(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-31
(54)【発明の名称】哺乳動物の胚の培養及び着床を改善するための組成物、その調製方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/073 20100101AFI20220324BHJP
【FI】
C12N5/073
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546016
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(85)【翻訳文提出日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2020053548
(87)【国際公開番号】W WO2020165218
(87)【国際公開日】2020-08-20
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(71)【出願人】
【識別番号】521349473
【氏名又は名称】フンダシオ・インスティトゥート・ディンベスティガシオ・ビオメディカ・デ・ベルヴィッジェ・(イデイベエエレエレ)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】モンセラット・コスタ・リエローラ
(72)【発明者】
【氏名】アナ・マリア・オルティス・フェルナンデス
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・オホスネグロス・マルトス
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・セリオラ・ペティット
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB19
4B065BC41
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、コーン法を使用したヒト血漿分画による画分の1つ又は複数を含む組成物であって、前記組成物中、ヒト血清アルブミン(HSA)が組成物中の総タンパク質の90%から96%の間であり、アルファグロブリン及びベータグロブリンが組成物中の総タンパク質の3.5%から9.99%の間であり、ガンマグロブリンが組成物中の総タンパク質の0.01%から0.5%の間である、組成物を使用した哺乳動物の胚の着床に関する。更に、本発明は、前記組成物の調製方法及び哺乳動物の胚の培養における前記組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーン法を使用するヒト血漿分画による画分の1つ又は複数を含む、哺乳動物の胚の着床を改善するための組成物であって、前記組成物中、ヒト血清アルブミン(HSA)が、前記組成物中の総タンパク質の90%から96%の間であり、アルファ及びベータグロブリンが、前記組成物中の総タンパク質の3.5%から9.99%の間であり、ガンマグロブリンが、前記組成物中の総タンパク質の0.01%から0.5%の間である、組成物。
【請求項2】
前記画分が、コーン法による画分I、画分II+III、画分IV及び画分V、又は画分Iの上清、画分II+IIIの上清、画分IVの上清、及び画分Vの上清から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記画分が、コーン法による画分II+III及び画分Vの上清であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
コーン法による画分II+IIIの上清が、希釈、清澄化、ダイアフィルトレーション、ナノ濾過、限外濾過による濃縮、滅菌、バイアルへの充填、及び前記バイアルの最終的な凍結乾燥、その後に前記バイアルをガンマ線照射にかけること、又はこれらの組合せによって更に処理されることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
コーン法による画分Vが、ダイアフィルトレーション、加熱処理、滅菌、バイアルへの充填、及び前記バイアルの最終的な低温殺菌、その後に前記バイアルを貯留保管にかけること、又はこれらの組合せによって更に処理されることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
画分II+III及び画分Vの上清が、それ自体で又は更に処理された生成中間体若しくは最終生成物として、病原体を排除する能力を伴う1つ又は複数の生成工程にかけられることを特徴とする、請求項3から5までに記載の組成物。
【請求項7】
前記HSAの最終濃度が、50mg/ml~250mg/mlであることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記HSAの最終濃度が、100mg/mlであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
本発明の組成物を含む胚培養培地の調製のための方法であって、以下の工程:
a)以下に開示される方法を用いて本発明の組成物を得る工程と、
b)10~50%(v/v)の前記組成物を、哺乳動物の胚の培養に通常使用される任意の胚培養培地に添加する工程と
を含む、方法。
【請求項10】
前記組成物が、前記胚培養培地中に20%(v/v)で存在することを特徴とする、請求項9に記載の調製のための方法。
【請求項11】
着床前における哺乳動物の胚の培養における使用のための、請求項1から8までに記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生殖補助技術の分野に関する。特に、本発明は、ヒト血清アルブミン(HSA)が富化された、コーン法に従ったヒト血漿分画による画分の1つ又は複数を含む、哺乳動物の胚の培養及び着床を改善するための組成物に関する。更に、本発明は、その調製方法及び哺乳動物の胚の培養における前記組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生殖補助技術は先進国の大多数を通して利用可能であり、実践は初期に使用されていたものとは大きく異なる。検査技術及び診療が精密化されたことにより、in vitro受精(IVF)を、効率的であり、安全であり、容易に利用可能であり、且つ比較的手頃な医学的手技に発展させることを可能にした。
【0003】
IVFは、女性の卵と男性の精子をシャーレ中で合わせることである。in vitroとは体外を意味する。受精とは精子が卵に付着し、その中に入ることを意味する。受精卵は胚である。胚発生には一連の細胞分裂が伴う。前記胚は培養され、適切に発生していることを確かめるためにチェックされる。
【0004】
胚の培養は、生存可能且つ遺伝学的に正常な胚を選択するための重要かつ決定的な工程である。したがって、哺乳動物の胚の培養を改善することにより、胚を移入し、その結果、着床率を上昇させることが可能になるはずである。培養培地を改善しようとする試みは、ほぼ間違いなく、in vitroにおいて胚発生を促進するための最も一般的な手法である。
【0005】
いくつかの因子がIVFの成功に影響を及ぼす。特に不可欠な2つの要件は適切な胚培養条件及び培地製剤である(Mauriら、Clinical assisted reproduction: a prospective, randomized comparison of two commercial media for ICSI and embryo culture、J Assist Reprod Genet、2001 ;18(7):378~381 ; Summers and Biggers, Chemically defined media and the culture of mammalian preimplantation embryos: historical perspective and current issues、Hum Reprod Update、2003;9(6):557~82; Hentemann and Bertheussen、New media for culture to blastocyst、Fertil Steril、2009;91(3):878~83; Paternotら、Early embryo development in a sequential versus single medium: a randomized study、Reprod Biol Endocrinol、2010;8:83)。したがって、子宮内に首尾よく着床する哺乳動物の胚を得るために、生理学的条件を模倣する改善された胚培養培地が必要である。一般に、先行技術において培養培地として2つの可能性のある製剤が検討されている:一方は逐次的な胚培養培地に基づくものであり、他方は単一培養培地に基づくものである。
【0006】
逐次的な胚培養培地では、胚を1細胞期から最大8細胞期まで駆動することができる第1の培地と8細胞期から胚盤胞期までの第2の培地の2つの異なる培地に胚を逐次的に移すことを伴う。逐次的な培地は、胚が最初に卵管において接する環境条件と後に子宮内で接する環境条件の変動を模倣することを試みるものである。
【0007】
単一培養培地では、異なる発生段階で必要とされる全ての成分を胚に供給し、したがって、胚を異なるプレートに移す必要がない。現在、大多数の生殖補助センターにおいて、連続培地が実装されている。
【0008】
胚が胚盤胞期に到達すると、それらの代謝要件は着床前胚のものとは異なる。これらの代謝的要求を満たすため、及び適切な胚発生を確実にするために、培養培地のタンパク質濃度をより高くしなければならない。
【0009】
IVFの最初の数年を顧みると、ヒト血清が胚培養に使用されていたが、ドナーからの可能性のある感染に由来する汚染に対する安全性が低いことに起因して放棄された(Blakeら、Protein supplementation of human IVF、J Assist Reprod Genet、2002;19(3):137~43; Leveilleら、Effects of human sera and human serum albumin on mouse embryo culture、Genet、1992;9(1):45~52)。次第に、ヒト血漿由来アルブミン及び組換えアルブミンの両方がタンパク質補充物として使用されるようになった。しかし、精製アルブミンを単独で補充することでは、胚盤胞期を越える胚の発生は不可能である。今日では、着床前胚(胚盤胞)のそれらの着床後in vitro発生への移行を可能にする培養培地が多数存在する。しかし、これらの培養培地は実験的なものであるか、又は、GMP品質が確実にならず、したがって、臨床使用の承認を得ることができないホルモン、生体異物血清若しくはヒト臍帯血清等の構成成分を含むものである(Morrisら、Dynamics of previous-posterior axis formation in the developing mouse embryo、Nat Commun、2012;3:673、Ajduk及びZernicka-Goetz、Advances in embryo selection methods、F1000 Biol Rep、2012;4:1 1 ; Shahbaziら、Self-organization of the human embryo in the absence of maternal tissues、Nat Cell Biol、2016; 18(6):700~708; Bedzhovら、In vitro culture of mouse blastocysts beyond the implantation stages、Nat Protocol、2014;9(12):2732~9; Deglincertiら、Self-organization of the in vitro-linked human embryo、Nature、2016;533(7602):251 -4)。
【0010】
最近の数年で、生殖補助技術の最適化が進んでいる。しかし、移入された胚当たりの妊娠率は依然として低い(約30%)。IVFの効率を上昇させるための礎石は胚着床である(Zhangら、Physiological and molecular determinants of embryo implantation、Mol Aspects Med、2013;34(5):939~80)。現在、実験的なもの及び臨床的なものの両方の種々の方法により胚着床の効率を改善することが試みられており、成功は非常にわずかである又は少ない。
【0011】
首尾のよい着床には、胚盤胞による着床コンピテンシーの獲得と子宮内膜の受容性の状態の同期化が必要である(Deyら、Molecular cues to implantation、Endocr Rev、2004;25(3)341~373; Tranguchら、Molecular complexity in establishing uterine receptivity and implantation、Cell Mol Life Sci、2005;62(17)1964-1973; Wang及びDey、Roadmap to embryo implantation: clues from mouse models、Nat Rev Genet、2006;7(3)185-199)。
【0012】
内蔵型顕微鏡が組み入れられた微速度撮影インキュベーターの使用により、胚を、インキュベーターから取り出すことなく同時に途切れなく観察することが可能になる。このセットアップに適応させるために、胚を1細胞期から胚盤胞まで培養することを可能にする単一培養培地が開発された。この胚培養培地は、胚培養のプロセスの間に1回又は2回の培地交換が必要になる逐次的な培養培地に代わるものである。いくつかの試験により、単一の途切れない培養により初期の培養効率を改善することができることが示されているが、この培地の利点は、桑実胚から胚盤胞までの後期に関しては統計学的に裏付けられていない(Sciorioら、Comparison of the development of human embryos cultured in either an EmbryoScope or benchtop incubator、J Assist Reprod Genet、2018;35(3):515~522)。遡及的試験から、単一培地での培養により、in vitro培養の効率を全体的に改善することができ、また、着床率も改善されるが、妊娠率に対する実際の有意な影響はないことが示唆される(Alhelouら、Embryo culture conditions are significantly improved during uninterrupted incubation: a randomized controlled trial、Reprod Biol、2018;18(1):40~45)。胚発生の微速度撮影による追跡は、胚の評価を裏付けるための妨げのない培養及び視覚情報の適用を含む。微速度撮影培養における移入のための胚の選択は、画像モニタリングと胚選択のための形態動力学的アルゴリズムの画像解析の組合せに基づく。しかし、これらのアルゴリズムの詳細な統計学的評価により、(i)全てのアルゴリズムが同等に予測的ではないこと;(ii)胚の最初の形態及び(iii)母親の年齢等の外部パラメータが決定に大きく影響することが示される。
【0013】
更に、着床前遺伝子診断(PGD)は、培養下の胚の生検を行って、遺伝子解析を実施するための少数の細胞を得ることを伴う。これは、胚が単一遺伝子疾患析及び/又は染色体機能障害(異数性)の影響を受けているかどうかに関する情報がもたらされる侵襲的方法である。しかし、PGDでは、胚の着床能力に関する予測情報はもたらされない(Cimadomoら、The impact of biopsy on human embryo developmental potential during preimplantation genetic diagnosis、Biomed Res Int、2016;2016:7193075)。更に、大多数の着床前胚は遺伝学的にモザイク型である、つまり、異なる細胞は異なる遺伝的背景を有する。これは、初期胚(すなわち8細胞期)に対して実施される生検にも特に当てはまる。遡及的試験から、PGDの使用により胚着床率が有意には改善されないことが示される(Geraedts及びSermon、Preimplantation genetic screening 2.0: the theory. Mol Hum Reprod、2016;22(8):839~44; Sermonら、The why, the how and the when of PGS 2.0: current practices and expert opinions of fertility specialists, molecular biologists, and embryologists. Mol Hum Reprod、2016;22(8):845~57)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Mauriら、Clinical assisted reproduction: a prospective, randomized comparison of two commercial media for ICSI and embryo culture、J Assist Reprod Genet、2001 ;18(7):378~381
【非特許文献2】Summers and Biggers, Chemically defined media and the culture of mammalian preimplantation embryos: historical perspective and current issues、Hum Reprod Update、2003;9(6):557~82
【非特許文献3】Hentemann and Bertheussen、New media for culture to blastocyst、Fertil Steril、2009;91(3):878~83
【非特許文献4】Paternotら、Early embryo development in a sequential versus single medium: a randomized study、Reprod Biol Endocrinol、2010;8:83
【非特許文献5】Blakeら、Protein supplementation of human IVF、J Assist Reprod Genet、2002;19(3):137~43
【非特許文献6】Leveilleら、Effects of human sera and human serum albumin on mouse embryo culture、Genet、1992;9(1):45~52
【非特許文献7】Morrisら、Dynamics of previous-posterior axis formation in the developing mouse embryo、Nat Commun、2012;3:673
【非特許文献8】Ajduk及びZernicka-Goetz、Advances in embryo selection methods、F1000 Biol Rep、2012;4:1 1
【非特許文献9】Shahbaziら、Self-organization of the human embryo in the absence of maternal tissues、Nat Cell Biol、2016; 18(6):700~708
【非特許文献10】Bedzhovら、In vitro culture of mouse blastocysts beyond the implantation stages、Nat Protocol、2014;9(12):2732~9
【非特許文献11】Deglincertiら、Self-organization of the in vitro-linked human embryo、Nature、2016;533(7602):251 -4
【非特許文献12】Zhangら、Physiological and molecular determinants of embryo implantation、Mol Aspects Med、2013;34(5):939~80
【非特許文献13】Deyら、Molecular cues to implantation、Endocr Rev、2004;25(3)341~373
【非特許文献14】Tranguchら、Molecular complexity in establishing uterine receptivity and implantation、Cell Mol Life Sci、2005;62(17)1964-1973
【非特許文献15】Wang及びDey、Roadmap to embryo implantation: clues from mouse models、Nat Rev Genet、2006;7(3)185-199
【非特許文献16】Sciorioら、Comparison of the development of human embryos cultured in either an EmbryoScope or benchtop incubator、J Assist Reprod Genet、2018;35(3):515~522
【非特許文献17】Alhelouら、Embryo culture conditions are significantly improved during uninterrupted incubation: a randomized controlled trial、Reprod Biol、2018;18(1):40~45
【非特許文献18】Cimadomoら、The impact of biopsy on human embryo developmental potential during preimplantation genetic diagnosis、Biomed Res Int、2016;2016:7193075
【非特許文献19】Geraedts及びSermon、Preimplantation genetic screening 2.0: the theory. Mol Hum Reprod、2016;22(8):839~44
【非特許文献20】Sermonら、The why, the how and the when of PGS 2.0: current practices and expert opinions of fertility specialists, molecular biologists, and embryologists. Mol Hum Reprod、2016;22(8):845~57
【非特許文献21】Cohnら、Preparation and properties of serum plasma proteins, IV. A system for the separation into fractions of the protein and lipoprotein components of biological tissues and fluids、J. Am. Chem. Soc、1946;68:459~475
【非特許文献22】Legantら、Measurement of mechanical tractions exerted by cells in three-dimensional matrices、Nat Methods、2010;7(12):969~71
【非特許文献23】Lesmanら、Cell tri-culture for cardiac vascularization、Methods Mol Biol、2014;1 181 :131~7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
要約すると、受精卵期(1細胞)から胚盤胞期までの胚培養は、比較的最適化されている。しかし、胚が患者に移入されると、着床の成功は依然として比較的少ない。このような理由で、子宮に移入された胚の着床する能力を改善するか、又は移入の段階で頑強である胚を生成する新しい培養構成成分を開発することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ヒト血漿画分を伴う種々の培養培地を使用することを目的として集中的かつ広範囲にわたる研究を行い、驚いたことに、コーン法による画分の1つ又は複数を含む組成物であって、前記組成物中、HSAが組成物中の総タンパク質の90%から96%の間であり、アルファグロブリン及びベータグロブリンが組成物中の総タンパク質の3.5%から9.99%の間であり、ガンマグロブリンが組成物中の総タンパク質の0.01%から0.5%の間である、組成物を使用することにより、in vitro胚培養を改善すること、及びそれらの着床に関して、先行技術の条件下で培養された胚と比較して良好な結果を得ることが可能であることが見いだされた。例えば、これらのより良好な結果は、完全な孵化が成功した胚のパーセンテージがより高いことによって示される。
【0017】
本発明では、「コーン法」という用語は、Edwin J.Cohnによって開発された血漿タンパク質の分離方法(Cohnら、Preparation and properties of serum plasma proteins, IV. A system for the separation into fractions of the protein and lipoprotein components of biological tissues and fluids、J. Am. Chem. Soc、1946;68:459~475)又はその変形形態のいずれかを指す。
【0018】
本発明の組成物の別の利点の1つは、ヒト血漿から得ることができることである。
【0019】
したがって、本発明では、哺乳動物の胚を培養するための組成物を開示する。当該組成物の使用により、生殖補助技術専門家のための新しい治療ツールがもたらされる。本発明に開示される方法によって得られた組成物の使用の効果は、一緒になって胚の培養プレートへの接着を誘導し、前記哺乳動物の胚の着床を改善する、HSAが富化されたコーン法による画分の1つ又は複数の使用に基づく。
【0020】
第1の態様では、本発明は、コーン法を使用したヒト血漿分画による画分の1つ又は複数を含む、哺乳動物の胚の着床を改善するための組成物であって、前記組成物中、HSAが組成物中の総タンパク質の90%から96%の間であり、アルファグロブリン及びベータグロブリンが組成物中の総タンパク質の3.5%から9.99%の間であり、ガンマグロブリンが組成物中の総タンパク質の0.01%から0.5%の間である、組成物を開示する。
【0021】
前記画分は、コーン法による画分I、画分II+III、画分IV及び画分V、又は画分Iの上清、画分II+IIIの上清、画分IVの上清及び画分Vの上清から選択されることが好ましい。前記画分は、コーン法による画分II+III及び画分Vの上清であることが好ましい。
【0022】
特定の実施形態では、コーン法による画分II+IIIの上清は更に処理されてもよい。画分II+IIIの上清が得られたら、それは、最終生成物が得られるまで種々の段階に供される。これらの段階は、通常、希釈、清澄化、ダイアフィルトレーション、ナノ濾過、限外濾過による濃縮、滅菌、バイアルへの充填、及び前記バイアルの最終的な凍結乾燥、その後に前記バイアルをガンマ線照射にかけること、又はこれらの組合せを含む。
【0023】
別の特定の実施形態では、コーン法による画分Vは更に処理されてもよい。画分Vが得られたら、後者は溶液中に再懸濁され、最終生成物が得られるまで種々の段階に供される。これらの段階は、通常、ダイアフィルトレーション、加熱処理、滅菌、バイアルへの充填、及び前記バイアルの最終的な低温殺菌、その後に、最終生成物の無菌性を確実にするために、一般に14日以上の期間中、30~32℃で、前記バイアルを貯留保管(quarantine)にかけること、又はこれらの組合せを含む。
【0024】
別の特定の実施形態では、画分II+III及び画分Vの上清は、それ自体で又は更に処理された生成中間体若しくは最終生成物として、病原体を排除する能力を伴う1つ又は複数の生成工程にかけられる。
【0025】
本発明の組成物の特定の実施形態では、前記HSAの最終濃度は50mg/ml~250mg/mlである。前記HSAは組成物中に最終濃度100mg/mlで存在することが好ましい。
【0026】
更に、本発明は、本発明の組成物を含む胚培養培地の調製のための方法であって、
a)上に開示される方法を用いて本発明の組成物を得る工程と、
b)前記組成物を、哺乳動物の胚の培養に通常使用される任意の胚培養培地に10~50%(v/v)で添加する工程と
を含む方法を開示する。
【0027】
本発明の組成物は胚培養培地中に20%で存在することが好ましい。
【0028】
最後に、本発明は、哺乳動物の胚の着床前培養のための、上記の組成物の使用を開示する。
【0029】
以下に実施例を参照して本発明を説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0030】
以下に図を参照して本発明を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】胚盤胞期の哺乳動物の胚の培養に関する、組成物I及び組成物IIと比較した組成物III(本発明の組成物)の性能の改善を示す結果のグラフである。前記培養の改善は、「ブレブ」から「半孵化」まで、完全な「孵化」に到達するまで逐次的に進行する胚のパーセンテージとして測定された。「停止」は、これらの胚が胚盤胞で阻止され、さらなる発生がなされなかったことを指す。
【
図2】組成物Iを使用した培養下及び組成物IIIを使用した培養下での、孵化した胚の培養プレート表面への接着の結果のグラフである。
【
図3】組成物Iを使用したコラーゲンハイドロゲル及び組成物IIIを使用したコラーゲンハイドロゲルにおける胚の着床に関する共焦点顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0032】
以下に実施例を参照して本発明を説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0033】
(実施例1)
本発明の組成物及び比較用組成物の調製及び特徴付け。
組成物I(table I(表1))は、組成物IIIとは、アルブミンの量が多く、アルファ-1グロブリンの量が少ないという点で異なる。他方では、組成物IIは、組成物IIIとは、アルブミンの量が少なく、アルファ-1グロブリンの量が少ないという点で異なる。
【0034】
前記組成物の大多数の構成成分の組成を下記の表に示す:
【0035】
【0036】
(実施例2)
本発明の組成物及び比較用組成物の存在下でのマウス胚の発生の評価(
図1に示されている)。
胚培養の効率を決定するために、参照として最終濃度のHSAを使用して種々のタンパク質製剤を調製した。マウス胚培養物E0.5を胚盤胞期(E3.5)に至らせるためにウシ血清アルブミン(BSA、5mg/ml)を伴うKSOMAA(Millipore; USA)を基本培地として使用した。胚盤胞期に達したら、一部の胚を対照としてKSOMAA(BSA 5mg/ml)中に残し、残りの胚を、BSAを伴わない新しいKSOMAA培地に移し、以下を補充した:
- 群I: コーン法を使用したヒト血漿分画による画分に基づいて96%よりも多くのHSA、3.5%未満のアルファグロブリン及びベータグロブリン並びに0.5%未満のガンマグロブリンを含む組成物I。この画分は22.5mg/mlのHSAの最終濃度で添加するものとする。
- 群II: コーン法を使用したヒト血漿分画による画分に基づいて70%から90%の間のHSA、9.5%から28%の間のアルファグロブリン及びベータグロブリン並びに0.5%から2%の間のガンマグロブリンを含む組成物II。この画分は5mg/mlのHSAの最終濃度で添加するものとする。
- 群III(組成物III、本発明の組成物である): 90%から96%の間のHSA、3.5%から9.99%の間のアルファグロブリン及びベータグロブリン並びに0.01%から0.5%の間のガンマグロブリンを含む、コーン法を使用したヒト血漿分画による画分。この画分は22.5mg/mlのHSAの最終濃度で添加するものとする。
【0037】
胚盤胞期(E3.5)の胚をE6.5日目までインキュベーター中で培養下に置いたままにして、完全に孵化させた。それらの形態を毎日写真によって記録した。インキュベーション期間の最後に(E6.5)、培養下での胚発生の段階を評価した。
【0038】
図1に示されている通り、完全な孵化が成功した胚のパーセンテージが最も高かったのは、本発明の組成物である群IIIの組成物の存在下で培養したものであった。具体的には、群IIIの組成物の存在下では、胚の62%が何とか孵化したが、一方、群Iの組成物の存在下では、46.8%が何とか孵化した。BSA(5mg/ml)の存在下、又は群IIの組成物の存在下で培養した胚は、それぞれ53.9%及び37.2%の効率で孵化した。胚の種々の発生段階の分布から、群IIIの組成物の存在下で成長させた胚が、胚盤胞のままであるか、又は完全な孵化に直接最大限進行したかの2つの優先的な段階を有することが示される。これらの条件下では、中間の工程にあった胚はわずかであり、例えば、ブレブ期(bleb stage)にあるものは検出されなかった。これらの結果から、本発明の組成物により、生存可能な胚の発生に関して、他の条件下よりも効率的な進行が可能になることが示唆される。
【0039】
(実施例3)
培養下で孵化した胚の接着の評価(
図2に示されている)。
この実施例では、孵化したマウス胚は、最適な条件下で成長させた場合、培養プレートに接着し、増殖することができる。接着には、ガラス又はプラスチック表面に付着する胚栄養膜細胞のアウトグロースが伴い、これは、ピペットを用いて洗い流すことにより再付着できなくなる。
図2において、群Iの組成物の存在下でE3.5期からE7.5期まで培養した胚盤胞の接着能の測定値を群IIIの組成物を用いて培養した胚と比較した。結果から、群IIIの組成物の存在下で培養した場合に、孵化した胚盤胞の接着の驚くべき増大が示された。具体的には、群IIIの組成物で培養した胚の73.3%がプレートに接着し、一方、群Iの組成物の存在下では、胚の最大で1.3%が接着することができた。他の2つの条件下では、プレートに何とか接着することができたのは、ごくわずか又はゼロパーセンテージであった。
【0040】
(実施例4)
コラーゲンハイドロゲルにおける胚の着床(
図3に示されている)。
予備試験において、マウス胚を胚盤胞期にコラーゲンハイドロゲル内に包埋して、着床させた(US 20150305774 A1)。共焦点顕微鏡により、着床マトリックス内での三次元でのトランスジェニック蛍光胚の観察が可能になる。コラーゲン線維は反射技法によって観察することができ、比較的均一に分布した、構造が破壊された白色線維の網目として現れる。
図3に示されている通り、群IIIの組成物の存在下で培養した胚では、胚の表面と接触しているある特定の領域において、線維の劇的なリモデリングの一種が誘導される。この型のマトリックスリモデリングにより、胚が、in vitro細胞培養の間に実証された通り、マトリックスに強力に接着し、力を及ぼすことによって着床することが示唆される(Legantら、Measurement of mechanical tractions exerted by cells in three-dimensional matrices、Nat Methods、2010;7(12):969~71 ; Lesmanら、Cell tri-culture for cardiac vascularization、Methods Mol Biol、2014;1 181 :131~7)。しかし、群Iの組成物の存在下で培養し、コラーゲンマトリックスに移した胚である対照集団は着床することができず、胚は進行しない。コラーゲン重合は胚包埋後の最初の1時間のうちに起こり、これらの結果から、マトリックスの変形のプロセスが胚を挿入した際のコラーゲンの重合の不均一性によって生じるものである可能性が棄却される。これに反して、前記変形は経時的に徐々に起こり、したがって、それらの変形が存在することから、胚の活発な機械的作用が示唆される。本発明の組成物を補充することにより、胚の着床が改善されるだけでなく、その寿命が少なくともE9.5日目まで延長されることも驚くべきことである。
【国際調査報告】