IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クノル−ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特表2022-521218回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置
<>
  • 特表-回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置 図1
  • 特表-回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置 図2
  • 特表-回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置 図3
  • 特表-回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置 図4
  • 特表-回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/20 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
F16H25/20 F
F16H25/20 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548595
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(85)【翻訳文提出日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 EP2020052003
(87)【国際公開番号】W WO2020169309
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】102019104125.2
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン シャラー
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン グレスル
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA18
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA12
3J062BA17
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD35
(57)【要約】
本発明は、軸方向に運動するエレメントの回動防止手段と、特に、回転運動を並進運動に変換するためにオートメーティッドマニュアルトランスミッション(AMT)において使用するための、回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置とに関する。ボールねじは、スピンドル(3)と、ボール上でスピンドル(3)を中心として回転するナット(4)と、スピンドル(3)内に設けられている少なくとも1つの位置固定エレメント(2)と、少なくとも1つのガイドエレメント(5)とを有しており、ガイドエレメント(5)は、溝内で、前記位置固定エレメント(2)の、スピンドル(3)から突出する部分をスピンドル(3)の長手方向に沿ってガイドする。少なくとも1つの位置固定エレメント(2)と、溝を備えた少なくとも1つのガイドエレメント(5)とは、回動防止手段である。長手方向でのスピンドル(3)の並進運動時に、少なくとも1つのガイドエレメント(5)の溝内での位置固定エレメント(2)のガイドにより、スピンドル(3)の回転を阻止することができる。少なくとも1つのガイドエレメント(5)は、ケーシングの切欠き内に収容されており、その長手方向軸線を中心として回転することができる。制限のない回転自由度により、少なくとも1つのガイドエレメント(5)の位置調整を達成することができ、これにより、位置固定エレメント(2)および溝を介したガイドエレメント(5)内への力導入ができるだけ大きな面積を介して確保され、これにより、少なくとも1つのガイドエレメント(5)の溝と位置固定エレメント(2)との摩耗を減じることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動防止手段であって、
少なくとも1つの位置固定エレメント(2)であって、回転なしに長手方向に運動するように構成されている運動エレメントに設けられており、少なくとも1つの箇所において、前記運動エレメントの表面から半径方向で外方に向かって突出する、位置固定エレメント(2)と、
少なくとも1つのガイドエレメント(5)であって、該ガイドエレメント(5)が、溝を有しており、かつ該ガイドエレメント(5)は、前記溝が前記運動エレメントの長手方向軸線に対して実質的に平行に配置され、かつ前記位置固定エレメント(2)の前記突出した部分を前記運動エレメントの長手方向の運動時に前記溝内でガイドするように、前記運動エレメントのケーシングの切欠き内に配置されているように、構成されている、ガイドエレメント(5)と
を有しており、
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)は、該ガイドエレメントが、前記溝の長手方向軸線に沿った自由度を有していないが、少なくとも、前記溝の長手方向軸線に対して平行な1つの軸線を中心とした回転自由度を有しているように形成されている、回動防止手段。
【請求項2】
前記ガイドエレメント(5)の個数は、前記少なくとも1つの位置固定エレメント(2)が前記運動エレメントの前記表面から半径方向に突出している箇所の個数に一致する、請求項1記載の回動防止手段。
【請求項3】
前記ガイドエレメント(5)の個数は、前記少なくとも1つの位置固定エレメント(2)が前記運動エレメントの前記表面から半径方向で外方に向かって突出している箇所の個数に一致する、請求項1または2記載の回動防止手段。
【請求項4】
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)の前記溝の横断面が、前記ガイドエレメントの長手方向に対して垂直方向で、前記少なくとも1つの位置固定エレメント(2)の、前記ガイドエレメント(5)の前記溝内に突入している前記少なくとも1つの端部の、前記運動エレメントの長手方向に対して垂直方向の横断面と同一である、請求項1から3までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項5】
複数のガイドエレメント(5)が設けられている場合に、該ガイドエレメント(5)は、前記運動エレメントの全周にわたって均等に分配されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項6】
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)の前記溝内に突入する、前記少なくとも1つの位置固定エレメント(2)の前記少なくとも1つの端部が、前記少なくとも1つの位置固定エレメント(2)の長手方向に対して垂直方向に延びる円形の横断面を有している、請求項1から5までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項7】
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)の端部が、前記ケーシング内に長手方向で支承されており、該支承部は、前記運動エレメントの長手方向軸線に対して平行な1つの軸線を中心とした前記ガイドエレメント(5)の摩擦の少ない回転を可能にし、前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)のあらゆる並進運動を阻止するように、構成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項8】
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)が、該ガイドエレメント(5)の長手方向に対して垂直方向で対称的、かつ好適には円形の横断面を有している、請求項1から7までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項9】
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)と前記ケーシングの前記切欠きが、前記ガイドエレメントおよび前記切欠きの長手方向に対して垂直方向で実質的に同一の横断面形状を有している、請求項1から8までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項10】
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)の材料と、前記少なくとも1つの位置固定エレメント(2)の材料とが、前記材料間での摩擦時に、小さな摩耗および/または小さな摩擦抵抗を有する材料ペアを形成し、前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)の前記材料は、好適には鋼のような硬い材料である、請求項1から9までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項11】
前記運動エレメントが、ケーシングを有しており、該ケーシングが、少なくとも前記運動エレメントを取り囲んでいて、ハウジングとして働き、前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)は、該ガイドエレメント(5)が一方の側で前記ケーシングに当接し、他方の側で位置固定リングにより位置固定されるように、前記ケーシング内に配置されており、これにより前記ガイドエレメント(5)の長手方向の運動は不可能である、請求項1から10までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項12】
前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)の前記溝が、前記溝の長手方向で対称的な横断面を有している、請求項1から11までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項13】
前記少なくとも1つの位置固定エレメント(2)の、該位置固定エレメント(2)の回転時に前記溝の複数の側面のうちの1つの側面に接触する点が、前記ガイドエレメント(5)の前記横断面の中心点よりも、前記運動エレメントの前記表面から遠く離れるまで、前記位置固定エレメント(2)が、前記少なくとも1つの箇所で、前記少なくとも1つのガイドエレメント(5)の前記溝内に突入する、請求項1から12までのいずれか1項記載の回動防止手段。
【請求項14】
前記回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置であって、
軌道溝プロフィールおよび定義された外径を備えたスピンドル(3)と、
前記スピンドル(3)の前記外径よりも僅かに大きな、定義された内径を備えたナット(4)と、
前記ナット(4)と前記スピンドル(3)との間で該スピンドル(3)の前記軌道溝プロフィール内に配置されていて、前記ナット(4)の長手方向に沿った前記スピンドル(3)の摩擦の少ない運動を可能にするように構成されている少なくとも2つのボールであって、前記ナット(4)の前記内径の中心軸線と、前記スピンドル(3)の前記外径の中心軸線とが互いに重なって位置しており、前記ナット(4)は、長手方向の運動なしに、前記スピンドル(3)を中心として回転するように構成されており、前記スピンドル(3)は、回転なしに長手方向で運動するように構成されている、ボールと、
請求項1から13までのいずれか1項記載の回動防止手段であって、前記ボールねじ伝動装置の前記スピンドル(3)が、前記回動防止手段の運動エレメントとして働くように構成されている、回動防止手段と
を有している、ボールねじ伝動装置。
【請求項15】
回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置であって、
軌道溝プロフィールおよび定義された外径を備えたスピンドル(3)と、
前記スピンドル(3)の前記外径よりも僅かに大きな、定義された内径を備えたナット(4)と、
前記ナット(4)と前記スピンドル(3)との間で該スピンドル(3)の前記軌道溝プロフィール内に配置されていて、前記ナット(4)の長手方向に沿った前記スピンドル(3)の摩擦の少ない運動を可能にするように構成されている少なくとも2つのボールであって、前記ナット(4)の前記内径の中心軸線と、前記スピンドル(3)の前記外径の中心軸線とが互いに重なって位置しており、前記ナット(4)は、前記スピンドル(3)を中心とした回転なしに前記スピンドルの長手方向に運動するように構成されており、前記スピンドル(3)は、長手方向への運動なしに前記ナット(4)内で回転するように構成されている、ボールと、
請求項1から14までのいずれか1項記載の回動防止手段であって、前記ボールねじ伝動装置の前記ナット(4)が、前記回動防止手段の運動エレメントとして働くように構成されている、回動防止手段と
を有している、ボールねじ伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に運動するエレメントの回動防止手段と、特に、回転運動を並進運動に変換するためにオートメーティッドマニュアルトランスミッション(AMT)において使用するための、回動防止手段を備えたボールねじ伝動装置とに関する。
【0002】
AMT伝動装置においてクラッチおよびギアを操作するためには、電気的に駆動されるアクチュエータを使用することができる。電動モータにより形成された回転式の出力運動は通常、まず変速段において変速され、次いで並進運動に変換される。後者のステップのために、実際にはしばしばボールねじ伝動装置が使用される。
【0003】
このボールねじ伝動装置は、通常、軌道溝プロフィールを備えたスピンドルと、軌道溝プロフィール内に位置する複数のボールと、複数のボールにより小さな摩擦でスピンドルを中心として回転するナットとを有している。この場合、スピンドルは、軌道溝プロフィール内のボール上で、スピンドルの長手方向にナットの内径を通って滑る。さらにボールねじ伝動装置は、ボール戻しシステムを有しており、このボール戻しシステムは、ナットおよびスピンドルの運動に基づいてナットとスピンドルとの間の接触面からボールが走出する箇所において、ボールが摩擦を減じるために必要とされる箇所へと再びボールを戻す。つまり換言すると、このボール戻しシステムは、ボールが常にナットとスピンドルとの間に位置するようにし、これにより、ナットとスピンドルとの間のできるだけ小さな摩擦を確保することができる。
【0004】
さらに、スピンドルがナットの回転により一緒に回動しないことが確実にされなければならない。このことは、スピンドルの回動防止手段を介して達成される。回動防止手段は、大抵の場合、スピンドルとボールねじ伝動装置のケーシングとの間の形状結合部を介して達成される。回動防止手段を実現するために、先行技術では、通常、スピンドル内に横方向ピンが設けられる。この横方向ピンは、スピンドルを超えて半径方向に突出しており、ケーシングに設けられたこの横方向ピンのための対応する細長い溝内で操作方向に沿ってガイドされる。したがって、スピンドルは、確かに長手方向に運動することができるが、スピンドルの回転自由度は回動防止手段によりブロックされている。
【0005】
しかし、このような回動防止手段の実現は、誤差、種々異なる摩擦ペアおよび不均一な面圧によって、位置固定エレメントとケーシングの溝との間で著しい摩耗が発生するという欠点を有している。位置固定エレメントとケーシングとの間の小さな間隙ですら、ケーシングと位置固定エレメントとの接触がスピンドルの回転運動を阻止するまで、ナットの回転運動がスピンドルの小さな回転運動ももたらしてしまうことにつながる。
【0006】
この事象は、先行技術の上述のアセンブリでは、位置固定エレメントとケーシング、より詳細には位置固定エレメントがガイドされるケーシングの溝の側面との接触面が極めて小さく、これにより、溝の側面においても位置固定エレメントにおいても高い摩耗が発生することにつながる。
【0007】
したがって、本発明の課題は、上述のアセンブリの摩耗を減じ、ひいては構成部分のより長い耐用期間と、保守操作のためのより小さなコストとを達成する解決手段を提供することである。
【0008】
この課題は、独立請求項に記載の本発明の対象により解決される。有利な実施形態は、従属請求項に含まれている。
【0009】
本発明に係る回動防止手段は、運動エレメントに配置されている位置固定エレメントを有しており、この位置固定エレメントは、その長手方向軸線に沿って、つまり長手方向に運動し、かつ回転運動を実施しないように構成されている。位置固定エレメントは、少なくとも1つの箇所において運動エレメントの表面から半径方向で外方に向かって突出している。
【0010】
さらに、本発明に係る回動防止手段は、少なくとも1つのガイドエレメントを有している。このガイドエレメント自体は、溝を備えている。この場合、ガイドエレメント内の細長い凹設部が溝と呼ばれる。この細長い凹設部は、あらゆる横断面形状を有していてもよく、位置固定エレメントを収容するために規定されている。溝を備えた少なくとも1つのガイドエレメントは、溝が運動エレメントの長手方向軸線に対して実質的に平行に位置し、位置固定エレメントの、運動エレメントの表面から突出する部分を運動エレメントの長手方向の運動時にガイドするように、運動エレメントのケーシングの切欠き内に配置されている。運動エレメントが、固有の長手方向軸線を中心とした運動エレメントの回転をもたらし得るモーメントを受けた場合に、この運動は、ガイドエレメントの溝内への位置固定エレメントの係合によって阻止される。さらに、少なくとも1つのガイドエレメントは、溝の長手方向軸線に沿った制限のない自由度を有していないが、溝の長手方向軸線に対して平行な1つの軸線を中心とした回転のための少なくとも1つの制限のない自由度を有している。
【0011】
制限のない回転自由度により、ガイドエレメントは、運動エレメント、ひいては位置固定エレメントの回転に応じて、位置固定エレメントからガイドエレメントに作用する力によってこの位置固定エレメントに合わせて位置調整することが可能である。これにより、位置固定エレメントとガイドエレメントとの間の接触面を増大することが達成され、これにより、関与する構成部分の摩耗を減じることができる。
【0012】
有利な1つの実施形態において、かつできるだけ小さな構造空間を有する解決手段を実現するために、運動エレメントの一方の端部において、または端部領域において位置固定エレメントが配置されている。これにより、スピンドルの、軸方向で突出する区分を回避することができ、装置全体の構造空間の不要な拡大を阻止することができる。
【0013】
さらに、有利な1つの実施形態では、ガイドエレメントの個数が、少なくとも1つの位置固定エレメントが運動エレメントの表面から半径方向に突出している箇所の個数に一致している。この実施形態の利点は、少なくとも1つの位置固定エレメントの、回動防止に寄与する各端部が、それぞれ1つのガイドエレメントを有していて、これにより、それぞれのガイドエレメントの最適な位置調整を確保することができることである。他方では、これにより、必要とされるガイドエレメントの個数のみが使用されることが確実にされ、このことは加工手間およびコストを削減する。
【0014】
有利な別の1つの実施形態では、少なくとも1つのガイドエレメントの溝の横断面が、ガイドエレメントの長手方向軸線に対して垂直方向で、位置固定エレメントの、ガイドエレメントの溝内に突入する部分を通る運動エレメントの長手方向軸線に対して垂直方向の横断面と同一の形状を有している。位置固定エレメントの複数の箇所が溝内に突入することができ、複数の位置固定エレメントおよびガイドエレメントが設けられていてもよい。
【0015】
本発明の有利な別の1つの実施形態では、回動防止手段が、好適には運動エレメントの周囲に均等に配置された少なくとも2つのガイドエレメントを有していて、これにより、少なくとも1つのガイドエレメントにより受け止められる力を各ガイドエレメントのために少なくとも半減することができ、ひいては各個別のガイドエレメントにおける摩耗を減じることができる。
【0016】
ピンとしての位置固定エレメントの実施形態がさらに有利である。このことは、少なくとも1つの位置固定エレメントの横断面は、位置固定エレメントの長手方向軸線に対して垂直方向で、位置固定エレメントがガイドエレメントの溝内に突入する箇所において、円形の形状を有していることを意味している。
【0017】
有利な別の1つの実施形態では、少なくとも1つのガイドエレメントが、その端面もしくはその端部において、ケーシング内で回動可能に支承されている。このような支承部によって、この支承部により定義される、運動エレメントの長手方向軸線に対して平行に延びている1つの軸線を中心とした回転以外の、ケーシング内におけるガイドエレメントのあらゆる運動は阻止される。このような構成は、ガイドエレメントとケーシングとの間の摩擦が、位置固定エレメントにおけるガイドエレメントの位置調整時に最小限にされ、したがって関与する構成部分における摩耗を減じることができるという利点を有している。
【0018】
本発明の有利な別の1つの実施形態では、少なくとも1つのガイドエレメントは、ガイドエレメントの長手方向での運動が一方の側ではケーシングへの当接により制限されており、ガイドエレメントの、反対方向への運動が、位置固定リングにより阻止されるように、ケーシングの切欠き内に配置されているので、これにより、ガイドエレメントの長手方向の運動は不可能である。
【0019】
ガイドエレメントが、その長手方向軸線に対して垂直方向で対称的、かつ好適には円形の横断面を有している実施形態がさらに有利である。特に円形の横断面により、小さな構造サイズおよび本発明の簡単な実現を確保することができる。
【0020】
有利な別の1つの実施形態では、ガイドエレメントと、このガイドエレメントが収納されているケーシングの切欠きとが、ガイドエレメントの長手方向軸線に対して垂直方向で、同一の横断面形状を有している。したがって、このような構成は、先行技術による回動防止手段よりも大きな構造空間を要求しない。
【0021】
有利な別の1つの実施形態では、少なくとも1つのガイドエレメントの溝が、溝の長手方向で対称的な横断面を有している。
【0022】
さらに、有利な1つの実施形態では、少なくとも1つのガイドエレメントの材料と、少なくとも1つの位置固定エレメントの材料とが、材料間の摩擦時に、小さな摩耗および/または小さな摩擦抵抗を有する材料ペアを形成する。少なくとも1つのガイドエレメントの材料は、好適には、たとえば硬い鋼のような硬い材料から成っている。これにより、溝と、少なくとも1つの位置固定エレメントとの高められた摩耗を回避し、より小さな保守手間を確保することができる。
【0023】
位置固定エレメントの、運動エレメントの回動による位置固定エレメントの回動時に溝の複数の側面のうちの1つの側面に接触する点が、ガイドエレメントの、長手方向軸線に対して垂直方向の横断面の中心点よりも、スピンドルの表面から遠く離れるまで、位置固定エレメントの端部が溝内に突入する本発明の実施形態がさらに有利である。
【0024】
本発明に係るボールねじ伝動装置は、軌道溝プロフィールおよび定義された外径を備えたスピンドルと、スピンドルの外径よりも僅かに大きな定義された内径を備えたナットとを有している。さらに、ボールねじ伝動装置は、少なくとも2つのボールを有しており、これらのボールは、ナットとスピンドルとの間で、スピンドルの軌道溝プロフィール内に配置されており、これによりスピンドルとナットとの間の摩擦の少ない運動を可能にする。このようなアセンブリでは、スピンドルは、ナットがスピンドルを中心として回転した場合に、長手方向に運動する。ナットの長手方向軸線とスピンドルの長手方向軸線とは、互いに重なって位置しており、ナットは、長手方向の運動なしにスピンドルを中心として回転する。
【0025】
スピンドルの回転運動を阻止するために、ボールねじ伝動装置は、本発明に係る回動防止手段を備えている。ボールねじ伝動装置のスピンドルは、回動防止手段の運動エレメントである。つまり、スピンドル上に配置されている位置固定エレメントは、その突出した端部で、スピンドルに対向して配置されたガイドエレメントの溝内に係合し、この溝内でガイドされる。ガイドエレメントは、上述のように、スピンドルのケーシング内に配置されている。
【0026】
本発明に係る別のボールねじ伝動装置は、上述のボールねじ伝動装置の運動学的な反転を成す。このような実施形態では、スピンドルは、その固有の回転軸線を中心として回転し、この場合に軸方向に運動することはない。これにより、ナットは、軸方向運動、つまり並進運動をさせられ、このためには、この場合に、ナットの回転が阻止されていなければならない。したがって、つまり回動防止手段は、ナットに設けられており、これにより、ナットは、このボールねじ伝動装置において、回動防止手段の運動エレメントを形成する。したがって、位置固定エレメントがガイドされる溝を備えた少なくとも1つのガイドエレメントは、ナットに対向して、この実施形態のボールねじ伝動装置のケーシング内に配置されている。したがって、位置固定エレメントを、ガイドエレメントの溝内で、並進運動時にガイドすることができ、ナットの回転は阻止される。
【0027】
以下に本発明を図面につき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るボールねじ伝動装置の1つの実施形態の構造の基本配置図である。
図2図1に示した実施形態の、スピンドルの位置固定エレメント、スピンドル自体および2つのガイドエレメントの横断面図である。
図3】本発明に係るボールねじ伝動装置の機能原理を図示するための、図2に示した横断面の詳細図である。
図4】ガイドエレメントを位置調整するための機能原理を説明するための、図2の別の詳細図である。
図5】回動防止手段を備えた本発明に係るボールねじ伝動装置の別の1つの実施形態を説明するための概略図である。
【0029】
図1は、本発明に係る回動防止手段を備えた本発明に係るボールねじ伝動装置の1つの実施形態の構造の基本配置図を示している。ボールねじ伝動装置1の中心的な構成部分は、スピンドル3と、このスピンドルの長手方向軸線を中心として回転するナット4とである。ナットとスピンドルとの間には複数のボールが配置されており、これにより、ナット4のできるだけ摩擦の少ない回転を確保することができる。ボールは、スピンドル3内の、図1には図示されていない軌道溝プロフィール内でガイドされる。ナット4は、その外径部において、玉軸受6により回転支承されているので、スピンドル3を中心としたナット4の回転運動が可能であるが、スピンドル3の長手方向へのナット4の運動は阻止される。
【0030】
ナット4が、たとえば電動モータ(図示せず)により回転させられると、ナット4の回転運動は、スピンドル3の軌道溝プロフィール内にガイドされたボールによって、スピンドル3の並進運動(図平面で左右方向)へと変換される。ボールが、ナット4の回転運動と、これにより引き起こされるスピンドル3の並進運動とにより、軌道溝プロフィールに沿ってナット4とスピンドル3との間の領域から出るように移動させられるので、ボールは、ナット4の一方の端部から他方の端部へと戻される必要がある。このことは、ナット4内の、図示はしないが先行技術から公知の戻しシステムにより行われる。
【0031】
ナット4の動的な回動によるスピンドル3の回転を阻止するために、スピンドル3の回動運動を回動防止手段により阻止することが必要である。回動防止手段は、図1に図示された実施形態では3つの構成部分から成っている。まず、本実施形態では運動エレメントと理解することができるスピンドル3の端部に、位置固定エレメント2が設けられている。この位置固定エレメント2は、スピンドル3の長手方向軸線に対して垂直方向に配置されている。位置固定エレメント2は、さらに、位置固定エレメント2の長手方向軸線に対して垂直方向の切断方向で円形の横断面を有している。したがって、位置固定エレメント2は、スピンドル3の長手方向軸線に対して垂直方向に延びる円柱形のピンと説明することができる。さらに、ピンの両端部は、明らかにスピンドル3の表面から半径方向で外方に突出している。ピンの端面は、この実施形態では平坦な面として構成されている。
【0032】
回動防止手段の別の2つの構成部分は、図平面においてスピンドル3の上側および下側で直接に対峙して、スピンドル3の長手方向軸線に対して平行に配置されているガイドエレメント5である。スピンドル3と位置固定エレメント2と同様に、ガイドエレメント5も円形の横断面を有しており、したがって平坦な端面を備えた円柱体と説明することができる。
【0033】
両ガイドエレメント5は、それぞれスピンドル3に面した側において、溝を有している(図1には図示せず)。これらの溝は、それぞれ位置固定エレメント2の端部を収容している。溝は、スピンドル3の(図平面で)左側に向かう並進運動時に、スピンドル3が位置固定エレメント2を介して溝内で全操作長さLにわたってガイドされ、スピンドル3の回転を回避することができるように、ガイドエレメント5内に配置されている。さらに、溝の横断面形状は、位置固定エレメント2のそれぞれガイドすべき端部に一致するので、溝の横断面はできるだけ完全に位置固定エレメント2の端部により満たされており、この場合に、溝に沿った位置固定エレメント2の並進運動を阻止することはない。
【0034】
ガイドエレメント5自体は、それぞれボールねじ伝動装置1のケーシング7の切欠き内に配置されている。この場合に、切欠きと、ガイドエレメント5とは、ガイドエレメント5の長手方向軸線に対して垂直方向で同一の横断面形状を有している。ガイドエレメント5の、説明された横断面の半径は、それぞれの切欠きの横断面の半径よりも僅かに小さいことに注意すべきである。長手方向の運動は、一方の側(図平面で右側)ではケーシング7におけるガイドエレメント5の当接により、他方の側(図平面で左側)では位置固定リング8により制限されている。したがって、ガイドエレメント5は、切欠き内でその長手方向軸線を中心として回動することができる一方で、長手方向でのガイドエレメントの並進運動は不可能である。
【0035】
図2は、図1に示したボールねじ伝動装置の実施形態の横断面を示している。断面は、位置固定エレメントの高さ方向に延びているので、スピンドル3、位置固定エレメント2および両ガイドエレメント5が示される。この場合に、スピンドル3と、両ガイドエレメント5の円形の横断面を確認することができる。位置固定エレメント2のそれぞれの端部は、ガイドエレメント5の溝に係合する。スピンドル、ひいては位置固定エレメント2の運動は、この視点では図平面内へ、または図平面から出るように行われる。
【0036】
図3は、図2に示した横断面の詳細図を示している。この場合、下側のガイドエレメント5と、スピンドル3および位置固定エレメント2の下側部分のみを観察することができる。本発明の原理をより良好に説明することができるように、ガイドエレメント5の溝が、位置固定エレメント2の端部よりも著しく大きく図示されており、これにより溝と位置固定エレメント2との間で著しく大きな間隙を確認できることを指摘しておく。
【0037】
スピンドル3、ひいては位置固定エレメント2も、ガイドエレメント5に対して僅かな回動角を有している。この回動角は、ナット4の回転によりスピンドル3に作用するトルクMにより引き起こされる、スピンドル3の僅かな回転により生じる。溝が、この溝の領域における位置固定エレメント2よりも大きな横断面を有しているので、位置固定エレメント2の端部は、まず溝内で運動することができる。所定の回動角からは、位置固定エレメントは、側面で溝に接触する(図示された状態)。位置固定エレメント2の端部の接触点は、図平面において、ガイドエレメント5の実質的に円形の横断面の中心点の下側に位置している。このことは、図3において、ガイドエレメントの横断面の中心点と、溝と位置固定エレメント2との間の接点との間の間隔Lにより示されている。
【0038】
ガイドエレメントと位置固定エレメントとの接触後に、トルクMがガイドエレメント5に伝達される。このガイドエレメント5が、ケーシングの切欠き(図3には図示せず)内で図平面において僅かに運動し、特に回転することができるので、位置固定エレメント2のトルクMは、ガイドエレメント5のトルクMにつながり、このことは特に切欠き内でのガイドエレメント5の回動につながる。
【0039】
図4は、トルクMの結果としてのガイドエレメント5の位置調整を示している。左図は、図3においてすでに説明した状況を示している。位置固定エレメント2は、溝の側面に接触しているので、トルクMは、ガイドエレメント5に伝達され、トルクMを引き起こす。このトルクMは、次いでガイドエレメント5の長手方向軸線に対して平行な1つの軸線を中心としたガイドエレメント5の回動をもたらす。その結果、ガイドエレメント5は、位置固定エレメント2が、溝内に位置する側面全体で、溝の側面に接触するように位置調整される。
【0040】
この位置では、トルクMをもはやガイドエレメント5に伝達することはできず、これによりトルクMは、もはやガイドエレメント5に作用しない。したがってガイドエレメント5の回転は停止し、ガイドエレメント5はその終端位置に到達している。
【0041】
この終端位置では、左図に示した位置と比較して、位置固定エレメント2とガイドエレメント5との間で点状接触の代わりに線形接触が生じている。したがって、位置固定エレメント2のトルクMを介して作用する力は、図4の左図におけるよりも大きな領域に分配される。
【0042】
冒頭に記載したような先行技術による従来の解決手段では、位置固定エレメントが、ボールねじ伝動装置のケーシング内の溝内にガイドされている。したがって、先行技術による解決手段は、図4の左側の図により表されている。ガイドエレメント5の位置調整により(右図を参照)、かつこれに伴う、溝の側面における位置固定エレメント2のより大きな当接面を介した、ガイドエレメント5もしくはケーシング(図4には図示せず)への力導入により、位置固定エレメント2とガイドエレメント5との間のより小さな摩耗を達成することができ、それにもかかわらず、スピンドルの回動は確実である。
【0043】
図5は、別の回動防止手段を備えた本発明に係るボールねじ伝動装置の概略図を示している。図5に示した実施形態は、図1に示した実施形態と運動学的に反転している。
【0044】
駆動装置9は、クラッチ10を介してスピンドル3に結合されている。スピンドル3は、少なくともその周面の一部に軌道溝プロフィール3aを有しており、軸受11を介して回転支承されている。ナット4が、軌道溝プロフィール3a内に挿入されたボール(図示せず)を介してスピンドルに係合している。スピンドル3は、上述の実施形態と同様にナット4を貫通している。この場合に両構成部分は、互いに対して同軸的に配向されている。さらにナットは、スピンドル3の長手方向に沿った並進運動を実施することができるように支承されている。ナットの軸方向の両端部に配置されている回動防止手段12により、ナット4の回転は阻止されている。本発明に係る回動防止手段は、上述のように、位置固定エレメント2とガイドエレメント5とから成っており、この場合、位置固定エレメント2は、ガイドエレメント5の溝内に係合する。ナット4は、さらに、操作エレメント13に接続されている。ガイドエレメントおよび溝は、図1に示した実施形態のボールねじ伝動装置におけるように、位置固定エレメントに対向して、ケーシング7の切欠き内に配置されている。
【0045】
ボールねじ伝動装置の機能形式は、以下の通りである。駆動装置9により駆動運動(回転)がクラッチ10を介してスピンドル3に作用すると、スピンドルが回転運動させられる。ナット4とスピンドル3との間のボールを介して達成された形状結合部は、ナットが軸方向で並進的に運動することができるようにする一方で、回動防止手段12により、ナット4の回転運動を阻止することができるようにする。したがって、操作エレメントは、スピンドル3の長手方向軸線に対して平行に運動することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ボールねじ伝動装置
2 位置固定エレメント
3 スピンドル
3a 軌道溝プロフィール
4 ナット
5 ガイドエレメント
6 玉軸受
7 ケーシング
8 位置固定リング
9 駆動装置
10 クラッチ
11 軸受
12 回動防止手段
13 操作エレメント
操作長さ
スピンドルに作用するトルク
ガイドエレメントに作用するトルク
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】