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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-11
(54)【発明の名称】黒色物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20220404BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20220404BHJP
   G04C 10/02 20060101ALI20220404BHJP
   G04G 19/00 20060101ALI20220404BHJP
   G04B 19/06 20060101ALI20220404BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20220404BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B1/113
G04C10/02 A
G04G19/00 B
G04B19/06 C
C03C17/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549242
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2020054590
(87)【国際公開番号】W WO2020169786
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】19158679.1
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】バイラ,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ファーヴル,エリザ
【テーマコード(参考)】
2F002
2F101
2H249
2K009
4G059
【Fターム(参考)】
2F002AC01
2F101DB06
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA31
2H249AA32
2H249AA37
2H249AA42
2H249AA44
2H249AA46
2H249AA60
2H249AA64
2H249AA65
2K009AA04
2K009BB02
2K009CC02
2K009DD03
4G059AA01
4G059AA11
4G059AC04
4G059AC09
4G059DA09
4G059DB02
4G059EA01
4G059EA02
4G059EB03
4G059GA01
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA07
4G059GA14
(57)【要約】
光起電力デバイスではない黒色物品(1)であって、黒色物品(1)は、-実質的に透過性の基体(3)と、-前記基体の第1の面(3a)上に設けられ、前記基体(3)から離して向けられるテクスチャ面(5a)を有する実質的に透過性のテクスチャ層(5)と、-シリコン-ゲルマニウム合金を含む吸光層(7)とを備え、前記吸光層(7)は、前記テクスチャ層(5)の前記テクスチャ面(5a)上に配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光起電力デバイスではない黒色物品(1)であって、前記黒色物品(1)は、
-実質的に透過性の基体(3)と、
-前記基体の第1の面(3a)上に設けられ、前記基体(3)から離れて向けられるテクスチャ面(5a)を有する実質的に透過性のテクスチャ層(5)と、
-シリコン-ゲルマニウム合金を含む吸光層(7)と
を備え、前記吸光層(7)は、前記テクスチャ層(5)の前記テクスチャ面(5a)上に配置される、黒色物品(1)。
【請求項2】
前記シリコン-ゲルマニウム合金は、少なくとも2%のゲルマニウム、好ましくは、少なくとも10%のゲルマニウム、更に好ましくは、少なくとも20%のゲルマニウム、更に好ましくは、20%から40%のゲルマニウム、更に好ましくは、実質的に30%のゲルマニウムを含む、請求項1に記載の黒色物品(1)。
【請求項3】
前記基体(3)と前記テクスチャ層(5)との間に介挿される反射防止層(11)を更に備え、前記反射防止層(11)は、好ましくは、前記基体(3)の屈折率を超える屈折率を呈する、請求項1又は2に記載の黒色物品(1)。
【請求項4】
前記基体(3)の第2の面(3b)上に設けられる反射防止コーティング(9)を更に備え、前記第2の面(3b)は、前記第1の面(3a)の反対側であり、前記反射防止コーティング(11)は、好ましくは、前記基体(3)の屈折率よりも低い屈折率を呈する、請求項1から3のいずれか一項に記載の黒色物品(1)。
【請求項5】
前記テクスチャ層(5)は、前記吸光層(7)の屈折率よりも低い屈折率を呈する、請求項1から4のいずれか一項に記載の黒色物品(1)。
【請求項6】
前記吸光層(7)は、400から700nmの間、好ましくは、550から675nmの間の厚さを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の黒色物品(1)。
【請求項7】
前記テクスチャ層(5)は、0.5から5μmの間、好ましくは、2.5から3μmの間の厚さを有し、前記テクスチャ面(5a)上に少なくとも10nmの表面rms粗さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の黒色物品(1)。
【請求項8】
前記テクスチャ層(5)は、酸化亜鉛及び/又は酸化スズを含む、請求項7に記載の黒色物品(1)。
【請求項9】
前記物品(1)は、
-計時器の文字板、
-計時器の針、歯車、ばね又は受け、
-時計ケース、時計りゅうず、時計ベゼル、家庭用家具、室内装飾物、又は自動車装飾物のための装飾要素、
-ネックレス、えり飾り、指輪、ブレスレット、イヤリング、ペンダント又はブローチのための装飾要素等の装身具要素、
-光捕捉要素、光学バッフル、又はビーム停止面等の光学デバイスのための吸光要素、
-電話、タブレット又は他の電子デバイスのための装飾カバー・ガラス
の1つである、請求項1から8のいずれか一項に記載の黒色物品(1)。
【請求項10】
前記吸光層(7)は、実質的に非ドープ層である、請求項1から9のいずれか一項に記載の黒色物品(1)。
【請求項11】
前記吸光層(7)は、実質的に同質の層である、請求項1から10のいずれか一項に記載の黒色物品(1)。
【請求項12】
光起電力デバイスではない黒色物品(1)の製造方法であって、前記方法は、
-実質的に透過性の基体(3)を準備するステップと、
-前記基体(3)の第1の面(3a)上に実質的に透過性のテクスチャ層(5)を形成するステップであって、前記テクスチャ層は、前記基体(3)から離れて向けられるテクスチャ面(5a)を有する、ステップと、
-前記テクスチャ層(5)の前記テクスチャ面(5a)上にシリコン-ゲルマニウム合金を含む吸光層(7)を形成するステップと
を含む、方法。
【請求項13】
前記実質的に透過性のテクスチャ層(5)は、前記テクスチャ層(5)の堆積中に表面テクスチャを自動的に展開する材料から形成される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記実質的に透過性のテクスチャ層(5)は、化学蒸着によって堆積される酸化亜鉛又は酸化スズを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記実質的に透過性のテクスチャ層(5)は、
-機械的テクスチャ加工、
-化学的テクスチャ加工、
-イオン・エッチング、
-レーザー・アブレーション
の1つ又は複数によって施されたテクスチャを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記実質的に透過性の基体(3)は、前記基体(3)の第2の面(3b)上に設けた反射防止層(9)を有する、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記テクスチャ層(5)を形成する前に、前記基体(3)の前記第1の層(3a)上に反射防止層(11)を形成するステップを含む、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記吸光層(7)は、実質的に非ドープ層及び/又は実質的に同質の層である、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器構成要素(限定はしないが、特に時計文字板)、装身具要素、光学機器のための迷光吸収要素等の黒色物品の技術分野に関する。より詳細には、本発明は、取扱いが容易で、強固で、清掃可能であるそのような物品に関する。
【背景技術】
【0002】
かなり濃い黒色物品は、多くの技術部門、特に時計製造及び光学機器の部門で有用である。前者の場合、濃く、光沢のない黒色の時計文字板は、明色の針等との対比をもたらすことによって時間表示の可読性を改善し、反射を抑制するため、大いに望ましい。この原理は、Panerai Radiomirの潜水時計に関して、少なくとも1930年代に遡って適用されており、この潜水時計は、可読性を最大化するように、光沢のない黒い文字板と、発光マーキングとを組み合わせたものである。
【0003】
より最近では、文献米国特許出願第2018/157214号(特許文献1)は、時計文字板のための黒色コーティングの一部としてカーボン・ナノチューブを使用することを開示している。カーボン・ナノチューブは、特に光がカーボン・ナノチューブの軸に平行に進行している際、かなり良好に光を吸収するため、そのようなコーティングは、ニス内に分散させるか又は基体上に直接コーティングされる従来の非晶質炭素ベースのコーティング(ランプ・ブラック又はカーボン・ブラックとしても公知)よりも吸光性があり、光沢がない。
【0004】
しかし、そのようなカーボン・ナノチューブベースのコーティングは、非常に脆く、コーティングに損傷を与えることなく触れる又は清掃することができない。したがって、このことは、製造及び取扱いの際に著しい困難を引き起す。というのは、文字板のコーティングしていない側しか取り扱うことができないためである。ナノチューブベースのコーティングとの不慮の接触があれば、文字板を使用不可能にするほどまでにコーティングを損傷する危険性があり、廃棄しなければならない。
【0005】
光検出器、分光計、モノクロメータ、顕微鏡、カメラ、宇宙機器のためのバッフル等の光学機器の場合、そのようなナノチューブ・コーティングは、光学測定に悪影響を及ぼす可能性がある迷光を除去するために内側に施すことがあるため、同じ問題が等しく当てはまる。
【0006】
しかし、米国特許第4997538号(特許文献2)に記載されている陰極スパッタリング・コーティング、又はアルミニウム基体の黒色陽極酸化処理等、物理的により強固である既存の代替解決策は、カーボン・ナノチューブベースのコーティングより光学的に劣り、したがって、濃い黒色が望ましい場合、適さない代替物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2018/157214号
【特許文献2】米国特許第4997538号
【特許文献3】米国特許第9726786号
【特許文献4】国際公開第2008112047号
【特許文献5】独国特許出願第102015114877号
【特許文献6】米国特許第9817155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の一目的は、従来技術の上述の欠点を少なくとも部分的に克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
より詳細には、本発明は、請求項1で定義される黒色物品に関する。光起電力デバイスではない(即ち、太陽電池ではない)この物品は、
-例えば、ガラス、サファイア、アルミナ、ポリマー等の実質的に透過性の基体と、
-前記基体の第1の面上に直接又は間接的に設けられ、前記基体から離して向けられるテクスチャ面を有する実質的に透過性のテクスチャ層と、
-前記テクスチャ層の前記テクスチャ面上に直接又は間接的に位置する、シリコン-ゲルマニウム合金を含む吸光層と
を備え、この吸光層は、典型的には、光起電力デバイスの部品ではないために非ドープ吸光層である。更に、吸光層は、典型的には、同質で単一の層である。
【0010】
シリコン-ゲルマニウム合金は、水素を含むか含まないかに関わらず、可視範囲内、特に、より長い赤色波長範囲内の光を強力に吸収し、基体側から見た際、物品に濃い黒色をもたらす。黒の色合いは、見る側とは反対の側に位置する層によってもたらされるため、取扱いによって生じたその層の自由面へのわずかな損傷は見えず、基体(又は基体上に設けられる反射防止層及び/若しくは耐引っ掻き層等のあらゆる更なる層)の表面は強固で、損傷に耐性があり、従来の機械的及び/又は化学的手段により容易に清掃される。テクスチャ層のテクスチャ面は、入射光を拡散することによってシリコン-ゲルマニウム層と共に相乗効果的に働き、これにより、より多くの入射光がSi-Ge層によって吸収され、かなり濃い黒色を物品にもたらすことを保証する。
【0011】
有利には、前記シリコン-ゲルマニウム合金は、少なくとも2%のゲルマニウム、好ましくは、少なくとも10%のゲルマニウム、更に好ましくは、少なくとも20%のゲルマニウム、更に好ましくは、実質的に30%のゲルマニウムを含んでもよい。
【0012】
有利には、物品は、前記基体と前記テクスチャ層との間に介挿した反射防止層を更に備えてもよい。この反射防止層は、鏡面反射を低減するのに役立ち、したがって、物品の黒さを向上させる。一例として、酸化窒化シリコンをこの反射防止層に使用してもよく、反射防止層の厚さ部を通じて増大する段階的な屈折率を有する多層とすることもできる。
【0013】
有利には、前記反射防止層は、前記基体の屈折率を超える屈折率を呈してもよく、これにより、鏡面反射の抑制を向上させる。
【0014】
有利には、反射防止コーティングは、前記基体の第2の面上に設けてもよく、前記第2の面は、前記第1の面の反対側であり、したがって、見ることが意図される方向に面する。このことにより、鏡面反射を更に低減する。
【0015】
有利には、前記反射防止コーティングは、前記基体の屈折率よりも低い屈折率を呈してもよく、鏡面反射をより一層低減させる。
【0016】
有利には、前記テクスチャ層は、前記吸光層の屈折率よりも低い屈折率を呈してもよく、同様に、鏡面反射を低減させる。
【0017】
有利には、前記シリコン-ゲルマニウム合金層は、400から700nmの間、好ましくは、550から675nmの間の厚さを有してもよく、及び/又は前記テクスチャ層は、0.5から5μmの間、好ましくは、2.5から3μmの間の厚さを有し、前記テクスチャ面上に少なくとも10nm rms(二乗平均)の表面rms粗さを有する。
【0018】
有利には、前記テクスチャ層は、酸化亜鉛及び/又は酸化スズを含んでもよい。そのようなテクスチャ層を堆積する間、上述のテクスチャは、あらゆる更なるステップを必要とせずに、堆積中に自動的に形成される。
【0019】
当該黒色物品は、例えば、計時器のための(非光起電力性)文字板、針、歯車、ばね又は受け等の別の計時器の部品、時計ケース、りゅうず、ベゼル等の装飾要素、ネックレス、えり飾り、指輪、ブレスレット、イヤリング、ペンダント又はブローチ等の上に設けられる装身具要素、又はセンサ、例えば光捕捉要素、光学バッフル若しくはビーム停止面等の光学デバイスのための吸光要素とすることができる。他の適用例は、電話、タブレット若しくは電子デバイス全般のための美観的なカバー・ガラス、又は家庭用家具、室内装飾物、自動車装飾物等のための他の装飾要素を含む。
【0020】
本発明は、そのような黒色物品の製造方法にも関する。本方法は、
-実質的に透過性の基体を準備するステップと、
-前記基体の第1の面上に実質的に透過性のテクスチャ層を直接又は間接的に形成するステップであって、前記テクスチャ層は、前記基体から離して向けられるテクスチャ面を有する、ステップと、
-前記テクスチャ層の前記テクスチャ面上にシリコン-ゲルマニウム合金を含む層を直接又は間接的に形成するステップと
を含む。
【0021】
このシリコン-ゲルマニウム合金を含む層により、上記した、既に開示した全ての付随する利点を有する黒色物品がもたらされる。この層は、完全に又は主にSi-Ge合金としてもよく、水素化する、したがってSi-Ge:H層としてもよい。
【0022】
有利には、前記実質的に透過性のテクスチャ層は、酸化亜鉛及び/又は酸化スズを化学蒸着する間等、テクスチャ層の堆積の間、表面テクスチャを自動的に形成する材料から形成してもよい。したがって、テクスチャは堆積ステップの間に形成されるため、テクスチャを生成する余分なステップを必要としない。
【0023】
代替的に、上述のテクスチャは、機械的テクスチャ加工及び/又は(化学エッチング等による)化学的テクスチャ加工、及び/又はイオン・エッチング、及び/又はレーザー・アブレーションによって施すことができる。このテクスチャは、テクスチャを生成するために使用する方法に応じて、確率的であっても、非確率的であり得る。
【0024】
有利には、前記実質的に透過性の基体は、反射防止層を備えてもよく、この反射防止層は、例えば既製のガラス又はポリマー基体を使用するケースでは、基体の第2の面上に既に設けられている。
【0025】
有利には、方法は、前記テクスチャ層を形成する前に、前記基体の前記第1の層上に反射防止層を形成するステップを更に含んでもよい。
【0026】
有利には、吸光層は、非ドープ層及び/又は単一同質層として堆積される。
【0027】
本発明の更なる詳細は、以下の図面に関連する下記の説明を読めばより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による最も単純な形態の物品の概略断面図である。
図2】本発明による物品の更なる変形形態の概略断面図である。
図3a】本発明による様々な異なる物品サンプルの全反射のグラフである。
図3b】本発明による様々な異なる物品サンプルの拡散反射のグラフである。
図4】本発明による物品のまた更なる変形形態の概略断面図である。
図5】本発明による物品の3つの有利な使用法の概略図である。
図6】本発明による物品の製造方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明による最も単純な形態の黒色物品1の概略断面図を示す。上述のように、本物品1は、時計文字板、宝飾要素、光学機器のための吸光要素、又はかなり吸光性のある、あらゆる他の物品とすることができる。物品1は、光起電力デバイス、即ち太陽電池ではない。言い換えれば、物品1は、実質的に光起電力的に不活性であり、光に露出された際、電流を生成又は送出するように適合されていない。物品1は、所望の厚さの実質的に透過性の基体3を備え、基体3は、ガラス、ポリマー、サファイア若しくはアルミナ等の透過性セラミック、ガラスセラミック、又は任意の他の好都合な材料から作製してもよい。本文において、「実質的に透過性」とは、少なくとも95%の可視光(350~750nm波長)透過率を呈するものであり、記載する全ての屈折率は、可視光波長に関するものであると理解されたい。基体3及び得られる物品は平坦なものとして示されるが、湾曲させても、あらゆる所望の形状に形成し得る。
【0030】
見ることが意図される方向(見る者の視点を表す目の記号によって概略的に示される)から離れて面する基体3の第1の面3a上に、実質的に透過性のテクスチャ層5が設けられる。このテクスチャ層5は、図1に示すように前記第1の面3a上に直接配置してもよい、又は以下の図2の状況でより詳細に説明するように、1つ若しくは複数の補足層を基体3とテクスチャ層5との間に介挿して前記第1の面3a上に間接的に配置してもよい。
【0031】
テクスチャ層5は、例えば、化学蒸着(CVD)等により1の面3a上に形成される酸化亜鉛層としてもよく、不規則ジグザグ線により概略的に表されるように、基体3aから離れて面するテクスチャ層5の表面5aが複数のピラミッド形状を呈するようにする。この層に特に適切な別の材料は、CVD蒸着酸化スズであり、透過性で、鋭角に画定されるピラミッド形状の酸化亜鉛よりも丸い面形態を呈する。同様の特性を呈する他の物質も可能である。
【0032】
透過性ポリマー、アルミナ等、テクスチャ面を本質的に形成しない異なる材料を堆積した後、個別ステップで前記表面5aにテクスチャ加工することも可能である。このテクスチャ加工は、機械的に(例えば機械加工、研削、研摩ブラシ、サンド・ブラスト、ビード・ブラスト等よって)、イオン・エッチング、レーザー・エッチング若しくはレーザー・アブレーションにより、又は化学エッチングによって実行することができる。
【0033】
代替的に、基体の表面3a自体にテクスチャ加工してもよい。このテクスチャは、テクスチャ層5の表面5aが、テクスチャ面を本質的に形成しない材料から作製される場合でさえ、テクスチャ層5の表面5aに転写される。
【0034】
どのようにテクスチャを形成するかは重要ではないが、理想的には、テクスチャは、10nmの最小rms値を有するべきであり、確率的であっても、非確率的であってもよい。特に、15nmから500nm rmsの値が最も有用である。RMS粗さは、ASME B46.1規格に記載されているため、当業者に周知である。
【0035】
テクスチャ層5の形成の仕方とは無関係に、テクスチャ層5の厚さは、理想的には0.5から5μmの間の厚さ、好ましくは、2.5から3.0μmの間の厚さである。
【0036】
テクスチャ層5の前記表面5a上に、シリコン-ゲルマニウム合金の吸光層7が形成され、吸光層7は、少なくとも2%のゲルマニウム、好ましくは、少なくとも10%又は20%のゲルマニウム、更に好ましくは、20%から40%のゲルマニウム、更に好ましくは、実質的に30%のゲルマニウムを含み、この残りは、層を水素化したケースでは、実質的に全てシリコン及び水素である(SiGe:H)。この吸光層は、典型的には、400から700nmの間、より詳細には550から675nmの間の厚さを有し、典型的には、テクスチャ層5上に直接堆積されるが、介在する層も可能である。
【0037】
シリコン-ゲルマニウム合金は、可視光波長を特に強力に吸収し、約3~4の高い屈折率も有し、典型的には、テクスチャ層5の屈折率をかなり超過する。酸化亜鉛の場合、テクスチャ層5の屈折率は約2である。したがって、テクスチャ面5aでテクスチャ層5を離れる可視光は、多重反射によって吸光層7内で再循環し、したがって、最大吸光がもたらされる。
【0038】
したがって、屈折率が基体3から(又は存在する場合、反射防止コーティング9から)Si-Ge層7まで増大するように様々な層を配置することが可能であり、これにより、鏡面反射を最小化する。
【0039】
この構造、及び本明細書で開示する全ての構造において、吸光層7は、半導体材料から形成され、存在する唯一の層であることを留意されたい。物品1は光起電力デバイスではない、即ち、光起電力的に不活性であるので、吸光層7は、典型的には、非ドープ層である(即ち、真性型である)が、P型又はN型ドーパントが存在し得ることを除外しない。更に、物品には、様々なドーピング等によって形成されるP-N、N-P、PIN、NIP又は他の種類の光起電力的に活性な接合部が一切ない。本質的に、層7のSi-Geが半導体であることは偶然の一致である。というのは、層7は、その吸光特性のために選択されているためである。層7が、典型的には単一の実質的に同質の層であり、積層体でも、他のより複雑な構成でもないことにも留意されたい。というのは、このことにより、層7の堆積を単一プロセス・ステップで迅速、効率的に実行できることを保証し、かなり経済的な製造をもたらすためである。
【0040】
図2は、黒さを改善する2つの更なる方策が実施されている黒色物品1の更なる変形形態を示す。しかし、1つ又は他の方策を個々に適用することが完全に可能である。
【0041】
層3、5及び7は、上記のとおりであり、再度説明する必要はない。
【0042】
色を更に濃くする第1の方策は、反射防止コーティング9の存在であり、反射防止コーティング9は、見ることが意図される方向の方に面する、即ち、Si-Ge合金層7から離れて面する基体3の表面上に施される1つ又は複数の層を備える。この表面は、「第2の面」3bとして規定される。
【0043】
この反射防止コーティング9は、耐引っ掻き性及び耐摩耗性も有してもよく、そのようなコーティングは、それ自体が特に眼鏡の分野で周知であり、鏡面反射、したがって、光沢を低減する。この例は、例えば米国特許第9726786号(特許文献3)、国際公開第2008112047号(特許文献4)、独国特許出願第102015114877号(特許文献5)、米国特許第9817155号(特許文献6)及び無数の他の文献で開示されている。代替的に、反射防止コーティング9が耐引っ掻き性等に乏しい場合、更なる耐引っ掻き性コーティング(図示せず)を反射防止コーティング9の上に設けでもよい。
【0044】
本発明の文脈において、反射防止コーティングは、有利には、基体3の屈折率よりも低い屈折率を有し、後方反射を低減する、したがって、色を濃くするのを助ける。
【0045】
色を濃くする第2の方策は、更なる反射防止層11を基体3とテクスチャ層5との間に介挿することである。この層は、典型的には、基体3の屈折率とテクスチャ層5の屈折率との間にある値の屈折率を有し、例えば、10から200nmの間、より好ましくは70から90nmの間の厚さを有する酸化窒化シリコン層としてもよい。この酸化窒化シリコン層は、Si-Ge層7に向かって段階的に増大する屈折率を呈する多層としてもよい。
【0046】
図3a及び図3bは、本発明の効果を表す一対のグラフを示し、5つの様々なサンプルによる、入射光波長を関数とする全反射及び拡散反射に対する反射光のパーセンテージを示す。5つの異なるサンプルに関する450~740nm波長範囲の平均的な結果は、以下のとおりであり、図3a及び図3bの各グラフの凡例の左から右、上から下に列挙する。
【0047】
【表1】
【0048】
各ケースにおいて、反射防止コーティング9の厚さは、約70~90nmであり、ガラス基体3の厚さは、約0.5mmであり、反射防止層11の厚さは、約80nmであり、ZnO層5の厚さは、約2.5μmであり、SiGe吸光層7の厚さは、約625nmである。
【0049】
はっきりとわかるように、この結果は、良好に1%未満の反射で、拡散反射の場合と非常に類似しており、反射防止コーティング9及び反射防止層11の両方は、組み合わせて使用した場合、全反射をわずか1%超まで下げるのに寄与する(サンプルe)。このことは、かなり濃い黒色を表す。
【0050】
更に、4つのサンプルの色の測定値を取った。色のパラメータは、知覚的に均等で人間の目と相関するL系で測定した。このモデルでは、Lは、輝度(L=0である黒からL=100である白まで)を表し、aは、緑-赤の規模(a=-128である緑からa=+127である赤まで)であり、bは、青-黄色の規模(b=-128である青からb=+127である黄色まで)である。したがって、完全な黒は、L=a=b=0によって規定される。サンプルは、鏡面反射成分を含むSCI(「正反射光を含む」)モード(即ち、全反射)、及び拡散反射成分のみを含むSCE(「正反射光を除く」)モードで同時に測定される。各ケースにおいて、標準光源D65を使用し、10°の観察者視野を用いた。
【0051】
おおよその結果は以下のとおりであった。
【0052】
【表2】
【0053】
これらの図からわかるように、サンプルの黒さはかなり濃く、反射防止コーティング9及び層11は、色の値を実質的に変化させずに、鏡面反射成分を低減する。この結果は、従来の黒色物品では黒色が、見ている人に面する表面上にラッカ又はコーティングとして設けられる一方で、吸光層7が入射光方向から離れて配置されるため、より一層驚くべきものである。
【0054】
したがって、吸光層7は、物品1の観察者に面する面上に配置されないため、取扱い時の損傷から保護される。実際、この吸光層7は、ユーザに見えずに、表面上の損傷に耐えることさえできる。というのは、吸光層7は、ユーザから離れて面する物品1の裏面上にあるためである。基体3、及び反射防止コーティング及び/又は耐引っ掻き性コーティング9等の基体3上のあらゆるコーティングは、物品1のユーザに面する側にあるため、従来の機械的、化学的製品で容易に取り扱い、清掃することができ、吸光層7に損傷を与える危険性がない、又は物品の光学特性に影響を与えることがない。清掃可能性(及び耐引っ掻き性)を最大化するため、基体3の第2の面3b及び/又は第2の面3b上に設けられるあらゆるコーティング9の最外面は、理想的には、5nm rms、より詳細には1nm rms以下の最大面粗さを呈する。
【0055】
図4は、図2に示す物品1に対応する物品1の一実施形態を示し、この実施形態では、いくつかの更なる任意の方策が取られている。こうした方策は、個別に又は組み合わせて適用することができ、反射防止コーティング9及び/又は反射防止層11を除外することが同様に可能である。
【0056】
まず、吸光層7は、更なる保護層13により物品1の下面上で保護することができ、この更なる保護層13は、例えば封入材から作製され、吸光層7を保護するように吸光層7上に堆積される。
【0057】
更に、基体の面の一方、もう一方又は両方に計画的に形成した浮彫り模様3cを設けることも可能である。この模様は、例えば、規則的なパターン、刻印、画像等としてもよく、基体3の主面の上方に延在してもよい、又は前記主面内に凹ませてもよい。浮彫模様の高さ及び/又は深さは、適宜、基体3の主面の上方及び/又は主面の下方に少なくとも1μmである。
【0058】
また、必要に応じて、拡散層等の更なる層を組み込み得ることを留意されたい。そのような層をテクスチャ層5とSi-Ge合金層7との間に配設する場合、テクスチャは、基体3の方に面するSi-Ge合金層7の表面が依然としてテクスチャ加工されるように、この余分な層を通じて入れ替えられることに留意されたい。
【0059】
図5は、本発明による物品1の3つの可能性のある非限定的適用例を概略的に表す。この図の左には、物品1が文字板22として使用される計時器21が表され、物品1の基体3は、ユーザが時間を見る際、ユーザの方に面している。
【0060】
図5の中間では、物品1は、装飾要素としてブレスレット、ペンダント、ブローチ、イヤリング等の装身具に組み込まれている。
【0061】
図5の右では、物品1は、筐体26を備える光学センサ25内に組み込まれ、筐体26は、光センサ29を収容する封入空間27を画定する。封入空間27は、シャッタ又は開口31に面し、物品1は、シャッタ31からセンサ29までを直接通過する光以外の不要な光を吸収するように構成され、基体3は、筐体の内部を向く及び/又はシャッタ31の方に向く状態で、物品1の各区分内に配置される。
【0062】
当然、他の適用が可能である。
【0063】
製造ステップに関して、図6は、図2の物品1に対応する物品1の製造を概略的に示す。図1による物品1、又は反射防止コーティング9若しくは反射防止層11の一方又は他方が除かれた物品の場合、対応する方法ステップは、単に除かれる。
【0064】
まず、全ての他の層が上に形成される基礎として働く基体3を準備する。基体3の適切な材料は詳細に上記で説明してあるため、ここでは繰り返さない。
【0065】
反射防止コーティング9は、存在する場合、例えば特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6又は無数の他の文献に記載されているように、方法の任意の好都合な時期で基体3の第2の面3b上に設けられ、最初に堆積される層である必要はない。しかし、反射防止コーティングを既に備える市販のガラス及びプラスチック基体が既製品で入手可能であるため、実際には反射防止コーティング層が最初に堆積されている場合が多く、したがって、他の層を堆積する際、反射防止コーティング層は、基体3上に既に存在している。
【0066】
次に、反射防止層11は、存在する場合、基体3の第1の面3a上に堆積される。非限定的な例として、反射防止層11は、酸化窒化シリコン層としてもよく、以下の条件下、13.56MHzプラズマ励起周波数、15mm電極間距離、45×55cm電極面寸法を有する反応器内でプラズマ援用化学蒸着によって堆積され、以下で示される厚さがもたらされる。
【0067】
【表3】
【0068】
次に、テクスチャ層5を前記第1の面3a上に直接又は間接的に堆積する。このテクスチャ層5が酸化亜鉛から作製される場合、テクスチャ層5は、以下の条件下、上述の反応器内で低圧化学蒸着によって堆積することができ、以下で示される厚さが与えられる。
【0069】
【表4】
【0070】
テクスチャ層5が、堆積の結果、適切な表面テクスチャを有さない、ZnOとは異なる材料から作製される場合、上記のように機械的、化学的、光学的又はイオン的に構成してもよい。
【0071】
次に、Si-Ge合金の吸光層7を、以下の条件下、上述の反応器内で、例えばプラズマ支援化学蒸着によって無テクスチャ層5の表面上に直接又は間接的に堆積し、示される厚さをもたらす。
【0072】
【表5】
【0073】
当然、他の中間層又は外側層を必要に応じて堆積することができる。
【0074】
本発明は、特定の実施形態を参照して説明してきたが、添付の特許請求の範囲において規定される本発明の範囲から逸脱することなく、これら特定の実施形態に対する変形形態が可能である。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
【国際調査報告】