(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-31
(54)【発明の名称】液体処理・吐出システムにおける、温度感受性の高い流体の制御された吐出のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B05C 11/10 20060101AFI20220324BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B05C11/10
B05C5/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547230
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2020053721
(87)【国際公開番号】W WO2020165322
(87)【国際公開日】2020-08-20
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518429296
【氏名又は名称】セリンク エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘクトル マルティネス
(72)【発明者】
【氏名】エリク ガテンホルム
(72)【発明者】
【氏名】アダム ミシャ
(72)【発明者】
【氏名】エリク シュテルノ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ラスケ
【テーマコード(参考)】
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
4F041AA01
4F041AB01
4F041BA02
4F041BA04
4F041BA05
4F041BA34
4F041BA48
4F042AA01
4F042BA06
4F042BA12
4F042BA19
4F042CB02
4F042CB03
4F042CB10
4F042CB11
4F042CB26
4F042DH09
(57)【要約】
本開示は、付加製造と組み合わせた液体処理・吐出システムの分野に関する。特に、本発明は、温度制御されたユニット、すなわち、液体および半液体材料を受け取り、保持し、放出するための吐出ヘッドおよびソースウェルホルダー、温度感受性の高い液体を塗布するための液体処理・吐出システム、装置および方法に関する。温度制御されたユニット(1)は、少なくとも1つのペルチェ素子(3)を含み、各ペルチェ素子は、対向する第1面および第2面(4a,4b)を有する。ユニット(1)は、少なくとも1つの冷却素子(5)をさらに含む。少なくとも1つのペルチェ素子(3)は、各それぞれの第1面(4a)がユニット(1)のリザーバブロック(2)に対向するように配置されている。少なくとも1つの冷却素子(5)は、ペルチェ素子(3)に熱的に接続されており、少なくとも1つのペルチェ素子(3)によって発生した熱を伝達し、伝達された熱を少なくとも1つのペルチェ素子(3)から散逸させるように配置されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体または半液体の材料を受け取り、保持し、放出するための温度制御されたユニット(1,1a,1b)であって、該ユニットは、
- 少なくとも1つのリザーバブロック(2)、少なくとも1つのペルチェ素子(3)、対向する第1面および第2面を有する各ペルチェ素子(4a,4b);および
- 少なくとも1つの冷却素子(5)
を含み、
ここで、前記少なくとも1つのペルチェ素子(2)は、各それぞれの第1面(4a)が、前記温度制御されたユニット(1,1a,1b)のリザーバブロック(2)に対向するように配置されており;
ここで、前記少なくとも1つの冷却素子(5)は、前記ペルチェ素子(3)に熱的に接続されており、前記少なくとも1つのペルチェ素子(3)によって発生した熱を伝達し、伝達された熱を前記少なくとも1つのペルチェ素子(3)から散逸させるように配置されており;かつ
任意選択的に、ここで、前記温度制御されたユニットおよび/または吐出内容物、例えば、液体、半液体、ハイドロゲルおよび/または試薬の温度を、±0.05度の範囲内、または±0.005度の範囲内、または±0.01度の範囲内、または±0.5度の範囲内、または±1.0度の範囲内、または±2.0度の範囲内、またはそれらの間の任意の範囲で、任意選択的に任意の時間、例えば、0秒超から1週間まで、または1秒間から1ヶ月間まで、または1分間から24時間まで、または10秒間から5日間まで維持することが可能である、温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項2】
前記冷却素子(5)が、ヒートシンクである請求項1記載の、温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項3】
- 少なくとも1つのファン(6)
をさらに含み、ここで、前記少なくとも1つのファン(6)が、前記少なくとも1つのペルチェ素子(3)から離れて、前記少なくとも1つのペルチェ素子(3)によって加熱されたガスを輸送するように配置されている、請求項1または2記載の温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項4】
前記少なくとも1つのファンが、第1および第2のファン(6a,6b)を含み、ここで、前記第1のファン(6a)は、前記ヒートシンクの下側に配置され、前記第2のファン(6b)は、前記ヒートシンクの上側に配置されており、ここで、前記第1のファンは、底面から前記少なくとも1つのヒートシンクに向かって空気を吸い込み、前記少なくとも1つのヒートシンクを通過させるように配置されており、前記第2のファンは、前記少なくとも1つのヒートシンクから空気を引き出すように配置されている、請求項3記載の温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項5】
前記冷却素子(5)が、液体冷却剤を含む少なくとも1つの液体冷却ユニットであり、前記液体冷却ユニットは、前記ペルチェ素子(3)に熱的に接続されるように配置されており、ここで、前記少なくとも1つの液体冷却ユニットは、さらに、前記液体冷却剤を循環させることによって、伝達された熱を前記少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させるように配置されている、請求項1記載の温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項6】
前記液体冷却剤が、水、脱イオン水、エチレングリコール溶液、およびベタインの少なくとも1つを含む、請求項5記載の温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項7】
前記温度制御されたユニット(1,1a,1b)が、流体温度を、0℃超~65℃、0℃超~37℃、例えば、-20℃~20℃、または-10℃~5℃、または0.5℃~6℃、好ましくは0℃~4℃の範囲に、少なくとも10秒間~少なくとも24時間以上、好ましくは少なくとも12時間まで、またはその間またはそれ以上の任意の時間、例えば任意の固定時間にわたり制御することが可能である、請求項1から6までのいずれか1項記載の温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項8】
- 前記液体または半液体の材料のための温度制御されたユニット(1,1a,1b)が、細胞外マトリックス由来の溶液、例えば、これらに限定されないが、(a)ゲル状タンパク質混合物、(b)溶液中の細胞外マトリックスタンパク質、および/または(c)基底膜マトリックスを受け取り、保持し、放出するように配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の温度制御されたユニット(1,1a,1b)。
【請求項9】
前記温度制御されたユニットが、吐出ヘッド(1a)である、請求項1から8までのいずれか1項記載の温度制御されたユニット(1)。
【請求項10】
前記吐出ヘッドが、吐出される流体を高い精度および正確さで少容量吐出するために、(a)温度(0℃超~65℃、0℃超~10℃、例えば、-20℃~20℃、または-10℃~5℃、または0.5℃~6℃、または0℃~37℃、好ましくは0℃~4℃、またはこれらの間の終点を含めた任意の範囲)、(b)容量(10nL~10mL、好ましくは1μL~100μL)および(c)流量(0.1μL/s~40μL/s、好ましくは1μL/s~20μL/s)を制御するように配置されている、容積式吐出ヘッドである、請求項9記載の温度制御されたユニット(1a)。
【請求項11】
前記吐出ヘッドが、吐出される流体の(a)温度(0℃超~65℃、0℃超~10℃、例えば、-20℃~20℃、または-10℃~5℃、または0.5℃~6℃、または0℃~37℃、好ましくは0℃~4℃、またはこれらの間の終点を含めた任意の範囲)、および容量(2nL~10mL、好ましくは10nL~100μL)を制御するように配置されている、インクジェット駆動の吐出ヘッドである、請求項9記載の温度制御されたユニット(1a)。
【請求項12】
前記温度制御されたユニットが、温度感受性の高い液体を受け取るために配置された少なくとも1つのソースウェル(7)を保持し、そこから前記液体が吐出されるように配置されたソースウェルホルダー(1b)であり、前記ソースウェル(7)は、上端で開いており、ここで前記上端に対向するそれぞれのベースがオリフィスを有し、前記オリフィスは、それぞれのオリフィス内の毛管圧が、それぞれのソースウェル内の液体によって生成され得る圧力よりも大きくなるように構成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の温度制御されたユニット。
【請求項13】
前記ソースウェルホルダー(1b)が、吐出される流体を高い精度および正確さで少容量吐出するために、(a)温度(0℃超~65℃、0℃超~10℃、例えば、-20℃~20℃、または-10℃~5℃、または0.5℃~6℃、または0℃~37℃、好ましくは0℃~4℃)またはこれらの間の終点を含めた任意の範囲および(b)容量(2nL~10mL、5nL~5mL、10nL~3mL、好ましくは10nL~0.5mL)を制御することが可能である、請求項12記載の温度制御されたユニット。
【請求項14】
前記ソースウェルホルダー(1b)が、吐出される流体の(a)温度(0℃超~65℃、0℃超~10℃、例えば、-20℃~20℃、または-10℃~5℃、または0.5℃~6℃、または0℃~37℃、好ましくは0℃~4℃、またはこれらの間の終点を含めた任意の範囲)および容量(2nL~10mL、好ましくは10nL~100μL)を制御することが可能な少なくとも1つの非接触型、圧力駆動型、即時落下オンデマンド技術を含む、請求項12または13記載の温度制御されたユニット。
【請求項15】
温度制御されたユニットの温度を調節するための液体処理・吐出システム(9)であって、自動液体処理・吐出システムが、
- 請求項1から14までのいずれか1項記載の液体または半液体の材料を受け入れ、保持し、放出するために配置された温度制御されたユニット(1,1a,1b);
- 吐出チャンバ(8)
を含み、
ここで、前記温度制御されたユニット(1,1a,1b)が、前記吐出チャンバ内に配置されている、液体処理・吐出システム(9)。
【請求項16】
- 前記吐出チャンバ(8)が、無菌環境下での操作のために標準的な層流フードベンチ内に配置できるほど小型であり;
- 前記液体処理・吐出システム(9)のサイズが、1m
3未満、0.125m
3(0.5×0.5×0.5m)未満、好ましくは0.043m
3(0.35×0.35×0.35m)未満である、請求項15記載の液体処理・吐出システム(9)。
【請求項17】
液体または半液体の材料を受け入れ、保持し、放出するために配置された温度制御されたユニットの温度を調節する方法において、前記方法は、
- 液体または半液体の材料を受け入れ、保持し、放出するために配置された1つ以上の温度制御されたユニット(1,1a,1b)を供給する工程であって、前記1つ以上の温度制御されたユニット(1,1a,1b)は、
- 少なくとも1つのペルチェ素子(3)、対向する第1面および第2面を有する1つ以上の各ペルチェ素子;および
- 少なくとも1つの冷却素子(5)
を含み、
ここで、前記少なくとも1つのペルチェ素子は、1つ以上または各それぞれの第1面がリザーバブロック(2)に対向するように配置されており、
ここで、前記少なくとも1つの冷却素子(5)は、1つ以上のペルチェ素子(3)に熱的に接続されており、前記少なくとも1つのペルチェ素子によって発生した熱を伝達し、伝達された熱を前記少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させるように配置されている、工程、
前記ペルチェ素子の少なくとも1つに、第1の極性を有する第1の電圧を印加する工程であって、前記第1の電圧は、前記少なくとも1つのペルチェ素子の少なくとも1つの第1面で温度を低下させるように配置されている、工程
を含む、方法。
【請求項18】
前記ペルチェ素子の少なくとも1つに、第2の極性を有する第2の電圧を印加する工程であって、前記第2の電圧は、前記少なくとも1つのペルチェ素子の少なくとも1つの第1面で温度を上昇させるように配置されている、工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムであって、実行される場合、請求項1から13までのいずれか1項記載の温度制御されたユニット(1,1a,1b)に、任意選択的に目標温度とリザーバブロック内の測定温度とを温度センサにより比較することによって、請求項16から17までのいずれか1項記載の方法を実行させる、コンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム。
【請求項20】
温度感受性の高い液体を1つ以上のターゲットプレート(7)上に塗布するための装置であって、
請求項12から14までのいずれか1項記載の温度制御されたソースウェルホルダー(1b);
前記ソースウェルホルダーの上方に配置されており、かつガス圧パルスを受けるためにソースウェルの少なくとも1つまたはすべてではないいくつかのそれぞれの上端と流体連通している、ガス圧パルスを生成するための機構;
前記温度制御されたソースウェルホルダーの下方に配置可能な少なくとも1つのターゲットプレートのためのホルダー;
ガス圧パルスを生成する少なくとも1つの素子に対して前記ソースウェルホルダーを移動または回転させるための、かつ/またはその逆を行うための少なくとも1つの移動機構;および
前記少なくとも1つのソースウェルホルダーに対して前記ターゲットプレートホルダーを移動させるための、かつ/またはその逆を行うための少なくとも1つの移動機構
を含む、装置。
【請求項21】
前記ターゲットプレートが、スライドガラス、バイオチップ、マイクロタイタープレート、および/またはマイクロアレイのうちの少なくとも1つである、請求項20記載の装置。
【請求項22】
前記ソースウェル用のホルダーのうちの少なくとも2つ、および少なくとも1つのターゲットプレート用のホルダーが、移動機構によって、水平方向および垂直方向のうちの少なくとも一方に、前記ガス圧パルスを生成するための機構に対して、互いに独立して変位可能である、請求項20または21記載の装置。
【請求項23】
前記ガス圧パルスを生成するための機構が、前記ガス圧パルスを生成するための機構によって、前記ソースウェルの少なくとも1つ、いくつかまたはすべてに、同時にまたは順次または任意の順序でガス圧パルスが供給されるように、移動機構によって垂直方向に変位可能である、請求項20から22までのいずれか1項記載の装置。
【請求項24】
前記ガス圧パルスを生成するための機構が、少なくとも1つのプランジャーおよび/またはピストンを含む、請求項20から23までのいずれか1項記載の装置。
【請求項25】
前記プランジャーが、前記ソースウェルに接触する接触面を含み、前記接触面が、シールリングおよび/またはシールディスクの形態のシールを含む、請求項24記載の装置。
【請求項26】
前記プランジャーが、空気圧で駆動されるプランジャーである、請求項24記載の装置。
【請求項27】
前記ターゲットプレートホルダーが、前記ターゲットプレートの温度を、20℃~100℃、20℃~60℃、例えば20℃~80℃、または20℃~50℃、好ましくは20℃~37℃の範囲で、少なくとも10秒~少なくとも24時間以上、好ましくは少なくとも12時間まで、またはその間もしくはそれ以上の任意の時間、例えば任意の一定時間、制御することが可能である、請求項20から26までのいずれか1項記載の装置。
【請求項28】
ターゲットプレート上に液体を塗布するための方法において、
圧力パルスを生成するための機構であって、温度制御されたソースウェルホルダーが、液体を受け取るための1つ以上のソースウェルを含み、そこから前記液体が吐出され、前記ソースウェルホルダーは、上端で開いている複数のソースウェルを含み、前記上端に対向するそれぞれのベースが、オリフィスを有し、前記オリフィスは、前記それぞれのオリフィス内の毛管圧が、前記それぞれのソースウェル内の前記液体によって生成され得る圧力よりも大きくなるように構成されている機構;前記ソースウェルホルダーの上方に配置されており、かつガス圧パルスを受けるために前記ソースウェルの少なくとも1つまたはすべてではないいくつかの前記それぞれの上端と流体連通している、前記ガス圧パルスを生成するための機構;少なくとも1つのターゲットプレート用ホルダーは、温度制御されたソースウェルホルダーの下方に配置されている;ガス圧パルスを生成する少なくとも1つの素子に対して前記ソースウェルホルダーを移動または回転させるための少なくとも1つの移動機構;および前記少なくとも1つのソースウェルホルダーに対して前記ターゲットプレートホルダーを移動させるための少なくとも1つの移動機構によって、少なくとも1つのソースウェルに圧力パルスを同時に供給する工程を含む、方法。
【請求項29】
前記圧力パルス、前記圧力パルスの長さ、および前記圧力パルスの数のうちの少なくとも1つを用いて、前記ターゲットプレート上に塗布される液体の容量を制御することをさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記圧力パルスを、速効性のバルブまたはピエゾアクチュエーターの機械的な動きによって生成することをさらに含む、請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
前記圧力パルスを、空気またはピストンの動きによって生成することをさらに含む、請求項28または29記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、付加製造と組み合わせた液体処理・吐出システムの分野に関する。特に、本発明は、温度制御されたユニット、すなわち、液体および半液体材料を受け取り、保持し、放出するための吐出ヘッドおよびソースウェルホルダー、温度感受性の高い液体を塗布するための液体処理・吐出システム、装置および方法に関する。
【0002】
背景技術
液体処理・吐出システムは、制御された量の流体を吐出し、それを所望の領域に塗布する役割を持つ装置、機械または機器である。制御された方法で特定のポイントに流体を正確に吐出できることは、精密な液体処理・吐出システムの主な特徴である。
【0003】
精密な液体処理・吐出システムは、空気圧または容積式のいずれかを使用して、制御された方法で流体を吐出することができる。空気式流体吐出システムは、空気圧縮機または類似の装置によって出力される空気圧を利用し、ピストンまたはピストン様の構成要素を押して、次にバレル内の流体をノズルから押し出す。これに反して、容積式液体吐出システムは、圧縮空気を使用しない。それらは、通常、電動ステッピングモーターによって発生し得る機械的な力によってバレル内のピストンを押す。それらは、例えば、一般に時間とともに粘度が変化する流体、および吐出される流体の流量および容量の正確な制御のために理想的である。
【0004】
精密な液体処理・吐出システムは、手動または自動で操作され得る。それらは、少量生産および大量生産の用途で使用され得る。
【0005】
精密な液体処理・吐出システムは、正確で、均一で、プロセス制御された、高いスループットの反復可能な堆積が要求される様々な用途(例えば、電子産業、自動車産業、ライフサイエンス産業)で使用されている。
【0006】
精密な液体処理・吐出システムは、ライフサイエンス分野では、1)低容量(pL~nLレンジ)および中容量(マイクロリットルレンジ)の細胞培養試薬の液体処理/吐出、2)化合物の投与、3)コンビナトリアル吐出、4)滴定、および5)PCR分析のためのRNAサンプルの吐出などの用途で使用されている。
【0007】
ライフサイエンス産業内での精密な流体吐出システムに使用される流体の例としては、細胞培養培地、成長因子、細胞培養成分、動物由来のサプリメント、非動物由来のサプリメントおよび3D細胞培養用のハイドロゲルなどの細胞培養試薬が挙げられる。
【0008】
加熱式ツールヘッドまたはプリントヘッドは、加熱式吐出ヘッドとも呼ばれ、3Dプリンティングとも呼ばれる付加製造、ならびに精密な液体処理・吐出システムによく使用されている。なぜなら、加熱機能により、材料の温度を、その融点またはゲル化点より高く上げるか、その温度に近づけることで、材料をニードル、ノズル、またはオリフィスを通って流し、ノズルを詰まらせることなく液滴および/またはフィラメントを形成させることにより、材料の印刷/吐出が可能になるからである。さらに、非加熱式吐出ヘッドは、液体処理・吐出システムならびに3Dバイオプリンターに使用され、アルギン酸、セルロース、キサンタンガム、ジェランガムなどの多糖類ハイドロゲルを、典型的には1w/w%未満の濃度で吐出し、さらには成長因子やサプリメントの有り無し両方の細胞培養液などの非粘性の細胞培養試薬を吐出する。上記の液体およびハイドロゲルは、流体/材料/ハイドロゲルの吐出精度および正確さに影響を及ぼし得る材料の分解、重合および/または架橋を流体が受けることはなく、室温(20℃~27℃)で短時間(数分以内)および長時間(数時間)処理され、吐出され得る。
【0009】
2Dおよび3Dの細胞培養に使用される多くの一般的なハイドロゲルは、吐出チップ内でタンパク質の重合を誘発して吐出精度および正確さに影響を与えることなく、短時間(数分以内)および長時間(数時間)にわたってそれらを処理(例えば、液体Matrigel(登録商標)をプラスチック製の組織培養プレートにピペッティング)できるようにするために、4℃未満の低温を必要とするので、吐出ヘッド/液体リザーバの温度を長時間(数時間)にわたって安定かつ正確に保つ能力は最も重要である。さらに、基底膜マトリックス/ハイドロゲルなどを長時間にわたって高い精度および正確さで吐出するのに最も適した温度と温度範囲を、無菌環境(例えば、通常サイズの層流フードベンチ内での作業)を維持しながら正確に制御することは、未だ対処すべき追加の課題を提供する。したがって、当該技術分野では、上記の課題を満たす精密な液体処理・吐出システムまたは3Dバイオプリンターと組み合わせた吐出ヘッドおよび液体リザーバが必要とされている。
【0010】
発明の概要
本発明は、複数のタイプの吐出システム、液体処理システム、バイオプリンティングシステムなどに使用され得る。このような吐出システムは、流体の吐出プロセスを制御するために広範な駆動機構、すなわち、空圧駆動、機械駆動(すなわち、シリンジポンプのような容積式システム)、インクジェット駆動(例えば、マイクロバルブ)、および圧力ベースの駆動(即時落下オンデマンド技術(Immediate Drop on Demand Technology)(I-DOT))を利用することができる。(例示的なI-DOTシステムは、米国特許第8,759,113号明細書に記載されている。I-DOTは、非接触型の圧力ベースの吐出技術を利用している。各ウェルの底面に穴が開いた少なくとも1つのソースウェルの上に、明確な圧力パルスを印加することで、液滴が形成され、高精度で正確なナノリットルの液滴が、任意のターゲットウェル/プレートに放出される。1秒間に400回までのパルスを印加することで、より大きな容量が実現される。ソースウェルに圧力パルスが印加されていない場合、毛細管現象によりサンプル液がキャビティ内に保持されるため、液滴は生成されない)。この吐出システムは、制御された方法(例えば、正確な容量、流量、圧力)で吐出される必要がある低粘度(水様)、中粘度(ケチャップ様)、高粘度(ピーナッツバター様)の流体を吐出するために使用され得る。より正確には、この吐出システムは、細胞外マトリックス由来の溶液、例えば、ゼラチン状タンパク質混合物、溶液中の細胞外マトリックスタンパク質(酸性、中性または塩基性のpH)、および基底膜マトリックス、例えば、Matrigel(登録商標)、Geltrex(登録商標)およびCultrex(登録商標)基底膜抽出物を吐出するために利用することができ、これらの材料はすべて、吐出および/またはバイオプリンティング用途のために低温(0℃~10℃)を必要とする温度感受性の高い材料である。
【0011】
本発明は、液体処理・吐出システムにおいて、温度感受性の高い流体を正確に吐出するために使用され、これらの流体の高度に制御された吐出を提供するようにする。上述したように、本発明は、多数の産業用途のための多種多様な液体処理・吐出システムに適用することができ、主にライフサイエンス分野で適用することができる。液体処理・吐出システムにおいて、基底膜マトリックスなどの温度感受性の高い溶液/材料/ハイドロゲルを正確に吐出するという本発明によって提供される能力は、他にもいくつかの点で有益であり得る。例えば、機械駆動(シリンジポンプ)機構または即時落下オンデマンド技術(I-DOT)を利用して流体の吐出プロセスを制御する場合は、吐出された流体の容量または吐出中に液体リザーバ/カートリッジ/シリンジにどれだけの容量が残っているかがリアルタイムでわかる。機械駆動機構を用いる場合、これは、使用者がどれだけの容量をシリンジに装填したかを入力し、プランジャーが移動した直線距離の合計をマイクロコントローラで記録して吐出された容量を計算し(シリンジの面積は既知であり、高さはマイクロコントローラによって記録される)、どれだけの流体がシリンジに残っているかを推定し、これを吐出システムのグラフィカルユーザーインターフェースを通じて使用者に伝えることによって行われる。I-DOT機構を用いる場合、これは、使用者がどれだけの容量を各リザーバ/ソースウェルに装填したかを入力し、液滴の総数およびその容量を液滴検出技術で記録して吐出された容量および各リザーバ/ソースウェルに残っている容量を計算し、これを、グラフィカルユーザーインターフェースを通じて使用者に伝えることによって行われる。
【0012】
本発明の実施形態は、吐出チャンバ内に配置された液体または半液体の材料を受け入れ、保持し、放出するための温度制御されたユニットの温度(0℃超~65℃、0℃超~10℃、好ましくは0℃~4℃、または0℃未満もしくは0℃~65℃以上の任意の範囲)、容量(2nL~10mL、5nL~5mL、10nL~3mL、10nL~0.5mL、または1μL~100μL)および流量(吐出された容量に応じて0.1μL/s~40μL/s、好ましくは1μL/s~20μL/s)を制御するためのシステムおよび方法を提供する。
【0013】
本開示は、液体または半液体の材料を受け取り、保持し、放出するためのユニットの温度の調節に関する。温度制御されたユニットは、少なくとも1つのペルチェ素子を含む。各ペルチェ素子は、対向する第1面および第2面を有する。プリントヘッドは、少なくとも1つの冷却素子をさらに含む。少なくとも1つのペルチェ素子は、各それぞれの第1面がプリントヘッドの印刷面に対向するように配置されている。少なくとも1つの冷却素子は、ペルチェ素子に熱的に接続されており、少なくとも1つのペルチェ素子によって生成された熱を伝達し、伝達された熱を少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させるように配置されている。開示されたユニットは、所望の温度について温度を上下に調節する両方の手段を提供する。必要な場合に温度を上げるように配置されただけであり、したがって、その(加熱プリントヘッド)が細胞外マトリックス由来の溶液を吐出することができない従来の加熱プリントヘッドと比べて、改善された温度調節が、加熱から冷却に切り替える能力によって可能になる。
【0014】
いくつかの態様によれば、冷却素子は、ヒートシンクである。そのような場合、温度制御されたユニットは、少なくとも1つのファンをさらに含み得る。少なくとも1つのファンは、ペルチェ素子に熱的に接続されている少なくとも1つのヒートシンクから熱を輸送し、伝達された熱を少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させるように配置されている。ある構成では、少なくとも1つのファン(隣り合ったファンまたは積み重ねられたファン)は、前部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクに向かって空気を吸い込み、少なくとも1つのヒートシンクを通過し、最終的に少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。別の構成では、少なくとも1つのファンは、前部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクから空気を吸い出し、少なくとも1つのヒートシンクを通過し、最終的に少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。このファンは、熱い空気を、ヒートシンクから離れた場所に効率よく輸送することを可能にし、それによって温度制御されたユニットの近傍に不要な熱が蓄積するのを防ぐ。
【0015】
いくつかのさらなる態様によれば、少なくとも1つのファンは、上部および下部のファンを含み、ここで、第1のファンは、ヒートシンクの下側に配置され、第2のファンは、ヒートシンクの上側に配置され得る。上部ファンおよび下部ファンは、互いに対向しており、好ましくはファン軸に沿って整列するように配置されている。下部ファンは、底面から少なくとも1つのヒートシンクに向かって空気を吸い込み、少なくとも1つのヒートシンクを通過し、最終的に上部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。このファンの構成も、熱い空気を、ヒートシンクから離れた場所に効率よく輸送することを可能にし、それによって温度制御されたユニットの近傍に不要な熱が蓄積するのを防ぐ。
【0016】
代替的な実施形態では、温度制御されたユニットの冷却要素は、少なくとも1つの液体冷却ユニットである。少なくとも1つの液体冷却ユニット(例えば、ラジエータ)は、ペルチェ素子に熱的に接続されるように配置されており、これらに限定されないが、水、脱イオン水、エチレングリコール溶液、ベタインなどの液体冷却剤を、液体冷却システムの内部で循環させることにより、伝達された熱を少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させている。この構成は、ファンやヒートシンクを使用してペルチェ素子から熱を奪うよりも効率的である。しかしながら、これは、ヒーター交換部から液体循環システムに至るまでのパイプまたはチューブのためにはるかにかさばり、液体冷却剤の頻繁な補充または交換などのより多くのメンテナンスが必要になる可能性がある。
【0017】
温度制御されたユニットは、一実施形態では、吐出ヘッドであり得る。
【0018】
吐出ヘッドは、吐出される流体を高い精度および正確さで少容量吐出するために、(a)温度、(b)容量、および(c)流量を制御するように配置された容積式吐出ヘッドであり得る。
【0019】
吐出ヘッドは、インクジェット駆動の吐出ヘッドであり得る。
【0020】
温度制御されたユニットは、別の実施形態では、少なくとも1つのソースウェルが温度感受性の高い液体を受け入れ、そこから液体を吐出するように配置されたソースウェルホルダー(流体リザーバホルダー)であり得る。ソースウェルホルダーは、上端で開いている複数のソースウェルを保持してもよく、ここで、上端に対向するそれぞれのベースはオリフィスを有し、該オリフィスは、それぞれのオリフィス内の毛管圧が、それぞれのソースウェル内の液体によって生じ得る圧力よりも高くなるように構成されている。複数のソースウェルは、1つ以上のマイクロタイタープレートのウェルであり得る。
【0021】
ソースウェルホルダーは、少なくとも1つの非接触型、圧力駆動型、即時落下オンデマンド技術(I-DOT)を含み得る。
【0022】
本開示はまた、環境制御(例えば、温度、湿度、HEPA濾過システム)の有無にかかわらず、吐出チャンバを含む液体処理・吐出システムであって、上記および下記の少なくとも1つの温度制御されたユニット(吐出ヘッドまたはソースウェルホルダー)も含む、液体処理・吐出システムに関する。少なくとも1つの温度制御されたユニットは、吐出チャンバ内に配置されている。この液体処理・吐出システムは、開示された温度制御されたユニットの技術的効果および利点をすべて有する。
【0023】
いくつかの態様によれば、吐出チャンバは、操作のために標準的な層流フードベンチ内に配置できるほど小型である。液体処理・吐出システムのサイズは、1m3未満、好ましくは0.125m3(0.5×0.5×0.5m)未満である。これにより、液体処理・吐出システムは、無菌環境下での生細胞の有無にかかわらず、有機材料の印刷に特に適している。
【0024】
本開示はまた、液体または半液体の材料を受け入れ、保持し、放出するために配置された温度制御されたユニットの温度を調節する方法に関する。温度制御されたユニットは、本開示による温度制御されたユニットである。この方法は、少なくとも1つのペルチェ素子の少なくとも1つに、第1の極性を有する第1の電圧を印加することを含む。第1の電圧は、少なくとも1つのペルチェ素子の少なくとも1つの第1面で温度を低下させるように配置されている。
【0025】
いくつかの態様によれば、本方法は、少なくとも1つのペルチェ素子の少なくとも1つに、第1の極性とは反対の第2の極性を有する第2の電圧を印加することをさらに含む。第2の電圧は、少なくとも1つのペルチェ素子の少なくとも1つの第1面における温度を上昇させるように配置されている。
【0026】
いくつかの態様によれば、本方法は、第1面における温度を所望の温度と比較すること、およびその比較に基づいて極性を有する電圧を印加することによって温度を調節することをさらに含む。
【0027】
温度を上下に調節することで、ユニット温度のより大きな制御および適応性が可能になる。例えば、オーバーシュートの恐れなく、より迅速に所望の温度に到達することができる。さらに、所望の温度からの逸脱を上下両方向に調節することができ、温度制御されたユニット内の流体材料のより良い精度およびより安定した温度を実現することができる。
【0028】
本開示はまた、温度感受性の高い液体を1つ以上のターゲットプレート上に塗布するための装置であって、上記の温度制御されたソースウェルホルダー;該ソースウェルホルダーの上方に配置されており、かつガス圧パルスを受けるためにソースウェルの少なくとも1つまたはすべてではないいくつかのそれぞれの上端と流体連通している、ガス圧パルスを生成するための機構;温度制御されたソースウェルホルダーの下方に配置可能な少なくとも1つのターゲットプレートのためのホルダー;ガス圧パルスを生成する少なくとも1つの素子に対してソースウェルホルダーを移動または回転させるための、かつ/またはその逆を行うための少なくとも1つの移動機構;および少なくとも1つのソースウェルホルダーに対してターゲットプレートホルダーを移動させるための、かつ/またはその逆を行うための少なくとも1つの移動機構を含む、装置に関する。
【0029】
本開示はまた、ターゲットプレート上に液体を塗布するための方法において、圧力パルスを生成するための機構であって、温度制御されたソースウェルホルダーが、液体を受け取るための1つ以上のソースウェルを含み、そこから液体が吐出され、該ソースウェルホルダーが、上端で開いている複数のソースウェルを含み、上端に対向するそれぞれのベースが、オリフィスを有し、該オリフィスは、それぞれのオリフィス内の毛管圧が、それぞれのソースウェル内の液体によって生成され得る圧力よりも大きくなるように構成されている、機構;ソースウェルホルダーの上方に配置されており、かつガス圧パルスを受けるためにソースウェルの少なくとも1つまたはすべてではないいくつかの上端と流体連通している、ガス圧パルスを生成するための機構;少なくとも1つのターゲットプレート用ホルダーは、温度制御されたソースウェルホルダーの下方に配置されている;ガス圧パルスを生成する少なくとも1つの素子に対してソースウェルホルダーを移動または回転させるための少なくとも1つの移動機構;および少なくとも1つのソースウェルホルダーに対してターゲットプレートホルダーを移動させるための少なくとも1つの移動機構によって、少なくとも1つのソースウェルに圧力パルスを同時に供給することを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】液体または半液体を受け取り、保持し、放出するための開示された温度制御されたユニットの概略図である。
【
図2】ヒートシンクである冷却素子の下側に配置された第1のファンと、ヒートシンクの上側に配置された第2のファンを示す、開示された温度制御された吐出ヘッドの概略図である。下部ファンは、本発明の実施形態によれば、底面から少なくとも1つのヒートシンクに向かって空気を吸い込み、少なくとも1つのヒートシンクを通り、最終的に上部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。
【
図3】ヒートシンクである冷却素子の下側に配置された第1のファンと、ヒートシンクの上側に配置された第2のファンとを示す、開示された温度制御されたソースウェルホルダーの概略図である。下部ファンは、本発明の実施形態によれば、底面から少なくとも1つのヒートシンクに向かって空気を吸い込み、少なくとも1つのヒートシンクを通り、最終的に上部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。
【
図4】本開示による温度制御されたユニットを含む、開示された液体処理・吐出システムの概略図である。
【
図5】本開示による、温度制御されたソースウェルホルダー、少なくとも1つのソースウェル、ターゲットプレート、および加熱されたターゲットプレートホルダーを含む、1つ以上のターゲットプレート上に温度感受性の高い液体を塗布するための開示された装置の3Dワイヤフレーム図面である。
【
図6】本開示による、温度制御されたソースウェルホルダーおよび少なくとも1つのソースウェルを備えた開示された装置の3Dレンダリングである。
【
図7】0℃の設定温度での13時間の連続運転における、容積式吐出ヘッドである温度制御された吐出ヘッドの温度安定性を示すグラフである。3mLの様々な濃度のMatrigel(登録商標)溶液(5%、7%、9%、15%および18%の固形分)を、3mLのシリンジに入れて、複数回の実験を行い、デジタル温度計を利用してシリンジの中心部の液体の温度を記録した。9%のMatrigel(登録商標)溶液について示された温度測定値。
【
図8】Matrigel(登録商標)溶液(9%の固形分)の液滴を異なる目標容量(5μL、10μLおよび50μL)で吐出した場合の容積式ヘッドである温度制御された吐出ヘッドの吐出精度および正確さを示すグラフである。1回の実験につき24サンプル。
【
図9】温度制御された容積式吐出ヘッドを含む液体処理・吐出システムによって吐出されたMatrigel(登録商標)溶液(9%の固形分)の液滴の例を示す画像である。96個のウェルプレートに10μLの液滴を吐出した(左)。50μLの液滴を24個のウェルプレートに分注した(右)。
【
図10】0℃の設定温度での12時間の連続動作における、温度制御されたソースウェルホルダーの温度安定性を示すグラフである。0.5mLの様々な濃度のMatrigel(登録商標)溶液(5%、7%、9%、15%および18%の固形分)を、0.5mLのソースウェルに入れて、複数回の実験を行い、デジタル温度計を利用してソースウェルの中心部の液体の温度を記録した。温度測定値は、9%のMatrigel(登録商標)溶液の場合を示している。
【0031】
本発明の様々な実施形態の詳細な説明
ここで本発明の様々な例示的な実施形態について詳細に言及されることになる。以下の例示的な実施形態の議論は、本発明の限定を意図したものではないことを理解されたい。むしろ、以下の議論は、本発明の特定の態様および特徴のより詳細な理解を読者に与えるために提供されている。
【0032】
定義
以下の定義は、本明細書で示される特定の用語の理解を容易にするために提供されている。本明細書で定義されていない他の用語については、当業者が認識する通常の意味を適用すべきである。
【0033】
液体処理・吐出システム:液体処理・吐出システムは、流体媒体などの吐出内容物を吐出、混合および吐出、または混合、計量、および吐出するすべてのタイプの装置、システムおよび機器を含む。さらに、これには処理および/または制御素子によって制御される制御された反復的な方法で、媒体を正確に吐出する精密なシステムも含まれる。このような液体処理・吐出システムや材料を使用する用途の範囲は広く、様々である。液体処理・吐出システムは、本明細書においてバイオディスペンシングシステムを説明するためにも使用される。
【0034】
処理素子:処理素子(または本明細書で互換的に使用されている「プロセッサ」)は、コンピュータまたは電子システム内の電子回路または集積回路であり、命令によって指定された基本的な算術、論理、制御、および入力/出力(I/O)動作を実行することによって、コンピュータプログラムの命令を遂行する。マイクロプロセッサとは、それらが1つの集積回路(IC)チップに含まれていることを意味する。CPUを含むICには、メモリ、周辺のインターフェース、および他のコンピュータの構成要素も含まれていることがあり;このような集積化デバイスは、マイクロコントローラまたはシステムオンチップ(SoC)と様々に呼ばれている。いくつかのシステムは、マルチコアプロセッサを利用しており、これは「コア」と呼ばれる2つ以上の処理ユニットを含む1つのチップである。
【0035】
制御素子:制御素子は、システムの機能を制御するために、アナログ回路および/またはデジタルユニットを含み得る。デジタルコントローラの例は、マイクロコントローラチップである。マイクロコントローラは、メモリおよびプログラム可能な入力/出力周辺機器とともに1つ以上のCPU(プロセッサコア)を含む。マイクロコントローラは、自動車のエンジン制御システム、植込み型医療機器、リモコン、事務機、家電製品、電動工具、玩具などの自動制御製品および機器ならびに他の組み込みシステムに使用されている。制御素子の他の例としては、比例・積分・微分(PID)コントローラ、システムオンチップ、コンピュータ、プロセッサユニット、中央処理ユニットおよび組み込みコントローラユニットが挙げられる。
【0036】
空気式液体処理・吐出システム:空気式液体処理・吐出システムは、ポンプまたは同様の装置によって出力される空気圧を使用し、ピストンまたはピストン様の構成要素を押し、次にバレル/リザーバ/カートリッジ/ソースウェル内の液体をノズル/オリフィスから押し出すシステムである。
【0037】
容積式吐出システム(Positive Displacement Dispensing System):容積式吐出システムは、電気ステッパー・モーターによって発生させることができる機械的な力によって、バレル/リザーバ/シリンジ内のピストンを押し出すシステムである。それらは、例えば、2液性のエポキシや、一般的に経時的に粘度が変化する液体に最適である。
【0038】
精密液体処理・吐出システム:精密液体処理・吐出システムは、制御された方法で特定の点に液体を正確に吐出することができるシステムである。
【0039】
ソースウェル:ソースウェルは、各ウェルの底面に穴が開いた流体リザーバである。このユニットは、高精度で正確なナノリットルの液滴を形成し、制御された正確な方法で3D多層構造を作るために、ソースウェルの上に明確な圧力パルスを印加した場合にのみ、液体および/または半液体材料を保持しかつ放出し、かつ/または吐出し、かつ/またはターゲットプレート上に堆積させることができる。より大きな容量は、1秒間に400パルスまで印加することで達成される。圧力パルスがソースウェルに印加されていない場合、毛管力により試料の液体がキャビティ内に保持されるので、液滴は生成されない。ソースウェルは、ポリマー(例えば、ポリプロピレン)、金属(例えば、アルミニウム、銅)、および/またはガラスから作ることができる。
【0040】
ソースウェルホルダー:ソースウェルホルダーは、少なくとも1つのソースウェルのための機械的なホルダーである。複数のソースウェルは、例えば、タイタープレートのウェルであってもよい。これは、ソースウェル内の液体の冷却および/または加熱が必要とされる場合、ソースウェルに密着して、熱伝達を容易にする。ソースウェルホルダーは、冷却および/または加熱のための温度制御されたユニットと一体化することができる。
【0041】
3Dプリンター:3Dプリンターは、3次元の物体を作成することができるコンピュータ支援製造(CAM)装置である。3Dプリンターは、付加製造と呼ばれるプロセスを用いて、モデルが完成するまで交互積層させて3D物体を作成する。3D印刷に使用される技術の例としては、ステレオリソグラフィ(SLA)および溶融堆積モデリング(FDM)が挙げられる。
【0042】
3Dバイオプリンター:3Dバイオプリンターは、3D印刷および3D印刷様の技術を利用して、細胞、成長因子、および生体材料を組み合わせて、自然の組織特性を模倣した組織様または組織類似構造を作製する。一般的に、3Dバイオプリンティングは、交互積層法(layer-by-layer method)を利用して、バイオインクまたはハイドロゲルとして知られる材料などの吐出内容物を堆積/吐出して、後にライフサイエンスや組織工学の分野で使用される組織様構造体を作製する。バイオプリンティングは、広範囲の生体材料またはバイオインクを対象としている。
【0043】
吐出ヘッド:吐出ヘッドは、液滴、フィラメントおよび/または3D多層構造を制御された正確な方法で作成するために、プリントベッド上に材料を放出しかつ/または吐出しかつ/または堆積させかつ/または印刷することができるユニットである。
【0044】
バイオインク:バイオインクは、主に流体材料またはハイドロゲルであり、プリントヘッドによって吐出され、プリントベッド上に堆積され、交互積層3D構造を構築することができる。これらは、細胞の成長に適切な環境を提供し、後にライフサイエンスや組織工学の分野で使用される組織様構造体を作製するために使用することができる。バイオインクの例として、2~3例を挙げると以下のものが挙げられる:細胞外マトリックス由来の溶液(例えば、ゼラチン状タンパク質混合物、細胞外マトリックスタンパク質の溶液、および基底膜マトリックス)、多糖類ハイドロゲル(例えば、アルギン酸、セルロース、キサンタンガム、ジェランガム)、ゼラチン、およびアガロース。
【0045】
ECMハイドロゲル:ECMハイドロゲルは、細胞外マトリックス由来の溶液、例えば、ゼラチン状タンパク質混合物、細胞外マトリックスタンパク質の溶液(酸性、中性または塩基性のpH)、および基底膜マトリックス、例えば、Matrigel(登録商標)、Geltrex(登録商標)およびCultrex(登録商標)基底膜抽出物であり、これらはすべて温度感受性の高い材料であり、吐出には低温(0℃~10℃)が必要である。3D細胞培養の用途では、それらは細胞の成長に適切な環境を提供し、後にライフサイエンス分野で使用される組織様構造体を作製するために使用することができる。
【0046】
多糖類ハイドロゲル:多糖類ハイドロゲルは、分散液(酸性、中性または塩基性のpH)中の多糖類由来の材料であり、吐出のための温度制御を必要とする場合もしない場合もあり、3D細胞培養の用途にも使用されている。多糖類ハイドロゲルの例としては、アルギン酸、セルロース、キサンタンガム、ジェランガム、ゼラチン、およびアガロースが挙げられる。
【0047】
バイオインクの印刷パラメータ:バイオインクの印刷パラメータとしては、印加圧力、流量、印刷プロセス中のプリントヘッドの移動速度、バイオインクの温度、印刷面の温度、層の高さ、インフィルパターンおよび密度、ノズルの直径、ノズルの形状、およびノズルの材料が挙げられる。
【0048】
ハイドロゲルの吐出パラメータ:ハイドロゲルの吐出パラメータとしては、印加圧力、圧力パルスの大きさ、圧力パルスの周波数、吐出プロセス中のソースウェルおよび/またはターゲットプレートの移動速度、ハイドロゲルの温度、ターゲットウェル/プレートの温度およびソースウェルのオリフィス直径が挙げられる。
【0049】
液滴:液滴は、バイオインクが、例えば、印刷面の一箇所で押し出された場合に形成される構造体である。プリントヘッドは、x-y平面(ここでx-y平面は印刷面である)では移動せず、必要に応じて、z方向にのみ移動する。バイオインクの組成に応じて、結果として得られる形状は、典型的には、上から観察した場合、0~1の間の偏心率で、円形または楕円形である。
【0050】
印刷されたフィラメント:印刷されたフィラメントは、バイオインクが印刷面にわたって押し出された場合に形成される構造体であり、ここではプリントヘッドがウェイポイントに沿って移動して、非閉鎖構造体になる。プリントヘッドは、x-y平面(ここでx-y平面は印刷面である)で移動し、ノズルは、z軸方向に表面よりも上に、ノズル内径の10%~300%の間の高さで配置されている。印刷されたフィラメント構造体は、典型的には、最小の全長対幅の比が1である。
【0051】
幾何学的構造体:幾何学的構造体は、バイオインクが、プリントヘッドがウェイポイントに沿って移動する間に印刷面にわたって押し出され、既存の構造体と交差または接触して領域を囲む場合に形成される構造体である。プリントヘッドは、x-y平面(ここでx-y平面は印刷面である)で移動し、ノズルは、z軸方向に表面よりも上に、ノズル内径の10%~200%の間の高さで配置されている。これらの幾何学的構造体は、最小で0個の頂点と1個のエッジを有し、領域を囲んでいる。
【0052】
多層構造体:多層構造体は、バイオインクが予め堆積された構造体の上に押し出された場合に生成される構造体である。プリントヘッドは、x-y平面(ここでx-y平面は予め堆積された構造体である)で移動し、ノズルは、z軸方向に予め堆積された構造体よりも上に、ノズル内径の10%~200%の高さで配置されている。液滴、印刷されたフィラメント、幾何学的形状、およびインフィルパターンのすべてを、予め印刷された層に印刷することができる。利用されているバイオプリンターシステムによって設定されている最大ビルドハイトを達成するために、予め印刷された層の数は、最小で1である。
【0053】
本願の目的のために、「コード」、「ソフトウェア」、「プログラム」、「アプリケーション」、「ソフトウェアコード」、「ソフトウェアモジュール」、「モジュール」および「ソフトウェアプログラム」という用語は、プロセッサによって実行可能なソフトウェアの命令を意味するために交換可能に使用されている。
【0054】
図1は、液体または半液体の材料を受け取り、保持し、放出するための開示された温度制御されたユニットの概略図を示す。
【0055】
開示されているのは、液体または半液体の材料を受け取り、保持し、放出するための温度制御されたユニット1である。温度制御されたユニットは、少なくとも1つのペルチェ素子3を含む。各ペルチェ素子は、対向する第1面4aおよび第2面4bを有する。温度制御されたユニットは、少なくとも1つの冷却素子5をさらに含む。少なくとも1つのペルチェ素子は、それぞれの第1面が、温度制御されたユニットのリザーバブロック2の印刷面に対向するように配置されている。少なくとも1つの冷却素子は、ペルチェ素子に熱的に接続されており、少なくとも1つのペルチェ素子によって発生した熱を伝達し、伝達された熱を少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させるように配置されている。開示された温度制御されたユニットは、所望の温度を中心に温度を上下に調節する手段を提供する。従来の加熱可能な液体処理・吐出システムは、必要な場合に温度を上げるように配置されただけであり、したがって、細胞外マトリックス由来の溶液を保持および吐出することができないのに対して、加熱から冷却に切り替える能力によって改善された温度調節が可能になる。
【0056】
冷却素子5は、ヒートシンクであってもよく、温度制御されたユニットは、ヒートシンク5上に積層して配置された少なくとも1つのファン6(例えば、
図1に示される)をさらに含んでいてもよい。少なくとも1つのファン6は、ペルチェ素子3に熱的に接続されている少なくとも1つのヒートシンク5から熱を輸送し、伝達された熱を少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させるように配置されている。1つの構成では、少なくとも1つのファン(隣り合ったファンまたは積み重ねられたファン)は、前部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクに向かって空気を吸い込み、少なくとも1つのヒートシンクを通り、最終的に少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。別の構成では、少なくとも1つのファンは、前部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクから空気を吸い出し、少なくとも1つのヒートシンクを通り、最終的に少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。このファンは、熱い空気を、ヒートシンクから離れた場所に効率よく輸送することを可能にし、それによって温度制御されたユニットの近傍に不要な熱が蓄積するのを防ぐ。
【0057】
図2は、ファンの構成を示す温度制御された吐出ヘッド1aである開示された温度制御されたユニットの概略図であり、ここで第1のファン6aは、ヒートシンクの下側に配置され、第2のファン6bは、ヒートシンクの上側に配置されている。
【0058】
図3は、ファンの構成を示す温度制御されたソースウェルホルダー1bである開示された温度制御されたユニットの概略図であり、ここで第1のファン6aは、ヒートシンクの下側に配置され、第2のファン6bは、ヒートシンクの上側に配置されている。ソースウェルホルダー1bは、温度感受性の高い液体を受け取るための少なくとも1つのソースウェル7を保持し、そこから液体が吐出されるように配置されており、該ソースウェルホルダー1bは、上端で開いている複数のソースウェルを保持してもよく、ここで上端に対向するそれぞれのベースがオリフィスを有し、該オリフィスは、それぞれのオリフィス内の毛管圧が、それぞれのソースウェル内の液体によって生成され得る圧力よりも大きくなるように構成されている。
【0059】
上部および下部ファン6a,6bは、互いに対向して配置されてもよく、好ましくは、
図2、3に示すように、ファン軸に沿って整列するように配置されている。下部ファンは、底面から少なくとも1つのヒートシンクに向かって空気を吸い込み、少なくとも1つのヒートシンクを通過し、最終的に上部ファンを介して少なくとも1つのヒートシンクから離れるように配置されている。このファンの構成はまた、ヒートシンクから離れるように、熱い空気を効率よく輸送することを可能にし、それによって、吐出ヘッド1a/ソースウェルホルダー1b、流体リザーバ/ソースウェルおよび/またはプリントベッド/ターゲットプレート10の近傍に不要な熱が蓄積するのを防ぐ。
【0060】
代替的な実施形態では、温度制御されたユニット1,1a,1bの冷却素子5は、少なくとも1つの液体冷却ユニット5aである。少なくとも1つの液体冷却ユニット(例えば、ラジエータ)は、ペルチェ素子3に熱的に接続されるように配置されており、これらに限定されないが、水、脱イオン水、エチレングリコール溶液、ベタインなどの液体冷却剤を、液体冷却システムの内部で循環させることによって、伝達された熱を少なくとも1つのペルチェ素子から散逸させる。この構成は、ファン6やヒートシンクを使用してペルチェ素子3から熱を奪うよりも効率的である。しかしながら、この構成は、ヒーター交換部から液体循環システムに至るまでのパイプまたはチューブのためにはるかにかさばり、液体冷却剤の頻繁な補充または交換などのより多くのメンテナンスが必要になる可能性がある。本実施形態は、
図1にファン6を使用しない場合について示されている。
【0061】
図4は、上記および下記の、少なくとも1つの温度制御されたユニット1、温度制御された吐出ヘッド1aまたは温度制御されたソースウェルホルダー1bを含む、液体処理・吐出システム9の概略図を示す。液体処理・吐出システム9は、吐出チャンバ8およびプリントベッド/ターゲットプレート10をさらに含む。少なくとも1つの温度制御されたユニットは、吐出チャンバの内部に配置されている。液体処理・吐出システムは、開示された温度制御されたユニット1,1a,1bのすべての技術的効果および利点を有する。
【0062】
いくつかの態様によれば、吐出チャンバ8は、操作のために標準的な層流フードベンチ内に配置できるほど小型である。液体処理・吐出システムのサイズは、1m3未満、好ましくは0.125m3(0.5×0.5×0.5m)未満である。これにより、液体処理・吐出システム9は、無菌環境下での生細胞の有無にかかわらず、有機材料の印刷に特に適している。
【0063】
図5および
図6には、1つ以上のターゲットプレート10上に温度感受性の高い液体を塗布するための装置20が示されている。装置20は、本開示によれば、温度制御されたソースウェルホルダー1b、少なくとも1つのソースウェル7、ターゲットプレート10および加熱されたターゲットプレートホルダー12を含む。実施形態では、1~100を含む、任意の数のソースウェル7が使用され得る。さらに、実施形態では、ソースウェルホルダー1bは、1~100を含む任意の数のソースウェル7を収容するように構成することができ、例えば、器具のサイズおよび対応するソースウェルのサイズおよび/またはソースウェルの形状に応じて、1~20列を含む1つ以上の線形または円形の列などの、互いに相対する任意の構成でソースウェルの配置を提供するように構成することができる。ソースウェルは、任意の形状またはサイズで提供することができ、かつすべてが同じであり得るか、または1つ以上のソースウェルが、他とは異なる形状および/またはサイズであり得る。
【0064】
装置20は、環境制御(例えば、温度、湿度、HEPA濾過システム)の有無にかかわらず、吐出チャンバ8をさらに含む。少なくとも1つの温度制御されたソースウェルホルダー1bは、吐出チャンバ11の内部に配置されている。装置20は、開示されている温度制御されたソースウェルホルダー1bのすべての技術的効果および利点を有する。
【0065】
図7は、約0℃の設定温度での長時間の連続運転で吐出している間の、容積式吐出ヘッドである温度制御された、吐出ヘッド1aの温度性能を示す。様々な濃度のMatrigel(登録商標)溶液(5%、7%、9%、15%および18%の固形分)を、温度制御された容積式吐出ヘッド内に配置された3mLのシリンジに装填し、経時的に温度を記録した。9%のMatrigel(登録商標)溶液について示された温度測定値から、この吐出ヘッドでは、温度が安定しており、0.05℃未満の標準偏差が達成されていることがわかる。本発明の実施形態は、温度を、+0.1度の範囲内、または+0.05度の範囲内、または±0.5度の範囲内に、所望の時間、例えば、1分間、5分間、10分間、30分間、1時間、2~5時間、3~10時間、8~20時間、12~48時間、24~72時間、1~5日間、2~10日間、5~20日間、8~30日間、1~6ヶ月間、2~8ヶ月間、5~12ヶ月間、1~5年間、2~3年間、またはそれ以上の間、維持することができる温度制御された吐出ヘッドを提供する。
【0066】
図8および
図9は、Matrigel(登録商標)溶液(9%の固形分)の液滴を異なる目標容量(5μL、10μLおよび50μL)で吐出した場合の温度制御された容積式吐出ヘッドの吐出精度および正確さを示す。液滴の位置は、3DバイオプリンターのXYおよびZガントリーによって制御されており、液滴の容量、形態および円形度は、少なくとも1つの温度制御された容積式吐出ヘッドを含む3Dバイオプリンターによって制御されている。
【0067】
温度制御されたソースウェルホルダーを含む自動液体処理システムによって吐出されたMatrigel(登録商標)溶液(9%の固形分)の液滴は、
図9に示したものと同様の吐出結果を示す。液滴の位置は、ターゲットプレートのXYガントリーによって制御され、液滴の容量、形態および円形度は、ソースウェル(各ウェルの底面に穴が開いている)の上に明確な圧力パルスを印加して、任意のターゲットウェル/プレートに放出される高精度で正確なナノリットルの液滴を形成する、非接触型の圧力ベースの吐出技術によって制御される。
【0068】
図10は、0℃の設定温度での長時間連続運転で吐出している間の、温度制御されたソースウェルホルダー1bの温度性能を示す。様々な濃度のMatrigel(登録商標)溶液(5%、7%、9%、15%および18%の固形分)を、温度制御されたソースウェルホルダー内に配置された0.5mLのソースウェルに装填し、経時的に温度を記録した。9%のMatrigel(登録商標)溶液について示された温度測定値から、この温度制御ソースウェルホルダーの構成では、温度が安定しており、0.05℃未満の標準偏差が達成されていることがわかる。本発明の実施形態は、温度を、±0.1度の範囲内、または±0.05度の範囲内、または±0.5度の範囲内に、所望の時間、例えば、1分間、5分間、10分間、30分間、1時間、2~5時間、3~10時間、8~20時間、12~48時間、24~72時間、1~5日間、2~10日間、5~20日間、8~30日間、1~6ヶ月間、2~8ヶ月間、5~12ヶ月間、1~5年間、2~3年間、またはそれ以上の間、維持することができる温度制御されたソースウェルホルダーを提供する。
【0069】
液体処理・吐出システム9および温度制御された吐出ヘッド1aを含む方法の実施形態は、液体処理・吐出システム9で一体化された、少なくとも1つの温度制御された吐出ヘッド1a、容積式吐出ヘッド(すなわち、温度制御されたシリンジポンプ吐出ヘッド)内の少なくとも1つの流体リザーバの温度(0℃超~65℃、0℃超~10℃、例えば-20℃~20℃、または-10℃~5℃、好ましくは0℃~4℃、またはこれらの終点のいずれかを用いたその間の任意の範囲)、容量(10nL~10mL、好ましくは1μL~100μL)および流量(0.1μL/s~40μL/s、好ましくは吐出された容量に応じて1μL/s~20μL/s)を制御するために配置されている。0℃~10℃の温度制御範囲は、細胞外マトリックス由来の溶液(例えば、ゲル状タンパク質混合物、溶液中の細胞外マトリックスタンパク質、および基底膜マトリックス)を吐出するために使用され得る。しかしながら、このような流体を長時間(2時間超)にわたり精密かつ正確に吐出する必要がある場合、0℃~4℃の温度範囲がよく、0℃~2℃の温度範囲が好ましい。
【0070】
吐出ヘッド1aの構成は、空圧駆動やインクジェット駆動の吐出機構を有することもできる。空圧駆動の吐出ヘッドの限界には、流体のキャリブレーションに時間がかかることだけでなく、カートリッジ/リザーバ内の流体の温度を乱したり上昇させたりするカートリッジ上部での圧縮空気の連続的な交換のために準最適の温度制御となることも挙げられる。これらの理由から、流体が、ペルチェ素子冷却溶液によって提供されるリザーバブロック(
図1および
図2)の安定した温度と常に直接接触しているカートリッジ/シリンジによって完全に囲まれているので、空圧駆動機構よりも容積駆動機構の方が好ましい。
【0071】
温度制御されたソースウェルホルダー1b、液体処理・吐出システム9、装置20、および温度制御されたソースウェルホルダー1bを含む方法の実施形態は、少なくとも1つの温度制御されたソースウェルホルダー内に配置された少なくとも1つの流体リザーバ/ソースウェルの温度(0℃超~65℃、0℃超~10℃、好ましくは0℃~4℃、またはこれらの終点のいずれかを用いたその間の任意の範囲)および容量(2nL~10mL、5nL~5mL、10nL~3mLおよび好ましくは10nL~0.5mL)を制御するために配置されている。このようなソースウェルホルダーは、少なくとも1つの圧力ベースのディスペンサーとターゲットウェルホルダーとの間に配置されている。これら3つの構成要素は、非接触型の高精度の液体処理システムで一体化されている。0℃~10℃の温度制御範囲は、細胞外マトリックス由来の溶液(例えば、ゲル状タンパク質混合物、溶液中の細胞外マトリックスタンパク質、および基底膜マトリックス)を吐出するために使用することができる。しかしながら、このような流体を長時間(2時間超)にわたり精密かつ正確に吐出する必要がある場合、0℃~4℃の温度範囲がよく、0℃~2℃の温度範囲が好ましい。
【0072】
実施形態は、液滴がターゲットプレート上に集められるとすぐに、細胞外マトリックス由来の溶液のゲル化を制御するための、ターゲットプレートホルダー12、
図4、
図5の温度(20℃~100℃、20℃~60℃、好ましくは20℃~40℃、またはこれらの終点のいずれかを使用したその間の任意の範囲)を制御するためのシステムおよび方法を提供する。
【0073】
本開示は、コンピュータ実行可能な命令を含むコンピュータプログラムを提供し、このプログラムがコンピュータによって実行される場合、コンピュータに上記によるプロセス、方法、および/またはアルゴリズムのいずれかを実行させる。コンピュータ実行可能な命令は、JavaScript、C、C#、C++、Java、Python、Perl、Ruby、Swift、Visual Basic、およびObjective Cを含む、任意の適切なプログラミング言語でプログラムすることができる。
【0074】
また、本明細書では、コンピュータ実行可能な命令を含む非一時的コンピュータ可読媒体(またはメディア)が提供され、これがコンピュータによって実行される場合、コンピュータに、上記によるプロセス、方法、および/またはアルゴリズムのいずれかを実行させる。本明細書の文脈で使用する場合、「非一時的コンピュータ可読媒体(またはメディア)」は、磁気記憶媒体、光学記憶媒体、不揮発性メモリ記憶媒体、および揮発性メモリを含む、あらゆる種類のコンピュータメモリを含み得る。非一時的コンピュータ可読記憶媒体の非限定的な例としては、フロッピーディスク、磁気テープ、従来のハードディスク、CD-ROM、DVD-ROM、BLU-RAY、フラッシュROM、メモリカード、光学ドライブ、ソリッドステートドライブ、フラッシュドライブ、消去可能プログラム可能読み取り専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能プログラム可能読み取り専用メモリ(EEPROM)、不揮発性ROM、およびRAMが挙げられる。非一時的コンピュータ可読媒体は、オペレーティングシステムを提供するためだけでなく、本発明のプロセス、方法、および/またはアルゴリズムを実施するためのコンピュータ実行可能な命令の1つ以上のセットを含み得る。
【0075】
本発明は、様々な特徴を有する特定の実施形態を参照して説明してきた。上記で提供された開示に照らして、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、本発明の実施において様々な修正および変形を行うことができることが、当業者に明らかになるであろう。当業者であれば、開示された特徴が、所定の用途または設計の要件および仕様に基づいて、単独で使用され得る、任意の組み合わせで使用され得るか、または省略され得ることを認識するであろう。実施形態が特定の特徴を「含む」と言及している場合、これら実施形態が、代替的にいずれか1つ以上の特徴「からなる」または「から本質的になる」ことが可能であることを理解されたい。本明細書で開示されている方法のいずれかは、本明細書で開示されているシステムおよび/またはその構成要素のいずれか、あるいは他のシステムおよび/またはその構成要素のいずれかと一緒に使用され得る。同様に、開示されたシステムおよび/またはその構成要素のいずれかは、本明細書に開示された方法のいずれかと一緒に、または他の方法と一緒に使用され得る。本発明の他の実施形態は、本明細書および本発明の実施を考慮することにより、当業者に明らかになるであろう。
【0076】
特に、本明細書で値の範囲が示されている場合、その範囲の上限と下限との間にある、開示されている単位の10分の1までの各値も、具体的に開示されていることに留意されたい。また、開示されている範囲内の任意の小さい範囲や、開示されている他の端点から得られる範囲も、それ自体が具体的に開示されている。開示された範囲の上限および下限は、同様に独立して範囲に含まれていても除外されていてもよい。単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数の参照語を含む。本明細書および実施例は、本質的に例示的なものとみなされ、本発明の本質から逸脱しない変形が本発明の範囲に入ることが意図されている。さらに、本開示で引用されているすべての文献は、それぞれ個別にその全体が参照により本明細書に組み込まれており、そのようなものとして、本発明の有効な開示を補足する効率的な方法を提供するとともに、当該技術分野における通常の技術水準を詳述する背景を提供することが意図されている。
【国際調査報告】