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特表2022-521193部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法
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  • 特表-部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法 図1
  • 特表-部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20220330BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20220330BHJP
   B60J 1/00 20060101ALN20220330BHJP
【FI】
C03C23/00 D
C03C21/00 101
B60J1/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021547765
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(85)【翻訳文提出日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2020054309
(87)【国際公開番号】W WO2020169644
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】19158334.3
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ランブリット, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】カリアロ, セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ドラッグマン, シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ドゴット, ロイク
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC01
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB23
(57)【要約】
本発明は、少なくとも部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法であって、前記方法が、a)互いに向かい合っている第1の主面及び第2の主面を有する部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材を提供するステップ、b)ガラス基材の少なくとも第1の主面にレーザーを照射して、ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための少なくとも1つの分離線を第1の主面上に形成するステップ、但し、少なくとも1つの分離線は輪郭線を画定し且つ深さ方向で第1の主面から第2の主面まで延在し、ガラス物品は、マザーガラス基材のサイズよりも小さいサイズを有する、c)少なくとも1つの分離線に従って、少なくとも1つの部分的にテクスチャー加工されたガラス物品をマザーガラス基材から分離するステップをこの順番で含む。本発明は、大きい部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材を、要求されるサイズの部分的にテクスチャー加工されたガラスのより小さい物品に高精度で切断可能にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法であって、前記方法が、以下の順番で、
a)互いに向かい合っている第1の主面及び第2の主面を有する部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材を提供するステップ、
b)前記ガラス基材の少なくとも前記第1の主面にレーザーを照射して、前記ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための少なくとも1つの分離線を前記第1の主面上に形成するステップ、但し、前記少なくとも1つの分離線は輪郭線を画定し且つ深さ方向で前記第1の主面から前記第2の主面まで延在し、前記ガラス物品は、前記マザーガラス基材のサイズよりも小さいサイズを有する、及び
c)前記少なくとも1つの分離線に従って、前記少なくとも1つの部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を前記マザーガラス基材から分離するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの分離線は、スポット切断線を形成する複数の隣接する空隙を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)とステップc)との間において、前記マザーガラス基材が、化学強化されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法によって得られることを特徴とするガラス物品。
【請求項5】
部分的にテクスチャー加工されたガラス物品において、前記ガラス物品が、
- 第1及び第2の主面との間で形成される、それぞれ90°±7°に等しい角度;及び
- シート厚さ/2における線に沿った位置で測定される0.1~1ミクロンのRaによって規定される表面粗さ
を示す少なくとも1つのエッジを有することを特徴とするガラス物品。
【請求項6】
部分的にテクスチャー加工されたガラス物品において、
- 前記ガラス物品の第1及び第2の主面におけるカリウムのレベルは、前記ガラス物品のエッジにおけるカリウムのレベルよりも高く、及び
- 前記ガラス物品の前記エッジにおける前記カリウムのレベルは、前記ガラス物品の全体でのカリウムのレベルよりも高いことを特徴とするガラス物品。
【請求項7】
厚さが、0.03~19mmの範囲、より好ましくは0.03mm~6mmの範囲、より好ましくは0.1~2.2mmの範囲であることを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載のガラス物品。
【請求項8】
車両の内部の窓ガラスであることを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載のガラス物品。
【請求項9】
車両のガラスコンソール、ダッシュボード又はトリム要素であることを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載のガラス物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法に関する。特に、本発明は、より大きい部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材から、要求されるサイズの部分的にテクスチャー加工されたガラス片を製造する改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子装置のカバーガラス、建築材料の窓ガラス及び車両の窓ガラスの分野では、特定のサイズ(ときに小さいサイズ)を有し、それらの主面の一部の部分の上のみに特定の粗さ/テクスチャーを示し、すなわち数種類の特徴/パターン/区域の形態である、ガラスシートの断片が必要とされる。例えば、部分的にテクスチャー加工された小さいガラス片は、保護/カバーガラス、のぞき窓又は携帯電話、スマートフォン、TV、コンピュータ、デジタルカメラなどの多数の電子デバイスの(タッチ)スクリーンとして使用することができる。これらは、トリム要素又はコンソールなどの自動車の内部の窓ガラスとして使用することもできる。
【0003】
大型のマザーガラス基材(すなわち最大でPLFサイズ又はDLFサイズまで)上に、あらゆる周知の方法を用いてテクスチャー加工された特徴/区域が繰り返し形成される場合、テクスチャー加工された特徴を有するより小さい断片を得るために、後の段階でシートを厚さ方向に切断する必要がある。しかし、このような部分的にテクスチャー加工されたガラス片の目的とする用途では、製造された各ガラス片上のテクスチャー加工された特徴/区域の位置が非常に高精度で要求される。残念ながら、厚さ方向にガラスを切断するために一般に使用される方法、特に大きいシートを数枚の小さい断片に切断する方法が示す精度は、低すぎる(0.2~2mm程度)。これらの方法は、例えば、鋭い周囲端部を有する切削ホイールを使用する方法、ウォータージェットを使用する方法又はのこぎりを使用する方法である。
【0004】
部分的にテクスチャー加工されたガラスの小さい断片を製造するための別の解決策の1つでは、最初に大きいマザーガラス基材を適切な最終サイズの小さい断片に切断し、次にそれらの小さい断片のそれぞれの上に所与のテクスチャー加工されたパターン/区域を形成する。しかし、このような解決策は、取り扱いや時間がかかるなどの理由のため、経済的に完全に実行不可能である。
【0005】
したがって、繰り返しのテクスチャー加工されたパターン/区域を有する大きいマザーガラス基材をより小さい断片に高精度で切断する方法であって、前記パターン/区域が、個別の各要素上に正確に配置されることができる、方法が、利用可能となることが前述の用途に必要とされている。
【0006】
さらに、目的とする用途(ディスプレイ、車内など)では、一般に、安全性の要求に対処するために、最終的な小さいガラス片は、例えば、化学強化処理によって強化する必要がある。実際、このような用途に使用されるガラスは、機械的な要求が多く、したがって使用中及び輸送中の擦り傷又は衝撃などの損傷に耐えることが可能であることが非常に好ましい。
【0007】
化学強化処理は、ガラスの表面層中のより小さいアルカリイオン、すなわちナトリウム又はリチウムを、より大きいイオン、例えばアルカリカリウムイオンで交換することを伴う、熱によって誘発されるイオン交換である。ナトリウムイオンが以前に占有していた小さい部位に、より大きいイオンが「くさびとして入る」ため、ガラス中の表面の圧縮応力が増加し、それによってガラス基材の強度が改善される。このような化学処理は、一般に、温度及び時間を厳密に制御しながら、より大きいイオンの1つ以上の溶融塩を含むイオン交換溶融浴中にガラスを浸漬することによって行われる。
【0008】
したがって、探求される高精度の切断方法が、マザー基材が小さい断片に分割される前にガラス強化処理(特に化学強化処理)を含むことも適切であろう場合にも、これは、非常に有用であろう。
【0009】
一般に、化学強化ガラス片は、(i)マザーガラス基材から必要なサイズの複数のガラス片を切断し、且つ収集するステップと、(ii)それぞれのガラス片を化学強化するステップとにより、大きいマザーガラス基材から得られる。この従来の方法では、後の段階で化学強化が行われる前に、機械的抵抗が低く、擦り傷が生じやすい小さいガラス片が取り扱われる。この問題を回避するために、切断ステップ前に、より大きいマザーガラスを強化するなどの幾つかの方法が開発されている。しかし、このような方法では、より小さいガラス片の端面/エッジは、強化が行われていない(切断後に個別に処理される場合と同様である)。したがって、最終的なガラス片は、それらのエッジにおいてあまり機械的抵抗性がなく、安全性の要求を満たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、特に、既存の方法の前述の欠点を克服することを目的とする。
【0011】
特に、本発明の目的は、より大きい部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材から、要求されるサイズの部分的にテクスチャー加工されたガラス片を製造する方法を提供することである。特に、本発明の目的の1つは、繰り返しのテクスチャー加工されたパターン/区域を有するより大きいマザーガラス基材から、要求されるサイズの部分的にテクスチャー加工されたガラス片を製造する高精度の方法を提供することである。
【0012】
別の目的は、マザーガラス基材がより小さい断片に分割される前にガラス強化処理を行うことが適切である、より大きい部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材から、要求されるサイズの部分的にテクスチャー加工されたガラス片を製造する方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、より大きい部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材から、要求されるサイズの部分的にテクスチャー加工されたガラス片を製造する方法であって、単純であり、効率的であり、且つより安価な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、少なくとも部分的にテクスチャー加工されたガラス物品を製造する方法であって、方法が、以下の順番で、
a)互いに向かい合っている第1の主面及び第2の主面を有する部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材を提供するステップ、
b)ガラス基材の少なくとも第1の主面にレーザーを照射して、ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための少なくとも1つの分離線を第1の主面上に形成するステップ、但し、少なくとも1つの分離線は輪郭線を画定し且つ深さ方向で第1の主面から第2の主面まで延在し、ガラス物品は、マザーガラス基材のサイズよりも小さいサイズを有する、及び
c)少なくとも1つの分離線に従って、少なくとも1つの部分的にテクスチャー加工されたガラス物品をマザーガラス基材から分離するステップ
を含む方法に関する。
【0015】
したがって、従来技術の欠点の解決策を見出すことが可能であるため、本発明は、新規で発明的な手法にある。実際に、本発明者らは、このような方法を用いることで、繰り返しパターンを有するより大きい部分的にテクスチャー加工されたマザーガラス基材を、要求されるサイズの部分的にテクスチャー加工されたガラスのより小さい断片/物品に高精度で切断できることが分かった。特に、提案される方法は、テクスチャー加工された特徴に対する切断線の非常に良好な相対的位置決めを可能にし、より小さい切断されたガラス片上の前記特徴の正しい位置を保証することができる。さらに、提案される方法は、テクスチャー特徴の輪郭/端部をレーザーに対する基準として使用することができる(又はさらに、基準マークは、テクスチャー特徴中で一体化されることができる)ため、非常に有利である。
【0016】
本明細書全体にわたり、ある範囲が示される場合、両端の値が含まれる。さらに、その数値範囲内のすべての整数値及び下位領域の値は、あたかも明示されているかのように明確に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の他の特徴及び利点は、単に説明的で非限定的な例として示される好ましい実施形態及び図(1及び2)の以下の説明を読めばより明らかとなるであろう。
【0018】
図1】本発明による方法の流れを概略的に示す図である。
図2】部分的なテクスチャー及び分離線の幾つかの構成を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明によると、マザーガラス基材及びガラス物品は、部分的にテクスチャー加工される。
【0020】
本発明において、「部分的にテクスチャー加工された」は、ガラスが、その表面上に、前記表面の残りの部分と比較して異なる粗さを有する少なくとも1つの区域を有することを意味する。一般に、ガラスの粗さは、算術的な大きさの値(arithmetic amplitude value)Raで評価することができる。本発明によると、区域1が区域2と比較して増加した粗さを有することは、Ra1-Ra2≧25nm(好ましくは≧30nm又はさらに≧50nm、より好ましくは≧75nm又はさらに≧100nm)であることを意味し、Ra1は、区域1の算術的な大きさの値であり、Ra2は、区域2の算術的な大きさの値である。
【0021】
不確かさを完全に回避するために、本発明によると、「部分的にテクスチャー加工された」ガラス基材又はガラス物品という用語は、基材/物品が異なる粗さの複数の区域を(すなわちその全領域上で)示す実施形態を含む。
【0022】
本発明によると、部分的なテクスチャーは、第1の主面上若しくは第2の主面又は両方の主面上に存在することができる。
【0023】
本発明によると、テクスチャーは、化学エッチング(すなわちHF及び/又はフッ化物化合物の使用)又はサンドブラストにより、滑らかなガラス表面からの材料の除去などのあらゆる周知の方法によって形成することができる。目的とする用途に適切な粗さ並びにその結果として光学的性質及び審美性を実現できるため、化学エッチングが好ましい。
【0024】
本発明によると、部分的なテクスチャーは、ガラス表面を選択的にテクスチャー加工し、それによってテクスチャー加工された区域を形成することができるあらゆる周知の方法によって形成することができる。例えば、化学エッチングによって本発明によるテクスチャーの形成を考慮する場合、化学エッチング処理に対して耐性である保護マスクを用いる周知の方法を用いることができ、これによりガラスの表面の特定の部分/区域のみをエッチング処理に曝露することができ、これは、後に除去される。結果としてガラス表面上に得られるエッチングされたテクスチャー区域は、あらかじめ取り付けたマスクのネガに対応する。
【0025】
本発明では、図2に示されるように、マザーガラス基材(1)上の部分的なテクスチャーは、有利には、繰り返しパターンの形態であることができ、それぞれの個別のパターン(2)は、部分的なテクスチャーに対応し、これが、マザーガラス基材からの分離後にガラス物品上に存在する。マザーガラス基材上のパターン(2)は、その表面の一方向で周期的に繰り返されるか(図2(b)を参照されたい)、又はその表面の両方の方向で繰り返されることができる(図2(a)を参照されたい)。
【0026】
それぞれの個別のパターン(2)は、
- 1つのテクスチャー加工された区域(及びそれによってもたらされる1つのテクスチャー加工されていない若しくはより少なくテクスチャー加工された区域)から構成されるか - 図2(a)、(c);又は
- 数個のテクスチャー加工された区域から構成されるか - 図2(b)
のいずれかであることができる。
【0027】
本発明では、分離線(3)に従って、最終的なガラス物品上にマザーガラス基材(1)からのそれぞれの個別のパターン(2)を得ることができ、その数は、マザーガラス基材上でパターンが繰り返す回数に対応する。
【0028】
別の一実施形態では、照射ステップb)の後で且つ分離ステップc)の前に、マザーガラス基材は、化学強化される。この実施形態は、それらの主面だけでなく、それらのエッジにおいてもガラス物品を強化できるために有利である。したがって、ガラス物品は、擦り傷及び機械的応力/荷重に対してより抵抗性となる。この実施形態によると、マザーガラス基材の化学強化後、(i)ガラス物品の第1及び第2の主面におけるカリウムのレベルは、ガラス物品のエッジにおけるカリウムのレベルよりも高く、及び(ii)ガラス物品のエッジにおけるカリウムのレベルは、ガラス物品の全体でのカリウムのレベルよりも高い。ガラス物品の端面におけるカリウムのレベルが化学強化中に増加すると、それらは、外部負荷応力に対してより抵抗性となる。
【0029】
化学強化の条件は、本発明において特に限定されない。化学強化は、例えば、マザーガラス基材を380℃~500℃の溶融塩中に1分~72時間浸漬することによって行うことができる。溶融塩として硝酸塩を使用することができる。例えば、ガラス基材中に含まれるリチウムイオンをより大きいアルカリ金属イオンと交換する場合、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム及び硝酸セシウムの少なくとも1つを含む溶融塩を使用することができる。さらに、ガラス基材中に含まれるナトリウムイオンをより大きいアルカリ金属イオンと交換する場合、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム及び硝酸セシウムの少なくとも1つを含む溶融塩を使用することができる。さらに、ガラス基材中に含まれるカリウムイオンをより大きいアルカリ金属イオンと交換する場合、硝酸ルビジウム及び硝酸セシウムの少なくとも1つの溶融塩を使用することができる。さらに、炭酸カリウムなどの1種類以上の塩を溶融塩にさらに加えることができる。この場合、10nm~1μmの厚さを有する低密度層をマザーガラス基材の表面上に形成することができる。
【0030】
少なくとも1つのガラス物品の輪郭線を画定する少なくとも1つの分離線を上に有するマザーガラス基材に対して化学強化処理を行うことにより、ガラス基材の第1の主面及び第2の主面において且つガラス物品のエッジにおいて圧縮応力層を形成することができる。圧縮応力層の厚さは、置換するアルカリ金属イオンの侵入深さに対応する。例えば、硝酸カリウムを用いてナトリウムイオンをカリウムイオンと交換する場合、圧縮応力層の厚さは、ソーダ石灰ガラスの場合には5μm~50μmであることができ、アルミノケイ酸塩ガラスの場合の圧縮応力層の厚さは、10μm~100μmである。アルミノケイ酸塩ガラスの場合、アルカリ金属イオンの侵入深さは、好ましくは、10μm以上、より好ましくは20μm以上である。
【0031】
一実施形態によると、有利には、この方法は、分離ステップc)後に冷間曲げのステップをさらに含むことができる。冷間曲げは、ガラスコンソール、ダッシュボード、ドアのトリム要素、ピラー、ウインドシールド、サイドウィンドウ、バックウィンドウ、サンルーフ、分離壁などの自動車の内部及び外部の窓ガラス部分のガラス物品の曲げの場合に特に評価される。
【0032】
本発明によると、ステップb)において、マザーガラス基材にレーザーが照射されて、少なくとも1つの分離線が形成される。
【0033】
本発明の一実施形態によると、分離線は、深さ方向で一つの主面から反対側の主面まで延在する。
【0034】
好ましくは、ガラス基板にレーザーが照射されて、レーザーによって形成された複数の空隙(void)の線によって画定される「スポット切断線」として少なくとも1つの分離線がガラス基材の少なくとも第1の主面上に形成される。
【0035】
したがって、空隙の深さは、ガラスの厚さによって決定されることが理解されるであろう。より好ましくは、空隙の深さは、マザーガラス基材の厚さに等しい。
【0036】
ここで、「分離線」は、あらかじめ決定された配列で複数の空隙の線を配列することによって形成された直線状の領域又は湾曲した領域を意味する。好ましくは、ガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を容易に適切に分離するため、複数の空隙の線の深さは、マザーガラス基材の厚さに相当する。
【0037】
ガラス基材の厚さ並びに/又はガラス物品の形状及び/若しくはサイズによるが、必要な空隙の深さは、ガラス基材の第1の主面をレーザーに曝露することにより、又はガラス基材の第1及び第2の主面をレーザーに曝露することにより、又はガラス基材の第1の主面を複数の組のレーザービームに連続的な方法で曝露することにより得ることができる。
【0038】
「分離線」のあらかじめ決定された配列は、例えば、ガラス基材の第1の主面上の固定された方向(X方向)で配列された複数の表面空隙であり、それによって面内空隙領域が形成される。
【0039】
それぞれの表面空隙は、少なくとも第1の主面上のレーザーの照射位置に対応し、例えば1μm~5μmの直径を有する。しかし、表面空隙の直径は、レーザーの照射条件、ガラス基材などによって変化する。
【0040】
隣接する表面空隙の中心間距離は、ガラス基材の組成及び厚さ、レーザー加工条件、ガラス物品の形状及び/又はサイズなどに基づいて決定される。例えば、隣接する表面空隙の中心間距離は、2μm~10μmの範囲であることができる。表面空隙の中心間距離は、すべての位置で等しくなる必要はなく、場所によって異なることができ、空隙は、不規則な間隔で配列されることができることに留意されたい。
【0041】
他方では、前述したように、複数の空隙の線(スポット切断線)は、第1の主面から第2の主面に向けてガラス基材中に1つ以上の空隙を配列することによって形成することができる。
【0042】
空隙の形状、サイズ及びピッチは、特に限定されない。例えば、空隙は、Y方向から見た場合に円、楕円、長方形、三角形などの形状を有することができる。さらに、Y方向から見た空隙の最大寸法は、例えば、0.1μm~1000μmの範囲である。
【0043】
本発明の一実施形態によると、少なくとも1つの分離線を構成する空隙は、ガラス基材の厚さ方向(Z方向)に沿って配列される。好ましくは、分離線の各空隙は、Z方向に延在する。しかし、少なくとも1つの分離線を構成する各空隙は、Z方向に対して傾いてガラス基材の第1の主面から第2の主面まで配列することができる。分離線を構成する少なくとも1つの分離線は、ガラス基材の第1の主面とは反対側の第2の主面に対して開放された空隙(第2の表面空隙)を有する場合も又は有しない場合もある。
【0044】
したがって、前述したように、分離線は、連続した「線」として形成されるのではなく、それぞれの表面空隙が連結される場合に形成される仮想の空隙領域である。これは、直線状領域を表すことに留意すべきである。
【0045】
さらに、分離線は、非常に近接して配置された複数の単一の平行線で構成されて、複数の平行線の1つの集合体を形成することができる。
【0046】
本発明の有利な一実施形態によると、レーザーは、フィラメント切断用レーザー又は緑色レーザーである。好ましくは、方法の速度を増加させることができるため、レーザーは、フィラメントレーザーである。
【0047】
本発明による方法に適したレーザーは、例えば、短パルスレーザーである。このような短パルスレーザビームは、少なくとも1つの分離線を構成する空隙を効率的に形成するバーストパルスであることが好ましい。さらに、このような短パルスレーザーの照射時間における平均出力は、例えば、30W以上である。短パルスレーザーのこの平均出力が10W未満となる場合、場合により十分な空隙が形成されないことがある。バーストパルスのレーザー光の一例として、1つの内部空隙の列は、3~10のパルス数のバーストレーザーによって形成され、そのレーザー出力は、定格の約90%(50W)であり、バースト周波数は、約60kHzであり、バースト時間幅は、20ピコ秒~165ナノ秒である。バーストの時間幅として、好ましい範囲は、10ナノ秒~100ナノ秒である。
【0048】
複数の分離線が第1の主面上に形成される場合、分離線は、1つのステップ又は2つ以上のステップで形成することができる。分離線は、ガラス物品(すなわち最終的な製品)の所望のサイズによって定められる。より大きいサイズのマザーガラス基材から分離線によってガラス物品の輪郭が画定される。したがって、ステップb)後、ガラス物品は、分離線/輪郭線に従って、大きいサイズのマザーガラス基材から分離され、且つ収集される。
【0049】
本発明の一実施形態によると、分離線及び特に複数の隣接する空隙は、ガラス基材の上面から形成される。「ガラス基材の上面」という用語は、分離線を形成するためにガラス基材が支持体上に配置されたときに支持体と直接接触しないガラス基材の表面であると理解される。
【0050】
本発明の一実施形態によると、分離線及び特に複数の並列する空隙は、ガラス基材の上面(第1の主面)及びガラス基材の下面(第2の主面)から形成される。この実施形態によると、ガラス基材の第1の主面に最初にレーザーを照射することができ、次に第2の主面が照射される。さらに、この実施形態によると、これとは別に、第1及び第2の主面に同時に照射することができる。
【0051】
本発明の一実施形態によると、マザーガラス基材から少なくとも1つのガラス物品を分割するための輪郭線を画定する分離線は、内部及び/又は外部に存在することができる。外部分離線とは、少なくとも1つの末端がマザーガラスシートの1つのエッジに到達する分離線を意味する。内部分離線は、マザーガラスシートのエッジに到達しない分離線を意味する。
【0052】
分離線を構成する空隙に必要な深さは、ガラス基材の厚さを通過するレーザー操作を繰り返すことによって得ることができる。
【0053】
本発明の提案される方法のステップc)において、ガラス物品がマザーガラス基材から分離される。この分離を行うために種々の方法が可能である。解決策の1つは、初期の分離線に沿って亀裂が伝播するように、制御された位置で機械的装置(ダイヤモンド工具、切削ホイールなど)を用いて亀裂を開始させることであることができる。さらに、初期の分離線の近傍に追加の空隙を形成することで、初期の分離線に沿って制御された亀裂の伝播が生じる。実際に、これらの最初の方法では、化学強化プロセスによって生じるガラスパネルの中心内部の内部応力を使用している。したがって、適切な位置における最初の亀裂の開始により、初期のガラスパネルからのガラス物品の分離が誘発される。最終的なガラス物品から初期のガラスパネルを破壊しても、その品質に影響せずに最終的なガラス物品を得ることが可能である。マザーガラス基材からガラス物品を分離する別の技術は、COレーザースポット、火炎若しくはIRヒーターを用いた加熱又は圧縮空気、液体窒素若しくは他の冷却液を用いた冷却のいずれかで熱衝撃を誘発することによって分離線の開裂を促進することである。また、複数の並列する空隙上に酸性溶液(エッチング溶液)を注ぐことでも、ガラス物品の開裂が誘導される。
【0054】
本発明によると、マザーガラス基材のガラス組成は、その組成が化学強化に適切である限り、特に限定されない。ガラス基材は、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスなどであることができる。本発明によるガラス基材は、フロート法、引き上げ法、ローリング法又は溶融ガラス組成物から出発してガラス板を製造するための周知の他のあらゆる方法によって得られるガラス基材であることができる。本発明による優先的な一実施形態によると、ガラス基材は、フロートガラス基材である。「フロートガラス基材」という用語は、還元性条件下で溶融スズ浴上に溶融ガラスを注ぐことを含むフロートガラス法によって形成されたガラス基材を意味することを理解されたい。
【0055】
本発明によるマザーガラス基材は、そのマトリックス組成が特に限定されず、したがって種々の分類に属することができるガラスでできている。ガラスは、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、アルカリフリーガラス、ホウケイ酸塩ガラスなどであることができる。好ましくは、本発明のガラス基材は、ソーダ石灰ガラス又はアルミノケイ酸塩ガラスでできている。
【0056】
本発明の一実施形態によると、ガラス基材は、ガラスの全重量のパーセント値で表される含有量において、
SiO 55~85%
Al 0~30%
0~20%
NaO 0~25%
CaO 0~20%
MgO 0~15%
O 0~20%
BaO 0~20%
を含む組成を有する。
【0057】
好ましい一実施形態では、ガラス基材は、ガラスの全重量のパーセント値で表される含有量において、
SiO 55~78%
Al 0~18%
0~18%
NaO 5~20%
CaO 0~10%
MgO 0~12%
O 0~12%
BaO 0~5%
を含む組成を有する。
【0058】
より好ましい一実施形態では、ガラス基材は、ガラスの全重量のパーセント値で表される含有量において、
SiO 60~78%
Al 0~8%
0~4%
CaO 0~10%
MgO 0~12%
NaO 5~20%
O 0~12%
BaO 0~5%
を含む組成を有する。
【0059】
最も好ましい実施形態では、ガラス基材は、ガラスの全重量のパーセント値で表される含有量において、
60≦SiO≦78%
5≦NaO≦20%
0.9<KO≦12%
4.9≦Al≦8%
0.4<CaO<2%
4<MgO≦12%
を含む組成を有する。
【0060】
本発明によるマザーガラス基材は、0.03~19mmの厚さを有することができる。有利には、本発明によるマザーガラス基材は、0.03mm~6mmの厚さを有することができる。好ましくは、重量の理由及び必要に応じてガラス物品の冷間曲げが容易に可能となるために、マザーガラス基材の厚さは、0.1~2.2mmであることができる。
【0061】
本発明によると、マザーガラス基材は、平坦であるか又は全体的若しくは部分的に湾曲されることができ、すなわち最終的なガラス物品及び/又はガラス物品の冷間曲げが必要である場合の支持体の個別の設計に適切に適合するように、全体的又は部分的に湾曲されることができる。
【0062】
本発明は、前述の方法によって得られるガラス物品にも関する。
【0063】
本発明は、部分的にテクスチャー加工されたガラス物品において、
- 第1及び第2の主面との間で形成される、それぞれ90°±7°に等しい角度;
- シート厚さを2で割ったもの(すなわちシート厚さ/2)における線に沿った位置で測定される0.1~1ミクロンのRaによって規定される表面粗さ
を示す少なくとも1つのエッジを有することを特徴とするガラス物品にも関する。
【0064】
最後に、本発明は、部分的にテクスチャー加工されたガラス物品であって、
(i)ガラス物品の第1及び第2の主面におけるカリウムのレベルは、前記ガラス物品のエッジにおけるカリウムのレベルよりも高く、及び
(ii)ガラス物品のエッジにおけるカリウムのレベルは、ガラス物品の全体でのカリウムのレベルよりも高い、ガラス物品にも関する。
【0065】
物品のエッジにおいてカリウムのレベルが増加すると、前記エッジは、より機械的抵抗性になる。
【0066】
本発明によるガラス物品は、一層複雑な形状が自動車の製造業者によって要求される、車両の内部の窓ガラス、例えばコンソール、ダッシュボード、車の外部のウィンドウ、ガラストリム要素として特に適している。特に、このガラス物品は、車両のガラスコンソール、ダッシュボード又はトリム要素として非常に適している。
図1
図2
【国際調査報告】