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特表2022-521156半完成素子を親水化するための方法およびその半完成素子から製造された電極素子、バイポーラ素子、または熱交換素子
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  • 特表-半完成素子を親水化するための方法およびその半完成素子から製造された電極素子、バイポーラ素子、または熱交換素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】半完成素子を親水化するための方法およびその半完成素子から製造された電極素子、バイポーラ素子、または熱交換素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20220330BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20220330BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220330BHJP
   H01M 8/0243 20160101ALI20220330BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20220330BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20220330BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M4/88 C
H01M4/96 B
H01M8/0243
H01M8/0221
H01M8/0213
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021546703
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2020053710
(87)【国際公開番号】W WO2020165314
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】102019103542.2
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502155482
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツァー フェルデルング デア アンゲヴァンテン フォーシャング アインゲトラーゲナー フェアアイン
【氏名又は名称原語表記】FRAUNHOFER-GESELLSCHAFT ZUR FORDERUNG DER ANGEWANDTEN FORSCHUNG E.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス コピエッツ
(72)【発明者】
【氏名】イェンス バウアーファインド
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ドイッチ
(72)【発明者】
【氏名】アンナ グレーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター シュヴェルト
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018BB00
5H018BB06
5H018BB09
5H018DD05
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE08
5H018EE17
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH05
5H018HH08
5H126AA12
5H126BB10
5H126FF02
5H126GG05
5H126GG06
5H126GG18
5H126HH00
5H126JJ00
5H126JJ01
5H126JJ02
5H126JJ05
5H126JJ08
(57)【要約】
本発明は半完成素子(2)、特に少なくとも1つの熱可塑性物質および/もしくは少なくとも1つの熱硬化性プラスチックを含有するプラスチック材料またはプラスチック複合材料でできた電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子を親水化するための方法に関する。より小さい構造変化、より低いコスト、およびより少ない労力によって水性媒体に対する構成要素表面の濡れ性を増加させ得るために、半完成素子(2)の少なくとも1つの表面(1)上に少なくとも部分的に炭素粒子(3)を適用することによって少なくとも部分的に親水化をもたらすこと、および炭素粒子(3)が表面(1)に付着したままになるような方式ですり込み、加圧ガスジェット、および/または静電気によって炭素粒子(3)を少なくとも1つの表面(1)上に少なくとも部分的に適用することが提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半完成素子(2)、特に少なくとも1つの熱可塑性物質および/もしくは少なくとも1つの熱硬化性プラスチックを含有するプラスチック材料またはプラスチック複合材料でできた電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子を親水化するための方法であって、
- 親水化は、前記半完成素子(2)の少なくとも1つの表面(1)上の少なくとも一部に炭素粒子(3)を適用することによって少なくとも部分的にもたらされ、
- 前記炭素粒子(3)は、前記表面(1)に前記炭素粒子(3)が付着したままになるような方式で前記少なくとも1つの表面(1)上の少なくとも一部にすり込み、加圧ガスジェット、および/または静電気によって適用される、
方法。
【請求項2】
前記半完成素子(2)を親水化するために前記少なくとも1つの表面(1)上に炭素粒子(3)を適用した後に、タップ、振とう、送風、リンス、および/または拭き取りによって前記少なくとも1つの表面(1)から過剰な前記炭素粒子が少なくとも大部分除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
親水化するために、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、および/または炭素繊維の形の炭素粒子(3)が用いられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
親水化は、0℃から50℃、好ましくは5℃から40℃、特に10℃から30℃の温度で炭素粒子(3)によって行われる、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
親水化しようとする前記少なくとも1つの表面(1)上に前記炭素粒子(3)を適用した後、特に前記親水化した表面(1)から前記炭素粒子(3)を除去した後の前記表面上の前記炭素粒子(3)の坪量が少なくとも部分的に10,000mg/m未満、好ましくは1,000mg/m未満、特に500mg/m未満である、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素粒子(3)の少なくとも90重量%は100μmより小さく、好ましくは10μmより小さく、特に0.1μmより小さい、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記炭素粒子(3)は50m/gから10,000m/g、好ましくは250m/gから2,500m/g、特に500m/gから1800m/gのBET表面積を有する、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素粒子(3)の油吸着数(ISO 4656:2012-07)は10ml/100gから1000ml/100g、特に50ml/100gから500ml/100g、特に100ml/100gから300ml/100gである、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの熱可塑性物質は、ポリオレフィン(例、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))、ポリスルフィドおよびポリスルホン(例、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン(PSU))、ポリアリールエーテルケトン(例、ポリエーテルケトン(PEK)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK))、ならびに/もしくはフルオロプラスチック(例、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF))の群から選択され、かつ/または前記少なくとも1つの熱硬化性プラスチックは、反応性樹脂(例、不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂)、エポキシド樹脂(EP樹脂)、イソシアナート樹脂、メタクリラート樹脂(MA樹脂)、フェナクリラート樹脂(PHA樹脂)、および/または縮合樹脂(例、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリエステル樹脂)の群から選択される、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記プラスチック複合材料の25体積%から97体積%、好ましくは45体積%から88体積%、特に53体積%から70体積%は、好ましくは電気伝導性の充填材料によって形成される、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
- 前記プラスチック複合材料の前記少なくとも1つの充填材料として、特にグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、および/または炭素繊維の形の炭素粒子(3)が用いられ、
- 好ましくは、前記充填材料は、前記半完成素子(2)の前記少なくとも1つの表面(1)を親水化するための前記炭素粒子(3)に少なくとも実質的に相当する、
請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
半完成素子(2)から電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートを製造するための方法であって、
- 請求項1~11の何れか一項に従って親水化された半完成素子(2)は、さらに加工されて電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートにされ、かつ/または
- 半完成素子(2)は、さらに加工されて電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートにされ、次いで請求項1~11の何れか一項に従って親水化される、
方法。
【請求項13】
- 前記電極素子は電気化学セル、特にレドックスフロー電池の電極素子であるか、または
- 前記バイポーラ素子は電気化学セル、特にレドックスフロー電池のバイポーラ素子である、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12または13に従って製造された電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレート。
【請求項15】
請求項14に記載の電極素子、特に電極プレート、またはバイポーラ素子、特にバイポーラプレートを有する電気化学セル、特にレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半完成素子、特に少なくとも1つの熱可塑性物質および/もしくは少なくとも1つの熱硬化性プラスチックを含有するプラスチック材料またはプラスチック複合材料でできた電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子を親水化するための方法に関する。さらに、本発明は半完成素子から電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートを製造するための方法に関する。加えて、本発明は請求項12または13に従って製造された電極素子および請求項14に記載の電極素子を有する電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電極素子およびバイポーラ素子は十分な電気伝導性を必要とするため、公知の電極素子およびバイポーラ素子は金属材料または少なくとも1つの電気伝導性構成要素を有する複合材料のいずれかから形成される。これに対し、熱交換素子の場合は電気伝導性は通常不要である。しかし、ここでは高い熱伝導性が必要とされる。通常、高い電気伝導性を有する材料は熱もよく伝導するため、熱交換素子もしばしば金属材料または少なくとも1つの電気伝導性構成要素を有する複合材料から形成される。一方の電極素子およびバイポーラ素子と、他方の熱交換素子とのさらなる共通点は、熱および電力がどちらも対応する線抵抗によってそれぞれの素子の断面全体にできる限り均一に分散するように伝導されるべきであることである。何らかの理由でわずかでない量のプラスチックを有する対応の構成要素を製造するために複合材料が用いられるとき、通常は必要な電気または熱伝導性を確実にするために微細な伝導性粒子がプラスチック内に分散される。対応する複合材料の場合、通常は伝導性粒子を細かく分散された方式で中に取り込んだ少なくとも1つのプラスチックまたはプラスチックの混合物のマトリックスが形成される。このマトリックスが最終的に連続相を形成し、この連続相内では伝導性粒子が細かく分散された方式でできる限り均一に分散されている。伝導性粒子はたとえば金属または炭素ベースの粒子などであり、なぜならこれらの材料は少なくとも1つのプラスチックと比較して電気および熱伝導性が高いからである。
【0003】
たとえば少なくとも1つのプラスチックを有する連続相を有する複合材料から形成された電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子などの形の半完成素子の場合、一部には水または水性媒体に対する表面の濡れ性が制限されるという基礎的な問題が存在する。特に、半完成素子を形成するために疎水性プラスチックを用いたときにこれが当てはまり、広く用いられる熱可塑性物質および熱硬化性プラスチックのほとんどは相対的に疎水性であることに留意する必要がある。炭素ベースの充填材料粒子にしばしば当てはまるとおり、充填材料粒子も疎水性であるとき、水性媒体に対する濡れ性の制限の問題はさらに増加する。すなわち、疎水性の表面は水もしくは水性媒体をはじくか、または表面と水もしくは水性媒体との接触面積を低減させる傾向があるのに対し、水または水性媒体は表面上に引き寄せられて広く伸び、すなわち表面を濡らす。
【0004】
水性媒体に対する良好な濡れ性は、電極素子およびバイポーラ素子にとって特に重要である。なぜなら、これらの半完成素子はできる限り自身の表面全体にわたって親水性の電解質と接触すべきだからである。水性媒体から熱を吸収し、かつ/または水性媒体に熱を放出すべき熱交換素子にも同じことが当てはまる。こうした表面全体の接触は、電解質または熱交換に関与する少なくとも1つの媒体を好適に取り扱うことによって、疎水性材料でも本質的に達成され得る。しかし、これはなおも一方の電極素子、バイポーラ素子、または熱交換素子と、他方の隣接する水性媒体との境界面における境界抵抗の増加をもたらし、それは最終的には電力の伝導または伝達される熱の伝導に対して対応する境界面における線抵抗または境界抵抗として影響する。
【0005】
半完成製品が電極素子、バイポーラ素子、または熱交換素子を形成することが意図されるとき、その半完成製品の濡れ性または親水性の特性は特に重要である。この場合、電極素子またはバイポーラ素子は、たとえば燃料セルまたはレドックスフロー電池などの電気化学セルなどに用いられる。
【0006】
レドックスフロー電池は、異なる実施形態においてすでに公知である。こうした実施形態は、たとえば特許文献1および特許文献2などに記載されている。レドックスフロー電池の重要な利点は、非常に大量の電気エネルギーを貯蔵できる適合性を有することである。この場合のエネルギーは、スペースを節約する方式で非常に大きなタンク内に保持され得る電解質中に貯蔵される。電解質は通常、異なる酸化状態の金属イオンを有する。電解質から電気エネルギーを引き出すため、または電解質を再充電するために、電解質は電気化学セルとして知られるものを通ってポンピングされる。この場合のセルは2つのハーフセルによって形成され、これらのハーフセルは膜によって互いに分離され、その各々はセル内部と、電解質と、電極またはバイポーラプレートとを含む。膜は半透過性であり、電気化学セルのカソードとアノードとを互いから空間的および電気的に分離する役割を有する。これを行うために、膜は特定のイオンに対して透過性である必要があり、それによって貯蔵された化学エネルギーが電気エネルギーに変換される。ある電極において電解質から電子が放出され、他方の電極において電子が吸収されることによって、セルの電極またはバイポーラプレートにおいて酸化還元反応が起こる。電解質の金属および/または非金属イオンは酸化還元対を形成し、結果として酸化還元電位を生成する。酸化還元対として、たとえば鉄-クロム、ポリスルフィド-臭化物、バナジウム、またはその他の重金属などが考えられる。これらの酸化還元対またはその他の酸化還元対も、水性または非水性溶液中に本質的に存在し得る。しかし、たとえばアントラキノンなどの酸化還元活性有機物質も電解質として考えられる。
【0007】
セルの電極間には酸化還元電位の結果として電位差が形成されており、これらの電極はたとえば電気負荷などによってセルの外側で互いに電気的に接続される。セルの外側の電子が1つのハーフセルから別のハーフセルへと移動する間に、電解質のイオンは1つのハーフセルから別のハーフセルへと直接膜を通過する。レドックスフロー電池を再充電するために、電気負荷の代わりにたとえば充電デバイスなどによってハーフセルの電極に電位差を加えてもよく、それによってハーフセルの電極で起こっていた酸化還元反応が反転され得る。
【0008】
もし必要であれば、レドックスフロー電池内でいくつかの同一のセルが組み合わされる。これらのセルは通常互いに積み重ねられ、そのためにセル全体はセルパイルまたはセルスタックとも呼ばれる。個々のセルには通常互いに並列に電解質が流され、一方でセルは通常連続的に電気的に接続される。よってこれらのセルは通常、液圧的に並列かつ電気的に直列に接続される。この場合、セルスタックの各ハーフセルの1つにおける電解質の充電状態は同じである。
【0009】
特にセルスタックを形成するための電気化学セルの電極素子またはバイポーラ素子は、簡略化のためにプレート形状の方式で形成されるが、熱交換素子に対しては特にプレート形状およびチューブ状の熱交換素子も考えられる。対応する熱交換素子を用いたプレート熱交換器およびチューブバンドル熱交換器の異なる構成が知られている。
【0010】
特に電極素子、バイポーラ素子、または熱交換素子の使用される半完成製品に部分的に欠乏している濡れ性または親水性についてすでに説明した背景技術に対して、半完成素子の表面を親水化するための異なる方法が提案されている。すなわち、たとえば希釈された酸で表面をエッチングする化学表面処理などが公知である。この場合には表面の酸洗いも挙げられ、それによってたとえばオキシド基またはオキシル基などの親水基の蓄積がもたらされることによって、表面全体としての親水性が高くなるためにより良好に濡らされ得る。さらに、高圧および高温下で表面にフッ素を堆積させることによって構成要素の表面をフッ素化することが知られている。フッ素原子は構成要素の表面上で局所的に多くの小さな電荷移動をもたらし、それによって表面全体としての親水性が高くなる。対応する構成要素の表面は、代替的にプラズマまたはコロナビームに接触し得る。電荷による表面の対応する照射が表面を励起して表面構造の化学変化を起こし、元の表面構造よりも親水性にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】オーストリア特許出願公開第510 250(A1)号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0170893(A1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、これらの方法はすべて、非常に複雑であるために高価であるという欠点を有する。このことに加えて、表面処理は構造の変化をもたらし、特にプラスチックの表面に望ましくない結晶化または再結晶化をもたらす。このことの原因は、たとえば構成要素表面に対する熱の影響、および/または表面構造の化学修飾などである。構成要素表面上のプラスチックの過剰な結晶化は、一般的に構成要素の機械的特性に好ましくない影響を与える。
【0013】
したがって、本発明の基礎をなす目的は、最初に言及して詳細に前述した方法を、より小さな構造変化、より低いコスト、およびより少ない労力によって水性媒体に対する構成要素表面の濡れ性を増加させ得るような方式で設計してさらに開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は請求項1によって、半完成素子、特に少なくとも1つの熱可塑性物質および/もしくは少なくとも1つの熱硬化性プラスチックを含有するプラスチック材料またはプラスチック複合材料でできた電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子を親水化するための方法によって達成され、
- 親水化は、半完成素子の少なくとも1つの表面上の少なくとも一部に炭素粒子を適用することによって少なくとも部分的にもたらされ、
- 炭素粒子は、表面に炭素粒子が付着したままになるような方式で少なくとも1つの表面上の少なくとも一部にすり込み、加圧ガスジェット、および/または静電気によって適用される。
【0015】
加えて、言及された目的は請求項12によって、半完成素子から電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートを製造するための方法によって達成され、
- 請求項1~11の何れか一項に従って親水化された半完成素子は、さらに加工されて電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートにされ、かつ/または
- 半完成素子は、さらに加工されて電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートにされ、次いで請求項1~11の何れか一項に従って親水化される。
【0016】
加えて、前述の目的は請求項14によって、請求項12または13に従って製造された電極素子、特に電極プレート、バイポーラ素子、特にバイポーラプレート、および/または熱交換素子、特に熱交換チューブもしくは熱交換プレートによって達成される。
【0017】
別様には、前述の目的は請求項15によって、請求項14に記載の電極素子、特に電極プレート、またはバイポーラ素子、特にバイポーラプレートを有する電気化学セル、特にレドックスフロー電池によって達成される。
【0018】
本発明は、半完成素子、特に電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子の表面を、本明細書においては一般的に炭素粒子とも呼ばれる疎水性の炭素ベースの粒子状材料で処理することによって、その表面を親水化できることを認識した。たとえばカーボンブラックまたはグラファイトなどのこれらの炭素粒子は非常に安価であり、かつすり込み、加圧ガスジェット、および/または静電気によって炭素ベースの材料で表面を非常に容易に処理できるため、この表面の親水化は複雑な方法も高価な材料も必要としない。加えて、炭素粒子を除いて、表面を任意のその他の侵食性化学物質または別様に表面構造を修飾する化学物質で処理する必要がない。同様に、炭素粒子による表面の処理には、構成要素の温度を上昇させる必要がない。結果的に、表面の処理は好ましくは室温にて行われる。
【0019】
本件における「親水性」は、未処理の表面と比較したときの相対的な材料特性として理解され、特に表面が平坦で水平に配置されているときに水または水性媒体が表面上に容易に広がる特性である。したがって「親水化」は、未処理の表面と比較したときに表面に親水性またはより高い親水性の特性を与える方策として理解される。本明細書における「濡れ性」または「湿らせる能力」とは、水または水性媒体が構成要素の表面に隣接する空気をどれほど容易に置換するかを表現するものである。表面の濡れ性は、接触角または滴と表面との接触線に形成される角度を測定することによって分類され得る。90度未満の接触角の場合の表面は一般的に親水性とみなされ、90度より大きい角度の場合は一般的に疎水性と呼ばれる。
【0020】
固体表面上の液体の接触角は、静的または動的に測定される。静的接触角は通常、静止した滴の対向側部において測定される。
【0021】
動的接触角は異なる方法を用いて測定でき、特にウィルヘルミー(Wilhelmy)法が用いられ、この方法は浸漬法を用いて前進接触角および後退接触角を定める。この場合の表面は水または水性液体または水性媒体に浸漬され、表面が液体に浸されるとき(前進接触角)または表面が水性液体もしくは水性媒体から取り出されるとき(後退接触角)に接触角が定められる。
【0022】
前述のとおり、炭素粒子は少なくとも実質的に炭素からなっており、すなわち純粋な炭素で形成され得るがそうである必要はなく、もし必要であれば処理される表面にすり込むことによって適用され得る。より良好な再現性および調整可能性のために、適用は好ましくは機械、スタンプ、またはプレートなどによって行われ、それは予め定められた圧力および予め定められた動きで表面上を動かされる。この場合、すり込まれる炭素粒子はすり込まれる前および/またはすり込まれているときに表面上に適用され、特に散布され得る。
【0023】
代替的または付加的に、処理される表面上に加圧ガスジェットによって炭素粒子を適用することもできる。このプロセスにおいて、炭素粒子は担体ガスによって、処理される表面上に空気圧で発射される。この場合の担体ガスは、簡略化のために好ましくは空気である。空気を用いるときは加圧空気ジェットも意味する。これらの方法は、たとえばサンドブラストとして公知のものなど、炭素粒子の代わりに砂を用いる異なる構成において公知である。
【0024】
さらなる可能性は、処理される表面上に静電気によって炭素粒子を適用することであり、これは前述の方法の代わりまたはそれに加えて行われ得る。静電気引力を利用するために、処理される表面には過剰な正または負の電荷が与えられてもよく、炭素粒子には反対の過剰電荷が与えられ得る。次いで、処理される表面と炭素粒子とが一緒にされて、それぞれ反対の過剰電荷の結果として互いに引き合うことによって、炭素粒子が表面に付着したままとなる。
【0025】
構成要素は通常、半完成製品を用いて製造されようとする物品または最終製品ではないときに半完成製品と呼ばれる。したがって、半完成製品はワークピースまたは半完成物品とも呼ばれる。しかし、本件において半完成製品という名称を用いるとき、一方の半完成製品および物品または最終製品という用語の相違点、ならびに半完成素子、電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子という用語の相違点は流動的であることを考慮する必要がある。半完成素子はたとえばまだ未完成の電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子であってもよく、それは完成した電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子として使用され得るためになおも少なくとも1つのさらなる生産ステップを必要としており、すなわち表面の親水化は関係しない。親水化するステップは、さらなる生産ステップとして必要であってもよい。
【0026】
しかし、本件における半完成素子は、それ自体が本質的にすでに使用可能であり得る電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子でもあり得る。しかし、炭素粒子を適用することによって親水化するステップがまだ行われていないとき、対応する構成要素は、本発明による電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子となるために、または本発明による方法を完了するために、この親水化するステップをなおも必要とする。よって対応する構成要素は、電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子よりも半完成素子に関連するものであり、なぜならこれらはまだ生産ステップを通過していないからであるが、この場合には不利益を受容する必要があるにもかかわらず、それでも対応する構成要素は電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子として使用可能である。
【0027】
これらの状況は当業者に認識され得る。加えて、半完成素子が各場合に個別に意味することは、状況から当業者に明瞭に認識され得る。よって当業者は、たとえばもし必要であれば、半完成素子がすでに意図される用途に使用され得る半完成素子であり得るか、そのはずであるか、またはそうであってはならないかを認識できる。同様に当業者は、たとえばもし必要であれば、電極素子、バイポーラ素子、および熱交換素子が半完成素子であり得るか、そのはずであるか、またはそうであってはならないかを認識できる。
【0028】
より良好に理解できるようにするため、かつ不必要な繰り返しを避けるために、この方法、電極素子、および電気化学セルは以下に一緒に付加的に説明されており、各場合に方法、電極素子、および電気化学セルは個々に区別されていない。しかしこのことは、各場合に方法、電極素子、および電気化学セルに関して特に好ましい特徴を有する各場合の状況から当業者には明らかである。
【0029】
この方法の第1の特に好ましい構成の場合、すり込み、加圧ガスジェット、および/または静電気によって炭素粒子を適用した後に、タップ、振とう、送風、リンス、および/または拭き取りによって少なくとも1つの表面から過剰な炭素粒子が少なくとも大部分除去される。このやり方で、炭素粒子の適用の結果として表面と十分に強固に結合しなかった炭素粒子が、再び表面から容易に除去され得る。除去された炭素粒子は次いで別の表面を処理するために再使用でき、かつ/または除去された炭素粒子は親水化された電極素子、バイポーラ素子、および/もしくは熱交換素子のさらなる使用に悪影響を与えない。
【0030】
処理される表面を親水化するための炭素粒子として、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック、および/または炭素繊維が特に好都合に用いられ得る。これらの粒子はそれ自体は疎水性であるが、親水化しようとする表面に適用されたときに非常に良好な濡れ性を生じる。加えて、これらの炭素粒子は得るための費用対効果が高く、取り扱いが容易である。
【0031】
少なくとも1つの熱可塑性物質および/または少なくとも1つの熱硬化性プラスチック、特に親水化された表面の好適な構造または好適な程度の結晶化を得るために、処理される表面上に炭素粒子を適用した後に、処理される表面は好ましくは0℃から50℃の温度で炭素粒子によって親水化される。しかし多くの場合、使用されるプラスチックに応じて5℃から40℃、特に10℃から30℃の温度が特に好ましい。
【0032】
処理される表面の濡れ性は、炭素粒子を適用することによって、親水化した表面に適用した後、特に親水化した表面から炭素粒子を除去した後の表面の炭素粒子の坪量が少なくとも部分的に10,000mg/m未満、好ましくは1,000mg/m未満、特に500mg/m未満であるときに、特定の程度まで増加する。
【0033】
炭素粒子が相対的に小さいときにも、本質的に好影響がある。すなわち、炭素粒子の少なくとも90重量%が100μmより小さく、好ましくは10μmより小さく、特に0.1μmより小さいときに良好な濡れ性が得られる。
【0034】
しかし、炭素粒子が大きい比表面積を有するときにも、本質的に好影響がある。すなわち、50m/gから10,000m/g、好ましくは250m/gから2,500m/g、特に500m/gから1800m/gのBET表面積を有する炭素粒子が特に好ましい。
【0035】
同様に、10ml/100gから1000ml/100g、特に50ml/100gから500ml/100g、特に100ml/100gから300ml/100gの油吸着数(ISO 4656:2012-07)を有する炭素粒子は、濡れ性を増加させるために特に好適である。
【0036】
少なくとも1つの熱可塑性物質として、代替的または付加的に、ポリオレフィン(例、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))、ポリスルフィドおよびポリスルホン(例、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン(PSU))、ポリアリールエーテルケトン(例、ポリエーテルケトン(PEK)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK))、ならびに/またはフルオロプラスチック(例、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF))の群から選択されるプラスチックが用いられ得る。これらのプラスチックも炭素粒子によって容易に処理され得る。別様には、これらの比較的疎水性のプラスチックの濡れ性は、記載される方法を用いて特定の程度まで増加し得る。
【0037】
少なくとも1つの熱硬化性プラスチックとして、好ましくは反応性樹脂(例、不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂)、エポキシ樹脂(EP樹脂)、イソシアナート樹脂、メタクリラート樹脂(MA樹脂)、フェナクリラート樹脂(PHA樹脂)、および/または縮合樹脂(例、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリエステル樹脂)の群から選択されるプラスチックも用いられ得る。
【0038】
プラスチック複合材料の25体積%から97体積%、好ましくは45体積%から88体積%、特に53体積%から70体積%の割合の、特に電気伝導性の充填材料を有するような電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子に対して、一方の好適な電気伝導性または熱伝導性と、他方の良好な濡れ性とを得ることができる。
【0039】
この場合、電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子の特性のために、少なくとも1つの充填材料が炭素粒子に少なくとも実質的に相当することが特に好ましい。炭素粒子がグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、および/または炭素繊維であるとき、このことは特定の程度まで当てはまる。すなわち、それは好ましくは少なくとも実質的に類似の材料に関する。代替的または付加的に、充填材料および炭素粒子は、粒度、BET表面積、油吸着数、または組成などの点での相違も有し得る。本明細書においては、プラスチック複合材料の少なくとも1つの充填材料が炭素粒子として形成されることが特に好都合である。
【0040】
親水化の前述の利点は、電極素子が電極プレートであり、バイポーラ素子がバイポーラプレートであり、かつ/または熱交換素子が熱交換チューブもしくは熱交換プレートであるときに特に効果を有する。対応する構成要素はより親水性の高い表面の利益を受け、広く使用され、加えて容易に親水化され得る。
【0041】
加えて、電極素子がレドックスフロー電池の電極素子であるか、またはバイポーラ素子がレドックスフロー電池のバイポーラ素子であるときに、濡れ性は特に有利な効果を有する。これらの構成要素の場合は、高電力密度を有するレドックスフロー電池を生産するために、良好な濡れ性が重要である。
【0042】
単に例示的実施形態を表している図面に基づいて、以下に本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】すり込みによる半完成素子の表面の本発明による親水化を示す概略側面図である。
図2】加圧ガスジェットによる半完成素子の表面の本発明による親水化を示す概略側面図である。
図3】静電気による半完成素子の表面の本発明による親水化を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1には、平坦な半完成素子2、特に電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子の処理される表面1を、特にグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、および/または炭素繊維の形の炭素粒子3をすり込むことによって親水化するための方法が概略的に表されている。これを行うために、たとえばスタンプまたはプレートなどの形のすり込み素子4が、処理される表面1上を好ましくは前後に動かされ、ここでは円形の動きが特に推奨される。簡略化のために、すり込み素子4はモーターで駆動され、かつロッド素子5を介して図示されていない駆動部に接続され得る。可能な構成の1つにおいて、すり込まれる炭素粒子3は、中空のロッド素子5およびすり込み素子4の中央開口部を介して、処理される表面1に案内され得る。好ましくは調整可能な圧力下ですり込み素子4によって、処理される表面1に適用された炭素粒子3は、表面1のプラスチックに部分的に貫入し、よって表面1に付着したままとなる。
【0045】
図2には、平坦な半完成素子2、特に電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子の処理される表面1を、特にグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、および/または炭素繊維の形の炭素粒子3の加圧ガスジェットによって親水化するための方法が概略的に表されている。このプロセスにおいては、2物質ノズル6が処理される表面1上を好ましくは前後に動かされ、ここでは円形の動きが特に推奨される。炭素粒子3は、外側環状チャネル7によって2物質ノズル6を介して導入され、中央開口部8から流れ出る加圧ガス流9、特に加圧空気流に取り込まれる。このやり方で、炭素粒子3のジェット10が生成され、これが処理される表面1に高速で衝突することによって、この方式で適用された炭素粒子3は表面1のプラスチックに部分的に貫入するために表面1に付着したままとなる。
【0046】
図3には、平坦な半完成素子2、特に電極素子、バイポーラ素子、および/または熱交換素子の処理される表面1を、特にグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、および/または炭素繊維の形の炭素粒子3の静電気引力によって親水化するための方法が概略的に表されている。このプロセスにおいては、最初に半完成素子2の処理される表面1に、ここでは正電荷11である電荷を適用することによって、半完成素子2の表面1上に過剰な正電荷があることを確実にする。これに対して、炭素粒子3には負電荷12が適用されており、炭素粒子3はチャネル13に導入されており、電位差の結果として炭素粒子3はチャネル13から少しずつ出てきて、親水化しようとする表面1に部分的に静電的に付着したままとなる。表面1上に広範囲に炭素粒子3を適用するために、炭素粒子3を伴うチャネル13は処理される表面1上を好ましくは前後に動かされてもよく、ここでは円形の動きが特に推奨される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】