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特表2022-521233桂皮酸を含む組成物及びその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】桂皮酸を含む組成物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20220330BHJP
   A61K 31/235 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K31/235
A61P25/00
A61P43/00 121
A61P3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548664
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(85)【翻訳文提出日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 US2020019568
(87)【国際公開番号】W WO2020176432
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】62/810,055
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302057661
【氏名又は名称】ラッシュ・ユニバーシティ・メディカル・センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】パハン, カリパーダ
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA21
4C206DB16
4C206DB46
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA12
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZC21
4C206ZC51
4C206ZC54
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、神経変性障害又はグリシン脳症の進行を阻害するのに有用な薬学的組成物に関する。薬学的組成物は桂皮酸を含むことができる。薬学的組成物及び製剤は、患者に経口投与することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療的有効量の桂皮酸を含む薬学的組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、グリシン脳症の進行を阻害する方法。
【請求項2】
薬学的組成物が1日1回患者に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効量が、50kgの患者に基づいて、1日当たり約1.25グラム~約15グラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
薬学的組成物が、薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
薬学的組成物が経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
薬学的組成物が1日1回患者に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
組成物が、徐放性組成物及び遅延放出組成物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
患者がヒト患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ヒト患者が3歳未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ヒト患者が2歳未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ヒト患者が1歳未満である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
患者が小児ヒト患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
治療的有効量が、患者の血液中の安息香酸ナトリウムレベルを増加させる量である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの少なくとも1つを含む組成物を患者に投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
グリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの少なくとも1つを含む組成物が、患者に経口投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
グリセリルジベンゾエートを含む組成物を患者に投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
グリセリルトリベンゾエートを含む組成物を患者に投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
治療的有効量の桂皮酸を含む薬学的組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、クラッベ病の進行を阻害する方法。
【請求項19】
薬学的組成物が、薬学的に許容される担体又は賦形剤と共に製剤化される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
患者が1歳未満のヒト患者である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年2月25日に出願された米国仮出願第62/810,055号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、疾患及び障害の治療に有用な薬学的組成物に関する。より詳細には、本開示は、桂皮酸を含む薬学的組成物、及びグリシン脳症又は神経変性障害、例えばクラッベ病の治療のためにそのような組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
シナモンの木の褐色の樹皮であるシナモンは、一般的に使用されるスパイス及びフレーバー材料であり、例えば、デサート、キャンディ及びチョコレートなどの食品に使用される。医薬品として使用されてきた長い歴史もある。中世の医師は、関節炎、咳、嗄声及び咽頭痛を含む様々な障害を治療するために医薬品にシナモンを使用した。マンガン、食物繊維、鉄、及びカルシウムを含有することに加えて、シナモンは、3つの主要な化合物、即ちシンナムアルデヒド、酢酸シンナミル及びシンナミルアルコールを含有する。摂取後、これら3つの活性化合物は、酸化及び加水分解によって桂皮酸に変換される。次いで、桂皮酸は、肝臓においてベンゾエートにβ酸化される。ベンゾエートは、ナトリウム塩(安息香酸ナトリウム)又はベンゾイル-CoAとして存在する。
【0004】
安息香酸ナトリウムは、その抗菌特性のために広く使用されている食品防腐剤である。安息香酸ナトリウムはまた、尿素サイクル障害などの高アンモニア血症に関連する肝代謝欠陥の治療に使用される食品医薬品局(FDA)承認薬であるUcephan(商標)の成分として医学的重要性を有する。
【0005】
非ケトン性高グリシン血症(NKH)又はグリシン脳症は、グリシン切断系の欠乏によって引き起こされる稀な先天性代謝異常である。ほとんどの場合、グリシンデカルボキシラーゼ(GLDC)遺伝子の変異によって引き起こされる。血液及び脳脊髄液中のグリシンレベルの増加のために、NKHは、発作、低血圧、認知障害、発達遅延、及びミオクローヌス攣縮などの複雑で多様な表現型によって特徴を明らかにし、最終的に無呼吸をもたらし、乳児期又は幼児期の早期の死亡にさえ至る。グリシンはベンゾエートと反応して馬尿酸を形成し、これは尿を介して排出される。安息香酸ナトリウムは、グリシン脳症の治療に利用可能な唯一の薬物である。しかし、安息香酸ナトリウム自体も、尿を介して体内から速やかに排出される。したがって、患者は、血液中のその有効濃度を維持するために、高用量で1日に数回安息香酸ナトリウムで治療されなければならない。そのような高用量の安息香酸ナトリウムに起因して、患者はしばしば悪心、嘔吐及び頭痛を患い、眠気を感じる。
【0006】
リソソーム蓄積症(LSD)は、リソソーム機能の欠陥に起因する約50の稀な遺伝性代謝異常の一群である。LSDの症候は、特定の障害及び発症年齢などの他の変数に応じて異なり、軽度から重度であり得る。症候には、発達遅延、運動障害、発作、認知症、難聴及び/又は失明が含まれ得る。LSDを有する一部の人々は、肝肥大(肝腫大)及び脾臓腫(脾腫大)、肺及び心臓の問題、並びに異常に成長する骨を有する。
【0007】
リソソーム蓄積症には、神経変性障害、例えば、神経セロイドリポフスチン症、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、クラッベ病、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底核変性症(CBD)又はレビー小体型認知症(DLB)などのパーキンソン様疾患を含むパーキンソン病が含まれる。
【発明の概要】
【0008】
本開示の一態様は、神経変性障害及びグリシン脳症などの疾患を治療するための組成物及び方法に関する。一実施形態は、グリシン脳症の進行を阻害する方法を開示する。別の実施形態は、クラッベ病などの神経変性障害を治療する方法を開示する。方法は、有効量の桂皮酸を含む薬学的組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0009】
本開示はまた、医薬、薬学的組成物、及び/又は製剤の製造に関する。一態様では、本開示は、神経変性障害又はグリシン脳症を治療するための医薬、薬学的組成物及び/又は製剤を製造するための桂皮酸の使用に関する。
【0010】
更なる実施形態では、本開示は、神経変性障害又はグリシン脳症の進行を阻害するための製剤を使用する方法に関する。方法は、有効量の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含み、製剤は、桂皮酸と、場合により、グリセリルジベンゾエート及びグリセリルトリベンゾエートの少なくとも1つとを含む。
【0011】
上記は、以下の詳細な説明がよりよく理解され得るように、本開示の特徴及び技術的利点をかなり広く概説した。本開示の更なる特徴及び利点は、本出願の特許請求の範囲の主題を形成する以下に記載される。開示された概念及び特定の実施形態は、本開示の同じ目的を実行するための他の実施形態を修正又は設計するための基礎として容易に利用され得ることが当業者によって理解されるべきである。そのような同等の実施形態が添付の特許請求の範囲に記載された開示の精神及び範囲から逸脱しないことも当業者によって理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A-1B】桂皮酸(CA)処置は、Lenti-GLDC-shRNA損傷マウスにおいて記憶及び学習を改善する。C57/BL6マウス(8~10週齢)に、尾静脈注射によってレンチウイルスGLDC shRNA(10oμlのハンクス平衡塩類溶液即ちHBSS中1×10IFU/マウス)を1回投与した。したがって、対照マウスにも、尾静脈を介して10oμlのHBSSを投与した。lenti-GLDC shRNA注射の7日後から、マウスを、経管栄養法によって毎日異なる用量(50及び100mg/kg体重/日)のCAで処置した。CA処置の7日後、空間学習及び記憶をバーンズ迷路によって監視した(図1A、潜時、図1B、エラー)。結果は、群あたり5匹のマウスの平均±SEMである。
図2】桂皮酸(CA)処置は、lenti-GLDC-shRNA損傷マウスの皮質におけるグリシンのレベルを低下させる。C57/BL6マウス(8~10週齢)に、尾静脈注射を介してレンチウイルスGLDC shRNA(10oμlのHBSS中1×10IFU/マウス)を1回投与した。したがって、対照マウスにも、尾静脈を介して10oμlのHBSSを投与した。lenti-GLDC shRNA注射の7日後から、マウスを、経管栄養法によって毎日異なる用量(50及び100mg/kg体重/日)のCAで処置した。CA処置の14日間後、蛍光定量アッセイキット(Biovision社)を使用することによって皮質中のグリシンのレベルを測定した。各マウス試料は3重で行った。結果は、群あたり5匹のマウスの平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
様々な実施形態を以下に説明する。実施形態の様々な要素の関係及び機能は、以下の詳細な説明を参照することによってよりよく理解され得る。しかし、実施形態は、本明細書に明示的に開示されたものに限定されない。特定の例では、本明細書に開示される実施形態の理解に必要ではない詳細は省略されている場合があることを理解されたい。
【0014】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当該技術分野で一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾がある場合、定義を含む本文書が優先される。好ましい方法及び材料を以下に記載するが、本明細書に記載の方法及び材料と類似又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができる。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書に開示される材料、方法、及び例は、例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0015】
本明細書で使用される「含む(comprise(s))」、「含む(include(s))」、「有する(having)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含む(contain(s))」という用語、及びそれらの変形は、追加の行為又は構造の可能性を排除しないオープンエンドの移行句、用語、又は単語であることを意図している。単数形「a」、「and」及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の言及を含む。本開示はまた、明示的に記載されているか否かにかかわらず、本明細書に提示される実施形態又は要素を「含む(comprising)」、「からなる(consisting of)」、及び「から本質的になる(consisting essentially of)」他の実施形態も企図する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「患者」という用語は、ヒト又は獣医学的患者を指す。一実施形態では、獣医学的患者は非ヒト哺乳動物患者である。
【0017】
本明細書で使用される場合、「治療効果」という用語は、患者の障害、例えばグリシン脳症に関連する又はそれに対する抵抗性の病理学的症候、疾患進行又は生理的状態の改善を誘導、改善又は他の方法で引き起こす効果を意味する。薬物に関して使用される「治療的有効量」という用語は、患者に治療効果を与える薬物の量を意味する。
【0018】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、任意の種類の非毒性の不活性固体、半固体又は液体充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は処方助剤を意味する。
【0019】
神経変性障害又はグリシン脳症を治療するための組成物及び方法
安息香酸ナトリウムは、特定の神経変性障害及びグリシン脳症を含む特定の疾患又は障害の治療に有用であり得るが、迅速に代謝され、身体から排出される。本発明者は、プロドラッグとして作用し、患者の体内でのナトリウムベンゾネート(benzonate)の徐放性を可能にする桂皮酸を含む薬学的組成物を開示する。一実施形態では、組成物は、治療的有効量の桂皮酸を含む。患者に投与されると、桂皮酸は肝臓で脂肪酸β酸化経路によって代謝され、ベンゾエートを放出する。桂皮酸の投与は、治療有効用量のベンゾエートを患者の血液中で維持することを可能にする。
【0020】
神経変性障害は、例えば、ニューロンセロイドリポフスチン症、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、クラッベ病、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底核変性症(CBD)又はレビー小体型認知症(DLB)などのパーキンソン様疾患を含むパーキンソン病が含まれる。一態様では、本開示は、桂皮酸を含む薬学的組成物を投与することによる、クラッベ病又はグリシン脳症などの神経変性障害の治療を提供する。本発明者は以前に、リソソーム蓄積障害及び特定の神経変性障害を含む様々な疾患又は状態の治療のための桂皮酸及び他の関連化合物の使用を開示した。その内容が参照により本明細書に組み込まれる、2017年5月17日に出願された「COMPOSITIONS AND METHODS FOR TREATING LYSOSOMAL DISORDERS」と題する米国特許出願第15/527,506号を参照されたい。
【0021】
一実施形態では、本開示は、桂皮酸を含む薬学的組成物の1日1回の投与のみを必要とするクラッベ病又はグリシン脳症などの神経変性障害の治療を提供する。他の実施形態では、これらの疾患の治療は、薬学的組成物の1日2回の投与を含む。特定の実施形態では、本明細書に開示される薬学的組成物は、グリセリルトリベンゾエート(トリベンゾインとしても知られる)及び/又はグリセリルジベンゾエートも含む。いくつかの態様では、本明細書に開示される薬学的組成物は、桂皮酸、並びにグリセリルトリベンゾエート及びグリセリルジベンゾエートの両方を含む。グリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートは、2107年10月5日に出願された「THE USE OF A BENZOATE CONTAINING COMPOSITION TO TREAT GLYCINE ENCEPHALOPATHY」と題する米国仮特許出願第62/569,251号に開示されているように、安息香酸ナトリウムの徐放製剤として役立ち得、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
いくつかの実施形態では、クラッベ病又はグリシン脳症などの神経変性障害の進行を阻害するための治療が開示される。グリシン脳症では、体内のグリシンのレベルが上昇する。高レベルのグリシンは、多数の有害な状態をもたらす。グリシンは、ベンゾエートと反応して馬尿酸を形成することが知られている。次いで、馬尿酸は尿を介して排泄され得る。
【0023】
安息香酸ナトリウムは、グリシン脳症の現在の唯一の治療法であるが、非常に迅速に身体から分泌されるため、患者は高用量の化合物で頻繁に(1日に数回)治療する必要がある。例えば、乳児は、約2.8gm/日の用量で約6時間ごとに処置する必要があり得る。このような高用量に起因して、治療を受けている患者はしばしば眠気を催し、他の問題を経験している。しかし、桂皮酸の投与は、臨床的に有効なレベルのベンゾエートを患者の体内で維持することを可能にするプロドラッグとして役立ち得る。
【0024】
本開示によって企図される治療方法では、桂皮酸、並びに場合によりグリセリルトリベンゾエート及び/又はグリセリルジベンゾエートを含む組成物は、単独で、又は薬学的に許容される担体若しくは賦形剤と共に組成物中で使用され得る。薬学的に許容される担体として役立ち得る材料のいくつかの例は、ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類;コーンスターチ及びジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのその誘導体、エチルセルロース及び酢酸セルロース;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオバター及び坐薬ワックスなどの賦形剤;ピーナッツオイル、綿実油などのオイル;ベニバナ油;ゴマ油;オリーブオイル;コーン油及び大豆油;グリコール;プロピレングリコールなど;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどのバッファー剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、及びリン酸バッファー溶液、並びにラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性適合性潤滑剤であり、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤及び芳香剤、並びに防腐剤及び抗酸化剤も配合者の判断で組成物中に存在させることができる。他の適切な薬学的に許容される賦形剤は、’’Remington’s Pharmaceutical Sciences,’’Mack Pub.Co.,New Jersey,1991に記載されている。
【0025】
特定の実施形態では、組成物は、ヒト及び獣医学的患者に経口投与することができる。特定の実施形態では、患者はヒト患者、例えば小児ヒト患者である。患者は、例えば、1歳未満、2歳未満又は3歳未満であってもよい。薬学的組成物は経口投与することができる。あるいは、組成物は、皮下、関節内、皮内、静脈内、腹腔内又は筋肉内経路によって投与される。いくつかの実施形態では、組成物は、1日1回投与される。他の実施形態では、組成物は、1日2、3、4回又はそれ以上投与される。
【0026】
組成物は、投与のために製剤化されてもよく、製剤化の方法は当該技術分野で周知である(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,19th Edition(1995)を参照されたい)。
【0027】
本明細書に開示される製剤のいずれも、クラッベ病又はグリシン脳症などの神経変性障害の進行を治療/阻害するために使用することができる。いくつかの実施形態では、本開示は、クラッベ病又はグリシン脳症などの神経変性障害の進行を阻害するための製剤を使用する方法に関する。方法は、有効量の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む。いくつかの実施形態では、製剤は、1グラム/1mlの桂皮酸を含む。いくつかの実施形態では、製剤は、グリセリルジベンゾエート及び/又はグリセリルトリベンゾエートも含み得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、製剤は、長期間にわたって桂皮酸を着実に放出することを意味する徐放性製剤であってもよい。他の実施形態では、製剤は、投与直後よりも後の時点で桂皮酸を放出することを意味する遅延放出製剤であってもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、製剤は、患者に経口投与される。いくつかの実施形態では、1日の総用量は、2つ又は3つの実質的に等しい用量などの複数の用量に分割され、1日を通して異なる時間に投与することができる。いくつかの実施形態では、患者は、50kgの患者に基づいて、1日当たり約1.25グラム~約15グラムの桂皮酸を投与することができる。
【0030】
本開示に従って使用するための薬学的組成物は、滅菌非発熱原性液体溶液若しくは懸濁液、コーティングカプセル、凍結乾燥粉末、又は当該技術分野で公知の他の形態の形態であってもよい。
【0031】
経口投与用の固体剤形としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤及び顆粒剤が挙げられる。そのような固体剤形では、活性化合物は、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤又は担体、及び/又はa)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及びケイ酸などの充填剤又は増量剤、b)カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース及びアカシアなどの結合剤、c)グリセロールなどの湿潤剤、d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のケイ酸塩及び炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、e)パラフィンなどの溶液遅延剤、f)第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、g)アセチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、h)カオリン及びベントナイトクレーなどの吸収剤、並びにi)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなどの潤滑剤、及びそれらの混合物と混合される。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形はバッファー剤も含むことができる。
【0032】
同様のタイプの固体組成物は、ラクトース又は乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用して、軟質及び硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として使用することもできる。
【0033】
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティング及び医薬製剤分野で周知の他のコーティングなどのコーティング及びシェルを用いて調製することができる。それらは、不透明化剤を任意選択的に含有してもよく、腸管の特定の部分においてのみ、又は優先的に、任意選択的に遅延様式で活性成分を放出する組成物であってもよい。使用することができる包埋組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスが挙げられる。
【0034】
活性化合物はまた、上記のように1つ又は複数の賦形剤と共にマイクロカプセル化された形態であってもよい。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤及び顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティング、放出制御コーティング及び医薬製剤分野で周知の他のコーティングなどのコーティング及びシェルを用いて調製することができる。このような固体剤形では、活性化合物は、スクロース、ラクトース又はデンプンなどの少なくとも1つの不活性希釈剤と混合することができる。そのような剤形はまた、通常の慣行のように、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば錠剤化潤滑剤及び他の錠剤化助剤、例えばステアリン酸マグネシウム及び微結晶性セルロースを含むことができる。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形はまた、バッファー剤を含むことができる。それらは、乳白剤を場合により含有してもよく、活性成分のみを、又は優先的に、腸管の特定の部分において、場合により遅延様式で放出する組成物であってもよい。使用することができる包埋組成物の例としては、ポリマー物質及びワックスが挙げられる。
【0035】
経口投与のための液体剤形には、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ剤及びエリキシル剤が含まれる。活性化合物に加えて、液体剤形は、当該技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤、例えば水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、EtOAc、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブオイル、ヒマシ油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにそれらの混合物を含有することができる。不活性希釈剤に加えて、経口組成物はまた、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、甘味剤、香味剤及び芳香剤などのアジュバントも含むことができる。
【0036】
本開示の組成物の有効量は、一般に、神経変性障害又はグリシン脳症の進行を阻害する(例えば、遅延又は停止)のに十分な任意の量を含む。単一剤形を生成するために担体材料と混合することができる桂皮酸の量は、治療される宿主及び特定の投与様式に応じて変化する。しかし、任意の特定の患者に対する特定の用量レベルは、使用される特定の化合物の活性、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物の組み合わせ、及び治療を受けている特定の障害又は疾患の重症度を含む様々な要因に依存することが理解されよう。所与の状況に対する治療的有効量は、常套的な実験によって容易に決定することができ、通常の臨床医の技能及び判断の範囲内である。
【0037】
本開示の治療方法によれば、障害の進行は、所望の結果を達成するために、そのような量で、必要に応じてそのような時間、有効量の桂皮酸を患者に投与することによって、ヒト又は獣医学的患者などの患者において遅延又は停止される。疾患又は障害の進行を遅延又は停止させるのに有効な化合物の量は、任意の医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスク比で疾患又は障害を治療するのに十分な量の化合物を指すことができる。
【0038】
しかし、本開示の化合物及び組成物の1日の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されよう。任意の特定の患者に対する特定の治療有効用量レベルは、治療される疾患又は障害及び障害の重症度;使用される特定の化合物の活性度;使用される特定の組成物;患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別及び食事;使用される特定の化合物の投与時間、投与経路、及び排泄速度;治療期間;使用される特定の化合物と組み合わせて又は同時に使用される薬物;及び医学分野で周知の同様の因子を含む様々な因子に依存する。
【0039】
併用療法の治療剤は、同じ薬学的組成物で対象に投与することができる。あるいは、併用療法の治療剤は、別々の薬学的組成物で同時に又は逐次的に対象に投与することができる。治療剤は、同じ又は異なる投与経路によって対象に投与することができる。
【0040】
ヒトなどの温血動物に投与される桂皮酸などの本開示の化合物の「治療的有効量」又は用量は、治療される障害に応じて異なり得る。クラッベ病又はグリシン脳症に関連して、桂皮酸の有効量は、50kgの患者に基づいて、1日当たり約1.25g~約15gであってもよい。例えば、有効量は、1日当たり、患者50kg当たり約1.25g、約2.5g、約4g、約5g、約7.5g、約10g、又は約12gであってもよい。いくつかの実施形態では、有効量は、1日当たり、患者50kg当たり約1.25g~約10g、約1.25g~約7g、約1.25g~約4g、又は約1.25g~約2gであってもよい。
【0041】
本明細書に開示及び特許請求される全ての組成物及び方法は、本開示に照らして過度の実験をすることなく作製及び実行することができる。本発明は多くの異なる形態で具体化することができるが、本発明の特定の好ましい実施形態が本明細書に詳細に記載されている。本開示は、本発明の原理の例示であり、本発明を例示された特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0042】
絶対的な用語又は近似的な用語のいずれかで示される任意の範囲は、両方を包含することを意図しており、本明細書で使用される任意の定義は、明確であり、限定的ではないことを意図している。本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかし、任意の数値は、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。更に、本明細書に開示される全ての範囲は、その中に包含されるありとあらゆる部分範囲(全ての分数値及び全体値を含む)を包含すると理解されるべきである。
【実施例
【0043】
レンチウイルスグリシンデカルボキシラーゼ(GLDC)shRNAによるC57/BL6マウスの治療:C57/BL6マウス(8~10週齢)に、尾静脈注射を介してレンチウイルスGLDC shRNA(100μlのハンクス平衡塩類溶液即ちHBSS中1×10IFU/マウス)を1回投与した(図1)。したがって、対照マウスの群には、尾静脈注射によって100μlのHBSSのみを投与した。
【0044】
桂皮酸の経口投与:lenti-GLDC shRNA注射の7日後から、マウスを、経管栄養法によって毎日異なる用量(50及び100mg/kg体重/日)の桂皮酸で処置した。桂皮酸(Sigma社)を100μlの0.5%メチルセルロースに可溶化した後、経管栄養した。したがって、1つの群のlenti-GLDC shRNA損傷マウスも、ビヒクル対象として100μlの0.5%メチルセルロースで処置した。
【0045】
7日間の桂皮酸処置後、マウスをバーンズ迷路によって空間学習及び記憶について監視した(図1)。有意な認知障害が、HBSS処置対照マウスと比較して、lenti-GLDC shRNA損傷マウスにおいて見られた(図1A~B)。Lenti-GLDC shRNA損傷マウスは、HBSS処置対照マウスと比較して、正しい穴を見つけるのにより長い時間がかかり(図1A)、より多くのエラーが生じた(図1B)。しかし、試験した両用量の経口桂皮酸は、標的の穴に到達する際のlenti-GLDC shRNA損傷マウスの潜時及びエラーを有意に減少させ(図1A~B)、経口桂皮酸はまた、lenti-GLDC shRNA損傷マウスの認知機能を増加させたことを示唆した。
【0046】
処置の14日目に、マウスを屠殺し、脳(皮質)中のグリシンのレベルを測定した。
【0047】
予想されたように、本発明者らは、HBSSのみを投与した対照マウスと比較して、lenti-GLDC shRNA損傷マウスの皮質においてグリシンのレベルの顕著な増加を観察した(図2)。しかし、経口桂皮酸処置は、lenti-GLDC shRNA損傷マウスの皮質におけるグリシンのレベルを強く阻害した(図2)。50mg/kg体重/日の用量でさえ、桂皮酸はグリシンのレベルを低下させるのに非常に有効であった(図2)。
【0048】
本発明者らは、50~100mg/kg体重/日の用量で桂皮酸処置中に使用したマウスのいずれにおいても副作用(例えば、脱毛、体重減少、下痢、有害な感染症など)を認めなかった。したがって、これらの用量では、桂皮酸はいかなる毒性作用も示さない。まとめると、これらのデータは、桂皮酸がNKHにおいて治療的意義を有し得ることを示唆している。
【0049】
更に、本発明は、本明細書に記載の様々な実施形態の一部又は全部のありとあらゆる可能な組み合わせを包含する。本明細書に記載された現在好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が当業者には明らかであることも理解されるべきである。そのような変更及び修正は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、かつその意図された利点を減少させることなく行うことができる。したがって、そのような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって網羅されることが意図されている。
図1A-1B】
図2
【国際調査報告】