(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-11
(54)【発明の名称】ニューロモルフィックMEMSデバイス
(51)【国際特許分類】
B81B 3/00 20060101AFI20220404BHJP
B81B 7/02 20060101ALI20220404BHJP
G06N 3/063 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
B81B3/00
B81B7/02
G06N3/063
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021534342
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(85)【翻訳文提出日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 CA2019051832
(87)【国際公開番号】W WO2020124219
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259448
【氏名又は名称】ソクプラ サイエンシズ イーティー ジェニー エス.イー.シー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092956
【氏名又は名称】古谷 栄男
(74)【代理人】
【識別番号】100101018
【氏名又は名称】松下 正
(72)【発明者】
【氏名】シルヴェスター,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】バラザニ,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ディオン,ギヨーム
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA09
3C081AA11
3C081BA22
3C081BA33
3C081BA43
3C081BA44
3C081BA48
3C081BA53
3C081BA75
3C081BA77
3C081DA03
3C081DA04
3C081EA02
3C081EA03
3C081EA22
(57)【要約】
微小電子機械システム(MEMS)デバイスは、フレキシブルな接続によって構造に接続されるように構成された慣性要素を含み、慣性要素は、構造に加えられた外部刺激に応答して、構造に対して変形または移動する。1つまたは複数の共振要素が構造または慣性要素に接続され、共振要素は共振モードを有する。伝達ユニットは、慣性ようそおよび/または構造に対する共振要素の振動運動を測定する。電子制御ユニットは、静電気力のポンプを印加して、共振モードで共振要素の振動運動を誘発します。振動運動は、静電気力の強さの非線形関数である。共振要素は、外部刺激に応じた慣性要素の変形および/または運動がポンプの強度を変化させるように、慣性要素および/または構造に結合されるように構成され、電子制御ユニットは、測定された振動運動の数学的関数である出力信号を出力する。外部刺激にさらされたMEMSデバイスのニューロモルフィック出力を生成するシステムも提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造に与えられた外部刺激に応答して、慣性要素が当該構造に対し相対的に変形もしくは移動するように、フレキシブル接続によって前記構造に結合されるよう構成された慣性要素と;
前記構造または少なくとも一つの共振モードを有する慣性要素に結合されるよう適合された少なくとも一つの共振要素と;
少なくとも一つの共振要素の前記慣性要素および/または構造に対する振動運動を計測するための少なくとも一つの伝達ユニットと;
前記共振モードにおける前記少なくとも一つの共振要素に、静電気力の強度の非線形関数である振動運度を引き起こすように、静電気力のポンプを印加するための電子制御ユニットと;
を備えた微少電子機械システム(MEMS)であって、
外部刺激による前記慣性要素の変形および/または移動が、前記ポンプの強度を変化させるように、前記少なくとも一つの共振要素は、前記慣性要素および/または前記構造に結合するよう構成されており、
前記電子制御ユニットは、計測された振動運動の数学関数である出力信号を生成して出力するよう構成されていることを特徴とする微少電子機械システム(MEMS)デバイス。
【請求項2】
請求項1のMEMSデバイスにおいて、
前記少なくとも一つの共振要素は、その両端もしくは両端近傍にて挟まれたビームであることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項3】
請求項2のMEMSデバイスにおいて、
前記慣性要素は、バネによって支持された慣性プルーフ質量であり、前記ビームからギャップを隔てて設けられていることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項4】
請求項3のMEMSデバイスにおいて、
慣性プルーフ質量は、前記ビームに向かう方向および離れる方向である単一の並進自由度にて動くことを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
前記ポンプは、前記少なくとも一つの共振要素および慣性要素の間の交流電界であり、当該電界は、前記少なくとも一つの共振要素と慣性要素との間に交流電圧差を印加することで生成されることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項6】
請求項2~5のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
計測された振動運動は、N等間隔の時間にて計測された前記ビームの振動の振幅を含むことを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項7】
請求項1のMEMSデバイスにおいて、
前駆少なくとも一つの共振要素は、その両端が慣性要素に結合されたビームであることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項8】
請求項7のMEMSデバイスにおいて、
前記慣性要素は、その周辺部において前記構造とフレキシブルに結合されたプレートを有することを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項9】
請求項8のMEMSデバイスにおいて、
前記構造は、ギャップによって前記少なくとも一つの共振要素から分離され、前記少なくとも一つの共振要素と結合された電極を有することを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項10】
請求項7~9のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
前記ポンプは、前記少なくとも一つの共振要素と前記電極との間の交流電界であり、当該電界は、前記少なくとも一つの共振要素と前記慣性要素との間に交流電圧差を印加することによって生成されることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
前記数学的関数はパラメータを有し、当該パラメータは、トレーニング段階において、出力信号とターゲット信号との間の平均誤差を最小化することで算出され、各刺激がターゲット信号に対応するような、複数の外部刺激が連続して印加されることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
前記数学的関数は、現在におけるまたは過去の時点からの前記振動運動のN個の計測特徴の線形結合であることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
前記ポンプの強度は、現在におけるまたは過去の時点からの前記出力信号の数学的関数であることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
前記伝達ユニットは、前記少なくとも一つの共振要素に結合されたピエゾ抵抗歪みンゲージを含むことを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかのMEMSデバイスにおいて、
前記ポンプは、前記少なくとも一つの共振要素と前記慣性要素の間の力であって、当該力は、振幅および周波数が時間的に正弦波的に変化することを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項16】
請求項15のMEMSデバイスにおいて、
前記正弦波的な力は、繰り返しマスクパターンにしたがう時間によって変化することを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項17】
請求項15または16のMEMSデバイスにおいて、
前記周波数は、前記少なくとも一つ共振要素の共振モードにおける固有振動数に近接した周波数であることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項18】
外部刺激に晒されるMEMSデバイスのためのニューロモルフィック出力を生成するためのシステムにおいて、
プロセシングユニットと;
プロセシングユニットによって実行可能なコンピュータ可読プログラム指令を備え、前記プロセシングユニットに通信可能に接続された非一時的コンピュータ可読メモリとを備え、前記コンピュータ可読プログラム指令は、
前記MEMSデバイスの少なくとも一つの共振要素の、静電気力のポンプ強度の非線形関数である振動運動を引き起こすために、静電気力のポンプを印加し、
外部刺激に応答する慣性要素の変形および/または動きがポンプ強度を変化させるように、前記少なくとも一つの共振要素を、前記MEMSデバイスの慣性要素および/または構造に結合し、
前記少なくとも一つの共振要素の振動運動を計測し、
計測された振動運動の数学的関数である出力信号を生成して出力するためのものである。
【請求項19】
請求項18のシステムにおいて、
静電気力のポンプの印加は、前記少なくとも一つの共振要素と前記慣性要素の間への交流電圧差の印加を含むことを特徴とするシステム。
【請求項20】
請求項18のシステムにおいて、
静電気力のポンプの印加は、前記少なくとも一つの共振要素と前記構造の間への交流電圧差の印加を含むことを特徴とするシステム。
【請求項21】
請求項18~20のいずれかのシステムにおいて、
前記少なくとも一つの共振要素はビームであり、振動運動の計測は、N等間隔の時間における当該ビームの振動強度の計測を含むことを特徴とするシステム。
【請求項22】
請求項18~21のいずれかのシステムにおいて、
計測された振動運動の数学的関数である出力信号の生成および出力は、各刺激がターゲット信号に対応するような複数の外部刺激が連続して与えられるトレーニング期間において、出力信号とターゲット信号の間の平均誤差を最小化することによる数学的関数のパラメータの算出を含むことを特徴とするシステム。
【請求項23】
請求項18~22のいずれかのシステムにおいて、
計測された振動運動の数学的関数は、1組のウエイトによって算出される、N個の振動運動の計測特徴の線形結合であることを特徴とするシステム。
【請求項24】
請求項18~23のいずれかのシステムにおいて、
前記ポンプの強度は、現時点でのもしくは現在より過去の時点からの前記出力信号の数学的関数であることを特徴とするシステム。
【請求項25】
請求項18~24のいずれかのシステムにおいて、
静電気力のポンプを印加することは、振幅および周波数が時間とともに正弦波的に変化する力の印加を含むことを特徴とするシステム。
【請求項26】
請求項25のシステムにおいて、
前記周波数は、前記少なくとも一つの共振要素の共振モードにおける固有振動数に近接した周波数であることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、ニューロモルフィック・コンピューティングおよびスマートセンサ・デバイスに使用される装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートセンサ・デバイスの存在は、たとえば、IOT(Internet of things)環境やロボットその他の非線形システムの制御などの様々な応用において極めて重要である。
【0003】
ニューロモルフィック・コンピューティングは、このスマートセンサ・デバイスに有益なものである。ニューロモルフィック・コンピューティングではセンサ・デバイスのトレーニングが必要なので、局所的な非線形変換から制御信号を生成する能力は、特にコンパクトでエネルギー効率の高いスマートセンサ・デバイスを魅力的なものにする可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
一側面において、構造に与えられた外部刺激に応答して、慣性要素が当該構造に対し相対的に変形もしくは移動するように、フレキシブル接続によって前記構造に結合されるよう構成された慣性要素と;前記構造または少なくとも一つの共振モードを有する慣性要素に結合されるよう適合された少なくとも一つの共振要素と;少なくとも一つの共振要素の前記慣性要素および/または構造に対する振動運動を計測するための少なくとも一つの伝達ユニットと;前記共振モードにおける前記少なくとも一つの共振要素に、静電気力の強度の非線形関数である振動運度を引き起こすように、静電気力のポンプを印加するための電子制御ユニットと;を備えた微少電子機械システム(MEMS)であって、外部刺激による前記慣性要素の変形および/または移動が、前記ポンプの強度を変化させるように、前記少なくとも一つの共振要素は、前記慣性要素および/または前記構造に結合するよう構成されており、前記電子制御ユニットは、計測された振動運動の数学関数である出力信号を生成して出力するよう構成されていることを特徴とする微少電子機械システム(MEMS)デバイスが提供される。
【0005】
一側面において、たとえば、前記少なくとも一つの共振要素は、その両端もしくは両端近傍にて挟まれたビームである。
【0006】
一側面において、たとえば、前記慣性要素は、バネによって支持された慣性プルーフ質量であり、前記ビームからギャップを隔てて設けられている。
【0007】
一側面において、たとえば、慣性プルーフ質量は、前記ビームに向かう方向および離れる方向である単一の並進自由度にて動く。
【0008】
一側面において、たとえば、前記ポンプは、前記少なくとも一つの共振要素および慣性要素の間の交流電界であり、当該電界は、前記少なくとも一つの共振要素と慣性要素との間に交流電圧差を印加することで生成される。
【0009】
一側面において、たとえば、計測された振動運動は、N等間隔の時間にて計測された前記ビームの振動の振幅を含む。
【0010】
一側面において、たとえば、前駆少なくとも一つの共振要素は、その両端が慣性要素に結合されたビームである。
【0011】
一側面において、たとえば、前記慣性要素は、その周辺部において前記構造とフレキシブルに結合されたプレートを有する。
【0012】
一側面において、たとえば、前記構造は、ギャップによって前記少なくとも一つの共振要素から分離され、前記少なくとも一つの共振要素と結合された電極を有する。
【0013】
一側面において、たとえば、前記ポンプは、前記少なくとも一つの共振要素と前記電極との間の交流電界であり、当該電界は、前記少なくとも一つの共振要素と前記慣性要素との間に交流電圧差を印加することによって生成される。
【0014】
一側面において、たとえば、前記数学的関数はパラメータを有し、当該パラメータは、トレーニング段階において、出力信号とターゲット信号との間の平均誤差を最小化することで算出され、各刺激がターゲット信号に対応するような、複数の外部刺激が連続して印加される。
【0015】
一側面において、たとえば、前記数学的関数は、現在におけるまたは過去の時点からの前記振動運動のN個の計測特徴の線形結合である。
【0016】
一側面において、たとえば、前記ポンプの強度は、現在におけるまたは過去の時点からの前記出力信号の数学的関数である。
【0017】
一側面において、たとえば、前記伝達ユニットは、前記少なくとも一つの共振要素に結合されたピエゾ抵抗歪みンゲージを含む。
【0018】
一側面において、たとえば、前記ポンプは、前記少なくとも一つの共振要素と前記慣性要素の間の力であって、当該力は、振幅および周波数が時間的に正弦波的に変化する。
【0019】
一側面において、たとえば、前記正弦波的な力は、繰り返しマスクパターンにしたがう時間によって変化する。
【0020】
一側面において、たとえば、前記周波数は、前記少なくとも一つ共振要素の共振モードにおける固有振動数に近接した周波数である。
【0021】
一側面において、たとえば、外部刺激に晒されるMEMSデバイスのためのニューロモルフィック出力を生成するためのシステムであって、プロセシングユニットと;プロセシングユニットによって実行可能なコンピュータ可読プログラム指令を備え、前記プロセシングユニットに通信可能に接続された非一時的コンピュータ可読メモリとを備え、前記コンピュータ可読プログラム指令は、前記MEMSデバイスの少なくとも一つの共振要素の、静電気力のポンプ強度の非線形関数である振動運動を引き起こすために、静電気力のポンプを印加し、外部刺激に応答する慣性要素の変形および/または動きがポンプ強度を変化させるように、前記少なくとも一つの共振要素を、前記MEMSデバイスの慣性要素および/または構造に結合し、前記少なくとも一つの共振要素の振動運動を計測し、計測された振動運動の数学的関数である出力信号を生成して出力するためのものであるようなシステムが提供される。
【0022】
一側面において、たとえば、静電気力のポンプの印加は、前記少なくとも一つの共振要素と前記慣性要素の間への交流電圧差の印加を含む。
【0023】
一側面において、たとえば、静電気力のポンプの印加は、前記少なくとも一つの共振要素と前記構造の間への交流電圧差の印加を含む。
【0024】
一側面において、たとえば、前記少なくとも一つの共振要素はビームであり、振動運動の計測は、N等間隔の時間における当該ビームの振動強度の計測を含む。
【0025】
一側面において、たとえば、計測された振動運動の数学的関数である出力信号の生成および出力は、各刺激がターゲット信号に対応するような複数の外部刺激が連続して与えられるトレーニング期間において、出力信号とターゲット信号の間の平均誤差を最小化することによる数学的関数のパラメータの算出を含む。
【0026】
一側面において、たとえば、計測された振動運動の数学的関数は、1組のウエイトによって算出される、N個の振動運動の計測特徴の線形結合である。
【0027】
一側面において、たとえば、前記ポンプの強度は、現時点でのもしくは現在より過去の時点からの前記出力信号の数学的関数である。
【0028】
一側面において、たとえば、静電気力のポンプを印加することは、振幅および周波数が時間とともに正弦波的に変化する力の印加を含む。
【0029】
一側面において、たとえば、前記周波数は、前記少なくとも一つの共振要素の共振モードにおける固有振動数に近接した周波数である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【0031】
本開示によるMEMS(微少電気機械システム:micro-electro-mechanical system)デバイスを示すブロック図である。
【0032】
共振要素が慣性要素に静電的に結合された、本開示の実施形態によるMEMSデバイスの斜視図である。
【0033】
図2のMEMSデバイスの例示的な試作品の顕微鏡写真である。
【0034】
共振要素が構造に静電的に結合された、本開示の実施形態によるMEMSデバイスの第1の斜視図である。
【0035】
【詳細な説明】
【0036】
図面、特に
図1を参照すると、MEMSデバイスは符号10にて示されている。その特徴より、MEMSデバイス10を、ニューロモルフィックMEMSデバイス10と呼ぶ場合がある。
【0037】
このMEMSデバイス10は、外部的刺激に晒される構造Sとともに使用されるタイプのものである。ここで「構造」という表現は、MEMSデバイス10を支持する構造Sとして用いている。しかし、以下に示すように、構造Sは可動であってもよく、可動部品を有していてもよく、あるいは、構造Sは同じように固定されながらも、変形可能であってもよく、変形可能な部品を有していてもよい。下記実施形態では、このような構造Sの例を示している。MEMSデバイス10は、構造Sと一体化したおよび/または構造S自体であってもよいし、構造Sに追加されたおよび/または構造Sを改造したものであってもよい。
【0038】
MEMSデバイス10は、慣性要素12と、1以上の共振要素14を有している。慣性要素12は、柔軟性のある結合によって構造Sと結合されている。したがって、構造Sに加えられた外部刺激に応答して、柔軟性のある(フレキシブルな)結合により、慣性要素12が構造Sに対して相対的に変形しおよび/または移動する。共振要素14は、構造Sおよび/または慣性要素12に接続される。共振要素14は、MEMSデバイス10の使用中に駆動される1以上の共振モードを有する。
【0039】
MEMSデバイス10において、共振要素14(1つもしくは複数:以下同じ)は、リザバーコンピュータ(reservoir computer)の物理ノードを、構造Sおよび/または慣性要素12を介する外部からの物理的刺激(たとえば、加速度、圧力など)に晒される共振要素14として定義する。リザバーコンピュータが十分な性能を発揮できるように、共振要素14は、比較的高い(105HZを超える)共振周波数を持つよう選択される。下記の例では、共振要素14は、結果として、比較的高い剛性および/または比較的低い(たとえば、10-10gまでの)質量と(たとえば、10-9m2までの)面積を有するので、加速度または圧力などの外部刺激に対して比較的鈍感となっている。たとえば、加速度aによって引き起こされる変位によって定められる外部刺激に対しての、懸架された(suspension)質量の感度は、感度=m a/kによって与えられる。ここで、mは共振要素の質量、kはサスペンションの剛性である。同様に、懸架された構造の圧力に対する感度は、感度=A P/kによって与えられる。ここで、Aは印加圧力に垂直な共振要素の面積である。結果として、比較的小さい質量、高い剛性、小さい面積によって、下記実施形態ではシリコンビームである共振要素14に対する外部刺激の作用は、慣性要素12に対する外部刺激の作用に比べて無視することができる。共振要素14は、外部刺激に対してより感受性の高い構造Sおよび/または慣性要素14と接続してもよい。これら比較的大きい構造の変位は、これらの間の静電気力を介して、小さな共振要素の変位に結合される。なお、静電気力は、これらを分離する距離に依存している。上記に示した共振要素の寸法のため、共振要素は、大きな慣性要素(すなわち慣性要素14および/または構造S)より10000~100000倍、外部刺激(たとえば加速度、音圧)に対する感度が鈍感である。したがって、「慣性」および「共振」という表現は、要素12と14との対比を示すために用いた用語である。
【0040】
1以上の変換ユニット(transduction unit)16を、共振要素14の構造Sに対する相対的な振動運動を計測するために設けてもよい。変換ユニット16は、下記に示すように様々な形態とすることができる(たとえば、ピエゾ抵抗式、容量式、光学式)。同様に、1以上の変換ユニット18を、慣性要素12の動きや変形(たとえば、構造Sに対する相対的な動きや変形)を計測するために設けてもよい。変換ユニット18は、下記に示すように様々な形態とすることができ、MEMSデバイス10のmJ/cm2露光・モードにおけるオプションとすることができる。たとえば、既知の物理的刺激を外部から構造Sに与え、変換ユニット18によって生成された信号を介して、これらを慣性要素12の動きや変形に関連づけることで、MEMSデバイス10の校正のために用いてもよい。たとえば、慣性要素12の構造Sに対する位置は、半分は慣性要素12に固定され、他の半分は構造Sに固定されて櫛状にかみ合った構造の静電容量を計測することで得ることができる。結果として得られる計測信号は、ニューロモルフィック・コンピューティング機能を持たない従来のMEMS加速度計によって生成される信号と類似したものとなる。他の例では、慣性要素12の構造Sに対する位置は、慣性要素12と構造Sの間の静電容量を計測することで得ることができる。結果として得られる計測信号は、ニューロモルフィック・コンピューティング機能を持たない従来のマイクロフォンによって生成される信号と類似したものとなる。
【0041】
共振要素14をドライブし、その振動運動を計測して外部刺激の機能として特徴付けるために、MEMSデバイス10の機械的要素は、電子制御ユニット(ECU)20と結合される。ECU20は、ポンプ21を生成するポンプ電圧信号を有している。ポンプ信号は、慣性要素12および/または共振要素14、および場合によって構造SなどのMEMSデバイス10の物理要素に結線される。所定の共振モードにおいて、共振要素14に振動運動をもたらすため、ポンプ21は、MEMSデバイス10に静電気力を与える。この振動運度は、静電力の強さの非線形関数である。上述のように、外部刺激に応答する慣性要素12および/または構造Sの変形および/または動きが、ポンプ21の強さを変化させるように、共振要素14が、慣性要素12および/または構造Sに機械的に結合されている。
【0042】
共振周波数近傍にて共振要素14をドライブすることに加えて、ポンプ21は、慣性要素12および/または構造Sに静電気力を与える。慣性要素12および/または構造Sは、低い周波数(104Hz未満)においてのみ感度があるので、比較的高い周波数(共振要素14の固有振動数に合致するよう105Hzを超える)において、慣性要素12および/または構造Sに働く静電気力が、無視できる影響しか与えないような(たとえば、事実上変位を生じないような)大きさとなるよう選択される。その結果、ポンプ21からの静電気力に応答して、共振要素14のみが振動し、外部刺激による慣性要素12の変位は、外部刺激に応じて、共振要素14および慣性要素12および/または構造Sの間の距離を変化させることによって、静電気力の振幅を変調させる。したがって、ECU21は、共振要素14および慣性要素12および/または構造Sの間の交流電圧差を印加することで、ポンプを生成する
【0043】
共振要素14および慣性要素12および/または構造Sとの間に交流電圧差を与えることによって、この静電気結合に起因する静電気力を介して、慣性要素14に振動運動がもたらされる。この振動運動の振幅は、ポンプの振幅および慣性要素12および/または構造Sおよび共振要素14の間のギャップによって統制される。慣性要素12の変形や変位があると、共振要素14および慣性要素12および/または構造Sの間のギャップが変化する。その結果、静電気ポンプの強度が変調され、当該強度の大きさをMEMSデバイス10のニューロモルフィック・モードに用いることができる。
【0044】
ECU20は、変換ユニット16によって計測されるような振動運動の特徴を生成するためのプロセッサ22を備えることができる。このプロセッサ22は、前記計測される特徴の数学的関数である出力信号を生成する。プロセッサ22は、ECU20の非一時的コンピュータ可読メモリと関連して動作する。このコンピュータ可読メモリは、プロセッサ22と通信可能に結合され、プロセッサ20によって実行されるコンピュータ可読プログラム指令を備えている。この実施形態において、プロセッサ22は、他のコンピュータシステムにおいて用いるため、あるいはユーザとのコミュニケーションのための出力信号を生成することのできるICコンポーネントである。シンプルな形で、プロセッサ22は、共振要素14と慣性要素12との間のAC電圧差および変換ニット16からの位置依存電圧の形式によってポンプ21を生成する電子回路である。
【0045】
プロセッサ22による処理は、出力信号を構築する時間の関数として、振動運動の複数の特徴を計測することを含む。出力信号の振幅は、計測された特徴の数学的関数である。各刺激がターゲット信号に対応するような複数の外部刺激が順次与えられた場合、この数学的関数は、トレーニング段階において、出力信号とターゲット信号との間の平均誤差が最小となるようにして算出することができる。
【0046】
計測された振動運動の特徴としては、伝達要素16を用いてN等分時間間隔(N equally spaced instants in time)にて計測された共振要素14の偏向(deflection)を含んでもよい。たとえば、計測される特徴は、その時点の共振要素の位置であってもよい。他の例として、計測される特徴は、共振要素14の変位を計測するよう構成されたピエゾ抵抗ひずみゲージによる電圧降下としてもよい。出力電圧を生成するための数学的関数は、重みのセットを用いて算出される、計測された特徴の線形結合である。この重みは、
w = y'XT(XXT+λI)-1
にて算出される。ここで、y'はターゲット・ベクトル、Xはマトリックス形式の計測された特徴、λは小さな正規化パラメータ、Iは単位行列である。外部刺激がMEMSデバイスに与えられると、計測された特徴のセットはECU20によって記録することができる。算出された重みは、下記に従って、ベクトルxに位置する1セットの計測された特徴のために、出力yを生成する際に用いることができる。
y = wTx
【0047】
MEMSデバイスの数学的非線形は、ニューロコンピューティングと類似の方法にて、コンピューティング・デバイスを機械領域に実装するために用いることができる。MEMSデバイス10の出力は、リアルもしくはバーチャルなネットワーク中の選択したノードの伝達ユニット16からの計測された特徴を線形結合して生成される。バーチャルネットワークの場合、単一のMEMSデバイス10が用いられ、ネットワークはポンプ信号をバイナリ・マスクによって振幅変調することで生成することができる。リアルネットワークの場合、多くのMEMSデバイス10を用いることができ、たとえば、共振要素を、小さなたわみバネを介して接続されたシリコンのマイクロビームとすることができる。これにより、ビームはそれぞれ振動し、たわみバネを介してエネルギーが交換される。
【0048】
バーチャルネットワークの場合、ポンプ21の振幅は、バイナリーマスクによって変調してもよい。バイナリーマスクは、一定の期間を有してよく、定期的に値が変化するものであってもよい。たとえば、バイナリーマスクは、持続時間Dを有してもよく、時間tによって異なる値Mを有するものとしてもよい(D=Mtとなる)。追加の例としては、マスクの値は、2つの値から選択することができる。これにより、毎回のステップにおいて、ポンプ21は2つのレベルのうちの一つによって与えられる振幅を有することができる。バーチャルネットワークの場合、ECU20は、毎回のピリオドrにてサンプルした計測された特徴値をそのメモリに記録することができる。ECU20は、N個の連続値をベクトルxに保持し、過去にNrより長い時間記録された値を破棄することができる。その後、時間rごとに、ECU20は線形結合を形成することができる。
y = wTX
ここで、wはウエイトのベクトルである。ECU20は、連続して値yをメモリに記録する。ECU20は、ポンプ電圧の振幅をセットすることができる。次に、ECU20は、ポンプ電圧の振幅を、現時点でのバイナリマスクと、過去Mタイムステップで記録された線形結合yの値との積に設定することができる。一例として、値MとNは等しくてもよい。
【0049】
一実施形態においては、ECU20は、出力信号が所望の形になるように、機械学習(ML)モジュール30または同様の学習システムと併せて使用してもよい。MLモジュール30は、ECU20の一部であってもよい。MLモジュール30は、所望の出力の性質または形式について、ユーザのフィードバックを得ることができ、かかるフィードバックは学習の不可欠な部分である。MLモジュール30は、外部刺激の印加に同期する計測特徴の少なくとも100のキャプチャを含むことができる。MLアルゴリズムによるトレーニングの結果として、学習モジュール30は、計測特徴の線形結合から最適なウエイトのセットを生成して出力することができる。MLアルゴリズムは、さまざまな教師ありまたは教師なしの機械学習アルゴリズムから選択することができる。MLアルゴリズムは、各刺激がターゲット信号に対応するような複数の外部刺激が連続して与えられる学習段階において、出力信号とターゲット信号との間の平均誤差を最小化することによって、数学的関数のパラメータが計算されるように、ECU20を学習するのに有益である。数学的関数は、重みのセットで計算された、計測された振動運動の特徴の線形結合あってもよい。
【0050】
図2に、一実施形態によるMEMS10の詳細を示す。
図1、2における同様の符号は、対応する要素を示している。
図2のMEMSデバイス10は、慣性要素12に静電的に結合された共振要素14を有している。
【0051】
図2においては、MEMSデバイス10は、共振要素14、シリコンビームを備えているが、他の材料を用いてもよい。共振要素14は、MEMSデバイス10を支持する構造Sである基板によって支持されている。たとえば、アンカー14Aは、共振要素14を支持してる。共振要素14は、アンカー14によって構造S上に保持(suspend)されている。アンカー14Aは、たとえば、ビームをその端部において、もしくはその近傍においてクランプすることで、共振要素14が振動可能なように構成されている。
図2に示すように、共振要素14は、単一のビームを有するものとしてもよい。共振要素14は、たとえば、機械的ネットワークとするため互いに結合されたビームのように、複数のビームを有するものとしてもよい。
【0052】
変換ユニット16もしくは類似のセンサは、共振要素14の振動を計測するために用いられるゲージの形態とすることができる。たとえば、ゲージとして、ビームを横断するピエゾ抵抗ゲージを用いてもよい。他のセンサを、共振要素14の振動を計測するために用いてもよい。MEMSデバイスは、質量12Aの形態による慣性要素12を有している。1以上のフレキシブル部材12Bを含むフレキシブル結合によって基板Sに接続された質量12Aは、与えられた外部刺激に応じて、慣性要素12が基板Sに対して変形もしくは移動することを可能にする。たとえば、質量12Aは、慣性プルーフ質量(inertial proof mass)であり、フレキシブル部材12Bは、様々な可能性の中から、コンプライアント・スプリングおよび/または屈曲スプリングとすることができる。慣性プルーフ質量12Aは、コンプライアント・スプリング12Bによって、基板Sの上に支持される。
図2に示すように、ビーム14と慣性プルーフ質量12Aの間にギャップが設けられている。一実施形態では、コンプライアント・スプリング12Bは、外部刺激に対して慣性プルーフ質量12Aを平面内の一軸変位、すなわち、ビーム14に向かうあるいは離れる1の並進自由度に規制する。プルーフ質量12Aのこの運動は、共振ビーム14に働く力を変調する。これは、ビーム14とプルーフ質量12Aの間の結合構造を構成する。他の可能性として、他の側面に沿ったビーム14およびプルーフ質量12Aの双方向運動を伴う他の実施形態が考えられる。他の例として、慣性要素12は、フレームの周りの質量部分を支持するカンチレバー・ビームを含む単一のモノリシック要素とすることができる。
【0053】
様々なタイプの伝達ユニット18や類似のセンサを、慣性要素12の変位を計測するために用いることができる。示された実施形態では、慣性要素2の変位は、かみ合った電極18Aの間の静電容量の変化を計測することで評価することができる。かみ合った電極18Aは、プルーフ質量12Aと同時に動くように、プルーフ質量12Aに取り付けられた櫛を含んでもよい。櫛は基板Sに接続され、したがってプルーフ質量12Aに接続された櫛に対して固定されたままである。変換ユニット18は、ゲージ16によって計測された振動運動の計測特徴を検証するために用いられるが、これはオプションとしてもよい。
【0054】
MEMSデバイス10の共振要素14は、ポンプ21(
図1)を介して、その固有振動数の近傍の周波数にて静電気的にドライブされる。静電駆動は、共振要素14に信号(たとえば、交流電圧)を印加することによって実現することができる。並行して、信号(たとえば、交流電圧)が慣性プルーフ質量12Aに印加される。この実施形態において、コンプリアント・スプリング12Aは、慣性プルーフ質量12Aを、外部刺激への応答として、平面内の一軸方向の動きに規制する。ビーム14は、基板Sの平面に平行に移動するように構成されている。プルーフ質量12Aの動きは、共振ビーム14に働く静電気力を変調し、これにより、ポンプ21の強度が変調される。
【0055】
この実施形態によれば、共振要素14を定める単一のシリコン・ビームとともに、ポンプ21からの正弦波ポンプ電圧信号の振幅を、繰り返しマスクパターンによって変調することにより、バーチャル・ネットワークが生成される。ポンプ21の強度は、現在より前の瞬間のビーム14の振動振幅の数学的関数であり、すなわち、遅延フィードバックである。
【0056】
振動運動の計測特徴は、たとえばゲージ16を用いてN等間隔時間にて計測されたビーム14の偏向を含んでいる。上述の数学的関数は、出力信号を生成するためにECU20によって用いられる。
【0057】
図2の実施形態において、ポンプ21は、共振要素14と慣性要素12の間の交流電場である。電場は、共振要素14と慣性要素12との間に交流電圧差を与えるプロセッサ22によって生成される。ポンプ21は、共振モードにおける共振要素14の振動運度を含む。ECU20によってもたらされる振動運動は、ポンプ21の強度の非線形関数である。振動運動を通じて、共振要素14と慣性要素12の間の結合構造は、外部刺激に応答する慣性要素12の変形および/または動きの結果として、ポンプ21の強度の変化をもたらす。ECU20は、振動運動の複数の計測特徴を算出し、その振幅が振動運動の計測特徴の数学的関数となっている出力信号を生成する。この数学的関数は、共振要素14の振動運動の関数にすぎない。振動運度はポンプ21の関数であり、ポンプ自体は外部刺激とポンプ電圧の関数である。
【0058】
図2に示す上記構造は、MEMS技術を使用して(典型的にはシリコンを)微細加工した電気機械的リカレント・ニューラル・ネットワーク(RNN)として用いることができる。慣性要素12は、慣性力を慣性要素14すなわちリザーバコンピュータ(RC)として実装されたMEMS・RNNに、インターフェイスするための仲介物として機能する。慣性要素12は、共振要素14に近づけて配置され、静電気力ポンプ21がRCの機械モードをドライブするように、正弦波ポンプ電圧信号によって分極される。慣性要素12の変位を受けて、静電気ドライブ力は、MEMS・RCとして働く共振要素14と慣性要素12Aとの間の距離を変化させることで変調される。出力信号の機械的非線形性により、共振MEMSデバイス10は、機械的ドメインにおいて開発された人工ニューロンとして用いることができる。RCの出力は、リアルまたはバーチャルなネットワーク中の選択されたノードのピエゾ抵抗または容量性変位信号の線形結合によって得ることができる。
【0059】
図3は、MEMSデバイス10の顕微鏡写真を示している。MEMSデバイス10は、50μmのシリコン層、4μmの酸化層を有するシリコン・オン・インシュレータ(SOI)ウエハの基板とともに使用することができる。微細加工プロセスは、一例として、以下のとおりである。1)Si層のフォトリソグラフィー-AZ1512フォトレジンのスピン-積算照度60mJ/cm
2露光-現像;2)高度なシリコンエッチング;3)金属層のフォトリソグラフィー-NR4 8000Pのスピン-積算照度500mJ/cm
2露光-現像;4)メタライゼーション;5)リフトオフ;6)HF蒸気開放。これは、典型的な製造方法である。
【0060】
図3に示されたMEMESデバイス10は、2つの離れたビームの形式による2以上の共振要素14を有している。ここに示されたいずれかの実施形態において、複数の共振要素14を用いることは、複数結合の共振要素14によってもたらされる豊富なダイナミックスによって、大きな数の計測振動特性を許容しおよび/またはニューロモルフィック・コンピューティングのための測定振動特性の関連性を高めることで、MEMSデバイス10のニューロモルフィック・コンピューティングの正確性に寄与する。たとえば、複数共振要素14の使用は、MEMSデバイス10を異なる共振周波数(たとえば、共振要素14ごとに1つの独立した共振周波数)にて動作することを許容する、および/または異なる静電結合ギャップにより、複数の共振要素14からの異なる機械的応答というシナリオがもたらされる。複数の共振要素のそれぞれは、ポンプ21の異なる振幅バリエーションに応答するものである。各共振要素14は、同じECU20または異なるECU20の固有のプロセッサに結合されてもよい。異なる振幅バリエーションは、プロセッサ22を異なるタスクの異なる動作をもたらす可能性がある。たとえば、2つの要素14と2つのプロセッサ22において、1つがタスクAについて適切に動作しており、タスクBについてうまく動作しない可能性がある。両要素14の出力を結合すると、タスクA、タスクBのいずれにもうまく動作する可能性がある。
【0061】
図4、5を参照すると、MEMSデバイス10の他の例が示されており、慣性要素12に静電的に結合されず、共振要素14が構造Sに静電気的に結合されている。ニューロモルフィックMEMS慣性装置10の構成または機能と同じように、
図4、5のMEMSデバイス10は、たとえば、MEMSマイクとして用いることができる。
【0062】
図4、5のMEMSデバイス10は、たとえば正多角形プレートなどの膜12Aの形態による慣性要素12が、プレート12Aの周りに周囲的に配置され一端が固定されたフレキシブル部材12Bを介して接続された電気導電構造Sを備えている。この構成は、プレート12Aに力を加える音圧に応じて、プレート12Aをその平面に垂直な方向に移動または変形させることを可能にする。たとえば、フレキシブル部材12Bは、折り曲げられたコンプリアント・シリコンビームによるサスペンションユニットとすることができる。この実施形態では、プレート12Aが変形し、そのフレキシブルな接続は、構造Sに対する弾性変形によりなされる。円筒孔S1は、プレート12Aの変位時の背圧を緩和し、構造Sへのプレート12Aの静電引き込み(崩壊)を防止するために、(たとえばエッチングによって)構造Sの中に設けられる。
【0063】
1以上の共振要素14が、プレート12Aの中に埋め込まれている。一実施形態によると、
図4、5の共振要素14は、たとえば、サスペンド・プレート12にパターン形成され、両端にてこのプレートに固定された1以上のシリコンビームとすることができる。振動を計測するため変換ユニット16として、ピエゾ抵抗を共振要素14にパターン形成してもよい。一例として、ピエゾ抵抗は、大きな真性またはn型領域に小さなp型シリコンを埋め込んだものとしてもよい。
【0064】
図示の実施形態では、検出プレート12Aのフレキシブル接続は、外部音圧刺激に対して、面外の一軸方向への移動と同じ制約を加える。ビーム14は、検出プレート12Aの平面に垂直な方向に移動するよう構成されている。検出プレート12Aの動きは、共振ビーム14とドライブ電極S2の間のギャップを変化させることで、共振ビーム14上に働く電磁気力の強さを変調する。
【0065】
共振要素14の高周波振動運動は、静電気ポンプ21(
図1)によってドライブされる。ポンプ21の正弦波電気信号を介した共振要素14に関する構造の分極は、構造Sの固定されたドライブ電極S2と各共振要素14との間の引力を生成する。ポンプ21の強度は、プレート12Aの誘導変位を介して、外部音圧刺激に結合される。これにより、構造Sの共振要素14とドライブ電極S2の間のギャップが変化する。
図1に示すように、共振要素14は、その固有振動数近傍の周波数にて、静電気的に駆動される。
【0066】
プロセッサ22(たとえばマイクロコントローラ)は、共振要素14の振動運動の風数の特徴を計測し、プロセッサ22は出力信号を生成する。出力信号の振幅は、たとえば、特定のタスクを達成するために算出されたウエイトを用いた線形結合のような、計測された特徴の数学的関数である。一実施形態では、タスクは、マイクロフォンMEMSデバイス10によって検出された音圧とともに、それぞれのレベルが人のしゃべった特定の言葉に対応する複数のレベル(たとえば10レベル)間で電圧の変化する出力信号を生成する。これは、多くの例のうちの一例である。
【0067】
図4、5のMEMSデバイス10は、(移動部品が設けられた)10μmのシリコンデバイス層、(ギャップ距離の設けられた)5μmの酸化層によるシリコン・オン・インシュレータ(SOI)ウエハによる構造Sを備えることができる。たとえば、微細加工プロセスは、一例として、以下のとおりである。1)基板のフォトリソグラフィーおよび高度なシリコンエッチング;2)Siデバイス層のフォトリソグラフィー-ピエゾ抵抗パターンニングおよびイオン注入-機械的構造の定義およびこれに続く高度なシリコンエッチング(ASE);3)金属層のフォトリソグラフィー-電気トレースおよびワイヤボンディングパッドのパターニング-金属蒸着およびリフトオフ、および4)サスペンド機械構造のHF蒸気放出。
【0068】
図1~
図5の実施形態において、電子制御ユニット20は、MEMSデバイス10の機械的要素に外部刺激を与えて所与のタスクを実行するシステムとすることができる。たとえば、電子制御ユニット20は、外部刺激に晒されるMEMSデバイス10のためのニューロモルフィック出力を生成するためのシステムであってもよい。このシステムは、プロセシングユニット22と;プロセシングユニット22によって実行可能なコンピュータ可読プログラム指令を有し、前記プロセシングユニットに通信可能に接続された非一時的コンピュータ可読メモリとを備え、前記コンピュータ可読プログラム指令は、前記MEMSデバイス10の共振要素14の、静電気力のポンプ21の強度の非線形関数である振動運動を引き起こすために、静電気力のポンプ21を印加し、外部刺激に応答する慣性要素12の変形および/または動きがポンプ21の強度を変化させるように、前記少共振要素14を、前記MEMSデバイス10の慣性要素12および/または構造Sに結合し、前記共振要素14の振動運動を計測し、計測された振動運動の数学的関数である出力信号を生成して出力するためのものである。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】