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特表2022-520538所与の材料における高繰り返しレートのフェムト秒レーザアブレーションのための方法の動作条件を決定するための方法及び決定された材料の部品間のレーザ溶接のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-31
(54)【発明の名称】所与の材料における高繰り返しレートのフェムト秒レーザアブレーションのための方法の動作条件を決定するための方法及び決定された材料の部品間のレーザ溶接のための方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/0622 20140101AFI20220324BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B23K26/0622
H01S3/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021545477
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(85)【翻訳文提出日】2021-08-13
(86)【国際出願番号】 FR2020050213
(87)【国際公開番号】W WO2020161445
(87)【国際公開日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】1901188
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521343839
【氏名又は名称】アンプリテュード
(71)【出願人】
【識別番号】501455677
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】514082686
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ボルドー
【住所又は居所原語表記】35 PLACE PEY BERLAND 33000 BORDEAUX FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】オードゥアール エリック
(72)【発明者】
【氏名】ボナミ ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ミシュチク コンスタンチン
(72)【発明者】
【氏名】オニンジェ クルマン
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マネク‐ヘニンゲル インカ
(72)【発明者】
【氏名】モッテ エリック
【テーマコード(参考)】
4E168
5F172
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168DA04
4E168DA40
4E168DA47
4E168JA12
4E168JA14
4E168JA15
5F172NN17
5F172ZZ01
(57)【要約】
本発明は、所与の材料における高繰り返しレートのフェムト秒レーザアブレーションのための方法の動作条件を決定するための方法を提案し、本方法は、材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合されたレーザパルスのバーストの一式のパラメータを決定する第1のステップであって、一式のパラメータが、数百MHz~100GHzのバースト内繰り返し周波数fと、加熱及びアブレーションパルスの数Ncに等しく、Ncが式Nc=(L・f)/Dによって定義され、Lがアブレーションされる材料のテスト深さを表し、Dが熱拡散係数を表し、Ncが10以上である、レーザパルスのバーストのパルスの数Nと、パルスのバーストの特性トータルフルエンスFTcharと、単一のレーザパルスによる材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満のパルス当たりの特性フルエンスFchar=FTchar/Ncとを含む、第1のステップを含む。

【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の材料における高繰り返しレートのフェムト秒レーザアブレーションのための方法の動作条件を決定するための方法であって、前記材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合されたレーザパルスのバーストの一式のパラメータを決定する第1のステップであって、前記一式のパラメータが、数百MHz~100GHzに含まれるバースト内繰り返し周波数f、10以上であるレーザパルスの前記バーストのパルスの数N、パルスの前記バーストの特性トータルフルエンスFTchar、及び単一のレーザパルスによる前記材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満のパルス当たりの特性フルエンスから構成される、第1のステップを含む、方法。
【請求項2】
レーザパルスの前記バーストのパルスの前記数Nが加熱及びアブレーションパルスの数Nc以上であり、Ncが式Nc=(L・f)/Dによって定義され、Lがアブレーションされる前記材料のテスト深さを表し、Dが熱拡散係数を表し、Ncが10以上であり、パルス当たりの前記特性フルエンスがFchar=FTchar/Ncに等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パルスの前記数Ncにおける前記バーストの前記特性トータルフルエンスFTcharの値の実験的決定を含み、FTcharが、前記材料の表面においてクレータを得るための最小のトータルフルエンスである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Nc個のレーザパルスを含むレーザパルスのバーストにおける動作トータルフルエンスFToptを決定する第2のステップを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記動作トータルフルエンスFToptが、前記特性トータルフルエンスFTcharの2倍~前記特性トータルフルエンスFTcharの6倍に含まれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記テスト深さLを超える深さまで前記材料をアブレーションするために、前記バーストのパルスの数Nを決定する第3のステップを含み、NがNcよりも大きく、前記バーストのパルス当たりの前記フルエンスが、前記特性トータルフルエンスFTcharを加熱及びアブレーションパルスの前記数Ncで除したものに等しい、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
もう1つの特性フルエンスFTchar2が、Ncとは異なる前記バーストのパルスの前記数Nの関数として計算され、N=Nc+Naであり、Naは正又は負の整数であり、FTchar2=FTchar+Na・FTchar/Ncである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
数百MHz~100GHzに含まれるバースト内繰り返し周波数fでのフェムト秒レーザパルスのバーストの適用を含む、決定された材料のレーザアブレーションの方法であって、フェムト秒レーザパルスの前記バーストが10以上のパルスの数Nを含み、フェムト秒レーザパルスの前記バーストが、前記材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合された特性トータルフルエンスFTchar以上のトータルフルエンスを有し、前記バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによる前記材料のアブレーション閾値フルエンスFs1以下のフルエンスFを有する、方法。
【請求項9】
レーザパルスの前記バーストのパルスの前記数Nが加熱及びアブレーションパルスの数Nc以上であり、Ncが式Nc=(L・f)/Dによって定義され、Lがアブレーションされる前記材料のテスト深さを表し、Dが熱拡散係数を表し、Ncが10以上であり、パルス当たりの前記特性フルエンスがFchar=FTchar/Ncに等しい、請求項8に記載のレーザアブレーション方法。
【請求項10】
前記バーストのパルスの前記数Nが100~10000に含まれる、請求項8又は9に記載のレーザアブレーション方法。
【請求項11】
前記バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによる前記材料の前記アブレーション閾値フルエンスFs1の1桁以下であるフルエンスFを有する、請求項8~10のいずれか一項に記載のレーザアブレーション方法。
【請求項12】
前記バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによるアブレーションの前記閾値フルエンスFs1よりも1桁~2桁小さいフルエンスFを有する、請求項11に記載のレーザアブレーション方法。
【請求項13】
アブレーションされる前記材料に対するレーザパルスの入射ビームの直交方向の寸法が200μm以下である、請求項8~12のいずれか一項に記載のレーザアブレーション方法。
【請求項14】
バーストが、1μJ~20mJに含まれる総エネルギーを有する、請求項8~13のいずれか一項に記載のレーザアブレーション方法。
【請求項15】
10kHz~40MHzに含まれる繰り返しレートで複数のバーストを適用することを含む、請求項8~14のいずれか一項に記載のレーザアブレーション方法。
【請求項16】
数百MHz~100GHzに含まれるバースト内繰り返し周波数fでのフェムト秒レーザパルスのバーストの適用を含む、決定された材料の部品間のレーザ溶接の方法であって、フェムト秒レーザパルスの前記バーストが数Nのパルスを含み、レーザパルスの前記バーストのパルスの前記数Nが、加熱及びアブレーションパルスの数Nc未満であり、Ncが式Nc=(L・f)/Dにより定義され、Lが前記材料の深さを表し、Dが前記材料の熱拡散係数を表し、フェムト秒レーザパルスの前記バーストが、前記材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合された特性トータルフルエンスFTchar未満のトータルフルエンスを有し、前記バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによる前記材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満のフルエンスFを有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、レーザアブレーション及び溶接方法の分野に関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、GHzのオーダーの高繰り返しレートでのレーザパルスのバースト又はレーザパルスの連続するバーストによる材料の表面のレーザアブレーションの方法の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロ秒、ナノ秒、ピコ秒、又はフェムト秒レーザパルスによる材料の表面アブレーションは、材料の表面を制御下で改造(穿孔、切断、構造形成)するために今日広く使用されている技法である。材料は、様々であり、例えば、半導体材料、金属材料、誘電体材料、又は生体組織である。
【0004】
フェムト秒パルスは、通常、最高の出来栄えをもたらすが、これらのパルスのアブレーション効率は、ナノ秒のオーダーの長いパルスよりも低い。近年、平均出力の高いレーザが利用でき、これにより、生産時間を短縮するためにMHz付近のより高い繰り返しレートを使用することができる。しかしながら、レーザによって送達されるパルスをこのような高い繰り返しレートで使用すると、望ましくない熱蓄積現象が発生し得る。この望ましくない熱蓄積現象は、材料のアブレーションの質を低下させる。したがって、所与の材料の表面アブレーションの質を向上させることを目的とする代替的な方法を開発することが不可欠である。
【0005】
いくつかの特定の場合には、フェムト秒レーザパルスの高繰り返しレート(10MHzを超え、1GHz付近)によって、アブレーション効率を大幅に高めることができることが科学文献において近年示されている。この場合、動作パラメータは、レーザの波長、レーザによって送達されるパルスの繰り返しレート、パルスの持続時間、パルスのエネルギー、集束、パルスの平均出力、アブレーションされる材料などと極めて数が多い。このように動作パラメータの数が多いと、所与の材料に最も適合された動作パラメータを決定することが難しくなる。加えて、GHzの繰り返しレートでのフェムト秒パルスのバーストによる材料のレーザアブレーションのメカニズムの正確な性質は、科学文献では依然として議論の的である。
【0006】
従来技術によれば、材料の表面におけるアブレーションは、レーザパルスのフルエンスが、材料ごとに決まるアブレーション閾値に等しいときに起こる。
【0007】
本発明はまた、材料のロスのない高繰り返しレートのレーザ溶接方法に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明によれば、所与の材料における高繰り返しレートのフェムト秒レーザアブレーションのための方法の動作条件を決定するための方法が提供され、本方法は、材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合されたレーザパルスのバーストの一式のパラメータを決定する第1のステップであって、一式のパラメータが、数百MHz~100GHzに含まれるバースト内繰り返し周波数f、10以上であるレーザパルスのバーストのパルスの数N、パルスのバーストの特性トータルフルエンスFTchar、及び単一のレーザパルスによる材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満のパルス当たりの特性フルエンスから構成される、第1のステップを含む。
【0009】
レーザパルスのバーストのパルスの数Nが加熱及びアブレーションパルスの数Nc以上であり、Ncが式Nc=(L・f)/Dによって定義され、Lがアブレーションされる材料のテスト深さを表し、Dが熱拡散係数を表し、Ncが10以上であり、パルス当たりの特性フルエンスがFchar=FTchar/Ncに等しいと都合が良い。
【0010】
本発明はまた、数百MHz~100GHzに含まれるバースト内繰り返し周波数fでのフェムト秒レーザパルスのバーストの適用を含む、決定された材料のレーザアブレーションの方法に関し、フェムト秒レーザパルスのバーストが、加熱及びアブレーションパルスの数Nc以上のパルスの数Nを含み、Ncが式Nc=(L・f)/Dにより定義され、Lが材料におけるアブレーションの深さを表し、Dがアブレーションされる材料の熱拡散係数を表し、Ncが10以上であり、フェムト秒レーザパルスのバーストが、材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合された特性トータルフルエンスFTchar以上のトータルフルエンスを有し、バーストの各パルスが、特性トータルフルエンスFTcharと加熱及びアブレーションパルスの数Ncと間の比によって定義されるパルス当たりの特性フルエンス以上のフルエンスを有し(FTchar=FTchar/Nc)、パルス当たりの特性フルエンスが、材料をアブレーションするように適合された単一のレーザパルスによる材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満であり、上記単一のレーザパルスが、上記バーストのパルスと同じ空間的、スペクトル的、且つ時間的特性を有して材料をアブレーションするように適合される。
【0011】
レーザアブレーション方法の予備ステップは、FT<FTcharである場合はアブレーションクレータが存在せず、FT=FTcharである場合はアブレーションクレータが存在することにより定義される特性トータルフルエンスFTcharを実験的に決定するために、レーザによって送達されるパルスの繰り返しレートでフェムト秒の光パルスのバーストを材料の表面に送出することにあり得る。これは、典型的には、繰り返しレートf且つパルス数Ncのフェムト秒パルスバーストアブレーション方法のための閾値フルエンスである。
【0012】
本アブレーション方法によれば、得られるアブレーション深さは、FT=FTchar且つN=Ncの場合、テスト深さLの値に近い。
【0013】
本発明の特定の興味深い態様によれば、
-本方法は、パルスの数Ncにおけるバーストの特性トータルフルエンスFTcharの値の実験的決定を含み、FTcharが、材料の表面においてクレータを得るための最小のトータルフルエンスであり、
-本方法は、Nc個のレーザパルスを含むレーザパルスのバーストにおける動作トータルフルエンスFToptを決定する第2のステップを含み、
-動作トータルフルエンスFToptは、特性トータルフルエンスFTcharの2倍~特性トータルフルエンスFTcharの6倍に含まれ、
-本方法は、テスト深さLを超える深さまで材料をアブレーションするために、バーストのパルスの数Nを決定する第3のステップを含み、NはNcよりも大きく、バーストのパルス当たりのフルエンスは、特性トータルフルエンスFTcharを加熱及びアブレーションパルスの数Ncで除したものに等しく、
-バーストのパルスの数Nが、N=Nc+Naに等しく、Naは正又は負の整数であり、Ncは加熱及びアブレーションパルスの数であり、
-バーストのパルスの数Nが、テスト深さよりも浅い深さまで材料をアブレーションするために、加熱及びアブレーションパルスの数Nc未満であり、
-パルスの整数の数Nが、10~10000に含まれ、好ましくは50を超え、例えば200~500、又は300~500に含まれ、
-アブレーション深さが、バーストのパルスの数Nによって変わり、
-もう1つの特性トータルフルエンスFTchar2が、Ncとは異なるバーストのパルスの数Nの関数として計算され、N=Nc+Naであり、Naは正又は負の整数であり、FTchar2=FTchar+Na・FTchar/Ncであり、
-動作トータルフルエンスが、もう1つの特性トータルフルエンスFTchar2の2倍~もう1つの特性トータルフルエンスFTchar2の6倍に含まれ、
-アブレーションされる材料が、半導体材料、金属材料、誘電体材料、ポリマー材料、有機材料、又は複合材料であり、
-アブレーションされる材料に対するパルスの入射ビームの直交方向の寸法が200μm以下であり、
-バーストのパルスが、1フェムト秒~1ピコ秒未満に含まれる持続時間dを有し、
-レーザパルスのバーストが、200nm~3μmに含まれる波長を有し、
-2.2μm~4.4μmに含まれるテスト深さLについては、材料がシリコンであり、パルスの数Nが50~200に含まれ、一定パルス当たりの特性フルエンスFcharが約0.018J/cmであり、バースト内繰り返し周波数fが0.88GHz~3.52GHzに含まれ、
-2.5μm~5.2μmに含まれるテスト深さLについては、材料が銅であり、パルスの数Nが100~400に含まれ、一定パルス当たりの特性フルエンスFcharが約0.03J/cmであり、バースト内繰り返し周波数fが1.76GHである。
【0014】
数Naが固定されることにより、パルスの数N=Nc+Naにおけるもう1つの特性トータルフルエンスFTchar2が、FTchar2=FTchar+Na・Fcharで与えられる。このようにして、所与の材料について、繰り返しレートf且つパルスの数N=Nc+Naのバーストにおけるアブレーション閾値を定義するもう1つの特性トータルフルエンスFTchar2の値が得られる。したがって、得られるアブレーション深さは大きくなり、その推定値はL=√(D・N/f)である。本方法によれば、テスト深さL=Lに固定した場合、FTchar2に近いトータルフルエンスが実験的に得られる。NがN=Nc+Naに固定されることにより、トータルフルエンスFをFTchar2よりも大きくすることにより、またFToptについて、つまり、もう1つの特性トータルフルエンスFTchar2の2倍~もう1つの特性トータルフルエンスFTchar2の6倍に含まれるFTについて述べたのと同じ規則にしたがって、Lを超えるアブレーション深さが得られる。
【0015】
本方法の変形形態によれば、パルスの総数Nが、Ncから負のNaによって減少させられることもあり、それによりN=Nc+Naとなる。したがって、実効アブレーション深さLはテスト深さLよりも浅くなり、トータルフルエンスFTを最適化するための手順は上述したものと同じままである。
【0016】
レーザアブレーション方法の他の特定且つ有利な態様は以下の通りである。
【0017】
レーザパルスのバーストのパルスの数Nが加熱及びアブレーションパルスの数Nc以上であり、Ncが式Nc=(L・f)/Dによって定義され、Lがアブレーションされる材料のテスト深さを表し、Dが熱拡散係数を表し、Ncが10以上であり、パルス当たりの特性フルエンスは、Fchar=FTchar/Ncに等しい。
【0018】
バーストのパルスの数Nは100~10000に含まれる。
【0019】
バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによる材料のアブレーション閾値フルエンスFs1の1桁以下であるフルエンスFを有する。
【0020】
バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによるアブレーションの閾値フルエンスFs1よりも1桁~2桁小さいフルエンスFを有する。
【0021】
アブレーションされる材料に対するレーザパルスの入射ビームの直交方向の寸法が200μm以下である。
【0022】
バーストは1μJ~20mJに含まれる総エネルギーを有する。
【0023】
レーザアブレーション方法が、10kHz~40MHzに含まれる繰り返しレートで複数のバーストを適用することを含むと特に都合が良い。
【0024】
本開示はまた、数百MHz~100GHzに含まれるバースト内繰り返し周波数fでのフェムト秒レーザパルスのバーストの適用を含む、決定された材料の部品間のレーザ溶接の方法に関し、フェムト秒レーザパルスのバーストが数Nのパルスを含み、レーザパルスのバーストのパルスの数Nが、加熱及びアブレーションパルスの数Nc未満であり、Ncが式Nc=(L・f)/Dにより定義され、Lが材料の深さ(加熱又は溶接深さ)を表し、Dが材料の熱拡散係数を表し、フェムト秒レーザパルスのバーストが、材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合された特性トータルフルエンスFTchar未満のトータルフルエンスを有し、バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによる材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満のフルエンスFを有する。
【0025】
当然のことながら、本発明の異なる特徴、変形形態、及び実施形態は、それらが互いに相容れない又は排他的ではない限り、様々な組み合わせにおいて互いに関連付けられ得る。
【0026】
加えて、本発明の様々な他の特徴は、本発明の非限定的な実施形態を示す図面を参照しながらなされる添付の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】GHzのオーダーの繰り返し周波数でのフェムト秒レーザパルスのバーストの時間プロファイルの一例を示すグラフである。
図2】GHz周波数のパルスのバースト当たりのトータルフルエンスFTの関数として、シリコン材料の表面におけるアブレーション効率(又はトータルフルエンスによってアブレーションされた体積)の変化を示すグラフである。
図3】GHz周波数のパルスのバースト当たりのトータルフルエンスFTの関数として、銅材料の表面におけるアブレーション効率(又はトータルフルエンスによってアブレーションされた体積)の変化を示すグラフである。
図4】アブレーションをもたらさない、N=Ncとなるようなパルスの整数の数Nにおける、且つここではFT<FTcharとなるようなバーストのトータルフルエンスFTによる、シリコン材料のアブレーションの特性トータルフルエンスを決定するためのステップの一例を示す図である。
図5】アブレーションをもたらす、N=Ncとなるようなパルスの整数の数Nにおける、且つここではFT≒FTcharとなるようなバーストのトータルフルエンスFTによる、シリコン材料のアブレーションの特性トータルフルエンスを決定するための別のステップの一例を示す図である。
図6図5よりも深いアブレーションをもたらす、N=Ncとなるようなパルスの整数の数Nの関数としての、且つここではFT>FTcharとなるようなバーストのトータルフルエンスFTによる、シリコン材料のアブレーションの特性トータルフルエンスを決定するための別のステップの一例を示す図である。
図7A-7C】Nc個のフェムト秒パルスのバーストのトータルフルエンスの関数としての、材料の表面における高繰り返しレートのフェムト秒レーザアブレーションの際に関与するアブレーションのメカニズムの概略図である。
図8】材料の表面におけるレーザアブレーションにおいて関与するアブレーションメカニズムのステップの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
これらの図面では、異なる変形形態に共通する構造的及び/又は機能的な要素は、同じ参照符号を有し得ることに留意されたい。
【0029】
本発明は、特に、フェムト秒(ピコ秒未満)のオーダーの持続時間及びGHzのオーダーのバースト内繰り返し周波数を有するバーストのパルスの分野に関する。
【0030】
本開示は、レーザパルスのバーストのパルスの整数の数Nから構成されるGHzのオーダーのバーストの繰り返しレートfと、バーストの各パルスのフルエンスFとに関する一式のパラメータを決定するステップを含む、所与の材料のためのレーザアブレーション方法の動作条件を決定するための方法を提案する。材料からみたバーストのトータルフルエンスFTは、積N・Fに等しい。バーストの繰り返しレートCは、使用されるレーザ源のもう1つのパラメータである。
【0031】
レーザパルスのバーストのパルスの整数の数Nは、少なくとも10以上であり、特にパルスの数Nは10~800に含まれる。いくつかのアプリケーションでは、バーストのフェムト秒パルスの数Nは20又は50よりも大きく、100~800に含まれ、又は200~600に含まれ、又は300~400に含まれる。
【0032】
繰り返しレートfにおけるN個のパルスのバーストの持続時間Tは、T=N/fによって定義される。
【0033】
バーストのパルスは、100MHz~100GHzに含まれ、好ましくは1GHz~100GHzに含まれる、又は1GHz~10GHzに含まれる繰り返し周波数fを有する。
【0034】
バーストの総エネルギーEは、使用されるレーザに応じて1μJ~20mJに含まれ得る。
【0035】
パルスのバーストは、材料が動いているか否か、異なるバーストが重なるか否かにかかわらず、10kHz~40MHzに含まれる繰り返しレートCを有する。しかしながら、繰り返しレートは、バーストの持続時間Tが厳密に繰り返しレートCの逆数未満であることを確認するために、バーストの持続時間Tによって制限される。
【0036】
本開示によれば、バーストの各パルスは、上記バーストのパルスと同じ空間的、スペクトル的、且つ時間的特性を有するが、必要に応じて送信され、高レートのバーストの一部ではない単一のレーザパルスによる材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満のフルエンスFを有する。
【0037】
レーザパルスのバーストは、200nm~3μmに含まれる波長を有する。
【0038】
いずれの図面においても、座標系XYZが定義されており、軸Zの方向はアブレーションされる材料の表面に直交し、レーザビームは軸Zに沿って伝播する。
【0039】
図1は、N個のパルスを含むバーストの一例を示すグラフである。ここで、上記バーストのパルスの整数の数Nは100であり、上記バーストのパルスは0.88GHzに等しい繰り返し周波数fを有する。バーストの各パルスは、550fs以下である持続時間dを有する。上記バーストは、1μJから100μJまで変化し得るエネルギーEを有し、この例では、エネルギーEは33μJに等しい。N個のパルスの各バーストは、114nsに等しい総持続時間Tを有する。バーストは、レーザ源によって、1kHzから200kHzまで変化し得る繰り返しレートCで送達される。
【0040】
別の例では、パルスのバーストのパルスの整数の数Nは50であり、上記バーストのパルスは0.88GHzに等しい繰り返し周波数fを有する。バーストの各パルスは、550fs以下である持続時間dを有する。上記バーストは、1μJから100μJまで変化し得るエネルギーE、1kHz~200kHzに含まれる調節可能な繰り返し周波数C、及び57nsに等しい総持続時間Tを有する。
【0041】
別の例では、パルスのバーストのパルスの整数の数Nは200であり、上記バーストのパルスは0.88GHzに等しい繰り返し周波数fを有する。バーストの各パルスは、550fs以下である持続時間dを有する。上記バーストは、1μJから100μJまで変化し得るエネルギーE、1kHz~200kHzに含まれる調節可能な繰り返し周波数C、及び228nsに等しい総持続時間Tを有する。
【0042】
加工装置を使用することにより、静止状態の場合はバーストの空間的な重畳、又は試料若しくはレーザビームが移動する場合はパルスの完全若しくは部分的な空間的シフトのいずれかによって、試料上へのバーストの差し向けを管理することができる。
【0043】
cm/sで表される所与の熱拡散係数Dを有するアブレーションされる材料を考える。
【0044】
理論に縛られることなく、本方法によれば、バーストにおけるGHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスの整数の数Nは、深さLthにわたる加熱及びアブレーションを可能にするパルスの整数の数Ncと、補足的なパルスの整数の数Naとの和に等しく、Lthは繰り返しレートfでの、材料に関連する熱深さの長さに対応する。
【0045】
第1のステップでは、閾値フルエンスFs1未満のもう1つの閾値フルエンスFs2に到達するまで閾値フルエンスFs1の値を修正するために、アブレーションされる材料を最適化の開始点として与えられたテスト深さLにわたって加熱するのに必要な繰り返しレートfのバーストにおけるフェムト秒パルスの数に対応する加熱及びアブレーションパルスの数Ncが決定される。バーストのトータルフルエンスFTは、パルス当たりのフルエンスFが閾値フルエンスFs1未満であるように定義される。数Ncは式Nc=(L・f)/Dによって定義される。換言すれば、本開示によれば、フェムト秒パルスのバーストでは、パルス当たりのフルエンスFは、閾値フルエンスFs1未満であり、もう1つの閾値フルエンスFs2以上である。
【0046】
数Ncは、軸Zに沿って深さLにわたるアブレーションされる材料の加熱を可能にするバーストのパルスの数に対応する。数Ncは、深さLの近くにおけるバーストのパルスの繰り返しレートfでのアブレーションのためのパルスの数Nの下限を表す。換言すれば、Ncは、Lに近い深さのアブレーションクレータが材料の表面に現れるパルスの数を表す。
【0047】
テスト深さLは、繰り返しレートfのパルスのバーストの特性トータルフルエンス値FTcharについて得られる。この特性トータルフルエンスFTcharは、材料の表面においてアブレーションクレータを観察することを可能にする最小バーストのトータルフルエンスに対応する。パルスのバーストの特性トータルフルエンスFTcharをパルスの数Nで除したものは、一般に、単一のパルスのアブレーション閾値を特徴づけるフルエンスFs1とは異なり、フルエンスFs1未満であり、つまりFTchar/N<Fs1である。
【0048】
実際には、既知の熱拡散率Dの所与の材料について、所与の繰り返しレートfにいて、且つ材料のアブレーションの深さ目標Lについて、パルスの数NcがD、f、及びLの関数として計算される。パルスの数Ncが推定されると、特性トータルフルエンスFTcharが、深さLのクレータの形成を可能にするNc個のパルスのバーストの最小フルエンスとして実験的に決定され得る。
【0049】
次に第2のステップでは、バーストの動作トータルフルエンスFToptが、アブレーション効率をその最大近くに維持しながらアブレーション深さ又はアブレーション体積を最適化することができる最適なアブレーション効率に対応するN=Ncについて決定される。FTcharはGHzバーストアブレーションの閾値フルエンスに等しくなるように推定される。アブレーション閾値フルエンスFTthを把握することによりアブレーション効率を推定できることが一般に認められている。アブレーション深さはLn(FT/FTth)で変化し、アブレーション体積はLn(FT/FTth)で変化する。比量であるLn(F/FTth)/FT及びLn(FT/FTth)/FTにより、アブレーション効率をパルス当たりのフルエンスFの関数として推定し、FTthに近い最適な値を持たせ、その後飽和することができる。したがって、パルスのバーストの動作トータルフルエンスFToptは、2・FTchar<FTopt<6・FTcharの区間においてN=Ncにおいて選択される。
【0050】
バーストの動作トータルフルエンスFToptの値の例は特性トータルフルエンスの値FTcharに近く、特性トータルフルエンスFTcharに2を乗ずることにより推定され得る、つまりFTopt=2FTcharである。
【0051】
加熱/アブレーション段階は、アブレーション閾値フルエンスFs2に近いパルス当たりの特性フルエンスFcharに最適な条件下で実行される。この閾値フルエンスFs2は既知ではなく、測定することが困難である。本発明によれば、パルス当たりの特性フルエンスFcharは、Fchar=FTchar/Ncと近似される。この値は、所与の材料においてパルスレートfでクレータを得るための閾値に対応する各ペア(FTchar,Nc)で略一定のままである。
【0052】
本方法の第3の任意のステップは、Lを超えるアブレーション深さについてパルスの数Nを決定することにある。FTcharに等しいトータルフルエンスFTに対してバーストが最適化されたとき、材料はクレータの表面において加熱され、単一のパルスのアブレーション閾値は材料の既知の値Fs1から、未知且つ測定が困難である低い値Fs2になった。
【0053】
フルエンスのみの増加により生じる飽和の現象を防ぎ、より大きいアブレーション深さを得るためには、パルスの数Nを増やすと良い。パルス当たりの同じフルエンスFchar=FTchar/Ncを維持しながら、パルスの数Nを値Naだけ増やすことが選択される、つまり、N=Nc+Naである。パルス当たりの特性フルエンスFcharは、同じ材料についてのすべてのペア(FTchar,Nc)で同じままである。
【0054】
この結果、FTchar+Na・Fに等しい、つまりFTchar(1+Na/Nc)に等しいトータルフルエンスFTのもう1つの値がもたらされる。例えば、Na=Ncとすると、FT=2・FTchar且つN=2・Ncである。より詳細には、N=Nc=50である場合、特性トータルフルエンスFTchar=0.96J/cmがシリコン材料の場合には得られる。Na個の補足的なパルスを加えることにより、2・Nc又は100に等しいパルスの数Nが得られ、もう1つの特性トータルフルエンスFTchar2の値は2・FTchar又は1.9J/cmに等しい。
【0055】
トータルフルエンスFTを再度最適化し、FTchar2よりも大きいバーストの動作トータルフルエンスFTopt2のもう1つの値を得るために、上述の手順が繰り返され、その結果、バーストの動作トータルフルエンスFTopt2が以下の区間に含まれ、すなわち、2・FTchar2<FTopt2<6・FTchar2となる。
【0056】
図2は、GHz周波数のパルスのバースト当たりのトータルフルエンスFTの関数として、シリコン材料の表面におけるアブレーション効率(又はトータルフルエンスによってアブレーションされた体積)の変化を示している。この例では、パルスの数Nは50(丸い点)及び100(四角い点)に等しく、繰り返し周波数fは0.88GHzである。
【0057】
グラフでは、材料の表面のアブレーションの効率が、材料の表面においてアブレーションクレータを観察することができる特性トータルフルエンスFTcharに対応するトータルフルエンスFTの値のためのアブレーション閾値を有することが分かる。次いで、アブレーション効率は、トータルフルエンスFTが増加するにつれて、バーストのトータルフルエンスFToptに対応する最大のアブレーション効率値に達するまで上がる。バーストの動作トータルフルエンスFToptは2・FTcharから6・FTcharまでの範囲内にあり、この範囲は最適なアブレーション効率に対応する。最大のアブレーション効率に到達すると、トータルフルエンスFTが増加し続けるにつれてアブレーション効率が低下する。この場合、アブレーション深さ又はアブレーション体積は増加し続けるが、アブレーションに必要のないエネルギーの量が増加することにより、質が低下する。
【0058】
ここで、N=Nc=50(丸い点)の場合、0.96J/cmに等しい特性トータルフルエンスFTcharに対して、約18μm/μJに等しい最小のアブレーション効率が得られる。最大のアブレーション効率は、約2J/cm~6J/cmに含まれるバーストの動作トータルフルエンスFToptに対して、約25μm/μJに等しい。
【0059】
ここで、N=2Nc=100(四角い点)の場合、2FTchar又は1.9J/cmに等しい特性トータルフルエンスFTchar2に対して、約27μm/μJに等しい最小のアブレーション効率が得られる。最大のアブレーション効率は、約4J/cm~12J/cmに含まれるバーストの動作トータルフルエンスFToptに対して、約34μm/μJに等しい。
【0060】
パルス当たりのフルエンスFcharが略一定であることが確かめられている。また、アブレーション効率は2・FTchar2~6・FTchar2で最適であることも確かめられている。
【0061】
図3は、GHz周波数のパルスのバースト当たりのトータルフルエンスFTの関数として、銅材料の表面におけるアブレーション効率(又はトータルフルエンスによってアブレーションされた体積)の変化を示している。この例では、パルスの数Nは100(丸い点)及び200(四角い点)に等しく、繰り返し周波数fは1.76GHzである。
【0062】
グラフでは、N=100(丸い点)の場合、約3J/cmに等しい特性トータルフルエンスFTcharに対して、約0.1mm/min/Wに等しい最小のアブレーション効率が得られる。最大のアブレーション効率は、約6J/cm~18J/cmに含まれるバーストの動作トータルフルエンスFToptに対して、約0.5mm/min/Wである。
【0063】
グラフでは、N=200(四角い点)の場合、約6J/cmに等しい特性トータルフルエンスFTcharに対して、約0.5mm/min/Wに等しい最小のアブレーション効率が得られる。最大のアブレーション効率は、約12J/cm~36J/cmに含まれるバーストの動作トータルフルエンスFToptに対して、約0.7mm/min/Wである。
【0064】
図4図5、及び図6は、パルスの整数の数N且つバーストのトータルフルエンスFTの関数として、シリコン材料のアブレーションの深さの変化の一例を示している。
【0065】
図4図5、及び図6に示す各例では、繰り返し周波数Cは100kHzであり、繰り返し周波数fは0.88GHzであり、連続する2つのバーストの間の周期は10μsであり、バーストの総持続時間Tは57nsであり、バーストのパルスの持続時間dは550fsである。
【0066】
図4は、パルスの数NがNcに等しく、バーストのトータルフルエンスFTが特性トータルフルエンスFTchar未満である場合のシリコン材料の表面におけるアブレーションプロファイルを示している。これらの条件下では、光学形状計測(optical profilometry)によって得られた画像は、材料の表面におけるバンプの形成を示しており、材料は加熱されているが、アブレーションできていない。この例では、パルスの数Nは100でありトータルフルエンスFTは1.7J/cmに等しい。
【0067】
図5は、パルスの数NがNcに等しく、バーストのトータルフルエンスFTが特性トータルフルエンスFTcharに近い場合のシリコン材料の表面におけるアブレーションプロファイルを示している。これらの条件下では、光学形状計測によって得られた画像は、最小の深さを有する、材料の表面におけるクレータの形成を示している。この例では、パルスの数Nは100でありトータルフルエンスFTは1.8J/cmに等しい。100個のパルスのバーストにより生じるアブレーション深さは、約2.6μmであることが分かる。
【0068】
図6は、パルスの数NがNcに等しく、バーストのトータルフルエンスFTが特性トータルフルエンスFTcharよりも大きい場合のシリコン材料の表面におけるアブレーションプロファイルを示している。これらの条件下では、光学形状計測によって得られた画像は、以前に形成されたクレータのアブレーションの深さの増加を示している。クレータの深さは、トータルフルエンスFTが増えるにつれて、最適な効率で大きくなる。この例では、パルスの数Nは100であり、トータルフルエンスFTは5.8J/cmである。100個のパルスのバーストにより生じるアブレーション深さは、約4.5μmであることが分かる。
【0069】
アブレーション深さは、N>Nc且つFT>FTcharの場合、パルスの数Nが増えるにつれて、大きくなることが分かる。この技術的効果は、フェムト秒パルスのアブレーションが非常に議論の的になっている技術分野における教示に由来するものでは決してない。50個のパルスを含むバーストでのアブレーション深さは、3.5μmから、200個のパルスを含むバーストでは7.5μmに減少し、バーストのトータルフルエンスFTはいずれも5.8J/cmである。
【0070】
1つの考えられる解釈は、本方法は材料表面における熱の蓄積の現象と極めて効率的なアブレーションとの結合に基づいており、これは、持続時間がμs又はnsである単一のパルスによるアブレーションに関与するメカニズムとは異なるということである。
【0071】
本方法によって、例えば、シリコン材料の表面においてGHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスのバーストによってレーザアブレーションを実行するための動作条件を決定することができる。表1には、シリコン材料の表面においてGHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスのバーストによるレーザアブレーションを行うための動作条件が、AからGまでのインデックスを付けた例の形態で列挙されている。室温におけるシリコンの熱拡散係数Dは0.86cm/sに等しい。
【0072】
【表1】
【0073】
表1は、GHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスのバーストによってシリコン材料に対してレーザアブレーションを実行するための動作条件を列挙している。この表では、Lは、FT=FTchar且つN=Ncで測定されたテスト長さLの実験値に対応する。
【0074】
シリコンにおける1つのパルスによるアブレーションの閾値フルエンスFs1は、0.46J/cmに等しい。例A~Gにおいて、バーストにおけるパルス当たりのフルエンスは、シリコン材料における1つのパルスによるアブレーションにおける閾値フルエンスFs1よりも大幅に小さい。換言すれば、バーストのフェムト秒パルス当たりのフルエンスFは、約Fs1/25である。バーストのフェムト秒パルス当たりのフルエンスFは、単一のパルスにおける閾値Fs1アブレーションフルエンスよりも一桁を超えて小さい。
【0075】
【表2】
【0076】
表2は、GHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスのバーストによって銅材料に対してレーザアブレーションを実行するための動作条件を列挙している。
【0077】
銅における1つのパルスによるアブレーションの閾値フルエンスFs1は、1.7J/cmである。室温における銅の熱拡散係数Dは1.15cm/sに等しい。換言すれば、バーストのフェムト秒パルス当たりのフルエンスFは、約Fs1/50に等しい。ここでも同様に、フェムト秒パルス当たりのバーストフルエンスFは、単一のパルスにおけるアブレーション閾値フルエンスFs1よりも一桁を超えて小さい。パルス当たりのフルエンスFが、単一のパルスにおけるアブレーションの閾値フルエンスFs1よりも、1桁~2桁小さい。
【0078】
A~Jのいずれの例においても、アブレーションされる材料に対するパルスの集束された入射ビームの直交方向の寸法は24μmである。実際には、アブレーションされる材料に対するパルスの集束された入射ビームの直交方向の寸法が200μm以下である。
【0079】
バーストの繰り返し周波数Cは、1kHz~200kHzに含まれ得る。パルスのバーストは、例えば、1ナノ秒~数百ナノ秒に含まれる持続時間を有する。バーストのパルスは、例えば、1フェムト秒~1ピコ秒未満に含まれる持続時間を有する。パルスの整数の数Nは10~400以上に含まれ得る。バーストの各パルスのフルエンスFの値は、例えば、0.001J/cm~1J/cmに含まれる。アブレーションされる材料は、半導体材料、金属材料、誘電体材料、ポリマー材料、有機材料、又は複合材料から選択され得る。
【0080】
図7A図7Cは、材料の表面におけるGHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスのバーストによるレーザアブレーション方法の異なるステップを、Nc個のフェムト秒パルスのバーストのトータルフルエンスの関数として示している。
【0081】
図7Aは、数Ncの加熱及びアブレーションパルスを受ける材料の表面を示している。材料表面の加熱が開始し、トータルフルエンスFTは特性トータルフルエンスFTcharよりもはるかに低い。この例示的な例では、N=Nc且つFT<<FTcharである。
【0082】
図7Bは、トータルフルエンスFTが上図に示す場合よりも高い状態で数Ncの加熱及びアブレーションパルスを受けた材料の表面を示している。材料の表面がテスト長さLに近い長さにわたって加熱され、トータルフルエンスFTが特性トータルフルエンスFTchar未満である。この例示的な例では、N=Nc且つFT<FTcharである。
【0083】
図7Cは、数Ncの加熱及びアブレーションパルスを受ける材料の表面を示している。材料アブレーション閾値に到達すると、材料のアブレーションが可能になり、トータルフルエンスFTは特性トータルフルエンスFTcharに等しい。この例示的な例では、N=Nc且つFT=FTcharである。得られたアブレーション深さはテスト長さLに近い。
【0084】
図8は、材料の表面にGHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスのバーストにより、数Naの補足的なレーザパルスを加えるステップを示している。次いで、閾値は、トータルフルエンスFT=FTchar2に到達する。アブレーション深さはテスト深さLよりも大きい。
【0085】
図8の図は、数Nc+Naに等しい数Nのパルスを受ける材料の表面を示している。NがNc+Naに等しい場合、アブレーション深さはNaの関数として増加し、トータルフルエンスFTはもう1つの特性トータルフルエンスFTchar2、すなわちFTchar+Na・FTchar/Nc又は(Nc+Na)・(Fchar/Nc)に等しい。この例示的な例では、N=Nc+Na且つFT=FTchar2である。
【0086】
GHz領域のバースト内繰り返し周波数f、バースト当たりのパルスの数N、及びパルスの総エネルギーを組み合わせる設定により、最適なアブレーションを得ることができる。図2にも示す表1の例A及びBにおいて、パルスの数Nが100パルス(例B、四角い点)を有するバーストによって、0.88GHzに等しい同じバースト内繰り返し周波数fにおいて、50パルスに等しいパルスの数Nを有するバースト(例A、丸い点)よりも大きいアブレーション効率を達成することができる。本例は、アブレーション閾値に到達すると、同じバースト内繰り返し周波数でも、バーストの総エネルギーの増加、ひいてはバーストのトータルフルエンスの増加が、より効率的なアブレーションプロセスに寄与することを示している。この現象は、高すぎるエネルギーではアブレーション効率の飽和により制限されるため、最大フルエンスは各材料に依存し、例えば50J/cmのオーダーとなる。
【0087】
物質の表面におけるGHzのオーダーの繰り返し周波数のフェムト秒パルスのバーストによるレーザアブレーション方法の動作条件を決定するための方法によって、パルスの数N及びバーストのエネルギーEを制御することができる。
【0088】
本方法は、既知の熱拡散率Dを有する材料に対して定義される。
【0089】
表3は、異なる材料における熱拡散係数Dの値の例を示している。
【0090】
【表3】
【0091】
本方法は、単一のパルスによる検討される材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満であるバーストの各パルスのフルエンスFを得るためにバースト当たりのエネルギーEを定義することを必要とする。
【0092】
本方法によって、好都合なことに、パルス当たりの固定されたフルエンスFのバーストのパルスの数Nの関数として得られるアブレーション深さを調整することができる。
【0093】
本方法によって、好都合なことに、パルスの固定数Nに対してバーストのトータルフルエンスの関数として得られるアブレーション深さを調整することができる。
【0094】
材料ごとに、また所与のアブレーション深さに対して、バーストのトータルフルエンスの関数としてアブレーション閾値に対応するパルスの数Nを決定することが可能である。
【0095】
GHz領域におけるバースト内繰り返し周波数fのフェムト秒パルスによる材料のアブレーションの技術分野における予想に反して、精密な動作条件の下では高いアブレーション効率及び良好な加工品質を得ることができる。
【0096】
例えば、シリコン材料の場合、2.2μm~4.4μmに含まれるテスト深さLでは、パルスの数Nは50~200に含まれ、GHzアブレーション閾値の特性パルスあたりのフルエンスFcharは約0.018J/cmであり、バースト内繰り返しの周波数は0.88GHz~3.52GHzに含まれる。
【0097】
例えば、銅材料の場合、2.5μm~5.2μmに含まれるテスト深さLでは、パルスの数Nは100~400に含まれ、GHzアブレーション閾値の特性パルスあたりのフルエンスFcharは約0.03J/cmであり、バースト内繰り返し周波数は1.76GHzに等しい。
【0098】
本開示のレーザアブレーション方法は、特にガラス又は透明セラミックスなどの材料に適用可能である。これらの材料は透明であり、レイリー長に対応する深さにわたって表面吸収が起こる。加えて、これらの材料は脆い。このことは、表面又は体積に亀裂が入ると、容易に成長し、深刻な損傷につながり得ることを意味する。最終的には、バーストにおけるパルスの数は、必要最小限に制限されることが好ましい。このような状況では、Ncの式は適用されず、10よりも大きいバーストのパルスの最小数Nに対する条件のみが適用される。加えて、これらの材料では、熱拡散を抑える必要がある。熱拡散を抑制するための方法の1つは、所与のガラス基板の透明な範囲を超える波長、例えばUV又は深UV(DUV)範囲のレーザ源を使用することである。
【0099】
本開示のレーザアブレーション方法はまた、好都合なことに、低表面粗さのガラスのアブレーションにも適用可能である。この場合、光は不規則な表面でトラップされ、表面下に拡散される。表面粗さは、光学的な劣化をもたらす。表面粗さは、これらの粗さを得るために空間的に制御されたパルスを有するレーザを用いて生成され得る。表面粗さは、機械的手段、例えばサンドブラストによってもたらされ得る。平均粗さの要件は、400nm~10μmの表面粗さのオーダーのものである(「rms」(二乗平均平方根)粗さ>0.25)。
【0100】
また、アブレーションをなすための条件を把握することにより、本開示によって、同じ材料の部分間で材料を失うことなく溶接を実行するための動作条件を決定することもできる。したがって、本開示はまた、数百MHz~100GHzに含まれるバースト内繰り返し周波数fでのフェムト秒レーザパルスのバーストの適用に基づく、レーザ溶接方法に適用され、フェムト秒レーザパルスのバーストが数Nのパルスを含み、レーザパルスのバーストのパルスの数Nが、加熱及びアブレーションパルスの数Nc未満であり、Ncが式Nc=(L・f)/Dにより定義され、Lがテスト深さを表し、Dが材料の熱拡散係数を表し、フェムト秒レーザパルスのバーストが、材料においてアブレーションクレータを発生させるように適合された特性トータルフルエンスFTchar未満のトータルフルエンスを有し、バーストの各パルスが、単一のレーザパルスによる材料のアブレーション閾値フルエンスFs1未満のフルエンスを有する。いくつかのアプリケーションでは、レーザパルスのバーストのパルスの数Nは10以上である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】