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特表2022-520596前立腺がんを治療するための新規マーカーとしてのEPHB4-エフリンB2受容体リガンド対
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-31
(54)【発明の名称】前立腺がんを治療するための新規マーカーとしてのEPHB4-エフリンB2受容体リガンド対
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20220324BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220324BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220324BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220324BHJP
   A61K 47/66 20170101ALI20220324BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220324BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220324BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P13/08 ZNA
A61P35/00
A61K47/64
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K47/66
G01N33/68
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547322
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(85)【翻訳文提出日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 US2020018160
(87)【国際公開番号】W WO2020168110
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】62/805,291
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521355784
【氏名又は名称】ヴァスジーン セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VASGENE THERAPEUTICS INC
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】クラスノペロフ,ヴァレリー
【テーマコード(参考)】
2G045
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA36
2G045FB03
2G045FB12
2G045FB13
4C076CC17
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41Q
4C076EE59Q
4C076FF63
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA18
4C084MA02
4C084NA03
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤の治療有効量を対象に投与することを含む、対象における前立腺がん(PC)を治療するための組成物および方法が提供される。より具体的には、PTEN欠損PC、またはアンドロゲン受容体(AR)標的療法を用いた治療に対して難治性であるPCの治療で使用される方法が提供される。治療薬としての可溶性EphB4が、腫瘍形成を抑制し、樹立された去勢前腫瘍および去勢後腫瘍において腫瘍縮小を誘導したことは重要なことである。驚くべきことに、治療によりアンドロゲン受容体(AR)レベルも減少した。PI3Kアイソフォーム分析から、PI3K p110βのみのダウンレギュレーションにより、ARレベルが直接制御されることが示された(PI3Kβの異所性発現によりAR減少がレスキューされた)。よって、EphB4は前立腺がんにおける新規の標的となる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における前立腺がんの治療で使用される医薬品を製造するための、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害する単離ポリペプチド剤の使用であって、
前記ポリペプチド剤がEphB4タンパク質の単量体リガンド結合部分であり、血中半減期を延長させる改変を含む、
単離ポリペプチド剤の使用。
【請求項2】
前記ポリペプチド剤が、ヒト血清アルブミン(HSA)(「sEphB4-HSA」)およびウシ血清アルブミン(BSA)(「sEphB4-BSA」)からなる群から選択されるアルブミンと共有結合的または非共有結合的に結び付いた、配列番号1(「sEphB4ポリペプチド」)の1~197番、16~197番、29~197番、1~312番、16~312番、29~312番、1~321番、16~321番、29~321番、1~326番、16~326番、29~326番、1~412番、16~412番、29~412番、1~427番、16~427番、29~427番、1~429番、16~429番、29~429番、1~526番、16~526番、29~526番、1~537番、16~537番、および29~537番アミノ酸からなる群から選択される配列を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記sEphB4-HSAが、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~326番残基を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の使用。
【請求項4】
前記sEphB4-HSAが、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~537番残基を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記対象が再発がんを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記対象が抵抗性または難治性のがんを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記がんが、アンドロゲン除去療法、AR標的療法、ホルモン除去療法、免疫療法による治療、化学療法剤による治療、特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた治療、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた治療、免疫複合体、抗体薬物複合体(ADC)、または特定の腫瘍抗原腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による標的治療、小分子キナーゼ阻害剤による標的治療、外科手術を用いた治療、幹細胞移植を用いた治療、および放射線を用いた治療からなる群から選択される抗がん療法に対して難治性である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記がんが化学療法を用いた治療に対して難治性である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記がんがアンドロゲン除去療法を用いた治療に対して難治性である、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記がんがホルモン除去療法を用いた治療に対して難治性である、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
前記がんがAR標的療法を用いた治療に対して難治性である、請求項7に記載の使用。
【請求項12】
前記がんが放射線を用いた治療に対して難治性である、請求項7に記載の使用。
【請求項13】
前記がんがシプロイセルTを用いた治療に対して難治性である、請求項7に記載の使用。
【請求項14】
前記がんがラジウム223を用いた治療に対して難治性である、請求項7に記載の使用。
【請求項15】
患者における前立腺がんの治療で使用される医薬品を製造するための、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害する単離ポリペプチド剤の使用であって、
前記ポリペプチド剤が、EphB4タンパク質の単量体リガンド結合部分であり、血中半減期を延長させる改変を含み、
前記治療が第二の抗がん療法の同時投与を含み、
前記第二の抗がん療法がEphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害する前記ポリペプチド剤と相乗的に働く、
単離ポリペプチド剤の使用。
【請求項16】
前記抗がん療法が、アンドロゲン除去療法、AR標的療法、ホルモン除去療法、免疫療法による治療、化学療法剤による治療、特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた治療、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた治療、免疫複合体、抗体薬物複合体(ADC)、または特定の腫瘍抗原腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による標的治療、小分子キナーゼ阻害剤による標的治療、外科手術を用いた治療、幹細胞移植を用いた治療、および放射線を用いた治療からなる群から選択される、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
患者における前立腺がんを治療するための方法であって、
(a)患者由来の1または複数のがん細胞がEphB4を発現または過剰発現しているかどうかを判定すること;および
(b)1または複数の細胞がEphB4を発現または過剰発現している場合、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害する単離ポリペプチド剤の有効量を投与すること、
を含む、方法。
【請求項18】
前記ポリペプチド剤が、ヒト血清アルブミン(HSA)(「sEphB4-HSA」)およびウシ血清アルブミン(BSA)(「sEphB4-BSA」)からなる群から選択されるアルブミンと共有結合的または非共有結合的に結び付いた、配列番号1(「sEphB4ポリペプチド」)の1~197番、16~197番、29~197番、1~312番、16~312番、29~312番、1~321番、16~321番、29~321番、1~326番、16~326番、29~326番、1~412番、16~412番、29~412番、1~427番、16~427番、29~427番、1~429番、16~429番、29~429番、1~526番、16~526番、29~526番、1~537番、16~537番、および29~537番アミノ酸からなる群から選択される配列を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記sEphB4-HSAが、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~326番残基を含む、請求項17~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記sEphB4-HSAが、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~537番残基を含む、請求項17~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が再発がんを有する、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が抵抗性または難治性のがんを有する、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記がんが、アンドロゲン除去療法、AR標的療法、ホルモン除去療法、免疫療法による治療、化学療法剤による治療、特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた治療、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた治療、免疫複合体、抗体薬物複合体(ADC)、または特定の腫瘍抗原腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による標的治療、小分子キナーゼ阻害剤による標的治療、外科手術を用いた治療、幹細胞移植を用いた治療、および放射線を用いた治療からなる群から選択される抗がん療法に対して難治性である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記がんが化学療法を用いた治療に対して難治性である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記がんがアンドロゲン除去療法を用いた治療に対して難治性である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記がんがホルモン除去療法を用いた治療に対して難治性である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記がんがAR標的療法を用いた治療に対して難治性である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記がんが放射線を用いた治療に対して難治性である、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記がんがシプロイセルTを用いた治療に対して難治性である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記がんがラジウム223を用いた治療に対して難治性である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願
本願は2019年2月13日に出願された米国仮特許出願第62/805,291号の利益を主張するものであり、当該仮特許出願はその全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本願は、「紙コピー」(PDFファイル)形態の配列表と、本明細書内で提出される、参照配列(配列番号1~2)をコンピューター可読形態で含むファイル(ST25形式テキストファイル)とを含む。配列表では、米国特許法施行規則§1.822の規定の通り、アミノ酸は標準的な3文字表記を用いて示している。
【0003】
技術分野
今日、がんは、高度な診断法や治療法が数多く開発されているにもかかわらず、世界中で主要な死因であり続けている。臨床腫瘍学における治療プロトコルは、外科的切除、電離放射線、および細胞障害性化学療法の組み合わせに依存したままである。がんの治療や予防を成功させる際の大きな障壁として、多くのがんが現在の化学療法や免疫療法による治療介入に応答せず、積極的な治療を行った後も多くの人が再発を起こしたり死亡したりしているという事実がある。これらの欠点を解決するために、がんにおいて制御不全となったシグナル伝達軸を調節できる標的治療を開発することが、創薬におけるトレンドとなっている。現在、数え切れないほどの臨床的に重要な標的の、治療を目的とした操作を可能にする、多くの抗体や小分子がFDAの承認を受けている。
【0004】
前立腺がん(PC)は、男性の皮膚以外のがんでは最も多く、男性のがんによる死亡原因の第2位であり、米国だけでも毎年約3万人の患者が転移性疾患により死亡している。アンドロゲン除去療法(ADT)は、進行前立腺がんに対する一般的な治療戦略であり、前立腺腫瘍の顕著な退縮を引き起こす。しかし、ADTは最初は治療応答が得られるものの、最終的にはほぼ全ての患者が応答しなくなる。その結果、患者は去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)を発症する。CRPCでは、治療開始後2~3年以内に、アンドロゲンが枯渇した環境下で、抗悪性度の致死的な前立腺がんが決まって再発する。残念ながら、CRPCは現在のところ不治の病であり、転移性CRPCを有するほぼ全ての患者が最終的にはこの疾患により死亡する。以来、様々な薬物療法が開発され、患者に適用されてきたが、アンドロゲン除去の背後にある基本的な前提はほとんど変わっていない。世界では毎年25万人以上の男性が致死性の前立腺がんで死亡している。以上のことから、患者のための治療法の選択肢が早急に必要とされている。本開示は、このような、また他の、重要な目的を対象としている。
【0005】
次世代シーケンスによって、PI3KCAおよびホスファターゼ・テンシン・ホモログ(PTEN)における変異を含む、ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸3-キナーゼ(PI3K)経路における変異が、PCの初期イベントとして同定された(Bezinelliら、Bone Marrow Transplant、52巻(10号)、頁1384-1389、2017年)。現在、PI3Kアイソフォーム特異的な阻害剤の検討が臨床試験で行われているが、PI3K経路阻害剤はこの時点では活性が限定されている。このように、PCの支配的な駆動因子を特定し、これらの極めて重要な標的に影響を与える新規の治療法を開発することが必要である。
【0006】
Eph(エリスロポエチン産生肝細胞癌)受容体およびリガンドは、最大の受容体チロシンキナーゼ(RTK)ファミリーの一部である。このファミリーは、配列相同性と2つの異なる種類の膜固定エフリンリガンドに対する結合親和性に基づいて、クラスAとクラスBに細分される。各Eph受容体およびリガンドは、複数のリガンドおよび受容体に結合することができ、ある特定の受容体が推定上の腫瘍抑制因子として、また他の受容体は発癌プロモーターとして仮定されてきた(Vaughtら、Breast Cancer Res、10巻(6号):頁217-224、2008年)。EphB4およびエフリンB2は、主に内皮細胞に存在するチロシンキナーゼ受容体-リガンド対として機能し、脈管形成や血管新生に関与している。エフリンB2-EphB4相互作用の阻害は、インビトロおよびエキソビボで、腫瘍細胞増殖に対し直接的な阻害効果を有する。EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤が、本発明者らによって以前に報告された(例えば、米国特許第7,381,410号;同第7,862,816号;同第7,977,463号;同第8,063,183号;同第8,273,858号;同第8,975,377号;同第8,981,062号;同第9,533,026号を参照;それぞれは全ての目的においてその全体が参照によって本明細書に援用される)。
【0007】
本発明者らによって、EphB4受容体がPCにおける新規の標的候補となることが確認された。遺伝的な検証試験で、前立腺上皮においてPtenを欠失させた状況下でEphB4を条件的に欠失させた場合、腫瘍形成が止まり、PI3K経路誘導が抑制された。さらに、治療薬としての可溶性EphB4(sEphB4)が、腫瘍形成を抑制し、樹立された去勢前腫瘍および去勢後腫瘍において腫瘍縮小を誘導した。驚くべきことに、治療によりARレベルも減少した。PI3Kアイソフォーム分析から、PI3K p110βのみのダウンレギュレーションにより、ARレベルが直接制御されることが示された(PI3Kβの異所性発現によりAR減少がレスキューされた)。
【0008】
参照による援用
特許文献の米国特許第7,381,410号;同第7,862,816号;同第7,977,463号;同第8,063,183号;同第8,273,858号;同第8,975,377号;同第8,981,062号;同第9,533,026号;および本明細書で開示される全ての参考文献は、全ての目的においてその全体が参照によって本明細書に援用される。
【発明の概要】
【0009】
本明細書において、対象における前立腺がんを治療するための新規の方法および組成物が提供される。一つの態様において、本発明は、前立腺がん(PC)の治療で使用される医薬品の製造における、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤の使用に関する。より具体的には、PTEN欠損PC、またはアンドロゲン受容体(AR)標的療法を用いた治療に対して難治性であるPCの治療で使用される、医薬品の製造における使用である。
【0010】
各種実施形態において、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤は、EphB4タンパク質もしくはエフリンB2タンパク質の単量体リガンド結合部分、またはEphB4もしくはエフリンB2に結合し作用する抗体である。各種実施形態において、上記ポリペプチド剤は、エフリンB2ポリペプチドに特異的に結合し、EphB4タンパク質の細胞外ドメインのアミノ酸配列を含む、可溶性EphB4(sEphB4)ポリペプチドである。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、EphB4タンパク質の球状ドメインを含む。
【0011】
各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列の、1~522番残基と少なくとも90%同一の配列、1~412番残基と少なくとも90%同一の配列、および1~312番残基と少なくとも90%同一の配列からなる群から選択される配列を含む。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、球状(G)ドメイン(配列番号1の29~197番アミノ酸)と、所望により、システインリッチドメイン(配列番号1の239~321番アミノ酸)、第一フィブロネクチン3型ドメイン(配列番号1の324~429番アミノ酸)、および第二フィブロネクチン3型ドメイン(配列番号1の434~526番アミノ酸)などの追加のドメインとを含む配列を含み得る。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~537番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~427番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~326番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~197番、29~197番、1~312番、29~132番、1~321番、29~321番、1~326番、29~326番、1~412番、29~412番、1~427番、29~427番、1~429番、29~429番、1~526番、29~526番、1~537番、および29~537番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の16~197番、16~312番、16~321番、16~326番、16~412番、16~427番、16~429番、16~526番、および16~537番アミノ酸を含むこととなる。
【0012】
各種実施形態において、Fc融合タンパク質としての発現または別の多量体化ドメインとの融合などにより、多量体形態の可溶性ポリペプチドが作製されてもよい。
【0013】
各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、エフリンB2結合活性を保持しながら血中半減期を増加させる追加の成分をさらに含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは単量体であり、1または複数のポリオキシアルキレン(polyoxyaklylene)基(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)に共有結合的に連結されている。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、ポリエチレングリコール(PEG)基に共有結合的に連結されている(以下、「sEphB4-PEG」)。
【0014】
各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、実質的にエフリンB2結合性を減弱させずに半減期を向上させる第二安定化ポリペプチドと安定に結び付けられている。各種実施形態において、上記の安定化ポリペプチドは、ヒト患者(または畜患、この場合、動物への使用が企図される)と免疫適合性であり、重要な生物活性をほとんどまたは全く持たない。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、ヒト血清アルブミン(HSA)(以下、「sEphB4-HSA」)およびウシ血清アルブミン(BSA)(以下、「sEphB4-BSA」)からなる群から選択されるアルブミンと共有結合的または非共有結合的に結び付けられている。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~197番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~312番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~321番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~326番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~412番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~427番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~429番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~526番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~537番残基を含む。
【0015】
別の態様において、本発明は、対象におけるがんを治療するための併用療法で使用される医薬品の製造における、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤の使用に関する。各種実施形態において、上記の併用療法は、対象における前立腺がんを治療する方法であって、a)治療有効量のsEphB4-HSAポリペプチド、およびb)治療有効量の第二の抗がん療法を対象に投与することを含む、方法に関する。上記の併用療法は相乗的なものであってもよい。上記の併用療法は抗がん療法の治療指数を増加させるものであってもよい。
【0016】
各種実施形態において、上記の第二の抗がん療法は、アンドロゲン除去療法(ADT)、AR標的療法、ホルモン除去療法、免疫療法、化学療法、特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた標的治療、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた標的治療、免疫複合体、ADC、または特定の腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による標的治療、小分子キナーゼ阻害剤標的療法、外科手術、放射線治療、DHT遮断薬を用いた治療、および幹細胞移植からなる群から選択される。各種実施形態において、上記の第二の抗がん療法は、CD276、CD272、CD152、CD223、CD279、CD274、TIM-3、およびB7-H4を含むがこれらに限定はされないリストからの、免疫チェックポイントタンパク質抗原と特異的に結合する抗体;または、当該技術分野において教示される任意の免疫チェックポイントタンパク質抗原抗体の投与を含む。
【0017】
各種実施形態において、上記の対象は抵抗性または難治性の前立腺がんを有する。各種実施形態において、上記のがんは化学療法に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんはアンドロゲン除去療法(ADT)に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんはAR標的療法に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんはホルモン除去療法に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは免疫療法による治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、免疫複合体、抗体薬物複合体(ADC)、または特定の腫瘍抗原腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による標的治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、小分子キナーゼ阻害剤による標的治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、外科手術を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、幹細胞移植を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、放射線を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、DHT遮断薬を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、例えば以下のうちの2つ以上を含む併用療法に対して難治性のものである:アンドロゲン除去療法、AR標的療法、ホルモン除去療法、免疫療法による治療、化学療法剤による治療、腫瘍抗原特異的な除去抗体による治療、免疫複合体、ADC、または腫瘍抗原特異的な除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による治療、小分子キナーゼ阻害剤による標的治療、外科手術を用いた治療、幹細胞移植を用いた治療、DHT遮断薬を用いた治療、および放射線を用いた治療。
【0018】
各種実施形態において、上記の対象は、以前に抗がん療法による治療に応答したが、治療の休止後、再発(以下、「再発性増殖性疾患」)を引き起こしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】前立腺がんにおけるエフリンB2-EphB4の誘導。(A)EphB/エフリンBファミリーメンバーの遺伝子発現を、TCGA(The Cancer Genome Atlas)に基づいて、体細胞突然変異を有する492人の前立腺がん患者において実施した。(B)148のヒト前立腺がん組織アレイ(バイオマックス社(Biomax Inc.)PR1921b)における、ヘマトキシリン・エオシン染色(H&E)、およびエフリンB2の免疫組織化学(IHC)染色。エフリンB2は、前立腺がんで高発現されるが、正常な前立腺組織では高発現されない。上部のバーは前立腺がんのグリソンスコアを示している。上2段のパネルは低倍率(200x)を示し;下2段のパネルは高倍率(400x)を示す。表は、グリソンスコア6および7でのエフリンB2発現を示しており、それを超えると有意な変化がない。(C)PTENヌルマウスにおける原発性前立腺がんの成長を、生物発光画像法(BLI)によって非侵襲的に追跡した。ルシフェラーゼシグナルの発現は、4か月齢から7か月齢までの間に経時的に増加した。各色は、ルシフェラーゼシグナルの強度を示す。青は弱いシグナル、緑色と黄色は中間のシグナル、赤は強いシグナルを示す。(D)Cre-PTEN-/--ルシフェラーゼ(CPPL)マウス前立腺と比較した、野生型(WT)マウス前立腺における、EphB4、PTEN、リン酸化AKT(pAKT)、リン酸化S6(pS6)タンパク質レベルの、H&EおよびIHC。(E)1匹の野生型(WT)マウスおよび3匹のCPPLマウスにおける、EphB4、EphB2、EphB3、およびPtenタンパク質レベルの、ウエスタンブロット。グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)をプローブすることで、ロードの等しさを確認した。(F)EphB4、EphB1、EphB2、およびEphB3のRNAレベルの定量的RT-PCRを、野生型(青)およびCPPLマウス(赤)において測定した。β-アクチンに対し遺伝子発現を正規化した。エラーバーは標準偏差(s.d.)を表す。これらの実験を少なくとも2回繰り返したところ、同様の結果が得られた。P値は対応のない両側スチューデントt検定を用いて算出した。**P<0.002。
図2】EphB4遺伝子マウスモデル。(A)loxPが導入された対立遺伝子を有する誘導性EphB4コンディショナルノックアウト(EphB4 CKO)マウスを模式的にしている。数字はエクソン1~4を示す。太い黒矢印は、エクソン2とエクソン3に挟まれた2つのloxP部位を示す。P1とP2は遺伝子型同定のためのPCRプライマー部位を示す。(B)遺伝子型同定PCRにより、野生型、ヘテロ接合型、およびホモ接合型の、loxPが導入されたPtenおよびEphB4を確認した。左のパネル:野生型EphB4(WT、EphB4野生型/野生型)は189bpのバンドを1本有し、ヘテロ接合型EphB4(F/+、EphB4loxP導入/野生型)はサイズが189bpおよび282bpの2本のバンドを有し、ホモ接合型EphB4(F/F、EphB4loxP導入/loxP導入)は1本の282bpバンドを有する。右のパネル:野生型Pten(WT、Pten野生型/野生型)は321bpのバンドを1本有し、ヘテロ接合型Pten(F/+、PtenloxP導入/野生型)はサイズが321bpおよび493bpの2本のバンドを有し、ホモ接合型Pten(F/F、PtenloxP導入/loxP導入)は1本の493bpバンドを有する。bpは塩基対を表す。(C)EphB4、EphB1、EphB2、およびEphB3 RNAレベルの定量的RT-PCRを、野生型マウス(EphB4およびPtenの両方が野生型、青)、CPPLマウス(野生型のEphB4を有するCPPLマウス、赤)、EphB4ヘテロCPPLマウス(ヘテロ接合型のEphB4欠失を有するCPPLマウス、緑)、およびEphB4ホモCPPLマウス(ホモ接合型のEphB4欠失を有するCPPLマウス、紫)の前立腺組織において、測定した。β-アクチンに対し遺伝子発現を正規化した。エラーバーは標準偏差(s.d.)を表す。これらの実験を少なくとも3回繰り返したところ、同様の結果が得られた。P値は対応のない両側スチューデントt検定を用いて算出した。P<0.05;**P<0.002。
図3】EphB4のノックアウトは、PTEN欠失により誘導される前立腺がんの進行を阻害する。(A)3か月齢、5か月齢、および7か月齢を含む、経時的な、生きたマウスのイメージングの、ルシフェラーゼ発現。EphB4+/+;CPPLは、CPPLマウスが野生型のEphB4を有することを表す。EpHB4F/F;CPPLは、CPPLマウスがホモ接合型のEphB4を有することを表す。左のパネルは14匹のEphB4+/+;CPPLのうちの代表的な3匹である。右のパネルは29匹のEpHB4F/F;CPPLのうちの代表的な3匹である。カラーバーは、ルシフェラーゼシグナルの強度を示す。青は弱いシグナル、緑色と黄色は中間のシグナル、赤は強いシグナルを示す。(B)合計14匹のEphB4+/+;CPPLマウスおよび29匹のEpHB4F/F;CPPLマウスの生物発光画像法(BLI)シグナル強度の定量的測定。青:3か月齢。赤:5か月齢。緑:7か月齢。BLIの強度を各バーの上部に標識した。エラーバーは標準偏差(s.d.)を表す。(C)EphB4野生型PTENヌルマウス(EphB4+/+;CPPL)、EphB4ヘテロ接合体PTENヌルマウス(EphB4F/+;CPPL)、およびEphB4ホモ接合体PTENヌルマウス(EphB4F/F;CPPL)由来の前立腺を解剖した。赤の破線は腫瘍領域を表す。(D)マウスの前立腺から採取した腫瘍より、EphB4のウエスタンブロットを実施した。ロードが等しいことの確認にβ-アクチンをプローブした。これらの実験を少なくとも3回繰り返したところ、同様の結果が得られた。(E)異なる倍率(それぞれ100倍、200倍、および400倍)の、WTマウス、EphB4+/+;CPPLマウス、およびEpHB4F/F;CPPLマウス由来の前立腺のH&E染色。(F)前立腺組織におけるKi67のIHC染色。右パネルに示されたシグナル強度は、ImageJ(NIH)ソフトウェアを用いて、陽性に染まったピクセルドットに基づいて定量化されたものである。エラーバーは全て標準偏差(s.d.)を表す。(G)前立腺組織におけるEphB4、PTEN、pAKT、およびpS6のIHC染色。WT:EphB4およびPten共に野生型;EphB4+/+;CPPL:EphB4野生型PTENヌルマウス;EpHB4F/F;CPPL:EphB4ホモ接合体PTENヌルマウス。これらの実験を少なくとも3回繰り返したところ、全て同様の結果が得られた。
図4】sEphB4によるEphB4シグナル伝達の阻害は、PTEN欠失により誘導される前立腺がんの進行を抑制する。(A)それぞれ処置期間0か月間、1か月間、2か月間、および3か月間に対応する4か月齢、5か月齢、6か月齢、および7か月齢の、生きたマウスのイメージングの、ルシフェラーゼ発現。左パネル:対照として用いられた、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で処置されたCPPL。右パネル:可溶性EphB4-アルブミン(sEphB4-Alb)で処置されたCPPL。各群から3匹のマウスを代表として示した。カラーバーは、ルシフェラーゼシグナルの強度を示す。(B)合計8匹のCPPL;PBS処置マウスおよび15匹のCPPL;sEphB4処置マウスの生物発光画像法(BLI)シグナル強度の定量的測定。BLIの強度を各バーの上部に標識した。(C)それぞれsEphB4-アルブミン処置期間0か月間、1か月間、2か月間、および3か月間に対応する7か月齢、8か月齢、9か月齢、および10か月齢の、生きたマウスのイメージングの、ルシフェラーゼ発現。3匹のマウスを代表として示した。カラーバーは、ルシフェラーゼシグナルの強度を示す。(D)合計8匹のCPPL;sEphB4処置マウスの生物発光画像法(BLI)シグナル強度の定量的測定。青:0か月間処置。赤:1か月間処置。緑:2か月間処置。紫:3か月間処置。BLIの強度を各バーの上部に標識した。エラーバーは標準偏差(s.d.)を表す。(E)PBS処置CPPLマウスとsEphB4-アルブミン処置CPPLマウスの前立腺組織のTUNELイムノアッセイの比較(上パネル)。下側のパネルは同じ組織から得られた連続スライドのH&E染色である。(F)野生型(WT)、PBS処置CPPL(CPPL;PBS)、およびsEphB4-アルブミン処置CPPL(CPPL;sEphB4-Alb)の前立腺組織におけるEphB4、pAKT、およびpS6のIHC染色。これらの実験を少なくとも3回繰り返したところ、全て同様の結果が得られた。
図5】sEphB4によるEphB4シグナル伝達の阻害は、アンドロゲン抵抗性前立腺がんの進行を阻害する。(A)それぞれ去勢後0か月、1.5か月、4.5か月間、6か月間、および10.5か月間に対応する4か月齢、5.5か月齢、8.5か月齢、10か月齢、および14.5か月齢の、生きたマウスのイメージングの、ルシフェラーゼ発現。マウスは、両群で8.5か月齢から、PBS処置またはsEphb4-アルブミン処置を開始した。左パネル:リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で処置されたCPPL。右パネル:可溶性EphB4-アルブミン(sEphB4-Alb)で処置されたCPPL。各群から3匹のマウスを代表として示した。(B)カラーバーは、ルシフェラーゼシグナルの強度を示す。合計8匹のCPPL;sEphB4処置マウスの生物発光画像法(BLI)シグナル強度の定量的測定。BLIの強度を各バーの上部に標識した。エラーバーは標準偏差(s.d.)を表す。
図6】EphB4はインビトロでPI3K経路において機能する。(A)2種のヒト前立腺がん細胞株C4-2BおよびPC3における、EphB4、P110α、P110β、P110γ、リン酸化AKT(pAKT)、AKT、リン酸化S6(PS6)、S6、リン酸化P38(pP38)、P38のウエスタンブロット。EphB4 siRNAは、PC3細胞株およびC4-2B細胞株の両方で、PI3K下流マーカー(pAKT、pS6)およびP110サブユニットβを特異的にダウンレギュレートしたが、p110αおよびγはダウンレギュレートしなかった。ロードが等しいことの確認にβ-アクチンをプローブした。実験はトリプリケートで行った。(B)ホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸(PIP3)の免疫蛍光(IF)染色。DAPIは核染色を示す。PIP3とDAPIのマージ。PIP3はEphB4 siRNAによるノックダウンでも減弱した。(C)EphB4のウエスタンブロット。これにより、全ての試験試料においてEphB4 siRNAによるEphB4のノックダウンが確認された。(D)AKTおよびpAKTのウエスタンブロット。野生型AKT(wt-AKT)および体質的(constitutionally)活性型AKT(ΔAKT)の過剰発現は共に、EphB4siRNAから、AKTレベルおよびpAKTレベルをレスキューした。ベクター:対照としての空ベクター。ロードが等しいことの確認にβ-アクチンをプローブした。(E)細胞生存率(MTT)アッセイによって、wt-AKTまたはΔAKTの過剰発現が、対照siRNAと比較して、siEphB4により引き起こされた細胞死をレスキューするが、空ベクターではレスキューされないことが確認された。細胞生存率を各バーの上部に標識した。実験はトリプリケートで行った。
図7】PI3K経路はP110βアイソフォームを介してARを制御する。(A)ウエスタンブロットにより、各種がん細胞株22RV1、C4-2B、PC3、K562、およびRAJIにおけるP85、P110α、P110β、P110γ、およびP110δの発現レベルを示された。(B)種々の濃度のP110α阻害剤(BYL719)、P110β阻害剤(GSK2636771)、P110γ阻害剤(IPI-549)、およびP110δ阻害剤(GSK2269557)で処理後の、22RV1前立腺細胞株におけるS6、pS6、EphB4、およびARのウエスタンブロット。αアイソフォームおよびβアイソフォームの阻害によりpS6レベルが有意に減少した。P110β阻害のみがEphB4およびARを減少させ、一方、P110α/γ/δの各阻害剤はいずれのタンパク質にも影響を与えなかった。一番下のパネルは相対pS6/S6比の定量分析を示しており、EphB4およびARのタンパク質レベルはImageJ(NIH)を用いて作成された。ロードが等しいことの確認にβ-アクチンをプローブした。実験はトリプリケートで行った。
図8】EphB4はP110βアイソフォームを介してARを制御する。(A)22RV1細胞およびC4-2B細胞におけるEphB4およびARのウエスタンブロット。対照siRNA(対照si)およびsiRNAなし(モック)と比較して、EphB4siRNA(B4si)を用いてEphB4をノックダウンした場合に、ARが有意にダウンレギュレートされた。ロードが等しいことの確認にβ-アクチンをプローブした。(B)野生型(WT)、PBS処置CPPL(CPPL;PBS)、EphB4ノックアウトCPPL(CPPL;EphB4F/F)、および可溶性EphB4-Alb処置CPPL(CPPL;sEphB4-Alb)由来のマウス前立腺組織における、抗AR抗体(褐色)を用いたIHC染色(100倍、400倍、1000倍)。点線の四角はより高倍率で示された対応画像を示している。(C)対照siRNAおよびsiRNAなし(モック)と比較した、EphB4siRNAを用いた、定量的RT-PCRによる、EphB4ノックダウンした22RV1細胞およびC4-2B細胞におけるARのmRNAレベル。左パネルは、相対的なEphB4レベルおよびARレベルの定量分析を示しており、これらのレベルはsiEphB4処理したC4-2B細胞株および22RV1細胞株において有意に減少した。実験はトリプリケートで行った。P値は対応のない両側スチューデントt検定を用いて算出した。NS、有意差なし;P<0.05;(D)ARレスキュー実験。EphB4 siRNAと、EphB4、p110α、p110β、およびp110γの各プラスミドを同時トランスフェクションした22RV1細胞における、AR、EphB4、AKT、p110α、p110β、およびp110γのウエスタンブロット。相対的ARレベルの定量分析をImageJ(NIH)を用いて行った。この実験において、EphB4 siRNAにより引き起こされたARレベルの減少は、Aktおよびp110βの過剰発現でレスキューできるが、p110αおよびp110γの過剰発現ではレスキューできない。興味深いことに、p110αおよびp110γの過剰発現はARレベルをさらに阻害でき、これは他の研究と一致している。
図9】sEphB4はCRPC患者のPSAレベルを減少させた。前立腺腫瘍生検のエフリンB2およびCD31のH&E染色およびIHC染色。右下のグラフは、数週間に亘るsEphB4-Alb処置後のPSAレベルの変化を示したものである。
図10】EphB4 CKO1(-/-);CMV-Cre(+)マウス表現型。E9.5日目のマウス胚の解剖。胎生致死を起こした、1つのEphB4 CKO1(wt/wt)胚および3つのEphB4 CWKO1(-/-)胚。
図11】CPPLマウスとEph4ノックアウトCPPLマウスとで比較した、BLIの強度。図は年齢に基づいたBLI強度をまとめたものである。各ドットは各マウスを表している。赤線はある特定の年齢の全てのマウスの平均BLI強度を示したものである。左パネル:EphB4野生型CPPLマウス(CPPLのみ)。右パネル:Eph4ノックアウトCPPLマウス(EphB4(F/F);CPPL)。各パネルの底部は、年齢群に対応する生きたマウスの数を示したものである。
図12】PBS処置CPPLマウスとsEph4-Alb処置CPPLマウスとで比較した、BLIの強度。図は年齢に基づいたBLI強度をまとめたものである。各ドットは各マウスを表している。赤線はある特定の年齢の全てのマウスの平均BLI強度を示したものである。左パネル:PBS処置CPPLマウス。右パネル:sEph4-Alb処置CPPLマウス。各パネルの底部は、年齢群に対応する生きたマウスの数を示したものである。
図13】退縮実験におけるPBS処置sEph4-Alb処置CPPLマウスのBLIの強度。図は年齢に基づいたBLI強度をまとめたものである。各ドットは各マウスを表している。赤線はある特定の年齢の全てのマウスの平均BLI強度を示したものである。パネルの底部は、年齢群に対応する生きたマウスの数を示したものである。
図14】前立腺がん細胞株におけるEphB4のノックダウンのARレベル。RT-PCT曲線は、対照siRNAと比較して、C4-2B細胞株(左)および22RV1細胞株(右)における、EphB4 siRNAによる、AR、EphB4、GADPHの遺伝子レベル変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本明細書で別途定義がない限り、本発明に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者が通常理解する意味を有するものとする。さらに、文脈上特に必要がない限り、単数形の用語は複数形を包含するものとし、複数形の用語は単数形を包含するものとする。通常、本明細書に記載の、細胞培養および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、並びにタンパク質および核酸の化学、並びにハイブリダイゼーションと関連して使用される命名法、並びにその技術は、一般に使用され、当該技術分野において周知のものである。本発明の方法および技術は、特に記載がない限り、本明細書の全体を通して引用および考察された、様々な、一般的な、より具体的な参考文献に記載される、当該技術分野において周知の従来法に従って、通常実施される。例えば、参照によって本明細書に援用される、Green and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第4版、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版局、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州(2012年)を参照されたい。酵素反応および精製技術は、製造業者の仕様書に従って、当該技術分野において通常果たされるように、または本明細書に記載のように、実施される。本明細書に記載の分析化学、有機合成化学、医薬品化学、および製薬化学と関連して使用される命名法、並びにその実験手順および実験手法は、当該技術分野において通常使用され周知のものである。化学合成、化学分析、医薬製剤、製剤、および送達、並びに対象の治療には、標準的な技術が使用される。
【0021】
本明細書で使用される場合、「増殖性疾患」は、腫瘍疾患(良性またはがん性のものを含む)および/または任意の転移を包含する。増殖性疾患は、過形成、線維症(特に肺線維症であるが、腎線維症などの他のタイプの線維症もある)、血管新生、乾癬、アテローム性動脈硬化症、および血管内平滑筋増殖などの過剰増殖状態を包含する場合があり、例えば狭窄または血管形成術後再狭窄などである。各種実施形態において、増殖性疾患はがんである。各種実施形態において、増殖性疾患は非がん性疾患である。各種実施形態において、増殖性疾患は良性腫瘍または悪性腫瘍である。
【0022】
用語「腫瘍」とは、本明細書で使用される場合、悪性か良性かを問わず、全ての新生細胞の成長および増殖、並びに全ての前がん性およびがん性の細胞および組織を指す。
【0023】
用語「原発腫瘍」とは、細胞の自律的な無制御の成長が開始した解剖学的部位(例えば最初のがん性腫瘍の臓器)に位置する、悪性か良性かを問わない、全ての新生細胞の成長および増殖、並びに全ての前がん性およびがん性の細胞および組織を指す。原発腫瘍は転移を包含しない。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「転移」とは、元のがん性腫瘍の臓器と直接繋がっていない、臓器または身体部分におけるがん性腫瘍の成長を指す。転移は、元のがん性腫瘍の臓器(例えば、原発腫瘍を含む臓器)と直接繋がっていない臓器または身体部分に、検出不能な量のがん性細胞が存在することである、微小転移を包含すると理解されたい。転移は、元の腫瘍部位(例えば、原発腫瘍部位)からのがん細胞の離脱、並びに他の身体部分へのがん細胞の遊走および/または浸潤などの、いくつかのプロセス段階と定義することもできる。
【0025】
「抵抗性または難治性のがん」とは、例えば、アンドロゲン除去療法(ADT)、ホルモン除去療法、化学療法、外科手術、放射線治療、幹細胞移植、および免疫療法を含む、以前の抗がん療法に応答しなかった腫瘍細胞またはがんを指す。腫瘍細胞は、治療の開始時に抵抗性または難治性のものとすることもできるし、あるいは、治療中に抵抗性または難治性になってもよい。難治性の腫瘍細胞は、治療開始時に応答しない、または最初は短期間応答するが治療に応答しない、腫瘍を包含する。難治性の腫瘍細胞は、抗がん療法による治療に応答し、それ以降の治療に応答しない、腫瘍も包含する。本発明の目的のために、難治性の腫瘍細胞は、抗がん療法による治療によって抑制されたように見えたが、治療中断後5年以内、時に10年以内またはそれ以上経過後に再発する、腫瘍も包含する。抗がん療法では、化学療法剤単独、放射線単独、標的療法単独、外科手術単独、またはこれらの組み合わせを用いることができる。限定のためではなく説明を簡単にするために、難治性腫瘍細胞は抵抗性腫瘍細胞と同義であると理解されたい。
【0026】
本明細書で使用される場合、「治療」(および「治療する」や「治療すること」などのその文法的変形語)は、治療を受けている個体における病気の自然経過を変化させるための臨床的介入を指し、予防のために実施することもできるし、臨床病理の経過中に実施することもできる。望ましい治療効果としては、疾患の発生または再発の予防、症状の緩和、疾患の任意の直接的または間接的な病理的帰結の低減、転移の予防、疾患増悪速度の減少、病状の改善または軽減、および寛解または予後の改善が挙げられるが、これらに限定はされない。本明細書で使用される場合、疾患、障害、または状態を「緩和する」こととは、当該疾患、障害、または状態の症状の重症度および/または発生頻度を減少させることを意味する。さらに、本明細書における「治療」への言及は、治癒的、対症的および予防的な治療への言及を包含する。
【0027】
用語「有効量」または「治療有効量」とは、本明細書で使用される場合、症状の1または複数を改善する、緩和する、軽減する、および/または遅延するなど、特定の障害、状態、または疾患を治療するのに十分な化合物または組成物の量を指す。NHLなどのがんや他の望まれない細胞増殖に関して、有効量は、(i)がん細胞の数を減少させる;(ii)腫瘍サイズを減少させる;(iii)末梢器官へのがん細胞浸潤をある程度阻害、遅滞、減速し、好ましくは止める;(iv)腫瘍転移を阻害する(すなわち、ある程度減速し、好ましくは止める);(v)腫瘍増殖を阻害する;(vi)腫瘍の発生および/もしくは再発を防止または遅延する;並びに/または、(vii)当該がんに伴う症状の1または複数をある程度軽減する、のに十分な量を含む。有効量は、一回または複数回の投与で投与することができる。
【0028】
「補助療法背景(adjuvant setting)」とは、対象が、増殖性疾患、特にがんの病歴を有し、通常(ただし必須ではなく)、外科手術(外科的切除など)、放射線療法、および化学療法を含むがこれらに限定はされない治療法に対して応答性であった、臨床背景を指す。しかし、増殖性疾患(がんなど)の病歴のために、これらの対象は、当該疾患の発症リスクがあると見なされる。「補助療法背景」における治療または投与はその後の治療様式を指す。リスクの程度(すなわち、補助療法背景にある対象が「高リスク」または「低リスク」と見なされる場合の)は、いくつかの要因、最も多くは最初に治療を受けた際の疾患の程度、に依存する。
【0029】
「相乗効果」という表現は、有効成分同士を一緒に使用した場合に達成される効果が、各有効成分を個別に使用することにより得られる効果の和よりも大きいことを言う。用語「シナジー」、「相乗作用」、「相乗的」、「併用相乗量(combined synergistic amount)」、および「相乗的な治療効果」は、本明細書では同義的に使用される。
【0030】
「投与すること」または「投与を受けさせる(cause to be administered)」という表現は、医療従事者(例えば、医師)、または対象の医療を管理する者が行う行為であって、対象への問題の薬剤/化合物の投与を管理および/または許可することを指す。投与を受けさせること(causing to be administered)は、対象への、適切な治療法の診断および/もしくは判定、並びに/または特定の薬剤/化合物を処方すること、を含み得る。このような処方としては、例えば、処方箋を書くこと、診療録に注釈を付けることなどを挙げることができる。本明細書で投与を記載する場合、「投与を受けさせること(causing to be administered)」も企図される。
【0031】
用語「患者」、「個体」、および「対象」は、同義的に使用される場合があり、哺乳動物、好ましくはヒトまたはヒト以外の霊長類を指すが、ペット哺乳類(例えば、イヌまたはネコ)、実験室用哺乳類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット)、および農業用哺乳類(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ)も指す。各種実施形態において、患者は、病院で、精神医療施設で、外来患者として、または他の臨床状況で、医師または他の医療従事者のケアを受けているヒト(例えば、成人男性、成人女性、青年男性、青年女性、男児、女児)とすることができる。各種実施形態において、患者は、免疫無防備状態の患者または免疫系が弱まった患者としてもよく、例えば、原発性免疫不全症患者、エイズ患者;ある種の免疫抑制剤を服用中のがん患者および移植患者;並びに、免疫系(例えば、先天性無ガンマグロブリン血症、先天性IgA欠損症)に影響を与える遺伝病を有する患者が挙げられるが、これらに限定はされない。各種実施形態において、患者は免疫原性のがんを有しており、例えば、膀胱がん、肺がん、メラノーマ、および変異率が高いと報告されている他のがん(Lawrenceら、Nature、499巻(7457号):頁214-218、2013年)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0032】
本明細書で使用される場合、本発明の融合分子および1または複数の他の治療薬を指して、用語「同時投与」、「同時投与された」、および「~と組み合わせて」とは、以下を意味することが意図され、以下を指して包含する:治療を必要としている対象への本発明の融合分子と治療薬とのそのような組み合わせの同時投与であって、そのような成分が合剤化されて単一剤形となり、上記各成分が実質的に同時に上記対象に放出される、同時投与;治療を必要としている対象への本発明の融合分子と治療薬とのそのような組み合わせの実質的な同時投与であって、そのような成分が互いに別々に製剤化されて別々の剤形となり、それらが上記対象によって実質的に同時に摂取された際、上記各成分が実質的に同時に上記対象に放出される、実質的な同時投与;治療を必要としている対象への本発明の融合分子と治療薬とのそのような組み合わせの連続投与であって、そのような成分が互いに別々に製剤化されて別々の剤形となり、それらが各投与の間にかなりの時間間隔を置いて上記対象によって連続した時間に摂取された際、上記各成分が実質的に異なる時間に上記対象に放出される、連続投与;並びに、治療を必要としている対象への本発明の融合分子と治療薬とのそのような組み合わせの連続投与であって、そのような成分が合剤化されて単一剤形となり、上記各成分が徐放的に放出される際、それらが同時および/または異なる時間に同時発生的、連続的、および/または重複的に上記対象に放出され、各部分は同じ経路または異なる経路で投与され得る、連続投与。
【0033】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基の重合体を指して、本明細書では同義的に使用される。ある実施形態では、「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」は、α炭素がペプチド結合を介して連結し合っているアミノ酸鎖である。よって、上記鎖の一方の端の末端アミノ酸(アミノ末端)は遊離アミノ基を有し、一方で、上記鎖の他方の端の末端アミノ酸(カルボキシ末端)は遊離カルボキシル基を有する。本明細書で使用される場合、用語「アミノ末端」(N末端と省略)は、ペプチドのアミノ末端のアミノ酸上の遊離α-アミノ基を指すか、あるいは、ペプチド内の任意の他の場所のアミノ酸のα-アミノ基(ペプチド結合に参加している場合はイミノ基)を指す。同様に、用語「カルボキシ末端」は、ペプチドのカルボキシ末端の遊離カルボキシル基、またはペプチド内の任意の他の場所のアミノ酸のカルボキシル基を指す。ペプチドは、実質的に任意のポリアミノ酸も包含し、ペプチド模倣薬が挙げられるがこれに限定はされず、例えば、アミノ酸同士がアミド結合ではなくエーテルによって連結されているものなどである。
【0034】
用語「組み換えポリペプチド」とは、本明細書で使用される場合、宿主細胞にトランスフェクトされた組み換え発現ベクターを用いて発現されたポリペプチドなどの、組み換え手段によって作製、発現、生成、派生、または単離された融合分子を含む、全てのポリペプチドを包含することが意図される。
【0035】
本開示のポリペプチドは、例えば、(1)タンパク質分解に対する感受性の低減、(2)酸化に対する感受性の低減、(3)タンパク質複合体形成を目的とした結合親和性の変化、(4)結合親和性の変化、および、(5)他の物理化学的特性または機能特性の付与または改変など、いかなる方法およびいかなる理由で改変されたポリペプチドも包含する。例えば、単一または複数のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)が、天然起源配列(例えば、分子間接触を形成しているドメインの外側のポリペプチド部分の天然起源配列)になされていてもよい。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸ポリペプチドにおける、機能的な類似アミノ酸との置換を指す。以下の6つの群はそれぞれ、互いに対し保存的置換となるアミノ酸を含む:
アラニン(A)、セリン(S)、およびスレオニン(T)
アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E)
アスパラギン(N)およびグルタミン(Q)
アルギニン(R)およびリジン(K)
イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、およびバリン(V)
フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)。
【0036】
用語「ポリペプチド断片」および「切断型ポリペプチド」とは、本明細書で使用される場合、対応する完全長のタンパク質と比較した場合にアミノ末端および/またはカルボキシ末端の欠失を有するポリペプチドを指す。ある実施形態において、断片は、例えば、5以上、10以上、25以上、50以上、100以上、150以上、200以上、250以上、300以上、350以上、400以上、450以上、500以上、600以上、700以上、800以上、900以上、または1000以上のアミノ酸長とすることができる。ある実施形態において、断片は、例えば、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下、500以下、450以下、400以下、350以下、300以下、250以下、200以下、150以下、100以下、50以下、25以下、10以下、または5以下のアミノ酸長とすることもできる。断片は、その一方または両方の末端に、1または複数の追加のアミノ酸、例えば、異なる天然起源タンパク質(例えば、Fcまたはロイシンジッパードメイン)由来のアミノ酸配列または人工アミノ酸配列(例えば、人工リンカー配列)をさらに含むことができる。
【0037】
「ポリペプチドバリアント」および「ポリペプチド変異体」という用語は、本明細書で使用される場合、別のポリペプチド配列と比較して、1または複数のアミノ酸残基がアミノ酸配列に挿入されている、1または複数のアミノ酸残基がアミノ酸配列から欠失している、且つ/または、1または複数のアミノ酸残基がアミノ酸配列中に置換されている、アミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。ある実施形態では、挿入、欠失、または置換されているアミノ酸残基の数は、例えば、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150、少なくとも175、少なくとも200、少なくとも225、少なくとも250、少なくとも275、少なくとも300、少なくとも350、少なくとも400、少なくとも450、または少なくとも500のアミノ酸長とすることができる。本開示のバリアントは融合タンパク質を包含する。
【0038】
用語「可溶性ポリペプチド」は、本明細書で使用される場合、当該ポリペプチドが、膜貫通領域、または当該ポリペプチドの生理的食塩水への溶解性を損なうのに十分な膜貫通領域の一部を含有していないことを単に示す。
【0039】
「医薬組成物」は、動物における製薬学的用途において好適な組成物を指す。医薬組成物は、薬理学的有効量の活性薬剤と薬剤的に許容できる担体とを含む。「薬理学的有効量」とは、意図された薬理学的結果を得るのに有効な薬剤量を指す。「薬剤的に許容できる担体」とは、任意の標準的な医薬担体、溶剤、緩衝液、および医薬品添加物を指し、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、5%ブドウ糖水溶液、およびエマルジョン(油/水エマルジョンまたは水/油エマルジョンなど)、並びに各種の湿潤剤および/または補助剤などである。好適な医薬担体および製剤については、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第21版、2005年、マック出版社(Mack Publishing Co)、イーストン、に記載がある。「薬剤的に許容できる塩」は、製薬学的用途の化合物に製剤化できる塩であり、例えば、金属塩(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)およびアンモニアまたは有機アミンの塩が挙げられる。
【0040】
本明細書に記載の本発明の態様および実施形態は、態様および実施形態「からなる」もの、および/または態様および実施形態「から本質的になる」ものを包含すると理解される。
【0041】
本明細書において、「約」値または「約」パラメータという場合、その値またはパラメータそれ自体を対象とした変動を包含(および説明)している。例えば、「約X」という記載は「X」という記載を包含する。
【0042】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈によって特に明示されない限り、複数の指示対象を包含する。
【0043】
本開示を実施するための形態
本開示の方法は、単独療法として、または第二の抗がん療法と組み合わせて、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤を投与することによって、前立腺がんの原発腫瘍の成長もしくは形成、または前立腺がんの転移を治療、低減、予防することを含む。
【0044】
EphB4-エフリンB2阻害剤
EphB4は、最も大きな受容体型チロシンキナーゼファミリーのメンバーであり、脊椎動物における16種のうちの最初のもの(EphA1)がエリスロポエチン産生肝細胞癌細胞株からクローニングされた。Eph受容体と相互作用する(interating)エフリンリガンドも膜結合性である。EphA(EphA1~8、10)亜群リガンド(エフリンA1~5)はグリコシル-ホスファチジルイノシトールGPIアンカーを介して細胞表面に局在しており、一方、Bファミリーリガンド(エフリンB1~3)は膜貫通型タンパク質である(Galeら、Neuron、17巻(1号):頁9-19、1996年)。細胞と結合しているため、Eph-エフリン相互作用は細胞と細胞の接触時に生じる。Ephとエフリンの二量体が高親和性のヘテロ四量体複合体を形成し、これにより、受容体発現細胞およびリガンド発現細胞における双方向性のシグナルが惹起される(Dravisら、Dev Biol、271巻(2号):頁272-290、2004年)。Ephおよびエフリンは、細胞局在、組織境界形成、および軸索誘導における重要な生物学的機能を制御している。また、Ephおよびエフリンは、腸陰窩・絨毛細胞における前駆細胞および成熟細胞の適切なポジショニング(Jubbら、Clin Cancer Res、11巻(14号):頁5181-5187、2005年)、並びに泌尿生殖器系における尿道発生(Peuckertら、Kidney Int、90巻(2号):頁373-388、2016年)においても必要とされる。
【0045】
本発明者らは以前に、遺伝子発現レベルおよびタンパク質発現レベルの両方で、PCにおけるEphB4の誘導を示した(Xiaら、Cancer Res、65巻(11号):頁4623-4632、2005年)。PCにおけるEphB4の潜在的役割と一致して、EphB4はPCを促進することが以前に示された(Alazzouziら、Cancer Res、65巻(22号):頁10170-10173、2005年)。本発明者らは以前、EphB4がPI3K経路およびβ-カテニン経路により前立腺がんにおいて誘導されることを示した(Batlleら、Cell、111巻(2号):頁251-263、2002年;Kumarら、Cancer Res、69巻(9号):頁3736-3745、2009年)。EphB4はPI3K経路のさらなる活性化により腫瘍細胞に生存優位性を与える。対照的に、EphB受容体ファミリーの別のメンバーであるEphB2は、機能喪失型変異が特にアフリカ系アメリカ人男性において前立腺がんのリスクを増大させることから、腫瘍抑制因子として機能する(Robbinsら、PLoS One、6巻(5号)、e1949、2011年)。また、本発明者らは以前、結腸がんおよび膀胱がんにおいて、EphB2発現が腫瘍形成中に減少し、それに伴いEphB4が誘導されることを確認した(Ozgurら、Urol Oncol、29巻(1号):頁78-84、2011年;Stephensonら、BMC Mol Biol、2巻、頁15、2001年)。
【0046】
EphB4は、それ自体は癌遺伝子ではないが、PTEN減少および/またはPI3K活性化という状況で、発がんイニシエーションを促進し得る。PI3K活性化によりEphB4誘導がもたらされることが以前に示された(R.Liuら、BMC Cancer、13巻:頁269、2013年)。次いで、EphB4の活性化により、PI3K-AKT経路活性の誘導が引き起こされる。PI3K経路はPC初期では約40%、転移性PCではほぼ100%において誘導されるため、増殖因子を介した転写付加に加えて、PIKCAおよびPTENに変異が頻繁に確認される(Sarkerら、Clin Cancer Res、15巻(15号):頁4799-4805、2009年)。これまでの知見では、PCイニシエーションにおけるEphB4の役割は不明である。
【0047】
また、EphB4がPI3K-AKT経路のどこで交わっているかについても不明である。PI3KがAKTを活性化すること、およびAKTの恒常的活性化によってEphB4欠損細胞がレスキューされたことから、AKTにおいて、またはAKTの上流でEphB4が交わることが示された。EphB4はこのようにPI3Kそれ自体のレベルに関与している可能性があった。クラスIPI3Kは4つの触媒アイソフォームp110α、p110β、p110γ、およびp110δを有しており、それぞれ調節サブユニットと二量体をつくり、複合体の活性および細胞内局在を調節する。EphB4ノックダウンはPI3K p110βのみを減少させ、それがPTEN欠損細胞において最も顕著な形態であることから、それが交点であると考えられる。上皮細胞はPI3K p110αアイソフォームに依存しているが、PTENが欠失している場合、PI3K p110βを介してシグナル伝達し、腫瘍を進行させる。
【0048】
EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤が、本発明者らによって以前に報告された(例えば、米国特許第7,381,410号;同第7,862,816号;同第7,977,463号;同第8,063,183号;同第8,273,858号;同第8,975,377号;同第8,981,062号;同第9,533,026号を参照;それぞれは全ての目的においてその全体が参照によって本明細書に援用される)。本発明の各種実施形態において、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤は、EphB4タンパク質もしくはエフリンB2タンパク質の単量体リガンド結合部分、またはEphB4もしくはエフリンB2に結合し作用する抗体である。各種実施形態において、上記ポリペプチド剤は、エフリンB2ポリペプチドに特異的に結合し、EphB4タンパク質の細胞外ドメインのアミノ酸配列を含む、可溶性EphB4(sEphB4)ポリペプチドである。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、EphB4タンパク質の球状ドメインを含む。
【0049】
各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列の、1~522番残基と少なくとも90%同一の配列、1~412番残基と少なくとも90%同一の配列、および1~312番残基と少なくとも90%同一の配列からなる群から選択される配列を含む。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、球状(G)ドメイン(配列番号1の29~197番アミノ酸)と、所望により、システインリッチドメイン(配列番号1の239~321番アミノ酸)、第一フィブロネクチン3型ドメイン(配列番号1の324~429番アミノ酸)、および第二フィブロネクチン3型ドメイン(配列番号1の434~526番アミノ酸)などの追加のドメインとを含む配列を含み得る。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~537番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~427番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~326番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の1~197番、29~197番、1~312番、29~132番、1~321番、29~321番、1~326番、29~326番、1~412番、29~412番、1~427番、29~427番、1~429番、29~429番、1~526番、29~526番、1~537番、および29~537番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、配列番号1の16~197番、16~312番、16~321番、16~326番、16~412番、16~427番、16~429番、および16~526番アミノ酸を含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、エフリンB2結合活性を保持しながら、前述のアミノ酸配列のいずれかと少なくとも90%、所望により95%または99%同一のアミノ酸配列を含むものであってもよい。各種実施形態において、配列番号1に示される配列からのアミノ酸配列におけるいずれの変化も、特に表面ループ領域内の、わずか1個、2個、3個、4個、または5個のアミノ酸の保存的な変化または欠失である。
【0050】
各種実施形態において、Fc融合タンパク質としての発現または別の多量体化ドメインとの融合などにより、多量体形態の可溶性ポリペプチドが作製されてもよい。
【0051】
各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、エフリンB2結合活性を保持しながら血中半減期を増加させる追加の成分をさらに含むこととなる。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは単量体であり、1または複数のポリオキシアルキレン(polyoxyaklylene)基(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)に共有結合的に連結されている。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、単一のポリエチレングリコール(PEG)基に共有結合的に連結されている(以下、「sEphB4-PEG」)。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、2個、3個、またはそれ以上のPEG基に共有結合的に連結されている。
【0052】
各種実施形態において、上記の1または複数のPEGは、約1kDa~約100kDa、約10~約60kDa、約10~約40kDaの範囲の分子量を有するとしてもよい。PEG基は直鎖PEGであっても分岐PEGであってもよい。各種実施形態において、the 可溶性単量体sEphB4複合体は、好ましくはsEphB4リジンのs-アミノ基またはN末端アミノ基を介して、約10~約40kDa、または約15~30kDaの1つのPEG基に共有結合的に連結したsEphB4ポリペプチド(モノPEG化EphB4)を含む。各種実施形態において、sEphB4は、sEphB4リジンのs-アミノ基およびN末端アミノ基からなる基のうちの1つのアミノ基においてランダムにPEG化されている。
【0053】
各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、実質的にエフリンB2結合性を減弱させずに半減期を向上させる第二安定化ポリペプチドと安定に結び付けられている。各種実施形態において、上記の安定化ポリペプチドは、ヒト患者(または畜患、この場合、動物への使用が企図される)と免疫適合性であり、重要な生物活性をほとんどまたは全く持たない。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、ヒト血清アルブミン(HSA)(以下、「sEphB4-HSA」)およびウシ血清アルブミン(BSA)(以下、「sEphB4-BSA」)からなる群から選択されるアルブミンと共有結合的または非共有結合的に結び付けられている。sEphB4-HSAは、123.3kDaの単一の境目のないタンパク質として発現された後にアルブミンとC末端で融合された可溶性EphB4細胞外ドメインから構成される完全ヒト融合タンパク質である。sEphB4-HSAはエフリンB2に特異的に結合する。腫瘍モデルにおけるsEphB4-HSAの予備研究では、腫瘍へのT細胞およびNK細胞の遊走増加が示されている。これは、腫瘍血管におけるICAM-1の誘導を伴う。ICAM-1は、内皮へのT細胞およびNK細胞の接着と、その後の腫瘍への細胞の遊出を促進するインテグリンである。sEphB4-HSAは、腫瘍細胞および腫瘍血管において、EphB-エフリンB2相互作用をブロックすることによる、PI3Kシグナル伝達のダウンレギュレーションも示す。膜貫通型タンパク質であるエフリンB2は腫瘍血管で誘導されている。エフリンB2は、腫瘍細胞において誘導されるEphB受容体型チロシンキナーゼファミリーのいくつかのメンバーと結合する。エフリンB2-EphB4は双方向性のシグナル伝達を誘導する。sEphB4-HSAは、このシグナル伝達をブロックし、腫瘍への免疫細胞輸送を促進し、PI3K経路をダウンレギュレートすることにより腫瘍細胞における生存シグナルを阻害する。
【0054】
各種実施形態において、上記の共有結合は、sEphB4ポリペプチドのヒト血清アルブミンとの同時翻訳融合体としての発現によって達成されてもよい。アルブミン配列は、sEphB4ポリペプチドのN末端、C末端、または非破壊的内部位置に融合されてよい。sEphB4の露出されたループはアルブミン配列を挿入するための適切な位置となるだろう。アルブミンは、化学的架橋などによってsEphB4ポリペプチドに翻訳後結合されてもよい。各種実施形態において、sEphB4ポリペプチドは、2つ以上のアルブミンポリペプチドと安定的に結び付けられてもよい。
【0055】
各種実施形態において、sEphB4-HSA融合体は、エフリンB2とEphB4との間の相互作用、エフリンB2もしくはEphB4のクラスター化、エフリンB2もしくはEphB4のリン酸化、またはこれらの組み合わせを阻害する。各種実施形態において、sEphB4-HSA融合体は、未改変の野生型ポリペプチドと比べて、インビボ安定性が増強されている。
【0056】
各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~197番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~312番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~321番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~326番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~412番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~427番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~429番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~526番残基を含む。各種実施形態において、sEphB4-HSAは、配列番号2の25~609番残基に直接融合した配列番号1の16~537番残基を含む。
【0057】
前立腺がん
前立腺がんは、男性において最も一般的な非皮膚性悪性腫瘍であり、西欧諸国ではがんに由来する男性の主要死因の第2位となっている。前立腺がんは前立腺における異常細胞の無制御な成長を原因とする。前立腺がん腫瘍が発達すると、テストステロンなどのアンドロゲン類が前立腺がん腫瘍増殖を促進する。初期段階では、局所的な前立腺がんが、前立腺の外科的切除および放射線療法などを含む局所療法で治療される場合が多い。しかし、局所療法が前立腺がんを治癒できない場合、これは男性の3分の1にまでのぼることであるが、この疾患は不治の転移性疾患へと進行する(すなわち、がんが身体の一部分から他の部分へと広がった疾患)。本明細書で使用される場合、用語「前立腺がん」は、最も広い意味で使用され、前立腺組織から生じた全ての病期および全ての形態のがんを指す。用語「前立腺がん」は、前立腺組織に位置するあらゆる種類の悪性(すなわち非良性)腫瘍を包含し、例えば、前立腺腺癌、前立腺肉腫、未分化前立腺がん、前立腺扁平上皮癌、前立腺管移行性癌、および前立腺上皮内腫瘍などである。
【0058】
AJCC Cancer Staging Manual(第7版、2010年)の米国がん合同委員会(AJCC)のTNM(tumor,node,metastasis)病気分類システムによれば、各種ステージの前立腺がんは以下の通りに定義される:腫瘍:T1:触知もイメージングによる可視化もできない臨床的に不顕性の腫瘍、T1a:切除された組織の5%以下における腫瘍の偶発的組織所見、T1b:切除された組織の5%超における腫瘍の偶発的組織所見、Tic:針生検で特定された腫瘍;T2:前立腺内に限局している腫瘍、T2a:腫瘍が片葉の1/2以下に及ぶ、T2b:腫瘍が片葉の1/2超に及ぶが、両葉ではない、T2c:腫瘍が両葉に及ぶ;T3:腫瘍が前立腺の被膜を超えて広がる、T3a:被膜外への進展(片側性または両側性)、T3b:腫瘍が精嚢に浸潤;T4:腫瘍が精嚢以外の隣接構造体(膀胱頸部、外括約筋、直腸、挙筋、または骨盤壁(pelvic wail))に固定または浸潤。通常、臨床的T(cT)病期はT1またはT2であり、病態的T(pT)期はT2以上である。節:N0:所属リンパ節転移なし;N1:所属リンパ節における転移。転移:M0:遠隔転移なし;M1:遠隔転移あり。
【0059】
PCはARシグナル伝達により駆動される、進行後の疾患では第一選択療法のアンドロゲン除去療法が治療の土台となっているが、腫瘍はAR機能を維持したまま除去に抵抗性となる。例えば、AR遺伝子増幅は高感度化をもたらす可能性があり、一方、リガンド結合ドメインにおける変異はエストロゲン、プロゲステロン、およびグルココルチコイドと結合してARシグナル伝達を活性化する可能性がある。AR変異は、リガンド結合とは無関係の恒常的な活性化に繋がることもある。皮肉なことに、PI3K経路の活性化はしばしばARレベルを減少させるため、Pan-PI3K阻害剤によるPI3K経路の阻害はAR経路の活性をアップレギュレートする。同様に、AR阻害は、部分的にはPHLPPホスファターゼの減少によるpAKTの維持によって、PI3K経路を活性化する(Carverら、Cancer Cell、19巻(5号):頁575-586、2011年)。従って、これら2つの経路は互いに逆に制御し合い、互いの阻害剤に対する回避機構となっている。本明細書に記載されているように、本発明者は、sEphB4-HSAがARそれ自体に影響を与えるかどうかを評価することにし、PI3K阻害剤を用いた場合に見られるようにARが増加する可能性があると仮定した。これを受けて、sEphB4-HSA処置マウス由来の腫瘍におけるARを測定した。驚くべきことに、ARレベルに顕著な減少が確認された。本発明者はまた、sEphB4-HSAがPTEN欠損に関連したPI3Kβ阻害を起こし得るか、また、PI3βがAR減少の原因であるかどうかを評価した。PI3KβはAR発現を誘導するが(Zhuら、Oncogene、27巻(33号)、頁4569-4579、2008年)、PI3KαはAR発現を誘導しないことが示されている。PI3Kアイソタイプ特異的阻害剤によって、PI3KβがARレベルの制御に関与していることが示された。また、EphB4の減少はPI3K p110β阻害で最も顕著であった。同様に、EphB4阻害はARを低下させたが、p110βを発現させることでレスキューされた。すなわち、EphB4はPI3Kを制御するだけでなく、ARレベルの調節も行っている。
【0060】
治療方法
各種実施形態において、本発明は、係る治療を必要としている対象における前立腺がんを治療する方法であって、EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤の治療有効量を上記ヒトに投与することを含む、方法に関する。
【0061】
各種実施形態において、本発明は、係る治療を必要としている対象における前立腺がんを治療する方法であって、a)EphB4またはエフリンB2を介した機能を阻害するポリペプチド剤の治療有効量を上記ヒトに投与すること、およびb)第二の抗がん療法の治療有効量を投与すること、を含む、方法に関する。上記の併用療法は相乗的なものであってもよい。上記の併用療法は抗がん療法の治療指数を増加させるものであってもよい。
【0062】
各種実施形態において、上記の第二の抗がん療法は、アンドロゲン除去療法(ADT)、AR標的療法、ホルモン除去療法、免疫療法、化学療法、特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた標的治療、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた標的治療、免疫複合体、ADC、または特定の腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による標的治療、小分子キナーゼ阻害剤標的療法、外科手術、放射線治療、DHT遮断薬を用いた治療、および幹細胞移植からなる群から選択される。各種実施形態において、上記の第二の抗がん療法は、CD276、CD272、CD152、CD223、CD279、CD274、TIM-3、およびB7-H4を含むがこれらに限定はされないリストからの、免疫チェックポイントタンパク質抗原と特異的に結合する抗体;または、当該技術分野において教示される任意の免疫チェックポイントタンパク質抗原抗体の投与を含む。
【0063】
アンドロゲン除去療法(「ADT」)またはアンドロゲン抑制療法は、精巣のテストステロン産生を抑制するために実施される。ADTは手術による去勢(精巣摘除術)を包含する。本明細書で使用される場合、「アンドロゲン」または「アンドロゲン化合物」とは、テストステロン、ジヒドロテストステロン、アンドロステンジオン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオール、アンドロステロンなどを指す。各種実施形態において、「アンドロゲン」とは、テストステロンまたはジヒドロテストステロンを指す。本明細書で使用される場合、「抗アンドロゲン化合物」とは、体内のアンドロゲンレベルを低下させることができる任意の化合物を指す。抗アンドロゲン化合物は、小分子、ペプチド、またはタンパク質とすることができる。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物とは、化学的な精巣摘除に使用される化合物を指す。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アンタゴニストである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アゴニストである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アンタゴニストである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物は、アバレリックス、アビラテロン、アパルタミド、ビカルタミド、デガレリクス、エンザルタミド、フルタミド、ゴセレリン、リュープロレリン(別名リュープロリド)、ニルタミド、オザレリクス、またはこれらのうちの2以上の組み合わせである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はアバレリックスである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はアビラテロンである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はアパルタミドである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はビカルタミドである。実施形態において、抗アンドロゲン化合物はデガレリクスである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はエンザルタミドである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はフルタミドである。実施形態において、抗アンドロゲン化合物はゴセレリンである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はリュープロレリンである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はニルタミドである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物はオザレリクスである。各種実施形態において、抗アンドロゲン化合物は、薬剤的に許容できる塩の形態である。各種実施形態において、上記薬剤は、ARシグナル経路を標的とする薬剤であり、例えば、より有効性が高い抗アンドロゲン薬、CYP17の阻害剤、アンドロゲン合成に必要な酵素、5α-還元酵素の阻害剤、ARを分解から保護するHSP90の阻害剤、最適なAR介在性転写に必要なヒストン脱アセチル化酵の阻害剤、およびチロシンキナーゼ阻害剤の阻害剤が挙げられる。
【0064】
本明細書で使用される場合、抗ホルモン療法は、選択されたホルモンまたはその効果を抑制するホルモン除去療法の1種である。抗ホルモン活性は、ホルモン機能をアンタゴナイズすることによって(例えば、ホルモン類似体もしくはホルモンアンタゴニスト、またはホルモンとその受容体との結合/結び付きをブロックする組成物(例えば、ホルモン遮断組成物または遮断物質)で)、および/または、ホルモン産生を阻止もしくは低減することによって、達成することができる。これは、薬剤、放射線、および/または外科的アプローチでなすこともできる。ある種のホルモンの抑制は、ある種のホルモンが腫瘍の成長を促進または助長しているがん患者に有益である可能性がある。例えば、内在性アンドロゲン産生を低減し体内のアンドロゲンレベルを低くするゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストなどの試薬を用いるアンドロゲン除去療法を、前立腺がんの治療に用いることができる。
【0065】
本明細書で使用される場合、用語「免疫療法」とは、以下を含むがこれらに限定はされないがん治療を指す:特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた治療;抗体薬物複合体を用いた治療;CTLA-4、PD-1、OX-40、CD137、GITR、LAG3、TIM-3、およびVISTAなどの共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた治療;ブリナツモマブなどの二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE(登録商標))を用いた治療:IL-2、IL-12、IL-15、IL-21、GM-CSF、IFN-α、IFN-β、およびIFN-γなどの生物学的応答調節物質の投与を含む治療;シプロイセルTなどの治療用ワクチンを用いた治療;樹状細胞ワクチンまたは腫瘍抗原ペプチドワクチンを用いた治療;キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞を用いた治療;CAR-NK細胞を用いた治療;腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を用いた治療;養子移植抗腫瘍T細胞(生体外で増殖された且つ/またはTCRトランスジェニックのT細胞)を用いた治療;TALL-104細胞を用いた治療;並びに、Toll様受容体(TLR)アゴニストのCpGおよびイミキモドなどの免疫刺激剤を用いた治療。
【0066】
共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた免疫療法は、広範な研究および臨床評価の一領域であった。免疫チェックポイントタンパク質としては、CTLA-4、PD-1、LAG-3、およびTIM-3、並びに他のいくつかが挙げられる(Pardoll DM.、Nat Rev Cancer、12巻:頁252‐64、2012年;Sharpeら、Nat Immunol、8巻:頁239‐45、2007年)。通常の生理的条件下では、免疫チェックポイントは自己寛容の維持(すなわち、自己免疫の防止)において極めて重要であり、免疫系が病原性感染に応答している際に組織をダメージから保護する。また、腫瘍は、特に腫瘍抗原に特異的なT細胞に対する、免疫耐性の主な仕組みとして、ある特定の免疫チェックポイント経路を取り込むことが、今では明らかとなっている(Pardoll DM.、Nat Rev Cancer、12巻:頁252‐64、2012年)。これを受けて、例えば、CTLA-4(イピリムマブ)、PD-1(ニボルマブ;ペンブロリズマブ;ピジリズマブ)、およびPD-L1(BMS-936559;MPLD3280A;MEDI4736;MSB0010718C)(例えば、PhilipsおよびAtkins、International Immunology、27巻(1号);頁39-46、2014年10月を参照)、並びにOX-40、CD137、GITR、LAG3、TIM-3、およびVISTA(例えば、Sharonら、Chin J Cancer.、33巻(9号):頁434-444、2014年9月;Hodiら、N Engl J Med、2010年;Topalianら、N Engl J Med、366巻:頁2443‐54を参照)を包含する免疫チェックポイント分子に対する抗体を用いた治療が、がんなどの増殖性疾患を有する患者、特に難治性且つ/または再発性のがんを有する患者を治療するための、新規の代替免疫療法としての評価を受けている。これらの免疫療法のいくつかは、劇的な恩恵と大きな見込みを示したが、重篤な副作用の可能性に対する懸念と、多くの腫瘍が標的抗原を欠損してことから治療を回避するという事実によって、制限を受けている。通常、各種がん患者の約20%がPD-1/PD-L1抗体またはCTLA-4抗体に応答する。従って、免疫チェックポイント療法(ICT)に応答しない再発がん患者および/または難治性がん患者を治療するための新規の改善された免疫療法が、極めて重要なアンメットニーズとなっている。
【0067】
各種実施形態において、上記の追加の治療法は、CD276、CD272、CD152、CD223、CD279、CD274、TIM-3、およびB7-H4を含むがこれらに限定はされないリストからの、免疫チェックポイントタンパク質抗原と特異的に結合する抗体;または、当該技術分野において教示される任意の免疫チェックポイントタンパク質抗原抗体の投与を含む。
【0068】
併用療法の性質にもよるが、本発明のポリペプチド治療薬の投与は、他方の治療法が施行されている間および/またはその後に、継続されてもよい。ポリペプチド治療薬は、追加の抗がん療法の前、同時、または後、通常は少なくとも約1週間以内、少なくとも約5日間以内、少なくとも約3日間以内、少なくとも約1日間以内に、投与されてもよい。ポリペプチド治療薬は、単回投与で送達されてもよいし、あるいは、複数回投与に分割されてもよく、例えば、一定期間に渡って送達されてもよく、毎日、1日2回、週2回、毎週の送達などが挙げられる。有効量は、投与経路、特定の薬剤、抗がん剤の用量などによって変わることとなり、当業者が経験に基づいて決定してもよい。
【0069】
各種実施形態において、患者は、以前に抗がん療法による治療に応答したが、治療の休止後、再発(以下、「再発性増殖性疾患」)を引き起こしたものである。
【0070】
各種実施形態において、患者は抵抗性または難治性のがんを有する。各種実施形態において、上記のがんはアンドロゲン除去療法に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんはAR標的療法に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんはホルモン除去療法に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは免疫療法による治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは化学療法剤を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、免疫複合体、抗体薬物複合体(ADC)、または特定の腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による標的治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、小分子キナーゼ阻害剤による標的治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、DHT遮断薬を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、放射線を用いた治療に対して難治性のものである。各種実施形態において、上記のがんは、例えば、以下のうちの2つ以上を含む併用療法に対して難治性のものである:免疫療法による治療、化学療法剤による治療、特定の腫瘍抗原に対する除去抗体を用いた治療、共刺激分子または共抑制分子(免疫チェックポイント)に対するアゴニスト抗体、アンタゴニスト抗体、または阻止抗体を用いた治療、免疫複合体、ADC、または特定の腫瘍抗原に対する除去抗体と細胞毒とを含む融合分子による治療、小分子キナーゼ阻害剤による標的治療、外科手術を用いた治療、幹細胞移植を用いた治療、DHT遮断薬を用いた治療、および放射線を用いた治療。
【0071】
医薬組成物
各種実施形態において、本発明のポリペプチド治療薬は、活性治療薬と、すなわち、種々の他の薬剤的に許容できる成分とを含む医薬組成物として、しばしば投与される。(Remington’s Pharmaceutical Science、第15版、マック出版社(Mack Publishing Company)、イーストン、ペンシルベニア州、1980年を参照)。好ましい形態は、目的の投与様式および治療適用に応じて変わる。上記組成物には、所望の製剤に応じて、薬剤的に許容できる無毒の担体または希釈剤を含ませることもでき、これらは動物投与またはヒト投与用の医薬組成物を製剤化するのに通常使用される溶剤と定義される。希釈剤は、組み合わせたものの生物活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例としては、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖液、およびハンクス液がある。加えて、医薬組成物または製剤には、他の担体、補助剤、または無毒性の、治療を目的としていない、非免疫原性の安定剤などを含ませてもよい。
【0072】
各種実施形態において、原発性がんまたは転移性がんの治療用の医薬組成物は、非経口的、局所的、静脈内、腫瘍内、経口的、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内、または筋肉内手段により投与することができる。
【0073】
非経口投与の場合、本発明の医薬組成物は、注射用の用量の、水、油、食塩水、グリセロール、またはエタノールなどの滅菌液であり得る医薬担体を含む生理学的に許容される希釈剤中の当該物質の溶液または懸濁液として、投与することができる。さらに、湿潤剤、乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質などの補助剤を組成物中に存在させることもできる。医薬組成物の他の成分として、石油由来、動物由来、野菜由来、または合成由来のものがあり、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、およびミネラルオイルなどである。通常、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールが、特に注射剤用の、好ましい液体担体である。抗体および/またはポリペプチドは、有効成分の徐放を可能にするように製剤化され得る蓄積注射または移植製剤の形態で投与することができる。典型的には、医薬組成物は、溶液または懸濁液としての注射剤として調製され;注射前の液体溶剤への溶解または懸濁に好適な固体形態を調製することもできる。上記の調製物は、前述のようなアジュバント効果を増強するための、リポソーム、またはポリ乳酸、ポリグリコール酸、もしくはコポリマーなどの微小粒子中に、乳化またはカプセル化することもできる。Langer、Science、249巻:頁1527、1990年、およびHanes、Advanced Drug Delivery Reviews、28巻:頁97-119、1997年。本発明のポリペプチド剤は、有効成分の徐放またはパルス放出を可能にするように製剤化され得る蓄積注射または移植製剤の形態で投与することができる。
【0074】
他の投与様式に好適なさらなる製剤として、経口用、鼻腔内用、および肺内用の製剤、坐剤、並びに経皮適用が挙げられる。
【0075】
各種実施形態において、本発明の方法は、治療を必要としている患者に、本発明のsEphB4-HSAポリペプチドの治療有効量または有効量を投与することを含む。各種実施形態において、本明細書に記載の、例えば原発性がんまたは転移性がんの治療のための、本発明のポリペプチド(polypetide)の有効量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか動物であるか、施行される他の薬物治療、および治療が予防目的であるか治療目的であるか、を含む種々の要因に応じて変化する。通常、患者はヒトであるが、遺伝子導入哺乳類を含むヒト以外の哺乳類も治療できる。治療投与量は安全性および有効性を最適化するように用量設定する必要がある。
【0076】
各種実施形態において、上記投与量は、ホスト体重の、約0.0001~100mg/kgの範囲を取ってもよく、通常は0.01~5mg/kgの範囲をとる。例えば、投与量は、1mg/kg体重または10mg/kg体重または1~10mg/kgの範囲内とすることができる。各種実施形態において、患者に投与されるポリペプチドの投与量は、約0.5mg/kg、約1.0mg/kg、約1.5mg/kg、約2.0mg/kg、約2.5mg/kg、約3.0mg/kg、約3.5mg/kg、約4.0mg/kg、約4.5mg/kg、約5.0mg/kg、約6.0mg/kg、約7.0mg/kg、約8.0mg/kg、約9.0mg/kg、および約10.0mg/kgからなる群から選択される。各種実施形態において、治療レジメン(treatment regime)は、2週間毎に1回、または月1回、または3~6か月毎に1回の投与を伴う。本発明の治療物質は、通常、複数回投与される。1回の投与の間隔は毎週、隔週、毎月、または毎年とすることができる。患者内の治療物質の血中レベルを測定することで、表示のように、間隔を不規則にすることもできる。あるいは、本発明の治療物質は、徐放性製剤として投与することができ、その場合、必要な投与頻度は少なくなる。投与量および頻度は患者内のポリペプチドの半減期に応じて変わる。
【0077】
本明細書に記載のポリペプチドの毒性は、標準的な薬学的手法によって、細胞培養液または実験動物において、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)またはLD100(集団の100%に致死的な用量)を求めることによって、求めることができる。毒性効果と治療効果の用量比が治療指数となる。これらの細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトでの使用の場合に毒性とならない用量域を求める際に使用できる。本明細書に記載のポリペプチドの投与量は、毒性がほとんどまたは全くない有効量を含む血中濃度の範囲内であることが好ましい。投与量は、採用された剤形および使用される投与経路に応じて、この範囲内で変更できる。正確な製剤、投与経路、および投与量は、患者の状態を考慮して、対象医師(subject physician)が選択することができる。(例えば、Finglら、1975年、The Pharmacological Basis of Therapeutics、第1章を参照されたい)。
【実施例
【0078】
以下の実施例は本開示をさらに詳細に説明するためのものである。
【0079】
実施例1
本実施例では、PCにおけるEphBの役割を明らかにするために、TCGA(The Cancer Genome Atlas)データベース内の492人のPC患者において、EphB-エフリンB遺伝子発現解析を行った。その結果、EphB受容体のうち、前立腺がんではEphB4が最も高発現であり、次いでEphB3、EphB6となった。EphB2とEphB1のレベルは有意に低かった(図1A)。リガンドのうち、EphB4の同族受容体であるエフリンB2のみが高レベルで発現し、エフリンB1とエフリンB3は非常に低いレベルである。
【0080】
次いで、74のPC試料と40の正常前立腺組織において、エフリンB2タンパク質発現を測定した。エフリンB2は、前立腺がん組織の58%で高発現していた 腫瘍細胞、腫瘍血管、および間質は全てエフリンB2陽性に染色されたが、40の正常前立腺腺と正常血管は全て陰性であった(図1B)。グリソングレードとエフリンB2発現には相関がなかった。次に、グリソングレードとエフリンB2発現の相関関係を分析した。驚くべきことに、グリソングレードとステージが増加してもエフリンB2は増加しなかった。このことは、エフリンB2が前立腺がんの全ての腫瘍グレードおよびステージでアップレギュレートされていることを示している(表1参照)。
【0081】
【0082】
実施例2
本実施例では、EphB4とエフリンB2の発現が、Ptenの機能喪失、ひいてはPI3K経路の活性化によって制御されるかどうかを確認するための実験を行った。具体的には、前立腺特異的プロバシンプロモーター下でのコンディショナルなPten-/-ルシフェラーゼ(cPten-/-L)レポーターを実施した(下記「方法および材料」の項を参照)。ルシフェラーゼ発現により、リアルタイムで生きたままマウス腫瘍をイメージングすることができ、プロバシン駆動型のCreによりPten対立遺伝子の欠失が生じる。PCの発生は、テストステロンが上昇し始める9週齢に始まる。原発性前立腺がんの成長を生物発光画像法(BLI)により非侵襲的に追跡した(R.S.Liaoら、Transl Androl Urol、2巻(3号):頁187-196、2013年)。6~8週齢から始めて、2週間間隔で52週間まで、45匹のマウスからなるコホートをBLIを用いてモニターした。前立腺がん担持を表すルシフェラーゼの発現は、経時的に増加した(図1C)。生物発光シグナルの青から緑、赤への変化は、腫瘍量の増加を示している。マウス前立腺におけるEphB4発現を、免疫組織化学(IHC)、およびウェスタンブロッティングにより測定した。腫瘍ではEphB4発現の増加が見られたが、正常な前立腺では発現は見られなかった(図1Dおよび図1E)。また、他のEphB受容体ファミリーメンバー(EphB1、EphB2、EphB3)の発現についても調べた。EphB2はウェスタンブロットでは顕著な変化を示さなかったが(図1E)、定量的PCRでは、Cre-Pten-/--ルシフェラーゼ(CPPL)マウスのmRNAレベルにおいて、EphB2のダウンレギュレーションとEphB4の増加が同時に見られた。EphB1レベルは定量的PCRで検出不可であった(図1F)。さらに、腫瘍組織と正常組織の間で、EphB3レベルに有意な変化は見られなかった(図1Eおよび図1F)。このように、Ptenの消失とPI3Kの誘導により、ヒトPCと同様のEphB-エフリンB2受容体-リガンドが発現すると考えられる。
【0083】
実施例3
本実施例では、Ptenヌルマウス前立腺がんにおける前立腺がんの発生および進行にEphB4が必要であるかどうかを調べるための研究を行った。Pten欠失と同様の、前立腺上皮における、EphB4コンディショナルノックアウト(EphB4 CKO)マウスのための、EphB4のloxP導入対立遺伝子を作製した(図2A)。遺伝子型同定によって、野生型EphB4(EphB4野生型/野生型:189bp)、ヘテロ接合型loxP導入EphB4(EphB4flox/野生型:189bpおよび282bp)、およびホモ接合型loxP導入EphB4(EphB4flox/flox:282bp)が確認された(図2B)。コンディショナルなEphB4欠失の表現型を確認するために、EphB4flox/flox(EphB4f/f)マウスをCMV-Creマウスと交配させて、全遺伝子欠失(global gene deletion)を行った。胚体全身マウスEphB4ホモ接合欠失は、E8.5で形態的欠陥を示し、E9.5~E10.5で胚性致死を示した(図10)。これは、以前に報告(Geretyら、Mol Cell、4巻(3号):頁403-414、1999年)された古典的なEphB4ノックアウトによるE9.5~10.5における胚性致死と一致する。一方、ヘテロ接合型の胚には明らかな欠陥はなかった。成人期のEphB4の役割を調べるために、12週齢のマウスにおいて、EphB4f/fマウスとタモキシフェン誘導性CMV-Creマウスを交配することで、マウス全身のコンディショナル欠失を行った。15匹のマウスを20か月間モニターした。明白な表現型は見られなかった。剖検時に採取した心臓、肺、肝臓、腎臓、大腸、脳を含む多臓器の分析において、組織学的検査で異常は見られなかった(データ未記載)。これらのデータをまとめると、EphB4は胚発生では極めて重要な必要性を有するが、成体では必要とされないことが示唆された。
【0084】
次に、Ephb4f/f;CPPL前立腺組織におけるEphBの発現を調べた。EphB4のRNAレベルは、EphB4ヘテロ接合体で有意に減少し、ホモ接合型ノックアウトCPPLマウスではさらに大きく減少した(図2F)。
【0085】
前立腺がんの発生におけるEphB4の役割をPten欠失と絡めて調べるために、loxP導入EphB4マウスをCPPLマウスと交配した。これらのマウスを7か月間モニターした。Ephb4を欠失させた場合、29匹中16匹のマウスにおいてPCの発生が阻止され、残りの13匹のマウスで確認された腫瘍の発生も最小限であった(図3A、11)。Ephb4ノックアウトマウスは、ルシフェラーゼシグナルの定量的測定による評価において、これら29匹のマウスにおけるルシフェラーゼレベルが著しく低く、それと比較して14匹の対照マウスではシグナル強度に顕著な増加がみられた(Pten-/-;Ephb4-/-対Pten-/-;Ephb4+/+)(図3B)ことから示されるように、腫瘍の進行がないか、非常に遅かった。これらの観察結果は、前立腺組織分析の結果と一致していた。EphB4野生型Ptenヌルマウス(Ephb4+/+;CPPL)およびEphb4ヘテロ接合Ptenヌル動物(Ephb4f/+;CPPL)では、前立腺は両側に大きな腫瘍を形成した。対照的に、Ephb4とPtenをノックアウトした遺伝子型(Ephb4f/f;CPPL)では、正常な見た目の前立腺が得られた(図3C)。Ptenヌルマウス(Ephb4+/+;CPPL)の前立腺から採取した腫瘍はEphB4レベルの上昇を示したが、野生型(Pten+/+;Ephb4+/+)およびEphb4ノックアウトCPPLマウス(Ephb4f/f;CPPL)の前立腺では最小限のシグナルしか得られなかった(図3D)。前立腺の病理学的分析において、Ephb4欠損マウスでは、ほぼ正常な見た目の腺構造が示されたが、腺構造の細胞充実性にいくらかの増加が見られ、それと比較して、Ptenノックアウトマウスでは密な腫瘍が見られ、正常な構造が失われていた(図3E)。Ephb4野生型群と比較して、Ephb4ヌル群(CPPL;Ephb4f/f;)では、腺構造においてアポトーシスが増加し、増殖が減少することが明らかになった(図3F)。Ephb4ノックアウトPtenヌルマウスの組織解析では、PTEN、EphB4、リン酸化AKT(pAKT)、およびリン酸化S6(pS6)の顕著な減少が示された(図3G)。PTENは正常な前立腺組織では発現されていたが、CPPLマウスには存在していなかった。さらに、Ephb4ヌル群では、Ephb4野生型群と比較して、腺構造における増殖が少ないことが、Ki67の免疫組織化学により示された(図3F)。
【0086】
実施例4
本実施例では、デコイ可溶性EphB4受容体を用いてEphB4-エフリンB2双方向性シグナル伝達を遮断する研究を行った。可溶性EphB4(sEphB4)は、EphB4の完全長細胞外ドメインである。sEphB4は単量体タンパク質であり、同族リガンドであるエフリンB2と高い親和性で結合し、さらには、エフリンB2-EphB4複合体を解離させる。この結合の結果、sEphB4は、内在性エフリンB2の内在性EphB4、および他のEphB受容体への相互作用を遮断し、双方向性シグナル伝達を阻害する。sEphB4は、多くのPC異種移植モデルで活性を有するが、遺伝的マウスモデルにおけるsEphB4の活性は検証されていない。EphB4の完全長細胞外ドメインと完全長マウスアルブミンとからなるマウスタンパク質を、C末端にインフレームに組み込み、129kDの融合タンパク質(sEphB4-Alb)を作製した。この融合タンパク質はマウスにおいて24時間を超える半減期を示す。sEphB4-AlbのCPPLマウスにおける腫瘍発生の抑制活性を調べた。sEphB4-Alb治療を8週齢に開始し、その後、発がんイニシエーションを青年期(12週目以降)に開始して7か月齢目まで継続した。治療は週に3回、腹腔内(IP)投与で行った。定量的BLIで測定したところ、15匹の治療マウス全てにおいて、腫瘍発生が顕著に抑制されていた。平均して、治療群のBLIは、3か月間の治療後に、対照群と比べて70,000倍近く低くなった(P<0.05)(図4Aおよび図4B、12)。
【0087】
PtenヌルモデルにおけるsEphB4-Albの有効性が実証されたので、sEphB4-Albが樹立腫瘍の退縮を誘導できるかどうか、あるいはさらなる進行を遅らせることができるかどうかを調べる有効性試験を実施した。前立腺腫瘍の樹立がルシフェラーゼイメージングで実証された16匹のマウスを、sEphB4-Alb(n=8)またはPBS対照(n=8)のいずれかで治療した。マウスは3か月間治療し、4週間毎にBLIを行った。薬剤治療群の8匹のマウス全てで腫瘍退縮が認められ、5匹では完全な退縮が、残りの3匹ではほぼ完全な退縮が認められた(図4Cおよび図4D、13)。治療の結果、平均BLIシグナルは1.68E+08から5.13E+02まで下がった(治療コホートで300,000倍超)。試験終了後に前立腺を採取し、PI3K下流のシグナル伝達経路成分の分析を行った。EphB4野生型群と比較して、EphB4ヌル群では、腺構造におけるアポトーシス増加が認められた(図4E)。対照群と比較して、pAKTとpS6の両方が治療群で著しく低下していた(図4F)。
【0088】
実施例5
PCにおける最大のアンメットニーズとして、アンドロゲン遮断に対し難治性の進行性腫瘍に対する治療がある。比較集団におけるsEphB4-Albの有効性を評価するために、12週齢時に腫瘍を樹立した後に去勢することで、Ptenヌルマウスでアンドロゲン非依存性腫瘍を作製した。マウスは4週間毎に、去勢による腫瘍退縮とその後の再発についてモニターした。最初、生物発光シグナルは去勢後の最初の4~6週間で減少し、最終的には10~12週間かけてアンドロゲン非依存性腫瘍が再発した。その後、マウス(3匹/群)をPBSまたはsEphB4-Albで処置した。全てのsEphB4処置マウスでBLIシグナルが減少したのに対し、対照群ではシグナルが増加し続け、薬物療法群と比較して対照群では平均1万倍(または10倍)超の倍数変化が見られた(6か月間の治療後、sEphB4-Alb群では平均8.96E+02、それに対し、対照群では平均9.11E+07)(図5Aおよび図5B)。まとめると、sEphB4-Albがアンドロゲン非依存性腫瘍に有効であることが示唆される。本発明者にとって、去勢前の群における樹立腫瘍での有効性はやや驚くべきことであったが、去勢群における有効性はさらに驚くべきことであった。sEphB4-AlbはPI3K経路を阻害するが、本発明者はAR経路を介した腫瘍エスケープを予想していただろう。このデータに基づいて、ホルモン非依存性バリアントを含むインビトロPC細胞株におけるEphB4ノックダウンを研究することで、作用機序を探ることとした。
【0089】
実施例6
上皮増殖因子(EGF)-EGFRを含む増殖因子受容体を介してPI3K-AKT経路が活性化されると、EphB4の発現がアップレギュレートされる(Kumarら、Cancer Res、69巻(9号):頁3736-3745、2006年)。さらに、クラスター化したエフリンB2-FcによりEphB4受容体が活性化されると、リン酸化AKTレベルが増加し、正のフィードバックループが示された。以下、これをPtenノックアウト前立腺がんの遺伝的マウスモデルで検証する。このモデルの前立腺腫瘍はEphB4の誘導を示すが、EphB4をノックアウトすると、PI3K経路の活性化マーカーの減少に伴って、PCのリスクが顕著に減少する。本発明者は、EphB4のノックアウトが、PC3や去勢抵抗性前立腺がん細胞株(C4-2Bおよび22Rv1)などの前立腺がん細胞株において、PI3Kのレベルを低下させるかどうかを決定することを望んだ。EphB4 siRNAによりEphB4発現をサイレンシングしたところ(Xiaら、Oncogene、25巻(5号):頁769-780、2006年)、EphB4と、PI3K下流マーカーであるリン酸化AKT(pAKT、Thr308)およびリン酸化リボソームタンパク質S6(pS6、Ser235/Ser236;図6A)が低下した。注目すべきことに、EphB4 siRNAは、PC3細胞株とC4-2B細胞株の両方で、PI3K p110サブユニットβを特異的にダウンレギュレートしたが、p110α、γ、およびδはダウンレギュレートしなかった。PI3K p110βおよびδの各アイソフォームは、いくつかのインビトロモデルでPCの発生と転移を促進し、臨床の前立腺がん標本でのその発現は手術後の再発と関連している。また、ホスファチジルイノシトール(3,4)二リン酸(PIP2)をホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸(PIP3)に変換するPI3Kの生物学的機能も、EphB4のノックダウンによって低減し(図6B)、EphB4がPI3K活性において重要な役割を果たしていることが示された。しかし、EphB4のノックダウンは、MAPKおよびp38の全体または活性化形態には影響がなかった(図6A)。すなわち、EphB4の機能はPI3K経路に特異的である。EphB4のノックダウンは、インビトロでPC細胞の成長を阻害することが示された(Kerteszら、2006年)。PI3K活性阻害におけるEphB4 siRNAの特異性を調べるために、野生型AKTおよび体質的(constitutionally)活性AKT(Δ-AKT)の異所性発現による細胞生存レスキューアッセイ(Kohnら、J Biol Chem、271巻(36号):頁21920-21926、1996年)を行った(図6C図6D)。野生型AKTとΔ-AKTの両方が、EphB4 siRNAによるPI3K阻害をレスキューした(図6E)。これらのデータから、EphB4が、AKTレベルから上で、PI3K経路を制御していることがさらに確認された。
【0090】
EphB4がPI3Kレベルで経路を制御しているかどうかを調べるために、PI3K触媒p110アイソフォームの発現レベル。EphB4 siRNAは、PC3細胞株とC4-2B細胞株の両方で、PI3K p110サブユニットβを特異的にダウンレギュレートしたが、p110α、γ、およびδはダウンレギュレートしなかった を調べた。PI3K p110βおよびδアイソフォームは、PCの発生および転移を促進し、前立腺腫瘍における発現の場合、手術後の生化学的再発と関連している(Hillら、Prostate、70巻(7号)、頁755-764、2010年)。まとめると、これらのデータは、EphB4が、検討した細胞株において、PI3K p110βレベルでPI3K経路を制御することを示している。
【0091】
実施例7
EphB4のノックダウンは、インビトロのPC細胞株においてPI3Kアイソフォームp110βのレベルを減少させる。次に、EphB4が他のPI3K触媒アイソフォームを制御するかどうかを調べた。22RV1およびC4-2BはPI3K p110αおよびβを発現するが、他のアイソフォームは低レベルであるため、p110γおよびp110δを高レベルで発現する、造血系の白血病細胞株およびリンパ腫細胞株である、K562(赤白血病細胞株)およびRaji(バーキットリンパ腫細胞株)を陽性対照として用いた(図7A)。次に、下流シグナルであるリン酸化S6の阻害について、各PI3Kアイソフォームの特異的阻害剤を試験した。PI3K p110αアイソフォームの阻害剤(BYL719)およびβアイソフォームの阻害剤(GSK2636771)は、pS6レベルを有意に減少させたが、S6の総量は減少させなかった。p110γの阻害剤(IPI-549)またはp110δの阻害剤(GSK2269557)では、pS6レベルに変化は見られなかった(図7B)。
【0092】
p110βがアンドロゲン受容体(AR)およびAR下流シグナル伝達を誘導することと、p110βの特異的阻害がARレベルを減少させることが以前に示されている(Hillら、Prostate、70巻(7号)、頁755-764、2010年)。本発明者は、p110βの阻害がEphB4レベルおよびARレベルを減少させるが、一方で、p110α/γ/δの阻害剤はいずれのタンパク質にも影響を及ぼさないことを確認した(図7B)。従って、PCにおけるp110βを介したPI3KシグナルによるEphB4の誘導が、発がんイニシエーションと進行に繋がる可能性がある。EphB4を標的とすることで、p110βが阻害されて細胞生存率が低下するが、AR誘導を介したエスケープの可能性がある。
【0093】
実施例8
EphB4の減少がARレベルを低下させるかどうかを調べるために、EphB4をノックダウンしてARタンパク質レベルを確認する実験を行った。siRNAによりEphB4をノックダウンしたところ、去勢抵抗性PC細胞株においてARレベルが著しく低下し(図8A)、このことから、AR発現におけるEphB4の役割が支持された。さらに、CPPLマウスにおいてEphB4-エフリンB2競合的阻害剤sEphB4-Albを用いるインビボ試験を行った。定量的PCRによる、アンドロゲン受容体のmRNAレベルは、薬剤処置マウスでは対照マウスと比較して80%減少し(図8B)、EphB4ノックダウン細胞株では84%減少した(図8C、14)。PI3KアイソフォームがARのタンパク質レベルおよびmRNAレベルに対して異なる機能を有するという上記の知見に基づいて、本発明者は、EphB4がPI3K経路を介してARを制御するかどうかを調べることを目指した。EphB4ノックダウンと絡めて、AKTと各PI3Kアイソフォームによるレスキュー実験を行った。興味深いことに、AKTおよびPI3K p110βサブユニットの異所性発現によりAR発現がレスキューされたが、αおよびγの場合ではレスキューされなかった(図8D)ことから、EphB4がPI3K経路、特にp110βを介してARを制御することが示された。
【0094】
実施例9
sEphB4-HSAは、ヒトの第I相試験で試験されており、長期間の治療でも許容できる安全性が確認されている(El-Khoueiryら、European Journal of Cancer、69巻、S11、2016年;Hasinaら、Cancer Res、73巻(1号):頁184-194、2013年;Thomasら、Journal of Clinical Oncology、36巻(4号):頁285-285、2018年)。前立腺がんで臨床試験を実施する準備をしている間、本発明者は、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)を有する対象にコンパッショネート治療(compassionate treatment)を施す機会を得た。広範囲の骨、骨髄、内臓転移を伴うCRPCの68歳男性は、以前に、ADT、AR経路阻害(エンザルタミドおよびアビラテロン)、放射線、化学療法(ドセタキセル、カバジタキセル、およびカルボプラチン)、シプロイセルTおよびラジウム223を含む、9種の治療計画で失敗していた。腫瘍を分析したところ、EphB4とエフリンB2の発現が高いことが判明した(図9)。コンパッショネート使用に基づいた単一患者IND承認を得た。IRB承認およびFA承認の後、患者を10mg/kgの用量のsEphB4-Albで、3週間に亘って毎週、点滴静注で治療した。活性の代わりとなるPSAは、治療開始時に1416であり、最初の3週間で2439まで増加し続けたが、その後1200まで着実に減少し、その後6週間は低い値を維持したことから、sEphB4-HSAの生物学的活性が示された。
【0095】
本明細書に記載されたデータと観察結果によれば、EphB4とエフリンB2はPCで高発現しており、本明細書に記載された実験は、PI3KおよびARのシグナル伝達の制御を通じた、EphB4-エフリンB2のペアによる重要な役割を示唆していると思われる。PCにおけるARおよびPI3Kの中心的な役割を考慮に入れると、sEphB4はPC、特にPTEN欠失PCおよび/またはAP標的治療に対し難治性のPCを標的とする新規のアプローチを提供する。
【0096】
現在、ヒト型のsEphB4-HSAが臨床まで進んでおり、単剤および他の薬剤との併用で長期間投与することが可能であり、毒性は許容できるものである。本発明者は、sEphB4-HSAがこの高度なアンメットメディカルニーズにおいて潜在的利益を提供し得るという信念のもと、進行疾患であるPCを対象とした臨床試験を間もなく開始する予定である。
【0097】
方法および材料
PTENヌル前立腺がんマウスモデル
前立腺特異的PTENノックアウト(Cre-PTEN-/--Luc、CPPL)マウスモデルは、Pradip Roy-Burman博士の好意により提供された、以前の報告のものである(C.P.Liaoら、Cancer Res、67巻(15号):頁7525-7533、2007年)。Mouse models of prostate adenocarcinoma with the capacity to monitor spontaneous carcinogenesis by bioluminescence or fluorescence.、Cancer Res、67巻:頁7525-33、2007年)。Cre-PTEN-/Lucマウスを無作為に2群(n=4)に分け、20mg/kgの可溶性EphB4-アルブミンまたはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を週2回腹腔内投与し、処置前および処置後4週間毎に、生物発光(biluminescence)イメージング(ゼノジェン社(Xenogen))で前立腺腫瘍をモニターした。
【0098】
生物発光(biluminescence)イメージング(BLI)
マウスにケタミン(50mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)を単回腹腔内注射し、その後ルシフェリン(50mg/kg)を静脈内注射した。ルシフェリンを適切に分布させるため4.5分待った後、マウスをIVIS200光学イメージングシステム(ゼノジェン社)のチャンバー内に入れた。光を1分間集め、LIVING IMAGEソフトウェアバージョン2.50(ゼノジェン社)を用いて画像を解析した。光子計数率/単位体面積/検出器に対する単位立体角(単位は光子数/s/cm2/ステラジアン)として、特定の関心領域についてシグナル強度を定量化した。
【0099】
EphB4コンディショナルノックアウトマウスの作製および遺伝子型同定
EphB4の既知の遺伝子構造に基づいて、ES細胞においてエクソン2~3およびイントロン1~4の一部をpEZ FRT Loxカセット(Robert Maxson博士の研究室から譲渡)で置換する遺伝子ターゲティングベクターを構築した。1つ目のLoxpはイントロン1~2に挿入し、2つ目のLoxpはイントロン3~4に挿入し、欠失は、イントロン1~2の一部(2188bp)、エクソン2(71bp)、イントロン2~3(120bp)、エクストロン(extron)3(288bp)、イントロン3~4の一部(598bps)を含むHindIIIからAccIまでの33167bpである。lacZ遺伝子を、エクソン2の開始点でEphB4コード配列とインフレームで融合した。正しく標的化された2種のES細胞株をPCRおよびサザンブロット解析で同定し、キメラマウスの作製に用いた。ジャームライントランスミッション後、ヘテロ接合体マウスをFLPトランスジェニックマウスと交配し、Neoを除去する。次いで、Neoなしのヘテロ接合体マウスを野生型C57BL/6バックグラウンドマウスと交配し、FLPを除去する。
【0100】
loxP導入EphB4エクソン2~3についてホモ接合型のEphB4floxP/floxPマウスを、ジャクソン研究所(バーハーバー、メイン州)から入手したCMV-Cre系統、およびCre導入遺伝子が改変プロバシンプロモーター(ARR2PB)で制御されているPB-Cre-Pten-Lucマウスと交配した。Generation of a prostate epithelial cell-specific Cre transgenic mouse model for tissue-specific gene ablation.、Mech Dev、101巻:頁61-69]。Cre導入遺伝子を持たない同腹仔対照を全ての実験で用いた。全ての手順は、施設内動物管理使用委員会の承認を得て、動物福祉法の規制に従って実施した。
【0101】
マウスを上述の通りにPCRで遺伝子型決定した。マウスの尾部先端を切り離し、0.5μg/mLのプロテイナーゼK(カタログ番号03-H5-801-001、ロシュ・ダイアグノスティックス社(Roche Diagnostics)、インディアナポリス、インディアナ州)を含む溶解緩衝液(カタログ番号102-T、バイアジェン・バイオテック社(VIAGEN Biotech)、ロサンゼルス、カリフォルニア州)中で55℃で一晩インキュベートした。その後、使用前に、尾部先端試料を85℃で45分間インキュベートした。隣接するloxP部位を増幅することにより、野生型対立遺伝子と標的対立遺伝子を区別するために、フォワードプライマー1(5′-TTCTCGCCTGCGCTACCTGAATG-3′)およびリバースプライマー2(5′-ACCAGGGCTCCATTTCTAGGTCG-3′)を用いた。Cre導入遺伝子の検出には、フォワードプライマー(5′-GATCCTGGCAATTTCGGCTAT-3′)およびリバースプライマー(5′-TTGCCTGCATTACCGGTCGAT-3′)を用いた。ゲノムDNA断片の増幅は、95℃で5分、95℃で45秒、58℃で40秒、72℃で60秒を36サイクル、その後72℃で5分で行った。エクソン5欠失の検出用に、マウス尾部先端と同様の方法を用いて、各種マウス臓器からゲノムDNA試料を分離した。エクソン2~3欠失の検出には、フォワードプライマー(5′-TAGGCTGGGCAGTGCTGTTCTGG-3′)、およびリバースプライマー(5-CTCCTGTAGTCCAAGCTGGTCTC-3′)を用いた。
【0102】
抗体および他の試薬
P110α、P110β、P110γ、P110δ、p85(PI3Kサブユニット、ウサギモノクローナル)、Akt、リン酸化Akt(Thr308;Ser473)、S6、リン酸化S6(Ser240/244)、ERK1/2(Thr202/Tyr204)、リン酸化p38、p38、アンドロゲン受容体、PTENに対する各抗体は、セル・シグナリング社(Cell Signaling)(ダンバーズ、マサチューセッツ州)から入手した。β-アクチンはシグマ社(Sigma)(セントルイス、ミズーリ州)から入手し、GAPDH(マウスモノクローナル)抗体はミリポア社(Millipore)(テメクラ、カリフォルニア州)から入手した。Ki67抗体はアブカム社(Abcam)(ケンブリッジ、マサチューセッツ州)から入手し、抗PtdIns(3,4,5)P3はエシェロン・バイオサイエンス社(Echelon Biosciences)(ソルトレークシティ、ユタ州)から入手した。Eph受容体に対する抗体およびリガンドに対する抗体はR&Dシステムズ社(R&D Systems)(ミネアポリス、ミネソタ州)から入手した。EphB4抗体はバスジーン・セラピューティクス社(VasGene Therapeutics)(ロサンゼルス、カリフォルニア州)から入手した。西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)およびIRDye結合型二次抗体はロックランド社(Rockland)(ギルバーツビル、ペンシルバニア州)から入手した。
【0103】
細胞外ドメイン全体を表すマウスEphB4の相補的(cDNA)コードを、成熟マウス血清アルブミンpCRscriptの上流にクローニングし、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株で安定的に発現される、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下で哺乳類発現ベクターに入れた。発現されたsEphB4-Alb融合タンパク質を、前述のように精製して均一にした(Scehnet、Blood、2009年、113巻:頁254-263)。
【0104】
80症例の腺癌、8例の隣接正常前立腺組織、および8例の正常前立腺組織(症例毎に二つ組コア)を含む前立腺腺癌組織マイクロアレイを、バイオマックス社(Biomax)#PR1921b(ダーウッド、メリーランド州)から入手した。
【0105】
ウェスタンブロッティング
ウエスタンブロットでは、通常、20μgの全細胞溶解液を4~20%Tris-グリシン勾配ゲル(バイオラド社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)上で泳動し、ニトロセルロース膜(バイオラド社、ハーキュリーズ、カリフォルニア州)に転写した。この膜を5%スキムミルク/TBS+0.05%Tween-20(TBST)で40分間ブロッキングした後、1μg/mlの一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。膜を3回各10分間洗浄し、HRP標識二次抗体またはIRDye標識二次抗体と40分間インキュベートした。TBSTで3回洗浄後、HRPシグナルはサーモサイエンティフィック社(Thermo Scientific)から入手したFemto Maximum Sensitivity化学発光基質を用いて検出し、IRDyeシグナルはOdyssey(ライカー社(LICOR)、リンカーン、ネブラスカ州)で検出した。
【0106】
免疫蛍光法および免疫組織化学
免疫蛍光法において、OCTに包埋した新鮮凍結組織を、5μmに切片化し、リン酸緩衝4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した。次に、切片をヤギ血清でブロッキングし、一次抗体と一緒に4℃で一晩インキュベートした。PBSで洗浄後、抗体結合の位置決定を、AlexaFluor結合型の適切な二次抗体(インビトロジェン社、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いて行った。核をDAPIで対比染色した。ニコン社製Eclipse80i蛍光顕微鏡およびMeta Morphイメージングシリーズシステムで画像を撮影した。また、TUNEL(TdT-mediated dUTP nick-end labeling)アッセイキット(プロメガ社、マディソン、ウィスコンシン州)を製造業者の説明書に従って用いて、組織をアポトーシス分析用に処理した。
【0107】
免疫組織化学においては、凍結切片を3%ホルムアルデヒドで室温で15分間固定し、その後PBSで2回洗浄した。切片を3%Hで10分間処理し、ヤギ血清で1時間ブロッキングし、4℃で一晩一次抗体とインキュベートした。次に、切片をPBSで洗浄し、ABCキット(ベクター・ラボラトリーズ社(Vector labs)、バーリンゲーム、カリフォルニア州)で処理した。オリンパス社製BX51顕微鏡およびImage-Pro Plus 6.0システムで画像を撮影した。
【0108】
各試料につき4枚の代表的な写真を撮影し、ImageJ(NIH)で定量化を行った。P値は対応のない両側スチューデントt検定により求めた。
【0109】
細胞株および培養液
PC3細胞株はアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関から入手した。C4-2B細胞はMichael Stallcup(南カリフォルニア大学)に用意してもらったものであり、22Rv1細胞株およびK562細胞株はAkil Merchant博士(南カリフォルニア大学)に用意してもらったものである。これらの細胞は全て、CellGroより入手した、10%FBS、100ユニット/mLのペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを添加したRPMI-1640中で増殖させた。これらの細胞株は、HLAタイピングおよび各々の原発腫瘍と比較した分子的表現型検査により検証済みのものである。
【0110】
インサイツハイブリダイゼーション
インサイツハイブリダイゼーションは、以前の記述の通りに(Drummond,I.A.ら、Early development of the zebrafish pronephros and analysis of mutations affecting pronephric function.、Development、125巻、頁4655-4667(1998年)、変更を加えて実施した。具体的には、切片インサイツ(section in situ)は、製造業者のプロトコルに従って、ISHキット(バイオチェイン社(Biochain)、ヘイワード、カリフォルニア州)を用いて実施した。DIG標識したアンチセンスプローブおよびセンスプローブは、T7およびT3 RNAポリメラーゼ(プロメガ社、サンルイスオビスポ、カリフォルニア州)を用いたインビトロ転写により合成した。0.7kbのPCR断片を、マウスEphB4の完全長cDNAを含むプラスミド(BC076426)から増幅し、pCR4.0TOPOベクター(インビトロジェン社、カールズバッド、カリフォルニア州)にサブクローニングした。画像は、キューイメージング社製(QImaging)Retiga2000Rカメラを搭載したオリンパス社製(Olympus)BX51顕微鏡を用いて得た。
【0111】
定量的RT-PCR
トータルRNAを、RNeasy miniキット(キアゲン社、バレンシア、カリフォルニア州)を用いて、マウス前立腺組織から抽出した。2μgのトータルRNAからフェルメンタス社(Fermentas)製キットを用いてファーストストランドcDNAを合成した後、MX3000PリアルタイムPCRシステム(ストラタジーン社(Stratagene)、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州)で、Brilliant II SYBR Green QPCR Mastermix(ストラタジーン社、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州)を製造業者の取扱説明書に従って用いて定量的PCRを実施した。全ての反応はトリプリケートで行った。増幅シグナルはβ-アクチンに対し正規化した。EphB4 siRNAのノックダウン効果を評価するために、EphB4 siRNAまたは3塩基ミスマッチ対照siRNA(対照siRNA)をトランスフェクトした培養細胞からトータルmRNAを抽出した。研究対象遺伝子のプライマー配列を表2に示す。
【0112】
【0113】
siRNAおよびトランスフェクション
EphB4 siRNA(配列は5’-CCGGGAAGGUGAAUGUCAA-3’)はキアゲン社(バレンシア、カリフォルニア州)製の合成品である。Lipofectamine2000(インビトロジェン社、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いて、製造業者の取扱説明書に従ってsiRNAトランスフェクションを行った。
【0114】
AKTコンストラクト
野生型Akt、およびsrcミリストイル化シグナル配列を含むmyrAkt Δ4-129(体質的(constitutional)活性化型AKT)の各コンストラクトは、以前に報告された通りのものである(Kohn A.、Takeuchi F.、Roth R.A.(1996年)J.Biol.Chem.、271巻、頁21920-21926)。これらのコンストラクトをpCMV-SPORT6ベクターにクローニングした。
【0115】
インビトロにおけるAKTおよびリン酸化AKTのレスキュー実験
C4-2B細胞を24ウェルプレート内に2×10細胞/ウェルの密度で総体積500μLとなるように播種し、24時間後、細胞をEphB4 siRNAまたは対照siRNAでトランスフェクトした。さらに12時間後、これらの細胞を、AKT/pCMV-SPORT6完全長(BC020530.1、オープン・バイオシステムズ社(Open Biosystems))、体質的(constitutional)活性化型AKT/pCMV-SPORT6またはpCMV-SPORT6プラスミドでさらにトランスフェクトした。処理の2日後、細胞生存率の評価を、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)を用いて、以前の報告の通りに行った(Kumar SR、Singh J、Xia G、Krasnoperov V、Hassanieh L、Ley EJら、Receptor tyrosine kinase EphB4 is a survival factor in breast cancer.、Am J Pathol、2006年;169巻(1号):頁279-93)。タンパク質発現は免疫ブロッティングで確認した。
【0116】
統計解析
異なる試料間または群間の統計的有意差は、対応のない両側スチューデントt検定を用いて判定した。P値が0.05未満である場合に結果を有意差ありと見なした。
【0117】
本願で開示および特許請求される物品および方法は全て、本開示に照らして、必要以上の実験を行うことなく、製造および実行することができる。本発明の物品および方法を好ましい実施形態の観点から記述したが、本発明の精神および範囲から逸脱しない範囲で物品および方法に変形を適用してよいことは、当業者には明らかである。当業者には明らかな、そのような変形形態および均等物は全て、現存するものであれ後に開発されるものであれ、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲に包含されると見なされる。本明細書で挙げられた特許、特許出願、および刊行物は全て、本発明が属する技術分野における当業者の水準を示すものである。全ての特許、特許出願、および刊行物は、あたかもそれぞれの対象(subject)刊行物が、その全体があらゆる目的で参照により援用されると明確且つ対象的(subjectly)に示されるのとの同程度に、それらの全体があらゆる目的で参照により本明細書に援用される。好適なものとして本明細書に例示的に記載された発明は、本明細書に特には開示されていないいかなる要素が存在せずとも、実施することができる。使用された用語および表現は、限定ではなく説明のための用語として使用されており、そのような用語および表現の使用に際して、示されそして説明された特徴またはその一部のいかなる均等物も排除する意図も無く、特許請求された本発明の範囲内で様々な変更形態が可能であると認識される。すなわち、好ましい実施形態および任意の特徴によって本発明が具体的に開示されたが、本明細書で開示された概念の変更および変形が当業者により行われてもよいこと、並びに、そのような変更形態および変形形態が添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内であると見なされることを理解されたい。
【0118】
配列表
添付の配列表に列挙されたアミノ酸配列では、米国特許法施行規則§1.822の規定の通り、アミノ酸は標準的な3文字表記を用いて示している。
【0119】
配列番号1は、ヒトエフリンB型受容体前駆体(NP_004435.3)のアミノ酸配列である。1~15番アミノ酸残基がシグナル配列をコードする。
MELRVLLCWASLAAALEETLLNTKLETADLKWVTFPQVDGQWEELSGLDEEQHSVRTYEVCDVQRAPGQAHWLRTGWVPRRGAVHVYATLRFTMLECLSLPRAGRSCKETFTVFYYESDADTATALTPAWMENPYIKVDTVAAEHLTRKRPGAEATGKVNVKTLRLGPLSKAGFYLAFQDQGACMALLSLHLFYKKCAQLTVNLTRFPETVPRELVVPVAGSCVVDAVPAPGPSPSLYCREDGQWAEQPVTGCSCAPGFEAAEGNTKCRACAQGTFKPLSGEGSCQPCPANSHSNTIGSAVCQCRVGYFRARTDPRGAPCTTPPSAPRSVVSRLNGSSLHLEWSAPLESGGREDLTYALRCRECRPGGSCAPCGGDLTFDPGPRDLVEPWVVVRGLRPDFTYTFEVTALNGVSSLATGPVPFEPVNVTTDREVPPAVSDIRVTRSSPSSLSLAWAVPRAPSGAVLDYEVKYHEKGAEGPSSVRFLKTSENRAELRGLKRGASYLVQVRARSEAGYGPFGQEHHSQTQLDESEGWREQLALIAGTAVVGVVLVLVVIVVAVLCLRKQSNGREAEYSDKHGQYLIGHGTKVYIDPFTYEDPNEAVREFAKEIDVSYVKIEEVIGAGEFGEVCRGRLKAPGKKESCVAIKTLKGGYTERQRREFLSEASIMGQFEHPNIIRLEGVVTNSMPVMILTEFMENGALDSFLRLNDGQFTVIQLVGMLRGIASGMRYLAEMSYVHRDLAARNILVNSNLVCKVSDFGLSRFLEENSSDPTYTSSLGGKIPIRWTAPEAIAFRKFTSASDAWSYGIVMWEVMSFGERPYWDMSNQDVINAIEQDYRLPPPPDCPTSLHQLMLDCWQKDRNARPRFPQVVSALDKMIRNPASLKIVARENGGASHPLLDQRQPHYSAFGSVGEWLRAIKMGRYEESFAAAGFGSFELVSQISAEDLLRIGVTLAGHQKKILASVQHMKSQAKPGTPGGTGGPAPQY(配列番号1)
【0120】
配列番号2は、ヒト血清アルブミンプレプロタンパク質(NP_000468.1)のアミノ酸配列である。25~609番アミノ酸残基が成熟ペプチドをコードする。
MKWVTFISLLFLFSSAYSRGVFRRDAHKSEVAHRFKDLGEENFKALVLIAFAQYLQQCPFEDHVKLVNEVTEFAKTCVADESAENCDKSLHTLFGDKLCTVATLRETYGEMADCCAKQEPERNECFLQHKDDNPNLPRLVRPEVDVMCTAFHDNEETFLKKYLYEIARRHPYFYAPELLFFAKRYKAAFTECCQAADKAACLLPKLDELRDEGKASSAKQRLKCASLQKFGERAFKAWAVARLSQRFPKAEFAEVSKLVTDLTKVHTECCHGDLLECADDRADLAKYICENQDSISSKLKECCEKPLLEKSHCIAEVENDEMPADLPSLAADFVESKDVCKNYAEAKDVFLGMFLYEYARRHPDYSVVLLLRLAKTYETTLEKCCAAADPHECYAKVFDEFKPLVEEPQNLIKQNCELFEQLGEYKFQNALLVRYTKKVPQVSTPTLVEVSRNLGKVGSKCCKHPEAKRMPCAEDYLSVVLNQLCVLHEKTPVSDRVTKCCTESLVNRRPCFSALEVDETYVPKEFNAETFTFHADICTLSEKERQIKKQTALVELVKHKPKATKEQLKAVMDDFAAFVEKCCKADDKETCFAEEGKKLVAASQAALGL(配列番号2)
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
2022520596000001.app
【国際調査報告】