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特表2022-520813アルカリ性紡糸浴からのセルロース繊維の湿式紡糸のためのプロセス及び紡糸ラインユニット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(54)【発明の名称】アルカリ性紡糸浴からのセルロース繊維の湿式紡糸のためのプロセス及び紡糸ラインユニット
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/06 20060101AFI20220325BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20220325BHJP
   D02G 1/12 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
D01F2/06 Z
D01D5/06
D02G1/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547352
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(85)【翻訳文提出日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 SE2020050198
(87)【国際公開番号】W WO2020171767
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】1950223-6
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518359650
【氏名又は名称】トリートテクスタイル・エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハグストレーム、ベンクト
(72)【発明者】
【氏名】ケーンケ、トビアス
(72)【発明者】
【氏名】エングストレーム、ジョナス
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB07
4L035BB15
4L035BB66
4L035BB69
4L035BB89
4L035BB91
4L035DD19
4L035FF08
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA01
4L036PA03
4L036PA36
4L036RA04
4L036UA06
4L045AA02
4L045BA03
4L045DA32
4L045DA34
4L045DA41
(57)【要約】
繊維トウを形成するプロセスであって、セルロースパルプをアルカリ性水性溶媒に溶解して、セルロース紡糸原液組成物を生成する工程、7.0を超えるpH、好ましくは少なくとも10のpHを有する凝固浴中で前記セルロース紡糸原液組成物を紡糸して、繊維トウを生成する工程、及び向流洗浄手順によって、洗浄液で前記繊維トウを洗浄する、一連の連続した延伸工程及び洗浄工程に前記生成した繊維トウを通す工程、を含む湿式紡糸手順を含む、前記プロセス。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維トウを形成するプロセスであって、
セルロースパルプをアルカリ性水性溶媒に溶解して、セルロース紡糸原液組成物を生成する工程、
7.0を超えるpH、好ましくは少なくとも10のpHを有する凝固浴中で前記セルロース紡糸原液組成物を紡糸して、繊維トウを生成する工程、及び
好ましくは向流洗浄手順によって、アルカリ度が徐々に低下する洗浄液で前記繊維トウを洗浄する、一連の連続した延伸工程及び洗浄工程に前記生成した繊維トウを通す工程、
を含む湿式紡糸手順を含む、当該プロセス。
【請求項2】
前記セルロースパルプを溶解する工程は、0℃以下の温度の冷アルカリ性水性溶媒中で行う、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記プロセスは、前記生成した繊維トウを、少なくとも5つの連続する洗浄工程、好ましくは少なくとも7つの連続する工程、より好ましくは少なくとも10の連続する工程に通すことを含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
少なくとも1つの洗浄工程は、噴霧によって行われ、好ましくは、前記噴霧を伴う洗浄工程の少なくとも一部、又は好ましくは噴霧を伴う各洗浄工程において、前記噴霧洗浄液の流量は、前記凝固浴に供給されるセルロース紡糸原液組成物1kgあたり少なくとも5kgの洗浄液であり、より好ましくはセルロース紡糸原液組成物1kgあたり少なくとも8kgの洗浄液である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記生成した繊維トウ中の、NaOHの重量ppmとして計算された前記アルカリ含有量は、前記洗浄手順中に、乾燥繊維トウに基づいて計算して50重量ppmNaOH未満に徐々に低下する、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記凝固浴は、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウムとを含み、好ましくは前記凝固浴が3~10重量%の水酸化ナトリウムを含み、好ましくは前記凝固浴が10~28重量%の炭酸ナトリウム及び硫酸ナトリウムの少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記冷アルカリ性水性溶媒は、前記セルロース紡糸原液組成物の総重量に基づいて計算して、0.4~1.2重量%の(Znとしての)亜鉛を含む、請求項2~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記セルロース紡糸原液組成物は、セルロース、セルロースカルバメート、又はセルロースの他の誘導体を、前記セルロース紡糸原液組成物の総重量に基づいて計算して、4~12重量%、好ましくは5~10重量%の範囲で含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記セルロース紡糸原液は、前記凝固浴中及び前記連続する洗浄工程において、少なくとも部分的に加水分解される尿素又はセルロースカルバメートを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記セルロースカルバメート又は尿素の加水分解から生成したいずれものアンモニアを、収集し、前記紡糸工程から排出する、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
前記繊維トウの延伸は、前記繊維トウが前記凝固浴から前記連続する洗浄工程を通って移動する速度を調節することによって、実行及び制御する、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
洗浄工程1時点での前記繊維トウの速度は、少なくとも前記繊維トウの前記水酸化物濃度が0.3重量%未満となる洗浄工程を含むまで、1又は複数の後続する洗浄工程中において実質的に一定に維持するか、又は徐々に増加させる、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記延伸は、30~80%の範囲内の全延伸をもたらす程度に制御され、好ましくは前記生成した繊維の引張強度が少なくとも15cN/texになる程度に制御される、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記繊維トウの延伸は、前記凝固浴と前記第1の洗浄工程との間で行い、かつ前記繊維トウは、その後の当該プロセスの少なくとも一部の間延伸状態に保つ、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記繊維トウの延伸は、前記凝固浴と前記第1の洗浄工程との間で行われ、かつ延伸は、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つの連続する洗浄工程の間継続され、好ましくは前記延伸が継続される前記少なくとも2つの連続する洗浄工程は、前記凝固浴の直後に配置される4つの洗浄工程中にあり、好ましくは、前記少なくとも2つの洗浄工程で行われる前記全延伸の一部は、前記全延伸の少なくとも25%であり、より好ましくは少なくとも40%である、請求項1~14のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項16】
延伸状態は、前記繊維トウの実質的な弛みを回避することを意味し、前記洗浄手順の少なくとも50%の間維持され、好ましくは、前記繊維トウは少なくとも2つの位置で伸長のための延伸を受け、その第1の位置は前記凝固浴と前記第1の洗浄工程との間にあり、第2の位置は少なくとも1つの連続する洗浄工程中にあり、更により好ましくは、前記伸長のための延伸の第2の位置は、前記第1の洗浄工程内、又は前記第1と第2の洗浄工程の間にある、
請求項1~15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記繊維トウの伸長のための延伸は、前記凝固浴と前記第1の洗浄工程との間である程度の伸長で行われ、好ましくは伸長のための延伸は少なくとも3つの連続する洗浄工程中継続され、更により好ましくは、前記伸長のための延伸は、その少なくとも3つの連続する洗浄工程の間及び/又は中で、前記凝固浴と前記第1の洗浄工程との間で行われる前記延伸の0.7~1.2倍の範囲内である全伸長度で継続され、好ましくは、各工程で追加される延伸度は、前記凝固浴と前記第1の洗浄工程との間の工程で追加される延伸度よりも低く、より好ましくは、前記追加される延伸度は、各連続する工程で減少させる、請求項1~16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記凝固浴と前記第1の洗浄工程との間の延伸工程の伸長を、前記向流洗浄手順の洗浄工程の間及び/又は中での他の個々の延伸工程の伸長と比較すると、前記生成した繊維トウの伸長のための全延伸の大部分は、前記凝固浴と前記向流洗浄手順の前記第1の洗浄工程との間の延伸工程で行い、好ましくは前記全伸長の少なくとも40%は、前記凝固浴と前記向流洗浄手順の前記第1の洗浄工程との間で行う、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記生成した繊維トウの伸長のための全延伸の大部分は、前記第1と第2の洗浄工程との間の延伸工程、及び/又は前記第1或いは第2の洗浄工程内で行われる、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記アルカリ性水性溶媒は亜鉛を含み、前記アルカリ度は、前記洗浄手順中に前記繊維トウ内で徐々に減少し、かつ前記亜鉛は、前記洗浄手順中に前記繊維トウから前記洗浄液中へ拡散する、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記亜鉛は、前記繊維トウから拡散して、少なくとも1つの洗浄工程において前記洗浄液中に沈殿し、前記洗浄液は、懸濁させて前記沈殿した亜鉛を前記洗浄液中に分散したままとし、かつ前記沈殿した亜鉛は、前記繊維トウの輸送方向に対してみて、少なくとも1つの上流の洗浄工程に前記洗浄液と共に沈降せずに分散して輸送される、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記向流洗浄液に続く前記沈殿した亜鉛は、少なくとも1つの上流の洗浄工程においてアルカリ度の増加する前記洗浄液で溶解し、前記セルロースパルプをアルカリ性水性溶媒中に溶解してセルロース紡糸原液組成物を生成する工程で、少なくとも部分的にリサイクル及び再使用される、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記洗浄した繊維トウは、非拘束方式で鋭い曲がりが実質的になく繊維トウが乾燥され、繊維方向において実質的に張力をかけず自由収縮を可能にする乾燥操作に供して、洗浄及び乾燥した繊維トウを製造する、請求項1~22のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記プロセスは、前記繊維トウの捲縮も含み、好ましくは前記捲縮を前記繊維トウの乾燥に続いて行う、請求項1~23のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
機械的捲縮は、前記繊維トウの前記乾燥に続いて行われる、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記プロセスは、前記乾燥及び捲縮した繊維トウをステープル繊維に切断することを含む、請求項24又は25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記繊維トウは、前記洗浄手順中の最後の洗浄工程に続く酸処理工程において酸で処理される、請求項1~26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
1種又は複数種の界面活性剤は、前記繊維トウ内の単一フィラメント間の凝集力を低下させるために当該プロセス中に供給し、好ましくは、前記1種又は複数種の界面活性剤は、前記洗浄手順に続いて、好ましくは可能な酸処理工程に続いて、好ましくは前記乾燥手順の前に、前記繊維トウに供給する、請求項1~27のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項29】
繊維トウを形成する紡糸ラインユニットであって、
-セルロースパルプをアルカリ性水性溶媒、好ましくは0℃以下の温度の冷アルカリ性水性溶媒に溶解して、セルロース紡糸原液組成物を生成するために配置された溶解機ユニット、
-7.0を超えるpH、好ましくは少なくとも10のpHを有するアルカリ性水性凝固浴中で、前記セルロース紡糸原液組成物を紡糸して、繊維トウを生成するために配置された紡糸ユニット、及び
-好ましくは向流洗浄ラインであり、連続的に低下するアルカリ度において前記生成した繊維トウを洗浄するために順番に配置されるいくつかの洗浄ユニットを備えた洗浄ライン、
を備える、該紡糸ラインユニット。
【請求項30】
前記洗浄ラインは、少なくとも5つの洗浄ユニット、好ましくは少なくとも7つの洗浄ユニットを備える、請求項29に記載の紡糸ラインユニット。
【請求項31】
前記紡糸ラインユニットは、好ましくは少なくとも前記凝固浴と前記第1の洗浄ユニットとの間の前記伸長のための延伸を制御するための、より好ましくはいくつかの前記洗浄工程の間及び/又は中で前記伸長のための延伸を制御するための、1つ又は複数の延伸制御ユニットをも備える、請求項29又は30に記載の紡糸ラインユニット。
【請求項32】
前記紡糸ラインユニットは、洗浄及び乾燥した繊維トウを製造するために、非拘束方式で鋭い曲がりが実質的になく前記繊維トウが乾燥され、繊維方向に実質的に張力をかけずに自由収縮を可能にする乾燥操作を行うように適合された繊維トウ乾燥ユニットを備え、好ましくは、前記紡糸ユニットは、前記洗浄した繊維トウを捲縮するための捲縮ユニットを備え、更により好ましくは、前記紡糸ラインユニットは、前記洗浄及び乾燥した繊維トウをステープル繊維に切断するための繊維切断ユニットを更に備える請求項29~31のいずれか一項に記載の紡糸ラインユニット。
【請求項33】
前記紡糸ユニットは、前記溶解機ユニットにおける亜鉛のリサイクル及び再使用のために、亜鉛が前記繊維トウから拡散して洗浄液中に沈殿することを可能にし、かつ沈殿した亜鉛を、好ましくは向流洗浄ラインである前記洗浄ラインに追従させる手段をも備える、請求項29~32のいずれか一項に記載の紡糸ラインユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維トウを形成及び処理するためのプロセス、特に繊維トウの延伸及び洗浄及び乾燥を含むプロセスに関する。更に、本発明は、繊維トウを形成及び処理するための紡糸ラインユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維形成プロセスには、様々な種類がある。ビスコース法では、誘導体化セルロース(キサントゲン酸セルロース)をNaOH溶液に溶解し、得られた紡糸原液を酸性紡糸浴内で凝固させる。紡糸原液からのNaOHと紡糸浴からのHSOの両方が消費され(化学反応)、NaSOを生成する。これは、今日では経済的価値の低い化学物質である。誘導体化からのCSもかなりの程度失われる。従って、化学物質はリサイクルされない。ビスコース法の別の特徴は、トウが紡糸浴後に延伸され、繊維トウがその後ステープル繊維に切断されることである。切断後、ステープル繊維は、ゆっくりと動く金網上にランダムに広げられ、繊維はその上で向流方式にて水で洗浄される。漂白及び仕上げ剤の塗布後、繊維フリース床を機械的に開いて、失われた繊維を熱風で乾燥させる。
【0003】
一方、化学物質のリサイクルが可能なアルカリ性紡糸浴を使用するプロセスがある。このようなプロセスの1つは、WO2018/169479に開示され、これは再生セルロース繊維組成物を作製するための方法に関する。この方法は、アルカリ性溶媒中に溶解セルロース及び添加剤の溶液を含み、溶解セルロースが約5~12重量%の濃度で存在し、添加剤がセルロースに基づいて計算して0.1~10重量%の範囲で存在する紡糸原液を提供すること、セルロース紡糸原液と7を超えるpH値を有する水性凝固浴流体を接触させること、再生セルロース繊維組成物を生成すること、並びに1つ又は複数の洗浄浴及び延伸浴内で繊維組成物を延伸及び洗浄することを含む。
【0004】
関連するプロセスは、セルロースをNaOH水溶液に溶解してセルロース紡糸原液を提供するEP3231901A1に開示される。紡糸原液は、ナトリウム塩水溶液を含む凝固液内に押し出される。EP3231901A1は、凝固浴及び後続する洗浄浴から回収した液体中の水酸化ナトリウム及びナトリウム塩を分離(冷却結晶化)及びリサイクルする方法もまた記載する。
【0005】
セルロースを冷アルカリ中に直接溶解することによって紡糸原液を調製する好ましい方法論は、本発明による繊維トウを形成及び処理するプロセスと併せて適切に使用されるものであるが、EP3231899A1に記載されている。
【0006】
アルカリセルロース溶液の凝固用の酸性紡糸浴及びアルカリ性紡糸浴の最大の相違点は、後者の場合の沈殿したセルロースフィブリルの網状組織が、構造からアルカリを洗い流すまで高度に膨潤する一方、酸性紡糸浴内のアルカリの瞬間的中和は、フィブリル状セルロース構造のほぼ瞬時の緻密化をもたらすことである。
【0007】
従って、酸性紡糸浴を使用するビスコース法と比較して、アルカリ紡糸浴を使用する既知のプロセスは、克服するのに適した新規の課題をもたらす。これらの課題は、とりわけ生産性の問題、繊維の品質/特性の問題、及びリサイクルの問題に関連する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、セルロース繊維を形成する改善したプロセスを提供することを対象とし、当該プロセスはアルカリ性紡糸浴/凝固浴を含む技術に基づき、生成した繊維品質に関して当該プロセスを改善する。より具体的には、単独で又は組み合わせて適用して、以下の利点の1つ又は複数を有する改善したプロセスを得る様々な態様が記載される。
【0009】
・同時洗浄にて徐々に減少するアルカリ性条件下で、繊維トウを延伸することにより強固な繊維を作製して、得られたセルロース分子配向を繊維の永続的な特徴とし、従って延伸プロセスによって得られた配向の緩和を抑制し、及び/又は
・カーディング、スライバー製造及び紡績等の下流工程を損なう繊維間の接着を低減又は回避し、及び/又は
・繊維トウから亜鉛化合物を高度に洗い流して、紡糸原液調製で再利用するプロセスによって亜鉛のリサイクルを促進し、及び/又は
・最終的な乾燥繊維の繊維強度を低下させる、乾燥プロセス中の乾燥しわを減少し、及び/又は
・繊維強度が維持され、機械的に捲縮した繊維を得る
上記問題の1つ又は複数は、アルカリ、好ましくは冷アルカリに直接溶解したセルロースからの繊維生成、及びアルカリ性紡糸浴での再生に関連しており、紡糸浴を出る繊維はトウの形で収集して、当該紡糸浴から繊維トウのステープル繊維への最終的な切断までの全ての連続するプロセス工程を通してトウの形で維持するという特徴を有するプロセスによって、解決又は改善できることを見出した。
【0010】
記載した目的の1つ又は複数は、繊維トウを形成するプロセスによって達成され、前記プロセスは、
セルロースパルプをアルカリ性水性溶媒に溶解して、セルロース紡糸原液組成物を生成する工程、7.0を超えるpH、好ましくは少なくとも10のpHを有する凝固浴中でセルロース紡糸原液組成物を紡糸して繊維トウを生成する工程、及びアルカリ度が徐々に低下する洗浄液で繊維トウを洗浄する、一連の連続した延伸工程及び洗浄工程に生成した繊維トウを通す工程を含む湿式紡糸手順を含む。延伸は、洗浄工程の前及び/又は洗浄工程中に行われ得ることに留意されたい。
【0011】
「連続した延伸工程及び洗浄工程」という表現に関して、本発明によるプロセスは、少なくとも2つの洗浄工程を含むプロセスを対象とすることに留意されたい。しかしながら、延伸に関しては、本発明による様々な手段で行ってよい。代替方法の1つは、凝固浴内で紡糸した直後に延伸を行うことである。その場合、繊維トウは、手順の洗浄工程を通して、必ずしも規定の延伸を伴うとは限らず、延伸状態に保たれ得る。従って、これと展望については、以下で更に説明する。
【0012】
更に、本発明による洗浄工程を通して、規定の伸長を伴う延伸と、伸長を伴わない延伸の代替が可能である。更に、別の代替方法として、繊維トウをいくらか弛んだ状態に置いて洗浄を行ってよく、繊維トウを第3及び第4の洗浄工程等の間で延伸する。これは単なる1つの代替方法であり、他の多くの方法が本発明によれば完全に可能性があることに留意されたい。繰り返しになるが、代替方法と説明が以下に更に示される。
【0013】
好ましくは、セルロースパルプを溶解する工程は、0℃以下の温度の冷アルカリ性水性溶媒中で行われる。
【0014】
更に、好ましくは、洗浄工程は、向流洗浄手順によって行われる。
【0015】
更に、好ましくは、洗浄手順は、繊維トウ内の水酸化ナトリウム濃度が0.3重量%未満になる時点まで繊維トウの張力を維持するように行われる。
【0016】
上記のように、本発明は、7.0を超えるpH、好ましくは少なくとも10のpH、及び多くの場合pH10をはるかに超えるpHを有する凝固浴中でセルロース紡糸原液組成物を紡糸することを含むプロセスを対象とする。このことは、本発明による方法は、セルロースをアルカリに溶解する前にCSによって誘導体化して、繊維を酸性凝固浴中で再生する、いわゆるビスコース技術とは著しく異なることを意味する。
【0017】
繊維トウのアルカリ度を延伸工程及び洗浄工程中に徐々に減少させる本発明のプロセスは、好ましくは向流洗浄手順を含む。
【0018】
様々な観点について、以下で更に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の以下の実施形態を、より詳細に論じる。
【0020】
一実施形態によれば、プロセスは、生成した繊維トウを少なくとも5つの連続する洗浄工程、好ましくは少なくとも7つの連続する工程、より好ましくは少なくとも10の連続する工程に通すことを含む。一実施形態によれば、洗浄工程の数は、10~20の範囲である。いくつかの工程を使用すると、必要な洗浄水が減少する。これは、処理する必要がある水の量が減少するため、再生の経済性に関して利点である。
【0021】
本開示によれば、各洗浄工程は、単一の単位操作とみなすことができる。繊維トウは、凝固浴中でセルロース紡糸原液組成物から紡糸されて生成され、後続する洗浄工程を通過する。各単一の洗浄工程は、繊維トウが対応する洗浄工程に入って通り、次にその洗浄工程から出ることによって処理される操作とみなすことができる。各洗浄工程は、例えば、繊維トウを洗浄浴に通すこと、すなわちトウを洗浄液に浸漬すること、又はトウに洗浄液を噴霧すること、又は浸漬と噴霧の組み合わせを採用することを含み得る。本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの洗浄工程は噴霧によって行われ、好ましくは噴霧による洗浄工程の少なくとも一部、又は好ましくは噴霧による各洗浄工程において、噴霧洗浄液の流量は、凝固浴に供給されるセルロース紡糸原液組成物1kgあたり少なくとも5kgの洗浄液であり、より好ましくはセルロース紡糸原液組成物1kgあたり少なくとも8kgの洗浄液である。噴霧については、浸漬洗浄との比較試験に関連して以下で更に論じる(図12参照)。
【0022】
しかしながら、単一の洗浄工程は、特定の洗浄浴で定義する必要はないことに注意されたい。更に、「浴」という用語は、繊維トウが考慮中の洗浄工程の洗浄液と接触していることを単に示すことに留意されたい。このような接触は、多様な方法で用意でき、必ずしも文字通り「浴槽」を意味するわけではない。洗浄工程は、上流及び/又は下流の洗浄工程における洗浄液の組成とは異なる組成を有する洗浄液でトウを洗浄することによって定義される。この洗浄工程間の洗浄液組成物の分離は、例えば、入る繊維トウをプレスして、それによって前の洗浄工程からの洗浄液のキャリーオーバーを減少させ、特定の工程の繊維トウが特定の洗浄工程で特定の洗浄液を一定の滞留時間中受けることによって達成でき、例えば、1つ又は複数のローラー上で実質的に薄く平らな形状に機械的及び/又は油圧的に作動して、繊維トウ内の液体の対流/置換を誘発し、次にその洗浄工程からの処理が行われると、その洗浄液から再度プレスされる。これに関して、ある洗浄工程から後続する洗浄工程に繊維トウを移動するときに繊維トウから押し出される洗浄液が多いほど、洗浄工程がより効率的であり、必要な洗浄工程の数がより少なく、及び/又は必要な使用する洗浄水の量がより少ないことを意味すると言及され得る。
【0023】
連続する各洗浄工程における洗浄液は、水酸化ナトリウム(NaOH)及び凝固塩(例えば、Na2CO3又はNa2SO4又はそれらの混合物)濃度に関するその化学組成によって特徴付けできる。洗浄工程に入るトウは、その洗浄工程の洗浄液よりも高濃度のNaOH及び塩を含む。入るトウ中のNaOH及び塩の濃度は、セルロースを含まないトウの液体画分に基づいて好都合には定義される。洗浄工程から出るトウは、その工程に入るトウと比較して、NaOH及び塩の濃度(ここでもセルロースを除く)が低くなるが、それでも、出るトウのNaOH及び塩の濃度は、液体の化学種の相互拡散の観点からトウが洗浄液と平衡に達した場合を除いて、一般には、洗浄液と比較していくらか高くなる。検討中の洗浄工程の相対的な洗浄効率は、出ていくトウのNaOH及び塩濃度の観点から、入るトウ及び検討中の洗浄工程でトウと接触する洗浄液の対応する濃度と関連して、説明できる。
【0024】
洗浄効率は、洗浄ユニットの設計及び適用するプロセス条件によって影響を受け得る多くの要因に依存することは明らかである。ほんの数例を挙げると、温度、洗浄液と接触する繊維トウの滞留時間、機械的及び/又は水圧により誘発されるトウ内の洗浄液の対流、及び繊維トウの厚さは、そのような要因の例である。
【0025】
一実施形態によれば、生成した繊維トウ中の、NaOHの重量ppmとして計算されたアルカリ含有量は、洗浄手順中に、乾燥した繊維トウに基づいて計算して50重量ppmNaOH未満に徐々に低下する。
【0026】
更に別の実施形態によれば、凝固浴は、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムとを含み、好ましくは前記凝固浴が3~10重量%の水酸化ナトリウムを含み、好ましくは前記凝固浴が10~28重量%の炭酸ナトリウム又は硫酸ナトリウム、又はそれらの混合物を含む。
【0027】
WO2015/000820に記載されるように、セルロース紡糸プロセスでのアルカリリサイクルに関して、凝固浴は、水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムを適切に含む。これに沿って、本プロセスでも他の添加剤も可能である。紡糸原液によって凝固浴に添加される水酸化ナトリウムとは別に、凝固液は、セルロースにとって貧溶媒であるように構成され、それによって水酸化ナトリウムが凝固浴のバルクに放出される間に新しい繊維が形成される。
【0028】
水酸化ナトリウムもまた適切に回収される。更に、一実施形態によれば、向流洗浄工程から回収した水酸化ナトリウムは、濃縮及び任意選択の精製の後に、少なくとも部分的にリサイクルされて新しい紡糸原液を形成する。
【0029】
凝固浴中のNaOH及び塩の濃度は、流入する紡糸原液の速度及び組成、添加する塩の速度、並びに凝固浴を出る繊維トウによる凝固浴液の同伴及び(もしあれば)(リサイクル流への)凝固浴液のオーバーフローによって決定され、換言すると凝固浴を出るトウに加えられる圧搾力に依存する繊維トウによる凝固浴液の同伴に関連する。凝固浴における塩の最大溶解度は、温度及びNaOH濃度によって決定される。
【0030】
塩は、塩析プロセスを推進するために重要である。凝固浴液の塩濃度は、セルロース紡糸原液組成物よりも高いため、紡糸口金キャピラリーを出る紡糸原液ジェットから水が引き出される。同時に、炭酸イオン及び/又は硫酸イオンが紡糸原液ジェット(フィラメント)に入る。これはまた、セルロース分子が互いに結合して結晶性ナノフィブリル(セルロースの沈殿)を形成することを意味する。
【0031】
一実施形態によれば、アルカリ性水性溶媒は、セルロース紡糸原液組成物の総重量に基づいて計算して、0.4~1.2重量%の(Znとしての)亜鉛、より好ましくは0.6~0.9重量%の亜鉛を含む。理解されるべきであるように、計算は、亜鉛に基づいて行われ、例えば他のパーセンテージを与える酸化亜鉛として行われない。紡糸原液がZnを含むため、凝固浴にもZnを含む。
【0032】
一実施形態によれば、セルロース紡糸原液組成物は、セルロース、セルロースカルバメート、又はセルロースの別の誘導体を、セルロース紡糸原液組成物の総重量に基づいて計算して、4~12重量%、好ましくは5~10重量%の範囲で含む。一実施形態によれば、セルロース紡糸原液組成物は、5~8重量%の範囲のセルロースを含むか、又は5~10重量%の範囲のセルロースカルバメート或いはそれらの混合物を含む。しかしながら、セルロースエーテル及びセルロースエステルを含むがこれらに限定されない他のセルロース誘導体も紡糸原液中に存在し得ることに留意されたい。添加剤は、紡糸原液中に存在することができ、そのような添加剤は、例えば、亜鉛化合物及び/又は様々な形態の尿素であり得る。紡糸原液がセルロースカルバメート又は尿素を含む実施形態では、カルバメート又は尿素は、少なくとも部分的に、アルカリ性凝固浴、及び後続するアルカリ性繊維洗浄工程で加水分解される。従って、一実施形態によれば、セルロース紡糸原液は、凝固浴中及び連続する洗浄工程において、少なくとも部分的に加水分解される尿素又はセルロースカルバメートを含む。セルロースカルバメート又は尿素の加水分解から生成したいずれものアンモニアを収集し、紡糸プロセスから排出する。
【0033】
更に、上述するように、一態様によれば、プロセスは延伸手順を対象とする。一実施形態によれば、繊維トウの延伸は、繊維トウが凝固浴から連続する洗浄工程を通って移動する速度を調節することによって、実行及び制御する。
【0034】
一実施形態によれば、洗浄工程1の時点での繊維トウの速度は、少なくとも繊維トウの水酸化物濃度が0.3重量%未満となる洗浄工程を含むまで、実質的に一定に維持するか、又は1又は複数の後続する洗浄工程中に徐々に増加させる。この点に関して、「実質的に」という表現は、速度が低下し得る、又は少なくとも徐々に増加し得ない短い時間を含み得るように解釈されるべきであると留意されたい。
【0035】
本発明によれば、延伸は、向流洗浄手順の間、すなわち、異なる洗浄工程の間又は異なる洗浄工程内で行われる。更に、延伸は、凝固浴と第1の洗浄工程との間でも行われることに留意されたい。代替手段及び実施形態は、より多くの延伸又はより少ない延伸が行われる位置に関して以下で更に議論される。更に、本発明によるプロセスにおける好ましい延伸の方向は、洗浄手順の少なくとも最初の部分、すなわち凝固浴と第1の洗浄工程との間、及び第1及び第2の洗浄工程間及び/又はそれら洗浄工程内で、繊維トウの延伸を確実にすることである。これは、これらの工程での延伸が少なすぎると、後の工程でよりも繊維トウの品質に大きな影響を与えるためである。しかしながら、本発明によるプロセスは、洗浄手順の大部分又は全体に亘って、すなわち全ての洗浄工程間で延伸を伴う代替手段、及び初期段階にて短周期等で張力が低下する手順をも包含することに留意されたい。
【0036】
上述するように、アルカリ度は、本発明による洗浄手順の各洗浄工程において低下する。張力を維持したままで繊維トウのアルカリ度を徐々に低下することにより、繊維トウを延伸することで得られ、繊維の長さ方向に繊維が配向することを意味する繊維配向は高いままであり、かつ永続的な特徴となることを見出した。延伸及びアルカリ性環境に関して、洗浄操作中の全延伸は、連続的に低下するアルカリ度でいくつかの延伸工程に分割され得ることにも言及してもよい。
【0037】
更に、本発明のまた別の特定の実施形態によれば、当該延伸は、30~80%の範囲内の全延伸をもたらす程度に制御され、好ましくは生成した繊維の引張強度が少なくとも15cN/texになる程度に制御される。「延伸は、30~80%の範囲内の全延伸をもたらす程度に制御される」という表現は、繊維トウの元の長さ、すなわち延伸の開始前に対して、長さが30~80%増加するように、繊維トウを延伸して伸長させることを意味する。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、上で示唆するように、繊維トウの延伸は、凝固浴と第1の洗浄工程との間で行い、繊維トウは、その後のプロセスの少なくとも一部の間延伸状態に保たれる。繊維トウは、その後の1又は複数の洗浄工程の間延伸状態に保ち得ることに留意されたい。
【0039】
本発明の別の実施形態によれば、繊維トウの延伸は、凝固浴と第1の洗浄工程との間で行われ、かつ延伸は、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つの連続した洗浄工程の間継続され、好ましくは延伸が継続される少なくとも2つの連続する洗浄工程は、凝固浴の直後に配置される4つの洗浄工程中にあり、好ましくは、少なくとも2つの洗浄工程で行われる全延伸の一部は、全延伸の少なくとも25%であり、より好ましくは少なくとも40%である。上記のパーセンテージは、全延伸に関する割当分で示され、すなわち全伸長長さのパーセンテージで示される。
【0040】
更に別の実施形態によれば、繊維トウの延伸は、延伸状態が洗浄手順の少なくとも50%の間、好ましくは洗浄手順の少なくとも最初の50%の間、好ましくは少なくとも凝固浴と第1の洗浄工程との間、延伸状態を維持するように行われ、好ましくは少なくとも1つの連続する洗浄工程で繊維を延伸して伸長させる。上記に関連して、「延伸状態」という表現は、繊維トウが延伸するように伸長させるか、又は少なくとも繊維トウが現状の長さを維持するのに十分な張力に保たれ、実質的な弛みが回避されるような状態を意味する。上記説明に基づいて、「延伸状態は洗浄手順の少なくとも50%の間維持される」という表現はまた、「繊維トウの実質的な弛みは、洗浄手順の少なくとも50%の間回避される」と解釈され得ることに留意されたく、すなわち、繊維トウに関する「延伸状態」とは、繊維トウの弛みを回避すること及び/又は伸長を得るために繊維トウを延伸することを意味し、後者は繊維トウの弛みを回避することももたらす。上記に沿って、一実施形態によれば、延伸状態は、繊維トウの実質的な弛みを回避することを意味し、洗浄手順の少なくとも50%の間維持され、好ましくは、繊維トウは少なくとも2つの位置で伸長のための延伸を受け、その第1の位置は凝固浴と第1の洗浄工程との間にあり、第2の位置は少なくとも1つの連続する洗浄工程中にあり、更により好ましくは、伸長のための延伸の第2の位置は、第1の洗浄工程内、又は第1と第2の洗浄工程の間にある。
【0041】
更に、上記のように、上記の実施形態によれば、そのような状態は、洗浄手順の少なくとも50%の間、好ましくは洗浄工程の少なくとも最初の50%の間維持される。この文脈では、パーセンテージは、洗浄工程の総数の割当分に関連する。更に、前述のように、好ましくは、繊維トウは、凝固浴と第1の洗浄浴或いは工程との間、並びに第1及び第2の洗浄工程等の間及び/又は中のような、洗浄手順の初期段階で延伸して伸長される。水酸化ナトリウム(NaOH)が繊維トウから洗い流されると、セルロースナノフィブリルが互いに結合して、伸長したフィブリルの弛緩又は反動が防止される。繊維トウが、第1の洗浄工程から第2の洗浄工程までの工程、及び第2と第3の洗浄工程の間のような、洗浄手順の少なくとも初期段階で弛んでおらず、かつ好ましくはNaOH濃度が依然として0.3重量%より高い洗浄工程まで弛んでないことが重要である。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、繊維トウの伸長のための延伸は、凝固浴と第1の洗浄工程との間である程度の伸長で行われ、当該延伸は少なくとも3つの連続する洗浄工程中継続され、好ましくは、各工程で伸長を追加する程度は、凝固浴と第1の洗浄工程との間の工程における追加する伸長の程度よりも低く、より好ましくは、追加する伸長の程度は、各連続する工程において減少する。この実施形態は、伸長のための延伸が凝固浴と第1の洗浄工程(浴)との間で行われること、好ましくは伸長のための全延伸のうち、伸長の最大割合は、凝固浴と第1の洗浄工程との間のこの最初の工程で行われることを意味する。本発明の更に別の実施形態によれば、凝固浴と第1の洗浄工程との間の延伸工程の伸長を、洗浄手順の洗浄工程の間及び/又は中での他の個々の延伸工程の伸長と比較すると、生成した繊維トウの伸長のための全延伸の大部分は、凝固浴と洗浄手順の第1の洗浄工程との間の延伸工程で行い、好ましくは、全伸長の少なくとも40%は、凝固浴と洗浄手順の第1の洗浄工程との間で行う。
【0043】
本発明による方法では、伸長のための全延伸の最大の割当分は、凝固浴と第1の洗浄工程(浴)との間で行われる必要がないことに留意されたい。一例として、本発明の一実施形態によれば、伸長の最大の割当分は、第1の洗浄工程と第2の洗浄工程との間で行われる。従って、本発明の一実施形態によれば、生成した繊維トウの伸長のための全延伸の大部分は、第1及び第2の洗浄工程の間の延伸工程、及び/又は第1或いは第2の洗浄工程内で行われる。また、この実施形態では、最大の割当分が連続する工程、すなわち第1及び第2の洗浄工程の間で行われる場合でも、伸長のための全延伸の比較的大きな割当分が凝固浴と第1の洗浄工程との間で行われることが好ましい。
【0044】
本発明の更に別の実施形態によれば、繊維トウの伸長のための延伸は、凝固浴と第1の洗浄工程との間である程度の伸長で行われ、好ましくは伸長のための延伸は、少なくとも3つの連続する洗浄工程の間継続され、更により好ましくは、伸長のための延伸は、その少なくとも3つの連続する洗浄工程の間及び又はそれらの中で、凝固浴と第1の洗浄工程との間で行われる伸長の0.7~1.2倍の範囲内である全伸長度で継続される。上記に関連して、「0.7~1.2倍の範囲内で」という表現は、それらの各工程を個別にではなく、合計して3つの連続する工程での全伸長を指すことに留意されたい。
【0045】
更に、伸長のための全延伸は、凝固浴と第1の洗浄工程との間で、第1又は第2の洗浄工程内又はそれらの間に合わせて行われ得ることに留意されたく、例えば、伸長のための全延伸は、凝固浴と第1の洗浄工程との間で、第1の洗浄工程内又は第1及び第2の洗浄工程の間と併せて行うことができる。
【0046】
図1に示すように、洗浄ラインに沿って、ローラー又はいわゆるゴデットが配置される。伸長のための延伸、又は場合によってはトウの弛みの回避は、ゴデット又はローラーの速度を制御することによって制御してよい。これは、本発明によるプロセスにおける伸長のための延伸を制御する場合にも該当してよい。従って、一実施形態によれば、各洗浄工程における、伸長のための延伸及び/又は弛みの回避のための延伸は、その洗浄工程を通過する繊維トウを引く各ゴデットの速度を制御することによって制御される。従って、1~nのゴデットの個別の速度調整は、繊維トウの起こり得る弛みを回避する、又はトウから化学物質を洗浄するとき起こり得る収縮のためのトウに沿った不要な張力を低減するためにも重要である。
【0047】
伸長のための延伸の制御及び/又は繊維トウの弛みの回避を達成する他の可能な技術があり、これらもまた本発明に従って使用可能である。
【0048】
更に、上記で示唆するように、プロセスの一態様では、アルカリ性凝固浴中での紡糸における亜鉛の最適な処理を対象とし、好ましくは後続する向流洗浄である。これに沿って、一実施形態によれば、アルカリ度は、洗浄手順中に繊維トウ内で徐々に減少し、かつ亜鉛は、洗浄手順中に繊維トウから洗浄液中に拡散し、前記洗浄手順は、好ましくは向流洗浄手順である。しかしながら、アルカリ度(水酸化ナトリウムの濃度)が急激に低下するのを防ぐことは、これにより繊維トウを構成する繊維内に亜鉛の沈殿を招く可能性があるため重要である。
【0049】
一実施形態によれば、亜鉛は、繊維トウから拡散して、少なくとも1つの下流の洗浄工程においてZn含有粒子の形態で洗浄液中に沈殿し、当該洗浄液は、懸濁させて沈殿した亜鉛を洗浄液中に分散したままとし、かつ当該沈殿した亜鉛は、少なくとも1つの上流の洗浄工程に洗浄液と共に沈降せずに分散して輸送される。上流の洗浄工程は、移動する繊維トウの反対方向であるため、洗浄工程番号のより低い洗浄工程を意味する。通常、洗浄液中の亜鉛の沈殿が見られるのは、洗浄工程番号4~6である。更に、沈殿した亜鉛を洗浄液中に分散しておくための洗浄液の懸濁は、循環ポンプ又は攪拌機の使用のような異なる手段によって達成され得ることにも言及され得る。
【0050】
亜鉛は通常、洗浄液中でNaOH濃度が約2重量%に近づくと、(水酸化亜鉛の形で)沈殿し始める。繊維トウは、亜鉛粒子を後続する工程に運ぶ。同時に、亜鉛粒子は、洗浄液と共に逆方向に輸送される。これは、亜鉛粒子が、上流及び下流を意味する、NaOH濃度が約2重量%の洗浄工程である周囲のいくつかの洗浄工程で見えることを示唆する。これに沿って、本発明によれば、亜鉛含有粒子の形で繊維の内部に沈殿することなく、亜鉛を繊維から洗浄することを可能にするのに十分にアルカリ度が徐々に減少する。更に、少なくとも3つの最初の洗浄工程は、好ましくは、少なくとも2重量%のアルカリ度又は水酸化ナトリウム濃度を有する。従って、亜鉛は繊維の内部で結晶化せず、同時に繊維トウに残る亜鉛の一部が後続の洗浄工程の液体中に沈殿する。沈殿した亜鉛粒子を含むそのような洗浄液は、そのような固体亜鉛粒子が溶液に再び溶解する、すなわちより高いアルカリ度水準で、より高いアルカリ度を有する上流の洗浄工程に輸送され得る。水酸化亜鉛の沈殿が始まるときの上記のNaOH濃度(約2重量%)は、洗浄液中の亜鉛濃度に依存することに注意されたい。当然ながら、約2重量%のNaOH濃度でさえ、亜鉛の特定の溶解度がある。亜鉛濃度が特定のNaOH濃度での溶解限度よりも高い場合、沈殿が発生する。紡糸原液の総重量に基づいて、約7.5重量%のNaOH及び約0.76重量%のZnを含むように調製した紡糸原液に対して、約2重量%NaOHの限界濃度は有効である。紡糸原液中のZnの濃度が約0.76重量%よりも高い場合、沈殿は、約2重量%よりも幾分高いNaOH濃度で始まると予想される。紡糸原液中のZnの濃度が約0.76重量%よりも低い場合、沈殿は、約2重量%よりも幾分低いNaOH濃度で始まると予想される。
【0051】
更に別の実施形態によれば、向流洗浄液に同伴する沈殿した亜鉛は、少なくとも1つの上流の洗浄工程(「上流」とは移動する繊維トウの方向、すなわちより低い洗浄工程数の方向に対する)中の洗浄液の増加するアルカリ度で溶解して、少なくとも部分的にリサイクルして、冷アルカリ性水性溶媒中にセルロースパルプを溶解してセルロース紡糸原液組成物を生成する工程で再利用される。これは、効果的な方法で、すなわち余分なリサイクルループ等なく、洗浄ライン自体を使用して達成する亜鉛のリサイクルであることを意味する。
【0052】
更に、更に別の態様によれば、このプロセスは、繊維トウの乾燥も含む。一実施形態によれば、洗浄及び他の方法で処理した湿潤状態の繊維トウは、非拘束方式で鋭い曲がりが実質的になく繊維トウが乾燥され、繊維方向において張力をかけず自由収縮を可能にする乾燥操作に供して、洗浄及び乾燥した繊維トウを製造する。「鋭い曲がりが実質的になく」という表現は、湿った繊維トウをしわが寄っていないときに乾燥することを意味する。繊維トウに沿って鋭角が配置されない限り、繊維トウは滑らかな曲線で湾曲することができ、好ましくは任意の曲がりの半径が10mmより大きいことに留意されたい。
【0053】
更に、また別の実施形態によれば、このプロセスは、繊維トウの捲縮も含む。捲縮は、乾燥前又は乾燥後に行ってよい。更に、また別の実施形態によれば、機械的捲縮を、繊維トウの乾燥に続いて行う。本発明によれば、乾燥した繊維トウを捲縮することにより、しわの寄った強い繊維を得ることができる。多くの様々な型の捲縮機、例えばスタッファーボックス捲縮機等の機械的なものを使用してよい。しかしながら、プロセスは、代わりに、半湿潤繊維トウの捲縮を含み得ることに留意されたく、すなわち繊維を完全に乾燥する前に捲縮する。
【0054】
更に別の実施形態によれば、プロセスは、乾燥及び必要に応じて捲縮した繊維トウをステープル繊維に切断することを含む。従って、この実施形態によれば、トウを、最初に乾燥し、その後切断して、ステープル繊維に切断する前に任意選択で繊維トウを捲縮する。
【0055】
プロセスの一部であり得る他の工程もある。一実施形態によれば、繊維トウは、洗浄手順中の最後の洗浄工程に続く酸処理工程において酸で処理される。様々な酸を使用し得、一例ではで水中炭酸等の弱酸である。また、意図するpH値は異なってもよい。酸処理工程は、中和として行われ、これもより強力な繊維を提供し得る。また、この工程の後、更に別の洗浄工程を含む可能性があり得る。
【0056】
別の実施形態によれば、繊維トウは、洗浄工程の最後の洗浄工程に続く処理工程において漂白剤で処理される。
【0057】
更に別の実施形態によれば、1種又は複数種の界面活性剤は、繊維トウ内の単一フィラメント間の凝集力を低下するために当該プロセス中に供給し、好ましくは、前記1種又は複数種の界面活性剤は、洗浄手順に続いて、好ましくは可能な酸処理工程及び漂白工程に続いて、好ましくは乾燥手順の前に、繊維トウに供給する。1種又は複数種の界面活性剤の供給は、通常、いわゆるアビバージ浴中で行われる。界面活性剤の供給は、繊維トウに噴霧又は散布することにより、又はキスローラーの使用によっても行うことができる。
【0058】
本発明はまた、繊維トウを形成する紡糸ラインユニットに言及し、当該紡糸ラインユニットは、
-セルロースパルプをアルカリ性水性溶媒、好ましくは0℃以下の温度の冷アルカリ性水性溶媒に溶解してセルロース紡糸原液組成物を生成するために配置された溶解機ユニット(例えば、EP3231899A1による);
-7.0を超えるpHを有するアルカリ性水性凝固浴中で、セルロース紡糸原液組成物を紡糸して、繊維トウを生成するために配置された紡糸ユニット;及び
-好ましくは向流洗浄ラインであり、連続的に低下するアルカリ度において生成した繊維トウを洗浄するために順番に配置されるいくつかの洗浄ユニットを備えた洗浄ライン、を備える。上記で示唆するように、洗浄ラインは、好ましくは、向流洗浄方式に従って操作される。
【0059】
また、本発明によるプロセスに関する上記全ての実施形態及び代替方法は、本発明による紡糸ラインユニットに関する可能な実施形態でもあると記載すべきである。これは、様々な工程をこれらの工程を行うために配置したユニットとして書き換えしてよいことを意味する。
【0060】
以下に、紡糸ラインユニットに関するいくつかの実施形態を提示する。そのような一実施形態によれば、洗浄ラインは、少なくとも5つの洗浄ユニット、好ましくは少なくとも7つの洗浄ユニットを備える。更に別の実施形態によれば、紡糸ラインユニットは、好ましくは少なくとも凝固浴と第1の洗浄ユニットとの間の繊維トウの伸長のための延伸を制御するための、より好ましくはいくつかの洗浄工程の間及び/又は中での繊維トウの伸長のための延伸もまた制御するための、1つ又は複数の延伸制御ユニットをも備える。
【0061】
更に、別の実施形態によれば、紡糸ラインユニットは、洗浄及び乾燥した繊維トウを製造するために、非拘束方式で鋭い曲がりが実質的になく、繊維トウが乾燥され、繊維方向に実質的に張力をかけずに自由収縮を可能にする乾燥操作を行うように適合された繊維トウ乾燥ユニットを備え、好ましくは、前記紡糸ユニットは、前記洗浄した繊維トウを捲縮するための捲縮ユニットを備え、更により好ましくは、前記紡糸ラインユニットは、前記洗浄及び乾燥した繊維トウをステープル繊維に切断するための繊維切断ユニットを更に備える。更に、紡糸ラインユニットは、溶解機ユニットにおける亜鉛のリサイクル及び再使用のため、亜鉛が繊維トウから拡散して洗浄液中に沈殿することを可能にする手段、及び沈殿した亜鉛が、好ましくは向流である洗浄ラインに上流方向に追従することを可能にする手段をも備えてよく、「上流」は繊維トウの進行方向に対してである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1図1Aは、第1の実施形態による紡糸ラインを示す。図1Bは、第2の実施形態による紡糸ラインを示す。
図2図2は、更なる実施形態による紡糸ラインを示す。
図3a図3aは、異なるアルカリ度でのトウの延伸を示す。
図3b図3bは、異なるアルカリ度でのトウの延伸を示す。
図4a図4aは、紡糸ラインに沿った様々な場所で採取した繊維のタイターを示す。
図4b図4bは、図4aで参照した紡糸ラインの洗浄液の組成を示す。
図5図5は、伸長のための延伸の試験における洗浄液の組成を示す。
図6a図6aは、純水中で洗浄した繊維の繊維断面の顕微鏡写真である。
図6b図6bは、連続的に低下するアルカリ度で徐々に洗浄した繊維の繊維断面の顕微鏡写真である。
図7図7は、繊維の接着性を試験するための試験装置を示す。
図8図8は、徐々に低下するアルカリ度で洗浄して図8の右側に「B」と印付けた繊維と、すぐに純水で洗浄して図8の左側に「BW」と印付けた繊維の写真である。
図9a図9aは、左に、非拘束の方法で繊維トウとして乾燥され、鋭い曲がりのない繊維を示し、右に、ランダムにしわのある状態で乾燥したステープル繊維を示す写真である。
図9b図9bは、図9aの繊維の強度を示す。
図10図10は、スタッファーボックス捲縮機を使用した機械的捲縮を概略的に示す。
図11a図11aは、捲縮前(右)及び捲縮後(左)の乾燥繊維トウの写真である。
図11b図11bは、機械的捲縮の前後の繊維トウの強度を示す。
図12図12は、浸漬及び噴霧の洗浄技術を比較した試験の洗浄効率を示す。
【0063】
例と図面の詳細な説明
図1Aは、第1の実施形態に係る紡糸ライン1の一部を示す。この場合、凝固浴2は、少なくとも3つの紡糸位置又は紡糸ヘッド3を備える。各紡糸ヘッド3は、複数の紡糸口金を備え、各紡糸口金は、複数のキャピラリーを含む。紡糸ヘッド/紡糸位置からの繊維トウは、共通の平らな繊維トウへと並んで結合される。生成した繊維トウは、好ましくは向流方式に従って操作される洗浄手順4に入る。図1Aに図示するように、n個以下の洗浄工程があり得、ここで、nは、少なくとも5、好ましくは少なくとも7、及び10以下又は10を超えてよい。Vnは、各特定の洗浄工程内での各ゴデット5上のトウの速度を示す。洗浄手順では、水は、最後の洗浄工程内に流入する。次に、洗浄液は、各洗浄工程を、繊維トウと比較して向流で通過する。(繊維トウの処理に関連して番号付けて)第1の洗浄工程から導出された洗浄液は、より高いアルカリ度を有する。図1Aで注目すべきように、各洗浄工程それぞれにおいて、繊維トウ上への洗浄浴液の散布又は噴霧するポンプ駆動の洗浄浴液循環フローによって、なお延伸状態にある繊維トウを、洗浄液と接触させる。プレスローラーは、各洗浄工程から出てくるトウに適用され、一つの洗浄工程から次の洗浄工程へトウによって同伴される(持ち越しされる)洗浄液の量を減少させる。
【0064】
図1Bには、別の実施形態が示される。図1Bで注目すべきように、各洗浄工程において、繊維トウは、繊維トウが伸長のために延伸を受けているか又は少なくとも弛んでいないことを意味する延伸状態になおあり、洗浄浴内に導入し、次に浴から引き上げ、次の洗浄浴に導入する。プレスローラーは、各洗浄工程から出てくるトウに適用され、一つの洗浄工程から次の洗浄工程へトウによって同伴される洗浄液の量を減少させる。
【0065】
図2では、更に別の実施形態に係る紡糸ラインの概略図を示す。注目すべきように、この場合、凝固浴は1つの紡糸ヘッドを備える。凝固浴に入る紡糸原液から、繊維トウを生成する。次に、紡糸した繊維トウは、前に開示するように機能する向流洗浄手順に導かれる。いくつかの洗浄工程の間、又は各洗浄工程の間でも、及び凝固浴と第1の洗浄工程の間でも、伸長のための延伸が行われる。前述のように、伸長のための延伸は、異なる工程において、異なる方法及び異なる大きさで実行されてよい。最後の洗浄工程に続いて、アビバージ(avivage)工程を配置してもよく、その工程において表面活性剤が繊維トウに添加される。トウは、アビバージ浴を通過してもよく、噴霧されてもよく、キスロール又は何らかの他の方法で薬剤を受け取ってもよい。その後、乾燥を行ってよく、次に製造した繊維の捲縮及び最終的な切断を行ってよい。捲縮は、乾燥前又は半乾燥状態で実行してよい(図2には示さず)。最後の洗浄工程及び/又は漂白工程の直後に配置した酸添加工程のような、他の工程も含まれ得ることに留意されたい。
【0066】
図1及び図2に示すプロセスでは、紡糸浴液又は凝固浴液は、水、炭酸ナトリウム(NaCO)又は硫酸ナトリウム(NaSO)又はそれらの混合物、水酸化ナトリウム(NaOH)及び少量の亜鉛含有塩を含み得る。紡糸口金キャピラリーから押し出された細い(例えば、直径50~70μm)紡糸原液ジェットが紡糸浴液と接触すると、水及び一部のヒドロキシルイオンがジェットから拡散する一方、ナトリウムイオン及び炭酸イオン、及び/又は硫酸ナトリウムが紡糸浴に存在する場合の硫酸イオンは、浸透圧の違い(濃度差)によりジェット中に拡散する。紡糸原液ジェット内の化学組成の変化により、セルロースはもはや溶液中に留まらず、多少配向したナノフィブリルの網の形で沈殿する。ナノフィブリルが繊維の長手方向と平行にどの程度配向するかは、紡糸口金キャピラリーの設計及び凝固浴に適用されるドラフト比、すなわちV/Vexit比に依存する。Vは凝固浴を出るトウの速度であり、Vexitは紡糸口金キャピラリーからの紡糸原液ジェットの出口速度(紡糸原液の体積流量を全キャピラリー断面積で割ったもの)である。凝固工程によって、紡糸口金キャピラリーを出る液体ジェットは、ゴデットローラー及び浮力の作用によって、紡糸浴を通って上方に引き出される、柔らかく高度に膨潤したゲルフィラメントに変換される。従って、凝固プロセスは、紡糸浴又は凝固浴が硫酸(HSO)を含むビスコース法とは大きく異なる。ビスコース法では、紡糸原液中の水酸化ナトリウムを酸で中和する。セルロースは、非常に速く沈殿して、紡糸口金の出口で瞬時に非常に緻密な固体のフィラメントを形成する。これはまた、紡糸原液のほとんどの水(紡糸原液は約85%の水を含む)は最後には酸性浴に行き、乾燥セルロースに基づいて約120重量%の紡糸浴液のみが紡糸浴からの繊維トウに同伴することを意味する。本発明に係るプロセスでは、紡糸原液ジェットをアルカリ性紡糸浴中へ凝固させ、対応する数値が1000重量%を超える紡糸浴でもよい。
【0067】
その過程では、炭酸ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウムをフィラメントにより拾い上げる。同時に、紡糸原液からの水とヒドロキシルイオンの一部が凝固浴液に移動する。凝固浴液位は、ゴデットローラーでトウから絞り出されて紡糸浴にフィードバックされる紡糸浴液の量に応じて、ゆっくりと増加又は減少する可能性があるとわかった。プレスローラーの力は、凝固浴液位が一定に保たれるように、又は凝固浴液のオーバーフローが得られるように調整することが好ましく、図1Aを参照されたい。このように、塩濃度を一定に保つために、塩(NaCO及び/又はNaSO)のみを凝固浴に継続的に供給する必要がある。ナトリウム塩の水和形態が凝固浴に供給される場合、ナトリウム塩イオン濃度を一定に保つために、オーバーフローがより高くなるであろう。そのとき、凝固浴にNaOH及びZnを加えて意図的に調整しない場合、凝固浴中のNaOH及びZnの濃度は、より低くなるであろう。
【0068】
繊維トウが比較的高い水酸化ナトリウム含有量を有してアルカリ性の状態にあるときに繊維トウの伸長のための延伸を行うことによって、最大の伸長のための延伸、従って最大の引張強度が得られる。そのような伸長のための延伸は、ナノフィブリル自身を繊維の長手方向に配向させる。しかしながら、繊維を延伸状態に維持しない場合(そのような「延伸状態」は、繊維を更に伸長すること、又は少なくとも繊維トウの実質的な弛みがないような張力に保持されていることを意味する)、アルカリ度の更なる減少下では、誘導された配向はある程度緩和され、それにより繊維の引張強度が低下する。
【0069】
高い引張強度を備えた繊維を得るために、トウを、ゴデット0と1の間で、伸長のために延伸させる(ゴデット1の速度は、ゴデット0の速度よりも適切に高速であり、図2参照)。伸長のための延伸は、ナノフィブリルセルロース構造を繊維トウ(に沿う)方向に配向させると想定される。例えばゴデット0と1の間のように(図2)、トウのアルカリ度が高い(トウ中のNaOHの量が多い)場合、トウはより伸縮性があるとわかっている。このことは、異なるアルカリ度を有するトウのベンチスケールでの延伸を示す図3a及び図3bに図示されている。28℃に保たれた凝固浴は、20重量%の炭酸ナトリウム、5.6重量%のNaOH及び0.56重量%のZnを含み、ゴデット0(V0)及び1(V1)の速度は紡糸口金からの押出速度(Vexit)と同じである。使用した紡糸原液は、6重量%のセルロース、7.5重量%のNaOH、及び0.76重量%のZnを含み、直径55μmの300本のキャピラリーを有する紡糸口金を通して押し出した。NaOHの濃度を0重量%、2.2重量%、3.5重量%及び4.6重量%に調整した浴を通過させた後、繊維トウをゴデット1及び2の間で伸ばした(V>V)。図3aは、繊維トウが破損する前の最大の可能な延伸比(V2/V1)は、であり、伸長のための延伸に先行する浴中の重量%NaOHとともに増加することを示す。しかしながら、延伸したトウを、この段階(ゴデット2の直後)でステープル繊維に切断すると、繊維の張力が解放されてナノフィブリルの配向が大幅に失われ、強度の低い繊維をもたらすことがわかっている。繊維トウの弛みを実質的に回避することを意味する維持した張力下で、繊維トウのアルカリ度を徐々に低下することによって、繊維の配向は、高く維持され、繊維の永続的な特徴となることがわかっている。考えられる解釈は、連続する洗浄工程(1-n)にてアルカリ度が徐々に低下するにつれて、ナノフィブリルは(膨潤が減少して)互いに徐々に接近して、水素結合の形成によって互いに結合することである。
【0070】
一例を挙げるため、紡糸ラインに沿う異なる位置で2つのサンプルを採取した。洗浄ユニットは、10個の洗浄工程(n=10)を有し図1Aに従って設計した。紡糸ヘッド中のキャピラリーの数は、13500である(キャピラリーの直径は55μmである)。紡糸浴は、29℃で操作され、18重量%の炭酸ナトリウム、5.3重量%の水酸化ナトリウム、及び0.5重量%のZnを含でいた。使用した紡糸原液は、6重量%のセルロース、7.5重量%のNaOH、及び0.76重量%のZnを含んだ。紡糸原液の流量に対する洗浄水の流量の比率は1であり(Qw/Qd=1)、流入する洗浄水の温度は20℃であった。延伸比V1/V0は、1.4であった。ゴデット2~10の速度は、一定に保たれ、ゴデット1の速度と等しく、すなわち、V1=V2=V3=V4=V5=V6=V7=V8=V9=V10である。2つのサンプルは、ゴデット1、3、4、6、7、9、及び10の直後に採取し(図1A及び図2参照)、かつ更に水で自由洗浄した。トウサンプルを空気中で自由乾燥した後、トウサンプルから抜き出した単繊維のタイター(dtex)を測定した。図4aは、測定したタイターの変動を示す一方、図4bは、関連する洗浄液中のNaOH及びNa2CO3の濃度を示す。使用した紡糸条件に基づいてゼロ緩和を仮定して、理論的に計算した繊維タイターは、1.30dtexであった。図4a及び図4bのグラフから、ゴデット0とゴデット1との間の延伸によって誘発される配向の緩和を完全に回避し、従って1.3dtexの最終的な繊維のタイターを得るためには、繊維トウは、少なくとも洗浄液が約0.3重量%のNaOH濃度を有する洗浄工程まで、張力下に保たれる(弛まない)べきであると結論付けることができる。
【0071】
向流洗浄プロセスにおける伸長のための延伸の分割に関して、ゴデットローラー(図2の0~n)の個々の速度調節は、下記いくつかの理由で重要であるとみなし得る。1)洗浄配列に沿った分割した伸長のための延伸を使用して、繊維の特性(引張強度と伸長)を最適化し、2)繊維トウの弛みを回避し、3)収縮による繊維トウの不要な高張力を回避する。従って、個々の速度調節により、洗浄工程での(それに沿った)トウの張力の厳密な制御が保証される。
【0072】
あるテスト試験では、図2に従って12回の洗浄工程(n=12)を使用して、繊維を紡糸した。伸長のための延伸を、以下の表1に示すように分割した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、延伸を4つの工程で実行して、全延伸を実質的に同じにした。洗浄浴のアルカリ度を、図5に示す。
【0075】
表1及び図5から、異なるアルカリ度で延伸が行われるように延伸を分散することにより、最終的な繊維特性に影響を与え得ることがわかる。この場合、伸長のための延伸の一部をより低いアルカリ度で行うと、繊維特性が向上するとわかる。
【0076】
繊維内での亜鉛の沈殿を回避する観点から、洗浄中にアルカリ度が徐々に低下しない場合、亜鉛が繊維内にZn(OH)の形で沈殿する可能性があることを見出した。亜鉛は水生環境に有害な可能性があるため、最終的な繊維では最小限に抑える必要がある。繊維に付随して亜鉛が失われるとプロセスでリサイクルできないため、余分なコストが発生することも重要である。
【0077】
図6a及び図6bに、凝固浴の直後に純水で洗浄した繊維(図6a)及び連続的に低下するアルカリ度を有するいくつかの洗浄浴で徐々に洗浄した繊維(図6b)のイオン研磨した繊維断面のSEM顕微鏡写真を示す。図6aでは水酸化亜鉛の多数のサブミクロン粒子が観察される一方、徐々に洗浄した繊維(図6b参照)では沈殿した粒子の兆候を示さない。
【0078】
アルカリ度が徐々に低下する洗浄方式を使用することにより、Znは、NaOHに明らかに付随し、繊維内に沈殿することなく、繊維から洗浄液中に拡散する。アルカリ度が徐々に低下する洗浄方式を使用した場合、流出洗浄液と紡糸原液のZn/Na重量比は同じ(約0.1)であることが実験的に示され、ZnはNaOHを含む溶液状態のままであることが示され、従って繊維から完全に洗浄される。その結果、50mg/kg繊維より低いZn含有量を得ることができる。
【0079】
従って、繊維内でのZnの沈殿の可能性は、洗浄浴/ユニット全体の濃度勾配に依存するとわかる。濃度勾配は、以下の要因にとりわけ依存する。
【0080】
・紡糸原液の流量に対する洗浄水の流量の比率
・洗浄工程の数
・加圧ローラーにかかる力に依存するトウに同伴する洗浄液の量
繊維トウは最大アルカリ度まで洗浄する必要があるため、上記要因は独立ではない。例えば、同じ洗浄効率で洗浄工程の数を減らすと、洗浄水と紡糸原液の比率を上げる必要があり、圧力ローラー上の力を上げると、(次の洗浄工程に同伴する洗浄液が少ないため)洗浄工程の数又は洗浄水と紡糸原液の比率を減らすことができる。
【0081】
洗浄液中に水酸化亜鉛粒子の形でZnが沈殿する場合にも、問題が発生する可能性がある。このような粒子は、沈降と、洗浄工程間の接続ライン/パイプの詰まりの可能性をもたらし得る。洗浄液が十分に動くことを確認することにより(停滞領域/区域を回避することにより)、沈降を回避し得、その後Zn粒子は洗浄液フローに従ってより高いアルカリ度の洗浄工程に進み、そこでZnが再び溶解する。これは、代替方法であり得るリサイクルのため、下流の洗浄工程で洗浄液から固体のZn粒子を抽出することを回避する手段が提供されることを意味する。更に、経済的なリサイクルのための化学物質の希釈も最小限に抑えることができる。NaOH、Zn、及びナトリウム塩のリサイクルは、洗浄液からの水の蒸発など、エネルギーを大量に消費する工程を含み得るため、希釈の程度は工程の経済性に関係する。従って、洗浄水の流量と紡糸原液の流量比(Qw/Qd)は、最小限に抑える必要がある。この点では、向流洗浄は、非常に効率的な工程である。Qw/Qdは、洗浄工程の数(n)の増加とともに減少する。Qw/Qdは、洗浄工程間の洗浄液の同伴が減少するにつれて減少し、言い換えると、圧力ローラーの圧搾力に依存する(図2参照)。プロセスの複雑さと投資コストは、nとともに増加する。圧力ローラーの力は、アルカリ度が低い洗浄プロセスの下流において高くし得る。アルカリ度が高く繊維がまだ柔らかく膨潤している洗浄プロセスの上流の加圧ローラーの力は、繊維/トウの損傷を避けるために低くする必要がある。図4は、n=12及びQw/Qd=1の一例を示す。この場合、加圧ローラーの力は、最初の3つの洗浄工程で低く、その後4~12の工程で徐々に増加し、工程1と比較して工程12で約10倍であった。
【0082】
更に、化学物質の洗い流し中における繊維間の接着の回避に関して、本発明によれば、トウが弛んだ状態ではないことを意味する張力下にあると同時に、トウのアルカリ度が洗浄することで急激に低下する場合、繊維間の接着が問題となり得ることを見出した。アルカリ度を徐々に低下させる向流洗浄を使用することにより、繊維間の接着が排除されるか、又は少なくとも最小限に抑制される。
【0083】
1つの試験装置を図7に示す。トウの束(一つの束には約20のトウ)を、図7によるV1の後に収集し、下記表2に従ってアルカリ度を徐々に低下させながら洗浄浴1~5で洗浄した。
【0084】
【表2】
【0085】
図8でBWと印付けたサンプルを直接洗浄浴#5(純水)に移した。図8でB印付けたサンプルを最初に浴#1に移し、次に浴#2~5に順番に移した。
【0086】
左側のBWと印付けたサンプルでは束内の個々の繊維トウをはっきりと識別できる一方、右側のBと印付けたサンプルでは個々のトウをほとんど識別できず、これは、トウから化学物質を徐々に洗い流すことによって、繊維間の接着を大幅に回避できることを示す。
【0087】
本発明によるプロセスでは、ステープル繊維の代わりに繊維トウを乾燥させることによって、乾燥しわによる脆い繊維を回避するための手段もまた提示する。直接溶解したセルロースから繊維を再生すると、結晶化度が高いため、硬くてやや脆い繊維が生成される(乾燥弾性率と湿潤弾性率の両方が従来のビスコース繊維よりも高くなる)。高い繊維剛性は、洗濯中の衣服の寸法安定性にプラスであると想定される。しかしながら、そのような繊維は、展開及び延伸時に応力集中を形成する乾燥しわの影響を受けやすい。ステープル繊維に沿った弱い箇所は、カーディング/スライバー形成/紡績中に、より低い引張強度、繊維の短縮、及び粉塵の発生をもたらす。
【0088】
今や、繊維をステープル繊維に切断する前にトウの形で乾燥すると、乾燥しわによる繊維の弱体化につながる応力集中を回避できることを見出した。
【0089】
実行したいくつかの繰り返し実験では、従来のビスコースプ法のようにランダムにしわの寄った繊維を乾燥すると、鋭い曲がりが実質的にない繊維トウの非拘束の乾燥(すなわち、ゼロ張力下)と比較して繊維強度の低下をもたらすことを示している。図9aは、左側に、非拘束の方法で鋭い曲がりが実質的になく繊維トウとして乾燥された繊維を示し、右側に、ランダムにしわの寄った状態で乾燥したステープル繊維を示す。図9bでは、非拘束の方法で鋭い曲がりが実質的になく乾燥され、「直線状トウの自由乾燥」として図9bで参照される繊維のcN/tex単位の引張強度(強度)を、ランダムにしわの寄った状態で乾燥したステープル繊維と比較して示す。図示のように、非拘束の方法で鋭い曲がりが実質的になく繊維トウとして乾燥され、繊維は、ランダムなしわのある状態のステープル繊維として乾燥した繊維よりも一貫して高い強度を有する。
【0090】
更に、繊維の弱さを誘発しない機械的捲縮の手段も提供される。トウを上記のように乾燥することにより、乾燥しわを回避することができる。しかしながら、カーディングやスライバー製造などの下流の操作では、巻き毛/捲縮繊維と比較して直線繊維が互いに絡まりにくいため、ウェブの凝集性が低く、捲縮のない直線状繊維を処理するのは困難である。今や、ステープル繊維に切断する前の乾燥したトウの、例えばスタッファーボックス捲縮機(図10の捲縮方式での概略図参照)を使用する機械的捲縮が救済策となる可能性があることが見出されている。
【0091】
非拘束の状態、すなわち乾燥中に張力なく、乾燥中にトウを長手方向/繊維方向に自由に収縮できるようにして乾燥した繊維トウは、強度を維持して捲縮した繊維を生成することを可能にすることを見出した。
【0092】
実行したいくつかの繰り返し実験では、非拘束の方法で、実質的に鋭い曲がりなしで乾燥した繊維トウは、図11bにおいて「自由乾燥したトウ」と称され、捲縮後の機械的特性を維持することを示している(捲縮しないトウと捲縮したトウの引張強度を比較するための図11a及び11b参照)。図11aにおいて、右のサンプルは捲縮前の乾燥繊維トウであり、左のサンプルは図10に図示されるようなスタッファーボックスによって機械的捲縮に曝した乾燥繊維トウである。図11bでは、捲縮されない多数の繊維トウサンプルのcN/tex単位の強度(引張強度)(図11bの左側の軸)を、図11bの右側の軸である機械的捲縮に曝した多数の繊維トウサンプルと比較する。図11bからわかるように、引張強度は、原則として、機械的捲縮の前後で同じである。図9a及び9bを参照して説明した試験では、乾燥中に形成された「乾燥よじれ」が繊維に沿って弱い箇所を生成することを明確に示す一方、図11a及び11bの試験では、すでに乾燥した繊維(湿度10~20%)にかなり鋭い折り目又は曲がりを捲縮機中で作成してもそのような弱い箇所を生成しないことを明確に示す。
【0093】
スタッファーボックス捲縮機を使用した捲縮に関して、スタッファーボックスに入るトウの乾燥含有量が高すぎても低すぎてもいけないことがわかった。トウの乾燥含有量が100重量%に近づくと、繊維が非常に硬くて脆くなるためスタッファーボックス中で破損する(非常に低い湿潤性。乾燥前の湿ったサンプルと、少なくとも100℃(約105℃等)で、少なくとも1時間(2時間以上等)、最大24時間、オーブンで乾燥した後との重量測定法で測定される、重量損失が蒸発水であると想定される場合)。トウの湿潤度が高すぎる(少ない乾燥含有量)場合、繊維が柔らかくなり、スタッファーボックスが詰まる。スタッファーボックスに入るトウの乾燥含有量が80~90重量%の範囲内である場合、最良の結果と円滑な加工性が得られる。
【0094】
更に、浸漬と噴霧を比較した試験で洗浄効率もまた調査した。洗浄効率Wは、以下のように計算し得る。
【0095】
【数1】
【0096】
【数2】
【0097】
これは、入るトウと出るトウとの間のNaOH濃度(又はNaCO濃度)の差を、入るトウと洗浄液との間のNaOH濃度(又はNaCO濃度)の差で割ったものに対応する。この文脈では、「入るトウ」は洗浄工程に入るトウを意味し、「出るトウ」は洗浄工程を出るトウを意味する。
【0098】
2つの異なる試験設定で注目すべきは、図12に示されるように、噴霧は、浸漬と比較して増強した洗浄効率を与えた。これら試験では、全繊維トウは243,000dtex(1.5dtexのタイターで162,000フィラメントに対応する)であった。
この繊維トウは、幅5cmに制限され、理論上のトウの厚さ48,600dtex/cmを与える。
【0099】
総洗浄時間は、図12に示す全てのサンプルで20秒であった。この時間は、浸漬のケースではトウを浸漬容器内の洗浄液に浸漬した時間、及び噴霧のケースではトウを噴霧容器内の噴霧流に曝した時間にそれぞれ関連する。更に、噴霧試験での洗浄液の流量は、328kg/hの紡糸原液の流量(=19.7kg/hの乾燥繊維(セルロース))で10,600kg/hであり、紡糸原液組成物1kgあたり10,600kg/h/328kg/h=32.3kgの洗浄液の流量に対応する。提供した流量は、例えば低くなる、高くなる等、これらの試験で使用したものとは大きく異なる可能性があることに注意されたい。更に、浸漬試験では、650リットルの洗浄液量を使用し、この量を、噴霧試験と同じ流量水準で再循環した。試験では、比較的高い液体流量水準を使用した。従って、本発明によれば、全体としてより低い水準を使用することが可能である。実際には、本発明によれば、任意のタイプの流量水準を使用してよい。
【0100】
注目すべきことに、比較試験では、噴霧洗浄での洗浄効率は、例えば約95%と高く、
80%以上に保たれ、これは、28%及び51.1%の洗浄効率をそれぞれ示した浸漬と比較する必要がある。これらの結果に基づいて、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの洗浄工程が噴霧によって行われ、好ましくは全ての洗浄工程が噴霧によって行われる。
【0101】
要約すると、本明細書に開示されるプロセス及びシステムは、いくつかの繊維の品質/特性及びリサイクルの問題を解決するための様々な好ましい手段を提供する。そのような好ましい手段のいくつかの例を、以下に要約する。
【0102】
1.最大の延伸、従って最大の繊維の引張強度は、アルカリ性の状態(トウ内の高濃度のNaOH)で繊維/トウを延伸することで得られる。しかしながら、弛みが実質的に回避されていることを意味する、繊維が延伸状態に維持されていない場合、アルカリ度を更に下げる(NaOHとナトリウム塩を洗い流す)と、誘導した配向はある程度緩和される。
【0103】
2.連続的に低下するアルカリ度での伸長のための全延伸がいくつかの工程に分割される場合、繊維の機械的特性はプラスの影響を受ける可能性がある。ゴデット1~nの個々の速度調節は、トウの弛みを回避して、トウから化学物質を洗い流すとき、起こり得る収縮によるトウに沿った不要な張力を軽減するのにも役立つ。
【0104】
3.化学物質のリサイクルの経済性を向上させるために、紡糸浴後の水による化学物質の希釈は最小限に抑える必要がある。
【0105】
4.膨潤した繊維中のアルカリ度が急速に低下して、繊維同士が接近すると、繊維間の不要な接着が誘発され、下流の操作で繊維を分離することが困難になる。従って、そのようなアルカリ度の急速な低下を回避することが好ましい。
【0106】
5.直接溶解したセルロースから繊維を凝固させると、結晶化度が高いため、硬くてやや脆い繊維が生成する(乾燥弾性率と湿潤弾性率の両方が従来のビスコース繊維よりも高くなる)。高い繊維剛性は、洗濯中の衣服の寸法安定性にプラスであると想定される。しかしながら、そのような繊維は、しわで乾燥しやすく、展開及び延伸時に応力集中を生じさせることを見出した。このようなしわは、従来のビスコース技術を適用する場合のように(ステープルに切断した繊維の洗浄及び乾燥)、繊維をランダムにしわのある状態で乾燥させると容易に形成される。ステープル繊維に沿った弱い箇所は、カーディング/スライバー形成/紡績中に、より低い引張強度、繊維の短縮、及び粉塵の発生をもたらす。繊維を切断する前に繊維トウの形で乾燥して、繊維を非拘束で乾燥することにより、そのようなしわのある乾燥を回避でき、それにより繊維強度を改善できる。
【0107】
6.しわのある乾燥は、直線状繊維を乾燥することにより、低減又は回避することができる。しかしながら、捲縮のない直線状繊維は、カーディング及びスライバー製造等の下流の操作では処理が困難である(ウェブの凝集力が弱い)。繊維の弱さを誘発しない機械的捲縮が好ましく、かつ好ましくはそのような捲縮は、繊維トウを少なくとも部分的に乾燥した後、繊維トウをステープル繊維に切断する前に行われる。
【0108】
アルカリ中に溶解したセルロースからの繊維製造、及びアルカリ凝固浴中での凝固に関連する上記問題のいくつか又は全ては、本明細書に記載の実施形態の1つ又は複数を使用することにより取り組むことができる。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11a
図11b
図12
【国際調査報告】