IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア フード リサーチ インスティチュートの特許一覧

特表2022-520904うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するキムチ乳酸菌ラクトバチルスサケイ
<>
  • 特表-うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するキムチ乳酸菌ラクトバチルスサケイ 図1
  • 特表-うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するキムチ乳酸菌ラクトバチルスサケイ 図2
  • 特表-うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するキムチ乳酸菌ラクトバチルスサケイ 図3
  • 特表-うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するキムチ乳酸菌ラクトバチルスサケイ 図4
  • 特表-うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するキムチ乳酸菌ラクトバチルスサケイ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(54)【発明の名称】うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するキムチ乳酸菌ラクトバチルスサケイ
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20220325BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220325BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220325BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61P29/00
A61P37/06
A23L33/135
C12N1/20 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571492
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(85)【翻訳文提出日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 KR2020002490
(87)【国際公開番号】W WO2020171633
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】10-2019-0021068
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518405821
【氏名又は名称】コリア フード リサーチ インスティチュート
【氏名又は名称原語表記】KOREA FOOD RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】245, Nongsaengmyeong-ro, Iseo-myeon, Wanju-gun, Jeollabuk-do, 55365, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ハク ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ナム ヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヒョ ギョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジ ウン
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD86
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF07
4B018MF13
4B065AA30X
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087MA52
4C087MA56
4C087MA59
4C087MA60
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA03
4C087ZA12
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZB08
4C087ZB11
(57)【要約】
本発明は、ラクトバチルスサケイを有効成分として含むうつ病又は不安障害の予防、改善又は治療用組成物に関する。本発明に係るラクトバチルスサケイ菌株は、うつ病又は不安障害のような精神障害の予防、改善及び治療用途のために活用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルスサケイ(Lactobacillus sakei)、その培養物、その破砕物、その発酵物又はその抽出物を有効成分として含むうつ病又は不安障害の予防又は治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記薬学組成物は、ラクトバチルスサケイを1×102CFU/ml~1015CFU/mlで含み、前記薬学組成物を対象体(subject)に週に3回以上投与時にうつ病又は不安障害が予防又は改善されることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記ラクトバチルスサケイは、受託番号KCCM12654Pとして寄託されたラクトバチルスサケイWIKIM31であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記うつ病又は不安障害は、退行性脳疾患を有する個体におけるうつ病又は不安障害であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記退行性脳疾患は、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ルーゲーリック病(amyotrophic lateral sclerosis)、クロイツフェルトヤコブ病(Creutzgeldt-Jacob disease)、脳卒中(stroke)、多発性硬化症(multiple sclerosis)、学習障害(learning disorder)、認知障害(cognitive impairment)及び記憶力損傷からなる群から選ばれる一つ以上であることを特徴とする、請求項4に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記薬学組成物は、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、血中投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与からなる群から選ばれる投与経路で投与されることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
ラクトバチルスサケイ(Lactobacillus sakei)、その培養物、その破砕物、その発酵物又はその抽出物を有効成分として含むうつ病又は不安障害予防又は改善用食品組成物。
【請求項8】
前記ラクトバチルスサケイは、受託番号KCCM12654Pとして寄託されたラクトバチルスサケイWIKIM31であることを特徴とする、請求項7に記載の食品組成物。
【請求項9】
前記食品は、健康機能食品であることを特徴とする、請求項7に記載の食品組成物。
【請求項10】
前記食品は、飲料、バー又は発酵乳であることを特徴とする、請求項7に記載の食品組成物。
【請求項11】
前記うつ病又は不安障害は、退行性脳疾患を有する個体におけるうつ病又は不安障害であることを特徴とする、請求項7に記載の食品組成物。
【請求項12】
前記退行性脳疾患は、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ルーゲーリック病(amyotrophic lateral sclerosis)、クロイツフェルトヤコブ病(Creutzgeldt-Jacob disease)、脳卒中(stroke)、多発性硬化症(multiple sclerosis)、学習障害(learning disorder)、認知障害(cognitive impairment)及び記憶力損傷からなる群から選ばれる一つ以上であることを特徴とする、請求項11に記載の食品組成物。
【請求項13】
前記食品組成物は、ラクトバチルスサケイを1×102CFU/ml~1015CFU/mlで含み、前記食品組成物を対象体(subject)に週に3回以上経口投与時にうつ病又は不安障害が予防又は改善されることを特徴とする、請求項7に記載の食品組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うつ病及び不安障害の予防、改善又は治療効能を有するラクトバチルスサケイ(Lactobacillus sakei)に関する。
【背景技術】
【0002】
社会が複雑化しつつある今、現代人は多くのストレスに晒されている。これに伴い、種々のストレスによるうつ病、不安障害、睡眠障害などの精神疾患に苦しんでいる人々も急増している。
【0003】
このようなストレスが解消できず、そのまま放置する場合、憂うつ、不安、疲労、怒り、気分変化のような心理反応がもたらされ、血圧と脈拍数の増加などの生理反応につながるが、このような反応が繰り返し続くとうつ病、不安症、睡眠障害などが発病し、個人、家族及び社会的損失を招き、個人の生活の質が低下する原因となる。
【0004】
ストレスによる疾患のうち、うつ病は、悲しさ、絶望感及び挫折感の感情を特徴とする落ち込んだ気分の心理的状態をいう。すなわち、正常な感情である“気分の落ち込み”、気分変調性障害(dysthymic disorder)を経て大うつ病性障害(major depressive disorder)に発展した状態を意味する。主な症状は、食欲、体重又は睡眠パターンの変化、精神運動活動性の増加又は減少(psychomotor agitation or retardation)、思考能力、集中力又は決定能力の減少、やる気の不足及び疲労感、自己否定、自責感又は罪責感、頻繁な自殺念慮又は自殺衝動、自殺する計画又は未遂の一部と組み合わせられた、日常的な気分の落ち込み又は大部分の活動における興味又は意欲の消失を現す症状である、大うつ病エピソード(major depressive episode)を特徴とする。
【0005】
現在、臨床に使用される抗うつ剤はいずれも、モノアミン系神経伝達物質の作用を強化する薬物であるが、神経細胞のセロトニン再吸収、ノルエピネフリンの再吸収などを抑制する物質(SSRI、SNRI、TCAs系列など)、モノアミン酸化酵素抑制剤(monoamine oxidase inhibitors)のようにセロトニンやドパミンなどの分解を抑制する物質などがそれである。
【0006】
しかしながら、現在、韓国のうつ病患者の約10~25%が抗うつ剤の治療を受けているだけであり、その40%程度は副作用などによって順応度が低下し治療を中断すると知られており、しかも、抗うつ剤を服用しても反応がない非反応群(non-responder)が33%にも達すると報告されている。このため、天産物由来の抗うつ効果を有する組成物が切に望まれている現状である。
【0007】
また、前記うつ病は他の疾患に伴って発生することもある。例えば、退行性脳疾患はうつ病をしはしば伴う。退行性脳疾患は、加齢に伴って発生する退行性疾患の中でも脳で発生する疾患を意味する。退行性脳疾患は、主要症状と侵犯される脳部位を考慮して区分できるが、代表にはアルツハイマー病とパーキンソン病がある。退行性脳疾患は、老化による神経退化と、遺伝的、環境的要因によってタンパク質が凝集して神経細胞が死滅することに起因すると知られているが、まだ正確な原因は明らかになっていない。
【0008】
パーキンソン病(Parkinson’s disease)は、退行性脳疾患の中でも、有病率がアルツハイマー疾患に次ぐ2位である疾患であり、50歳以上の人口の約1%がこの疾患に悩んでいると報告されている。パーキンソン病は、振戦、硬直、行動緩慢及び姿勢異常症などを主な症状とする疾病であり、脳でドパミン(dopamine)という神経伝達物質が不足して生じる慢性疾患である。ドパミンは、脳の黒質という神経細胞で生成され、黒質の神経細胞は、脳の運動皮質及びその他様々な部位と複雑に連結されている。パーキンソン病は、黒質で基底核の機能を調節するために分泌される物質であるドパミンが不足して発病する。
【0009】
パーキンソン病の主な症状は、1)運動緩慢(bradykinesia)、2)安静時振戦(tremor-at-rest)、3)筋硬直(muscle rigidity)、4)姿勢反射の喪失(loss of postural reflexes)、5)前傾姿勢(flexed posture)、6)すくみ現象(freezing)などの運動失調症状がその代表である。また、パーキンソン病疾患の進行中に発生し得る別の症状としては、自律神経障害、睡眠障害、嗅覚又は温度の感覚障害の他に、うつ病と認知障害も挙げることができる。特に、うつ病と不安障害のような精神的症状は、パーキンソン病患者の40~50%に現れ、生活の質を悪化させる重要な要因として指摘されている。
【0010】
現在パーキンソン病の治療法には、薬物治療法、手術治療法及び物理治療法などがあるが、薬物治療の場合、一般に脳で不足したドパミンを補充し、ドパミンの不足による神経伝達物質の不均衡を整えて神経細胞の破壊を予防又は遅延させようとする目的とその他うつ病などの症状を調節するための薬物が使用されている。例えば、パーキンソン病の薬物治療剤には、L-DOPAのようなドパミン代替薬物及びドパミン受容体に作用する薬物が使用されているが、これらの薬物は、死滅した神経細胞を再生させることが不可能なため、症状の調節を目的とするという点で限界があり、長期間投与すると、不随意的な運動(dyskinesia)、嘔吐などの深刻な副作用につながる。したがって、症状の改善とともに安全性の確保された神経保護効果がある薬物の開発が至急な実情である。
【0011】
特に、最近では、パーキンソン病を有する患者から誘発される腸内菌叢の変化がパーキンソン病の進行と病態生理学的に関連するとの報告があり、さらには、パーキンソン病動物モデルに糞便微生物移植(fecal microbiota transplantation,FMT)した結果、神経炎症調節作用によって神経保護効果を示すことが知られた(非特許文献1)。
【0012】
このような背景下で、近年、乳酸菌を用いたパーキンソン病の予防及び治療研究が行われているが、パーキンソン病の症状のうち、便泌以外の運動失調症状及びうつ病や不安障害のような精神的症状に直接に影響を与える乳酸菌については明らかになっていないところ、パーキンソン病による運動失調症状とともにうつ病又は不安障害を改善又は治療できる乳酸菌の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
(非特許文献1)Xin Fang,Microbial treatment:the potential application for Parkinson’s disease,Neurological Sciences,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、うつ病又は不安障害の予防、改善又は治療効能を有するラクトバチルスサケイ(Lactobacillus sakei)菌株を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明者らは、うつ病又は不安障害症状に対する改善効能を有する菌株を見出するために努力した結果、キムチから分離したラクトバチルスサケイ(Lactobacillus sakei)菌株をマウスモデルに投与したとき、マウスのうつ病、不安障害のような精神的症状が改善されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明に係るラクトバチルスサケイ菌株は、好ましくは、キムチ由来のラクトバチルスサケイ菌株、より好ましくは、キムチ由来のラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)菌株である。たとえ、本発明におけるラクトバチルスサケイWIKIM31菌株は韓国微生物保存センターに受託番号KFCC11654P(国内寄託)及び/又はKCCM12654P(国際寄託)として寄託された菌株を使用しているが、その入手経路はそれに限定されない。
【0017】
本発明において、前記受託番号として寄託されたラクトバチルスサケイWIKIM31菌株は、前記寄託番号として寄託された菌株及び前記WIKIM31菌株と均等物なるラクトバチルスサケイ菌株も含む意味であり、例えば、遺伝子配列の一部の配列に修飾(変異、置換、挿入、又は欠失など)があるラクトバチルスサケイ菌株も含み、前記WIKIM31菌株の遺伝子配列と好ましくは90%以上の相同性、より好ましくは95%以上の相同性、最も好ましくは99%以上の相同性を有するラクトバチルスサケイ菌株も含む意味で解釈される。
【0018】
前記ラクトバチルスサケイ菌株間の相同性分析は、分子生物学的同定及び特性分析法(Tenover et al.,J.Clin.Microbiol.,1995,33(9)、2233-2239,1995)、PCR及び様々な電気泳動方法(Walter et al.,Appl.Environ.Microbiol.,2001,67(6)、2578-2585)、RAPD(Randomly Amplified Polymorphic DNA)分析法(Cusick et al.,Appl.Environ.Microbiol.,2001,66(5)、2227-2231)、種特異プライマーを用いたPCR手法(species specific PCR,SS-PCR手法)(Matsuki et al.,Appl.Environ.Microbiol.,1999,65(10)、4506-4512)などの分析法を用いて分析することができ、当業界に様々な分析法が知られている。SS-PCRの主要対象遺伝子として多く研究されたものは、16S、23S rRNA及び16S-23S rRNA界面領域(interspacial region)であり、それらに関する塩基配列情報は様々なウェブベースのデータベースに公開されている(Naimi et al.,Microbiol.,1997,143(6)、823-834)。
【0019】
本発明のラクトバチルスサケイWIKIM31菌株は、グラム陽性菌であり、好気的条件、嫌気的条件のいずれにおいても成長可能な通性嫌気性(facultative anaerobe)であり、桿菌の形態を取っている。
【0020】
本発明では、ラクトバチルスサケイ、その培養物、その破砕物、その発酵物又はその抽出物を含む組成物を提供する。
【0021】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のラクトバチルスサケイ菌株は、ラクトバチルスサケイWIKIM31である。
【0022】
本発明に係る組成物に含まれるラクトバチルスサケイWIKIM31は、生菌体又は死菌体として存在してもよく、また、乾燥又は凍結乾燥した形態で存在してもよい。様々な組成物内に含める適切な乳酸菌の形態及び製剤化方法は、当業者によく知られている。例えば、ラクトバチルスサケイWIKIM31は、公知の液体培地又は固体培地で培養させて得た培養物であるか、前記培養物の濃縮液であるか、前記培養物の乾燥物であるか、前記菌株と追加の成分を共に培養して得た発酵物であるか、前記菌株を有機溶媒で抽出した抽出物、前記菌株の細胞膜を溶解させたり、破砕又は均質化処理した溶解物(又は、破砕物)などの形態で製剤化できるが、これに制限されるものではない。
【0023】
本発明において、前記組成物は、生菌又は死菌として存在するラクトバチルスサケイWIKIM31菌株を含む組成物であってよい。
【0024】
本発明は、ラクトバチルスサケイ、その培養物、その破砕物、その発酵物又はその抽出物を有効成分として含む、うつ病又は不安障害予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0025】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のラクトバチルスサケイ菌株は、ラクトバチルスサケイWIKIM31である。
【0026】
前記食品組成物において、ラクトバチルスサケイWIKIM31菌株は、キムチから由来したものであってよく、上述した全ての内容がそのまま適用可能である。
【0027】
本発明において、“うつ病”は、主に悲しさ、意欲消失、感情の喪失、無快感症(快感の欠如)、又は幻覚、妄想などの行動をする神経精神障害を意味し、精神運動の低下、厭世と絶望に捕われ、自殺衝動を感じて自殺企図にまで至る疾病をいう。前記うつ病は、食欲低下、不眠、便泌、性欲減退又は免疫機能の低下による疾病への感受性増加などの様々な身体的症状を伴う。より具体的には、活動性が減少する症状を意味する。また、“不安障害”は、不安な感情による心臓拍動増加、呼吸数増加、恐慌障害、恐怖、発汗などの身体的又は行動症状が現れる神経精神障害を意味し、より具体的には、落ち着かず、密閉した空間で隅にいようとすることを意味するが、これに制限されるものではない。不安障害の例には、恐怖障害、恐慌障害、汎不安障害、強迫障害などがある。
【0028】
一具体例において、前記うつ病と不安障害は、退行性脳疾患を有する対象体におけるうつ病又は不安障害であってよい。
【0029】
前記退行性脳疾患は、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ルーゲーリック病(amyotrophic lateral sclerosis)、クロイツフェルトヤコブ病(Creutzgeldt-Jacob disease)、脳卒中(stroke)、多発性硬化症(multiple sclerosis)、学習障害(learning disorder)、認知障害(cognitive impairment)及び記憶力損傷からなる群から選ばれる一つ以上の疾患であるが、これに制限されるものではない。
【0030】
本発明の好ましい具現例によれば、前記発酵物は、キムチ発酵物又は豆発酵物以外の発酵物である。
【0031】
本発明では、ラクトバチルスサケイWIKIM31の投与によるうつ病又は不安障害に対する予防又は改善効果を確認するために、正常動物モデルにうつ病を誘発後、ラクトバチルスサケイWIKIM31菌株を投与したり、或いは動物モデルにラクトバチルスサケイWIKIM31菌株を投与してからパーキンソン病を誘導した後、オープンフィールド(open field)分析を行った。その結果、対照群に比べて、本発明のラクトバチルスサケイWIKIM31菌株を摂取させた実験群において、全体的な動き(運動量)が増加し、探索行動と中心部位(center zone)で留まる時間が増加したことが確認できた。一般に、うつ病又は不安障害を有する個体で動かずにじっとしている時間が長いことからすれば、ラクトバチルスサケイWIKIM31菌株の投与によって運動量が増加した結果から、うつ病又は不安障害を予防できることが分かる。
【0032】
本発明の組成物が食品組成物として用いられる場合、前記食品組成物は、健康機能食品又は調味料、飲料、バーなどの形態を含むことができる。また、前記菌株を有効成分として含む食品組成物は、発酵乳などの飲料を含むことができる。そこで、本発明は、ラクトバチルスサケイWIKIM31又はその培養物からなる発酵用乳酸菌スターターを提供する。
【0033】
本発明の食品組成物は、前記有効成分の他にも、食品学的に適切で、生理学的に許容される補助剤を使用して製造されてよく、前記補助剤としては、賦形剤、崩壊剤、甘味剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤滑剤、滑沢剤又は香味剤などを使用することができる。
【0034】
前記食品組成物は、投与のために、上記の有効成分に加えて、食品学的に許容可能な担体を1種以上含めて薬剤学的組成物として好適に製剤化してよい。
【0035】
例えば、錠剤又はカプセル剤の形態への製剤化のために、有効成分は、エタノール、グリセロール、水などのような経口、無毒性の薬剤学的に許容可能な不活性担体と結合してよい。また、所望又は必要な場合、適切な結合剤、潤滑剤、崩壊剤及び発色剤も混合物として含まれてよい。適切な結合剤は、次に制限されないが、澱粉、ゼラチン、グルコース又はベータ-ラクトースのような天然糖、トウモロコシ甘味剤、アカシア、トラガカント又はオレイン酸ナトリウムのような天然及び合成ガム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどを含む。崩壊剤は、次に制限されないが、澱粉、メチルセルロース、アガー、ベントナイト、キサンタンガムなどを含む。液状溶液として製剤化される組成物において許容可能な薬剤学的担体としては、滅菌及び生体に適するものであって、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びそれら成分のうち1成分以上を混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加してもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤をさらに添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒又は錠剤として製剤化してもよい。
【0036】
本発明に係る食品組成物は、各種食品に添加できる。本発明の組成物を添加できる食品には、例えば、飲料類、ビタミン複合剤、健康補助食品類などがある。
【0037】
本発明の食品組成物は、食品製造時に通常添加される成分を含むことができ、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味剤及び香味剤を含む。上述した炭水化物の例は、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖など;ジサッカライド、例えば、マルトース、スクロース、オリゴ糖など;及びポリサッカライド、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖及びキシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。香味剤として、天然香味剤[タウマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウジオシドA、グリチルリチンなど])、及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を使用することができる。例えば、本発明の食品組成物がドリンク剤と飲料類として製造される場合には、クエン酸、液状果糖、砂糖、ブドウ糖、酢酸、リンゴ酸、果汁、及び各種植物抽出液などをさらに含むことができる。
【0038】
また、本発明は、ラクトバチルスサケイ、その培養物、その破砕物、その発酵物又はその抽出物を有効成分として含むうつ病又は不安障害の予防又は治療用薬学組成物を提供する。
【0039】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のラクトバチルスサケイ菌株は、ラクトバチルスサケイWIKIM31である。
【0040】
また、本発明は、治療上有効量のラクトバチルスサケイ、その培養物、その破砕物、その発酵物又はその抽出物を、それを必要とする対象体に投与することを含む、うつ病又は不安障害の治療方法を提供する。
【0041】
本発明の好ましい具現例によれば、前記発酵物は、キムチ発酵物又は豆発酵物以外の発酵物である。
【0042】
ここでいう“対象体(subject)”は、治療、観察又は実験の対象である哺乳動物のことを指し、好ましくは、うつ病又は不安障害の予防及び/又は治療を必要とするヒト又は動物であってよい。
【0043】
一具体例において、前記対象体は、退行性脳疾患を有する個体のうち、うつ病又は不安障害症状を示す個体であってよい。
【0044】
また、ここでいう“退行性脳疾患”とは、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、ルーゲーリック病(amyotrophic lateral sclerosis)、クロイツフェルトヤコブ病(Creutzgeldt-Jacob disease)、脳卒中(stroke)、多発性硬化症(multiple sclerosis)、学習障害(learning disorder)、認知障害(cognitive impairment)及び記憶力損傷からなる群から選ばれる一つ以上の疾患であってよいが、これに制限されるものではない。
【0045】
一具体例において、前記退行性脳疾患は、パーキンソン病であってよい。
【0046】
下記実施例では、ラクトバチルスサケイWIKIM31菌株の投与群にパーキンソン病を誘導した結果、陰性対照群(PBS摂取群)に比べて全体的な運動量が増加し、行動探索と中心部位(center zone)に留まる時間が増加したことが確認できた。すなわち、本発明は、前記ラクトバチルスサケイWIKIM31菌株によって退行性脳疾患マウスモデルのうつ病又は不安障害が改善されることを確認し、うつ病又は不安障害の予防、改善又は治療に利用できることが分かった。
【0047】
本発明に係る薬学組成物は、経口、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、又は胸骨内などの経路を通じて通常の方式で投与できる。
【0048】
本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。本発明において、用語“薬学的に許容可能な担体”とは、生物体をあまり刺激しなく、投与成分の生物学的活性及び特性を阻害しない担体又は希釈剤を意味する。本発明における薬学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びそれらの成分の1成分又は1成分以上を混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液及び静菌剤などの他の通常の添加剤を添加し、組織又は臓器に注入するに適した注射剤の形態に剤形化できる。また、等張性滅菌溶液、又は場合によって滅菌水又は生理食塩水を添加して注射可能な溶液とし得る乾燥製剤(特に、凍結乾燥製剤)として剤形化してもよい。また、標的器官に特異的に作用可能となるように、標的器官特異的抗体又はその他リガンドを前記担体と結合して使用してもよい。当該技術の分野に知られた適切な製剤は、文献(Remington’s Pharmaceutical Science,Mack Publishing Company,Easton PA)に開示のものを使用することができる。
【0049】
また、好ましくは、本発明の組成物は、充填剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤などをさらに含むことができる。また、本発明の組成物は、哺乳動物に投与されて活性成分の迅速、持続又は遅延された放出を提供できるように、当業界に公知の方法を用いて剤形化できる。
【0050】
本発明において、“投与”とは、ある適切な方法で患者に本発明の組成物を導入させることを意味し、本発明の組成物の投与経路は、目的組織に到達できる限り、経口又は非経口の様々な経路で投与できる。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、血液内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与できるが、これに制限されない。
【0051】
例えば、本発明の組成物は、臨床投与時に、筋肉静脈、又は腹腔注射によって投与できる。
【0052】
注射のために、好ましくは、ハンクス(Hank)溶液、リンガー(Ringer)溶液、又は生理食塩水バッファーのような薬理学的に合うバッファーとして剤形化されてもよい。粘膜透過投与のために、通過するバリアーに適する非浸透性剤が剤形に用いられる。これらの非浸透性剤は、当業界に一般に公知されている。
【0053】
非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤などが含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使用されてよい。
【0054】
本明細書において、“有効量”とは、目的とする治療されるべき特定疾患の発病又は進行を遅延したり或いは全的に中止させるために必要な量を意味し、本発明の薬学組成物に含まれるラクトバチルスサケイWIKIM31の有効量は、うつ病又は不安障害の予防又は治療効果を得るために要求される量を意味する。したがって、前記有効量は、疾患の種類、疾患の重症度、組成物に含まれている他の成分の種類及び含有量、及び患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食餌、投与時間、投与経路、治療期間、同時使用される薬物をはじめとする様々な因子によって調節されてよい。適切な総1日使用量は、正確な医学的判断範囲内で処置医によって決定されてよいということは当業者には明らかである。
【0055】
本発明の目的上、特定患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によって、他の製剤の使用の有無をはじめとする具体的組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別及び食餌、投与時間、投与経路及び組成物の分泌率、治療期間、具体的組成物と共に使用されるか或いは同時使用される薬物をはじめとする様々な因子と医薬分野によく知られた類似因子によって個別に適用することが好ましい。
【0056】
本明細書において、“治療”とは、有益な又は好適な臨床的結果を得るための接近を意味する。本発明の目的のために、有益な又は好適な臨床的結果は、検出可能であれ検出不可能であれ、非制限的に、症状の緩和、疾病範囲の減少、疾病状態の安静化(すなわち、悪化しないこと)、疾病進行の遅延又は緩除化、疾病状態の改善又は一時的緩和、及び寛解(部分的又は全体的に)を含む。また、“治療”は、治療を受けない場合に予想される生存率と比較して、生存を延長することを意味してもよい。“治療”は、治療学的治療及び予防的又は予防措置方法の全てを意味する。これらの治療は、予防される障害の他に既に発生した障害において要求される治療も含む。疾病を“緩和”することは、治療をしない場合と比較して、疾病状態の範囲及び/又は好ましくない臨床的徴候が減少したり及び/又は進行の時間的推移(time course)が遅延又は延長されることを意味する。
【0057】
本発明に係る食品又は薬学組成物に含まれるラクトバチルスサケイ菌株の量は、1回を基準に約102~1015cfu/mlでよく、好ましくは106~1012CFU/mlでよく、より好ましくは107~1011CFU/ml、最も好ましくは108~1010CFU/mlであってよい。菌株を投与する場合には、生菌又は死菌状態で投与でき、摂取前に死滅又は減衰(attenuation)の状態で投与できる。また、培養上澄液などを用いて製造する場合には、熱処理過程による滅菌化過程をさらに含むことができる。最小の効能を有するのに必要な菌株量及び一日摂取程度は、摂取者の身体又は健康状態によって異なってよいが、一般に、約102~1015cfu/mlでよい。
【0058】
本発明に係る食品又は薬学組成物は、対象体(subject)に週に3回以上、好ましくは、週5に回以上投与時に、うつ病又は不安障害が予防又は改善できる。
【0059】
本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述する実施例を参照して明確になるであろう。ただし、本発明は、以下に開示の実施例に限定されるものではなく、様々な他の形態で具現されてもよく、本実施例は、単に本発明の開示を完全にさせ、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者に発明の範ちゅうを完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は請求項の範ちゅうのみによって定義される。
【発明の効果】
【0060】
本発明に係るラクトバチルスサケイ菌株は、うつ病と不安障害を含む様々な精神障害の予防、改善及び治療用途のために活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】パーキンソン病を有するマウスモデルにおけるオープンフィールドテスト(open filed test)を行った結果である(ブラウン:マウスの通常の動き(X、Y遠赤外線センサーによって感知された動き;ブルー:マウスの探索行動(X、Y、Z1軸の遠赤外線センサーによって感知された動き、Naive:無処理群、MPTP:陰性対照群(PBS摂取後にパーキンソン病誘発)、WIKIM31:WIKIM31摂取群(WIKIM31摂取後にパーキンソン病誘発))。
図2】パーキンソン病を有するマウスモデルにおけるオープンフィールドテスト実行結果であり、(a)は、プラスチック箱内でマウスが動いた距離を用いて全体運動量を示し、(b)は、中心部位で留まった時間を示し、(c)は、マウスが後足で重心を取りながら立つ行動をする時間を示す。
図3】一般のうつ病及び/又は不安障害ラットモデルにおいてストレスホルモンである血中コルチコステロン(corticosterone)分析結果を示すものである。
図4】一般のうつ病及び/又は不安障害ラットモデルを用いたオープンフィールドテスト結果である。
図5】一般のうつ病及び/又は不安障害ラットモデルを用いた強制水泳テスト結果である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、本発明を、実施例を挙げて詳細に説明する。下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例]
実施例1:ラクトバチルスサケイWIKIM31菌株培養液の準備
キムチから由来し、韓国微生物保存センターに受託番号KFCC11654P(国内寄託)及びKCCM12654P(国際寄託)として受託されたラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)菌株を実験に使用した。ラクトバチルスサケイWIKIM31菌株は、MRS培地で30℃、24時間培養した後、菌体を8,000rpmで5分間遠心分離し、PBSで洗浄して、残っている培地成分を除去した。PBSを用いて1×1010CFU/mL菌数に定量化し、0.2ml(1×109CFU)ずつゾンデを用いて実験動物に週に5回経口投与し、陰性及び陽性対照群には滅菌PBSを投与した。
【0064】
実施例2:動物モデルにおけるうつ病及び不安障害症状予防又は改善効果確認
8週齢の雄マウス(C57BL/6)を一週間飼育室で適応させ、30日間ラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31,KFCC11654P)を経口投与した。その後、MPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)を腹腔内注射してパーキンソン病を誘発した後、ラクトバチルスサケイWIKIM31の効果を確認し、図1及び図2に示した。このとき、図1及び図2で、Naiveは正常マウスモデルであり、MPTPは、PBSを経口投与した後にパーキンソン病を誘発したマウスモデルであり、WIKIM31は、ラクトバチルスサケイWIKIM31を経口投与した後にパーキンソン病を誘発したマウスモデルである。
【0065】
パーキンソン病を有する動物モデルに対して不安症状を評価するためにオープンフィールド(open field)分析を行った。オープンフィールド分析は、逃げたり隠れたりできない広い新しい空間に実験動物を露出させた後、探索行動を観察し、これに基づいて実験動物の不安レベルを検査するために行う。オープンフィールド分析に用いられる矩形のプラスチック箱(横45cm、縦45cm、高さ40cm)の領域は、3×3に分ける。マウスがオープンフィールド内で位置する区域の分析、マウスの移動距離などの活動性の分析、及び後足で重心を取りながら立って探索行動をする時間(rearing)を分析することにより、実験動物の不安の程度が分かる。このとき、動物行動の分析には、TSEマルチコンディショニングシステム(Multi Conditioning system)(TSE systems,USA)Actimotビデオ追跡システムを用いた。ビデオカメラは、床から高さ100cmの天井中央部に設置し、それぞれのオープンフィールドテスト用プラスチック箱(横45cm、縦45cm、高さ40cm)を撮影可能にした。オープンフィールド内の動物の位置は、ActiMotフレーム(TSE systems,USA)の遠赤外線センサーを用いて自動分析した。マウスをプラスチック箱内で1分間適応させ、以降の10分間の行動を記録した。プラスチック箱の中心部位(center zone)は横15cm、縦15cmと指定した。
【0066】
オープンフィールド分析の結果、PBSを処理した陰性対照群に比べて、ラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取群において全体運動量が増加し(図1及び図2の(a))、中心部位に留まった時間が増加することを確認した(図2の(b))。また、陰性対照群と比較して、探索行動時間が有意に増加した(図2の(c))。ラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取時に、MPTP薬物によるうつ病と不安障害症状が有意に改善されることが確認できた(P<0.05)。
【0067】
実施例3:正常動物モデルにおけるうつ病及び不安障害症状予防又は改善効果確認
3-1.正常動物モデルでのうつ病誘発
6週齢の雄ラット(Rat,Sprague Dawley)を一週間飼育室で適応させ、7週齢から慢性ストレスを与えたが、水又は飼料の奪取、空の水筒提示、夜昼周期の逆転、ちらつく明かり、周期的騒音、濡れた敷物提供、ケージを傾ける、及び束縛ストレスなどを毎日、不規則的な方法でランダムに実験動物に加えた。誘発期間は総6週であり、毎日ストレスを変え、初めの2週間はラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)摂取無しでストレスだけを提供してうつ病を誘発し、次の4週間は、ストレスと共にラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31,KCCM12654P)を摂取させた後、うつ病改善の有無を測定した。
【0068】
3-2.血中コルチコステロン分析
ストレス誘発後、投与薬物の抗うつ効果を評価するために、血中コルチコステロン濃度を測定した。血中コルチコステロンの濃度は、ELISAキット(Corticosterone Assay,Ca:KGE009,RND systems,U.S.A)で分析し、血液を採血して分析を行った。分析血液は、頸動脈から採取し、一度で300uLの全血を採血した後、遠心分離機を用いて4,500rpmで10分間遠心分離して血清を分離し、これを分析に使用した。
【0069】
血中コルチコステロン分析の結果、PBSを処理した陰性対照群に比べてラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取群においてストレスホルモンの減少を確認した(図3)。ラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取により、反復したストレスによって誘発されたうつ病と不安障害の症状が改善されることが確認できた。
【0070】
3-3.オープンフィールドテスト
憂うつ不安症状を評価するために、うつ病を誘発したラットモデルにおけるオープンフィールド(open field)分析を行った。オープンフィールド分析は、逃げたり隠れたりできない広い新しい空間に実験動物を露出させた後に行動を観察し、これに基づいて実験動物の憂うつ・不安レベルを検査するために行う。結果は、50cm×50cm×50cmのボックスで個体当たり15分間測定し、全体移動距離を基本にして中央の25cm×25cmのサイズを中心部位(center zone)に設定し、中心部位移動距離を分析した。全体移動距離のうち、中心部位移動距離の比率が少ないほどうつ病に一層近いといえよう。このとき、動物の行動は、ビデオ追跡システム(SMART3.0,panlab.U.S.A)を用いて分析した。
【0071】
オープンフィールド分析の結果、PBSを処理した陰性対照群に比べてラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取群において中心部位で留まった時間が増加することを確認した(図4)。ラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取により、反復的ストレスによって誘発されたうつ病と不安障害の症状が改善されることが確認できた。
【0072】
3-4.強制水泳テスト
直径12cm、高さ40cmの透明なアクリル円筒に30cmの高さで水を満たした後、10分間強制に泳がせた。実験済みの動物は30分間乾燥するように赤外線灯下に30分間置いた後、元のケージに戻した。10分間の本実験において動物の行動を不動姿勢時間(immobility time)で測定し、イメージ分析装備(Smart3.0,panlab.,USA)を用いて分析した。
【0073】
強制水泳テスト分析の結果、PBSを処理した陰性対照群に比べてラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取群において強制水泳時間が減少することを確認した(図5)。ラクトバチルスサケイWIKIM31(Lactobacillus sakei WIKIM31)の摂取により、反復的ストレスによって誘発されたうつ病と不安障害の症状が改善されることが確認できた。
【0074】
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国内)
受託番号:KFCC11654P
受託日:20160304
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国際)
受託番号:KCCM12654P
受託日:20200114
【0075】
【表1】



図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】