(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(54)【発明の名称】マンノースの酵素的生産
(51)【国際特許分類】
C12P 19/02 20060101AFI20220325BHJP
C13K 13/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
C12P19/02 ZNA
C13K13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547123
(86)(22)【出願日】2020-02-11
(85)【翻訳文提出日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 US2020017708
(87)【国際公開番号】W WO2020167796
(87)【国際公開日】2020-08-20
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518059587
【氏名又は名称】ボヌモーズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィチェレキー、ダニエル、ジョセフ
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF02
4B064CA21
4B064CB07
4B064CB27
4B064CB28
4B064CC06
4B064CC07
4B064CD15
4B064CD19
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA11
4B064DA20
(57)【要約】
マンノースを生産する製法にて以前に使用されるM6PPと比較した場合、より高い活性を有する酵素を使用して、M6PPによって触媒され、M6Pをマンノースに変換する工程を含む、マンノースを作製するための向上した製法を本明細書において開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖からマンノースを生産するための向上した製法であって、前記向上が、マンノース-6-リン酸ホスファターゼ(M6PP)を使用してM6Pをマンノースに変換することを含み、前記M6PPが、配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、製法。
【請求項2】
マンノース6-リン酸イソメラーゼ(M6PI)を使用して、フルクトース-6-リン酸(F6P)をマンノース6-リン酸(M6P)に変換する工程をさらに含む、請求項1に記載の製法。
【請求項3】
グルコース6-リン酸(G6P)を前記F6Pに変換し、ホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)によって触媒される工程をさらに含む、請求項2に記載の製法。
【請求項4】
グルコース1-リン酸(G1P)を前記G6Pに変換し、ホスホグルコムターゼ(PGM)によって触媒される工程をさらに含む、請求項3に記載の製法。
【請求項5】
糖を前記G1Pに変換し、少なくとも1種類の酵素によって触媒され、前記糖がデンプンまたはその誘導体、セルロースまたはその誘導体およびスクロースからなる群から選択される工程をさらに含む、請求項4に記載の製法。
【請求項6】
前記少なくとも1種類の酵素が、α-グルカンホスホリラーゼ(αGP)、マルトースホスホリラーゼ、スクロースホスホリラーゼ、セロデキストリンホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼおよびセルロースホスホリラーゼからなる群から選択される、請求項5に記載の製法。
【請求項7】
前記糖が、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトースおよびグルコースからなる群から選択されるデンプンまたはその誘導体である、請求項5に記載の製法。
【請求項8】
デンプンをデンプン誘導体に変換し、前記デンプン誘導体がデンプンの酵素的加水分解またはデンプンの酸加水分解によって調製される工程をさらに含む、請求項7に記載の製法。
【請求項9】
4-グルカントランスフェラーゼ(4GT)が前記製法に加えられる、請求項8に記載の製法。
【請求項10】
前記デンプン誘導体が、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α-アミラーゼまたはそれらの組合せによって触媒されるデンプンの酵素的加水分解によって調製される、請求項9に記載の製法。
【請求項11】
フルクトースを前記F6Pに変換し、少なくとも1種類の酵素によって触媒される工程と、
任意選択で、スクロースを前記フルクトースに変換し、少なくとも1種類の酵素によって触媒される工程と、
をさらに含む、請求項1に記載の製法。
【請求項12】
グルコースを前記G6Pに変換し、少なくとも1種類の酵素によって触媒される工程と、
任意選択で、スクロースを前記グルコースに変換し、少なくとも1種類の酵素によって触媒される工程と、
をさらに含む、請求項3に記載の製法。
【請求項13】
前記製法が、
(i)1種類または複数の酵素を使用し、糖をグルコース1-リン酸(G1P)に変換し、前記糖がデンプン、1種類もしくは複数のデンプンの誘導体、またはそれらの組合せからなる群から選択される工程、
(ii)ホスホグルコムターゼ(PGM)を使用してG1Pをグルコース6-リン酸(G6P)に変換する工程、
(iii)ホスホグルコイソメラーゼ(PGI)を使用してG6Pをフルクトース6-リン酸(F6P)に変換する工程、
(iv)マンノース6-リン酸イソメラーゼ(M6PI)を使用して前記F6Pをマンノース6-リン酸(M6P)に変換する工程、および
(v)マンノース6-リン酸ホスファターゼ(M6PP)を使用して前記M6Pをマンノースに変換し、前記M6PPが配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む工程を含む、マンノースを生産するための酵素的製法であり、
製法の工程(i)~(v)が、単一の反応容器内で実行される、請求項1に記載の製法。
【請求項14】
前記製法の工程が、
約37℃~約85℃の範囲の温度にて、
約5.0~約9.0の範囲のpHにて、
または約1時間~約48時間にわたって、といった製法条件のうち少なくとも1つの下で実行される、請求項13に記載の製法。
【請求項15】
前記製法の工程が、リン酸が再利用される場合、および
リン酸源としてアデノシン三リン酸(ATP)なしで、
ニコチンアミドアデノシンジヌクレオチドなしで、
約0.1mM~約150mMのリン酸濃度で、
約0.1mM~約50mMのMg
2+濃度で、といった製法条件のうち、前記製法のうち少なくとも1つの工程がエネルギー的に有利な化学反応に関する場合、
前記製法の工程が、これらの製法条件のうち少なくとも1つの下で実行される、
請求項13または14に記載の製法。
【請求項16】
リン酸が再利用され、M6PのM6PPによる脱リン酸化によって生産されるリン酸イオンが、糖をG1Pに変換する前記製法の工程で使用される、請求項15に記載の製法。
【請求項17】
M6Pをマンノースに変換する前記工程が、エネルギー的に有利であり、不可逆的なホスファターゼ反応である、請求項15に記載の製法。
【請求項18】
生産される前記マンノースを分離回収する工程をさらに含み、前記分離回収がクロマトグラフィー分離によるものではない、請求項13から17のいずれか一項に記載の製法。
【請求項19】
デンプンの前記誘導体が、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースからなる群から選択される、請求項13に記載の製法。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の製法から生産されるマンノース。
【請求項21】
請求項1から19のいずれか一項に記載の製法から生産されるマンノースを含有する消費可能な生成物。
【請求項22】
スルフリヴァルガ・カルジキュラリイ(Sulfurivirga caldicuralii)(Uniprot ID A0A1N6FCW3)由来のM6PPの活性と比較した場合、前記M6PPがより高い活性を有する、請求項2に記載の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年2月12日に出願された米国特許出願番号第62/804,426号に対する優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、D-マンノース生産に生物学的に関係する分野に関する。より詳細には、本発明は、糖類(例えば、多糖類、オリゴ糖類、二糖類、スクロース、D-グルコース、D-フルクトース)をD-マンノースに酵素的に変換可能である、向上したD-マンノース調製方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
D-マンノース(以後、マンノースとする)は、多くの果物、野菜、植物、さらには人体に見られる、ほのかに甘く天然に存在する単糖である。マンノースは、複数の健康上の恩恵および医薬用途を有する。例えば、マンノースは1b型先天性グリコシル化異常症、さらに一般には尿路感染症を処置するのに使用され得る。さらには、マンノースは実証済みのプレバイオティクスであり、これは血糖値を上昇させず、抗炎症性を示す。加えて、マンノースはブタにおける屠体収量を増加させることを示し、スキンケア製品用に広範に使用される補助的な保湿剤である。同様に、マンノースは医薬製品、化粧品、消費物(飲料、食品、日用品、菓子など)および畜産にて様々な用途を有する。ただし、マンノースは価格が高いことから、日用品でのその使用が限定されている。
【0004】
現在、マンノースは植物からの抽出物から主に生産される。一般的な方法としては、酸加水分解、熱加水分解、酵素的加水分解、微生物発酵加水分解およびそれらの混合が挙げられる。あまり一般的ではない方法としては、化学的転換および生物学的転換が挙げられる。概して、これらの方法は厳しい条件、高額な初期費用、さらに高額な原料コスト、異性化反応からのマンノースの分離の高額さおよび比較的低い生成物の収率(15~35%)に悩まされている。
【0005】
製法の少なくとも1つの工程がエネルギー的に有利な化学反応に関わる、高収率のマンノース生産を目的としたコスト的に有効な合成経路を開発する必要がある。さらには、製法の工程を1つのタンクまたはバイオリアクタ内で実行可能である生産製法の必要がある。リン酸が再利用可能であり、かつ/または製法がリン酸源としてアデノシン三リン酸(ATP)を用いる必要がない場合、比較的低濃度のリン酸で実行可能であるマンノース生産製法の必要もある。反応工程のいずれかにおいて、高価なニコチンアミドアデノシンジヌクレオチド(NAD(H))補酵素を使用する必要がないマンノース生産経路の必要もある。
【0006】
国際特許出願公開第2018/169957号は、マンノース6-リン酸ホスファターゼによって触媒され、マンノース6-リン酸(M6P)をマンノースに変換することを含む製法におけるD-マンノースの酵素的合成について記述している。ただし、酵素的マンノース生産において向上していても、例えば酵素の量を低下させた状態でより高収率をもたらすことが可能である、さらに向上したマンノース生産製法を提供するための要求および必要が未だ存在する。マンノース生産コストの減少といった点における産業的かつ商業的な強い関心が存在しているが、この減少は酵素量を減らしての使用およびより効果的な酵素の組合せの使用に関与している。
【発明の概要】
【0007】
一態様において、本発明は、糖類(例えば、多糖類、オリゴ糖類、二糖類、スクロース、D-グルコース、D-フルクトース)をD-マンノースに酵素的に変換可能である、向上したD-マンノース調製方法を提供する。糖からマンノースを生産するための本発明の向上した製法は、マンノース-6-リン酸ホスファターゼ(M6PP)によって触媒され、マンノース-6-リン酸(M6P)をマンノースに変換する工程を含む。このM6PPは、配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0008】
本発明のいくつかの製法において、マンノースは、フルクトース6-リン酸(F6P)を、マンノース6-リン酸(M6P)に変換する工程を有する製法において調製され、この場合、この工程はマンノース6-リン酸イソメラーゼ(M6PI)によって触媒される。いくつかの態様において、この製法はグルコース6-リン酸(G6P)をF6Pに変換することを含み、この場合、この工程はホスホグルコイソメラーゼ(PGI)によって触媒される。さらなる態様において、G6Pは、二機能性ホスホグルコース/ホスホマンノースイソメラーゼ(PGPMI)といった1つの酵素により、F6P、次いでM6Pに変換される。他の態様において、マンノース合成の製法は、グルコース1-リン酸(G1P)をG6Pに変換する工程も含み、この変換工程はホスホグルコムターゼ(PGM)によって触媒される。
【0009】
該製法のうちいずれかで使用される糖類は、デンプンまたはその誘導体、セルロースまたはその誘導体、およびスクロースからなる群から選択され得る。デンプンまたはその誘導体は、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトースまたはグルコースであり得る。本発明の向上したいくつかの製法において、マンノースを調製する製法は、デンプンの酵素的加水分解によって、またはデンプンの酸加水分解によって、デンプンをデンプン誘導体に変換することに関与する。他の製法において、デンプン誘導体は、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α-アミラーゼ、またはこれらの酵素のうち2つまたは複数の組合せによって触媒される、デンプンの酵素的加水分解によって調製される。本発明のいくつかの製法は、4-グルカントランスフェラーゼ(4GT)を加えることに追加で関与し得る。
【0010】
マンノースを調製するための本発明の他の製法は、少なくとも1種類の酵素によって触媒される、フルクトースをF6Pに変換する工程をさらに含む。本発明の他の製法は、少なくとも1種類の酵素によって触媒される、スクロースをフルクトースに変換する工程を含む。マンノースを調製する製法で使用されることになるG6Pはまた、少なくとも1種類の酵素によって触媒される、グルコースをG6Pに変換することにより生成され得る。続いてグルコースは、スクロースをグルコースに変換することにより生産され得、これは少なくとも1種類の酵素によって触媒される。
【0011】
本発明の製法は、約37℃~約85℃の範囲である温度で、約5.0~約9.0の範囲であるpHで、かつ/または約1時間~約48時間にわたって、または連続反応として実行される。いくつかの実施形態において、マンノースを調製する製法の工程は、1つのバイオリアクタで実行される。他の態様において、該工程は連続して配置された複数のバイオリアクタで実行される。
【0012】
本発明のいくつかの製法において、マンノースを調製する工程は、ATPなしで、NAD(H)なしで、約0.1mM~約150mMのリン酸濃度で実行され、リン酸は再利用され、かつ/またはM6Pをマンノースに変換する工程は、エネルギー的に有利な化学反応に関与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】デンプンまたはその誘導された生成物をマンノースに変換する酵素的経路を示す概略図である。以下の略語が使用される。すなわち、αGPはα-グルカンホスホリラーゼまたはデンプンホスホリラーゼ;PGMはホスホグルコムターゼ;PGIはホスホグルコイソメラーゼ;PGPMIは二機能性ホスホグルコース/ホスホマンノースイソメラーゼ;M6PIはマンノース6-リン酸イソメラーゼ;M6PPはマンノース6-リン酸ホスファターゼ;IAはイソアミラーゼ;PAはプルラナーゼ;MPはマルトースホスホリラーゼ;PPGKはポリリン酸グルコキナーゼ;およびP
iはリン酸である。本発明による製法においては、M6PPは配列番号1と少なくとも90%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0014】
【
図2】セルロースまたはその誘導された生成物をマンノースに変換する酵素的経路を示す。以下の略語が使用される。すなわち、CDPはセロデキストリンホスホリラーゼ;CBPはセロビオースホスホリラーゼ;PPGKはポリリン酸グルコキナーゼ;PGMはホスホグルコムターゼ;PGIはホスホグルコイソメラーゼ;PGPMIは二機能性ホスホグルコース/ホスホマンノースイソメラーゼ;M6PIはマンノース6-リン酸イソメラーゼ;M6PPはマンノース6-リン酸ホスファターゼ;およびP
iはリン酸である。本発明による製法においては、M6PPは配列番号1と少なくとも90%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0015】
【
図3】フルクトースをマンノースに変換する酵素的経路を示す概略図である。PPFKはポリリン酸フルクトキナーゼ;M6PIはマンノース6-リン酸イソメラーゼ、M6PPはマンノース6-リン酸ホスファターゼ;およびP
iはリン酸である。本発明による製法においては、M6PPは配列番号1と少なくとも90%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0016】
【
図4】グルコースをマンノースに変換する酵素的経路を示す概略図である。PPGKはポリリン酸グルコキナーゼ;PGIはホスホグルコイソメラーゼ;PGPMIは二機能性ホスホグルコース/ホスホマンノースイソメラーゼ;M6PIはマンノース6-リン酸イソメラーゼ;M6PPはマンノース6-リン酸ホスファターゼ;およびP
iはリン酸である。本発明による製法においては、M6PPは配列番号1と少なくとも90%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0017】
【
図5】スクロースまたはその誘導された生成物をマンノースに変換する酵素的経路を示す。SPはスクロースホスホリラーゼ;PPFKはポリリン酸フルクトキナーゼ;PGMはホスホグルコムターゼ;PGIはホスホグルコイソメラーゼ;PGPMIは二機能性ホスホグルコース/ホスホマンノースイソメラーゼ;M6PIはマンノース6-リン酸イソメラーゼ;M6PPはマンノース6-リン酸ホスファターゼ;およびP
iはリン酸である。本発明による製法においては、M6PPは配列番号1と少なくとも90%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0018】
【
図6】グルコース1-リン酸をマンノースに変換するためのギブズエネルギーの形成に基づく中間体間の反応ギブズエネルギーを示す。
【0019】
【
図7】例1に記載されるようにHPLCクロマトグラムにより計測されるG1Pのマンノースへの変換を示す。1=ボイドピーク、2=リン酸化された糖(G1P+G6P+F6P)、3=無機リン酸、4=マンノースである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、例えばデンプン、セルロース、スクロース、グルコースおよびフルクトースといった糖類ならびにそれらの誘導された生成物を、細胞を含まない酵素カクテルを使用してマンノースに変換する製法に一般には関する。細胞ベースの製造方法とは対照的に、本発明は細胞を含まないマンノースの調製に関与し、多くの場合には基質/生成物の細胞への輸送および細胞から外への輸送を減速させる細胞膜を除去することで比較的高い反応速度を有する。これは、栄養に富んだ発酵培地/細胞代謝産物を含まない最終生成物もまた有する。
【0021】
本発明は、マンノースを生産する製法にて以前に使用されるM6PPと比較して向上した活性を有するM6PPによって触媒され、M6Pをマンノースに変換する工程を含む、マンノースを作製する向上した製法に関する。例えば、テピディモナス・フォンティカルディ(Tepidimonas fonticaldi)(Uniprot ID A0A1A6DSI3)由来のM6PP、サーモモナス・ハイドロサーマリス(Thermomonas hydrothermalis)(Uniprot ID A0A1M4UN08)由来のM6PP、およびスルフリヴァルガ・カルジキュラリイ(Sulfurivirga caldicuralii)(Uniprot ID A0A1N6FCW3)由来のM6PPを開示している国際特許出願公開第2018/169957号を参照されたい。より高い活性を有する酵素を使用することで、より低量の酵素を使用し、それにより全体の製法のコストを低減することが可能となる。
【0022】
本発明の向上された製法において、M6PPは、以前に開示される、スルフリヴァルガ・カルジキュラリイ(Sulfurivirga caldicuralii)(Uniprot ID A0A1N6FCW3)由来のM6PPの活性と比較した場合、より高い活性を有する。好ましくは、本発明の製法で使用されるM6PPは、スルフリヴァルガ・カルジキュラリイ(Sulfurivirga caldicuralii)(Uniprot ID A0A1N6FCW3)由来のM6PPの活性に対し、少なくとも10%、少なくとも30%、少なくとも80%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも300%または少なくとも400%向上した酵素活性を有する。例えば、例1に示されるように、サーモビフィダ・セルロジリティカTB100(Thermobifida cellulosilytica TB100)(Uniprot ID A0A147KII8)由来のM6PPは、スルフリヴァルガ・カルジキュラリイ(Sulfurivirga caldicuralii)(Uniprot ID A0A1N6FCW3)由来のM6PPの活性に対し、約215%向上した酵素活性を有する。以下の例は、M6PPの活性を決定するための当業者へのプロトコルを提供する。これは基質と共に酵素をインキュベートすること、次にHPLCにより反応物質および生成物の量を測定することに関わる。比較的活性任意の2つの酵素の測定は、緩衝液、pH、温度など同一の反応条件の下で行われる。
【0023】
本発明の製法で使用されるM6PPは、M6Pにとって特異的である。M6PPにとって特異的とは、製法中他のリン酸化された単糖類よりも、M6Pにてより高い脱リン酸化活性を有することを意味する。例えばM6PPは、例えばG1P、G6PおよびF6PよりもM6Pにてより高い脱リン酸化活性を有する。
【0024】
本発明の製法で使用するためのM6PPの例としては、配列番号1に規定されるようなアミノ酸配列のサーモビフィダ・セルロジリティカTB100(Thermobifida cellulosilytica TB100)(Uniprot ID A0A147KII8)由来のM6PPが挙げられる。M6PPは配列番号1に対し、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%または100%のアミノ酸配列同一性を有する。アミノ酸配列の配列番号1は以下、MISDSDPQIPQAVLFDMDGTLIDTEPMWMDTEAEVAAAFGYTWTAEDQQRCLGGSAAAVADLIAERSGTRTPQSEIVAMLYAAVERRMAEGVPVRPGAKELLTELEAQGVPMALVTSTYRSLLTVALRAIGEHYFAVSVAGDEVTRNKPHPEPYLRAARLLGVDPRRCVAVEDSPTGVASAQAAGCTVVAVPHMASVPAAERRYVVGSLEEVDLAWLRRVSPAのとおりである。
【0025】
糖からのマンノース生産を向上させるための本発明による製法は、マンノース-6-リン酸ホスファターゼ(M6PP)を使用してM6Pをマンノースに変換する工程を含む。この場合、M6PPは配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましい製法において、M6PPは配列番号1に規定されるようなアミノ酸配列を有する。
【0026】
好ましくは、M6Pをマンノースに変換するためのM6PPは、触媒のためのロスマンフォールドドメイン、C1キャッピングドメイン、ロスマンフォールドの1番目のβストランドにおけるD×Dシグネチャ、ロスマンフォールドの2番目のβストランドの端部におけるThrまたはSer、ロスマンフォールドの3番目のβストランドに対しC末端のα-ヘリックスのN末端におけるLys、およびロスマンフォールドの4番目のβストランドの端部におけるGDXXXD(配列番号2)シグネチャを含有する。
【0027】
一実施形態において、本発明に従い糖からマンノースを調製する製法としては、マンノース6-リン酸イソメラーゼ、いわゆるM6PIによって触媒され、F6PをM6Pに酵素的に変換する工程も挙げられる。使用され得る例示的なM6PIとしては、シュードノカルジア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)(Uniprot ID A0A1M6TLY7)由来のM6PI、カルジトリクス・アビッシ(Caldithrix abyssi)(Uniprot ID H1XQS6)由来のM6PI、マイスリオフホラ・サーモフィア(Myceliophthora thermophila)(Uniprot ID G2Q982)由来のM6PI、およびトレポネマ・カルダリウム(Treponema caldarium)(Uniprot ID F8F1Z8)由来のM6PIが挙げられる。例えば国際特許出願公開第2018/169957号を参照されたい。
【0028】
本発明による糖からマンノースを調製するいくつかの製法には、グルコース6-リン酸(G6P)をF6Pに酵素的に変換する工程が追加的に挙げられ、この場合、該工程はホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)によって触媒される。使用され得る例示的なPGIには、国際特許出願公開第2017/059278号に開示されたものである、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)(Uniprot ID A3DBX9)由来のPGIおよびサームス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)(Uniprot ID Q5SLL6)由来のPGIといったものが挙げられる。
【0029】
他の実施形態において、マンノースを調製する製法には、グルコース1-リン酸(G1P)をG6Pに変換する工程が追加的に挙げられ、この場合、該工程は例えば、国際特許出願公開第2017/059278号に開示されている、サーモコクス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis)(Uniprot ID Q68BJ6)由来のPGMであるホスホグルコムターゼ(PGM)によって触媒される。
【0030】
さらなる実施形態において、マンノースを調製する製法は、G6PのF6P、さらにM6Pへの変換を含み、この場合、本工程は二機能性ホスホグルコース/ホスホマンノースイソメラーゼ(PGPMI)によって触媒される。PGPMIの例としては、シントロサームス・リポカリダス(Syntrophothermus lipocalidus)(Uniprot ID D7CPH7)由来のPGPMI、シュレイフェリア・サーモフィリア(Schleiferia thermophila)(Uniprot ID A0A085L170)由来のPGPMI、およびサーモデスルホビウム・ナルゲンセ(Thermodesulfobium narugense)(Uniprot ID M1E6Z3)由来のPGPMIが挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
加えて、本発明による製法は、糖をG1Pに変換する工程をさらに含み得る。この場合、該工程は少なくとも1種類の酵素によって触媒され、糖はデンプンまたはその誘導体(
図1)、セルロースまたはその誘導体(
図2)、フルクトース(
図3)、グルコース(
図4)およびスクロース(
図5)からなる群から選択される。本発明による製法において糖をG1Pに変換する工程で使用される1つまたは複数の酵素は、α-グルカンホスホリラーゼ(αGP)、マルトースホスホリラーゼ、スクロースホスホリラーゼ、セロデキストリンホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼおよび/またはセルロースホスホリラーゼならびにそれらの混合物であり得る。酵素または酵素の組合せの選択は、該製法にて使用される糖によって変化する。
【0032】
セルロースは最も豊富な生物学的な供給源であり、植物細胞壁の主要な構成成分である。非食品であるリグノセルロース系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンならびに他の少数の構成成分を含有する。アビセル(微結晶セルロース)、再生非晶質セルロース、細菌性セルロース、ろ紙などを含む純セルロースは、一連の処理により調製され得る。部分的に加水分解されたセルロース基質は、重合度が7を超える水不溶性セロデキストリン、重合度3~6である水溶性セロデキストリン、セロビオース、グルコースおよびフルクトースを含む。
【0033】
本発明による特定の製法において、セルロースおよびその誘導された生成物は、一連の工程によりマンノースに変換され得る。
図2を参照されたい。該製法は、それぞれ、セロデキストリンおよびセロビオースならびにセロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)およびセロビオースホスホリラーゼ(CBP)によって触媒される遊離リン酸からG1Pを生成する工程、PGMによって触媒され、G1PをG6Pに変換する工程、PGIによって触媒され、G6PをF6Pに変換する工程、M6PIによって触媒され、F6PをM6Pに変換する工程、ならびにM6PPによって触媒され、M6Pをマンノースに変換する工程に関わるインビトロでの合成経路を提供する。代替的には、前述の経路において、G6PのF6P、さらにM6Pへの変換は、PGPMIによって触媒され得る。この製法において、リン酸イオンは、セロデキストリンおよびセロビオースをG1Pに変換する工程によって再利用され得る。いくつかの実施形態において、ポリリン酸およびポリリン酸グルコキナーゼ(PPGK)は該製法に加えられ、これにより、分解生成物であるグルコースをG6Pにリン酸化することによってマンノースの収率を増加させる。
【0034】
複数の酵素を使用し、固体セルロースを水溶性セロデキストリンおよびセロビオースに加水分解させることができる。こうした酵素はエンドグルカナーゼおよびセロビオハイドロラーゼを含むが、β-グルコシダーゼ(セロビアーゼ)は含まない。セルロースの加水分解およびG1P生成の前に、セルロースおよびバイオマスが前処理されてそれらの反応性を増加させ、セルロース鎖の重合度を減少させる。セルロースおよびバイオマスの前処理方法としては、希酸前処理、セルロース溶媒ベースのリグノセルロース分画、アンモニア繊維膨張、アンモニア水性浸漬、イオン性液体処理、および塩酸、硫酸、リン酸およびそれらの組合せを含む濃酸を使用することによる部分的な加水分解が挙げられる。
【0035】
糖類がセロビオースを含み、酵素がセロビオースホスホリラーゼを含有する時には、G1Pはセロビオースホスホリラーゼによってセロビオースから生成される。糖類がセロデキストリンを含有し、酵素がセロデキストリンホスホリラーゼを含む時には、G1Pはセロデキストリンホスホリラーゼによってセロデキストリンから生成される。糖類がセルロースを含み、酵素がセルロースホスホリラーゼを含有する時には、G1Pはセルロースホスホリラーゼによってセルロースから生成される。
【0036】
糖類がマルトースを含み、酵素がマルトースホスホリラーゼを含有する時には、G1Pはマルトースホスホリラーゼによってマルトースから生成される。糖類がスクロースを含み、酵素がスクロースホスホリラーゼを含有する時には、G1Pはスクロースホスホリラーゼによってスクロースから生成される。
【0037】
糖がデンプンまたはデンプン誘導体である時には、誘導体はアミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトースおよびグルコース、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され得る。本発明の特定の製法において、糖をG1Pに変換するために使用される酵素はαGPを含有する。この工程において、糖類がデンプンを含む時には、G1PはαGPによってデンプンから生成され、糖類が可溶性デンプン、アミロデキストリンまたはマルトデキストリンを含有する時には、G1PはαGPによって可溶性デンプン、アミロデキストリンまたはマルトデキストリンから生産される。αGPの一例は、国際特許出願公開第2017/059278号に開示される、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)(Uniprot ID G4FEH8)由来のαGPである。
【0038】
本発明によるいくつかの製法は、デンプンをデンプン誘導体に変換する工程をさらに含み得る。この場合、このデンプン誘導体はデンプンの酵素的加水分解またはデンプンの酸加水分解によって調製される。本発明の特定の製法において、マルトースホスホリラーゼ(MP)は、分解生成物であるマルトースをG1Pおよびグルコースに加リン酸分解的に切断することによってマンノースの収率を増加させるために使用され得る。代替的には、4-グルカントランスフェラーゼ(4GT)は、分解生成物であるグルコース、マルトースおよびマルトトリオースを再利用し、より長いマルトオリゴ糖類とすることによってマンノースの収率を増加させるために使用され得る。このマルトオリゴ糖類は、αGPによって加リン酸分解的に切断され、G1Pを得ることができる。4GTの一例は、国際特許出願公開第2017/059278号に開示される、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)(Uniprot ID O32462)由来の4GTである。本発明のいくつかの製法において、ポリリン酸およびポリリン酸グルコキナーゼ(PPGK)はこの製法に追加され、これにより、分解生成物であるグルコースをG6Pにリン酸化することによってマンノースの収率を増加させる。
【0039】
デンプンは、天然にて最も広範に使用されるエネルギー貯蔵化合物であり、植物の種に大半が貯蔵される。天然のデンプンは、直鎖状アミロースおよび分枝状アミロペクチンを含有する。デンプン誘導体の例としては、アミロース、アミロペクチン、可溶性デンプン、アミロデキストリン、マルトデキストリン、マルトース、フルクトースおよびグルコースが挙げられる。セルロース誘導体の例としては、前処理されたバイオマス、再生非晶質セルロース、セロデキストリン、セロビオース、フルクトースおよびグルコースが挙げられる。スクロース誘導体はフルクトースおよびグルコースを含む。
【0040】
該製法がデンプン誘導体を使用する場合、デンプン誘導体は、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、α-アミラーゼまたはそれらの組合せによって触媒されるデンプンの酵素的加水分解によって調製され得る。トウモロコシデンプンは、αGP反応を妨害する多くの分枝を含有する。イソアミラーゼはデンプンを脱分枝するために使用され、直鎖状アミロデキストリンを得ることができる。イソアミラーゼで前処理されたデンプンは、より高いF6P濃度をもたらし得る。イソアミラーゼおよびプルラナーゼはα-1,6-グリコシド結合を切断し、これによりα-グルカンホスホリラーゼによってデンプンをより完全に分解することができる。α-アミラーゼはα-1,4-グリコシド結合を切断し、この結果、α-アミラーゼを使用し、より迅速なマンノースへの変換のためにデンプンを断片に分解する。
【0041】
マンノースをフルクトースから生産することもできる。
図3を参照されたい。本発明による製法は、フルクトースをF6Pに変換する工程であり、少なくとも1種類の酵素によって触媒される工程と、任意選択で、スクロースをフルクトースに変換する工程であって少なくとも1種類の酵素によって触媒される工程もまた含み得る。例えば、該製法は、フルクトースおよびポリリン酸フルクトキナーゼ(PPFK)によって触媒されるポリリン酸からF6Pを生成することに関わる。F6Pのマンノースへの変換は上に記載される。フルクトースは例えば、スクロースの酵素的変換によって生産され得る。M6Pがマンノースに変換される時に生成されたリン酸イオンは、次にスクロースをG1Pに変換する工程において再利用され得る。
【0042】
マンノースをグルコースから生産することもできる。
図4を参照されたい。該製法は、グルコースおよびポリリン酸グルコキナーゼ(PPGK)によって触媒されるポリリン酸からG6Pを生成する工程、PGIによって触媒され、G6PをF6Pに変換する工程、M6PIによって触媒され、F6PをM6Pに変換する工程、およびM6PPによって触媒され、M6Pをマンノースに変換する工程に関する。代替的には、G6PのF6P、さらにM6Pへの変換は、PGPMIによって触媒され得る。グルコースは例えば、スクロースの酵素的変換によって生産され得る。
図5を参照されたい。
【0043】
M6Pがマンノースに変換される時に生成されるリン酸イオンは、特に単一の反応容器にて該製法を実行する場合には、スクロースをG1Pに変換する工程にて次に再利用され得る。
図5を参照されたい。加えて、PPFKおよびポリリン酸は、SPによってスクロースを加リン酸分解切断することにより生成されるフルクトースからF6Pを生産することでマンノースの収率を増加させるために使用され得る。
【0044】
糖からマンノースを調製する製法は、例えば(i)1種類または複数の酵素を使用して、糖をグルコース1-リン酸(G1P)に変換する工程、(ii)ホスホグルコムターゼ(PGM、EC5.4.2.2)を使用してG1PをG6Pに変換する工程、(iii)ホスホグルコイソメラーゼ(PGI、EC5.3.1.9)を使用してG6PをF6Pに変換する工程、(iv)マンノース6-リン酸イソメラーゼ(M6PI、EC5.3.1.8))によりF6PをM6Pに変換する工程、(v)二機能性ホスホグルコース/ホスホマンノースイソメラーゼ(PGPMI、EC5.3.1.8および5.3.1.9)によりG6PをM6Pに変換する工程、(vi)M6PPによりM6Pをマンノースに変換する工程を含む。糖がデンプンである場合の製法の一例を
図1に示す。こうした製法において、例えば工程(i)における酵素はαGPであってよい。
【0045】
通常、該製法で使用される酵素単位の比率は、1:1:1:1:1(αGP:PGM:PGI:M6PI:M6PP)である。酵素単位は、1分間で1uモルの基質を生成物に変換するのに必要とされる酵素の量である。したがって、より高い活性を有する酵素は、同じ反応を触媒するより低い活性を有する酵素と比較した場合、1酵素単位あたりmgの酵素という点では、より低量の酵素を有する。生成物の収率を最適化させるため、こうした比率は任意の数の組合せで調整され得る。例えば特定の酵素は、他の酵素の量に対して約2倍、3倍、4倍、5倍などの量で存在してよい。
【0046】
本発明によるマンノースを調製する製法は、酵素的加水分解または酸加水分解によって多糖類およびオリゴ糖類からグルコースを生成する工程、少なくとも1種類の酵素によって触媒される、グルコースをG6Pに変換する工程、酵素的加水分解または酸加水分解によって多糖類およびオリゴ糖類からフルクトースを生成する工程、および少なくとも1種類の酵素によって触媒される、フルクトースをG6Pに変換する工程を含む。多糖類およびオリゴ糖類の例は上にて列挙されている。
【0047】
本発明によるマンノースを調製する製法は、単一のバイオリアクタまたは反応容器にて実行され得る。代替的には、該工程は複数のバイオリアクタまたは反応容器にて実行され得るが、これらは連続して配置される。好ましい製法において、マンノースを酵素的に生産することは、単一の反応容器にて実行される。
【0048】
本発明に使用される酵素は、可溶であり、固定化され、会合するかまたは凝集したタンパク質の形態をとってよい。こうした酵素は、当該技術分野にて公知であるように、機能性を向上させるために一般に使用される不溶性の有機担体または無機担体上で吸着されることがある。これらは、アガロース、メタクリラート、ポリスチレンまたはデキストランなどのポリマー担体ならびにガラス、金属または炭素ベースの材料などの無機担体を含む。これらの材料は多くの場合、表面と体積との大きな比率を有し、ならびに固定化された酵素の付着および活性を促進させる特殊化された表面を有して生産される。酵素は、共有結合性相互作用、イオン性相互作用または疎水性相互作用により前述の固体担体に付着されてよい。酵素はまた、別のタンパク質または大半の場合にはポリヒスチジン配列といった固体担体への付着性を有するペプチド配列への共有結合などの遺伝子改変された相互作用により、付着され得る。酵素は、表面または表面コーティングへのいずれかに直接付着され得るか、または表面または表面コーティングに既に存在する他のタンパク質に付着され得る。酵素は、1つの担体もしくは個別の担体、または2つの担体の組合せ(例えば、担体あたり2種類の酵素をそれらの担体と続いて混合する)上に全て固定化され得る。これらのバリエーションは均等に、または限定された層にて混合され、連続リアクタ内での回転率を最適化することが可能である。例えば、最初のリアクタはαGPの層を有し、初期G1P濃度を確実に高いものとすることができる。酵素は1種類の担体上に、個別の担体上に、またはまとめて全て固定化されてよい。これらの酵素は均等に、または限定された層もしくはゾーンにて混合され、回転率を最適化することができる。
【0049】
当該技術分野にて公知である任意の好適な生物学的緩衝液は、本発明の製法にて使用されることができる。これは例えば、HEPES、PBS、BIS-TRIS、MOPS、DIPCO、トリズマなどである。全ての実施形態の反応緩衝液は、5.0~9.0の範囲のpHを有し得る。より好ましくは、反応緩衝液のpHは約6.0~約7.3の範囲であり得る。例えば、反応緩衝液のpHは6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2または7.3であり得る。
【0050】
反応緩衝液はまた、二価の金属カチオンも含有し得る。金属イオンの例としては、Mg2+およびZn2+が挙げられる。二価の金属イオンの濃度は、約0mM~約150mM、約0mM~約100mM、約1mM~約50mM、好ましくは約5mM~約50mM、またはより好ましくは約10mM~約50mMの範囲であり得る。例えば、反応金属カチオン濃度は、約0.1mM、約0.5mM、約1mM、約1.5mM、約2mM、約2.5mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、または約55mMであり得る。
【0051】
製法の工程が実行される反応温度は、37~85℃の範囲であり得る。より好ましくは、工程は約37℃~約85℃の範囲である温度にて実行され得る。温度は例えば、約40℃、約45℃、約50℃、約55℃、または約60℃であり得る。好ましくは、反応温度は約50℃である。本発明のいくつかの製法において、反応温度は一定であり、製法中変更されることはない。
【0052】
開示された製法の反応時間は、必要に応じて調整され、約1時間~約48時間の範囲であり得る。例えば、反応時間は約16時間、約18時間、約20時間、約22時間、約24時間、約26時間、約28時間、約30時間、約32時間、約34時間、約36時間、約38時間、約40時間、約42時間、約44時間、約46時間、または約48時間であり得る。より好ましくは、反応時間は約24時間である。
【0053】
反応は、充填床リアクタまたは同様の装置を使用し、バッチにて、または連続製法にて実施され得る。連続製法では、溶液であるマルトデキストリンは例えば、下流での加工のために溶液がカラムに残っている場合には、マンノースへの変換が完了する速度で固定化された酵素の床を通ってくみ出される。例えば、200g/Lのマルトデキストリンは、マルトデキストリンがカラムに残っている場合には最大のマンノース収率が得られるように、固定化された酵素で充填されたカラム(例えば、50℃に維持)を通ってくみ出される。この方法論により、バッチ法よりも大きい容量での生産性が提供される。これにより、マンノース生成物がカラムと接触している時間および生成物の分解する機会を減少させる反応条件(例えば、潜在的なヒドロキシメチルフルフラール形成)を制限する。
【0054】
M6PのM6PPによる脱リン酸化によって生産されたリン酸イオン(Pi)は、全製法の工程が単一のバイオリアクタまたは反応容器にて実行される場合には特に、糖をG1Pに変換する製法の工程にて次いで再利用され得る。開示された製法にてリン酸を再利用する能力により、非化学量論的なリン酸の量を使用することが可能となり、これにより反応リン酸濃度は低く保たれる。これは該製法の全体的な経路および全体的な速度に影響するが個別の酵素の活性を制限するものではなく、これによりマンノース作製製法を全体的に効率的なものとする。
【0055】
例えば反応リン酸濃度は、約0mM~約300mM、約0mM~約150mM、約1mM~約50mM、好ましくは約5mM~約50mM、またはより好ましくは約10mM~約50mMの範囲であり得る。例えば、反応リン酸濃度は約0.1mM、約0.5mM、約1mM、約1.5mM、約2mM、約2.5mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、または約55mMであり得る。
【0056】
したがって、低いリン酸濃度により、総リン酸が低下し、それによりリン酸除去のコストが低下することに起因して生産コストの減少がもたらされる。これはまた、高濃度の遊離リン酸によるM6PPの阻害を防止し、リン酸汚染の可能性を減少させる。
【0057】
さらには、本明細書において開示される製法は、リン酸源としてATP添加なしで、すなわちATPを含まないで実行され得る。該製法はまた、NAD(H)を添加される必要なく、すなわちNAD(H)を含まないで実行され得る。他の利点はまた、マンノースを作製するための開示された製法のうち少なくとも1つの工程が、エネルギー的に有利な化学反応に関するという事実を含む。
図6。より高い活性を有する酵素の使用が全体的なエネルギー性には影響しないが、向上した製法においてより少ない酵素を使用する能力は有利である。利点は、生成物の総生産コストにおいて、酵素の全体的なコストを減少させる点である。
【0058】
本発明による製法は、全体的な反応にとって非常に有利な平衡定数に起因する高い収率を得ることができる。
図6。理論的には、出発物質が完全に中間体に変換される場合には、最大99%の収率を得ることができる。また、本発明によるM6Pをマンノースに変換する工程は、原料に関わらず不可逆的なホスファターゼ反応である。したがって、マンノースは非常に高い収率で生産される。
【0059】
本発明の製法は低コストの出発物質を使用し、原料および生成物の分離に関連するコストを減少させることで生産コストを減少させる。デンプン、セルロース、スクロースおよびそれらの誘導体は、例えばラクトースよりも安価な原料である。マンノースがラクトースから生産される時には、グルコースおよびガラクトースおよびマンノースはクロマトグラフィーによって分離され、これが生産コストをより高いものとする。
【0060】
本発明による製法により、マンノースを容易に回収することが可能となり、分離コストは最小となる。好ましくは、本発明の製法において、マンノースの回収はクロマトグラフィー分離によるものではない。連続反応でのマンノースの生産に続き、生成物は代わりに精密濾過、イオン交換(カチオン、次いでアニオン、混合床ではない)、濃縮、結晶化、結晶単離および乾燥に通される。マンノースの収率の高さから、結晶化工程はマンノースを精製するのに必要とされる全てである。結晶化の前にマンノースをさらに精製するためにナノろ過を使用し、結晶化製法において酵素が存在しているというリスクを排除し、マンノースと共結晶化することがあるか、または母液の再利用を限定することがある、任意の未変換デキストリン(マルトデキストリン、マルトテトラオース、マルトトリオース、マルトースなど)を除去することができる。
【0061】
以下の例に示されるように、本発明によるマンノースを調製する製法は、(i)1種類または複数の酵素を使用して糖をG1Pに変換する工程、(ii)PGMを使用してG1PをG6Pに変換する工程、(iii)PGIを使用してG6PをF6Pに変換する工程、(iv)M6PIを使用してF6PをM6Pに変換する工程、および(v)M6PPを使用してM6Pをマンノースに変換する工程であって、この場合、M6PPは配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む工程を含む。この製法は好ましくは、単一のバイオリアクタまたは反応容器にて実行される。
【0062】
本発明のマンノースを生産するいくつかの製法において、(i)M6PIを使用してF6PをM6Pに変換する工程、および(ii)M6PPを使用してM6Pをマンノースに変換する工程であって、M6PPは配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む工程は、単一のバイオリアクタまたは反応容器にて実行される。好ましくは、本発明によるマンノースを調製する向上した製法は、(i)1種類または複数の酵素を使用して糖をG1Pに変換する工程、(ii)PGMを使用してG1PをG6Pに変換する工程、(iii)PGIを使用してG6PをF6Pに変換する工程、(iv)M6PIを使用してF6PをM6Pに変換する工程、および(v)M6PPを使用してM6Pをマンノースに変換する工程であって、M6PPは配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、製法の工程(i)~(v)が単一のバイオリアクタまたは反応容器にて実行される工程を含む。該製法は、上に記載された1つまたは複数の種々の製法条件を組み入れてよい。
【実施例】
【0063】
材料および方法
【0064】
グルコース1-リン酸、塩化マグネシウム、リン酸ナトリウム(一塩基性および二塩基性)を含む全ての化学物質は、試薬グレード以上の高いグレードであり、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO,USA)またはFisher Scientific(Pittsburgh,PA,USA)から購入され、特に記載がない限り、大腸菌(E.Coli)であるBL21(DE3)(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)を組換えタンパク質の発現用の宿主細胞として使用した。50mgのL-1カナマイシンを含むZYM-5052培地を、大腸菌(E.Coli)細胞の成長および組換えタンパク質の発現のために使用した。
【0065】
組換え酵素の生産および精製
【0066】
タンパク質発現プラスミド(pET28a)を内部に持つ大腸菌(E.Coli)であるBL21(DE3)株を、50mgのL-1カナマイシンを含有する100mLのZYM-5052培地を有する1Lのエルレンマイヤーフラスコにてインキュベートした。細胞を、37℃で16~24時間、220rpmで回転振盪させながら成長させた。細胞を12℃にて遠心分離法により回収し、50mMのNaClおよび5mMのMgCl2(熱沈殿)を含有する20mMのHEPES(pH7.5)または300mMのNaClおよび5mMのイミダゾール(Ni精製)を含有する20mMのHEPES(pH7.5)のいずれかを用いて1度洗浄した。細胞ペレットを同じ緩衝液に再懸濁させ、超音波処理により溶解させた。遠心分離後、上清中の標的タンパク質を精製した。Hisタグがついたタンパク質を、Profinity IMAC Ni充填樹脂(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)により精製した。50~80℃で5~30分間の熱沈殿を使用し、熱安定性のある酵素を精製した。組換えタンパク質の純度を、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により調べた。
【0067】
例1:国際公開第2018/169957(A1)号のM6PPの相対的活性
【0068】
PGI(Uniprot ID Q5SLL6)、PMI(Uniprot ID F8F1Z8)およびM6PP(Uniprot ID A0A1A6DSI3、A0A1M4UN08およびA0A1N6FCW3)といった酵素を使用するG6Pのマンノースへの変換を、相対的なM6PP比率を決定するために比較した。38.5mMのG6P、50mMのHEPES(pH7.2)、5mMのMgCl2、0.05g/LのPGI、0.06g/LのPMIおよび0.3g/LのM6PPを含有する0.20mLの反応混合物を、50℃で3時間インキュベートした。M6PPは、このカスケード反応における律速酵素である。
【0069】
この反応を、Vivaspin2濃縮器(10,000MWCO)で酵素をろ過することで停止させ、Agilent Hi-Plex H-カラムを使用するHPLC(Agilent1100シリーズ)および屈折率検知器により分析した。0.6mL/分で15.5分間、65℃にて5mMのH
2SO
4中でサンプルを流した。結果は、Uniprot ID A0A1N6FCW3が国際公開第2018/169957(A1)号からの最も有効なM6PPであることを示す(表1)。
【表1】
【0070】
例2:より高い活性を有するM6PP
【0071】
PGM(Uniprot ID A0A150LLZ1)、PGI(Uniprot ID Q5SLL6)、PMI(Uniprot ID H1XQS6)およびM6PP(Uniprot ID A0A1N6FCW3)といった酵素を使用するG1Pのマンノースへの変換を、本発明の向上した製法にて有用な酵素であるM6PP(Uniprot ID A0A147KII8)を用いるG1Pのマンノースへの変換と比較した。38.5mMのG1P、50mMのHEPES(pH7.2)、5mMのMgCl2、0.05g/LのPGM、0.05g/LのPGI、0.05g/LのPMIおよび0.05g/LのM6PPを含有する0.20mLの反応混合物を、50℃で0.5時間インキュベートした。M6PPは、このカスケード反応における律速酵素である。
【0072】
この反応を、Vivaspin2濃縮器(10,000MWCO)で酵素をろ過することで停止させ、Agilent Hi-Plex H-カラムを使用するHPLC(Agilent1100シリーズ)および屈折率検知器により分析した。0.6mL/分で15.5分間、65℃にて5mMのH
2SO
4中でサンプルを流した。結果は、以前に開示される酵素よりも向上した製法の酵素を用いたマンノース生産において、3.2倍向上していることを示している(
図7および表2)。表3は、以前に開示されるM6PPとM6PP(Uniprot ID A0A147KII8)とを比較している正規化された相対的活性を示す。
【表2】
【表3】
【配列表】
【国際調査報告】