(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】腫瘍溶解性アデノウイルスベクター及び使用法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20220330BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20220330BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220330BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220330BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220330BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220330BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220330BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220330BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20220330BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N15/861 Z ZNA
C12Q1/02
A61K35/761
A61P35/00
A61P15/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K38/19
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549176
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 US2020019179
(87)【国際公開番号】W WO2020172509
(87)【国際公開日】2020-08-27
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521366827
【氏名又は名称】アンリーシュ イミュノ オンカリティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キュリエル,デヴィッド ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ポッドアイセル,オスヴァルド
(72)【発明者】
【氏名】ロペス,マリア ベロニカ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QR39
4B063QR79
4B063QR80
4B063QS38
4B063QS40
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4C084AA01
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4C084ZA81
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4C084ZB26
4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA17
4C087MA56
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA81
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本明細書中提供されるのは、低酸素及び炎症に反応するプロモーターの制御下で変異E1Aタンパク質を発現し及び腫瘍特異的プロモーターの制御下で1つまたは複数の免疫モジュレーターを発現する条件的複製5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターである。アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、3型の繊維及びヘキソンタンパク質も含む。同じく提供されるのは、本アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを含有する組成物を用いて腫瘍細胞で細胞傷害性を誘導する方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)低酸素及び炎症に反応する第一プロモーターと機能的に連結された変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列、
(b)アデノウイルスゲノムのE1B領域の全部または一部の欠失、
(c)1つまたは複数の非天然核酸配列、前記非天然核酸配列はそれぞれ、免疫モジュレーターをコードし、及び腫瘍細胞で活性である第二プロモーターと機能的に連結されている、
(d)3型アデノウイルス繊維ノブドメインを含む繊維タンパク質、ならびに
(e)1つまたは複数の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質
を含む、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項2】
前記アデノウイルスゲノムのE3領域の全部もしくは一部及び/または前記アデノウイルスゲノムのE4領域の全部もしくは一部の欠失を含む、請求項1に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項3】
前記1つまたは複数の非天然核酸配列は、前記アデノウイルスゲノムの前記欠失したE1B、E3、及び/またはE4領域に位置する、請求項2に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項4】
前記1つまたは複数の非天然核酸配列は、前記欠失したE1B領域に位置する、請求項3に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項5】
変異E1Aタンパク質をコードする前記核酸配列は、前記E1Aタンパク質の網膜芽細胞腫(Rb)タンパク質結合領域内に15ヌクレオチドの欠失を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項6】
前記第一プロモーターは、1つまたは複数の低酸素反応性配列要素(HRE)及び1つまたは複数の核内因子カッパB(NF-κB)炎症反応性配列要素(κBRE)を含む分泌型酸性高システインタンパク質(SPARC)プロモーターである、請求項1から5のいずれか1項に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項7】
CD40リガンド(CD40L)をコードする外来核酸配列及び4-1BBリガンド(4-1BBL)をコードする外来核酸配列を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項8】
前記第二プロモーターは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーターである、請求項1から7のいずれか1項に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項9】
(a)1つまたは複数の低酸素反応性配列要素(HRE)及び1つまたは複数の核内因子カッパB(NF-κB)炎症反応性配列要素(κBRE)を含む分泌型酸性高システインタンパク質(SPARC)プロモーターと機能的に連結された変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列、
(b)アデノウイルスゲノムのE1B領域の全部または一部の欠失、
(c)CD40リガンド(CD40L)をコードする第一外来核酸配列及び4-1BBリガンド(4-1BBL)をコードする第二外来核酸配列、前記第一及び前記第二外来核酸配列は、(i)配列内リボソーム新入部位(IRES)で隔てられており、かつ(ii)ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーターと機能的に連結されている、
(d)繊維ノブと置き換わった単鎖ラクダ科抗体アミノ酸配列を含む繊維タンパク質、前記ラクダ科抗体は、CD276タンパク質に特異的に結合する、ならびに
(e)1つまたは複数の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質
を含む、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクター。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター及び薬学上許容されるキャリアを含む、組成物。
【請求項11】
前記アデノウイルスまたは前記アデノウイルスベクターのウイルス粒子(vp)を約1×10
9~約1×10
14個含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記アデノウイルスまたは前記アデノウイルスベクターのvpを約1×10
10~約1×10
12個含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
腫瘍細胞における細胞傷害性の誘導法であって、前記腫瘍細胞を、請求項10から12のいずれか1項に記載の組成物と接触させることを含み、その際、前記変異E1Aタンパク質及び前記外来核酸配列が前記腫瘍細胞で発現し、及び前記細胞傷害性が誘導される、前記方法。
【請求項14】
前記腫瘍細胞は、in vitroにある、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記腫瘍細胞は、in vivoにある、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記腫瘍細胞は、哺乳類中にある、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳類は、ヒトである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍細胞は、卵巣細胞である、請求項13から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
さらに、前記腫瘍細胞を化学療法剤で処置することを含む、請求項13から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
さらに、前記腫瘍細胞をサイトカインまたはチェックポイント阻害剤(CI)で処置することを含む、請求項13から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
哺乳類における腫瘍細胞の処置のための、請求項10から12のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第62/808,694号、出願日2019年2月21日、の優先権を主張し、その開示は、本明細書中参照として援用される。
【0002】
電子提出された資料の参照による組み込み
本明細書とともに同時に提出されたコンピュータ読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸配列表は、そのまま全体が本明細書中参照により組み込まれ、この配列表は、以下のとおり特定される:ファイル数1、2,371バイトのASCII(テキスト)ファイル、ファイル名「2020-02-21_37394-601_SQL_ST25.TXT」、作成日2020年2月21日。
[背景技術]
【0003】
腫瘍溶解性ウイルス療法(OV)は、がん治療の将来有望かつ刺激的な新規アプローチである。腫瘍溶解性ウイルスとは、がん細胞で選択的に複製を行い、正常組織を傷つけることなくがん細胞を殺傷する、遺伝子操作されたまたは天然のウイルスである。細胞殺傷という主要効果に加えて、OVは、免疫系も刺激することができる。腫瘍溶解性ウイルス免疫療法には、免疫系細胞、例えば、樹状細胞及びT細胞なども活性化させる腫瘍溶解性ウイルスの使用が関係し、がん免疫療法の有望な作用剤となっている。現在のOV方法は、多種多様なウイルス、例えば、アデノウイルス、ニューカッスル病ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レオウイルス、パルボウイルス、及び麻疹ウイルスなどを利用する。腫瘍溶解性ウイルスの1種、タリモジンラヘルパレプベク、すなわちT-VEC(IMLYGIC(商標))は、黒色腫の患者で最初の手術後に再発した切除不能な皮膚病変、皮下病変、及び結節病変の局所療法用に、FDAにより承認された。腫瘍溶解性ウイルス免疫療法は、多種多様ながん、例えば、膀胱癌、前立腺癌、結腸直腸癌、卵巣癌、肺癌、乳癌、及び多発性骨髄腫などに関して、現在臨床試験で研究中である。
【0004】
OVの急速な発展とともに、腫瘍溶解性ウイルスの安全性及び効力を改善する方法も開発されており、そのような方法として、例えば、腫瘍選択性の改善、腫瘍細胞への感染性及び腫瘍細胞中の条件的複製の向上、ならびに細胞傷害性の向上または宿主免疫刺激のための導入遺伝子発現の最大化が挙げられる(例えば、Lang et al.,J.Clin.Oncol.,36:1419-1427(2018)、Forsyth and Abate-Daga,J.Clin.Oncol.,36:1440-1442(2018)、Desjardins et al.,NEJM,Epub June 26,2018、及びLongo and Baden,NEJM,Epub June 26,2018を参照)。
【0005】
アメリカがん協会(ACS)によれば、卵巣癌は、女性におけるがんによる死亡原因の第5位であり、女性生殖器系の他のどのがんよりも多く死因を占めている。女性が卵巣癌になる生涯リスクは、約78分の1であり、卵巣癌で亡くなる生涯チャンスは、約108分の1である。ACSは、2018年の間に、22,000例を超える卵巣癌が診断され、卵巣癌関連死は14,000例を超えると推定している。卵巣癌の大部分は、かなり後期のステージで検出され、軽い症候を示す(例えば、股関節痛)。卵巣癌の治療選択肢、例えば、細胞切除手術及び細胞傷害性化学療法は改善されてきているものの、より有効な治療法、特に進行疾患用の治療法が依然として必要とされている。腫瘍溶解性アデノウイルスは、第I相臨床試験で卵巣癌を標的とする見込みがあることを示した(例えば、Kimball et al.,Clin.Cancer Res.,16(21):5277-87(2010)、Cerullo et al.,Cancer Res.,70(11):4297-309(2010)、及びKoski et al.,Mol.Ther.,18(10):1874-84(2010)を参照)。しかしながら、こうした治療の臨床応答は、依然として不透明であり、宿主二次免疫応答により、それらの効力が阻害される可能性がある。
【0006】
腫瘍選択性、抗腫瘍活性、及び腫瘍特異的宿主免疫応答の改善を示す腫瘍溶解性ウイルス療法の組成物及び方法が依然として必要とされている。本開示は、そのような組成物及び方法を提供する。
[発明の概要]
【0007】
本開示は、以下を含む5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを提供する:(a)低酸素及び炎症に反応する第一プロモーターと機能的に連結された変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列、(b)アデノウイルスゲノムのE1B領域の全部または一部の欠失、(c)1つまたは複数の外来核酸配列、当該核酸配列はそれぞれ、免疫モジュレーターをコードし、腫瘍細胞で活性である第二プロモーターと機能的に連結されている、(d)3型アデノウイルス繊維ノブドメインを含む繊維タンパク質、ならびに(e)1つまたは複数の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質。
【0008】
本開示は、以下を含む5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターも提供する:(a)分泌型酸性高システインタンパク質(SPARC)プロモーターと機能的に連結された変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列、当該プロモーターは、1つまたは複数の低酸素反応性配列要素(HRE)及び1つまたは複数の核内因子カッパB(NF-κB)炎症反応性配列要素(κBRE)を含む、(b)アデノウイルスゲノムのE1B領域の全部または一部の欠失、(c)CD40リガンド(CD40L)をコードする第一の非天然核酸配列及び4-1BBリガンド(4-1BBL)をコードする第二の非天然核酸配列、ただし、第一及び第二非天然核酸配列は、(i)配列内リボソーム進入部位(IRES)で隔てられており、及び(ii)ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーターと機能的に連結されている、(d)繊維ノブに挿入された単鎖ラクダ科抗体アミノ酸配列を含む繊維タンパク質、ただしラクダ科抗体は、CD276タンパク質に特異的に結合する、ならびに(e)1つまたは複数の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質。
【0009】
本開示は、上記アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのいずれかを含む組成物、ならびに当該組成物を用いて腫瘍またはがん細胞に細胞傷害性を誘導する方法も、提供する。
[図面の簡単な説明]
【0010】
[
図1]A~Fは、本開示が包含する複数の異なるアデノウイルス実施形態を図解する概略図である。詳細には、Bは、実施例1に記載のUIO-523アデノウイルスの概略図である。
[
図2A]SKOV3細胞中のCD40Lのin vitro発現を実証するフローサイトメトリーデータのプロットであり、アイソタイプの対照(明灰色)、MOIが100のUIO-523(中間の灰色、33.2%陽性)、及びMOIが1000のUIO-523(暗灰色、74.8%陽性)である。
[
図2B]A549細胞中のCD40Lのin vitro発現を実証するフローサイトメトリーデータのプロットであり、アイソタイプの対照(明灰色)、MOIが100のUIO-523(中間の灰色、89.6%陽性)、及びMOIが1000のUIO-523(暗灰色、90%陽性)である。
[
図3A]SKOV3細胞(
図3A)における、AF2011及びUIO-523 hH5ベクターの溶解活性を図解するグラフである。AR2011-lucは、非複製対照ベクターである。
[
図3B]CT26細胞(
図3B)における、AF2011及びUIO-523 hH5ベクターの溶解活性を図解するグラフである。AR2011-lucは、非複製対照ベクターである。
[
図3C]PA1細胞に対するUIO-523 hH5、UIO-523 hH3、及びUIO-523 mH3の溶解活性を図解するグラフである。
[
図4]は、実施例2に記載のとおりに処置したマウスから得られた腫瘍のタンパク質抽出物における、CD40Lの発現を示す画像である。
[
図5A]PBS(
図5A)、AR2011(
図5B)、及びUIO-523(
図5C)で処置した卵巣癌の皮下異種移植片マウスモデルにおける腫瘍体積を図解するグラフである。
[
図5B]PBS(
図5A)、AR2011(
図5B)、及びUIO-523(
図5C)で処置した卵巣癌の皮下異種移植片マウスモデルにおける腫瘍体積を図解するグラフである。
[
図5C]PBS(
図5A)、AR2011(
図5B)、及びUIO-523(
図5C)で処置した卵巣癌の皮下異種移植片マウスモデルにおける腫瘍体積を図解するグラフである。
[
図5D]PBS(
図5D)、AR2011(
図5E)、及びUIO-523(
図5F)で処置したマウスの代表的な腫瘍の画像である。
[
図5E]PBS(
図5D)、AR2011(
図5E)、及びUIO-523(
図5F)で処置したマウスの代表的な腫瘍の画像である。
[
図5F]PBS(
図5D)、AR2011(
図5E)、及びUIO-523(
図5F)で処置したマウスの代表的な腫瘍の画像である。
[
図6]卵巣癌腫症の腹腔内マウスモデルにおける播種性腫瘍に対するUIO-523及びAR2011のin vivo溶解活性を図解するグラフである。
[
図7]PBS対照(上段パネル)、AR2011(中段パネル)、またはUIO-523hH5(下段パネル)で処置したSKOV3腹腔内異種移植片モデルマウスから切除した腫瘍の画像である。
[
図8]PBS対照、AR2011、またはUIO-523hH5で処置したSKOV3腹腔内異種移植片モデルマウス由来の腫瘍における、E4コピー数/μgDNAを示すグラフである。
[
図9]A~Fは、ヒト(CHO-hC3)またはマウス(CHO-mC3)CD276を表面で発現するように改変したCHO細胞で、繊維修飾したAd.CMV-GFP.H3.F(CD276)(D~F)またはAd.CMV-GFP.H3.F(3)(A~C)を形質移入した後の、免疫蛍光画像である。未改変CHO細胞は、対照としての役目を担った。
[
図10]A及びBは、Ad.CMV-GFP.H3.F(3)(A)及びAd.CMV-GFP.H3.F(CD276)(B)を感染させた横紋筋肉腫細胞の免疫蛍光画像である。
[発明を実施するための形態]
【0011】
本開示は、少なくとも部分的に、腫瘍関連間質細胞で選択的に複製を行い、免疫モジュレータータンパク質を発現する条件的複製性アデノウイルス(CRAd)の開発に立脚している。CRAdは、腫瘍溶解性免疫療法用途で、特に化学療法及び/またはチェックポイント阻害剤療法の補助として、使用可能である。
【0012】
アデノウイルスは、約36キロベース(kb)の二本鎖DNAを含有する中程度の大きさ(90~100nm)の無エンベロープ正二十面体ウイルスである。アデノウイルスカプシドは、細胞のウイルス感染の初期段階における重要な相互作用に介在し、アデノウイルス生活環の最後でアデノウイルスゲノムをパッケージ化するのに必要である。カプシドは、252のカプソメアを含み、これには、240のヘキソントリマー、12のペントン塩基ペンタマータンパク質、及び12のトリマー繊維が含まれる(Ginsberg et al.,Virology,28:782-83(1966))。ヘキソンは、3つの同一タンパク質を含み、このタンパク質はポリペプチドIIと呼ばれる(Roberts et al.,Science,232:1148-51(1986))。ペントン塩基は、5つの同一タンパク質を含み、トリマー繊維は、3つの同一タンパク質を含む。タンパク質IIIa、VI、及びIXは、アデノウイルスコートに存在しており、ウイルスカプシドを安定化させると考えられる(Stewart et al.,Cell,67:145-54(1991)、及びStewart et al.,EMBOJ.,12(7):2589-99(1993))。カプシドタンパク質の発現は、pIXを除いて、アデノウイルスポリメラーゼタンパク質に依存する。したがって、アデノウイルス粒子の主要構成要素は、ポリメラーゼタンパク質遺伝子が存在し、かつ発現する場合にのみ、ゲノムから発現する。
【0013】
アデノウイルスのいくつかの特長が、それらを、治療用途(例えば、遺伝子治療、免疫療法、またはワクチンとして)のため遺伝子材料を細胞に移送するための理想的なビヒクルにしている。例えば、アデノウイルスは、高力価(例えば、約1013粒子単位(pu))で製造可能であり、非複製及び複製細胞に遺伝子材料を移送することができる。アデノウイルスゲノムは、大量の外来DNA(最高で約8kb)を保有するように操作することができ、アデノウイルスカプシドは、さらに長い配列の移送を増強することができる(Curiel et al.,Hum.Gene Ther.,3:147-154(1992))。さらに、アデノウイルスは、一般に、宿主細胞染色体に組み込まれず、そうではなくて直鎖エピソームとして維持され、それにより、組換えアデノウイルスが正常細胞機能に干渉する可能性を最小限にする。
【0014】
アデノウイルスは、50を超える血清型が同定されており、それらは、サブグループA(例えば、12型、18型、及び31型)、サブグループB(例えば、3型、7型、11型、14型、16型、21型、34型、35型、50型、及び55型)、サブグループC(例えば、1型、2型、5型、及び6型)、サブグループD(例えば、8型、9型、10型、13型、15型、17型、19型、20型、22~30型、32型、33型、36~39型、及び42~49型、51型、53型、54型、56型)、サブグループE(例えば、4型)、サブグループF(例えば、40型及び41型)、サブグループG(例えば、52型)に分類されている。様々な血清型のアデノウイルスが、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC、Manassas、Va.)から入手可能である。
【0015】
1つの実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクター(「Ad5」)である。「アデノウイルス」という用語は、本明細書中使用される場合、アデノウイルス生活環に関与する能力を保持し、物理的に不活性化されていない、例えば、破壊(例えば、超音波処理)、変性(例えば、加熱もしくは溶媒を使用)、または架橋(例えば、ホルマリン架橋による)によリ不活性化されていない、アデノウイルスを示す。「アデノウイルス生活環」は、(1)ウイルスの結合及び細胞への進入、(2)アデノウイルスゲノムの転写及びアデノウイルスタンパク質の翻訳、(3)アデノウイルスゲノムの複製、ならびに(4)ウイルス粒子組立て、を含む(例えば、Fields Virology,5th ed.,Knipe et al.(eds.),Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,Pa.(2006)を参照)。「アデノウイルスベクター」という用語は、本明細書中使用される場合、アデノウイルスゲノムが操作されて、当該アデノウイルスゲノムに関して非天然である核酸配列を収容している、アデノウイルスを示す。典型的には、アデノウイルスベクターの生成は、非天然核酸配列、例えば、遺伝子移送用のものの挿入がアデノウイルスに提供されているように、1つまたは複数の変異(例えば、欠失、挿入、または置換)をアデノウイルスのアデノウイルスゲノムに導入することによる。
【0016】
実施形態によっては、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、キメラである。「キメラ」アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、2種以上(例えば、2種、3種、4種など)の異なる血清型のアデノウイルスに由来するアデノウイルスゲノムを含む場合がある。実施形態によっては、キメラアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、2種以上の異なる血清型のアデノウイルスそれぞれのゲノムをほぼ等しい量で含むことができる。キメラアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターゲノムが2種の異なる血清型のアデノウイルスのゲノムで構成される場合、キメラアデノウイルスベクターゲノムは、好ましくは、一方の血清型アデノウイルスのゲノムを約95%以下(例えば、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、または約40%以下)で含み、キメラアデノウイルスゲノムの残部は、他方の血清型アデノウイルスのゲノムから得られるまたはそれに由来するものである。1つの実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのゲノムの大半(すなわち、50%超)は、5型アデノウイルスから得られるまたはそれに由来するものである。
【0017】
上記で検討されるとおり、本明細書中開示されるアデノウイルス及びアデノウイルスベクターは、条件的に複製を行う。条件的複製アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターとは、予め定めた条件下で複製を行うように操作されたアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターである。例えば、複製に必須の遺伝子機能、例えば、アデノウイルス初期領域がコードする遺伝子機能を、誘導的、抑制可能な、または組織特異的プロモーターと作動的に連結させることができる。そのような実施形態において、複製は、プロモーターを活性化または抑制する特定因子の存在または不在を必要とする。条件的複製アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許第5,998,205号、同第6,824,771号にさらに記載される。アデノウイルス複製に必須である遺伝子産物は、アデノウイルスゲノムのE1、E2、及びE4領域にコードされる。E1領域は、E1A及びE1Bサブ領域を含み、一方、E2領域は、E2A及びE2Bサブ領域を含む。E4領域は、複数のオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、それらのうちORF6が、及び場合によってはORF3も、アデノウイルス複製に必須である。アデノウイルスゲノムのE3領域は、複製に必須の遺伝子機能を何も含まない。
【0018】
初期領域1A及び1B(E1A及びE1B)遺伝子は、増殖性アデノウイルス溶解サイクルに必要なタンパク質をコードする(Fields、既出)。E1Aは、感染後最初に転写されるウイルス遺伝子であり、2種の関連タンパク質、243R及び289Rを生成する。243R及び289Rは、その他の初期ウイルス遺伝子領域の転写を誘導するとともに、感染細胞を刺激して細胞周期のS期に入らせる。E1B領域は、2種の主要タンパク質、E1B19K及びE1B55Kをコードする。E1B55Kタンパク質は、細胞腫瘍抑制因子p53に結合して、p53が介在するアポトーシスならびにウイルス及び細胞複製の阻害をブロックすることができる。E1B19Kタンパク質は、Baxと相互作用しアポトーシスを阻害するBcl-2ホモログであり、ウイルスがより長く複製することを可能にする(Sundararajan,R.and White,E,J.Virology,75:7506-7516(2001))。最近になって、E1Bタンパク質が腫瘍溶解性アデノウイルスの複製に必須ではない可能性が実証された(Lopez et al.,Mol.Ther.,20:2222-2233(2012)、及びViale et al.,J.Invest.Dermatol.,133(11):2576-2584(2013))。E1Aタンパク質は、p300/CBPまたは網膜芽細胞腫(Rb)タンパク質と会合することにより、感染細胞でS期を誘導することが示されている(Howe et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:5883-5887(1990)、Wang et al.,Mol.Cell.Biol.,11:4253-4265(1991)、Howe,J.A.and Bayley,S.T.Virology,186:15-24(1992))。Rb及びp300は、E2F転写因子の活性を調節し、E2F転写因子は、細胞周期の進行に必要な細胞遺伝子の発現を調和させている(Helin,K.,Curr.Opin.Genet.Dev.,8:28-35(1998))。したがって、E1A遺伝子産物は、部分的には、E2F転写因子を網膜芽細胞腫タンパク質(pRb)腫瘍抑制因子から取り除くことにより、無活動細胞が細胞周期に入るように駆動することでウイルスゲノム複製において役割を果たす(Liu,X.and Marmorstein,R.,Genes & Dev., 21:2711-2716(2007))。
【0019】
ある種の腫瘍細胞で条件的に複製を行うアデノウイルスは、典型的には、以下のアプローチのうち1つまたはそれらの組み合わせを用いて製造される:(1)E1Aの発現を駆動する組織特異的プロモーターの使用、それにより、E1A駆動型ウイルス複製を特定の組織または腫瘍に限定する(Rodriguez et al.,Cancer Res.,57:2559-2563(1997)、Alemany et al.,Cancer Gene Ther,6:21-25(1999)、Hallenbeck et al.,Hum.Gene Ther.,10:1721-1733(1999)、及びHowe et al.,Mol.Ther.,2(5):485-495(2000))、(2)p53またはRbいずれかとのウイルスタンパク質相互作用を抑制する変異をE1領域内で発生させて、これらの遺伝子産物を欠いた腫瘍細胞を標的とする、及び/または(3)天然アデノウイルス指向性の修飾(Jounaidi et al.,Curr.Cancer Drug Targets,7(3):285-301(2007))。1つの実施形態において、本明細書中記載されるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列を含む。アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、任意の適切な変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列を含むことができるが、望ましくは、変異E1Aタンパク質は、網膜芽細胞腫タンパク質との結合の障害または消失を呈する。変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列は、1つまたは複数のヌクレオチドに欠失、挿入、または置換を有することにより、この核酸配列にコードされるE1Aタンパク質を、Rb結合欠陥性にしている。Rbに結合しない、または低下した親和性でRbと結合する変異E1Aタンパク質は、当該分野で既知であり(例えば、米国特許第5,801,029号、同第5,856,181号、及び同第5,972,706号を参照)、本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターと合わせて使用することができる。1つの実施形態において、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列は、E1AのRbタンパク質結合ドメインに1つまたは複数のヌクレオチド(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のヌクレオチド)の欠失を有する。ある特定の実施形態において、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列は、10~20ヌクレオチド(すなわち、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20ヌクレオチド)の欠失を有する。例えば、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号1の核酸配列を含む場合があり、この核酸配列は、E1AのRbタンパク質結合ドメインに15ヌクレオチドの欠失を有していて、その結果、E1AのRbタンパク質結合ドメインのアミノ酸123番~127番が欠失している(TCHEA)。
【0020】
腫瘍細胞または腫瘍関連細胞におけるアデノウイルスの優先的複製を実現させるため、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列を、腫瘍細胞で活性であるが、正常細胞では活性ではないプロモーターと機能的に連結させることができる。そのようなプロモーターを、本明細書中、「腫瘍特異的」、「組織特異的」、「細胞特異的」、「がん特異的」プロモーターと称する。本明細書中使用される場合、「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼの結合を指示し、それによりRNA合成を促進するDNA配列を示す。プロモーターが、核酸配列の転写を指示することができる場合、その核酸配列は、そのプロモーターと「作動的に連結され」または「機能的に連結され」ている。プロモーターは、作動的もしくは機能的に連結された核酸配列に対して、天然または非天然であることが可能である。配列を作動的に連結して一緒にする技法は、当該分野で周知である。腫瘍特異的またはがん特異的プロモーターは、核酸配列を発現させようとする標的組織または腫瘍細胞型に基づいて選択することができる。広範囲にわたる腫瘍特異的プロモーターが、条件的複製アデノウイルス構築物に使用されてきており、そのどれでも、本開示の文脈において使用可能である。そのようなプロモーターとして、例えば、α-胎児タンパク質プロモーター(Hallenbeck et al.,Hum Gene Ther.,10(10):1721-33(1999))、前立腺特異的抗原(PSA)プロモーター(Rodriguez et al.,Cancer Res.,57(13):2559-63(1997))、MUC1/DF3プロモーター(Kurihara et al.,J Clin Invest.,106:763-771(2000))、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーター(Zhang et al.,J Biol Chem.,287(39):32494-32511(2012))、及びE2Fプロモーター(Tsukuda et al.,Cancer Res.,62:3438-3447(2002))が挙げられる。
【0021】
実施形態によっては、プロモーターは、それ自身、腫瘍細胞またはがん細胞において優先的に活性である場合があるが、他の実施形態では、腫瘍特異的またはがん特異的プロモーターには、腫瘍またはがんに関連した細胞(本明細書中、「腫瘍関連細胞」または「がん関連細胞」と称する)において優先的に活性であるプロモーターが含まれる。実際、腫瘍微小環境は、腫瘍塊及び腫瘍細胞が近くの内在宿主間質から動員させた支援(または「間質」)細胞からなる、異種細胞集団であることが、わかるだろう。腫瘍関連間質細胞(TASC)として、血管内皮細胞、周皮細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、及び骨髄間葉系間質細胞が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態において、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列は、低酸素及び炎症に反応するプロモーターと機能的に連結されており、低酸素及び炎症は両方とも、腫瘍細胞及び腫瘍関連間質細胞の一般的な特徴である(例えば、Laitala,A.and J.T.Erler,Front.Oncol.,8:189(2018)、Petrova et al.,Oncogenesis,7:10(2018)、Casazza et al.,Oncogene,33(14):1743-1754(2014)を参照)。実際、TASCは、多くの炎症促進性因子、例えば、IL-6、IL-8、間質由来因子1アルファ、VEGF、テネイシン-C、及びマトリクスメタロプロテイナーゼなどを分泌することが知られている(Filer et al.,Discov.Med.,7(37):20-26(2007)、及びBussard et al.,Breast Cancer Res.,18:84(2016))。低酸素及び炎症に反応するプロモーターは、1つまたは複数の低酸素反応性配列要素(HRE)及び1つまたは複数の炎症反応性配列要素を組み込むことにより、操作されたものである場合がある。これに関して、プロモーターは、低酸素誘導因子1(HIF-1)との結合を介して低酸素に反応するHREを1つまたは複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上)及びNF-kB炎症反応性配列要素(kBRE)を1つまたは複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上)含むことができ、HIF-1は、酸素欠乏に対する細胞反応において重要な役割を果たす転写因子である。
【0022】
1つの実施形態において、プロモーターは、分泌型酸性高システインタンパク質(SPARC)プロモーターである。SPARCは、オステオネクチンまたはBM-40としても知られているが、これは、多くの細胞型で発現し、組織修復、創傷治癒、形態発生、細胞分化、細胞遊走、及び血管新生に関連する多角形分泌型糖タンパク質である。SPARCは、腫瘍及び様々ながんのその周囲間質において発現の仕方が異なる。SPARCの発現レベルが高くなることが、乳癌、黒色腫、及び神経膠芽細胞腫で報告されている。SPARCの発現レベルが低くなることが、他の種類の癌、例えば、卵巣癌、結腸直腸癌、膵癌、及び急性骨髄性白血病でわかっており、これは主に、プロモーターメチル化による(Chen et al.,Scientific Reports,4:7035(2014)、及びTai I.T.& Tang M.J.,Drug Resist Updat.,11:231-46(2008))。本開示の文脈において、SPARCプロモーターは、上記のとおり、腫瘍関連間質細胞においてプロモーターと機能的に連結された核酸配列の発現を指示するように、1つまたは複数の低酸素反応性配列要素(HRE)及び1つまたは複数の核内因子カッパB(NF-κB)炎症反応性配列要素(κBRE)を含むように改変される。本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターで使用するのに適したSPARCプロモーターは、例えば、米国特許第8,436,160号に記載されている。
【0023】
他の実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、血管内皮細胞(EC)、特に、腫瘍関連血管内皮細胞で優先的に複製を行うことが望ましい場合がある。血管内皮細胞(EC)は、腫瘍溶解性ウイルス免疫療法の理想的標的である場合がある。なぜなら、それらは、広く拡散した、組織へのアクセスを提供し、静脈内ベクター投与後に最初に接触する表面だからである。したがって、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列は、内皮細胞で主にまたは排他的に活性であるプロモーター(すなわち、「内皮細胞特異的プロモーター」)と機能的に連結されている場合がある。当該分野で既知の任意の適切な内皮細胞特異的プロモーターが使用可能であり、そのようなプロモーターとして、ICAM-2プロモーター、エンドグリンプロモーター、Flt-1プロモーター、ラウンドアバウト4(ROBO4)プロモーター、またはTie1プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。実施形態によっては、変異E1Aタンパク質をコードする核酸配列は、ROBO4プロモーター(米国特許出願公開第2016/0145643号及び同第2017/0159072号、Okada et al.,Circ Res.,100:1712-1722(2007)、ならびにLu et al.,PLoS ONE,8(12):e83933(2013)に記載)、またはTie1プロモーター(例えば,Korhonen,Blood,86(5):1828-1835(1995)に記載)と機能的に連結されている。
【0024】
実施形態によっては、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの1つまたは複数の領域において、その全部または一部の欠失を有する場合がある。実施形態によっては、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、遺伝子の機能を消失させるまたは障害する(例えば、遺伝子産物の機能が少なくとも約2倍、5倍、10倍、20倍、30倍、または50倍低下する)のに十分な、アデノウイルスゲノム遺伝子材料の欠失を有し、その核酸配列は、全部または一部が破壊(例えば、削除)されてしまっている。アデノウイルスゲノムに1つまたは複数の非天然核酸配列(または「導入遺伝子」)に十分な空間を提供する目的で、1つまたは複数の遺伝子領域の大部分を除去することが望ましい場合がある。これに関して、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、アデノウイルス初期領域(例えば、E1、E2、E3、及びE4領域)、後期領域(例えば、L1、L2、L3、L4、及びL5領域)、ウイルスパッケージ化に関与する遺伝子(例えば、IVa2遺伝子)、及び/またはウイルス関連RNA(例えば、VA-RNA-1及び/またはVA-RNA-2)のいずれかの全部または一部の欠失を有する場合がある。1つの実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムのE1B領域の全部または一部の欠失、アデノウイルスゲノムのE3領域の全部または一部の欠失、及び/またはアデノウイルスゲノムのE4領域の全部または一部の欠失を含む。欠失の大きさは、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのゲノムが最適ゲノムパッケージ寸法との近接な一致を維持するように、調節することができる。欠失が大きいほど、アデノウイルスまたはアデノウイルスゲノムはより大きな非天然核酸配列の挿入を収容できるようになる。
【0025】
アデノウイルスゲノムのある特定領域、例えば、アデノウイルスゲノムのE1B、E3、及び/またはE4領域の全部または一部を除去することにより、得られるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、アデノウイルスカプシド中にパッケージ化される能力を維持したままで、外来非天然核酸配列の挿入を受け入れ可能になる。したがって、別の実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、1つまたは複数の非天然核酸配列を含む。非天然核酸配列は、挿入がアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター粒子の形成を許容するかぎり、アデノウイルスゲノムの任意の位置に挿入することができる。「非天然」核酸配列とは、天然に生じる位置で天然に生じるアデノウイルス核酸配列ではない任意の核酸配列(例えば、DNA、RNA、またはcDNA配列)である。すなわち、非天然核酸配列は、アデノウイルスで天然に見つかる可能性があるが、アデノウイルスゲノム内の非天然の位置にある、及び/または非天然プロモーターと作動的に連結している可能性がある。「非天然核酸配列」、「異種核酸配列」、及び「外来核酸配列」という用語は、同義であり、本開示の文脈において互換使用することができる。非天然核酸配列は、好ましくは、DNAであり、好ましくは、タンパク質をコードする(例えば、1つまたは複数の核酸配列が1つまたは複数のタンパク質をコードする)。「導入遺伝子」という用語は、本明細書中、非天然核酸配列が発現してRNAまたはタンパク質(例えば、調節RNA配列、ペプチド、またはポリペプチド)を生成できるように、適切な調節配列要素(例えば、プロモーター)と作動的に連結された、非天然核酸配列と定義される。調節配列要素(例えば、プロモーター)は、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターに対して天然または非天然のものが可能である。
【0026】
1つまたは複数の非天然核酸配列はそれぞれ、望ましくは、免疫モジュレーターをコードする。「免疫モジュレーター(immune modulator)」、「免疫モジュレータータンパク質」、「免疫モジュレーター(immunomodulator)」という用語は、本明細書中同義で使用され、生物の正常な免疫機能に影響を及ぼす物質またはタンパク質を示す。実施形態によっては、免疫モジュレーターは、免疫応答を活性化、賦活、または復元するなどにより、生物の免疫機能を刺激する。他の実施形態において、免疫モジュレーターは、既存免疫応答を減弱するまたは免疫応答の刺激を予防するなどにより、免疫機能に負の効果を発揮する場合がある。免疫モジュレーターは、天然物質(例えば、タンパク質)の場合もあれば、合成化合物の場合もある。天然免疫モジュレーターの例として、サイトカイン、ケモカイン、及びインターロイキンが挙げられるが、これらに限定されない。サイトカインとは、典型的には、活性化刺激に反応して様々な細胞型から放出され、特異的受容体との結合を通じて反応を誘導する、小タンパク質(約25kDa)である。サイトカインの例として、インターフェロン(すなわち、IFN-α、IFN-β、IFN-γ)、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、腫瘍壊死因子(例えば、TNF-α)、トランスフォーミング成長因子(TGF)-βファミリーメンバー(例えば、TGF-β1及びTGF-β2)が挙げられるが、これらに限定されない。ケモカインとは、走化性因子性質を有するサイトカインの1つのクラスであり、適切な受容体を持つ細胞を、ケモカイン源に向かって遊走するように誘導する。ケモカインは、大きくは2つのグループに分けられる:アミノ末端近くに2つの隣接システインを有するCCケモカイン、または2つの等価なシステイン残基が別のアミノ酸で隔てられているCXCケモカインである。CCケモカインとして、ケモカインリガンド(CCL)1~28が挙げられるが、これらに限定されない。CXCケモカインとして、CXCリガンド(CXCL)1~17が挙げられるが、これらに限定されない。インターロイキンは、病原に反応してマクロファージから分泌される構造的に多様なサイトカインからなるグループであり、インターロイキンとして、例えば、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-6、IL-12、及びIL-8が挙げられる。他のサイトカイン、ケモカイン、及びンターロイキンも、当該分野で既知であり、例えば、Cameron M.J.,and KelvinD.J.,Cytokines,Chemokines and Their Receptors.In:Madame Curie Bioscience Database,Austin(TX):Landes Bioscience;2000-2013に記載されており、www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK6294/から入手可能である。他の実施形態において、免疫モジュレーターは、合成により製造されたものでも、組換えにより製造されたものでもよい。例えば、免疫モジュレーターは、融合タンパク質、キメラタンパク質、または天然の免疫モジュレーターの任意の改変版である場合がある。最近、オルソポックスウイルス主要組織適合遺伝子複合体クラスI様タンパク質(OMCP)として知られるNKG2Dリガンドと及びIL-2Rαに対する親和性が乏しい変異型IL-2とで構成された組換え融合タンパク質が開発されており、これは、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターに使用される可能性がある。この融合タンパク質(「OMCP-mutIL-2」と称する)は、ナチュラルキラー(NK)細胞などのNKG2D保有細胞でのみ、IL-2シグナル伝達を強力かつ選択的に活性化し、IL-2Rα保有細胞を広く活性化することがない(Ghasemi et al.,Nature Communications,7,Article No:12878(2016))。
【0027】
1つの実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、サイトカインCD40リガンド(CD40L)をコードする非天然核酸配列及びサイトカイン4-1BBリガンド(4-1BBL)をコードする非天然核酸配列を含む。CD40Lは、CD154としても知られるが、これは、活性化T細胞で主に発現するTNFタンパク質スーパーファミリーの一員である。CD40L-CD40相互作用は、APCによるIL-12分泌の刺激を介したTh1 T細胞のin vivoプライミングにとって重要である(Grewal,I.S.and Flavell,R.A.,Annual Review of Immunology,16:111-135(1998))。実施形態によっては、CD40Lをコードする核酸配列は、変異している場合がある。例えば、非天然核酸配列は、CD40L発現が細胞膜で保持されるように、メタロプロテイナーゼ切断に対して抵抗性であるCD40Lをコードする場合がある(例えば、Elmetwali et al.,Molecular Cancer,9:52(2010)に記載されるとおり)。4-1BBリガンドは、CD137リガンド及びTNFSF9としても知られるが、これは、腫瘍壊死因子(TNF)リガンドファミリーに属する膜貫通サイトカインである。4-1BBLは、TNFRSF9に対するリガンドとして作用する双方向性シグナルトランスデューサーであり、TNFRSF9は、Tリンパ球の共刺激受容体分子である。4-1BBLは、活性化B細胞、マクロファージ、樹状細胞、活性化T細胞、ニューロン、及び星状細胞により発現され、4-1BBLとTNFRSF9の相互作用は、抗原提示発生及び細胞傷害性T細胞の生成において役割を果たす。4-1BBRは、静止Tリンパ球には存在しないが、抗原刺激を受けると急速に発現する。4-1BBLは、がん細胞株で発現するので、T細胞腫瘍細胞相互作用に関与すると考えられる。4-1BBLをコードする非天然核酸配列も、変異したものである場合がある。CD40L及び4-1BBLをコードする核酸配列は、公的に入手可能であり、本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターで使用可能である(例えば、Seyama et al.,Hum Genet.,97(2):180-5(1996)、Alderson et al.,Europ.J.Immun.,24:2219-2227,1994、NCBI Reference Sequence NG_007280.1、及びNCBI Reference Sequence NM_003811.4を参照)。
【0028】
他の実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の活性を阻害するタンパク質をコードする非天然核酸配列を含む場合がある。固形腫瘍におけるマクロファージ浸潤は、多くの腫瘍において、予後不良及び化学療法耐性と関連している。がんのマウスモデルにおいて、マクロファージは、がんの開始及び悪性進行を促進し、転移性部位では、マクロファージは、腫瘍細胞の血管外遊走、生存、及び成長を促進する。そのため、TAMは、抗がん療法の潜在的標的として研究されている(Cassetta,L.,and J.W.Pollard,Nature Reviews Drug Discovery,17:887-904(2018))。1つの実施形態において、非天然核酸配列は、コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)に結合し、CSF1Rが介在するシグナル伝達を阻害するタンパク質またはペプチドをコードする場合がある。CSF1Rは、マクロファージが発現するカノニカルマーカーである。例えば、非天然核酸配列は、CSF1Rに結合しその活性を阻害する抗体、またはその抗原結合断片をコードする場合がある。CSF1Rに特異的に結合しその活性を阻害する抗体は、当該分野で複数知られており、非天然核酸配列によりコードされる場合があり、そのようなものとして、例えば、エマクツズマブ(emactuzumab)が挙げられる(RG-7155とも称する、例えば、ClinicalTrials.gov Identifier NCT02760797,‘‘A Study of Emactuzumab and RO7009789 Administered in Combination in Participants with Advanced Soolid Tumors’’を参照)。腫瘍関連マクロファージが発現するCSF1R以外の他の受容体は、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターによる標的となる可能性がある。
【0029】
1つまたは複数の非天然核酸配列は、理想的には、腫瘍細胞で活性である第二プロモーターと機能的に連結されている。腫瘍細胞またはがん細胞において転写を指示することができる任意の適切なプロモーターを使用することができる。例えば、プロモーターは、構成的プロモーター、例えば、CMV、RSV、SV40、EF2、または同様なウイルスもしくは哺乳類プロモーターが可能である。より好ましくは、プロモーターは、本明細書中記載されるとおり、「腫瘍特異的」プロモーターである。1つまたは複数の非天然核酸配列は、当該分野で既知である任意の腫瘍特異的プロモーター、例えば本明細書中記載されるものと、機能的に連結することができる。前立腺特異的抗原(PSA)プロモーター、シクロオキシゲナーゼ-2(Cox2)プロモーター、及びヒトテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーターは、標的組織に対する選択的ウイルス複製をもたらすために使用可能なプロモーター配列の例である。1つの実施形態において、1つまたは複数の非天然核酸配列は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)プロモーターと機能的に連結されている。複数の研究から、その他のテロメラーゼサブユニットは正常細胞及びがん細胞の両方で常時発現するものの、hTERT発現は、がん細胞に対して高度に特異的であり、テロメラーゼ活性と密接に関連していることが実証されている(Takakura et al.,Cancer Res;58:1558-61(1998)、Kyo et al.,Int.J Cancer,80:60-3(1999)、Kanaya et al.,Int J Cancer,78:539-43(1998)、Kyo et al.,Int.J Cancer,80:804-9(1999)、Kyo et al.,Cancer Science,99(8):1528-1538(2008)、及びZhang et al.,J Biol Chem.,287(39):32494-32511(2012))。hTERT遺伝子の5’プロモーター領域は、複数のグループにより特性決定されており(例えば,Takakura et al.,Cancer Res.,59:551-7(1999)、Horikawa et al.,Cancer Res.,59:826-30(1999)、及びCong et al.,Hum Mol Genet;8:137-42(1999)を参照)、プロモーターの欠失解析から、がん特異的転写活性化に必須の260bpのコアプロモーター領域が同定された。コアプロモーター領域内には、Eボックス(CACGTG)及びGCボックス(GGGCGG)を含む、複数の別個の転写因子結合部位が存在する。
【0030】
アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターが2つ以上の非核酸配列を含む実施形態において、2つ以上の非天然核酸配列は、1つの同じプロモーターと機能的に連結されている(例えば、「二シストロン性」、「複シストロン性」、または「多シストロン性」配列を形成するため)場合もあれば、2つ以上の非天然核酸配列が、別個の同一なプロモーターと機能的に連結されている場合もあれば、2つ以上の非天然核酸配列が、別個の異なるプロモーターと機能的に連結されている場合もある。アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターがCD40Lをコードする非天然核酸配列及び4-1BBLをコードする非天然核酸配列を含む場合、両方の核酸配列が、1つの同じ腫瘍特異的プロモーターと機能的に連結されている場合がある。2つ以上の核酸配列が単一プロモーターと機能的に連結されている場合、核酸配列は、望ましくは、配列内リボソーム進入部位(IRES)または2Aペプチド(または2Aペプチド様)配列で隔てられている。IRESは、各コード配列の翻訳の脱共役を可能にし、それにより不活性タンパク質の生成及び不正確な細胞内標的指向を回避する。プロモーター干渉または抑制も、IRESの使用を通じて緩和される(例えば、Vagner et al.,EMBO Rep.,2:893-898(2001)を参照)。2A自己切断ペプチドは、ピコルナウイルスファミリーの一部のメンバーにおいて、2つのタンパク質の間に位置するオリゴペプチド(通常、19~22のアミノ酸)として、ピコルナウイルスで最初に同定された。2Aペプチドは、それ以降、他のウイルスでも同定されてきている。複シストロン性遺伝子発現のため2Aペプチドを使用することの利点として、例えば、2Aペプチドの寸法が小さいこと、及び2Aペプチドの間に配置されいている遺伝子の効率的な同時発現を可能にすることが挙げられる。実際、異なる2Aペプチド配列の下流に配置された遺伝子は、IRESに比べた場合、それより高い発現レベルを誘導することができる(例えば、Szymczak,A.L.& Vignali,D.A.,Expert Opin Biol Ther.,5:627-638(2005)を参照)。
【0031】
ある特定の実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、少なくとも1つの修飾カプシドタンパク質を含む。アデノウイルスカプシドは、細胞のウイルス感染の初期段階で重要な相互作用に介在し、アデノウイルス生活環の最後でアデノウイルスゲノムをパッケージ化するのに必要である。カプシドは、252のカプソメアを含み、これには、240のヘキソン、12のペントン塩基タンパク質、及び12の繊維が含まれる(Ginsberg et al.,Virology,28:782-83(1966))。1つの実施形態において、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの1つまたは複数のカプシドタンパク質(本明細書中、「コート」タンパク質とも称する)を操作して、潜在的宿主細胞の受容体に関してウイルスまたはベクターの結合特異性または識別を改変することができる。静脈内投与のほぼ直後に、アデノウイルスベクターが肝臓により主に隔離され、Ad5の血流からのクリアランス及び肝臓への集積は、投与から数分以内に生じることは、当該分野で周知である(Alemany et al.,J.Gen.Virol.,81:2605-2609(2000))。アデノウイルスの肝臓隔離は、主に、肝細胞における天然のコクサッキー及びアデノウイルス受容体(CAR)の多さによる。すなわち、カプシドタンパク質の操作は、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターが感染する細胞の範囲を広げることもできれば、アデノウイルスベクターが特定の細胞型を標的とすることを可能にすることもできる。例えば、1つまたは複数のカプシドタンパク質は、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクタータンパク質が、腫瘍細胞または腫瘍関連細胞を標的とするように、操作することができる。そのような操作として、繊維、ヘキソン、及び/またはペントンタンパク質の削除(全部または一部)、様々な天然または非天然リガンドをカプシドタンパク質の各箇所に挿入するなどを挙げることができる。
【0032】
実施形態によっては、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、修飾繊維タンパク質を含む。アデノウイルス繊維タンパク質は、アデノウイルスポリペプチドIVの同種三量体であり、アデノウイルスポリペプチドIVは、3つのドメイン、テイル、シャフト、及びノブを有する。(Devaux et al.,J.Molec.Biol.,215:567-88(1990),Yeh et al.,Virus Res.,33:179-98(1991))。繊維タンパク質は、主に、ウイルスと細胞表面の受容体とのノブドメイン及びシャフトドメインを介した結合に介在する(Henry et al.,J.Virol.,68(8):5239-46(1994))。三量化のためのアミノ酸配列は、ノブに位置しており、これは、繊維のアミノ末端(テイル)がペントン塩基と適切に会合するために必要であるように思われる(Novelli et al.,Virology,185:365-76(1991))。繊維は、細胞受容体を認識し、ペントン塩基と結合することに加えて、血清型の固有性にも寄与している。血清型の異なるアデノウイルス由来の繊維タンパク質は、顕著に異なっている(例えば、Green et al.,EMBOJ.,2:1357-65(1983)、Chroboczek et al.,Virology,186:280-85(1992)、及びSignas et al.,J.Virol.,53:672-78(1985)を参照)。すなわち、繊維タンパク質は、アデノウイルスの生活環に重要である機能を複数有している。
【0033】
上記繊維タンパク質は、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型繊維アミノ酸配列に加えてまたはそれに代えて、非天然アミノ酸配列を含むという点で「修飾」されている。5型アデノウイルスの細胞への侵入は、その一次受容体であるコクサッキー・アデノウイルス受容体(CAR)への最初の結合ステップによって媒介される。但し、CARは多くの腫瘍細胞の表面上で発現の低下を示す。対照的に、ほとんどの細胞は、3型アデノウイルスに対する受容体であるCD46及びデスモグレイン2(DSG-2)を高レベルで発現する。したがって、5型アデノウイルスの繊維タンパク質の修飾によって、ヒト腫瘍細胞に対する感染力が実質的に向上することが明らかになっている。一実施形態において、開示される5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型繊維タンパク質の少なくとも一部(例えば、繊維テイル、繊維シャフト、繊維ノブ、または繊維タンパク質全体)が除去され、且つ異なる血清型のアデノウイルス(本明細書に記載のものなど)由来の繊維タンパク質の対応する部分で置換される。一実施形態において、開示される5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの繊維タンパク質のノブドメインが除去され、且つ異なるアデノウイルス血清型の対応する繊維ノブドメインで置換される。例えば、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの繊維タンパク質は、3型アデノウイルス由来のノブドメインを含んでいてもよい。5型アデノウイルスの繊維タンパク質の他の領域(すなわち、シャフト及び/またはテイルドメイン)を削除し、他のアデノウイルス血清型(例えば3型)由来の対応する領域で置換してもよい。一実施形態において、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型繊維タンパク質全体が、3型アデノウイルスの繊維タンパク質全体で置換される。5型アデノウイルスの繊維タンパク質の領域を対応する3型の領域と交換することが、例えば、米国特許5,846,782及び7,297,542に記載されている。3型アデノウイルスの繊維タンパク質のアミノ酸配列はキャラクタライズされ、公開されている(例えば、Signas,et al.,J Virol.,53(2):672-678(1985)、及びUniProtKB/Swiss-Prot 受入番号P04501)。
【0034】
別の実施形態において、開示される5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型繊維タンパク質の少なくとも一部が除去され、且つ非アデノウイルス(すなわち、異種性)アミノ酸配列で置換される。例えば、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの繊維タンパク質のノブドメインを除去し、且つ合成によりもしくは組換えにより生成させたアミノ酸配列またはモチーフで置換してもよい。オリゴリシン、FLAG、RGD-4C RGS(His)6、及びHAエピトープを含む少数の異種性ペプチドが繊維ノブドメイン中に導入され、アデノウイルスを再標的化している。しかしながら、繊維ノブドメインのかなり複雑な構造に起因して、繊維ノブ中に導入されるいずれの異種性ペプチドまたはアミノ酸配列も、この繊維を不安定化させることがあってはならず、不安定化が起これば該繊維が三量化できなくなり、したがって機能しなくなる。したがって、上記繊維タンパク質が三量化することができる限り、任意且つ適宜の異種性アミノ酸配列を繊維ノブドメイン中に組み込むことができる。一実施形態において、本明細書に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの繊維ノブが除去され、且つ三量化モチーフ及び受容体結合リガンドで置換される。例えば、米国特許6,815,200及びKrasnykh et al.,J.Virol.,75(9):4176-4183(2001)に記載されるように、本明細書に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの繊維ノブが除去され、且つトランケートされた形態のバクテリオファージT4フィブリチンタンパク質と遺伝子組み換えにより融合されたAd5繊維タンパク質のテイル及びシャフトドメインの2つのアミノ末端リピートを含む異種性タンパク質及びリガンドで置換される。アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの繊維ノブ領域を置換することができる異種性タンパク質の他の例としては、イソロイシン三量化モチーフ及びヒト肺サーファクタントD由来のネック領域ペプチドが挙げられる。
【0035】
上記リガンドは、天然のアデノウイルス受容体ではない細胞表面タンパク質を特異的に認識する任意且つ適宜の分子またはペプチドであってよい。好適なリガンドの例としては、生理学的リガンド、抗受容体抗体、及び細胞特異的ペプチドが挙げられるが、これらに限定はされない。一実施形態において、上記リガンドは、抗体、抗体断片、または抗体の誘導体である。一実施形態において、上記リガンドは抗体断片である。抗体断片の例としては、(i)VL、VH、CL、及びCHドメインからなる一価断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片、(iii)抗体のシングルアームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(iv)穏やかな還元条件を使用してF(ab’)2断片のジスルフィド架橋を切断することによって生成するFab’断片、(v)ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、及び(vi)抗原に特異的に結合する抗体の単一の可変領域ドメイン(VHまたはVL)ポリペプチドである単一ドメイン抗体(sdAb)が挙げられるが、これらに限定はされない。一実施形態において、上記リガンドは、ラクダ科動物(すなわち、ラクダ及びアルパカ)によって産生される抗体に由来する単一ドメイン抗体である。ラクダ科動物は、抗原(Ag)の認識及び抗原への結合の基盤としての2本の重鎖のみから構成される(軽鎖なし)非古典的抗体を産生し、これらの抗体は、アデノウイルス媒介性の遺伝子治療に利用されている(Revets et al.,Expert Opin.Biol.Ther.,5:111-124(2005))。ラクダ科動物sdAbは、アデノウイルスカプシド中への機能的な取り込みを可能にする細胞質ゾルの安定性や、標的細胞特異性を可能にするファージバイオパニングによる選択との適合性などの、アデノウイルスの再標的化にとって理想的な特性を備えている(Beatty,M.S.and D.T.Curiel,Adv.Cancer Res.,115:39-67(2012))。実際に、ラクダ科動物sdAb断片は、アデノウイルスベクターを標的化するための強力なリガンドであることが実証されている(例えば、Kaliberov et al.,Lab Invest.,94(8):893-905(2014)、van Erp et al.,Mol.Ther.Oncolytics,2:15001(2015)、及び米国特許出願公開2017/0044269を参照のこと)。修飾繊維ノブドメインにおいて使用されるラクダ科動物単一ドメイン抗体の選択は、アデノウイルス標的化の対象の所望の細胞型に依存することになることが理解されよう。本明細書に記載されるように、上記アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターが腫瘍またはがん細胞に向けて標的化される場合、上記ラクダ科動物sdAbは、理想的には、腫瘍またはがん細胞の表面に異常に発現される受容体(「腫瘍特異的」または「がん特異的」受容体とも呼ばれる)に特異的に結合する。多数の腫瘍またはがん細胞特異的な細胞表面受容体が当技術分野で公知であり、これらの受容体としては、HER2/neu、エストロゲン受容体、ビオチン受容体、c(RGD-K)、上皮成長因子受容体(EGFR)、エンドセリン受容体B、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)、ソマトスタチン受容体、血管作用性腸ペプチド(VIP)受容体、コレシストキニン(CCK)受容体、ボンベシン/ガストリン放出ペプチド(GRP)受容体、ニューロテンシン受容体、サブスタンスP、ニューロペプチドY、α-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)、カルシトニン、エンドセリン、がん胎児抗原(CEA)、及びCD276(B7-H3)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0036】
一実施形態において、上記ラクダ科動物単一ドメイン抗体は、CD276タンパク質に特異的に結合する。CD276はB7及びCD28ファミリーの免疫チェックポイントメンバーであり、その発現は抗原提示細胞上で誘導される。CD276は、T細胞機能の阻害に重要な役割を果たし、広範囲のヒト固形がん上で高度に過剰発現しており、多くの場合、患者の予後不良及び臨床転帰不良の両方と相関している(Picarda et al.,Clinical Cancer Res.,22(14):3425-3431(2016))。CD276の腫瘍特異的発現によって、正常な細胞(すなわち、非がん性細胞)の感染を回避しながら、CD276を標的とするアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを全身投与することができる可能性がある。さらに、CD276はA549細胞の表面上で発現し、当技術分野ではこれを用いて、条件的複製アデノウイルスを産生している。
【0037】
他の実施形態において、上記繊維タンパク質は、αvβ3、αvβ5、またはαvβ6インテグリンに結合する非天然アミノ酸配列を含む。RGDモチーフなどのαvβ3インテグリンに特異的なリガンドを表示するアデノウイルスは、細胞表面上により多数のαvβ3インテグリン部分を有する細胞に、インテグリンをかかる程度まで発現しない細胞と比較して感染し、それによってこのベクターが目的の特定の細胞に向けて標的化される。例えば、上記アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、CRGDC(配列番号2)、CXCRGDCXC(配列番号3)(但し、Xは任意のアミノ酸を表す)、及びCDCRGDCFC(配列番号4)を含む、但しこれらに限定されないRGDモチーフを含む非天然アミノ酸配列を含むキメラ繊維タンパク質を含んでいてもよい。上記RGDモチーフは、アデノウイルス繊維ノブ領域中、好ましくは、HIループなどの当該アデノウイルスノブの露出したループ中に挿入することができる。
【0038】
5型アデノウイルスの繊維タンパク質の他の領域(すなわち、シャフト及び/またはテイルドメイン)を除去し、且つ他のアデノウイルス血清型または非アデノウイルスペプチド由来の対応する領域で置換してもよい。開示される5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型繊維タンパク質の任意且つ適宜のアミノ酸残基(複数可)を、ウイルスカプシド集合が妨げられない限り、修飾するまたは除去することができる。同様に、上記繊維タンパク質が三量化する能力を保持している限り、上記繊維タンパク質にアミノ酸を付加することができる。かかる修飾繊維タンパク質は、2種の異なるアデノウイルス血清型から得られるまたはそれらに由来するアミノ酸配列を含むことから、「キメラ」繊維タンパク質とも呼ばれる。
【0039】
いくつかの実施形態において、上記アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは修飾ヘキソンタンパク質を含む。上記アデノウイルスヘキソンタンパク質は、アデノウイルスカプシドの中で最大であり、且つ最も多量に存在するタンパク質である。上記ヘキソンタンパク質は、ウイルスカプシド集合、カプシドの正20面体対称性の決定(延いては、カプシド容積及びDNAパッケージングのサイズの限度を画定する)、及びカプシドの完全性にとって必須である。さらに、ヘキソンタンパク質は、アデノウイルスベクターの中和を低減するための修飾の主要な標的である(例えば、Gall et al.,J.Virol.,72:10260-264(1998)、及びRux et al.,J.Virol.,77(17):9553-9566(2003)を参照のこと)。ヘキソンタンパク質の主要な構造的特徴は血清型を跨いだアデノウイルス間で共有されてはいるが、該ヘキソンタンパク質のサイズ及び免疫学的特性は血清型間で異なる(Jornvall et al.,J.Biol.Chem.,256(12):6181-6186(1981))。15種のアデノウイルスヘキソンタンパク質を比較したところ、該ヘキソンタンパク質の主要な抗原領域及び血清型特異的領域がループ1及び2(すなわち、それぞれLIまたはl1、及びLIIまたはl2)中に存在し、その内部に、アデノウイルス血清型間で長さ及び配列が異なる、7~9の分散した超可変領域(HVR1~HVR7またはHVR9)が存在すると思われることが明らかになった(Crawford-Miksza et al.,J.Virol.,70(3):1836-1844(1996)、及びBruder et al.,PLoS ONE,7(4):e33920(2012))。
【0040】
ヘキソンタンパク質は、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型ヘキソンアミノ酸配列に加えて、またはそれに代えて非天然アミノ酸配列を含むという点で「修飾」されている。上記Ad5ヘキソンタンパク質は上記ウイルスの肝臓隔離(liver sequestration)を媒介し(Waddington et al.,Cell,132:397-409(2008)、Vigant et al.,Mol.Ther.,16:1474-1480(2008)、及びKalyuzhniy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,105:5483-5488(2008))、ヘキソンタンパク質の修飾、特に超可変5(HVR5)及び超可変7(HVR7)領域内での上記修飾は、5型アデノウイルス粒子の内因性肝臓隔離を軽減することが示されている(例えば、Alba et al.,Blood,114:965-971(2009)、Shashkova et al.,Mol.Ther.,17:2121-2130(2009)、及びShort et el.,Mol Cancer Ther.,9(9):2536-2544(2010)を参照のこと)。一実施形態において、開示される5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型ヘキソンタンパク質の少なくとも一部(例えば、ヘキソンタンパク質全体)は、望ましくは除去され、且つ異なる血清型のアデノウイルス(本明細書に記載されるものなど)由来のヘキソンタンパク質の対応する部分で置換される。一実施形態において、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのヘキソンタンパク質は、異なる血清型のアデノウイルス由来の1つ以上の超可変領域(HVR)を含む。例えば、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのヘキソンタンパク質は、3型または11型アデノウイルス由来の1つ以上の(例えば、1、2、3、4、5、6個、または7個すべて)の超可変領域(HVR)を含む。換言すれば、開示される5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのヘキソンタンパク質の1つ以上のHVRを除去し、且つ3型または11型アデノウイルス由来の1つ以上の対応するHVRで置換してもよい。一実施形態において、5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型ヘキソンタンパク質全体は、3型または11型アデノウイルスのヘキソンタンパク質全体で置換されている。
【0041】
3型アデノウイルスの複数の株のヘキソンタンパク質アミノ酸配列がキャラクタライズされ、公開されている(例えば、Haque et al.,PLoS ONE,13(4):e0196263.doi.org/10.1371/journal.pone.0196263(2018)を参照のこと)。しかしながら、開示される5型アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの野生型ヘキソンタンパク質の任意且つ適宜のアミノ酸残基(複数可)は、ウイルスカプシド集合が妨げられない限り、修飾または除去することができる。同様に、カプシドの構造的完全性が維持される限り、ヘキソンタンパク質にアミノ酸を付加することができる。かかる修飾ヘキソンタンパク質は、2種の異なるアデノウイルス血清型から得られるまたはそれらに由来するアミノ酸配列を含むことから、「キメラ」ヘキソンタンパク質とも呼ばれる。
【0042】
本開示の文脈において、当技術分野で公知の修飾(例えば、キメラ)アデノウイルスヘキソン及び繊維タンパク質の産生方法を使用することができる。かかる方法は、例えば、米国特許5,543,328、5,559,099、5,712,136、5,731,190、5,756,086、5,770,442、5,846,782、5,871,727、5,885,808、5,922,315、5,962,311、5,965,541、6,057,155、6,127,525、6,153,435、6,329,190、6,455,314、6,465,253、6,576,456、6,649,407、6,740,525、及び6,815,200に記載される。
【0043】
本明細書に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスは、例えば、KB細胞、HeLa細胞、及びA549細胞を含む、条件的複製アデノウイルスの増殖に適した細胞株中で産生させることができる(例えば、Lawrence and Ginsberg,J.Virol.,1:851-867(1967)、Green and Pina,Virology,20:199-207(1963)、Wold,Adenovirus Methods and Protocols(Humana Press,Totowa,NJ)(1999)を参照のこと)。アデノウイルス及びアデノウイルスベクターの産生及び精製方法は、例えば、米国特許6,194,191及び国際特許出願公開WO99/54441、WO98/22588、WO98/00524、WO96/27677、及びWO2003/078592に記載されている。
【0044】
プロモーター、非天然核酸配列、アデノウイルスゲノム欠失、キメラヘキソンタンパク質、及びキメラ繊維タンパク質の種々の組み合わせを含む種々のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターが本開示に包含される一方で、特定の実施形態は、以下、すなわち、(1)(a)低酸素及び炎症に応答性の、本明細書に記載の、遺伝子操作されたSPARCプロモーターに機能的に連結された変異体E1Aタンパク質をコードする核酸配列、(b)アデノウイルスゲノムのE1B領域の全てもしくは一部の欠失、(c)hTERTプロモーターに機能的に連結された(5’-3’もしくは3’-5’方向)、CD40Lをコードする核酸配列及び4-1BBLをコードする核酸配列、(d)3型アデノウイルス繊維ノブドメインを含む繊維タンパク質、及び(e)1つ以上の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質(
図1A及び
図1Bを参照のこと)、(2)(a)低酸素及び炎症に応答性の、本明細書に記載の、遺伝子操作されたSPARCプロモーターに機能的に連結された変異体E1Aタンパク質をコードする核酸配列、(b)アデノウイルスゲノムのE1B領域の全てもしくは一部の欠失、(c)hTERTプロモーターに機能的に連結された、CD40Lをコードする核酸配列及び4-1BBLをコードする核酸配列、(d)非天然繊維ノブドメイン及び上記繊維ノブドメイン中に挿入されたCD276特異的一本鎖ラクダ科動物抗体核酸配列を含む繊維タンパク質、及び(e)1つ以上の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質(
図1Cを参照のこと)、(3)(a)ROBO4もしくはTie1プロモーターに機能的に連結された変異体E1Aタンパク質をコードする核酸配列、(b)アデノウイルスゲノムのE3領域の欠失、(c)繊維ノブドメイン中に挿入されたRGDペプチドを含む繊維タンパク質、及び(d)1つ以上の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質(
図1Dを参照のこと)、(4)(a)Tie1プロモーターに機能的に連結された変異体E1Aタンパク質をコードする核酸配列、(b)アデノウイルスゲノムのE3領域の欠失、(c)CMVプロモーターに機能的に連結された、抗PD1タンパク質(例えば、抗体)をコードする核酸配列及びOMPC-IL2をコードする核酸配列、(d)繊維ノブドメイン中に挿入されたRGDペプチドを含む繊維タンパク質、及び(e)1つ以上の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質(
図1Eを参照のこと)、ならびに(5)(a)Tie1プロモーターに機能的に連結された変異体E1Aタンパク質をコードする核酸配列、(b)アデノウイルスゲノムのE3領域の欠失、(c)CMVプロモーターに機能的に連結された、抗PD1タンパク質(例えば、抗体)をコードする核酸配列及びOMPC-IL2をコードする核酸配列、(d)非天然繊維ノブドメイン及び上記繊維ノブドメイン中に挿入されたCD276特異的一本鎖ラクダ科動物抗体核酸配列を含む繊維タンパク質、及び(e)1つ以上の3型超可変領域(HVR)を含むヘキソンタンパク質(
図1Fを参照のこと)を含む、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを含む。
【0045】
本開示は、本明細書に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター及びそのためのキャリア(例えば、薬学上許容されるキャリア)を含む組成物を提供する。本組成物は、望ましくは、生理学的に許容される(例えば、薬学上許容される)組成物であり、この生理学的に許容される組成物は、キャリア、好ましくは生理学的に(例えば、薬学上)許容されるキャリア、及び本アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを含む。本開示の文脈内では、任意且つ適宜のキャリアを使用することができ、かかるキャリアは当技術分野で周知である。キャリアの選択は、ある程度は、本組成物の個々の使用(例えば、動物への投与)及び本組成物を投与するために使用される個々の方法によって決定されることとなる。いくつかの実施形態において、本医薬組成物は無菌であってもよい。
【0046】
好適な組成物としては、抗酸化剤、緩衝剤、及び静菌剤を含んでいてもよい、水性及び非水性等張滅菌溶液剤、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、及び防腐剤を含んでいてもよい水性及び非水性滅菌懸濁液剤が挙げられる。本組成物は、アンプル及びバイアルなどの単位用量または複数回用量の密封容器中で提供してもよく、使用の直前に滅菌液体キャリア、例えば水を添加するだけでよい、凍結乾燥した(freeze-dried)(凍結乾燥した(lyophilized))状態で保存してもよい。使用直前に調製する溶液剤及び懸濁液剤は、滅菌された粉末剤、顆粒剤、及び錠剤から調製することができる。上記キャリアは、緩衝生理食塩水であることが好ましい。本アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、該アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを投与前の損傷から保護するように製剤化された組成物の一部であることがより好ましい。例えば、本組成物は、ガラス器具、注射器、もしくは針などの、本アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを調製、保存、または投与するために使用される器具上での該アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの損耗を低減するように製剤化してもよい。本組成物は、本アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの光感受性及び/または温度感受性を低減するように製剤化してもよい。この目的のために、本組成物は、例えば、上記のものなどの薬学上許容される液体キャリア、ならびに、ポリソルベート80、L-アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロース、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される安定剤を含んでいてもよい。かかる組成物を使用することによって、本アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの有効期間が延長され、且つその投与が容易になることとなる。アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを含有する組成物の製剤は、例えば、米国特許6,225,289、6,514,943、及び7,456,009、ならびに国際特許出願公開WO2000/034444にさらに記載される。
【0047】
また、当業者は、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターが、他の治療的または生物学的活性剤と共に組成物に存在し得ることを理解する。例えば、イブプロフェンまたはステロイドなどの炎症を制御する要素が、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのin vivo投与に関連する腫れ及び炎症を減少させるために組成物の一部であり得る。抗生物質、すなわち、殺菌剤及び防かび剤が、既存の感染症を処置するため及び/または将来の感染症、例えば、ウイルス投与に関連する感染症のリスクを減少させるために存在し得る。
【0048】
組成物に存在するアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの用量は、意図された標的組織、任意の副作用の程度、特定の投与経路などを含む多数の要素に依存する。用量は、理想的には、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの「有効量」、すなわち、レシピエント(例えば、ヒト)における所望の反応を引き起こすアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの用量を含む。望ましくは、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの単回用量は、少なくとも約1×107粒子(アデノウイルスベクターの粒子単位(pu)またはウイルス粒子(vp)とも称される)を含む。用量は、少なくとも約1×108粒子(例えば、約1×109~1×1014粒子)、好ましくは少なくとも約1×1010粒子、(例えば、約1×1010~1×1012粒子)のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターである。代替的には、用量は、約1×1014粒子以下、好ましくは約1×1013粒子以下、より好ましくは約1×1012粒子以下を含む。すなわち、アデノウイルスベクターの単回用量は、例えば、約1×107ウイルス粒子、2×107vp、4×107vp、1×108vp、2×108vp、4×108vp、1×109vp、2×109vp、4×109vp、1×1010vp、2×1010vp、4×1010vp、1×1011vp、2×1011vp、4×1011vp、1×1012vp、2×1012vp、4×1012vp、1×1013vp、2×1013vp、4×1013vp、または1×1014vpのアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを含み得る。
【0049】
本開示はまた、腫瘍細胞における細胞傷害性を誘導する方法であって、腫瘍細胞を上述した組成物と接触させることを含む、方法を提供する。用語「腫瘍」は、本明細書で使用される場合、細胞が、それがするはずのものよりも多く分裂し、またはそれがすべきときに死滅しない場合に生じる異常な組織の塊を指す。本開示の文脈では、腫瘍という用語は、腫瘍細胞及び腫瘍関連間質細胞(上述したとおり)を指し得る。腫瘍は、それらが近くの組織に侵入しない場合、または生物の他の部分に広がらない場合、良性及び非がん性であり得る。対照的に、用語「悪性腫瘍」、「がん」、及び「がん細胞」は、本明細書で互換的に使用され得、制御不能に分裂し、近くの組織に侵入し得る細胞を含む腫瘍を指す。がん細胞はまた、血液及びリンパ系を介して身体の他の部分に広がり、または「転移」し得る。開示される方法は、理想的には、悪性腫瘍細胞またはがん細胞における細胞傷害性を誘導する。悪性腫瘍細胞またはがん細胞は、がん(上皮細胞から発生するがん)、肉腫(骨及び軟部組織から発生するがん)、リンパ腫(リンパ球から発生するがん)、血液癌(例えば、骨髄腫または白血病)、黒色腫、または脳及び脊髄腫瘍からのものであり得る。悪性腫瘍またはがん細胞は、口腔(例えば、舌及び口の組織)及び咽頭、消化器系、呼吸器系、骨及び関節(例えば、骨転移)、軟部組織、皮膚(例えば、黒色腫)、乳房、生殖系、泌尿器系、眼及び眼窩、脳及び神経系(例えば、神経膠腫)、または内分泌系(例えば、甲状腺)に位置し得、必ずしも原発腫瘍ではない。より具体的には、消化器系のがんは、食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、胆嚢、及び膵臓に影響を及ぼし得る。呼吸器系のがんは、喉頭、肺、及び気管支に影響を及ぼし得、例えば、非小細胞肺癌を含む。生殖器系のがんは、子宮頸部、子宮体部、卵巣、外陰、膣、前立腺、精巣、及び陰茎に影響を及ぼし得る。泌尿器系のがんは、膀胱、腎臓、腎盂、及び尿管に影響を及ぼし得る。がん細胞はまた、リンパ腫(例えば、ホジキン病及び非ホジキンリンパ腫)、多発性骨髄腫、または白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病など)に関連し得る。一実施形態では、腫瘍細胞は、卵巣細胞、例えば、卵巣癌細胞である。
【0050】
薬剤は、「細胞傷害性」であり、薬剤(例えば、本明細書に記載のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクター)が、細胞、特にがん細胞の成長を殺傷または阻害する場合、「細胞傷害性」を誘導する。いくつかの実施形態では、例えば、細胞傷害性は、がん細胞の分裂及び成長を防止すること、ならびに腫瘍またはがんのサイズを減少させることを含む。腫瘍細胞の細胞傷害性は、例えば、細胞溶解、細胞膜漏損、及びアポトーシスを測定するアッセイなどの当該技術分野で知られている任意の好適な細胞生存アッセイを使用して測定され得る。例えば、トリパンブルーアッセイ、ヨウ化プロピジウムアッセイ、乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイ、テトラゾリウム還元アッセイ、レサズリン還元アッセイ、プロテアーゼマーカーアッセイ、5-ブロモ-2′-デオキシ-ウリジン(BrdU)アッセイ、及びATP検出を含むがこれらに限定されない方法が使用され得る。市販の細胞生存性アッセイシステムもまた使用され得、例えば、CELLTITER-GLO(登録商標)2.0(Promega,Madison,WI)、VIVAFIX(商標)583/603細胞生存性アッセイ(Bio-Rad,Hercules,CA)、及びCYTOTOX-FLUOR(商標)細胞傷害性アッセイ(Promega,Madison,WI)を含み得る。
【0051】
理想的には、開示される方法は、哺乳動物(例えば、ヒト)ががんについて処置されるように、腫瘍細胞増殖の阻害、腫瘍細胞の根絶、及び/または少なくとも1つの腫瘍のサイズの減少を促進する。「がんの処置」は、がんの全体的または部分的な緩和を意味する。一実施形態では、開示される方法は、腫瘍のサイズを少なくとも約20%(例えば、少なくとも約25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%)減少させる。理想的には、腫瘍は、完全に取り除かれる。
【0052】
腫瘍細胞は、in vitroまたはin vivoでアデノウイルス組成物と接触され得る。用語「in vivo」は、それらの正常でインタクトな状態の生存生物内で行われる方法を指し、「in vitro」方法は、その通常の生物学的状況から単離された生物の成分を使用して行われる。細胞がin vitroで組成物と接触される場合、細胞は、任意の好適な原核生物または真核細胞であり得る。細胞がin vivoで組成物と接触される場合、組成物は、標準的な投与技術及び経路を使用して、動物、例えば、哺乳動物、特にヒトに投与され得る。好適な投与経路には、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻腔内、口腔内、舌下、または座剤投与が含まれるがこれらに限定されない。組成物は、好ましくは、非経口投与に好適である。用語「非経口」には、本明細書で使用される場合、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣、及び腹腔内投与が含まれる。他の実施形態では、組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下注射によって全身送達を使用して哺乳動物に投与され得る。
【0053】
アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの単回用量の投与は、組成物の単回適用(例えば、標的組織への単回注射)を介して達成され得るのに対し、他の実施形態では、単回用量は、組成物の複数の投与を介して標的腫瘍の異なる点に投与され得、またはアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの複数の用量は、特定の用量の繰り返し投与を介して投与され得る。投与の回数は、処置期間にわたって約2回~約50回の投与またはそれ以上(2~50の間のすべての整数を含む)であり得る。投与の回数は、腫瘍位置、腫瘍サイズ、腫瘍タイプなどに依存する。
【0054】
開示される方法は、患者における所望の生物学的効果を達成するために他の治療方法と組み合わせて実施され得る。理想的には、開示される方法は、1つ以上のがんの処置を含み得、またはそれと併せて実施され得る。開示される方法と組み合わせて使用されるがんの処置の選択は、がん/腫瘍タイプ、腫瘍またはがんのステージ及び/またはグレード、患者の年齢などを含む多様な要素に依存する。用いられ得る好適ながんの処置には、手術、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、及び幹細胞移植が含まれるがこれらに限定されない。一実施形態では、開示される方法は、腫瘍細胞を化学療法剤で処置することをさらに含む。例えば、アドリアマイシン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、カルムスチン、カペシタビン、クロラムブシル、シタラビン、シクロホスファミド、カンプトテシン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デクスラゾキサン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エトポシド、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロムスチン、メクロレタミン、メルカプトプリン、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニトロスレア、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、プロカルバジン、リツキシマブ、ストレプトゾシン、テニポシド、チオグアニン、チオテパ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、タキソール、トランス白金、抗血管内皮成長因子化合物(「抗VEGF」)、抗上皮成長因子受容体化合物(「抗EGFR」)、5-フルオロウラシルなどを含む任意の好適な化学療法剤が、開示される方法において使用され得る。開示される方法において使用される化学療法剤のタイプ及び数は、特定の腫瘍タイプのための標準的な化学療法レジメンに依存する。
【0055】
他の実施形態では、開示される方法は、腫瘍またはがん細胞をサイトカイン、例えば、本明細書に開示されるサイトカインのいずれかで処置することをさらに含み得る。理想的には、サイトカインは、がんに対して治療的有効性を示す(例えば、IL-2及びIFN-α)(例えば、Lee,S.and K.Margolin,Cancers(Basel),3(4):3856-3893(2011)、及びArdolino et al.,Oncotarget,6(23):19346-19347(2015)参照)。
【0056】
別の実施形態では、開示される方法は、腫瘍またはがん細胞を免疫チェックポイント調節剤で処置することをさらに含み得る。免疫チェックポイントは、免疫系の活動を刺激するために活性化または阻害されなければならない免疫細胞上の分子である。腫瘍は、そのようなチェックポイントを使用して免疫系による攻撃を回避し得る。免疫チェックポイント調節剤は、阻害性チェックポイントを遮断する「チェックポイント阻害剤」とも称される免疫細胞の阻害性シグナルのアンタゴニスト(すなわち、免疫反応を正常に阻害する分子)であり得る。例えば、免疫チェックポイント調節剤は、A2AR、BTLA、B7-H3、B7-H4、CTLA4、GAL9、IDO、KIR、LAG3、PD-1、TDO、TIGIT、TIM3及び/またはVISTAのアンタゴニストであり得る。そのため、チェックポイント阻害剤療法は、阻害性チェックポイントを遮断し、免疫系機能を回復し得る。現在承認されているチェックポイント阻害剤は、分子CTLA4、PD-1、及びPD-L1を標的とし、イピリムマブ(YERVOY(登録商標))、ニボルマブ(OPDIVO(登録商標))、ペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標))、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標))、アベルマブ(BAVENCIO(登録商標))、及びデュルバルマブ(IMFINZI(登録商標))を含む。例えば、Kyi,C.and M.A.Postow,Immunotherapy,8(7):821-37(2016)、Collin,M.,Expert Opin Ther Pat.,26(5):555-64(2016)、Pardoll,D.M.,Nat Rev Cancer,12(4):252-6(2012)、及びGubin et al.,Nature,515(7528):577-81(2014))に記載されているものなどの任意の好適なチェックポイント阻害剤が、開示される方法と組み合わせて使用され得る。他の実施形態では、免疫チェックポイント調節剤は、免疫細胞刺激性受容体のアゴニスト、例えば、BAFFR、BCMA、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、CD226、CRTAM、GITR、HVEM、ICOS、DR3、LTBR、TACI及び/またはOX40のアゴニストであり得る。免疫チェックポイント調節剤は、望ましくは、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを含む組成物または製剤とは別個の組成物または製剤で投与されるのに対し、いくつかの実施形態では、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、免疫チェックポイント調節剤をコードする核酸配列を含む。例えば、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、PD-1阻害剤、例えば、抗PD-1抗体(例えば、ペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標))、ニボルマブ(OPDIVO(登録商標))、またはセミプリマブ(LIBTAYO(登録商標)))をコードする核酸配列を含み得る。
【0057】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、当然ながら、どのようにもその範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
[実施例]
【0058】
実施例1
本実施例は、本開示に係る5型アデノウイルスの構築及び特性評価について記載する。
【0059】
UIO-523(米国仮出願第62/808,694号ではAdSΔ15-40L.BBL-HV5/3-F5/3とも、UIO-522OPとも称される)は、3個の低酸素症応答エレメント(HRE)及び12個の核内因子カッパB(NFκB)応答エレメント(κBRE)を含むように改変されたSPARCプロモーターのDNA配列を含有するヒト5型条件的複製性デノウイルス(CRAd)ベクター(Δ15E1A、E1B-、E3+、HV5/3、F5/3)である。HREは低酸素環境に対する調節因子としての役割を果たし、他方、κBREは炎症の誘因としての役割を果たす。低酸素症及び炎症は腫瘍微小環境に特徴的である。SPARCプロモーターは、悪性細胞区画に密接しているがん関連線維芽細胞及び内皮細胞において高度に発現する。改変されたSPARCプロモーターは、上述される網膜芽細胞腫(Rb)結合性が欠損したタンパク質をコードする突然変異型E1A遺伝子を働かせる。ウイルスゲノムの5’末端は、β-グロブリン遺伝子座(cHS4)由来のクロマチンインスレーター配列を含むように操作されており、これは、異種クロマチンの抑制作用及び/またはエンハンサーの活性化作用を遮断するその能力によって、差別的に発現する遺伝子座を機能的に分離する、天然に存在するDNAエレメントである。ここでは、インスレーター配列は、改変されたSPARCプロモーターに対するウイルスITRの作用を遮断することによってベクターからのバックグラウンド発現のレベルを低減する。
【0060】
UIO-523のE3遺伝子領域のほとんどはそのままであり、5型繊維ノブは型3型ノブ(F5/3)で置き換えられている。UIO-523はまた、ヘキソンタンパク質も含有し、これは対応する3型配列に取り替えられており、全身送達時の軽減された肝臓取込みを可能にする。UIO-523ベクターは、サイトカインの腫瘍特異的発現をもたらすものであるがん特異的及び幹細胞特異的hTERTプロモーターの制御下で免疫モジュレーター遺伝子CD40L及び4-1BBLも発現させる。UIO-522OPゲノムのE1B領域のほとんどまたは全ては取り除かれて、元のE1B転写方向に比べて逆配向になったhTERT-CD40L/4-1BBカセットで置き換えられて、E1A遺伝子転写による干渉を回避するためのSV40ポリA配列で遮断されている。UIO-523は
図1Bに模式的に表される。
【0061】
UIO-523が細胞に感染してCD40L及び4-1BBL遺伝子産物を生成することができることを実証するために、A549ヒト肺癌細胞及びSKOV3ヒト卵巣癌細胞をマルチウェル組織培養プレートで24時間成長させ、100または1000の多重感染度(MOI)でUIO-523に感染させた。30時間後、細胞を採取し、ヒトCD40Lをフローサイトメトリーによって評価した。これらの試験の結果を
図2A及び2Bに示すが、これらは、UIO-523ががん細胞を溶解させサイトカインを生成して樹状細胞(DC)ならびに新たなT細胞及び新たなT細胞の波を刺激することができるということを実証している。
【0062】
アデノウイルスベクターの試験管内での細胞傷害性を評価するために、ヒト卵巣癌細胞SKOV3.Luc、マウス大腸癌CT26細胞、及びPA1ヒト卵巣癌細胞を使用した。試験したウイルスは、AR2011(非命名ウイルス)、ヒトCD40L及び4-1BBLで武装した天然5型ヘキソンタンパク質を有するUIO-523(UIO-523 hH5)、5型ヘキソンが3型ヘキソンに取り替えられヒトまたはマウスCD40L及び4-1BBLで武装されたUIO-523(UIO-523 hH3またはUIO-523 mH3)、ならびにAR2011-luc(非複製性対照)を含んでいた。NAD(P)H依存性細胞酸化還元酵素の細胞代謝活性を測定するMTTアッセイによって細胞生存能を監視した。この分析の結果を
図3A~3Dに示す。対照AR2011ウイルスは標的細胞に対する溶解作用を有さず、ヒト及びマウス細胞上にヒトサイトカインを発現させるヘキソン5を有するUIO-523の活性と同程度となり(
図3A及び3B参照)、結果として、サイトカインを加えることがウイルスの溶解活性に影響を及ぼさないことが実証された。加えて、ヘキソン5をヘキソン3に取り替えることは、PA1細胞上にヒトまたはマウスサイトカインのどちらかを発現させるUIO-523の溶解活性に影響を及ぼさなかった(
図3C及び3D)参照。
【0063】
実施例2
本実施例は、ヒトSKOV3卵巣癌異種移植モデルにおける生体内でのCD40L及び41BBLの発現について記載する。
【0064】
6~8週齢のヌードマウスに4.5×106個のSKOV3.Luc細胞を投与した。腫瘍が平均150mm3に達した時点でマウスに、マウス1匹あたり1×1010v.p.または同体積のPBS(30μl)を腫瘍内(i.t.)注射した。
【0065】
24時間後、腫瘍を取り出し、タンパク質抽出物を調製した。100μgのタンパク質抽出物を12%のSDS-PAGEで分離させ、ニトロセルロース膜(Bio-Rad Laboratories)に転写した。膜に抗h4-1-BBL抗体(ab68185 Abcam,Cambridge,UK)または抗CD40L抗体(ab2391 Abcam,Cambridge,UK)をプローブとして使用した。抗βーアクチン抗体(A4700、Sigma,St.Louis,MO)及び抗αチューブリン(12g10 DSHB)をローディングコントロールとして使用した。強化型化学発光試薬を製造者の指示に従って使用して信号を検出した(Amersham,Little Chalfont,UK)。CD40L発現を
図4に示す。41BBL発現の評価は現在進行中である。
【0066】
実施例3
本実施例は、卵巣癌の皮下異種移植片マウスモデルにおけるUIO-523の薬理学的試験について記載する。
【0067】
ヒト卵巣癌細胞株SKOV3の皮下(s.c.)移植に基づく卵巣癌のマウス異種移植モデルを使用して、(ヒトCD40L及び4-1BBLで武装された)UIO-523を評価した。5×10
6個のSKOV3細胞/200μLを6~8週齢のヌードマウス(n=10マウス/群)の側腹部に注射することによって皮下腫瘍を樹立した。腫瘍が樹立された10日目に、5×10
10vpのAR2011またはUIO-523を含んだ400μLのPBSを腫瘍内(i.t.)注射した。PBS投与は陰性対照としての役割を果たした。記載がなされているように(Lopez et al.,Molecular Therapy,20:2222-33(2012))、腫瘍を樹立してから1、3及び5日後にウイルスを注射した。処置前の-1日目、及びその後実験終了まで週に1回、腫瘍撮像を実施した。マウスに餌及び水を自由に摂らせ、いかなる食べ散らかしの兆候または他の視認可能な毒性の兆候も防ぐために綿密に観察した。マウスを45日目に屠殺した。撮像及び動物生存率による腫瘍退縮の直接分析を用いて治療的有効性を評価した。
図5A~5Fに示すように、UIO-523で処置したマウスに完全な腫瘍根絶が認められた。
【0068】
実施例4
本実施例は、マウスモデルにおける播種性腫瘍に対するUIO-523の溶解活性を実証する。
【0069】
ヒト卵巣癌細胞株SKOV3の腹腔内(i.p.)移植に基づく卵巣癌のマウス異種移植モデルを使用して、(ヒトCD40L及び4-1BBLで武装された)UIO-523 hH5を評価した。6×10
6個のSKOV3細胞を6~8週齢のヌードマウス(n=10マウス/群)に注射することによって腹腔内腫瘍を樹立した。7日後に、5×10
10vpのAR2011またはUIO-523を含んだ400μLのPBSをi.p.注射した。PBS投与(同じく400μL)は陰性対照としての役割を果たした。1、4及び7日後にウイルスを注射した(Lopez et al.,Molecular Therapy,20:2222-33(2012))。マウスに餌及び水を自由に摂らせ、いかなる食べ散らかしの兆候または他の視認可能な毒性の兆候も防ぐために綿密に観察した。マウスを細胞移植の54日後に屠殺した。UIO-523で処置した数匹のマウスにおいて、腫瘍サイズに統計的に有意な差が認められ(
図6参照)、腹腔内腫瘍が全く存在しないことが認められた。具体的には、PBSを注射したどのマウスも、無腫瘍とならなかった。UIO-523 hH5で処置した10匹のマウスのうち、3匹は無腫瘍となり、1匹は0.1グラム以下の腫瘍を有していた。AR2011を注射した10匹のマウスのうち、4匹は0.1グラム以下の腫瘍を有しており、10匹のマウスの中に無腫瘍のマウスはいなかった。処置及び対照動物から摘出された腫瘍を
図7に示す。
【0070】
ウイルス分布を評価するために、全DNAを抽出し、ウイルス粒子の代理マーカーとしてE4ウイルスレベルを評価した(上記Lopez et al.)。3回目のウイルス投与の1日後(
図8の「10日」を参照されたい)か、実験終了時(
図8の「54日」を参照されたい)かのどちらかに腫瘍を摘出した。ウイルスDNAは実験終了時に未だ存在しており、UIO-523で処置された腫瘍は、それらの腫瘍重量がより小さいという事実にもかかわらず、より高いE4レベル/μg DNAを示した。
【0071】
本実験の結果は、AR2011及びUIO-532 hH5がSKOV3腹腔内マウスモデルにおいて有意な腫瘍成長抑制を発揮したことを実証している。
【0072】
実施例5
本実施例は、繊維除去による条件的複製アデノウイルスベクターの指向先変更を実証する。
【0073】
本明細書中で述べているように、標的指向性モチーフの遺伝子組込みによって繊維タンパク質を改変することによってアデノウイルスベクターの向性を変更して細胞特異的遺伝子送達を実現するためのいくつかの方策が開発された。ここでは、重鎖(VHH)ラクダファミリーの抗体に由来する抗CD276一本鎖可変ドメインを作製して腫瘍特異的なアデノウイルスベクター遺伝子移入を成し遂げた。
【0074】
抗CD276VHHを得るために、Kaliberov et al.,Laboratory Investigation,94:893-905(2014)に記載されているようにCD276抗原に対する免疫応答のピーク時のアルパカの末梢血リンパ球RNAからVHH提示ライブラリーを生成した。3型ヒトアデノウイルスの繊維タンパク質を取り除いてハイブリッドフィブリチン-抗CD276 VHH断片で置き換えて、ベクターの指向先をCD276受容体に変更した(上記Kaliberov et al.に記載のとおり)。また、ベクターのE1領域を欠失させて、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させるCMVプロモーターで置き換え、その結果、構築物Ad.CMV-GFP.H3.F(CD276)及びAd.CMV-GFP.H3.F(3)が得られた。表面にヒトまたはマウスCD276が発現するように操作されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にAd.CMV-GFP.H3.F(CD276)及びAd.CMV-GFP.H3.F(3)をトランスフェクトした。未改変CHO細胞は対照としての役割を果たした。
図9A~9Fに示すように、Ad.CMV-GFP.H3.F(CD276)は、CHO細胞の表面に発現したCD276に対する選択的指向を示した。Ad.CMV-GFP.H3.F(CD276)は、アデノウイルス内在化受容体、αvインテグリンが発現するが主要なアデノウイルス結合受容体、コクサッキーウイルス-アデノウイルス受容体(CAR)が低いまたは検出可能なレベルで発現するものであるヒト横紋筋肉腫細胞に感染することもできた(Cripe et al.,Cancer Research,61:2953-2960(2001))(
図10A及び10B参照)
【0075】
実施例6
本実施例は、UIO-523の同系ID8マウスモデルにおける薬理学試験について記載する。
【0076】
この試験は、C57BL/6マウスにおいてマウス腫瘍細胞株(ID8)の腫瘍成長を阻害するUIO-523の有効性評価、及び抗腫瘍免疫応答を提供することになる。ヒトとマウスとのサイトカイン交差反応性が問題となる場合、目的遺伝子の生物学的応答を正確に決定することができるように、マウス形態の遺伝子によって代理ベクターを構築した。また、細胞株の感染性に応じてF5/3またはRGD繊維を使用することにする。この試験の必要性に応じてさらなる安全性読み値を構築することとする。
【0077】
マウス形態のUIO-523(mUIO-523)についても卵巣癌の同系免疫正常マウスモデルにおいて試験することになる。このモデルは、CT26マウス大腸癌細胞株に基づいている。この場合、撮像分析を可能にするレポーター遺伝子をID8細胞株にタグ付けすることになる。C57BL/6マウスに5×106個のID8-F3mCherryLuc細胞/200μL(n=10マウス/群)を同所に生着させることになる。1週間後に動物を5×109または5×1010vpのUIO-523でi.p.に攻撃することになる。2つの異なる送達経路の比較のために、対応するマウスの群にi.v.投与によってもウイルスを注射することになる。週1回の直接的な撮像分析は抗腫瘍作用の評価を可能にするであろう。加えて、ELISPOT技術による腹腔液及び脾臓に由来する免疫細胞の分析は、抗腫瘍免疫の誘導の判定を可能にするであろう。再現性のために、試験されているウイルスの範囲内で武装サイトカインのマウス代理を採用してこれらの遺伝子の全身発現レベルを測定することになる。試験は、動物の健康状態の変化を評価する臨床観察を定期的に行いながらおよそ60日間行われることになる。主要な臓器(例えば、脳、肝臓、肺、腎臓、心臓)及び注射部位領域に対して組織病理学が行われることになる。
【0078】
実施例7
本実施例は、同系マウスモデルにおいてUIO-523及びチェックポイント阻害剤を投与する方法について記載する。
【0079】
C57BL/6マウスに5×106個のID8-F3mCherryLuc細胞/200μL(n=10マウス/群)を同所に生着させることになる。1週間後に動物を5×109または5×1010v.p.のどちらかのUIO-523で攻撃することになる(i.p.またはi.v.送達は、上記の単剤療法有効性試験において得られた結果によって決定されることになる)。8日目及び13日目にマウスに25μg/マウスの抗マウスPDL1モノクローナル抗体をi.v.注射することになる。直接的な撮像分析は抗腫瘍作用の評価を可能にするであろう。加えて、ELISPOT技術による腹腔液及び脾臓に由来する免疫細胞の分析は、抗腫瘍免疫の誘導の判定を可能にするであろう。処置群の生存率をおよそ80日間にわたって、または処置群中の全てのマウスが死亡するまで追跡評価することになる。
【0080】
実施例8
本実施例は、シリアンハムスターにおけるUIO-523毒性学及び生体内分布を調べる試験について記載する。
【0081】
免疫正常シリアンハムスターにおいて、表1に示すように提案された第I相卵巣臨床試験を模倣した用量漸増プロトコールを用いて、単一の優良試験所規範(GLP)試験の中でUIO-523の安全性及び生体内分布を評価する実験を行うことになる。
【0082】
意図した臨床試験を模倣する投薬計画によって(例えば連続日数にわたって1日1回)、1×10
9~1×10
11vp/ハムスターの範囲の用量のUIO-523をi.p.に投与することになる。試験される最高用量は、計画される最高ヒト用量を体重1kg基準で少なくとも50倍上回ることになる。試験は、卵巣適応ゆえに雌の動物においてのみ実施されることになり、5匹の動物/群/時点で行うこととする。
【表1】
【0083】
この生体内分布/毒性試験からの結論は、第I相試験へと移すのに安全である無副作用量(NOAEL)でのウイルスの最高用量を同定するであろう。それはまた、ウイルスのi.p.投与後にどの組織が最も高いレベルのアデノウイルス感染を有するのかをも同定し、各感染組織においてウイルス粒子の量の定量的評価を提供するであろう。
【0084】
実施例9
本実施例は、卵巣癌におけるUIO-523アデノウイルスのための第I相臨床試験について記載する。
【0085】
第I相卵巣癌(OC)試験は、局所進行性、再発性または転移性卵巣癌のための単剤療法として及び従来のチェックポイント阻害剤(CI)療法の補助としての、UIO-523の非盲検用量漸増試験とする。およそ18~30名の患者がこの試験に登録されると予想される。
【0086】
第I相OC臨床試験の試験目的は、(1)様々な局部的に進行した及び/または転移したがんを有する患者におけるUIO-523の腹腔内(または静脈内)注射の、単独での、及びCI療法と組み合わせた安全性及び実現可能性、(2)腫瘍でのUIO-523及びCIの部位特異的な最大耐量(MTD)及び推奨される第II相用量、(3)UIO-523の腹腔内(または静脈内)注射とCIとを組み合わせることが局所制御に及ぼす潜在的影響、ならびに(4)投与部位において腫瘍細胞に効率的にトランスフェクトするUIO-523の能力を、評価/同定することであろう。第I/II相試験の第1評価項目は、腫瘍応答及び手術転帰であろう。
【0087】
UIO-523を試験する第I/II相臨床試験は、以下の固形腫瘍及びがんについて検討中である:食道、前立腺、神経膠芽腫、頭頸部癌、肝細胞癌腫、膀胱癌、メラノーマ、大腸癌及び骨肉腫。手術不可能ながんを有する患者における腫瘍低減に向けた第一線としてのCI治療(例えば、PD-1/PD-L1阻害剤)と組み合わせたUIO-523による食道癌の治療は、腫瘍の到達可能性及びこのがんの乏しい予後ゆえに魅力的である。前立腺癌は、直接注射技術を用いること、小線源療法との共施行の実現可能性、及び代理マーカーの存在ゆえに、可能性を有するもう1つの適応症であり、神経膠芽腫は、罹患患者が利用できる治療選択肢が限られていることゆえに、可能性を有する適応症である。
【0088】
UIO-523は、腫瘍内または腹腔内注射液として固形腫瘍には少ない体積(2~5cc)で、またはOCにはより多い体積(100cc)で投与されることになる。製品は腫瘍内または腹膜内に直接注射によって複数部位に(例えば、固形腫瘍には2~5回の注射、OCには3回の注射)、注射の規定の幾何学的配置で投与されることになる。OC第I相試験は、コホート間を半対数漸増として5つの用量レベル(1×1010~1×1012vp、3回)からなることとする。用量レベル1つあたり3名の患者を登録することになる。用量制限毒性がある場合には、試験を次の用量レベルへと進めるのを許可する前に、追加で3名の患者をその用量で登録することになる。同様の用量漸増デザインを第I相固形腫瘍試験に用いることになる。
【0089】
本明細書中で引用される刊行物、特許出願及び特許を含めた全ての参考文献は、これをもって参照により、各参考文献を個別かつ具体的に参照により援用すると示しその全体を本明細書に明記した場合と同じ程度に援用される。
【0090】
本発明を記載する文脈(特に、以下の特許請求の範囲の文脈)において、「a」、「an」、「the」及び「少なくとも1つ」という用語ならびに同様の指示対象の使用は、単数形及び複数形の両方を包含すると解釈されるべきであり、但し、そうでないことが本明細書中に示されているかまたは文脈から明らかに矛盾する場合を除く。1つ以上の項目の列挙の後に続く「少なくとも1つ」という用語(例えば、「A及びBのうちの少なくとも1つ」)の使用は、列挙された項目から選択される1つの項目(AまたはB)、または列挙された項目のうちの2つ以上の任意の組合せ(AとB)を意味すると解釈されるべきであり、但し、そうでないことが本明細書中に示されているかまたは文脈から明らかに矛盾する場合を除く。「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」及び「含有する」という用語は、特に示されていない限り、開放型の用語(つまり、「含むがそれに限定されない」という意味)と解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書中で特に示していない限り、単に、範囲内に入る別個の各値に個別に言及する手短な方法として役立てることを意図したものであり、個別の各値は、あたかもそれを本明細書中で個別に挙げたかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の全ての方法は任意の好適な順序で実施されることができ、但し、そうでないことが本明細書中に示されているかあるいは文脈から明らかに矛盾する場合を除く。本明細書中で示されるありとあらゆる例または例示的な表現(例えば「など」)の使用は単に本発明をよりよく例示することを意図したものであり、特許請求の範囲に記載がない限り、本発明の範囲に限定を加えるものではない。本明細書中のいかなる表現も、特許請求の範囲に記載がない要素を本発明の実施に必須であると示すものと解釈されるべきでない。
【0091】
本発明を実施するための本発明者らに知られている最良の形態を含めた本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載されている。それらの好ましい実施形態の変化形態は、上記の説明を読むことで当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者がそのような変化形態を必要に応じて採用することを企図し、本発明者らは本発明について、本明細書に具体的に記載されている以外の実施がなされることを意図する。したがって、本発明は、適用法令によって許可される、本明細書に添えて別記される特許請求の範囲の中で挙げられている主題のあらゆる改変形態及び均等物を含む。さらには、上記要素の任意の組合せがそのあらゆる可能な変化形態で本発明に包含され、但し、そうでないことが本明細書中に示されているかあるいは文脈から明らかに矛盾する場合を除く。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1】A~Fは、本開示が包含する複数の異なるアデノウイルス実施形態を図解する概略図である。詳細には、Bは、実施例1に記載のUIO-523アデノウイルスの概略図である。
【
図2A】SKOV3細胞中のCD40Lのin vitro発現を実証するフローサイトメトリーデータのプロットであり、アイソタイプの対照(明灰色)、MOIが100のUIO-523(中間の灰色、33.2%陽性)、及びMOIが1000のUIO-523(暗灰色、74.8%陽性)である。
【
図2B】A549細胞中のCD40Lのin vitro発現を実証するフローサイトメトリーデータのプロットであり、アイソタイプの対照(明灰色)、MOIが100のUIO-523(中間の灰色、89.6%陽性)、及びMOIが1000のUIO-523(暗灰色、90%陽性)である。
【
図3A】SKOV3細胞(
図3A)における、AF2011及びUIO-523 hH5ベクターの溶解活性を図解するグラフである。AR2011-lucは、非複製対照ベクターである。
【
図3B】CT26細胞(
図3B)における、AF2011及びUIO-523 hH5ベクターの溶解活性を図解するグラフである。AR2011-lucは、非複製対照ベクターである。
【
図3C】PA1細胞に対するUIO-523 hH5、UIO-523 hH3、及びUIO-523 mH3の溶解活性を図解するグラフである。
【
図4】は、実施例2に記載のとおりに処置したマウスから得られた腫瘍のタンパク質抽出物における、CD40Lの発現を示す画像である。
【
図5A】PBS(
図5A)、AR2011(
図5B)、及びUIO-523(
図5C)で処置した卵巣癌の皮下異種移植片マウスモデルにおける腫瘍体積を図解するグラフである。
【
図5B】PBS(
図5A)、AR2011(
図5B)、及びUIO-523(
図5C)で処置した卵巣癌の皮下異種移植片マウスモデルにおける腫瘍体積を図解するグラフである。
【
図5C】PBS(
図5A)、AR2011(
図5B)、及びUIO-523(
図5C)で処置した卵巣癌の皮下異種移植片マウスモデルにおける腫瘍体積を図解するグラフである。
【
図5D】PBS(
図5D)、AR2011(
図5E)、及びUIO-523(
図5F)で処置したマウスの代表的な腫瘍の画像である。
【
図5E】PBS(
図5D)、AR2011(
図5E)、及びUIO-523(
図5F)で処置したマウスの代表的な腫瘍の画像である。
【
図5F】PBS(
図5D)、AR2011(
図5E)、及びUIO-523(
図5F)で処置したマウスの代表的な腫瘍の画像である。
【
図6】卵巣癌腫症の腹腔内マウスモデルにおける播種性腫瘍に対するUIO-523及びAR2011のin vivo溶解活性を図解するグラフである。
【
図7】PBS対照(上段パネル)、AR2011(中段パネル)、またはUIO-523hH5(下段パネル)で処置したSKOV3腹腔内異種移植片モデルマウスから切除した腫瘍の画像である。
【
図8】PBS対照、AR2011、またはUIO-523hH5で処置したSKOV3腹腔内異種移植片モデルマウス由来の腫瘍における、E4コピー数/μgDNAを示すグラフである。
【
図9】A~Fは、ヒト(CHO-hC3)またはマウス(CHO-mC3)CD276を表面で発現するように改変したCHO細胞で、繊維修飾したAd.CMV-GFP.H3.F(CD276)(D~F)またはAd.CMV-GFP.H3.F(3)(A~C)を形質移入した後の、免疫蛍光画像である。未改変CHO細胞は、対照としての役目を担った。
【
図10】A及びBは、Ad.CMV-GFP.H3.F(3)(A)及びAd.CMV-GFP.H3.F(CD276)(B)を感染させた横紋筋肉腫細胞の免疫蛍光画像である。
【配列表】
【国際調査報告】