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特表2022-521010薬物誘導性腎毒性を減少させるための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-04
(54)【発明の名称】薬物誘導性腎毒性を減少させるための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20220328BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 38/13 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20220328BHJP
   A61K 31/7036 20060101ALI20220328BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220328BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220328BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P13/12
A61P3/10
A61P3/06
A61P39/02
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/06
A61K31/12
A61K31/7034
A61K31/351
A61K38/13
A61K33/24
A61K31/7036
G01N33/50 D
G01N33/68
G01N27/416 386Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549325
(86)(22)【出願日】2020-02-16
(85)【翻訳文提出日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 IL2020050173
(87)【国際公開番号】W WO2020170240
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】62/808,615
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】598025706
【氏名又は名称】イッスム・リサーチ・デベロプメント・カムパニー・オブ・ザ・ヘブリュー・ユニバシティー・オブ・エルサレム リミテッド
【住所又は居所原語表記】Hi Tech Park, The Edmond J. Safra Campus, The Hebrew University of Jerusalem, Givat Ram, P.O.Box 39135, 9139002 Jerusalem, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナーミアス ヤーコフ
(72)【発明者】
【氏名】アーリッヒ アヴナー
(72)【発明者】
【氏名】コーヘン アーロン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB01
2G045CB03
2G045DA31
2G045DA35
2G045FB05
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA19
4C084AA20
4C084DA11
4C084NA06
4C084ZA811
4C084ZB081
4C084ZB261
4C084ZB321
4C084ZC332
4C084ZC352
4C084ZC372
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA01
4C086EA08
4C086EA09
4C086HA12
4C086HA24
4C086HA26
4C086HA28
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA06
4C086ZB26
4C086ZB32
4C086ZC35
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB19
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA06
4C206ZC35
4C206ZC75
(57)【要約】
対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法を開示する。当該方法は、(i)腎臓傷害性薬剤と、(ii)グルコース再吸収の阻害剤とを対象に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、
(i)腎臓傷害性薬剤、および
(ii)グルコース再吸収の阻害剤
を前記対象に投与することを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記グルコース再吸収の阻害剤がナトリウム・グルコース輸送タンパク質2(SGLT2)阻害剤ではない、方法。
【請求項2】
対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、
(i)腎臓傷害性薬剤、および
(ii)前記対象の腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤
を前記対象に投与することを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記脂質蓄積の低下をもたらす薬剤がSGLT2阻害剤ではない、方法。
【請求項3】
対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、対象に対して、前記対象の腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤を投与することで、前記対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎毒性を減少させることを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記脂質蓄積の低下をもたらす薬剤がSGLT2阻害剤ではない、方法。
【請求項4】
対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、対象に対してグルコース再吸収の阻害剤を投与することで、前記対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎毒性を減少させることを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記阻害剤がSGLT2阻害剤ではない、方法。
【請求項5】
(i)腎臓障害性薬剤、および
(ii)腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤
を含む、組成物。
【請求項6】
(i)腎臓障害性薬剤、および
(ii)近位尿細管上皮細胞によるグルコース再吸収および腎臓傷害性薬剤の毒性作用に対する阻害剤
を含む、組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体と、活性成分として
(i)腎臓障害性治療薬と、
(ii)腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤と
を含む、医薬組成物。
【請求項8】
薬学的に許容される担体と、活性成分として
(i)腎臓障害性治療薬と、
(ii)グルコース再吸収の阻害剤と
を含む、医薬組成物。
【請求項9】
腎臓傷害性治療薬が治療剤である疾患の治療用である、請求項7または8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(i)腎臓障害性薬剤と、
(ii)腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤と
を含むキット。
【請求項11】
(i)腎臓障害性薬剤と、
(ii)グルコース再吸収の阻害剤と
を含むキット。
【請求項12】
腎臓傷害性薬剤が治療剤である疾患の治療用である、請求項10または11に記載のキット。
【請求項13】
前記対象が癌を発症しており、前記腎臓傷害性薬剤が癌の治療に使用する治療薬である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が臓器または組織移植を受けており、前記腎臓傷害性薬剤が免疫抑制剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象は感染症を発症しており、前記腎臓傷害性薬剤は感染症の治療用である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
腎臓傷害性薬剤が治療薬である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法、組成物またはキット。
【請求項17】
前記腎臓傷害性薬剤が診断薬である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法、組成物またはキット。
【請求項18】
前記対象が代謝疾患を発症していない、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が糖尿病を発症していない、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤が、グルコース再吸収の阻害剤、脂質合成の遮断薬および脂質酸化のアップレギュレーターからなる群より選ばれる、請求項2、3、5、7または10に記載の方法、組成物またはキット。
【請求項21】
前記グルコース再吸収の阻害剤が、ナトリウム・グルコース共輸送体1(SGLT1)の阻害剤、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)の阻害剤およびGLUT2の阻害剤からなる群より選ばれる、請求項1、4、6、8、11または20に記載の方法、組成物またはキット。
【請求項22】
前記グルコース再吸収の阻害剤が、フロレチン、フロリジンおよびエンパグリフロジンからなる群より選ばれる、請求項1、4、6、8、11または20に記載の方法、組成物またはキット。
【請求項23】
前記腎臓傷害性薬剤が、NSAID、ACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、アミノグリコシド系抗生物質、造影剤、シクロスポリンA(CsA)および化学療法薬からなる群より選ばれる、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法、組成物またはキット。
【請求項24】
前記腎臓傷害性薬剤がシスプラチン、ゲンタマイシンおよびシクロスポリンAからなる群より選ばれる、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法、組成物またはキット。
【請求項25】
成熟し、分極化した腎上皮細胞および内皮細胞を含む単離されたオルガノイドであって、前記オルガノイドが少なくとも2の開口部を有する三次元縦尿細管を有し、各オルガノイドが少なくとも一の中心内腔を有し、前記オルガノイドの細胞の50%未満が胎児マーカーを発現する、単離されたオルガノイド。
【請求項26】
前記尿細管の直径が約10~200ミクロンである、請求項25に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項27】
前記尿細管の長さが約100~1000ミクロンである、請求項25または26に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項28】
前記腎細胞が、ヒト腎臓-2細胞(HK-2)、初期腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)およびこれら2種の細胞の組み合わせからなる群より選ばれる、請求項25に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項29】
血管新生化されている、請求項25または28に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項30】
酸素モニタリング用の少なくとも1種のマイクロセンサが埋め込まれた、請求項25~29のいずれか一項に記載の単離されたオルガノイド。
【請求項31】
マイクロセンサが酸素感知用ナノ粒子または微粒子を含む、請求項30に記載のオルガノイド。
【請求項32】
前記酸素感知用ナノ粒子または微粒子がルテニウムベースの色素を装填されている、請求項31に記載のオルガノイド。
【請求項33】
請求項25~32のいずれか一項に記載のオルガノイドを含む複数のウェルを含む、マイクロ流体バイオセンサ・アレイ。
【請求項34】
前記複数のウェルの少なくとも一部が、せん断力の負の影響から細胞を守るマイクロウェル・インサートを含む、請求項33に記載のバイオセンサ。
【請求項35】
対向電極と参照電極が分離した三電極設計であり、前記参照電極がそこに電流を流すことなく作用電極電位を図るために使用され、前記対向電極が回路を閉じる、請求項33または34に記載のバイオセンサ。
【請求項36】
候補薬剤の腎臓に対する毒性作用を決定するための方法であって、
(i)請求項30に記載のオルガノイドを提供する工程と、
(ii)前記候補薬剤の存在下、生理学的条件で前記オルガノイドを培養する工程と、
(iii)前記オルガノイドによる酸素消費のリアルタイム測定を実施する工程と
を含み、前記候補薬剤の不存在下における前記オルガノイドの酸素消費と比較した、前記候補薬剤の存在下における前記オルガノイドの酸素消費の低下が、前記候補薬剤の腎臓に対する毒性作用の指標となる、方法。
【請求項37】
前記工程(ii)において、前記薬剤の存在量が、24時間以内に死亡する前記オルガノイド中の細胞が20%未満となる濃度である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記工程(ii)において、前記薬剤の存在量が、24時間以内に死亡する前記オルガノイド中の細胞が10%未満となる濃度である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
グルコース、乳酸およびグルタミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の代謝産物の濃度を測定する工程をさらに含む、請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
グルコース、乳酸およびグルタミンからなる群より選ばれる少なくとも2種の代謝産物の濃度を測定する工程をさらに含む、請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
グルコース、乳酸およびグルタミンのそれぞれの濃度を測定する工程をさらに含む、請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
代謝フラックス分析を実施する工程をさらに含む、請求項36~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記培養を、バイオセンサ・アレイに接続した灌流バイオリアクタで実施する、請求項36~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記バイオセンサ・アレイが電気化学的センサと流体連通し、前記オルガノイドによって産生される中枢炭素代謝の代謝産物を直接測定する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記候補薬剤が、治療薬、診断薬、造影剤、食品、化粧品、および環境腎毒性作用を有すると疑われる薬剤からなる群より選ばれる、請求項36~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記酸素消費の測定が、
a.前記薬剤による酸素消費の減少のパーセンテージの決定、
b.前記候補薬剤が酸素消費の減少をもたらす曝露時間の決定、および
c.前記候補薬剤が酸素消費の減少をもたらす濃度の決定
からなる群より選ばれる、請求項36~45のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2019年2月21日出願の米国仮特許出願第62/808,615号について、優先権に基づく利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、腎臓に対する薬剤の毒性作用を解析するためのex vivoの方法に関する。本発明はさらに薬物誘導性腎毒性を減少させるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
薬物誘導性腎毒性は非常に一般的な病態であり、腎臓に対する種々の病理学的影響を担うものである。それは、薬への暴露による直接または間接的な結果として発生する腎臓病または腎機能不全と定義される。薬物誘導性腎毒性の事例は、処方薬、特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)または抗生物質、の使用増加および市販薬としての入手容易性の増加と共に増加している。薬物誘導性急性腎不全が、全急性腎不全事例の20%を占める。高齢者間では薬物誘導性腎毒性の発生率は66%にもおよび、これは糖尿病および心血管疾患の発症例が高く、多重服用が止もう得ないためである。多くの場合、腎機能障害は回復可能であるものの、それでも複数回の医療的介入や入院が必要となる。腎毒性が発見された薬物の多くが一または複数の一般的な病原性機構によってその毒性を発揮する。これらには糸球体循環動態の変更、管状細胞毒性、炎症、結晶腎症、横紋筋融解症および血栓性微小血管症が含まれる。原因薬剤およびそれらによる腎傷害の具体的な病原性機構に関する知識は薬物誘導性腎障害を認識し予防するために重要である。
【0004】
シクロスポリンA(CsA)は非常に重要な免疫抑制剤であり、移植に広く用いられ、固形臓器移植後の患者および移植片の生存率を大幅に向上させる。しかしながらCsAの慢性的な使用は、高い腎毒性の発症率および後の慢性腎臓不全の発生と関連する。実際、CsAの使用において腎毒性は、特に腎臓移植患者にとって、最も頻繁で臨床的に重要な副反応である。CsAは腎尿細管上皮細胞に直接作用し、特に上皮間葉転換を促進し、DNA合成を阻害し、アポトーシスを誘導する。CsA誘導性アポトーシスは、酸化ストレス、小胞体ストレスおよびCsAの発生させるオートファジーと相関する。人および動物においては、肝臓および腸がCsAが代謝される主要部位である。腸代謝の限界が人におけるCsAの経口バイオアベイラビリティの低さをもたらす。CsA代謝産物の細胞毒性は、通常、親薬物よりも低い。しかし、高濃度のいくつかのCsA代謝産物は臓器移植患者における腎毒性と関連する。注目すべきことに、腎臓におけるCsAの生体内分解は肝臓に比べてかなり少ない。これはこの薬物がin vivoでここまで腎毒性である理由を説明し得る。
【0005】
シスプラチンは、広く知られた化学療法薬である。これは、膀胱、頭部と頸部、肺、卵巣および精巣の癌を含む、種々のヒトの癌の治療に使用されてきた。これは、癌腫、胚細胞腫瘍、リンパ腫および肉腫を含む様々な種類の癌に対して効果的である。その作用形態は、DNAのプリン塩基と架橋する能力と関連付けられており、DNA修復機構に介入してDNAの損傷をもたらし、その後、癌細胞のアポトーシスを誘導する。急性腎不全を含む用量関連および累積腎不全は、シスプラチンの主要な用量規制毒性である。50mg/mの単回用量で処置された患者の28%から36%で腎毒性が見られた。それは1回の用量から2週間後に初めて見られ、血中尿素窒素(BUN)とクレアチンの上昇、血清尿酸および/またはクレアチンクリアランスの減少によって明らかとなる。薬物投与の繰り返しによって腎毒性はより長期化し重症化する。次の用量のシスプラチンを投与する前に腎臓機能は正常に戻らなければならない。腎機能の傷害は腎尿細管の損傷と関連付けられている。経静脈水分投与を伴う6~8時間の点滴によるシスプラチンの投与およびマンニトールが腎毒性の低下のために用いられている。しかし、これら方法を使用した後でも腎毒性は生じ得る。
【0006】
アミノグリコシド系抗生物質はグラム陰性菌による感染症および細菌性心内膜炎の治療に広く用いられている。その陽イオン構造が毒性において重要な役割を担うようであり、それが蓄積される腎臓(腎毒性)および聴覚(内耳神経毒性)組織に対して主たる影響を与える。その望ましくない毒性作用にもかかわらず、アミノグリコシド系抗生物質は、他の抗生物質に非感受性の病原菌に対して、未だに唯一の効果的な代替療法を構成している。これは主としてその化学安定性、速い殺細菌効果、ベータラクタム系抗生物質との相互作用、小さな抵抗性および低価格によるものである。最も腎毒性の高いアミノグリコシド系抗生物質であるにもかかわらず、ゲンタマイシンは、多種多様な臨床状況において第一または第二の候補薬として未だ頻繁に使用されている。さらにゲンタマイシンは、実験動物およびヒトにおいて、このファミリーの薬物の腎毒性を研究するためのモデルとして広く使用されている。
【0007】
生体機能チップ(Organ-on-a-chip)の利用は、単一臓器または多臓器の最小機能単位の制作を可能にする。腎臓学との関連においては、腎機能チップ(kidneys-on-a-chip)の製造のために腎尿細管細胞が微小流体デバイスと一体化されている。開発初期段階ではあるが、腎機能チップは、伝統的な動物およびヒトの研究に置き換わる可能性を示している。これらは濾過ユニット(腎糸球体)または再吸収と分泌を担う腎尿細管ユニットのいずれかに着目している。第一の種類の腎機能チップにおいては、成熟腎糸球体オルガノイドを作製するために、ヒトiPS由来有足細胞を腎糸球体毛細血管内皮細胞と組み合わせる(Hale, L.J. et al. Nat Commun 9, 5167 (2018) doi:10.1038/s41467-018-07594-z)。別のグループは、腎糸球体および腎尿細管のコンパートメントの複数種の腎臓細胞によってオルガノイドを開発したが、これはネフロン前駆細胞のレベルであった(Takasato, M., Nature 526, 564-568 (2015) doi:10.1038/nature15695、Jian Hui Low, Cell Stem Cell, Volume 25, Issue 3, 2019, Pages 373-387.e9, ISSN 1934-5909)。第2の種類の腎機能チップは、多孔質ケイ素メンブランによって隔てられた2つのチャンバーで構成されたチップ上に腎尿細管システムを複製する。第1のコンパートメントは近位尿細管細胞を保持し、第二は内皮細胞を保持する(Kyung-Jin Jang, Integrative Biology, Volume 5, Issue 9, September 2013, Pages 1119-1129)。どちらのシステムにおいても、薬物誘導性腎毒性を誘導後に研究することができる。
【0008】
国際公開WO/2013/158143は、SGLT-2阻害剤がグルコスファミド等のグルコース結合化学療法薬の腎毒性を減少させることを教示する。
【0009】
追加の背景技術としては、Lhotak et al., Am J Physiolrenal Physiol 303: F266-F278, 2012が挙げられる。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様において、対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、
(i)腎臓傷害性薬剤と、
(ii)グルコース再吸収の阻害剤と
を前記対象に投与することを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記グルコース再吸収の阻害剤がナトリウム・グルコース輸送タンパク質2(SGLT2)阻害剤ではない、方法が提供される。
【0011】
本発明の他の態様において、対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、
(i)腎臓傷害性薬剤と、
(ii)前記対象の腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤と
を前記対象に投与することを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記脂質蓄積の低下をもたらす薬剤がSGLT2阻害剤ではない、方法が提供される。
【0012】
本発明の他の態様において、対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、対象に対して、前記対象の腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤を投与することで、前記対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎毒性を減少させることを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記脂質蓄積の低下をもたらす薬剤がSGLT2阻害剤ではない、方法が提供される。
【0013】
本発明の他の態様において、対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、対象に対して、グルコース再吸収の阻害剤を投与することで、前記対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎毒性を減少させることを含み、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、前記グルコース再吸収の阻害剤がSGLT2阻害剤ではない、方法が提供される。
【0014】
本発明の他の態様において、
(i)腎臓障害性薬剤と、
(ii)腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤と
を含む、組成物が提供される。
【0015】
本発明の他の態様において、
(i)腎臓障害性薬剤と、
(ii)グルコース再吸収の阻害剤と
を含む、組成物が提供される。
【0016】
本発明の他の態様において、薬学的に許容される担体と、活性成分として
(i)腎臓障害性治療薬と、
(ii)腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤と
を含む、医薬組成物が提供される。
【0017】
本発明の他の態様において、薬学的に許容される担体と、活性成分として
(i)腎臓障害性治療薬と、
(ii)グルコース再吸収の阻害剤と
を含む、医薬組成物が提供される。
【0018】
本発明の実施形態によると、医薬組成物は、腎臓傷害性治療薬が治療剤である疾患の治療用である。
【0019】
本発明の実施形態によると、キットは、腎臓傷害性治療薬が治療剤である疾患の治療用である。
【0020】
本発明の他の態様において、
(i)腎臓障害性薬剤と、
(ii)腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤と
を含むキットが提供される。
【0021】
本発明の他の態様において、
(i)腎臓障害性薬剤と、
(ii)グルコース再吸収の阻害剤と
を含むキットが提供される。
【0022】
本発明の他の態様において、成熟した、分極化腎上皮細胞および内皮細胞を含む単離されたオルガノイドであって、前記オルガノイドが少なくとも2の開口部を有する三次元縦尿細管を有し、各オルガノイドが少なくとも一の中心内腔を有し、前記オルガノイドの細胞の50%未満が胎児マーカーを発現する、単離されたオルガノイドが提供される。
【0023】
本発明の他の態様において、本明細書に記載のオルガノイドを含む複数のウェルを含む、マイクロ流体・バイオセンサ・アレイが提供される。
【0024】
本発明の他の態様において、候補薬剤の腎臓に対する毒性作用を決定するための方法であって、
(i)本明細書に記載のオルガノイドを提供する工程と、
(ii)前記候補薬剤の存在下、生理学的条件下で前記オルガノイドを培養する工程と、
(iii)前記オルガノイドによる酸素消費のリアルタイム測定を実施する工程と
を含み、前記候補薬剤の不存在下における前記オルガノイドの酸素消費と比較した、前記候補薬剤の存在下における前記オルガノイドの酸素消費の低下が、前記候補薬剤の腎臓に対する毒性作用の指標となる、方法が提供される。
【0025】
本発明の実施形態によると、対象は癌を発症しており、腎臓傷害性薬剤は癌の治療に使用する治療薬である。
【0026】
本発明の実施形態によると、対象は臓器または組織移植を受けており、腎臓傷害性薬剤は免疫抑制剤である。
【0027】
本発明の実施形態によると、対象は感染症を発症しており、腎臓傷害性薬剤は感染症の治療用である。
【0028】
本発明の実施形態によると、腎臓傷害性薬剤は治療薬である。
【0029】
本発明の実施形態によると、腎臓傷害性薬剤は診断薬である。
【0030】
本発明の実施形態によると、対象は代謝疾患を発症していない。
【0031】
本発明の実施形態によると、対象は糖尿病を発症していない。
【0032】
本発明の実施形態によると、腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤は、グルコース再吸収の阻害剤、脂質合成の遮断薬および脂質酸化のアップレギュレーターからなる群より選ばれる。
【0033】
本発明の実施形態によると、保護剤はグルコース再吸収の阻害剤である。
【0034】
本発明の実施形態によると、グルコース再吸収の阻害剤は、ナトリウム・グルコース共輸送体1(SGLT1)の阻害剤、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)の阻害剤およびGLUT2の阻害剤からなる群より選ばれる。
【0035】
本発明のさらなる実施形態によると、グルコース再吸収の阻害剤は、ナトリウム・グルコース共輸送体1(SGLT1)の阻害剤およびGLUT2の阻害剤からなる群より選ばれる。
【0036】
従って、一実施形態において、阻害剤はナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)の阻害剤である。
【0037】
本発明の実施形態によると、グルコース再吸収の阻害剤は、フロレチン、フロリジンおよびエンパグリフロジンからなる群より選ばれる。
【0038】
本発明の実施形態によると、腎臓傷害性薬剤は、NSAID、ACE阻害剤、アンジオテンシンII受容体遮断薬、アミノグリコシド系抗生物質、造影剤、シクロスポリンA(CsA)および化学療法薬からなる群より選ばれる。
【0039】
本発明の実施形態によると、腎臓傷害性薬剤はシスプラチン、ゲンタマイシンおよびシクロスポリンAからなる群より選ばれる。
【0040】
本発明の実施形態によると、尿細管の直径は約10~200ミクロンである。
【0041】
本発明の実施形態によると、尿細管の長さは約100~1000ミクロンである。
【0042】
本発明の実施形態によると、腎細胞は、ヒト腎臓-2細胞(HK-2)、初期腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)およびこれら2種の細胞の組み合わせからなる群より選ばれる。
【0043】
本発明の実施形態によると、単離されたオルガノイドは血管新生化されている。
【0044】
本発明の実施形態によると、単離されたオルガノイドには少なくとも1種の酸素モニタリング用のマイクロセンサが埋め込まれている。
【0045】
本発明の実施形態によると、マイクロセンサは酸素感知用ナノ粒子または微粒子を含む。
【0046】
本発明の実施形態によると、酸素感知用ナノ粒子または微粒子にルテニウムベースの色素が装填されている。
【0047】
本発明の実施形態によると、複数のウェルの少なくとも一部が、せん断力の負の影響から細胞を守るマイクロウェル・インサートを含む。
【0048】
本発明の実施形態によると、バイオセンサは、対向電極と参照電極が分離した三電極設計であり、前記参照電極は電流を流すことなく作用電極電位を図るために使用され、前記対向電極が回路を閉じる。
【0049】
本発明の実施形態によると、工程(ii)における薬剤の存在量は、24時間以内に死亡するオルガノイド中の細胞が20%未満となる濃度である。
【0050】
本発明の実施形態によると、工程(ii)における薬剤の存在量は、24時間以内に死亡するオルガノイド中の細胞が10%未満となる濃度である。
【0051】
本発明の実施形態によると、方法は、グルコース、乳酸およびグルタミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の代謝産物の濃度を測定する工程をさらに含む。
【0052】
本発明の実施形態によると、方法は、グルコース、乳酸およびグルタミンからなる群より選ばれる少なくとも2種の代謝産物の濃度を測定する工程をさらに含む。
【0053】
本発明の実施形態によると、方法は、代謝産物であるグルコース、乳酸およびグルタミンのそれぞれの濃度を測定する工程をさらに含む。
【0054】
本発明の実施形態によると、方法は、代謝フラックス分析を実施する工程をさらに含む。
【0055】
本発明の実施形態によると、培養をバイオセンサ・アレイに接続した灌流バイオリアクターで実施する。
【0056】
本発明の実施形態によると、バイオセンサ・アレイは電気化学的センサと流体連通し、オルガノイドによって産生される中枢炭素代謝の代謝産物を直接測定する。
【0057】
本発明の実施形態によると、候補薬剤は、治療薬、診断薬、造影剤、食品、化粧品、および環境腎毒性作用を有すると疑われる薬剤からなる群より選ばれる。
【0058】
本発明の実施形態によると、酸素消費の測定は、
a.前記薬剤による酸素消費の減少のパーセンテージの決定、
b.前記候補薬剤が酸素消費の減少をもたらす曝露時間の決定、および
c.前記候補薬剤が酸素消費の減少をもたらす濃度の決定
からなる群より選ばれる。
【0059】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および/または科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を、本発明の実施形態の実践または試験に使用することができるが、例示的な方法および/または材料を下記に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態について、その例示のみを目的として添付の図面を参照して本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、また本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。同様に、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1-1】近位尿細管HK2細胞系は、in vitroの薬物誘導性腎毒性のモデルとなる。(A)2D単層中および3Dシスト構成中の腎臓近位尿細管上皮細胞(RPTEC)およびヒト腎臓-2(HK-2)細胞の位相画像。(B)HK2単層(HK2 2D)およびHK2オルガノイド(HK2 3D)の遺伝子発現解析は、腎臓生理機能に関与するRPTEC単層(RPTEC 2D)と同様のトランスポーターの発現レベルを示した。(C)標準2D細胞培養において、シクロスポリンA、シスプラチンまたはゲンタマイシンで24時間処理したHK-2細胞の用量依存性毒性曲線。TC50値はそれぞれ51.3μM、95.1μM、および182.4mMであった。
図1-2】(D)標準2D培養における24時間の準毒性薬物への暴露後に核周囲凝集体から細胞質および細胞膜での発現へと広がる急性傷害性マーカーKIM-1の免疫蛍光染色を示す、HK2細胞の共焦点顕微鏡画像。HSP60染色は、準毒性用量曝露におけるミトコンドリアネットワークの破壊を示唆する。スケールバー=25μM。(E)24時間の腎毒性薬物曝露後のKIM-1およびHSP60発現の定量。
図2】近位尿細管シストの準毒性薬物曝露は機能的分極化の急速な消失を誘導する。(A)ナトリウム-カリウムポンプ(赤)、側底膜マーカーおよびlectin tetragonobulusレクチン(緑)、近位尿細管細胞および頂端膜に特異的なヘキストによるDNAの対比染色(青)の、HK-2およびRPTECの単層で陽性な免疫蛍光染色。(B)アクアポリン-1(緑)およびF-アクチン(赤)に対して陽性のRPTEC三次元分極シストと比較したHK2の免疫蛍光染色であって、DNAはヘキスト(青)で対比染色した。シストは分極上皮細胞で形成され、それらの頂端膜は腔に面している。白いバー=発現プロファイルの断面。(C)HK-2シストおよびRPTECシストにおけるAQP1(緑)、F-アクチン(赤)およびDNA(青)の発現プロファイル。(D)24時間の準毒性薬物曝露後のHK2シストにおける急性傷害性マーカーKIM-1の免疫蛍光染色。このモデルでは、非常に低い濃度で初期毒性が観察された。(E)HK-2シストの機能的分極解析。カルセインAM(緑)は、培地からシストによって取り込まれ、細胞の頂端膜に局在するMDR1(P-gp)から排出された。準毒性用量の3種の公知腎毒性薬物に対する24時間の暴露後に、カルセインAMは細胞に保持され、これは非常に低濃度における薬物誘導性のMDR1の誤った局在化を示唆する。(F)機能的分極化の消失の定量化実験。カルセインAMの蛍光が減少する間、KIM-1発現は増加し、それぞれ用量依存的であった。
図3-1】微小生理学的フラックスバランスプラットホームの設計。(A)ヒト近位尿細管細胞のグルコース利用における代謝経路。フラックスバランスの解析は、細胞外酸素、グルコース、乳酸、グルタミンおよびグルタミン酸の測定値を用いて細胞内フラックスを計算することを可能にする。破線の矢印は実験的に限定されたフラックスを示す。(B)CNC組み立て6ユニットバイオリアクタープレートの3Dデザイン。9のオルガノイドを含有するレーザー切り出しディスポーザブルマイクロウェルチップに開放構成のマイクロセンサを植え付け、そして代謝の安定が得られるまで灌流した。免疫蛍光染色はLTL(緑)およびNa/K ATP分解酵素(赤)陽性HK2近位尿細管細胞(青)で構成されたヒト腎臓オルガノイドを示す。酸素センサ(橙)は、植え付けの間、微小組織(青)内に埋め込まれた。スケールバー=100μm。(C)プラットホームの概要。バイオリアクターに組織埋め込み酸素センサをロードし、Olympus IX83にマウントした。OPAL制御変調LEDシグナルは埋め込まれた酸素センサを励起した。ハードウエアでフィルターした高電子増倍管(PMT)を介して位相変調を測定した。常温における非特異的酸化および変化に応じて常に調節されている、グルコース、乳酸、グルタミンおよびグルタミン酸用の電気化学センサを含むマイクロ流体バイオセンサ・アレイに、バイオリアクターの流出は繋がれている。センサはオンチップのポテンショスタット(PSTAT)に繋がれている。全ての測定(光学的および電子的)は、連続的にシグナルを同期させる単一のマイクロプロセッサによってリアルタイムで処理される。(D)低容量微小流体電流測定用、8電極、バイオセンサ・アレイ。白金上のHの陽極酸化は急速に電流を生成し(t90<25秒)、埋め込まれたカタラーゼ活性は相互汚染を防止する。可逆的電解事象によるバックグラウンドノイズを最小化するために、作用電極と対向電極との間の450mVの電位を参照電極に対して観察する。
図3-2】(E)低容量微小流体電流測定用、8電極、バイオセンサ・アレイ。プラチナ上のHの陽極酸化は急速に電流を生成する(t90<25秒)が、埋め込まれたカタラーゼ活性が相互汚染を防止する。可逆的電解事象によるバックグラウンドノイズを最小化するために、作用電極と対向電極との間の450mVの電位を参照電極に対して観察する。(F)総内部容積が0.3~1μLのマイクロ流体バイオセンサ・アレイと、統合温度センサとPSTATの写真。(G)グルコース、乳酸、グルタミン、グルタミン酸の実測値および異なる検体濃度の校正測定のための温度センサ。測定は、2μL/分の連続フロー下で自動的に行った。試料間のエアギャップは、校正の際の化学勾配のシャープな変化を保証する。(H)バイオリアクターからの流出液中のグルコース、乳酸、グルタミンおよびグルタミン酸濃度の電流測定用検量曲線。(I)定常状態の分極化HK-2オルガノイドの細胞内代謝フラックス。各経路のグルコース利用は、nmol/分/10細胞のみならず、計算ATP産生(方法)で示した。相対グルコース利用をパイグラフで示した。
図4】微小生理学的プラットホームにおける薬物曝露の際の血管新生化腎臓オルガノイドの酸素のリアルタイム観察。(A)毛細管様構造で囲まれた長い尿細管を有する腎臓オルガノイドに固有の三次元構造の提示。オルガノイドの尿細管様要素を示す、多相共焦点画像からの3D再構成。HK-2オルガノイドおよびRPTECオルガノイドは類似した構造を示し、HK-2オルガノイドおよびRPTECオルガノイドにおいて、それぞれ免疫蛍光染色は、AQP1(緑)、F-アクチン(赤)およびNa/K ATP分解酵素(緑)、ビリン(紫)が陽性だった。(B)増加する濃度のシクロスポリンA、シスプラチンおよびゲンタマイシンに暴露されたHK-2オルガノイドの代表的な時間に対する酸素取り込み応答。破線は曝露開始を示す。(C)シクロスポリンA、シスプラチンおよびゲンタマイシンに対するHK-2オルガノイドの応答の開始までの時間(Time to onset、TTO)。全3種の薬物がTTOの用量依存的減少を示し、その範囲はシスプラチンで13~22時間、シクロスポリンAおよびゲンタマイシンで0.2~14時間であり、標準治療濃度における脂肪毒性の緩やかな蓄積を示唆した。
図5-1】シクロスポリンAは準毒性濃度において解糖系から脂質合成へのシフトを誘導する。(A)12.5μMのシクロスポリンAの連続灌流の際の酸素、グルコース、乳酸およびグルタミンのフラックス曲線。酸素取り込み(黒)は、33時間の連続曝露後にやっと2%低下した。一方、グルコースの取り込み(赤)は一定であり、乳酸産生(緑)は20時間の曝露後に劇的に低下した。(B)シクロスポリンAへの曝露に続く、グルコースに対する乳酸比の変化(青線)。20時間の曝露後に比は30%低下し、曝露によって後からシクロスポリンAが解糖系をシフトさせたことを示唆した。(C)準毒性濃度のシクロスポリンA(>95%生存率)に対する0、16および31時間の曝露に続き計算した細胞内代謝フラックス。各経路のグルコース利用は、nmol/分/10細胞のみならず、計算したATP産生(方法)で示した。脂質合成は37%増加し、解糖系およびATP産生はそれぞれ37%および12%低下した。(D)相対グルコース利用をパイグラフで示した。シクロスポリンA曝露中の脂質合成は、より多くのパーセンテージの利用可能なグルコースを利用する。
図5-2】(E)近位尿細管細胞のシクロスポリンAに対する代謝応答を表す模式図。破線の矢印は実験的に限定されたフラックスを示し、赤および緑の矢印はそれぞれ上方制御および下方制御されたフラックスを示す。シクロスポリンA曝露は、グルコースを乳酸からクエン酸産生にシフトすることで、初めの20時間の曝露の後に脂質合成を増加させる。
図6-1】シスプラチンは準毒性濃度で解糖系を脂質合成へとシフトさせる。(A)32μMのシスプラチンの連続灌流の際の酸素、グルコース、乳酸およびグルタミンのフラックス曲線。酸素取り込み(黒)は、33時間の連続曝露後にやっと36%低下した。一方、グルコースの取り込み(赤)は一定であり、乳酸産生(緑)は25時間の曝露後に劇的に低下した。(B)シスプラチンへの曝露に続く、グルコースに対する乳酸比の変化(青線)。25時間の曝露後に比は55%低下し、曝露によって後からシスプラチンの蓄積が解糖系をシフトさせたことを示唆した。(C)準毒性濃度のシスプラチン(>95%生存率)に対する0、16および31時間の曝露に続き計算した細胞内代謝フラックス。各経路のグルコース利用は、nmol/分/10細胞のみならず、計算したATP産生(方法)で示した。脂質合成は57%増加し、解糖系およびATP産生はそれぞれ98%および53%低下した。(D)相対グルコース利用をパイグラフで示した。シスプラチン曝露中の脂質合成は、より多くのパーセンテージの利用可能なグルコースを利用する。
図6-2】(E)近位尿細管細胞のシスプラチンに対する代謝応答を表す模式図。破線の矢印は実験的に限定されたフラックスを示し、赤および緑の矢印はそれぞれ上方制御および下方制御されたフラックスを示す。シスプラチン曝露は、グルコースを乳酸からクエン酸産生にシフトすることで、初めの25時間の曝露後に脂質合成を増加させる。
図7-1】ゲンタマイシンは準毒性濃度で解糖系を脂質合成へとシフトさせる。(A)32mMのゲンタマイシンの連続灌流の際の酸素、グルコース、乳酸およびグルタミンのフラックス曲線。酸素取り込み(黒)は、33時間の連続曝露後にやっと10%低下した。一方、グルコースの取り込み(赤)は劇的に増加し、乳酸産生(緑)は曝露によって低下した。(B)ゲンタマイシンへの曝露に続く、グルコースに対する乳酸比の変化(青線)。10時間の曝露後に比は85%低下し、曝露によってゲンタマイシンが解糖系をシフトさせたことを示唆した。(C)準毒性濃度のゲンタマイシン(>95%生存率)に対する0、16および31時間の曝露に続き計算した細胞内代謝フラックス。各経路のグルコース利用は、nmol/分/10細胞のみならず、計算したATP産生(方法)で示した。脂質合成は438%増加し、解糖系およびATP産生はそれぞれ65%および29%低下した。(D)相対グルコース利用をパイグラフで示した。ゲンタマイシン曝露中の脂質合成は、より多くのパーセンテージの利用可能なグルコースを利用する。
図7-2】(E)近位尿細管細胞のゲンタマイシンに対する代謝応答を表す模式図。破線の矢印は実験的に限定されたフラックスを示し、赤および緑の矢印はそれぞれ上方制御および下方制御されたフラックスを示す。ゲンタマイシン曝露はグルコースを乳酸からクエン酸産生にシフトすることで、曝露による脂質合成を増加させる。
図8-1】機能的分極化の薬物誘導性の消失は近位尿細管細胞におけるグルコースの蓄積を生じ、腎臓組織における脂肪毒性を招く。(A)準毒性のシクロスポリンA、シスプラチンおよびゲンタマイシンの15時間曝露後のHK-2近位尿細管細胞に対するグルコース取り込みアッセイ。2-NDBG(緑)はGLUT-2のみによって吸収されるグルコース類似体である。細胞によって保持され、蓄積される2-NDBGは、機能的分極化の消失がグルコーストランスポーターのシャトリングを破壊することを示唆する。(B)相対2-NDBG蓄積の定量解析は、全3種の薬物の準毒性曝露後のHK2細胞におけるグルコース含量の2倍の増加を示した。(C)48時間の薬物曝露後のHK-2単層の相対遺伝子発現解析。β-酸化(UCP2、CPT2)および脂質合成(FASN、SREBP1c、HMGCR)の遺伝子は曝露後に上方制御され、過剰なグルコースが脂質合成にシャトルされて腎臓脂肪毒性をもたらすことを示唆した。β-酸化は対抗メカニズムとして増加される。
図8-2】(D)48時間のシクロスポリンA、シスプラチンおよびゲンタマイシンの後のHK2およびRPTEC単層における脂質蓄積とリン脂質症の蛍光顕微鏡写真および全体定量。全3種の薬物が有意な中性脂肪(緑)の蓄積を誘導し、シクロスポリンAは有意なリン脂質症(赤)を始原細胞および細胞系の両方に誘導した。(E)48時間の薬物曝露後の相対中性脂肪(緑)およびリン脂質(赤)の含有量の解析。
図9】グルコース輸送阻害剤によるHK-2の救済実験であり、棒グラフは生存画分(A)および脂質蓄積(B)の定量を示す。エラーバーは±S.Eを表す。
図10-1】ヒト臨床研究は、治療とSGLT2阻害剤との組み合わせが腎毒性の発症を減少させることを示す。(A)近位尿細管細胞における生理学的グルコース輸送系の模式図。(B)研究に使用したSGLT2阻害剤を示す表であり、FDA承認済のグリホジン(Gliflozin)はII型糖尿病患者の血糖値低下に使用される。(C)CsAまたはシスプラチンをSGLT2阻害剤(SGLT2i)と組み合わせて処置した3D hPTCは、中性脂肪(緑)およびリン脂質(赤)の有意な減少を示した。(D)HK2細胞の生存/死亡検定による定量は、SGLT2iと組み合わせたCsAまたはシスプラチン、あるいはGLUT2輸送の阻害剤であるフロレチンと組み合わせたSGLT2iであるカクテルによって処置した細胞において、有意な細胞死の減少を示した。
図10-2】(E)腎臓オルガノイドに対する最低曝露レベル(LEL)の定量。この濃度は薬物の安全マージンを提供し、LELが低いほど、無限量の時間に対する薬物の安全性は低い。SGLT2iは、シスプラチンのLELを2倍に上昇させ、CsAに対して3桁上昇させる。(F)CsAまたはシスプラチンで処置された患者の腎臓生検の組織学的切片であって、尿細管の異常な空砲形成および脂肪ベシクルを示す。(G)処置ごとの群に含まれる患者数をまとめた表である。
図10-3】CsAとSGLT2iの同時処置(赤)を行った患者と比べた、CsA(青)で処置した患者、およびシスプラチンとSGLT2iの同時処置(黄)を行った患者と比べた、シスプラチン(緑)で処置した患者における血清クレアチン濃度(H)(J)、尿酸濃度(I)(K)、血清カルシウム濃度(L)(N)乳酸デヒドロゲナーゼ濃度(M)(O)を示す箱ひげ図。各グラフの水色の背景は、男性および女性の患者の各マーカーの正常な生理学的範囲を表す。***:p値<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0062】
発明の詳細な説明
本発明は、そのいくつかの実施形態において、腎臓に対する薬剤の毒性作用を解析するためのex vivoの方法に関する。さらに本発明は、薬物誘導性腎毒性を減少させるための方法にも関する。
【0063】
本発明の少なくとも一つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が、以下の記載に示すまたは実施例で例示する、詳細に限定されるものではないことを理解するべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、さまざまな手段で実施または実行することが可能である。
【0064】
腎臓は糖および流体のホメオスタシスのみならず、薬物代謝産物の排出を機能とする必須臓器である。薬物誘導性腎毒性は、一般的な人口における腎不全の20%を担い、処方薬を摂取する年長者においては薬物誘導性腎毒性の知見は66%に増加する。代謝産物の濃度および再吸収に関連する機能故に、近位尿細管は特に薬物毒性に感受性である。重要な点は、臨床的に問題となる薬物誘導性腎毒性の多くがin vitroで細胞損傷をもたらす閾値よりも低い血漿濃度の薬物で生じる点である。よって、損傷のメカニズムは不明確である。
【0065】
本発明者らはここに、構造的および機能的に成熟した近位腎尿細管オルガノイドを含む、新規な微小生理学的腎機能チップ・プラットホームを開発した。オルガノイドは、頂端刷子縁の証拠を有する複数の分極化縦尿細管を示す。ヒト腎臓-2細胞(HK-2)、初期腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)またはUpcyte近位尿細管細胞(UPC PTC)から作製されたこれら三次元オルガノイドは、血管新生化しており、組織のリアルタイム酸素測定のためにマイクロセンサを埋め込むことができる。その後、オルガノイドをマルチウェルの灌流バイオリアクターに入れる。これらバイオリアクターは微小電気化学的センサと流体連通し、流出液中の(グルコース、乳酸、グルタミンおよびグルタミン酸を含む)中枢炭素代謝の主要メンバーの連続測定を可能にする。このレベルの情報はオルガノイドによる代謝フラックス分析の精度に寄与し、腎毒性薬物の可能性のある物質の存在下において、それらの代謝の動的変化へのウインドウを提供する。
【0066】
本発明を実施するに際して、本発明者らは公知の腎毒性薬物の細胞損傷をもたらす閾値未満の濃度は、薬物誘導性急性傷害の標準マーカーである腎臓傷害分子(KIM1)の膜における発現を増加させることに着目した。KIM1の発現は早期機能的分極の消失(図1のD~E)と関連付けられる。バイオリアクター研究は、いずれも公知の腎毒性薬物であるシスプラチン(図6のA~E)、ゲンタマイシン(図7のA~E)およびシクロスポリンA(図5のA~E)が、近位腎尿細管オルガノイドの代謝を脂質合成へと有意にシフトさせることを示した。さらに脂質染色は、リン脂質症の特徴である、主要な脂質蓄積をHK-2単層およびRPTEC単層の両方において示した(図8のD)。
【0067】
本発明者らは、腎毒性薬物によって生じる脂質保存の増加の裏にあるメカニズムがグルコースの蓄積であることの証拠をさらに提供する。これは腎毒性薬物への直接曝露によって生じ、その時の濃度はミトコンドリアのストレスを誘導する濃度の千分の一以下である(図8のA~E)。この過剰なグルコースは、近位尿細管細胞の主要なグルコーストランスポーターがその機能を正常に発揮することを防止する分極化の消失による。
【0068】
さらに本発明者らは、(GLUT2の頂底シャトリングをブロックする)フロレチン、(SGLT1阻害剤である)フロリジンまたは(SGLT2阻害剤である)エンパグリフロジンを用いたグルコース取り込みの減少は、脂肪毒性を有意に緩和し、3種の腎毒性化合物で処理した培養物の全てにおいて細胞生存率を復活させた(図9のA~B)。
【0069】
最後に、本発明者らは、上述したメカニズムを臨床的証拠によって立証した。シクロスポリンAまたはシスプラチンを単独で、またはSGLT2阻害剤と組み合わせて摂取する患者の血液および尿からデータを得るために後ろ向き臨床研究を実施した。細胞損傷のマーカーである乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、シクロスポリンAまたはシスプラチンをSGLT2阻害剤と組み合わせて摂取する患者において、生理学的なレベルに戻った(図10のM~O)。同様の現象が血清クレアチニン(図10のH~J)、尿酸(図10のI~K)および血清カルシウム(図10のL~N)について観察され、SGLT2阻害剤が薬物誘導性腎毒性を緩和することを示唆した。
【0070】
従って本発明の第一の態様によると、成熟し、分極化した腎上皮細胞および内皮細胞を含む単離されたオルガノイドが提供され、当該オルガノイドは少なくとも2の開口部を有する三次元縦尿細管を含み、各オルガノイドは少なくとも一の中心内腔を有し、オルガノイドの細胞の50%未満が胎児マーカーを発現する。
【0071】
本明細書で使用する用語「オルガノイド」とは、少なくとも2種の細胞種の生細胞の人工三次元凝集体を意味する。本発明のこの態様におけるオルガノイドは、後述するようにin vitroで製造される。
【0072】
オルガノイドは典型的には直径100~2000μmである(例えば、直径が200~1000μmであり、約500~100,000個の細胞(例えば、1,000と75,000個の間の細胞)を含む。
【0073】
一実施形態において、オルガノイドはヒト細胞のみを含む。
【0074】
他の実施形態において、オルガノイドは非ヒト細胞を含む。
【0075】
一実施形態において、オルガノイドは少なくとも1種の上皮で内側を覆われた尿細管(各尿細管は少なくとも2つの開口を有する)を含む。尿細管は内皮血管で囲まれている。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態によると、オルガノイドは腎臓の少なくとも1種の機能、例えば、グルコースの再吸収を実行可能である。
【0077】
本発明のこの態様におけるオルガノイドは、少なくとも一の中心内腔、少なくとも二の中心内腔、少なくとも三の中心内腔、またはそれ以上を含んでいる。
【0078】
本発明のこの態様におけるオルガノイドは典型的には成熟ヒト腎臓細胞から製造され、これはこのような細胞は胎児マーカーを発現しないためである。
【0079】
一実施形態において、オルガノイドは成熟分極化ヒト腎細胞を含む。
【0080】
好ましくは、オルガノイドの分極化細胞は上皮細胞を含む。例えば、腎尿細管内腔に面した上皮細胞の頂端膜側のタンパク質および脂質組成は、細胞の基底膜側とは異なる。
【0081】
好ましくは、免疫組織学および/またはRT-PCRによる測定において、オルガノイドの細胞の50%未満が胎児マーカーを発現し、オルガノイドの細胞の40%未満が胎児マーカーを発現し、オルガノイドの細胞の30%未満が胎児マーカーを発現し、オルガノイドの細胞の20%未満が胎児マーカーを発現し、オルガノイドの細胞の10%未満が胎児マーカーを発現する。一実施形態において、オルガノイドの細胞はいずれも胎児マーカーを発現しない。さらに別の実施形態において、当該オルガノイドの細胞は、免疫組織学および/またはRT-PCRによる同一条件の測定において、胚性幹細胞等の未成熟細胞から製造した腎臓オルガノイドと比べて、少なくとも10%少ない、20%少ない、30%少ない、40%少ない、さらには少なくとも50%少ない胎児マーカーを発現する。
【0082】
本明細書で開示するオルガノイドの発現しない胎児マーカーの例としては、KSP(CDH16、カドヘリン-16)が挙げられる。さらなる例としてはOSR1(Protein odd-skipped-related 1)、WT1(ウィルムス腫瘍1)、GDNF(グリア細胞系誘導栄養因子)、CITED1(Cbp/p300相互作用トランスアクチベーター1)、HOXD11(ホメオボックスタンパク質Hox-D11)、Wnt4(wingless型MMTV統合部位ファミリー、メンバー4)、Lhx1(Lim1、LIMホメオボックスタンパク質1)、Nr2f2(COUP-TFII、核受容体サブファミリー2、グループF、メンバー2)およびMUC1(ムチン1、細胞表面結合)が挙げられる。
【0083】
好ましくは、本発明のこの態様におけるオルガノイドは、多能性幹細胞(例:胚性幹細胞)および/または腎臓前駆細胞から製造したものではない。
【0084】
本明細書で開示するオルガノイドの製造に使用することのできる例示的な細胞としては、ヒト腎臓-2細胞(HK-2)、初期腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)、ヒト胚性腎臓293(HEK293)細胞および始原腎臓糸球体上皮細胞(NhKP)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
本発明のこの態様におけるオルガノイドは、免疫組織学および/またはRT-PCRで測定すると、典型的には成熟細胞のマーカーを発現している。オルガノイドによって発現される例示的なマーカーとしては、ALPI(アルカリホスファターゼ、腸由来)、Aqp1(アクアポリン1)、Cldn10(クローディン10)、Cldn11(Osp、クローディン11)、Cldn2(クローディン2)、DPP4(DPPIV、ジペプチジルペプチダーゼ4)、Enpep(アミノペプチダーゼA、グルタミルアミノペプチダーゼ)、GGCT(ガンマ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ)、LAP3(LAP、ロイシンアミノペプチダーゼ3)、MME(CD10、膜メタロエンドペプチダーゼ)、Slc36a2(溶質輸送体ファミリー36[プロトン/アミノ酸共輸送体]、メンバー2)、SLC5A1(Na/Gluc1、溶質輸送体ファミリー5メンバー1)、Slc6a18(溶質輸送体ファミリー6[神経伝達物質トランスポーター]、メンバー18)、Slc6a19(溶質輸送体ファミリー6[神経伝達物質トランスポーター]、メンバー19)、Slc6a20a(溶質輸送体ファミリー6[神経伝達物質トランスポーター]、メンバー20A)、Slc6a20b(溶質輸送体ファミリー6[神経伝達物質トランスポーター]、メンバー20B)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
本発明のこの態様におけるオルガノイドは、少なくとも1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種またはそれ以上の上記マーカーを発現してもよい。
【0087】
本発明のオルガノイドに含まれる尿細管の直径は、典型的には、約10~200ミクロンの間(例:直径50~100ミクロンの間)である。
【0088】
本発明のオルガノイドに含まれる尿細管の長さは、典型的には、100~1000ミクロンの間(例:200~600ミクロンの間)である。
【0089】
本発明のオルガノイドは、血管新生化されていても、非血管新生化でもよい。
【0090】
本明細書において「オルガノイドの血管新生化」という用語は、オルガノイドの周りの3D血管ネットワークの少なくとも一部の形成を意味する。典型的には、血管ネットワークは内皮細胞を含む。脈管構造は少なくとも1種の3D内皮構造を有する限り、いかなる形成段階でもよい。3D内皮構造の例としては、管状構造、好ましくは内腔を含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0091】
本明細書に開示するオルガノイドは、少なくとも1種の酸素モニタリング用のマイクロセンサ(例:リアルタイム酸素モニタリング用)が埋め込まれていてもよい。
【0092】
マイクロセンサは、典型的には、細胞による酸素取り込み(または消費)を測定することができる。
【0093】
一実施形態において、マイクロセンサは、寿命法によるルミネセンス消光(LBLQ)微粒子またはナノ粒子である。微粒子またはナノ粒子は、任意でおよび好ましくは、位相変調を決定することで酸素を測定する。微粒子またはナノ粒子を酸素センサとして用いる利点は、細胞数の検量なしに酸素測定が実施可能であり、且つ微小量で運転する必要がない点である。
【0094】
本実施形態に適した酸素センサとして有用な微粒子およびナノ粒子は、2015年9月24日発行の米国特許出願公開第2015/0268224号明細書に見出すことができ、その内容は本参照をもって本明細書に組み込まれたものとする。
【0095】
一実施形態において、マイクロセンサは、ルテニウムに基づく色素が装填されたナノ粒子または微粒子(例:直径約50ミクロン)である。
【0096】
オルガノイドの製造に用いられる細胞懸濁液に含まれるマイクロセンサ:細胞比は、典型的には、細胞懸濁液1ミリリットル当たり、0.5~4mg(ミリグラム)の間である。
【0097】
酸素取り込みの測定に使用可能な他の例示的なマイクロセンサとしては、CPOx-50-RuP(Colibri Photonics社)等のルテニウム-フェナントロリンに基づく燐光色素を充填した直径50マイクロメートルのポリスチレンマイクロビーズや、直径200nmのビーズであるOXNANO(Pyro Science社)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
本発明のオルガノイドを製造するために、ヒト腎臓-2細胞(HK-2)または初期腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)等の腎臓細胞を1.5mmのウェル当たり約0.5~10×10(例:7.5×10細胞)の密度で培養する。好ましくは、培地の存在下、細胞外マトリックス(例:マトリゲル(登録商標)またはラミニン)の上で細胞を培養する。細胞は、オルガノイド形成が促進される条件(例:37℃の加湿したインキュベータ内で約5%のCO、10~24時間)で培養する。
【0099】
特定の実施形態においてオルガノイドは、細胞培養培地が連続的に灌流されたバイオリアクター(例えば、微小流体アレイ)で培養する。微小流体アレイは、オルガノイドを培養するための複数のウェルを含んでもよい。
【0100】
アレイへの灌流培地の流れを制御下で発生させるために、灌流素子を使用することも可能であり、流れは連続的灌流を確実にするために制御される。流れの際には、アレイから1以上の生理学的パラメータの指標となるシグナルを回収することもできる。シグナルはコンピューター読み取り可能な媒体、好ましくはコンピューター読み取り可能な固定媒体に記録してもよい。代わりに、または加えて、アレイ上のオルガノイドの細胞を特徴づける1以上の生理学的パラメータを決定するために、シグナルを解析することもできる。
【0101】
本発明の実施形態によると、それぞれが個別のオルガノイドを中に含有するウェルのアレイを含むマルチウェルプレートであって、アレイを占める全オルガノイドの平均サイズに対する各オルガノイドのサイズの差がよりも20%未満または15%未満または10%未満であるものが提供される。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態によると、マルチウェルプレートのウェル内に存在するオルガノイドはそのサイズおよび/または細胞数が均一である。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態によると、各ウェルは単一性(別個のオルガノイド)を有し、全てのオルガノイドが均一である。
【0104】
オルガノイドを微小流体アレイで培養したとき、マイクロウェルは、剪断力の負の影響から細胞を守るためのインサートを含んでもよい。インサートは、組織培養に適合可能なことが知られる材料、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ガラス、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、環状オレフィン共重合体(COC)、ポリカーボネート、またはポリスチレンから作製することができる。アレイは温度センサ、グルコースセンサおよび/または乳酸センサおよび/またはグルタミンセンサをさらに含んでもよい。
【0105】
乳酸および/またはグルコースセンサは、例えば、乳酸および/またはグルコースの電流測定を可能せしめる、電気化学的なものでもよい。
【0106】
一実施形態において、培地のpHは乳酸測定の代用として測定する。
【0107】
本実施形態のアレイは、以下の少なくとも1種をさらに含んでもよい:信号変調および読み出しのための電子制御回路、(例:酸素感知用粒子の)励起用の光源(例:LED)、光学フィルタセット(例:531/40、555、607/70nm)および高電子増倍管(PMT)を含む検出ユニット。当業者は、使用する感知用粒子に応じて、種々の波長で感知用粒子を励起させることができることを理解している。よって、放射もまた種々の波長で読み取ることができる。
【0108】
好ましくはアレイは、対向電極と参照電極とが分離した三電極設計である。参照電極は、電流を通すことなく作用電極電位を測定するものであり、一方、対向電極は回路を閉じて、電流の通過を可能にする。
【0109】
本明細書に開示するオルガノイドは、候補薬剤の腎臓に対する毒性作用を決定するために有用となり得る。
【0110】
従って、本発明の他の態様において、候補薬剤の腎臓に対する毒性作用を決定するための方法であって、
(i)本明細書に記載のオルガノイド(但し、オルガノイドは少なくとも1種の酸素モニタリング用のマイクロセンサを含む)を提供する工程と、
(ii)前記候補薬剤の存在下、生理学的条件で前記オルガノイドを培養する工程と、
(iii)前記オルガノイドによる酸素消費のリアルタイム測定を実施する工程とを含み、前記候補薬剤の不存在下における前記オルガノイドの酸素消費と比較した、前記候補薬剤の存在下における前記オルガノイドの酸素消費の低下が、前記候補薬剤の腎臓に対する毒性作用の指標となる、方法が提供される。
【0111】
試験され得る薬剤の例としては、治療薬、診断薬、 造影剤(例:色素)、食品、化粧品および環境腎毒性作用を有すると疑われる薬剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
オルガノイド上で実施し得る酸素消費の例示的な測定としては、下記の少なくとも1種が挙げられる。
【0113】
a.薬剤による酸素消費の減少のパーセンテージの決定、
b.候補薬剤が酸素消費の減少(例えば、10%の減少、20%の減少、30%の減少、40%の減少、50%の減少等)をもたらす曝露時間の決定、および
c.候補薬剤が酸素消費の10%の減少、20%の減少、30%の減少、40%の減少、50%の減少をもたらす濃度の決定。
【0114】
酸素感知用粒子がルテニウム-フェナントロリンに基づく粒子である特定の実施形態においては、実質的にリアルタイムで燐光の崩壊を測定するために、532nmで粒子を励起し、そして605nmの放射を読み取る。
【0115】
試験される薬剤は、オルガノイド中の細胞の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満の死滅を24時間でもたらす濃度が好ましい。
【0116】
(細胞の酸素消費を決定するために)システムの流出液中の酸素量を測定すると共に、本発明者らは、(細胞による乳酸産生を決定するための)流出液中の乳酸の測定および/または(細胞によるグルコース利用を決定するための)流出液中のグルコースの測定および/または(細胞によるグルタミン産生を決定するための)流出液中のグルタミンの測定を想定した。
【0117】
グルコースおよび乳酸と同様に、グルタミンも電気化学的に測定することができる。例えば、グルタミナーゼおよびグルタミン酸オキシダーゼをメンブランに固定化することができる。グルタミンはグルタミナーゼによってグルタミン酸に変換され、グルタミン酸はグルタミン酸オキシダーゼによって変換されて、電流測定用または電位差測定用センサを用いて検出可能な反応産物を形成する。センサはInnovative Sensor Technologies社(ネバダ州、ラスベガス)から購入することができる。グルタミン産生を測定するための他の方法は国際公開第1988/010424号、米国特許第4,780,191号明細書に記載されている。
【0118】
通常、グルタミナーゼとグルタミン酸オキシダーゼはメンブラン内に固定化されている。グルタミンはグルタミナーゼによってグルタミン酸に変換され、グルタミン酸はグルタミン酸オキシダーゼによって変換されて、電流測定用または電位差測定用センサを用いて検出可能な反応産物を形成する。センサはInnovative Sensor Technologies社(ネバダ州、ラスベガス)から購入することができる。
【0119】
特定の実施形態においては、灌流培地の成分は、オルガノイドの少なくとも1種の代謝経路を除くものである。よって、灌流培地は、例えば、少なくとも1種の栄養素を欠乏している。
【0120】
「欠乏」という用語は、必ずしも培地がその成分を全く含まないという意味ではなく、オルガノイドの細胞の少なくとも1種の代謝経路を除くような限られた量で存在し得ることを理解されたい。よってトレース量の成分が増殖培地に存在してもよい。
【0121】
経路の排除(即ち、経路のバイパスまたは経路の使用の遮断)も完全である必要はない。一実施形態において、経路の利用は、同じ最終産物をもたらすおよび/または同じ出発材料を使用する代替経路と比べて、少なくとも10倍、20倍、50倍、さらには100倍も低い。
【0122】
「経路の排除」という用語は、経路の一方向または両方向のバイパスまたは遮断を意味し得ることを理解されたい。
【0123】
経路の排除は、代謝フラックスの計算の際にこの経路(または経路の一特定方向)を無視することができるため、重要である。
【0124】
排除された経路としては、例えば、脂質酸化経路、解糖系、グルタミノリシス、尿素回路、脂質合成、コレステロール合成、メバロン酸経路、およびTCA回路を補充する補充反応(例:バリン、イソロイシン)が挙げられる。
【0125】
したがって、例えば、培地が脂質欠乏状態または脂質が限定的な場合、培地中の脂質量は、細胞によるグルコース取り込み量よりも脂肪酸取り込み量が少なくとも10倍、20倍、50倍、さらには100倍も低くなる量である。
【0126】
欠乏させることのできる栄養素の例としては、脂肪酸、トリグリセリド、コレステロール、単糖、ピルビン酸、グリセロールおよびアミノ酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
例えば、灌流培地がピルビン酸とグリセロールを欠乏しているとき、解糖系に繋がる代謝経路が排除される。これは細胞の解糖系の量を決定する際に有用である。
【0128】
例えば、灌流培地が脂肪酸とトリグリセリドを欠乏しているとき、脂質酸化経路が排除される。これは細胞の解糖系、酸化的リン酸化および/またはグルタミノリシスの量を決定する際に有用である。
【0129】
例えば、灌流培地の成分は、解糖系フラックスを誘導または阻害するように選択することができる。その後、上記で詳細に説明したように酸素、グルコースおよび/または乳酸の測定を行い、解糖能、解糖予備能および/または非解糖的酸性化の決定に使用することができる。限定と解釈してはならない代表的な例示においては、成分を変更した環境での灌流の前に非解糖的酸性化を決定し、ATP、NADH、水およびプロトンを産生するために解糖系を介して細胞が使用する飽和濃度のグルコースの灌流に続いて解糖能を決定することが可能であり、ヘキソキナーゼに結合して解糖系を阻害する2-デオキシグルコースといった非限定的な解糖系阻害剤の灌流に続いて解糖予備能を決定する。
【0130】
本明細書に記載したシステムを用いて計算可能である例示的な代謝フラックス(例:特定の代謝経路を介した分子のターンオーバー速度)を下記表1に示した。
【0131】
【表1-1】
【0132】
【表1-2】
【0133】
【表1-3】
【0134】
本明細書に記載のオルガノイドを用いて、本発明者らは、腎臓組織における脂肪毒性へとつながる尿細管、特に近位尿細管細胞における脂質蓄積をもたらす腎臓細胞におけるグルコースの蓄積が薬物誘導性腎毒性の原因であることを明らかにした。(以前に毒性と考えられていた薬物濃度の約1000分の1の小量で生じる)過剰なグルコースは、近位尿細管細胞の分極化の消失が、これら細胞の主要なグルコーストランスポーターの正常な機能を妨げることによるものであると判明した。
【0135】
本発明者らは、従って、腎臓組織における脂質蓄積を予防、除去または減少させることで薬物誘導性腎毒性が減少、さらには排除され得ることを提案する。
【0136】
よって、本発明の他の態様において、対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、
(i)腎臓傷害性薬剤と、
(ii)近位尿細管細胞の分極化を腎臓傷害性薬剤の毒性から保護する薬剤と
を前記対象に投与することを含み、それによって対象における腎毒性を減少させるが、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、近位尿細管細胞の分極化を腎臓傷害性薬剤の毒性から保護する薬剤はSGLT2阻害剤ではない、方法が提供される。
【0137】
本発明の他の態様において、対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、
(i)腎臓傷害性薬剤と、
(ii)グルコース再吸収の阻害剤と
を前記対象に投与することを含み、それによって対象における腎毒性を減少させるが、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、グルコース再吸収の阻害剤はSGLT2阻害剤ではない、方法が提供される。
【0138】
本発明の他の態様において、対象において腎臓傷害性薬剤によって生じた腎臓組織毒性を減少させるための方法であって、
(i)腎臓傷害性薬剤と、
(ii)対象の腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤と
を前記対象に投与することを含み、それによって対象における腎毒性を減少させるが、但し、前記腎臓傷害性薬剤がグルコスファミドのとき、対象の腎臓組織における脂質蓄積の低下をもたらす薬剤はSGLT2阻害剤ではない、方法が提供される。
【0139】
本明細書で使用する「腎臓傷害性薬剤」という用語は、治療薬、診断薬、造影剤(例:色素)、食品、化粧品であって、臨床的に許容される用量で使用したときに、望ましくない傷害を腎臓に与えるものを意味する。腎臓傷害性薬剤は、典型的には、診断的または治療的な効果をもたらす主な機能を有し、腎臓組織に障害を与える負の副作用を有するものである。
【0140】
一実施形態において、腎臓傷害性薬剤は、近位尿細管上皮細胞の分極化を破壊するものである。
【0141】
「腎臓組織」という用語は、腎臓の任意の組織を意味する。一実施形態において、腎臓組織は腎臓尿細管、特に近位尿細管細胞を含む。
【0142】
腎臓に障害を与えることが知られた治療薬の例を表2に示した。
【0143】
【表2-1】
【0144】
【表2-2】
【0145】
【表2-3】
【0146】
【表2-4】
【0147】
【表2-5】
【0148】
【表2-6】
【0149】
特定の実施形態においては、治療薬はゲンタマイシン、シクロスポリンまたはシスプラチンである。
【0150】
腎臓傷害性薬剤が治療薬である場合、腎臓傷害性薬剤は対象の疾患を治療するために投与される。一実施形態において、対象は慢性的に治療薬を必要とする。
【0151】
特定の実施形態において対象は、例えば、糖尿病、アテローム性動脈硬化症および原発性高コレステロール血症、脂質異常症候群、原発性高トリグリセリド血症、原発性低HDL症候群、家族性高コレステロール血症(総コレステロールおよびLDLコレステロールを上昇させる遺伝的疾患)ならびに家族性高トリグリセリド血症等の脂質異常症を含む代謝疾患を発症していない。
【0152】
好ましくは、腎臓傷害性薬剤は、潜在的な腎臓病の治療用ではない。
【0153】
よって、例えばシスプラチンの場合、本発明のこの態様における対象は、癌(例:精巣癌、卵巣癌、子宮頚癌、乳癌、膀胱癌、頭部および頸部の癌、食道癌、肺癌、中皮腫、脳腫瘍または神経芽腫)を発症している。シクロスポリンの場合、本発明のこの態様における対象は関節リウマチ、乾癬、クローン病等の疾患を発症しているか、臓器移植を受けていてもよい。ゲンタマイシンの場合、本発明のこの態様における対象は細菌感染を発症していてもよく、細菌感染としては、骨感染、心内膜炎、骨盤内炎症性疾患、髄膜炎、肺炎、尿路感染症、および敗血症が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0154】
既に述べたように、本発明のこの態様における方法は、腎臓傷害性薬剤の毒性作用から近位尿細管上皮細胞の分極化を保護するための薬物投与をさらに含む。
【0155】
いくつかの実施形態において、薬剤は脂質蓄積の低下を生じる。このような薬剤は、典型的には、細胞の細胞質中のトリグリセリドに富む脂肪滴および/またはリン脂質に富むリソソームの蓄積を減少させる。
【0156】
腎臓傷害性薬剤の毒性作用から近位尿細管上皮細胞の分極化を保護する薬剤としては、グルコースの再吸収を阻害する薬剤、脂質合成を遮断する薬剤および脂質酸化を上方制御する薬剤が挙げられる。
【0157】
一実施形態において、薬剤は、当該薬剤が腸外細胞において脂質蓄積を下方制御するよりもより大幅に腎臓細胞の脂質蓄積を減少させる。
【0158】
他の実施形態において、薬剤は、当該薬剤が非腎性細胞のグルコース量を下方制御するよりもより大幅に腎臓細胞の細胞内グルコース量を下方制御する。
【0159】
一実施形態において薬剤は、糖代謝の阻害剤である。
【0160】
他の実施形態において薬剤は、下記表3に例示したような糖分解酵素の阻害剤である。
【0161】
【表3】
【0162】
本発明の本態様の一実施形態においては、薬剤はグルコーストランスポーターの阻害剤である。
【0163】
本明細書において使用するように、「グルコース輸送体」とは、化合物(グルコース、グルコース・アナログ、フルクトースまたはイノシトールといった他の糖、アスコルビン酸等の非糖のいずれでもよい)を細胞膜を介して輸送し、その構造類似性(例:他のグルコース輸送タンパク質との相動性)に基づき、グルコース輸送体「ファミリー」の一員となるタンパク質である。グルコース輸送体には、主たる糖基質がグルコース以外の輸送体タンパク質も含まれる。例えば、グルコース輸送体GLUTSは主としてフルクトースの輸送体であるが、グルコースそのものを低い親和性で輸送することが報告されている。同様に、グルコース輸送体HMITの主たる糖基質はミオイノシトール(糖アルコール)である。グルコース輸送体の例にとしてはGLUT1~12輸送体、HMIT輸送体およびSGLT1~6輸送体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0164】
特定の実施形態においては、グルコース輸送体はGLUT-2である。
【0165】
グルコース輸送体(例:GLUT-2輸送体)の阻害剤の例としては、フラボノール(例:無糖ケルセチン、ケルセチングリコシドおよびイソケルセチンからなる群より選ばれるケルセチン)等のフラボノイドが挙げられる。
【0166】
本発明において想定されるグルコース輸送体の阻害剤の別の例としては、Calbiochem社の販売する細胞透過性チアゾリジンジオン化合物(カタログ番号400035)が挙げられる。
【0167】
特定の実施形態においては、薬剤はナトリウム・グルコース共輸送体1および2(SGLT1/2)の阻害剤であり、(非限定的な例は、腎臓特異的なSGLT2阻害剤であるダパグリフロジン、カナグリフロジン(インヴォカナ、Janssen pharmaceuticals社)、ダパグリフロジン(ホルキガ[米国ではファーキガとして知られる])、(ジャーディアンス)、およびエルツグリフロジン)である。
【0168】
想定される他のGLUT2輸送体阻害剤としては、サプパニン型(SAP)ホモイソフラボノイド類(PMID:29533635)、ケルセチン、ミリセチン、イソケルセチン(PMID:17172639)、フロレチンおよびフロリジン(2重阻害剤)が挙げられる。
【0169】
特定の実施形態においては、薬剤はフロレチン、フロリジンおよびエンパグリフロジンからなる群より選ばれる。
【0170】
特定の実施形態においては、薬剤はグルコース輸送体の発現を下方制御する。
【0171】
本明細書において使用するように、「発現を下方制御する」とは、タンパク質の発現をゲノムレベル(例:相同組み換えおよび部位特異的エンドヌクレアーゼ)、および/または転写および/または翻訳に干渉する種々の分子(例:RNAサイレンシング薬)を用いて転写レベルで下方制御することを意味する。
【0172】
同じ培養条件では、ここで対照と称する、同種の細胞における薬剤との接触なしまたは対照ベヒクルとの接触ありにおける発現との比較によって、発現は表される。
【0173】
発現の下方制御は一時的でも永続的でもよい。
【0174】
特定の実施形態において、発現の下方制御とは、RT-PCRまたはウェスタンブロットによる検出においてそれぞれmRNAおよび/またはタンパク質が不在であることを意味する。
【0175】
他の特定の実施形態において、発現の下方制御とは、RT-PCRまたはウェスタンブロットによる検出における、それぞれmRNAおよび/またはタンパク質のレベルの減少を意味する。減少は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%の減少である。
【0176】
核酸レベルの下方制御は、典型的には、細胞の内因性グルコース輸送体コード配列(特定の薬剤に応じてDNAまたはRNA)にハイブリダイズする、核酸骨格、DNA、RNA、それらの模倣体または組み合わせを有する核酸薬を用いて実施される。核酸薬はDNA分子からコードされても、または細胞にそのものを提供しても(即ち、RNA分子が細胞に直接送達されても)よい。
【0177】
以下の説明は、目的遺伝子(例:グルコース輸送体)の発現の下方制御の方法およびそれを実施するための薬剤であって、本発明の特定の実施形態において使用可能なものの種々の例示である。
【0178】
遺伝子操作されたエンドヌクレアーゼを使用するゲノム編集。このアプローチは、人工的に遺伝子操作されたヌクレアーゼを使用してゲノム中の所望の1以上の位置で切断して、特定の二本鎖切断部を作製し、次いで、相同性組換え修復(homology directed repair)(HDS)や、非相同末端結合(non-homologous end-joining)(NFfEJ)などの細胞性内因性プロセスによって修復する逆遺伝学法を指す。NFfEJは、二本鎖切断後のDNA末端を直接的に結合し、一方、HDRは、切断点で失われたDNA配列を再生するために相同配列を鋳型として利用する。ゲノムDNAに特定のヌクレオチド修飾を導入するために、HDRの際に、所望の配列を含有するDNA修復鋳型が存在しなければならない。ゲノム編集は、伝統的な制限エンドヌクレアーゼを使用して実施することができない。これは、大部分の制限酵素は、DNAの数個の塩基対をその標的として認識することから、認識される塩基対の組合せがゲノム中の多数の位置で見い出される確率が極めて高く、所望の位置に限定されない複数の切断が生じ得るためである。この課題を克服し、部位特異的一本鎖または二本鎖の切断部位を作製するために、今日までに、いくつかの別個のクラスのヌクレアーゼが発見され、バイオエンジニアリングにより改変されてきた。具体例としては、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)およびCRISPR/Casシステムが挙げられる。
【0179】
メガヌクレアーゼ-メガヌクレアーゼは、一般に4つのファミリー:LAGLIDADGファミリー、GIY-YIGファミリー、His-CysボックスファミリーおよびHNHファミリーにグループ分けされる。これらのファミリーは、触媒活性および認識配列に影響を及ぼす構造的モチーフによって特徴付けられる。例えば、LAGLIDADGファミリーのメンバーは、1コピーまたは2コピーの保存されたLAGLIDADGモチーフを有することによって特徴付けられる。メガヌクレアーゼの4つのファミリーは、保存された構造要素によって、結果として、DNA認識配列特異性および触媒活性に関して、互いに広く分離されている。メガヌクレアーゼは、微生物種において一般に見られ、極めて長い認識配列(14bp超)を有するという独特の特性を持つ。この特性故に、所望の位置での切断について天然で極めて高い特異性を有する。これは、ゲノム編集において部位特異的二本鎖切断部位を作製するために利用され得る。当業者ならば、これらの天然に存在するメガヌクレアーゼを使用することができるが、このような天然に存在するメガヌクレアーゼの数は限定されている。この課題を克服するために、固有の配列を認識するメガヌクレアーゼ変異体を作製するための変異誘発およびハイスループットスクリーニング法が使用されてきた。例えば、新規配列を認識するハイブリッド酵素を作製するために、種々のメガヌクレアーゼが融合されてきた。あるいは、配列特異的メガヌクレアーゼを設計するために、メガヌクレアーゼにおいてDNAと相互作用するアミノ酸を変更してもよい(例えば、米国特許第8,021,867号明細書を参照)。メガヌクレアーゼは、例えば、Certo, MT et al. Nature Methods (2012) 9:073-975、米国特許第8,304,222号、第8,021,867号、第8,119,381号、第8,124,369号、第8,129,134号、第8,133,697号、第8,143,015号、第8,143,016号明、第8,148,098号または第8,163,514号明細書に記載される方法を使用して設計することができ、各々の内容は、その全文が参照によって本明細書に組み込まれる。あるいは、部位特異的切断特性を有するメガヌクレアーゼは、市販の技術、例えばPrecision Biosciences社のDirected Nuclease EditorTMゲノム編集技術を使用して得ることができる。
【0180】
ZFNおよびTALEN-2つの別個のクラスの遺伝子操作されたヌクレアーゼである、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、両方とも、標的化二本鎖切断の製造において有効であると証明されている(Christian et al., 2010、Kim et al., 1996、Li et al., 2011、Mahfouz et al., 2011、Miller et al., 2010)。
【0181】
基本的に、ZFNおよびTALENの制限エンドヌクレアーゼ技術は、特異的DNA結合ドメイン(それぞれ、一連のジンクフィンガードメインまたはTALE反復配列)に連結された非特異的DNA切断酵素を利用する。通常、そのDNA認識部位と切断部位とが互いに分離した制限酵素が選択される。切断部分を分離し、次いで、DNA結合ドメインに連結することによって、所望の配列に対して極めて高い特異性を有するエンドヌクレアーゼが得られる。このような特性を有する例示的な制限酵素として、Foklが挙げられる。さらに、Foklは、ヌクレアーゼ活性を有するために二量体化を必要とするという利点を有し、これは、各ヌクレアーゼパートナーが独特のDNA配列を認識するので、特異性が著しく増大することを意味する。この効果を増強するために、Foklヌクレアーゼは、ヘテロ二量体としてのみ機能し、触媒活性を増大するように遺伝子操作されている。ヘテロ二量体機能性ヌクレアーゼは、不要のホモ二量体活性の可能性を避けることで、二本鎖切断部位の特異性を増大させる。
【0182】
したがって、例えば、特定の部位を標的とするために、ZFNおよびTALENは、ヌクレアーゼ対として構築され、対の各メンバーは、標的部位において隣接配列と結合するように設計される。細胞内における一時的な発現の際にヌクレアーゼはその標的部位と結合し、FokIドメインがヘテロ二量体化して、二本鎖切断部位を作製する。非相同末端結合(NHEJ)経路によるこれら二本鎖切断部位の修復は、小さな欠失または小さない配列挿入をもたらすことが最も多い。NHEJによって行われる各修復は独特であるため、単一ヌクレアーゼ対の使用によって、標的部位で様々な異なる欠失を有する対立遺伝子系列を製造することができる。欠失は、通常、数塩基対~数百塩基対の範囲内であるが、2組のヌクレアーゼ対を同時に使用することによって、培養細胞においてより大きな欠失を作製することにも成功している(Carlson et al., 2012、Lee et al., 2010)。さらに、ヌクレアーゼ対とともに、標的領域に対して相同性を有するDNA断片を導入した場合には、二本鎖切断部位は、相同性組換え修復によって修復されて、特異的修飾を生じ得る(Li et al., 2011、Miller et al., 2010、Urnov et al., 2005)。
【0183】
ZFNおよびTALENの両方のヌクレアーゼ部分が類似した特性を有するものの、これら遺伝子操作されたヌクレアーゼ間の違いは、それらのDNA認識ペプチドである。ZFNは、Cys2-His2ジンクフィンガーに依拠するものであり、TALENは、TALEに依拠する。これらのDNA認識ペプチドドメインは両方とも、そのタンパク質の組合せが、天然に見られる特徴を有する。Cys2-His2ジンクフィンガーは、通常は3bp離れて反復した形の、多種多様な組み合わせで、核酸相互作用タンパク質に見い出される。一方、TALEは、アミノ酸と認識されるヌクレオチド対との間の1対1認識比を有する反復に見い出される。ジンクフィンガーおよびTALEは両方とも反復パターンに見出されることから、様々な配列特異性を作り出すために、種々の組合せを試みることができる。部位特異的ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼを作製するためのアプローチとして、例えば、モジュラーアセンブリー(トリプレット配列と関連付けられたジンクフィンガーを、必要な配列を覆うように連続して結合する)、OPEN(ペプチドドメイン対トリプレットヌクレオチドの低ストリンジェンシー選択と、それに続く、細菌系におけるペプチド組合せ対最終標的の高ストリンジェンシー選択)、およびジンクフィンガーライブラリーの細菌ワンハイブリッドスクリーニング等が挙げられる。ZFNを設計することも可能であり、例えば、Sangamo BiosciencesTM社(カリフォルニア州、リッチモンド)から商業的に入手することもできる。
【0184】
TALENを設計し、入手するための方法は、例えば、Reyon et al. Nature Biotechnology 2012 May;30(5):460-5、Miller et al. Nat Biotechnol. (2011) 29:143-148、Cermak et al. Nucleic Acids Research (2011) 39 (12): e82およびZhang et al. Nature Biotechnology (2011) 29 (2):149-53に記載されている。Mojo Handと名付けられた、最近開発されたウェブベースのプログラムは、ゲノム編集適用のTALおよびTALEN構築物を設計するためにMayo Clinic社によって導入されたものである(www.talendesign.orgからアクセス可能)。TALENはまた、設計したものを、Sangamo BiosciencesTM社(カリフォルニア州、リッチモンド)から商業的に入手することができる。
【0185】
CRISPR-Casシステム-多くの細菌および古細菌は、侵襲するファージおよびプラスミドの核酸を分解することのできる、内因性のRNAに基づく適応免疫系を有する。この系は、RNA成分を産生するクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)遺伝子およびタンパク質成分をコードするCRISPR関連(Cas)遺伝子からなる。CRISPR RNA(crRNAs)は特定のウイルスおよびプラスミドに対して相同な短い配列を含有し、これがCasヌクレアーゼによる対応する病原の相補的な核酸を分解するためのガイドとして機能する。Streptococcus pyogenesのII型CRISPR/Casシステムの研究は、以下の3成分がRNA/タンパク質複合体を形成し、まとめて十分な配列特異的ヌクレアーゼ活性を発揮することを示した:Cas9 ヌクレアーゼ、標的配列に相同な20塩基対を含むcrRNA、およびトランス活性化crRNA(tracrRNA)(Jinek et al. Science (2012) 337: 816-821)。crRNAとtracrRNAの融合によって形成された合成キメラガイドRNA(gRNA)は、in vitroにおいてcrRNAに相補的なDNA標的を開裂するようにCas9を誘導可能であることがさらに示された。また、合成gRNAと連動したCas9の一時的な発現は様々な異なる種において標的化二本鎖切断を形成するために使用可能であることも示された(Cho et al., 2013、Cong et al., 2013、D et al., 2013、Hwang et al., 2013a,b、Jinek et al., 2013、Mali et al., 2013)。
【0186】
ゲノム編集のためのCRIPSR/Casシステムは2つの異なる成分、gRNAおよびエンドヌクレアーゼ(例:Cas9)を含む。
【0187】
特定の部位でDNAを切断するためにCas9タンパク質は、gRNAと、標的であるポリヌクレオチド遺伝子配列内でgRNA標的配列の直後に続くプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の存在を必要とする。PAMはgRNA標的配列の3’末端に位置するが、gRNAの一部ではない。異なるCasタンパク質は異なるPAMを必要とする。よって、gRNAによる(例えば、グルコース輸送体核酸配列上の)特定のポリヌクレオチドgRNA標的配列の選択は、一般的に使用する組み換えCasタンパク質に基づくものである。
【0188】
gRNAは、PAM配列が続く、標的ポリヌクレオチド遺伝子配列上の標的配列に対応する「gRNAガイド配列」または「gRNA標的配列」を含む。
【0189】
gRNAは、ポリヌクレオチド配列の5’末端に「G」を含み得る。U6プロモーターの制御下でgRNAが発現されるとき、5’末端の「G」の存在は好ましい。本発明のCRISPR/Cas9システムは種々の長さのgRNAを用いることができる。gRNAは、標的グルコース輸送体DNA配列の、PAM配列が続く、少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも11ヌクレオチド、少なくとも12ヌクレオチド、少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、少なくとも23ヌクレオチド、少なくとも24ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチド、または少なくとも35ヌクレオチドを含み得る。「gRNAガイド配列」または「gRNA標的配列」は少なくとも17ヌクレオチド(17、18、19、20、21、22、23)であり、好ましくは長さ17~30ヌクレオチドであり、より好ましくは長さ18~22ヌクレオチドである。一実施形態においては、gRNAガイド配列の長さは10~40、10~30、12~30、15~30、18~30、または10~22ヌクレオチドの間である。
【0190】
gRNAガイド配列と、標的化遺伝子上のDNA配列との完全な合致が望ましいが、gRNAと標的化遺伝子上のgRNA標的ポリヌクレオチド配列の相補鎖とのハイブリダイゼイションが可能である限り、gRNAガイド配列と、目的遺伝子配列上の標的配列とのミスマッチも許容される。gRNA標的配列の対応する部分と完全に合致するgRNA内の8~12の連続ヌクレオチドであるシード配列は、標的配列の正確な認識のために好ましい。ガイド配列の残りの部分は1以上のミスマッチを含んでもよい。通常、gRNA活性はミスマッチの数と半比例する。本発明のgRNAは、対応するgRNA標的遺伝子配列(PAM以下)に対して、7のミスマッチ、6のミスマッチ、5のミスマッチ、4のミスマッチ、3のミスマッチを含むことが好ましく、より好ましくは2のミスマッチまたはそれ以下、ミスマッチ無しがさらに好ましい。gRNA核酸配列は目的遺伝子(例:グルコース輸送体)内のgRNA標的ポリヌクレオチド配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%および99%同一であることが好ましい。当然ながら、gRNAガイド配列中のヌクレオチド数が少ないほど、許容されるミスマッチ数も少ない。結合親和性は、合致するgRNA-DNAの組み合わせの合計数に依存すると考えられている。
【0191】
正しい位置に,本発明のパッチ/ドナー配列を導入することが可能である限り、標的遺伝子から任意のgRNAガイド配列を選択することができる。よって、本発明のgRNAガイド配列または標的配列は、グルコース輸送体遺伝子のコード領域または非コード領域(即ち、イントロンまたはエキソン)に存在してもよい。
【0192】
細胞(または対象)または本発明の方法に基づく対象に与えられるまたは発現されるgRNAの数は、少なくとも1のgRNA、少なくとも2のgRNA、少なくとも3のgRNA、少なくとも4のgRNA、少なくとも5のgRNA、少なくとも6のgRNA、少なくとも7のgRNA、少なくとも8のgRNA、少なくとも9のgRNA、少なくとも10のgRNA、少なくとも11のgRNA、少なくとも12のgRNA、少なくとも13のgRNA、少なくとも14のgRNA、少なくとも15のgRNA、少なくとも16のgRNA、少なくとも17のgRNA、または少なくとも18のgRNAとなり得る。細胞に投与されるまたは細胞が発現するgRNAの数は、少なくとも1のgRNAと少なくとも15のgRNAの間、少なくとも1のgRNAから少なくとも10のgRNAの間、少なくとも1のgRNAと少なくとも8のgRNAの間、少なくとも1のgRNAと少なくとも6のgRNAの間、少なくとも1のgRNAと少なくとも4のgRNAの間、少なくとも1のgRNAから少なくとも3のgRNAの間、少なくとも2のgRNAと少なくとも5のgRNAの間、少なくとも2のgRNAと少なくとも3のgRNAの間となり得る。異なるまたは同一のgRNAは、ベクター内に提供されたときに、目的の内因性標的遺伝子を切断し、ドナー/パッチ核酸を開放するために使用することができる。
【0193】
標的配列の選択および/または設計を援助するための公知のツールや、バイオインフォマティックスによって決定された異なる種の異なる遺伝子に固有のgRNAのリスト、例えば、Feng Zhang Lab’s Target Finder、Michael Boutros Lab’s Target Finder (E-CRISP)、RGENツール:Cas-OFFinder、CasFinder(ゲノム中の特定のCas9標的を同定するためのフレキシブルなアルゴリズム)およびCRISPR Optimal Target Finder、が多数存在する。
【0194】
本発明に従って使用することのできるCasタンパク質は、適切なgRNAの存在下で、二本鎖切断(DSB)(ニッカーゼの場合は2つの一本鎖切断(SSB))を細胞DNAに導入するためにヌクレアーゼ(またはニッカーゼ)活性を有する。
【0195】
一実施形態において、Cas9タンパク質は組み換えタンパク質である。
【0196】
他の実施形態において、Cas9タンパク質は天然のCas9から誘導され、ヌクレアーゼ活性を有し、本発明のgRNAと共に、標的化DNAに二本鎖切断を導入するために機能する。
【0197】
一実施形態において、Cas9タンパク質は、二量体化依存Foklヌクレアーゼドメインと融合したdCas9タンパク質(即ち、ヌクレアーゼ活性の無い変異Cas9タンパク質)でもよい。他の実施形態において、Casタンパク質はニッカーゼ活性を有するCas9タンパク質である。
【0198】
Cas9タンパク質は、Streptococcus pyogenes、Streptococcus thermophiles、Staphylococcus aureus、およびNeisseria meningitidesを含む数々の細菌種によって産生される天然のエフェクタータンパク質である。一実施形態において、本発明のCasタンパク質は、Streptococcus pyogenes、Streptococcus thermophiles、Staphylococcus aureusまたはNeisseria meningitides由来のCas9ヌクレアーゼ/ニッカーゼである。一実施形態において、本発明のCas9組み換えタンパク質は、S. pyogene由来のヒトコドン最適化Cas9(hSpCas9)である。一実施形態において、本発明のCas9組み換えタンパク質は、S. aureus由来のヒトコドン最適化Cas9(hSaCas9)である。
【0199】
Cas9および/またはgRNAの発現に使用することのできるウイルスベクターの非限定的な例としては、当業界で広く知られた、レトロウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスが挙げられる。ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびレンチウイルス由来のウイルスベクターは、神経細胞に効果的に感染することが示されている。好ましくは、ウイルスベクターはエピソームであり、細胞にとって毒性ではない。実施形態において、ウイルスベクターはAAVまたはヘルペスウイルスである。
【0200】
糖輸送体の下方制御はRNAサイレンシングによっても達成することができる。本明細書で使用される場合、用語「RNAサイレンシング」とは、RNA分子によって仲介される一群の調節機序[例えば、RNA干渉(RNAi)、転写遺伝子サイレンシング(TGS)、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)、クエリング(quelling)、共抑制および翻訳抑制]であって、対応するタンパク質コード遺伝子の発現の阻害または「サイレンシング」をもたらすものを指す。RNAサイレンシングは、植物、動物および真菌を含む多種の生物において観察されている。
【0201】
本明細書で使用される場合、用語「RNAサイレンシング薬」とは、標的遺伝子の発現を特異的に阻害または「サイレンシング」可能なRNAを指す。特定の実施形態では、RNAサイレンシング薬は、転写後サイレンシング機序によってmRNA分子の完全なプロセシング(例えば、完全な翻訳および/または発現)を妨げることが可能である。RNAサイレンシング薬としては、非コードRNA分子が挙げられる。当該非コードRNA分子は、例えば、対形成鎖や、このような小さい非コードRNAが生じ得る前駆体RNAである。例示的RNAサイレンシング薬として、siRNA、miRNAおよびshRNAなどのdsRNAが挙げられる。
【0202】
一実施形態において、本発明のRNAサイレンシング薬(上述したgRNAを含む)は修飾ポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは当業界で知られた種々の方法で修飾することができる。
【0203】
例えば、本発明のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、3’から5’のホスホジエステル結合で結合したプリン塩基およびピリミジン塩基からなる複素環式ヌクレオシドを含み得る。
【0204】
好ましくは、使用されるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、簡単に後述するように、その骨格、ヌクレオシド間結合または塩基が修飾されたものである。
【0205】
本発明のこの態様において有用な好ましいオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの具体例には、修飾骨格または非天然ヌクレオシド間結合を有するオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが含まれる。修飾骨格を有するオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドには、下記米国特許に記載の、骨格にリン原子を保持するものが含まれる。米国特許第4,469,863号、第4,476,301号、第5,023,243号、第5,177,196号、第5,188,897号、第5,264,423号、第5,276,019号、第5,278,302号、第5,286,717号、第5,321,131号、第5,399,676号、第5,405,939号、第5,453,496号、第5,455,233号、第5,466,677号、第5,476,925号、第5,519,126号、第5,536,821号、第5,541,306号、第5,550,111号、第5,563,253号、第5,571,799号、第5,587,361号および第5,625,050号明細書。
【0206】
好ましい修飾オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド骨格には、例えば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロトリエステル、アミノアルキルホスホロトリエステル、3-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むメチルまたは他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3-アミノホスホロアミド酸およびアミノアルキルホスホロアミド酸を含むホスホロアミド酸、チオノホスホロアミド酸、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホロトリエステル、ならびに正常な3’-5’結合を有するボラノリン酸、その2’-5’結合類似体、およびその隣接するヌクレオシド対が3’-5’から5’-3’または2’-5’から5’-2’に結合し、逆転した極性を有するものが含まれる。上記修飾の種々の塩類、混合塩類および遊離酸の形態も使用可能である。
【0207】
代わりに、リン原子を含まない修飾オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド骨格は、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、あるいは1以上の短鎖ヘテロ原子またはヘテロ環ヌクレオシド間結合によって形成された骨格を有する。これらには(一部がヌクレオシドの糖部分に形成された)モルホリノ結合、シロキサン骨格、スルフィド、スルホキシドおよびスルホン骨格、ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格、メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格、アルケン含有骨格、スルファミン酸骨格、メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格、スルホン酸およびスルホンアミド骨格、アミド骨格、ならびに混合N、O、SおよびCH成分部分を有する他の物が含まれ、以下に開示されている:米国特許第5,034,506号、第5,166,315号、第5,185,444号、第5,214,134号、第5,216,141号、第5,235,033号、第5,264,562号、第5,264,564号、第5,405,938号、第5,434,257号、第5,466,677号、第5,470,967号、第5,489,677号、第5,541,307号、第5,561,225号、第5,596,086号、第5,602,240号、第5,610,289号、第5,602,240号、第5,608,046号、第5,610,289号、第5,618,704号、第5,623,070号、第5,663,312号、第5,633,360号、第5,677,437号、および第5,677,439号明細書。
【0208】
本発明にしたがって使用することのできる他のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、糖とヌクレオシド間結合の両方が修飾されたもの、即ち、ヌクレオチド単位の骨格が新規基で置換されたものである。塩基単位は適切なポリヌクレオチド標的との相補性のために保持されている。このようなオリゴヌクレオチド模倣体の例には、ペプチド核酸(PNA)が含まれる。PNAオリゴヌクレオチドとは、糖骨格がアミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格に置換されたオリゴヌクレオチドを意味する。塩基は保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素に直接または間接的に結合している。PNA化合物の製造について教示する米国特許としては、米国特許第5,539,082号、第5,714,331号、および第5,719,262号明細書が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらの開示は本参照をもって本明細書に組み込まれるものとする。本発明において使用し得る他の骨格修飾は米国特許第6,303,374号明細書に開示されている。
【0209】
上記に加えて、または代わりに、本発明のオリゴヌクレオチド/ポリヌクレオチド薬剤はホスホロチオエート化、2-o-メチル保護化および/またはLNA修飾化したものでもよい。
【0210】
本発明のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、塩基の修飾または置換も有してもよい。本明細書で使用する「未修飾」または「天然」の塩基としては、プリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)およびピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)とウラシル(U)が挙げられる。「修飾」塩基にとして他の合成または天然の塩基、例えば、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチルおよび他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよび他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンと2-チオシトシン、5-ハロウラシルとシトシン、5-プロピニルウラシルとシトシン、6-アゾウラシル、シトシンとチミン、5-ウラシル(擬ウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルおよび他の8-置換アデニンとグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチルおよび他の5-置換ウラシルとシトシン、7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、および3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらなる修飾塩基としては、米国特許第3,687,808号明細書、Kroschwitz, J. I., ed. (1990),"The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering," 858-859頁, John Wiley & Sons、Englisch et al. (1991), "Angewandte Chemie," International Edition, 30, 613、およびSanghvi, Y. S., "Antisense Research and Applications," Chapter 15, pages 289-302, S. T. Crooke and B. Lebleu, eds., CRC Press, 1993に開示されているものが挙げられる。このような修飾塩基は、本発明のオリゴマー化合物の結合親和性を高めるために特に有用である。これらには5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、およびN-2、N-6およびO-6-置換プリンが挙げられ、2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシンが含まれる。5-メチルシトシン置換は核酸二量体安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi, Y. S. et al. (1993), "Antisense Research and Applications," 276-278頁, CRC Press, Boca Raton)、これらは現在好まれる塩基置換であり、特に2-O-メトキシエチル糖修飾との組み合わせが好まれる。
【0211】
本発明の修飾ポリヌクレオチドは部分的に2’-オキシメチル化されていることが好ましく、完全に2’-オキシメチル化されていることがより好ましい。
【0212】
本発明の教示に基づき設計された(gRNAを含む)RNAサイレンシング薬は、酵素合成および固相合性の両方を含む、当業界で知られる任意のオリゴヌクレオチド合成方法によって作製することができる。固相合成実施のための装置及び試薬は、例えば、Applied Biosystems社によって市販されている。このような合成のための任意の他の手段も使用可能であり、実際のオリゴヌクレオチドの合成は十分に当業者の能力の範囲内であり、Sambrook, J. and Russell, D. W. (2001), "Molecular Cloning: A Laboratory Manual"、Ausubel, R. M. et al., eds. (1994, 1989), "Current Protocols in Molecular Biology," Volumes I-III, John Wiley & Sons, Baltimore, Maryland、Perbal, B. (1988), "A Practical Guide to Molecular Cloning," John Wiley & Sons, New York、およびGait, M. J., ed. (1984), "Oligonuceotide Synthesis"等に詳細が示された、確立された方法によって実現可能であり、固相化学(例:シアノエチルホスホロアミダイト)に続いて、脱保護、脱塩、および精製を、例えば、自動化トリチル-オン法またはHPLCで行うことができる。
【0213】
本発明の実施形態によれば、RNAサイレンシング薬(上記gRNAを含む)は、標的RNA(例:グルコース輸送体)に対して特異的であり、標的遺伝子に対して99%以下の全体的相同性を有する遺伝子またはスプライスバリアントを交差阻害またはサイレンシングしない。当該スプライスバリアントの相同性、例えば、標的遺伝子に対して98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%未満である。
【0214】
RNA干渉とは、短い干渉RNA(siRNA)によって仲介される、動物における配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを指す。植物における対応するプロセスは一般的に転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAサイレンシングと呼ばれ、真菌類ではクエリングとも呼ばれる。転写後遺伝子サイレンシングのプロセスは、外来遺伝子の発現を防止するための進化的に保存された細胞防御メカニズムであって、多様な植物相および門の間で一般的に共通すると考えられている。このような外来遺伝子発現からの防御は、ウイルス感染またはホストゲノムへのトランスポゾンエレメントのランダムな組み込みに由来する二本鎖RNA(dsRNA)の産生に対する応答として、相同一本鎖RNAまたはウイルスゲノムRNAを特異的に破壊する細胞応答によって発生したと考えられる。
【0215】
細胞内の長いdsRNAの存在は、ダイサーと呼ばれるリボヌクレアーゼIII酵素の活性を刺激する。ダイサーは、短い干渉RNA(siRNA)として知られるdsRNAの短い小片へのdsRNAのプロセシングに関与する。ダイサー活性に由来する短い干渉RNAは、通常、約21~約23ヌクレオチド長であり、約19塩基対の二本鎖を含む。RNAi応答は、一般に、RNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれるエンドヌクレアーゼ複合体も使用し、これは、siRNA二本鎖のアンチセンス鎖に対して配列相補性を有する一本鎖RNAの切断を仲介する。標的RNAの切断は、siRNA二本鎖のアンチセンス鎖と相補的である領域の中央で起こる。
【0216】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、mRNAからのタンパク質発現を下方制御するdsRNAの使用を意図する。
【0217】
一実施形態によると、dsRNAは30bpを超える。二本鎖RNA中のこのようなより長い領域はインターフェロンおよびPKR応答を誘導することになるという考え故に、長いdsRNA(即ち、30bp超のdsRNA)の使用は非常に限られていた。しかし、長いdsRNAの使用は、次のような多くの利点をもたらす:細胞は最適なサイレンシング配列を選択することができることから複数のsiRNAを試験する必要性が緩和され、長いdsRNAはサイレンシングライブラリーに必要な複雑さをsiRNAに必要な程度よりも低くすることができる、そして最も重要な点は、長いdsRNAは治療剤として使用したときにウイルスのエスケープ変異を防止することができる。
【0218】
種々の研究が、長いdsRNAを使用して、ストレス応答を誘導せずに、または大幅なオフターゲット効果を引き起こさずに、遺伝子発現をサイレンシングできるということを示している。例えば、[Strat et al., Nucleic Acids Research, 2006, Vol. 34, No. 13 3803-3810、Bhargava A et al. Brain Res. Protoc. 2004、13:115-125、Diallo M., et al., Oligonucleotides. 2003;13:381-392、Paddison P.J., et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA. 2002;99:1443-1448、Tran N., et al., FEBS Lett. 2004;573:127-134]を参照。
【0219】
特にいくつかの実施形態における発明は、遺伝子サイレンシングのために、インターフェロン経路が活性化されない細胞(例:胚細胞および卵母細胞)内に長いdsRNA(30塩基超の転写産物)を導入することを想定する。例えば、Billy et al., PNAS 2001, Vol 98, pages 14428-14433およびDiallo et al, Origonucleotides, October 1, 2003, 13(5): 381-392. doi:10.1089/154545703322617069を参照。
【0220】
いくつかの実施形態における発明は、遺伝子発現を下方制御するために、特にインターフェロンおよびPKR経路を誘導しないように設計された長いdsRNAの導入を想定する。例えば、Shinagwa and Ishii[Genes & Dev. 17 (11): 1340-1345、2003]は、RNAポリメラーゼII(PolII)プロモーターから長い二本鎖RNAを発現するために、pDECAPと名付けられたベクターを開発した。pDECAPからの転写産物は、細胞質へのds-RNA排出を促進する5’-キャップ構造と、3’-ポリ(A)テールとの両方を欠くため、pDECAPからの長いds-RNAは、インターフェロン応答を誘導しない。
【0221】
哺乳動物系においてインターフェロンおよびPKR経路を逃れる別の方法は、トランスフェクションまたは内因性発現のいずれかによる小さな阻害性RNA(小阻害性RNA、siRNA)の導入である。
【0222】
用語「siRNA」とは、RNA干渉(RNAi)経路を誘導する小さな阻害性RNA二本鎖(一般に、18~30塩基対)を指す。通常、siRNAは、中央の19bpの二本鎖領域および両端それぞれに対称性の2塩基の3’オーバーハングを有する、化学的に合成された21量体である。しかし、化学合成された25~30塩基長のRNA二本鎖は、同一位置の21量体と比較して、効力の100倍程度の増大を有し得ることが最近報告された。RNAiの誘発における、より長いRNAの使用によって観察された効力の増大は、ダイサーに対して産物(21量体)の代わりに基質(27量体)を提供することに起因し、これによってRISCへのsiRNA二本鎖の進入の割合または効率が改善されると理論上想定されている。
【0223】
3’オーバーハングの位置がsiRNAの効力に影響を及ぼし、アンチセンス鎖上に3’オーバーハングを有する非対称の二本鎖は、一般に、センス鎖上に3’オーバーハングを有するものよりも強力であるということがわかっている(Rose et al., 2005)。アンチセンス転写産物を標的とする場合にはこれとは反対の有効性パターンが観察されることから、これは、RISC内に入れ込んだ非対称鎖に起因すると考えられる。
【0224】
二本鎖干渉RNA(例えば、siRNA)の鎖は、ヘアピンまたはステム-ループ構造(例えば、shRNA)を形成するように連結され得る。したがって、記載されるように、本発明のいくつかの実施形態のRNAサイレンシング薬はまた、短いヘアピンRNA(shRNA)でもよい。
【0225】
他の実施形態によると、RNAサイレンシング薬はmiRNAまたはmiRNA模倣体であり得る。
【0226】
「マイクロRNA模倣体」という用語は、RNAi経路に侵入し、遺伝子発現を調節可能な合成非コードRNAを意味する。miRNA模倣体は内因性マイクロRNA(miRNA)の機能を模倣し、成熟した二本鎖分子または模倣体前駆体(例:またはプレmiRNA)として設計することができる。miRNA模倣体は修飾または未修飾のRNA、DNA、RNA-DNAハイブリッドまたは代替核酸化学(例:LNAまたは2’-O,4’-C-エチレンブリッジ核酸(ENA))を含み得る。成熟した二本鎖miRNA模倣体においては、二本鎖領域の長さは13~33、18~24または21~23ヌクレオチドの間で変化し得る。miRNAは合計で少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39または40ヌクレオチドをさらに含み得る。miRNAの配列はプレmiRNAの最初の13~33ヌクレオチドであり得る。miRNAの配列はプレmiRNAの最後の13~33ヌクレオチドでもあり得る。
【0227】
上記の本願明細書の記載から、miRNAの投与は数々の方法で実施可能であることを理解されたい。
【0228】
1.成熟二本鎖miRNAの投与。
2.成熟miRNAをコードする発現ベクターの投与。
3.プレmiRNAをコードする発現ベクターの投与。プレmiRNA配列は、45~90、60~80または60~70ヌクレオチドを含み得る。プレmiRNAの配列は、本明細書に示すmiRNAおよびmiRNA*を含み得る。プレmiRNAの配列は、プリmiRNAの5’および3’末端から0~160ヌクレオチドを除いたプリmiRNAでもあり得る。
4.プリmiRNAをコードする発現ベクターの投与。プリmiRNA配列は45~30,000、50~25,000、100~20,000、1,000~1,500または80~100ヌクレオチドを含み得る。プリmiRNAの配列は本明細書に記載のプレmiRNA、miRNAおよびmiRNA*およびそれらのバリアントを含み得る。
【0229】
ポリペプチド(例:グルコース輸送体)を下方制御可能な他の薬剤は、カスパーゼのmRNA転写産物またはDNA配列を特異的に開裂可能なDNAザイムである。DNAザイムは一本鎖および二本鎖の両方の標的配列を開裂可能な一本鎖ポリヌクレオチドである(Breaker, R.R. and Joyce, G. Chemistry and Biology 1995;2:655、Santoro, S.W. & Joyce, G.F. Proc. Natl, Acad. Sci. USA 1997;943:4262)。DNAザイムの一般的なモデル(“10-23”モデル)が提案されている。“10-23”DNAザイムは15デオキシヌクレオチドの触媒ドメインと、それに隣接する、それぞれが長さ7~9デオキシヌクレオチドの2つの基質認識ドメインとを有する。この型のDNAザイムは、基質RNAをプリン:ピリミジン結合部で効果的に開裂することができる(Santoro, S.W. & Joyce, G.F. Proc. Natl, Acad. Sci. USA 199、DNAザイムに関する説明は、Khachigian, LM [Curr Opin Mol Ther 4:119-21 (2002)を参照])。
【0230】
ポリペプチド(例:グルコース輸送体)の下方制御は、グルコース輸送体をコードするmRNA転写産物と特異的にハイブリダイズ可能なアンチセンスポリヌクレオチドの使用によっても実施することができる。
【0231】
グルコース輸送体を効果的に下方制御するアンチセンス分子の設計は、アンチセンス手法にとって重要な2つの観点を考慮して行わなければならない。第1の観点は適切な細胞の細胞質へのオリゴヌクレオチドの送達であり、第2の観点は、細胞内の目的mRNAの翻訳が阻害されるように、当該mRNAに特異的に結合するように設計することである。
【0232】
先行技術は、広範にわたる細胞型に効率よくオリゴヌクレオチドを送達するために使用できる種々の送達手法を教示する[例えば、Luft J Mol Med 76: 75-6 (1998)、Kronenwett et al. Blood 91: 852-62 (1998)、Rajur et al. Bioconjug Chem 8: 935-40 (1997)、Lavigne et al. Biochem Biophys Res Commun 237: 566-71 (1997)およびAoki et al. (1997) Biochem Biophys Res Commun 231: 540-5 (1997)を参照]。
【0233】
さらに、標的mRNAおよびオリゴヌクレオチドの両方における構造変化のエネルギー論を説明する熱動力学サイクルの基づく、標的mRNAに対する予想結合親和性の最も高いこれら配列を同定するためのアルゴリズムも存在する[例えば、Walton et al. Biotechnol Bioeng 65: 1-9 (1999)を参照]。
【0234】
このようなアルゴリズムは、細胞においてアンチセンスアプローチを実行する上でうまく使用されている。例えば、Walton et al.によって開発されたアルゴリズムは、ウサギβグロブリン(RBG)およびマウス腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)転写産物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの科学者による設計を可能にした。同じ研究グループは、より近年になって、培養細胞内の3種のモデル標的mRNA(ヒト乳酸デヒドロゲナーゼAおよびBとラットgp130)に対する論理的に選択したオリゴヌクレオチドは、動的PCR技術で評価したところ、ホスホジエステルおよびホスホロチオエートオリゴヌクレオチド化学による2種の細胞型の3種の異なる標的に対する試験を含む、ほぼすべてのケースにおいて効果的であることが立証されたことを報告した。
【0235】
さらに、in vitroの系を用いる、特定のオリゴヌクレオチドの設計および効率の予測のためのいくつかのアプローチも出版されている[Matveeva et al., Nature Biotechnology 16: 1374 - 1375 (1998)]。
【0236】
ポリペプチド(例:グルコース輸送体)を下方制御可能な別の薬剤は、グルコース輸送体をコードするmRNA転写産物を特異的に開裂可能なリボザイム分子である。目的タンパク質をコードするmRNAの開裂による遺伝子発現の配列特異的阻害におけるリボザイムの使用は増加している[Welch et al., Curr Opin Biotechnol. 9:486-96 (1998)]。特定の標的RNAを開裂するためのリボザイムの設計可能性故に、これは基礎研究及び治療用途における貴重なツールとなった。
【0237】
ポリペプチド(例:グルコース輸送体)遺伝子の細胞内における発現を制御するさらなる方法は、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)による方法である。近年の研究によって、配列特異的な手法で二本鎖らせん状DNA内のポリプリン/ポリピリミジン領域を認識し、結合可能なTFOを設計可能であることが示された。このような認識ルールは、Maher III, L. J., et al., Science,1989;245:725-730、Moser, H. E., et al., Science,1987;238:645-630、Beal, P. A., et al, Science,1992;251:1360-1363、 Cooney, M., et al., Science,1988;241:456-459、およびHogan, M. E., et al.、EP公開公報第375408号に示されている。インターカレータおよび骨格置換の導入といったオリゴヌクレオチドの修飾、並びに結合条件(pHおよび陽イオン濃度)の最適化は、TFO活性に固有の障害、例えば、電荷の反発と不安定性の克服を補助し、近年、合成オリゴヌクレオチドは特定の配列を標的化できることが示された(最近の報告についてはSeidman and Glazer, J Clin Invest 2003;112:487-94を参照)。
【0238】
一般的に、三重鎖形成オリゴヌクレオチドは下記の配列の対応関係を有する。
オリゴ鎖 3’--A G G T
二重鎖 5’--A G C T
二重鎖 3’--T C G A
【0239】
しかしながら、A-ATおよびG-GCのトリプレットは最も大きな三重らせん安定性を有することが示されている(Reither and Jeltsch, BMC Biochem, 2002, Sept12, Epub)。同じ著者がA-ATおよびG-GCのルールに基づき設計したTFOが非特異的三重鎖を形成しないことを示しており、これは三重鎖形成が実際配列特異的であることを表している。
【0240】
従って、グルコース輸送体制御領域内のある配列について、三重鎖形成配列を発明することができる。三重鎖形成オリゴヌクレオチドの長さは好ましくは少なくとも15、より好ましくは25、さらに好ましくは30またはそれ以上のヌクレオチドであり、50または100bp以下となり得る。
【0241】
細胞に対するTFOの(例えば、陽イオン性リポソームによる)トランスフェクションおよび標的DNAとの三重らせん構造の形成は、立体および機能的変化を誘導し、転写開始および伸長を遮断し、内因性DNAへの所望の配列変化の導入を可能にし、遺伝子発現の特定の下方制御をもたらす。TFOで処理された細胞における遺伝子発現のこのような抑制の例には、哺乳動物細胞のエピソーム性supFG1および内因性HPRT遺伝子のノックアウト(Vasquez et al., Nucl Acids Res. 1999;27:1176-81およびPuri, et al, J Biol Chem, 2001;276:28991-98)、ならびに前立腺癌の病因学において重要であるEts2転写因子(Carbone, et al, Nucl Acid Res. 2003;31:833-43)および炎症促進性ICAM-1遺伝子(Besch et al, J Biol Chem, 2002;277:32473-79)の配列および標的特異的な下方制御が挙げられる。さらにVuyisich and Bealは、近年、配列特異的TFOはdsRNAに結合可能であり、dsRNA依存性酵素、例えば、RNA依存性キナーゼ、の活性を阻害することを明らかにした(Vuyisich and Beal, Nuc. Acids Res 2000;28:2369-74)。
【0242】
脂質合成を遮断する薬剤も想定される。一般的に、肝臓をバイパスする任意の脂質合成遮断薬は主として腎臓の脂質合成を遮断する。これは、(肝臓をバイパスする)高い疎水性の遮断剤またはCYP450基質以外の化合物を使用し、脂質合成遮断約を腎臓を特異的に標的化する部分と結合することで達成することができる。非限定的なこのような薬剤の例としては、ACLY阻害剤であるBMS-303141が挙げられる。
【0243】
他の想定される薬剤には腎臓の脂質酸化を上方制御する薬剤が含まれる。このようなメカニズムで働く薬剤にはPPARAのアンタゴニスト、好ましくはフィブラート系薬剤、即ち、両親媒性のカルボン酸のクラス(クロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、ベンザフィブラート、およびフェノフィブラート)が挙げられる。二重PPARA/Gアゴニストとしては、サログリタザル、アレグリタザル、ムラグリタザル、およびテサグリタザルが挙げられる。さらにCP 775146、GW 7647、オレイルエタノールアミド、パルミトイルエタノールアミド、WY 14643も想定される。
【0244】
近位尿細管上皮細胞の分極化を腎臓傷害性薬剤の毒性作用から保護する薬剤(例:脂質蓄積を低下させるもの)は、そのまま又は医薬組成物の一部として対象に投与することができる。
【0245】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」とは、本明細書に記載の活性成分の1つまたは複数を、生理的に好適な担体および賦形剤などの他の化学成分と共に含む処方を指す。医薬組成物の目的は、化合物の生物への投与を容易にすることである。
【0246】
本明細書における用語「活性成分」とは、治療効果を担うことができる、腎臓における脂質の蓄積を減少させる薬剤を指す。
【0247】
以後、互換的に使用することができる語句「生理的に許容される担体」および「薬学的に許容される担体」は、生物に対して有意な刺激を引き起こすことなく、投与される化合物の生物活性および特性を無効化しない、担体または希釈剤を指す。アジュバントは、これらの語句の中に含まれる。
【0248】
本明細書における用語「賦形剤」とは、活性成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびデンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油ならびにポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0249】
薬物の処方化および投与のための技術は、参照により本明細書に組み込まれる“Remington's Pharmaceutical Sciences,” Mack Publishing Co., Easton, PAの最新版に見出すことができる。
【0250】
好適な投与経路としては、例えば、経口、直腸、経粘膜(特に経鼻)、腸または非経口送達が挙げられ、非経口送達には、筋肉内、皮下および髄内への注射や、くも膜下腔内、直接脳室内、心臓内(例えば、右心室腔内もしくは左心室腔内)、一般的な冠動脈内、静脈内、腹腔内、径鼻、または眼内への注射が挙げられる。
【0251】
CNSへの薬物送達のための従来の手法としては、神経外科的戦略(例えば、脳内注射または脳室内注入)、BBBの内因性輸送経路の1つを活用する試みにおける薬剤の分子的操作(例えば、それ自体はBBBを通過することができない薬剤と、内皮細胞表面分子に対する親和性を有する輸送ペプチドとを含む、キメラ融合タンパク質の生成)、薬剤の脂質溶解性を増加させるように設計された薬理学的戦略(例えば、脂質またはコレステロール担体への水溶性薬剤の結合)、および(頸動脈へのマンニトール溶液の注入またはアンギオテンシンペプチドなどの生物活性剤の使用の結果である)高浸透圧破壊によるBBBの完全性の一過的破壊が挙げられる。しかし、これらの手法のそれぞれには、侵襲的外科的手法に固有のリスク、内在性輸送系に固有の限界によって課せられるサイズの限界、CNSの外で活性化可能なキャリアモチーフを含むキメラ分子の全身投与と関連する潜在的に望ましくない生物学的副反応、およびBBBが破壊された脳領域内の脳損傷の潜在的リスク等の限界があり、これは当該手法を最適以下の輸送系とする。
【0252】
上記の代わりに、医薬組成物を、全身的にではなく、局所的に投与することも可能であり、局所投与は、例えば、患者の組織領域への直接的な注射により行うことができる。
【0253】
用語「組織」とは、類似構造および/または共通機能を有する細胞の凝集体からなる、生物の部分を指す。例としては、脳組織、網膜、皮膚組織、肝組織、膵臓組織、骨、軟骨、結合組織、血液組織、筋肉組織、心臓組織、脳組織、血管組織、腎組織、肺組織、生殖腺組織、造血組織が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0254】
本発明の医薬組成物は、当業界で周知のプロセス、例えば、公知の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠作製、粉末化、乳化、カプセル封入、捕捉または凍結乾燥プロセスにより製造することができる。
【0255】
かくして、本発明の医薬組成物は、活性成分の薬学的に使用することができる製剤への加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1種または数種の生理的に許容される担体を使用する従来の様式で、処方することができる。適切な処方は、選択した投与経路に依存する。
【0256】
注射のためには、医薬組成物の活性成分を、水性溶液、好ましくは、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理食塩緩衝液などの生理的に適合する緩衝液を用いて製剤化することができる。経粘膜投与のためには、透過させようとする障壁にとって適切な浸透剤を処方に使用する。そのような浸透剤は、当業界で一般に公知である。
【0257】
経口投与のためには、活性化合物と、当業界で周知の薬学的に許容される担体とを合わせることによって、容易に医薬組成物を処方することができる。そのような担体により、医薬組成物を、患者による経口摂取のための錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などに処方することができる。経口使用のための薬理学的調製物は、固体賦形剤を使用して作製することが可能であり、任意で、得られた混合物を粉砕し、必要に応じて好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して、錠剤または糖衣錠コアを得ることができる。好適な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、もしくはソルビトールを含む糖などの充填剤;トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなどのセルロース調製物;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理的に許容されるポリマーである。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を添加してもよい。
【0258】
糖衣錠コアは、好適なコーティングと共に提供される。この目的のために、濃縮された糖溶液を使用することができ、濃縮された糖溶液は、任意で、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有してもよい。種々の活性化合物の用量の様々な組合せの同定または特徴付けのために、錠剤または糖衣錠コーティングには、色素または顔料を添加してもよい。
【0259】
経口的に使用することができる医薬組成物としては、ゼラチンから作られる押し込み式カプセル、ならびにゼラチンと、グリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤とから作られる軟質密封カプセルが挙げられる。押し込み式カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および任意でより安定剤との混合物として活性成分を含有してもよい。軟質カプセル中では、活性成分は、脂肪油、液体パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの好適な液体中に溶解または懸濁されていてもよい。さらに、安定剤を添加してもよい。経口投与のための全ての処方は、選択された投与経路にとって好適な用量であるべきである。
【0260】
頬投与のために、組成物は、従来の様式で処方した錠剤またはロゼンジ剤の形態であってもよい。
【0261】
経鼻吸入による投与のために、好適な推進剤の使用によって、本発明による使用のための活性成分を、加圧パックまたはネブライザーによるエアロゾルスプレー剤の形態で好適に送達することができる。推進剤は、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素である。加圧型のエアロゾルの場合、一定量を送達するためのバルブを設けることによって、用量単位を決定することができる。ディスペンサーにおける使用のための(例えば、ゼラチン製の)カプセルおよびカートリッジは、化合物と、ラクトースまたはデンプンなどの好適な粉末基剤との粉末混合物を含有する処方にすることができる。
【0262】
本明細書に記載の医薬組成物は、非経口投与用、例えば、ボーラス注射用または連続輸注用に処方することができる。注射用の処方は、任意で添加した保存剤と共に、単位用量形態、例えば、アンプルまたは複数用量容器で提供することができる。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンであってもよく、懸濁剤、安定剤および/または分散剤などの調合剤を含有してもよい。
【0263】
非経口投与用の医薬組成物は、水溶性形態の活性製剤の水溶液を含む。さらに、活性成分の懸濁液を、適切な油性または水性の基剤を用いた注射用懸濁液として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルなどの合成脂肪酸エステル、トリグリセリドまたはリポソームが挙げられる。水性注射用懸濁液は、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどの、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。任意で懸濁液はまた、高濃縮溶液の調製を可能にするための、好適な安定剤または活性成分の溶解度を増大させる薬剤を含有してもよい。
【0264】
上記にの代わりに、活性成分は、使用前に好適なビヒクル(例えば、滅菌済、パイロジェンフリーの水を基剤とする溶液)を用いて構成するための粉末形態であってもよい。
【0265】
本発明の医薬組成物はまた、例えば、ココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を使用して、坐剤または停留浣腸などの直腸用組成物に処方することもできる。
【0266】
本発明の文脈において好適な医薬組成物には、活性成分を意図する目的を達成するのに有効な量で含有する組成物が含まれる。より具体的には、治療有効量とは、障害(例えば、癌/炭疽菌感染)の症状を防止、軽減、または改善する、または処置される対象の生存期間を延長するのに有効な活性成分(例えば、脂肪蓄積を減少させる薬剤)の量を意味する。
【0267】
治療有効量の決定は、特に、本明細書で提供される詳細な開示に照らせば、十分に当業者の能力の範囲内にある。
【0268】
本発明の方法において使用される任意の製剤について、治療有効量または用量は、初めにin vitroおよび細胞培養アッセイから概算することができる。例えば、所望の濃度または力価を達成することができるように、動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報を使用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0269】
本明細書に記載の活性成分の毒性および治療効能を、in vitro、細胞培養物または実験動物において、標準的な薬学的手順によって決定することができる。こういったin vitroアッセイおよび細胞培養アッセイおよび動物試験で得られたデータを、ヒトにおける使用のための用量範囲を処方化するのに使用することができる。用量は、使用する剤形および利用する投与経路に応じて変化してもよい。正確な処方、投与経路および用量は、患者の状態を考慮して、個々の医師が選択することができる(例えば、Fingl, et al., 1975, in "The Pharmacological Basis of Therapeutics", Ch. 1 p.1を参照されたい)。
【0270】
活性成分の組織または血中濃度が、生物学的効果を誘導または抑制するのに十分な量(最小有効濃度、MEC)となるように、用量および投与間隔を個別に調整することができる。MECはそれぞれの製剤について異なるが、in vitroのデータから概算することができる。MECを達成するのに必要な用量は、個体の特徴および投与経路に依存するであろう。検出アッセイを使用して、血漿における濃度を決定することができる。
【0271】
処置する病態の重症度および応答性に応じて、投与量は、単回または複数回の投与用であってもよく、処置の経過は、数日から数週間、あるいは治癒が認められるか、疾患状態の縮小が達成されるまで続く。
【0272】
投与される組成物の量は、勿論、処置される対象、苦痛の重症度、投与の様式、処方する医師の判断などに依存するであろう。
【0273】
組み合わせ療法の文脈において、腎臓障害性薬剤は、近位尿細管上皮細胞の分極化を腎臓傷害性薬剤の毒性作用から保護する薬剤(例:グルコース再吸収の阻害剤)と同じ投与経路(例:肺内、経口、経腸等)で投与され得る。代わりに、腎臓障害性薬剤は、保護剤(例:グルコース再吸収の阻害剤)とは異なる投与経路で投与され得る。
【0274】
腎臓障害性薬剤は、保護剤の投与の直前(または直後)、同日、一日前(または後)、一週間前(または後)、一か月前(または後)、あるいは二か月前(または後)等に投与してもよい。
【0275】
腎臓障害性薬剤と保護剤(例:グルコース再吸収の阻害剤)は同時に投与する、即ち、これら薬剤の投与が部分的または完全に重なる時間間隔で投与してもよい。薬剤は単一処方または別々の処方で投与され得る。腎臓障害性薬剤および保護剤は互いに重なることのない時間間隔の中で投与してもよい。例えば、腎臓障害性薬剤をt=0~1時間の時間枠内のどこかで投与し、保護剤をt=1~2時間の時間枠内のどこかで投与することができる。腎臓障害性薬剤をt=0~1時間の時間枠内のどこかで投与し、保護剤をt=2~3時間、t=3~4時間、t=4~5時間、t=5~6時間、t=6~7時間、t=7~8時間、t=8~9時間、t=9~10時間等の時間枠内のどこかで投与することもできる。さらに保護剤はt=マイナス2~3時間、t=マイナス3~4時間、t=マイナス4~5時間、t=マイナス5~6時間、t=マイナス6~7時間、t=マイナス7~8時間、t=マイナス8~9時間、t=マイナス9~10時間の時間枠内のどこかで投与することもできる。
【0276】
保護剤は、腎毒性薬物と共に単一組成物として処方され得ることを理解されたい。
【0277】
従って、本発明は、単一の許容される担体と、活性成分として、
(i)腎臓障害性治療薬と、および
(ii)近位尿細管上皮細胞の分極化を腎臓傷害性薬剤の毒性作用から保護する薬剤(例:グルコース再吸収の阻害剤)と
を含む組成物(例:医薬組成物)を想定する。
【0278】
本発明の保護剤および腎臓障害性薬剤は、典型的には、治療的および/または予防的効果を達成するための総計量で提供される。この量は、使用に選択した特定の化合物、他の治療様式の性質と数、治療、予防および/または緩和される病態、対象の種、年齢、性別、体重、健康状態または予後、組成物の投与形式、標的化の効果、滞留時間、クリアランスの方式、副作用の種類と重症度、並びに当業者には明らかな他の因子に明らかに依存する。腎臓障害性薬剤は、保護剤との組み合わせによる治療または予防効果が観察され得る濃度で使用される。
【0279】
腎臓障害性薬剤は(保護剤と共に)ゴールドスタンダードの用量で単一薬剤として、ゴールドスタンダード未満の用量で単一薬剤として、ゴールドスタンダードを超える用量で単一薬剤として、投与することができる。
【0280】
特定の実施形態によると、腎臓障害性薬剤は、ゴールドスタンダードを超える用量で単一薬剤として投与する。
【0281】
本明細書で使用する「ゴールドスタンダード」という用語は、特定の腫瘍の特定のステージに対して、規制当局(例:FDA)によって推奨される用量を意味する。
【0282】
特定の実施形態において、腎臓障害性薬剤は、単一薬剤として使用した場合のゴールドスタンダード・レジメンとは異なるレジメンを用いて提供することもできる(例:より長期間提供することもできる)。
【0283】
他の特定の実施形態によると、腎臓障害性薬剤は、単一薬剤として使用した場合の腎臓傷害と関連する用量で(保護剤と組み合わせて)投与する。
【0284】
従って、一実施形態において、腎臓障害性薬剤の量は(組み合わせ療法に使用した場合)、単一療法に使用したときの治療または予防効果のための最小用量を超える(例:最小用量の110%または125%~175%)。より高用量の活性成分を疾患の治療に使用することが可能になると共に、保護剤が腎毒性の負の副作用を低下させるため、治療はより効果的になり、組み合わせ全体が効果的である。
【0285】
別の実施形態において、本発明の腎臓障害性薬剤および保護剤は、副作用について相乗的である。即ち、保護剤と腎臓障害性薬剤の組み合わせによって生じる副作用は、分けて使用した腎臓障害性薬剤によって同等の治療効果が得られるときに予想されるよりも少なくなる。
【0286】
本発明の組成物は、必要に応じて、FDAにより承認されたキット等のパックまたはディスペンサーデバイスに入れて提供してもよく、このようなパックまたはデバイスは、活性成分を含有する1つまたは複数の単位剤形を含有してもよい。パックは、例えば、金属またはプラスチックホイルを含む、ブリスターパックなどである。パックまたはディスペンサーデバイスは、投与のための説明書が添付されていてもよい。パックまたはディスペンサーはまた、医薬物の製造、使用または販売を規制する政府機関により規定された形態で容器に付随する通知が添付されていてもよく、この通知は、組成物の形態がヒトまたは動物への投与用として当該機関により承認されていることを反映するものである。このような通知は、例えば、処方薬に関して米国食品医薬物局により承認されたラベルの形態であってもよいし、または承認された製品の差し込み物の形態であってもよい。また、本発明の製剤を含み、適合可能な医薬用担体中に処方化された組成物を調製し、適切な容器中に入れて、上記で詳述したように、表示した病態の処置用であることを標識してもよい。
【0287】
本願から成立する特許の存続期間中に、望ましくない副作用として腎臓を破壊する多くの対応する有効な薬剤が開発されると予想されるため、腎臓傷害剤という用語の範囲には、演繹的にこのような新技術も含めることを意図する。
【0288】
本明細書で使用される用語「約」とは、±10%を指す。
【0289】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」およびその同根語は、「含むが、限定されるものではない(including but not limited to)」ことを意味する。
【0290】
用語「からなる(consisting of)」は、「含み、限定される(including and limited to)」ことを意味する。
【0291】
用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、組成物、方法または構造が追加の成分、工程および/または部分を含み得ると定義する。しかし、追加の成分、工程および/または部分は、特許請求される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0292】
本明細書で使用する単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数を対象とする。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも一種の化合物」には、複数の化合物が含まれ、それらの混合物をも含み得る。
【0293】
本願全体を通して、本発明のさまざまな実施形態は、範囲形式にて示され得る。範囲形式での記載は、単に利便性および簡潔さのためであり、本発明の範囲の柔軟性を欠く制限ではないことを理解されたい。従って、範囲の記載は、可能な下位の範囲の全部、およびその範囲内の個々の数値を特異的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6等の範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲のみならず、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5および6も特異的に開示するものとする。これは、範囲の大きさに関わらず適用される。
【0294】
本明細書に数値範囲が示される場合、それは常に示される範囲内の任意の引用数(分数または整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」という表現と、第1の指示数「から」第2の指示数「の範囲」という表現は、本明細書で代替可能に使用され、第1の指示数および第2の指示数と、それらの間の分数および整数の全部を含むことを意図する。
【0295】
本明細書で使用する「方法」という用語は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を意味し、化学、薬理学、生物学、生化学および医療の各分野の従事者に既知のもの、または既知の様式、手段、技術および手順から従事者が容易に開発できるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0296】
本明細書で使用する「治療」とは、病態の進行の抑止、実質的な阻害、遅延、若しくは逆転、状態の臨床的若しくは審美的症状の実質的な寛解、または病態の臨床的若しくは審美的症状の悪化の実質的な予防を含む。
【0297】
本発明の特徴であって、明確にするために個別の実施形態として記載したものは、組み合わせて1つの実施形態としても提供可能であることを理解されたい。逆に、簡潔にするために1つの実施形態として記載した本発明の様々な特徴を、個別に、または任意の適切な部分組合せで、または本発明で記載した他の実施形態との適切な組み合わせとして提供することもできる。様々な実施形態に関連して記載された特徴は、その特徴なしでは実施形態が動作不能でない限り、それらの実施形態の必須要件とは見なさない。
【0298】
上述したように本明細書に記載され、下記特許請求の範囲によって請求される本発明のさまざまな実施形態および態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【実施例
【0299】
次に、以下の実施例に参照するが、これらは上記説明と共に本発明の実施形態の一部を詳細に示すものであるが、本発明を限定するものではない。
【0300】
本明細書において使用される命名法および本発明に使用する実験手順としては、通常、分子的技術、生化学的技術、微生物学的技術および組み換えDNA技術が挙げられる。このような技術は、文献において十分に説明されている。例えば、"Molecular Cloning: A laboratory Manual" Sambrook et al., (1989)、"Current Protocols in Molecular Biology" Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994)、Ausubel et al., "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989)、Perbal, "A Practical Guide to Molecular Cloning", John Wiley & Sons, New York (1988)、Watson et al., "Recombinant DNA", Scientific American Books, New York、Birren et al. (eds) "Genome Analysis: A Laboratory Manual Series", Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998)、米国特許第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号、および第5,272,057号明細書に記載された方法、"Cell Biology: A Laboratory Handbook", Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994)、"Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique" by Freshney, Wiley-Liss, N. Y. (1994), Third Edition、"Current Protocols in Immunology" Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994)、Stites et al. (eds), "Basic and Clinical Immunology" (8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994)、Mishell and Shiigi (eds), "Selected Methods in Cellular Immunology", W. H. Freeman and Co., New York (1980)を参照されたい。利用可能なイムノアッセイは、特許および科学文献に広く記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号、および第5,281,521号、"Oligonucleotide Synthesis" Gait, M. J., ed. (1984)、"Nucleic Acid Hybridization" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985)、"Transcription and Translation" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1984)、"Animal Cell Culture" Freshney, R. I., ed. (1986)、"Immobilized Cells and Enzymes" IRL Press, (1986)、"A Practical Guide to Molecular Cloning" Perbal, B., (1984)および"Methods in Enzymology" Vol. 1-317, Academic Press、"PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications", Academic Press, San Diego, CA (1990)、Marshak et al., "Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual" CSHL Press (1996)を参照されたい。上記文献の全てが、本参照により、本明細書に完全に記載したかのように参照により組み込まれる。その他の一般的な参考文献は、本明細書を通じて提供される。それらに記載の手順は、当技術分野で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供する。それらに含まれるすべての情報が、本参照により本明細書に組み込まれる。
【0301】
実施例1
腎臓代謝の生体機能チップ解析は、薬物誘導性腎毒性のメカニズムとしてグルコース駆動性脂肪毒性を明らかにする
材料と方法
細胞培養
すべての細胞を、37℃の加湿インキュベータ内、5%のCO下、標準条件で培養した。HK-2細胞は、10%のウシ胎仔血清(イスラエル国、BI社)、5ng/mlの上皮成長因子(EGF、米国、Peprotech社)、L-アラニル-L-グルタミン(イスラエル国、BI社)、100U/mlのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシン(イスラエル国、BI社)を添加したダルベッコの変法イーグル培地/栄養ミックスF-12基礎培地(DMEM/F-12、米国、Sigma社)で培養した。
【0302】
腎臓近位尿細管上皮細胞(RPTEC)はLonza社(スイス国、バーゼル)より購入した。細胞は、0.5%のウシ胎仔血清(イスラエル国、BI社)、インスリン、トランスフェリンおよびセレニウム(ITS、米国、Gibco社)、0.1μMのデキサメタゾン(米国、Sigma-Aldrich社)、10ng/mlの上皮成長因子(EGF、米国、Peprotech社)、5pMのトリヨードチロニン(T3、米国、Sigma社)、0.5μg/mlのエピネフリン(米国、Sigma社)、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン(イスラエル国、BI社)を添加したMCDB153基礎培地(米国、Sigma-Aldrich社)で培養した。始原細胞は0~3継代、最大8回の集団の倍化まで培養した。
【0303】
原発ラット心毛細血管内皮細胞(RCEC、米国、Vec Technologies(登録商標)社)はゼラチン被覆フラスコ上、EGMTM-2 BulletKitTM(スイス国、Lonza社)を添加した内皮細胞基礎培地-2(EBMTM-2、スイス国、Lonza社)で培養した。
【0304】
定量的RT-PCR
RNeasy(登録商標)ミニキット(ドイツ国、Qiagen社)を製造社の取扱説明書にしたがって使用し、RNAを単離および精製した。RNAの濃度および純度はNanoDrop ND-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific社)を用いて決定した。qScript cDNAスーパーミックス(米国、Quanta BioSciences社)を製造社のプロトコルにしたがって使用し、1μgのRNAサンプルからcDNAを合成した。遺伝子発現解析は、製造社の指示書に準じて、Applied Biosystems社の384ウェルプレートフォーマット用のQuantStudio 5 システム(米国、Applied Biosystems社)上でKAPA SYBR FASTユニバーサル2×qPCRマスターミックス(米国、Kapa Biosystems社)を用いて実施した。遺伝子の転写は、60Sリボソームタンパク質L32(RPL32)またはユビキチンC(UBC)に正規化したΔΔCt法を用いて評価した。
【0305】
3Dシスト形成
マトリゲル(登録商標)ベースメントメンブランマトリックス(cat:356231、カリフォルニア州、カールスバッド、Corning(登録商標)社)を冷環境下(<4℃)、氷上で2~12時間解凍した。黒色の96ウェルプレート・ガラス底(オーストリア国、Greiner Bio-one社)の各ウェルの底を、気泡の形成を避けながら、30μLのゲル溶液で被覆した。プレートを37℃で30分間インキュベートした。同様の工程を、各高解像度共焦点顕微鏡用の8ウェルカバーガラススライド(NuncTM Lab-TekTM II、カリフォルニア州、カールスバッド)のそれぞれについて、45μLのゲル溶液で繰り返した。
【0306】
HK-2またはRPTEC細胞を氷冷ゲル溶液に密度15×10細胞/mLに懸濁した。70μlのゲル-細胞混合物を被覆済みウェルのそれぞれに添加し、37℃および5%COで60分間インキュベートした。最終細胞濃度はウェル当たり10~500細胞であった。HK-2またはRPTEC培養培地を添加し、プレートを37℃および5%COにおいて、毎日の培地交換と共に、単一中心内腔を有する成熟シストが可視化されるまで、HK-2は2週間、RPTECは4週間インキュベートした。初めは、強固に接合したスフェロイドが形成され、膜の分離およびアポトーシスによって、後に単一中心内腔が産生された。
【0307】
機能的分極化アッセイ
ゲル含有シストの上から培地を除去し、2μMのカルセインAM(Molecular Probes社)を含む新鮮な培地で置換した。37℃、5%COにおける1時間のインキュベーションに続き、画像化前に培地を除去し、新鮮な培地で置換した。分極化シストはその頂端膜からカルセインAMを内腔に排出するため、分極化シストは蛍光顕微鏡下で非常に弱い緑色光しか示さない。分極化が妨害された場合、細胞はカルセインAMをその細胞質に保持し、同じ強度で励起した際に、強い緑色光を示す。
【0308】
バイオリアクターの設計と組み立て
バイオリアクターマニホールドおよび使い捨てポリジメチルシロキサン(PDMS)マイクロウェルインサートの設計をAutoCAD(登録商標)(米国、Autodesk社)を用いて実施し、SolidWorks(登録商標)(米国、SolidWorks社)を用いて計算機数値制御(CNC)に適応させた。バイオリアクターマニホールドは、生体適合性ポリエチレンイミド(ULTEM)ブロックからHaas VF-2SSYT(米国、Hass Automations社)の加工によって加工した。各ユニットは、標準2インチインサートに嵌る2つの50.8mmの円形支持構造によって構成されており、効率的な光伝導のための生体適合性エポキシ糊付けガラス窓および灌流のためのステンレス鋼製の針状結合と共に包埋されていた。
【0309】
PDMSマイクロウェルインサートはレーザー切断により作られた。簡単には、電動フィルムアプリケータ(Erichsen社)を用いてPDMS(Dow Corning社)の薄いシートを高さ0.7mmまでキャストし、70℃で1時間硬化させた。マイクロウェルを直径1.5mm、中心間距離3mmに355nmパルスのNd-YAGレーザー(3D-Micromac社)で切り出した。PDMSインサートを70%(容量/容量)のEtOHで洗浄し、窒素で乾燥させ、酸素プラズマ活性を用いて清潔な0.5mm厚のガラス製カバースリップ(Schott社)に共有結合させた。
【0310】
マイクロウェルの周りの封止をゴムリングで実施し、内部容積が200μLの灌流チャンバーが形成された。圧力および封止は、4つのステンレス鋼製のスクリューを用いて維持した。各バイオリアクターの灌流は、個別に鉄製の針に嵌めた0.03インチのTygon(登録商標)低接着チューブ(仏国、Saint-Gobain社)で行った。
【0311】
オルガノイドの播種
ポリジメチルシロキサン(PDMS)マイクロウェルインサートは、細胞を播種する前に、70%のEtOHおよびUV光への30分間の暴露によって滅菌した。腎細胞をトリプシン処理し、計数し、4℃、300×gで5分間遠心分離した。次にペレットを400μgの直径50マイクロメートルポリスチレンビーズと混合し、ルテニウム-フェナントロリンベースの燐光色素(CPOx-50-RuP酸素感知マイクロビーズ、ドイツ国、Colibri Photonics社)と共にロードし、100μlの氷冷マトリゲル(登録商標)ベースメントメンブランマトリックス(cat:356231、カリフォルニア州、カールスバッド、Corning(登録商標)社)に最終播種密度が7.5×10細胞/ウェルとなるように再懸濁した。そして、細胞および酸素感知ビーズを含有する1.35μlのマトリゲル(登録商標)懸濁液を、PIPETMAN M P10M(英国、Gilson社)を用いて各ウェルに播種した。ゲルを重合するために、接種したマイクロウェルインサートを37℃で30分間インキュベートした。重合に続き、インサートを3mlの細胞培養培地に浸漬し、バイオリアクターハウジングに封入する前に、37℃で一晩インキュベートした。次にバイオリアクターをIX81蛍光顕微鏡(日本国、オリンパス社)上の環境制御チャンバーに入れた。10mMのHEPESおよび1%のDMSOを添加した上記細胞培養培地をバイオリアクターに流速5μL/分で連続的に灌流した。薬物誘導は代謝安定後に開始した。安定化は酸素および代謝産物の毎日の測定によって評価した。安定化は通常3~4日後に生じた。
【0312】
リアルタイム酸素測定
リアルタイム酸素測定は、オンチップのlifetime-based luminescence quenching(LBLQ)を用いて光学的に実施した。RuP燐光シグナルは励起された三量体状態の寿命によって与えられる特徴的な遅延を示す。酸素はクエンチャーとして働き、その濃度の増加と共に減衰時間およびシグナル強度の減少につながる。減衰時間は実験期間中のプローブ濃度または励起強度の変化に対して感受性ではないことから、我々はシグナル強度ではなく減衰時間の測定を選択した。シグナルは、制御モジュール、532nmのLED励起源、およびIX81オリンパス顕微鏡(日本国、オリンパス社)の接眼レンズに固定された高電子増倍管(PMT)検出器を含むOPALシステム(ドイツ国、Colibri Photonics社)を用いて測定した。測定中は光学光路に531/40(Ex)、555、607/70(Em)のフィルターキューブを挿入した(図3のC)。減衰時間を正確に測定するために、酸素クエンチングによって正弦振幅変調光の位相のずれが生じる位相変調を選択した。検出シグナルの位相を変える位相内バックグラウンド蛍光の重ね合わせを克服するために、干渉外のスクリーニングが可能な新規な53.5および31.3kHzの二周波位相変調を用いた。測定は、5回の連続した4秒曝露の平均を取ることで実施した。測定は15分ごとに実施した。同様の条件下では、オルガノイドの28日間の測定は、明確な光毒性、シグナルドリフトまたはシグナル強度の妥当な消失なしに実施された。
【0313】
細胞毒性および発症までの時間の測定
異なる濃度の化合物を溶解した培養培地でバイオリアクターを灌流した。細胞生存率は、特に記載がない限り、24時間の曝露後の酸素取り込みによって決定した。TC50濃度はMATLABを用いて、正弦曲線近似によって決定した。全てのエラーバーが±95%信頼区間を示す。発症までの時間はLPFおよび傾向アセスメントに基づくMATLABで解析した。
【0314】
リアルタイムのグルコースおよび乳酸の測定
電流測定用グルコースおよび乳酸センサはInnovative Sensor Technology社(IST、スイス国)より購入した。センサは、直線範囲が0.5mM~30mMのグルコースオキシダーゼおよび直線範囲が0.5mM~20mMの乳酸オキシダーゼの酵素反応に基づく。どちらのセンサも測定した代謝産物に比例する量のHを産生し、極性条件下で白金電極によって検出される。測定は、実験期間全体、曝露の8~24時間前および呼吸応答が確認されるまで、連続的に行われた。測定および感度の低下に対する校正はオンチップのポテンショスタット(スイス国、IST社)によって実施した。
【0315】
代謝経路およびATP産生
グルコースの取り込み速度、酸素の取り込み速度、および乳酸の産生速度は、バイオリアクターの流入フローおよび流出フロー間の代謝産物濃度の変化を灌流速度と細胞数の関数として計算することで、測定した。代謝速度は脂肪酸酸化および酵素活性の酸素取り込みに対する貢献が軽微であると仮定して計算した。培養培地中の脂質の低濃度は、脂肪酸の取り込みがグルコースの50倍以上低いことを保証し、一方、グルタミンのクレブス回路に対する貢献は微量で、12時間の薬物曝露に続くグリコーゲン含量に有意な変化は見られなかった。
【0316】
これら推定に基づき、酸素取り込み速度を6で除することで酸化的リン酸化フラックスを計算した。1分子のグルコースが完全に酸化されることで32のATP分子が産生されると推定された。解糖系フラックスは、乳酸産生速度を2で除することで計算し、最大速度はグルコース取り込み速度引く酸化的リン酸化フラックスと定義した。解糖系によるATP産生は、1分子のグルコース当たり2分子と推定された。非増殖細胞における五炭糖リン酸経路の貢献は微量であるため、グルコースの残りは脂質合成に回されると推定した。最後に、過剰な乳酸がグルタミノリシスによって産生されると推定し、この推定はグルタミンの取り込みのオフチップの測定によって立証された。グルタミノリシスにおけるATP産生は、産生される1分子の乳酸当たり3分子と概算された。
【0317】
グルコース蓄積アッセイ
細胞内のグルコースの取り込みを観察するために、グルコースの蛍光アナログである2-(N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾル-4-イル)アミノ)-2-デオキシグルコース(2-NDBG)(米国、カリフォルニア州、Invitrogen社)を使用した。一晩の薬物曝露後、培地を除去し、HK-2およびRPTECのそれぞれの培養培地のグルコース濃度に一致するように17mMおよび6mMの2-NDBGを含むダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水(米国、Sigma社)で置換し、画像化前に37℃、5%のCOで1時間インキュベートした。哺乳動物細胞において2-NDBGはGLUT-2によって取り込まれ、その活性またはシャトリングが妨害されると、2-NDBGは細胞内に蓄積されて高い緑色光を示す。
【0318】
脂質蓄積アッセイ
脂質蓄積の定量はHCS脂質TOXTM脂質症および脂肪過多症検出キット(ThermoFisher社)を用いて実施した。簡単には、培養培地に溶解した異なる濃度の化合物および1×リン脂質症検出試薬と共にHK-2細胞およびRPTEC細胞を48時間インキュベートし、続いて4%のPFAで固定した。細胞を次に1×の中性脂肪用Green LipidTOXTMで45分間染色し、1μg/mLのヘキスト33258で対比染色した。染色強度はヘキスト33258陽性核の数に対して染色強度を正規化した。
【0319】
毒性減少実験
強力なSGLT2阻害剤であるエンパグリフロジン(5μM)とフロレチン(1mM)はGLUT2の頂底シャトリングを阻害し、フロリジン(200μM)はSGLT1およびSGLT2の弱い阻害剤である。これら3種の阻害剤を同時に使用するとき、混合物をカクテルと呼ぶ。全ての実験を96ウェルプレートで3セット行い、薬物なしまたは阻害剤のみを対照とした。初めに、細胞を阻害剤単独と共に1時間インキュベートし、次にLIVE DEADアッセイのために薬物を阻害剤と共に添加して24時間、または脂質蓄積(LipidToxアッセイ)のために48時間インキュベートした。LIVE/DEAD細胞毒性キット(米国、Molecular Probes社)を製造者の指示書に準じて使用し、細胞生存率を測定した。簡単には、培養物を2μMのカルセインAMと4μMのエチジウムホモダイマー1と共に30分間インキュベートした。生細胞は、緑の蛍光に対して陽性であり、これは細胞内エステラーゼによるアセトキシメチルエステル基の加水分解によるものである。死細胞は、赤の蛍光に対して陽性であり、これは無傷の膜内の可能性もある、細胞内DNAに対するエチジウムホモダイマー1の結合したよるものである。細胞生存率は死に対する生の比で表され、負の(DMSO/DDW/PBS)対照に対して正規化された。総蛍光を得るためにImageJを用いて蛍光顕微鏡写真の解析を各サンプルに付き9回繰り返した。エラーバーは±SEMを表す。
【0320】
染色後、定量化のためにプレートを蛍光顕微鏡上にマウントした。薬物のみで処理した細胞と比べて有意なパーセンテージの生細胞および/または減少した死細胞数が観察されたときに救済が達成された。阻害剤とインキュベートしたときの生存率および脂質蓄積の両方が薬物なしの対照に有意に近く、時間に対する毒性の緩和され、薬物の有害な副作用に対抗したことを示した。
【0321】
統計解析
実験は、別途明記しない限り、各実験条件について3組のサンプルを使用し、2または3回繰りかえした。代表的な実験のデータを示したが、同様の傾向が複数の試験で観察された。パラメトリックな両側Studentのt検定を群間の有意差を計算するために使用した。別途明記しない限り、全てのエラーバーは±SEを表す。
【0322】
結果
ヒト近位尿細管のモデルとなるHK2細胞が、準毒性薬物曝露後の急性傷害の初期兆候を示す
HK-2(ヒト腎臓2)は、正常な腎臓由来の近位腎尿細管細胞(PTC)系である。この細胞はヒトパピローマウイルス16(HPV-16)E6/E7遺伝子の形質導入によって不死化されている(図1のA)。P-糖タンパク質(MDR1)またはリン酸ナトリウム共トランスポーター(NaPi2a)等の、近位尿細管の生理学におけるいくつかの主要な輸送体を発現する。HK-2細胞はい近位腎尿細管上皮の機能的特徴、例えば、Na+依存性/フロリジン感受性糖輸送および副甲状腺ホルモン応答性であるが、抗利尿促進ホルモンには応答しないアデニレートシクラーゼを保持する。細胞は、グリコーゲンを産生し保存する能力によって立証されるように、糖新生可能である。HK-2細胞は足場依存性である(図1のB)。従って、HK-2細胞は、新鮮単離PTCで得られた実験結果を再現可能である。
【0323】
作用メカニズムの異なる3種の公知腎毒性化合物の標準2D LIVE/DEADアッセイは、TC50値として、シクロスポリンA(CsA)は51.3μM、シスプラチンは95.1μM、ゲンタマイシンは182.4mMを提供した(図1のC)。同じ薬物に準毒性レベルで暴露すると、HK-2細胞は腎臓急性傷害性マーカーKIM-1の上昇した発現を示した。さらにKIM-1の免疫染色は、対照(即ち、腎毒性化合物との培養前)では核周囲に限定された発現が、24時間の曝露後には膜性となることを示し、これは傷害の初期兆候の証拠を示している(図1のD~E)。HSP60免疫染色は、このような低濃度では、ミトコンドリアのネットワークが邪魔されることを示唆する。さらに、HSP60の発現は、例え化合物の濃度が細胞損傷を招く閾値未満であっても、腎毒性化合物の濃度上昇と共に増加した(図1のD~E)。
【0324】
準毒性薬物曝露による分極化三次元シストの機能妨害
近位腎尿細管細胞の表面膜は、個別の頂端膜ドメインと側底膜ドメインに構成されている。HK-2およびRPTECの両方の2D単層が近位尿細管頂端膜マーカーであるLotus Tetragonobulusのレクチン(LTL)および基底膜ナトリウム/カリウムポンプ(Na/K ATP分解酵素)に対して陽性であり、細胞が単離および形質転換後もいくらかの分極化を維持することを示している(図2のA)。さらにHK-2細胞は、近位尿細管の分極化を再現する原始PTC(RPTEC)に類似したマトリックス内で三次元シストの形成が可能である(図2のB)。細胞がゲルで培養されると、これは単一の内腔を有する3Dシストに翻訳される。発現プロファイル(図2のB~C)に示されるように、内腔に面した頂端膜はより強いF-アクチンの発現を示す。これらの組織的な構造は、近位尿細管の構成を真似た機能的アッセイに使用することができる。これらは準毒性薬物曝露後のKIM-1膜発現と同じ現象を示す(図2のD)。近位腎尿細管の表面膜の分極化の変更は、機能不全の基本的な指標である(Molitoris & Wagner, 1996)。カルセインAMは、生細胞によって取り込まれ、エステラーゼ活性によって開裂されて蛍光色素を発生させる色素である。分極化細胞は、多剤耐性トランスポーター1(MDR1)とも呼ばれるP-糖タンパク質輸送体をその頂端膜上に発現し、薬物およびカルセインAM等の化合物を流出させる。よって、機能的な分極化シストは内腔に色素を放出すべきである。分極化シスト(対照)は洗浄後に低レベルの緑色蛍光を提示し、これはカルセインAMが細胞外に輸送されたことを示唆する。しかし、準毒性レベルのCsA(100nM)に暴露されたシストは高い緑色蛍光を保持し、カルセインAMは細胞から輸送できなかったことを示す(図2のE~F)。同様の結果がシスプラチンおよびゲンタマイシンにも見られた(図2のF)。これは機能的分極化の急激な消失で示されるように、腎臓機能が妨げられたことを示唆している。
【0325】
微小生理学的フラックスバランスプラットホームにおける、血管新生化オルガノイドの酸素および代謝産物のリアルタイム測定
中枢炭素代謝および燃料利用は、生理学的ストレスの感度の高いマーカーである。フラックスバランス解析は、細胞外フラックスを測定することによって、中枢炭素代謝および燃料利用の細胞内フラックスを誘導するための計算方法である。興味深いことに、脂質およびグルタミン貧培地で培養中の非増殖性細胞については、グルコース、乳酸、グルタミンおよび酸素のフラックス単独の測定で中枢炭素代謝を概算することができる(図3のA)。これら代謝経路間の動的変遷を観察するために、近位腎尿細管の生理を模倣する生理学的条件下で腎臓オルガノイドを維持し、酸素、グルコース、乳酸およびグルタミンの濃度を動的に測定する微小流体系を設計した(図3のB~C)。6ユニットのバイオリアクタープラットホームマニホールドをCNCを用いて生体適合性ポリエーテルイミド(ULTEMTM)から組み立て、使い捨てマルチウェルのマイクロチップをレーザー切断を用いて組み立てた(図3のB)。ルテニウムベースの色素を装填されている組織包埋マイクロセンサを用いて酸素を測定し、その燐光は酸素の存在下では消光され、崩壊時間の減少をもたらした。光度測定とは異なり、崩壊時間はプローブ濃度または励起強度に対して非感受性である。正弦強度調節光を使用し、3粒子まで、そして焦点から1.5mm離れたところまでの安定な、605nmの放射における酸素依存性位相変化をもたらし、毒性傷害および続く組織崩壊の際でも正確な測定を可能にした(図3のC)。
【0326】
マイクロ流体バイオセンサ・アレイは、オンチップ温度センサおよび対向電極と参照電極が分離している三電極設計を有するプラットホームに組み込まれた。参照電極は、電流を流すことなく作用電極電位を測定するために用いられ、一方、対向電極は回路を閉じて電流の流れを可能にする。この回路は二電極系では不可能である。白金上のHの陽極酸化は急激な(t90<25秒)電流を発生し、包埋されたカタラーゼ活性は相互汚染を防止する。可逆的電解事象によって生じるバックグラウンドノイズを最小化するために、作用電極と対向電極との間の450mVの電位を参照電極に対してモニタリングした(図3のD)。最後に、8電極アレイをモニタリングするオンチップのポテンショスタット(PSTAT)を、総容量が0.3~1μLで、バイオリアクターの流出に直接接続するのに適した10×4×0.4mmのマイクロチップに組み込んだ(図3のE)。単一の中央制御ユニット(CPU)が系全体を制御し、同期を単純化する(図3のC~E)。センサは、0.05mM~15mMの乳酸および25mMのグルコースの直線範囲を示す(図3のF~G)。我々の微小生理学的プラットホームを用いて、定常状態の分極化HK-2オルガノイドの細胞内代謝フラックスを計算した。各経路のグルコース利用をnmol/min/10細胞で示し、さらに計算したATP産生も示した。相対グルコース利用をパイグラフとして示した(図3のH)。
【0327】
微小生理学的プラットホームにおける連続灌流下の三次元分極化近位腎尿細管オルガノイドは、リアルタイムで動的毒物学的情報を提供する
細胞外マトリックスで4日間培養したHK-2およびRPTECの血管新生化オルガノイドは、ヒト腎臓の皮質横断面を模倣する、構造的に成熟した多数の腎尿細管構造からを形成した。オルガノイドの周辺を毛細管が取り囲み、より効果的な灌流のために組織に浸潤する。オルガノイドの共焦点位相画像の3D再構成に示されるように、近位尿細管細胞は一方向に長い尿細管を形成する。RPTECオルガノイドはビリン陽性であり、分極化上皮細胞の成熟頂端膜刷子縁を示す。これら組織は、再吸収および排出の大部分が生じる近位尿細管のネフロンのS1-S2セグメントから重要な生理学的特徴を集める(図4のA)。これらオルガノイドに酸素測定用のマイクロセンサが埋め込まれ、連続灌流下の閉じたバイオリアクターに入れると、代謝の変化をリアルタイムで追うことができる。臨床で広く用いられている3種の異なる腎毒性性のFDA承認薬物をシステム内で灌流させた。CsAは、誘導後数分で酸素が上昇する急性毒性を示し、一方、シスプラチンは、曝露から少なくとも14時間で傷害を誘導し、これは毒性が明らかになる前に化合物が細胞内に蓄積されることを示唆した。また、ゲンタマイシンは、曝露後1時間で酸素取り込みの急性上昇を細胞に生じ、続いて酸素取り込みは直線的に上昇した(図4のB)。これらデータの縦座標横断面(Ordinate cross-sections)は発症前までの時間(TTO)の値をプロットする。これらの予測性解析値は、薬物濃度に対する関数として組織傷害を予想することを可能にする。このようにして、組織傷害の最初の兆候までの時間の長さを概算することができる。これらのパラメータは、これら薬物の治療用の使用における安全マージンを示す(図4のC)。
【0328】
シクロスポリンA、シスプラチンおよびゲンタマイシンは、曝露によって近位尿細管細胞代謝を脂質合成へとシフトさせる
シクロスポリンA、シスプラチンおよびゲンタマイシンは、活性メカニズムの異なる、異なる薬物クラスに属する。しかし、近位尿細管細胞に対するこれら薬物の準毒性濃度での誘導(図4のB)は、脂質合成に向かう代謝シフトをもたらす。傷害が最小となる薬物濃度による30時間の一定の灌流で各薬物に細胞を暴露した(図4のB)。バイオリアクターの流出を、培地中のグルコース、乳酸およびグルタミンレベルの連続測定を提供する電気化学バイオセンサに流体的に繋いだ(図3のC~G)。各代謝産物のフラックスの動的測定を、オルガノイドの代謝が薬物曝露時にどのように反応するかを示す酸素の測定とリアルタイムで組み合わせた(図5のA~E、図6のA~Eおよび図7のA~E)。CsAに暴露されると、オルガノイドのグルコース取り込みおよび乳酸放出は初めの20時間は一定であり、オルガノイドがATP源として解糖系を用いることを示唆した。20時間の曝露後には、グルコースに対する乳酸比の1から0.63への低下を伴う乳酸放出の低下を示し、細胞がグルコースを脂質貯蔵にシャトルすることが示唆された。実際、CsA曝露の31時間後には、脂質合成は37.4%増加し、一方、解糖系は37.1%減少した。総グルタミン取り込みは一定に保たれ、上記主張を支持した(図5のA~E)。シスプラチンおよびゲンタマイシンはより劇的な効果を示した。シスプラチンは、曝露の31時間後に、乳酸/グルコース比を0.82から0.26に変換させた。解糖系は98.4%も減少し、脂質合成は57.6%も増加した。総グルタミン取り込みは一定であった(図6のA~E)。ゲンタマイシンは曝露直後に代謝の変化を誘導し、31時間後には、大きなグルコース取り込みの増加(+196%)および乳酸放出の減少(-65.2%)をもたらした。グルタミン取り込みの増加は約16時間目に発生し(+76%)、31時間目に規定値に戻り(+14.1%)、ゲンタマイシンに対する応答においてグルタミノリシスは重要な代謝経路ではないことが示された(図7のA~E)。異なるクラスに属し、活性メカニズムの異なるこれら3種の異なる薬物は、毒性傷害に対する曝露下のエネルギーの持続可能性のための1つの共通代謝経路へと近位尿細管細胞を集約させる。これら結果は、シクロスポリンA、シスプラチンまたはゲンタマイシンの灌流への暴露に対する近位尿細管の毒性モードは、異常な脂質蓄積(脂肪過多症)であることを示唆する。脂肪蓄積および脂質合成は、これら薬物がなぜ腎臓に対して非常に毒性が高いのかを説明する脂肪毒性をもたらし得る。さらにこれらの結果は、近位尿細管細胞は脂質貯蔵を作り上げることでストレスを補い、その結果、腎臓脂肪過多症が発症することを示唆する。
【0329】
分極化の消失は近位尿細管細胞のグルコース蓄積を誘導し、グルコース輸送阻害剤は腎毒性薬物曝露後の腎臓組織における脂肪毒性を緩和する
2-NBDGは生細胞へのグルコース取り込みをモニタリングするための蛍光トレーサーであり、グルコサミン分子のアミン基が7-ニトロベンゾフラザンフルオロフォアで置換されたものからなる。グルコースの蛍光誘導体として広く知られ、細胞によるグルコースの取り込みを可視化するために細胞生物学に用いられる。化合物を取り込んだ細胞は緑色蛍光を提示する。細胞傷害の閾値以下の1000倍濃度のCsA、シスプラチンおよびゲンタマイシンに近位尿細管細胞を暴露したとき(図4のB)、2-NBDGの蛍光は倍になる(図8のA~B)。この結果は、これら細胞は有害なグルコース取り込みを有することを示す。哺乳動物細胞では、2-NBDGの輸送はより低いVmax(最大速度)を有し、故に輸送速度は、通常はグルコースよりも遅い。これはグルコース蓄積が目撃された変化よりもはるかに顕著であることを示す。目撃された分極化の消失(図2のE~F)および正常なグルコース輸送の妨害(図8のA~B)は、GLUT2等のグルコース輸送体はその機能を正しく実行することができないことを示唆する。過剰なグルコースは次に脂質蓄積へと回される。遺伝子発現解析は、薬物曝露の48時間後には脂質合成に関与する有力な遺伝子、例えば、脂肪酸シンターゼ(FASN)、ステロール整合性に関与するステロール調節エレメント結合タンパク質1c(SREBP1c)、およびコレステロールを産生するメバロン酸経路の速度調節酵素をコードするHMG-CoAレダクターゼ(HMGCR)、は上方制御されることを示す(図8のC)。近位尿細管細胞は、脂質の蓄積によって誘導される毒性に対応するメカニズムとして、β-酸化に関与する遺伝子も上方制御する(図8のC)。この脂質蓄積は、脂質蓄積アッセイであるLIPIDTOXによって確認されている。3種の腎毒性薬物によるHK-2およびRPTECの両方の48時間の曝露後に、近位尿細管細胞は、CsA処理細胞でリン脂質症となる大量の脂質蓄積を示し、シスプラチンおよびゲンタマイシンでは主として中性脂肪を示した(図8のD~E)。これは、肝臓と同様に、腎臓もこの現象へと集約する以下の階段状の事象の結果として脂肪状となることを強く示唆する:分極化の消失(図2のE~F)、ミトコンドリアのストレスを招く細胞傷害の早期発生(図4のB~C)、中枢炭素代謝の混乱(図5のA~図7のE)、持続可能なエネルギーを維持するための細胞によるグルコース取り込みの促進。脂質生合性の遺伝子発現の上方制御によってグルコースの蓄積は脂質貯蔵へと回され、下流では腎臓の脂肪毒性が生じる(図8のA~E)。本発明者らは、細胞におけるグルコース含量の増加が腎毒性薬物への暴露下の近位尿細管細胞の脂質蓄積のための燃料であるならば、グルコース取り込み速度を限定すれば、細胞の体験する毒性は緩和され、細胞死全体が減少すると仮定した。
【0330】
近位尿細管細胞における3つの主なグルコース輸送体は、側底膜に局在し、尿細管の内腔におけるグルコース濃度が高いときに頂端膜にシャトルし、再吸収を促進するGLUT2と、頂端膜に局在化して、血中でのグルコースの再吸収のために、内腔から細胞内へグルコースとナトリウムイオンとを共輸送するSGTL1およびSGLT2である。フロレチンは、リンゴの木の葉の抽出物から見いだされたフラボノイドであり、GLUT2のシャトリングを遮断し、頂底輸送を防止する。フロリジンもフラボノイドであり、SGLT1およびSGLT2の競合阻害剤であって、腎臓グルコース輸送を減少させ、血中グルコース量を低下させることが知られている。エンパグリフロジンは、主として2型糖尿病の治療に使用される、強力なSGLT2阻害剤であり、SGLT2は血中のグルコース再吸収の約90%を担っている。細胞を阻害剤と一緒に薬剤で処理する前に、阻害剤単独または3種の混合物(カクテル)による1時間の前処理に細胞を付した。CsA処理培養細胞は、フロリジンまたはカクテルの存在下において、CsAのみで処理された細胞と比較して細胞生存率の2倍の増加およびリン脂質含量の2分の1の低下を示した。シスプラチン処理培養細胞においては、シスプラチンのみで処理された細胞と比較して、カクテル処理細胞が細胞生存率の20%増加、カクテルの使用で中性脂肪含量の20%の減少、および各阻害剤についてリン脂質含量の50%の減少を示した。ゲンタマイシン処理培養細胞においては、ゲンタマイシンのみで処理された細胞と比較して、阻害剤のカクテルの存在下で細胞生存率の65%増加、中性脂肪含量の30%の減少、およびリン脂質含量の50%の減少を示した。阻害剤のみで処理し、薬物なしの細胞は脂質含量を増加させず、細胞死を誘導することもなかった(図9のA~B)。
【0331】
実施例2
臨床証拠による、薬物誘導性腎毒性の腎機能チップメカニズムの立証
実施例1に示したように、シクロスポリンA、シスプラチンおよびゲンタマイシンは、hPTCにおいて、(例え細胞傷害性閾値未満の濃度であっても)初期急性傷害を促進し、急激な機能的分極化の消失をもたらす。このような条件下で、分極化近位尿細管は解糖系を持続するためにより多くのグルコースを取り込むが、それを外に輸送することができないため、正常なグルコースホメオスタシスを維持することができない。誘導の初めの48時間で、近位尿細管細胞はその代謝を脂質合成にシフトし、それが有意な脂肪蓄積および脂肪肝と類似した脂肪毒性へと繋がる。
【0332】
シクロスポリンAまたはシスプラチンの治療を受けている患者由来のヒト腎臓の組織学は、近位尿細管の脈管障害(vacuolopathy)の証拠である脂肪滴の形跡を示す(図10のF)。このヒト患者における近位尿細管の薬物誘導性脂肪毒性の臨床兆候は、現在、生理学的に正確な腎機能チップ・プラットホームに妥当性を付与する。
【0333】
シクロスポリンAまたはシスプラチンを単独で、またはSGLT2阻害剤と共に摂取している患者の血液および尿からデータを取得するために後ろ向き臨床研究を実施した。肝臓または腎臓の疾患を有する患者は除いた。247人の患者(男性113人および女性134人)からなるコホートの患者の平均年齢は48歳であった(図10のG)。シクロスポリンAまたはシスプラチンをSGLT2阻害剤と共に摂取している男性と女性の両方において、細胞傷害のマーカーである乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は生理学的レベルまで有意に減少した(図10のM~O)。同様の現象が血清クレアチニン(図10のH~J)、尿酸(図10のI~K)および血清カルシウム(図10のL~N)についても観察された。これらマーカーの全てが正常値まで低下し、SGLT2阻害剤が薬物誘導性腎毒性を緩和することを示唆した。群間の統計差を求めるためにt-検定を実施し、p値が0.1%未満のときに有意差は考慮された。
【0334】
本発明をその特定の実施形態とともに記載したが、多数の代替法、改変および変法も当業者に明らかとなる。したがって、添付の特許請求の範囲の趣旨および広い範囲内に入るすべてのこのような代替法、改変および変法も包含するものとする。
【0335】
本明細書で述べた全ての刊行物、特許、および特許出願は、当該刊行物、特許、または特許出願について具体的かつ個別に記載した場合と同様に、参照によりそれらが完全に本明細書に組み込まれるものとする。さらに、本願におけるいかなる参考文献の引用または記載も、そのような参考文献が本願に対する従来技術として存在することの自認と解釈すべきではない。セクションの見出しの使用についても、それらを必ずしも限定として解釈すべきではない。
【0336】
さらに本願の基礎出願に係る書類も、本参照をもって本明細書に完全に組み込まれたものとする。
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
【国際調査報告】