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特表2022-520560ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物および使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-31
(54)【発明の名称】ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物および使用方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220324BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220324BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/19
A61K9/14
A61K45/00
A61K9/20
A61K9/48
A61P3/00
A61P43/00 121
A61K47/12
A61K47/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546766
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(85)【翻訳文提出日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 US2020016952
(87)【国際公開番号】W WO2020167571
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】16/272,145
(32)【優先日】2019-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/720,211
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520178065
【氏名又は名称】アクセス・グローバル・サイエンシーズ・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】AXCESS GLOBAL SCIENCES, LLC
【住所又は居所原語表記】2157 LINCOLN STREET, SALT LAKE CITY, UTAH 84106, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ミレット,ゲーリー
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD02
4B018MD03
4B018MD04
4B018MD08
4B018MD09
4B018MD14
4B018MD23
4B018ME14
4C076AA01
4C076AA24
4C076AA29
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB22
4C076CC21
4C076DD41
4C076DD45
4C076DD46
4C076FF02
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA31
4C084MA34
4C084MA37
4C084MA43
4C084NA05
4C084ZC211
4C084ZC212
4C084ZC751
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA07
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA33
4C206MA51
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA77
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZC21
4C206ZC75
(57)【要約】
ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を含むケトジェニック組成物は、前記ケトジェニック組成物が投与される対象においてケトーシスを誘導または維持するように処方される。前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸は、生物学的にバランスのとれたセットを提供し、バランスのとれていない電解質比率に関連する有害な健康への影響を回避するように処方される。ケトジェニック組成物は、ベータ-ヒドロキシ酪酸と、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウムから選択される少なくとも2つのベータ-ヒドロキシブチレート塩とを含む。混合塩酸組成物のベータ-ヒドロキシ酪酸画分は、より迅速に吸収および利用され、味を改善することができ、クエン酸または他の食用酸が必要なく、より低いpHの組成物を提供することができる。ベータ-ヒドロキシブチレート組成物は、遷移金属カチオン(例えば、亜鉛または鉄)、1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレート-アミノ酸塩、短鎖-、中鎖-、または長鎖脂肪酸源、ビタミンD、香味剤、および賦形剤を含んでもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてケトンレベルを上昇させるためのベータ-ヒドロキシブチレート混合酸-塩組成物であって、
ベータ-ヒドロキシ酪酸と、
ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム、または、
ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウム、のうちの少なくとも2つからなる複数のベータ-ヒドロキシブチレート塩と、を含み、
前記組成物が、固体または粉末形態である、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、
ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム、または、
ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウム、のうちの少なくとも3つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、
ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム、および、
ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウム、を含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム、前記ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム、前記ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム、および前記ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウムが、カルシウムの推奨一日摂取量(RDA)を提供する前記組成物の量がナトリウム、カリウム、およびマグネシウムのそれぞれのRDAを超えないように、相対的な比率で含まれている、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、5~70重量%のベータ-ヒドロキシブチレートナトリウムを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、5~70重量%のベータ-ヒドロキシブチレートカリウムを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、5~70重量%のベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウムを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、5~70重量%のベータ-ヒドロキシブチレートカルシウムを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、モル当量で90%~99.9%の複合ベータ-ヒドロキシブチレート塩、およびモル当量で10%~0.1%のベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、モル当量で94%~99.5%の複合ベータ-ヒドロキシブチレート塩、およびモル当量で6%~0.5%のベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、モル当量で96%~99%の複合ベータ-ヒドロキシブチレート塩、およびモル当量で4%~1%のベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
6個未満の炭素を有する少なくとも1つの短鎖脂肪酸、または少なくとも1つの短鎖脂肪酸のモノ-、ジ-、もしくはトリ-グリセリドをさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
ビタミン、ミネラル、向知性薬、およびハーブサプリメントから選択される少なくとも1つのサプリメントをさらに含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
対象においてケトンレベルを上昇させるためのベータ-ヒドロキシブチレート混合酸-塩組成物であって、
ベータ-ヒドロキシ酪酸と、
ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム、または、
ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウム、のうちの少なくとも2つからなる複数のベータ-ヒドロキシブチレート塩と、を含み、
前記組成物が、錠剤、カプセル、粉末、食品、食品添加物、フレーバー付き飲料、ビタミン強化飲料、ノンアルコール飲料、フレーバー付き飲料添加物、ビタミン強化飲料添加物、ノンアルコール飲料添加物、キャンディー、棒付きキャンディー、トローチ、栄養補助食品、フレーバー付きマウススプレー、もしくは座薬として、またはそれらの中に入れて提供される、組成物。
【請求項15】
前記組成物が、モル当量で94%~99.5%の複合ベータ-ヒドロキシブチレート塩、およびモル当量で6%~0.5%のベータ-ヒドロキシ酪酸を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ビタミン、ミネラル、向知性薬、およびハーブサプリメントから選択される少なくとも1つのサプリメントをさらに含む、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
対象においてケトンレベルを上昇させるためのベータ-ヒドロキシブチレート混合酸-塩組成物であって、
錠剤、カプセル、粉末、食品、食品添加物、フレーバー付き飲料、ビタミン強化飲料、ノンアルコール飲料、フレーバー付き飲料添加物、ビタミン強化飲料添加物、ノンアルコール飲料添加物、キャンディー、棒付きキャンディー、トローチ、栄養補助食品、フレーバー付きマウススプレー、および座薬からなる群から選択される食物的にまたは薬学的に許容される担体と、
ベータ-ヒドロキシ酪酸と、
ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム、
ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム、または
ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウム、のうちの少なくとも2つからなる複数のベータ-ヒドロキシブチレート塩と、を含む、組成物。
【請求項18】
対象にケトン体を投与するためのキットであって、
請求項1に記載のベータ-ヒドロキシブチレート混合酸-塩組成物と、
前記組成物が入れられている容器と、
前記組成物の単位用量またはその画分を中に保持するように構成されている測定装置であって、前記組成物の単位用量が、約1g~約50gのベータ-ヒドロキシブチレート化合物を含む、測定装置と、を含む、キット。
【請求項19】
前記容器が、カートン、箱、缶、ジャー、バッグ、ポーチ、ボトル、水差し、および小樽からなる群から選択される、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記測定装置が、カップ、スクープ、シリンジ、スポイト、スパチュラ、スプーン、および結腸灌水装置からなる群から選択される、請求項18または19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、混合された、ベータ-ヒドロキシブチレート塩-酸組成物、および対象におけるケトン体の血中レベルの上昇をもたらす方法が、開示される。
【背景技術】
【0002】
絶食、激しい運動、および/または低炭水化物消費の期間には、体内のグルコースおよびグリコーゲンの貯蔵が急激に消費され、急速に枯渇する可能性がある。それらの枯渇に伴うグルコース貯蔵の補給に失敗すると、身体はエネルギーのためにケトン体を作成することに代謝的に移行するようになる(「ケトーシス」)。ケトン体は、脳や心臓の需要を含む身体のエネルギー需要を満たす代替燃料として、身体のほぼすべての細胞で使用され得る。例えば、長期間の断食を行うと、血中ケトンレベルが2もしくは3mmol/Lまたはそれ以上にまで上昇する可能性がある。血中ケトンが0.5mmol/Lを超えて上昇すると、心臓、脳、および末梢組織が、主要燃料源としてケトン体(ベータ-ヒドロキシブチレート、およびアセトアセテート)を使用していることが従来から理解されている。この状態をケトーシスと称する。血中レベルが1.0mmol/Lから3.0mmol/Lの間の状態は、「栄養学的ケトーシス」と呼ばれる。
【0003】
ケトーシスに移行すると、肝臓でのケトジェニック代謝の間、身体は食事の脂肪および身体の脂肪を主要なエネルギー源として使用するようになる。ケトーシス中は、食事による脂肪摂取を制御し、炭水化物の摂取量を下げてケトーシスを維持することで体脂肪を減らすことができる。ケトーシス中は、身体はケトン生成状態になり、脂肪を主要な燃料として燃焼している。体内では脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解され、脂肪酸はアセチルCoA分子に変換され、このアセチルCoA分子は、ケトン生成を経て肝臓中で水溶性のケトン体であるベータ-ヒドロキシブチレート、アセトアセテート、およびアセトンへと最終的に変換される。ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテートは体内でエネルギーとして使用され、アセトンはケト生成の副産物として除去され排出される。
【0004】
ケトン体の代謝は、抗痙攣効果、脳代謝の促進、神経保護、筋肉温存特性、ならびに認知能力および身体能力の改善を含むいくつかの有益な効果と関連がある。ケトン補給により管理される、細胞代謝の効率性における科学に基づく改善は、身体的、認知的健康、および心理的健康に有益な影響を及ぼし、肥満、循環器系疾患、神経変性疾患、糖尿病、および癌などの一般的な回避できる疾患に関する健康に対して長期的な影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
ケトジェニックダイエットやライフスタイルを追求し、栄養学的ケトーシスの状態を維持することは、健康に多数の利点があるが、ケトジェニック状態を追求し維持することには大きな障壁が残っている。その障壁の1つは、ケトジェニック状態への移行の難しさである。体内におけるグルコースの貯蔵の枯渇を経てケトーシスに移行する最速の内因的方法は、運動を組み合わせた絶食によるものである。これは、身体的および精神的要求が厳しく、最も意欲的で規律正しい人であっても非常に困難である。
【0006】
さらに、ケトーシスへの移行にはしばしば低血糖を伴い、これにより無気力および立ち眩みが起こる可能性があり、結果として、一般的に「低糖質風邪」と呼ばれる不快な身体的および精神的状態に陥ることがある。また、身体が「省エネ」モードになるので、多くの人々は、代謝におけるダウンレギュレーションを経験する。これらの一過性の症状は、2~3週間もの期間続く可能性があるという意見もある。この移行期間中に、もし制限量を超える炭水化物から成る食事または軽食が摂取されると、直ちにケトン生成が終了し、身体がケトーシスの状態から脱却し、身体が主要燃料としてグルコースを利用する状態へと戻り、ケトーシスへの移行は改めて開始しないといけなくなる。
【0007】
もし対象がケトーシスの確立に成功すると、食事の際、脂肪に対する炭水化物およびタンパク質の比率を厳格に維持する必要があるため、ケトーシスを維持することは、同様かそれ以上に困難である。それは、さらに、ケトジェニック状態へ移行しその状態を維持する時によく起こる正常な電解質平衡の崩壊により複雑化される。肝臓および筋肉におけるグリコーゲンの貯蔵の枯渇および低下により、身体が水分を保持する能力が低下し、排尿回数が増え、それにより電解質がより多量に消失する。また、ケトーシスによるインスリンレベルの低下は、一定の電解質が腎臓により排出される速度に影響を及ぼし、さらに体内の電解質レベルを低下させる。
【0008】
電解質の不均衡は、疲労、筋肉の痙攣、頭痛、眩暈、抑うつ、便秘、皮膚の問題、筋力低下、および易怒性につながり、ケトジェニック状態に入ることおよび維持することにしばしば関連する他の有害な精神的および生理的作用を悪化させ、したがって、ケトーシスを促進および/または維持することの困難さをさらに増大させる。さらに極端な場合、電解質のバランスが崩れると、動悸、呼吸困難、不随意の筋肉の痙攣、不整脈などの深刻な健康問題を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(概要)
本明細書には、対象のケトーシスを誘導および/または持続させると同時に、有益な電解質バランスを促進または維持するために処方された、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物を含有するケトジェニック組成物が開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例えば、前記ケトジェニック組成物は、総電解質を体内に過剰に送達することなく、またはナトリウム、カリウム、マグネシウムおよび/またはカルシウムの過剰など、不健康となりうる特定の電解質を過剰に供給することなく(すなわち、特定の電解質のRDAを超えないように、または所定の量だけ超えるように)、対象にケトーシスを誘導および/または持続させるように機能し得る。これにより、前記ケトジェニック組成物は、ケトーシスを誘導または持続させると同時に、対象における電解質の不均衡を制限、防止、または改善することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、対象におけるケトーシスを促進および/または持続させるためのベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、複数の異なるカチオンと、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸とから形成されるベータ-ヒドロキシブチレート混合塩を含む。前記カチオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アミン、およびアミノ酸から選択され得る。カチオンと、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸とを組み合わせて使用することで、電解質のバランスを維持または促進しながら、および/または電解質の不均衡もしくは過負荷を引き起こすことなく、ベータ-ヒドロキシブチレートをより多く投与することができるようになる。
【0012】
いくつかの実施形態では、対象におけるケトーシスを促進および/または持続させるためのベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、複数のカチオンから処方された複数のベータ-ヒドロキシブチレート塩を含む。場合によっては、ベータ-ヒドロキシブチレート以外のアニオンは、混合ベータ-ヒドロキシブチレート塩-酸組成物から除外され得る。前記カチオンは、対象への投与時に、生物学的にバランスのとれたカチオン性電解質のセットを提供するように処方される。前記混合塩-酸組成物は、ベータ-ヒドロキシブチレートリチウム塩、ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム塩、ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム塩(例えば、ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム塩の重量以下の重量で)、ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウム塩、およびベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム塩(例えば、ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウム塩の重量以下の重量で)のうちの少なくとも2つを含み得る。
【0013】
いくつかの実施形態は、ベータ-ヒドロキシブチレート塩に限定されない1つ以上の遷移金属塩、例えば、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、マンガン塩、およびクロム塩を含む。他のベータ-ヒドロキシブチレートおよび非-ベータ-ヒドロキシブチレート塩としては、セレニウム塩、アミノ酸塩が挙げられる。
【0014】
前記ケトジェニック組成物中の単一電解質塩の総量を制限することにより、過剰または不健康な量の単一電解質を送達することなく、身体に送達されるベータ-ヒドロキシブチレートの総量を実質的に増加させることが可能である。複数のベータ-ヒドロキシブチレート塩を遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸と組み合わせて使用することで、適切な電解質バランスを維持することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、ケトジェニック組成物は、体重減少サプリメントとして、高血糖またはII型糖尿病の治療薬として、健脳剤として、運動能力向上剤として、代謝機能障害、ミトコンドリア欠損、インスリン耐性の予防剤として、ケトジェニックダイエットの補助剤として、アンチエイジングサプリメントとして、および代謝健康の改善に関連するその他の用途に有用である。
【0016】
好ましい実施形態では、前記ケトジェニック組成物は、液体またはゲルではなく、固体または粉末の形態で提供される。そのような固体形態のケトジェニック組成物は、本明細書に記載された有益なケトジェニック効果および電解質バランス効果を提供することに加えて、好ましくは、取り扱いおよび製造の容易さを提供するように処方される。あるいは、前記組成物は、迅速な送達および取り込みのための液体マウススプレーの形態であってもよい。いくつかの実施形態では、有益なケトジェニック効果および電解質効果は、前記組成物の製造性または取り扱いの容易さを妨げることなく、または過度に影響を与えることなく実現される。
【0017】
さらなる特徴および利点を以下の記載における一部で説明し、一部は記載により明らかになるか、または本明細書に開示された実施形態の実行により習得され得る。前述の短い概要と以下の詳細な説明の両方は、例示および説明のみを目的としており、本明細書に記載されている実施形態または特許請求の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(詳細な説明)
1.イントロダクション
化合物「ベータ-ヒドロキシブチレート」は、β-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシブチレート、βHB、BHB、またはベータ-ヒドロキシブチレートとしても知られており、一般式CHCHOHCHCOOHを有するヒドロキシカルボン酸であるベータ-ヒドロキシ酪酸の脱プロトン化した形態である。典型的な生物学的pHレベルで存在する脱プロトン化形態は、CHCHOHCHCOOである。以下に示す一般的な化学構造は、開示された組成物で利用され得るベータ-ヒドロキシブチレート化合物を表す。
【化1】

(式中、
Xは、水素、金属イオン、アミノ酸からなどのアミノカチオン、アルキル、アルケニル、アリール、またはアシルであってもよい。)
【0019】
Xが水素の場合、前記化合物はベータ-ヒドロキシ酪酸である。Xが金属イオンまたはアミノカチオンの場合、前記化合物はベータ-ヒドロキシブチレート塩である。Xがアルキル、アルケニル、アリール、またはアシルの場合、前記化合物はベータ-ヒドロキシブチレートエステルである。前述の化合物は、結晶、粉末、固体、液体、溶液、懸濁液、またはゲルなどの任意の所望の物理的形態であり得る。
【0020】
別段の定めがない限り、「塩」という用語は、水に溶解して溶液を形成し、液体に分散して懸濁液またはゲルを形成する、結晶、粉末、その他の固体形態などのいずれかの特定の物理的状態を意味または暗示するものではない。塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、または重炭酸塩、塩基性アミノ酸などの強塩基または弱塩基でベータ-ヒドロキシ酪酸を少なくとも部分的に中和することなどにより、溶液中で形成され得る。
【0021】
前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、ベータ-ヒドロキシブチレート塩とベータ-ヒドロキシ酪酸との混合物を含み得る。ベータ-ヒドロキシブチレートをその酸形態で提供することは、塩形態と比較して吸収応答時間がはるかに迅速であるので有益であり得る。それにもかかわらず、酸形態それ自体が極端に低いpHおよび口に合わない味の液体であるにもかかわらず、塩形態と作製されるかまたは組み合わされ、ベータ-ヒドロキシ酪酸の量が塩形態に比べて少ない場合、前記組成物は依然として塩形態の典型的な固体、粉末または他の形態を形成し得る。このような場合、ベータ-ヒドロキシブチレートの塩と酸の組み合わせの形態は、許容できるpHと味を有する。塩と酸の両方の形態を含むBHB組成物は、吸収率の向上、バイオアベイラビリティの向上、電解質負荷の軽減、製造の容易さ、味の大幅な改善、中性または酸性のpHの組成物を得るためのクエン酸または他の食用酸の必要性の軽減などの利点がある。また、ベータ-ヒドロキシブチレートの塩および/またはエステルと、BHBの酸形態との混合物を用いても有益な効果が得られることが理解されるであろう。
【0022】
「遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸」という用語は、非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸分子と脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸分子との合計を意味する。脱プロトン化されたベータ-ヒドロキシ酪酸分子とは、一般に、プロトンを放出してヒドロニウムイオン(HO+)およびベータ-ヒドロキシブチレートアニオンを形成した(例えば、水に溶解した)分子を意味する。
【0023】
遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸分子は、乾燥粉末または他の固体形態のベータ-ヒドロキシブチレート混合塩酸組成物に含まれる場合、典型的には有意な程度に脱プロトン化されていない。このような場合、重量ベースでのベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物中の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸の分数量(fractional amount)は、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸の重量を、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸とベータ-ヒドロキシブチレート塩との合計重量で割ったものである。モルベースでは、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩酸組成物における遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸の分数量は、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸のモル当量を、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸と、ベータ-ヒドロキシブチレート塩によって提供されるベータ-ヒドロキシブチレートアニオンとのモル当量の合計で割ったものである。
【0024】
水に溶解した場合、ベータ-ヒドロキシ酪酸の一部は、典型的にはベータ-ヒドロキシブチレートアニオンとヒドロニウムイオン(HO+)に解離する。その結果、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子は、溶解したベータ-ヒドロキシブチレート塩と、プロトンおよびカチオンを交換し得る。ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物におけるベータ-ヒドロキシ酪酸およびベータ-ヒドロキシブチレート塩の相対量を規定する目的で、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の解離およびプロトンとカチオンの交換は、ベータ-ヒドロキシブチレート塩からのベータ-ヒドロキシブチレートアニオンに対する遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸のモル比を変化させるものとは理解されない。溶液中の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の総量は、脱プロトン化されていない溶解したベータ-ヒドロキシ酪酸分子と、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の脱プロトン化によって形成されたベータ-ヒドロキシブチレートアニオンとの合計である。
【0025】
別の言い方をすると、溶液中のベータ-ヒドロキシ酪酸の総モル当量は、脱プロトン化されているか否かにかかわらず、(i)溶液中の非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸分子のモル当量とベータ-ヒドロキシブチレートアニオンの総モル当量(すべてのソースから)の合計と、(ii)ベータ-ヒドロキシブチレート塩化合物からのカチオンによって提供されるカチオン電荷の総モル当量(これはベータ-ヒドロキシブチレート塩によって提供されるベータ-ヒドロキシブチレートアニオンの総モル当量に等しい)との間の差であると理解される。ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属カチオンは、金属カチオン1モルあたり1モルのカチオン電荷を提供する。一方、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属のカチオンは、金属カチオン1モルあたり2モルのカチオン電荷を提供する。脱プロトン化されたベータ-ヒドロキシ酪酸分子1モルは、1モルのアニオン電荷および1モルのカチオン電荷を提供する。
【0026】
以上のことから、溶液中のベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物からのベータ-ヒドロキシブチレート分子の総モル数に対する溶液中のベータ-ヒドロキシ酪酸のモル分率は、[(i)-(ii)÷(i)]であり、溶液中のベータ-ヒドロキシブチレート塩からのベータ-ヒドロキシブチレート分子のモル分率は、[(ii)÷(i)]である。それぞれのモル分率に100をかけると、溶液中のそれぞれのパーセンテージがわかる。
【0027】
例として、乾燥粉末状態におけるベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物が、モルベースで5%の遊離非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸および95%のベータ-ヒドロキシブチレート塩を含む場合、実質的に5モル当量のベータ-ヒドロキシ酪酸分子および95モル当量のベータ-ヒドロキシブチレートアニオンが存在することになる。すべてのベータ-ヒドロキシブチレート塩を溶解するのに十分な水があり、ベータ-ヒドロキシ酪酸分子の一部が脱プロトン化されている場合、非脱プロトン化ベータ-ヒドロキシ酪酸のモル当量は5%未満であり、ベータ-ヒドロキシブチレートアニオンのモル当量は95%よりも大きいであろう。溶液中のベータ-ヒドロキシ酪酸の脱プロトン化の程度は、溶液のpHに関連している。
【0028】
ベータ-ヒドロキシブチレートは、対象におけるグルコースレベルが低い場合に、または患者の身体が、使用可能な形態のベータ-ヒドロキシブチレートの補給を受ける場合、燃料源として患者の身体によって利用され得る。ベータ-ヒドロキシブチレートは、一般的に「ケトン体」と呼ばれている。
【0029】
本明細書で使用される「ケトジェニック組成物」は、混合ベータ-ヒドロキシブチレート塩-酸組成物を指す。前記組成物は、それが投与される対象において、ケトーシスなどの所望のレベルでケトン体が上昇した状態を誘発および/または持続させることを含め、対象においてケトン体レベルを上昇させ、同時に対象における電解質バランスを促進または維持するように処方される。
【0030】
本明細書では、複数のベータ-ヒドロキシブチレート塩を含有するケトジェニック組成物の一部を説明するために、「混合塩」または「多塩」という用語が使用される。混合BHB塩は、BHB塩の複数のカチオン形態(例えば、2つ、3つ、4つまたはそれ以上)を含み、前記塩は、対象における電解質の利点を促進するために相対的に配分されている。
【0031】
本明細書で使用される「対象」または「患者」は、動物界のメンバーを指し、哺乳類を含み、これらに限定されないが、ヒトおよび他の霊長類、げっ歯類、魚類、爬虫類、および鳥類などを含む。前記対象は、治療、処置、もしくは、予防が必要な任意の動物、または治療、処置、もしくは予防が必要と疑われる任意の動物であってもよい。予防は、高グルコースまたは糖尿病が認められる場合などに起こるもしれない事象を防ぐために行われることを意味する。「患者」および「対象」は、本明細書では互いに互換可能に使用される。
【0032】
「単位用量」という用語は、特定の量または用量の組成物またはその成分を送達するように構成された剤形を指す。剤形の例としては、錠剤、カプセル、粉末、食品、食品添加物、飲料(フレーバー付き、ビタミン強化、またはノンアルコールなど)、飲料添加物(フレーバー付き、ビタミン強化、またはノンアルコールなど)、キャンディー、棒付きキャンディー(sucker)、トローチ(pastilles)、栄養補助食品、栄養学的に許容されるスプレー(フレーバー付きマウススプレーなど)、注射剤(アルコールフリーの注射剤など)、および坐薬が挙げられるが、これらに限定されない。このような剤形は、完全な単位用量またはその画分(fraction)(例えば、単位用量の1/2、1/3、または1/4)を提供するように構成され得る。
【0033】
組成物またはその成分の単位用量を提供するために使用され得る別の剤形は、カップ、スクープ、シリンジ、スポイト、スプーン、スパチュラ、または結腸灌水装置などの単位用量測定装置であり、完全な単位用量またはその画分(例えば、単位用量の1/2、1/3、または1/4)に等しい組成物の測定量をその中に保持するように構成される。例えば、いくつかの単位用量の組成物(例えば、5~250または10~150単位用量)を含むカートン、箱、缶、ジャー、バッグ、ポーチ、ボトル、水差し、または小樽などのバルク容器は、組成物またはその成分の単位用量またはその画分を提供するように構成された単位用量測定装置と一緒にユーザに提供され得る。
【0034】
本明細書に開示されている組成物をバルク形態で提供し、一方で前記組成物の単位用量を提供するために使用するキットは、ある量の組成物をその中に保持するバルク容器と、組成物またはその成分の単位用量またはその画分を提供するように構成された単位用量測定装置とを含んでもよい。1つ以上の単位用量測定装置は、販売時にバルク容器内に配置されてもよいし、バルク容器の外側に取り付けられてもよいし、より大きなパッケージ内でバルク容器と一緒に事前に包装されてもよいし、1つ以上のバルク容器と一緒に使用するために販売者または製造者によって提供されてもよい。
【0035】
前記キットには、単位用量またはその画分のサイズ、ならびに投与方法および頻度に関する説明書が含まれていてもよい。前記説明書は、バルク容器に記載されていてもよいし、バルク容器と一緒に事前包装されていてもよいし、バルク容器と一緒に販売されている包装材に置かれていてもよいし、販売者または製造者によって提供されていてもよい(例えば、ウェブサイト、メーラー、チラシ、製品資料など)。使用説明書は、単位用量またはその画分を適切に提供するための単位用量測定装置の使用方法に関する参照を含んでいてもよい。前記説明書は、追加的または代替的に、バルク容器に付属していないスプーン、スパチュラ、カップなどの一般的な単位用量測定装置についての言及を含んでいてもよい(例えば、提供された単位用量測定装置を紛失したり、置き忘れたりした場合に備えて)。このような場合には、バルク容器に添付された説明書、または製品、組成物の単位用量またはその画分を適切に提供する方法に関する、販売者から提供された説明書に従って、エンドユーザーによりキットが構築され得る。
【0036】
本明細書で使用される「ケトーシス」は、対象において約0.5mmol/L~約16mmol/Lの範囲内の血中ケトンレベルを有する対象を指す。ケトーシスは、ミトコンドリア機能を改善し、活性酸素種の産生を減少させ、炎症を軽減し、神経栄養因子の活性を増加させ得る。本明細書で使用される「ケト適応」は、維持された非病理性の「穏やかなケトーシス」または「治療的ケトーシス」を得るための長期の栄養学的ケトーシス(>1週間)のことを指す。
【0037】
いくつかの場合、「上昇したケトン体レベル」は、対象が「臨床的ケトーシス」の状態にあることを意味しないかもしれないが、それにもかかわらずエネルギーの生成するおよび/またはケトン体の他の有益な作用を及ぼすためのケトンの供給の上昇を意味する。例えば、「ケト適応(ketone adapted)」された対象は、必ずしもケトン体血清レベルが上昇していないかもしれないが、「ケト適応(ketone adapted)」されていない対象と比較して、より急速に、利用可能なケトン体を利用できる。このような場合、「上昇したケトン体レベル」は、血漿レベル自体よりむしろ、対象によって利用されているケトン体の総量および/または比率を指し得る。
【0038】
用語「短鎖トリグリセリド」(SCT)は、3つの中鎖脂肪酸が付いたグリセロール骨格を有する分子を指す。短鎖脂肪酸は、長さで2~5個の炭素原子の範囲に及び得る。短鎖脂肪酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などが挙げられる。SCTの例としては、トリブチリンが挙げられる。
【0039】
用語「中鎖トリグリセリド(MCT)」は、3つの中鎖脂肪酸が付いたグリセロール骨格を有する分子を指す。中鎖脂肪酸は、長さで6~12個の炭素原子の範囲に及び得、長さで8~10個の炭素原子の範囲である可能性が高い。脂肪酸の例としては、オクタン酸としても知られる、8個の炭素分子を有するカプリル酸、および、デカン酸としても知られる、10個の炭素分子を有するカプリン酸が挙げられる。MCT、中鎖脂肪酸、ならびにモノおよびジグリセリドは、ベータ-ヒドロキシブチレートとは無関係にケトン体の産生用の追加の供給源を提供できるケトン体前駆体である。
【0040】
用語「長鎖トリグリセリド」(LCT)という用語は、3つの中鎖脂肪酸が付いたグリセロール骨格を有する分子を指す。長鎖脂肪酸は、長さで12個を超える炭素原子を有し得る。
【0041】
本明細書で使用される用語「投与」または「投与する」は、混合塩ケトジェニック組成物を対象に送達する過程を説明するために使用される。前記組成物は、数ある中で経口、胃内、および非経口(静脈内および動脈内、ならびに他の適切な非経口経路を指す)を含む様々な方法で投与され得る。
【0042】
II.ケトジェニックベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物
ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物を投与すると、ケトン体の血中レベルが上昇して持続し、それにより持続的なケトーシスの代謝的および生理学的な利点を利用することができる。血中のケトン体レベルを上昇させることにより、食事のみに基づきケトーシスを誘導および維持することを目標とする方法(例えば、絶食および/または炭水化物の摂取制限に基づく方法)と比較して、対象がより柔軟に食事を選択できるようになる。例えば、適切な量のベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を投与された対象は、ケトジェニック状態を危険にさらすことなくおよびグルコースに基づく代謝状態に戻ることなく、炭水化物または糖に基づく食物を時々摂取することができるようになる。さらに、このような投与は、ケトーシス状態への移行を容易にすると共に、ケトーシス状態への移行に伴う典型的な有害な影響を軽減または排除する。
【0043】
ケトジェニック状態に入る、または維持する対象は、強化された利尿作用およびインスリンプロファイルの変化を含む、ケトーシスに関わる代謝シフトのために、しばしば電解質不均衡の状態になる。このように、対象におけるケトーシスを促進または維持するためにベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を投与することには多くの利点があるが、結果として生じる電解質の不均衡、およびそれに関連する有害な生理学的効果は、ケトーシスの利点を相殺し、および/または対象が所望のレベルまたは所望の時間、ケトーシスを維持することをより困難にする。
【0044】
さらに、ベータ-ヒドロキシブチレートは塩の形態で投与され得、ここで1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレート分子は、選択されたカチオンに対するアニオンであるので、追加のカチオン電解質の導入は、対象における電解質の不均衡を引き起こし、または悪化させる可能性がある。例えば、特定の形態のベータ-ヒドロキシブチレート塩を過度に高いレベルおよび/または過度に高い比率で有する製剤は、さらなる電解質の不均衡を引き起こし、および/または他の有害な健康への影響を引き起こす可能性がある。いくつかの状況では、特定の形態のベータ-ヒドロキシブチレート塩が電解質の不均衡をある程度緩和したとしても、他の負の望ましくない健康への影響をもたらす可能性がある。
【0045】
例を挙げると、ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウムのレベルが高すぎる、および/または比率が高すぎる製剤は、対象におけるナトリウムのレベルを上昇させる。ナトリウムは必要な栄養素であるが、最適な範囲外のレベルを有することは有害な影響をもたらす。高レベルのナトリウムは、高血圧および心血管の健康状態の悪化と関連している。特に、カリウムに比べてナトリウムのレベルが高いと、高血圧が促進され、心血管疾患のリスクが高まる。
【0046】
別の例では、ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウムのレベルが高すぎる、または比率が高すぎる製剤は、対象におけるカルシウムレベルを上昇させる。カルシウムは必要な栄養素でもあり、良好な骨の健康には特に重要であるが、過剰なカルシウムは骨に十分に吸収されず、代わりに軟部組織に蓄積され、組織の有害な石灰化および硬化をもたらし、心臓病(例えば、硬化した動脈に関連する)、腎臓結石、関節炎、および他の問題のある状態のリスクを高める可能性がある。特に、マグネシウムに比べてカルシウムのレベルが過度に多いと、これらの悪影響が悪化する可能性がある。マグネシウムは、ホルモンのカルシトニンを刺激することによって機能し、ビタミンDをその活性型に変換するように機能するため、軟部組織でのカルシウム沈着とは対照的に、骨でのカルシウム吸収を促進することができる。
【0047】
したがって、ベータ-ヒドロキシブチレート塩を不適切な量や比率で投与することは、健康に有害な影響を引き起こしたり悪化させたりする可能性がある。さらに、ケトジェニック状態を維持しようとする対象にとって、他の食事の選択肢によって不均衡を補うことは、常に容易ではなく、また可能でもない。例えば、全粒粉、バナナ、アボカド、牛乳、ヨーグルト、オートミール、トウモロコシ、エンドウ豆、ジャガイモ、カボチャなど、カリウムおよび/またはマグネシウムを多く含むことが知られている食品の多くは、高レベルの炭水化物を含んでおり、かなりの量を摂取する場合、厳格なケトジェニック食とは両立しない。
【0048】
本明細書に開示される実施形態は、治療有効量のベータ-ヒドロキシブチレートを、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸の形態で提供する。有益なことに、前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸は、生物学的にバランスのとれたカチオン電解質のセットを提供するように処方される。したがって、1つ以上の実施形態は、ケトーシスを開始および/または持続させると同時に、正の電解質効果を促進するという利点を提供する。
【0049】
いくつかの実施形態では、前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アミノ酸、またはアミノ酸の代謝産物の1つ以上の塩を含んでもよい。例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩(鉄(II)および/または鉄(III)として)、クロム塩、マンガン塩、コバルト塩、銅塩、モリブデン塩、セレニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ロイシン塩、イソロイシン塩、ヒスチジン塩、オルニチン塩、シトルリン塩、グルタミン塩、およびクレアチン塩が挙げられる。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸は、複数の(例えば、少なくとも2つ、3つまたは4つの)異なるカチオンを含み、ベータ-ヒドロキシブチレートリチウム、ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウム、ベータ-ヒドロキシブチレートカリウム、ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウム、またはベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウムのうちの少なくとも2つを、許容できる量および比率で含有するように配分される。
【0051】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウムは、BHB混合塩-酸の重量に対して、約5~70%、または約6~50%、または約8~40%、または約10~30%、または約12~25%、または約14~22%、または約16~20%、または約18%の範囲で含まれる。
【0052】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートカリウムは、BHB混合塩-酸の重量に対して、約5~70%、または約6~50%、または約8~40%、または約10~30%、または約12~25%、または約14~22%、または約16~20%、または約18%の範囲で含まれる。
【0053】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウムは、BHB混合塩-酸の重量に対して、約5~70%、または約6~60%、または約8~50%、または約10~40%、または約12~35%、または約15~30%、または約18~25%、または約20~23%の範囲で含まれる。
【0054】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウムは、BHB混合塩-酸の重量に対して、約5~70%、または約6~60%、または約8~50%、または約10~40%、または約12~35%、または約15~30%、または約18~25%、または約20~23%の範囲で含まれる。
【0055】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートナトリウムは、重量で、前記組成物中の、ベータ-ヒドロキシブチレートカリウムの量よりも多くない量で含まれる。これにより、必要なナトリウムおよびカリウム電解質を投与することができ、カリウムに対する高いナトリウム比率に関連する望ましくない健康への影響(例えば、高血圧、心血管疾患、および他の好ましくない影響)を引き起こしたり悪化させたりすることなく、対象に有益な電解質効果を提供することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレートカルシウムは、重量で、ベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウムの量よりも多くない量で含まれる。これにより、必要なカルシウムおよびマグネシウム電解質を投与することができ、マグネシウムに対する高いカルシウム比率に関連する好ましくない健康への影響(例えば、組織石灰化、骨の健康不良、および他の好ましくない影響)を引き起こしたり悪化させたりすることなく、対象に有益な電解質効果を提供することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、カリウムイオンに対するナトリウムイオンのモル比が1を超えないように、および/またはマグネシウムイオンに対するカルシウムイオンのモル比が1を超えないように処方され得る。
【0058】
本明細書に開示されるベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、複数のベータ-ヒドロキシブチレート塩とベータ-ヒドロキシ酪酸とを含んでいる。より詳細には、前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、複合ベータ-ヒドロキシブチレート塩を100%未満、遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を0%超、例えば、モル当量で、最大で99.9%、99.8%、99.7%、99.6%、99.5%、99.4%、99.3%、99.2%、99.1%、99%、98.8%、98.65%、98.5%、98.35%、98.2%、98%、97.75%、97.5%、97.25%、または97%、および少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、94%、95%、96%、または97%の複合ベータ-ヒドロキシブチレート塩、およびモル当量で、少なくとも0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.2%、1.35%、1.5%、1.65%、1.8%、2%、2.25%、2.5%、2.75%、または3%であり、25%、20%、15%、10%、8%、6%、5%、4%、または3%未満の遊離ヒドロキシ酪酸、を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、ケトジェニック組成物は、治療有効量のビタミンDをさらに含む。ビタミンDは、マグネシウムおよびカルシウムと共に作用して、良好な骨の健康を促進し、軟部組織の望ましくない石灰化を防止する。好ましい実施形態では、ビタミンDは、前記ケトジェニック組成物の平均一日量が、約200IU(「国際単位」)~約8000IU、または約400IU~約4000IU、または約600IU~約3000IUのビタミンDを含むような量で含まれる。いくつかの実施形態では、ビタミンDは、ケトジェニック組成物の平均一日量が、約5μg~約200μg、または約10μg~約100μg、または約15μg~約75μgのビタミンDを含むような量で含まれる。
【0060】
いくつかの実施形態では、前記ケトジェニック組成物は、ビタミン、ミネラル、向知性薬など、当技術分野で公知の他のサプリメントを含むか、またはそれらと一緒に投与され得る。前記ケトジェニック組成物に添加することができるビタミン、ミネラルおよびハーブサプリメントの例としては、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、5-MTHF、ビタミンB12、ヨウ素、亜鉛、銅、マンガン、クロム、カフェイン、テオブロミン、テアクリン、メチルリベリン、フペルジンA、エピカテキン、および酵素のうちの1つ以上が挙げられる。
【0061】
いくつかの実施形態では、1つ以上の追加のケトン前駆体またはサプリメントを含む。これらの追加のケトン前駆体またはサプリメントは、アセトアセテート、ケトンエステル、および/またはもっと多くの電解質を血流中に加えることなく血中ケトンレベルの上昇を引き起こす他の化合物を含んでもよい。その他の添加物は、効果を高めるかまたはミトコンドリアへのケトン体の輸送を促進する代謝産物、カフェイン、テオブロミン、およびL-アルファグリセリルホスホリルコリン(「アルファGPC」)などの向知性薬を含む。
【0062】
いくつかの実施形態は、前記ケトジェニック組成物の混合塩の一部として、追加のベータ-ヒドロキシブチレート塩を含む。例えば、いくつかの実施形態は、1つ以上の遷移金属ベータ-ヒドロキシブチレート塩を含む。BHBまたは他の塩として使用するのに適した遷移金属カチオンとしては、リチウム、クロム、マンガン、コバルト、銅、亜鉛、鉄、(例えば、鉄(II)または鉄(III)カチオンとして)、モリブデン、およびセレンが挙げられる。
【0063】
前記ケトジェニック組成物は、組成物の平均的な1日量が、少なくとも1つの前記カチオンの推奨食事摂取基準(RDA)の約0.25~約10倍、または前記少なくとも1つのカチオンのRDAの約0.5~5倍、または約0.75~2倍の範囲内にある、ある量の混合塩のカチオンの少なくとも1つを提供するように処方され得る。例えば、前記混合塩-酸組成物は、対象が1日量の前記組成物を摂取する際に、前記範囲内の量のカチオン電解質を消費するように処方され得る。いくつかの実施形態において、前記混合塩-酸組成物は、前記組成物の1日投与後に前述の範囲内に入る少なくとも1つのカチオン電解質がカリウムおよび/またはマグネシウムであるように処方される。場合によっては、必ずしも毒性や健康への悪影響を経験することなく、RDAレベルを超えてもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、少なくともいくつかの前記カチオンが、ベータ-ヒドロキシブチレート塩が生成されるpHで正味の正電荷を有する1つ以上のアミノ酸または他の有機化合物によって提供される、1つ以上のベータ-ヒドロキシブチレート塩を含んでもよい。ベータ-ヒドロキシブチレート-アミノ酸塩は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、またはマグネシウムなどの電解質を提供することなく、可溶性形態のベータ-ヒドロキシブチレートを提供することができる。これにより、特に電解質負荷をさらに増加させることなく、治療上の理由からより多くの量のベータ-ヒドロキシブチレートを送達することが望まれる場合に、電解質の量を減らし、および/または電解質をより健康的な量にし、および/または電解質のバランスをより健康的にしたベータ-ヒドロキシブチレート塩の製造が可能になる。この目的のために適したアミノ酸は、プロトン化されて正味の正電荷を有する化合物を形成することができる複数のアミン基を含むアミノ酸を含有し得、これは前記ベータ-ヒドロキシブチレートアニオンに対する対カチオンを提供し得る。例としては、アルギニン、リジン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、オルニチン、シトルリン、L-グルタミン、または他の適切なアミノ酸もしくはアミノ酸の代謝産物(例えば、クレアチン)が挙げられる。また、アミノ酸の中には、健康に役立つものもある。例えば、L-アルギニンは、血液中の一酸化窒素を増加させ、血管を拡張し、心臓病のある人の血液循環を改善することができる(勃起不全を患う男性にも効果がある可能性がある)。
【0065】
いくつかの実施形態では、前記ケトジェニック組成物は、少なくとも1つの短鎖脂肪酸、または少なくとも1つの短鎖脂肪酸のモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドを含んでもよく、ここで前記短鎖脂肪酸は、6個未満の炭素を有する。前記組成物は、少なくとも1つの中鎖脂肪酸、または前記少なくとも1つの中鎖脂肪酸のモノ-、ジ-、もしくはトリグリセリドを含んでもよく、ここで前記中鎖脂肪酸は、6から12個の炭素、好ましくは8~10個の炭素を有する。あまり好ましくないが、前記組成物は、12個を超える炭素を有する、少なくとも1つの長鎖脂肪酸または前記少なくとも1つの長鎖脂肪酸のモノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリドを含んでもよい。
【0066】
短鎖脂肪酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、およびイソ吉草酸が挙げられる。中鎖脂肪酸の例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、およびラウリン酸が挙げられる。長鎖脂肪酸の例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸、オメガ7脂肪酸、オメガ9脂肪酸が挙げられる。
【0067】
中鎖脂肪酸、または中鎖トリグリセリドなどのそのエステルの例および供給源としては、ココナッツ油、ココナッツミルクパウダー、ヤシ油、パーム油、パーム核油、カプリル酸、カプリン酸、単離中鎖脂肪酸(単離ヘキサン酸、単離オクタン酸、単離デカン酸など)、精製されたまたは天然の形態(ココナッツ油など)におけるいずれかの中鎖トリグリセリド、および中鎖脂肪酸エトキシル化トリグリセリドのエステル誘導体、エノントリグリセリド誘導体、アルデヒドトリグリセリド誘導体、モノグリセリド誘導体、ジグリセリド誘導体、およびトリグリセリド誘導体、ならびに前記中鎖トリグリセリドの塩を含む。エステル誘導体は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシルなどのアルキルエステル誘導体を任意に含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、前記ケトジェニック組成物は、液体またはゲル形態とは対照的に、固体または粉末形態として提供され得る。そのような固体形態のケトジェニック組成物は、本明細書に記載された有益なケトジェニック効果および電解質効果を促進することに加えて、取り扱いおよび製造の十分な容易さを提供するように処方される。例えば、様々なベータ-ヒドロキシブチレート塩の混合塩酸製剤では、特定の塩が異なる材料特性(例えば、吸湿性)を示し、混合塩製剤中の異なる塩の相対的な量が、前記組成物の全体的な特性に影響を及ぼす可能性がある。
【0069】
別の実施形態では、前記ケトジェニック組成物は、迅速な送達および吸収のためのショットまたはマウススプレーの形態などの液体として提供され得る。液体形態は、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオールなどの1つ以上の液体担体を含み得、これらの中にBHB混合塩-酸組成物が溶解または分散される。前記組成物は、ベータ-ヒドロキシブチレート化合物の味をマスキングするのに役立つ香味剤を含んでもよい。これらには、ペパーミントなどの精油、天然および人工甘味料、ならびにその他当技術分野で公知の香味料が含まれる。
【0070】
本明細書に記載の混合塩-酸製剤の製造では、特定のベータ-ヒドロキシブチレート塩、特にベータ-ヒドロキシブチレートカリウムおよびベータ-ヒドロキシブチレートマグネシウムが、他のベータ-ヒドロキシブチレート塩よりも高い吸湿性を示すことが実証されている。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の比率が不適切な場合、流動性や取り扱い性の悪い製剤ができてしまい、製造コストが増大すると共に、前記ケトジェニック組成物製品の保存性、安定性、有効性が低下する可能性がある。
【0071】
したがって、本明細書に記載されている組成物は、上述のケトジェニックおよび電解質の利点および長所を提供する一方で、前記組成物の製造性を過度にまたは許容できないほど混乱させないように、処方およびバランスをとることができる。少なくともいくつかの実施形態では、有害な健康影響を促進するような過度に高いレベルでこれらの塩を過剰に含むことなく、十分なBHBカルシウムおよび/またはBHBナトリウム(典型的には製造性および取り扱いを促進する)を提供する比率で、異なるベータ-ヒドロキシブチレート塩を含む。同様に、少なくともいくつかの実施形態では、BHBカルシウムおよび/またはBHBナトリウムのバランスをとるのに十分な量のBHBカリウムおよび/またはBHBマグネシウム(典型的には製造可能性と取り扱いを妨げる)を、過剰な量ではなく含む。
【0072】
いくつかの実施形態では、前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物は、食物的に(dietetically)または薬学的に許容できる担体を含む。例としては、粉末、液体、錠剤、カプセル、食品、食品添加物、飲料、ビタミン強化飲料、飲料添加物、キャンディー、棒付きキャンディー、トローチ、栄養補助食品、スプレー、注射剤、および座薬が挙げられる。
【0073】
いくつかの実施形態において、ケトジェニック組成物はさらに、前記組成物の吸湿性を低下させるように構成された1つ以上の追加の成分を含有してもよい。例えば、種々の固化防止剤、流動剤、および/または吸湿剤が、摂取するのに安全なタイプおよび量で含有されてもよい。このような追加の成分には、アルミノケイ酸塩、フェロシアン化物、炭酸塩または重炭酸塩、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カルシウム)、シリカ、リン酸塩(例えば、リン酸二カルシウムまたはリン酸三カルシウム)、タルク、粉末セルロース、炭酸カルシウムなどのうちの1以上が含まれてもよい。
【0074】
III.投与
本明細書に記載されるケトジェニック組成物は、治療有効量で、および/またはケトーシスを誘導もしくは維持する頻度で、対象に投与されてもよい。いくつかの実施形態において、一回量は、約1グラム~50グラム、または約2グラム~40グラム、または約5グラム~30グラム、または約10グラム~20グラムの範囲に及ぶ、ある量のベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を含む。いくつかの実施形態では、前記ケトジェニック組成物は、本明細書に記載されているサプリメントまたは他の添加物を含むか、またはそれらと共に投与され得る。
【0075】
いくつかの実施形態において、前記対象は、好ましくは、前記組成物の投与期間中に炭水化物およびタンパク質の摂取を制限するケトジェニックダイエットに従う。1つの例示的な実施形態では、前記対象は、食事の摂取を約65%の脂肪、約25%のタンパク質、および約10%の炭水化物の比率に制限してもよい。結果として得られる治療的ケトーシスは、広範囲な代謝障害に対する代謝的療法としての迅速で持続的なケト適応を提供し、治療的絶食、体重減少、およびパフォーマンス向上のための栄養サポートを提供する。したがって、前記組成物は通常、ケトーシス状態を促進および/または維持したいと望む対象に1日1回、1日2回、または1日3回投与される。
【0076】
いくつかの実施形態において、ケトジェニック組成物は、固体および/または粉末混合物(例えば、粉末充填ゼラチンカプセル)などの粉末形態、強くプレスされた錠剤、水またはジュースに溶解したもの、または当該技術で公知の他の経口投与経路で経口投与される。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記組成物が複数回用量で投与され得る。前記組成物の投与頻度は、前処置からの処置のタイミング、処置の目的などのいずれかの様々な要因によって変わる可能性がある。前記組成物の投与期間(例えば、薬物が投与される期間)は、対象の反応、処置の所望の効果などを含むいずれかの様々な要因によって変わる可能性がある。
【0078】
投与される前記組成物の量は、個体の感受性の程度、個体の年齢、性別、および体重、個体の特異体質反応などの要因によって変わる可能性がある。「治療有効量」は、生体内で治療的に有効な結果(すなわち、治療的ケトーシス)を促進するのに必要な量である。本開示に従えば、適切な一回量のサイズは、適切な期間にわたって1回以上投与される場合の患者における症状を防止するまたは緩和する(軽減または排除する)ことができる量である。
【0079】
投与される組成物の量は、ベータ-ヒドロキシブチレートおよび/または対応する電解質の効能、吸収、分布、代謝、および排泄率、投与方法、処置されている特定の障害、ならびに当業者に公知のその他の要因によって決まる。緩和させる状態の重症度を考慮に入れ、前記用量は、特定の障害または状態に対する治療反応または予防反応などの所望の反応に影響を及ぼすのに十分であるものとする。前記組成物は、1回投与されるか、または、分割し時間をかけて投与されてもよい。前記投与は、個々の必要性、および前記組成物を投与するまたは前記組成物の投与を監督する人の専門的な判断に従って調整され得ることが理解されるべきである。
【実施例
【0080】
IV.実施例
以下は、バランスのとれたカチオン性電解質のセットを同時に提供しながら、投与される対象においてケトジェニック状態を誘発および/または持続させるのに有用な、例示的なベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物の説明である。
【0081】
実施例1
23重量%のBHBナトリウム、23重量%のBHBカリウム、27重量%のBHBカルシウム、および27重量%のBHBマグネシウムを混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0082】
実施例2
18重量%のBHBナトリウム、18重量%のBHBカリウム、32重量%のBHBカルシウム、および32重量%のBHBマグネシウムを混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0083】
実施例3
15重量%のBHBナトリウム、20重量%のBHBカリウム、30重量%のBHBカルシウム、および35重量%のBHBマグネシウムを混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0084】
実施例4
15重量%のBHBナトリウム、15重量%のBHBカリウム、35重量%のBHBカルシウム、および35重量%のBHBマグネシウムを混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0085】
実施例5
30重量%のBHBナトリウム、30重量%のBHBカリウム、20重量%のBHBカルシウム、および20重量%のBHBマグネシウムを混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ビタミンDは、BHB混合塩-酸15gに対して1200IUの量(1日の平均摂取量を表す)で添加される。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0086】
実施例6
15重量%のBHBナトリウム、15重量%のBHBカリウム、18重量%のBHBカルシウム、18重量%のBHBマグネシウム、17重量%のBHB亜鉛、および17重量%のBHB鉄を混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0087】
実施例7
20重量%のBHBナトリウム、20重量%のBHBカリウム、20重量%のBHBカルシウム、20重量%のBHBマグネシウム、および20重量%のBHB亜鉛を混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0088】
実施例8
15重量%のBHBナトリウム、25重量%のBHBカリウム、20重量%のBHBカルシウム、25重量%のBHBマグネシウム、および15重量%のBHB鉄を混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0089】
実施例9
15重量%のBHBナトリウム、15重量%のBHBカリウム、20重量%のBHBカルシウム、および20重量%のBHBマグネシウム、20重量%のBHB亜鉛、および10重量%のBHB鉄を混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ビタミンDは、BHB混合塩10gに対して600IUの量(1日の平均摂取量を表す)で添加される。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーやショットなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0090】
実施例10
23重量%のBHBナトリウム、23重量%のBHBカリウム、27重量%のBHBカルシウム、および27重量%のBHBマグネシウムを混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、例えば、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、1つ以上のカプセルや錠剤の形態、またはマウススプレーなどの液体形態において、ケトジェニック組成物として容易に投与される。
【0091】
実施例11
25重量%のBHBナトリウム、25重量%のBHBカリウム、25重量%のBHBカルシウム、および25重量%のBHBマグネシウムを混合して、ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸を調製する。ベータ-ヒドロキシブチレート塩の少なくとも1つは、ある量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を含み、および/または追加量の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸がBHB混合塩に添加され、約1~3重量%の遊離ベータ-ヒドロキシ酪酸を提供する。BHB混合塩-酸は、ヒトが摂取しても安全な固化防止剤と4対1の比率で混合され、飲食物と混合した栄養補助食品として粉末の形態、または1つ以上のカプセルや錠剤の形態で、対象に容易に投与されるケトジェニック組成物を形成する。
【0092】
実施例12
上述のベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物のいずれかは、6~12個の炭素、好ましくは8~10個の炭素を有する中鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸のモノグリセリド、中鎖脂肪酸のジグリセリド、または中鎖脂肪酸のトリグリセリドから選択される少なくとも1つの中鎖脂肪酸源を含み、所定量のBHB混合塩-酸単体によって提供されるよりも長期間にわたってケトーシスが得られるケトジェニック組成物を提供する。BHB混合塩-酸組成物に対する中鎖脂肪酸源の比率は、4:1、3:1、2:1、1:1または1:2である。
【0093】
実施例13
前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物のいずれも、アルギニン、リジン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、オルニチン、シトルリン、L-グルタミン、またはクレアチンなどのアミノ酸の代謝産物から選択されるカチオン性アミノ酸の1つ以上のBHB塩を含む。BHB-アミノ酸塩は、前記組成物中のBHBアニオンに対する電解質の比率を減少させる。
【0094】
実施例14
前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物のいずれかは、6個未満の炭素を有する短鎖脂肪酸、前記短鎖脂肪酸のモノグリセリド、前記短鎖脂肪酸のジグリセリド、または前記短鎖脂肪酸のトリグリセリドから選択される少なくとも1つの短鎖脂肪酸源と組み合わされる。
【0095】
実施例15
前記ベータ-ヒドロキシブチレート混合塩-酸組成物のいずれかは、12個超の炭素を有する長鎖脂肪酸、前記長鎖脂肪酸のモノグリセリド、前記長鎖脂肪酸のジグリセリド、または前記長鎖脂肪酸のトリグリセリドから選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸源と組み合わされる。
【0096】
本発明は、その趣旨または本質的特徴から逸脱することなく他の具体的な形態により具体化され得る。記載された実施形態は、すべての態様において例示のみ行い、限定されないとみなされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の記載よりむしろ添付の特許請求の範囲により指し示される。特許請求の範囲の均等の意味および範囲に入るすべての改変は、それらの範囲内に包含されるべきである。
【国際調査報告】