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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】ポリマー繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/04 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
D01F8/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549351
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2020054703
(87)【国際公開番号】W WO2020169841
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】1902395.1
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519458370
【氏名又は名称】ジアンシーン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ボウカー ローレン
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】デニス サミュエル
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041BA21
4L041BC06
4L041CB02
4L041CB24
(57)【要約】
中空ポリマーシースの空洞に含有された色成分含有非カプセル化液晶を含む繊維が提供される。シースは色成分を保持し、個別に適合した審美的効果を提供するために追加材料が包含されてもよい。繊維は、人工毛髪製品として、及び布地への製織又は製編に有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己支持型中空ポリマーシースと、前記中空シース内に、所望の審美的効果を提供する色成分含有液晶と、を含む繊維であって、前記自己支持型シースは前記繊維に寸法安定性を付与する、繊維。
【請求項2】
前記液晶は、非カプセル化液晶である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記液晶は、スタティックな色を提供する、請求項1又は2に記載の繊維。
【請求項4】
前記中空ポリマー層は、透明又は半透明である、請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項5】
前記中空ポリマー層は、熱可塑性ポリマーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項6】
前記中空ポリマー層は、ナイロン、モダクリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリアルキレン、熱可塑性加硫物、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマーポリマー、合成ゴム及び熱可塑性オレフィンから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項7】
外側の前記ポリマーシースは、更なる色成分を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項8】
前記ポリマーシースは、カプセル化液晶、染料及び/又は顔料を、分散相として含む、請求項7に記載の繊維。
【請求項9】
前記ポリマーシースは、中空シースの空洞内の色成分の視覚効果を損なう成分を実質的に含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項10】
前記色成分は、染料及び顔料から選択される更なる色成分を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項11】
前記色成分は、好ましくはカーボンブラック及びカーボンナノチューブから選択される暗色成分を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項12】
前記色成分は、シリカ粒子、マイカ、貴重材料、貴重鉱物から選択される固体粒子を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項13】
前記色成分は、50℃未満の温度で固/液相変化又は軟化を起こす、請求項1~12のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項14】
前記成分は、ガリウム及びワックスから選択される、請求項13に記載の繊維。
【請求項15】
前記色成分は、屈折又はプリズム効果を提供する粒子を更に含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項16】
15~150μmの直径を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の繊維を含む人工毛髪製品。
【請求項17】
多数の相互連結された、請求項1~16のいずれか一項に記載の繊維を含む、布地。
【請求項18】
天然繊維又は人工繊維を含む、請求項17に記載の布地。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の布地を含む、衣類又は布地製品。
【請求項20】
押出された中空ポリマー管が製造されるようにポリマー溶融物を押出チャネルに供給する工程と、液晶を含む流動可能な色成分を、前記ポリマー中空管を満たすように前記中空管の1つのゾーンに供給し、それによって前記ポリマーが押出されて前記液晶成分の周囲にシースを形成し、それによって本発明による繊維を形成する工程と、を含む、本発明による繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維に関し、特に、人工毛髪繊維として又は所望の審美的効果を提供する布地として使用するための色成分を含有する中空ポリマー繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
色変化化合物、センサー繊維等を含む繊維のような、機能的及び/又は審美的効果を提供する繊維は公知である。色変化繊維は、典型的には色変化材料を含み、温度の変化等の外部刺激に曝露すると、色変化材料の色の変化により色変化を起こす。天然顔料及び染料、合成染料、顔料、ロイコ染料及び液晶が、基材に色を提供するために使用されている。ロイコ染料及び液晶は、光(光変色性)、電気エネルギー(エレクトロクロミック)、又は熱(熱変色性)等の外部刺激に応じた色変化効果も提供し得る。色変化材料は、典型的には、繊維の表面に適用される。
米国特許出願公開第2008/0279253号明細書は、体温の変化の指標を提供する熱変色性衣類を記載している。外部刺激に対して応答し、刺激の存在又は変化の指標を提供し得るセンサー繊維も公知であり、例えば、熱応答性創傷包帯、及びエンジニアリング及び建築で使用される温度モニタリング材料である。コンポジットセンサー繊維は、米国特許第9810587号明細書に記載されている。
着色製品、特に色変化効果を含む製品は、典型的には基材(例えば、繊維)の表面に適用された染料若しくは顔料又は色変化成分を有する。色材料は、材料に吸収され得るが、他の場合、例えば液晶着色製品を用いた場合、液晶は材料の表面に結合するか又は外側層若しくはコーティング内に分散されてもよく、これは、亀裂、色材料の洗浄による色落ち、望ましくない質量追加、又は布地の絶縁、及び個々のストランド又は繊維ではなく布地内の多数のストランドを着色できること等の特定の問題を呈し得る。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、中空繊維内に含有された色成分を有する中空繊維が、機能的効果及び/又は審美的効果の卓越した組合せを、寸法安定性及び人工毛髪製品又は布地として使用するための「感触」を含めた所望の物理的特性の提供と共にもたらすことを見出した。
本発明は、第1の態様において、自己支持型中空ポリマーシースと、該中空シース内に、所望の審美的効果を提供する色成分含有液晶と、を含む繊維であって、自己支持型シースは繊維に寸法安定性を付与する、繊維を提供する。
本発明の繊維は、任意の好適な用途に用いて審美的効果を提供することができ、人工毛髪繊維としての使用又は布地の形成に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】「スパイダー」ダイを示す。
図2a】本発明による繊維の写真を示す。
図2b】本発明による繊維の写真を示す。
図2c】本発明による繊維の写真を示す。
図2d】本発明による繊維の写真を示す。
図2e】本発明による繊維の写真を示す。
図2f】本発明による繊維の写真を示す。
図3】本発明による繊維の透視図及び断面図を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
用語「自己支持型シース」は、本明細書で使用するとき、繊維に構造形態を付与するシースを意味し、中空シースの空洞内に色成分を含有する働きをする。
用語「寸法安定性」は、本明細書で用いるとき、温度、湿度、圧力又はその他の周囲条件の変化が起きた場合でも、材料が当初の特性を維持すること、及び繊維がその可撓性を維持すること、を意味する。
用語「感触」は、本明細書で使用するとき、使用状況における外観/視覚及び触覚特性を含む繊維の感覚的認識、例えば、べたつき、質量、幅、繊維の動き等を指す。例えば、人工毛髪又は人工毛皮に用いられる繊維の感触は、布地の製編に用いられる繊維に望ましい感触特性とは異なるであろう。
中空シースは、液晶を適切な位置に保持する。外側ポリマー層は、好適には、液晶の色の変化が、観察者に所望の視覚的効果を提供するように選択され、透明又は半透明であり得る。
人工毛髪繊維又は毛皮として用いたとき、繊維の「感触」は、天然毛髪又は毛皮の「感触」特性を基準にして、繊維の見え方(例えば、繊維の光沢及び艶、並びに繊維がどの程度天然に見えるか)、繊維の質量及び幅、並びに触感及び触覚性、塊を形成しないこと、繊維の動き等が評価される。
布地に用いたとき、繊維の「感触」は、布地に関連し、望ましくは天然布地に近い特性、例えば触感(特に着用時の皮膚に対して)、自然な柔軟性等を指す。
有利には、繊維の審美的効果は、利用分野で予想される温度において、所望の色変化を有する又は色が変化しない液晶を用いることで、所望の用途に従って調整できる。特定の審美的効果を提供するために、他の成分も液晶と共に含まれてもよい。従って、ユーザーは、所望の審美的効果を提供する製品の調整において大きな柔軟性を与えられ、その一方で液晶は中空のシースによって保護され、液晶を基材又は繊維に結合するという検討課題が生じない。
【0006】
色成分は、色変化を提供しても固定色を提供してもよい。
色は、色成分によって繊維に付与されてもよく、所望に応じて任意に、中空シースは、シースの中空空洞内に含有される色成分と同じ色成分を含んでも又は異なる色成分を含んでもよい。
繊維は、人工毛髪、例えばヘアエクステンション、ヘアサンプル、ウィッグ等として使用するのに特に好適である。望ましくは、シース内の色成分、及び任意でシース自体は、1つの状態で天然の毛髪色を模倣し、活性化されて(例えば、熱刺激下で)第2の状態では人工色となるように着色される。
毛髪繊維は、典型的には、15~150μm、より一般的には40~120μmの直径を有する。本発明は、繊維が15~150μm、好ましくは40~120μmの直径を有する、本発明による繊維を含む人工毛髪も提供する。
色成分は、固定色を提供してもよく、又は外部刺激、例えば温度、圧力若しくは張力、及び電気エネルギーによる色変化を提供してもよい。
【0007】
カプセル化液晶又は非カプセル化液晶を用いてもよいが、非カプセル化液晶が好ましい。液晶は、可逆的(液晶はある状態から別の状態へと変化して元の状態に戻り得る)でも、不可逆的(その場合、液晶は変化した状態を維持し、元の状態に戻ることはできない)でもよい。
液晶は、光学活性有機化学物質を、封止若しくはカプセル化して(例えば、マイクロカプセル化による)、又は未封止で(例えば、多分散形態で)、オイルとして含む。
液晶は、種々の手段及び材料によってカプセル化されてもよく、好適には、液晶への適合性がある公知のカプセル化材料、例えば、アラビアガム及び/又はグルタルアルデヒド架橋ゼラチン等のゼラチンとアラビアガムとの混合物を含む。公知の又は後に考案された他のカプセル化材料を用いてもよい。他の種類のカプセルの例としては、シロキサンベースのカプセル、熱可塑性ポリマーベースのカプセル、及び熱硬化性ポリマーベースのカプセルが挙げられる。
好適な液晶としては、典型的にはコレステロール又はその他のステロール誘導化合物(コレステリルカーボネートエステル等)をベースとするか、又はこれらを含む、コレステリック液晶が挙げられる。他の好適な液晶としては、キラルネマチック液晶等の非ステロール系化合物、例えば安息香酸フェニルエステルが挙げられる。好ましくは、液晶はキラルネマチック液晶、例えば安息香酸フェニルエステルからなるか、又は主成分としてのキラルネマチック液晶と微量成分としてのコレステリック液晶との組合せからなる。
好適な液晶は、LCR Hallcrest等の様々な供給源から入手できる。安息香酸フェニルエステル等の非コレステロール系液晶は、高反射率を有する明るく強烈な色効果を提供し、高級製品に好適である。コレステリック型液晶は、典型的には、非コレステリック液晶よりも強度が低い着色効果を提供するが、コストが低く、より大規模な市場に適する可能性がある。非コレステリック液晶とコレステリック液晶との混合物を用いて、製品性能及びコストを最適化してもよい。好ましい実施形態では、液晶は、好適には、非コレステリック液晶のみを含む。
液晶は、入射白色光を選択的に反射することによって色を示す。液晶は、温度の上昇又は低下に従って光の特定の波長を反射でき、無色から赤色まで、可視スペクトルの他の色(赤、オレンジ、黄、緑、青)を順に経た後、更に高温(「透明点」として知られる)で再度無色になり得る。各色の出現の持続時間は、特定の色が長時間観察されるように帯域幅を変えることで調整でき、これは他の色を優先して特定の色を「選択除外」すること、例えば、赤から青へ、緑を減じて、2ト-ン効果を生じること、又は赤、オレンジ、黄色で3トーン効果を生じることができることも意味する。液晶が無色の状態にあるとき、その下にあるコア又は繊維の他の成分の色が見える場合がある。このような色の変化は、可逆的であり、冷却すると、逆の色変化が起こる。色変化が始まる温度(「開始点」又は透明点と呼ばれる)、及び色変化が起こる温度全体(「帯域幅」と呼ばれる)は、液晶の組成に従って調節できる。
色成分含有液晶は、固定色である染料及び/又は顔料も含み得る。染料は、任意の色、例えば、黒、赤、又は青であってもよい。好ましい実施形態では、色成分は、油溶性染料、カーボンブラック、酸化鉄、マイカ、黒鉛 合成メラニン及びポリドーパミン顔料を含む。好適な黒色染料又は顔料の例としては、MINISOの商標名で入手可能な製品が挙げられる。染料及び/又は顔料は、意図する所望の効果に従って選択されてもよい。顔料は、よりシンギュラー(singular)な色変化を提供し得る。
【0008】
特に好ましい実施形態では、色成分は、黒色成分、例えば、油溶性黒色染料、カーボンブラック及びカーボンナノチューブ(例えばVANTA BLACKとして入手可能)を更に含む。
一部の実施形態では、「スタティック」な色が要求され得る。用語「スタティック」は、本明細書で使用するとき、特定の用途の通常使用の範囲内で色の変化を示さない色変化材料を指す。従って、色成分は、呈色の能力はあるが使用条件下で通常は色変化を示さず、固定色を示す。色成分は、組成物が使用される条件で単色を示す任意の材料を含み得る。単色は、色が変化しない着色剤、例えば、染料及び/又は顔料によって提供されてもよく、又は色変化が可能であるが、組成物の通常の使用条件下では色変化を起こさない液体着色剤、例えば液晶又はロイコ染料によって提供されてもよい。
色成分は、スタティック液晶と、任意選択で固定色である染料及び/又は顔料と、を含み得る。染料は、黒又は青、例えばカーボンブラックであってもよい。好ましい実施形態では、着色剤は、カーボンブラック、酸化鉄、マイカ、黒鉛 合成メラニン及びポリドーパミン顔料を含む。好適な黒色染料又は顔料の例としては、MINISOの商標名で入手可能な製品が挙げられる。染料及び/又は顔料は、意図する所望の効果に従って選択されてもよい。顔料は、よりシンギュラーな色変化を提供し得る。
【0009】
用語「シンギュラー」は、「2トーン」カラーシステムを指し、スタティックな色、又は無色から着色へ、若しくは着色から無色へ、若しくは第1の色から第2の色への顕著な色変化、又は液晶で典型的に観察される従来の色のスペクトル(赤、緑、及び青)及びこれらの色の間での移行とは異なる2色間での色の変動のいずれかである。例えば、シンギュラーな液晶系は、赤を示さずに緑と青等の2色の間で変動し得る。用語「シンギュラー」は、特定の所定温度又は個別に適合された度よりも高温又は低温で観察される単色も指す。
一実施形態において、色変化特性は、異なる液晶を混合すること、例えば、20~25℃で活性化する液晶混合物を30~35℃で活性化する混合物と混合することで、液晶の異なる系を同じ繊維内に組み合わせることによって増強され得る。有利には、活性化範囲が異なる複数の液晶を有する繊維は、同じ繊維内で、異なる温度で複数の色変化を起こすことができ、より広い温度範囲にわたって強力な効果を提供する。更に、異なる温度応答性液晶を含有する複数の繊維が、同じ布地内で組み合わされ、織り合わされて、異なる時点で活性化し得る場合もある。
【0010】
自己支持型中空ポリマーシースは、色成分が配置され、流動可能な色成分を保持する空洞を画成する。空洞内の色成分に加えて、更なる色成分がシース内に、例えばポリマー壁内の分散相として、存在してもよい。かかる更なる色成分は、非カプセル化液晶、カプセル化液晶、染料、顔料等の、繊維の外観に寄与する材料を含んでもよい。
ポリマーシース層は、好適にはポリマーを含み、該ポリマーは好適には溶融流動可能であり、特に未延伸状態で良好な可撓性を示す。材料は、好適には清澄でもあり、望ましくは半透明又は透明で、所望の効果、及び空洞内の色成分の観察を容易にする。ポリマーシースは、特に繊維が布地の製造に用いられる場合に、物理的摩耗及び摩損への耐性も好適であり、典型的な製編プロセスにおいて弾性を提供し、繊維の外観を保持し、繊維の内部成分を物理的損傷から保護し、又は中空シースを破壊及び漏洩から保護する。望ましくは、ポリマーは、製編プロセスにおける応力白化にも耐性である。好適には、ポリマーは、非粘着性の仕上げを得るように選択され、標準的な製編プロセスで、ポリマー自体又は製造装置に固着することなく使用できる。
好適には、外側ポリマーシースは、液晶と不混和性又は多くとも部分的に混和性であるポリマーを含み、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、モダクリル(約35~85%のアクリロニトリル単位で改質された熱可塑性ポリマー)、熱可塑性ポリウレタン(例えばBASFのELASTOLLAN系列)、熱可塑性エラストマー(例えばDowのAFFINITY系列)、熱可塑性オレフィン(例えばEPDM)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性加硫物(例えばExxonのSANTOPRENE)等の広範なポリマーから選択されてもよい。
好ましい実施形態では、ポリマーは、ポリウレタン、ナイロン及びモダクリルから選択される。好適なポリウレタンとしては、エーテルベースのポリウレタン、及び好ましくはエステルベースのポリウレタン、例えばELASTOLLAN 1180が挙げられる。他のポリマーを使用してもよいが、好ましさは劣る。好適なポリマーの例としては、商標名ELASTOLLAN B85A 1000でBASFから入手可能なポリウレタン、及びSchulmanから入手可能なナイロン6 NATURAL BS10が挙げられる。
好ましい実施形態では、ポリマーシースは、ポリオレフィン、より好ましくはポリエチレン、ポリブチレン及びポリプロピレンを含む。ポリマーシースは、コポリマー、好ましくはポリマー改質に好適な熱可塑性エラストマー、より好ましくは2つ以上のアルケンのコポリマー、特に1~4炭素のアルケンと6~10炭素のアルケンとのコポリマー、例えばエチレン-1-オクテン、LG ChemからLUCENEの商標名で入手可能なもの、例えばLUCENE LC670、及びアイソタクチックポリプロピレン、例えばExxonMobilからVISTAMAXX 6202で入手可能なものが挙げられる。好ましい実施形態では、ポリマーシースは、ポリプロピレンのみからなるか、又は50~99%、60~90%、特に70~85%のポリプロピレンと、1~50%、10~40%、特に15~30%の熱可塑性エラストマーとを含み、好ましくは2つのオレフィン、特にエチレン-1-オクテンのコポリマーを含む。
【0011】
繊維は、シースの空洞内及び/又はポリマーシース内に、色成分の1つ以上の追加成分を含んでもよい。一実施形態において、追加成分は、1つ以上の更なる色成分を含む。空洞内で使用するとき、更なる色成分は、好ましくは、油性であってもよい染料又は粉末顔料、特に暗色成分、例えばカーボンブラック、VANTA BLACK等のカーボンナノチューブを含む。ポリマーシース内に包含する場合、追加の色成分は、粉末顔料又は顔料分散体、例えば無機粉末顔料であってもよいが、好ましくは油溶性染料、例えば赤色染料及び黒色染料である。好適な染料の例としては、SUDAN Black B及びSUDAN IIIが挙げられる。好適には、更なる色成分は、0.1~3%、特に0.2~0.6%の濃度で用いられる。
カプセル化液晶が空洞又は外側シースに存在する場合、任意の追加の色成分は、液晶のカプセル化への支障を避けるため、水性となる。非カプセル化液晶を用いる場合、染料は、好適には油溶性染料、好ましくは黒色油溶性染料又は赤色油溶性染料を含む。カプセル化液晶を用いる場合、油溶性染料はカプセル体の中に使用され、カプセル化液晶と密に混合され得る。可溶性染料をカプセル体の外側に用いる場合、カプセル化材料との有害相互作用のリスクを低減するため、かかる染料は水溶性とすべきである。
シースの空洞内及び/又はポリマーシース内に単独で又は複数組み合わせて含まれ得る更なる任意選択成分としては、50℃未満の温度で固液相変化を起こし、温暖時の可撓性と低温時の固体との間で剛性の変化をもたらす成分(例えば、ガリウム)、温度の変化による不透明度及び構造の変化をもたらし、典型的には温暖時に透明且つ可撓性であり、低温時に不透明且つ硬質であるワックスが挙げられる。繊維は、外側シースに更なる色成分を更に含んでもよい。着色剤は、好適には固定色であり、視覚外観又は液晶の特性強化を可能にするか又は増進する。着色剤は、任意の色、例えば、赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫、茶、及び黒であってもよい。より明るい色は、真珠光沢又は乳白光効果を示し得る。着色剤は、任意の所望の濃度でポリマーシースに組み込むことができる。好適な着色剤の例としては、BASFから入手可能なSicopal(登録商標)、Magnapearl(登録商標)DFシリーズ、Eupolen(登録商標)、Micranyl(登録商標)、Microlen(登録商標)系列が挙げられる。外側シースはロイコ染料を含んでもよく、これは色変化に関して可逆的でも不可逆的でもあり得る。
【0012】
繊維組成物は、UV安定剤を更に含み得る。液晶は、UV放射の影響による分解を起こしやすい場合がある。系に適合する任意の公知のUV安定剤を用いてもよい。好ましいUV安定剤としては、BASFのTinuvin(登録商標)、ベンゾフェノン-4、アボベンゾン、ホモサレート、オクトクリレン、ベンゾフェノン-5、エチルヘキシルジメチルPABA、酸化チタン、酸化亜鉛、フェニルベンゾイミダゾールスルホン酸、PEG-25PABA、フェニルジベンズイミダゾールテトラスルホン酸二ナトリウム等のUV安定剤が挙げられる。
ポリマーシースは、他の添加剤を含んでもよい。好適な添加剤の例としては、生分解性及び抗菌特性を提供する添加剤、例えば銀、好適にはナノ粒子としての銀が挙げられる。好適には、UV安定剤及び他の添加剤は、従来量、典型的にはポリマーシースの0.1~5質量%で用いられる。
【0013】
繊維は、好適には、単糸として、ヘアエクステンション又は他のヘア製品として使用されてもよく、又は人工毛皮若しくは布地(例えば、編布地)を提供してもよい。本発明による繊維又は布地は、編布地、織房(woven tassle)、刺繍、かぎ針編み、ウイッグエクステンション、ヘアエクステンション、人工毛皮、玩具、人形、ブラシ、及び人工毛髪のサンプルを展示して効果を例示するカラーボードの形態であってもよい。
【0014】
本発明は、更なる態様では、例えば製織又は製編によって相互連結された、本発明による繊維を多数含む布地を提供する。糸のモノフィラメントは、バルクで使用して、数本のモノフィラメントを一緒に絡み合せることによって、マルチフィラメント糸を作製することもできる。繊維又は糸は、既存の衣服又は布地の上にパターン又はデザインを手動又は機械で細密刺繍するためのモノフィラメント又はマルチフィラメントとしても使用できる。
繊維又は糸の太さは、伝統的に糸質量(yarn weight)と呼ばれ、繊維又は糸の押出中の引抜きプロセスを変更することで特定の用途に合わせて調整でき、引抜きを増大すると繊維又は糸の太さが減少する。繊維又は糸質量は、0.1ply~16plyの範囲をとることができ、従って、刺繍から厚手の編物までの様々な布地用途を可能にする。いくつかの例の糸質量(ply)及び編物用途を表1に示す。
【表1】
【0015】
繊維は、好適には、ユーザーからの要求に応じて、例えば透明から不透明、艶消から光沢、可逆的色変化及び不可逆的色変化の効果を提供するように適応される。
布地は、好適には、布地又は繊維が用いられている技術分野における任意の該当する規制又は工業規格、例えば、機能性布地の質量規定、洗濯堅牢度、摩擦堅牢度、UV堅牢度、並びに本発明の繊維及び布地が用いられ得る自動車、航空及びその他の産業の規制に準拠する。
好適には、繊維は、ISO 105-B02:2014に定められた基準に適合する耐光性を有する。所望に応じて、繊維は、公知のUV吸収剤を、好ましくは外側ポリマー層内に含み得る。
繊維又は該繊維から製造された布地は、好適には、耐摩耗性であり、ISO 12947-2:2016に定められた基準に適合する。
【0016】
繊維が布地へと製編又は製織される場合、糸は、製編に好適か否かを判断するために張力を解放したときに好適な撚り及び回復をもたらす。繊維は、全体のうちの一成分部分として、又は布地の別個の領域としての「パッチ」、例えば編糸又は物品として、物品又は布地に組み込まれてもよい。
本発明は、本発明の色変化繊維又は布地を含む表面パッチを備える物品、例えば、衣料品、衣服、履物等の品物を更に含む。
【0017】
更なる態様では、本発明は、本発明による繊維の製造方法を提供し、該方法は、押出された中空ポリマー管が製造されるようにポリマー溶融物を押出チャネルに供給する工程と、液晶を含む流動可能な色成分を、ポリマー中空管を満たすように中空管内の1つのゾーンに供給し、それによってポリマーが押出されて液晶成分の周囲にシースを形成し、それによって本発明による繊維を形成する工程と、を含む。
好ましくは、ポリマー溶融物は、溶融物のより均一な流動を促進し、より安定な繊維を提供する「スパイダー」ダイを通して押出される。
好適には、本発明の繊維は、押出機、好ましくは図1に示す「スパイダー」ダイを用いることによって製造される。外側ポリマーシースを形成するためのポリマー溶融物は、チャネル1(供給B)を通過して中空シースを形成する。液晶及び任意選択の他の成分は、混合され、所望の色効果に従って調整されて、色成分を提供する。色成分はチャネル2(供給A)を通過してノズル3から出るが、その際ダイノズル3は、ポリマーが色成分の周囲にシースを形成するような位置にある。チャネル2は、ノズル3の出口と等しいか又は好適にはノズル3の出口を超えて延び、その結果、形成された外側シース内の空洞に液晶が流れ込む。好適には、形成された繊維は、制御された速度で、アタッチメントによって巻き取り機に慎重に引き出される。巻き取り機の速度を変えることによって、外側シースの厚さを所望の厚さに調節できる。
【0018】
図2a~2fは、本発明による繊維の写真を示し、図2a、2c、2eの繊維は、非活性化又は「天然」状態であり、それぞれの活性化又は「着色」状態の同じ繊維を図2b、2d及び2fに示す。
図3は、本発明による繊維の透視図及び断面図を概略的に示す。
【0019】
本発明を、以下の非限定例によって例示する。特記のない限り、全ての百分率及び部数は質量によるものであり、全ての測定は25℃におけるものである。
【実施例
【0020】
本発明による繊維は、外側ポリマーシースが通る外側同軸ゾーンを有するダイ(dye)に色成分を通すことで調製した。外側ポリマーシースは、色成分を封入して本発明による繊維を生成した。
表2に列挙した成分を有する繊維を調製し、色成分を「コア」と呼ぶ。色成分又は外側層が、それぞれ液晶又はポリマーへの追加成分を含む場合、それぞれの成分を、層の主成分と予め混合した。ポリマーシースは、引抜速度30~60rpm、及び入口/中央/出口バレル温度240~320/240~260/250~260で押出した。色成分は手動で導入した。
【表2】


【0021】
繊維は、ポリマー及びコア成分を押出することで製造した。全ての繊維は、適切に形成され、可撓性で、糸への加工及び布地への製織に好適であった。
熱を適用すると、液晶は色が変わる。ネマチック液晶のみを含有する実施例は、鮮やかさ及び色変化の強度がより大きかった。
実施例5及び6は液晶に油溶性染料を含み、これは色の輝度を増強した。
【0022】
実施例7
実施例2で製造した繊維を含む人工毛髪製品を製造した。繊維は40~120μmの直径を有した。繊維の製造の後、昇華染料浴を使用して、30分間、80℃に加熱して、繊維を染色した。昇華染料浴は、異なる希釈度の黒色又は茶色染料を使用して、任意の天然毛髪色を繊維に得るように調節できる。人工毛髪製品は、初期状態において、天然毛髪色である。熱を適用して5℃未満の温度変化を与えると、液晶の状態が変化した結果として色成分が変色し、所望の審美的効果を提供した。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図3
【国際調査報告】