(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(54)【発明の名称】神経変性疾患を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220325BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20220325BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220325BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220325BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220325BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
A61P21/02
A61K48/00
A61P25/00
C07K16/00 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557334
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(85)【翻訳文提出日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 US2020024554
(87)【国際公開番号】W WO2020198270
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510144959
【氏名又は名称】ラトガース,ザ ステート ユニバーシティ オブ ニュー ジャージー
(71)【出願人】
【識別番号】521402206
【氏名又は名称】シラジーン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・イアン・ガンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】ラファル・ゴラツニアク
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA22
4C084ZA94
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA54
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
(57)【要約】
変性性脊髄症(DM)または筋萎縮性側索硬化症(ALS)を阻害、処置および/または予防するための組成物および方法が提供される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子の発現を阻害するためのU1アダプターオリゴヌクレオチドであって、前記U1アダプターオリゴヌクレオチドが、少なくとも1つのエフェクタードメインに作動可能に連結されたアニーリングドメインを含む核酸分子であり、前記アニーリングドメインが、前記スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子のプレmRNAにハイブリダイズし、前記エフェクタードメインが、U1 snRNPのU1 snRNAにハイブリダイズする、U1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記アニーリングドメインは、約10~約30ヌクレオチドの長さである、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
前記エフェクタードメインは、約8~約20ヌクレオチドの長さである、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
前記エフェクタードメインおよびアニーリングドメインは、約1~約10ヌクレオチドの結合またはリンカードメインによって連結されている、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
前記エフェクタードメインは、配列5’-CAGGUAAGUA-3’(配列番号1)、5’-CAGGUAAGUAU-3’(配列番号4)、または5’-GCCAGGUAAGUAU-3’(配列番号5)を含む、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
少なくとも1つのターゲティング部分および/または細胞透過性部位をさらに含み、前記ターゲティング部分および/または細胞透過性部分が前記U1アダプターオリゴヌクレオチドに作動可能に連結されている、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
前記U1アダプターオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つのヌクレオチドアナログを含む、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項8】
前記U1アダプターオリゴヌクレオチドは、2’-O-メチルヌクレオチド、2’-O-メチルオキシエトキシヌクレオチド、2’-ハロ(例えば、2’-フルオロ)、および/またはロックド核酸を含む、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
U1アダプターオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエートを含む、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項10】
前記アニーリングドメインは、スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子の3’末端エクソン中の標的配列とハイブリダイズする、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項11】
前記エフェクタードメインは、前記アニーリングドメインの3’末端、前記アニーリングドメインの5’末端、または前記アニーリングドメインの5’および3’末端の両方に作動可能に連結されている、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
前記アニーリングドメインは、少なくとも7つのデオキシリボヌクレオチドのストレッチを含む、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項13】
前記U1 snRNAは、U1変異体snRNAである、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項14】
前記U1アダプターオリゴヌクレオチドおよび前記ターゲティング部分および/または細胞透過性部分は、リンカーを介してコンジュゲートされている、請求項6に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
前記リンカーは、切断可能である、請求項14に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
前記ターゲティング部分および/または細胞透過性部分は、U1アダプターオリゴヌクレオチドの3’末端、5’末端、または5’および3’末端の両方に作動可能に連結されている、請求項6に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
前記ターゲティング部分および/または細胞透過性部分は、U1アダプターオリゴヌクレオチドの5’末端に作動可能に連結されている、請求項16に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
前記U1アダプターオリゴヌクレオチドは、3’末端で第1のターゲティング部分および5’末端で第2のターゲティング部分に作動可能に連結されている、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項19】
前記ターゲティング部分は、抗体またはその断片である、請求項6に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項20】
前記スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子は、イヌのである、請求項1に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項21】
前記アニーリングドメインは、配列番号8とハイブリダイズする、請求項1~20のいずれか1項に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項22】
前記U1アダプターオリゴヌクレオチドは、配列番号9を含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のU1アダプターオリゴヌクレオチド。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項に記載の少なくとも1つのU1アダプターオリゴヌクレオチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項24】
前記組成物は、前記スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子に対して向けられた少なくとも1つのsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
請求項1~22のいずれか1項に記載の少なくとも1つのU1アダプターオリゴヌクレオチドを細胞に送達することを含む、スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子の発現を阻害する方法。
【請求項26】
少なくとも2つの前記U1アダプターオリゴヌクレオチドが送達され、前記U1アダプターオリゴヌクレオチドのアニーリングドメインが、前記スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子の異なる標的配列とハイブリダイズする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項1~22のいずれか1項に記載の少なくとも1つのU1アダプターオリゴヌクレオチドを、それを必要とする対象に投与することを含む、前記対象における変性性脊髄症(DM)または筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置する方法。
【請求項28】
少なくとも2つの前記U1アダプターオリゴヌクレオチドが投与され、前記U1アダプターオリゴヌクレオチドのアニーリングドメインが、前記スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子の異なる標的配列とハイブリダイズする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子に対して向けられた少なくとも1つのsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年3月26日に出願された米国仮特許出願第62/824,066号に対する米国特許法第119条に基づく優先権を主張する。前述の出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、遺伝子サイレンシングの分野に関する。具体的には、本発明は、スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子の発現を調節するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
変性性脊髄症(DM)は、ヒトにおける筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルーゲーリッグ病)によく似たゆっくりと進行する脊髄疾患である。具体的には、DMは、多くのイヌ種が罹患し、6~12ヶ月の期間にわたり麻痺を引き起こす老齢のイヌの神経変性疾患である(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。DMは、スーパーオキシドジスムターゼ、SOD1の遺伝子における変異と非常に関連がある。この変異は、機能の喪失を引き起こさないが、SOD1タンパク質のミスフォールディングおよび凝集を引き起こし、その結果、神経細胞死に至る(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)。同様に、変異SOD1タンパク質は、ALSにおいて毒性の凝集体を導く(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。したがって、この変異した遺伝子の発現を減らすことは、重要な治療目標となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Averill,D.R.,J.Am.Vet.Med.Assoc.(1973)162(12):1045-1051
【非特許文献2】Coates,et al.,Vet.Clin.North Am.Small Anim.Prac.(2010)40(5):929-950
【非特許文献3】Coates,et al.,J.Vet.Intern.Med.(2007)21(6):1323-1331
【非特許文献4】Shelton,et al.,J.Neurol.Sci.(2012)318(1-2):55-64
【非特許文献5】Braund,et al.,Am.J.Vet.Res.(1978)39(8):1309-1315
【非特許文献6】Kohyama,et al.,J.Vet.Med.Sci.(2017)79(2):375-379
【非特許文献7】Nakamae,et al.,Neuroscience(2015)303:229-40
【非特許文献8】Crisp et al.,Exp.Neurol.(2013),248:1-9
【非特許文献9】Turner,et al.,Prog.Neurobiol.(2008)85:94-134)
【非特許文献10】Tiwari,et al.Neurodegener.Dis.(2005)2(3-4):115-27
【非特許文献11】Rakhit,et al.,Biochim.Biophys.Acta.(2006)1762(11-12):1025-37
【非特許文献12】Benkler et al.,Sci.Rep.(2018)8(1):16393
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子(SOD)の発現を阻害するための核酸分子が提供される。特定の実施形態では、核酸分子は、少なくとも1つのエフェクタードメインに作動可能に連結されたアニーリングドメインを含み、アニーリングドメインがSOD(例えば、イヌまたはヒト)のプレmRNAにハイブリダイズし、エフェクタードメインがU1 snRNPのU1 snRNAにハイブリダイズする。
【0006】
本発明の別の態様によれば、核酸分子は、ターゲティング部分に(例えば、直接またはリンカーを介して)結合されうる。ターゲティング部分は、内部ヌクレオチド、5’末端および/または3’末端を含む任意の化学的に実施可能な位置に結合されうる(例えば、核酸は、同じまたは異なる2つのターゲティング部分を含んでもよい)。特定の実施形態では、核酸分子はアプタマーに結合される。
【0007】
本発明の別の態様によれば、本発明の核酸分子の少なくとも1つを細胞に送達することを含む、SODの発現を阻害するための方法が提供される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、本発明の核酸分子の少なくとも1つと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む組成物が提供される。
【0009】
さらに別の態様では、本発明の核酸分子をコードするベクターも提供される。
【0010】
本発明の別の態様によれば、対象における神経変性疾患(例えば、変性性脊髄症(DM)または筋萎縮性側索硬化症(ALS))を処置、阻害、および/または予防する方法が提供される。方法は、治療上有効量の少なくとも1つの本発明の核酸分子(例えば、U1AOまたはU1AOをコードするベクター)を、それを必要とする対象に投与することを含む。特定の実施形態では、方法は、複数のU1AOを投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、U1アダプターオリゴヌクレオチドの2つのドメイン:3’末端エクソンの標的遺伝子のプレ-mRNAへの塩基対に対するアニーリングドメインおよび内因性U1 snRNPの結合を介してプレ-mRNAの成熟を阻害するエフェクタードメインを示すU1アダプターオリゴヌクレオチドの模式図である。エフェクタードメインの提供される配列は、配列番号1である。
【
図1B】
図1Bは、プレmRNAを標的とするU1アダプターアニーリングの模式図である。エフェクタードメインの配列は配列番号1である。
【
図1C】
図1Cは、U1アダプターがU1 snRNPを結合し、これによりポリ(A)部位の阻害に至ることを示す模式図である。Ψ=U1 snRNP中のU1 snRNAのプソイドウリジン。U1 snRNP中のU1 snRNAの提供された配列は、配列番号2である。
【
図2】イヌSOD1に関するMDCK細胞での定量的逆転写PCR(RT-qPCR)分析のグラフを提供する。cDNA量は、50ng、25ng、12.5ng、6.2ng、3.1ng、および1.5ngである。
【
図3】未処置または20nMコントロールU1AO、5nM cSOD1-1、または20nM cSOD1-2で処置したMDCK細胞におけるイヌSOD1 mRNAの発現を示すグラフである。未処置のMDCK細胞におけるイヌSOD1 mRNAの発現を100%に設定した。発現はイヌHPRT1で規格化(normalize)した。
【
図4】未処置、または20nMコントロールU1AOもしくは指示量のcSOD1-1もしくはcSOD1-2で処置されたMDCK細胞におけるイヌSOD1 mRNAの発現を示すグラフである。未処置のMDCK細胞におけるイヌSOD1 mRNAの発現を100%に設定した。発現はイヌHPRT1で規格化した。
【
図5】未処置または指示量のコントロールU1AO、cSOD1-1もしくはcSOD1-2で処置したMDCK細胞におけるイヌSOD1 mRNAの発現を示すグラフである。未処置のMDCK細胞におけるイヌSOD1 mRNAの発現を100%に設定した。発現はイヌHPRT1で規格化した。
【
図6】生理食塩水(コントロール処置、n=2)またはcSOD1-1(n=4)で処置したイヌの中枢神経系および脊髄領域の異なる領域におけるイヌSOD1 mRNAの発現を示すグラフである。生理食塩水で処置したイヌにおけるイヌSOD1 mRNA発現量を100%に設定した。発現はイヌHPRT1で規格化した。Cbl:小脳、Ctx:頭頂葉皮質、Hpc:海馬、Str:線条体、SC:脊髄、T:胸部、C:頸部、L:腰部。
【
図7A】イヌSOD1におけるU1AOの標的部位およびDNA形式のU1AO配列の例を示す。4および29行目の標的配列は、それぞれ配列番号11および8である。1~3行目、5~28行目、30~84行目のターゲット配列は、それぞれ配列番号12~93である。DNA形式で提供されるU1AO配列は、上から下に配列番号94~177である。
【
図7B】イヌSOD1におけるU1AOの標的部位およびDNA形式のU1AO配列の例を示す。4および29行目の標的配列は、それぞれ配列番号11および8である。1~3行目、5~28行目、30~84行目のターゲット配列は、それぞれ配列番号12~93である。DNA形式で提供されるU1AO配列は、上から下に配列番号94~177である。
【
図8A】ヒトSOD1におけるU1AOの標的部位およびDNA形式のU1AO配列の例を提供する。標的配列は、上から下に配列番号178~295である。DNA形式で提供されるU1AO配列は、上から下に配列番号296-413である。
【
図8B】ヒトSOD1におけるU1AOの標的部位およびDNA形式のU1AO配列の例を提供する。標的配列は、上から下に配列番号178~295である。DNA形式で提供されるU1AO配列は、上から下に配列番号296-413である。
【
図8C】ヒトSOD1におけるU1AOの標的部位およびDNA形式のU1AO配列の例を提供する。標的配列は、上から下に配列番号178~295である。DNA形式で提供されるU1AO配列は、上から下に配列番号296-413である。
【
図9】Dog-73Aの薬物動態/薬力学(PK/PD)データを提供する。上のグラフは、CNSおよび脊髄の異なる領域におけるHPRTで規格化したSOD1の発現レベルを示す。生理食塩水で処置したイヌを100%に設定した。下のグラフは、CNSおよび脊髄の異なる領域における総RNA当たりのU1AOの量を示す。Cbl:小脳、Ctx:頭頂葉皮質、Hpc:海馬、Str:線条体、SC:脊髄、T:胸部、C:頸部、L:腰部、ROB:脳の残部。
【
図10】Dog-73Eの薬物動態/薬力学(PK/PD)データを示す。上のグラフは、CNSおよび脊髄の異なる領域におけるHPRTで規格化されたSOD1の発現レベルである。生理食塩水で処置したイヌを100%に設定した。下のグラフは、CNSおよび脊髄の異なる領域における総RNA当たりのU1AOの量を示す。Cbl:小脳、Ctx:頭頂葉皮質、Hpc:海馬、Str:線条体、SC:脊髄、T:胸部、C:頸部、L:腰部、ROB:脳の残部。
【
図11】5日間で単回IT処置を行ったDog-73Cの薬物動態/薬力学(PK/PD)データを提供する。上のグラフは、CNSおよび脊髄の異なる領域におけるHPRTで規格化されたSOD1の発現レベルである。生理食塩水で処置したイヌを100%に設定した。下のグラフは、CNSおよび脊髄の異なる領域における総RNA当たりのU1AOの量を示す。Cbl:小脳、Ctx:頭頂葉皮質、Hpc:海馬、Str:線条体、SC:脊髄、T:胸部、C:頸部、L:腰部、ROB:脳の残部。
【発明を実施するための形態】
【0012】
U1アダプター(またはU1アダプターオリゴヌクレオチド(U1AO))は、アンチセンスまたはsiRNAとは機構的に異なる、オリゴヌクレオチドを介した遺伝子サイレンシング技術である。U1アダプターは、mRNAの成熟における重要なステップ:3’ポリアデノシン(polyA)テイルの付加を選択的に妨害することによって作用する。ほとんど全てのタンパク質コードmRNAはポリAテイルを必要とし、ポリAテイルが付加されないと、核内で新生mRNAが急速に分解され、それによってタンパク質生成物の発現が妨げられる。U1アダプターは、米国特許第9,441,221号、米国特許第9,078,823号、米国特許第8,907,075号、および米国特許第8,343,941号(それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。U1アダプターオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼ耐性を向上させるための広範な化学修飾およびイメージングのためのタグまたは標的細胞による受容体を介した取り込みのためのリガンドなどの嵩高い基の取り付けを、サイレンシング活性を損なうことなく受け入れることができるため、インビボでの用途に適している。
【0013】
本明細書では、SOD、特にSOD1(例えば、ヒトまたはイヌ)の発現を調節するための方法および組成物が提供される。本方法は、U1アダプターオリゴヌクレオチド/分子の使用を含む(一般に、
図1を参照)。その最も単純な形態では、U1AOは、2つのドメイン:(1)SOD遺伝子のプレmRNA(例えば末端エクソンにおける)に対する塩基対に設計されたアニーリングドメインおよび(2)内因性のU1 snRNPと結合して標的プレmRNAの3’末端形成を阻害するエフェクタードメイン(U1ドメインとも呼ばれる)を有するオリゴヌクレオチドである。理論に束縛されることなく、U1アダプターは、内因性のU1 snRNPを遺伝子特異的なプレ-mRNAに繋ぎ、その結果、複合体が適切な3’末端形成を阻害する。特に、U1 snRNPは、他のスプライセオソーム構成要素に比べて非常に豊富(約100万/哺乳動物細胞核)であり、化学量論的に過剰である。そのため、内因性のU1 snRNPの滴定することによる悪影響はない。
【0014】
U1AOは、単独で、または送達試薬(例えば:脂質ベースのトランスフェクション試薬)との複合体で細胞内に入ることができる。また、U1AOは核内に入ってプレmRNAに結合することもできる。実際、この特性は、小さな核酸分子では、オリゴが核に入ってプレmRNAに結合するRNase H経路を利用するこれらのアンチセンスアプローチなどですでに確立されている。さらに、アンチセンスオリゴは、核内のプレmRNAに結合し、変化したスプライシングパターンに導くスプライシング因子のアクセスを立体的にブロックすることが示されている(Ittig et al.(2004)Nuc.Acids Res.,32:346-53)。
【0015】
特定の実施形態では、U1アダプター分子のアニーリングドメインは、標的プレmRNA(例えば、他のプレmRNAを除外して)上のターゲティング部分に対して高い親和性および特異性を有するように設計されている。特定の実施形態では、アニーリングドメインが短すぎると親和性が損なわれ、または長すぎると「オフターゲット」効果が促進されるか、もしくは他の細胞経路を変えるため、これらの間でバランスをとらなければならない。さらに、アニーリングドメインは、エフェクタードメインの機能を妨げてはならない(例えば、塩基対形成およびヘアピン形成によって)。U1AOのアニーリングドメインには、長さに関する絶対的な要件はない。しかし、アニーリングドメインは、典型的には、約10~約50ヌクレオチドの長さ、より典型的には、約10~約30ヌクレオチドまたは約10~約20ヌクレオチドである。特定の実施形態では、アニーリングドメインは、少なくとも約13または15ヌクレオチドの長さである。アニーリングドメインは、目的の遺伝子(SOD(例えば、イヌまたはヒト))に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または、より特に、100%相補的であってもよい。一実施形態では、アニーリングドメインは、3’末端エクソン内のターゲティング部分とハイブリダイズし、これは末端コーディング領域および3’UTRおよびポリアデニル化シグナル配列(例えば、ポリアデニル化部位を介して)を含む。別の実施形態では、標的配列は、ポリ(A)シグナル配列の約500塩基対、約250塩基対、約100塩基対、または約50bp以内にある。
【0016】
イヌSOD1の例示的なアミノ酸およびヌクレオチド配列は、例えば、遺伝子ID:403559およびジェンバンク受入番号NM_001003035.1およびNP_001003035に見出すことができる。ヒトSOD1の例示的なアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、例えば、遺伝子ID:6647およびジェンバンク受入番号NM_000454およびNP_000445.1に見出すことができる。
【0017】
U1AOに対するSOD内のターゲティング部分は、本明細書において、遺伝子サイレンシングのための選択基準を用いて同定される。
図7Aおよび7Bは、最良のスコアを有するU1AOに対するイヌSOD内のターゲティング部分をリストアップしている。特定の実施形態において、アニーリングドメインは、
図7A~7Bに提供されるターゲティング部分とハイブリダイズする。
図8A~8Cは、最良のスコアを有するU1AOに対するヒトSOD内のターゲティング部分をリストアップしている。特定の実施形態において、アニーリングドメインは、
図8A~8Cに提供されるターゲティング部分とハイブリダイズする。特定の実施形態において、アニーリングドメインは、
GCTTGTGGTGTCATTGGGAT(配列番号8)または
GAAACGAGATGACTTGGGCA(配列番号11)とハイブリダイズする。アニーリングドメインは、
図7A~7Bもしくは8A~8Cまたは配列番号8もしくは配列番号11、特に配列番号8内の任意の標的配列に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または、より特に100%相補的であってもよい。アニーリングドメインは、
図7A-7Bもしくは8A-8Cまたは配列番号8もしくは配列番号11、特に配列番号8内の任意の標的配列の5’および/または3’末端に、追加のまたはより少ないヌクレオチドを含んでもよい。例えば、アニーリングドメインは、
図7A-7Bもしくは8A-8Cまたは配列番号8または配列番号11、特に配列番号8(例えば、SOD遺伝子の配列から)内の任意の標的配列の5’および/または3’末端に付加された、少なくとも1、2、3、4、5、または最大で10もしくは20ヌクレオチドを含んでもよく、または、
図7A-7Bもしくは8A-8Cまたは配列番号8もしくは配列番号11、特に配列番号8内の任意の標的配列の5’および/または3’末端から少なくとも1、2、3、4、または5ヌクレオチドの欠失を有してもよい。
【0018】
特定の実施形態では、U1AOのU1ドメインは、U1 snRNPに高親和性で結合する。特定の実施形態では、U1ドメインは、内因性U1 snRNAのヌクレオチド2~11に相補的である。特定の実施形態では、U1ドメインは、5’-CAGGUAAGUA-3’(配列番号1);5’-CAGGUAAGUAU-3’(配列番号4);5’-GCCAGGUAAGUAU-3’(配列番号5)を含む。特定の実施形態では、U1ドメインは、配列5’-CAGGUAAGUA-3’(配列番号1)を含む。特定の実施形態では、U1ドメインは、配列5’-GCCAGGUAAGUAU-3’(配列番号5)を含む。別の実施形態では、U1ドメインは、配列番号1、配列番号4、または配列番号5に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、より特に少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも97%の同一性を有する。U1ドメインは、配列番号1、配列番号4、または配列番号5に対する追加のヌクレオチド5’または3’を含んでもよい。例えば、U1ドメインは、配列番号1、配列番号4、または配列番号5に対して、少なくとも1、2、3、4、5、または最大で10もしくは20ヌクレオチド5’または3’を含んでもよい。実際、U1ドメインの長さを増加させて基部1への塩基対合および/またはU1 snRNAの位置1への塩基対合を含むことで、U1アダプターのU1 snRNPへの親和性が向上する。エフェクタードメインは、約8ヌクレオチドから約30ヌクレオチド、約10ヌクレオチドから約20ヌクレオチド、または約10ヌクレオチドから約15ヌクレオチドの長さであってもよい。例えば、エフェクタードメインは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20ヌクレオチドの長さであってもよい。
【0019】
U1ドメインへの点変異の挿入、すなわち、コンセンサス配列の配列番号1、配列番号4、または配列番号5から逸脱することで、サイレンシングを緩和することができる。実際、コンセンサス配列を変更すると、U1 snRNAに対して異なる強度および親和性のU1ドメインが生成され、それによって異なるレベルのサイレンシングが導かれる。したがって、目的の遺伝子に対してアニーリングドメインが決定されると、異なる強度の異なるU1ドメインをアニーリングドメインに取り付けて、目的の遺伝子の異なるレベルのサイレンシングをもたらすことができる。例えば、gAGGUAAGUA(配列番号3)は、配列番号1よりもU1 snRNPにより弱く結合し、したがって、より低いレベルのサイレンシングを生じるであろう。上述したように、ヌクレオチドアナログは、内因性U1 snRNPへの親和性を高めるためにU1ドメインに含めることができる。ヌクレオチドアナログの追加は、ヌクレオチドアナログが置換されたヌクレオチドと同じヌクレオチドに結合する場合、点変異とみなされなくてもよい。
【0020】
U1AOは、ヌクレアーゼに対して耐性となるように改変されうる。特定の実施形態では、U1AOは、少なくとも1つの非天然ヌクレオチドおよび/またはヌクレオチドアナログを含んでもよい。ヌクレオチドアナログは、アニーリング親和性、特異性、細胞および生物におけるバイオアベイラビリティ、細胞および/もしくは核の輸送、安定性、ならびに/または分解に対する耐性を高めるために使用されうる。例えば、オリゴヌクレオチド内にロックド核酸(LNA)塩基を含むことで、オリゴヌクレオチドのそのターゲティング部分へのアニーリングの親和性および特異性が高まることは十分に確立されている(Kauppinen et al.(2005)Drug Discov.Today Tech.,2:287-290;Orum et al,(2004) Letters Peptide Sci.,10:325-334)。RNAiおよびRNase Hベースのサイレンシング技術とは異なり、U1AOの阻害は酵素活性を含まない。そのため、RNAiおよびRNase Hベースのサイレンシング技術のオリゴと比較して、U1AOに用いることができる許容されるヌクレオチドアナログには、かなり大きな柔軟性がある。
【0021】
ヌクレオチドアナログとしては、限定されないが、1つまたはそれ以上のホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホジエステル、メチルホスホネート、ホスホロアミデート、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアリデート(phosphoroaridate)、モルホリノ、アミデートカルバメート、カルボキシメチル、アセトアミデート、ポリアミド、スルホネート、スルホンアミド、スルファメート、ホルムアセタール(formacetal)、チオホルムアセタール(thioformacetal)、および/またはアルキルシリル置換を含むリン酸塩修飾を有するヌクレオチド(例えば、Hunziker and Leumann(1995)Nucleic Acid Analogues:Synthesis and Properties,in Modern Synthetic Methods,VCH,331-417;Mesmaeker et al.(1994)Novel Backbone Replacements for Oligonucleotides,in Carbohydrate Modifications in Antisense Research,ACS,24-39参照);修飾された糖を有するヌクレオチド(例えば、米国特許出願公開第2005/0118605号参照)ならびに2’-O-メチル(2’-O-メチルヌクレオチド)、2’-O-メチルオキシエトキシ、および2’-ハロ(例えば、2’-フルオロ)などの糖修飾を有するヌクレオチド;ならびに、限定されないが、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ核酸、シクロヘキセニル核酸、アンヒドロヘキシトール核酸、グリコール核酸、トレオース核酸、およびロックド核酸(LNA)などのヌクレオチド模倣物(例えば、米国特許出願公開第2005/0118605号を参照)が挙げられる。また、他のヌクレオチド修飾は、米国特許第5,886,165号;同第6,140,482号;同第5,693,773号;同第5,856,462;同第5,973,136号;同第5,929,226号;同第6,194,598号;同第6,172,209号;同第6,175,004号;同第6,166,197号;同第6,166,188号;同第6,160,152号;同第6,160,109号;同第6,153,737号;6,147,200号;同第6,146,829号;同第6,127,533号;および同第6,124,445号に記載されている。特定の実施形態において、U1AOは、少なくとも1つのロックド核酸を含む。特定の実施形態において、アニーリングドメインは、少なくとも1つのロックド核酸を含む(場合により、エフェクタードメインがロックド核酸を含まない場合)。特定の実施形態では、U1AO、特にアニーリングドメインは、2~4ヌクレオチド、特に3ヌクレオチドの間隔をおいてロックド核酸を有する。
【0022】
特に、エフェクタードメインがmRNAのターゲティング部分またはターゲティング部分のすぐに隣接する部位に大きな親和性を有するU1アダプターを設計しないように注意する必要がある。言い換えれば、エフェクタードメインと、標的プレ-mRNA、特にアニーリング部位の上流に隣接する部分との塩基対合可能性が最小になるように、ターゲティング部分を選択する必要がある。
【0023】
また、U1AOのサイレンシング能力を高めるために、U1AOは、単一のU1アダプター内でのヘアピンの形成、および/または、2つまたはそれ以上のU1アダプター間でのホモダイマーもしくはホモポリマーの形成を防ぐように、自己アニーリングが低くなるように設計する必要がある。
【0024】
また、U1AOのアニーリングドメインおよびエフェクタードメインは、エフェクタードメインがアニーリングドメインの5’末端および/または3’末端にあるように連結されうる。さらに、アニーリングドメインとエフェクタードメインは、リンカードメインを介して作動可能に連結されうる。リンカードメインは、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、最大15、最大20、または最大25のヌクレオチドを含んでもよい。
【0025】
U1AOは、リボヌクレオチドおよび/またはデオキシヌクレオチドを含んでもよい。本明細書で提供される配列に関して、ウラシル塩基とチミジン塩基とは、交換されうる。特定の実施形態では、U1AOは、2’-O-メチルヌクレオチド、2’-O-メチルオキシエトキシヌクレオチド、2’-ハロ(例えば、2’-フルオロ)、および/またはロックド核酸を含む。特定の実施形態では、U1AOは、2’-O-メチルヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、U1AOは、ホスホロチオエート(例えば、ホスホロチオエートは、2~4ヌクレオチド、特に3ヌクレオチドの間隔を空けてもよい)を含む。
【0026】
特定の実施形態では、U1AOは、
図7A~7Bまたは8A~8Cに提供されるU1AO(特にRNA)を含む。特定の実施形態では、U1AOは以下を含む:
AUCCCAAUGACACCACAAGCGCCAGGUAAGUAU(配列番号9)または
UGCCCAAGUCAUCUCGUUUCGCCAGGUAAGUAU(配列番号10)。
【0027】
別の実施形態では、U1AOは、
図7A~7Bもしくは8A~8Cまたは配列番号9もしくは配列番号10、特に配列番号9で提供されるU1AO配列と、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、さらに特に少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%またはそれ以上の同一性を有する。本明細書で提供される配列に関しては、ウラシル塩基とチミジン塩基とは、交換されうる。特定の実施形態では、U1AOは、少なくとも1つまたはすべてのヌクレオチドアナログを含む。特定の実施形態では、U1AOは、2’-O-メチルヌクレオチド、2’-O-メチルオキシエトキシヌクレオチド、2’-ハロ(例えば、2’-フルオロ)、および/またはロックド核酸を含む。特定の実施形態では、U1AOは、2’-O-メチルヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、U1AOは、ホスホロチオエート(例えば、ホスホロチオエートは、2~4ヌクレオチド、特に3ヌクレオチドで間隔を空けてもよい)を含む。特定の実施形態では、U1AOは、実施例に記載されたように修飾される。
【0028】
本発明の別の実施形態では、目的の遺伝子(SOD)を対象とする複数のU1AOを用いて発現を調節してもよい。同じプレmRNA中の異なる配列への複数のU1AOのターゲティング(アニーリング)は、強化された阻害を提供することができる。本発明の組成物は、SOD遺伝子を対象とする複数のU1AO(例えば、SOD遺伝子内の異なる標的)を含んでもよい。
【0029】
さらに別の実施形態では、U1AOは、目的の遺伝子の発現を調節する他の方法と組み合わせることができる。例えば、U1AOは、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどの他の阻害性核酸分子またはRNase Hベースの方法、RNAi、miRNA、およびモルフォリノベースの方法と連携して使用して、阻害を強化することができる。U1AOは、これらの他のアプローチとは異なる機構を利用しているため、組み合わせた使用では、単一の阻害剤の単独での使用と比較して、遺伝子発現の阻害が強化されることになる。実際、U1AOは核内の生合成ステップを標的としているのに対し、RNAiおよびある種のアンチセンスアプローチは、一般的に細胞質での安定性または既存のmRNAプールの翻訳性を標的としている。
【0030】
本発明の別の態様では、U1アダプターのエフェクタードメインは、遺伝子発現を調節する多数の核因子のいずれか1つの結合部位と置き換えることができる。例えば、ポリピリミジン管結合タンパク質(PTB)の結合部位は短く、PTBはポリ(A)部位を阻害することが知られている。したがって、エフェクタードメインを親和性の高いPTB結合部位で置き換えることで、標的遺伝子の発現も抑制することができる。
【0031】
本明細書において上記された標準的なU1 snRNAとは配列が変化したU1 snRNA遺伝子が存在する。これらのU1 snRNA遺伝子は、総称してU1変異体遺伝子と呼ぶことができる。いくつかのU1変異体遺伝子は、ジェンバンク受入番号L78810、AC025268、AC025264およびAL592207ならびにKyriakopoulouら(RNA(2006)12:1603-11)に記載されており、これはヒトゲノム中に200個近くの潜在的なU1 snRNA様遺伝子を同定している。これらのU1変異体のいくつかは、標準的なU1 snRNAとは異なる5’末端配列を有するため、一つの妥当な機能は、プレmRNAスプライシングの際に代替スプライスシグナルを認識することである。したがって、本発明のU1AOのU1ドメインは、本明細書に記載されたように、標準的なU1 snRNAとハイブリダイズするように設計されたU1ドメインと同じ方法で、U1変異体snRNAの5’末端とハイブリダイズするように設計されうる。次いで、U1変異体にハイブリダイズするU1AOを用いて、目的の遺伝子の発現を調節してもよい。
【0032】
U1アダプターの技術は、他の既存のサイレンシング技術に比べて多くの利点がある。これらの利点のいくつかは、以下のとおりである。第一に、U1AOは2つの独立したドメイン:(1)アニーリング(ターゲティング)活性および(2)阻害活性に分かれており、それによって、阻害活性に影響を与えることなくアニーリングを最適化することができ、その逆も同様である。第二に、他の技術と比較して、同じ遺伝子を標的にする2つのU1AOを使用すると、相加的、さらに相乗的な阻害が得られる。第三に、U1AOは新規の阻害機構を有している。したがって、他の方法と組み合わせて使用したときに、適合性があるであろう。第四に、U1AOは、ポリ(A)テイル付加(3’末端処理とも呼ばれる)という重要でほぼ普遍的なプレmRNAの成熟ステップを阻害することによって、mRNAの生合成を阻害する。
【0033】
本発明の組成物は、本発明の少なくとも1つのU1AOと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む。組成物は、目的の遺伝子(SOD)の発現を阻害する少なくとも1つの他の薬剤をさらに含んでもよい。例えば、組成物は、目的の遺伝子(SOD)に対して向けられた少なくとも1つのsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドをさらに含んでもよい。
【0034】
本発明のU1AOは、裸のポリヌクレオチドとして、単独で、細胞または動物およびヒトを含む生物に投与されうる。U1AOは、細胞によるその取り込みを促進する薬剤と共に投与されうる。特定の実施形態では、U1AOは、リポソーム、ナノ粒子、またはポリマー組成物の中に含まれうる。
【0035】
別の実施形態では、U1AOは、プラスミドまたはウイルスベクターなどの発現ベクターで、細胞またはヒトもしくはイヌを含む動物に送達されうる。例えば、U1AOは、プラスミドまたはウイルスのようなベクターから発現させることができる。このような短いRNAをプラスミドまたはウイルスから発現させることは常套手段になっており、U1AOの発現に容易に適応させることができる。RNA分子を発現させるための発現ベクターは、構成的または制御されうる強力なプロモーターを使用してもよい。このようなプロモーターは、当技術分野でよく知られており、RNAポリメラーゼIIプロモーター、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、およびRNAポリメラーゼIIIプロモーターU6およびH1が含まれるが、これらに限定されない。ウイルスを介した送達には、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、レンチウイルス、ポリオウイルス、およびヘルペスウイルスなどに基づくベクターの使用が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の医薬組成物は、任意の適切な経路で投与することができ、例えば、注射(例えば、静脈内、脳室内、および筋肉内)、経口、肺、鼻、直腸、または他の投与方法によって投与することができる。本組成物は、SODのダウンレギュレーションによって処置することができる疾患または障害(例えば、DMまたはALSなどの神経変性疾患)の処置のために投与することができる。本組成物は、インビトロ、インビボ、および/またはエクスビボで使用することができる。エクスビボでの使用に関しては、本発明のU1AO(またはそれを含む組成物)は、自己細胞に送達され(場合により、対象から細胞を得るステップを含む)、その後、対象に再導入されてもよい。また、本発明の組成物、U1AO、および/またはベクターは、キットに含まれうる。
【0037】
また、本発明は、対象における疾患または障害(例えば、DMまたはALSなどの神経変性疾患)を処置、阻害(遅らせるまたは減らす)、および/または予防する方法を包含する。特定の実施形態において、本方法は、治療上有効な量の本発明の少なくとも1つの組成物を、それを必要とする対象(例えば、動物(例えば、イヌ)またはヒト)に投与することを含む。特定の実施形態では、組成物は、本発明の少なくとも1つのU1AOと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む。
【0038】
本方法は、標的SOD遺伝子の発現を阻害する少なくとも1つの他の薬剤を投与することをさらに含んでもよい。例えば、この方法は、SOD遺伝子に対して向けられた少なくとも1つのsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与をさらに含んでもよい。また、方法は、少なくとも1つの他の治療薬(例えば、疾患または障害(例えば、DMまたはALSなどの神経変性疾患)に対する症状緩和治療薬(例えば、エダラボン(ラジカヴァ(登録商標))および/またはリルゾール(リルテック(登録商標))))の投与を含んでもよい。特定の実施形態では、治療薬はU1AOに結合している(例えば、直接またはリンカーを介して;例えば、3’末端および/または5’末端で)。治療薬は、別々の組成物(例えば、少なくとも1つの薬学的に許容される担体と一緒に)または同じ組成物で投与してもよい。治療薬は、U1AOと同時におよび/または連続的に投与してもよい。
【0039】
本明細書で述べたように、本発明のU1AOは、単独で(裸のポリヌクレオチドとして)投与してもよいし、または細胞によるその取り込みを強化する薬剤と一緒に投与してもよい。特定の実施形態では、U1AOは、ミセル、リポソーム、ナノ粒子、またはポリマー組成物などの送達ビヒクル内に含まれうる。特定の実施形態では、U1AOは、デンドリマー、特にポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーおよびポリプロピレンイミン(PPI)デンドリマー(例えば、第2世代、第3世代、第4世代、または第5世代)などのカチオン性デンドリマーと複合体形成される(例えば、その中に含まれる、またはそれによってカプセル化される)。特定の実施形態では、U1AOは、PPI-G2と複合体形成される。
【0040】
特定の実施形態では、U1AOは、特定の細胞タイプ(例えば、ニューロン)に標的化される。特定の実施形態では、U1AOは、少なくとも1つのターゲティング部分に共有結合される(例えば、直接またはリンカーを介して)。ターゲティング部分は、5’末端、3’末端、もしくは両末端に、または内部ヌクレオチドに作動可能に連結されうる。特定の実施形態では、1つまたはそれ以上のターゲティング部分が、U1AOの1つの末端に(例えば、単一のリンカーを介して)結合される。特定の実施形態では、U1AOを含む複合体(例えば、デンドリマー、ミセル、リポソーム、ナノ粒子、またはポリマー組成物)は、少なくとも1つのターゲティング部分に共有結合される(例えば、直接またはリンカーを介して)。
【0041】
一般に、リンカーは、共有結合またはターゲティング部分などの2つの化合物をU1AOまたは複合体に共有結合させる原子の鎖を含む化学的部分である。リンカーは、ターゲティング部分とU1AOまたは複合体(ビヒクル)の合成上可能な任意の位置に連結することができる。特定の実施形態では、リンカーは、アミン基および/またはスルフヒドリル/チオール基、特にスルフヒドリル/チオール基を介して、ターゲティング部分とU1AOまたは複合体とを連結する。例えば、U1AOは、1つまたはそれ以上のアミノ基またはチオ基で(例えば、5’末端で)誘導体化されうる。特定の実施形態では、リンカーは、ターゲティング部分またはU1AOの活性をブロックすることを回避する位置に取り付けられる。特定の実施形態では、リンカーは、内部ヌクレオチド、5’末端、および/または3’末端に取り付けられる。例示的なリンカーは、少なくとも1つの場合により置換された;飽和または不飽和の;直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、または場合により置換されたアリール基を含みうる。また、リンカーは、ポリペプチド(例えば、約1から約20個のアミノ酸もしくはそれ以上、または1から約5個)であってもよい。リンカーは、生理的環境または条件下で生分解性(切断可能(例えば、ジスルフィド結合を含む))であってもよい。特定の実施形態では、リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)(単独または別のリンカーと組み合わせて)を含む。特定の実施形態では、リンカーは、LC-SPDP(スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート)などのSPDP(N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオナート)リンカー、またはLC-SMCC(スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシ-(6-アミドカプロエート))などのSMCC(スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)リンカーである。また、リンカーは、非分解性(切断不可能)であってもよく、共有結合または生理的な環境もしくは条件下で実質的に切断されない、もしくは全く切断されない他の化学構造であってもよい。
【0042】
本発明のターゲティング部分は、関連する組織(例えば、神経)または器官(例えば、脳)に優先的に結合する。特定の実施形態では、ターゲティング部分は、標的細胞上で特異的に(例えば、唯一)発現するマーカー、または他の細胞と比較して標的細胞上でアップレギュレートされるマーカーに特異的に結合する。特定の実施形態では、ターゲティング部分は、標的細胞上の表面タンパク質、または標的細胞上で他の細胞、組織、もしくは器官よりも高いレベルで(またはより高い密度で)発現する表面タンパク質に対して免疫学的に特異的な抗体または抗体断片である。また、抗体または抗体断片は、治療用抗体(例えば、それ自体が治療効果を有するもの)であってもよい。特定の実施形態では、ターゲティング部分は、標的細胞上の細胞表面受容体に対するリガンドまたはその結合断片である。特定の実施形態では、ターゲティング部分はアプタマーである。
【0043】
本発明のU1AOは、さらに他の望ましい化合物にコンジュゲートしてもよい。例えば、U1AOは、検出可能な薬剤、治療薬(例えば、モノクローナル抗体、ペプチド、タンパク質、阻害性核酸分子、小分子、化学療法剤など)、キャリアタンパク質、ならびにバイオアベイラビリティ、安定性、および/または吸収を改善する薬剤(例えば、PEG)に(直接または上述のリンカーを介して)さらにコンジュゲートしてもよい。追加の化合物は、U1AOの合成上可能ないずれかの位置に取り付けてもよい(または(例えば、U1アダプター(例えば、末端または内部ヌクレオチドのいずれか)またはターゲティング部分にコンジュゲートさせる)。あるいは、ターゲティング部分およびU1AOは、それぞれ個別に追加の化合物(例えば、キャリアタンパク質)に結合される(このように、追加の化合物は、U1AOとターゲティング部分との間のリンカーとして機能すると考えることができる)。特定の実施形態では、U1AOは、一方の末端でターゲティング部分(例えば、ニューロンターゲティング部分)に、そして場合により、もう一方で治療剤にコンジュゲートさせる。好ましくは、追加の化合物の付加は、U1AOまたはターゲティング部分の活性に著しく影響しない。検出可能な薬剤は、直接的または間接的に、特に直接的に検定することができる任意の化合物またはタンパク質でありうる。検出可能な薬剤としては、例えば、化学発光性、生物発光性、および/または蛍光性の化合物またはタンパク質、イメージング剤、コントラスト剤、放射性核種、常磁性または超常磁性イオン、同位体(例えば、放射性同位体(例えば、3H(トリチウム)および14C)または安定同位体(例えば、2H(重水素)、11C、13C、17Oおよび18O))、光学剤、および蛍光剤などが挙げられる。
【0044】
キャリアタンパク質には、アルブミン、血清アルブミン(例えば、ウシ、ヒト)、オバルブミン、およびキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、キャリアタンパク質はヒト血清アルブミンである。キャリアタンパク質(ならびに他のタンパク質またはペプチド)は、任意の合成上可能な位置で(例えば、直接または上述のリンカーを介して)U1AO(または複合体)にコンジュゲートされてもよい。例えば、リンカー(例えば、PEGまたはLC-SPDP)をキャリアタンパク質のリジンに見られる遊離のアミノ基に結合させ、次いで、U1AOおよびターゲティング部分をリンカーにコンジュゲートさせてもよい。あらゆる未反応のリンカーは、システインでブロックして不活性化してもよい。特定の実施形態では、キャリアタンパク質(例えば、アルブミン)は、PEGリンカーを介してU1AOに結合される。
【0045】
本発明のU1AOは、U1AOを所望の細胞タイプに標的化する、および/またはU1AOの細胞取り込みを促進する(例えば、細胞透過性部分)化合物(例えば、抗体、ペプチド、タンパク質、核酸分子、小分子など)に(例えば、直接またはリンカーを介して)コンジュゲートされうる。ターゲティング部分は、5’末端、3’末端、もしくは両末端、または内部ヌクレオチドに作動可能に連結されうる。特定の実施形態では、ターゲティング部分および/または細胞透過性部分は、5’末端および/または3’末端にコンジュゲートされる。特定の実施形態では、ターゲティング部分および/または細胞透過性部分は、5’末端にコンジュゲートされる。特定の実施形態では、U1AOは、ターゲティング部分および細胞透過性部分の両方にコンジュゲートされる。本明細書では、「細胞透過剤」または「細胞透過性部位」という用語は、細胞外空間から細胞内への化合物の移動を媒介する化合物または官能基を指す。特定の実施形態では、U1AOはアプタマーにコンジュゲートされる。アプタマーは、所望の細胞タイプの表面化合物またはタンパク質(例えば、受容体)に標的化されうる(例えば、表面化合物またはタンパク質は、標的とする細胞タイプの表面で優先的または排他的に発現されうる)。特定の実施形態では、アプタマーは、細胞透過性アプタマー(例えば、C1またはOtter(例えば、Burke,D.H.(2012)Mol.Ther.,20:251-253))参照)である。特定の実施形態では、U1AOは、細胞透過性ペプチド(例えば、Tatペプチド(例えば、YGRKKKRRQRRRPPQ;配列番号6(場合によりN末端でアセチル化されている))、ペネトラチン(例えば、RQIKIWFQNRRMKWKKGG;配列番号7)、短い両親媒性ペプチド(例えば、Pep-およびMPG-ファミリーから)、オリゴアルギニン(例えば、4~12個の連続したアルギニン)、オリゴリジン(例えば、4~12個の連続したリジン))コンジュゲートされる。特定の実施形態では、U1AOは、ビオチン(ターゲティング抗体の一部として)または非極性蛍光基(例えば、Cy3またはCy5などのシアニン)などの小分子、または他の細胞透過性剤にコンジュゲートされる。
【0046】
特定の実施形態では、U1AOの3’末端および5’末端の少なくとも1つは、遊離SH基を含む。
【0047】
本明細書に記載されたU1AO(それを含むビヒクルを含む)は、一般に、医薬製剤として患者に投与される。本明細書で使用される用語「患者」および「対象」には、ヒトおよび動物が含まれる。これらのU1アダプターは、医師または獣医師の指導の下、治療的に用いることができる。
【0048】
本発明のU1AOを含む組成物は、任意の薬学的に許容される担体と共に投与するために都合よく製剤化されうる。例えば、U1AOは、水、緩衝生理食塩水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、油、洗剤、懸濁剤、またはそれらの適切な混合物などの許容されうる媒体と共に製剤化されうる。選択された媒体中のU1AOの濃度は変えてもよく、媒体は、医薬製剤の望ましい投与経路に基づいて選択しうる。なんらかの従来の媒体または薬剤が投与されるU1AOと相容れない場合を除き、医薬製剤中のそれらの使用が考えられる。
【0049】
特定の対象への投与に適した本発明によるU1AOの用量および投与レジメンは、対象の年齢、性別、体重、一般的な医学的状態、ならびにU1AOが投与される特定の状態およびその重症度を考慮して、医師または獣医師が決定することができる。また、医師または獣医師は、投与経路、医薬担体、およびU1AOの生物学的活性を考慮してもよい。
【0050】
また、適切な医薬製剤の選択は、選択された投与方法にも依存する。例えば、本発明のU1AOは、所望の部位(例えば、脳)への直接注射によって投与されうる。この場合、医薬製剤は、注射部位に適合する媒体中に分散されたU1AOを含む。本発明のU1AOは、あらゆる方法によって投与することができる。例えば、本発明のU1AOは、非経口的に、皮下に、経口的に、局所的に、肺に、直腸に、膣に、静脈内に、脳室内に、頭蓋内に、腹腔内に、髄腔内に、大脳内に、硬膜外に、筋肉内に、皮内に、または頸動脈内に投与することができるが、これらに制限されない。特定の実施形態では、投与方法は、直接注射(例えば、CNS、脊椎または脳への)または髄腔内投与である。注射用の医薬製剤は当技術分野で知られている。U1AOを投与する方法として注射を選択した場合、生物学的効果を発揮するために十分な量の分子または細胞が標的細胞に確実に到達するように手順を踏む必要がある。
【0051】
本発明のU1AOを有効成分として薬学的に許容される担体との密接な混合物中の医薬組成物は、従来の医薬配合技術に従って調製することができる。担体は、投与が望まれる製剤の形態、例えば、静脈内、経口、直接注射、頭蓋内、脳室内、髄腔内、および硝子体内の多様な形態をとることができる。
【0052】
本発明の医薬製剤は、投与を容易にし、用量を均一にするために、用量単位形態で製剤化することができる。本明細書で使用する用量単位形態とは、処置を受ける患者に適した医薬製剤の物理的に離散した単位を意味する。各用量は、選択された医薬担体と共同して所望の効果をもたらすように計算された活性成分の量を含まなければならない。適切な用量を決定するための手順は、当業者によく知られている。
【0053】
用量単位は、患者の体重に基づいて比例的に増加または減少させることができる。特定の病理学的状態の緩和のための適切な濃度は、当技術分野で知られているように、用量濃度曲線の計算によって決定されうる。
【0054】
本発明に従って、U1AOの投与のための適切な用量単位は、動物モデルにおける分子または細胞の毒性を評価することによって決定されうる。医薬製剤中の様々な濃度のU1AOをマウスに投与し、処置の結果として観察された有益な結果および副作用に基づいて、最小および最大用量が決定されうる。また、他の標準的な薬物と組み合わせたU1AO処置の有効性を評価することによって、適切な用量単位が決定されうる。U1AOの用量単位は、検出された効果に応じて個別に、または各処置と組み合わせて決定されうる。
【0055】
U1AOを含む医薬製剤は、適切な間隔で、例えば、病的な症状が軽減または緩和されるまで、少なくとも1日2回またはそれ以上投与し、その後、用量を維持レベルまで減少させてもよい。適切な間隔は、通常、患者の状態によって異なる。
【0056】
定義
単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別のことを示す場合を除き、複数形の言及を含む。
【0057】
本明細書で使用される「核酸」または「核酸分子」とは、一本鎖または二本鎖のいずれかのあらゆるDNAまたはRNA分子、および一本鎖の場合、直鎖状または環状形態のいずれかの相補的配列の分子を指す。核酸分子を議論する際、特定の核酸分子の配列または構造は、5’から3’方向に配列を提供する通常の慣例に従って、本明細書に記載することができる。本発明の核酸については、用語「単離された核酸」が用いられることがある。この用語は、DNAに適用される場合、それが起源となった生物の自然発生的なゲノム中で直接的に隣接する配列から分離されたDNA分子を意味する。例えば、「単離された核酸」は、プラスミドもしくはウイルスベクターなどのベクターに挿入された、または原核細胞もしくは真核細胞もしくは宿主生物のゲノムDNAに組み込まれたDNA分子を含んでもよい。
【0058】
RNAに適用される場合、用語「単離された核酸」は、上記で定義された単離されたDNA分子によってコードされたRNA分子を指すことがある。あるいは、この用語は、自然な状態(すなわち、細胞または組織内)で会合している他の核酸から十分に分離されたRNA分子を指すこともある。単離された核酸(DNAまたはRNAのいずれか)は、さらに、生物学的または合成的手段によって直接生成され、その生成中に存在する他の成分から分離された分子を表すこともある。
【0059】
「ベクター」とは、プラスミド、コスミド、バクミド、ファージ、ウイルスなどの遺伝因子であり、これに別の遺伝子配列または遺伝因子(DNAまたはRNAのいずれか)を取り付けてもよい。ベクターは、取り付けた配列または因子の複製をもたらすように、レプリコンであってもよい。
【0060】
「発現オペロン」とは、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(例えば、ATGまたはAUGコドン)、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなどの転写および翻訳制御配列を有していて、宿主細胞または生物における核酸またはポリペプチドコード配列の発現を促進することができる核酸セグメントのことである。「発現ベクター」とは、宿主細胞または生物における核酸またはポリペプチドコード配列の発現を促進するベクターのことである。
【0061】
本明細書で使用する用語「オリゴヌクレオチド」は、本発明の核酸配列、プライマー、およびプローブのことであり、2つまたはそれ以上のリボまたはデオキシリボヌクレオチド、好ましくは3つより多いリボまたはデオキシリボヌクレオチドで構成される核酸分子として定義される。オリゴヌクレオチドの正確なサイズは、様々な要因ならびにオリゴヌクレオチドの特定の用途および使用方法によって異なる。
【0062】
語句「低分子干渉RNA(siRNA)」とは、短い(典型的には30ヌクレオチド未満の長さ、より典型的には約21~約25ヌクレオチドの長さ)二本鎖RNA分子のことである。典型的には、siRNAは、siRNAが標的とする遺伝子の発現を調節する。「低分子ヘアピン型RNA」または「shRNA」という用語は、siRNAと、少なくとも1つ、典型的には1~10ヌクレオチドの一本鎖ループ部分を含むヘアピン構造に折り畳まれた単一のRNA分子であるsiRNA前駆体のことである。
【0063】
用語「RNA干渉」または「RNAi」は、一般に、二本鎖RNAを介して標的分子(例えば、標的遺伝子、タンパク質またはRNA)がダウンレギュレートされる、配列特異的または選択的なプロセスのことである。典型的にRNAi活性を促進する二本鎖RNA構造は、siRNA、shRNA、マイクロRNA、およびRNA干渉によって標的転写物の発現を阻害する低分子RNA種を得るために処理することができる他の二本鎖構造である。
【0064】
用語「アンチセンス」は、ワトソン-クリック塩基対によってRNA中の標的配列にハイブリダイズして、標的配列、典型的にはmRNAと共にRNA:オリゴヌクレオチドヘテロ二本鎖を形成する配列を有するオリゴヌクレオチドのことである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列に対して正確な配列相補性または近い相補性を有してもよい。これらのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの翻訳をブロックまたは阻害し、および/または、mRNAの処理を変更してmRNAのスプライスバリアントを生成することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には、約5~約100ヌクレオチドの長さであり、より典型的には、約7~約50ヌクレオチドの長さであり、さらに典型的には、約10ヌクレオチド~約30ヌクレオチドの長さである。
【0065】
用語「実質的に純粋」とは、所定の物質(核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質など)を少なくとも50~60重量%含む調製物のことである。より好ましくは、調製物は、所定の化合物を少なくとも75重量%、最も好ましくは90~95重量%含む。純度は、所定の化合物に適した方法(例えば、クロマトグラフィー法、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC分析など)によって測定される。
【0066】
用語「単離された」は、それが自然に会合している他の化合物から十分に分離された化合物または複合体のことでありうる。「単離された」とは、他の化合物もしくは物質との人工的もしくは合成的な混合物、または基本的な活性もしくはその後のアッセイを妨げない、例えば、不完全な精製もしくは安定剤の添加のために存在しうる不純物の存在を排除することを意味するわけではない。
【0067】
用語「遺伝子」は、エクソンおよび(場合により)イントロン配列の両方を含むポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸のことである。また、核酸は、プロモーター配列またはエンハンサー配列などの非コーディング配列を含むこともありうる。用語「イントロン」とは、タンパク質に翻訳されずに、一般的にエクソンの間に見出される特定の遺伝子中に存在するDNA配列のことである。
【0068】
本明細書に使用する場合、用語「アプタマー」は、ワトソン-クリック塩基対合以外の相互作用により、タンパク質などの標的に特異的に結合する核酸のことである。特定の実施形態では、アプタマーは、サンプル中の他の分子を全般的に除外して、1つまたはそれ以上の標的(例えば、タンパク質またはタンパク質複合体)に特異的に結合する。アプタマーは、RNA、DNA、修飾核酸、またはそれらの混合物などの核酸であってもよい。また、アプタマーは、直鎖状または環状の核酸であってもよく、一本鎖または二本鎖であってもよい。アプタマーは、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40またはそれ以上の長さのオリゴヌクレオチドを含んでもよい。アプタマーは、最大40、最大60、最大80、最大100、最大150、最大200またはそれ以上のヌクレオチドの長さの配列を含んでもよい。アプタマーは、約5~約150ヌクレオチド、約10~約100ヌクレオチド、または約20~約75ヌクレオチドの長さであってもよい。本明細書では、アプタマーは核酸分子(例えば、オリゴヌクレオチド)アプタマーとして議論するが、ペプチドアプタマーなど、核酸アプタマーの代わりにアプタマー等価物を使用することもできる。
【0069】
本明細書で使用される語句「作動可能に連結された」は、別の核酸配列と機能的な関係に置かれた核酸配列のことでありうる。作動可能に連結されうる核酸配列の例としては、プロモーター、転写ターミネーター、エンハンサーまたはアクチベーター、および転写され、適切な場合、翻訳されたときに、タンパク質、リボザイムまたはRNA分子などの機能的産物を産生する異種遺伝子が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0070】
「薬学的に許容される」とは、連邦政府または州政府の規制当局による承認を示す。「薬学的に許容される」薬剤は、米国薬局方または他の一般に認められた薬局方において、動物、より詳しくはヒトへの使用について記載されてもよい。
【0071】
「担体」とは、例えば、本発明の活性剤が投与される希釈剤、防腐剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、賦形剤、補助剤またはビヒクルのことである。このような医薬用担体は、水および油などの無菌液体であることができ、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油などの石油、動物、植物、合成由来のものを含む。また、水または生理食塩水、デキストロースおよびグリセロール水溶液は、担体として用いることができる。適当な医薬用担体は、例えば、E.W.Martinの「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0072】
「抗体」または「抗体分子」とは、特定の抗原に結合する抗体およびその断片(例えば、免疫学的に特異的な断片)を含む、あらゆる免疫グロブリンである。本明細書で使用する場合、抗体または抗体分子は、無傷の免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の融合体を企図している。この用語には、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、シングルドメイン(Dab)、および二重特異性抗体が含まれる。本明細書で使用する場合、抗体または抗体分子は、組換え生成された無傷の免疫グロブリン分子ならびに限定されるわけではないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、F(v)、scFv、scFv2、およびscFv-Fcなどの免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を企図している。
【0073】
抗体に関しては、用語「免疫学的に特異的」とは、目的のタンパク質または化合物の1つまたはそれ以上のエピトープに結合するが、抗原性生物学的分子の混合集団を含む試料中の他の分子を実質的に認識および結合しない抗体のことである。
【0074】
用語「処置する」とは、化合物が患者の疾患を緩和、軽減、および/または進行を遅らせる能力のことである。言い換えれば、用語「処置する」は、疾患の進行を抑制および/または逆転させることである。
【0075】
以下の実施例は、本発明を実施する例示的な方法を説明するものであり、本発明の範囲をいかなる形でも限定することを意図していない。
【0076】
実施例1
ここでは、U1アダプターオリゴヌクレオチド(U1AO)技術を用いて、イヌにおける中枢神経系(CNS)のSOD1発現を、髄腔内投与後にサイレンシングした。
【0077】
強力な抗SOD1 U1AOを同定するための予備的なin vitro研究を行った。インビトロ試験には、メイディン-ダービーイヌ腎臓(Madin-Darby Canine Kidney)(MDCK)細胞を用いた。MDCK細胞は、正常な成体メスのコッカースパニエルの腎臓に由来する、広く使用されている不死化イヌ細胞株である。
図2は、イヌSOD1に関するMDCK細胞の定量的逆転写PCR(RT-qPCR)分析を提供する。
図2に示す結果は、SOD1のサイレンシングを検出できる十分なレベルでSOD1のmRNAがMDCK細胞で発現していることを示しており、RT-qPCR法はSOD1遺伝子の発現レベルの定量的評価を提供する。
【0078】
図3は、2つの抗SOD1 U1AOが、未処置(100%に設定)およびコントロール処置したMDCK細胞と比較して、イヌのSOD1発現を約25%までサイレンシングすることを示している。簡潔には、2×10
5個のMDCK細胞を、20nMコントロールU1AO、5nM cSOD1-1、または20nM cSOD1-2でモックトランスフェクション(mock-transfect)またはトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、イヌSOD1 mRNA発現に関してRT-qPCR分析を行った。発現をイヌHPRT1に対して規格化した。
図3に見られるように、cSOD1-1はcSOD1-2よりも強力/効果的であった。
【0079】
cSOD1-1 U1AOの配列は、
AUCCCAAUGACACCACAAGCGCCAGGUAAGUAU(配列番号9)であり、ここで、すべてが2’O-メチル修飾を有するRNA塩基である。
【0080】
cSOD1-2 U1AOの配列は、
UGCCCAAGUCAUCUCGUUUCGCCAGGUAAGUAU-(PEG12)-アルブミン(配列番号10)であり、ここで、全てが2’O-メチル修飾を有するRNA塩基である。
【0081】
図4は、cSOD1-1またはcSOD1-2を用いた用量反応グラフである。簡潔には、MDCK細胞を20nMコントロールU1AOまたは様々な量のcSOD1-1もしくはcSOD1-2でモックトランスフェクションまたはトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、イヌSOD1 mRNAの発現についてRT-qPCR分析を行った。発現をイヌHPRT1で規格化し、未処置の発現を100%に設定した。
図4に見られるように、cSOD1-1またはcSOD1-2のいずれかの量を増加させると、イヌSOD1 mRNAのサイレンシングにおいて用量依存的に増加した。
【0082】
図5は、cSOD1-1またはcSOD1-2を用いたさらなる用量反応グラフを提供する。簡潔には、MDCK細胞をモックトランスフェクションするか、さまざまな量のコントロールU1AO、cSOD1-1、またはcSOD1-2をトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、イヌSOD1 mRNAの発現についてRT-qPCR分析を行った。発現をイヌのHPRT1で規格化し、未処置の発現を100%に設定した。
図5に見られるように、cSOD1-1またはcSOD1-2のいずれかの量を減少させると、最終的に、イヌSOD1 mRNAの有意なサイレンシングが失われた。
【0083】
図3-5に示したデータに基づき、ホスホロチオエート基を用いたインビトロ分析のためにcSOD1-1を選択し、元のcSOD1-1と区別するために、抗SOD1 U1AOと再命名した。抗SOD1 U1AOを、適切な量および純度で製造し、エンドトキシンを含まないことを保証してから、以下に述べるようにイヌで使用した。ホスホロチオエートを加えることで、生体内で使用するときにヌクレアーゼ耐性が向上する。抗SOD1 U1AOの配列は、
A
*U
*CCCA
*AUGA
*CACC
*ACAA
*GCGC
*CAGG
*UAAG
*U
*A
*U(配列番号9)であり、ここで、全てが2’O-メチル修飾されたRNA塩基であり、
*はホスホロチオエートを示す。U1AOは、その3’末端で-(PEG
12)-アルブミンにコンジュゲートされうる。
【0084】
体重6~8kgの若い健康なビーグル6匹(オス3匹、メス3匹)に、理学的および神経学的検査を行い、常用の血清生化学パネルおよび全血球計算を実施した。一度に2匹のイヌを評価し、次の2匹に移る前に完全なデータ解析により、結果に基づいて投与量およびプロトコルの調整を確実にできるようにした。イヌに麻酔をかけ、腰椎5/6間隙で腰椎穿刺を行い、常用CSF分析のため脳脊髄液(CSF)サンプルを採取した。5日後にイヌを屠殺した。
【0085】
最初の2匹では、一方のイヌにはビヒクルを、もう一方のイヌには10mgの抗SOD1 U1AOをゆっくり注入するために小児硬膜外カテーテルを腰椎穿刺部位から髄腔内に留置した。両方のイヌでは、注入された量は2mLであり、さらに0.6mLが注入装置で失われた。これらの小さなカテーテルのねじれの問題のため、それらを引き抜き、20ゲージの脊髄針から10分間かけて注射を行った。イヌは、麻酔から回復し、実行に戻った。イヌを1日2回評価(理学的および神経学的検査)し、血液検査を2日後、そして5日目の人道的な安楽死の時に再び繰り返した。腰部、胸部および頸部の脊髄ならびに脳を直ちに解剖し、RNAlater(登録商標) RNA Stabilization Solution(Invitrogen;Waltham,MA)に入れた。また、肝臓、腎臓および脾臓のサンプルも入手した。凍結したサンプルは、後にSOD1およびヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1;ハウスキーピング遺伝子)についてRT-qPCRによって分析した。残りの組織を10%ホルマリンに入れ,3~5日後にパラフィン包埋するためにトリミングし、切片にし、ヘマトキシリン-エオシンで染色して、病理組織学的検査を行った。これらの2匹のイヌは、臨床的にも、血液検査においても、または病理組織学的にも、処置による顕著な影響を受けなかった。コントロールイヌと比較すると、脊髄でのSOD1の発現レベルは45%に減少したが、脳での発現には変化がなかった。
【0086】
次の2匹のイヌでは、同じプロトコルを繰り返したが(コントロール1匹、U1AO1匹)、投与方法を改良して、シリンジおよびカテーテルからU1AOをより効率的に髄腔内に流すことができた。簡潔には、20ゲージの脊髄注射針を短い器具に取り付け、これを次にフィルターおよび三方活栓に取り付けた。U1AOを三方活栓に装着した一方のシリンジに入れ、リン酸緩衝生理食塩水を三方活栓に装着した別のシリンジに入れた。このリン酸緩衝生理食塩水により、すべての治療薬を髄腔内の空間に注入することができた。注入後、イヌは頭を下にして約30°の角度で15分間傾け、重力によって脳脊髄軸に沿って薬物が広がるようにした。この処置は、各イヌに2.6mL(治療薬を投与したイヌにおいて13mgのU1AO)投与されたことを意味する。再び、この処置は、副作用がなく、極めて高い耐用性を示し、新たな注入プロトコルでは、脊髄に沿って35%、小脳では55%、海馬では74%の発現レベルまでサイレンシングが改善された。
【0087】
これらの結果を受けて、最後の2匹のイヌの両方には、改良されたプロトコルを用いて10mgの抗SOD1 U1AOを投与した。両者ともに有害事象はなく、病理組織学的にも正常であった。達成されたSOD1サイレンシングのレベルは、改良された方法を用いた以前のイヌと同等であった。
【0088】
図6は、抗SOD1 U1AOで処置したすべてのイヌのSOD1発現データをまとめたものである。脊髄に沿った平均SOD1サイレンシングは、脳脊髄軸において吻側に移行してサイレンシングのレベルが徐々に低下し、30~40%から、頭頂皮質では80%の範囲であった。病理は主に脊髄に集中しているので(Braund,et al.,Am.J.Vet.Res.(1978)39(8):1309-1315;Griffiths,etal.,J.Small Anim.Pract.(1975)16(8):461-471;March et al.,(2009)Vet Pathol.46(2):241-250)、二次的に脳幹核(Johnston,et al.,Vet.Rec.(2000)146(22):629-633)、臨床的に関連するSOD1のサイレンシングが生成された。
【0089】
実施例2
図6で使用された抗SOD1 U1AOは、自然に発生した変性性脊髄症を有するペット所有されたイヌに安全に投与することができるかどうかを確立するために、前向きの第1相臨床試験を行った。本試験では、抗SOD1 U1AOを月1回髄腔内に(IT)投与したが、2ヶ月に1回の頻度で2倍の用量のITに変更する選択肢があった。全体的な目的は、臨床徴候、血液検査およびCSFパラメータならびに明らかな変化をモニタリングし、疾患の進行をモニタリングすることによって、この処置の安全性を判断することであった。
【0090】
本研究では、以下のパラメータに基づいて募集した4匹のイヌを含んだ。イヌは>8歳であり、臨床的に局所性脊髄症の所見がない(脊髄痛または皮膚リンパ本幹反射カットオフ(cutaneous trunci reflex cut off)がない)不全対麻痺であり、血液検査および胸部X線写真が正常で、変性性脊髄症に関連するSOD1変異の検査が陽性であった。また、イヌが同様の臨床症状を呈する可能性のある脊髄新生物、脊髄炎、椎間板疾患を併発していないことを確認するために、イヌにMRIおよびCSF分析を行った。さらに、各飼い主は、IT処置の前日にイヌを病院に連れて行き、処置の間は病院にいて、次いで処置の翌日にイヌを退院させるために、月に数日の時間を割く必要があった。
【0091】
試験のエンドポイントは、飼い主が個人的な理由でやめるか、または病気の進行により同情的な理由でイヌを安楽死させるかのいずれかを選択したときであった。飼い主は、入院、処置、分析、抗SOD1 U1AO試験化合物を含む、試験のあらゆる態様に関わる費用を負担しなかった。
【0092】
本研究を通じて、副作用のエビデンスに関して、理学的および神経学的検査、血清生化学パネル、全血球計算ならびにCSF分析によって月に1回イヌをモニターした。その神経学的機能は、確立され順序付けられた歩行運動および固有受容性感覚方法論を用いて月1回評価した。飼い主が病気の進行により個人的または同情的な理由で安楽死を選択した場合は、組織および血清を分析し、1)RT-qPCR(
図6の生理食塩水のイヌを100%に設定した)および免疫組織化学を用いたSOD1発現の定量化、および2)ノーザンブロット分析を用いた組織および血清中の抗SOD1 U1AOの量の決定、を含むPK/PDデータを得ることになった。
【0093】
月1回投与では、投与された量は、1.5mgの抗SOD1 U1AO/体重kgであった。2カ月に1回の投与では、用量を2倍の3.0mgの抗SOD1 U1AO/kg体重にした。IT処置は、実施例1に記載したプロトコルに従った。
【0094】
最初に、DMを有する2匹のイヌを募集し、Dog-73AおよびDog-73Bと名付けた。Dog-73A(約11kg、コーギー、オス)は、6ヶ月間の処置の後、2ヶ月間の間隔で2倍の用量の処置を受けた。個人的な理由により、飼い主はDog-73Aを安楽死させることを選択し、これは最終処置の約10週間後に行った。組織を採取し、PK/PD分析を行い、結果を
図9にまとめた。
【0095】
Dog-73B(約32kg、ジャーマンシェパード、オス)は6ヶ月間の処置を受け、その後、現在まで2ヶ月間隔で2倍用量の処置を受けている。Dog-73Bは、現在、処置の16ヶ月目にいる。
【0096】
Dog-73Aおよび73Bの両方では、有害事象は発生せず、両イヌの神経学的徴候はゆっくりと進行している。
【0097】
投与量および安全性に関する十分なデータを得て、必要に応じて投与速度および投与間隔を調整する目的で、Dog-73AおよびDog-73Bと比べて、Dog-73EおよびDog-73Fと称する2匹のイヌの募集を遅らせた。
【0098】
Dog-73E(約10kg、ジャックラッセルミックス、メス)は、30日間隔で2回処置した後、2ヶ月間隔で2回の2倍用量処置を行った。個人的な理由により、飼い主はDog-73Eを安楽死させることを選択し、最終処置の約9週間後に行った。組織を採取し、PK/PD解析を行い、結果を
図10にまとめた。
【0099】
Dog-73F(約22kg、イヌ種非公表、オス)は、1ヶ月間隔の治療を2回行った後、現在まで2ヶ月間隔で2倍用量の処置を行っている。Dog-73Fは、現在、処置の9ヶ月目である。
【0100】
4匹すべてのイヌについて、有害事象は観察されず、イヌの神経学的徴候はゆっくりと進行した。Dog-73BおよびDog-73Fは、動き回るために後四半身のサポートを必要とする疾患のステージ2のままで、どちらも臨床症状のゆるやかな進行のみを示した。疾患の進行は、処置を受けていない典型的なイヌに比べて著しく遅く、それらは、この間に少なくともステージ3まで進行すると予想されていた。また、Dog-73AおよびDog-73Eは、安楽死までの処置期間中、疾患のステージ2のままであった。
【0101】
上記に加えて、ほぼ完全に麻痺した末期のDMイヌ(ステージ4)を用いて、飼い主が5日間の単回投与によるPK/PD試験に同意した別の単回イヌ試験、Dog-73C(約21kg、イヌ種非公表、オス)を実施した。PK/PDデータに加えて、この試験では、この処置が末期のイヌに使用しても安全であるかどうかを評価することができた。1.5mg/kg体重の用量での単回IT処置後、有害事象は発生せず、5日間の継続後、Dog-73Cを安楽死させ、組織を採取し、PK/PDの結果を
図11にまとめた。
【0102】
本発明の好ましい実施形態の一部を説明し、具体的に例示してきたが、本発明がこのような実施形態に限定することを意図するものではない。以下の特許請求の範囲に記載されているように、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な変更をそれに加えることができる。
【0103】
本発明が関連する当技術分野の状態をより十分に説明するために、いくつかの出版物および特許文書が前述の明細書に引用されている。これらの引用文献のそれぞれの開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】