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特表2022-520723さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出
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  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図1
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図2
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図3A
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図3B
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図3C
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図3D
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図3E
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図3F
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図4A
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図4B
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図4C
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図5
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図6
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図7
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図8
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図9
  • 特表-さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(54)【発明の名称】さまざまな真菌病原体に関連する感染症および疾患の治療および検出
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20220325BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 35/16 20150101ALI20220325BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220325BHJP
   C07K 14/37 20060101ALI20220325BHJP
   C07K 14/38 20060101ALI20220325BHJP
   C07K 16/14 20060101ALI20220325BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220325BHJP
【FI】
C12N15/31
A61K38/16 ZNA
A61K31/7088
A61P31/10
A61P37/04
A61K35/16 Z
A61K39/395 R
A61K39/395 D
A61P11/00
C07K14/37
C07K14/38
C07K16/14
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021543275
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(85)【翻訳文提出日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 US2020014805
(87)【国際公開番号】W WO2020154510
(87)【国際公開日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】62/796,120
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521324643
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ジョージア リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ノリス カレン エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ラバカル ホイットニー
(72)【発明者】
【氏名】レイエンス エミリー
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA02
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA05
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB09
4C084ZB32
4C085AA03
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA17
4C085BA49
4C085BB11
4C085BB31
4C085CC21
4C085DD33
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085EE06
4C085FF01
4C085FF02
4C085FF14
4C085GG03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB09
4C086ZB32
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087CA16
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB09
4C087ZB33
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA53
4H045CA15
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA31
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
非天然汎真菌Kexペプチドを含む免疫原性組成物、ならびに対象における真菌病原体(例えば、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属)に関連する感染症および/または疾患の治療または予防のために当該組成物を使用する方法が記述されている。また、対象における非天然汎真菌Kexペプチドに対する抗体の存在を検出または定量化するための組成物およびキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
またはその断片に対して少なくとも約95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する、免疫原性ペプチド、または免疫原性ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
またはその断片を含む、またはそれからなる、免疫原性ペプチド、または免疫原性ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
有効量の、請求項1または請求項2記載のペプチドまたはペプチドをコードするポリヌクレオチドと、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む、免疫原性組成物。
【請求項4】
アジュバントをさらに含む、請求項3記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記アジュバントがα-ガラクトシルセラミド(αGC)である、請求項4記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
対象において免疫応答を誘発する方法であって、請求項1~5のいずれか一項記載のペプチド、ポリヌクレオチド、または免疫原性組成物を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項7】
真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、請求項1~5のいずれか一項記載の免疫原性ペプチド、ポリヌクレオチド、または組成物を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項8】
真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、該真菌感染に対して対象を治療または防御するのに有効な量の、請求項1~5のいずれか一項記載の免疫原性ペプチド、ポリヌクレオチド、もしくは組成物; 請求項1~5のいずれか一項記載の免疫原性ペプチドに特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合断片を含む単離された抗血清; または請求項1~5のいずれか一項記載の免疫原性ペプチドに特異的に結合する単離もしくは精製された抗体もしくは抗原結合断片を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項9】
前記抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、またはその抗原結合断片である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記真菌感染が、アスペルギルス属、カンジダ属、クリプトコッカス属、またはニューモシスチス属の感染に関連している、請求項7~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
肺疾患、肺機能不全、またはその症状を治療する、請求項7~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記肺疾患または肺機能不全が、ニューモシスチス肺炎(PCP)である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記肺疾患または肺機能不全が、アスペルギルス症または浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の真菌病原体のうちの1つまたは複数に対する免疫応答を誘導するのに有効な量の、SEQ ID NO: 2もしくはその断片またはSEQ ID NO: 2もしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物を、該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項15】
真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、有効量の、SEQ ID NO: 2に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を、該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項16】
前記抗体またはその断片が、ドナー対象に由来する抗血清中に存在するか、またはそこから単離されている、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記抗体またはその抗原結合断片が、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のKexペプチドに特異的に結合する、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
前記対象が哺乳動物である、請求項6~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記対象がヒトである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記対象が、免疫不全状態または免疫抑制状態である、請求項6~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記免疫不全状態または免疫抑制状態の対象が、移植前の対象または移植後の対象である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記免疫不全状態または免疫抑制状態の対象が、関節リウマチまたは乾癬の治療を受けている、請求項20記載の方法。
【請求項23】
対象において免疫応答を誘発する方法であって、野生型Kexペプチドまたは該野生型Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドと、アルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)とを該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項24】
真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、野生型Kexペプチドまたは該野生型Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドと、アルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)とを該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項25】
前記真菌感染が、アスペルギルス属、カンジダ属、および/またはクリプトコッカス属の種による感染に関連するか、該感染によって引き起こされる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
肺疾患、肺機能不全、浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)、またはその症状を治療する、請求項23~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
前記野生型Kexペプチドが
を含む、請求項23~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の真菌病原体のうちの1つまたは複数に対する免疫応答を誘導するのに有効な量の、野生型Kexペプチドもしくはその断片、または該野生型Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドと、アルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)とを含む免疫原性組成物を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項29】
アスペルギルス属またはニューモシスチス属の真菌病原体による感染に対して対象を治療または防御する方法であって、ニューモシスチス属およびアスペルギルス属の真菌病原体に対する免疫応答を誘導するのに有効な量の、SEQ ID NO: 2のKexペプチド(汎真菌ペプチド2)もしくはその断片、または該汎真菌ペプチド2ペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項30】
さらにアジュバントが前記対象に投与される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記アジュバントが、アルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)またはミョウバンである、請求項29または請求項30記載の方法。
【請求項32】
誘導された前記免疫応答が、肺疾患もしくは肺機能不全および/またはその症状に対して、あるいはアスペルギルス属関連疾患および/またはその症状に対して、前記対象を治療または防御する、請求項29~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
前記肺疾患または肺機能不全が、ニューモシスチス肺炎(PCP)および/またはその症状であり、前記アスペルギルス属関連疾患が、浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)および/またはその症状である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記対象が哺乳動物である、請求項23~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
前記対象がヒトである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記対象が、免疫不全状態または免疫抑制状態である、請求項23~35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
前記免疫不全状態または免疫抑制状態の対象が、移植前の対象または移植後の対象である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記免疫不全状態または免疫抑制状態の対象が、がん、免疫不全疾患、先天性疾患、または自己免疫疾患の治療を受けている、請求項36記載の方法。
【請求項39】
前記免疫不全状態または免疫抑制状態の対象が、HIV、関節リウマチ、または乾癬の治療を受けている、請求項36記載の方法。
【請求項40】
前記野生型Kexペプチドが
を含む、請求項23~28、または34~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
有効量の汎真菌ペプチド1または2を含む、ワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本国際PCT出願は、2019年1月24日付で出願された米国仮特許出願第62/796,120号の優先権および恩典を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
病原性真菌生物は、環境中で普遍的であり、世界的な健康の脅威を引き起こしうる。病原性真菌は、通常、例えば吸入による曝露後でも、健康で正常に機能する免疫系を有する個体には有害でない。しかしながら、免疫系が弱まっているか損なっている個体、または既存の医学的状態を有する個体、例えば肺疾患もしくはウイルス感染(例えばHIV/AIDS感染)を有する個体は、真菌病原体への曝露および真菌病原体による感染の後に深刻な健康問題および有害反応が現れるリスクがより高い。
【0003】
医学的健康状態が不良の個体および免疫系が弱まっている個体における真菌生物による感染の重大な影響のために、これらの病原体によって引き起こされる感染症および関連する疾患を治療または予防するための方法および組成物が継続的かつ緊急に必要とされている。特に、世界のあまり裕福ではない地域では、真菌病原体の治療および真菌病原体からの防御の、費用対効果の高い効率的な方法が必要とされている。真菌病原体による感染症は、現在のところ適当な治療法が存在しないか不十分であり、これを治療または予防するための効果的な方法およびアプローチは、リスクのある個体を世界中で絶えず脅威にさらす真菌病原体を軽減するために、特に望ましい。
【発明の概要】
【0004】
概要
真菌病原体による感染(例えば、日和見感染)を治療または予防するための方法、ならびに真菌病原体による感染に関連する肺疾患および肺機能不全を治療または予防するための方法が、本明細書において提供および記述されている。
【0005】
1つの局面において、
またはその断片に対して少なくとも約95%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する、免疫原性ペプチド、または免疫原性ペプチドをコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0006】
別の局面において、
またはその断片を含む、あるいはそれからなる、免疫原性ペプチド、または免疫原性ペプチドをコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0007】
いくつかの態様において、免疫原性組成物は、有効量の上記の免疫原性ペプチドまたは免疫原性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと、薬学的に許容される賦形剤とを含む。いくつかの態様において、免疫原性組成物は、アジュバントをさらに含む。1つの態様において、アジュバントはα-ガラクトシルセラミド(αGC)である。1つの態様において、アジュバントはミョウバンである。
【0008】
別の局面において、対象において免疫応答を誘発する方法であって、上記のペプチド、ポリヌクレオチド、または免疫原性組成物を対象に投与する段階を含む、方法が提供される。
【0009】
別の局面において、上記の免疫原性ペプチド、ポリヌクレオチド、または組成物を対象に投与する段階を含む、真菌感染に対して対象を治療または防御するための方法が本明細書において提供される。
【0010】
また、真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、真菌感染に対して対象を治療または防御するのに有効な量の、前記請求項のいずれかの免疫原性ペプチド、ポリヌクレオチド、もしくは組成物、前記請求項のいずれかの免疫原性ペプチドに特異的に結合する抗体もしくはその抗原結合断片を含む単離された抗血清、または前記請求項のいずれかの免疫原性ペプチドに特異的に結合する単離もしくは精製された抗体もしくは抗原結合断片を対象に投与する段階を含む、方法も本明細書において提供される。いくつかの態様において、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、またはその抗原結合断片である。
【0011】
本明細書において開示される方法のいくつかの態様において、真菌感染は、アスペルギルス(Aspergillus)属、カンジダ(Candida)属、および/またはクリプトコッカス(Cryptococcus)属に関連している。いくつかの態様において、本方法は、肺疾患、肺機能不全、またはその症状を治療する。いくつかの態様において、肺疾患または肺機能不全はニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎である。いくつかの態様において、肺疾患または肺機能不全はアスペルギルス症である。
【0012】
別の局面において、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の真菌病原体のうちの1つまたは複数に対する免疫応答を誘導するのに有効な量の、SEQ ID NO: 2もしくはその断片またはSEQ ID NO: 2もしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含む、免疫原性組成物を、対象に投与する段階を伴う、真菌感染に対して対象を治療または防御する方法が提供される。
【0013】
別の局面において、SEQ ID NO: 2に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の有効量を対象に投与する段階を含む、真菌感染に対して対象を治療または防御する方法が提供される。いくつかの態様において、抗体またはその断片は、ドナー対象に由来する抗血清中に存在するか、またはそこから単離されている。いくつかの態様において、抗体またはその抗原結合断片は、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のKexペプチドに特異的に結合する。
【0014】
別の局面において、野生型Kexペプチドまたはそれをコードするポリヌクレオチド、およびアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)を対象に投与する段階を含む、対象において免疫応答を誘発するための方法が提供される。
【0015】
さらに別の局面において、野生型Kexペプチドまたはそれをコードするポリヌクレオチド、およびアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)を対象に投与する段階を含む、真菌感染に対して対象を治療または防御する方法が提供される。この方法のいくつかの態様において、真菌感染は、アスペルギルス属、カンジダ属、および/またはクリプトコッカス属に関連している。この方法、または野生型Kexペプチドもしくはそれをコードするポリヌクレオチドおよびα-GCを対象に投与する段階を含む、対象において免疫応答を誘発するための方法のいくつかの態様において、本方法は、肺疾患、肺機能不全、またはその症状を治療する。
【0016】
別の局面では、真菌感染に対して対象を治療または防御する方法であって、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の真菌病原体のうちの1つまたは複数に対する免疫応答を誘導するのに有効な量の野生型Kexペプチドもしくはその断片またはそれをコードするポリヌクレオチドと、α-ガラクトシルセラミド(αGC)とを含む免疫原性組成物を対象に投与する段階を含む、方法が提供される。
【0017】
さらに別の局面において、ニューモシスチス属およびアスペルギルス属の真菌病原体に対する免疫応答を誘導するのに有効な量の、SEQ ID NO: 2のKexペプチド(汎真菌ペプチド2)もしくはその断片または該汎真菌ペプチド2ペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含む、免疫原性組成物を、対象に投与する段階を伴う、アスペルギルス属またはニューモシスチス属の真菌病原体による感染に対して対象を治療または防御する方法が提供される。本方法の1つの態様において、対象はアジュバントも投与される。1つの態様において、アジュバントはアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)である。別の態様において、アジュバントはミョウバンである。本方法の態様において、誘導された免疫応答は、肺疾患もしくは肺機能不全および/またはその症状に対して、あるいはアスペルギルス関連疾患および/またはその症状に対して、対象を治療または防御する。本方法の1つの態様において、対象は、免疫不全疾患または後天性免疫不全疾患症候群、例えば、HIV、AIDS、またはSIVを有する。特定の態様において、肺疾患はニューモシスチス肺炎(PCP)および/またはその症状であり、アスペルギルス関連疾患はアスペルギルス症もしくは浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)および/またはその症状である。
【0018】
本明細書において開示される方法のいずれかのいくつかの態様において、対象は哺乳動物であり、いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は、免疫不全状態または免疫抑制状態である。いくつかの態様において、免疫不全状態または免疫抑制状態の対象は、がん、免疫不全疾患、先天性疾患、または自己免疫疾患の治療を受けている。いくつかの態様における免疫不全状態または免疫抑制状態の対象は、移植前の対象または移植後の対象である。いくつかの態様において、免疫不全状態または免疫抑制状態の対象は、HIV、関節リウマチ、または乾癬の治療を受けている。
【0019】
記述されている態様の他の特徴および利点は、詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0020】
定義
別段の定義がない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本明細書に記述されている態様において用いられる多くの用語の一般的な定義を当業者に提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991); およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書において用いられる場合、以下の用語は別段の定めがない限り、以下、それらに帰属する意味を有する。
【0021】
「Kex1」または「ケキシン」または「KEX」タンパク質とは、GenBankアクセッション番号EU918304.1、NCBIアクセッション番号XM_746441.1、GenBankアクセッション番号AF022372.1、またはNCBIアクセッション番号XM_572303.1で提供されるアミノ酸配列に対して少なくとも約85%またはそれ以上のアミノ酸同一性を有し、かつ免疫原性活性を有する、ポリペプチドまたはそのペプチド断片を意味する。1つの態様において、Kexペプチドは、抗原的に安定な活性部位ペプチド配列である。(Kutty, G. and Kovacs, J.A., 2003, Infect. Immun., 71(1):571-574; Lee. L.H. et al., 2000, Gene, 242(1-2):141-150; およびRussian, D.A. et al., 1999, Proc. Assoc. Am. Physicians, 111(4):347-356)。1つの態様において、Kexペプチドは、天然に存在するケキシンタンパク質の断片であるか、または天然に存在しない汎真菌ペプチドもしくはその断片である。
【0022】
「汎真菌ペプチド1」とは、汎真菌ペプチド1のアミノ酸配列に対して95、96、97、98、99、または100%の同一性を有し、かつ免疫原性活性を有する配列を含む、KEXペプチドを意味する。いくつかの態様において、汎真菌ペプチド1は、ペプチドのカルボキシ末端および/またはアミノ末端に1つ、2つ、または3つの追加のアミノ酸を含み、これらの追加のアミノ酸は、対象における免疫応答を刺激するペプチドの能力を変化させない。汎真菌ペプチド1の配列は次の通りである:
【0023】
「汎真菌ペプチド2」とは、汎真菌ペプチド2に対して95、96、97、98、または99%の同一性を有し、かつ免疫原性活性を有する配列を含む、KEXペプチドを意味する。いくつかの態様において、汎真菌ペプチド2は、カルボキシ末端および/またはアミノ末端に1つ、2つ、または3つの追加のアミノ酸を含み、これらはペプチドの免疫原性を変化させない。汎真菌ペプチド2の配列は次の通りである:
【0024】
ニューモシスチス属がコロニーを形成した非ヒト霊長類(カニクイザル(cynomolgus macaque))から単離された、GenBankアクセッション番号EU918304.1を有する例示的なニューモシスチス属Kex1ポリペプチド断片を、以下に提供する:
【0025】
GenBankアクセッション番号EU918304.1で提供されるKex1ポリペプチド断片をコードする例示的なポリヌクレオチド配列を、以下に提供する:
【0026】
NCBIアクセッション番号XM_746441.1を有するアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)(Af293)の例示的なKex(KexBエンドプロテアーゼ)ポリペプチド配列を、以下に提供する:
【0027】
GenBankアクセッション番号AF022372.1を有するカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の例示的なKex(Kex2プロテイナーゼ)ポリペプチド配列を、以下に提供する:
【0028】
NCBIアクセッション番号XM_572303.1を有するクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)(JEC21)の例示的なKexポリペプチド配列を、以下に提供する:
【0029】
「作用物質」とは、ペプチド、核酸分子、または小型化合物を意味する。
【0030】
「改善する」とは、疾患の発現または進行を低下させる、抑制する、減弱する、減少させる、停止させる、または安定させることを意味する。
【0031】
「変化」とは、当技術分野において公知の標準的な方法(例えば、本明細書に記述されているもの)によって検出される、遺伝子またはポリペプチドの発現レベルまたは活性の変化(増加または減少)を意味する。本明細書において用いられる場合、変化は、発現レベルの10%の変化、好ましくは発現レベルの25%の変化、より好ましくは40%の変化、最も好ましくは50%またはそれ以上の変化を含む。
【0032】
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子をいう。抗体を調製する方法は、免疫学の科学における当業者には周知である。抗体は、天然の供給源に由来するまたは組み換え供給源に由来するインタクトな免疫グロブリンであることができ、インタクトな免疫グロブリンの免疫反応性部分であることができる。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。四量体は、天然に存在してもよく、または一本鎖抗体もしくは抗体断片から再構築されてもよい。抗体はまた、天然に存在しうるか、または一本鎖抗体もしくは抗体断片から構築されうる二量体を含む。記述されている態様の抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab')2、ならびに一本鎖抗体(scFv)、ヒト化抗体、ならびにヒト抗体を含む種々の形態で存在しうる(Harlow et al., 1999, In: Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Harlow et al., 1989, In: Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York; Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0033】
「抗体断片」という用語は、インタクトな抗体の一部分をいい、インタクトな抗体の抗原決定可変領域をいう。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFv断片、線状抗体、scFv抗体、標的に対して十分な親和性を示すVLまたはVHドメインのどちらかから構成される、ラクダ抗体のような、単一ドメイン抗体(Riechmann, 1999, Journal of Immunological Methods 231:25-38)、ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されることはない。抗体断片はまた、ヒト抗体もしくはヒト化抗体、またはヒト抗体もしくはヒト化抗体の一部分を含む。
【0034】
抗体は、ポリペプチド(例えば、ケキシンポリペプチド)またはその免疫原性ペプチド断片を免疫原として利用する、当技術分野において公知の方法のいずれかによって作製することができる。抗体を得る1つの方法は、適当な宿主動物を免疫原で免疫すること、およびポリクローナルまたはモノクローナル抗体産生の標準的な手順に従うことである。免疫原は、細胞表面での免疫原性断片の提示を容易にする。適当な宿主の免疫は、いくつかの方法で実行することができる。本明細書に記述されているポリペプチド、またはその免疫原性断片をコードする核酸配列は、宿主の免疫細胞により取り込まれる送達媒体中で宿主に提供することができる。細胞は次に、細胞表面に受容体を発現し、宿主において免疫原性応答を生じさせる。あるいは、ポリペプチドまたはその免疫原性断片をコードする核酸配列を、インビトロにおいて細胞内で発現させ、その後、ポリペプチドの単離、および抗体が産生される適当な宿主へのポリペプチドの投与を行うことができる。
【0035】
あるいは、ポリペプチドに対する抗体は、必要に応じて、抗体ファージディスプレイライブラリーから導出されてもよい。バクテリオファージは細菌内で感染および繁殖することが可能であり、これをヒト抗体遺伝子と組み合わせた場合、ヒト抗体タンパク質を提示するように操作することができる。ファージディスプレイは、ファージがその表面にヒト抗体タンパク質を「提示」するように作られるプロセスである。ヒト抗体遺伝子ライブラリーからの遺伝子が、ファージの集団に挿入される。各ファージは異なる抗体の遺伝子を保有しているため、その表面に異なる抗体を提示する。
【0036】
次に、当技術分野において公知の任意の方法によって作製された抗体を、宿主から精製することができる。抗体精製法は、塩沈殿(例えば、硫酸アンモニウムを用いた)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオンまたは陰イオン交換カラムで、好ましくは中性pHで実行され、イオン強度を増加させる段階勾配で溶出される)、ゲルろ過クロマトグラフィー(ゲルろ過HPLCを含む)、ならびにプロテインA、プロテインG、ヒドロキシアパタイト、および抗免疫グロブリンなどのアフィニティー樹脂でのクロマトグラフィーを含みうる。
【0037】
抗体は、抗体を発現するように操作されたハイブリドーマ細胞から好都合に産生することができる。ハイブリドーマを作製する方法は当技術分野において周知である。ハイブリドーマ細胞は適当な培地中で培養することができ、使用済みの培地を抗体源として用いることができる。関心対象の抗体をコードするポリヌクレオチドを次に、抗体を産生するハイブリドーマから得ることができ、その後、これらのDNA配列から抗体が、合成または組み換えにより産生されうる。大量の抗体を産生するには、腹水を得ることが一般的にいっそう好都合である。腹水を産生させる方法は一般に、ハイブリドーマ細胞を免疫学的にナイーブな組織適合性または免疫寛容性の哺乳動物、特にマウスに注射することを含む。哺乳動物は適当な組成物(例えば、プリスタン)の事前投与によって、腹水産生のために予備刺激されうる。
【0038】
「抗ケキシン抗体」、「抗Kex抗体」、または「抗Kex1抗体」とは、例えば、本明細書に記述されているカンジダ・アルビカンス、ニューモシスチス・ホミニス(Pneumocystis hominis)、ニューモシスチス・ジロベシ(Pneumocystis jirovecii)(別名カリニ(carinii))、アスペルギルス・フミガーツス、およびクリプトコッカス・ネオフォルマンスなどの真菌病原体のKex1ペプチド断片を含む、ケキシンポリペプチドまたはそのペプチド断片に選択的に結合する、抗体またはその抗原結合断片を意味する。さまざまな態様において、抗ケキシン抗体または抗Kex1抗体は、ケキシンタンパク質またはペプチドの結合部位に特異的に結合する。特定の態様において、抗ケキシン抗体または抗Kex1抗体は、真菌病原体、例えば、カンジダ属、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、および/またはクリプトコッカス属の真菌病原体のうちの1つまたは複数のケキシンタンパク質またはペプチドの結合部位に特異的に結合する。
【0039】
「抗血清」は、特定の抗原に対する1つまたは複数の抗体を含有する血清をいう。抗体を含有する抗血清は、典型的には血流もしくは組織への注射、または感染によって、免疫原(または抗原材料)を用いて免疫または接種された、ヒトなどの動物(哺乳動物)の血液または血清から得ることができる。1つの態様において、ヒトなどの当該動物(哺乳動物)は、抗原材料または免疫原との自然接触または感染により免疫応答(例えば、抗体産生)を生じるように免疫系が刺激された生物または個体の血液または血清を用いて免疫または接種されうる。この場合、抗血清は、真菌病原体、例えば、ニューモシスチス属(例えば、ニューモシスチス・ジロベシ)に由来する、Kexペプチド免疫原、または該Kexペプチド免疫原をコードするポリヌクレオチドに対して免疫され、接種され、または曝露されたドナー対象により生成または産生された、抗Kexペプチド抗体、例えば、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の集団を含有する。ドナー対象から単離され(かつ/または精製され)た、そのような抗血清は、免疫原の元の供給源としてのニューモシスチス属病原体だけでなく、抗血清中の抗体によって同様に標的とされ認識されるKexペプチドを有する他の真菌病原体によって引き起こされるかまたはそれと関連する感染症または疾患に対する免疫(獲得免疫)を提供するために別の(無関係の)対象を免疫する(すなわち、対象に投与する)ために用いられる。態様において、真菌病原体は、ニューモシスチス属の種(spp.)および1つまたは複数のカンジダ属の種もしくはカンジダ・アルビカンス、アスペルギルス属の種もしくはアスペルギルス・フミガーツス、またはクリプトコッカス属の種もしくはクリプトコッカス・ネオフォルマンスを含む。このように、抗血清、すなわち抗血清中の抗体を受ける対象は、2種以上の真菌病原体によって引き起こされる感染症および/または疾患に対して治療または防御される。複数の真菌病原体に対するそのような抗血清由来の免疫防御は、ドナー対象の単離抗血清から付与される、レシピエント対象により得られる獲得免疫または受動免疫を構成する。当業者によって理解されるように、血清は、血液が凝固するときに血餅から分離される、琥珀色の、タンパク質が豊富な血液の液体成分である。1つまたは複数の抗体(交差防御抗体)を含有する血清成分は、「抗血清」と呼ばれる。1つの態様において、抗血清は、例えば、ドナー対象から単離された、単離抗血清である。1つの態様において、単離された抗血清は、本明細書に記述されている治療または防御療法としてのその使用の前に、当業者によって用いられる方法によって、例えば、希釈、濃縮(例えば、ろ過もしくは遠心分離またはその両方による)、クロマトグラフィー、イオンまたは外来タンパク質を除去するための精製などによって、処理されてもよい。1つの態様において、単離された抗血清は、単離後にさらに精製されてもよい。1つの態様において、単離された抗血清は、さらに処理または精製されない。1つの態様において、単離された抗血清に含有される、抗体またはその抗原結合断片は、当業者により実践される方法によって、例えば、非限定的に、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、免疫沈降、透析、HPLCクロマトグラフィーなどによって、さらに単離されてもよい。
【0040】
「生物学的サンプル」とは、対象から得られる任意の液体、細胞、または組織を意味する。いくつかの態様において、生物学的サンプルは、血液、血清、血漿、脳脊髄液、気管支肺胞洗浄液、喀痰、涙、唾液、尿、精液、糞便などである。
【0041】
本開示において、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、および「有する(having)」などは、米国特許法でそれらに帰属する意味を有することができ、「含む(includes)」、「含む(including)」などを意味することができる; 「から本質的になる」または「から本質的になる」は同様に、米国特許法に基づく意味を有し、この用語は制限がなく、記載されているものの基本のまたは新規の特徴が、記載されているものよりも多くの存在によって変えられるのではなく、先行技術の態様を除外する限り、記載されているものよりも多くの存在を許容する。
【0042】
「検出する」とは、検出される分析物または検出されるべき分析物の存在、非存在、または量を同定することをいう。
【0043】
「疾患」とは、細胞、組織、または臓器の正常な機能を損傷または妨害する任意の状態、機能障害、または障害を意味する。さまざまな態様において、疾患は、肺疾患または脳疾患、例えば、髄膜炎である。肺疾患の非限定的な例としては、肺気腫を含む進行性肺疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、難治性(非可逆性)喘息、肺炎(例えば、ニューモシスチス肺炎)、およびいくつかの形態の気管支拡張症が挙げられる。
【0044】
「有効量」とは、未処置の患者と比べて疾患の症状を改善するのに必要な量を意味する。疾患の治療的処置のため本明細書に記述されている方法を実践するために用いられる活性化合物の有効量は、投与方法、対象の年齢、体重、および全身の健康状態に応じて変わる。最終的には、担当医または獣医が適切な量および投与計画を決定するであろう。そのような量は「有効」量といわれる。本明細書に記述されている単離された抗血清の免疫学的有効量は、本明細書に記述されている真菌病原体のうちの1つまたは複数に関連する真菌感染症または疾患を治療するために必要な量である。例として、単離された抗血清の有効量は、当技術分野において知られ、実践されている方法により、血清中に存在する所望の免疫原に対する抗体の量または力価を測定することによって決定されうる。受動免疫療法(すなわち、抗体を含有する抗血清の投与)の典型的な投与量の範囲は、約0.3 mg~約100 mg/kg全体重を含む。受動免疫療法に続いて、個々の患者が治療法に対して異なる応答を示すため、通常、治効が行われる。投与量の調整は、必要に応じて変更されうる。処置計画は、当業者によって知られ、実践されている方法により決定することができる。1つの態様において、その量は、免疫応答を誘導するのに十分である。
【0045】
「断片」とは、ポリペプチドまたは核酸分子の一部分を意味する。この部分は、好ましくは、参照核酸分子またはポリペプチドの全長の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%を含有する。断片は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000個のヌクレオチドまたはアミノ酸を含有しうる。
【0046】
「遺伝子ワクチン」とは、抗原をコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物を意味する。
【0047】
「免疫応答」とは、抗原に対してもたらされる免疫系の任意の活動を意味する。いくつかの態様において、免疫応答は、病原体(例えば、真菌病原体)による感染から対象を防御するか、または病原体感染症を治療する、自然免疫応答または適応免疫応答である。いくつかの態様において、免疫応答は、抗原に対する抗体の生成を伴う。
【0048】
「免疫不全の」という用語は、弱体化もしくは障害された、免疫系および/または病原体、病原性抗原、疾患などに関連する免疫応答を有する対象をいう。対象は、免疫抑制薬を服用した結果として、または特定の先天性疾患などの、対象の免疫系に影響を与える疾患もしくは病的状態に苦しめられることによって免疫不全とされうる。「免疫抑制の」という用語は、例えば、免疫系の活性または効率の低減によって、病原体、病原性抗原、疾患などに対する免疫系および関連する免疫応答が部分的または完全に抑制されている対象をいう。対象の免疫系または免疫応答の免疫抑制は、対象における疾患もしくは障害のために自然に起こりうるか、または免疫抑制剤、薬物、例えば、抗がん薬、化合物などの投与により対象において誘導されうる。場合によっては、免疫抑制されている、もしくは免疫抑制を受けている対象、または疾患もしくは状態(例えば、化学療法もしくは免疫不全疾患)のために弱体化された免疫系を有する対象は、免疫不全であると言われる。
【0049】
「免疫原性組成物」とは、抗原もしくは免疫原、または抗原もしくは免疫原をコードするポリヌクレオチドを含む、組成物であって、免疫された対象において免疫応答を誘発する、組成物を意味する。
【0050】
「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋な」という用語は、その天然の状態または環境で見られる通常付随している成分を程度の差はあれ含まない物質をいう。「単離する」とは、元の供給源または周囲からのある程度の分離を示す。「精製する」とは、単離よりも高い分離度を示す。「精製された」または「生物学的に純粋な」タンパク質は、いかなる不純物もタンパク質の生物学的特性に実質的に影響を及ぼさない、または他の有害な結果を引き起こさないように、他の物質を十分に含まない。すなわち、本明細書に記述されている核酸またはペプチドは、組み換えDNA技法によって産生される場合には細胞性物質、ウイルス性物質もしくは培地を実質的に含まない、または化学的に合成される場合には化学前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まないならば、精製されている。純度および均質性は、典型的には、分析化学技法、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動または高性能液体クロマトグラフィーを用いて判定される。「精製された」という用語は、核酸またはタンパク質が電気泳動ゲル中に本質的に1本のバンドを生じさせることを意味することができる。修飾、例えばリン酸化またはグリコシル化を受けることができるタンパク質の場合、異なる修飾は、別々に精製することができる異なる単離タンパク質を生じさせうる。
【0051】
「単離されたポリヌクレオチド」とは、核酸分子が由来する生物の天然に存在するゲノムにおいて、その遺伝子に隣接する遺伝子を含まない核酸(例えば、DNA)を意味する。それゆえ、この用語は、例えば、ベクターに組み込まれている組み換えDNA; 自律複製プラスミドもしくはウイルスに組み込まれている組み換えDNA; または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれている組み換えDNA; あるいは他の配列とは独立した別個の分子(例えば、cDNAまたはPCRもしくは制限エンドヌクレアーゼ消化によって産生されるゲノム断片もしくはcDNA断片)として存在するものを含む。さらに、この用語は、DNA分子から転写されるRNA分子、ならびにさらなるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組み換えDNAを含む。
【0052】
「単離されたポリペプチド」または「単離されたペプチド」とは、天然に付随する成分から分離されているポリペプチドまたはペプチドを意味する。典型的には、ポリペプチドは、それが天然に結び付いているタンパク質および天然有機分子を、少なくとも60重量%含まない場合に単離されている。好ましくは、調製物は、本明細書に記述されているポリペプチドまたはペプチドの少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、および最も好ましくは少なくとも99重量%である。本明細書に記述されている単離されたポリペプチドまたはペプチドは、例えば、天然の供給源からの抽出によって、そのようなポリペプチドをコードする組み換え核酸の発現によって; またはタンパク質を化学合成することによって得てもよい。純度は、任意の適切な方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、またはHPLC分析によって測定することができる。
【0053】
本明細書において用いられる場合、「作用物質を得る」における「得る」は、作用物質を合成すること、購入すること、または他の方法で取得することを含む。
【0054】
「日和見感染」とは、通常は利用不能な対象(宿主)、例えば、弱体化された免疫系を有する宿主、免疫不全宿主、免疫抑制宿主、微生物叢もしくは細菌叢が変化した宿主、または損傷もしくは破損された保護外皮バリアを有する宿主に感染する機会を利用する真菌病原体、細菌、ウイルス、原虫、または寄生虫などの病原体によって引き起こされる感染を意味する。1つの態様において、日和見感染は、本明細書に記述されている1つまたは複数の真菌病原体によって引き起こされる。
【0055】
「低減する」または「減少する」とは、少なくとも10%、25%、50%、75%、または100%の負の変化を意味する。
【0056】
「参照」とは、標準または対照の状態を意味する。「参照配列」は、配列比較の基礎として用いられる定義された配列である。参照配列は特定の配列のサブセットまたは全体; 例えば、全長cDNAもしくは遺伝子配列のセグメント、または完全cDNAもしくは遺伝子配列でありうる。ポリペプチドの場合、参照ポリペプチド配列の長さは概して、少なくとも約16アミノ酸、好ましくは少なくとも約20アミノ酸、より好ましくは少なくとも約25アミノ酸、さらにより好ましくは約35アミノ酸、約50アミノ酸、または約100アミノ酸であろう。核酸の場合、参照核酸配列の長さは概して、少なくとも約50ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約60ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約75ヌクレオチド、さらにより好ましくは約100ヌクレオチドまたは約300ヌクレオチドあるいはその付近またはその間の任意の整数であろう。
【0057】
「特異的に結合する」とは、ポリペプチドまたはペプチドを認識かつ結合するが、サンプル、例えば本明細書に記述されているポリペプチドまたはペプチドを天然に含む生物学的サンプル中の他の分子を実質的に認識かつ結合しない化合物または抗体もしくはその抗原結合断片を意味する。交差反応性結合は、元のポリペプチドまたはペプチド抗原/免疫原への特異的結合(例えば、抗体またはその抗原結合断片による)だけでなく、元の抗原/免疫原以外のポリペプチドまたはペプチドへの結合も含む。
【0058】
組み換え免疫原またはワクチンを生成するのに有用な核酸分子は、本明細書に記述されているKex野生型もしくは汎真菌ポリペプチドまたはKex野生型もしくは汎真菌ペプチドなどの、ポリペプチドまたはそのペプチド断片をコードする任意の核酸分子を含む。そのような核酸分子は、内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には内因性配列に対して実質的な同一性を示すであろう。内因性配列に対して「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも一方の鎖とハイブリダイズすることができる。核酸分子は、ポリペプチドまたはそのペプチド断片をコードする任意の核酸分子を含みうる。内因性配列に対して「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも一方の鎖とハイブリダイズすることができる。「ハイブリダイズする」とは、さまざまなストリンジェンシー条件の下で、相補的ポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書に記述されている遺伝子)またはその一部分の間に二本鎖分子を形成する対を意味する。(例えば、Wahl, G. M. and S. L. Berger (1987) Methods Enzymol. 152:399; Kimmel, A. R. (1987) Methods Enzymol. 152:507を参照のこと。)
【0059】
「実質的に同一」とは、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書において記載されるアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記述されている核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すポリペプチドまたは核酸分子を意味する。好ましくは、そのような配列は、比較のために用いられる配列に対してアミノ酸レベルまたは核酸で少なくとも60%、より好ましくは80%もしくは85%、より好ましくは90%、95%またはさらに99%同一である。
【0060】
配列同一性は、典型的には、配列分析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705、BLAST、BESTFIT、GAP、またはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を用いて測定される。そのようなソフトウェアは、相同性の程度をさまざまな置換、欠失、および/または他の修飾に割り当てることによって同一または類似の配列を一致させる。保存的置換は、典型的には、以下の群内の置換を含む: グリシン、アラニン; バリン、イソロイシン、ロイシン; アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン; セリン、トレオニン; リジン、アルギニン; およびフェニルアラニン、チロシン。同一性の程度を判定するための例示的なアプローチにおいて、e-3とe-100の間の確率スコアが密接に関連した配列を示す、BLASTプログラムを用いてもよい。
【0061】
「対象」とは、ヒトもしくは非ヒト哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、またはネズミ、ウシ、ウマ、イヌ、ヒツジもしくはネコを含むが、これらに限定されない、哺乳動物を意味する。1つの態様において、対象はヒトである。1つの態様において、対象は、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属などの、1つまたは複数の病原性真菌によって引き起こされる感染症または疾患の治療を受けているヒト患者である。1つの態様において、対象は、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属などの、1つまたは複数の病原性真菌によって引き起こされる感染(例えば、日和見感染)または疾患のリスクがあるヒト患者である。1つの態様において、対象は、抗真菌性Kexペプチド抗体を含有する抗血清が得られるまたは単離される哺乳動物(例えば、ヒト; 非ヒト霊長類)ドナー対象である。1つの態様において、対象は、単離された抗血清を受け、複数の真菌病原体に対する防御免疫(および治療)を獲得する哺乳動物(例えば、ヒト; 非ヒト霊長類)レシピエント対象である。
【0062】
本明細書において用いられる場合、「ベクター」は、宿主細胞内で複製するおよび/または宿主細胞中に組み込まれるベクターの能力を妨害することなく外来核酸を挿入することができる核酸(ポリヌクレオチド)分子をいう。ベクターは、複製起点などの、宿主細胞内での複製を可能にする核酸配列を含むことができる。挿入ベクターは、それ自体を宿主核酸に挿入することができる。ベクターは、1つまたは複数の選択可能なマーカー遺伝子および他の遺伝的要素を含むこともできる。発現ベクターは、宿主細胞に挿入された遺伝子の転写および翻訳を可能にするために必要な調節配列を含むベクターである。当業者は、使用される発現ベクターに応じて、適切な読み枠を維持するために、ベクターに挿入される外来核酸の5'末端に追加のヌクレオチドを追加する必要がありうることを認識するであろう。
【0063】
「ワクチン」とは、免疫応答を刺激(誘発)することができ、(例えば、デングウイルス感染によって引き起こされる)感染性疾患などの、疾患、状態もしくは病状を治療するために、または疾患、状態もしくは病状を予防するために対象に投与される免疫原性物質の調製物(例えば、タンパク質または核酸; ワクチン)を意味する。免疫原性物質は、例えば、弱毒化または死滅化された微生物(弱毒化ウイルスなどの)、またはそのような微生物に由来する抗原性タンパク質、ペプチドもしくはDNAを含みうる。ワクチンは対象において予防的免疫応答を誘発しうる; それらは対象において治療的免疫応答(therapeutic response immune response)も誘発しうる。上記のように、ワクチン投与の方法はワクチンによって異なり、接種(静脈内もしくは皮下注射)、摂取、吸入、または他の形態の投与などの、経路または手段を含むことができる。接種は、静脈内、皮下または筋肉内などの、非経口を含めて、任意の数の経路により送達することができる。ワクチンは、免疫応答を高めるためにアジュバントとともに投与されてもよい。
【0064】
本明細書において提供される範囲は、その範囲内の全ての値の省略表現であると理解される。例えば、1から50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群からの任意の数、数の組み合わせ、または部分的な範囲を含むと理解される。
【0065】
本明細書において用いられる場合、「治療する」、「治療」などの用語は、疾患、障害、および/またはそれに関連する症状を低減する、軽快する、弱める、または改善することをいう。当然のことながら、排除されるものではないが、疾患、障害、および/またはそれに関連する症状を治療することは、疾患、障害、状態、またはそれに関連する症状が排除されることを必要としない。
【0066】
本明細書において用いられる場合、障害または状態を「予防する」治療用物質は、統計サンプルにおいて、未処置対照サンプルと比べて処置サンプルにおいて障害もしくは状態の発生を低減する、または未処置対照サンプルと比べて障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状の発症を遅延させるか、もしくはその重症度を低減する、化合物または物質をいう。1つの態様において、予防的治療用物質は、抗体またはその抗原結合断片である。特定の態様において、予防的治療用物質は、本明細書に記述されている抗Kexペプチド抗体またはその抗原結合断片を含有する、単離された抗血清である。
【0067】
本明細書において用いられる場合、特に明記されない限りまたは文脈から明らかでない限り、「または」という用語は包括的であると理解される。本明細書において用いられる場合、特に明記されない限りまたは文脈から明らかでない限り、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、単数または複数であると理解される。
【0068】
本明細書において用いられる場合、特に明記されない限りまたは文脈から明らかでない限り、「約」という用語は当技術分野における通常の許容範囲内、例えば平均の2標準偏差以内と理解される。約は、記載されている値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%内と理解することができる。文脈から他に明らかでない限り、本明細書において提供される全ての数値は、約という用語によって修飾される。
【0069】
本明細書において提供される任意の組成物または方法は、本明細書において提供される他の任意の組成物および方法のうちの1つまたは複数と組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
本明細書に記述されている例示的な態様は、そのさまざまなかつ非限定的な局面において記述されている態様に関連した図面および図として以下に提供される。
【0071】
図1図1は、ニューモシスチス属(ヒトおよびマカク)に由来する2つの汎真菌Kexペプチド(つまり汎真菌ペプチド1および汎真菌ペプチド2)のアミノ酸配列を、ヒトニューモシスチス属Kex1ペプチド、マカクニューモシスチス属Kex1ペプチド、アスペルギルス属Kexペプチド、クリプトコッカス属Kexペプチド、およびカンジダ属Kexペプチドのアミノ酸配列と比較する、複数配列アライメントを提示する。
図2図2は、汎真菌ペプチド1および汎真菌ペプチド2のアミノ酸配列をヒトニューモシスチス属Kex1ペプチドのアミノ酸配列と比較する複数配列アライメントを提示する。汎真菌ペプチド1はヒトニューモシスチス属Kex1ペプチドに対して97%のアミノ酸配列同一性を示し、汎真菌ペプチド2はヒトニューモシスチス属Kex1ペプチドに対して69%のアミノ酸配列同一性を示す。本明細書(例えば、実施例1)において記述されているように、汎真菌ペプチド1および汎真菌ペプチド2は、それぞれ図1および2に示されており、かつ上に示されている、アミノ酸配列を含む。
図3A図3A~3Fは、SIVに感染したアカゲザルにおける汎真菌ペプチド2の予防的ワクチン接種を図示している。図3Aは、マカクにおける汎真菌2ペプチドの免疫原性を判定するために用いた投与および曝露のスケジュールを説明する時間軸である。
図3B図3B~3Eは、標的としてのクリプトコッカス属Kex、ニューモシスチス属Kex1、およびアスペルギルス属Kexに対する血清免疫グロブリン(IgG)力価を決定するために、SIV感染およびニューモシスチス属真菌病原体による曝露の前に汎真菌ペプチド2およびミョウバンアジュバントで免疫されたマカクザルから収集された血清サンプルのELISA分析によって得られた逆数エンドポイント力価(reciprocal endpoint titer:RET)をグラフで示している。これらの図において、矢印は、試験対象が汎真菌ペプチド2で免疫された時および試験対象が追加免疫を受けた時を示す。縦点線は、試験対象がサル免疫不全ウイルス(SIV)に感染した時を示す。図3B: 汎真菌ペプチド2のELISA分析によって測定されたRETのグラフである。図3Cは、クリプトコッカス属Kexに対するELISA分析によって測定されたRETのグラフである。図3Dは、ニューモシスチス属Kex1に対するELISA分析によって測定されたRETのグラフである。図3Eは、アスペルギルス属Kexに対するELISA分析によって測定されたRETのグラフである。
図3C図3Bの説明を参照。
図3D図3Bの説明を参照。
図3E図3Bの説明を参照。
図3F図3Fは、SIV感染後40週間までの、汎真菌2ペプチド(n=1)または偽ワクチン(n=7)を用いてワクチン接種された動物において観察されたニューモシスチス肺炎(PcP)の割合を示すグラフである。
図4A図4Aおよび4Bは、ニューモシスチス属Kex1ペプチドおよびミョウバンアジュバントによるSIV感染アカゲザルの予防的ワクチン接種と、それに続くニューモシスチス属Kex1ペプチドおよびアジュバントとしてのアルファ-ガラクトシルセラミド(α-GC)による動物の治療的ワクチン接種の概要を示す。図4Aは、アジュバントとしてミョウバンを用いたニューモシスチス属Kex1予防的ワクチン接種、およびアジュバントとしてαGCを用いた治療的ワクチン接種の有効性を研究するために使われた投与および曝露のスケジュールを説明する時間軸である。図4Bは、標的ニューモシスチス属Kex1に対する血清免疫グロブリンG (IgG)力価のELISA分析によって測定されたRETのグラフである。
図4B図4Aの説明を参照。
図4C図4Cは、ニューモシスチス属Kex1およびミョウバンアジュバントを用いてワクチン接種され、SIV感染後にαGCアジュバントと共にニューモシスチス属Kex1 (n=6)または偽ワクチン(n=7)で追加免疫された動物において観察されたニューモシスチス肺炎(PcP)の割合を示すグラフである。
図5図5Aおよび5Bは、SIVに感染したアカゲザルにおける、αGCアジュバントを用いるニューモシスチス属Kex1の治療的ワクチン接種の概要を示す。図5Aは、αGCを用いるニューモシスチス属Kex1の治療的ワクチン接種の免疫原性を研究するために用いた投与および曝露のスケジュールを説明する時間軸である。図5Bは、SIV感染の後期慢性期における、ELISA分析によって測定された、標的ニューモシスチス属Kex1に対する血清免疫グロブリンG(IgG)力価RETのグラフである。
図6図6Aおよび6Bは、マウスにおける汎真菌ペプチド2免疫後の汎真菌ペプチド2特異的液性応答を図示している。図6Aは、免疫(ワクチン接種)研究デザインを示している。CF-1マウス(7匹/群)に汎真菌ペプチド2 + アジュバント(TiterMax)またはPBS + TiterMax(偽ワクチン接種)を免疫した。免疫後0、14、および28日の時点で血清学的分析のために採血した。図6Bは、酵素結合免疫測定法(ELISA)によって決定された、汎真菌ペプチド2 + TiterMax1またはPBS + TiterMaxによる単回ワクチン接種の汎真菌ペプチド2特異的免疫グロブリンG (IgG)力価の平均血漿逆数エンドポイント力価(RET)を示すグラフである。汎真菌ペプチド2ワクチン接種動物は、偽ワクチン接種動物のものと比較して、5×105の平均ピークRETを達成した(**p=0.002)。
図7図7は、マウスを、汎真菌ペプチド2ワクチン接種し、次にアスペルギルス・フミガーツス病原体に曝露した研究のデザインを図示している略図である。図6Aに記述されている汎真菌ペプチド2ペプチドおよび偽ワクチン接種レジメンに続いて、全てのマウスは、5×106個のアスペルギルス属(Af293)分生子胞子の鼻腔内曝露の前に、1日あたり2.5 mgの酢酸コルチゾンを6日間投与することによって、免疫抑制された。次に、全てのマウスで、浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)の兆候を1日2回観察した。汎真菌ペプチド2ワクチン接種とIPA関連死との関連性は、下記の実施例9の表2に提示されている。
図8図8は、図7において上述されているように、A.フミガーツス曝露後の肺真菌負荷を示すグラフである。肺における真菌負荷の定量は、グロコットのメテナミン銀(GMS)染色を用いて実行された。A.フミガーツス真菌負荷は、汎真菌ペプチド2ワクチン接種動物において有意に低減された(p=0.026)。
図9図9Aおよび9Bは、非ヒト霊長類における汎真菌ペプチド2免疫後の汎真菌ペプチド2特異的な液性応答を示している。図9Aは、ワクチン接種研究のデザインを示す略図である。本研究においては、汎真菌ペプチド2 + アジュバント(ミョウバン)またはPBS + ミョウバンを用いて、15頭のアカゲザル(n=7 汎真菌ペプチド2ワクチン接種、n=8 偽ワクチン接種)に免疫および追加免疫を行った。各ワクチン接種後1、2、4、6、および8週間の時点で、血清学的分析のために採血した。2回目のワクチン接種から8週間後、全ての動物をSIVに感染させ、共同飼育によってニューモシスチス属に継続的に曝露した。ニューモシスチス属感染について、全ての動物を毎月モニタリングした。図9Bは、酵素結合免疫測定法(ELISA)によって決定された、汎真菌ペプチド2特異的免疫グロブリンG (IgG)力価の平均血漿逆数エンドポイント力価(RET)を示すグラフである。第1および第2セットの免疫のタイミングが矢印で示されている。汎真菌ペプチド2免疫(ワクチン接種)マカクは、偽ワクチン接種動物と比較して、2回目の免疫を与えた2週間後(ワクチン接種2後(2wpv2))に4×105の平均ピークRETを達成した(p=0.019)。
図10図10は、アカゲザルの汎真菌ペプチド2ワクチン接種コホートおよび偽ワクチン接種コホートにおける慢性的なニューモシスチス属のコロニー形成を示すグラフである。グラフは、Kaplan-Meier(p=0.05)により比較された、SIV感染の過程(SIV接種後28週間)での、ニューモシスチス属が慢性的にコロニー形成した(2ヶ月以上連続してネステッドPCR陽性の)SIV感染動物(汎真菌ペプチド2ワクチン接種(n=7)または偽ワクチン接種(n=8))の割合を示している。感染後28週間の時点で、汎真菌ペプチド2免疫SIV感染動物における慢性的ニューモシスチス属コロニー形成は、偽免疫動物と比較して有意に少なかった。
【発明を実施するための形態】
【0072】
態様の詳細な説明
病原体が異なる病因のものである、1種もしくは複数種の真菌病原体による感染、または2種以上の真菌病原体による感染に関連する疾患を治療または予防するための方法が本明細書において取り上げられる。具体的な例として、疾患を引き起こす真菌病原体には、肺組織にコロニーを形成し、感染後に重度の肺炎を引き起こす、ニューモシスチス属; アスペルギルス症、アレルギー反応、肺感染症および他の健康上の問題を引き起こす、一般的なカビである、アスペルギルス属; 通常、腸管および粘膜に存在し、全身感染時に、特に健康状態が悪いものまたは免疫系が弱いものにおいて、鵝口瘡、感染症および侵襲性カンジダ症を引き起こしうる、カンジダ属; ならびに、肺に感染して肺炎に似た病気を引き起こし、脳に感染して髄膜炎を引き起こしうる、クリプトコッカス属が含まれる。
【0073】
記述されている態様は、少なくとも部分的に、ケキシン(KexまたはKex1)タンパク質に対して配列類似性を有する非天然ペプチド(本明細書において汎真菌ペプチドといわれる)で免疫された哺乳動物対象が、ニューモシスチス属、カンジダ属、アスペルギルス属、およびクリプトコッカス属を含む、いくつかの異なる真菌病原体のKexペプチドに特異的に結合する抗体を生成したという発見に基づく。したがって、本明細書に記述されている汎真菌ペプチドは、ニューモシスチス属、カンジダ属、アスペルギルス属、およびクリプトコッカス属のいずれか1つまたは複数による真菌感染症を治療または予防するのに有用である。
【0074】
非天然汎真菌Kexペプチドまたは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与に応答して生成される、抗体を含有する抗血清は、2種以上の真菌病原体によって引き起こされる感染および/または疾患の治療として役立つこともでき、適当な投与方法および投与経路を介して抗血清を投与される別のまたは無関係の対象(すなわち、レシピエント対象)において複数の真菌病原体に対する免疫を提供することができる。本明細書において用いられる場合、抗血清が得られるまたは単離される対象は「ドナー対象」であり、単離された抗血清が投与または提供される対象は「レシピエント対象」であることが当業者によって理解されるであろう。態様において、対象は哺乳動物、特にヒトまたは非ヒト霊長類である。レシピエント対象は、ニューモシスチス属、カンジダ属、アスペルギルス属および/またはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの1つまたは複数によって引き起こされる感染症または疾患の治療または防御を必要とする患者または個体でありうる。
【0075】
本明細書に記述されているカンジダ属、アスペルギルス属およびクリプトコッカス属真菌病原体などの、複数の真菌病原体のKexペプチドと反応した、非天然コンセンサスKex1ペプチドのような、汎真菌Kexペプチド、または汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドで免疫された、またはそれに曝露された対象(例えば、ドナー対象)において産生されたそのような免疫学的に交差反応性の抗血清(およびその中の抗体)の産生は、特にニューモシスチス属、カンジダ属、アスペルギルス属およびクリプトコッカス属真菌病原体のKexペプチド間のアミノ酸配列同一性の量が少ない(約48%~70%の変動)ことを考慮すると、ならびにニューモシスチス属のKex1ペプチドとカンジダ属、アスペルギルス属およびクリプトコッカス属真菌生物のKexペプチドとの間のアミノ酸配列の全体的な変動量(約70%から96%の変動性の範囲)を考慮すると、意外かつ予想外であった。
【0076】
また、汎真菌ペプチドまたは該汎真菌ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、免疫原性組成物であって、該組成物の投与後の対象において強力な免疫応答を誘発し、かつ該対象において、免疫抗原だけでなく他の別個の真菌病原体に見られる類似であるが同一でない抗原とも反応する1つまたは複数の抗体またはその抗原結合断片を含有する抗血清の産生を誘発する、免疫原性組成物も、本明細書に包含される。
【0077】
記述されている方法の1つの利点は、たった1つの治療剤、すなわち、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与に応答して生成された抗血清(単離された抗血清)であって、複数の真菌生物に対して交差防御し、異なる真菌病原体(例えば、少なくとも2つまたはそれ以上の真菌病原体)による感染(およびコロニー形成)に関連する疾患およびその症状(例えば、肺疾患および肺機能低下)を治療または予防するものを用いる、いくつかの異なる真菌病原体による感染症およびいくつかの異なる真菌病原体に関連する疾患の治療または予防の提供である。1つの態様において、異なる真菌病原体は、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、およびクリプトコッカス属、特にそれらのうちの少なくとも2つまたはそれ以上を含む。1つの態様において、ニューモシスチス属(ニューモシスチス・ジロベシ)、アスペルギルス属(アスペルギルス・フミガーツス)、カンジダ属(カンジダ・アルビカンス)、またはクリプトコッカス属(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)のうちの1つまたは複数に由来するKexペプチドと特異的に反応する抗体の産生を誘発する、非天然汎真菌Kexペプチドまたは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、組成物が提供される。別の態様では、非天然汎真菌Kexペプチドまたは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドで免疫された対象において産生された抗血清であって、同様にニューモシスチス属(ニューモシスチス・ジロベシ)、アスペルギルス属(アスペルギルス・フミガーツス)、カンジダ属(カンジダ・アルビカンス)、またはクリプトコッカス属(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)のうちの1つまたは複数に由来するKexペプチドと特異的に反応する抗体を含有する、抗血清が提供される。したがって、この抗血清は、交差防御的(例えば、複数の真菌タイプのKexペプチドと交差反応性)であり、それを必要とする別の(例えば、無関係の)対象に提供されると、複数の真菌生物に関連する感染および/または疾患に対する治療および/または防御をもたらす。1つの態様において、抗血清は、単離された抗血清である。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的に許容される組成物中で投与される。
【0078】
本明細書に記述されている方法および組成物は、異なるタイプの真菌病原体による感染およびコロニー形成に関連する、肺疾患、または脳感染症のタイプなどの、真菌感染症および疾患の治療および予防において経済的、医学的および実用的な利益を供与する。
【0079】
治療方法
本明細書において提供される方法および組成物は、真菌病原体ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、およびクリプトコッカス属、特にニューモシスチス・ホミニスもしくはジロベシ、アスペルギルス・フミガーツス、カンジダ・アルビカンス、またはクリプトコッカス・ネオフォルマンスによって引き起こされる感染症および/または関連する疾患を治療または予防するために用いることができる。本明細書において提供される方法および組成物は、これらの真菌生物の、少なくとも1つ、特に2つ以上により引き起こされる感染症および疾患に対して免疫防御を対象において提供することができる。本明細書において提供される方法および組成物は、これらの真菌生物の少なくとも1つ、特に2つ以上による感染に対してレシピエント対象を免疫することができる。概して、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに対して生成された1つもしくは複数の抗体を含有する単離された抗血清は、Kexタンパク質またはペプチド抗原を発現する他の病原性真菌生物に対する免疫を提供するために治療的および/または予防的に投与することができる。本方法は、本明細書に記述されている、免疫学的有効量の、汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、単離された抗血清、または免疫血清もしくは免疫血漿を、単独で、または生理学的に許容される担体、賦形剤、もしくは希釈剤中で、個体に投与する段階を含む。1つの態様において、汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または単離された抗血清は、薬学的に許容される組成物中にある。
【0080】
1つまたは複数の真菌病原体(例えば、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属、より具体的には、ニューモシスチス・ホミニスもしくはジロベシ、アスペルギルス・フミガーツス、カンジダ・アルビカンス、またはクリプトコッカス・ネオフォルマンス真菌のうちの1つまたは複数)による感染症、および/あるいはその疾患、障害、または症状を治療または予防する方法であって、治療的有効量の、本明細書に記述されている、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清を、それを必要とするレシピエント対象(例えば、ヒト患者などの哺乳動物)に投与する段階を含む、方法が本明細書において提供および記述されている。1つの態様において、抗血清は、ケキシンタンパク質またはそのKexペプチドを特異的に標的として、Kexプロテイナーゼの活性を中和する、抗体を含有する。1つの態様において、単離された抗血清は、レシピエント対象が複数の真菌病原体に対する防御免疫を達成し、受動的に獲得することを可能にする。
【0081】
1つの態様において、本明細書に記述されている方法は、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属による感染症、またはこれらの真菌病原体のうちの1つもしくは複数によって引き起こされる疾患もしくはその症状(例えば、肺疾患もしくはCOPD)に苦しんでいるまたはかかりやすい対象を治療する段階を伴う。本方法は、感染症、疾患、障害、またはその症状が治療されるような条件の下で1つまたは複数の異なるタイプの真菌生物によって引き起こされる、感染症、疾患、障害、またはその症状を治療するのに十分な、有効量の、汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清を、対象(例えば、哺乳動物またはヒト患者)に投与する段階を含む。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的に許容される組成物中にある。
【0082】
また、2つ以上のタイプの真菌病原体による感染症、および/またはその疾患もしくは障害もしくは症状を治療または予防する方法であって、治療的有効量の、本明細書に記述されている、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清(例えば、1つまたは複数の抗体またはその抗原結合断片を含む)を、対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に投与する段階を含む、方法も、提供および記述されている。さまざまな態様において、本方法は、感染症、疾患、またはその症状(例えば、COPD、肺疾患、肺機能低下、またはその症状)にかかりやすい対象において、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属から選択される2種以上の真菌病原体による感染症を予防する。1つの態様において、本方法は、感染症、疾患、障害、またはその症状が治療されるような条件の下で、感染症、疾患、障害、またはその症状を治療するのに十分な、治療量の、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清を、レシピエント哺乳動物に投与する段階を含む。1つの態様において、本方法は、感染症、疾患、障害、またはその症状が予防されるような条件の下で、感染症、疾患、障害、またはその症状を予防するのに十分な、予防的(prophylactic)または予防的(preventive)量の、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された抗血清を、レシピエント哺乳動物に投与する段階を含む。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的に許容される組成物中にある。1つの態様において、レシピエント哺乳動物は、治療を必要とするヒト患者である。
【0083】
治療は、2種以上の真菌生物、特に、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のうちの2つ以上、特に、ニューモシスチス・ホミニスもしくはジロベシ、アスペルギルス・フミガーツス、カンジダ・アルビカンス、またはクリプトコッカス・ネオフォルマンスによる感染症、あるいはその疾患、病態、または症状に苦しんでいるか、それらを有するか、それらにかかりやすいか、またはそれらのリスクがある対象(特にヒト)に適当に施される。「リスクがある」対象の判定は、対象もしくは医療提供者の診断試験もしくは意見(例えば、遺伝子検査、酵素試験もしくはアッセイ、またはタンパク質マーカー(例えば、血清中の、抗Kex抗体のレベルなどの)、家族歴など)による任意の客観的または主観的判定によって行うことができる。本明細書における方法は、有効量の、本明細書に記述されている、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む抗真菌病原体免疫原性組成物、または該天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成されドナー対象から単離された抗血清を、レシピエント対象(そのような治療を必要とする、または感染のリスクがあると特定された対象を含む)に投与する段階も含む。そのような治療を必要とする対象を特定することは、レシピエント対象または医療従事者もしくは医療専門家の判断を伴うこともあり、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、試験もしくは診断方法によって測定可能)でありうる。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的に許容される組成物中で提供される。
【0084】
いくつかの局面において、対象における真菌感染症または真菌病原体に関連する疾患もしくは状態(例えば、肺感染症、肺疾患もしくは障害、肺炎、COPDなど)を治療または予防する方法であって、異なる真菌病原体に関連する感染症または疾患に対して対象が治療的および/または予防的に処置されるような、有効量の、本明細書に記述されている、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された、該非天然汎真菌ケキシンペプチドに対する抗体免疫応答を生じた個体から得られた単離された抗血清を、それを必要とする対象に投与する段階を伴う、方法が取り上げられる。
【0085】
免疫抑制薬もしくは薬物療法を受けている、または受けた患者で、薬物誘発性の免疫系抑制の結果として、院内環境の内外のいずれかで、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの1つまたは複数などの、病原性真菌による感染症にかかりやすい、またはかかりやすくなりうる(またはそのリスクがある)患者において真菌感染症および/または疾患を治療または予防する方法が別の局面において提供される。例として、そのような患者は、移植を受ける準備をしている可能性があり(移植前の患者)、あるいは移植を受けた可能性があり(移植後の患者)、1つもしくは複数の免疫抑制薬もしくは薬物療法(拒絶反応抑制薬)が投与され、かつ/またはそれ以外には、移植された臓器もしくは組織の拒絶の可能性を減らすために薬物で処置され、その結果、患者はニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの1つもしくは複数によって引き起こされる感染症および/もしくは疾患になりやすいか、かかりやすいか、もしくはそのリスクが高い。関節リウマチまたは乾癬などのような、他のタイプの疾患および状態を有する患者も、その状態を治療または管理するために免疫抑制効果を有する薬物療法を投与され、したがって1つまたは複数の真菌病原体による感染症に苦しみ、またはそのリスクがありうる。非限定的なクラスの免疫抑制薬および薬物療法としては、例えば、プレドニゾン(例えば、DELATSONE、ORASONE)などの、コルチコステロイド; シクロスポリン(NEORAL、SANDIMMUNE、SANGCYA)などの、ブデソニド(ENTOCORT EC)もしくはプレドニゾロン(MLLIPRED)カルシニューリン阻害剤; またはタクロリムス(ASTAGRAF XL、ENVARSUS XR、PROGRAF); シロリムス(RAPAMUNE)、エベロリムス(AFINITOR、ZORTRESS)などの、mTOR阻害剤; アザチオプリン(AZASAN、IMURAN)、レフルノミド(ARAVA)、ミコフェノール酸(CELLCEPT、MYFORTIC)などの、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMDH)阻害剤; アバタセプト(ORENCIA)などの、生物製剤およびモノクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体に基づく抗体またはその抗原結合断片; アダリムマブ(HUMIRA); アナキンラ(KINERET); セルトリズマブ(CIMZIA); エタネルセプト(ENBREL); ゴリムマブ(SIMPONI); インフリキシマブ(REMICADE); イキセキズマブ(TALTZ); ナタリズマブ(TYSABRI); リツキシマブ(RITIXAN); セクキヌマブ(COSENTYX); トシリズマブ(ACTEMRA); ウステキヌマブ(STELARA); およびベドリズマブ(ENTYVIO)が挙げられる。1つの態様において、患者は、腎臓、肝臓、心臓、骨髄、膵臓、肺、胆嚢、膀胱などから選択される臓器の移植を受けることになっているか、または受けている。
【0086】
免疫抑制されている患者における、これらの真菌病原体のうちの1つもしくはそれ以上、2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、または4つ全てによる感染症に対する免疫応答を高めるのに有効な量の、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに対する抗体(もしくはそのような抗体を含有する抗血清)を、移植拒絶薬物療法または他の免疫抑制薬物療法を受けている患者に投与することができる。1つの態様において、免疫抑制薬を投与されている患者は、免疫抑制薬による処置中に、本明細書に記述されている方法およびキットを利用することにより、真菌病原体のうちの1つまたは複数に対する抗体の存在(および抗体価)について評価およびモニタリングすることができる。
【0087】
任意で、本明細書に記述されている、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清は、任意の他の処置または治療法(例えば、抗真菌療法)のうちの1つまたは複数と組み合わせて投与されてもよい。例えば、本明細書に記述されている、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または抗Kex非天然汎真菌ペプチド抗体もしくはその抗原結合断片を含有する、非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清もしくは免疫血漿を、抗真菌活性を有する他の抗体もしくは抗体カクテル(例えば、免疫血漿を含む)と組み合わせて、または1つもしくは複数の薬物、例えば、抗真菌活性を有する1つもしくは複数の薬物(例えば、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、アジスロマイシン-スルファメトキサゾール、クラリスロマイシン-スルファメトキサゾール、アトバクオン、スルファドキシン-ピリメタミン、エリスロマイシン-スルフィソキサゾール、PS-15、およびダプソン-トリメトプリム、ならびに静脈内ペンタミジンおよびクリンダマイシン-プリマキン)と組み合わせて投与し、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌生物に対するレシピエントでの防御免疫を提供してもよい。前述のいずれかの態様において、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清は、薬学的に許容される組成物中で提供される。
【0088】
前述の局面のいずれかの1つの態様において、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属真菌病原体に対して(例えば、そのような真菌病原体により発現されるKexペプチドに対して)免疫され、接種され、もしくは曝露されたドナー対象から単離された、非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された抗血清は、2つ以上のこれらの真菌病原体によって引き起こされる感染症または疾患に対する免疫防御(記憶免疫防御を含む)をレシピエント対象が獲得することを可能にする。
【0089】
単剤療法および併用療法の両方を(例えば、同時にまたは他の方法で)投与するための方法は、当業者に公知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第12版, E. W. Martin編集, Mack Publishing Coに記述されている。1つの態様において、抗血清は、本明細書に記述されているように1つまたは複数の真菌病原体によって引き起こされる感染症または疾患を治療する治療的な抗体含有組成物を提供する。別の態様において、抗血清は、本明細書に記述されているように1つまたは複数の真菌病原体によって引き起こされる感染症または疾患を予防および防御する予防的な抗体含有組成物を提供する。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的に許容される組成物中である。
【0090】
追加の方法
現在、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの1つもしくはそれ以上、2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、または各々による感染症に対して無症候性である患者が、これらの病原体のうちの1つまたは複数による感染症にかかりやすいか、なりやすいか、またはそのリスクがあるかどうかを判定するための方法および試薬が不足している。これらの真菌生物は非常に少量で存在しうるため、または対象におけるその存在を評価するために利用可能な培養条件の下で増殖しないため、現在、これらの真菌生物をプレートアウトする(plate out)ことは困難である。その結果として、患者がニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属のうちの1つもしくは複数に実際に感染しているかどうか、または(例えば、医学的手技、手術、もしくは移植後に)感染する可能性が高いかどうかを、医師および患者が知ることは困難である。
【0091】
1つまたは複数の真菌病原体による感染症にかかりやすいか、またはかかりやすい可能性のある患者を特定する、認定する、または層別化することも、および経時的に、例えば、手術からの回復中にもしくは免疫抑制療法中に、例えば、臓器移植後に、または他の化学療法による処置中にかかりやすさの変化について、あるいは経時的に真菌感染症または関連疾患の治療を受けている患者における感染の軽減または排除について患者をモニタリングすることも、困難である。本明細書に記述されている方法は、そのような医療ニーズのための実行可能な解決策を提供する。さらに、患者が特定の真菌病原体に特異的な抗体を保有しているか、もしくは保有していないかに基づいて患者を層別化し、それにより感染を抑止することによって、または患者が所与のタイプの病原性真菌に特異的な抗真菌Kexペプチド抗体を有しているか、もしくは有していないかに基づいて、患者が適切なまたはより方向性のある真菌療法で処置されることを可能にする方法が提供される。
【0092】
1つの態様において、対象から得られたサンプル中の非天然Kexタンパク質またはペプチドに対する抗体を検出するための方法であって、(a) 対象から得られた生物学的サンプルを非天然Kexペプチドと接触させる段階および(b) Kexペプチドに特異的に結合するサンプル中の抗体への非天然Kexペプチドの結合を検出する段階を含み、該結合の検出が対象のサンプルにおける真菌生物のKexペプチドに対する抗体の存在を示す、方法が提供される。1つの態様において、Kexペプチドは、固体支持体または基材に付着されている。1つの態様において、結合は免疫アッセイ法、例えば、酵素結合免疫測定法を実施することによって検出される。
【0093】
別の態様では、例えば、対象が、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属から選択される1つまたは複数の真菌病原体による感染症から防御されているか、または防御されるであろうかを判定するために、移植を受けている対象または移植手順を受けることになっている対象において感染に関連した真菌生物に対する抗体をモニタリングまたは検出する方法であり、該方法は、(a) 最初の時点で、移植手術を受ける前に対象から得られたサンプル中の非天然汎真菌Kexタンパク質またはペプチドに結合する抗体のレベルを測定する段階; (b) 対象が移植手術を受けた後の1つまたは複数の時点で対象から得られたサンプル中の非天然汎真菌Kexタンパク質またはペプチドに結合する抗体のレベルを測定する段階; および(c) 対象サンプルが所定のもしくは閾値のレベルと比べてまたは対照レベルと比べて、非天然汎真菌Kexペプチドに特異的に結合する抗体レベルを含むことを検出する段階を含み、対象のサンプル中の非天然汎真菌Kexペプチドに結合する高い抗体レベルは、対象が真菌生物に対する免疫応答を生じたことを示す。1つの態様において、非天然汎真菌Kexペプチドに結合する対象のサンプルにおいて検出された抗体は、本記述の方法および組成物によって、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属による感染症から対象を防御するのに役立ちうる。
【0094】
上記の方法の実践を経時的に(異なる時間間隔または異なる期間で)繰り返すことにより、非天然汎真菌Kexペプチドに対する対象の抗体レベル(すなわち、非天然Kexペプチドに結合する抗体のレベル)のモニタリングが可能にされ、適切な抗真菌薬もしくは治療法による対象の継続的な、新規の、もしくは異なる処置が必要とされるか、正当化されるかどうか、または対象のサンプルにおいて測定された抗体価に基づいて、抗真菌処置が全くもしくはそれほど正当化されないかどうかに関して、医師または臨床医に情報を与えることができる。
【0095】
他の態様では、対象の生物学的サンプル、例えば、血液、血清、血漿、リンパ液、気管支肺胞洗浄液において、非天然汎真菌Kexペプチドに結合する抗体の存在を検出するための方法であって、生物学的サンプル中の非天然汎真菌Kexペプチドに対する抗体のレベルが同時に決定される、方法も提供される。例えば、1つの態様において、本方法は、(a) 対象のサンプル中の多数の抗体に選択的に結合する非天然汎真菌Kexペプチドと対象から得られた生物学的サンプルを、結合したKexペプチド-抗体複合体を形成させるのに十分な一定の時間、接触させる段階; (b) 対象のサンプル中の多数の抗体へのKexペプチドの結合を検出し、それによってサンプル中のKexペプチドに対する抗体のレベルを判定する段階; および(c) サンプル中の多数の抗体のレベルを所定の閾値と比較する段階を含み、所定の閾値を上回るまたは下回る多数のKexペプチドの少なくとも1つに結合する抗体のレベルは、例えば、対象が真菌生物の1つまたは複数に由来するKexペプチドに対する、抗体価を有し、免疫応答をもたらしたことを示す。したがって、Kexペプチドに対して測定された抗体応答を有する対象は、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌生物のうちの1つまたは複数に関連する感染症および疾患から防御される。
【0096】
別の態様において、対象における真菌生物ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のうちの1つまたは複数のKexペプチドに結合する抗体を評価するための方法であって、(a) ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属に由来する1つまたは複数の(多数の) Kexペプチドを含む組成物と対象から得られた生物学的サンプルを、抗体-Kexペプチド複合体を形成させるのに十分な一定の時間、接触させる段階; (b) サンプル中の抗体への多数のKexペプチドの結合を検出し、それによってサンプル中の抗Kexペプチド抗体のレベルまたは力価を検出する段階; および(c) 生物学的サンプル中の抗Kexペプチド抗体のレベルまたは力価を所定の閾値または対照値と比較する段階を含み、所定の閾値を上回るまたは下回る抗Kexペプチド抗体の少なくとも1つのレベルは、対象が1つまたは複数の真菌生物による感染症を予防するのに適切な免疫応答(抗体応答)を、それぞれ、有しているか、または有していないかを示す、方法が提供される。
【0097】
別の態様において、固体基材、および基材に固定化されたニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のうちの1つまたは複数に由来する多数のKexペプチドを含む組成物が提供される。1つの態様において、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の各々からのKexペプチドは、基材上の異なる、索引付け可能な位置に固定化される。他の態様において、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のうちの2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、または4つ全てからのKexペプチドの混合物が、基材上の異なる、索引付け可能な(indexible)位置に固定化される。非天然汎真菌Kexペプチドで以前にワクチン接種された対象から得られたサンプルからの抗Kexペプチド抗体の結合は、基材に局在化されたKexペプチドに結合した抗Kexペプチド抗体の複合体を測定または検出することにより測定または検出することができる。1つの態様において、組成物は、対象のサンプル中に存在する抗体のレベルまたは量を決定または測定するためだけでなく、抗体-ペプチド複合体を検出および/または測定するための免疫アッセイ法を実施するためのキットに含まれる。
【0098】
抗体
本明細書に記述されているように、非天然ケキシンペプチドに特異的に結合し、かつニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のうちの1つまたは複数などの、1つまたは複数の異なる真菌生物のケキシンペプチドと交差反応し、これらの真菌病原体のうちの2つまたはそれ以上によって引き起こされる感染症および疾患に対する免疫防御を提供する抗体を含む抗血清は、治療法において有用である。例えば、非天然汎真菌ケキシンペプチドの活性を標的とし、かつ/または阻害もしくは中和し、かつこれらの真菌病原体のうちの2つまたはそれ以上と交差反応する抗体を含有する単離された抗血清は、本明細書に記述されている方法において特に有用である。特定の態様において、非天然汎真菌Kexペプチドに特異的に結合し、かつニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のケキシンポリペプチドと交差反応する、抗体またはその抗原結合断片を含む単離された抗血清(または免疫血漿)を使用する方法は、肺疾患およびさまざまなタイプの障害、肺炎、COPD、浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)などのような、これらの真菌病原体による感染症ならびに/またはそれらに関連する疾患および状態の治療または予防のために提供される。
【0099】
抗体を調製する方法は、免疫学の科学分野の当業者に周知である。本明細書において用いられる場合、「抗体」という用語は、完全抗体分子のみならず、免疫原結合能力を保持している抗体分子の断片も意味する。そのような断片も、当技術分野において周知であり、インビトロおよびインビボの両方で日常的に利用されている。したがって、本明細書において用いられる場合、「抗体」という用語は、完全な免疫グロブリン分子だけでなく、周知の活性断片F(ab')2、およびFabも意味する。完全抗体のFc断片を欠くF(ab')2断片およびFab断片は、より迅速に循環血中から排出され、完全抗体より少ない非特異的組織結合を有しうる(Wahl et al., J. Nucl. Med. 24:316-325 (1983))。抗体は、完全自然抗体、二重特異性抗体; キメラ抗体; Fab断片、Fab'断片、単鎖V領域断片(scFv)、融合ポリペプチド、および非従来型抗体を含みうる。
【0100】
非従来型抗体には、ナノボディ、直鎖抗体(Zapata et al., Protein Eng. 8(10): 1057-1062, (1995))、単一ドメイン抗体、単鎖抗体、ならびに複数の価を有する抗体(例えば、ダイアボディ、トリボディ、テトラボディ、およびペンタボディ)が含まれるが、これらに限定されることはない。ナノボディは、軽鎖の非存在下で完全に機能性であるよう進化させられた、天然に存在する重鎖抗体の最小断片である。ナノボディは、単鎖Fv断片のサイズの半分のみであるが、従来型抗体の親和性および特異性を有する。極度の安定性およびヒト抗体フレームワークとの高度の相同性と組み合わせられた、この独特の構造の結果として、ナノボディは、従来型抗体が到達可能でない治療標的に結合することができる。複数の価を有する組み換え抗体断片は、がん細胞に対する高い結合アビディティおよび独特のターゲティング特異性を提供する。約60~100 kDaのサイズの低分子は、より速い血中からの排出および迅速な組織取り込みを提供するため、これらの多量体scFv(例えば、ダイアボディ、テトラボディ)は、親抗体と比べた改善を提示する。例えば、Powerら(Generation of recombinant multimeric antibody fragments for tumor diagnosis and therapy, Methods Mol Biol,207,335-50,2003); およびWu et al., Anti-carcinoembryonic antigen (CEA) diabody for rapid tumor targeting and imaging, Tumor Targeting, 4, 47-58, (1999))を参照されたい。
【0101】
非従来型抗体を作製し、使用するためのさまざまな技法が記述されている。ロイシンジッパーを使用して生成された二重特異性抗体は、Kostelnyら(J. Immunol. 148(5):1547-1553, (1992))によって記述されている。ダイアボディ技術は、Hollingerら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448, (1993))によって記述されている。単鎖Fv (sFv)二量体(diners)を用いて二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略は、Gruberら(J. Immunol. 152:5368, (1994))によって記述されている。三重特異性抗体は、Tuttら(J. Immunol. 147:60, (1991))によって記述されている。単鎖Fvポリペプチド抗体は、Hustonら(Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 85:5879-5883, (1988))によって記述されたように、直接接合されているか、またはペプチドをコードするリンカーによって接合されている、VHコード配列およびVLコード配列を含む核酸から発現されうる、共有結合で連結されたVH::VLヘテロ二量体を含む。米国特許第5,091,513号、同第5,132,405号、および同第4,956,778号; ならびに米国特許出願公開第20050196754号および同第20050196754号も参照されたい。
【0102】
さまざまな態様において、抗血清(単離された抗血清)は、モノクローナルまたはポリクローナルである非天然Kexペプチドに特異的に結合する、抗体またはその抗原結合断片を含有する。免疫血清(抗血清)または免疫血漿から抗体を取得または単離し、それよりハイブリッドまたはキメラ抗体を産生する方法も包含される。そのようなハイブリッドまたはキメラ抗体では、重鎖および軽鎖の一方の対が第1の抗体から得られ、重鎖および軽鎖の他方の対が異なる第2の抗体から得られる。そのようなハイブリッドまたはキメラ抗体は、ヒト化された重鎖および軽鎖を用いて形成されてもよい。抗体を単離し、ハイブリッドまたはキメラ抗体を産生するための方法は、当業者によって知られており、実践されている。
【0103】
一般に、完全抗体は、「Fc」領域および「Fab」領域を含有していると言われる。Fc領域は、補体活性化に関与し、抗原結合には関与しない。「F(ab')2」断片と名付けられた、Fc領域が酵素的に切断された抗体、またはFc領域を含まずに作製された抗体は、完全抗体の抗原結合部位の両方を保持している。同様に、「Fab」断片と名付けられた、Fc領域が酵素的に切断された抗体、またはFc領域を含まずに作製された抗体は、完全抗体の抗原結合部位のうちの1個を保持している。Fab断片は、共有結合で結合した、抗体軽鎖と、「Fd」と表記される抗体重鎖の一部分とからなる。Fd断片は、抗体特異性の主要な決定基である(1種のFd断片は抗体特異性の変更なしに、10種までの異なる軽鎖と会合しうる)。単離されたFd断片は、免疫原性エピトープに特異的に結合する能力を保持している。
【0104】
抗体(および抗体を含有する免疫血清または血漿)は、可溶性ポリペプチドまたはその免疫原性断片(例えば、Kex汎真菌ペプチド)を免疫原として利用する、当技術分野において公知の方法のいずれかによって産生または生成することができる。抗体を得る一つの方法は、免疫原、つまり汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドで適当な宿主動物または対象を免疫し、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体産生のための標準的な手順に従うことである。手短に言えば、免疫原は、免疫原(または免疫原の免疫原性断片)の細胞表面上への提示を容易にするであろう。適当な宿主の免疫は、いくつかの方法で実行することができる。例として、免疫原性汎真菌ケキシンペプチドをコードする核酸配列は、宿主の免疫細胞によって取り込まれる送達媒体(または分子発現コンストラクト)中で宿主に提供することができる。次に、細胞は、宿主において免疫原性応答をもたらす形で、汎真菌Kexペプチドをプロセッシングし、適切に発現するであろう。態様において、非天然汎真菌Kexペプチドが送達媒体または発現コンストラクトによって発現されうる。他の例示的な態様において、非天然汎真菌Kexペプチドをコードする核酸配列が、インビトロにおいて細胞内で発現されてもよく、発現された組み換え汎真菌Kexペプチド産物が単離され、適当な免疫宿主において免疫原として使用されて、抗Kexペプチド抗体を産生し、抗Kex抗血清を生成してもよい。
【0105】
あるいは、非天然汎真菌Kexペプチドに対する抗体は、必要に応じて、抗体ファージディスプレイライブラリーから導出されてもよい。バクテリオファージは細菌内で感染および繁殖することが可能であり、これをヒト免疫グロブリン(抗体)遺伝子と組み合わせた場合、ヒト抗体タンパク質を提示するように操作することができる。ファージディスプレイは、ファージがその表面にヒト抗体タンパク質を「提示」するように作られるプロセスである。ヒト抗体遺伝子ライブラリーからの遺伝子が、ファージの集団に挿入される。各ファージは異なる抗体の遺伝子を保有しているため、その表面に異なる抗体を提示する。
【0106】
当技術分野において公知の任意の方法によって作製された抗体を、次に、免疫された宿主から精製することができる。抗体精製法は、塩沈殿(例えば、硫酸アンモニウムを用いた)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオンまたは陰イオン交換カラムで、好ましくは中性pHで実行され、イオン強度を増加させる段階勾配で溶出される)、ゲルろ過クロマトグラフィー(ゲルろ過HPLCを含む)、ならびにプロテインA、プロテインG、ヒドロキシアパタイト、または抗免疫グロブリンなどのアフィニティー樹脂でのクロマトグラフィーを、非限定的に含む。
【0107】
特定の局面において、抗体は、抗体を発現するように操作されたハイブリドーマ細胞から好都合に産生することができる。ハイブリドーマを作製する方法は当技術分野において周知である。ハイブリドーマ細胞は適当な培地中で培養することができ、使用済みの培地を抗体源として用いることができる。関心対象の抗体をコードするポリヌクレオチドを次に、抗体を産生するハイブリドーマから得ることができ、その後、これらの核酸配列から抗体が合成または組み換えにより産生されうる。大量の抗体を産生するには、腹水を得ることが一般的にいっそう好都合である。腹水を産生させる方法は一般に、ハイブリドーマ細胞を免疫学的にナイーブな組織適合性または免疫寛容性の哺乳動物、特にマウスに注射することを含む。哺乳動物は適当な組成物(例えば、プリスタン)の事前投与によって、腹水産生のために予備刺激されうる。通常は高濃度での、抗体を含有する腹水は、注入されたハイブリドーマ細胞を担持する動物の腹腔液から得ることができる。
【0108】
モノクローナル抗体(Mabは、当技術分野において公知の方法によって「ヒト化」することもできる。「ヒト化」抗体は、ヒト供給源に由来するヒト免疫グロブリンにいっそう類似するよう、配列の少なくとも一部がその初期の型から改変されている抗体である。抗体をヒト化する技法は、抗体が非ヒト動物(例えば、マウス、ラット)において生成される場合に特に有用である。マウス抗体をヒト化するための方法の非限定的な例は、米国特許第4,816,567号、同第5,530,101号、同第5,225,539号、同第5,585,089号、同第5,693,762号および同第5,859,205号において提供されている。
【0109】
前述の態様において、非天然Kexペプチドに対して生成された1つまたは複数の抗体またはその抗原結合断片は、薬学的組成物中で単独でまたは組み合わせで用いて、それを必要とする対象においてこれらの真菌病原体のうちの1つまたは複数によって引き起こされる疾患または感染症に対する免疫防御を提供することができる。そのような抗体は、本明細書に記述されている抗血清から単離または精製されてもよく、あるいは、例えば、組み換え分子生物学技法により生成され、必要とする対象における薬学的使用のために精製および製剤化されてもよい。抗体のそのような製剤は、本明細書に記述されている抗真菌Kexペプチド抗体を含む単離された抗血清によってもたらされるものと同様の免疫防御特性を有しうる。
【0110】
ワクチン
ワクチンは、特定の疾患に対し対象において能動的な獲得免疫(例えば、防御免疫)を提供する生物学的調製物である。ワクチンは、通常、疾患を引き起こす病原体、例えば、微生物、真菌などに似た病原体(agent)を含有し、多くの場合、弱体化もしくは死滅化された形態の病原体、あるいは病原体の毒素または表面タンパク質もしくはペプチドで作られている。対象へのワクチンの投与後、病原体は対象にとって外来(または「非自己」)として発現および認識され、対象の免疫系を刺激して免疫応答(B細胞(抗体)および/またはT細胞(細胞性)免疫応答)を開始し、病原体を破壊する。さらに、ワクチン接種剤(vaccinating agent)に曝露された免疫系の細胞(例えば、B細胞)は、病原体の記憶を保持し、その結果、病原体は、後のまたは後続の遭遇時に記憶細胞によって認識および破壊される。ワクチンは、予防的(例えば、病原体による将来の感染の影響を予防もしくは改善するために)、または治療的(例えば、対象が病原体に感染もしくは遭遇した時にもしくは後に、病原体もしくは疾患を引き起こす病原体によって引き起こされた、もしくはそれらに関連した疾患もしくは感染症を治療するために)であることができる。
【0111】
多くのワクチンは、病原体の弱毒化型から、あるいは不活化された疾患原因生物、または毒素、タンパク質/ペプチドもしくは有害な酵素などの、そのような病原体もしくは生物の適当な部分から調製されるが、免疫系が応答する抗原は、ペプチド(例えば、非天然汎真菌Kexペプチド)などの、比較的少数のアミノ酸を構成することが多い。病原体のタンパク質またはペプチド部分がワクチンを構成しうる。ペプチドワクチンは、病原体に対して生物を免疫する(免疫された生物において抗体(B細胞)応答および/または免疫細胞(T細胞)応答などの、免疫応答または防御免疫応答を誘発する)のに役立つ任意のペプチドである。態様において、ペプチド抗原は、非天然汎真菌Kexペプチドでありうる。1つの態様において、非天然Kexペプチド抗原を含むワクチンは、必要性のあるレシピエント対象への投与後に他の真菌生物の各々に対する免疫防御を提供するために用いられうる。
【0112】
非弱毒化ワクチンの場合、防御免疫応答を引き起こすペプチド配列が特定され、ペプチドの合成(または組み換え産生)型がワクチン物質として利用される。それらは天然には存在しておらず、合成であるため、ペプチドワクチンは変異または復帰変異のリスクをほとんどまたは全くもたらさず、病原性または毒性物質による混入のリスクをほとんどまたは全くもたらさない。さらに、ペプチド構造の化学的操作または修飾は、安定性の増加、および天然のタンパク質またはペプチド配列に関連しうる望ましくない副作用または有害作用の減少をもたらしうる。
【0113】
合成または組み換えにより産生されるペプチド抗原は、ワクチンの成分として大量に容易に調製することができる。そのような物質は、おそらくタンパク質のマスキングまたは翻訳後修飾の結果として、自然感染中に免疫系によって認識されないタンパク質抗原の部分を露出させることもある。微生物、真菌病原体および他の病原性生物の新しい菌株および血清型を配列決定することにより、ペプチド抗原の迅速な修飾を可能にして、特に宿主のまたはレシピエントの免疫系の抗体および細胞によって認識されかつ標的とされる抗原性エピトープに対する、菌株特異的な免疫応答をもたらす。場合によっては、病原体の三次元エピトープ部位または抗原部位のモデリングを利用して、ペプチド抗原上の的確なエピトープ部位または抗原部位を合成により生成してもよい。
【0114】
1つの局面において、いくつかの異なるタイプの真菌病原体(例えば、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、およびクリプトコッカス属の真菌病原体)の間で同一ではないが、免疫学的に標的とすることが可能であり、かつ対象への投与(免疫)後に複数の真菌病原体によって引き起こされるまたは複数の真菌病原体に関連する感染症または疾患を治療または予防するのに有用である、合成により産生(組み換え産生)されたペプチド、すなわち汎真菌ケキシンペプチドを含む、ワクチン(または免疫原性組成物)が提供される。1つの態様において、個体を免疫するために用いられる場合、非天然汎真菌Kexペプチドからのペプチドワクチンまたは免疫原性組成物は、病因学的に異なる真菌病原体ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属およびクリプトコッカス属、特にニューモシスチス・ホミニス、アスペルギルス・フミガーツス、カンジダ・アルビカンスおよびクリプトコッカス・ネオフォルマンスの全てを防ぐ交差反応性抗体を含有する抗血清(または免疫血漿)の産生という形で免疫応答を誘発する。したがって、非天然汎真菌Kexペプチドを含むワクチンまたは免疫原性組成物によって生成される抗血清または免疫血漿は、2つ以上の異なる真菌病原体、すなわち、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属および/またはクリプトコッカス属真菌病原体によって引き起こされるまたはそれらに関連する感染症または疾患、特に、ニューモシスチス・ホミニス、アスペルギルス・フミガーツス、カンジダ・アルビカンスおよび/またはクリプトコッカス・ネオフォルマンスによって引き起こされるまたはそれらに関連する感染症または疾患を治療または予防するために必要とされる単独の治療剤または防御剤として用いられうる。1つの態様において、ペプチドワクチンなどによって生成された抗血清が単離される。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的組成物中で用いられる。
【0115】
いくつかの局面において、遺伝子ワクチンが提供される。遺伝子ワクチンは、いったん発現されると、生物を免疫するのに役立つ免疫原をコードするポリヌクレオチド配列を含む任意のワクチンである。遺伝子ワクチンの投与は、免疫原が細胞内で発現された後に、病原体に対する免疫生物における抗体(B細胞)応答および/または免疫細胞(T細胞)応答などの、免疫応答または防御免疫応答を誘発する。いくつかの態様において、遺伝子ワクチンは、汎真菌ペプチドまたは野生型ペプチドなどの、Kexペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。いくつかの態様において、ペプチドは、非天然ペプチドである。いくつかの態様において、遺伝子ワクチンは、2つ以上のKexペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。いくつかの態様において、Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドは、コードされたKexペプチドの発現を促進するために、プロモーターおよびエンハンサーなどの、要素を有するベクターに存在する。遺伝子ワクチン中の核酸は、対象のゲノムに組み込まれることもあり、ここで免疫原の発現は、内因性プロモーターまたは挿入された核酸によりコードされるプロモーターによって駆動されうる。遺伝子ワクチン中の免疫原をコードするポリヌクレオチドは、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドでありうる。ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの分解を阻害することができるヌクレオチド類似体を含みうる。
【0116】
薬学的組成物
1つまたは複数の真菌病原体による対象の感染に関連する感染症および疾患を治療または予防するための方法も、本明細書において取り上げられる。本方法は、免疫学的有効量の、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、あるいは、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属もしくはクリプトコッカス属から選択される1つもしくは複数の異なる真菌病原体による感染症および/またはそれらに関連する疾患から対象を交差治療および/または防御する、非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗血清を、それを必要とする対象に投与する段階を含む。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的組成物中で用いられる。
【0117】
典型的には、本明細書に記述されている免疫原性組成物またはワクチンのための担体または賦形剤は、滅菌水、生理食塩水溶液、緩衝生理食塩水溶液、デキストロース水溶液、グリセロール水溶液、エタノール、またはそれらの組み合わせのような、薬学的に許容される担体または賦形剤である。無菌性、pH、等張性、および安定性を確実にするそのような溶液の調製は、当技術分野において確立されたプロトコルにしたがって行われる。通常、担体または賦形剤は、アレルギーおよび他の望ましくない作用を最小限に抑えるために、および特定の投与経路、例えば、皮下、筋肉内、鼻腔内などに適するように選択される。そのような方法はまた、水中油型乳濁液、サポニン、コレステロール、リン脂質、CpG、多糖類、それらの変種、およびそれらの組み合わせのような、アジュバントを本明細書に記述されている組成物とともに投与する段階を含む。任意で、予防的投与のための製剤はまた、汎真菌Kexペプチド抗原または免疫原などの、抗原または免疫原に対する免疫応答を増強するための1つまたは複数のアジュバントを含有してもよい。適当なアジュバントは、非限定的に、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、サポニン、α-ガラクトシルセラミド(α-GC)、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油もしくは炭化水素乳濁液、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、コリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)、ならびに合成アジュバントQS-21およびMF59を含む。1つの態様において、単離された抗血清は、薬学的組成物中で用いられる。
【0118】
本明細書に記述されている真菌病原体による感染症、または真菌病原体に関連する疾患もしくは状態(例えば、肺感染症もしくは疾患、肺機能不全、COPD、肺炎など)を治療または予防するための治療用物質としての、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または、非天然汎真菌ケキシンタンパク質もしくはペプチドに対する単離された抗血清、モノクローナル抗体、もしくはポリクローナル抗体などの抗血清の投与は、必要に応じて、他の成分と組み合わせて、対象における疾患または疾患症状を改善する、低減する、排除する、弱める、または安定化するうえで有効な治療用物質の濃度をもたらす任意の適当な手段によるものでありうる。治療用物質は全身投与されてもよく、例えば、生理食塩水のような薬学的に許容される組成物または緩衝液中に製剤化されてもよい。好ましい投与経路には、例えば、対象において連続的で持続的なレベルの治療用物質を提供する皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、髄腔内または皮内注射が含まれる。投与される治療用物質の量は、投与方法、対象の年齢および体重、ならびに真菌感染症または関連疾患の臨床症状に応じて変わる。通常、量は、肺疾患または機能不全の治療において用いられる他の薬剤のために用いられるものの範囲内であろうが、ある場合には治療用物質によって得られる防御および治療の範囲が増すので、より少ない量が適当でありうる。組成物は、当業者に公知の方法によって決定されるように、真菌病原体感染または疾患(例えば、肺感染症および疾患ならびにその症状)の影響を改善する、低下させる、減少させる、弱める、軽減する、または排除する投与量で投与される。1つの態様において、単離された抗血清は、病原性真菌生物による感染またはコロニー形成の部位またはその近くでレシピエント対象に投与または提供される。
【0119】
複数の態様において、治療用または予防用処置剤は、任意の適当な担体物質中に任意の適切な量で含まれていてもよく、概して組成物の総重量の1~95重量%の量で存在する。組成物は、非経口(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、髄腔内、または腹腔内)投与経路に適した投与形態で提供されうる。薬学的組成物は、従来の薬務にしたがって製剤化されうる(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (20th ed.), ed. A. R. Gennaro, Lippincott Williams & Wilkins, 2000およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technology, eds. J. Swarbrick and J. C. Boylan, 1988-1999, Marcel Dekker, New Yorkを参照のこと。)
【0120】
薬学的組成物は、場合によっては、投与したら実質的にすぐに、または投与から任意の所定の時間後もしくは期間後に活性剤を放出するように製剤化されうる。後者のタイプの組成物は通常、制御放出製剤として知られており、これには、(i) 長期間にわたって実質的に一定濃度の治療剤または薬物を体内にもたらす製剤; (ii) 所定の遅延時間の後、長期間にわたって実質的に一定の濃度の治療剤または薬物を体内にもたらす製剤; (iii) 活性物質の血漿レベルの変動(鋸歯状動態パターン)に関連する望ましくない副作用を同時に最小化しながら、体内で比較的一定の有効レベルを維持することによって所定の期間に作用を持続させる製剤; (iv) 例えば心臓のような臓器に隣接または接触して制御放出組成物を空間的に配置することによって、作用を局所化する製剤; (v) 例えば、1週間または2週間に1回用量が投与されるように、便利な投薬を可能にする製剤; および(vi) 治療剤または薬物を特定の細胞型に送達するために担体または化学的誘導体を用いて疾患を標的とする製剤が含まれる。いくつかの用途の場合、制御放出製剤は、血漿、血清、または血液中の治療物質レベルを維持するために日中に頻繁に投薬する必要性をなくす。1つの態様において、単離された抗血清は、対象への投与のための1つまたは複数の追加の成分とともに製剤化されうる。
【0121】
放出速度が問題の治療剤または薬物の代謝速度を上回る制御放出を得るために、いくつかの戦略のうちのいずれかを追求することができる。1つの例では、制御放出は、例えばさまざまなタイプの制御放出組成物およびコーティングを含む、さまざまな製剤パラメータおよび成分の適切な選択によって得られる。したがって、治療剤または薬物は、投与時に、制御された方法で治療剤または薬物を放出する薬学的組成物に適切な賦形剤とともに製剤化されうる。例としては、単一または複数単位の錠剤またはカプセル組成物、油性溶液、懸濁液、乳濁液、マイクロカプセル、ミクロスフェア、分子複合体、ナノ粒子、パッチ、およびリポソームが挙げられる。
【0122】
薬学的組成物は、非経口的に注射、注入、もしくは移植(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、鞘内など)により、投与形態、製剤中で、または従来の無毒性の薬学的に許容される担体および補助剤を含有する適当な送達装置もしくはインプラントを介して投与されうる。そのような組成物の製剤化および調製は、薬学的処方の分野の当業者に周知である。製剤化は、上記のRemington: The Science and Practice of Pharmacyにおいて見出すことができる。
【0123】
非経口使用のための組成物は、単位投与形態で(例えば、単回用量アンプル中で)、または数回の用量を含有し、かつ適当な保存料が添加されてもよいバイアル中で提供されうる(下記参照)。組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、注入装置、もしくは移植用の送達装置の形態であってもよく、または使用前に水もしくは別の適当な媒体で再構成される乾燥粉末として提供されてもよい。肺疾患または機能不全などの、疾患または機能不全を低減または改善する活性剤とは別に、組成物は適当な非経口的に許容される担体および/または賦形剤を含みうる。場合によっては、活性治療剤は、制御放出のためにミクロスフェア、マイクロカプセル、ナノ粒子、リポソームなどに組み込まれうる。さらに、組成物は、懸濁化剤、可溶化剤、安定化剤、pH調整剤、張度調整剤(tonicity adjusting agent)、および/または分散剤を含みうる。
【0124】
いくつかの態様において、活性成分を含む薬学的組成物(例えば、本明細書に記述されている、非天然汎真菌Kexペプチドもしくは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む免疫原性組成物、または該非天然汎真菌Kexペプチドに応答して生成された単離された抗真菌抗血清)は、静脈内送達、例えば、静脈内注射、または髄腔内送達用に製剤化される。1つの態様において、抗血清は、単離された抗血清である。そのような組成物を調製するためには、適当な治療用物質を非経口的に許容される液体媒体、賦形剤、または溶媒に溶解または懸濁させる。利用されうる許容される媒体および溶媒のなかには、例えば、水、適切な量の塩酸、水酸化ナトリウムまたは適当な緩衝液の添加によって適当なpHに調整された水; 1,3-ブタンジオール; リンゲル溶液; ならびに等張塩化ナトリウム溶液およびデキストロース溶液がある。水性製剤はまた、1つまたは複数の保存料(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、エチルまたはn-プロピル)を含有しうる。作用物質の1つが水に少ししかまたはわずかしか溶解しない場合、溶解促進剤もしくは可溶化剤を添加することができ、または溶媒が10~60% w/wのプロピレングリコールなどを含んでもよい。
【0125】
真菌由来Kexペプチドと反応する抗体を検出および/または定量化するためのキットおよび組成物
別の態様において、対象のサンプル(例えば、血液または血清)における、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの1つもしくは複数のKexタンパク質もしくはペプチドに対する抗体の存在、または存在しうるそのような1つもしくは複数の抗体のレベルの検出および/または定量化を好都合に可能にするキットおよび組成物が提供される。1つの態様において、対象はヒト患者である。1つの態様において、患者は、移植、例えば、臓器もしくは組織移植を受けているか、または移植を受けることになっており、したがって、1つまたは複数の真菌病原体による感染症のリスクが高い可能性がある。1つの態様において、移植患者、または移植を受ける患者は、免疫抑制され、および/またはそうでなければ薬物により処置されて、移植された臓器または組織の拒絶の可能性を低減するが、それによって患者はニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの1つまたは複数によって引き起こされる感染症および/または疾患になりやすいか、またはかかりやすい。1つの態様において、患者は、腎臓、肝臓、心臓、骨髄、膵臓、肺などから選択される臓器の移植を受けているか、または受けることになっている。
【0126】
本明細書に記述されているそのようなキットにより、任意の患者、特に移植患者は、患者が、例えば、入院中、または入院患者もしくは外来患者のいずれかに基づいて実施される、医学的手技もしくは処置(例えば、手術もしくは移植)中もしくは後に、本明細書に記述されている1つまたは複数の真菌病原体に感染しないことを確実にするのに十分なレベル(力価)の抗真菌病原体抗体を有するかどうかを検出または認定するための当技術分野における長年の必要性が満たされる。現在、適切な試薬およびアッセイ法の不足のため、医学的手技または手術を受けることになっている患者、特に、移植手順を受けることになっている免疫抑制された患者、または他の免疫抑制療法を開始することになっている患者が、免疫抑制療法および処置の後または間に、真菌感染症、例えば、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの1つまたは複数によって引き起こされる感染症および/または疾患にかかるかどうかを評価することは困難である。患者のサンプルを試験して、患者がこれらの真菌病原体のうちの1つまたは複数に対する抗体価(例えば、真菌病原体のうちの1つまたは複数に対する高いまたは低い抗体価が)を有するかどうかを判定できるキットの使用により、患者の術後または移植後の回復および直接的処置の成功が大幅に増強されるであろう。例えば、本明細書に記述されているキットを用いた患者のサンプル(例えば、移植患者からの血液または血清サンプル)の試験後に、患者は、真菌病原体のうちの1つもしくは複数に対する、特に、真菌病原体のうちの1つもしくは複数のKexペプチドに対する、抗体(抗血清)価が低い、無視できる、または全くないと判定される場合、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のうちの1つまたは複数による潜在的または現実的な感染から患者が自然に防御されないものと推察することができる。
【0127】
本明細書に記述されているキットにより、試験者および患者は、患者のサンプル(血清サンプル)がニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属生物のうちの1つもしくはそれ以上、2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、または4つのKexタンパク質/ペプチドに対する抗体を含有するかどうかを判定することおよび知ることが可能になるであろう。キットの使用から得られた結果により、患者において特定の抗真菌Kexペプチドを標的とする特定の抗真菌Kexペプチド抗体がないか、またはその抗体価が低い(例えば、血清中に特定の抗真菌Kexペプチド抗体がない)ことが示唆される場合、その患者は、特定の真菌病原体に対する感染症に潜在的になりやすいまたはかかりやすいと特定され、その後、患者が特定の抗体を有しないか、もしくは無視できるほどしか有しない、または抗体価が低減している、特定の真菌病原体に対する適切な抗真菌処置を施されることが可能になる。1つの態様において、患者は、予防的な抗真菌処置または治療を施される。1つの態様において、処置は、特定の真菌病原体によるまたは2種もしくはそれ以上の真菌病原体、すなわち、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属による感染症または感染に関連した疾患を治療するために最良にデザインされている適切な薬物または薬物療法を患者に施すことを含む。1つの態様において、治療は、非天然汎真菌Kexペプチドまたは該汎真菌Kexペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む本明細書に記述されている組成物を患者に投与して、患者において交差反応(交差防御)抗体免疫応答をもたらし、それによって感染症に関連するニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属生物のうちの1つまたは複数を低減または排除することを含む。真菌生物の1つの非天然汎真菌Kexペプチドに対して産生された抗体は、本明細書に記述されている他の真菌生物のKexペプチドを認識し、それによって患者における真菌生物のうちの2つ以上に対する防御(交差防御)を付与することができる。
【0128】
1つの態様において、患者サンプルにおけるニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属生物のうちの1つ、2つ、3つ、または4つと交差反応する非天然汎真菌Kexタンパク質またはペプチドに対する抗体を検出するための、またはその抗体のレベルを認定するためのキットであって、患者から得られた生物学的サンプルが適用される、該ペプチドと結合するまたは免疫学的に反応するサンプル中の抗体のレベルを測定するためのニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌生物のうちの1つもしくはそれ以上、2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、または各々に由来する非天然汎真菌Kexペプチドが付着されている基材; ならびに基材上のKexペプチドに結合する抗体のレベルを検出および測定するための標識された検出分子を含む、キットが提供される。1つの態様において、サンプル中の抗真菌Kexペプチド抗体の検出または患者のサンプル中に存在するそのような抗体のレベルの測定は、陽性および/または陰性対照と比較される。1つの態様において、サンプル中の抗真菌Kexペプチド抗体の検出または患者のサンプル中に存在するそのような抗体のレベルの測定は、カットオフ値と比較される。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、およびクリプトコッカス属の各々に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、およびクリプトコッカス属のうちの1つに由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属およびアスペルギルス属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属およびカンジダ属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属およびクリプトコッカス属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにカンジダ属およびアスペルギルス属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにクリプトコッカス属およびアスペルギルス属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにカンジダ属およびクリプトコッカス属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属、アスペルギルス属およびカンジダ属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属、アスペルギルス属およびカンジダ属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属、アスペルギルス属およびクリプトコッカス属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにニューモシスチス属、クリプトコッカス属およびカンジダ属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、基材には、非天然汎真菌Kexペプチドならびにアスペルギルス属、クリプトコッカス属およびカンジダ属に由来するKexペプチドが付着されている。1つの態様において、汎真菌Kexペプチドは組み換え的に産生される。1つの態様において、真菌由来Kexペプチドに結合するサンプル中の抗体の検出は、ELISAなどの、免疫アッセイ法を用いて実施される。1つの態様において、ELISAは、サンプル中に存在する抗真菌Kexペプチド抗体に結合したKexペプチド間の複合体を検出する。1つの態様において、真菌由来Kexペプチドに結合するサンプル中の抗体の検出は、免疫吸着アッセイ法を用いて、免疫沈降法によって、免疫ブロッティング法によって、またはそれらの組み合わせによって実施される。
【0129】
また、非天然Kexペプチドに対する抗体を評価、測定、評定または検出することを可能にする試薬を含むキットも提供される。そのような抗体は、キットを用いて試験、評価、または評定を受けている対象から得られた生物学的サンプルに含有されうる。特に、生物学的サンプルは、血液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、喀痰、気管支洗浄液、涙、唾液、もしくは精液サンプル、または対象から得られた組織もしくは細胞サンプルでありうる。特に、キットの試薬は、非天然Kexペプチドを含む。
【0130】
特定の態様において、キットは、非天然汎真菌Kexペプチドを含む酵素結合免疫測定法(ELISA)キットとして提供される。他の態様において、提供されるキットは、非天然汎真菌Kexペプチドでの免疫によって産生される、交差反応性抗体の検出を可能にする。そのような態様において、キットは、固体支持体または基材に付着されたニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のKexペプチドを含むELISAキットとして提供される。したがって、基材に付着されたペプチドは、試験を受けている対象から得られたサンプル中に存在する抗体に結合する「捕捉」試薬として機能する。例として、ELISAキットは、チップ、多くのウェルを含むマイクロタイタープレート(例えば、96ウェルプレート)、ビーズ、またはペプチド捕捉試薬が付着されている樹脂などの、固体支持体を含みうる。1つの態様において、キットは、固体基材または支持体の別個の領域または構成要素に独立して付着された、本明細書に記述されているニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の各々に由来するKexペプチドを含み、例えば、各真菌生物のKexペプチドがマイクロタイタープレートの別々および別個のウェルに付着され、またはビーズに独立して付着されて、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の各々からのKexペプチドが付着されているビーズの集団をもたらす。別の態様において、キットは、固体基材または支持体の領域または構成要素に付着されたニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属に由来するKexペプチドの組み合わせまたは混合物を含み、例えば、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属の全てのKexペプチドがマイクロタイタープレートの単一のウェルにまたは単一のビーズに付着されている。さらなる態様において、キットは、マイクロタイタープレートの単一のウェルなどの、固体基材または支持体の所与の領域に付着されたニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属に由来するKexペプチドのうちの1つ、2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、または4つの組み合わせを含む。
【0131】
複数の態様において、ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートのウェルはそれに、非天然汎真菌Kexペプチド、アスペルギルス属Kexペプチド、カンジダ属Kexペプチド、またはクリプトコッカス属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートのウェルはそれに、ニューモシスチス属Kexペプチドおよびアスペルギルス属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートのウェルはそれに、ニューモシスチス属Kexペプチドおよびカンジダ属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートのウェルはそれに、ニューモシスチス属Kexペプチドおよびクリプトコッカス属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートのウェルはそれに、アスペルギルス属Kexペプチドおよびカンジダ属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートのウェルはそれに、アスペルギルス属Kexペプチドおよびクリプトコッカス属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートのウェルはそれに、カンジダ属Kexペプチドおよびクリプトコッカス属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートの個々のウェルはそれに、ニューモシスチス属Kexペプチド、アスペルギルス属Kexペプチドおよびカンジダ属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートの個々のウェルはそれに、ニューモシスチス属Kexペプチド、アスペルギルス属Kexペプチドおよびクリプトコッカス属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートの個々のウェルはそれに、ニューモシスチス属Kexペプチド、カンジダ属Kexペプチドおよびクリプトコッカス属Kexペプチドが付着されうる。ELISAプラットフォームにおいて、マイクロタイタープレートの個々のウェルはそれに、アスペルギルス属Kexペプチド、カンジダ属Kexペプチドおよびクリプトコッカス属Kexペプチドが付着されうる。
【0132】
キットは、ペプチドまたはそれに結合した任意の抗体を検出するための手段、例えば、検出可能な抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗ウサギIgG抗体などの、二次抗体-シグナル複合体またはHRPの基質としてのテトラメチルベンジジン(TMB)をさらに含みうる。
【0133】
別の態様において、キットは、1つ、2つ、3つ、または4つのKexペプチドが膜上の別個の位置に、または膜の1つの位置に組み合わせて固定化されている膜を含む免疫クロマトグラフィーストリップ、および試験サンプル中の抗体の結合を検出するための手段、例えば、検出可能に標識されたペプチド、または金粒子に結合した二次抗体として提供されてもよく、ここで膜はニトロセルロース(NC)に基づく膜、PVDF膜、または当技術分野において用いられる他の適当なタイプの膜でありうる。キットは、サンプルが適用され、検出可能に標識されたKexペプチドなどの、固定化される検出剤、例えば、金粒子結合ペプチドが基材、例えば、ガラス繊維フィルタもしくはニトロセルロース膜上に時間的に間隔を隔てて固定化される、プラスチックプレートもしくは基材、または基材上の1つもしくは複数のバンドとしてKexペプチドに結合した抗体の複合体を検出できる標識された検出剤を含みうる。そのようなプラットフォームにおいて、サンプル、例えば血液または血清の連続的な毛細管流動が、標識されたKexペプチドに結合したサンプル抗体またはKexペプチド試薬と複合体を形成したサンプル抗体が検出されうるように、基材上に固定化された検出試薬にわたって維持される。一般に、ELISAアッセイ法およびELISA膜に基づく免疫吸着アッセイ法を含む、免疫吸着アッセイ法、ならびにこれらのアッセイの変形は、当業者によって知られており、実践されている。
【0134】
そのようなアッセイ法において効果的に使用できる固体または固相基材、または担体は、当業者に周知であり、例えば、96ウェルマイクロタイタープレート、ガラス、紙、ならびに、例えばニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、酢酸セルロース、混合セルロースエステルおよびポリカーボネートから構成される、微孔性膜を含む。適当な微孔性膜は、例えば、米国特許出願公開第2010/0093557 A1号に記述されているものを含む。免疫アッセイ法の自動化のための方法は、当技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,885,530号、同第4,981,785号、同第6,159,750号および同第5,358,691号に記述されているものを含む。
【0135】
1つの態様において、多重ELISAなどの、多重アッセイ法を用いて、試験サンプル中の異なる特異的抗体を同時に検出することができる。態様において、そのような方法では、複数の抗体に特異的な複数の結合剤(例えば、捕捉抗体)が膜などの、基材上に固定化され、各捕捉剤が基材上の特定の所定の位置に配置されているアレイを利用する。そのようなアレイを利用するアッセイ法を実施するための方法は、例えば、米国特許出願公開第US 2010/0093557A1号および同第US 2010/0190656A1号に記述されているものを含み、それらの開示は、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。フローサイトメトリー、化学発光、または電子化学発光技術が利用される場合、多重アレイをいくつかの異なる形式で用いることができる。実例として、ビーズに基づく多重アレイとしても知られる、フローサイトメトリー多重アレイは、BD Biosciences (Bedford, MA)のCytometric Bead Array (CBA)システムおよびLuminex Corp. (Austin, TX)のマルチアナライトプロファイリング(xMAP(登録商標))技術を含み、このどちらも、フローサイトメトリーによって識別可能なビーズセットを利用している。
【0136】
別の態様において、Quansys Biosciences (Logan, UT)の多重ELISAでは、96ウェルマイクロタイタープレート上の同じウェル中の複数のスポットに複数の特定の捕捉試薬(1つのスポットに1つの試薬)をコーティングすることを伴う。次に、化学発光技術を用いて、プレート上の対応するスポットに結合する複数の抗体を検出する。
【0137】
特定の態様において、患者は、患者からの生物学的サンプル(例えば、血液または血清)をキット、またはその構成要素に添加すること、およびKexペプチド試薬に特異的に結合する関連したサンプル抗体を検出することにより、診断することができる。例として、本方法は、(i) 対象から血液または血清サンプルを収集する段階; (ii) 対象のサンプルをキット中の構成要素、例えば、保持管または基材に添加する段階; および(iii) サンプル抗体が結合したペプチド試薬を検出する段階を含む。この方法では、対象のサンプル、例えば、血液または血清がKexペプチド試薬と接触される。抗Kexペプチド抗体がサンプル中に存在する場合、抗体はKexペプチド試薬、またはそのサブセットに結合するであろう。他のキットおよび診断の態様において、血液は患者から収集されず(すなわち、既に収集されており)、非天然Kexペプチドに対する抗体の存在についてアッセイされる。いくつかの態様において、非天然汎真菌Kexペプチドに対する抗体は、キットを用いてニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属生物のうちの1つもしくはそれ以上、2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、または4つと交差反応する。さらに、他の態様において、サンプルは組織サンプルまたは臨床サンプルを含んでもよく、これらをアッセイ法の前に、培地または緩衝液中で処理、例えば、ホモジナイズおよび/または懸濁することができる。態様において、対象からの試験サンプル中に存在することが見出された任意の抗体は、単離され、または単離かつ精製され、およびさらに特徴付けされうる。
【0138】
キットはまた、洗浄溶液または洗浄溶液を作製するための説明書を含むことができ、ここで捕捉試薬および洗浄溶液の組み合わせにより、例えば、二次抗体、標識されたペプチド試薬、または質量分析によるその後の検出のために、固体支持体上での抗Kex抗体の捕捉が可能にされる。さらなる態様において、キットは、適当な操作パラメータの説明書をラベルまたは別個の挿入物(添付文書)の形態で含むことができる。例えば、説明書は、サンプルを収集する方法、結合が行われた後に抗Kexペプチド抗体およびKexペプチド試薬複合体を洗浄する方法、結果を解釈する方法などについて消費者または使用者に通知しうる。さらに別の態様において、 キットは、検出、キャリブレーション、または正規化のための標準物質として用いられる、適切な陽性および陰性対照または対照サンプルを有する1つまたは複数の容器を含むことができる。
【0139】
別の局面において、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌病原体のうちの2つまたはそれ以上によって引き起こされるまたはそれらに関連する感染症または疾患の治療または予防のためのキットが提供される。いくつかの態様において、キットは、非天然Kexペプチドと結合/反応する抗Kexペプチド抗体またはその抗原結合断片を含有する、治療用または予防用抗血清の有効量を含む。いくつかの態様において、これらの抗体は、単位投与形態で、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属のうちの1つまたは複数と交差反応する。1つの態様において、抗血清は、単離された抗血清である。他の態様において、キットは、単位投与形態で抗血清などの抗真菌免疫防御剤の有効量を含有する治療用または予防用組成物を含む。いくつかの態様において、キットは、組成物の散布のための装置(例えば、噴霧器、定量吸入器)または薬学的組成物を含有する滅菌容器を含む; そのような容器は、箱、アンプル、ボトル、バイアル、チューブ、バッグ、ポーチ、ブリスタパック、または当技術分野において公知の他の適当な容器形態であることができる。そのような容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属箔、または医薬(medicament)を保持するのに適した他の材料で作ることができる。
【0140】
必要に応じて、薬学的組成物は、真菌感染症、特にニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌生物によって引き起こされる感染症および疾患ならびにその症状を有する、またはそれらにかかるもしくはそれらを発症するリスクがある対象に、単離された抗血清を含有する薬学的組成物を投与するための説明書とともに提供される。説明書は一般に、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、またはクリプトコッカス属真菌生物のうちの1つまたは複数による感染症の治療または予防のための組成物の使用についての情報を含むであろう。他の態様において、説明書は以下のうちの少なくとも1つを含む: 治療/予防剤の記述; ニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属真菌生物のうちの1つもしくは複数によって引き起こされる感染症もしくはその症状の治療もしくは予防のための投与スケジュールおよび投与; 用法注意; 警告; 適応症; 禁忌; 過量服薬情報; 有害反応; 動物薬理学; 臨床試験; ならびに/または参照。説明書は、(存在する場合)容器に直接印刷されても、あるいは容器に貼られたラベルとして、または容器内もしくは容器とともに供給される別のシート、パンフレット、カードもしくはホルダとして印刷されてもよい。
【0141】
本明細書に記述されている態様の実践では、別段の指示がない限り、分子生物学(組み換え技法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技法を利用し、それらは十分に当業者の管理範囲内である。そのような技法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」, second edition (Sambrook, 1989); 「Oligonucleotide Synthesis」 (Gait, 1984); 「Animal Cell Culture」 (Freshney, 1987); 「Methods in Enzymology」 「Handbook of Experimental Immunology」 (Weir, 1996); 「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」 (Miller and Calos, 1987); 「Current Protocols in Molecular Biology」 (Ausubel, 1987); 「PCR: The Polymerase Chain Reaction」, (Mullis, 1994); 「Current Protocols in Immunology」 (Coligan, 1991)のような、文献において十分に説明されている。これらの技法は、本明細書に記述されているものなどの、ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの産生に適用可能であり、例えば、本明細書に記述されている局面および態様の生成および実践において考慮されうる。特定の態様のための特に有用な技法は、以下の節で論じられる。
【実施例
【0142】
以下の実施例は、当業者に本明細書に記述のアッセイ法、スクリーニングおよび治療方法を生成および使用する方法の完全な開示および記述を提供するために提示されており、記述されている局面および態様の範囲を限定することが意図されるものではない。
【0143】
実施例1: Kex1の汎真菌コンセンサス配列の同定
Kex1の汎真菌コンセンサス配列を同定するために、ニューモシスチス属(アクセッション番号EU918304.1)(マカクから単離)、アスペルギルス・フミガーツスケキシン(アクセッション番号XM746441)、カンジダ・アルビカンスケキシン(アクセッション番号AF022372)、およびクリプトコッカス・ネオフォルマンスケキシン(アクセッション番号XP572303.1)からのKEX1ペプチド配列の複数配列アライメントを、Clustal Omega(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)を用いて実施し、配列同一性および類似性を分析した(図1)。図2に示されている得られた90-merの汎真菌コンセンサスKEX1ペプチド(汎真菌ペプチド1および汎真菌ペプチド2)は、ヒトから単離されたニューモシスチス属KEX1のアミノ酸配列に対して、それぞれ約97%および約69%のアミノ酸配列同一性を有する。汎真菌2コンセンサスKex1ペプチドの対応するDNA配列を大腸菌(E. coli)発現ベクターにクローニングし、組み換えタンパク質を産生、単離、および精製した。
【0144】
実施例2: 組み換えケキシンタンパク質の生成
図1に示されているアスペルギルス属Kex、クリプトコッカス属Kex、カンジダ属Kex、汎真菌Kexペプチド1および2のアミノ酸配列を大腸菌(Escherichia coli) K-12コドンバイアスで逆翻訳し(www.ebi.ac.uk/Tools/st/emboss_backtranseq/)、NcoIおよびBamHI制限部位を用いて発現ベクターpET-28b(+) (GenScript)に挿入した。Genbank: EU918304.1配列を用いてニューモシスチス属Kex1をクローニングした。各インサートは、Kex配列5'側の追加のGC、およびKex配列の後のCGを含み、Kex配列インサートをインフレームで保持した。プラスミドを大腸菌BL21 (DE3)細胞に形質転換し、40μg/mLカナマイシンを補充したLB寒天培地にプレーティングして、形質転換されたクローンを選別した。以下の実施例3に記述されているように、全ての組み換えケキシンタンパク質を発現させて精製した。
【0145】
実施例3: 組み換えケキシンタンパク質の精製手順
本実施例では、ヒスチジンタグが付されている、組み換え産生された(pET28bベクター)(Millipore-Sigma, US)、ニューモシスチス属Kex1、アスペルギルス属Kex、クリプトコッカス属Kex、カンジダ属Kex、汎真菌Kexペプチド1および2を精製するためのプロトコルについて記述する。アスペルギルス属Kexおよびクリプトコッカス属Kexタンパク質は、これらの組み換えタンパク質の不溶性の性質のため、溶出条件が異なる。
【0146】
材料および機器
A. カナマイシン(40μg/mL)、典型的には1 Lの体積中、pH~7.5を有するLB (Lysogeny Broth)増殖培地。NaCl 10 g、酵母抽出物5 g、およびトリプトンペプトン10 gを混合する; 蒸留/脱イオンH2Oで体積を1 Lにする。
B. 1 M IPTG溶液。
C. 抽出緩衝液:(滅菌ろ過), 50 mMリン酸ナトリウム, 300 mM NaCl, 10 mMイミダゾール, 6 Mグアニジン-HCl, pH 7.4。
D. 洗浄緩衝液:(滅菌ろ過)50 mMリン酸ナトリウム, 300 mM NaCl, 10 mMイミダゾールpH 7.4。
E. 50 mMリン酸ナトリウム, 300 mM NaCl, pH 7.4中の1 Mイミダゾール溶液、0.2μm滅菌フィルタ(滅菌ろ過)。
F. HisPur(商標)コバルト樹脂(ThermoFisher#89966)
G. 使い捨て5 mLポリプロピレンカラム(Thermo P#29922)。
H. Hisタグプロテアーゼ阻害剤カクテル(PIC) (Sigma P#8849)。
I. ブラッドフォード色素(Bradford Dye) (Bio Rad P#500-0006)。
J. ウシ血清アルブミン標準品(ThermoFisher#23209)。
K. 0.2%クマシーブルー、7.5%酢酸および50%エタノールを含有するクマシーブルー染色液。
L. 50%メタノール、10%酢酸および40% dH2Oを含有するクマシーブルー脱染色液。
M. アクリルアミドビス30% (Sigma P#1001356385)
N. N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED) (Sigma P#1001434505)。
O. ドデシル硫酸ナトリウム(SDS) (10%ストック溶液)。
P. 過硫酸アンモニウム(APS) (10%ストック溶液)。
Q. 1.5トリス緩衝液pH 8.8(トリス塩基187 gを1 L dH2Oに入れ、pHを8.8にする)。
R. 0.5トリス緩衝液pH 6.5(トリス塩基60.5 gを1 L dH2Oに入れ、pHを6.5にする)。
S. Spectra(商標) Multicolor Ladder-広範囲染色(ThermoP#22634)。
T. SDS-PAGEサンプル緩衝液(4×)。
U. Hoeferゲルキャスティングシステム(モデルSE250)。
【0147】
使用される手順は以下の通りである:
A. 大腸菌での培養およびタンパク質発現の誘導:
a. pET28b(+)上のケキシン・コンストラクトをLB KAN寒天プレートにストリークし、37℃で終夜(O/N)または卓上にてRTで、十分な細菌増殖/コロニー形成が得られるまでインキュベートする。(プレートは4℃でおよそ1ヶ月間貯蔵することができる)
b. 単一のコロニーを10 mLの液体LB KAN 40 (10 mL LBあたり10μLの40 mg/mL KAN)に植菌し、(液体と空気の比率をおよそ1:5にさせ)、振とうさせながら37℃で終夜増殖させる。
c. 終夜インキュベーションの後に、培養物を液体LB KAN 40に1:50(終夜培養物4 mLを新鮮培地196 mLへ)希釈し、振とう機上にて37℃で放置する。
d. 培養物をOD600 0.5まで増殖させてから、1 mM IPTGを添加して発現を誘導する; 振とう機上にて37℃で4~5時間放置する。
e. 培養液の総量を5本の50 mLオークリッジ(Oakridge)チューブに分割する(チューブあたりおよそ40 mLの培養液)。スケールアップの場合: より大容量のための250 mLオークリッジチューブを用いることができる。
f. 6,000×gおよび4℃で25分間の遠心分離により細胞を収集する(SS-34またはSLA-1500ローターを用いることができる)。
g. 上清を捨て、細胞ペレットを使用時まで-80℃で凍結する。タンパク質抽出の前に2週間よりも長い間、大腸菌ペレットを貯蔵しないこと。
【0148】
B. Talon金属アフィニティー樹脂を用いたタンパク質精製:
a. ペレットを氷上で解凍し、細胞ペレットを抽出緩衝液10 mL + PIC 200μLに再懸濁する。
b. ニューテーター上にて4℃で2時間分(hours minutes)インキュベートする。
c. 懸濁液を10,000×gおよび4℃で20分間遠心分離する(SS-34ローターを用いる)。
d. 上清を集め、Talon樹脂が調製されるまで氷上に保持する。
e. カラムを直立位置に吊るして、ポリプロピレン溶出カラムを調製する; 多孔質ディスクに数滴の洗浄緩衝液を加え、次にパスツールピペットの逆端を用いてディスクをカラムの底に均等に押し下げる。
f. Talon樹脂を調製する: Talon樹脂を静かに振とうして再懸濁し、樹脂3.5 mLを15 mLコニカルチューブに加え、500×gで5分間回転させる。樹脂を乱さずにエタノール層を注意深く取り除く。脱イオン水10 mLを加えて樹脂を洗浄し、再度500×gで5分間回転させる。上清を注意深く取り除き、捨てる。樹脂を抽出緩衝液10 mL中で平衡化し、500×gで5分間回転させる。上清を注意深く取り除き、捨てる。
g. 清澄化した溶解物および平衡化した樹脂を一緒に混合し、4℃で1時間揺り動かすことによってバッチ結合させる。
h. 調製したポリプロピレン溶出カラムに溶解物および樹脂懸濁液を加える。素通り画分を捨てる。
i. 15カラム容量の抽出緩衝液、続いて15カラム容量の洗浄緩衝液で樹脂を洗浄する。
j. ニューモシスチス属Kex1、カンジダ属Kex、および汎真菌ペプチド2の溶出。
洗浄緩衝液中のイミダゾール濃度を増加させながら1.5 mLの画分中に溶出させ、溶出画分を集める。
溶出勾配
a. 洗浄緩衝液中75 mMのイミダゾール1.5 mLを加え、画分を集める。
b. 洗浄緩衝液中100 mMのイミダゾール1.5 mLを加え、画分を集める。
c. 洗浄緩衝液中125 mMのイミダゾール1.5 mLを加え、画分を集める。
d. 洗浄緩衝液中150 mMのイミダゾール1.5 mLを加え、画分を集める。
e. 洗浄緩衝液中175 mMのイミダゾール1.5 mL(×2)を加え、画分を集める。
f. 洗浄緩衝液中200 mMのイミダゾール1.5 mL(×3)を加え、画分を集める。
j. ニューモシスチス属Kex1、汎真菌ペプチド2の溶出。
k. アスペルギルス属Kexおよびクリプトコッカス属Kex(不溶性タンパク質)の溶出
a. 樹脂を1% SDS 1.5 mLに再懸濁し、2本の1.5 mLチューブの中に移す。
b. 95℃の加熱ブロック中で懸濁液を煮沸する。
c. 懸濁液を500×gで5分間遠心分離する。
d. 変性タンパク質を含有する上清画分を集める。
e. 段階a~dを3回繰り返して、さらなるタンパク質を回収する。
l. 関心対象の各画分にPIC 20μLを加え、4℃で貯蔵する。(イミダゾール溶液は使用の前、氷上で貯蔵する必要がある。)
【0149】
C. 溶出画分中のタンパク質の定量(ブラッドフォードアッセイ-低濃度標準曲線):
a. BSA-100μg/mLを冷凍庫(4℃)から取り出し、氷上で解凍する。
b. 標準曲線用のキュベットをセットアップし、下の表から解凍したBSA/dH2Oの両方の指定量を加える(表1)。
(表1)
c. 各画分にキュベットを追加し、サンプルを1:50希釈する(サンプル20μL + dH2O 180μL)。
d. dH2O中で4分の1のブラッドフォード色素を調製し(色素10 mL + dH2O 30 mL)、各キュベットに800μLを加える(最終体積1 mL)。
e. 反転によってキュベットを個別に混合し、RTで15分間インキュベートする。
f. インキュベーション後、0μg/mL BSA標準品200μLを96ウェル平底プレートのウェルA1およびA2に複製して加え、続いて0.25μg/mL BSA標準品をB1およびB2に加える。同じ順序で濃度を増加させながらBSA標準品をプレートに加え続ける。
g. BSA標準品を全てプレートに加えたら、真下のウェルに複製サンプルを入れ、残りの行がなくなったら次の2つの列の一番上の行に進む。
h. 全てのサンプルをプレートに入れた後、595 nmで読み取る-「低濃度標準曲線(Low-conc. Std. Curve.)」
i. 線形回帰(R2)およびBSA標準曲線値を記録する(R2 < 0.95の、アッセイから得られたデータは使用するべきではない)。サンプルの未加工値は1:50希釈を表すため、μg/mLに再変換するために50を乗じる必要がある。タンパク質の濃度が決定されたら、プレートコーティング(例えば、ELISA/ ELISPOT)、注入などを目的とした画分を15% 2 mm SDS-PAGEゲルで泳動して純度を評定する必要がある。
【0150】
D. SDS-PAGEゲルクマシーブルー染色によるタンパク質の同定:
a. ゲルごとに、1×ガラスカバープレート、1×白色アルミニウムバッキングプレート、2×黒色プレートスペーサー、および1×白色10レーンスタッキングコームをdH2Oで洗浄する。70%エタノール溶液ですすぐ。キャスティングの前に、以前の使用で固化したゲル残留物が全て除去されていることを確認する。
b. 全ての材料が風乾されたら、バッキングプレートを取り、卓上に平らに置き、透明なガラスカバープレートで挟む前に、プレートの両側にスペーサーを配置する。スペーサーの刻み目が両方のプレートの端に正しく位置合わせされていることを確認する。
c. キャスティングブロックの全てのネジを緩め、スペーサー付きのサンドイッチプレートをキャスターにスライドさせる。全てのプレートおよびスペーサーが均一で整列していることを確認する。プレートにひびが入らないようにネジを慎重に締める前に、キャスティングブロックの下部からおよそ3 mmのサンドイッチプレートを突き出させておく。
d. キャスティングブロックをホルダに置き、黒色のプラスチックプラグをホルダにセットする。プラグを回してキャスティングブロックをホルダの黒いゴムマットに押し込む。漏れを防ぐために、プレートの底がホルダのゴムでしっかりと密封されていることを確認する。
e. 15%-SDS PAGEゲル用に以下のレシピにしたがって分離/泳動ゲルを調製し、アルミニウムバッキングプレートとガラスカバープレートの間のキャビティに溶液を加える。スタッキングゲル用にサンドイッチプレートの上部におよそ1.5~2 cmのスペースを確保する。キャスティングブロックにdH2Oおよそ1 mLを加える。APS/TEMEDを溶液に加えたら、ゲルが重合し始める。
f. ゲルが固まったら(およそ35分)、水の層を取り除き、以下のレシピからスタッキングゲル溶液を調製する。溶液を素早く加える。
g. 白色10レーンのスタッキングコームをスタッキングゲルにすぐに入れ、完全に重合させる(約10分)。
h. ゲル上で泳動するサンプルを調製する:(ウェルあたり5μgのタンパク質)
i. 画分濃度が165μg/mL未満である場合、サンプル22.5μL + 4×サンプル緩衝液7.5μLを用いる;
ii. 画分濃度が165μg/mL超である場合 → サンプル体積 = 5μg /(濃度(μg/mL)/1000)、4×サンプル緩衝液の体積 = サンプル体積の1/3。
i. 水浴中56℃で10分間、全てのサンプルを熱不活化させる。
j. キャスティングブロックから15% SDS-PAGEゲルを取り除き、2×レッドクリップで泳動装置に取り付ける。1×SDS-PAGE泳動緩衝液で泳動装置のキャビティと下部トレイを満たす。その時点で、スタッキングコームを取り外すことができる。Broad Range染色(P# 26634) SPECTRA(商標) Multicolor Ladder 10μLをゲルの最初のウェルに加え、続けて後続のウェルに調製サンプル30μLを加える。
k. 全てのサンプルを入れたら、電極をその適切な端子に取り付け、電源をオンにする(赤から赤、黒から黒)。色素バンドがゲルの底部から出るまで、およそ80~120ボルトで1.5~2.5時間ゲル泳動させる。その時点で、機器の電源を切り、電極を外す(注: 電圧を低くし、時間間隔を短くすると、得られるゲルの品質が向上する)。
l. 泳動装置から泳動緩衝液を排出する。レッドクリップ、スペーサーを取り外し、ガラスカバープレートをゲルキャスティングフレームからそっと取り外す。ゲルスクレーパーの硬質プラスチック直線エッジを用いて、スタッキングゲルを切断し、ゴミ箱に入れる。さらなるアッセイ法、すなわちウエスタンブロットなどのために必要に応じてゲルを分割する(染色ラダーを用いているため、方向を確立するためにゲルの角に切り込みを入れる必要はない)。
m. 染色するつもりの分離ゲルについては、15分間dH2Oで3回洗浄する。必要に応じて2時間以上の間または終夜、クマシーブルー染色液およそ25 mLをゲルに加える。最適なバンド色/ゲル透明度が得られるまで、クマシーブルー脱染色液で脱染する。写真を撮り、JPG/TIFファイルとして保存する。
【0151】
実施例4: 免疫血清の生成
組み換え汎真菌2ペプチドによるアカゲザルの免疫
(研究デザイン 図3A
成体アカゲザル(サル対象番号2116)に100μgの汎真菌ペプチド2を筋肉内免疫した。このサルを、投与後8週間に追加免疫し、追加免疫8週間後にSIVに感染させた。図3B~3Eを参照して、サル対象番号2116から収集した血清サンプルのELISA分析を用いて、汎真菌ペプチド2、クリプトコッカス属Kex、ニューモシスチス属Kex1、およびアスペルギルス属Kexを標的とする逆数エンドポイント力価(RET)を決定した。本明細書において用いられる場合、RETは、カットオフ値を超える読み取り値を与える分析物(例えば、抗体または抗血清)の最高希釈度の逆数である。RET分析のために、試験動物から得られた血清をアッセイして、標的タンパク質を標的とし、標的タンパク質に結合し、かつ/または標的タンパク質に対する活性を有する、免疫グロブリン(IgG)の存在を判定する。各標的のピーク力価は105を超えていたが、これは、複数の真菌種からのケキシンペプチドを認識する一次抗体の存在を示している。図3Fにて図示されているように、偽ワクチン接種を受けたサルの半数以上がニューモシスチス肺炎を発症したが、汎真菌ワクチン接種を受けたサルは発症しなかった。
【0152】
実施例5: Kexペプチド酵素結合免疫測定法(ELISA)
本実施例では、ニューモシスチス属Kex1タンパク質、汎真菌ペプチド2、またはニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属のうちの1つもしくは複数に由来するKexペプチドを利用してELISA免疫アッセイ法を実施するためのプロトコルについて記述する。ELISAは、サンプル、例えば、血液、血漿、血清、気管支肺胞洗浄液、または生体液サンプル中の抗真菌Kexペプチド抗体の存在を検出(および定量化)するために行われる。検出(および定量化)される抗Kexペプチド抗体は、汎真菌ペプチド2、またはニューモシスチス属、アスペルギルス属、カンジダ属、もしくはクリプトコッカス属Kexペプチドのうちの1つもしくは複数のKexペプチドを標的とし、それに反応し、かつ/または結合しうる。
【0153】
材料および機器
A. 実施例2に記述されているように精製されうる、KEX1タンパク質
B. 1×PBS
C. Immulon高結合(4HBX)平底マイクロタイタープレート(Thermo #3855)
D. ブロッキング緩衝液: 1×PBS中5%のスキムミルク
E. 洗浄緩衝液: 1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS) + 0.05% Tween-20
F. 二次抗体: ヤギ抗ヒト免疫グロブリン結合西洋ワサビペルオキシダーゼ(IgGの場合1:10,000; Sigma-Aldrich)。
G. 正常ヒト血漿(Atlanta Biologicals, Inc., Lawrenceville, GA)。1:100の希釈でKEX-ELISAにおいてOD450で検出不能な吸光度を有する(すなわち、希釈緩衝液のみ以下である)陰性/正常対照血漿を陰性対照として用いる。
H. 基質: 3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)ペルオキシダーゼ基質(例えばSureBlue TMB基質, 1-成分; KPL, Inc.)
I. 停止溶液: 1 M H2SO4
J. マイクロプレート用の接着シール性フィルム(プレートシーラー)(例えばExcel ScientificのSealPlate非滅菌フィルム, カタログ番号100-SEAL-PLT)
K. 96ウェルプレートリーダー(450 nmの波長でODを読み取ることができる任意のシステム)。
【0154】
ELISAを実施するための手順は、以下の通りである:
A. Kex1タンパク質によるELISAプレートのコーティング/ブロッキング:
a. 1×PBS中5μg/mLでmkKexタンパク質を調製する。Immulon 4HBX平底ELISAプレートのウェルあたり希釈KEX1 50μLを加える。プレートをパラフィルムまたはプレートシーラーでしっかりと覆い、4℃で終夜インキュベートする。
b. 終夜インキュベーション後、緩衝液をシンクまたはバケツの中にフリッキングすることによって除去し、プレートを吸収パッドまたはペーパータオルの上にタッピングして余剰を除去する。プレートを洗浄緩衝液(PBS 0.05% Tween-20)で2回洗浄する(洗浄ごとにウェルあたり洗浄緩衝液およそ200μL、洗浄の間にプレートをフリッキングおよびタッピングする)。
c. ブロッキング緩衝液(5%ミルク/PBS)100μLを各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートする。
d. プレートを空にし、洗浄緩衝液で2回洗浄する。プレートは、使用する準備ができるまで、この段階で密封して-20℃で凍結することができる。
【0155】
B. 血漿または他の感染性液体の取り扱い(例えば、気管支肺胞洗浄液(BAL)液体上清など)-初めての使用。
a. 血漿アリコートを-80℃の冷凍庫から取り出す。
b. 選択肢1: アリコート全体を56℃で30分間熱不活化させる。
選択肢2: 血漿サンプルの熱不活化が他の潜在的な用途に悪影響を与える場合は、サンプルを4℃または氷上で解凍する。アリコート(およそ100μL)を取り出し、新しいチューブに移し、熱不活化させる(30分、56℃)。残りのサンプルを-80℃の冷凍庫に戻し、1回解凍されたことに留意する。
c. サンプルを>10,000×gで1~2分間遠心分離して、使用前に凝集体をペレット化する。
d. 貯蔵中の混入を防ぐために、およそ0.01~0.02% NaN3を加える。サンプルアリコートを4℃で最大6ヶ月間貯蔵する。その後のアッセイでは、それ以上の熱不活化は必要とされない; しかしながら、サンプルは各使用の前に簡単に遠心分離する必要がある。
【0156】
C. エンドポイント力価決定のためのELISA(血漿):
a. 血漿をブロッキング緩衝液で1:100希釈する。希釈した血漿50μLを加え、エンドポイント力価の生成のためにプレート中で直接連続2倍(または必要に応じて4倍)希釈を行う(各ウェル中の最終体積は50μLである必要がある)。アッセイを二つ組で実施する: 関心対象の全アイソタイプに十分なプレートをセットアップする、例えば、10個のサンプルがあり、IgGおよびIgM-KEX1抗体の両方に対してエンドポイント力価を生成する場合、これには4枚のプレート(IgGおよびIgMの両方について二つ組のプレート)をセットアップする必要がある。各プレートに陰性/正常対照を含める。プレートをプレートシーラーで覆い、4℃で終夜インキュベートする。
b. プレートを空にし(フリッキングおよびタッピング)、洗浄緩衝液で4回洗浄する。
c. 二次抗体(ブロック中で希釈)50μLを各ウェルに加える(上記の材料および機器の項の適切な希釈度を参照のこと)。37℃で1時間インキュベートする。
d. プレートを空にし、洗浄緩衝液で6回洗浄する。
e. 各ウェルにTMB 100μLを加え、光から保護し、37℃で30分間インキュベートする。
f. 各ウェルに停止溶液(1M H2SO4)25~50μLを加える。
g. 停止溶液を加えてから20分以内に450 nmでプレートのODを(任意の標準的なプレートリーダーで)読み取る。
【0157】
大多数の健常成体(ヒトおよび非ヒト霊長類の両方)は、ニューモシスチス属に対する循環抗体を有する; それゆえ、エンドポイント力価の計算に用いられる対照サンプルを選択する場合、適切な対照を決定および取得するために、健常ドナーから血漿サンプルをスクリーニングする必要がある。適切な正常/陰性対照からの血漿では、1:100希釈でのKEX1 OD450は0.1以下でなければならない; しかしながら、正常/陰性対照血漿のODが低いほど、対照は良好である。プレート間のばらつきを制御するには、適切な正常/陰性対照の選択後に、全てのプレートで同じ正常/陰性対照を用いる必要がある。
【0158】
D. エンドポイント力価決定のためのELISA(BAL上清)。
a. BAL上清を通常の生理食塩水中で1:100希釈する。
i. QuantiChrom Ureaアッセイ(BioAssay Systems カタログ番号DIUR-500)を用いて、BAL上清および対応する血漿サンプルの尿素濃度を決定する。
1. キット挿入物の使用説明書に従い、血漿を蒸留水中で1:10希釈し、BAL上清を希釈せずに用いる。
2. 血漿サンプルを96ウェルプレートのウェルにプレーティングし、二つ組で標準物質(1:10希釈)、ブランク(蒸留水)およびサンプル(1:10希釈) 5μLを加える。
3. BAL上清を96ウェルプレートのウェルにプレーティングし、標準物質(5 mg/dLに希釈)、ブランク(蒸留水)およびサンプル(未希釈) 50μLを加える。
4. 作業試薬(キットに含まれている)200μLを加え、軽くたたいて混合する。
5. 血漿プレートを室温(RT)で20分間インキュベートし、分光光度計にてOD520で読み取る。
6. BAL上清プレートをRTで50分間インキュベートし、OD430で読み取る。
7. 血漿およびBAL上清の尿素濃度([尿素])を次のように計算する: [尿素] =(ODサンプル-ODブランク)/(OD標準物質-ODブランク)× [標準物質]。血漿の標準物質濃度は50 mg/dLで、BAL上清の場合は5 mg/dLであろう。
8. 1:100希釈のBAL上清を次のように計算する:
a. 血漿に対するbalの1:100希釈倍率を見出す
i. 希釈倍率 = 100/(血漿[尿素]/bal[尿素])
b. 総サンプル500μlの希釈の体積を計算する
i. サンプルの体積 = 500μL/希釈倍率
ii. 生理食塩水の体積 = 500μL-サンプルの体積
9. サンプルの体積および生理食塩水の体積を加えて、1:100希釈したBAL上清サンプルを生成する。
b. 希釈したBAL上清50μLを加え、エンドポイント力価の生成のために通常の生理食塩水を用いてプレート中で直接連続2倍(または必要に応じて4倍)希釈を行う(各ウェル中の最終体積は50μLである必要がある)。アッセイを二つ組で実施する: 関心対象の全アイソタイプに十分なプレートをセットアップする、例えば、10個のサンプルがあり、IgGおよびIgM-KEX1抗体の両方に対してエンドポイント力価を生成する場合、これには4枚のプレート(IgGおよびIgMの両方について二つ組のプレート)をセットアップする必要がある。上記のように、各プレート中に陰性/正常対照を含める。プレートをプレートシーラーで覆い、4℃で終夜インキュベートする。
c. プレートを空にし(フリッキングおよびタッピング)、洗浄緩衝液で4回洗浄する。
d. 二次抗体(ブロック中で希釈、材料および機器の項の適切な希釈度を参照のこと)50μLを各ウェルに加える。37℃で1時間インキュベートする。
e. プレートを空にし、洗浄緩衝液で6回洗浄する。
f. 各ウェルにTMB 100μLを加え、光から保護し、37℃で30分間インキュベートする。
g. 各ウェルに停止溶液(1M H2SO4) 25~50μLを加える。
h. 停止溶液を加えてから20分以内に450 nmでプレートのODを(任意の標準的なプレートリーダーで)読み取る。
【0159】
E. エンドポイント力価の決定。
a. Excelまたは同様のプログラムで各サンプル(全希釈率での)からのOD読み取り値を線グラフとしてプロットする。正常/陰性対照サンプルの場合、以下に記述するようにプロットする前に、各値に0.025を加える。
b. エンドポイント力価は、試験サンプルが陰性対照のものと同じOD読み取り値(つまり、線が交わる場所)を与える希釈率によって定義される。一般に、逆数エンドポイント力価が報告される; したがって、希釈率が1:1600の場合、エンドポイント力価は1600として報告される。
c. 二つ組のプレートの各々からエンドポイント力価を計算し、プレート間で結果が一貫していることを確認する。許容誤差は1希釈以内ですある。二つ組のプレートからの逆数エンドポイント力価(RET)が1希釈内にある場合、力価を平均する(例えば、2倍希釈が行われ、プレート1からのサンプルのRETが1600で、プレート2からのRETが3200の場合、平均力価は2400である)。二つ組のプレートのエンドポイント力価が互いに1希釈以内に収まらない場合、1つの追加プレートでELISAを繰り返し、最も近い2つの値を平均する。
【0160】
実施例6: 汎真菌ワクチン接種
1:1の比率で混合した100μgの汎真菌2ペプチドおよび水酸化アルミニウム(Imject Alum, ThermoScientific)を成体アカゲザルに筋肉内免疫し、その8週間後に50μgの汎真菌2ペプチドおよび水酸化アルミニウムを追加免疫した。追加免疫後8週間で、サルをサル免疫不全ウイルス(SIV)に感染させ、ニューモシスチス属に曝露した(図3A)。さらに7頭のアカゲザルに、水酸化アルミニウムからなるが、いずれのKexペプチドも含有しない偽ワクチンをワクチン接種した。図3Fを参照すると、ニューモシスチス肺炎と診断されたサルの割合は、偽ワクチン接種を受けたサルの10週目から40週目まで着実に増加した。汎真菌2ペプチドをワクチン接種されたサルは、肺炎を発症しなかった。
【0161】
実施例7: 野生型ニューモシスチス属Kex1ワクチン接種
1:1の比率で混合した100μgのニューモシスチス属Kex1
および水酸化アルミニウム(Imject Alum, Thermo Scientific)を成体アカゲザルに筋肉内免疫し、次いで8週間後に50μgの野生型Kex1および水酸化アルミニウムを追加免疫した。追加免疫後8週間で、サルをサル免疫不全ウイルス(SIV)に感染させ、ニューモシスチス属に曝露した。感染後10週間および14週間で、サルに100μgの野生型Kex1および5μgのα-GCを追加免疫した。さらに7頭の成体アカゲザルに、1:1の比率で混合したミョウバンを筋肉内免疫し、次いで8週間後にミョウバンを追加免疫した。追加免疫後8週間で、サルをサル免疫不全ウイルス(SIV)に感染させ、ニューモシスチス属に曝露し(図4A)、感染後10週間および14週間においてPBSで追加免疫した。ニューモシスチス属Kex1ワクチン接種群から集められた血清サンプル、および偽対照における血清サンプルのELISA分析について、図4Bを参照されたい。2回目の野生型Kex1+ミョウバンと野生型Kex1+α-GC追加免疫の後に、野生型Kex1ワクチン接種群のピーク力価は105を超えていた。図4Cを参照すると、6頭の野生型ニューモシスチス属Kex1ワクチン接種サルのうちの1頭だけが、ニューモシスチス肺炎を発症し、これは40週間のニューモシスチス属曝露の終わりに発生した。
【0162】
実施例8: SIV免疫不全の非ヒト霊長類(NHP)における治療的ワクチン接種
成体アカゲザルをSIVに感染させ、48、55、および61週間後に、50μgのニューモシスチス属Kex 1およびアジュバントとして5μgのα-ガラクトシルセラミド(αGC)を追加免疫した(図5A)。ニューモシスチス属Kex1ワクチン接種動物から集められた血清サンプルのELISA分析について、図5Bを参照されたい。α-GCを用いた感染後57週間および63週間での2回目および3回目の追加免疫の後に、野生型Kex1ワクチン接種群のピーク逆数エンドポイント力価は104を超えていた。
【0163】
実施例9: アスペルギルス・フミガーツス(AF)感染マウスモデルにおけるPF、KEX1の免疫原性および防御効力の評定
下記のように、浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)マウスモデルを用いて、汎真菌Kexペプチド(汎真菌ペプチド2)およびアジュバントで免疫したマウスが、免疫した動物をその後のアスペルギルス属病原体による感染から防御する液性免疫応答を開始するかどうかを評価した。
【0164】
汎真菌ペプチド2に対する液性免疫応答
汎真菌ペプチド2免疫原(本明細書においては「ワクチン候補」と称される)の免疫原性を、図6Aに示されているスケジュールにしたがって、組み換え汎真菌ペプチド2およびTiterMaxアジュバントでの、またはPBSおよびTiterMaxでの動物の免疫(ワクチン接種)により評定した。図6Bは、抗汎真菌ペプチド2抗体力価が、マウスの免疫(ワクチン接種)後に有意に増加し、偽免疫コホートと比較して、免疫後28日でピークに達した(平均5×105)(**p=0.002)ことを図示している。
【0165】
汎真菌ペプチド2免疫は、免疫抑制されたCF-1マウスでの浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)を防御する
ワクチン接種後、汎真菌ペプチド2免疫マウス7匹および偽免疫マウス7匹を6日間免疫抑制した後、それらを5×106個のアスペルギルス・フミガーツス(Af293)分生子に鼻腔内曝露した(図7)。次に、アスペルギルス症の兆候である、ひだ状の毛皮(ruffled fur)、呼吸困難、体重減少、および体温低下について、マウスを1日2回観察した。観察期間中に、偽免疫コホートのうち3匹がアスペルギルス症の証拠を示し、安楽死の基準を満たした。実験の過程で、汎真菌ペプチド2免疫マウスのいずれも、重篤な症状を示すこともアスペルギルス症で死ぬこともなかった。汎真菌ペプチド2免疫マウスの生存率は、偽免疫マウスの生存率と比較して有意に高かった(p=0.05)。さらに、偽免疫マウスは、汎真菌ペプチド2免疫動物において見られるリスクと比較して、浸潤性肺アスペルギルス症(IPA)関連死の相対リスクが1.7倍であった(表2)。
【0166】
(表2)汎真菌ペプチド2ワクチン接種とIPA関連死との関連性
【0167】
表2は、ワクチン接種と人道的エンドポイント基準の観察とを比較した関連性と相対リスク分析を提示している。汎真菌ペプチド2ワクチン接種は、IPA関連死との有意な関連を示した(p=0.05)が、偽ワクチン接種マウスはIPA関連死の相対リスクが1.75倍であった。これらの結果は、GMS染色組織学的定量化を用いて実施された真菌負荷の分析によってさらに裏付けられた。A.フミガーツスの肺真菌負荷は、偽免疫コホートのそれと比較して、汎真菌ペプチド2免疫マウスにおいて有意に低減された(図8)(p=0.026)。
【0168】
本実施例において用いた材料および方法は次の通りである。
研究デザイン
14匹のCF-1マウス(Charles River Laboratories)を免疫コホートと偽コホートに無作為に割り当てた。ベースライン時(0日目)、ならびに免疫後14日および28日の時点で採血した(図6A)。血漿サンプルを-80℃で貯蔵した。
【0169】
ワクチン構築および精製
90アミノ酸からなる組み換えタンパク質である汎真菌ペプチド2 (SEQ ID NO: 2)を大腸菌BL21(DE3) pLysS (ThermoFisher Scientific)のpET28b(+)発現ベクター(Novagen)にクローニングし、アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
【0170】
免疫および免疫抑制
アジュバントガイドラインにしたがってTiterMaxアジュバントで1:1に調製した汎真菌ペプチド2 50μgを用いて、7匹のマウスの尾部の付け根の皮下に免疫した。さらに7匹のマウスをPBSおよびTiterMaxで偽免疫した。免疫28日後、全てのマウスに、0.5%メチルセルロースおよび0.01% Tween-80を含むPBS中、マウスあたり2.5 mgの酢酸コルチゾンを皮下注射して、免疫抑制レジメンを開始した。このレジメンで6日間投与し(図7)、その間にトリメトプリムスルファメトキサゾール(trimethoprim sulfamethoxazole)を飲料水に添加して二次感染を制御した。
【0171】
アスペルギルス・フミガーツス曝露およびモニタリング
A.フミガーツスAf293分生子を、固形の1%グルコース最小培地上で72時間維持し、0.01% Tween-20中で収集し、血球計算盤でカウントし、その後、PBSで希釈した。上記のように酢酸コルチゾン免疫抑制を6日間行った後に鼻腔内接種によって、PBS 40μl中5×106個の分生子をマウスに接種した。
【0172】
曝露後、体重、体温、外観の変化についてマウスを1日2回モニタリングした。ひだ状の毛皮および呼吸困難を示すことに加えて、体重減少がベースライン体重の20%を超えた、または体温が29℃を下回った場合、動物を人道的に殺処理した。曝露後6日の時点で、残りの全ての動物を人道的に殺処理し、分析のためにその肺を採取した。
【0173】
真菌負荷
殺処理の後に、全ての動物の右肺を10%中性緩衝ホルマリン中に貯蔵した。固定された肺組織をパラフィンに包埋し、切断し、ゴモリの修飾メタンアミン銀染色液で染色した。5つの異なる視野像を撮影し、Stolz et al., 2018, J. Vis. Exp., (133) e57155:1-8により提供されたガイドラインにしたがって真菌負荷を定量化した。
【0174】
統計分析
全ての統計分析は、GraphPad Prism (GraphPad Software, La Jolla, CA)を用いて実施された。Fisherの正確確率検定を用いてIPA関連死の低減を評価した。IPA死の相対リスクも、Koopman漸近スコアを用いて判定した。GMS染色による真菌負荷の差異を、マンホイットニー(Mann-Whitney) U検定によって分析した。
【0175】
実施例10: ニューモシスチス属およびHIV (SIV)同時感染の非ヒト霊長類モデルにおける汎真菌ペプチド2の免疫原性および防御効力の評定
汎真菌ペプチド2に対する液性免疫応答
汎真菌ペプチド2免疫原(本明細書においては「ワクチン候補」と呼ばれる)の免疫原性を、図9Aに示されるスケジュールにしたがって、組み換え汎真菌ペプチド2およびミョウバンでのまたはPBSおよびミョウバンでの非ヒト霊長類の免疫(ワクチン接種)により評定した。抗汎真菌ペプチド2抗体力価は、免疫後の動物において有意に増加し、追加免疫後2週間でピークに達した(平均=4×105)が、偽免疫コホートでは抗体力価の有意な変化は観察されなかった(図9B)。
【0176】
汎真菌ペプチド2免疫はニューモシスチス肺炎を防御する
図9Aに図示されているワクチン接種レジメンに従って、全ての動物をサル免疫不全ウイルス(SIV)に感染させ、ニューモシスチス属について毎月モニタリングした。SIV感染の過程で、偽免疫コホートにおける5頭のマカクは、SIV感染後32週までに、PCRおよび気管支肺胞洗浄液(BAL)塗抹標本によるニューモシスチス肺炎(PCP)検査で陽性になった。この同じ時点までに、汎真菌ペプチド2で免疫されたマカクのいずれも、症状を呈することも、PCP検査で陽性になることもなかった。この知見は、汎真菌ペプチド2免疫動物におけるPCP症例数の有意な低減を実証している(p=0.035)。以下の表3は、研究動物における汎真菌ペプチド2免疫(ワクチン接種)とニューモシスチス肺炎(PCP)疾患との関連性、および汎真菌ペプチド2免疫(ワクチン接種)とPCPとの有意な関連性(p=0.026)に関するデータを提示している。汎真菌ペプチド2による動物の免疫とPCPの診断との関連性および相対リスクを表3に示す。さらに、偽免疫(ワクチン接種)動物がPCPに感染する相対リスクは、汎真菌ペプチド2免疫(ワクチン接種)動物の相対リスクの3.3倍であると判定された(表3)。
【0177】
(表3)汎真菌ペプチド2ワクチン接種とニューモシスチス肺炎との関連性
【0178】
汎真菌ペプチド2免疫はニューモシスチス属のコロニー形成を低減する
第1ラウンドのPCRによるニューモシスチス属の検出に加えて、BALサンプルをニューモシスチス属によるコロニー形成についてネステッドPCRにより評価した。図10は、汎真菌ペプチド2免疫コホートおよび偽免疫コホートの両方における慢性コロニー形成(ネステッドPCRでの陽性が2ヶ月以上連続することにより判定される)までの時間(週単位)を図示している。慢性コロニー形成は、感染後週数(wpi) 28まで偽免疫コホートと比較して、汎真菌ペプチド2免疫コホートにおいて有意に低減されることが見出された(p=0.05)。
【0179】
本実施例において用いた材料および方法は次の通りである。
【0180】
動物
15頭の成体の中国産アカゲザル(Macaca mulatta)を、国立霊長類センターまたは供給業者から入手し、NIHの実験動物の管理と使用に関するガイドにしたがいBSL2+霊長類施設に収容した。
【0181】
ワクチン構築および精製
90アミノ酸からなる組み換えタンパク質である汎真菌ペプチド2を大腸菌BL21(DE3) pLysS(ThermoFisher, Scientific)のpET28b(+)発現ベクター(Novagen)にクローニングし、アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。組み換え汎真菌ペプチド2タンパク質を、免疫および酵素結合免疫測定法(ELISA)に用いた。
【0182】
免疫および研究デザイン
7頭のマカクに1:1の比率で混合した100μgの汎真菌ペプチド2および水酸化アルミニウム(Imject Alum, Thermo Scientific)を筋肉内免疫した。8頭の偽免疫(ワクチン接種)マカクの対照コホートにPBSおよびミョウバンを投与した。動物を8週間休ませ、その時間後に汎真菌ペプチド2で免疫した動物に50μgの汎真菌ペプチド2およびミョウバンを追加免疫し、偽免疫動物に上記のように偽接種した。追加免疫8週間後、NHP動物にSIV/Delta B670 (PBS中1:100), 組織培養感染量50%(TCID50=2.6×105)を静脈内感染させた。ウイルス感染を感染後4週間は毎週の時点で、その後は最大32週間まで毎月モニタリングした。ニューモシスチス属感染の存在をモニタリングするために気管支肺胞洗浄液(BAL)を毎月集めた。
【0183】
ニューモシスチス属曝露およびニューモシスチス属感染の判定
ニューモシスチス属(Pc)はインビトロで確実に培養することができない。したがって、汎真菌ペプチド2免疫アカゲザルおよび偽免疫アカゲザルのニューモシスチス属曝露は、Klingら(2010, Infect. Immun., 78(10):4320-4330)によって既述されたように、これらの動物を共同飼育することによって自然の空気感染を介して実施された。ニューモシスチス肺炎(PCP)は、第1ラウンドのPCRによるおよび/またはBAL塗抹標本におけるニューモシスチス属の顕微鏡に基づく検出によるBAL液中のニューモシスチス属の検出と定義された。既述(Savoia, D. et al., 1997, Diagn Microbiol Infect Dis, 29(2):61-65)のように、第1ラウンドの産物5μLを増幅させることによってネステッドPCRを実施した。慢性肺ニューモシスチス属コロニー形成は、2ヶ月以上連続でのネステッドラウンドのPCRにおけるニューモシスチス属DNAの検出と定義された。BAL液サンプルのDNA品質を制御するために、β-グロビンを検出するためのPCRも各時点でBALサンプルに対して実施した(Croix, DA et al., 2002, AIDS Res Hum Retroviruses, 18(5):391-401によって記述された方法)。
【0184】
統計分析
全ての統計分析は、GraphPad Prism (GraphPad Software, La Jolla, CA)を用いて実施した。偽免疫群と比較したワクチン接種群での汎真菌ペプチド2免疫(ワクチン接種)とPCP発生率との関連性は、Fisherの正確確率検定を用いて判定した。汎真菌ペプチド2免疫コホートと偽免疫コホートとのPCP診断の差異は、Kaplan-Meier検定を用いて比較した。PCPの相対リスクは、Koopman漸近スコアを用いて計算した。慢性的Pcコロニー形成は、Mantel-Cox検定によって評定した。
【0185】
他の態様
前述の説明から、本明細書において記述された局面および態様をさまざまな用法および条件に取り入れるように変形および修正がなされうることが明らかであろう。そのような態様も以下の特許請求の範囲内にある。
【0186】
本明細書における変数の任意の定義における要素のリストの列挙は、任意の単一の要素または列挙された要素の組み合わせ(もしくは部分的組み合わせ)としてのその変数の定義を含む。本明細書における態様の列挙は、任意の単一の態様としての、または任意の他の態様もしくはその一部分との組み合わせでのその態様を含む。
【0187】
本明細書において言及された全ての特許および刊行物は、あたかもそれぞれの独立した特許および刊行物が具体的かつ個別に参照により組み入れられることが示されるのと同程度に参照により本明細書に組み入れられる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2021-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022520723000001.app
【国際調査報告】