(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(54)【発明の名称】磁気浮上軸受の剛性増強機構、磁気浮上軸受、及び血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20220325BHJP
A61M 60/216 20210101ALI20220325BHJP
A61M 60/822 20210101ALI20220325BHJP
A61M 60/117 20210101ALI20220325BHJP
A61M 60/122 20210101ALI20220325BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F16C32/04 B
A61M60/216
A61M60/822
A61M60/117
A61M60/122
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546754
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 CN2020073208
(87)【国際公開番号】W WO2020164371
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】201910113382.1
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521282136
【氏名又は名称】マグアシスト インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MAGASSIST, INC.
【住所又は居所原語表記】Room 311-312, Building 2, No. 8, Jinfeng Road, Snd, Suzhou, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュー チァハオ
(72)【発明者】
【氏名】シュー ポーリン
(72)【発明者】
【氏名】イエン イファン
(72)【発明者】
【氏名】ローガン トーマス ジョージ
【テーマコード(参考)】
3J102
4C077
【Fターム(参考)】
3J102AA01
3J102BA03
3J102CA09
3J102CA22
3J102CA25
3J102CA27
3J102DA02
3J102DA07
3J102DA09
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3J102DA26
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3J102DB18
3J102DB26
3J102DB37
3J102GA06
3J102GA18
3J102GA20
4C077AA04
4C077DD08
4C077DD10
4C077EE01
4C077FF04
(57)【要約】
磁気浮上軸受(20)用の剛性増強機構(23)、剛性増強機構(23)を備えた磁気浮上軸受(20)、及び血液ポンプが開示されている。磁気浮上軸受(20)は、固定子歯(211)を備えた固定子(21)と、固定子(21)内に配置された回転子(22)とを備える。剛性増強機構(23)は、回転子永久磁石(231)、固定子永久磁石(232)、及び軸方向駆動体(233)を備える。磁気浮上軸受(20)の回転子永久磁石(231)及び回転子(22)は、回転子組立体を形成し、この回転子組立体の構造は、回転子(22)の主平面(P)に対して非対称な構造である。剛性増強機構(23)は、固定子永久磁石(232)が、回転子永久磁石(231)に半径方向引力を発生させ、軸方向駆動体(233)が、回転子永久磁石(231)に軸方向反発力を発生させ、軸方向反発力の大きさが、軸方向駆動体(233)と回転子永久磁石(231)との間の軸方向の距離の変化に伴って変化することができるように構成される。剛性増強機構(23)は、磁気浮上軸受(20)の回転子(22)のねじり剛性を増加させ、磁気浮上軸受(20)の小型化に寄与することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気浮上軸受用の剛性増強機構であって、前記磁気浮上軸受が、固定子と、前記固定子内に配置された回転子とを含み、前記固定子が、固定子歯を含む、前記剛性増強機構は、
前記回転子の側方に配置された回転子永久磁石であって、前記回転子永久磁石が、前記回転子の主平面に平行であるとともに、前記回転子に当接しており、前記回転子の前記主平面が、前記回転子の半径方向の対称面である、前記回転子永久磁石と、
前記固定子の前記固定子歯の側方に配置された固定子永久磁石であって、前記固定子永久磁石が、前記回転子の前記主平面に平行であるとともに、前記固定子の前記固定子歯に当接しており、前記固定子永久磁石が位置している前記側方が、前記回転子永久磁石が位置している前記側方と同じであり、前記固定子永久磁石が、前記回転子永久磁石から前記半径方向に一定の距離だけ離隔配置されている、前記固定子永久磁石と、
前記回転子永久磁石に面し、かつ前記回転子永久磁石から軸方向に一定の距離だけ離隔配置されるように配置された軸方向駆動体と、を備え、
前記回転子永久磁石と前記回転子とが回転子組立体を形成し、前記回転子組立体が、前記回転子の前記主平面に対して非対称な構造であり、
前記固定子永久磁石が、前記回転子永久磁石に対する半径方向引力を発生させ、前記軸方向駆動体が、前記回転子永久磁石に対する軸方向反発力を発生させるように、前記剛性増強機構が構成されており、前記軸方向反発力の大きさが、前記軸方向駆動体と前記回転子永久磁石との間の軸方向の距離の変化に応じて可変である、前記剛性増強機構。
【請求項2】
前記回転子永久磁石の磁化方向は、軸方向磁化方向または半径方向磁化方向である単一磁化方向であり、及び/または前記固定子永久磁石の磁化方向は、軸方向磁化方向または半径方向磁化方向である単一磁化方向である、請求項1に記載の剛性増強機構。
【請求項3】
前記回転子永久磁石は、環形状の一体構造であるか、円周方向に互いに離隔配置された複数の別個の永久磁石で構成されており、及び/または前記固定子永久磁石は、環形状の一体構造であるか、円周方向に互いに離隔配置された複数の別個の永久磁石で構成されている、請求項1に記載の剛性増強機構。
【請求項4】
前記軸方向駆動体は、静止するように構成されている、請求項1に記載の剛性増強機構。
【請求項5】
前記軸方向駆動体は、環形状の一体構造をした永久磁石であり、または前記軸方向駆動体は、円周方向に互いに離隔配置された複数の別個の永久磁石で構成されている、請求項1に記載の剛性増強機構。
【請求項6】
前記軸方向駆動体は、電磁石または空芯コイルである、請求項1に記載の剛性増強機構。
【請求項7】
前記軸方向駆動体は、円周方向に互いに離隔配置された複数の電磁石または空芯コイルで構成されている、請求項6に記載の剛性増強機構。
【請求項8】
前記剛性増強機構は、対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルによって生じさせる前記回転子永久磁石に対する前記軸方向反発力の大きさを別々に変化させるように、それぞれの電磁石または空芯コイルを流れる電流の大きさを別々に変化させることができるコントローラまたは制御回路をさらに備える、請求項7に記載の剛性増強機構。
【請求項9】
前記半径方向の周りのねじり運動が前記回転子に生ずる場合に、前記剛性増強機構の前記コントローラまたは前記制御回路は、前記回転子の前記軸方向駆動体から離れた端部に対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルに流れる前記電流を減少させ、その間に、前記回転子の前記軸方向駆動体に近い他端部に対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルに流れる前記電流を増加させる、請求項8に記載の剛性増強機構。
【請求項10】
前記剛性増強機構の前記コントローラまたは前記制御回路は、それぞれの電磁石または空芯コイルを流れる電流の方向を別々に変化させることも可能であり、前記半径方向の周りのねじり運動が前記回転子に生ずる場合に、前記剛性増強機構の前記コントローラまたは前記制御回路は、前記回転子の前記軸方向駆動体から離れた端部に対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルによって生じさせる前記回転子永久磁石に対する前記軸方向反発力を軸方向引力に変化させるように、前記1つ以上の電磁石または空芯コイルに流れる電流の方向を変化させる、請求項8に記載の剛性増強機構。
【請求項11】
固定子歯を有する固定子と、前記固定子の内部に配置された回転子と、請求項1に記載の剛性増強機構とを備える、磁気浮上軸受。
【請求項12】
前記磁気浮上軸受の前記固定子は、円周方向に互いに離隔配置された複数の固定子歯を備え、前記固定子歯のそれぞれには、前記磁気浮上軸受の前記回転子を浮かして前記回転子の半径方向の運動を制御するための磁気浮上コイルが設けられている、請求項11に記載の磁気浮上軸受。
【請求項13】
前記固定子歯のそれぞれは、逆「L」字形状となる水平部分及び垂直部分を含み、それぞれの前記固定子歯の前記水平部分と前記回転子とは、実質的に同じ高さに位置し、前記固定子歯の前記水平部分と前記回転子との間に間隙が存在し、前記固定子歯の前記垂直部分に前記磁気浮上コイルが巻かれており、前記磁気浮上コイルによって生成される磁束は、前記固定子歯の前記水平部分、前記固定子歯の前記水平部分と前記回転子との間の前記間隙、及び前記回転子を透過することが可能であり、または
前記固定子歯のそれぞれは、固定子本体から中央に向かって前記半径方向に延在して直線形状となり、それぞれの前記固定子歯と前記回転子とは、実質的に同じ高さに位置し、前記固定子歯と前記回転子との間に間隙が存在し、前記固定子歯に前記磁気浮上コイルが巻かれており、前記磁気浮上コイルによって生成される磁束は、前記固定子歯、前記固定子歯と前記回転子との間の前記間隙、及び前記回転子を透過することが可能である、請求項12に記載の磁気浮上軸受。
【請求項14】
変位センサ及びコントローラをさらに備え、前記変位センサは、前記回転子の前記半径方向の変位を測定し、変位信号を前記磁気浮上軸受の前記コントローラに送るように用いられ、前記磁気浮上軸受の前記コントローラは、前記変位信号に基づいて対応する1つ以上の磁気浮上コイルを流れる電流の大きさ及び/または方向を別々に変化させ、それによって前記回転子の前記半径方向の運動を制御するように用いられる、請求項12に記載の磁気浮上軸受。
【請求項15】
前記剛性増強機構の前記固定子永久磁石は、前記固定子の表面に当接している、請求項12に記載の磁気浮上軸受。
【請求項16】
前記剛性増強機構の前記軸方向駆動体を支持するための支持構造、及び/または前記剛性増強機構の前記固定子永久磁石を前記固定子の表面に当接させるための支持構造をさらに備えており、
前記支持構造は、前記磁気浮上軸受の前記固定子、前記磁気浮上軸受の回転子駆動体、または前記磁気浮上軸受のハウジングのうちの少なくとも1つの一部である、請求項12に記載の磁気浮上軸受。
【請求項17】
前記磁気浮上軸受の前記回転子は円盤の形をしており、及び/または
前記固定子永久磁石の内周面は、前記磁気浮上軸受の前記固定子歯の内周面と位置合わせされており、及び/または
前記回転子永久磁石の外周面は、前記磁気浮上軸受の前記回転子の外周面と位置合わせされている、請求項12に記載の磁気浮上軸受。
【請求項18】
前記固定子歯及び/または前記回転子は、磁気伝導性材料で作られている、請求項12に記載の磁気浮上軸受。
【請求項19】
前記固定子歯及び/または前記回転子は、強磁性材料で作られている、請求項18に記載の磁気浮上軸受。
【請求項20】
請求項11に記載の磁気浮上軸受を備える、血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、医療機器の分野に関する。より詳細には、本開示は、磁気浮上軸受(magnetic suspension bearing)の剛性増強機構、その剛性増強機構を含む磁気浮上軸受、及び血液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓が血液を送り出す機能を喪失する(心臓を止めての手術、急性心原性ショックなどの)場合には、心臓に代わる血液ポンプを使用して、人体の血液循環を維持するのに役立てることができる。血液ポンプは、一時的もしくは永続的に人体の血液循環を維持するために患者の体内に埋め込まれる埋め込み型血液ポンプであるか、または体外で使用できる体外式血液ポンプであり得る。
【0003】
血液ポンプには、磁気浮上軸受を用いることが有利である。磁気浮上軸受は、磁力で機能し、典型的には、特定の回転軸を中心に回転可能な回転子と、回転子を浮かせる(suspend)ための磁力を供給する磁力供給機構とを含む。磁力供給機構の違いに応じて、磁気浮上軸受は、能動型磁気浮上軸受または受動型磁気浮上軸受に分類することができ、能動型磁気浮上軸受の磁力供給機構は電磁石であり得るのに対して、受動型磁気浮上軸受の磁力供給機構は永久磁石または強磁性材料であり得る。能動型磁気浮上軸受は、通例、変位センサと、電磁石を流れる電流の大きさを変位センサからの信号に基づいて制御して、浮上電磁力を調整するコントローラとをさらに含む。動作中に、まず変位センサにより、能動型磁気浮上方式の自由度に関わる回転子の位置がコントローラに与えられ、次にコントローラが、対応する制御アルゴリズム(PID、PI、PD制御など)によって電磁石に特定の電流を供給して、制御された浮上電磁力を発生させる。受動型磁気浮上軸受は、2つ以上の永久磁石の間の相互作用、または永久磁石と強磁性材料との間の相互作用に基づいて引力または反発力を発生させて、平衡のとれた位置で回転子を浮かせる。
【0004】
機械式軸受のような従来の軸受と比較して、磁気浮上軸受の回転子は、他の構成要素(磁力供給機構など)と物理的に接触せず、回転子は他の構成要素から大きな間隙によって離隔配置されていて、磁気浮上軸受の重要な利点をもたらし得る。一方では、磁気浮上軸受の各構成要素の機械的摩耗を、物理的な接触がないという理由から排除することができる。他方では、間隙が大きいことで、間隙を流れる流体が受けるせん断応力を少なくすることが可能になり、したがって、流体が血液の場合には、血液細胞への損傷を軽減するのに役立てることができ、それに伴って血液適合性を向上させることができる。
【0005】
図1は、能動型磁気浮上軸受10の概略図である。能動型磁気浮上軸受10は、回転軸Aを中心に回転可能な回転子101と、回転子101を浮かせるための電磁力を供給する電磁石102であって、回転子101と電磁石102との間に間隙または空隙G1が存在する、電磁石102と、電磁石102に対する回転子101の変位を検出するための変位センサ103と、変位センサ103からの信号に基づいて、電磁石102を流れる電流の大きさを制御して、浮上電磁力を調整するコントローラ104とを含む。
【0006】
図1に示す能動型磁気浮上軸受10では、電磁石102が回転子101に半径方向の電磁力(すなわち、X-Y平面内の電磁力)を供給して、回転子101が半径方向に確実に安定して浮くようにしている。しかし、
図1に示す能動型磁気浮上軸受10は、X軸またはY軸の周りにねじり運動を生じやすい。つまり、
図1に示す能動型磁気浮上軸受10は、ねじりの自由度(すなわち、X軸またはY軸を回転軸とする回転の自由度)を持ち、換言すれば、
図1に示す能動型磁気浮上軸受10は、ねじり剛性が低いので好ましくない。磁気浮上軸受は、磁気浮上軸受がねじり運動を全く、またはほとんど行わないように、ねじり剛性ができるだけ高いことが好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を解決するために、永久磁石及び強磁性材料の複数の層を組み合わせてサンドイッチ状の構造を形成する既知の方法があり、それにより、複数の平行な押圧力及び引張力が、回転軸Aに垂直な平面(すなわち、
図1に示すX-Y平面)上に形成され、その結果、ねじり剛性が高まり、ねじり安定性が向上する。しかし、そのようなサンドイッチ構造には、いくつかの欠点がある。一方では、永久磁石の強度はその体積に比例し、すなわち、体積が大きいほど永久磁石の強度が強くなる。他方では、永久磁石の体積が小さいほど、永久磁石の磁化の限界効果(magnetization marginal effect)がより明瞭になる。つまり、複数の小さな永久磁石で作られた永久磁石によって生じる磁界強度は、同じ体積の単一の永久磁石によって生じる磁界強度と同等ではなく、それよりも小さい。そのため、上記の複数の永久磁石で作られたサンドイッチ構造を用いた場合、単一の永久磁石によって生じるような所望の磁界強度に達するためには、小さな永久磁石1つ1つの体積を大きくする必要があり、それによって必然的に磁気浮上軸受の総体積が増加することになる可能性があり、この結果として軸受の適用範囲が制限されてしまう。現在の多くのアプリケーションでは、回転子の体積には通常厳しい制限があり、回転子を小型化できることが一般的に望まれている。例えば、血液ポンプへのアプリケーションでは、磁気浮上軸受の間隙または空隙は、一般に、血液ポンプの副流路と共有される。血液が主流路よりも狭い副流路を流れると、血液は長時間にわたってせん断応力を受け、したがって血液細胞に損傷を与えるおそれがある。そのため、副流路の長さを可能な限り短くするように回転子を小型化することは、血液ポンプの血液適合性にとって非常に重要である。このようなアプリケーションでは、回転子の小型化が重要な最適化目標となるが、サンドイッチ構造はこの目標に反するものである。
【0008】
よって、現在の磁気浮上軸受をさらに変更することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題及びその他の問題は、本開示の例示的な実施形態によって克服され、さらなる利点が獲得されることになる。
【0010】
本開示の例示的な実施形態の第1の態様によれば、磁気浮上軸受用の剛性増強機構が提供される。本磁気浮上軸受は、固定子と、固定子内に配置された回転子とを含み得、固定子は、固定子歯を含む。本剛性増強機構は、回転子の側方に配置された回転子永久磁石であって、回転子永久磁石が、回転子の主平面に平行であるとともに、回転子に当接しており、回転子の主平面が、回転子の半径方向の対称面である、回転子永久磁石と、固定子の固定子歯の側方に配置された固定子永久磁石であって、固定子永久磁石が、回転子の主平面に平行であるとともに、固定子の固定子歯に当接しており、固定子永久磁石が位置している側方が、回転子永久磁石が位置している側方と同じであり、固定子永久磁石が、回転子永久磁石から半径方向に一定の距離だけ離隔配置されている、固定子永久磁石と、回転子永久磁石に面し、かつ回転子永久磁石から軸方向に一定の距離だけ離隔配置されるように配置された軸方向駆動体とを備え得る。回転子永久磁石と回転子とは回転子組立体を形成し、この回転子組立体の構造は、回転子の主平面に対して非対称な構造である。本剛性増強機構は、固定子永久磁石が、回転子永久磁石に対する半径方向引力を発生させ、軸方向駆動体が、回転子永久磁石に対する軸方向反発力を発生させるように、構成されており、軸方向反発力の大きさが、軸方向駆動体と回転子永久磁石との間の軸方向の距離の変化に応じて可変である。
【0011】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子永久磁石及び固定子永久磁石のそれぞれの磁化方向は、単一磁化方向であり得る。
【0012】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子永久磁石及び/または固定子永久磁石の磁化方向は、軸方向の磁化方向であり得る。
【0013】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子永久磁石及び/または固定子永久磁石の磁化方向は、半径方向の磁化方向であり得る。
【0014】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子永久磁石及び固定子永久磁石のそれぞれは、環形状の一体構造であり得る。
【0015】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子永久磁石及び/または固定子永久磁石は、円周方向に互いに離隔配置された複数の別個の永久磁石で構成され得る。
【0016】
本開示の例示的な実施形態によれば、軸方向駆動体は、静止するように構成され得る。
【0017】
本開示の例示的な実施形態によれば、軸方向駆動体は永久磁石であり得る。
【0018】
本開示の例示的な実施形態によれば、軸方向駆動体は、環形状の一体構造をした永久磁石であり得る。
【0019】
本開示の例示的な実施形態によれば、軸方向駆動体は、円周方向に互いに離隔配置された複数の別個の永久磁石で構成され得る。
【0020】
本開示の例示的な実施形態によれば、軸方向駆動体は、電磁石または空芯コイルであり得る。
【0021】
本開示の例示的な実施形態によれば、軸方向駆動体は、円周方向に互いに離隔配置された複数の電磁石または空芯コイルで構成され得る。
【0022】
本開示の例示的な実施形態によれば、剛性増強機構は、それぞれの電磁石または空芯コイルを流れる電流の大きさを別々に変化させることができ、それに応じて、対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルによって生じさせる回転子永久磁石に対する軸方向反発力の大きさを別々に変化させることができるコントローラまたは制御回路をさらに備え得る。
【0023】
本開示の例示的な実施形態によれば、半径方向の周りのねじり運動が回転子に生ずる場合に、剛性増強機構のコントローラまたは制御回路は、回転子の軸方向駆動体から離れた端部に対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルに流れる電流を減少させ、その間に、回転子の軸方向駆動体に近い他端部に対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルに流れる電流を増加させる。
【0024】
本開示の例示的な実施形態によれば、剛性増強機構のコントローラまたは制御回路は、それぞれの電磁石または空芯コイルを流れる電流の方向を別々に変化させることも可能である。半径方向の周りのねじり運動が回転子に生ずる場合に、剛性増強機構のコントローラまたは制御回路は、回転子の軸方向駆動体から離れた端部に対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルによって生じさせる回転子永久磁石に対する軸方向反発力を軸方向引力に変化させるように、1つ以上の電磁石または空芯コイルに流れる電流の方向を変化させる。
【0025】
本開示の例示的な実施形態の第2の態様によれば、本開示の例示的な実施形態による剛性増強機構を含む磁気浮上軸受が提供される。
【0026】
本開示の例示的な実施形態によれば、磁気浮上軸受の固定子は、円周方向に互いに離隔配置された複数の固定子歯を備え得、固定子歯のそれぞれには、磁気浮上軸受の回転子を浮かして回転子の半径方向の運動を制御するための磁気浮上コイルが設けられている。
【0027】
本開示の例示的な実施形態によれば、固定子歯のそれぞれは、逆「L」字形状となる水平部分及び垂直部分を含み得、それぞれの固定子歯の水平部分と回転子とは、実質的に同じ高さに位置し、固定子歯の水平部分と回転子との間に間隙が存在し、固定子歯の垂直部分に磁気浮上コイルが巻かれており、磁気浮上コイルによって生成される磁束は、固定子歯の水平部分、固定子歯の水平部分と回転子との間の間隙、及び回転子を透過することが可能である。
【0028】
本開示の例示的な実施形態によれば、固定子歯のそれぞれは、固定子本体から中央に向かって半径方向に延在して直線形状となり得、それぞれの固定子歯と回転子とは、実質的に同じ高さに位置し、固定子歯と回転子との間に間隙が存在し、固定子歯に磁気浮上コイルが巻かれており、磁気浮上コイルによって生成される磁束は、固定子歯、固定子歯と回転子との間の間隙、及び回転子を透過することが可能である。
【0029】
本開示の例示的な実施形態によれば、磁気浮上軸受は、変位センサ及びコントローラをさらに備え、変位センサは、回転子の半径方向の変位を測定し、変位信号を磁気浮上軸受のコントローラに送るように用いられ、磁気浮上軸受のコントローラは、変位信号に基づいて対応する1つ以上の磁気浮上コイルを流れる電流の大きさ及び/または方向を別々に変化させ、それによって回転子の半径方向の運動を制御する。
【0030】
本開示の例示的な実施形態によれば、剛性増強機構の固定子永久磁石は、固定子の表面に当接し得る。
【0031】
本開示の例示的な実施形態によれば、磁気浮上軸受は、剛性増強機構の軸方向駆動体を支持するための支持構造をさらに含み得る。
【0032】
本開示の例示的な実施形態によれば、支持構造は、磁気浮上軸受の固定子の一部であり得る。
【0033】
本開示の例示的な実施形態によれば、支持構造は、磁気浮上軸受の回転子駆動体の一部であり得る。
【0034】
本開示の例示的な実施形態によれば、支持構造は、磁気浮上軸受のハウジングの一部であり得る。
【0035】
本開示の例示的な実施形態によれば、支持構造はまた、剛性増強機構の固定子永久磁石を固定子の表面に当接させるために用いられ得る。
【0036】
本開示の例示的な実施形態によれば、磁気浮上軸受の回転子は、円盤の形をしていてもよい。
【0037】
本開示の例示的な実施形態によれば、固定子永久磁石の内周面は、磁気浮上軸受の固定子歯の内周面と位置合わせされ得る。
【0038】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子永久磁石の外周面は、磁気浮上軸受の回転子の外周面と位置合わせされ得る。
【0039】
本開示の例示的な実施形態によれば、固定子歯は、磁気伝導性材料で作られ得る。
【0040】
本開示の例示的な実施形態によれば、固定子歯は、強磁性材料で作られ得る。
【0041】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子は、磁気伝導性材料で作られ得る。
【0042】
本開示の例示的な実施形態によれば、回転子は、強磁性材料で作られ得る。
【0043】
本開示の例示的な実施形態の第3の態様によれば、本開示の例示的な実施形態による剛性増強機構を含む血液ポンプが提供される。
【0044】
本開示の例示的な実施形態の第4の態様によれば、本開示の例示的な実施形態による磁気浮上軸受を含む血液ポンプが提供される。
【0045】
本開示の追加の態様及び/または他の態様及び利点は、以下の説明で述べられることになり、または以下の説明から明らかになる場合があるか、もしくは本発明の実施を通じて知ることができる。本開示の様々な技術的特徴は、それらが相互に矛盾しない限り、任意に組み合わせることができる。
【0046】
本開示の特定の実施形態の以下の詳細な説明を、添付の図面と組み合わせて参照すると、本開示の上記の特徴及び利点ならびに他の特徴及び利点、さらにはそれらの実施態様も、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図2】本開示の実施形態による、剛性増強機構を備えた磁気浮上軸受の斜視図である。
【
図3】
図2の剛性増強機構を備えた磁気浮上軸受の断面図である。
【
図4】
図2の磁気浮上軸受の剛性増強機構の部分斜視図であり、剛性増強機構の磁化方向を概略的に示す。
【
図5】本開示による剛性増強機構の軸方向駆動体の異なる実施形態を示す。
【
図6】本開示の別の実施形態による、剛性増強機構を備えた磁気浮上軸受の斜視図である。
【
図7】
図6の剛性増強機構を備えた磁気浮上軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図面では、それぞれの参照符号が、それぞれの構成要素を示す。本明細書に記載された実施例は、本発明の例示的な態様を説明するために使用され、これらの実施例は、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態を示す図面を参照しながら、本開示を以下に説明する。ただし、本発明は多岐にわたる方法で実施することができ、以下に説明する実施形態に限定されないことを理解されたい。実際のところ、以下に記載されている実施形態は、本開示のより完全な開示を行い、本発明の範囲を当業者に適切に説明することを意図したものである。本明細書に開示された実施形態は、多くの追加の実施形態を提供するように様々な形で組み合わせることができることも理解されたい。
【0050】
説明では、「上」、「下」、「左」、「右」、「鉛直」、「水平」、「頂部」、「底部」、「横」、「垂直」、及びそれらの派生語は、全て本開示の図面における向きに関係している。また一方、本開示は、別途明示されない限り、様々な他に取り得る変更形態を採用してもよいことを理解されたい。
【0051】
本明細書で使用されている単数形の「a/an」及び「the」は、明示されない限り、全て複数形を含む。本明細書で使用されている語「備えている(comprising)」、「含んでいる(containing)」、及び「含んでいる(including)」は、特許請求された特徴の存在を示すが、1つ以上の追加の特徴の存在を排除するものではない。本明細書中で使われている「及び/または」という言い回しは、リストアップされた関連項目のうちの1つ以上の項目のありとあらゆる組み合わせを含むものである。
【0052】
本明細書では、ある要素が、別の要素に「載っている」、「取り付けられている」、「接続されている」、「結合されている」、「接触している」などと表現される場合、その要素は、他の要素に直接載っている、取り付けられている、接続されている、結合されている、もしくは接触している可能性があり、または介在要素が存在する場合もある。その一方、ある要素が、別の要素に「直接載っている」、「直接取り付けられている」、「直接接続されている」、「直接結合されている」、または「直接接触している」と表現される場合、介在要素は存在しない。本明細書では、別の特徴に「隣接」して配置されている特徴への言及に、その隣接する特徴に重なる部分、上に横たわる部分、または下に横たわる部分があってもよい。
【0053】
図2及び
図3を参照すると、本開示の一実施形態による磁気浮上軸受20が示されている。磁気浮上軸受20は、固定子21と、固定子内に配置された回転子22とを含む。回転子22は、円盤の形をしていてもよく、回転軸Aを中心に回転可能である。理想的には、固定子21と回転子22とは同軸である。固定子21は、環状の固定子本体210と、固定子本体210上に円周方向に配置された複数の固定子歯211とを含む。固定子歯211及び回転子22は、いずれも強磁性材料などの磁気伝導性材料(magnetically conductive material)で作られている。
図2及び
図3に示す実施形態では、固定子歯211は、互いに垂直であって逆「L」字形状となる垂直部分及び水平部分を含む。固定子歯211の水平部分と回転子22とは、同じ厚さであってもよく、固定子歯211の水平部分と回転子22との間に間隙または空隙Gが存在する理想的な状態では、同じ高さに位置していてもよい。具体的には、固定子歯211の水平部分は、上面2111、下面2112、及び円弧状の内周面2113を含み、回転子22は、上面221、下面222、及び円周の外周面223を含む。理想的には、固定子歯211の水平部分の上面2111が、回転子22の上面221と位置合わせされ、固定子歯211の水平部分の下面2112が、回転子22の下面222と位置合わせされ、固定子歯211の水平部分の内周面2113が、回転子22の外周面223から等しい間隙または空隙Gだけ離隔配置されている。さらに、回転子22を浮かせるために、固定子歯211の垂直部分には、磁気浮上コイル212が巻かれていて、回転子22に半径方向の電磁力(引力または反発力)が与えられる。具体的に、磁気浮上コイル212は、電流によって励磁されると、固定子歯211上に電磁界を発生させ得る。固定子歯211及び回転子22を介した磁界の透過により、固定子歯211と回転子22との間に半径方向の電磁力(引力または反発力)が発生して、回転子22が半径方向の平面(
図2及び
図3のX-Y平面)内に浮くことができる。
【0054】
図2及び
図3に示す実施形態では、固定子21は、4つの固定子歯211を含み、固定子歯211のそれぞれには、磁気浮上コイル212が設けられている。4つの固定子歯211は、円周方向に均等に分布しているので、2対の固定子歯に分けることができ、各対の固定子歯の2つの固定子歯は、半径方向に対向して配置されている。例えば、一方の対の固定子歯211が、X軸に沿って対向して配置されてもよく、他方の対の固定子歯211が、Y軸に沿って対向して配置されてもよい。本開示から逸脱することなく、必要に応じて、より多くの対の固定子歯(3対または4対の固定子歯など)を設けることもできる。
【0055】
特定の条件に従って、各対の固定子歯211上の磁気浮上コイル212は、回転子22上に同じ方向または反対方向の電磁力を発生させ得る。例えば、回転子が安定的に浮いている理想的な条件では、各対の固定子歯211上の磁気浮上コイル212は、回転子22が、X軸またはY軸に沿って半径方向に変位することなく、半径方向の平面内で安定的に浮くことができるように、回転子22に反対方向の電磁力を発生させることができる。場合によっては、例えば、外力の作用下での磁気浮上軸受20の振動により、回転子22が中央の平衡位置から半径方向にずれたときに、回転子22がより迅速に中央の平衡位置に戻ることを可能にするために、各対の固定子歯211上の磁気浮上コイル212が、回転子22に同一方向の電磁力を発生させてもよく、これらの電磁力の、結果として生じる力の方向は、回転子が半径方向にずれた方向とは逆向きであり、それによって回転子22が迅速に中央の平衡位置に戻るのを助ける。この場合、対応する1つ以上の磁気浮上コイル212によって発生する電磁力の大きさ及び/または方向は、回転子22が、生じたいわゆる「プッシュプル」効果によって半径方向に反対の位置に移動して、安定的に浮くことができる中央の平衡位置に迅速に戻ることができるように、上記の磁気浮上コイル212を流れる電流の大きさ及び/または方向を別々に調整することによって変更することができる。
図2及び
図3に示す実施形態では、一方の対の固定子歯211上の磁気浮上コイル212は、X軸に沿った回転子22の変位を制御することができ、他方の対の固定子歯211上の磁気浮上コイル212は、Y軸に沿った回転子22の変位を制御することができ、それによって回転子22の固定子21に対する半径方向平面内の位置を調整することができる。
【0056】
上記の調整は、変位センサ及びコントローラによって実行される。変位センサは、固定子21に対する回転子22の変位を検出し、コントローラに信号を送るのに用いられる。コントローラは、ワイヤによって磁気浮上コイル212に接続されている。コントローラは、変位センサから信号を受け取った後に、回転子が所望の方向に移動して、半径方向平面における固定子21に対する回転子22の位置の調整を達成できるように、固定子21と回転子22との間に発生する半径方向力の、結果として生じる力の大きさ及び方向を変化させるために、対応する1つ以上の磁気浮上コイル212を流れる電流の大きさ及び/または方向を、必要に応じて別々に変化させる。
【0057】
以上のように、対で配置された磁気浮上コイル212は、回転子22を半径方向平面内で浮かせることができ、半径方向平面内での固定子21に対する回転子22の位置は、コントローラを用いて磁気浮上コイル212を流れる電流の大きさ及び方向を変化させることによって調整することができる(つまり、X軸及びY軸に沿っての回転子22の移動の自由度は制御可能である)ものの、これらの磁気浮上コイル212だけでは、回転子22のねじれの自由度を効果的に制御することができない(すなわち、X軸及びY軸を中心とした回転子22の回転を効果的に制御することができない)。
【0058】
磁気浮上軸受のねじり剛性に関する問題を解決し、回転子の体積、特に副流路に関係する回転子の高さを可能な限り低減するために、本開示では、磁気浮上軸受に剛性増強機構23(
図3に破線のボックスで示す)を追加するという技術的解決策を提案する。剛性増強機構23は、磁気浮上軸受の回転子のねじり剛性を大幅に向上させる(つまり、回転子のねじり運動を起こりにくくする)だけでなく、サンドイッチ構造などの先行技術の構造の欠点を解消し、磁気浮上軸受の回転子の体積と、副流路に関係する回転子の高さとを大幅に低減させる。
【0059】
本開示による剛性増強機構23の具体的な構造及び動作原理について、
図3~
図5を参照しながら詳細に説明する。
図3は、磁気浮上軸受における本開示による剛性増強機構23の配置を断面図で示し、
図4は、本開示による剛性増強機構23の具体的な構造を部分斜視図でより明確に示し、かつ剛性増強機構23の構成要素の磁化方向を概略図で示し、
図5は、剛性増強機構23の軸方向駆動体233の異なる実施形態を示す。
【0060】
まず、
図3及び
図4を参照すると、本開示による剛性増強機構23は、回転子22の側方に配置された回転子永久磁石231であって、回転子永久磁石が、回転子22の主平面Pに平行であるとともに、回転子22に当接しており、回転子の主平面Pが、回転子22の半径方向の対称面である、回転子永久磁石231と、固定子21の固定子歯211の側方に配置された固定子永久磁石232であって、固定子永久磁石が、回転子22の主平面Pに平行であるとともに、固定子21の固定子歯211に当接しており、固定子永久磁石232が位置している側方が、回転子永久磁石231が位置している側方と同じであり、固定子永久磁石232と回転子永久磁石231とは、半径方向に一定の距離だけ互いに離隔配置されている、固定子永久磁石232(
図3及び
図4に示す逆「L」字形状の固定子歯では、固定子永久磁石232は、固定子歯211の水平部分の下に配置されており、固定子永久磁石は、回転子の主平面Pと平行であるとともに、固定子歯211の水平部分に当接している)と、回転子永久磁石231に面するように、かつ回転子永久磁石231から軸方向に一定の距離Hだけ離隔配置されるように配置された軸方向駆動体233(
図3及び
図4に示す実施形態では、軸方向駆動体233はまた、回転子の主平面Pに平行である)と、を含む。本開示による剛性増強機構では、回転子永久磁石231と回転子22とが回転子組立体を形成しており、この回転子組立体の構造が、回転子22の主平面Pに関して非対称な構造である。さらに、本開示による剛性増強機構は、固定子永久磁石232が、回転子永久磁石231に対する半径方向引力を発生させ、軸方向駆動体233が、回転子永久磁石231に対する軸方向反発力を発生させるように構成されており、軸方向反発力の大きさが、軸方向駆動体233と回転子永久磁石231との間の軸方向の距離の変化に応じて可変である。回転子22のねじり剛性は、半径方向引力と軸方向反発力との複合作用によって増強されており、その具体的な原理を以下に詳述する。
【0061】
図3及び
図4に示す実施形態では、回転子永久磁石231及び固定子永久磁石232は、いずれも環形状の一体構造であり、いずれも断面が矩形である。回転子永久磁石231は、回転子22の下面222に当接していてもよく、回転子永久磁石231の外周面2311は、回転子22の外周面223に位置合わせされていてもよい。固定子永久磁石232は、固定子歯211の水平部分の下面2112に当接していてもよく、固定子永久磁石232の内周面2321は、固定子歯211の水平部分の内周面2113と位置合わせされていてもよい。このようにして、回転子永久磁石231と固定子永久磁石232とは、固定子21と回転子22との間の距離Gと同じ距離だけ互いに離隔配置されている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではなく、回転子永久磁石231と固定子永久磁石232とが互いに離隔配置される距離はまた、固定子21と回転子22とが離隔配置される距離Gと異なっていてもよい。加えて、回転子永久磁石231と固定子永久磁石232とは、同じ厚さであってもよい。しかし、本開示はこれに限定されるものではなく、回転子永久磁石231と固定子永久磁石232とはまた、異なる厚さであってもよい。
【0062】
回転子永久磁石231は、様々な好適な手法で回転子22の下面222に固定され得る。上記のように、回転子永久磁石231と回転子22とによって形成される回転子組立体の構造は、回転子22の主平面Pに関して非対称な構造となっており(つまり、回転子永久磁石231が、回転子22の主平面Pの片側のみに設置されている)、これは先行技術のサンドイッチ構造との重要な違いである。サンドイッチ構造などの先行技術の構造では、永久磁石は通例、回転子に対して対称に配置され、そのため必然的に少なくとも2つの永久磁石を回転子の両側に配置する必要がある。先に述べた永久磁石の磁化限界効果のため、2つの別個の永久磁石によって生じる磁界強度は、同じ体積の単一の永久磁石によって生じる磁界強度よりも小さくなる。したがって、2つの永久磁石を別々に配置した場合に、単一の永久磁石によって生じるような所望の磁界強度に達するためには、2つの永久磁石の高さまたは体積を大きくしなければならず、このことは磁気浮上軸受の小型化を求める現在の主流に反している。本開示による回転子永久磁石231は、回転子22の片側に配置されており、このようにして形成された非対称構造は、対称構造と同様の機能を実現することができるだけでなく、体積及び高さの小さい回転子永久磁石を採用することにより、副流路に関係する回転子の体積と回転子の高さとを低減させることができる。そのような磁気浮上軸受が、例えば血液ポンプに適用される場合、そのポンプは、例えば血液細胞への損傷を大幅に軽減し、それによって血液適合性を高めることができる。
【0063】
軸方向駆動体233は、回転子永久磁石231の軸方向直下に位置している。好ましくは、軸方向駆動体233は、回転子永久磁石231の直下に静的に配置されてもよい。軸方向駆動体233を移動可能であるようにしたものと比べて、静止した配置の軸方向駆動体は、軸方向駆動体の移動による、軸方向駆動体233と回転子永久磁石231との位置ずれに起因する悪影響を、ある程度、低減させることができる。ただし、本開示は、これに限定されるものではない。軸方向駆動体233はまた、ある一定の自由度を有していてもよく、例えば、軸方向駆動体はまた、回転軸Aを中心に回転してもよい。
【0064】
本開示による実施形態では、軸方向駆動体233は(
図3~
図4に示すように)リング状永久磁石の形態をとってもよい。リング状永久磁石の形態をとる軸方向駆動体233は、回転子永久磁石231の幅と同じ幅であってもよく、回転子永久磁石231と幅が完全に位置合わせされてもよい。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、リング状永久磁石の形態をとる軸方向駆動体233はまた、回転子永久磁石231とは異なる幅を有していてもよい。リング状永久磁石の形態をとる軸方向駆動体233は、回転子永久磁石231に反発する磁界を空間に形成し、それによって回転子永久磁石231に受動的な軸方向反発力(すなわち、上向きの推力)を生じさせる。一方では、回転子永久磁石231と回転子22とで形成される回転子組立体が、X軸またはY軸の周りにねじり運動を伴わずに、半径方向平面内に水平に浮いている場合、受動的な軸方向反発力は、回転子組立体を上方に押し上げる傾向がある。それと同時に、回転子組立体は、固定子21上の磁気浮上コイル212と固定子永久磁石232とによって生じる半径方向引力の作用を受けるが、この半径方向引力は、軸方向駆動体233によって生じる受動的な軸方向反発力に抵抗する下向きの引っ張り力成分を有するので、回転子組立体が空間の所望の位置に維持され、磁気浮上軸受の底部との衝突を回避することができる。他方では、回転子組立体が半径方向平面内で傾き、したがってX軸またはY軸の周りにねじり運動がある場合、回転子永久磁石231の一端が軸方向駆動体233から遠ざかり、その間、軸方向駆動体233により回転子永久磁石231のこの端部に生じる受動的な軸方向反発力が減少することになる。回転子永久磁石231の他端は、軸方向駆動体233に近づき、その間、軸方向駆動体233により回転子永久磁石231のこの端部に生じる受動的な軸方向反発力が増加することになる。軸方向駆動体233により回転子永久磁石231の2つの端部に加えられる受動的な軸方向反発力は等しくないので、回転子永久磁石231には、X軸またはY軸の周りの正味トルクが発生する。この正味トルクは、回転子組立体のねじり方向とは逆であるために、回転子組立体のねじりに抵抗して、回転子組立体を半径方向平面に戻す。換言すれば、回転子組立体のねじり運動のために回転子組立体の異なる部分が上下に移動する過程では、軸方向駆動体233は、回転子組立体の異なる部分からの距離に応じて、異なる大きさの受動的な軸方向反発力を発生させている。これらの大きさの異なる受動的な軸方向反発力は、回転子永久磁石231及び回転子組立体に、回転子組立体のねじりに逆らって正味トルクを発生させる。この正味トルクは、固定子によって生じる半径方向引力と共に回転子組立体に作用して、回転子組立体を半径方向平面内に戻し、そこに安定的に浮かせる。これにより、全体として回転子組立体のねじり剛性が向上し、すなわち、剛性増強の効果がもたらされる。この剛性増強機構23の調整過程は、動釣り合い過程であることに着目すべきである。
【0065】
本開示による別の実施形態では、軸方向駆動体は(
図5に示すように)電磁石または空芯コイル233’の形態をとってもよい。電磁石または空芯コイル233’を軸方向駆動体として使用する実施形態では、軸方向駆動体は、複数の電磁石または空芯コイルを含み(
図5には1つの電磁石または空芯コイルのみを示す)、好ましくは複数の電磁石または空芯コイルを対にして含むことができる。これらの電磁石または空芯コイルは、回転子永久磁石231の直下に、円周方向に互いに距離を置いて、好ましくは等距離を置いて、配置され得る。電磁石または空芯コイル233’の形態をとる軸方向駆動体は、能動的に制御可能であり、つまり、それぞれの電磁石または空芯コイルを流れる電流の大きさ及び方向を、コントローラまたは制御回路によって別々に変更することが可能である。このようにして、必要に応じて、コントローラまたは制御回路を使用して、対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルによって生じる電磁力の大きさまたは性質を変化させるように、いずれかの対応する1つ以上の電磁石または空芯コイルを流れる電流の大きさ及び方向を変化させ(つまり、軸方向駆動体によって生じる軸方向反発力の大きさを変化させることができ、軸方向駆動体によって生じる当初の軸方向反発力を軸方向引力に変化させることができる)、それによって回転子組立体のねじり剛性を高めることができる。
【0066】
具体的には、回転子永久磁石231及び回転子22によって形成される回転子組立体が、ねじり運動(つまり、X軸またはY軸を中心とした回転)のために、一端が軸方向駆動体に近づくとともに、反対側の端が軸方向駆動体から離れる場合は、両端に対応する電磁石または空芯コイルを流れる電流の大きさ及び/または方向を変更することができるので、対応する電磁石または空芯コイルが協働で、回転子組立体のねじりに対抗する正味トルクを発生させて、回転子組立体を半径方向平面に戻すことが可能となる。特に、両端に対応する電磁石または空芯コイルを流れる電流の大きさのみを変更し、例えば、回転子組立体に近い電磁石または空芯コイルを流れる電流を増加させて、回転子組立体により大きな推力を発生させ、その一方で、回転子組立体から遠く離れている電磁石または空芯コイルを流れる電流を減少させて、回転子組立体により小さな推力を発生させ、それによって回転子組立体により大きな正味トルクを形成して、回転子組立体を半径方向平面に急速に戻すことが可能である。また、両端のうちの一方に対応する電磁石または空芯コイルを流れる電流の方向のみを変更し、例えば、回転子組立体に近い電磁石または空芯コイルを流れる電流の方向を変えないでおいて、回転子組立体に軸方向反発力(推力)を発生させ続けるようにし、回転子組立体から離れた電磁石または空芯コイルを流れる電流の方向を変えて、回転子組立体に軸方向引力を発生させることも可能である。このように、一方の端部を押し、他方の端部を引き付けることにより、回転子組立体により大きな正味トルクが形成されて、回転子組立体が半径方向平面に迅速に戻ることができるようになる。また、2つの端部に対応する電磁石または空芯コイルを流れる電流の大きさ及び方向を同時に変化させて、より大きな正味トルクを得ることにより、先の2つの調整方法を組み合わせて、回転子組立体がより迅速に半径方向平面に戻ることができるようにすることも可能である。
【0067】
軸方向駆動体として永久磁石を用いる場合と比較して、軸方向駆動体として電磁石または空芯コイル233’を用いると、回転子組立体のねじり剛性がより大幅に増加し、回転子組立体がより安定して浮くようにすることができる。しかしながら、軸方向駆動体として電磁石または空芯コイルを用いる場合は、電磁石または空芯コイルには、大きな体積と複雑な制御回路とが必要である。したがって、磁気浮上軸受全体を小型化する必要がある場合には、軸方向駆動体として永久磁石を用いることが望ましい。しかし、回転子自体を小型化するだけでよい場合(例えば、磁気浮上軸受が人体の外部に置かれる構成要素として構成される場合)には、能動的に制御可能な電磁石または空芯コイルを用いることが、より良い選択となる。
【0068】
図4及び
図5はまた、回転子永久磁石231及び固定子永久磁石232の磁化方向を示すものであり、単一磁化方向を示す。具体的には、
図4及び
図5に示す回転子永久磁石231及び固定子永久磁石232は、軸方向に磁化された単一磁化の方向を有する。ただし、本開示は、これに限定されるものではない。本開示で要求される半径方向引力が、回転子永久磁石231と固定子永久磁石232との間に発生し得る限り、回転子永久磁石231及び固定子永久磁石232の磁化方向は、他の任意の形態の単一磁化方向(例えば、半径方向に磁化された単一磁化方向、または他の好適な形態の単一磁化方向など)であってもよく、回転子永久磁石231及び固定子永久磁石232の磁化方向は、磁化方向が異なる単一磁化方向であってもよい(例えば、回転子永久磁石231の磁化方向が軸方向であり、固定子永久磁石232の磁化方向が半径方向であるなど)。また、回転子永久磁石231と固定子永久磁石232との間に半径方向引力を発生させることができれば、回転子永久磁石231と固定子永久磁石232との磁化方向は、テーパ状磁化方向などの非単一磁化方向、または既知もしくは未知の非単一磁化方向であってもよい。
【0069】
図3に戻ると、磁気浮上軸受20は、剛性増強機構23の軸方向駆動体233を支持するために使用され得る支持構造24をさらに含む。
図3に示す実施形態では、支持構造24は、固定子21、固定子永久磁石232、及び軸方向駆動体233を同時に支持するために用いられる。この例示的な実施形態では、支持構造24の中央部分はボスを含み、このボスは、環状フランジ241と、この環状フランジによって囲まれたキャビティ242とを含む。環状フランジ241は、固定子永久磁石232を支持し、固定子永久磁石232を固定子歯211の水平部分の下面2112に当接させるのに用いられる。軸方向駆動体233は、ボスのキャビティ242の底部に設置されている。好ましくは、軸方向駆動体233は、ボスのキャビティ242の底部に静的に設置される。
【0070】
支持構造24は、固定子21の一部であってもよい。ただし、本開示は、これに限定されるものではない。支持構造24は、磁気浮上軸受20のハウジングの一部であってもよく、または磁気浮上軸受20の回転子駆動体(例えば駆動モータ)の一部など、磁気浮上軸受20の他の好適な構成要素の一部であってもよい。
【0071】
次に、
図6及び
図7を参照する。
図6及び
図7は、それぞれ本開示の別の実施形態による磁気浮上軸受20’の斜視図及び断面図である。
図6及び
図7に示す磁気浮上軸受20’の構造は、固定子歯及び支持構造が異なることを除いては、
図2及び
図3に示す磁気浮上軸受20と同様の構造である。したがって、説明を簡単にするために、同じ構成要素を省略して、異なる部分のみを説明する。
【0072】
図6及び
図7に示す実施形態では、固定子21’は、環状の固定子本体210’と、4つの直線状の固定子歯211’とを含む。直線状の4つの固定子歯211’は、円周方向に沿って均等に配置され、固定子本体210’から半径方向に沿って固定子の中心に向かって延在する。各直線状の固定子歯211’の幅は(
図6及び
図7に示すように)均一であってもよいが、これはまた、不均一であってもよく、例えば、固定子歯211’の幅は、テーパ状の幅などであってもよい。
【0073】
同様に、回転子22’は円盤の形をしていてもよく、固定子歯211’と回転子22’との間には、間隙または空隙G’が存在する。固定子歯211’と回転子22’とは、同じ厚さであってもよく、理想的には同じ高さに設置される。換言すれば、理想的には、固定子歯211’の上面2111’が、回転子22’の上面221’に位置合わせされ、固定子歯211’の下面2112’が、回転子22’の下面222’に位置合わせされ、固定子歯211の内周面2113’が、回転子22’の外周面223’から等しい間隙または空隙G’だけ離隔配置されている。
【0074】
図6及び
図7に示す磁気浮上軸受20’の剛性増強機構は、
図2及び
図3に示す磁気浮上軸受20の剛性増強機構と構造及び配置が同じであるので、ここでは繰り返さない。磁気浮上軸受20’はまた、固定子、固定子永久磁石、及び軸方向駆動体を支持するためにも用いられる支持構造24’を含む。
図7に示す支持構造24’の形状は、
図3に示す構造とは異なり、外周部から中央部に向かって高さが徐々に低くなる段差形状であり、それによって中央部にキャビティが形成される。支持構造24’の最外段は、固定子本体210’を支持するために使用され、中間段は、固定子永久磁石を支持し、固定子歯211’の下面2112’に固定子永久磁石を当接させるために使用され、支持構造24’の中央のキャビティの底部に軸方向駆動体が設置される。
【0075】
同様に、支持構造24’は、固定子21’の一部であってもよい。ただし、本開示は、これに限定されるものではない。支持構造24’はまた、磁気浮上軸受20’のハウジングの一部であってもよく、または磁気浮上軸受20’の回転子駆動体(例えば駆動モータ)の一部など、磁気浮上軸受20’の他の好適な構成要素の一部であってもよい。
【0076】
以上、本開示の例示的な実施形態を、
図1~
図7を参照して説明したが、当業者は、本開示が開示された特定の構造に限定されないことを理解すべきである。本発明の趣旨及び範囲から実質的に逸脱することなく、例示的な実施形態に対して複数の変更及び修正を行うことができる。したがって、全ての変更及び修正は、特許請求の範囲によって定義される本発明の保護範囲内に包含される。
【0077】
例えば、
図4に示す回転子永久磁石、固定子永久磁石、及び軸方向駆動体の磁化方向は一例に過ぎない。回転子と固定子との間に半径方向引力を発生させ、回転子と軸方向駆動体との間に軸方向反発力を発生させることができる永久磁石の磁化方向であれば、全て本発明の原理に合致する。
【0078】
別の例として、
図2~
図3及び
図6~
図7に示す磁気浮上軸受では、回転子永久磁石と、固定子永久磁石と、永久磁石によって構成される軸方向駆動体とが、全て環形状の一体構造として示されている。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。回転子永久磁石、固定子永久磁石、及び軸方向駆動体のうちの1つまたは全ては、所望の剛性増強効果が得られる限り、円周方向に間隔を置いて配置された複数の別個の永久磁石で構成されてもよい。複数の別個の永久磁石は、円弧状であってもよい。例えば、複数の離隔配置された別個の永久磁石を使用すると、永久磁石の総質量をある程度減らすことができ、したがって、総質量のより高い要件が必要とされるアプリケーションにおいて有利である。しかし、回転子永久磁石、固定子永久磁石、または軸方向駆動体として、離隔配置された複数の別個の永久磁石を用いた場合、別個の永久磁石の円周方向の不連続性のために、円周方向に不均一な磁力が発生するおそれがある。これにより、回転子の振動が生じる可能性があり、それに伴い回転子の浮上安定性にもある程度の影響を与える可能性がある。
【0079】
別の例として、
図2~
図3及び
図6~
図7に示す磁気浮上軸受では、固定子、固定子永久磁石、及び軸方向駆動体を同時に支持する支持構造が示されている。ただし、本開示は、これに限定されるものではない。支持構造は、主に軸方向駆動体を支持するために用いられ、固定子及び固定子永久磁石は、他の好適な構成要素によって支持されてもよい。さらに、
図2~
図3及び
図6~
図7に示す磁気浮上軸受では、支持構造が一体構造として示されている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではなく、支持構造は、複数の構成要素から組み立てられてもよい。
【0080】
本開示は、添付の特許請求の範囲によって定義され、これらの特許請求の範囲の均等物もまた、本開示の範囲に含まれる。
【国際調査報告】