分に大きな細孔径であって、EVを保持するために十分に小さな細孔径を有する。したがって、TFFに使用されるフィルタは細孔径を特徴とする。本明細書で使用される場合、「細孔径」という用語は、固定相が拒絶するか又は膜がサンプル側に保持する最小粒子の平均サイズを指す。サイズは、典型的には、粒径又は分子量で表される。膜細孔径は通常はkDaで表され、膜が保持する可能性がある最小粒子又は高分子の平均分子量を指す。あるいは、膜細孔径はナノメートル(nm)で表され得、膜が保持する可能性がある最小粒子の直径を指す。直径は、類似の形状の分子(例えば、球形分子)の分子量に比例する。本発明者らは、100kDa~50nmの細孔径が好ましいことを見出した。例えば、約100kDa、約150kDa、約200kDa、約250kDa、約300kDa、約350kDa、約400kDa、約500kDa、約550kDa、約600kDa、約650kDa、約700kDa、約750kDa、約750kDa、約800kDa、約850kDa、約900kDa、約950kDa、約1000kDaの細孔径が使用され得る。理想的には、細孔径は約500kDaに設定される。本発明のフィルタは、典型的には、フィルタの領域にわたって分布するいくつかの細孔を含む。いくつかの実施態様では、フィルタは、細孔径の小さな変動を伴う細孔径を有する。例えば、細孔径の変動は、約±20%又は約+0~約20%の範囲内であり得る。
【0013】
フィルタ膜は、任意の適切な材料から作られ得る。このようなフィルタとしては、限定されないが、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酢酸/硝酸細胞セルロース、ポリスルホン、改変ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン及びポリアミドの微多孔質膜が挙げられる。他のフィルタ、例えばセラミックフィルタ及び金属フィルタも使用され得る。親水性及び疎水性の帯電フィルタ及び非帯電フィルタは両方とも使用され得る。いくつかの実施態様では、親水性フィルタが好ましい場合がある。いくつかの実施態様では、フィルタは、フィルタ膜の束を含む中空糸モジュールを含み、各フィルタ膜は中空管の形態で成形される。この場合、透過液が膜を通過してシェル側に至るようにフィードストリームがチューブの管腔にポンピングされ、そこでそれが除去される。典型的には、中空管は、約0.1~約2.0mmの直径を含む。いくつかの実施態様では、フィルタ膜は、少なくとも0.5mmの内径を有する。いくつかの実施態様では、フィルタは、セパレータースクリーンの交互層の有無にかかわらず、膜の層を含む平板(又はカセット若しくはカプセル)モジュールを含み、一緒にスタッキングされ、パッケージにシーリングされる。供給流体はスタックの一端の交互チャネルにポンピングされ、透過液は膜を通過して透過液チャネルに至る。フィルタ膜は、有効表面積にしたがって変動し得る。有効膜表面積は典型的にはcm2で表され、培地に曝露されるフィルタ膜の全表面を指す。中空糸膜の有効表面積は、繊維の平均直径及び有効長並びに繊維の総数に依存する。
【0014】
本発明によれば、所定の膜間圧力差がプロセス中に適用される。本明細書で使用される場合、「膜間圧力差」又は「TMP」という用語は、フィルタを通して流体及び濾過可能な溶質を流すために濾過膜の長さに沿って適用される圧力差勾配を指す。TMPの測定単位は、ポンド/平方インチ又はpsiである。TMPの式は、TMP=Pf-Pp(式中、Pfは膜の給水側の圧力を表し、Ppは膜の濾液側の圧力を表す)である。理想的には、EVの効率的な除去を維持しながら、膜を通過する高フラックスの流体が達成されるように、膜間圧力差は選択される。本発明者らは、1psi~6psiのTMPが好ましいことを見出した。例えば、約1psi、約1,5psi、約2psi、約2,5psi、約3psi、約3,5psi、約4psi、約4,5psi、約5psi、約5,5psi又は約6psiのTMPが使用され得る。理想的には、膜間圧力差は約2psi(13790Pa)に設定される。
【0015】
本発明によれば、所定のせん断速度がプロセス中に適用される。本明細書で使用される場合、「せん断速度」という用語は、層流を特性評価するために使用されるパラメータを指す。せん断速度のSI測定単位はs-1であり、「逆数秒」又は「逆秒」として表される。せん断速度(γ)の式は、γ=f(k)6Q/ab2(式中、γはせん断速度(s-1単位)であり、Qは流速(ml/秒)であり、a=スリット幅(cm)であり、b=スリット高さ(cm)であり、f(k)はシステムの物理パラメータの関数である)である。理想的には、EV完全性を維持し、フィルタ膜の表面上のゲル層の形成を回避しながら、フィルタを通る高フラックスの流体が達成されるように、せん断速度は選択される。典型的には、せん断速度は、流速をコントロールすることにより調整され得る。本発明者らは、2000~8000s-1のせん断速度が好ましいことを見出した。例えば、約2000s-1、約2500s-1、約3000s-1、約3500s-1、約4000s-1、約4500s-1、約5000s-1、約5500s-1、約6000s-1、約6500s-1約7000s-1、約7500s-1又は約8000s-1のせん断速度が使用され得る。理想的には、せん断速度は約4000s-1に設定される。
【0016】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、目的の1つ以上の値に適用される場合、記載されている参照値と同様の値を指す。いくつかの実施態様では、「約」という用語は、特に指定がない限り又は文脈上明白ではない限り、記載されている参照値のプラスマイナス25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満の範囲内の値の範囲を指す。
【0017】
多くのTFFシステムが市販されている(例えば、GE Healthcare及びSpectrum Labsから入手可能なものなどの中空糸を使用する)。典型的には、デバイスは、クロスフローチャンバー及び濾液チャンバーを含む。フィルタは、クロスフローチャンバーと流体連結した一方の面(保持液面)と、濾液チャンバーと流体連結した他方の面(透過液面)との間に配置される。クロスフローチャンバー、濾液チャンバー及びフィルタは、リムーバーユニットを含む。培地は、培地が、フィルタの保持液面に対して実質的に平行にチャンバーに入るようにフィルタの保持液面に隣接して典型的に配置される流体入口を通ってクロスフローチャンバーに入る。典型的には、流体は、フィルタの保持液面に対して垂直にクロスフローチャンバーの一部に通常位置する流体出口を通ってクロスフローチャンバーから除去される。いくつかの実施態様では、培地は、培地をクロスフローチャンバーにポンピングすることにより、フィルタの保持液面を通過する。フィルタへの流体のクロスフローを駆動するために使用されるポンプは、「クロスフローポンプ」又は「再循環ポンプ」と称される。クロスフローポンプは、EVへの実質的な損傷を引き起こさずに、指定の入力速度で流体の流れをチャンバー及びフィルタに導入するために十分なクロスフローチャンバーと流体連結した任意のポンピングデバイスを含み得る。本発明において使用するために適切なクロスフローポンプとしては、例えば、蠕動ポンプ、ピストンポンプ、ダイアフラムポンプ又はローラーポンプが挙げられ得る。蠕動ポンプは、例えば、「閉鎖」系の一部としてTFFデバイスを維持することが望まれる場合に使用され得る。
【0018】
EV除去培地は、様々な用途を有し得る。特に、前記EV除去培地は、目的の細胞タイプからのEVの生産に使用され得るので、生産されたEVが、培養培地中に既に存在するいくつかのEVにより汚染されないことを可能にする。
【0019】
したがって、本発明のさらなる目的は、細胞の集団からEVを生産するための方法であって、i)本明細書に開示される方法によりEV除去培地を調製する工程、ii)前記細胞によるEVの産生を可能にする条件下、工程i)で調製された前記EV除去培地を補充した培養培地中で、前記細胞の集団を培養する工程、及びiii)工程ii)で生産されたEVを回収する工程を含む方法に関する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、任意の真核細胞を指す。真核細胞としては、限定されないが、卵巣細胞、上皮細胞、循環免疫細胞、造血細胞、骨髄細胞、循環血管前駆細胞、心臓細胞、軟骨細胞、骨細胞、ベータ細胞、肝細胞及びニューロン等が挙げられる。また、この用語は多能性幹細胞を含む。本明細書で意図される場合、「多能性幹細胞」という表現は、1つ以上の細胞タイプで分化する傾向がある分裂コンピテント細胞に関する。好ましくは、多能性幹細胞は未分化のものである。多能性幹細胞は、幹細胞、特に成体幹細胞(例えば、間葉系幹細胞(MSC))及び胚性幹細胞を包含する。この用語はまた、人工多能性幹細胞(IPS)を包含する。したがって、この用語は、精製初代細胞及び不死化細胞株を含む。この用語はまた、懸濁液中の細胞(例えば、循環白血球(PBMC))又は接着細胞(例えば、内皮細胞)を指す。
【0021】
いくつかの実施態様では、細胞は懸濁液中にある。いくつかの実施態様では、せん断応力は、前記細胞懸濁液に適用される。
【0022】
あるいは、細胞は接着細胞からなり得る。例えば、前記細胞は細胞培養表面に接着する。「細胞培養表面」又は「細胞培養マトリックス」という用語は、細胞培養に適切なあらゆるタイプの表面又はマトリックスを指す。「細胞培養表面」という用語は、限定されないが、組織培養プレート、ディッシュ、ウェル又はボトル、及びバイオリアクターにおいて使用される任意の培養支持体、例えばローラーボトル、プレートスタック、粒子状支持体(マイクロキャリアを含む)、繊維又は膜を含む。特定の実施態様では、培養表面は、培養プレート、ディッシュ、ウェル又はボトルのプラスチック表面である。細胞培養表面は、細胞の接着と適合性であるべきである。
【0023】
当技術分野で公知の任意の細胞培養培地が適切であり得、典型的には、培養培地はある量のカルシウム(Ca2+)を含む。典型的には、カルシウムの濃度は、細胞外カルシウムのin vivo生理学的濃度に対応する。
【0024】
典型的には超遠心分離、限外濾過、サイズ排除クロマトグラフィー、沈殿等を伴う当技術分野で周知の任意の方法は、生産されたEVを回収するために使用され得る。いくつかの実施態様では、EVは、親細胞からのEVのディファレンシャルな分離に適切な超遠心分離により濃縮され得る。特定の実施態様では、前記方法は、細胞の上清から目的のEVを単離することからなる工程をさらに含む。EVを単離するための標準的な方法は当技術分野で周知である。例えば、前記方法は、細胞の上清中に存在するEVの集団を収集すること、及び目的のEVの特定の表面マーカーに対するディファレンシャルな結合パートナーを使用することからなり得、EVは、前記結合パートナーにより前記表面マーカーに結合される。いくつかの実施態様では、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)は、上清中で所望のEVを分離するために使用され得る。いくつかの実施態様では、磁気ビーズは、EVを単離するために使用され得る(MACS)。
【0025】
いくつかの実施態様では、EVは、薬剤、例えば目的の小分子、タンパク質又は核酸分子をロードされる。薬剤をEVにロードするための方法は当技術分野で公知であり、リポフェクション、エレクトロポレーション及び任意の標準的なトランスフェクション方法が挙げられる。いくつかの実施態様では、目的のポリヌクレオチド又はポリペプチド又は小分子を含むEVは、ポリヌクレオチド若しくはポリペプチドを過剰発現させるか、又は培養液中で小分子を細胞にロードし、続いて間接的に改変されたEVを培養細胞から単離することにより得られる。いくつかの実施態様では、目的のポリペプチド又はポリペプチド又は小分子を含むEVは、エレクトロポレーション(ポリヌクレオチド又はポリペプチド)、EV表面への共有結合的若しくは非共有結合的カップリング(ポリヌクレオチド又はポリペプチド又は小分子)又は単純なコインキュベーション(ポリヌクレオチド又はポリペプチド又は小分子)により、EVへの目的の分子を予め精製されたEVにロードすることにより生成される。
【0026】
EVは、典型的には、本発明の方法により取得可能なEVの実質的に純粋な均一集団として調製される。本明細書で使用される場合、「実質的に純粋な均一集団」という用語は、前記細胞EVの総数の大部分(例えば、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%)が目的のEVの特定の特徴を有する細胞EVの集団を指す。
【0027】
本発明の細胞EVの集団は、適切な培地中で容易に保存され得るので、細胞EVのバンクを形成するように保管され得る。
【0028】
いくつかの実施態様では、本明細書に開示される方法により調製されたEVは、治療における使用に特に適切である。従来の製薬慣行は、化合物を投与するための適切な製剤又は組成物を、疾患又は障害を患っている患者に提供するために用いられ得る。投与は、患者が症候を示す前に開始し得る。任意の適切な投与経路が用いられ得、例えば、投与は、局所、非経口、静脈内、動脈内、皮膚、皮下、腫瘍内、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼科、脳室内、肝内、被膜内、髄腔内、嚢内、腹腔内、鼻腔内、エアロゾル、坐剤又は経口投与であり得る。例えば、治療用製剤は、液体溶液又は懸濁液の形態であり得;経口投与の場合には、製剤は、錠剤又はカプセルの形態であり得;鼻腔内製剤の場合には、粉末、点鼻薬又はエアロゾルの形態であり得る。例えば、皮膚投与は、ドレッシング又はクリームの形態であり得る。
【0029】
EVは、典型的には、疾患又は症状の治療を提供するために、治療有効量(例えば、病状を予防、排除又は軽減する量)でヒト患者に投与される。本発明のEVの好ましい投与量は、障害のタイプ及び程度、特定の患者の全体的な健康状態、化合物賦形剤の製剤化及びその投与経路などの変数に依存する可能性がある。
【0030】
したがって、いくつかの実施態様では、次いで、本発明のEVを薬学的に許容し得る希釈剤、担体又は賦形剤と混合して、疾患又は障害を患っている患者に投与され得る医薬組成物を形成し得る。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容し得る担体又は賦形剤」という用語は、本発明の細胞EVの生物学的活性の有効性を妨げない担体培地であって、それが投与される濃度で宿主に対して過度に毒性ではない担体培地を指す。「担体」という用語は、本発明の細胞EVと共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。組成物はまた、所望により、少量の湿潤剤若しくは乳化剤又はpH緩衝剤を含有し得る。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤、ドレッシング、クリーム、軟膏の形態をとり得る。適切な医薬担体の例は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" by E. W. Martinに記載されている。このような組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するために、適切な量の担体と一緒に、好ましくは精製形態で、治療有効量の前記EVの集団を含有するであろう。製剤は投与様式に合うものとすべきである。
【0031】
本発明は、以下の図及び実施例によりさらに説明される。しかしながら、これらの実施例及び図は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】細孔径500kDaの中空糸フィルタによるHPL濾過後の膜間圧力差(psi)の関数としてのリットル/平方メートル/時(LMH)として表される透過液フラックス。
【
図2】細孔径100kDa(三角形)、500kDa(ひし形)又は50nm(正方形)の中空糸フィルタによるHPL濾過後の保持液画分の濃縮係数の関数としてのリットル/平方メートル/時(LMH)として表される透過液フラックス。
【
図3】HPL(HPL mix 41)、100kDa、500kDa及び50nm HPL透過液のタンパク質含有量(OD280)のサイズ排除クロマトグラフィー分析。
【
図4】100kDa、500kDa及び50nm HPL保持液のタンパク質含有量(OD280)のサイズ排除クロマトグラフィー分析。
【
図5】接線流濾過によるHPLからのEV除去のナノ粒子追跡分析(NTA)定量。EVの集団の強度対サイズ描写。サンプルの希釈及び希釈剤(PBS)中のEVの存在を考慮すると、この場合に得られた除去率は99.8%である。
【
図6】3サイクルの72時間のEV生産で得られた細胞の数。3つの条件が比較されている:培地、培地+5%のEV不含HPL及び培地+8%のEV不含HPL。結果は比として示されている。EV不含HPL条件の細胞の数は、同じ時点における培地条件の数と比べて表されている。
【
図7】5%EV不含HPLを補充したα-MEM中で72時間インキュベーションしたMSC由来馴化培地のNTA定量。EV不含HPL含有培地中でMSCにより産生されたEVの集団の強度対サイズ描写。
【
図8】3サイクルの72時間のEV生産で得られた馴化培地中のEV濃度。3つの条件が比較されている:培地、培地+5%のEV不含HPL及び培地+8%のEV不含HPL。
【実施例】
【0033】
実施例1:
本発明者らは、ヒト血小板溶解物(HPL)からEV除去培地を生産するための新たなプロトコールを提案する。このために、本発明者らは、Spectrum Laboratoriesにより提案された接線流濾過(TFF)システムを採用することにした。このデバイスのR&Dバージョン(KrosFlo Research IIi)を中空糸濾過システムと組み合わせたものは、1ml~10Lの範囲のサンプル量の限外濾過(1~1000kDaの分子量)及び/又は精密濾過(0.05~0.65ミクロンのサイズ)を可能にする。連続供給速度のコントロールは、濾過プロセスが一定のせん断速度で作動することを可能にする。濾過は、3つの圧力センサー(供給、保持液及び透過液センサー)により完全にコントロールされる。自動背圧バルブに接続されているので、それらは、膜間圧力差(TMP)のコントロールを可能にして、プロセスの最大の再現性を保証する。提案されているフィルタの範囲は、異なる生体液(血清、尿、脳脊髄液等)及び培養細胞により馴化された培地に含まれる可溶性生体分子(主にタンパク質)の分離及び濃縮を可能にする。
【0034】
このシステム(これは、Spectrum Labs disposable Module-Bag-Tubing (MBT)セットで作動させる場合、完全にアセンブルされたTFFのための使い捨てプロセス流路である)は、臨床グレードの生産ユニットの規制要件と適合性である。このガンマ-滅菌MBTセットは、下流TFF限外濾過への溶液の滅菌処理のために設計されている。フィルタ、圧力変換器、チューブ及びフィッティングを含む使い捨て流路は、相互汚染の可能性を完全に排除する。最後に、このプロセスは完全にスケーラブルであり、EV除去させるべきHPLの容量に合う濾過面と共に中空糸を使用することを可能にする。これは、研究所生産のコスト削減を可能にする。
【0035】
最適化された限外濾過パラメータ(フィルタ表面、せん断力、TMP及び膜孔径(又はMWカットオフ))を使用して、本発明者らは、このシステムが、可溶性タンパク質部分からHPLの小胞成分(30nmよりも大きな小胞)を分離するために適切であることを見出した。
【0036】
せん断力:循環速度により提供され、フィルタ膜に対して接線方向に適用されるこの力は、膜表面から任意の未濾過材料を永久に一掃して、詰まりを防止する。それは(8×速度(m.s-1))/繊維内径(m)として計算され、秒-1の単位である。
【0037】
4,000~8,000s-1の中間せん断力を提供する循環速度(供給速度)は、低ファウリングストリームを処理するための優れた開始点である。しかしながら、高い循環速度又は高い温度により損傷され得る脆弱な成分、例えば細胞外小胞を含有するフィードストリームの場合、2,000~4,000s-1のせん断力が推奨されるので、この研究では、4000s-1を選んだ。
【0038】
膜間圧力差(TMP):圧力変換器を使用して、供給圧力(Pfeed)、保持液圧力(Pretentate)及び透過液圧力(Ppermeate)の測定は、以下の式を使用して膜間圧力差(TMP)の連続測定を可能にする:TMP=((Pfeed+Pretentate)/2)-Ppermeate。保持液チューブを挟む背圧バルブの使用は、TMPをプリセット値に自動的及び永久的に調整することを可能にする。フィルタ面に対して正規化され、L/m2/時(LMH)として表される処理液体フラックス(透過液フラックス)は、典型的には、TMPの関数として増加する。しかしながら、循環速度に応じて、「ゲル層抵抗」を作る高分子の圧縮により、TMPが増加するにつれてフラックスの改善が漸近的になり得る。
【0039】
HPLの初期濾過段階(保持液画分の最大2倍の濃度)で、4000秒-1のせん断力で作動する細孔径500kDaの中空糸フィルタにより、1~6psiのTMPを試験した(
図1)。
【0040】
試験した全てのTMPをこれらの条件で使用し得るが、最高の透過液フラックスが得られるので、2psiのTMPを選んだ。これは、HPL又は血清などの複合溶液を濾過する場合には、濾過効率を高めるために、限定的なTMPを使用すべきであることを裏付けている。したがって、透過液背圧(又は透過液流動速度)のコントロールは、濃縮の初期段階で膜が汚れる傾向を減少させて、全体的に高い平均流動速度を提供し得る。
【0041】
膜細孔径:次いで、3つの異なる細孔径(100kDa、500kDa及び50nm)の中空糸フィルタを使用して、EV不含HPLを送達する能力を評価した。4000s
-1のせん断力及び2psiのTMPを用いて、この試験を実施した。
図2は、最大10の保持液の濃縮係数(CF)の関数として透過液フラックスを示す。このCFは、初期HPLの90%の濾過HPL容量の生産を可能にする。どのような場合でも、TFFの初期濾過段階では、透過液フラックスは急速に減少する。500kDa及び50nmフィルタの透過液フラックスの動きは非常に類似しており、濾過プロセス全体で19.75及び20.49L/m
2/時の値である。100kDaフィルタによる濾過は50%近く低効率であり、平均LMHは11.53であった。
【0042】
細孔径500kDa及び50nmの中空糸フィルタの両方によるTFFは、濾過速度の点で100kDaよりも効率的であった。
【0043】
GE-HealthcareのFPLC AKTAに接続されたSuperose 6 increaseクロマトグラフィーカラムによるサイズ排除クロマトグラフィーにより、HPLサンプル及びそれらの異なるTFF透過液をさらに分析した。280nmのその光学偏差(OD)により分光光度計を用いて、カラム溶出液のタンパク質含有量をオンラインでモニタリングした。
図4に示されているように、15分前に溶出された高分子量タンパク質又はタンパク質複合体を除いて、500kDa及び50nm透過液の溶出プロファイルはHPL供給源のものと非常に類似する。
【0044】
これらの高分子量成分は保持液画分に保持される(
図4)。主なタンパク質であるヒト血清アルブミンの半分のみが透過液中で検出されたので、100kDaフィルタはHPLのタンパク質含有量の大部分を保持する(
図3)。結果として、保持液画分中のその量は非常に多かった(
図4)。
【0045】
MALVERN-PANALYTICALのNS300装置を使用してナノ粒子追跡分析(NTA)により、HPL及び異なる透過液画分中のEVの量及びサイズを決定した。HPLは非常に多量のEV(すなわち、EV 9.28 1010個/ml)を含有しており、それぞれ100kDa、500kDa及び50nmのフィルタを使用すると、これが96.9%、98.6%及び98.2%減少した。
【0046】
全てのこれらの結果を考慮すると、細孔径500kDaのフィルタは50nmフィルタと同程度のEVを保持し、濾過速度は等しく、透過液画分(EV不含画分)の組成は類似するので、それをEV不含HPLの生産に選択した。最後に、それは、小サイズのウイルスを伴わないより安全な生成物を生産し得るという本発明者らの仮説にしたがって、50nmフィルタに代えて500kDaを選択することも指示した。
【0047】
結論:
EV不含HPL生産のための最適な条件を以下に設定した。
-せん断力:2000~8000s-1であるべきだが、4000s-1が好ましい
-TMP:1~6psiであるべきだが、2psiが好ましい。
-フィルタ細孔径は100kDa~50nmであるべきだが、細孔径500kDaのフィルタが好ましい。
【0048】
実施例2:
実施例1で決定されたパラメータを使用して、別のHPLバッチを使用して、EV不含HPL 1Lを生産した。未希釈HPLの1.1L溶液から開始して、155cm
2中空糸フィルタを用いて約4時間かけて、99.8%EV除去HPL(NTA分析により決定) 1Lを生産した(
図5)。
【0049】
濾過面を1600cm2に増加させることにより、(10%のEV除去HPLを含有する培養培地 100Lに十分な)EV除去HPL 10Lを同時に(4時間)生産することが可能になるであろう。この構成では、EVは保持液画分に保持され、透過液がEV除去HPLを構成する。透過液は滅菌のものであり、いかなる細菌、マイコプラズマ及びウイルスも含まない。HPLのEV除去は培養培地による希釈前に起こるので、EV不含HPLのストックを凍結保存(-20~-80℃)し、多くの異なる細胞タイプについて及び様々な濃度で、任意の培養培地の添加において使用し得る。
【0050】
実施例3:
間葉系間質細胞(MSC)は、多数の成人組織に見られる多能性細胞である。多くの研究は、損傷組織の修復に参加するそれらの能力を強調している。それらは、広範囲の生物活性分子を分泌することにより、免疫モデュレーション、抗アポトーシス、血管新生促進、幹細胞又は前駆細胞の成長支援、抗線維化又は走化性効果を発揮する。したがって、本発明者らは、実施例1及び2で調製したEV除去培地を用いてEVを生産するために、骨髄MSCを使用した。
【0051】
HPL及び血清を含まない基本培地に代えてEV不含HPL含有培地を使用することの妥当性を試験するために、本発明者らは、最初に、3日間からなる少なくとも3つの期間にわたってMSC培養を持続するこのサプリメントの能力を調べた。最初に、標準培養培地(5%HPLを補充したα-MEM)中でMSCを増幅させ、次いで、培地のみ又はEV不含HPLを補充した培地の存在下でそれらを「リンスする」。次いで、72時間の最初の分泌段階では、EV不含HPLを補充した又は補充していない培地に細胞を入れる。72時間の時点で、EV定量のために培養培地を回収する。カウントのために細胞のサンプルを回収する。同じ培養条件の存在下で、残りの細胞を再び72時間交換する。このようにして、本発明者らは、数サイクルのEVの生産を実施し得る。
【0052】
したがって、本発明者らは、例えば、ヒト骨髄由来の接着性幹細胞であるヒト間葉系幹細胞(MSC)において、EV不含HPLの存在が、HPLを含まない培地と比較してそれらを長く培養液中で維持することを可能し、それによりEV生産サイクルの回数を増加させることを示し得る(
図6)。
【0053】
本発明者らは、3回連続のEV生産サイクルにおいて、EV不含HPL(5又は8%)を含有する培地が、基本培地条件よりも高い細胞生存率を維持することを観察する。また、異なる条件における及びインキュベーション時間全体にわたる培養細胞の写真は、EV不含HPLの存在が細胞形態を維持するのに対して、HPLを含まない培地は維持しないことを示している(データは示さず)。
【0054】
本発明者らは、
図7において、MSC分泌前(T 0時間)又はその72時間後のいずれかの培地に含まれるEVのNTA定量を報告した。結果は、5%のEV不含HPLの存在下では、EVの量が1.7 107/mlから2.6 108/mlに増加することを示している。したがって、MSCにより分泌されたEVは、この特定のインキュベーションにおける総EVの93.5%に相当する計算され得る。それは、MSCにより分泌されたEVが、72時間の時点で観察されたEVの総量の93.5%に相当することを意味する。
【0055】
上記実験からの全てのインキュベーション培地のNTA分析は
図8に報告されている。本発明者らは、EV不含HPL(5又は8%)が、3つの72時間のインキュベーション期間全体にわたってEVの持続的生産を可能にすることを観察した。HPLを含まない培地におけるEV生産は少なく、3番目の期間中に大幅に減少する。3つの連続分泌サイクルの間に生産されたEVの量は、HPL不含、5%及び8%EV不含HPL含有培地についてそれぞれEV 2.27 109、5.59 109及び6,14 109個/mlであった。したがって、これらの実験では、MSC増幅の1回のランは、それぞれ5%及び8%EV不含HPLの存在下でインキュベーションした場合、HPL不含培地と比較して2.4及び2.7多くのEVを生産するであろう。
【0056】
プロセスの終了時に、超遠心分離、限外濾過、サイズ排除クロマトグラフィー、沈殿(PEG又は抗体)などの任意の技術的アプローチにより、EV不含HPLを含有する馴化培地由来のEVを単離及び濃縮し得る。
【0057】
結論:
したがって、EV不含HPLの本発明者らの調製プロセスは、異なる治療用途における臨床使用と適合性である大量のEVを様々なヒト細胞から生産することを可能にする。このプロセスは、異なる動物種からの細胞生存及び/又は増殖を促進するために使用される任意のEV含有動物培地、例えば血清に拡張され得る。それは、バイオリアクターを含む大量の馴化培地の生産と適合性であり、ヒト及び獣医学的用途の両方のための治療用EVの大規模生産を可能にする。
【0058】
実施例4:
超遠心分離
一方ではウシ胎仔血清(FBS)及び他方ではヒト血小板溶解物(hPL)(両方とも原液である) 容量2mlを、120,000g、22℃で18時間遠心分離する(TL100 optima max XP、ローターMLS50、kファクター=159)。MISEV 2018ガイドライン(J. Extracell. Vesicle. 2018, Vol 7)では、超遠心分離によるEV除去のための血清又は血小板溶解物の希釈が推奨されていた。UC工程の効率に対するαMEM培養培地による両添加物の1:10希釈の効果も評価した。
【0059】
これらの超遠心分離の後、初期容量の75%(すなわち、1.5ml)の上清を回収する。適切な希釈の後、遠心分離の前後に存在するEV(上清)をNTAにより定量した。
【0060】
接線流濾過
この特許に記載されているように正確に、FBS及びhPLの両方のTFFを実施した。UCプロトコールとの比較のために、原液及び1:10希釈の両添加物のTFFによるEV除去を分析した。FBSのおそらくTFF前、及びTFF濾液画分に含まれるEVをNTAにより定量した。
【0061】
結果
UCの後の上清又はTFFの後の濾液中に残存するEVの量を、UC又はTFFの前に当初存在したEVのパーセンテージとして表した。結果は、各条件における決定回数(n)の平均+/-SEとして以下の表に報告されている。原液のFBS及び原液のhPLは、未希釈FBS及びhPLを指す。10%FBS及び10%hPLは、αMEM培地による1:10希釈のFBS及びhPLを指す。
【表1】
【0062】
結論
FBS及びhPLの両方における内因性EVの除去において、TFFはUCよりもはるかに効率的である。FBS及びhPLの希釈は両方とも、UCによる除去の効率をごくわずかに増加させるのに対して、TFFによる除去は依然として最大である。
【0063】
参考文献:
本出願を通して、様々な参考文献が、本発明が関係する最新技術を説明する。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【国際調査報告】