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特表2022-520536染色用のプロセス記録スライド及びそれを使用する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-31
(54)【発明の名称】染色用のプロセス記録スライド及びそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20220324BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220324BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220324BHJP
   G02B 21/34 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
G01N33/543 521
G01N33/53 D
G02B21/34
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544967
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(85)【翻訳文提出日】2021-04-09
(86)【国際出願番号】 IB2019058703
(87)【国際公開番号】W WO2020075137
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】62/745,074
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521151924
【氏名又は名称】シンセン ピーアールエス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハッシャー フレデリッククヌート
(72)【発明者】
【氏名】シャム ジジョン
【テーマコード(参考)】
2G045
2H052
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BA14
2G045BB25
2G045CB01
2G045DA36
2G045FB03
2G045JA07
2H052AE01
2H052AE04
2H052AE13
(57)【要約】
染色用のプロセス記録スライドを本明細書に記載する。プロセス記録スライドは、試料を載せるための検出領域と、1つ以上の対照標的を含む対照領域とを備える。免疫組織化学的(IHC)又は免疫化学(ICC)染色プロセスにおいてプロセス記録スライドを使用する方法も本明細書に記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドであって、
組織切片又は遊離細胞を含む試料を保持するように構成される検出領域と、
免疫組織化学的又は免疫化学的検出プロセス中の中間工程のエラー及び性能の尺度を示すとともに、
染色された組織又は細胞のカラー及び抗原密度を定性的又は定量的に決定するための参照を提供するように構成される対照領域と、
を備える、スライド。
【請求項2】
部分と結合するように構成される接着剤コーティングを更に含み、該接着剤コーティングが-ROH、-R(C=O)OH、-RNH、-R(C=O)NH及び-RNHからなる群から選択される少なくとも1つの末端基を含む、請求項1に記載のスライド。
【請求項3】
前記対照領域が一次標的アレイを含み、該一次標的アレイが1つ以上の一次標的ローディングドットを含み、該1つ以上の一次標的ローディングドットの各一次標的ローディングドットが一次抗体上の宿主FcyRIペプチドと反応性のタンパク質を含むタンパク質部位を含み、該タンパク質が唯一又は複数の一次抗体宿主と反応性であり、各タンパク質部位が単一の一次抗体タンパク質を前記スライド上に固定化する、請求項1に記載のスライド。
【請求項4】
前記FcyRIペプチドが担体タンパク質にカップリングされ、該担体タンパク質が非反応性タンパク質を含み、該非反応性タンパク質が前記免疫組織化学的又は免疫化学的検出プロセスで使用される二次染色試薬と非反応性である、請求項3に記載のスライド。
【請求項5】
前記一次標的アレイが複数の一次標的ローディングドットを含み、該複数の一次標的ローディングドットの各一次標的ローディングドットが同じ反応性FcyRIペプチドを含み、該複数の一次標的ローディングドットの各一次標的ローディングドットが、該複数の一次標的ローディングドットの他の一次標的ローディングドットの各々と異なる濃度の前記反応性FcyRIペプチドを有する、請求項4に記載のスライド。
【請求項6】
前記一次標的アレイが複数の一次標的ローディングドットを含み、該複数の一次標的ローディングドットの各一次標的ローディングドットが異なる反応性ペプチドを含み、該複数の一次標的ローディングドットの各一次標的ローディングドットが、前記複数の一次標的ローディングドットの他の一次標的ローディングドットの各々と異なる濃度の前記反応性ペプチドを有する、請求項4に記載のスライド。
【請求項7】
前記対照領域が一次標的アレイを含み、該一次標的アレイが一次標的ローディングドットを含み、該一次標的ローディングドットが複数の一次標的を含み、該複数の一次標的の各々が前記免疫組織化学的又は免疫化学的検出プロセスで使用される一次抗体の宿主タンパク質に対する抗体を含む、請求項1に記載のスライド。
【請求項8】
前記対照領域が一次標的アレイを含み、該一次標的アレイが一次ローディングドットを含み、該一次標的ローディングドットが複数の一次標的を含み、該複数の一次標的の各々が前記免疫組織化学的又は免疫化学的検出プロセスで使用される一次抗体の宿主タンパク質に対するプロテインA、プロテインG、プロテインA/G又はプロテインLを含む、請求項1に記載のスライド。
【請求項9】
前記対照領域が二次標的アレイを含み、該二次標的アレイが二次標的ローディングドットを含み、該二次標的ローディングドットが複数の二次標的を含み、該複数の二次標的の各々が、
前記免疫組織化学的又は免疫化学的検出プロセスで使用される一次抗体の宿主タンパク質と、
ダミータンパク質と、
を含む、請求項1に記載のスライド。
【請求項10】
前記対照領域が複数の二次標的アレイを含み、同じ二次標的アレイにおける該複数の二次標的アレイの各々が同じ宿主タンパク質を含み、異なる二次標的アレイにおける前記複数の二次標的アレイの各々が異なる宿主タンパク質を含む、請求項9に記載のスライド。
【請求項11】
前記対照領域がイメージング参照ローディングドットを更に含む、請求項1に記載のスライド。
【請求項12】
前記イメージング参照ローディングドットが、
カーボンダストを含む黒色参照標的、
金属酸化物若しくは金属硫酸塩を含む白色参照標的、又は、
任意の免疫組織化学的若しくは免疫化学的試薬に対する非反応性タンパク質を含む透明参照標的、
の少なくとも1つを含む、請求項11に記載のスライド。
【請求項13】
前記イメージング参照ローディングドットが、
白色参照標的及び黒色参照標的用の無水物系エポキシと、
透明参照標的用のウマ科の哺乳動物に由来するタンパク質と、
を含む、請求項11に記載のスライド。
【請求項14】
前記対照領域が、前記免疫組織化学的又は免疫化学的検出プロセスにおける抗原賦活化の度合いをモニタリングするように構成される抗原賦活化モニターローディングドットを更に含む、請求項1に記載のスライド。
【請求項15】
前記抗原賦活化モニターローディングドットが、
3D粒子を画定するために共有結合される宿主タンパク質と、
前記宿主タンパク質の下又は上の固定液と、
を含む担体タンパク質又はサブミクロンビーズを含む、請求項14に記載のスライド。
【請求項16】
前記対照領域がパラフィンコーティングで覆われる、請求項1に記載のスライド。
【請求項17】
スライドタイプを識別するマーク、
前記対照領域によって支持される抗原を識別するためのコード、又は、
ロット番号、
の少なくとも1つを更に含む、請求項1に記載のスライド。
【請求項18】
スライドを用いた免疫組織化学的染色方法であって、
固定の一部分を除去することと、
なお、前記部分は、組織切片中の抗原部位を露出させ、対照標的を露出させるのに十分である;
前記組織切片及び前記対照標的を染色することと、
なお、染色は、
1つ以上の一次抗体を前記スライドに適用し、部分とコンジュゲートされる1つ以上の二次抗体を前記スライドに適用するか、又は前記部分とコンジュゲートされる1つ以上の一次抗体を前記スライドに適用するとともに、
前記部分の存在下で発色して標的とされる抗原の存在を示す染色試薬を適用することを含む;
染色プロセスの品質を評価することと、
なお、評価は、前記対照標的、又は前記組織切片から離れた対照領域内に位置する抗原賦活化モニターの染色結果を評価することを含む;
を含む、方法。
【請求項19】
パラフィン保護層を前記対照標的から除去することを更に含み、該パラフィン保護層の除去が、
前記スライドを65℃~75℃の範囲の温度に3分~10分間加温して、前記対照領域及び組織切片上の半液化パラフィンを得ることと、
有機溶媒を用いて前記半液化パラフィンを液化することと、
最大でも60%のエタノール濃度までの無水エタノールの段階的な配列を用いて前記対照領域及び検出領域を再水和することと、
前記対照標的を緩衝溶液中で再水和することと、
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記有機溶媒が脂肪族溶媒、キシレン及びキシロールからなる群から選択される少なくとも1つを含み、前記緩衝溶液が塩ベースの緩衝溶液である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権主張及び相互参照]
本出願は、2018年10月12日付けで出願された米国仮特許出願第62/745,074号からの優先権を主張する2019年10月10日付けで出願された米国特許出願第16/597,930号に対する優先権を主張するものであり、それぞれ、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0002】
免疫組織化学方法及び他の免疫化学的方法は、多段階手順である。これらの方法は、一連の試薬交換、インキュベーション、及び洗浄を含む。これらの手順は、熟練者を必要とし、自動染色機の使用を必要とする場合が多い。結果は、プロセスの品質管理基準の不均一性又はその欠如のために、研究室又は施設間で大きく変わり得る。処理されたスライドの診断解釈は、大抵の場合、染色プロセスに関わっていない病理学者による主観的分析に依存する。
【発明の概要】
【0003】
本開示の態様は、以下の発明を実施するための形態を添付の図面と併せて読むことで最もよく理解される。産業における慣例に従い、様々な特徴が正確な縮尺率で描かれてはいないことに留意する。実際に、様々な特徴の寸法が論考を明確にするために任意に増加又は減少され得る。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】幾つかの実施形態に従うプロセス記録スライドを示す図である。
図2】幾つかの実施形態に従うプロセス記録スライドを示す図である。
図3A】幾つかの実施形態に従う製造プロセス中のプロセス記録スライドを示す図である。
図3B】幾つかの実施形態に従う製造プロセスが完了した後のプロセス記録スライドを示す図である。
図3C】幾つかの実施形態に従う染色プロセス後のプロセス記録スライドを示す図である。
図4】幾つかの実施形態に従うパラフィンコーティングを含むプロセス記録スライドを示す図である。
図5A】幾つかの実施形態に従うスライドの一次標的密度勾配アレイを示す図である。
図5B】幾つかの実施形態に従うスライドの二次標的密度アレイを示す図である。
図6】幾つかの実施形態に従うスライドの抗原賦活化標的を示す図である。
図7】幾つかの実施形態に従うスライドの対照領域を示す図である。
図8A】幾つかの実施形態に従う染色プロセス後のスライドを示す図である。
図8B】幾つかの実施形態に従う染色プロセス後のスライドを示す図である。
図9】幾つかの実施形態に従うスライドを用いる染色プロセスを示す図である。
図10】幾つかの実施形態に従う染色されたスライドのイメージング結果を示す図である。
図11】幾つかの実施形態に従う酵素増幅プロセスを示す図である。
図12】幾つかの実施形態に従う任意のマウス又はウサギベースの一次抗体とともに働く単一の一次抗体対照スライドを示す図である。
図13】幾つかの実施形態に従う1つのマウスベースの一次抗体及び1つのウサギベースの一次抗体の使用を支持する(supports:サポートする)二重の一次抗体対照スライドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下の開示は、提供される主題の異なる特徴を実現するための多くの異なる実施形態又は例を提供する。本開示を単純化するために成分及び配置の具体例を以下に記載する。これらは、当然ながら例に過ぎず、限定を意図するものではない。例えば、以下の記載における第2の特徴を覆う又はその上の第1の特徴の形成は、第1及び第2の特徴が直接接触して形成される実施形態を含んでいてもよく、第1及び第2の特徴が直接接触し得ないように付加的な特徴が第1及び第2の特徴の間に形成され得る実施形態を含んでいてもよい。さらに、本開示では、参照符号及び/又は記号が様々な例で繰り返される場合がある。この繰り返しは、単純化及び明確化を目的とし、それ自体が論考される様々な実施形態及び/又は構成の間の関係を決定付けるものではない。
【0006】
免疫組織化学方法及び他の免疫化学的方法については、自動及び手動の手順の両方が、注意を払う必要がある工程を含む。例えば、スライド上の検体の損失又は損傷を回避するために、注意を払わなくてはならない。残渣が増幅されるために、試薬の適用の間の検体の完全な洗浄が任意の未結合抗体の除去に用いられることから、これまでの試薬のキャリーオーバー及び/又は続く試薬の望ましくない希釈を回避するために、過剰な液体を除去するが、検体は、乾燥させてはならない。さらに、スライド領域を覆うのに十分な抗体試薬を適用しなくてはならないが、試薬が高価であることから廃棄物を最小限に維持する必要がある。
【0007】
さらに、免疫組織化学的方法及び免疫化学的方法で使用される試薬、例えば酵素溶液及びペルオキシダーゼ発色試薬は、作業温度又は室温で、安定性が限られている。この限られた安定性は、試薬の頻繁な調製につながる。さらに、誤った結果を招く非特異的な抗体結合は、いまだ問題である
【0008】
免疫組織化学的(IHC)染色は概して、患者の組織切片における特定の抗原部位の存在を評価するために用いられる。IHCアッセイでは、異常状態又は癌性状態の診断レベルを割り当てるために、主観的解釈が組織切片上での染色密度に対して適用される。IHC処理が正確に機能し、マーカーが存在する場合に異常状態又は癌性状態を特定する可視色素原マーカーで組織切片が標識されると仮定される場合が多い。しかしながら、抗原賦活化プロセスの失敗、又は実験助手側若しくは染色プロセス中の過失は、識別可能なアーチファクトを残さない場合が多い。これが起こると、IHCアッセイによりヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色によって提供された以上のものが提供されない。さらに、染色プロセスにおける失敗又は過失は、場合によっては続く治療に影響を及ぼす誤診を招く。
【0009】
結果を改善して、試薬調製を最低限に抑える方法及び試薬は、手動及び自動の免疫組織化学的方法の両方を容易にする。改善の多くは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ及びin situハイブリダイゼーション等の関連する免疫化学的方法に容易に適用させることができる。
【0010】
上記の点から、免疫組織化学方法及び免疫化学的方法におけるエラーの完全な排除は困難である。そのため、エラーの存在及び/又は程度を明らかにする様々な方法が開発されている。方法の一部及び方法の制限を以下に記載する。
【0011】
「Use of cultured cells as a controlfor quantitative immunocytochemical analysis of estrogen receptor in breastcancer. The Quicgel method」を参照してもよい(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)。この参照文献では、組織固定、処理、及び染色の変動は、エストロゲン受容体(ER)免疫組織化学アッセイの乏しい再現性に大いに関与していることが述べられている。既知のER含有量を有するMCF-7細胞の凍結させた寒天懸濁ペレットは、浸潤性乳癌(IBC)の55個の試料それぞれに添加されて、対照として役割を果たす。画像分析により、MCF-7細胞及びIBCの陽性面積(分析される総核当たりの陽性核)並びに陽性染色(陽性核面積の光学密度の合計を、研究した核全ての光学密度の合計で除算したもの)の割合を決定した。MCF-7細胞は、デキストランでコーティングした活性炭分析によって、150fmol/mgのERの平均値を有した。55個の事例が含まれるMCF-7細胞の画像分析は、平均陽性面積70.81を示した。IBC事例からの陽性染色は、0~98.5の範囲であった。MCF-7細胞の既知のER含有量及び陽性面積を使用することによって、変換係数を使用して、臨床検体の陽性面積を、フェムトモル当量に変換し、それは、55個のIBCに関して、0~1790の範囲であった(平均値、187)。既知のフェムトモル量のERを有する対照を組み入れることにより、品質管理及びER定量化に関する内部標準が得られる。
【0012】
中国特許第102435728号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照してもよい。この参照文献は、免疫組織化学的プロセスの検査及び品質管理のための陽性対照の調製及び利用方法を記載している。中国特許第102435728号によると、対照標的は、抗体と特異的に反応するポリペプチド又はタンパク質をスライド上に異なる濃度で吸着させることによって構築される。次に、試料組織をスライド上に載せ、従来の免疫組織化学的プロセスをスライド上で行う。試料組織及び対照標的は、同じ染色プロセスを受けるため、ポリペプチド/タンパク質の染色結果は、組織上の免疫組織化学的プロセスの結果を示す。中国特許第102435728号は、免疫組織化学的スライド上の陽性対照タンパク質又はポリペプチドの配置も記載している。
【0013】
当業者は、中国特許第102435728号の方法を評価することで、対照標的中のタンパク質/ペプチドの密度に一貫性がないことを理解する。これは、ペプチドセグメントのデキストランポリマーへの結合が混合溶液の粘度、デキストランから過剰ペプチドを除去する洗浄プロセス、及び温度に依存することが理由である。さらに、沈殿するポリマーペレットのサイズは、浴の濃度、反応温度、及びNaOH注入によって異なる。
【0014】
当業者は、中国特許第102435728号の方法を評価することで、既知の反応性(染色密度)の標的の構築が困難なことを理解する。これは、ポリマーペレット中の利用可能なペプチドの濃度を容易には導くことができないことが理由である。そのため、得られる対照は、一次抗体検出のはい/いいえのみである。
【0015】
当業者は、中国特許第102435728号の方法を評価することで、デキストランが標的に対する抗体に関するタンパク質を捕捉することが可能な一方で、捕捉されるタンパク質がはい/いいえの結果しか提供しないことを理解する。したがって、ベースラインの検出ルーラーは、例えばデジタルイメージングを支持するように確立することができない。
【0016】
当業者は、中国特許第102435728号の方法を評価することで、スライド上に吸着されたタンパク質/ペプチドが多くの場合、抗原賦活化プロセス中に漏出することを理解する。スライドの比較的小さなサイズ、したがって対照標的と試料領域とが極めて接近していることから、漏出したタンパク質/ペプチドが組織切片に移動する可能性がある。そのため、漏出物が共在する組織切片及びスライド接着剤と結合し、非特異的な染色を引き起こす可能性がある。
【0017】
中国特許第102435728号に記載されるものとは異なって構築されるスライドを提供するHorizon Diagnostics社を参照する。Horizon Diagnostics社のスライドでは、対照標的は、培養細胞系統である。細胞系統は、DNA中の特定の抗原ペプチドのコード配列を含むように遺伝子操作される。遺伝子操作された細胞は、スライドの組織ブロック中でホルマリンによって固定され、遊離細胞スラリーの形態でパラフィン包埋される。さらに、非反応性細胞を含む対照標的もスライドに陰性対照として含まれる。対照標的のアレイを産生するために、細胞群はそれぞれ、他のコアと連携した円筒コアとして形成され、アレイ全体は、スライドへの適用のために単一切片として切断される。これらの細胞系統は、望ましい場合には複製させることができ、したがって再生可能とみなすことができる。
【0018】
当業者は、Horizon Diagnostics社によって作製されるスライドを評価することで、対照標的が、対照標的中に提示される反応性抗原の制御不能な密度の変動のために、はい/いいえの結果しか提供することができないことを理解する。これは、細胞の量又は細胞によって産生される抗原の量の制御が困難なことが理由である。そのため、対照標的はそれぞれ、異なる量の抗原を含む。さらに、対照標的は、対照標的中の抗原の量に別の変数を導入する抗原賦活化プロセスを経る。
【0019】
当業者は、Horizon Diagnostics社によって作製されるスライドを評価することで、各細胞ウェル中の抗原の量を、単に抗原を産生する細胞系統とブランク細胞系統とを或る特定の比率で混合することでは制御することができないことを理解する。これは、異なる細胞系統上の静電的な電荷が異なる場合が多いことが理由である。そのため、異なる細胞系統は多くの場合、細胞培養プロセス中に分離し、異なる細胞の切片となり、抗原密度スケールの発生を見込みがない又は更には不可能なものにする。
【0020】
当業者は、Horizon Diagnostics社によって作製されるスライドを評価することで、細胞の再生は、複製寿命が限定されるため、一貫性がない細胞系統の性能が見られることを理解する。新たな細胞系統が、任意のこれまでの細胞系統と同じ抗原密度を有する保証はない可能性がある。
【0021】
当業者は、Horizon Diagnostics社によって作製されるスライドを評価することで、Horizon Diagnostics社の対照標的の作製が、組織ブロックを構築して、ブロックを切開して、切片をスライドに適用するのに必要とされる手作業のためにコスト効率が良くないことを理解する。
【0022】
米国特許出願公開第2016/0274006号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照してもよく、そこでは、顕微鏡スライド上に載せた細胞及び組織に関して実施されるアッセイ用の対照及びキャリブレーターとして機能を果たす方法及び装置が記載されている。米国特許出願公開第2016/0274006号の装置は、透明な球状ビーズ等の粒子状の物体に連結されたペプチドエピトープ等の品質管理部分を含み、ビーズは好ましくは、ほぼ細胞のサイズである。品質管理部分は、アッセイにおいて、分析物と類似した様式で挙動するように設計され、陽性アッセイ反応をもたらす。ビーズは、新規液体マトリックスによる染色の工程中、顕微鏡スライド上に保持され、それは、乾燥時に凝固して、ビーズを顕微鏡スライドに付着させる。
【0023】
しかしながら、この米国特許出願公開第2016/0274006号の対照及びキャリブレーターの解決法は、実用性が限られる。対照標的材料がビーズ上にコーティングされ、低密度で置かれるため、標的の安定性は、弱い傾向にあり、標的データを抽出するのが困難である。さらに、単一ビーズをイメージングする場合、染色カラーは、最上部の中心から縁へと変化し、付加的な変数を導入する。
【0024】
米国特許第7271008号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)を参照してもよく、そこでは、アッセイプロセス、特に多段階免疫組織化学的アッセイで使用される試薬の品質を決定するためのデバイス及び方法が記載されている。特に、デバイスは、複数の化合物が付された基板を含み、該化合物はそれぞれ、アッセイで使用される試薬と反応性である。
【0025】
米国特許第7271008号のデバイスは、二次抗体による染色を評価する品質管理を提供する。しかしながら、米国特許第7271008号のデバイスは、試料とともにIHC染色の同じ工程を受けない。したがって、デバイスによるIHC染色の代表性は限られる。さらに、デバイスは、抗原賦活化処理に耐えることが可能な共有結合を形成し得ないアミノ-シランを基質中に使用する。また、アルカリホスファターゼ標的は、抗原賦活化温度への曝露後に分解する。そのため、米国特許第7271008号のデバイスは、IHC染色プロセスにおける未知の変数を導入することが知られる抗原賦活化プロセスのモニタリングには有用でない。
【0026】
上記の点を考慮すると、本明細書は、幾つかの実施形態では、これらの問題に対処するプロセス記録スライド及び染色方法を記載する。具体的には、本明細書は、患者試料及び対照標的が共在し、ともに染色プロセスを受けることを可能にするプロセス記録スライドを記載する。そのため、試料の処理では、対照標的も染色され、既知の標的ベースラインに対する偏差として処理エラー(複数の場合もある)の存在及び程度が明らかになる。試料に適用される染色試薬の濃度の変化が主観的分析に影響を及ぼすことが当業者には認識される。過剰な一次抗体は多くの場合、組織切片上の非特異的な染色を引き起こす。抗原賦活化処理を無視すると、一次抗体、二次抗体及び色素原試薬の効率は、染色カラー密度(組織切片上の抗原密度の指標)に影響する。抗体タンパク質の劣化は、FabドメインとFcドメインとの間のヒンジの破壊の直後のFcドメインの分離を生じる。Fabドメイン及びFcドメインの両方を含有する抗体のみが、操作の成功をもたらす。沈殿用の色素を含有する色素原試薬の多くが短い寿命挙動を有し、一部は数時間と短い。結果として、異なる寿命(ages)の色素原試薬が異なる性能を有し、染色カラー密度の変動を引き起こす。したがって、試薬の性能は、観察される試料中の染色カラー密度に影響を及ぼす可能性があり、影響を及ぼす。同じ染色試薬が試料及び対照標的の両方に使用されるため、試薬の寿命及び量の変動は、より客観的な分析情報を提供するためには、対照標的によって説明される。これらの実施形態によると、プロセス記録スライドは、あらゆるIHC及びICCスライドで使用することができるように費用重視のプライスポイント内にて、望ましい正確度及び精度で有効なプロセスQCをもたらすことが可能である。
【0027】
[プロセス記録スライド]
幾つかの実施形態では、本明細書は、プロセス記録スライドに関する。本明細書では、「プロセス記録スライド」という用語は、代替的には「スライド」、「PRS」又は「PRS-IHC」と称される。「PRS-IHC」という用語の「IHC」部分は、スライドの構成又は機能を免疫組織化学的(正:immunohistochemical)(IHC)染色のみに限定することを意図するものではない。むしろ、当業者は、本明細書に記載されるプロセス記録スライドを免疫化学(ICC)等の他の染色プロセスでも使用することができることを理解する。
【0028】
幾つかの実施形態では、本明細書は、一般に免疫組織化学的(IHC)又は免疫化学(ICC)アッセイに関与する工程の効率の容易な決定を可能にするプロセス記録スライドに関する。これらの工程には、パラフィン除去、抗原賦活化、一次染色、二次染色等が含まれる。
【0029】
図1を参照すると、幾つかの実施形態では、プロセス記録スライド100は、基板101と、接着剤層103と、1つ以上の対照標的141とを備える。
【0030】
幾つかの実施形態では、基板101は、ガラス基板、プラスチック基板又はポリマー基板を含む。
【0031】
幾つかの実施形態では、接着剤層103は、接着剤を含む。幾つかの実施形態では、接着剤は、ガラス基板等の基板101に共有結合する。
【0032】
幾つかの実施形態では、接着剤は、スライド上に僅かに親水性の表面を提供する。幾つかの実施形態では、接着剤の材料は、生体材料に提示される末端基を含み、製造時に表面の濡れ性に関して調節可能である。幾つかの実施形態では、末端基は、-ROH、-R(C=O)OH、-RNH、-R(C=O)NH及び-RNHからなる群から選択される1つ以上の基を含む。幾つかの実施形態では、接着剤層103は、Thermo-Fisher社のSuperFrostスライドGL4951Pのコーティング中に見られる接着剤と同じか又は類似する接着剤を含む。
【0033】
幾つかの実施形態では、1つ以上の対照標的141を、接着剤層を介して基板層上に付着させる。幾つかの実施形態では、1つ以上の対照標的をスライド100の対照領域140に付着させる。
【0034】
幾つかの実施形態では、対照標的141は、IHC又はICCプロセスで使用される1つ以上の試薬と反応し、カラーの形態での読み取り値等の読み取り値を生じる化学化合物を含む。対照標的141はそれぞれ、異なる濃度の化学化合物を含む。化学化合物の濃度の変動は、IHC又はICCプロセスにおける1つ以上の試薬との相互作用後に対照標的141間の識別可能な差をもたらす。
【0035】
幾つかの実施形態では、プロセス記録スライド100は、スライド100の全体又は一部分を覆う保護コーティング105を更に備える。幾つかの実施形態では、保護コーティング105は、対照標的141を外部環境から遮断する。以下で詳述するように、対照標的141は、場合によってはタンパク質、ペプチド、又は生物学的起源の他の標的を含む。したがって、保護コーティング105は、対照標的141を酸化又は微生物攻撃から保護する。
【0036】
幾つかの実施形態では、保護コーティング105は、パラフィンコーティングである。これらの実施形態によると、パラフィンコーティングは、IHC又はICCアッセイによって研究される組織/細胞試料上の包埋用パラフィンとともに、同じ脱パラフィン工程によって除去される。
【0037】
図1図3Cを参照すると、幾つかの実施形態では、プロセス記録スライド100は、試料を保持するように構成される検出領域120と、対照領域140とを備える。
【0038】
幾つかの実施形態では、検出領域120は、組織切片又は遊離細胞等の患者試料を保持するように構成される。
【0039】
幾つかの実施形態では、対照領域140は、検出領域に保持される試料とともに染色プロセスを受ける1つ以上の対照標的141を保持する。
【0040】
幾つかの実施形態では、検出領域120及び対照領域140は、標識された境界を有する。幾つかの実施形態では、検出領域120及び対照領域140は、標識された境界を有さず、それぞれの機能に基づいて分類される。
【0041】
幾つかの実施形態では、対照標的141は、1つ以上の対照標的ローディングドット1411の形態で配置される。幾つかの実施形態では、ローディングドットは、規則的又は不規則的な形状である。幾つかの実施形態では、規則的な形状は、円、楕円、正方形、又は菱形の形状を含む。幾つかの実施形態では、対照標的141は、2D又は3D配置で配置される。
【0042】
幾つかの実施形態では、対照標的141は、対照標的ローディングドット1411の1つ以上のアレイ等の1つ以上の対照標的アレイ1415の形態で配置される。幾つかの実施形態では、対照標的アレイ1415はそれぞれ、同じ又は類似した化学的特性及び生化学的特性を有する1種類の対照標的を含む。幾つかの実施形態では、対照標的アレイ1415はそれぞれ、対照的な光学特性を生じる1種類の対照標的を含む。
【0043】
これらの実施形態によると、検出領域120及び対照領域140が同じスライド上に位置することから、IHC又はICCプロセス中に、検出領域120に保持される試料及び対照領域140内の対照標的141は、同じ染色工程を受ける(図9を参照)。そのため、対照標的141の染色レベルにより、IHC又はICCプロセス中に生じる処理エラーの存在及び程度が明らかになり、対照標的141により、IHC又はICCプロセスの処理エラーを既知の標的ベースラインに対する偏差として分析することが可能となる。したがって、これらの実施形態によると、プロセス記録スライドは、望ましい正確度及び精度で、主観的分析を減少させて、比較的低コストで、容易に認められる閾値を生じて、有効な品質管理をもたらすことが可能である。さらに、続くデジタル画像の捕捉及び処理を用いることで、染色された対照標的141は、例えば診断判定を補助するために共在する試料に適用することができる、数値的な抗原密度及びカラー密度という2つのスケールを含む抗原密度ルーラーとして働くことができる。
【0044】
幾つかの実施形態では、対照標的141が一般にIHC又はICC染色で用いられる前処理段階の影響を大きく受けないように、対照標的141をスライド上に付着させる。幾つかの実施形態では、前処理段階には脱パラフィン又は抗原賦活化が含まれる。前処理段階を以下に詳細に記載する。
【0045】
幾つかの実施形態では、スライド100は、スライド情報領域160を更に備える。幾つかの実施形態では、スライド情報領域160は、ロット番号、製造日、対照標的タイプ等のスライドのタイプについての情報を含む。対照標的タイプについての情報等のスライド情報は、広範であるため、幾つかの実施形態では、スライド情報領域160は、スライド情報を記録するバーコードを含む。幾つかの実施形態では、バーコードは、スライドの詳細な説明へのウェブサイトリンクを含む。
【0046】
図3を参照すると、幾つかの実施形態では、スライド100は、隆起構造107を更に備える。これらの実施形態によると、隆起構造107は、積み重ねた場合に、隣接したスライドがパラフィンコーティング又は対照標的を損傷しないようにするものである。幾つかの実施形態では、隆起構造107は、対照領域140を超えて伸びる一対のバー又は複数のドットを含む。これらのバンパーは、直接印刷インクジェットラベルプリンターが通常、標識のないスライドをマガジンの底部から供給するのを助ける。したがって、バンパーは、マガジンからの分配時に或るスライドが別のスライドの上にスライドする際にパラフィンコーティング及びその下の標的を傷つけないようにするものである。
【0047】
[保護コーティング]
幾つかの実施形態では、保護コーティング105は、パラフィンコーティングである。
【0048】
図4を参照すると、幾つかの実施形態では、パラフィンコーティングは、対照標的を封止する対照標的上のパラフィンワックスのコーティングである。
【0049】
パラフィンワックスは概して、石油、石炭又はオイルシェールに由来する白色又は無色の軟質固体であり、20個~40個の炭素原子を含有する炭化水素分子の混合物からなる。パラフィンワックスは、室温で固体であり、およそ37℃(99°F)を超えると融解し始め、その沸点は、370℃(698°F)を超える。パラフィンワックスの一般的な用途として、潤滑、電気絶縁、及びろうそくが挙げられ、染色されたパラフィンワックスは、クレヨンにすることができる。パラフィンワックスは、場合によってはパラフィンと呼ばれるケロシン及び他の石油製品と異なる。
【0050】
病理学研究室では、無水パラフィンワックスは、組織の薄い試料を切り分ける前にホルムアルデヒド固定組織を含浸させるのに使用される。この手順では、水は、濃度を上昇させるアルコール(75%~無水)により組織から除去されて、組織は、キシレン、又は脂肪族代替物の1つ、例えばキシロール等の有機溶媒中で透徹する。次に、組織は、真空オーブン内で液体パラフィンワックス中に一定時間配置して、確実に全ての空気を抽出した後、液体ワックスとともに金型ブロックフレームにはめられて、冷却されて、凝固される。続いて、切片は、ミクロトームで切断される。
【0051】
組織切片をパラフィンに包埋することは、生検組織を長期間保存するために実施されている。しかしながら、本発明者らの知る限りでは、顕微鏡スライドの選択領域上にコーティング層としてパラフィンを塗布することは報告されていない。
【0052】
下記のように、対照標的スライドは、ペプチド又はタンパク質を含み、したがって細菌又は真菌に対して豊富な食料源を提供する。ペプチド及びタンパク質、並びにその抗原部位(例えば、エピトープ)は、場合によっては抗体に結合する能力を損なう酸化の影響を受けやすい。さらに、続く反応には、大気中の酸及び塩基との反応により損傷を受ける可能性があるヒドロキシル基が関わる。そのため、タンパク質付着物を含有するスライドは、多くの場合、微生物の成長を支持する温度未満の温度で保管する必要があり、真空封止した容器中にパッケージングする必要がある。無保護のスライド、例えば環境に曝されるスライドは、外気温湿度、及び大気中の混入物質(正:contaminant)レベルに応じて、2日~5日と短い有効期限を有する。かかる点が付着物の有効な利用を制限する制約である。
【0053】
パラフィンは、抗真菌能及び抗細菌能を有し、下に封止される材料の酸化を防ぐ。本発明者は、パラフィンコーティングが生体材料の生存寿命を3日~5日から1年~2年にまで延長し、それによりプロセス記録スライドの有効期限を大幅に延ばすことを見出した。
【0054】
試料からの包埋用パラフィンの除去は、一般にIHC又はICC染色中に行われる(このプロセスは、「脱パラフィン」と称される)。したがって、幾つかの実施形態では、保護層105中に含まれるパラフィンの配合物は、包埋プロセスで使用されるパラフィンの配合物と同じであるか、又は類似する。そのため、パラフィンコーティングを脱パラフィンと同時に除去することができ、それにより染色プロセスを簡略化する。
【0055】
幾つかの実施形態では、パラフィンを液化し、スライド上に塗布し、凝固させ、それによりパラフィンコーティングを形成する。
【0056】
幾つかの実施形態では、パラフィンは、溶媒とブレンドされて、材料状態を室温で固体から液体に変化させる。幾つかの実施形態では、溶媒として、キシレン又は脂肪族溶媒、例えばキシロールが挙げられる。溶媒とブレンドすることで粘度を低減し、付着後の凝固を減速させる。幾つかの実施形態では、溶媒として、トルエン、塗料用シンナー、テレビン油、又はアセトン及びケロシンの50:50混合物が挙げられる。Paraplast X-traは、フェノール性酸化防止剤であるブチル化ヒドロキシトルエンを付加的に含み、タンパク質、ペプチド、又は無機標的の酸化分解を更に低減させる。
【0057】
幾つかの実施形態では、固形パラフィンを、パラフィン融点より高い75℃以下の温度で融解させる。次に、融解させたパラフィンに、飽和点が観察される(すなわち、固体が形成される)まで脂肪族溶媒を徐々に添加する。混合物を約45℃に冷却させる。次に、混合物が完全に透明になるまで、付加的な脂肪族溶媒を添加する。
【0058】
幾つかの実施形態では、パラフィンコーティングは、生体材料及び顕微鏡スライドに予め付着させた特殊染色反応性付着物上に塗布される。生体材料としては、下記のように、タンパク質、ペプチド、コンジュゲートされたタンパク質、タンパク質でコーティングされたビーズ、ペプチドでコーティングされたビーズ、コンジュゲートされたコーティングされたビーズ、染色材料を特有に捕捉する特殊染色反応性末端基等が挙げられる。
【0059】
幾つかの実施形態では、パラフィンは、スプレー、インクジェット付着、パッド印刷等の転写印刷、スクリーン印刷、及び蒸着によってスライド上に塗布される。幾つかの実施形態では、パラフィンコーティングは、パラフィン粒子を加熱して融解及び/又はブレンドすることで、対照標的及び対照標的の周囲のスライド表面の両方を封止する一様な表面コーティングにすることによってスライド上に塗布される。
【0060】
幾つかの実施形態では、パラフィンコーティングをスライド上に塗布した後、スライドを加熱して溶媒をパラフィンから追い出し、それにより確実にパラフィンを硬化状態に戻す。溶媒を除去するプロセスは、赤外光をスライドのパラフィンワックス側から適用することによって行われる。この方法は、パラフィンの上の溶媒又はパラフィンの下にある生体材料を選択的に標的とし、それにより必要とされる熱エネルギーを最小限に抑える。溶媒の蒸発は、パラフィンを障害なしに残すことができる。
【0061】
幾つかの実施形態では、パラフィンは、精製パラフィン、合成ポリマー、及び他の材料のブレンドである。幾つかの実施形態では、パラフィンの望ましい融点、硬度及び粘度は、成分の比率を試験することによって得られる。しかしながら、生体材料を保護する目的では、パラフィンは、精製され、無水である。
【0062】
幾つかの実施形態では、パラフィンコーティングは、5ミクロン以下の厚さを有する。
【0063】
幾つかの実施形態では、保護コーティング105中のパラフィンは、60℃未満、例えば56℃未満の融点を有する。
【0064】
幾つかの実施形態では、パラフィンは、キシレン、キシロール、又はその脂肪族置換物によって溶解可能である。
【0065】
幾つかの実施形態では、パラフィン配合物としては、Thermo Fisher社によるTissuePrep及びTissuePrep 2(融点56℃)、Leica社によるParaplast及びParaplast Plus(融点56℃)、並びにLeica社によるParaplast X-tra(融点50℃~54℃)が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、パラフィンコーティングの外気温硬度は、ブチル化ヒドロキシトルエンを既に配合物中に存在しない場合に添加して利用可能な最も硬い配合物となるように選ばれる。
【0066】
[一次標的及び一次標的アレイ]
幾つかの実施形態では、対照標的141は、一次抗体試薬を試験するために1つ以上の一次標的を含む。
【0067】
本明細書中で使用する場合、「一次標的」という用語は、そのFcyR1部位の1つのみで一次抗体に特異的に結合する反応性要素及び非反応性要素の組成物を意味する。本明細書中で使用する場合、「一次タンパク質」という用語は、一次抗体のFcyRIに結合するタンパク質を意味する。本明細書中で使用する場合、「一次ダミータンパク質」という用語は、任意の一次抗体又は二次抗体と反応しないタンパク質を意味する。本明細書中で使用する場合、「最大標的密度」という用語は、隣接するタンパク質の最大単分子層密度を指す。本明細書中で使用する場合、「代理抗原(surrogate antigen)」という用語は、IHC又はICCアッセイで使用される一次抗体の標的とされないが、それにもかかわらず、例えばIHC又はICCアッセイで使用される一次抗体(マウス又はウサギベース)の2つのFcyRI領域の一方のみを介して一次抗体に結合するタンパク質を指す。本明細書中で使用する場合、「マウス専用(only)代理抗原」という用語は、マウスベースの一次抗体のFcyRIのみに対して特有に反応するタンパク質又は抗原を意味する。本明細書中で使用する場合、「ウサギ専用代理抗原」という用語は、ウサギベースの一次抗体のFcyR1のみに対して特有に反応するペプチド又はタンパク質を意味する。
【0068】
有胎盤哺乳動物(Placenta mammal)タンパク質は、分子量(weight)が50kDa~65kDaの範囲である。一次抗体IgGタンパク質は、2つのFabドメイン及び1つのFcドメインから構成され、通常はY字型でモデル化される。Fcは、ヒンジによって2つのFabドメインに接続する。全ての非コンジュゲート抗体を、アンタゴニスト抗原ペプチドを宿主に接種することで宿主哺乳動物(ほとんどの場合、マウス又はウサギ)において成長させる。宿主は、接合(mating)抗原を捕捉することができる抗体のFabドメインのN末端近くの結合アミノ酸配列を集合させることによって、有害なアンタゴニスト抗原ペプチドを撃退するために抗体を産生する。抗体のFcドメインは常に、宿主哺乳動物のものである。宿主抗体のFcドメインは通常、結合親和性の高いものから低いものへの順序でFcyRI(CD64)、FcyRII(CD32)及びFcyRIII(CD16)という二次抗体に利用可能な3つの結合部位を有する。
【0069】
一次ダミータンパク質は、マウス、ウサギ、ヤギ、ウシ、及びヒツジが多くの場合、二次抗体に結合し得ることから、これらに非反応性であるように選ばれる。幾つかの実施形態では、ダミー一次タンパク質は、ウマ、ロバ、シマウマ、バク(正:tapir)、又はサイのようなウマ科の任意の成員である。BSA(ウシ血清アルブミン)は、熱及び時間なしには組織又はほとんどのスライド接着剤化学物質に共有結合しないことから、好適なタンパク質ではない。ウシ、ヒツジ、及びヤギも、場合によっては、一次抗体の特異性に応じて、これらのタンパク質がマウス又はウサギと混同される可能性があることから好適なダミータンパク質ではない。
【0070】
一次タンパク質は、宿主抗マウス又は宿主抗ウサギのいずれかである。宿主は、ヤギ又はウマ科の任意の成員に限定される。
【0071】
ペプチドベースの一次タンパク質は、C末端のシステイン残基がKLHサブユニット(キーホールリンペットヘモシアニン)等の担体タンパク質に共有結合したマウス又はウサギFcyRI反応性ペプチドからも構成され得る。KLHサブユニットは、その遊離アミン部位でスルホ-SMCCにより活性化され、コンジュゲーションによりペプチドのシステイン残基に結合する。非活性化KLHサブユニットは、単独で一次ダミータンパク質を作製するのに十分である。
【0072】
完全タンパク質としてのKLHがおよそ8000kDaであることに留意することが重要である。完全タンパク質状態では、KLHは、pH又は温度に関して安定せず、タンパク質が390kDaのKLH1及び350kDaのKLH2というサブユニットに分離する。これらのサブユニットのいずれかを、スルホ-SMCCで活性化することで、通常はペプチドのC末端にシステイン残基を有するペプチドの担体タンパク質として使用することができる。
【0073】
図5Aを参照すると、幾つかの実施形態では、一次標的が一次標的アレイ1415に配置される。幾つかの実施形態では、一次標的アレイ1415は、一次標的密度勾配アレイである。アレイ内の各標的が同じ最大標的密度(タンパク質/表面積)を有していなくてはならない。しかしながら、一次タンパク質とダミー一次タンパク質との比率は、広範な一次抗体希釈物を確実に識別することができるように段階的な比率にする。概して、2つの一次代理抗原標的による検出が濃度を検出移行(transfer)曲線にマッピングするのに十分である。幾つかの実施形態では、一次標的密度勾配アレイは、1つのアレイがマウスベースであり、他がウサギベースである複数の一次標的ローディングドットを含む。
【0074】
幾つかの実施形態では、一次標的の密度は、100%、80%、60%、40%等のように線形的に増加又は減少させる。幾つかの実施形態では、一次標的の密度は、100%、33%、10%、3%等のように対数的に増加又は減少させる。
【0075】
幾つかの実施形態では、一次標的密度勾配アレイでは、最高の一次標的密度を有するローディングドットにおける一次標的密度は、一次標的が染色プロセス中にローディングドットを飽和させることができないように十分に高い。
【0076】
幾つかの実施形態では、汎用代理抗原は、プロテインA又はプロテインGのいずれかである。プロテインAは、FcyRI及び有胎盤哺乳動物のFabドメイン内の幾つかの領域に結合する。プロテインGは、ほとんどの有胎盤哺乳動物のFcyRI部位のみに結合する。
【0077】
幾つかの実施形態では、代理抗原は、マウス又はウサギのみに対して特異性を有していなくてはならない。特異性を支持するために、代理抗原は、抗マウス及び抗ウサギタンパク質、担体タンパク質上の抗マウス及び抗ウサギペプチド、又は抗マウス及び抗ウサギVHHタンパク質ドメインのそれぞれから構成され得る。
【0078】
幾つかの実施形態では、ダミー代理抗原は、ウマ科の動物、又はヤギを除く有蹄の有胎盤哺乳動物に由来する抗体を含む。ウマ科は、ウマ、ロバ、バク、サイ及びラバ等の動物を含む。ウマ科は、進化的かつ遺伝子学的にはるかに離れているため、非特異的な染色の発生が減少する。多くの場合、任意の未反応のヤギ一次部位に結合する、二次染色のシークエンシングに抗ヤギタンパク質を使用するため、ヤギを使用することができない。
【0079】
染色プロセスで使用される代理抗原と一次抗体との間の相互作用の様式は、実際の抗原と一次抗体との間のものとは異なるが、代理抗原標的は、一次抗体の効率の評価をもたらすことができる。一次抗体は、濃度(mg/ml)のアッセイを伴う。しかしながら、アッセイでは、何パーセントのアッセイが完全IgGタンパク質を示すかは示されない。標的中の代理抗原の密度濃度が既知であるため、適用される一次抗体濃度の取込みを決定することができる。外挿により、共在する組織切片の抗原密度を決定することができる。組織上の抗原密度の分解性は、一次抗体(モノクローナル又はポリクローナル)、二次抗体、及び二次染色の酵素利得による累積変位に限られる。適用される一次抗体の濃度は、組織タイプに依存し、常に幾らかの余剰マージンが含まれる。したがって、一次抗体が、その変位限界内の利用可能な抗原部位の全てに結合すると仮定される。
【0080】
幾つかの実施形態では、一次標的密度勾配アレイは、汎用代理抗原のローディングドットアレイである。幾つかの実施形態では、アレイ内のローディングドットは、漸増又は漸減密度の代理抗原を含む。幾つかの実施形態では、代理抗原は、ダミー代理抗体等の1つ以上のダミータンパク質とブレンドされ、代理抗原の漸増又は漸減濃度は、最大標的密度を維持しながら、代理抗原とダミータンパク質との比率を変更することによって達成される。
【0081】
幾つかの実施形態では、対照領域140は、代理抗原標的の少なくとも2つのアレイを含む。幾つかの実施形態では、対照領域140は、抗マウス抗体を含む第1の代理抗原標的アレイと、抗ウサギ抗体を含む第2の代理抗原標的アレイとを含み、いずれも最大標的密度を維持しながら所望の反応密度を形成するためにダミー代理抗原とブレンドされる。
【0082】
したがって、これらの実施形態によると、IHC又はICC工程では、二次標的によって展開される酵素利得及び抗原賦活化係数を用いて、代理抗原一次標的により一次抗体濃度を評価することができる。
【0083】
[抗原賦活化標的]
幾つかの実施形態では、対照領域140は、抗原賦活化標的を含む。
【0084】
IHC及びICC染色アッセイは多くの場合、抗原賦活化(「AR」とも称される)プロセスを含む。ARプロセスは、熱処理エピトープ賦活化(HIER)法又は温水抗原賦活化法を用いて行うことができる。用いられる方法及び特定の方法の実施に応じて、相当量の変動が導入され、結果は、実行者及びスライドによって異なる。ARバッファー及びバッファー温度の直接測定は多くの場合、正確ではない。しかしながら、適当な対照がなければ、実行者は多くの場合、ARバッファーの温度及び条件が理想的であると無思慮に仮定することになる。したがって、対照の欠如は多くの場合、最終評価とされるARプロセスの失敗を引き起こし、不適切な判断が行われる。
【0085】
ARプロセスにおける最も一般的な問題点は、抗原の過小回収又は過剰回収である。過小回収条件は、AR温度が過度に低く、曝露時間が不十分である等の場合に生じる。過剰回収条件は、AR温度が過度に高いか、AR条件への曝露が過度に長いか、又はARバッファー条件が過度に厳しい(例えば、pH9.5超又はpH5.5未満)場合に生じる。
【0086】
したがって、幾つかの実施形態では、抗原賦活化標的は、ARプロセス中の過小回収、名目値回収、及び過剰回収の指標をもたらすように構成される。
【0087】
幾つかの実施形態では、対照領域140は、3D AR標的(ARM3D)及び2D標的(ARM2D)を含む。2D標的及び3D標的は、以下のセクションに詳細に記載される。
【0088】
幾つかの実施形態では、ARM2D標的は、最小ホルムアルデヒド固定で100%濃度のマウスタンパク質及びウサギタンパク質(又は他の種由来のタンパク質)の50:50混合物を含む。幾つかの実施形態では、タンパク質は、IgGである。2D標的が対応する3D標的よりも少ないシグナルを生成し、ARM2D標的が最小固定を有するため、ARM2D標的の染色は、不十分な抗原賦活化を示す。
【0089】
幾つかの実施形態では、ARM3D標的は、ホルムアルデヒドで過剰固定された3Dスカフォールド中に付着された100%濃度のマウスタンパク質及びウサギタンパク質(又は他の種由来のタンパク質)の50:50混合物を含む。3D標的が対応する2D標的よりも多くのシグナルを生成し、ARM3D標的が過剰固定されるため、ARM3D標的の染色の欠如は、ARプロセスが非常に活動的であったことを示す。
【0090】
幾つかの実施形態では、抗原賦活化標的は、ARM2D標的又はARM3D標的に加えて一次標的勾配アレイ又は二次標的勾配アレイを更に含む。幾つかの実施形態では、一次標的アレイ又は二次標的アレイは、上記のものと同じ又は類似している。
【0091】
幾つかの実施形態では、二次標的勾配アレイは、マウス又はウサギ密度勾配アレイである。これらの実施形態によると、マウス勾配密度アレイ及びウサギ勾配密度アレイの10%~30%以下の標的ドットが可視的な染色を示さない場合、名目値回収条件が示される。この場合、ARプロセスの度合いは、染色されない低濃度二次標的の数によって評価することができる。
【0092】
[2D/3D標的]
幾つかの実施形態では、一次標的、二次標的又は抗原賦活化標的等の対照標的は、2D標的を含む。
【0093】
本明細書中で使用する場合、「2D標的」という用語は、ペプチド、タンパク質、抗原、抗体又は任意の他の対照標的材料がスライド上の2D平面に付着することを意味する。
【0094】
2D標的は、より付着が容易であり、したがって比較的製造が安価である。したがって、コストが問題となる場合に2D標的が使用される。
【0095】
幾つかの実施形態では、一次標的、第2の標的又は抗原賦活化標的等の対照標的は、3D標的を含む。
【0096】
本明細書中で使用する場合、「3D標的」という用語は、ペプチド、タンパク質、抗原、抗体又は任意の他の対照標的材料の少なくとも1つが、スライド上の3D空間に付着させた支持体構造及び複合材料に適用されることを意味する。
【0097】
1つ以上の実施形態において、3D標的は、3Dスカフォールドをスライド上に形成し、対照標的材料をスカフォールド上に付着させることによって構築される。幾つかの実施形態では、3Dスカフォールドは、多糖クラスターである。多糖は、ペプチド上又はタンパク質の表面上のヒドロキシル基又はアミン基と共有結合を形成し、タンパク質同士を結び付け、標的をスライドコーティング接着剤に固定する。幾つかの実施形態では、対照標的は、ホルムアルデヒド固定によって3Dスカフォールド上に固定される。この場合、標的は、2D成分及び3D成分の両方から構成される。
【0098】
1つ以上の実施形態において、3D標的は、一次又は二次標的材料が共有結合したサブミクロンビーズから構築される。この場合、ホルムアルデヒド固定は、一次又は二次標的材料を通常の抗原賦活化処理に対して安定化するために適用される。付着させる標的は、この場合、2D成分及び3D成分からなる。
【0099】
2D標的と比較して、3D標的は、染色試料とより同様に挙動する。組織切片及び細胞等のIHC又はICCの染色試料は、高さを有する。試料の高さは一般に、4ミクロン~10ミクロンの範囲である。染色において標的とされる抗原部位は、組織切片の露出表面トポロジー上の至るところに存在することができる。そのため、試料中の抗原部位は、切片の上面若しくは底面のいずれか、又は組織の側壁のどこかが平面であり得る。したがって、試料の側壁上の抗原は、2D標的が可能であるよりもはるかに多くの色素を色素原から沈殿させることができる。2D要素とともに3D要素を組み入れることで、仮想3Dアレイを形成するために他の2D標的ドットに適用することができる工程オフセットが生じる。実験的には、0.5ミクロンを超える任意の3D標的が組織切片と同じ暗さで染色されることが見出された。
【0100】
さらに、染色プロセスで一般に使用される試薬であるDABは、比較的短時間で劣化し、カラー及び強度の変化を生じる。本発明者らは、DAB染色された3D標的においてカラー及び強度が試料中のものと同様に変化することを見出した。
【0101】
[特殊染色]
幾つかの実施形態では、対照標的は、特殊染色を含む。
【0102】
幾つかの実施形態において、特殊染色は、アルシアンブルー、アニリンブルー(正:Aniline)-オレンジG溶液、アザン染色、ビルショウスキー銀染色、Brow&Bennグラム染色、クレシルバイオレット、DAB、フォンタナマッソン、ゴードンスイート銀染色、グロコットメセナミン(正:Grocott's Methenamine)銀染色法、ホールビリルビン染色、ジョーンズメセナミン(正:Jones Methenamine)銀染色法、ルクソールファストブルー、ルクソールファストブルー-クレシルバイオレット、ムチカルミン(メイヤー法)、ミューラー-モーリーコロイド鉄、オレンジG、ヌクレアファストレッド、ジアスターゼ消化したPAS、過ヨウ素酸Schiff(PAS)、リンタングステン酸、ヘマトキシリン、ピクロシリウスレッド、酸性化トルイジンブルー、トリクロム-ゴモリ一段法、トリクロム-マッソン、ビクトリアブルー、ボンコッサ、ワイゲルトレゾルシンフクシン、ワイゲルト鉄ヘマトキシリン、ゼル-ニールセン法又はこれらの組合せを含む。
【0103】
[イメージング参照標的]
幾つかの実施形態では、対照領域140は、イメージング(正:imaging)参照標的を更に含む。幾つかの実施形態では、画像標的は、黒色標的(単数又は複数)、白色標的(単数又は複数)、又は透明標的を含む。
【0104】
染色された生体材料を含有する顕微鏡スライドのデジタルイメージングは、染色された材料に対するプレスクリーニング及び潜在的には完全な診断判定を実施するように発展しつつある。幾つかの実施形態では、染色プロセス後に、スライドを、デジタル画像が白色境界又は黒色境界のいずれかで圧縮状態にないように光照射レベル又は曝露を調整するイメージングプロセスに供する。別のアプローチでは、黒色標的及び白色標的は、標識が位置すると予測される場所に位置付けられる。白色標的及び黒色標的が、染色シグナルのレベルが達し得る極値を表すことが、基礎を成す前提である。しかしながら、黒色標的及び白色標的を有する場合、組織切片の染色によって実現され得るよりも、黒色は遥かに黒く、白色は遥かに白くなるため、デジタルスケールで圧縮状態になる。
【0105】
幾つかの実施形態では、イメージング参照標的は、スライド上に印刷される。幾つかの実施形態では、イメージング参照標的は、黒色標的及び白色標的の対を含む。幾つかの実施形態では、イメージング参照標的は、染色プロセスで使用される試薬と非反応性の印刷された塗料付着物である。
【0106】
幾つかのイメージングシステムでは、透過光のみが使用される(スライドの底面からの照射)。他のイメージングシステムでは、透過光及び反射光の両方が使用される(スライドの上面からの照射)。第3の透明参照標的が反射光照射を支持する。したがって、透過光照射については、黒色/白色参照は、それぞれ黒色顔料標的及び透明標的であり、反射光照射については、黒色/白色参照は、それぞれ(正:respectively)透明標的及び白色標的である。単一抗体スライドの例については図12、二重抗体スライドについては図13を参照されたい。黒色/白色標的は、実際には一連のドットであり、代替的には、スライドがインクジェットプリンターで吐出される場合に、標的ドットを損傷から保護するバンパーとして付加的な機能を果たすバーであり得る。インクジェットプリンターは、スライドをマガジンの底面から吐出する。バンパーにより、残りのスライドの束でスライド上のパラフィンコーティング又は標的が削られないことが確実となる。これらの同じ隆起により、パラフィン層が隣接したスライドの底面に付着しないようスライドを包装して輸送することも確実となる。
【0107】
透過光によるイメージングは、組織上の抗原密度の誤表示を引き起こす。これは、染色される組織が、全ての抗原部位が単一平面上にある一様なスラブではないことから生じる。むしろ、組織は、その厚さ内のどこにでも抗原部位を有し得る。二次染色は、粒子が酵素部位を覆い、沈殿の継続が妨げられるまで沈殿し続ける色素粒子を生じる。抗原部位が組織切片の側壁上にある場合、酵素が覆われることはなく、沈殿により抗原の存在が過剰に表される。透過光を用いると、沈殿した色素が厚くなることから、「暗さ」が生じる。対照的に、反射光では、色素の堆積の上面しか「見えず」、抗原密度のより正確な表示が得られる。
【0108】
幾つかの実施形態では、白色標的は、完全な白色に近いカラーを有する。完全な白色のカラーは得るのが困難であるため、幾つかの実施形態では、白色標的のカラーは、完全な白色から5%~10%離れる。完全な白色から5%未満離れた白色のカラーは、生じさせるのが困難であり、完全な白色から10%超離れたカラーは、場合によっては染色シグナル強度の対照として十分に正確でない。
【0109】
幾つかの実施形態では、白色標的は、白色顔料を含む。幾つかの実施形態では、白色顔料は、強い光に曝しておかなければ経時的に安定した金属酸化物又は金属硫酸塩顔料である。幾つかの実施形態では、白色顔料は、酸化アルミニウム、酸化チタン、又は硫酸バリウムを含む。幾つかの実施形態では、金属酸化物又は金属硫酸塩は、ビーズの形態である。
【0110】
幾つかの実施形態では、黒色標的は、黒色顔料を含む。幾つかの実施形態では、黒色顔料は、炭素系顔料を含む。幾つかの実施形態では、黒色顔料は、カーボンダストを含む。幾つかの実施形態では、カーボンダストの直径は、2ミクロン未満である。
【0111】
幾つかの実施形態では、イメージング参照標的は、無水物系エポキシを含む。幾つかの実施形態では、イメージング参照標的は、顔料と無水物系エポキシとを混合し、無水物系エポキシを硬化させることによって作製される。エポキシ結合剤と顔料との対応は、顔料とエポキシ結合剤との間に良好な濡れが見られる限りにおいて(正:as long as)特に限定されない。
【0112】
幾つかの実施形態では、無水物系エポキシは、アミノ-シランベースの触媒の未反応のアミンを排除することが可能な無水物触媒を含む。遊離アミン基は、生体材料及び染色試薬の一部の両方を捕捉する。そのため、遊離アミンは、IHC及びICCプロセスにおいて非特異的な染色を生じる。したがって、未反応のアミンの排除は、非特異的な染色を低減する。
【0113】
幾つかの実施形態では、無水物系エポキシ塗料は、メチルテトラヒドロフタル酸無水物又はジフェニルヨードニウムヘキサフルオロヒ酸塩等の無水物触媒を含む。
【0114】
幾つかの実施形態では、無水物系エポキシの硬化は、無水物系エポキシを365nmの波長を含むUV光等のUV光に曝すことを含む。幾つかの実施形態では、無水物系エポキシ塗料の硬化は、無水物系エポキシ塗料を熱に曝し、それによりエポキシを架橋させることを更に含む。UV開始無水物系エポキシ及びその併用試薬は、特に限定されない。当業者は、無水物製造業者による製品の検索を行うことによって望ましい無水物系エポキシを特定することが可能である。
【0115】
幾つかの実施形態では、無水物系エポキシを含むイメージング参照標的を一次標的、第2の標的、又は抗原賦活化標的の付着の前にスライド上に付着させる。これは、無水物系エポキシの硬化プロセスにおける熱処理が一次標的、第2の標的、又は抗原賦活化標的中に含まれる生体材料を損傷し得ることが理由である。幾つかの実施形態では、無水物系エポキシは、UVによって硬化され、UVがペプチド及びタンパク質を損傷する可能性が低いことから、イメージング参照標的の付着は、一次標的、第2の標的、又は抗原賦活化標的の付着の後に行うことができる。
【0116】
幾つかの実施形態では、イメージング参照標的配合物は、界面活性剤を含まず、それによりインク/塗料が、これらのスライドが受ける可能性がある範囲の染色剤及び試薬と反応性となることが防がれる。
【0117】
幾つかの実施形態では、イメージング参照標的は、スタンプ台によってスライド上に印刷される。他の実施形態では、イメージング参照標的は、シリンジにより標的付着のサイズを制御することが可能であるため、シリンジによって印刷される。
【0118】
イメージング参照標的を用いることで、全てのデジタル化範囲が黒色/白色のスライドの画定内であることから、完全な黒色及び白色参照の使用に対してデジタル分析を最適化する。染色された試料中に存在する抗原の量をより正確に決定するために、デジタル分析により対照標的のカラーの内挿を補助する。画像参照標的を使用して、対照標的での反応の量を測定するための基準点を得るためにデジタル分析の較正を補助する。
【0119】
[対照標的を付着させる方法]
幾つかの実施形態では、本明細書は、対照標的をプロセス記録スライド上に付着させる方法に関する。幾つかの実施形態では、スライド及び対照標的は、上記のものと同じか又は類似する。
【0120】
幾つかの実施形態では、対照標的を付着させる方法は、一次対照標的又は二次対照標的をスライド上に付着させることを含む。
【0121】
幾つかの実施形態では、一次対照標的又は二次対照標的の付着は、所定の濃度の対照標的の溶液を調製することと、対照標的を固定することと、溶液をスライド上に印刷することとを含む。
【0122】
幾つかの実施形態では、対照標的の溶液の調製は、対照標的、及びタンパク質とスライド接着剤との間のリンカーとして機能する多糖を含む溶液を調製することを含む。
【0123】
幾つかの実施形態では、対照標的の固定は、対照標的をホルムアルデヒドで固定することを含む。ホルムアルデヒドは、対照標的が通常の抗原賦活化プロトコルを耐えることができるように対照標的を架橋する。
【0124】
幾つかの実施形態では、対照標的を架橋する。組織内では、タンパク質は、タンパク質の拡散及び変性を防ぐ傾向がある組織の他の部分に結合する。溶液中の対照標的が遊離タンパク質を含むため、対照標的は、熱及びpHに対する感受性がより高く、特にIHC又はOCCにおけるARプロセスを経る際にスライド上で拡散及び変性する傾向がある。
【0125】
幾つかの実施形態では、一次標的を以下のように調製する:
濃度45μg/mlの1mlの一次タンパク質マスター希釈液のセットを形成する。ロバ-抗マウス、ロバ-抗ウサギ、及びロバIgG(H&L)タンパク質を必要に応じてdHOで希釈し、45μg/mlの濃度を達成する。通常、これらのタンパク質は、購入時に1mg/ml~10mg/mlの濃度である。真菌成長阻害剤として10μlのチメロサール(正:Thimerosal)を添加する。
各マスター希釈液を10μlの0.2%ホルムアルデヒドで1時間~4時間、40℃~60℃で固定する。
30μlの0.45%濃度のアミロースを線状ポリマー(チメロサールを真菌成長阻害剤として添加した)として添加し、30分間混合する。
20μlの0.1M重炭酸アンモニウムを添加し、任意の未反応のホルムアルデヒドをクエンチする。
マスタータンパク質溶液を使用して、各標的が700μlのマスタータンパク質溶液を含有する、マウスとロバ及びウサギとロバの標的混合物を形成する。
【0126】
幾つかの実施形態では、二次標的を以下のように調製する:
濃度45μg/mlの1mlの二次タンパク質マスター希釈液のセットを形成する。マウス、ウサギ、及びロバIgG(H&L)タンパク質を必要に応じてdHOで希釈し、45μg/mlの濃度を達成する。通常、これらのタンパク質は、購入時に10mg/ml~60mg/mlの濃度である。真菌成長阻害剤として10μlのチメロサールを添加する。
各マスター希釈液を10μlの0.2%ホルムアルデヒドで1時間~4時間、40℃~50℃で固定する。
30μlの0.45%濃度のアミロースを線状ポリマー(チメロサールを真菌成長阻害剤として添加した)として添加し、30分間混合する。
20μlの0.1M重炭酸アンモニウムを添加し、任意の未反応のホルムアルデヒドをクエンチする。
マスタータンパク質溶液を使用して、各標的が700μlのマスタータンパク質溶液を含有する、マウスとロバ及びウサギとロバの標的混合物を形成する。
【0127】
幾つかの実施形態では、調製した一次若しくは二次標的、又は画像参照標的を、以下に従って1回の印刷サイクルでスライド上に印刷する:
標的溶液を接着剤コーティングされた顕微鏡上に印刷する。
全ての水が蒸発するまで60℃で風乾させた後、冷却する。
パラフィン-溶媒混合物を、印刷された標的アレイ上にスプレーによって塗布する。
パラフィンを再流展して(Reflow)、標的アレイの封止を完了し、溶媒を追い出す。これにより、パラフィンをその硬化及び固体状態に戻す。
【0128】
[IHC又はICC染色の方法]
幾つかの実施形態では、本明細書は、免疫組織化学的(IHC)又は免疫細胞化学(ICC)染色の方法に関する。幾つかの実施形態では、本明細書は、上記のプロセス記録スライドを用いた免疫組織化学的(IHC)又は免疫細胞化学(ICC)染色の方法に関する。
【0129】
幾つかの実施形態では、IHC又はICC染色プロセスは、固定された試料をパラフィン中に包埋することと、パラフィンを除去して、試料の細胞構造内の抗原部位を露出させることとを含む。
【0130】
幾つかの実施形態では、パラフィンの除去は、パラフィンを65℃~75℃の範囲の温度で3分~10分間加温して半液体状態にし、次に半液体パラフィンをキシレン又はキシロール等の脂肪族溶媒で液化し、続いて無水エタノール、95%エタノール、70%エタノール、50%エタノール、及び塩ベースの緩衝溶液の一連の再水和を行うことを含む。
【0131】
幾つかの実施形態では、IHC又はICC染色プロセスは、ホルムアルデヒド固定を除去して、試料中の抗原部位を露出させることを更に含む。幾つかの実施形態では、ホルムアルデヒド固定の除去は、熱処理エピトープ賦活化(HIER)プロセスを行うか、又は多サイクル温水抗原賦活化プロセスを行うことを含む。
【0132】
幾つかの実施形態では、HIERプロセスは、試料を水の存在下で熱に曝すことによってホルムアルデヒドと組織との間のシッフ塩基結合を破壊することを含む。幾つかの実施形態では、試料を熱に曝すことは、試料を89℃~95℃の範囲の温度に曝すことを含む。幾つかの実施形態では、試料を熱に曝す際にバッファー試薬に曝露する。幾つかの実施形態では、バッファー試薬は、6~10、例えば6~9の範囲のpHを有する。試薬のpHの選択は、組織タイプ等の試料のタイプによって決まる。
【0133】
幾つかの実施形態では、水ベースの抗原賦活化プロセスは、試料を約60℃~約65℃の範囲である包埋用パラフィンの融点よりも約10℃高い温度に曝すことを含む。幾つかの実施形態では、水ベースの抗原賦活化プロセスは、試料を石鹸及び連続的な洗浄に付して、パラフィンを溶解及び除去することを含む。
【0134】
パラフィン除去及び固定回収におけるオペレーターのエラー又は処理の欠陥が続く染色プロセスを阻止して、偽陰性の結果をもたらし得ることに留意すべきである。かかる偽陰性の結果は、プロセス記録スライドにおける対照標的の染色結果を再検討することによって検出することができるが、オペレーターのエラー又は処理の欠陥は試料、時間及び資源の浪費を引き起こし、回避する必要がある。
【0135】
この時点で、抗原部位を露出させ、染色試薬を適用して、標的とされる抗原の存在及び量を示すシグナルを生じさせることができる。
【0136】
幾つかの実施形態では、IHC又はICC染色プロセスは、1つ以上の一次抗体を適用することを更に含む。2つ以上の一次抗体を適用する場合、抗体は、二次抗体による交差反応を回避するために異なる動物種に由来する必要がある。例えば、2つの一次抗体を使用し、第1の一次抗体がマウス抗体である場合、第2の一次抗体は、ウサギ抗体のような非マウス抗体である必要がある。これらの実施形態によると、1つ以上の一次抗体は、試料中の適合性抗原部位、及びタンパク質/ペプチド抗原又は代理抗原等の一次対照標的に結合する。幾つかの実施形態では、一次抗体は、ER、PR、Her2、又はKi67を標的とする抗体を含む。
【0137】
図11を参照すると、幾つかの実施形態では、一次抗体は、発色レポーター、例えば酵素発色レポーター等のレポーターとコンジュゲートされる。これらの実施形態によると、二次抗体は必要とされない。
【0138】
幾つかの実施形態では、一次抗体がレポーターとコンジュゲートされない。これらの実施形態によると、一次抗体を標的とする二次抗体が適用される。幾つかの実施形態では、二次抗体がレポーターとコンジュゲートされる。
【0139】
図11を参照すると、幾つかの実施形態では、抗原のシグナルを更に増幅するために、多段階シグナル増幅プロセスを行う。多段階シグナル増幅プロセスの例としては、酵素標識された二次抗体と反応する酵素標識された三次抗体についての2倍の利得、3段階、間接的;二次抗体と反応するAPAAP免疫複合体についての2倍の利得が挙げられる。幾つかの実施形態では、一次抗体及び免疫複合体の抗体は、同じ種で作製される。シグナル増幅プロセスは、LAB又はLSAB、ビオチン化二次抗体と反応する酵素標識された(ストレプト)アビジン;CSA技術、一次抗体上のビオチン化(正:biotinylated)二次抗体上のストレプトアビジン-酵素複合体についての10倍超の利得;単一の一次抗体に結合する10個の二次抗体及び70個の酵素部位を含有するポリマーについての10倍超の利得を含む。
【0140】
幾つかの実施形態では、レポーターは、基質が存在する場合に色素原沈殿を生じることが可能な酵素である。全て、色素原沈殿の同じ最終状態に達する。
【0141】
幾つかの実施形態では、レポーター酵素として、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)又はグルコースオキシダーゼが挙げられる。
【0142】
幾つかの実施形態では、3個の一般的に使用される二次染色群のうちの1個又は2個、及び幾つかの対染色剤の1個が使用される:ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、グルコースオキシダーゼ及び核対比染色剤。
【0143】
幾つかの実施形態では、色素原として、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)、DAB+ニッケルエンハンサー、ファストレッド、TMB、ステイイエロー、BCIP/NBT、BCIP/TNBT、ナフトール(正:Naphthol)AS-MXホスフェート+ファストブルーBB、ナフトールAS-MXホスフェート+ファストレッドTR、ナフトールAS-MXホスフェート+ニューフクシン、ステイグリーン、NBT、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0144】
幾つかの実施形態では、基質及びレポーター酵素の組合せ、並びに生じるカラーは、下記の通りである:
HRP(ホースラディッシュ(正:Horseradish)ペルオキシダーゼ)
DAB(3,3’-ジアミノベンジジン)>>褐色から赤褐色
AEC(3-アミノ-9-エチルカルバゾール)>>赤色
DAB+ニッケルエンハンサー>>黒色
TNB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)>>青色
ステイイエロー>>黄色
AP(アルカリホスファターゼ)
BCIP/NBT(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート)/
(ニトロブルーテトラゾリウム)>>青色
ナフトールAS-MXホスフェート+ファストブルー>>青色
ナフトールAS-MXホスフェート+ファストレッド>>赤色
ナフトールAS-MXホスフェート+ニューフクシン>>赤色
ステイグリーン>>緑色
GO(グルコースオキシダーゼ)
ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)>>青色から紫色
【0145】
幾つかの実施形態では、IHC又はICC染色プロセスは、核対比染色等の対比染色を更に含む。幾つかの実施形態では、核対比染色では、青色のカラーを生じるヘマトキシリン等の1つ以上の核染色を用いる。
【0146】
染色基質又は化合物の選択は、カラーの要件、安定性の要件、及び地方の規制基準に基づいて行うことができる。
【0147】
例えば、DABは、一般に米国及び中国等の国々で使用されるが、AECは、一般に他の国々で使用される。DABによって生じる茶褐色のカラーがAECの赤色のカラーと比較して高い彩度を有することから、DABはAECよりも使用されることが多い。しかしながら、AEC染色は、DAB染色よりも安定している。実験により、元のDABが短期間で著しく劣化して、その結果、彩度が4時間以内で著しく下がることが示されている。より新しい型のDABには、DABの安定性を数時間から数日間延ばす安定剤が組み込まれている。DABはまた、続く緩衝液洗浄サイクル中に洗い流される傾向を有する。他方で、AECは、数週間から数ヶ月間、安定なままである。
【0148】
世界中の規制基準は、確証された対照が、かかる技術が実行可能及び利用可能になってから、組織切片及び遊離細胞の処理の試薬、方法、及び器具類を検査するのに使用されることを求めているか、又は要求している。かかる規制管理は、結果を検証するために、また品質保証のために、血液学及び臨床化学に関して、長い間整備されてきた。対照実験の結果は、Levey-Jenningsのチャートの形態でプロットされる(Westgard et al. 1981)。Westgard J, Barry P, Hunt M, Groth T (1981) "A multi-ruleShewhart chart for quality control in clinical chemistry". Clin Chem 27:493-501。
【0149】
[抗原イメージングスケールの外挿]
幾つかの実施形態では、IHC又はICC染色の方法は、一次及び二次標的の染色結果を外挿することによって共在する患者試料における抗原濃度を推定することを更に含む。
【0150】
幾つかの実施形態では、IHC又はICC染色の方法は、一次及び二次標的の染色結果を外挿することによってIHC又はICC染色工程のプロセスQCを決定することを更に含む。
【0151】
スライド上に付着する対照標的の量は予め決まっているため、分子質量、付着物中の各タンパク質型の対照標的分子の数、標的の面積、及びスライドコーティングの多孔度を知ることで、標的の有効表面タンパク質密度を計算することができる。
【0152】
一次抗体の試薬に曝露されるスライド上での適用濃度、分注量及び表面積は、既知である。試薬の曝露時間中に浮遊抗体の大部分が落下し、受容抗原部位によって捕捉されると合理的に仮定することができる。抗原部位上に直接落下するもののみが、捕捉されるようになり、その残余は、緩衝液洗浄工程によって洗い流される。したがって、付着された抗体濃度は、適正な条件下で、例えば、濃度が、カットオフの25%を超える場合に、また飽和から25%未満である場合に確立させることができる。本明細書中で使用する場合、「カットオフ」という用語は、適用されるタンパク質濃度を捕捉するのに不十分な標的密度として定義され、飽和は、適用されるタンパク質全てを捕捉することができない濃度として定義される。
【0153】
一次希釈率(ratio)を知ることで、正確な一次標的の密度標的を選ぶことができ、一次濃度を実証することができる。
【0154】
本発明の一実施形態では、各々の二次標的及び一次標的は、((マウス又はウサギIgG)+(ロバIgG+架橋剤+真菌阻害剤))又は((抗原Aを有するKLH又は抗原Bを有するKLH)+(非コンジュゲートKLH+架橋剤+真菌阻害剤))又は代理抗原((ロバ-抗マウスIgG又はロバ-抗ウサギIgG)+架橋剤+ロバIgG+真菌阻害剤)の混合ブレンドである。各ドットは、同じ量の総タンパク質を有するが、特定の標的を構成するタンパク質間で原子質量が異なるように、混合比を僅かに調整する。
【0155】
幾つかの例示的なタンパク質の分子量を以下に挙げる:
マウスIgG=155kDa
ウサギIgG=150kDa
ロバIgG、ロバ-抗マウス、及びロバ-抗ウサギ=160kDa
プロテインA=42kDa
プロテインG=58kDa又は65kDa
プロテインA/G=50kDa
プロテインL=76kDa
ニワトリIgY=180kDa
KLHサブユニット:KLH1及びKLH2=それぞれ350kDa及び390kDa。
【0156】
本発明の別の実施形態では、2D二次標的勾配は、1~1000:1の段階的な希釈増分を含む。幾つかの実施形態では、希釈は、-20log(希釈率)プロファイルに従い、ここで、希釈増分は、-3dBd刻みである。-20log(希釈率)=dBdという用語はともに、データを線形化するために、半対数ベースで希釈について記載するものであり、その結果、修飾用語は、容易に適用され得る。(希釈率)という用語は、希釈Xを指し、ここで、Xは、1:1~1000:1に等しい[1..1000]である。dBdという用語は、希釈のデシベル又は希釈強度として定義される。修飾用語は、抗原賦活化損傷、酵素利得、又は一次抗体試薬希釈を含む。
【0157】
二次染色は、染色試薬の構築の関数である1倍~20倍の酵素利得関数を採用する。したがって、利得が上昇するにつれて、より低濃度の二次標的が飽和へとシフトする一方で、利得が1まで低下すると、高濃度の二次標的のみが視認可能に染色される。
【0158】
二次標的タンパク質と、ペプチドを有するKLHサブユニットをベースとするコンジュゲートされた一次標的タンパク質との間の相当な大きさの違いのために、ダミー希釈剤は、ペプチドがKLHサブユニットの質量に著しい変化を生じることから、非活性化KLHユニットでなくてはならない。
【0159】
プロテインA、G及びA/GへのKLHサブユニットの期待される結合能は、4つ~6つのタンパク質であると予測される。好適なダミーについては、KLHをプロテインA、G、A/G又はLタンパク質のいずれとも完全に非反応性であるニワトリIgYと接続させる必要がある。ニワトリIgYは、プロテインA/Gよりもほぼ4倍大きいが、KLHへの結合がより少ないため、最終的な結果はほぼ同じである。いずれの選択肢でも質量は650kDa~700kDaとなる。マウス及びウサギIgGについて以下に詳述するように、KLHサブユニットの質量値を入力し、計算を行うことができる。
【0160】
本発明の別の実施形態では、一次標的は、プロテインA、G又はA/Gから作製することができる。一次抗体は、主にマウスIgG又はウサギIgGのいずれかの宿主Fcドメインをベースとする。しかしながら、FcyRI部位は、マウスIgG1及びウサギIgG上に見られる。プロテインAは、ウサギIgGに強く結合するが、マウスIgG1には弱く結合する。プロテインGは、ウサギIgGに強く結合し、マウスIgG1に中程度に結合する。プロテインA/Gは、ウサギIgGに強く結合し、マウスIgG1に中程度に結合する。プロテインLは、他のもののFcyRIに対してFab軽鎖中でマウスIgG1に強く結合し、ウサギIgGに弱く結合する。幾つかの実施形態では、プロテインG又はA/Gが使用される。どちらもダイポール構造のように見え、一次抗体への単一の結合のみを支持する。
【0161】
プロテインA、G、A/G及びLは、ほとんどの有胎盤哺乳動物IgGに結合し、すなわち、二次染色キットの適用前のブロッキング工程は、BSA(ウシ血清アルブミン)をこれらのタンパク質に結合しないBSAとして使用した場合に機能しない。特に、ヤギは、プロテインA、G、A/G又はLへの結合がブロッキングされる。このことは、ほとんどの二次染色キットではヤギが宿主タンパク質として幾つかの工程で使用されるため、他のアプローチとは異なる。したがって、ブロッカーがウマ科:ウマ、ロバ、バク、及びサイのIgGタンパク質をベースとすることが強く推奨される。ウマ科は、遺伝的に早くに有胎盤哺乳動物から独立したため、二次染色試薬とほぼ非反応性であるが、未反応の一次標的部位をブロッキングするのに十分なほどプロテインA、G及びA/Gに結合するのに十分である。
【0162】
一次抗体との結合(binding connection)では常に、2つのFcyRI部位の一方が二次抗体との反応が可能な状態にあるため、捕捉された一次抗体は、機能的に無傷であり、少なくとも1つのFcyRI部位が二次染色の支持に利用可能でなくてはならない。したがって、染色される捕捉された一次抗体は、一次のアッセイ/希釈値に対して実際の適用濃度を表す。
【0163】
平均一次抗体原子質量を150kDaとすると、単一抗体分子の分子量は150kDa(1.6605×1012)であり、これは249×10-12ngの重量に相当する。スライドの単一領域を曝露される唯一の部分と仮定すると、適用される一次試薬の量を決定することができる。例えば、内寸が20.3mm平方×0.14mmの密閉毛細管ギャップを用いると、容量は57.2μLである。1ミクロンの標的領域に関する比は、適用される一次抗体試薬2.832nlをもたらす。
【0164】
一次抗体試薬は、濃縮物から10μg/mlの中間希釈物まで希釈される。続いて、中間希釈物は、スライド上への塗布のために、1:1~1000:1まで希釈される。これは、それぞれ、1:1~25.1:1の希釈に関して、面積1ミクロン上への31.5個~7.08個の抗体の付着をもたらす。
【0165】
100%の捕捉能を確実にするには、一次標的が100倍~1000倍の範囲の安全係数を有するべきである。1000倍の選択肢を選んだ場合、一次標的は、4×10個の抗原部位を含有する必要がある。KHLサブユニットは適用抗体よりも大きいが、増分は捕捉抗体の数が1:1を超えて変化するには十分でない。各KLHサブユニットは、370kDaの平均原子質量を有し、これは614.4×10-12ngの重量に相当する。
【0166】
タンパク質分子の体積は、タンパク質の分子量及び平均タンパク質部分比容から概算することができる(部分比容=体積/分子量)。可溶性の球状タンパク質について実験的に決定される部分比容の平均は、約0.73cm/gである。この値はタンパク質によって異なるが、範囲は狭い。等式を約(1.212×10×MW)nmのタンパク質体積へと換算する。これにより、KLHサブユニットでは、個々の体積は448.44nmである。タンパク質を球体と仮定すると、球体の直径は0.132×MW1/3(nm)と計算される。この計算方法によると、KLHサブユニットの直径は、約9.436nmである。
【0167】
1mmの直径を有する対照標的ドットでは、KLHサブユニットの単分子層を含み、11.237×1027個のタンパク質を必要とする。4×10個のタンパク質の活性標的密度では、最小希釈率は1:2.8×1021となる。実際的には、1:1000に近い任意の希釈率が、その活性タンパク質濃度によって一次抗体の評価が支配されることから、有効である。このため、標的密度は、その低濃度下限値によってのみ制限される。
【0168】
一実施形態において、二次標的アレイは、1~1000:1の段階希釈増分である。希釈の線形勾配は、dBd=-20log(希釈率)として生じる。1~1000:1の希釈範囲については、片対数(semi-log)範囲は0dB~-60dBdである。幾つかの実施形態では、二次標的の-3dB段階(stepping)希釈は、-0dBd、-3dBd、-6dBd、-9dBd、-12dBd、-15dBd、-18dBd、-21dBdの希釈系列をもたらす。
【0169】
二次標的アレイ及び一次標的アレイはどちらも、半可逆的に固定されて、ARプロセス中に試料又はAR標的より低い程度の分解を受ける。分解は、完全タンパク質ではなく、解放されたタンパク質セグメントに由来する。幾つかの実施形態において、ARプロセスは、タンパク質標的及び試料切片に作用し続けるため、AR損傷は、勾配スケールパターンの100%の位置に向かってのシフトとみなされる。他方で、二次酵素利得は、勾配アレイを、10%位置に向かってシフトさせる。幾つかの実施形態において、酵素利得は、1、2、4、5、8、10、15、又は20である。これは、10%標的側への二次アレイのシフトとして言い換えられる:
1. 20倍 全標的が-26dBdにシフトする;
2. 15倍 全標的が-23.52にシフトする;
3. 10倍 全標的が-20にシフトする;
4. 5倍 全標的が-13.98にシフトする;
5. 4倍 全標的が-12.04にシフトする;
6. 2倍 全標的が-6.02にシフトする;
7. 1倍 2Dの100%ドットのみが黒色に近い。
【0170】
通常、二次アレイを、100%の位置に向かって、3個以上のドット分シフトさせるAR損傷は、過剰であるとみなされ、染色は、より高い酵素利得二次染色キット、又はより高濃度の抗体を使用してやり直されるべきである。
【0171】
したがって、一次抗原標的カラー密度は、二次染色キットの抗体濃度×酵素利得の集計的合計である。その一方で、二次標的密度は、酵素利得×二次標的タンパク質濃度の単なる合計に過ぎない。
【0172】
デジタルイメージングシステムに応じて、照度の変化は、飽和(より暗くなる)又はカットオフ(より明るくなる)へ画像のダイナミックレンジをシフトさせる。これらの変化は、抗原のカラースケールをシフトさせる一方で、抗原密度の数字スケールはシフトさせない。したがって、数字スケールは、照度に非依存性であり、カラースケールは依存性である。
【0173】
本発明の一実施形態において、対照領域140内である図13を参照されたい。上述の二次タンパク質標的アレイは、2つの系統:ダミーIgG血清タンパク質と混合された、一方がマウスIgGとして、他方がウサギIgGとして形成され、最大密度から最小密度まで、-20log(希釈率)線形勾配で進行する5個以上の成員の勾配密度シリーズを形成し、ここで、希釈は、初期の1000:1の希釈後に、1:1~1000:1の範囲であり得る。
【0174】
本発明の別の実施形態では、上述の二次標的アレイは、ロバIgGと混合した33%、16.5%、及び4%の3つの濃度のマウスIgG又はウサギIgGとして形成される。
【0175】
別の実施形態において、最終プロセス工程において、同定される抗原部位は、色素原沈殿によって着色されるようになる。したがって、マウス標的アレイ及びウサギ標的アレイは、二次染色キット色素原沈殿の-20log(希釈率)線形勾配を反映するか、又は標的アレイは、二次染色反応性及び酵素利得を反映する。
【0176】
別の実施形態において、一次標的密度勾配アレイを形成する方法に関する解決法は、標的混合物を首尾よく構成することと、それらを接着剤コーティングされたスライド上に付着させることと、接着剤と標的材料との間で共有結合させることとに基礎を置いている。
【0177】
別の実施形態において、標的アレイが首尾よく付着されて、一次染色試薬及び二次染色試薬がともに、合理的に機能すると推定し、データ組間の曲線適合をコンピューターアルゴリズムによって行うことができる。別の実施形態において、一次染色剤は、蛍光マーカーにもコンジュゲートされないか、又は酵素部位(例えば、HRP又はAP)に組み込まれないマウス宿主タンパク質又はウサギ宿主タンパク質を含む任意のIHC又はICC認可抗体から選択され得る。別の実施形態において、二次染色剤は、それぞれ異なるカラー色素原を使用するマウスとウサギとの間でそれぞれが特有に非依存的である1倍~25倍の酵素利得を伴う二次染色剤を含む。
【0178】
本発明の別の実施形態において、絶対的な基準における或るスライド上での性能の結果は、別の時間に行われる別のスライドとは同一ではあり得ないことに留意することは妥当である。これは、一次のコンジュゲートされた一次抗体がそうであるように、二次染色キットが、ロット間で性能の点で異なるという事実に由来する。しかしながら、プロセス記録スライドの結果は、対照標的によって検証することができ、異なる染色試薬を使用して行われる別のスライドのものと等価である。
【0179】
幾つかの実施形態において、一次抗原濃度スケールは、この場合、組織切片を癌等の細胞の異常の検出に利用するために共在する組織切片に適用される。
【0180】
様々な実施形態が、実施例として本明細書中で記載される。様々な変更が成されてもよく、他の実施形態が、本明細書中で提示する本発明のより広い範囲から逸脱することなく使用することができることは、当業者に明らかである。例示的な実施形態に関するこれらの変形及び他の変形は、本発明によって網羅されると意図される。
【実施例
【0181】
下記の実施例は、本発明を説明するように提示され、如何なる場合でも本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0182】
[実施例1] スプレー塗布法を用いたパラフィンシールドコーティング
低い気流を用いて、スライドの表面上に噴霧する。幾つかの実施形態では、空気混合物に対して少量の液体を用いる。混合物をスライド上にマスクを通じて噴霧して、対照標的を覆う。通常、1回~2回行って、5ミクロン未満の厚さの層を形成させて、パラフィンシールを流すために再加熱する必要はない。パラフィンを流体として噴霧し、パラフィンがスライドまで進む間も流体として存在するように、パラフィン混合物容器及びスプレーヘッドをともに、56℃よりも僅かに高く加熱する。ヘッドからのスプレー被覆範囲は、公称0.375インチの幅である。付着させたパラフィン混合物を、周辺熱を1分間、60℃まで高めることによって再流展し、これにより溶媒を追い出し、パラフィンを冷却することで硬化状態に戻すことを可能にする。
【0183】
[実施例2] スクリーン印刷法を用いたパラフィンシールドコーティング
2個の平行な側面からスクリーンのワイヤに電流を通すことによって、ステンレス鋼印刷スクリーンを加熱する。スクリーンの温度は、パラフィンペーストがスクリーンの底部側にまで流れ込まないように、パラフィンの融点の僅かに下である。かかる温度では、パラフィンは、液体よりもペーストに近く挙動する。付着させたパラフィンを、周辺熱を1分間、60℃まで高めることによって再流展する。次に、塗布されたパラフィン混合物中の溶媒を全て追い出し、パラフィンを硬化状態に戻す。
【0184】
[実施例3] インクジェット法を用いたパラフィンシールドコーティング
パラフィンを液体状態で維持するために、一体型ヒーターが組み込まれたインクジェットヘッドが使用される。例えば、脂肪族溶媒であるZylolを用いて、パラフィンを固体から液体へと変化させる。付着させたパラフィン混合物を、周辺熱を1分間、60℃まで高めることによって再流展する。次に、塗布されたパラフィン混合物中の溶媒を追い出し、パラフィンを硬化状態に戻す。
【0185】
[実施例4] ローラー転写法を用いたパラフィンシールドコーティング
加熱したローラーにより、パラフィンのフィルムを、加熱した容器からローラー上へ引っ張りあげる。続いて、ローラーは、ナップローラーを用いた壁の塗装とほぼ同じ様式でスライド上にパラフィンのフィルムを転写する。付着させたパラフィンを、周辺熱を1分間、60℃まで高めることによって再流展する。次に、塗布されたパラフィン混合物中の溶媒を追い出し、パラフィンを硬化状態に戻す。
【0186】
[実施例5] PRS二次標的の単純な対数系列に対する抗原賦活化露出時間対分解
実験研究により、AR露出時間の変化が、2D二次標的及びAR標的において見られることを検証しようとした。
【0187】
予測される結果は、抗原賦活化露出時間及びシグナル強度の低下の線形勾配であった。実際に、ARバッファーが89℃超に達するのに要した時間を考慮すると、プロットされる勾配は線形であった。ホワイトバランス及びコントラストを最適に設定するためにPRS黒色/白色標的を用いて8ビットのデジタル化を使用すると、1.3lsb/分、+/-0.2lsbの勾配が得られた。実験により、タイムマークが89℃を超えて20分のAR曝露後にAR標的及び二次標的のシグナルが線形的に低下することが示される。20分のマーク後は、50%以上の対照標的が重度のストレス下となったため、二次標的の有用性が損なわれた。
【0188】
[実施例6] 二次標的の一貫性
試験研究は、研究される2つの要素を有していた:
I.単一のロットコードの二次タンパク質供給源及び希釈物を用いて構築したスライドのバッチ間のドット間比較、
II.異なるロットコードの二次タンパク質及び希釈物を用いて構築したスライド間のドット間比較。
【0189】
試験は、100%標的配合物及び40%標的配合物を使用して行った。100個のスライドに印刷をして、全て、Scytek社からのアビジン-ビオチン複合体(ABC)タイプマウス及びウサギ二次染色キットで処理した。抗原賦活化は、更なる変数を加えるため実施しなかった。両方の分布は、1.5%以内であった。
【0190】
[実施例7] ダミータンパク質の選択
10個の異なる二次アレイを、マウス、ウサギ、及びウシのIgGタンパク質の2つの異なるロットを用いて構築した。アレイは、100%、40%、及び20%の希釈率のIgGタンパク質を用いて構築した。分布は、100%希釈群及び40%希釈群に関して、1.5%以内であった。20%希釈群は、染色強度において予期せぬ増加を示した。この問題がABC染色キットのウシIgGとビオチン化ヤギ-抗多価試薬との間の予期せぬ相互作用に起因することを本発明者らは発見した。この問題は、ウシIgGをロバタンパク質に置き換えることによって解決された。試験を繰り返して、ここで群の20%が1.5%以内である。
【0191】
[実施例8] 二次対数系列PRSを用いた品質管理
QCモードでは、図6に示されるように、共在する標的がIHCプロセスのフィードバックを与える。
【0192】
図6を参照すると、公称値内の場合、公称値を少し超える場合、公称値を超える場合及び公称値を過度に超える場合(それぞれ5%、10%、30%及び40%)の行われる抗原賦活化の程度に曝露される二次標的(マウス及びウサギの50:50混合物)の4つのアレイがある。染色結果は、上に挙げる条件の各々を表す4つの異なるスライドから得られる。抗原賦活化プロセスでは、ホルムアルデヒドとタンパク質との間のシッフ塩基結合を逆転することによって抗原部位のアンマスキングを図る。抗原が露出する速度は、反応温度によって左右される。温度が上昇するにつれ、核沸騰(nucleated boiling)の可能性が生じる。核沸騰は、組織及びタンパク質付着物の両方に対する物理的損傷を引き起こす。理想的には、抗原賦活化(AR)活性はスライド全体で一様であるが、実際には、このことは当てはまらないことが多く、僅かにより高い又はより低い抗原賦活化活性を有する領域が存在する。抗原賦活化活性のかかる不均一性を無視すると、以下の事項を用いてスライドが診断判定に使用可能であると示すことができる。
【0193】
ARが不足又は過度である場合、二次アレイが失敗を反映することができない可能性がある。しかしながら、2つのAR標的が不足又は過度の失敗条件を示唆する。
a.低ARは一定未満の2D/3D及び一定を超える2Dとして見られ、標的はどちらも黒色である。二次アレイは、標的のARシフトが残らずに完全に見える。
低AR活性がIHC染色装置における以下の状況から生じ得る:
i.AR加熱装置が動作しないか、又は80℃よりはるかに低温に設定される;
ii.ARバッファーがpH6又は9ではなく、中性pH7を有する;
iii.曝露時間が過度に短い。
b.高ARは一定未満の2D/3Dとして見られ、大幅に白化し、一定を超える2D標的は50%未満が黒色である。二次アレイの大半も白化する。高AR活性がIHC染色装置における以下の状況から生じ得る:
i.加熱装置が95℃超の温度で動作する;
ii.曝露時間が過度に長い。
c.色素原沈殿の誤りは、2つの状況下で起こり得る:
i.高濃度の二次標的では、染色強度が最大暗さとはならずに下がる。二次アレイでは、部位密度に対して常に増大させる必要がある。そうでない場合、色素原沈殿により二次試薬キットのキャパシティが枯渇した。その解決策は、一次抗体の希釈率を増大すること(抗体濃度を低下させることと同じ)である。
ii.色素原試薬は、活性化(DABによって生じることが多い)のために劣化している。その解決策は、新たなDAB混合物を使用することである。
【0194】
染色は、一次抗体の濃度及び二次染色キットの酵素利得に応じて、飽和又はカットオフを受けることができる。飽和は、酵素部位の密度が、色素原から色素を沈殿させる容量を超える場合である。換言すると、染色カラーは、実現することができる程度で暗い。カットオフは、一次抗体の濃度及び二次染色キットの酵素利得が非常に低い場合に起こり、観察されるのに不十分な色素沈殿を生じる。2つの要素は、二次系統の暗さを飽和(100%)又はカットオフ(0%)にシフトさせる。図6に基づいて、この移動は、可視的な標的の数として観察される。二次酵素利得が増加すると、100%ドット密度は、0%の位置へとシフトする。一般的な酵素利得は、1、2、4、5、8、10、15、及び20である。これらは、0%位置側への二次アレイのシフトとして言い換えられる:
20倍 全標的が-26dBdにシフトする;
15倍 全標的が-23.52にシフトする;
10倍 全標的が-20にシフトする;
5倍 全標的が-13.98にシフトする;
4倍 全標的が-12.04にシフトする;
2倍 全標的が-6.02にシフトする;
1倍 2Dの100%ドットのみが黒色に近い。
【0195】
一次標的アレイが存在する場合、二次酵素利得の増加は、染色密度を、低い一次濃度ドットにシフトさせる。同じことが、一次抗体濃度が増加される場合にも当てはまる。抗原賦活化プロセスは、一次標的及び二次標的の両方を、幾らかのレベルにまで分解させて、シフトをカットオフへと反転させる。IHC染色の終わりに、3個以上のドットが消失した場合、スライドは、過剰な抗原賦活化持続時間、温度、又はその両方を有するとみなされ、多すぎる抗原の存在が、組織上で損失されて、診断解釈を最低限にさせる。この決定は、二次染色が損なわれているとすでに示されているため、一次抗体の効率と非依存性である。抗体工程に関して、この損失レベルは克服できるものではない。
【0196】
[実施例9] PRSは、抗原密度スケールを用いて照明レベルを追跡する
顕微鏡スライドを従来の顕微鏡で見ることは、透過照明レベルに関して主観的である。ホールスライドイメージング(whole slide imaging;WSI)では、ホワイトバランス及びコントラストを確立するために、スキャナーに完全な白色及び黒色のホールを用いる。このことは、手動顕微鏡には当てはまらない。図10に、照明レベルが過度に暗い場合(最適より-5%)、最適の場合(+0)及び過度に明るい場合(+10%又は+15%等)の画像に対する影響を示す。光レベルが最適を下回る場合、染色密度の圧縮が見られる。癌の病期に関しては、これにより診断が本来あるべきよりも1段階高くなる可能性がある。光レベルが最適を上回る場合、画像の白化が見られる。癌の病期に関しては、これにより診断が本来あるべきよりも1段階低くなる可能性がある。抗原のカラー密度及び数値のルーラーを一次標的及び二次標的から作成し、WSI画像に重ね合わせることができる。数値スケールが独立事項である一方、カラー密度は従属事項である。抗原密度のカラー及び数値のルーラーをWSIに適用する場合、使用者が照明レベルを上下しても数値スケールは固定されたままである。一方、カラー密度スケールは照明レベルの変化に応じてシフトする。その利点は、組織像上の特徴が最も良好に「見える」ように、使用者がカラー密度との数値関係を失うことなく見かけの照明を上下する選択肢を有することである。このことは、倍率を変化させる際にも実用的である。
【0197】
[実施例10] 抗原密度ルーラーの構築
幾つかの実施形態によると、2つのタイプの抗原密度ルーラーが作成される。
1.タイプAは、二次標的アレイを使用し、一次抗体が常に組織抗原部位に対して10%未満過剰な抗体で適用されるという仮定に基づく。
2.タイプBでは、一次標的アレイ(一次抗原の勾配密度アレイ)を用いる。
【0198】
タイプA:二次のみに基づく抗原ルーラー
この形式では、二次標的アレイのみを用いる。2Dバーコードに組み込まれる確認済みの情報は、(a)一次抗体データ:抗体の宿主種及び-dBd(dBdはdB希釈)での希釈率、並びに(b)二次酵素利得を含む。
【0199】
二次勾配密度標的アレイは、標的間の-3dBdの減分に従う既知濃度の二次標的タンパク質から構成される。最大濃度は、一次抗体に用いられる最低希釈率によって選ばれる。使用者は、殆どの場合、抗体試薬の製造業者によって提供される濃度基準値を用い、1μg/mlの一定中間濃度まで希釈する。それから、異なる組織型に対応するように他の全ての希釈を必要に応じて行う。概して、第2の一次抗体希釈のセットは、1:1~1000:1の範囲である。
【0200】
二次酵素利得の範囲に対応するためには、二次アレイをより広範囲の希釈から構成しなくてはならない。このため、-3dBd刻みでは、二次アレイの最低希釈を1000:1又は-60dBdから始める(SdBd(二次dB希釈)によって表される)。この場合、8ドット系列の最大値は-0dBd又は1:1となる。抗原賦活化の作用により二次標的が分解される(ARdBd(抗原賦活化dB希釈)によって表される)。二次アレイ中の8つのうち1つの各ドットは、-3dBdの増分を表す。2つの標的の消失についての抗原賦活化による消失(もはや視認可能でない)は、+6dBdとなる。このことは、二次アレイが2D標的の(-S+AR)dBd又は(+6dBd~-54dBd)であることを意味する。ここで、抗体濃度及び二次酵素利得を考慮に入れる。抗体濃度はAdBdであるが、酵素利得はEdBdである。これにより、二次アレイは(-S+AR-E)dBdとなり、組織は(+AR-E+A)dBdとなる。適用される次の因子は、100%2D対3D差分である。100%2D/3D標的及び100%2Dにおける3D物体間の染色差は、二次染色の色素原沈殿定数を表し、これはカラー密度を数値スケールに割り当てるために用いられ、DdBdに割り当てられる。カラー密度の差は、アレイ中の2D標的の各々に適用される。このため、2Dアレイは(+AR-E+A+D)dBdの染色カラー密度で存在する。
【0201】
酵素利得が10倍である場合、Eは-20dBdとなる。この場合、2D二次アレイは-14、-17、-20、-23、-26、-29、ブランク、ブランク(dBd)となる。0%近くの2つのドットは、染色により回復することができないほど抗原賦活化プロセスによって損傷を受けているため、ブランクとされる。例えば、2D/3Dカラー密度差が10倍である場合、Dは+20dBdとなり、3D二次アレイは-34、-37、-40、-43、-46、-49、ブランク、ブランク(dBd)となる。一次抗体試薬により一次標的中の好適な抗原部位が見出され、100%の収率が得られると仮定する。KLHタンパク質1つ当たり2つよりはるかに多くの抗原ペプチド鎖が存在するが、KLHタンパク質1つ当たり1つの抗体のみが効果的に結合し、染色することができるとも仮定する。同じKLHタンパク質上に好適な抗原を見出す任意の付加的な抗体は、重複占有のために二次染色の完了が妨げられる。したがって、検出することができる一次抗原保有タンパク質1つ当たりの抗原部位の数は1である。一次標的が1ミクロン当たり二次と同じ数のタンパク質を含有することから、二次カラー密度を数値抗原密度に対して調整するために、500μg/ml抗体マスターからの一次希釈を二次アレイデータに適用する。二次標的をモニタリングすることで、中間のカラー密度を有する標的を選ぶ。中間のカラー密度は、最大限の黒色と最大限の白色との間の50%の点として規定される。この点は、3dBd範囲内では1.5dBdに相当する。この場合、この点は抗原密度ルーラーを確立する固定点(anchor)として機能する。上記の最終標的範囲を用いると、中間点は-41.5dBdとなる。
【0202】
二次標的を10μg/mLのマスター希釈液へと希釈する。各アレイは、ロバIgGタンパク質と混合されたマウス又はウサギのブレンドである。タンパク質は全て異なる原子質量を有するが、以下では全て150kDaであり、標的ドット1つ当たりのタンパク質の総数は一定であり、混合比は一定でない。差し当たり、反応性タンパク質濃度のみを考慮する。150kDaでは、個々のタンパク質の分子量MWは249.07×10-12ngである。標準標的ドットは直径1mmである。印刷される付着物が1μm厚である場合、付着物の濃度は10μg/mLであり、31.5×10個のタンパク質が付着する。この場合、直径1μmの領域は31.5個のタンパク質を有する。1個のタンパク質が1つの抗原部位に相当するとみなすことで、抗原密度を確立することができる。二次アレイでは付着物1つ当たり同数のタンパク質を用いるが、マウス又はウサギとロバとの比率は、マウス又はウサギの濃度を低下させるにつれて変化する。100%標的は全てマウス又はウサギであり、ルーラー上の0dBdの点に一致する。
【0203】
二次開始キットでは、一次抗体が組織上の抗原部位に結合する場合にのみ組織が染色される。このことは、十分な抗体濃度を利用可能な抗原部位に結合するように与える点を除いて、適用される抗体の濃度に特に限定されない。このため、組織上での抗原密度の測定値は一定のままであるが、数値を抗原賦活化による損傷及び二次酵素利得に対して補正する。この場合、数値測定値に対するカラー密度を調整する。
【0204】
先の例では、酵素利得は10倍であり、抗原賦活化が二次アレイからの2つのドットの消失を引き起こしている。酵素利得は-20dBdであり、抗原賦活化による消失は+6dBdである。結果として-14dBdとなる。この場合、希釈は以下のように変換される。
【0205】
【表1】
【0206】
タイプB:一次抗原に基づくルーラー
この形式では、一次及び二次標的アレイの両方を用いる。2Dバーコードに組み込まれる確認済みの情報は、(a)一次抗体データ:抗体の宿主種及びdBdでの希釈率、並びに(b)二次酵素利得を含む。ロットのコードデータは、用いられる一次標的の組合せに関する情報を含む。
【0207】
一次標的系列が存在する場合、3ドットとなり、ここで最も濃厚なドットは二次アレイと同じ100%濃度となるが、ドットは-6dBd刻みで配置される。実際には、一次アレイ及び二次アレイが同じ希釈勾配を有する。一次標的は-0dBd、-6dBd、-12dBdとなり、PdBd(一次dB希釈)で表される。抗原賦活化が損傷を生じ、二次アレイとほぼ同一であると予想することは妥当である。一次アレイは二次染色の作用を受けるため、同じ酵素利得関数を受ける。このため、一次アレイは(-A+AR-E)dBdとなり、ここで一次標的密度は、一次抗体の希釈率によって制御される。唯一の要件は、Pが常にAよりも大きくなることである。10倍の酵素利得=-20dBd及び+6dBdの抗原賦活化による消失では、一次アレイは-20dBd、-26dBd、-32dBdである。抗原賦活化による消失は、二次アレイに対する影響に基づくと、一次標的にそれらをブランクにするほど作用しない。二次アレイは抗原密度ルーラーを作成するのに十分であるが、一次希釈が正確に適用されたことを確認するのが重要である。このため、一次標的は、そのキャパシティにおいて機能する。
【0208】
前述の記載は、当業者が本開示の態様をより良く理解することができるように、幾つかの実施形態の特徴を略述している。当業者であれば、同じ目的を実行するため、及び/又は、本明細書において導入された実施形態の同じ利点を達成するために、他のプロセス及び構造を設計又は変更する基礎として、本開示を容易に使用することができることが理解されるはずである。当業者であれば、また、そのような均等の構築が本開示の趣旨及び範囲から逸脱しないこと、並びに、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく本明細書において種々の変更、置換、及び修正を行うことができることが理解されるはずである。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】