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特表2022-521334前方向(proactive)抑制制御および衝動性の制御のためのリゾチーム加水分解物
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  • 特表-前方向(proactive)抑制制御および衝動性の制御のためのリゾチーム加水分解物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-06
(54)【発明の名称】前方向(proactive)抑制制御および衝動性の制御のためのリゾチーム加水分解物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/18 20160101AFI20220330BHJP
   A23K 20/189 20160101ALI20220330BHJP
   A61P 25/28 20060101ALN20220330BHJP
   A61K 38/54 20060101ALN20220330BHJP
【FI】
A23L33/18
A23K20/189
A61P25/28
A61K38/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549418
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(85)【翻訳文提出日】2021-10-20
(86)【国際出願番号】 NL2020050102
(87)【国際公開番号】W WO2020171706
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】2022627
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520062719
【氏名又は名称】ニュートリシャス ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Newtricious B.V.
【住所又は居所原語表記】Onderwijsboulevard 225 5223 DE’s Hertogenbosch Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プラト,ヨグフム
(72)【発明者】
【氏名】アダム,ヨーゼフ ヤーコブス マリア ユージン
(72)【発明者】
【氏名】メンシンク,ロナルド ペテロ
(72)【発明者】
【氏名】ビフェルト,マルセル アレクサンデル
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル マデ,サンネ マリア
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C084
【Fターム(参考)】
2B150AB10
2B150BB03
2B150DF09
4B018LB10
4B018MD20
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF12
4C084BA43
4C084DC22
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZC521
4C084ZC522
(57)【要約】
本発明は、患者において認知機能を改善または維持する非治療的方法に関し、該方法は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を該患者に投与することを含む。さらに、本発明は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物に関する。加えて、本発明は、患者において認知機能を改善または維持する非治療的方法における、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品の使用、あるいは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、前記方法が、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含む組成物を前記患者に投与することを含む、該非治療的方法。
【請求項2】
認知機能を改善することが、抑制制御を改善すること、注意を改善すること、衝動性の制御を改善すること、および覚醒度を改善することのいずれか1つ以上である、請求項1に記載の非治療的方法。
【請求項3】
抑制制御を改善することが、前方向抑制制御を改善することであり、および/または注意を改善することが、持続的注意を改善することである、請求項2に記載の非治療的方法。
【請求項4】
前記患者が、ヒト患者および/または健康な患者、好ましくは健康なヒト患者、例えば多動性の患者である、請求項1-3のいずれか1項に記載の非治療的方法。
【請求項5】
前記患者が、男性、好ましくはヒト男性、より好ましくは少なくとも60歳、好ましくは少なくとも65歳、より好ましくは少なくとも67歳、例えば60-105歳、または67-75歳の、ヒト男性である、請求項1-4のいずれか1項に記載の非治療的方法。
【請求項6】
その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項7】
前記損なわれた認知機能が、損なわれた抑制制御、損なわれた前方向抑制制御、および損なわれた衝動性の制御の任意の1つ以上である、請求項6に記載の方法における使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項8】
前記その必要がある患者が、多動性、神経変性疾患、アルツハイマー病、認知症、パーキンソン病、強迫性障害、強迫神経症、トゥレット症候群、注意欠如多動性障害、精神障害、抜毛症、中毒、例えば薬物、麻薬、ニコチン、アルコール、ゲーム、ギャンブルに対する中毒の、任意の1つ以上を罹患している、請求項6または7に記載の方法における使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項9】
前記損なわれた認知機能が、悪化した注意、悪化した持続的注意、および損なわれた覚醒度の任意の1つ以上である、請求項6に記載の方法における使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項10】
前記その必要がある患者が、注意欠如多動性障害、精神障害、統合失調症、多動性の任意の1つ以上を罹患している、請求項6または9に記載の方法における使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項11】
前記患者が、男性、好ましくはヒト男性、より好ましくは少なくとも60歳、好ましくは少なくとも65歳、より好ましくは少なくとも67歳、例えば60-105歳、または67-75歳のヒト男性である、請求項6-10のいずれか1項に記載の方法における使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項12】
前記リゾチームのスブチリジンA加水分解物の少なくとも30重量%が、分子量0.5kDa未満のリゾチームペプチドである、請求項1-5のいずれか1項に記載の非治療的方法、または請求項6-11のいずれか1項に記載の方法における使用のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項13】
前記リゾチームの加水分解の程度が、少なくとも12%、好ましくは15%-50%、より好ましくは18%-40%、最も好ましくは19%-30%、例えば21%である、
請求項1-5または12のいずれか1項に記載の非治療的方法、または請求項6-12のいずれか1項に記載の方法における使用のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項14】
前記リゾチームのスブチリジンA加水分解物の日用量が、1日当たり0.5グラム-20グラム、好ましくは1日当たり1グラム-10グラム、より好ましくは1日当たり2グラム-8グラム、例えば1日当たり5グラムであり、好ましくは前記患者に1日1回の服用として投与される、請求項1-5または12-13のいずれか1項に記載の非治療的方法、または請求項6-13のいずれか1項に記載の方法における使用のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物。
【請求項15】
請求項1-14のいずれか1項に記載のリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品の、請求項1-5、12-14のいずれか1項に記載の非治療的方法における使用、または、請求項6-14のいずれか1項に記載の方法における使用のための、請求項1-14のいずれか1項に記載のリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者において認知機能を改善または維持する非治療的方法に関し、該方法は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を該患者に投与することを含む。さらに、本発明は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物に関する。加えて、本発明は、患者において認知機能を改善または維持する非治療的方法における、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品の使用、または、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品に関する。とりわけ、本発明は、患者において衝動性の制御を改善または維持する、および/または抑制制御を改善または維持する、非治療的方法に関し、ならびに/あるいは、その必要がある患者において、損なわれた衝動性の制御および/または損なわれた抑制制御を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジン加水分解物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は、ほぼ絶え間のない覚醒および注意を、ヒト患者に増々要求する環境である。学校、職場、大学において、交通量の多い往来を通って移動する間、在宅中、またいくつかの(ソーシャル)メディアの供給源に曝されているとき;適切な認知機能は、信号、情報、誘惑、および性的誘惑の、全ての供給源を使いこなさねばならない患者にとって、前提条件でありかつ利点である。患者は常に、仕事又は環境がより速い反応時間を要求しているとき、常に反応時間が足りないというリスクに曝され得る。ソーシャルメディア、(ビデオ、インターネット)ゲーム、アルコール、紙巻きタバコ、リアルライフ、リアルタイムでの社会的相互作用および出会いなどは全て、衝動の適切な制御、適当な前方向抑制制御、および/または注意を必要とする状況の例であり得る。それ故、衝動制御および持続的注意は共に、日常の機能において重大な役割を果たす中心的な認知機能の例である。
【0003】
健康なヒト患者は、成人期の人生を通じて、加齢につれて時間と共に、認知機能の自然な緩やかで確かな低下を経験する。認知機能、例えば、抑制制御、前方向抑制制御、注意、持続的注意、衝動性の制御、覚醒度、持続的な覚醒、に関連するものは、時間と共に自然に低下することから、あらゆる種類および供給源の情報およびシグナルに対し、適正に受取ること、習得すること、および応答することは、それ故、加齢の結果としてますます努力することを求めている。例えば、高齢者は、(車の)交通、公共交通機関、人混みなどに関与しているとき、前記認知機能の低下に起因して、迷ったと感じることで苦しむか、または不安の感情を経験することがある。例えば、年月の間には、教員、警備員、バス運転手などの専門家は、若者と集中的に交流するとき、認知機能が徐々に低下することの不快な影響を経験し得る。
【0004】
人生の現実としての、健康な患者における認知機能の低下とは別に、いくつかの健康問題および病的状態が、例えば抑制制御、前方向抑制制御、注意、持続的注意、衝動性の制御、覚醒度、持続的な覚醒といった、認知機能の低下(のリスク)と関連づけられる。例えば、認知機能の低下は、多動性、神経変性疾患、アルツハイマー病、認知症、パーキンソン病、強迫性障害、強迫神経症、トゥレット症候群、注意欠如多動性障害、精神障害、抜毛症、中毒、例えば薬物、麻薬、ニコチン、アルコール、ゲーム、ギャンブルに対する中毒の、1つ以上を罹患しているヒト患者に見られる。特に、低下したかまたは損なわれた前方向抑制制御、とりわけ損なわれた衝動性の制御は、こうした患者の日常生活を妨げる局面である。加えて、注意欠如多動性障害、精神障害、統合失調症、多動性の1つ以上を罹患している患者は、低下した認知機能の不利益を、例えば悪化した持続的注意、例えば悪化した全般的覚醒度に関連して経験する。
【0005】
それ故、健康な患者において認知機能、例えば、抑制制御、前方向抑制制御、注意、持続的注意、衝動性の制御、覚醒度、持続的な覚醒に関連する認知機能、を改善させる解決策が見つかることが、依然として必要とされている。また、健康な患者において低下したかまたは低下しつつある認知機能、例えば、その低下が加齢の結果としての認知機能の悪化の自然な現象に関連する、抑制制御、前方向抑制制御、注意、持続的注意、衝動性の制御、覚醒度、持続的な覚醒に関連する認知機能、を改善させる解決策が見つかることも、まだ必要とされている。加えて、その低下が健康上の問題または前記認知機能低下に付随する疾患に罹患している患者に関連した、抑制制御、前方向抑制制御、注意、持続的注意、衝動性の制御、覚醒度、持続的な覚醒に関連する認知機能などの、認知機能を患者において改善もしくは維持すること、または認知機能の低下を患者において停止もしくは逆転させることを可能にする解決策が見つかることも、尚必要とされている。
【0006】
特許文献1は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病などの認知症の予防または治療のための組成物に関する。該組成物は、リゾチーム加水分解物を含んでいる。通常の日常の作業を行うための能力に対する該組成物の効果は、マウスの穿孔試験[非特許文献1-3]を用いて評価される。マウスによる穿孔は、日常生活動作(ADL:自己、社会的および家庭内環境のケア)であり、ヒトのADLに類似する。ADLを実行する能力の破壊は、アルツハイマー病などの神経変性疾患の初期の兆候である。特許文献2は、例えば、覚醒、ビジランス(警戒、vigilance)、認知を予防または治療するための使用のための組成物に関連しており、これにおいて認知とは、問題解決、学習、記憶、および言語といった領域に関連する複合されたスキルとして定義される。特許文献2に開示された組成物は、リゾチーム加水分解物を含み得る。特許文献2においては、例えば、覚醒およびビジランスおよび認知に対する組成物の効果は、マックワース・クロック・テスト(Mackworth Clocck test)[非特許文献4]およびクリティカル・トラッキング・タスク(Critical Tracking task)[非特許文献5、6]を適用することにより評価される。マックワース・クロック・テストは、ビジランスおよび持続的注意を規定するべく設計され、ここで、ビジランスとは、受容および応答するための心理的準備を述べるものであり、これは注意とは異なり、必ずしも意識的に経験する必要はない[非特許文献4]。クリティカル・トラッキング・タスクは、焦点的注意および視覚運動制御を必要としかつ試験する[非特許文献6]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/144443号
【特許文献2】国際公開第2009/133055号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Deacon,R.著、“Assessing burrowing,nest construction,and hoarding in mice(マウスにおける穿孔、造巣、および溜め込みの評価)”、「Journal of Visualized Experiments」、2012年1月、第59巻、e2607、p.1-12.
【非特許文献2】Jirkof,P.著、“Burrowing and nest building behavior as indicators of well-being in mice(マウスにおけるウェルビーングの指標としての穿孔および造巣行動)”、「Journal of Neuroscience Methods」、2014年、第234巻、p.139-146.
【非特許文献3】Deacon,R.M.J.著、“Burrowing:A sensitive behavioural assay, tested in five species of laboratory rodents(5種の実験用げっ歯類においてテストされた感度の良い行動アッセイ)”、「Behavioural Brain Research」、2009年、第200巻、p.128-133.
【非特許文献4】Mackworth,N.H.著、“The breakdown of vigilance during prolonged visual search(長引く視覚探索の間のビジランスの崩壊)”、「Quarterly Journal of Experimental Psychology」、1948年、第1巻、p.6-21.
【非特許文献5】Jex,H.R.、McDonnell,J.D.、およびPhatak,A.V.著、“A “critical”tracking task for man-machine research related to the operator’s effective delay time(オペレーター有効遅れ時間に関連する、ヒト-機械研究のためのクリティカル・トラッキング・タスク)”、「NASA contractor report NASA CR-616」、1966年11月、p.1-105.
【非特許文献6】Petzoldt,T.、Bellem,H.、および Krems,J.F.著、“The critical tracking task-A potentially useful method to assess driver distraction?(クリティカル・トラッキング・タスク-運転手の注意散漫を評価するための潜在的に有用な方法?)”、「Human Factors」、2014年、第56巻、第4号、p.784-803.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の目標は、認知機能を改善または維持する(保護する)ための、組成物、食料品、栄養補助食品、飼料製品などを提供することである。認知機能は、好ましくは、抑制制御、前方向抑制制御、注意、持続的注意、衝動性の制御、覚醒度の任意の1つ以上、より好ましくは、前方向抑制制御、持続的注意、衝動性の制御の任意の1つ以上である。特定的には、認知機能は、抑制制御、前方向抑制制御、および/または衝動性の制御である。より特定的には、認知機能は、抑制制御、好ましくは、前方向抑制制御、注意、好ましくは持続的注意、衝動性の制御、覚醒度の全てである。
【0010】
本発明の目的は、認知機能を改善または保護するための組成物を提供することであって、該認知機能とは、抑制制御、注意、衝動性の制御、覚醒度、前方向抑制制御、および持続的注意の任意の1つ以上であり、特に、抑制制御、前方向抑制制、および/または衝動性の制御である。本発明のさらなる目的は、健康な個人において認知機能を改善するための組成物を提供することであって、ここで、該個人とは、好ましくはヒト患者である。本発明のさらなる目的はまた、その必要がある患者、例えばヒト患者、において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、組成物を提供することである。その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療することとは、既に低下した認知機能を逆転させること、認知機能の現在の状況を改善すること、認知機能を改善すること、認知機能を保存または保護することなどの任意の1つ以上であり、ここで、認知機能とは、抑制制御、前方向抑制制御、注意、持続的注意、衝動性の制御、覚醒度の任意の1つ以上、より好ましくは、前方向抑制制御、持続的注意、衝動性の制御の任意の1つ以上である。特定的には、認知機能は、抑制制御、前方向抑制制御、および/または衝動性の制御である。より特定的には、認知機能は、抑制制御、好ましくは前方向抑制制御、注意、好ましくは持続的注意、衝動性の制御、覚醒度の全てである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的の少なくとも1つは、本発明のタンパク質溶解物を提供することにより達成される。より特定的には、上記の目的の少なくとも1つは、本発明のリゾチーム溶解物を提供することにより達成され、該溶解物は、スブチリジンA加水分解物である。特に、上記の目的の少なくとも1つは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を提供することにより達成される。
【0012】
本発明の第1の態様は、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、前記方法が、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を前記患者に投与することを含む、該非治療的方法に関する。スブチリジンAは、セリンエンドペプチダーゼである。認知機能の改善は、関係する患者の利益のため、および/または関係する患者と相互作用している患者の利益のための、認知機能の質の向上または認知機能の程度の向上であり、ならびに/あるいは、認知機能の改善は、認知機能を現在のレベルに維持し、それにより認知機能の悪化または低下、例えば、患者の自然の加齢現象の結果としての認知機能の低下、を防止することである。
【0013】
好ましいのは、患者における認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、認知機能を改善することが、抑制制御を改善すること、注意を改善すること、衝動性の制御を改善すること、および覚醒度を改善することのいずれか1つ以上である、該治療的方法である。特に、抑制制御を改善することは、前方向抑制制御を改善することであり、および/または注意を改善することは、持続的注意を改善することである。好ましいのは、本発明の非治療的方法であって、これにおいて、認知機能を改善することが、衝動性の制御を改善すること、および/または(前方向)抑制制御を改善することである、該非治療的方法である。より好ましいのは、本発明の非治療的方法であって、これにおいて、認知機能を改善することが、(前方向)抑制制御、(持続的)注意、衝動性の制御、および覚醒度の全てを改善することである、該非治療的方法である。
【0014】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下における、持続的注意などの注意の改善、および/または全般的覚醒度などの覚醒度の改善は、持続的注意検査(SAT)、すなわち、ヒト患者のために確立されたような精神運動ビジランステスト、の適用によって評価されるとき、持続的注意については、少なくとも0.5%であり、また、全般的注意については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、持続的注意などの注意、および/または全般的覚醒度などの覚醒度は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取、例えばリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または1%-3%改善する。特に、前記改善は、ヒト患者、例えば健康なヒト患者、が本発明によるリゾチームのスブチリジンA加水分解物を摂取する場合に達成される。
【0015】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下における、前方向認知制御(または前方向抑制制御)などの認知制御の改善、および/または衝動制御(衝動性の制御)の改善は、ヒト患者のために確立されたようなアンチキュータスク(anticue task)[“Switch hands! Mapping temporal dynamics of proactive manual control with anticues(手を変えて下さい! アンチキューによる前方向手動制御の時間的動力学のマッピング)”、J.J.Adam、S.Jennings、T.J.H.Bovend’Eerdt、P.P.M.Hurks、P.W.M.Van Gerven著、「Acta Psychologica」、2015年、第161巻、p.137-144]の適用によって評価されるとき、認知制御、例えば前方向認知制御については、少なくとも0.5%であり、衝動制御については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、前方向認知制御および/または衝動制御は、リゾチームのスブチリジンA加水分解の毎日の摂取、例えば、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または2%-3%改善する。典型的には、前方向認知制御は、前方向抑制制御である。
【0016】
実施形態においては、患者において認知機能を改善する非治療的方法においては、前記患者は、ヒト患者および/または健康な患者、好ましくは健康なヒト患者、例えば多動性の患者である。健康な患者は、メタボリックシンドロームと診断されていてもよい。
【0017】
特に、患者において認知機能を改善する非治療的方法においては、患者は男性、好ましくはヒト男性、より好ましくは少なくとも60歳、好ましくは少なくとも65歳、より好ましくは少なくとも67歳、例えば60-105歳、または67-75歳の、ヒト男性である。一実施形態は、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、前記患者は、ヒト患者、より好ましくは少なくとも60歳、好ましくは少なくとも65歳、より好ましくは少なくとも67歳、例えば60-105歳、または67-75歳の、健康なヒト患者である、該方法である。
【0018】
本発明のさらなる態様は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能の治療のための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物に関する。好ましいのは、前記方法において使用するためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、前記損なわれた認知機能が、損なわれた抑制制御、損なわれた前方向抑制制御、および損なわれた衝動性の制御の任意の1つ以上である、該加水分解物である。リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下における、認知制御、例えば前方向認知制御(または前方向抑制制御)の改善、および/または衝動制御(衝動性の制御)の改善は、ヒト患者のために確立されたようなアンチキュータスク[“Switch hands! Mapping temporal dynamics of proactive manual control with anticues”、J.J.Adam、S.Jennings、T.J.H.Bovend’Eerdt、P.P.M.Hurks、P.W.M.Van Gerven著、「Acta Psychologica」、2015年、第161巻、p.137-144]の適用によって評価されるとき、認知制御、例えば前方向認知制御については、少なくとも0.5%、また衝動制御については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、前方向認知制御および/または衝動制御は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取、例えば、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または2%-3%改善する。典型的には、前方向認知制御は、前方向抑制制御である。
【0019】
特に、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するためであり、ここで、前記その必要がある患者とは、多動性、神経変性疾患、アルツハイマー病、認知症、パーキンソン病、強迫性障害、強迫神経症、トゥレット症候群、注意欠如多動性障害、精神障害、抜毛症、中毒、例えば薬物、麻薬、ニコチン、アルコール、ゲーム、ギャンブルに対する中毒の、1つ以上を罹患している。前記その必要がある患者は、好ましくはヒト患者である。治療されるべき損なわれた認知機能は、特に、損なわれた抑制制御、損なわれた前方向抑制制御、および/または損なわれた衝動制御であり、より好ましくは、損なわれた抑制制御、損なわれた前方向抑制制御、損なわれた衝動制御、悪化した注意、悪化した持続的注意、および損なわれた覚醒度の組合せである。
【0020】
また好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物であり、ここで、前記損なわれた認知機能が、悪化した注意、悪化した持続的注意、および損なわれた覚醒度の任意の1つ以上である、該加水分解物である。リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下での、持続的注意などの注意の改善、および/または全般的覚醒度などの覚醒度の改善は、持続的注意検査(SAT)、すなわち、ヒト患者のために確立されたような精神運動ビジランステスト、の適用によって評価されるとき、持続的注意については、少なくとも0.5%であり、また、全般的注意については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、持続的注意などの注意、および/または全般的覚醒度などの覚醒度は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取、例えばリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または1%-3%改善する。特に、前記改善は、ヒト患者、例えば健康なヒト患者、が本発明により、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を摂取する場合に達成される。
【0021】
特に、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、前記その必要がある患者が、注意欠如多動性障害、精神障害、統合失調症、多動性の任意の1つ以上を罹患している該方法における使用のためである。その必要がある患者は、好ましくは、ヒト患者である。治療されるべき損なわれた認知機能とは、特定的には、悪化した注意、悪化した持続的注意、および/または損なわれた覚醒度であり、より特定的には、損なわれた抑制制御、損なわれた前方向抑制制御、損なわれた衝動性の制御、悪化した注意、悪化した持続的注意、および損なわれた覚醒度の組合せである。
【0022】
1つの実施形態は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、前記患者が、男性、好ましくはヒト男性、より好ましくは少なくとも60歳、好ましくは少なくとも65歳、より好ましくは少なくとも67歳、例えば60-105歳、または67-75歳のヒト男性である、該加水分解物である。
【0023】
本発明者らは、驚くべきことに、少なくとも4週間にわたるリゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取が、認知機能、特に抑制制御および/または衝動性の制御、より特定的には抑制制御、前方向抑制制御、衝動性の制御、注意、持続的注意、および覚醒度の組合せを改善したことを見出した。以下の、実施例のセクションの例を参照されたい。
【0024】
本発明の実施形態によれば、患者において認知機能を改善する非治療的方法においては、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の少なくとも30重量%が、分子量0.5kDa未満のリゾチームペプチドである。さらに、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法における使用のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物については、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の少なくとも30重量%が、分子量0.5kDa未満のリゾチームペプチドである。
【0025】
好ましいのは、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、前記方法が、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を前記患者に投与することを含んでおり、ここで、前記リゾチームの加水分解の程度が、少なくとも12%、好ましくは15%-50%、より好ましくは18%-40%、最も好ましくは19%-30%、例えば21%である、該非治療的方法である。また、好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法における使用のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、ここで、前記リゾチームの加水分解の程度が、少なくとも12%、好ましくは15%-50%、より好ましくは18%-40%、最も好ましくは19%-30%、例えば21%である、該加水分解物である。
【0026】
患者において認知機能を改善する好ましい非治療的方法のためには、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の日用量は、1日当たり0.5グラム-20グラム、好ましくは1日当たり1グラム-10グラム、より好ましくは1日当たり2グラム-8グラム、例えば1日当たり5グラムである。日用量は、好ましくは1日1回の服用として患者に投与される。好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の日用量が、1日当たり0.5グラム-20グラム、好ましくは1日当たり1グラム-10グラム、より好ましくは1日当たり2グラム-8グラム、例えば1日当たり5グラムである、該加水分解物である。日用量は、好ましくは1日1回の服用として患者に投与される。好ましいのは、10グラム未満、例えば1-9.5グラムの、1日1回の服用としての日用量である。好ましくは、ヒト患者、例えば健康なヒト患者は、0.5グラムと10グラム未満の間の、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の日用量を投与されるが、20グラムまでといった、より高い用量もまた適用できる。典型的には、日用量は、その必要がある患者、例えば(健康な)ヒト患者に対し、本発明により4週間にわたり、好ましくは少なくとも8週間、16週間、40週間、1年間、2年間、5年間、患者の残余寿命にわたり投与される。認知機能に対する有益効果(例えば、改善された衝動性の制御、改善された抑制制御)は、本発明による、0.5グラム-20グラム、好ましくは0.5-10グラム未満のリゾチームのスブチリジンA加水分解物の、少なくとも4週間の毎日の摂取後に達成される。リゾチームのスブチリジンA加水分解物が、毎日1回、または、例えば毎日2回、例えば2回の同量の用量で、提供され、累算して0.5-20グラム/日、または1-10未満グラム/日となることは、本発明の一部である。
【0027】
本発明の一態様は、患者において認知機能を改善する非治療的方法における、リゾチームのスブチリジン加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品の使用に関する。リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、本発明の前述の態様および実施形態の、いずれかの加水分解物である。
【0028】
本発明の一態様は、その必要がある患者の損なわれた認知機能の治療のための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる、栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品に関する。リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、本発明の前述の態様および実施形態の、いずれかの加水分解物である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】研究デザインのフローチャートを示す図であり、研究は無作為化、二重盲検、プラセボ対照、クロスオーバー臨床試験である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
用語「抑制制御」、または「応答抑制」は、本明細書で用いるとき、その通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、認知的プロセス、より具体的には、個人が彼らの衝動と、刺激に対する自然で、習慣的な、または優性な行動応答とを抑制して、彼らの目標を全うするのに合致したより適切な行動を選択するようにする実行機能を指す。自己制御は、抑制制御の重要な局面である。「抑制制御を改善すること」とは、それ故、患者の衝動の増大された抑制に関連する。「損なわれた抑制制御」とは、それ故、患者にとり衝撃を抑制するための低減された可能性を指し、刺激に対する自然で、習慣的な、または優性な行動応答を抑制して、彼らの目標を全うするのに合致したより適切な行動を選択するようにするための可能性が少ないことを指す。
【0031】
用語「注意」は、本明細書で用いるとき、その通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、主観的または客観的であると見なされるかどうかにかかわらず、情報の個別の局面に対し選択的に集中する一方で、他の知覚し得る情報を無視する、行動的および認知的プロセスを指す。それは、覚醒の状態である。それは、いくつかの同時に起こる対象物または一連の考えに見えるものの中の1つが、明確かつ鮮明な形で、心によって所有されることである。焦点を合わせること、意識を集中することは、その本質である。「注意を改善すること」は、それ故、意識の集中を高めること、および選択的集中を増大させることに関係する。
【0032】
用語「衝動性(impulsivity)」または「衝動的であること(impulsiveness)」は、本明細書で用いるとき、その通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、事前の考慮、反省、または結果の考慮を殆どしないことによって特徴づけられる挙動を示す、気まぐれに行動する傾向を指す。衝動的行為は、典型的には、充分に考慮されていないか、早まって表されたか、過度に危険であるか、または状況に対し不適切であり、それはしばしば、成功のための長期間の目標および戦略を危うくする望ましくない結果に終わる。「衝動制御を改善すること」は、それ故、数ある中でも、気まぐれに行動する傾向を弱めることを指す。「損なわれた衝動性の制御」は、それ故、患者が気まぐれに行動する傾向を強め、事前の考慮、反省、または結果の考慮を殆どまたは全くしないことによって特徴づけられる行動を増々示す状況を指す。
【0033】
用語「覚醒度」は、本明細書で用いるとき、その通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、高い感覚的覚醒、例えば、危険または緊急事態に遭遇することに対し警戒しかつ敏速であること、または知覚しかつ行動することに対し迅速であること、による能動的注意の状態を指す。覚醒度は心理学ならびに生理学に関係する。「覚醒度を改善すること」は、それ故、能動的注意の状態を強化すること、感覚的覚醒を高めることを指す。「損なわれた覚醒度」は、それ故、能動的注意が短い状態か、または能動的注意が全くない状態を指す。
【0034】
用語「前方向抑制制御」は、本明細書で用いるとき、その通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、いかにして患者が、起ころうとする応答傾向を停止すること、すなわち、事前の停止、に備えるかを指す。停止とは、患者が初期の応答傾向を停止する場合の、行動的成果を指す。「前方向抑制制御を改善すること」は、それ故、起ころうとする応答傾向を停止するための、より効果的および/またはより速い準備に関係する。「損なわれた前方向抑制制御」は、それ故、ヒトにとり、起ころうとする応答傾向を停止するべく準備するための、低減された可能性または傾向、或いはさらに何ら可能性がないかもしくは傾向が全くなく、事前の停止が遅れるかまたは事前の停止がない結果となることに関係する。
【0035】
用語「持続的注意」または「注意持続時間」は、本明細書で用いるとき、その通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、ヒトが、注意散漫になることなく、作業に費やすことができる集中した時間の量を指す。注意散漫性の要素は、個人が、何らかの他の活動または感覚に対し制御不能に引かれる際に生じる。作業に対し集中しかつ注意を持続させる能力は、ヒトの目標の達成のために重要である。「持続的注意を改善すること」は、それ故、ヒトが、注意散漫になることなく作業に費やすことができる集中した時間の量を増やすこと、および/または、ヒトが、注意散漫になることなく増々容易に作業に時間を費やすことができるようにすることを指す。「悪化した持続的注意」とは、それ故、ヒトが、注意散漫になることなく作業に対してあまり集中した時間を過ごすことができないか、またはさらに集中した時間が全くない環境を指す。
【0036】
用語「食品」とは、本文全体を通してその通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、ヒトおよび/または動物の消費に適した液体、半液体、または固体の食物製品を指す。
【0037】
用語「機能性食品」とは、本文全体を通してその通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、1つ以上の活性成分を含む食物製品であって、特に、本発明によるリゾチームのスブチリジンA加水分解物を活性成分として用いた、該食物製品を指す。
【0038】
用語「フードサプリメント」は、本文全体を通してその通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、適当な量の、1つ以上の本発明によるリゾチームのスブチリジンA加水分解物を、機能性成分として含むヒトおよび/または動物摂取のために適用可能なサプリメントを指す。サプリメントは、ピル、サシェ、粉末などの形態であってよい。
【0039】
用語「患者」は、本文全体を通してその通常の科学的意味を有し、かつ本明細書においては、制限することなくヒト、非ヒト霊長類、家畜、飼育動物、および実験動物を含む、哺乳綱の任意のメンバーを指す。
【0040】
用語「リゾチーム加水分解物」は、一般用語として本明細書において用いる場合、リゾチームの、例えばインビトロで調製された、加水分解物を指す。
【0041】
「メタボリックシンドローム」は、例えば、MollerおよびKaufman(「Annual Rev. of Medicine」、2005年、第56巻、P.45-62)において記載されたような、肥満、インスリン抵抗性および高インスリン血症、耐糖能、高血圧、脂質異常症(高トリグリセリド血症および低HDLコレステロールレベル)を含む、多数の相互に関連した臨床的障害を指す。本発明に関しては、好ましくは、メタボリックシンドロームは、損なわれたグルコース調節/インスリン抵抗性と、および1)損なわれたグルコース調節/インスリン抵抗 2)腹部肥満 3)高トリグリセリド血症 4)低HDLコレステロールレベル 5)微量アルブミン尿からの、2つ以上の他の基準とによって診断され、ここで、臨床的特徴は、MollerおよびKaufmanにおいて記載されたような、WHO規定に従ってさらに定義される。
【0042】
「加水分解の程度」は、タンパク質加水分解物中の、切断されたペプチド結合の割合である。
【0043】
発明の詳細な説明
本発明はいくつかの実施形態に関連して記載されてきたが、当業者には、本明細書を読む際および図面を調査する際に、その代替、変形、置換、および等価物が明らかとなることが意図されている。本発明は、例示された実施形態に何ら制限されるものではない。変更は、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から離れることなく行われ得る。
【0044】
本発明は、特定の実施形態について記載されるが、本発明はそれらに制限されず、しかし特許請求の範囲によってのみ制限される。
【0045】
さらに、記載および特許請求の範囲における用語、第1、第2、第3などは、同様の要素の間を区別するために使用され、必ずしも順次的または時系列的な順序を記載するものではない。この用語は、適当な条件下では交換可能であり、本発明の実施形態は、本明細書において記載または例示されたもの以外の順序で操作し得る。
【0046】
本明細書において記載された本発明の実施形態は、他に特に指定しない限り、組合せて、および連携して操作し得る。
【0047】
さらに、種々の実施形態は、「好ましい(preferred)」または「例えば(e.g.)」または「例として(for example)」または「特に(in particular)」として言及されるが、本発明の範囲を限定するもとしてよりもむしろ、本発明が実行される代表的な方法として理解されるべきである。
【0048】
特許請求の範囲において使用される用語「含んでいる(comprising)」は、それ以後に列挙された要素または工程に限定されるものとして解釈されるべきではない:それは、他の要素または工程を排除しない。それは、述べられたように、特徴、整数、工程、または成分の存在を特定するものとして解釈される必要はあるが、しかし、1つ以上の他の特徴、整数、工程、または成分、或いはそれらの群の存在または追加を排除するものではない。したがって、「AおよびBを含んでいる組成物」という表現の範囲は、成分AおよびBのみからなる組成物に限定されるべきではなく、むしろ本発明に関しては、組成物の列挙された成分がAおよびBであるに過ぎず、かつさらに、特許請求の範囲はそれらの成分の等価物を含むものとして解釈されるべきである。
【0049】
加えて、不定冠詞「a(1つの)」または「an(1つの)」による要素への言及は、文脈が明らかに1つおよびただ1つの要素があることを要求しない限り、1つ以上の要素が存在する可能性を排除するものではない。不定冠詞「a(1つの)」または「an(1つの)」は、それ故、通常は「少なくとも1つの」を意味する。
【0050】
本発明者らは、驚くべきことに、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、クロスオーバー試験において、タンパク質溶解物を含んでいる組成物をヒト患者に投与することが、認知機能を改善する結果となることを見出した。特に、本発明者らは、前記臨床試験において、抑制制御および/または注意に関連する認知機能、例えば前方向抑制制御および持続的注意が、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の有効量を投与されたヒト患者において、改善されることを見出した。
【0051】
本発明の第1の態様は、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を該患者に投与することを含む、該方法に関する。特に、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の有効量が、該患者に投与される。例えば、患者は認知機能の直接的な改善の必要がある。本発明者らは、驚くべきことに、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取が、結果として改善された認知機能を生じたことを見出した。改善は、4週間の毎日の摂取のタイムコース後には、既に明らであった。患者は交差臨床試験において、リゾチームのスブチリジンA加水分解物5グラムの4週間にわたる摂取の後、認知機能、すなわち抑制制御、注意、衝動性の制御、覚醒度、において改善を示した。2-8週間、最も頻繁には4週間の休薬(ウォッシュアウト(wash-out))期間の後の、プラセボの毎日の摂取への切換えは、結果として最初の4週間の摂取期間の開始時に測定されたレベルへの認知機能の低下を生じた(行われた臨床試験の設定のスキームについては図1を参照)。次に、4週間にわたるプラセボの毎日の摂取でスタートした患者は、認知機能の改善を示さなかったが、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物、例えば、5グラムの加水分解物を含んでいる水溶液200mlの毎日の摂取への切換えは、4週間後に、4週間の開始時に測定された認知機能の測定値に比較して、また同じタイムコースを通してプラセボが投与された患者に比較して、認知機能の改善を生じる結果となった。
【0052】
好ましいのは、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、認知機能を改善することが、抑制制御を改善すること、注意を改善すること、衝動性の制御を改善すること、および覚醒度を改善することのいずれか1つ以上である、該方法である。より好ましいのは、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、認知機能を改善することが、抑制制御を改善すること、衝動性の制御を改善することのいずれか1つ以上であり、かつ好ましくは該患者がヒト患者、例えば健康なヒト患者である、該方法である。さらになお好ましいのは、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、認知機能を改善することが、抑制制御を改善すること、注意を改善すること、衝動の制御を改善すること、および覚醒度を改善することの全てである、該方法である。
【0053】
特に、抑制制御を改善することは、前方向抑制制御を改善することであり、および/または注意を改善することは、持続的注意を改善することである。
【0054】
実施形態においては、患者において認知機能を改善する非治療的方法において、該患者はヒト患者および/または健康な患者、好ましくは健康なヒト患者である。患者は、例えば、多動性患者である健康なヒト患者である。
【0055】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下における、持続的注意などの注意の改善、および/または全般的覚醒度などの覚醒度の改善は、持続的注意検査(SAT)、すなわち、ヒト患者のために確立されたような精神運動ビジランステスト、の適用によって評価されるとき、持続的注意については、少なくとも0.5%であり、また、全般的注意については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、持続的注意などの注意、および/または全般的覚醒度などの覚醒度は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取、例えばリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または1%-3%改善する。
【0056】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下における、前方向認知制御などの認知制御の改善、および/または衝動制御の改善は、ヒト患者のために確立されたようなアンチキュータスク(anticue task)の適用によって評価されるとき、認知制御、例えば前方向認知制御については、少なくとも0.5%であり、衝動制御については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、前方向認知制御および/または衝動制御は、リゾチームのスブチリジンA加水分解の毎日の摂取、例えば、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または2%-3%改善する。
【0057】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取は、結果として、自己制御、衝動の制御、注意維持、覚醒度維持に関連した認知の領域において、改善された認知機能を生じる。特に、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取は、結果として、自己制御、衝動の制御に関連した認知の領域において、改善された認知機能を生じる。それ故、患者、好ましくは健康な患者、例えば健康なヒト患者にとり、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取の利点は、多種であり多数である。特に、リゾチームのスブチリジンA加水分解物が少なくとも4週間にわたりヒト患者によって(毎日)摂取される場合、好ましくは、少なくとも0.5グラム/日かつ1日当たり20グラムまで、好ましくは10グラム未満/日、例えば5グラム/日。例えば、改善されかつ増大された覚醒度は、混雑した往来を通って操縦する間、学校での受講、職場でのワークショップ、商談、大学もしくは会議でのレクチャーの間、徹夜のトラック運転、または大陸間の飛行機フライトの間、または警備員にとり、空港もしくは港において地上管制官として作業しているとき、複雑な外科手術を実行している間、裁判所において延長された対審の間、等々のような、多くの日常の環境において有益である。改善された衝動の制御は、患者(hem)/彼女自身、および彼/彼女と相互作用のある患者の双方にとり、全体的な生活の質の向上に貢献し得る。例えば、改善された衝動制御は、例えば毎日の通行の間、人混みになどにおいて、攻撃性を低減し得る。患者にとっての改善された覚醒度に関連した利点と同様に、改善された注意、例えば長期化されたおよび/または途切れない注意、および/またはより集中された、強い注意もまた、患者に対し多数の類似した利益を提供する。
【0058】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取、好ましくは少なくとも4週間にわたる、好ましくは毎日の摂取の影響下では、改善された、持続的注意などの注意、および/または全般的覚醒度などの覚醒度、および/または前方向認知制御などの認知制御、および/または衝動制御のさらなる利益は、例えば、学童または大学生などの学生について、例えば、学習中および試験のために準備している間、ならびに講義および課程を受けている間、そして座って試験を受けているとき、したがって一般的には、知的作業が実行されるべき場合に明らかである。典型的には、学生は17-26歳、例えば18-24歳である。改善された、持続的注意などの注意、および/または全般的な覚醒度などの覚醒度、および/または前方向認知制御などの認知制御、および/または衝動制御は、例えば、学生が授業を受けている間に、学習することおよび/または新しい知識を吸収することを助け、かつさらに、例えば試験を受けている間、または(口頭)試験に供されるとき、獲得した知識を再生している間の学生の助けとなる。
【0059】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取、好ましくは毎日の摂取の影響下における、改善された、持続的注意などの注意、および/または全般的な覚醒度などの覚醒度、および/または前方向認知制御などの認知制御、および/または衝動制御の、さらなる利益は、例えば、スポーツマン/スポーツウーマンについては、任意のレベルでの、競技に向けてスポーツするかまたはトレーニングしているとき、或いは競技中に、および特に、トップレベルでの、競技に向けてスポーツするかまたはトレーニングしているとき、および競技中に、および/または、例えばオリンピック競技、世界選手権大会などの、トーナメントにおいて活動する場合に明らかである。改善された、持続的注意などの注意、および/または全般的な覚醒度などの覚醒度、および/または前方向認知制御などの認知制御、および/または衝動制御は、例えば日課として運動する間、および、熱心さと持久力とを要求する数時間を毎日過ごすとき、スポーツマンまたはスポーツウーマンを支えるとともに、例えば、競技を通して勝つことに集中している間、および試合に参加しているとき、スポーツマンまたはスポーツウーマンの助けとなる。
【0060】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取、好ましくは毎日の摂取の影響下における、改善された、持続的注意などの注意、および/または全般的覚醒度などの覚醒度、および/または前方向認知制御などの認知制御、および/または衝動制御の、さらなる利益は、例えば、ADHD(注意欠如多動性障害)を罹患している子ども、若者、ヤングアダルト(若い成人)、および成人にとり、とりわけADHDを罹患しているヤングアダルト、例えば14-22歳の、好ましくは15-20歳の、または16-20歳、例えば16-18歳の、ヤングアダルトについて明らかである。改善された、持続的注意などの注意、および/または全般的覚醒度などの覚醒度、および/または前方向認知制御などの認知制御、および/または衝動制御は、ADHDを罹患している患者、例えばADHDを罹患しているヤングアダルトにとり、例えば、学校で授業を受けている間、宿題、学習、趣味、社会的相互作用、ゲーム、夕食を食べることに集中している間などに、有益である。
【0061】
一実施形態は、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、該患者は、学生、例えば学童または大学生、スポーツマンまたはスポーツウーマン、例えばトップスポーツマンまたはトップスポーツウーマンから、またADHDを罹患している子ども、若者、ヤングアダルト、および成人から選択される、ヒト患者である。
【0062】
本発明者らは、驚くべきことに、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の、例えば、少なくとも4週間にわたる、例えば10グラム未満/日、例えば1-9グラム/日、の日用量における毎日の摂取が、認知機能に対し、ヒト患者の通常の加齢に起因する認知機能の自然な低下のおよそ1-2年を逆行させる程度の有益効果があったことを見出した。換言すれば、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の摂取後の、衝動性、覚醒度、前方向抑制制御、および持続的注意のいずれか1つ以上における、改善の大きさおよび程度は、あたかも彼または彼女が1から2歳若かったかのような患者の認知機能と同様であった。成人期の人生にわたる認知機能の低下は、正常かつ自然な現象である。リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を毎日摂取することにより、認知機能のこの自然の悪化は、1から2年まで遅延される。一実施形態は、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、該患者は、少なくとも18歳のヒトの成人患者である。したがって、ヒト患者の通常の加齢に起因する、衝動の制御における低下の逆転、および/または衝動性の制御における低下の逆転に等しい、改善された衝動性の制御および/または改善された抑制制御の1-2年程度までの改善は、本発明による、少なくとも4週間にわたる、10グラム未満のリゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取によって達成される。
【0063】
さらに、本発明は、メタボリックシンドロームと診断された健康なヒト患者において、認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物が該患者に投与される、該方法に関する。特に、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の有効量が、該患者に投与される。
【0064】
好ましくは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物が投与される患者は、認知機能を維持するかまたは改善する必要があるか、或いは認知機能の低下を防止する必要がある。前記の通り、ヒト患者によるリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取は、認知機能を改善し、かつ1-2年の間に起こる認知機能の自然な低下を逆転させる。ヒト患者は、健康な患者であり、および/または50歳以上の、例えば60歳以上、65-100歳、75歳を超える患者である。好ましくは、患者は、既に低下した認知機能の改善または逆転、すなわち持続的注意、前方向抑制制御、覚醒度、衝動性の制御などの、既に低下または悪化した認知機能の改善を必要とする。典型的には、患者は、65歳以上のヒト患者である。また好ましいのは、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、該患者がヒトの子ども、18歳以下であり、またはこれにおいて、該患者が18-65歳のヒト患者である、該方法である。例えば、ヒト患者は、学生、例えば大学生、若者、ヤングアダルト、ADHDを罹患しているヤングアダルトもしくは成人、スポーツマンもしくはスポーツウーマン、とりわけトップスポーツマンもしくはトップスポーツウーマンである。
【0065】
理論に束縛されることを望むものではないが、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物が投与される患者において改善された認知機能は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の摂取によって誘導される、改善された末梢血管機能に関係づけられる。ヒト患者において観察された改善された認知機能は、他の改善の中でも、改善された衝動制御および改善された持続的注意である。本発明者らは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の摂取の、認知機能に対するこうしたポジティブな効果を、以下の実施例のセクションにおいて詳述されるような、一連の認知機能試験:当該技術分野において既知の持続的注意試験(SAT)、持続的注意に対する個人の能力を評価するべくデザインされたビジランスタスク(監視作業)、および当該技術分野において既知のアンチキュータスク、特に衝動制御に関連した、前方向認知制御を評価する、反応時間タスク、において測定した。驚くべきことに、臨床試験およびリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取に供されたヒト患者において観察された、認知機能の改善は、毎日の摂取が中止された後に再び低下した(2-8週間の休薬期間の後に、毎日のプラセボ摂取に切り替えた患者)。それ故、再度、理論に束縛されることを望むものではないが、認知機能、例えば衝動性の制御、前方向抑制制御、覚醒度、持続的注意、の持続性の改善は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物が毎日かつ慢性的に摂取される場合に起こり、かつ維持される。好ましくは10グラム未満/日の、例えば毎日0.5-9.5グラムの、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の、例えばヒト患者による、例えば少なくとも4週間にわたる、長期間の毎日の摂取は、次いで、脳を通る適切な血液循環に関連して、改善された末梢血管機能を維持し、最終的には、認知機能に対する該組成物の観察された有益効果を生じる結果となる。
【0066】
一実施形態は、健康なヒト患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、これにおいて、認知機能を改善することが、患者における前方向抑制制御の改善、および持続的注意の改善のいずれかであり、好ましくは前方向抑制制御の改善である、該方法である。一実施形態は、非治療的方法であって、これにおいて、前方向抑制制御が、衝動性の制御であり、および/または、これにおいて、持続的注意が覚醒度、例えば全般的覚醒度である、該方法である。
【0067】
とりわけ、患者において認知機能を改善する非治療的方法では、患者は男性、好ましくはヒト男性、より好ましくは少なくとも60歳、好ましくは少なくとも65歳、より好ましくは少なくとも67歳、例えば60-105歳、または67-75歳のヒト男性である。特に、67歳以上の高齢の男性が、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取の認知機能回復効果から恩恵を受ける。性別および年齢(55歳以下、56-66歳、67歳以上)に基づき6つの群に分けられた男性と女性を比較すると、67歳以上の男性は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取からより高程度に恩恵をうける。有益効果は、これらの高齢者では約2倍であった。
【0068】
本発明のさらなる態様は、医薬としての使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物に関する。さらなる態様は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法における使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物に関する。該患者は、メタボリックシンドロームと診断された患者、すなわち、ヒト患者であってもよい。別の態様は、患者において、損なわれた認知機能を治療するための(栄養)組成物の製造のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物またはリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の使用であって、該患者は、好ましくはヒト患者である。特に、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の有効量が、該患者に投与される。例えば、該患者は、認知機能の直接的な改善の必要がある。例えば、該患者は、既に低下した認知機能の直接的な改善または逆転の必要がある。さらに、好ましいのは、その必要がある患者における、損なわれた認知機能のさらなる低下を、防止するか、予防するか改善するか、または遅くするための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物である。また好ましいのは、その必要がある患者において、認知機能の低下を防止するか、認知機能を予防するか、低下した認知機能を改善するか、または認知機能の低下を遅くするための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物である。本発明はまた、前記損なわれた認知機能を患っている患者において、損なわれた認知機能を改善または逆転するための方法であって、これにおいて、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物が、該患者に投与される、該方法に関する。とりわけ、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の有効量が、該患者に投与される。好ましくは、前記損なわれた認知機能を患っている患者は、認知機能の(直接的な)改善が必要であるか、または認知機能の(さらなる)低下の(直接的な)中止が必要である。
【0069】
好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、該損なわれた認知機能が、損なわれた抑制制御、損なわれた前方向抑制制御、および損なわれた衝動性の制御の、任意の1つ以上である、該加水分解物である。
【0070】
また好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、該認知機能が、抑制制御、前方向抑制制御、および衝動性の制御の、任意の1つ以上である、該加水分解物である。好ましくは、その必要がある患者は、ヒト患者である。好ましくは、その必要がある患者は、0.5-20グラム、好ましくは10グラム未満/日の、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の一用量を、毎日投与され、また好ましくは、その必要がある患者は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の一用量を、単回用量として、または複数回投与/日、例えば2回の半用量/日として、少なくとも4週間、例えば6か月にわたり、或いは4週間-10年間、または患者、例えばヒト患者、の残りの寿命にわたり投与される。
【0071】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下における、持続的注意などの注意の改善、および/または全般的覚醒度などの覚醒度の改善は、持続的注意検査(SAT)、すなわち、ヒト患者のために確立されたような精神運動ビジランステスト、の適用によって評価されるとき、持続的注意については、少なくとも0.5%であり、また、全般的注意については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、持続的注意などの注意、および/または全般的覚醒度などの覚醒度は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取、例えばリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または1%-3%改善する。
【0072】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下における、前方向認知制御などの認知制御の改善、および/または衝動制御の改善は、ヒト患者のために確立されたようなアンチキュータスクの適用によって評価されるとき、認知制御、例えば前方向認知制御については、少なくとも0.5%であり、衝動制御については、例えば少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%である。例として、前方向認知制御および/または衝動制御は、リゾチームのスブチリジンA加水分解の毎日の摂取、例えば、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる食物製品の毎日の摂取、の影響下で、0.5%-10%、または2%-3%改善する。
【0073】
特に、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物、またはリゾチームのスブチリジンA加水分解物は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法における使用のためであり、ここで、前記その必要がある患者とは、多動性、神経変性疾患、アルツハイマー病、認知症、パーキンソン病、強迫性障害、強迫神経症、トゥレット症候群、注意欠如多動性障害、精神障害、抜毛症、中毒、例えば薬物、麻薬、ニコチン、アルコール、ゲーム、ギャンブル、に対する中毒、の任意の1つ以上を患っている。さらに、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するためであり、これにおいて、その必要がある患者は、低下した認知機能、悪化した認知機能、損なわれた認知機能に付随する、任意の疾患を罹患している。例えば、ヒト患者などの患者は、(以前の)トラウマ、感染、炎症、虚血、脳卒中、心血管疾患などに起因する、低下した認知機能を罹患している。認知機能とは、特に、抑制制御および/または衝動性の制御であり、かつ好ましくは、認知機能とは、抑制制御、衝動性の制御、覚醒度、注意の組合せである。
【0074】
また好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物、またはリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物であって、これにおいて、該損なわれた認知機能が、悪化するかまたは損なわれた注意、悪化するかまたは損なわれた持続的注意、および悪化するかまたは損なわれた覚醒度のいずれか1つ以上である。
【0075】
特に、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、これにおいて、該その必要がある患者が、注意欠如多動性障害、精神障害、統合失調症、多動性の任意の1つ以上を罹患している、該方法において使用するためである。加えて、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、これにおいて、該その必要がある患者が、これらの前述の健康問題および疾患以外の、損なわれた注意、悪化するかまたは損なわれた持続的注意、および損なわれるかまたは悪化した覚醒度に付随する、任意の疾患または障害を罹患している、該方法において使用するためである。
【0076】
好ましくは、患者は、健康な患者、例えば50歳以上、例えば60歳以上、65-100歳、75歳を超えるヒト患者、である。好ましくは、患者は健康な患者である。好ましくは、患者は、既に低下した認知機能の改善または逆転、すなわち、既に低下または悪化した認知機能、例えば持続的注意、前方向抑制制御、覚醒度、衝動性の制御の改善、を必要とする。とりわけ、患者は、既に低下した認知機能の改善または逆転、すなわち、既に低下または悪化した認知機能、例えば持続的注意、前方向抑制制御、衝動性の制御の改善、を必要とし、或いは、既に低下した認知機能の改善または逆転、すなわち、既に低下または悪化した認知機能、例えば持続的注意、前方向抑制制御、覚醒度、衝動性の制御の組合せの改善、を必要とする。典型的には、患者は65歳以上のヒト患者である。好ましくは、ヒト患者は健康なヒト患者である。また好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、患者が、18歳以下の、ヒトの子どもであるか、またはこれにおいて、患者が、18-65歳のヒト患者である、該加水分解物である。
【0077】
一実施形態は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、患者は男性、好ましくはヒト男性、より好ましくは、少なくとも60歳、好ましくは少なくとも65歳、より好ましくは少なくとも67歳、例えば60-105歳、または67-75歳のヒト男性である。本明細書で上記に概説したように、認知機能の改善が評価される場合、特に67歳以上の高齢な男性が、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取から恩恵を受ける。
【0078】
本発明の実施形態によれば、患者において認知機能を改善する非治療的方法においては、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の少なくとも30重量%が、分子量0.5kDa未満のリゾチームペプチドである。さらに、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法における使用のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物については、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の少なくとも30重量%が、分子量0.5kDa未満のリゾチームペプチドである。
【0079】
好ましいのは、患者において認知機能を改善する非治療的方法であって、前記方法が、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を前記患者に投与することを含んでおり、ここで、リゾチームの加水分解の程度が、少なくとも12%、好ましくは15%-50%、より好ましくは18%-40%、最も好ましくは19%-30%、例えば21%である、該非治療的方法である。また、好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法における使用のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、ここで、リゾチームの加水分解の程度が、少なくとも12%、好ましくは15%-50%、より好ましくは18%-40%、最も好ましくは19%-30%、例えば21%である、該加水分解物である。
【0080】
本発明によれば、組成物は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる。それ故、リゾチームはスブチリジンAを用いて加水分解される。スブチリジンAは、エンドペプチダーゼ、より具体的にはセリンプロテアーゼ、さらになお具体的にはスブチラーゼである。スブチリジンAは、中でも、アルカラーゼ(Alcalase)(商標)として市販されている。組成物は、例えば、栄養組成物またはフードサプリメントである。
【0081】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物をいかにして取得するかは、当該技術分野において既知である。リゾチームのスブチリジンA加水分解物を取得する方法は、例えば、国際公開第2006/009448号および実施例1に記載される。
【0082】
リゾチームは、市販されており、例えば、バウハウス・エントホーヴェン(BouwhuisEnthoven)(100%純粋タンパク質)から入手し得る。リゾチームはまた、卵から抽出され、続いて精製されてもよい。本発明の1つの実施形態においては、スブチリジンA加水分解に供されるリゾチームは、好ましくは精製されたリゾチームである。卵白中のリゾチームの濃度は、他のリゾチーム供給源に比較して高い(3-4%)。リゾチーム精製のために日常的に用いられるプロセスは、陽イオン交換クロマトグラフィーである。リゾチームは、そのままのpH(pH9)でイオン交換体に結合する。このことは、攪拌槽型反応器またはクロマトグラフィーカラム内で行われ得る。塩による吸着粒子からの溶出の後、リゾチームは食品用途には充分に純粋である。さらなる精製のために、pH4において陰イオン交換クロマトグラフィーを適用して、医薬品用途に適した高度に純粋なリゾチームを得るようにしてもよい。この精製プロセスの利点は、出発材料(卵白)が変わらず、プロセスが容易にアップスケールされ得、食品用途にはただ1回だけの吸着プロセスが必要であり、かつ生物学的活性が維持されることである。したがって、本発明による1つの実施形態においては、スブチリジンA加水分解に供されるリゾチームは、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製される。
【0083】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、好ましくは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の重量の、好ましくは少なくとも10、20、30、40、50、60、70重量%以上、より好ましくは少なくとも20重量%、さらになお好ましくは少なくとも30重量%、最も好ましくは少なくとも40重量%の、高比率のジ-および/またはトリペプチドを含む。1つの実施形態においては、より長い鎖長およびより高い分子量、例えば4、5、6、7、8以上のアミノ酸をもつペプチドは、それ故、好ましくはリゾチームのスブチリジンA加水分解物の重量の60重量%未満の量で存在する。
【0084】
1つの実施形態においては、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、好ましくは0.5kD未満のペプチドを、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の重量の少なくとも25、30、40、または45重量%の比率で含み、好ましくは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、少なくとも30重量%、最も好ましくは少なくとも40%wtの、0.5kD未満のペプチドを含む。好ましくは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、0.5kD未満のペプチドを、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の重量の最大でも80、70、60、または50重量%の比率で含む。
【0085】
1つの実施例においては、リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、分子量<0.5kD:0.5から1.0kDまで:>1kD)のフラグメントの分布を、30-70:70-15:70-15の比率で含む。1つの指標として、0.5kD未満のフラグメントは、4-5アミノ酸未満のフラグメントに対応する一方、約0.5-1.0kDのフラグメントは、4-9アミノ酸に対応し、また1kDを超えるフラグメントは、9アミノ酸を超えるペプチドフラグメントに対応する。
【0086】
好ましくは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の加水分解の程度は、少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは少なくとも30%である。加水分解の程度は、好ましくは、例として、国際公開第2006/009448号に記載されたような、TNBS法を用いて測定される。加水分解の程度は、加水分解物/無傷のタンパク質中の、ペプチド結合の全量で割られた、加水分解物中の遊離のアミノ基の数と、無傷のタンパク質中の遊離のアミノ基の数との差異である。一般に、加水分解の程度は、パーセントで表され、それ故結果として得られた値は、100%を乗算される。
【0087】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の分子量分布は、好ましくは、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の分子量に基づき、30-70%の0.5kD未満の標的ペプチド、および15-70%の0.5kDと1kDの間のペプチドである。分子量分布、ペプチド鎖長分布、および加水分解物の最大ペプチド重量は、当該技術分野において既知の方法、例えばSDS-PAGE分析、HPLC分析、MALDI-TOF(Kaufmann著、「J.Biotechn」、1995年、第41巻、p.155-175,およびSoeryapranataら著、「J.Food Sci.」、2002年、第67巻、p.534-538、によって記載されたような、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法)、HP-GPC(Terheggen-Largoら著、「BMC Pediatrics」、2002年、第2巻、p.10に記載されたような高性能ゲル透過クロマトグラフィー)、およびエドマン(Edman)分解(Siemensmaら著、「Trends Food Sci Technology」、1993年、第4巻、P.16-21)、によって決定され得る。標的タンパク質の最大ペプチド分子量は、好ましくは10kD未満である。
【0088】
別法として、本発明のリゾチームのスブチリジンA加水分解物に類似した組成物は、化学的合成法を利用してデノボで作製され得る。特に、ジ-およびトリ-ペプチドライブラリは、コンビナトリアルケミストリーによって作製されてもよく、それによりジペプチドおよびトリペプチドの全ての可能な組合せが形成される。このプール、またはジ-およびトリ-ペプチドライブラリから、認知機能に対し上記記載の加水分解物と本質的に同じ活性を有する混合物が構成され得る。
【0089】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物は、好ましくは、規則的な、好ましくは毎日の、有効量の摂取の後に、認知機能を改善するか、または認知機能の低下を防止するか、または既に低下した認知機能を改善もしくは逆転させる。本明細書の状況においては、組成物の有効量または有効用量は、本発明のクレームされた効果、例えばインビボの治療効果または予防的効果、を得るようにするための組成物の量である。患者に投与される必要のある有効量は、いくつかの因子、例えば患者(例えば、ヒトまたは動物)、投薬形態(毎日、1日数回、毎週)、および製品の組成および/または素材感、に依存する。日常の実験を用いて有効量を決定することは、当業者の範囲内である。好ましくは、有効量は、1日当たり少なくとも0.1グラムの、より好ましくは少なくとも0.5グラム、なおより好ましくは少なくとも1グラム、なおより好ましくは少なくとも2グラム、最も好ましくは少なくとも4グラムの、クレームされた組成物である。例えば有効量は、患者に対し、例えば1日1回投与される、約5グラム、例えば5.0グラム、である。好ましくは、有効量は、1日当たり少なくとも7mg/kg患者体重、より好ましくは、1日当たり少なくとも14mg/kg、なおより好ましくは少なくとも28mg/kg、最も好ましくは少なくとも56mg/kg患者体重である。例えば、有効量は、例として体重50kgと120kgの間の患者については、1日当たり40mg/kg患者体重と、1日当たり100mg/kg患者体重との間である。典型的には、ヒト患者のためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物の日用量は、10グラム未満、例えば0.5-9グラム/日である。
【0090】
それ故、提供されるのは、上記記載のように生成されたか、または実施例1に記載されたように生成され、かつ任意選択的に、本発明による使用のために、さらに富化および/または精製された、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物である。また提供されるのは、本発明による使用のための、適当な量のリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物、特に食物製品、機能性食物製品、および/またはフードサプリメント組成物である。
【0091】
本発明による少なくとも1つのリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいるフードサプリメントおよび食物製品は、当該技術分野において既知のように作製され得る。フードサプリメントは、例えばタブレット、ピル、粉末サシェ、ゲル、カプセルなどといった、任意の剤形の形態にあってよい。患者による摂取は、好ましくは経口である。食物製品は、ドリンク、固体または半固体の食品、例えば、スナック、デザート、ソース、ホールミールなどの形態であってもよい。好ましくは、食物製品は、主食、例えばパン、ヌードル、ソフトドリンク、乳製品、例えばチーズ、ヨーグルト、発酵乳製品、ミルク、バターなどのような、規則的に、好ましくは毎日摂取される製品である。リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、それ故、食品ベースに添加されてもよく、またはその製造過程の間に食物製品中に取込まれてもよい。したがって、本発明による使用のための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる任意の既存の食品またはフードサプリメント製品は、本明細書に含まれる。
【0092】
好ましい実施形態においては、食物製品は、ドリンクであり、好ましくは、果汁もしくは野菜ジュースをベースとするが、ミルクベースのドリンクもまた含まれる。ドリンクは、50ml、100ml、150ml、200ml以上の日用量の体積で作製され得る。好ましいのは、200mlの日用量の体積中に、例えばリゾチームのスブチリジンA加水分解物5グラム、または10グラム未満、例えば0.1-9グラム、を含んで作製された水性ドリンクである。フードサプリメントまたは食物製品がさらに、付加的な食品グレードの成分、例えば、これに制限されるものではないが、香味料、ビタミン、ミネラル、安定剤、乳化剤、他の生物活性成分、食品ベース/栄養素、例えばタンパク質、炭水化物、および/または脂質成分など、を含み得ることが理解される。リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、食物製品/フードサプリメントの通常の製造プロセスの間の任意の段階において添加され得る。
【0093】
食物製品/フードサプリメントはまた、例えばグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースもしくはセルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルカム、炭酸マグネシウムなどといった、他の不活性成分および担体を含み得る。それはまた、水、電解質、必須および非必須アミノ酸、微量元素、ミネラル、繊維、甘味料、香味料、着色料、乳化剤、および安定剤(例えば、大豆レシチン、クエン酸、モノ-もしくはジ-グリセリドのエステル)、保存料、結合剤、香料なども含み得る。
【0094】
ピル、タブレット、またはカプセルの形態のフードサプリメント用には、インビボでの加水分解物の放出の場所および/または時間を変える、コーティングが加えられてもよい。徐放製剤は、当該技術分野において既知である。
【0095】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる(食物)製品、またはリゾチームのスブチリジンA加水分解物は、認知機能の低下のリスクがある患者によって、予防的に摂取されてもよい。認知機能は、患者における前方向抑制制御、および持続的注意のいずれかである。さらに、前方向抑制制御は、例えば、衝動性の制御であり、および/または持続的注意は、例えば全般的覚醒度である。
【0096】
1つの実施形態においては、本発明による組成物は、水性組成物である。本発明による組成物は、日用量がそこから得られるかまたは希釈により調製されるストック溶液としての、すぐに使える溶液であってもよく、或いはそれは、液体を添加することによって日用量がそこから得られる乾燥組成物であってもよい。組成物はまた、乾燥物質として使用されて、食料品と混合されてもよい。当業者は、組成物を、該組成物を必要とする患者に投与するこれらのおよび他の方法を熟知している。
【0097】
好ましくは、組成物は、例えばタブレット、サシェなどの形態のフードサプリメントとして、またはドリンク、半固体もしくは固体の食物製品の形態の機能性食品として、のいずれかで摂取される。
【0098】
患者において認知機能を改善する好ましい非治療的方法のためには、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の日用量は、1日当たり0.5グラム-20グラム、好ましくは1日当たり1グラム-10グラム、または10グラム未満/日、より好ましくは1日当たり2グラム-8グラム、例えば1日当たり5グラムである。日用量は、好ましくは1日1回の服用として患者に投与される。好ましいのは、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するためのリゾチームのスブチリジンA加水分解物であって、これにおいて、リゾチームのスブチリジンA加水分解物の日用量は、1日当たり0.5グラム-20グラム、好ましくは1日当たり1グラム-10グラム、より好ましくは2グラム-8グラム、例えば1日当たり5グラムである。日用量は、好ましくは、1日1回の服用として患者に投与される。例えば、1日1回の服用は、50-300ml、例えば100ml、125ml、200ml、250ml、の水性ドリンクとして患者に投与され、またリゾチームのスブチリジンA加水分解物約5グラムを含んでいる約200mlの体積が好ましい。
【0099】
本発明の一態様は、患者において認知機能を改善する非治療的方法における、リゾチームのスブチリジン加水分解物を含んでいる栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品の使用に関する。リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、本発明の上述の態様および実施形態のいずれかの加水分解物である。
【0100】
本発明の一態様は、その必要がある患者において、損なわれた認知機能を治療するための方法において使用するための、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる栄養補助食品、食物製品、機能性食品、食料品、食品成分、フードサプリメント、および/または飼料製品に関する。リゾチームのスブチリジンA加水分解物は、本発明の上述の態様および実施形態のいずれかの加水分解物である。
【0101】
本発明者らが驚いたことには、本発明者らが、好くなくとも4週間にわたる10グラム未満のリゾチームのスブチリジンA加水分解物の毎日の摂取が、結果として改善された認知を生じることを、最初に確立する人物であり、ここで、該改善された認知機能が、例えば改善された衝動性の制御、改善された抑制制御であるか、または改善された衝動性の制御、改善された抑制制御、改善された覚醒度、および改善された注意の組合せであることであり、本発明者らの知る限りでは先行技術において以前には確立されていなかったことである。
【0102】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、それらは何ら本発明を制限するものとして理解されるべきではない。
【実施例
【0103】
実施例1:リゾチームのスブチリジンA加水分解物の調製
SDS-PAGE(分子量の測定):ペプチドの分子量は、SDS-PAGEにより測定した。試料および分子量マーカー(10-250kDa)を、4-20%のCriterion TGXゲルにかけた。続いて、ゲルに電圧をかけ、試料の移動の後、ゲルをクマジー青(Coomassie Blue)で染色した。
【0104】
バルク密度:バルク密度は、50mLのメスシリンダーにおいて測定した。シリンダーを50mLの粉末で満たし、そして秤量した。シリンダーは、1回軽くたたいた。バルク密度は、g粉末/mLで表される。
【0105】
分子サイズ分布(サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)):試料を、Superdexペプチドカラムに注入した。水中のリン酸カリウム緩衝液および硫酸ナトリウム緩衝液を、溶離液として用いた。検出は、屈折率およびUV220nmを用いて実施した。ペプチドおよびマルトースの混合物を用いて、カラムを較正した。
【0106】
水中のリゾチームの5%(w/v)溶液(100%タンパク質含量、バウハウス・エントホーヴェン、オランダ、ラールテ(Raalte))を調製し、3M KOHを用いてpHを7.5と8.5の間に調整した。加水分解は、Alcalase(商標)(ノボザイムズ(Novozymes))を、タンパク質ベースで4%の最終濃度まで添加することにより開始した。溶液を、連続攪拌下で、60℃において合計6時間にわたりインキュベートした。次いでAlcalase(商標)を、温度を90℃まで15分間上昇させることにより不活化した。次いで溶液を2℃に冷却し、連続攪拌下に一晩保管した。
【0107】
結果として得られた加水分解物溶液を、10μmフィルターを通し、続いて1μmフィルターを通して濾過した。その後、濾液を135℃で15秒間加熱し、ニロ(NIRO)製エバポレータにより、90℃で3300L/hのフローにおいて、57°ブリックス(Brix)(ほぼ45%の乾燥物質)の乾燥物質に濃縮した。蒸発の後、生成物を噴霧乾燥して、目視観察によって明示されるような、非常に良好な流動性特性をもつ粉末を得た。
【0108】
最終産物は、以下の特性を有していた:白色粉末、良好な溶解性、21%の加水分解度(TNBS法)、および10kDa未満の最大分子量。ペプチドのサイズ分布は、以下の通りであった:46%<500Da、23% 500-1000Da、32%>1000Da。
【0109】
同様に、水中のリゾチームの5%(w/v)溶液(100%タンパク質含量、バウハウス・エントホーヴェン、オランダ、ラールテ)を調製し、3M KOHを用いてpHを8.0に調整した。加水分解は、Alcalase(商標)(ノボザイムズ)を、タンパク質ベースで4%の最終濃度まで添加することにより開始した。溶液を、連続攪拌下で、60℃において合計5時間にわたりインキュベートした。Alcalase(商標)を、温度を90℃に15分間上昇させることにより不活化した。溶液を次に6℃に冷却し、連続攪拌下に一晩保管した。
【0110】
得られた加水分解物溶液を、100μmフィルターを通し、続いて1μmフィルターを通して濾過した。その後、濾液を135℃で15秒間加熱し、ニロ製エバポレータにより、90℃で3300L/hのフローにおいて、56.5°ブリックス(Brix)(ほぼ45%の乾燥物質)の乾燥物質に濃縮した。蒸発の後、生成物を噴霧乾燥して、目視観察によって明示されるような、非常に良好な流動性特性をもつ粉末を得た。粒度分布を評価して、対数スケールでは粒子の大部分が120マイクロメーター周辺(40マイクロメーターと400マイクロメーターの間)のガウス分布をもち、相対的に少ない部分の粒子は、500マイクロメーターより大きいことを示した。サイズ分布:d(0,1)は、最終産物において68マイクロメーターであり、d(0,5)は124マイクロメーターであり、d(0,9)は242マイクロメーターであった。粉末の粒度分布はレーザー回折技術により、マスターサイザー(Mastersizer)2000マルバーン(Malvern)を用いて測定した。測定に先立ち、粉末試料をイソプロパノール中に分散した。得られた白色の加水分解物粉末のバルク密度は、0.42g/mLであった。
【0111】
最終産物は、以下の特性を有していた:白色粉末、良好な溶解性、21%の加水分解度、および10kDa未満の最大分子量。ペプチドのサイズ分布は、以下の通りであった:46%<500Da、23% 500-1000Da、32%>1000Da。加水分解の程度:加水分解の程度(DH)を、オルトフタルジアルデヒド(OPA)法によって測定した。遊離アミノ基の量は、オルトフタルジアルデヒドによる染色、および412nmにおける分光光度検出法によって測定した。DHは、以下のように定義される:[((遊離アミノ基数の全数)-(無傷のタンパク質中の遊離アミノ基の数))100%]/[ペプチド結合の全量]。乾燥物質含量は、97.90%であった(水分含量は2.10%であった)。乾燥物質(DM):乾燥物質含量は、赤外線水分計(ザルトリウス(Sartorius))によって測定した。試料2mLを濾紙上に散布して秤量した。続いて、一定した重量が達成されるまで試料を乾燥させた。DM=(乾燥後の重量)/(乾燥前の重量)100%。
【0112】
実施例2:臨床試験
関係した試験は、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、クロスオーバー臨床治験である。図1では、臨床治験プロトコールの概要が示されている。本試験の目的は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の、認知機能、より特定的には、患者における抑制制御の改善および注意の改善、例えば前方向抑制制御および/または持続的注意、に対する4週間の効果に向けられており、より特定的には、これにおいて前方向抑制制御は、衝動性の制御であり、および/またはこれにおいて持続的注意は覚醒度、例えば全般的覚醒度である。認知機能を評価するための試験は、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物またはプラセボが患者に毎日投与された4週間の期間に先立って行われ(図1のタイムポイントV3およびV6)、また4週間の期間の終わりに再度行われた(図1のタイムポイントV5およびV8)。全ての測定は、それ以外は健康な、しかしメタボリックシンドロームと診断される基準を満たしている患者において行われた。それぞれの4週間の介入期間は、典型的には4週間の休薬期間によって分離されたが、しかしこの期間は、2週間と8週間の間となるように延長または短縮されることが可能であった。
【0113】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物またはプラセボは、良好な溶解性をもつ白色粉末として、サシェ中の5gの小分けとして提供された。患者は、摂取に先立ち、粉末を約200mLの水中に溶解するよう求められた。プラセボはまた、色および味において加水分解物と同様の粉末として提供された。68名の患者が、試験の開始時に無作為化された。
【0114】
実行された最初の認知機能テストは、持続的注意検査(SAT)、反応時間を評価するために使用されかつ注意を評価するために使用された、個人の注意を持続する能力を評価するべくデザインされたビジランスタスクであった。SATは、精神運動ビジランステストであり、また持続的注意を評価するため、および全般的覚醒度を評価するためにも使用された。SATについては、準備間隔は、1-2、3-4、5-6、7-8、および9-10sであった。精神運動ビジランステストは、持続的注意を評価するための単純な作業である。患者は、刺激が現れたらすぐに、ボタンを押すように指示された。刺激は、スクリーンの中央にある四角形が緑色に変わることからなった。この試験では、単一のトライアルの継続時間は、8分間で構成された。この8分間の間に、80の刺激が現れ、刺激間の間隔は、1秒と10秒の間で無作為に変化した。患者が初めてテストを実行しなければならなかったとき、テストの原理を示すために4つのデモトライアルが用いられた。デモトライアルの後、8つの練習トライアルが、続いて80の公式なテストトライアルが実行されねばならなかった。
【0115】
実行された第2の認知テストは、アンチキュータスクであり鏡面対称の応答手を指示する左右のアンチキューを用いた、4択反応時間(RT)タスクであった。特にアンチキューは、参加者にキューの側の反対の手の指を準備するよう要求する(カウンター対応マッピング)。アンチキュータスクテストの概要については、“Switch hand! Mapping temporal dynamics of proactive manual control with anticues(手を変えて下さい! アンチキューによる前方向手動制御の時間的動力学のマッピング)”、J.J.Adam、S.Jennings、T.J.H.Bovend’Eerdt、P.P.M.Hurks、P.W.M.Van Gerven著、「Acta Psychologica」、2015年、第161巻、p.137-144、が参照される。アンチキュータスクは、特に衝動制御に関連する、前方向認知制御を評価する。アンチキュータスクは、前方向抑制操作の効率および時間経過を調べ、これにおいてアンチキュータスクは、手動運動系における応答コンフリクトの解明に焦点を合わせている。アンチキュータスクは、それ故、衝撃制御、反応時間、および実行機能を評価する。本臨床治験においては、アンチキュー設定が使用され(「アンキュード・アンチキューテスト(uncued anticue test)」)、かつアンチキュー:キュー設定が使用された(「キュード・アンチキューテスト(cued anticue test)」)。双方の設定用には、反応時間における改善が、本発明によるリゾチームのスブチリジンA加水分解物(図1の「処置」)またはプラセボの摂取の影響下で評価された。固定時間は約750msec、ギャップ時間は約750msecであり、かつ準備間隔(ターゲット間隔)は、100msec、150msec、250msec、450msec、または850msecであった。
【0116】
統計分析:認知テストデータは、リンクとして識別番号(identification)を用いた、ダミーステップワイズペアード(dummy stepwise paired)一般化推定方程式法(General Estimation Equations procedure)によって分析され、これにおいて変化値は、従属パラメータとして処理されたのに対し、性別、年齢、ボディマス指数、追従する製品摂取順、処置、準備/ターゲット間隔、間隔と処置との相互作用、および最初の準備間隔における値は、独立パラメータとして適用された。処置はまた、他のパラメータを加えることなく独立したパラメータとしても評価された。モデルのあてはめ(fit)は、ウォールド・カイ二乗検定(Wald Chi square test)によって評価した。外れ値は、グラブス検定(Grubbs test)により同定した。何ら欠測値は記録されず、また何ら脱落者も見られなかったことから、治療企画解析(Intention-to-Treat)(ITT)集団を、外れ値の有り無しで分析した。試験全体を通して、両側評価を適用して、0.05のp-値を用いて有意性を同定した。統計分析は、STATA、バージョン12(StataCorp、米国、テキサス州、カレッジステーション(College Station))、およびGraphPad,バージョン6(GraphPad Prism、米国、カリフォルニア州、ラホヤ)を用いて実行した。
【0117】
調査対象母集団
母集団ベース
調査対象母集団は、18歳と75歳の間であり、かつメタボリックシンドロームの基準を満たしている、それ以外は健康な男性および女性の患者からなった。患者は、体重の安定した非喫煙者であった。
【0118】
臨床試験参加者が試験への登録に適すると判断されるための包含基準であり、かつ臨床試験に登録される患者によって満たされたものは、以下の通りであった:
-書面によるインフォームドコンセントを示すことができる、
-18歳と75歳の間である、
-研究者によって決定されるように全般的に健康である、
-非喫煙者である、
-試験に参加する3ヶ月前において、体重が安定している(<5%の変化)
-国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)(IDF)、国立心臓・肺・血液研究所(National Heart Lung and Blood Institute)、アメリカ心臓学会(American Heart Association)、世界心臓学会(World Heart Federation)、国際動脈硬化学会(International Atherosclerosis Society)、および国際肥満学会(International Association for Study of Obesity)によって同意されるようなメタボリックシンドロームの存在のための整合基準に合致し、かつ以下の5つのリスク因子の少なくとも3つがあると定義されたもの:
・中心性肥満(男性では腹囲>94cm、または女性では>80cm)、またはBMI>30kg/mを有する
・上昇したトリグリセリド(>1.7mmol/L(150mg/dL))
・減少したHDLコレステロール[男性で、<1.03mmol/L(40mg/dL)、女性で<1.29mmol/L(50mg/dL)]
・上昇した空腹時血漿グルコース>5.6mmol/L(100mg/dL)
・上昇した血圧(収縮期血圧>130mmHg、または拡張期血圧85mmHg)
【0119】
臨床治験患者の特徴については、表1も参照のこと。
【0120】
除外基準
提示されたヒト患者は、彼らが以下の基準のいずれかに合致する場合は除外された;
1.18歳未満または75歳以上であるか、
2.妊娠中、授乳中であるか、または試験の間に妊娠することを希望し得る女性、
3.試験製品の成分(すなわち、卵タンパク質)のいずれかに対し過敏症であるか、
4.重要な急性または慢性の合併症、例えば、心血管疾患、慢性腎臓病(CKD)、胃腸障害、内分泌学的障害、免疫学的障害、代謝疾患、または研究者の判断において試験に参加することに禁忌徴候を示す任意の状態があるか、
5.研究者が、試験の目的を妨げるか、安全性リスクがあるか、または試験結果の解釈を複雑にするであろうと考える、症状がある、または薬を飲んだことがある;利尿薬、血圧降下薬、およびさもなければレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を妨げる他の医薬、例えばACE-阻害剤、アンジオテンシン受容体ブロッカー、直接的レニン阻害剤またはアルドステロン受容体阻害剤、およびコレステロール低下剤、例えばスタチンを含むこと、
6.ベースライン訪問の2週間以内に、または試験の期間中に、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を受けているか、
7.I型およびII型のいずれかの糖尿病を罹患、
8.推奨されたアルコールガイドライン、すなわち、男性で>21アルコール単位/週、女性で>14アルコール単位/週、を超える摂取、
9.違法薬物使用の履歴、
10.研究者の意見で、出席が少ないか、または何らかの理由でトライアルに適応できそうもないと考えられる個人、
11.患者は、治験薬を含む治療を受けないかもしれない、
12.患者が最近の実験トライアルに加わったことがある場合、これらは本試験の30日以上前に完了していなければならず、あるいは該治験の開始に先立つ8週間の期間内に患者が血液銀行において献血したことがある場合、
13.悪性疾患または付随する末期の臓器疾患がある。
【0121】
活性成分としてのリゾチームのスブチリジンA加水分解物は、噴霧乾燥製品の製造および検査を可能にするニゾ・フード・リサーチ(NIZO Food Research)、(オランダ、エデ)によって製造された。実薬サシェの成分:活性成分としてのリゾチームのスブチリジンA加水分解物、クエン酸、香味料、アセスルファム(Acesulfame)K、スクラロース(Sucralose)、キニーネ HCL。プラセボサシェの成分:マルトデキストリン、香味料、クエン酸、クラウディファイヤ(cloudifier)、酒石酸、リンゴ酸、アセスルファムK、スクラロース、カラメル(Caramel)E150a、キニーネ HCL。それぞれのサシェは、摂取に先立ち約200mLの水中に溶解された。プラセボサシェは、加水分解物の代わりに、不活性な充填剤としてジャガイモデンプンのマルトデキストリンを含有する。活性成分含有粉末およびプラセボ粉末は、色および味が類似していた。双方の製品の味は、ビターレモンであった。サシェは、一般に許容される手順および適正製造基準(Good Manufacturing Practices)に従って製造された。
【0122】
SATの結果
全68名の臨床試験参加者を、単一群の患者として評価した。測定された値については、表2-4を参照のこと。間隔1(1-2sec)と2(3-4sec)の間の反応時間の値には、減少が観察され、試験群(study arm)ごとに測定された反応時間は、間隔2と3の間(5-6sec)、3と4の間(7-8sec)、および4と5の間(9-10sec)ではほぼ一定のままである。測定されたテスト結果は、反応時間における変化が、プラセボ群の患者におけるよりも、処置群(患者がリゾチーム加水分解物を投与された)において有意に大きい(4週間後により短い時間を要した)ことを示した。
【0123】
5つの準備間隔について、0日に測定されたテスト結果と、処置の4週間後に測定されたテスト結果とを比較すると、本発明のリゾチームの加水分解物を受けた患者では、プラセボを受けた患者に比較して、4週間の処置後の反応時間が5-10msec短かった。この短縮された反応時間は、約1-3%、または約1.3-2.7%の改善である。また、反応時間の変化は、リゾチームの加水分解物を投与された患者の群において、プラセボ群に比較して有意に大きかった(処置の4週間後により短い時間を要した)。したがって、リゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の毎日の摂取は、プラセボの毎日の摂取に比較して、SATのタスクを満たすのに必要な時間を大いに低減する結果となる。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
アンキュード・アンチキューテストの結果
5つのターゲット間隔100msec、150msec、250msec、450msec、および50msecにおける、0日(図1のタイムポイントV3およびV6)と4週間(介入期間の終わり:図1のタイムポイントV5およびV8)との間の、反応時間(msec)における変化を、4週間にわたりプラセボを毎日投与された健康な患者の群について、およびリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物が投与された(図1の「処置」)健康な患者の群について評価した。アンキュード・アンチキューテストに関連するデータセットについては、表5-7を参照のこと。
【0129】
5つのターゲット間隔が評価される場合、4週間にわたるプラセボの投与は、何ら反応時間に影響しなかった。4週間にわたるプラセボの摂取は、それ故、アンキュード・アンチキューテストにおけるヒト患者のパフォーマンスに、何ら影響しなかった。対照的に、処置群の患者による、本発明のリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の摂取は、タスクを遂行するために必要な反応時間を低減する結果となった。リゾチームの加水分解物の摂取の影響下での反応時間の改善は、評価された5つのターゲット間隔についてほぼ同一であり、約10.4msecであった。この低減された反応時間は、約2-3%の改善である。5つの異なるターゲット間隔が考察される場合には、プラセボ群の患者と処置群の患者との間で、処理の0日と4週間後との間の変化値における差異は一定の割合のままである(p<0.009)。臨床試験の全ての参加者(男性、女性)が評価された場合、反応時間の改善は年齢と逆の相関関係があった:患者が高齢であるほど、反応時間の減少は低かった(p<0.001)。
【0130】
左手および右手を用いて得られた結果は、27日(「d27」)と0日(「d0」)との間で、平均相互作用時間及び反応時間の差異を計算する前に合わされる。
【0131】
【表5】
【0132】
【表6】
【0133】
【表7】
【0134】
キュード・アンチキューテストの結果
5つのターゲット間隔100msec、150msec、250msec、450msec、および50msecにおける、0日(図1のタイムポイントV3およびV6)と4週間(介入期間の終わり:図1のタイムポイントV5およびV8)との間の、反応時間(msec)における変化を、4週間にわたりプラセボを毎日投与された健康な患者の群について、およびリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物を投与された(図1の「処置」)健康な患者の群について評価した。測定されたデータポイントは、表8および表9に要約されている。5つのターゲット間隔が考察される場合、4週間にわたるプラセボの投与は、反応時間に対し負の効果をもっていた。すなわち、5つのターゲット間隔について、プラセボを用いた4週間の処置の後では、プラセボを用いた処置の開始前、0日における反応時間に比較して、反応時間は0-7msec遅かった。4週間にわたるプラセボの摂取は、それ故、キュード・アンチキューテストにおいては、ヒト患者のパフォーマンスに対しポジティブに影響することはなかった。対照的に、処置群の患者による本発明のリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の4週間にわたる摂取は、5つのターゲット間隔全てが評価される場合、タスクを遂行するのに必要な反応時間が減少する結果となった。
【0135】
リゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取の影響下での、反応時間の改善(すなわち、低減)は、最初の4つの評価されたターゲット間隔についてはほぼ同じであり、約12msec(11.5msecと12.7msecの間)であった。850msecのターゲット間隔については、4週間後の反応時間の改善は、0日の反応時間に比較して約2.6msecであった。平均して、4週間後の反応時間における改善は、5つの準備間隔の継続時間を合わせた、0日における反応時間に比較して、約10msecであった。この反応時間の減少は約2-3%の改善である。
【0136】
したがって、4週間にわたるリゾチームの加水分解物の摂取は、必要な反応時間をある程度増加させるように見えるプラセボに比較した場合、テストに必要な反応時間を短縮する。5つの異なるターゲット間隔が考察される場合には、プラセボ群の患者と処置群の患者との間で、処理の0日と4週間後との間の変化値における差異は一定の割合のままである(p<0.009)。臨床試験の全ての参加者(男性、女性)が評価された場合、反応時間の改善は年齢と逆の相関関係があったことが観察された:患者が高齢であるほど、反応時間の減少は低かった(p<0.001)。
【0137】
67歳またはより高齢(67-75歳)のヒト男性が考察される場合(14名の男性)、反応時間における改善(すなわち、より短い反応時間)は、4週間にわたるリゾチームの加水分解物の摂取後に評価された反応時間について、全68名の患者が考慮される場合の反応時間における改善に比較して、また4週間の摂取の開始前の0日における反応時間に比較して大きかった。すなわち、プラセボに比較しての改善は、平均約32msecであり、かつ5つのターゲット間隔が評価される場合には、22msecと40msecの間で変化した。単一群において全体として評価された68名の患者については、プラセボに比較しての改善は、平均して平均約13msecであり、かつ5つのターゲット間隔が評価される場合には、9msecと16msecの間で変化した。それ故、認知機能における改善が考察される場合、比較的高齢の男性患者が、より若い男性および臨床試験に含まれた全ての年齢の女性に比較して、リゾチームの加水分解物を用いた処置からより恩恵をうける。
【0138】
左手および右手を用いて得られた結果は、27日(「d27」)と0日(「d0」)との間で、平均相互作用時間及び反応時間の差異を計算する前に合わされる。
【0139】
本発明のリゾチームのスブチリジンA加水分解物を含んでいる組成物の摂取の影響下で約10msec短くなる反応時間の観点からの、キュード・アンチキューテストにおける反応時間の改善は、絶対項においては、ヒト患者において約1年と2年の間にわたって見られる反応時間の増加に匹敵する。したがって、リゾチームの加水分解物、すなわち、本発明のリゾチームのスブチリジンA加水分解物の摂取は、1から2年の加齢の間に生じる認知機能の(自然な)悪化を停止することに匹敵する効果をもつ。
【0140】
【表8】
【0141】
【表9】
図1
【国際調査報告】