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特表2022-521212マグネシウム合金、そのマグネシウム合金によって製造されたピストン、及びそのピストンを製造するための方法
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  • 特表-マグネシウム合金、そのマグネシウム合金によって製造されたピストン、及びそのピストンを製造するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】マグネシウム合金、そのマグネシウム合金によって製造されたピストン、及びそのピストンを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/06 20060101AFI20220330BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20220330BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20220330BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20220330BHJP
   B22D 17/20 20060101ALI20220330BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20220330BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20220330BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220330BHJP
【FI】
C22C23/06
F02F3/00 G
B22D21/04 B
B22D17/00 C
B22D17/20 G
C22C23/02
C22F1/06
C22F1/00 611
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 681
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548577
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(85)【翻訳文提出日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 SE2020050178
(87)【国際公開番号】W WO2020171758
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】1950219-4
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511234781
【氏名又は名称】フスクバルナ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】マルティン アルムグレーン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリク アッサールソン
(72)【発明者】
【氏名】シモン ヤルマション
(72)【発明者】
【氏名】シーシー トン
(72)【発明者】
【氏名】チー ショウシュン
(72)【発明者】
【氏名】エリック ニーバーグ
(72)【発明者】
【氏名】ペール オレスティグ
(57)【要約】
Al:0.2~1.6wt%、Zn:0.2~0.8wt%、Mn:0.1~0.5wt%、Zr:0~0.5wt%、La:1~3.5wt%、Y:0.05~3.5wt%、Ce:0~2wt%、Nd:0~2wt%、Gd:0~3wt%、Pr:0~0.5wt%、Be:0~20ppmを含有し、残部がMg及び付随元素である、マグネシウム合金。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:0.2~1.6wt%
Zn:0.2~0.8wt%
Mn:0.1~0.5wt%
Zr:0~0.5wt%
La:1~3.5wt%
Y:0.05~3.5wt%
Ce:0~2wt%
Nd:0~2wt%
Gd:0~3wt%
Pr:0~0.5wt%
Be:0~20ppm
を含有し、残部がMg及び0~3wt%の量の付随元素である、マグネシウム合金。
【請求項2】
Alの量が0.3~0.8wt%又は0.3~0.6wt%である、請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項3】
Znの量が0.3~0.6wt%又は0.4~0.5wt%である、請求項1又は2に記載のマグネシウム合金。
【請求項4】
Laの量が1.5~2wt%又は1.5~1.8wt%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項5】
Yの量が0.05~0.2wt%又は0.05~0.15wt%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項6】
Ceの量が0.5~1.5wt%又は0.5~1wt%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項7】
Ndの量が0.5~1.5wt%又は0.5~1wt%である、請求項1~6のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項8】
Gdの量が1~3wt%、1~2wt%又は1.4~1.6wt%である、請求項1~7のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項9】
Prの量が0~0.3wt%、0.02~0.3wt%又は0.1~0.2wt%である、請求項1~8のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項10】
Alの量が0.2~1.5wt%、0.5~1.5wt%又は0.7~1.1wt%である、請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項11】
Yの量が1~3.5wt%又は2.0~3.0wt%である、請求項10に記載のマグネシウム合金。
【請求項12】
Laの量が1.5~3.5wt%、2.5~3.0wt%又は2.5~3.5wt%である、請求項10又は11に記載のマグネシウム合金。
【請求項13】
Laと、Y、Ce、Nd、Gd、Prの群から選択される少なくとも1つの元素との量の合計が5~6wt%である、請求項1~12のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項14】
0.3~0.8wt%のAl、0.3~0.6wt%のZn、0.15~0.3wt%のMn、0~0.5wt%のZr、1.5~2wt%のLa、0.05~0.15wt%のY、0.5~1wt%のCe、0.8~1.2wt%のNd、1.4~1.6wt%のGd、0~0.3wt%のPr、0~20ppmのBeを含有する、請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項15】
0.2~1.5wt%のAl、0.2~0.6wt%のZn、0.1~0.4wt%のMn、0~0.5wt%のZr、1.5~3.5wt%のLa、0~1wt%のCe、0~0.5wt%のNd、0~0.5wt%のGd、1.5~3wt%のY、0~0.3wt%のPr、0~20ppmのBeを含有する、請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項16】
Mgの量が93.5wt%以下であるか、又は92.0~93.5wt%である、請求項1~15のいずれか1項に記載のマグネシウム合金。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のマグネシウム合金から製造されたことを特徴とする、燃焼エンジンのためのピストン。
【請求項18】
手持ちの動力工具の2ストロークエンジンのために構成された、請求項17に記載のピストン。
【請求項19】
酸化された表面層を備える、請求項17又は18に記載のピストン。
【請求項20】
燃焼エンジンのためのピストンを製造するための方法であって、
請求項1~16のいずれか1項に記載のマグネシウム合金を提供する工程(1000);
マグネシウム合金を溶融する工程(2000);
ピストンの形状を画定するモールドキャビティ中にマグネシウム合金を注入する工程(3000);
モールドキャビティ中のマグネシウム合金の凝固工程(4000);
モールドキャビティから凝固されたピストンを取り出す工程(5000)
を含む、方法。
【請求項21】
マグネシウム合金を注入する工程が高圧ダイカストによって行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
プラズマ電解酸化によって、ピストンの表面に酸化物層を提供する工程(7000)を含む、請求項20又は21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はマグネシウム合金に関する。さらに、本開示はそのマグネシウム合金によって製造された、燃焼エンジンのためのピストンに関する。さらに、本開示はそのピストンを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手持ちの動力工具、例えばチェーンソー、クリアリングソー及びパワーカッターは、典型的には、アルミニウムピストンを有する燃焼エンジン、例えば2ストロークエンジンによって駆動される。このようなエンジンにおいて、ピストンは、製品の振動及び応力についての主要な原因である。
【0003】
従って、本開示の目的は、燃焼エンジンのピストンのための改善された材料を提供することである。
【0004】
特に、本開示の目的は、燃焼エンジンのピストン配置において普及している条件に耐えることができる材料を提供することである。
【0005】
本開示のさらなる目的は、鋳造部品の効率的な製造を可能とする材料を提供することである。本開示のさらなる目的は、低コストで製造することができる燃焼エンジンのピストンのための材料を提供することである。
【発明の概要】
【0006】
マグネシウムは軽重量の金属であり、重量を減少させるために、特定の部品における材料として使用される。例えば、国際公開第2009/086585号は、車両のエンジンのためのシリンダーブロックのために使用されることが意図されたマグネシウム合金を開示している。車両の操作において、このようなシリンダーブロックは、上昇した温度の下で高い応力を受け、従って、シリンダーブロックの材料は、長期間の使用の間にクリープを起こす場合がある。従って、国際公開第2009/086585号は、合金の良好な鋳造性とともに、燃焼中のシリンダーブロックにおいて優れたクリープ強度を達成するために最適化されている。これを達成するために、合金は、上昇したクリープ強度及び改善された鋳造性を提供する、バランスの取れた量の希土類金属、セリウム及びランタンを含む。アルミニウムは、国際公開第2009/086585号の合金中に少量含まれて、クリープ強度をさらに上昇させる。
【0007】
一般に、最も知られたマグネシウム合金は、それらのマグネシウム合金を燃焼エンジンのピストンのための材料として不適なものとする様々な欠点と結びついている。例えば、公知のマグネシウム合金は、上昇した温度における乏しい疲労特性を有する。従って、それらの合金は、軟化及び減少した耐用年数が原因で、200℃より高い温度において使用することができない。さらに、多くの公知のマグネシウム合金は、それらのマグネシウム合金を大規模の鋳造製造方法のために不適なものとする乏しいダイカスト性を問題とする。さらに、高温使用のための公知のマグネシウム合金の多くは、コストがかかり、大規模製造において使用することができない。
【0008】
本開示の第一の態様によれば、これらの目的のうち少なくとも1つは、
Al:0.2~1.6wt%
Zn:0.2~0.8wt%
Mn:0.1~0.5wt%
Zr:0~0.5wt%
La:1~3.5wt%
Y:0.05~3.5wt%
Ce:0~2wt%
Nd:0~2wt%
Gd:0~3wt%
Pr:0~0.5wt%
Be:0~20ppm
を含有するマグネシウム合金によって対処される。
【0009】
残部はMg及び付随元素である。
【0010】
第二の態様において、本開示は、燃焼エンジンのためのピストンに関するものであり、そのピストンは、第一の態様によるマグネシウム合金によって製造される。ピストンは、手持ちの動力工具の2ストローク燃焼エンジンのために構成することができる。動力工具は、例えばチェーンソー又はクリアリングソーであってよい。ある実施態様において、ピストンの表面はマグネシウム酸化物の層によってコーティングされる。
【0011】
第三の態様において、本開示は第二の態様によるピストンを製造するための方法に関する。
【0012】
実際的な試験は、本開示によるマグネシウム合金が、上昇した温度、例えば400℃以下の温度において、引張強度に関して非常に良好な機械特性を示すことを示した。これは、燃焼エンジンにおいて使用されるピストンについて、ピストンの熱疲労に対する抵抗についての良い尺度である。さらに、実際的な試験は、本開示によるマグネシウム合金が、高圧ダイカストのための優れた鋳造性特性を有することを示した。合金の鋳造性は、以下の特性:溶融された合金の流動性、熱間割れ抵抗特性、ダイ焼付き抵抗特性、耐燃性特性並びに表面性状、例えば表面の平滑性及び均質性、に関して決定することができる。
【0013】
本開示によるマグネシウム合金の好ましい特性は、バランスの取れた量の合金元素Al、Mn、Zn、Zrと組み合わせた、バランスの取れた量のLa及びYの結果であると考えられる。
【0014】
Ce、Nd、Gd、Prの群から選択される任意選択の希土類元素のうち1つ又は複数が本開示によるマグネシウム合金中に含められたとき、引張強度はさらに増加することが見出された。
【0015】
理論によって拘束されるものではないが、本開示のマグネシウム合金の好ましい特性は、以下のように説明することができる。Alを含有するMgマトリックスにおいて、希土類元素、例えばLa、Ce、Nd、Gd、Prは、Mg-Al共晶相よりも共晶Al-Re相を形成しやすく、それによってMg-Al共晶相の量を抑える。Mg-Al共晶相は437℃の低い融点を有し、かつ上昇した温度、特に175℃より高い温度で不安定であるため、Mg-Al共晶相は、合金の高温強度に対して負の影響を有する。他方で、Al-Re共晶相は、上昇した温度において高い熱安定性を有する。さらに、希土類元素の添加は、Mg-Re共晶相がMg-Alマトリックスの粒界に形成されるという結果をもたらす。この共晶相は上昇した温度で安定であり、凝固された合金が高温で使用されるときに、凝固された合金における結晶成長を妨げるか、又は低減する。全体として、このことは、高温における合金の良好な機械特性をもたらす。ランタン(La)は、低コストで利用可能であり、かつマグネシウムとともに安定な共晶相を形成しやすいRe元素である。加えて、Laは、共晶温度において、マグネシウム中で低い溶解度及び低い共晶組成点を有する。このことは、凝固温度範囲が減少され、それによって合金の凝固が短時間で達成されるために、鋳造性を改善する。鋳造性は、増加された量のLaによって改善することができ、なぜなら、このことが合金組成を共晶点の近くに移動し、凝固範囲をさらに減少するためである。良好な機械特性及び鋳造性の両方を達成するために、Laは1~3.5wt%の量で存在してよい。本開示による合金の1つの代替において、Laは1.5~3.5wt%又は2.5~3.5wt%の量で存在する。
【0016】
本開示による合金の代替の第二の代替において、Laは1.5~2wt%又は1.5~1.8wt%の量で存在する。
【0017】
セリウム(Ce)はLaと似た挙動を有し、従って本開示のMg合金におけるLaの幾らかを置換することができる。すなわち、Ceは、Mg合金中に、0~2wt%の量で存在してよい。例えば、Laが1.5~2wt%の量で存在するとき、Ceは0.5~1.5wt%、1~1.2wt%又は0.5~1wt%の量で存在してよい。
【0018】
ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)及びプラセオジム(Pr)は、Mgにおいて良好な溶解度を有する希土類元素であり、従って、本開示によるマグネシウム合金中に含められて、Mg-Re共晶相の量を増加させ、それによって合金の機械強度を上昇させることができる。
【0019】
例えば、Ndの量は0~2wt%、好ましくは0.5~1.5wt%であってよい。Gdの量は0~3wt%、好ましくは1~3wt%、1~2wt%又は1.4~1.6wt%であってよい。Prの量は0~0.5wt%、0~0.3wt%、0.02~0.3wt%又は0.1~0.2wt%であってよい。
【0020】
本開示の合金において、La、Ce、Pr、Nd及びGeから選択される特定の合金元素を使用することの利点は、これらの元素が、「ミッシュメタル」とも呼ばれる、混合された希土類金属の形態で入手可能であることである。このような混合された希土類金属は、比較的低コストで市場において固有の比で入手可能であり、従って良好な機械特性及び良好な鋳造性を有するコスト効果のある合金の製造を可能とする。ある代替によれば、Gdが1~2wt%であり;Ndが0.5~1.5wt%であり;Prが0.1~0.2wt%であり;Ceが0.1~1.2wt%であるとき、Laは1.5~1.65wt%であってよい。
【0021】
イットリウム(Y)。Yの添加は粒を微細化し、マトリックス中に、合金のミクロ組織及び機械特性を改善する高融点のMg245相を形成する。凝固の間に、Y原子は、マトリックスから凝集して、高いY含有量を有するプロック型の粒子と非平衡の共晶とを形成する。当然、ブロック型の粒子の形成は、相変態の原理に従って核生成及び成長のプロセスを受ける。組成変動のために、核は、高いY含有量を有するミクロ領域において形成される。Y原子は核に向かって拡散し、核成長をもたらす。同時に、非平衡の共晶相の他のミクロ領域において、他の核が形成する。マトリックス中の非平衡の共晶相及びブロック型の粒子は、上昇した温度において、機械特性の改善に有意に寄与することができる。Yは、本開示のMg合金中に、0.05~3.5wt%の量で存在してよい。Mg合金がCe、Gd、Nd及びPrの群から選択されるRe元素を含むとき、機械強度への実質的な寄与が添加のRe元素によって生じるため、Yの量は減少されてよい。従って、Yは0.05~0.5wt%、0.05~0.2wt%又は0.05~0.15wt%であってよい。Yは高価な合金元素であるため、減少されたYは有利である。Laの量が多く、かつ他のRe元素の量が少ないとき、合金の十分な機械強度を達成するために、好ましくは、Yの量は増加される。このような場合において、Yは1.5~3.5wt%又は2.0~3.0wt%であってよい。
【0022】
良好な鋳造性とあわせて、上昇した温度において非常に高い機械強度を達成するために、Laと、Y、Ce、Nd、Pr及びGdの群から選択される少なくとも1つの元素との合計は5~6wt%であってよい。典型的には、機械強度及び鋳造性は、Re元素の量が多いほど上昇する。しかし、製造コストもまた増加する。従って、5~6wt%が、機械強度、鋳造性及び生産経済性の間の良好なバランスを有する合金を製造することが見出された。
【0023】
本開示によるマグネシウム合金において、上昇した温度における良好な機械特性を達成するために、アルミニウム(Al)が添加される。詳細なメカニズムは、科学的な観点において未だ明らかではないが、Mg-Re合金中の少量のAlは、上昇した温度における機械特性に対して有益であり、従って合金の引張強度を改善することが示された。さらに、Alがより多い量で添加されるときに、Mg-Re合金中のAlの強度上昇効果は無効になることが示された。言い換えれば、アルミニウムの多量の添加は上昇した温度における機械特性に対してひどく有害であるために、アルミニウムの多量の添加は避けられるべきである。従って、Mg合金のAl含有量は0.2~1.6wt%である。Mg合金の1つの代替において、Al含有量は0.3~0.6wt%である。Mg合金の第二の代替において、Al含有量は0.2~1.5wt%、0.5~1.5wt%又は0.7~1.1wt%である。
【0024】
マンガン(Mn)は、ダイの焼付きを妨げることを助け、従って本開示によるMg合金のダイ離れ特性を改善する。Mnは合金の強度をさらに高めることができる。一方、より重要なことには、Mnは合金中の不純物を無力化するのに寄与する。すなわち、MnはFeと結びついて、Fe含有化合物の形態を針状から球状に変えて、Feの有害な効果を低減する。Mnの量は0.1~0.5wt%、0.15~0.5wt%又は0.2~0.3wt%である。
【0025】
亜鉛(Zn)は、改善された機械特性、機械加工性及び鋳造性を提供することにおけるその有用性のために、Mg合金において使用される一般的な元素である。Znの量は0.2~0.8wt%、好ましくは0.3~0.6wt%又は0.4~0.5wt%である。
【0026】
ジルコニウム(Zr)は、マグネシウム合金における強い粒微細化元素であり、室温及び上昇した温度における機械特性を改善する。上昇した温度における使用を改善するためにマグネシウム合金中にZrを添加することは、一般に有利である。さらに、Zrは希土類元素と反応して、上昇した温度における機械特性を改善する金属間化合物を形成することができる。含有Zrの量は0~0.5wt%又は0.1~0.5wt%であってよい。
【0027】
ベリリウム(Be)は、マグネシウム合金の酸化を妨げるために、鋳造マグネシウム合金に一般に添加される。わずか20ppm以下で、表面に形成される保護的なベリリウム酸化膜をもたらす。好ましくは、通常どおり、Beのレベルは約20ppm、例えば5~20ppmであるように制御される。
【0028】
本開示によるMg合金は付随元素をさらに含むことができる。付随元素は、Mg合金の特性に対して無視できるほどの又は有意でない影響を有する合金元素であってよい。幾つかの例において、付随元素は不純物とみなすことができる。付随元素の非限定的な例は、Fe<0.3wt%、Si<0.05wt%、Dy<0.05wt%、Ni<0.03wt%、Sn<0.5wt%、Er<0.01wt%、Ca<1wt%及びSr<0.5wt%である。
【0029】
典型的には、付随元素の合計量は、Mg合金中で0~3.0wt%である。
【0030】
マグネシウム(Mg)は、Mg合金における残部を構成する。典型的には、Mgの含有量は93.5wt%以下である。例えば92.0~93.5wt%である。
【0031】
ある実施態様において、本開示によるマグネシウム合金は、0.2~0.8wt%のAl、0.3~0.6wt%のZn、0.15~0.3wt%のMn、0~0.5wt%のZr、1.5~2wt%のLa、0.05~0.15wt%のY、0.5~1wt%のCe、0.8~1.2wt%のNd、1.4~1.6wt%のGd、0~0.3wt%のPr、0~20ppmのBeを含有する。残部はMg及び付随不純物である。
【0032】
このような合金の1つの例は、0.5wt%Al;0.5wt%Zn;0.3wt%Mn;1.6wt%La;1wt%Ce;1wt%Nd;1.5wt%Gd;0.05wt%Pr;0.1wt%Y;残部はMg及び付随不純物、である。
【0033】
ある実施態様において、本開示によるマグネシウム合金は、0.2~1.5wt%のAl、0.2~0.6wt%のZn、0.1~0.4wt%のMn、0~0.5wt%のZr、1.5~3.5wt%のLa、0~1wt%のCe、0~0.5wt%のNd、0~0.5wt%のGd、1.5~3wt%のY、0~0.3wt%のPr、0~20ppmのBeを含有する。
【0034】
このような合金の1つの例は、1wt%Al;0.4wt%Zn;0.3wt%Mn;3wt%La;3wt%Y;残部はMg及び付随不純物、である。
【0035】
実施例の説明
本開示によるマグネシウム合金は、以下の非限定的な実施例によって、下で説明される。
【実施例
【0036】
実施例1 合金の製造
純粋なマグネシウムインゴット、Mg-30wt%Nd、Mg-30wt%Y、Mg-30wt%Gd及びMg-10wt%Mn母合金と、マグネシウム中にLa及びCeの混合物を含有する母合金とを、出発材料として使用した。これらの母合金は、35wt%La-65wt%Ce、51wt%Ce-28wt%La-16wt%Nd-5wt%Pr、50wt%Ce-32wt%La-12wt%Nd-6wt%Pr又は51wt%Ce-27wt%La-18wt%Nd-4wt%Prであった。
【0037】
それぞれの元素を、溶融の間の焼損のための余剰量とあわせた特有の比に重みづけした。合金製造の間に、頂部装填の電気抵抗炉を使用して、鋼のるつぼ中で、N2+(0.05~0.1)vol%SF6又はSO2の保護の下で、金属を溶融した。
【0038】
各回、720℃の温度で、10kgの合金のバッチを溶融した。るつぼ中で溶融物が均質になった後、組成分析のためのφ60×6.35mmの試験部分を有するマッシュルームサンプルを、溶融物を鋼のモールド中に直接鋳造することによって製造した。組成分析を行う前に、鋳造物を底部から3mm切断した。少なくとも5回のスパーク分析を行う光学質量分光法を使用して組成を分析し、合金の化学組成として平均値をとった。
【0039】
組成分析の後、4500kNコールドチャンバHPDC機械によって鋳造サンプルを製造し、その中で、全ての鋳造パラメータを十分に監視し記録した。注湯温度を、K型熱電対によって測定して700℃に制御した。機械特性を試験するためのASTM B557標準サンプルを製造するために、鋳造物をダイ中で製造した。250℃における鉱物油の循環によって、ダイを加熱した。機械特性及び熱伝導性を、ASTMによって規定される以下の標準的な方法に従って測定した。製造した合金の流動性、熱間割れ抵抗特性、ダイ焼付き抵抗特性、耐燃性特性及び表面性状が優れていることが確認され、このことは、本合金の良好な鋳造性を示した。
【0040】
同じ方法に従って、多くの他のサンプルを製造した。全てのサンプルを同じ条件で試験した。上昇した温度における引張特性試験を、ホットチャンバを使用して、要求される温度に到達した後に、サンプルを指定の温度に40分保持して行った。合金組成及び引張試験の結果を、以下の表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表中の全てのサンプルは、300℃の上昇した温度において、80MPaより高い降伏強度を示す。従って、表1のサンプルはピストン用途のために適している。
【0043】
例2 ピストンの製造
実施例1においてと同じ方法で、合金を製造した。合金組成を、Mg-1.6La-1.0Ce-1.0Nd-1.5Gd-0.1Y-0.1Pr-0.3Zn-0.3Al-0.3Mn(wt%)に仕上げた。
【0044】
ピストン製造用に、ダイのセットを設計した。ダイを、4500kNコールドチャンバHPDC機械に取り付けた。全ての鋳造パラメータを十分に最適化し、鋳造の間に監視した。注湯温度を、K型熱電対によって測定して700℃に制御した。250℃における鉱物油の循環によって、ダイを加熱した。鋳造ピストンを最終形状に機械加工した。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本開示による、燃焼エンジンのためのピストンの模式図である。
図2】本開示による方法の工程を図的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、燃焼エンジンのための、本開示によるピストン1を図的に示している。ここで、手持ちのモーター工具のための2ストロークエンジンのためのピストンとして例示される。ピストン1は、本開示の第一の態様によるマグネシウム合金を含む、すなわち本開示の第一の態様によるマグネシウム合金から製造される。ピストン1は、酸化マグネシウムのコーティング2を提供される。図2に示されるように、コーティング2は、ピストン1の全体の外表面に提供されてよい。一方で、ピストン1の外表面の一部のみにコーティング2を提供することが可能である。
【0047】
ピストンは以下の方法によって製造することができる。方法の工程は、図2に従うことができる。
【0048】
従って、方法の第一の工程1000において、本開示によるマグネシウム合金が提供される。典型的には、マグネシウム合金は、予備製造された固体のピースの形態で、例えばインゴットの形態で提供される。第二の工程2000において、マグネシウム合金が液体状態を呈するように、マグネシウム合金は溶融される。溶融は、マグネシウム合金をその融点より高くに加熱することによって行われる。従って、典型的には、マグネシウム合金は720℃以上の温度に加熱されてよい。第三の工程3000において、溶融されたマグネシウム合金が注入される、すなわち、燃焼エンジンのためのピストンの形状を画定するモールドキャビティを有するモールド中に注湯される。例えば、モールドキャビティは、2ストローク燃焼エンジンのためのピストンの形状を画定する。第四の工程4000において、溶融されたマグネシウム合金を、モールドキャビティ中で、所定の時間の間、凝固させる。凝固時間は、ピストンの寸法及び鋳造条件に依存し、例えば実際的な試験によって予め決定することができる。第五の工程5000において、ピストンが、モールドキャビティから取り出される。これに関して、モールドは2つのモールド半部分を備えることができ、2つのモールド半部分は、モールドキャビティ及び凝固されたピストンへのアクセスを可能とするように、互いから可動であってよい。
【0049】
好ましくは、ピストンの鋳造物は、高圧ダイカスト(HPDC)によって製造される。このプロセスにおいて、溶融された金属は、共に固定された2つのモールド半部分の間に形成される形成キャビティ中に、速度及び高圧の下で注入される。形成キャビティが溶融された金属で急速に充填されるために、HPDCプロセスは、高い寸法正確性を有する部品の速い製造を可能とする。
【0050】
マグネシウム合金の溶融の工程、及び凝固されたピストンを取り出す工程は、高圧ダイカスト設備に含まれてよい。
【0051】
凝固されたピストンの取り出しの後に、任意選択の第六の工程6000において、ピストンは機械操作を、例えば最終形状への旋盤加工及び又はドリル加工を受けることができる。
【0052】
最後に、ピストンは、ピストンの表面にコーティングを提供する任意選択の第七の工程7000を受けることができる。好ましくは、コーティングは酸化マグネシウムのコーティングであり、マグネシウムなどの金属上に酸化物コーティングを生じさせるための公知の電気化学的表面処理プロセスであるプラズマ電解酸化(PEO)によって達成することができる。プラズマ電解酸化プロセスは、磨耗、腐食及び熱に対する保護を提供する、固く、かつ連続的な酸化物コーティングを達成する。PEOの利点は、コーティングが、基材金属の酸化物への、基材金属の化学的な変換であり、従って、コーティングが、元々の金属表面から内部及び外部の両方に成長することである。コーティングが基材中に内部に成長するため、コーティングは基材金属への優れた付着性を有する。
【0053】
ピストンが、ピストンの意図される用途のために、任意の適した寸法を有することができることは好ましいことである。
【0054】
さらに、ピストンを4ストロークエンジンのために構成することができることは好ましいことである。
【0055】
さらに、マグネシウム合金の鋳造は、他の適した鋳造プロセスによって達成することができる。例えば、砂型鋳造、低圧ダイカスト、半溶融金属処理又は永久鋳型重力ダイカストによって達成することができる。
図1
図2
【国際調査報告】