(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-04
(54)【発明の名称】タマナマコの性別を迅速に判別する特異的プライマー、判別方法およびキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6879 20180101AFI20220328BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220328BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20220328BHJP
【FI】
C12Q1/6879 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537983
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2020126107
(87)【国際公開番号】W WO2021147450
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】202011111848.3
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511282070
【氏名又は名称】中国科学院南海海洋研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】陳 廷
(72)【発明者】
【氏名】任 春華
(72)【発明者】
【氏名】呉 菲菲
(72)【発明者】
【氏名】程 楚杭
(72)【発明者】
【氏名】胡 超群
(72)【発明者】
【氏名】江 暁
(72)【発明者】
【氏名】鄂 子▲シュアン▼
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS16
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
タマナマコの性別を迅速に判別する特異的プライマー、判別方法およびキットを提供する。タマナマコのXY型性決定メカニズムに基づいて、タマナマコの雄特異的分子マーカーを選別し、該特異的分子マーカーを基にタマナマコの性別を判別するためのプライマーSm―F/Sm―Rを設計し、タマナマコの性別を迅速に判別する方法を構築する。この方法は、タマナマコの性別判別に応用され、養殖過程中、タマナマコ雌雄単体を厳密に区別するために使用される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマナマコの性別を判別するための特異的プライマーであって、前記プライマーは以下であることを特徴とするプライマー。
フォワードプライマーSm―F:5’―CACAAATGGTGCTTGGAATC―3’
リバースプライマーSm―R:5’―CTGGCAATTTGTCTTGTATG―3’
【請求項2】
測定するタマナマコ単体の棘組織を取り、ゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNAをテンプレートとして、請求項1に記載のプライマーSm―F/Sm―Rを用いてPCR増幅し、増幅生成物を電気泳動および染色し、目標バンドからタマナマコの性別を判別する工程を含む、ことを特徴とするタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【請求項3】
前記の目標バンドからタマナマコの性別を判別する工程は、具体的に、増幅生成物が410bpに目標バンドがあるものは雄単体であり、バンドのないものは雌単体である、ことを特徴とする請求項2に記載のタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【請求項4】
前記PCR反応系は、DNAテンプレート1μL、フォワードおよびリバースプライマーそれぞれ0.8μL、2×Taq酵素Mix10μL、ddH
2O7.4μL、反応系全体20μLである、ことを特徴とする請求項2に記載のタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【請求項5】
前記のPCR増幅条件は、94℃で3分間予備変性し、94℃で30秒間変性し、51℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間延伸し、35回繰り返して、最後に72℃で5分間延伸することである、ことを特徴とする請求項2に記載のタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【請求項6】
タマナマコの性別判別用のキットの調製における請求項1に記載のプライマーの用途。
【請求項7】
請求項1に記載のプライマーを含む、ことを特徴とするタマナマコの性別を判別するためのキット。
【請求項8】
請求項7に記載のキットのタマナマコの性別判別における用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性別判別の分子生物学の技術分野に関し、具体的には、タマナマコの性別を迅速に判別する特異的プライマー、判別方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
タマナマコ(Stichopus monotuberculatus)は、花ナマコとも呼ばれ、一般に黄ナマコ、白ナマコ、和豚虫ナマコなどとして知られており、棘皮動物門、ナマコ綱、楯手目、ナマコ科、ナマコ属に属するものであり、中国の広西、広東、スプラトリー諸島、海南および雷州半島などの沿岸に分布され、栄養価値が高く、耐熱性が高く、成長速度が速い利点を有し、中国南部で高品質の食用ナマコの一つであり、南アジアでも食材と薬用材として人気があり、南部のナマコ養殖開発の主な対象である。長年の乱獲によるタマナマコ野生資源の減少が深刻になり、野生タマナマコだけでは市場のニーズを満たすことができなくなるため、タマナマコの人工育種と養殖は、市場のニーズを満たすだけでなく、増殖と放出により天然海域のナマコ資源を再生するために盛んになっている。従来、タマナマコの人工産卵誘導と育種方法は比較的粗雑であり、その過程を改善する必要がある。生殖腺が成熟した雌雄タマナマコを混合養殖すると生殖腺の早期排出を容易に引き起こす可能性がある。人工産卵誘導の過程中、精子と卵子の比率が3:1であると、最高の受精率を達成できるとともに、1つの卵子に複数の精子が入って胚の発育が停滞することも防止することができる。日陰で乾かして流水する方法でのタマナマコの人工産卵誘導過程中、雌雄単体を厳密に分離し、別々に排卵と排精をさせた後、精子と卵子を人工的にマッチングし、精子と卵子の比率の最適化状態を達成する。しかしながら、外観だけではタマナマコの雌雄を区別することができず、人工産卵誘導過程中、生殖腺の早期排出と精子・卵子の比率の低下という問題が常に存在していた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の目的は、タマナマコの性別を判別するためのPCRプライマーを提供することであり、前記のプライマーは以下のとおりである。
フォワードプライマーSm―F:5’―CACAAATGGTGCTTGGAATC―3’
リバースプライマーSm―R:5’―CTGGCAATTTGTCTTGTATG―3’
【0004】
本発明の第2の目的は、タマナマコの性別を迅速に判別する方法を提供することであり、この方法は以下の工程を含む。
【0005】
測定するタマナマコ単体の棘組織を取り、ゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNAをテンプレートとして、請求項1に記載のプライマーSm―F/Sm―Rを用いてPCR増幅し、増幅生成物を電気泳動および染色し、目標バンドからタマナマコの性別を判別する。
【0006】
前記の目標バンドからタマナマコの性別を判別する工程は、具体的に、増幅生成物が410bpに目標バンドがあるものは雄単体であり、バンドのないものは雌単体である。
【0007】
好ましくは、前記PCR反応系は、DNAテンプレート1μL、フォワードおよびリバースプライマーそれぞれ0.8μL、2×Taq酵素Mix10μL、ddH2O7.4μL、反応系全体20μLである。
【0008】
好ましくは、前記のPCR増幅条件は、94℃で3分間予備変性し、94℃で30秒間変性し、51℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間延伸し、35回繰り返して、最後に72℃で5分間延伸することである。
【0009】
本発明の第3の目的は、タマナマコの性別判別用のキットの調製における上記のPCRプライマーSm―F/Sm―Rの用途を提供することである。
【0010】
本発明の第4の目的は、タマナマコの性別を判別するためのキットを提供することであり、該キットは上記のPCRプライマーSm―F/Sm―Rを含む。
【0011】
本発明の第5の目的は、タマナマコの性別判別における上記キットの用途を提供することである。
【発明の効果】
【0012】
従来技術と比べて、本発明は以下の利点を有する。
【0013】
本発明は、初めてタマナマコのXY型性決定メカニズムに基づいて、タマナマコの雄特異的分子マーカーを選別し、該特異的分子マーカーを基にタマナマコの性別を判別するためのプライマーを設計し、タマナマコの性別を迅速に判別するPCR方法を構築する。本発明の方法は、高効率、簡便、迅速、および正確という利点を有し、タマナマコの性別の判別に応用され、養殖過程中、雌雄タマナマコ単体を厳密に区別することで、雌雄タマナマコ混合養殖によって引き起こされる生殖腺早期排出を防止することだけでなく、人工産卵誘導過程中、精子と卵子の不適切な比率による受精率と胚発育生存率の低下も防止することもできる。タマナマコの人工育種過程の制御とタマナマコ育苗の量産に対して重要な応用価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】雌、雄タマナマコの単体ゲノムのKmer分布図である。
【
図2】タマナマコゲノム性別の特異的配列の分布図である。
【
図3】雌5匹と雄5匹のタマナマコの生殖腺と棘組織のサンプルの増幅電気泳動の結果である。
【
図4】性別不明のタマナマコ60匹の棘組織のサンプルの増幅電気泳動の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の実施例は本発明をさらに説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明は、雌3匹と雄3匹のタマナマコを全ゲノムで配列再決定し、Kmerセグメント分布戦略でゲノムを評価し(
図1)、組換え比較した結果、雄の特異的配列数が雌の特異的配列数よりも多く(
図2)、タマナマコには雄の特異的染色体があり、タマナマコの性別決定メカニズムはXY型性決定メカニズムであることを示し、PCR方法により雄特異的配列を検出してその性別を判別し、生産に応用され得る。
【0017】
(実施例1)
体重800~1000gのタマナマコ16匹を選択し、解剖した結果、雌9匹、雄6匹、残りの1匹の生殖腺が無発育であることが分かった。そのうちから、雌5匹と雄5匹の単体を選出し、それぞれ生殖腺および棘組織のサンプルを得る。海洋動物組織ゲノムDNA抽出キット(TianGen)によりゲノムDNAを抽出し、本発明によって提供されるタマナマコ雄特異的プライマーSm―F:5’―CACAAATGGTGCTTGGAATC―3’、とSm―R:5’―CTGGCAATTTGTCTTGTATG―3’を使用して測定するゲノムDNAを増幅する。増幅PCR体系は、測定するDNAテンプレート1μL(100ng/μL)、雄特異的フォワードプライマーSm―F0.8μL、雄特異的リバースプライマーSm―R0.8μL、2×Taq MasterMix(Takara)10μL、ddH
2O7.4μL、反応系全体20μLである。PCR条件は、94℃で3分間予備変性し、94℃で30秒間変性し、51℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間延伸し、35回繰り返して、最後に72℃で5分間延伸することである。増幅生成物を1%アガロースゲル電気泳動で分離し、各測定サンプルを5μLロードし、電気泳動が完了した後アガロースゲルをエチジウムブロマイドで染色し、そしてUVゲルアナライザーで観察し写真を撮影して記録を行う。結果から分かるように、5匹の雄単体の生殖腺と棘のサンプルには、410bpに特異的増幅バンドがあるが、5匹の雌単体の生殖腺と棘のサンプルには、増幅バンドがない(
図3)。
【0018】
(実施例2)
性別不明、体重800~1000gのタマナマコ60匹を選択して番号付け、各単体から少量の棘組織を切り取り、海洋動物組織ゲノムDNA抽出キット(TianGen)でゲノムDNAを抽出し、本発明によって提供されるタマナマコ雄特異的プライマー配列Sm―F:5’―CACAAATGGTGCTTGGAATC―3’、とSm―R:5’―CTGGCAATTTGTCTTGTATG―3’を使用して測定するゲノムDNAを増幅し、増幅体系、増幅条件および生成物電気泳動方法は上記と同様である。結果から分かるように、33例のゲノムDNAサンプルは、410bpに特異的増幅バンドがあり、雄タマナマコに由来する可能性があることを示し、増幅バンドのない27例は、雌タマナマコに由来する可能性があることを示す(
図4)。
【0019】
ゲノムDNAを増幅した後、雄特異的バンドがある33匹のタマナマコをプールに入れ、日陰で乾かして流水する方法により人工産卵誘導し、17匹が排精し、無排卵であり、ゲノムDNA増幅した後、雄特異的バンドのない27匹のタマナマコを別のプールに入れ、日陰で乾かして流水する方法により人工産卵誘導し、7匹が排卵し、無排精である(表1)。人工的マッチングにより精子と卵子が受精と胚発育に必要な最適な3:1の比率に達することができる。
【0020】
【0021】
以上は本発明の好適な実施形態に過ぎず、上記好適な実施形態は本発明を限定するものではなく、本発明の保護範囲は特許請求の範囲に従うべきであることに留意されたい。当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、いくつかの改善や修正を行うことができ、これらの改善や修正も本発明の保護範囲に含まれると見なされるべきである。
【0022】
(付記)
(付記1)
タマナマコの性別を判別するための特異的プライマーであって、前記プライマーは以下であることを特徴とするプライマー。
フォワードプライマーSm―F:5’―CACAAATGGTGCTTGGAATC―3’
リバースプライマーSm―R:5’―CTGGCAATTTGTCTTGTATG―3’
【0023】
(付記2)
測定するタマナマコ単体の棘組織を取り、ゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNAをテンプレートとして、付記1に記載のプライマーSm―F/Sm―Rを用いてPCR増幅し、増幅生成物を電気泳動および染色し、目標バンドからタマナマコの性別を判別する工程を含む、ことを特徴とするタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【0024】
(付記3)
前記の目標バンドからタマナマコの性別を判別する工程は、具体的に、増幅生成物が410bpに目標バンドがあるものは雄単体であり、バンドのないものは雌単体である、ことを特徴とする付記2に記載のタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【0025】
(付記4)
前記PCR反応系は、DNAテンプレート1μL、フォワードおよびリバースプライマーそれぞれ0.8μL、2×Taq酵素Mix10μL、ddH2O7.4μL、反応系全体20μLである、ことを特徴とする付記2に記載のタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【0026】
(付記5)
前記のPCR増幅条件は、94℃で3分間予備変性し、94℃で30秒間変性し、51℃で30秒間アニーリングし、72℃で30秒間延伸し、35回繰り返して、最後に72℃で5分間延伸することである、ことを特徴とする付記2に記載のタマナマコの性別を迅速に判別する方法。
【0027】
(付記6)
タマナマコの性別判別用のキットの調製における付記1に記載のプライマーの用途。
【0028】
(付記7)
付記1に記載のプライマーを含む、ことを特徴とするタマナマコの性別を判別するためのキット。
【0029】
(付記8)
付記7に記載のキットのタマナマコの性別判別における用途。
【国際調査報告】