(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-11
(54)【発明の名称】エンジンにおけるプレイグニッションを防止する又は低減するための潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220404BHJP
C10M 133/20 20060101ALI20220404BHJP
C10M 133/22 20060101ALI20220404BHJP
C10M 133/42 20060101ALI20220404BHJP
C10M 133/44 20060101ALI20220404BHJP
C10M 135/08 20060101ALI20220404BHJP
C10M 133/40 20060101ALI20220404BHJP
C10M 129/20 20060101ALI20220404BHJP
C10M 129/16 20060101ALI20220404BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20220404BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20220404BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220404BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220404BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M133/20
C10M133/22
C10M133/42
C10M133/44
C10M135/08
C10M133/40
C10M129/20
C10M129/16
C10M101/02
C10M107/02
C10N40:25
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549675
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2020054603
(87)【国際公開番号】W WO2020173824
(87)【国際公開日】2020-09-03
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514170019
【氏名又は名称】トタル マーケティング セルヴィス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・オブレヒト
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA08A
4H104BB10C
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BB41C
4H104BE13C
4H104BE16C
4H104BE27C
4H104BE28C
4H104BE29C
4H104BG05C
4H104CA04A
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104EB05
4H104EB07
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB13
4H104LA20
4H104PA42
4H104PA44
(57)【要約】
本発明は、少なくとも一種の基油並びにエンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを放出することができる少なくとも一種の化合物を含む、エンジンのための、特に自動車エンジンのための潤滑組成物に関する。本発明はまた、エンジンを対象とする潤滑組成物における、エンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを放出することができる化合物の、プレイグニッション、特に低速プレイグニッション(LSPI)を防止する及び/又は低減させるための添加剤としての、使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の基油並びにエンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを放出することができる少なくとも一種の化合物を含む、エンジンのための、特に自動車エンジンのための潤滑組成物であって、
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は、前記組成物の総質量に対して0.2質量%から5質量%の範囲の含有量で存在する、潤滑組成物。
【請求項2】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は、ジメチロール尿素、トリメチロール尿素、ジメチロールグアニジン、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン又は1,3,5,5-テトラメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン等のN-メチロール化合物;グアニジン酢酸;ホルムアルデヒド亜硫酸水素ナトリウム;メテナミン;パラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒドの重合形態;トリオキサン、特に1,3,5-トリオキサン及び1,2,4-トリオキサンから選択される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は、トリオキサン、特に1,3,5-トリオキサンである、請求項1又は2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は、前記組成物の総質量に対して0.5質量%から2質量%の範囲の含有量、より詳細には約1質量%の含有量で存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
API分類のグループIIIの油及びグループIVの油、並びにこれらの混合物から選択される少なくとも一種の基油、特にグループIIIの少なくとも一種の基油を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
酸化防止剤、洗剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、耐摩耗性添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点向上剤、消泡剤、増粘剤、及びこれらの混合物から選択される少なくとも一種の追加の添加剤をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
エンジンを対象とする潤滑組成物における、エンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを放出することができる化合物の、プレイグニッション、特に低速プレイグニッション(LSPI)を防止する及び/又は低減させるための添加剤としての、使用。
【請求項8】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物が、請求項1から4のいずれか一項に規定するものである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記潤滑組成物が、請求項5に規定する少なくとも一種の基油及び/又は請求項6に規定する少なくとも一種の追加の添加剤を含む、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
車両エンジンにおける、特に自動車エンジンにおける、プレイグニッション、特に低速プレイグニッション(LSPI)を防止する及び/又は低減するための、請求項7から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
エンジンにおける、特に車両エンジンにおける、とりわけ自動車エンジンにおける、プレイグニッション、特に低速プレイグニッション(LSPI)を防止する及び/又は低減するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の潤滑組成物の使用。
【請求項12】
前記エンジンが、ガソリン自動車エンジン、ガスで動くエンジン、ガス及びガソリンで動くエンジン、又はガス及びディーゼル燃料で動くエンジンである、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両エンジンにおいてとりわけ使用されることがある、潤滑剤、特にエンジンにおけるプレイグニッションを防止又は低減するための潤滑組成物の分野に関する。
【0002】
理想的な条件下では、火花点火エンジン(spark ignition engine)における通常の燃焼は、可燃性の混合物、とりわけ燃料及び空気の混合物が、スパークプラグから生じる火花の生成を介してシリンダー内の燃焼室で着火される時に起きる。このような通常の燃焼は、一般に、規則正しく制御された方法で燃焼室を通る火炎面の膨張によって特徴付けられる。
【0003】
しかしながら、特定の場合、スパークプラグからの火花による着火の前に、着火源に空気/燃料混合物はより早期に着火されることがあり、これはプレイグニッションとして知られる現象につながる。
【0004】
これは一般的に燃焼室内の温度及び圧力の大幅な上昇の存在をもたらし、したがって、エンジンの効率及び全体の性能に多大な悪影響を及ぼすため、現在、プレイグニッションを低減又は更には排除することが好ましい。さらに、プレイグニッションは、エンジン内のシリンダー、ピストン、スパークプラグ、及びバルブに多大なダメージをもたらすことがあり、特定の場合、エンジンの故障、又は更にはエンジンの破壊をもたらすこともある。
【0005】
さらに最近では、特に自動車メーカーによって、低速プレイグニッション(LSPI)が小型化したエンジンの潜在的問題として見なされている。LSPIは一般的に、低速及び高負荷で起こり、ピストン及び/又はシリンダーに深刻な損傷をもたらすことがある。
【背景技術】
【0006】
この複雑な現象を説明するために、いくつかの理論が提唱されている。特に、燃焼室内に少量の潤滑剤が存在し、燃料と混合すると、プレイグニッションを悪化させ得ることが観察されている。また、燃焼室内の堆積物の存在とLSPI現象の発生との間の関連性がある可能性もある。最後に、エンジン自体の設計がプレイグニッションに影響を与える可能性がある。
【0007】
したがって、この現象は非常に複雑であり予測が困難であることが分かる。上述のように、潤滑剤の性質はそれに大きく寄与し、したがって、プレイグニッション、特にLSPIのリスクを防止し得る又は低減し得る潤滑組成物が、既に提案されている。
【0008】
この目的のために、潤滑剤中のカルシウムの含有量を減らすこと又はジチオリン酸亜鉛若しくはモリブデンジチオカルバメートの含有量を増やすことからなる解決策が記載されている(Takeuchi等による「Investigation of Engine Oil Effect on Abnormal Combustion in Turbocharged Direct Injection - Spark Ignition Engines」、SAE Int. J. Fuels Lubr. 5(3):1017~1024頁、2012年;Hirano等による「Investigation of Engine Oil Effect on Abnormal Combustion in Turbocharged Direct Injection - Spark Ignition Engines (Part 2)」、SAE Technical Paper 2013-01-2569、2013年)。しかしながら、これらの解決策は現在のところ、プレイグニッションを著しく低減させるには依然として不十分であり、特に燃料の塩基性の有意水準が要求される国においては、実施が困難である。さらに、これらの解決策は、潤滑剤の安定性又は後処理システムとの互換性の問題にも関連する。
【0009】
また、文献国際公開第2015/023559号についても言及することができ、当該文献には、少なくとも一つの芳香環を含む有機化合物から選択される、着火を遅らせることができる添加剤を潤滑組成物に添加することによりプレイグニッションを低減させる方法が記載されている。しかしながら、これらの軽量の有機化合物は、潤滑剤の揮発性の過度な増加をもたらしやすい。
【0010】
また、車両エンジンにおけるプレイグニッションを防止又は低減するために、文献国際公開第2017/021521号及び国際公開第2017/021523号は、ポリアルキレングリコール又はモリブデンジチオホスフェート及び硫黄を含まないモリブデン錯体から選択される有機モリブデン化合物を、潤滑組成物に添加することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2015/023559号
【特許文献2】国際公開第2017/021521号
【特許文献3】国際公開第2017/021523号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Takeuchi等、Investigation of Engine Oil Effect on Abnormal Combustion in Turbocharged Direct Injection - Spark Ignition Engines、SAE Int. J. Fuels Lubr. 5(3):1017~1024頁
【非特許文献2】Hirano等、Investigation of Engine Oil Effect on Abnormal Combustion in Turbocharged Direct Injection - Spark Ignition Engines (Part 2)、SAE Technical Paper 2013-01-2569、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、エンジン、好ましくは車両エンジン、特に自動車エンジンにおける、プレイグニッションを防止する又は低減することを可能にする新規の潤滑組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、その第一の態様によると、少なくとも一種の基油並びにエンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒド(CH2O)を放出することができる少なくとも一種の化合物を含む、エンジンのための、特に自動車エンジンのための潤滑組成物に関する。
【0015】
好ましくは、前記ホルムアルデヒドを放出することができる化合物は、前記組成物の総質量に対して0.2質量%から5質量%の範囲の含有量で潤滑組成物中に存在する。
【0016】
Kuwahara等による出版(Impact of Formaldehyde Addition on Auto-Ignition in Internal-Combustion Engines、JSME International Journal、48(4)、2005年、708~716頁)は、直接噴射火花点火エンジンモデル内の吸気中にホルムアルデヒドを噴射した場合の、空気燃料混合物の自己点火への影響の研究を提示している。しかしながら、この文献は、低速プレイグニッション(LSPI)の問題には全く関係しておらず、エンジン潤滑組成物の配合についてはなおさら関係していない。
【0017】
本発明者らの知る限りにおいて、エンジン用の潤滑組成物において、ホルムアルデヒド、例えば、特にトリオキサンを放出することができる化合物を用いることは、一度も提案されていない。
【0018】
以下の例において説明されるように、本発明者らは、エンジン用の潤滑組成物に、エンジンの燃焼室でホルムアルデヒドを放出することができる化合物、特にトリオキサンのような化合物を添加することで、潤滑組成物がエンジンに用いられた場合に、プレイグニッション現象を防止及び低減することが可能になることを見出した。
【0019】
特に、このような化合物の添加は、LSPIの低減に関して著しく改善された性能をもたらすことができる。
【0020】
LSPIの低減に関する性能は、実施例で述べられているプロトコルに従ってLSPI事象の数を数えることによって、より詳細に評価され得る。
【0021】
本発明は、その別の態様によると、エンジン、好ましくは車両エンジン、特に自動車エンジンを対象とする潤滑組成物における、エンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを放出することができる化合物の、プレイグニッション、特に低速プレイグニッション(LSPI)を防止する及び/又は低減させるための添加剤としての、使用にも関する。
【0022】
また、エンジン、特に車両エンジン、とりわけ自動車エンジンにおけるプレイグニッション、特に低速プレイグニッションを防止する及び/又は低減するための、前述したようなエンジン用の潤滑組成物の使用にも向けられている。
【0023】
本文章の続きにおいて、用語「ホルムアルデヒドを放出することができる化合物」又は「ホルムアルデヒド前駆体化合物」は、ホルムアルデヒドとは異なる化合物をより簡潔に示すために使用され、これらはエンジンの燃焼室内で引き起こされる温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを生成することができる。これらの化合物は、本文章の続きにおいて、より詳細に説明される。
【0024】
特定の実施形態によると、このような化合物は、1,3,5-トリオキサンであってもよい。
【0025】
本発明の目的に対して、用語「自動車(motor vehicle)」は、エンジン、とりわけ燃料エンジン、特に、往復ピストン(reciprocating-piston)又はロータリーピストン内燃エンジン、より詳細には、ディーゼル又は火花点火エンジンによって推進される、少なくとも一つの車輪、好ましくは少なくとも二つの車輪を含む車両を意味することを意図している。このようなエンジンは、例えば、2ストローク又は4ストロークガソリンエンジンであってもよい。
【0026】
有利には、本発明による潤滑組成物は、エンジンに用いられる際に優れた安定性と優れたプレイグニッション防止及び/又は低減特性の両方を有する。
【0027】
有利には、本発明による潤滑組成物は、エンジンに用いられる際に優れたプレイグニッション防止及び/又は低減特性を有し、プレイグニッションの防止又は低減のために今まで提案されてきた上述のような1つ又は複数の他の技術的解決策、例えば、特にカルシウム含有量の低減又は芳香族化合物の使用を必要としない。
【0028】
さらに、本発明によるホルムアルデヒド前駆体化合物の使用は、組成物の潤滑特性に影響を与えない。
【0029】
最後に、有利には、本発明による潤滑組成物の配合は容易に実施できる。
【0030】
本発明のさらなる主題は、エンジンの機械部品を上述したような本発明による潤滑組成物と接触させる少なくとも一つの工程を含む、エンジン、好ましくは車両エンジン、特に自動車エンジンにおけるプレイグニッション、特に低速プレイグニッションを防止する及び/又は低減するための方法である。
【0031】
エンジン潤滑組成物にホルムアルデヒド前駆体を使用することの他の特徴、代替形態、及び利点は、本発明を例示するために、また本発明を限定することなく、以下の本明細書及び実施例を読むことで、より明確に明らかになるであろう。
【0032】
本文章の続きにおいて、表現「…及び…の間(between… and…)」、「…から…の範囲(ranging from… to…)」、並びに「…から…に変わる(varying from… to…)」は同等であり、特に明記しない限り、境界(limits)を含むことを意味することを意図している。
【0033】
特に明記しない限り、表現「~を含む(comprising a / comprising an)」は、「少なくとも一つの~を含む(comprising at least one)」として理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
ホルムアルデヒド前駆体化合物
上述で記載したように、本発明によって使用される潤滑組成物は、エンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒド(CH2O)を放出することができる少なくとも一種の化合物を含む。
【0035】
当業者は、本発明によるホルムアルデヒド前駆体化合物を選択することで、潤滑組成物が使用されることが意図されているエンジンの燃焼室の条件下でホルムアルデヒドを生成することを可能にすることが極めて可能である。
【0036】
より詳細には、エンジンの燃焼室の温度は200℃以上であり得、特に250℃から800℃、とりわけ300℃から600℃であり得る。
【0037】
燃焼室内の圧力については、5×104Paから40×105Pa、特に4×105Paから35×105Paまで変化し得る。
【0038】
したがって本発明によるホルムアルデヒド前駆体化合物は、より詳細には200℃以上の温度及び4×105Pa以上の圧力の条件下で、熱分解により、ホルムアルデヒドを生成/放出することを可能にし得る。
【0039】
ホルムアルデヒド前駆体化合物の例として、特に、ジメチロール尿素、トリメチロール尿素、ジメチロールグアニジン、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン又は1,3,5,5-テトラメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン等のN-メチロール化合物;グアニジン酢酸;ホルムアルデヒド亜硫酸水素ナトリウム;メテナミン(又はヘキサメチレンテトラミン);パラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒドの重合形態;トリオキサン、特に1,3,5-トリオキサン、1,2,4-トリオキサン及びトリオキサン誘導体が挙げられる。
【0040】
特に、ホルムアルデヒド前駆体化合物は、ジメチロール尿素、トリメチロール尿素、ジメチロールグアニジン、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン又は1,3,5,5-テトラメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン等のN-メチロール化合物;グアニジン酢酸;ホルムアルデヒド亜硫酸水素ナトリウム;メテナミン;パラホルムアルデヒド等のホルムアルデヒドの重合形態;トリオキサン、特に1,3,5-トリオキサン及びトリオキサン誘導体から選択されてもよい。
【0041】
特定の実施形態によると、本発明により必要とされるホルムアルデヒド前駆体化合物は、メテナミン、パラホルムアルデヒド及びトリオキサン、特に1,3,5-トリオキサンから選択される。
【0042】
好ましくは、本発明によるホルムアルデヒド前駆体は、トリオキサン、特に1,3,5-トリオキサンである。
【0043】
本発明により必要とされるホルムアルデヒド前駆体化合物は、市販されているか、あるいは当業者に知られた合成方法により、特にホルムアルデヒドから、調製されてもよい。
【0044】
例えば、トリオキサンは、酸触媒を使用してホルムアルデヒドを三量化することにより生成され得る。
【0045】
本発明の文脈の中で、ホルムアルデヒド前駆体は、特に上述で定義したような、異なるホルムアルデヒド前駆体の混合物の形態であり得ることが理解される。
【0046】
一般に、本発明によるホルムアルデヒド前駆体化合物は、前記潤滑組成物の総質量に対して、0.2質量%から5質量%、好ましくは0.5質量%から2.5質量%、特に約1質量%の量で、エンジン用の潤滑組成物内の添加剤として使用され得る。
【0047】
潤滑組成物
本発明による、前記ホルムアルデヒド前駆体化合物は、エンジン用、特に車両エンジン用、とりわけ自動車エンジン用の潤滑組成物内の添加剤として使用される。
【0048】
基油
本発明によるエンジン用の潤滑組成物は、少なくとも一種の基油を含む。
【0049】
これらの基油は、鉱物、合成又は天然、動物又は植物の油等のエンジン潤滑油の分野において従来から使用されている基油から選択されてもよい。
【0050】
これは、いくつかの基油の混合物、例えば2つ、3つ、又は4つの基油の混合物であってもよい。
【0051】
本発明によって考慮される潤滑組成物の基油は、特に、API分類(又はATIEL分類の下でのそれらの同等物)で定義される分類に従ってグループIからVに属する、鉱物又は合成起源の油であってもよく、以下の表1で示される。
【0052】
API分類は、アメリカ石油協会1509「エンジン油ライセンス認証システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」、17版(2012年、9月)において定義されている。
【0053】
ATIEL分類は、「The ATIEL Code of Practice」、18番(2012年、11月)において定義されている。
【0054】
【0055】
本発明によって使用される潤滑組成物を調製するための異なる基油の使用に関して、それらがエンジン、特に車両エンジンにおいて使用されるのに好適な特性、とりわけ粘度、粘度指数、硫黄含有量又は耐酸化性に関する特性を有しなければならないということを除いて、一般に制限はない。
【0056】
鉱物基油には、原油を常圧及び減圧蒸留した後、溶媒抽出、脱れき(deasphalting)、溶媒脱ろう、水素化処理、水素化分解、水素化異性化、及び水素化仕上げ等の精製操作により得られるあらゆる種類の基油が含まれる。
【0057】
合成基油は、エステル、シリコーン、グリコール、ポリブテン、ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルベンゼン又はアルキルナフタレンから選択されてもよい。基油として用いられるポリアルファオレフィンは、例えば4から32個の炭素原子を含むモノマー、例えば、オクテン又はデセンから得られ、その100℃での粘度は、規格ASTM D445によると1.5から15mm2/sである。それらの平均分子量は、規格ASTM D5296によると一般に250から3000である。
【0058】
基油は、天然起源の油、例えばアルコールとカルボン酸のエステルであってもよく、これは、ひまわり油、ナタネ油、パーム油、大豆油等の天然資源から得られてもよい。
【0059】
基油は、より詳細には、合成油、鉱物油、及びこれらの混合物から選択されてもよい。
【0060】
一実施形態によると、本発明により使用される潤滑組成物は、グループIIIの油、グループIVの油、及びこれらの混合物から選択される少なくとも一種の基油を含む。
【0061】
特に、本発明による潤滑組成物は、グループIIIの少なくとも一種の基油を含んでもよい。
【0062】
本発明により使用される潤滑組成物は、組成物の総質量に対して少なくとも50質量%の基油を含んでもよい。
【0063】
有利には、本発明により使用される潤滑組成物は、組成物の総質量に対して少なくとも60質量%、又はさらには少なくとも70質量%の基油を含む。
【0064】
より特に有利には、本発明により使用される潤滑組成物は、組成物の総質量に対して、60質量%から99.5質量%の基油、好ましくは70質量%から95質量%の基油を含む。
【0065】
添加剤
また、上述で記載したホルムアルデヒド前駆体化合物とは異なる多くの添加剤も、本発明によるエンジン潤滑組成物に使用され得る。
【0066】
本発明による組成物中に組み込まれ得る添加剤は、酸化防止剤、洗剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、耐摩耗性添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点向上剤、消泡剤、増粘剤、及びこれらの混合物から選択され得る。
【0067】
好ましくは、本発明により使用される潤滑組成物は、耐摩耗性添加剤、抗酸化性添加剤、粘度指数向上添加剤、洗剤、分散剤、及びこれらの混合物から選択される少なくとも一種の添加剤を含む。
【0068】
特定の実施形態によると、本発明による潤滑組成物は、潤滑組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%から8質量%の範囲の総量で、耐摩耗性添加剤及び/又は抗酸化性添加剤を含む。
【0069】
使用される添加剤の性質及び量は、潤滑組成物の特性、特にLSPIを低減するという観点から、組成物の性能に影響を及ぼさないように選択されるということが理解される。
【0070】
これらの添加剤は、個別に及び/又は一般に「添加剤パッケージ」と呼ばれる混合物の形態で導入されてもよく、これはACEA(欧州自動車工業会(European Automobile Manufacturers’ Association))及び/又はAPI(アメリカ石油協会(American Petroleum Institute))により定義される性能レベルを有する車両エンジン用の商用潤滑剤配合物として既に販売されており、当業者に広く知られている。
【0071】
特定の実施形態によると、本発明による潤滑組成物は、少なくとも一種の抗酸化性添加剤も含み得る。
【0072】
抗酸化性添加剤は、一般に使用中の組成物の劣化を遅らせることができる。この劣化は特に、堆積物の形成、スラッジの存在、又は組成物の粘度の増加によって反映され得る。抗酸化性添加剤はフリーラジカル阻害剤又はヒドロペルオキシド崩壊剤として特に作用する。
【0073】
一般的に使用される抗酸化性添加剤の中でも、フェノール型の酸化防止剤、アミン型の酸化防止剤、及びリン-硫黄型酸化防止剤が挙げられ得る。これらの抗酸化性添加剤のうちのいくつか、例えばリン-硫黄型抗酸化性添加剤は、灰分発生剤(ash generator)であってよい。フェノール型抗抗酸化性添加剤は、無灰であってよく、又は中性若しくは塩基性の金属塩の形態であってよい。
【0074】
抗酸化性添加剤はとりわけ、立体障害のあるフェノール類、立体障害のあるフェノールエステル類及びチオエーテル架橋を含む立体障害のあるフェノール類、ジフェニルアミン類、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されたジフェニルアミン類、N,N′-ジアルキル-アリール-ジアミン類、並びにそれらの混合物から選択されてもよい。
【0075】
好ましくは本発明により、立体障害のあるフェノール類はフェノール基を含む化合物から選択され、その中で、アルコール官能基を有する炭素に隣接する少なくとも1つの炭素は、少なくとも1つのC1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、好ましくはtert-ブチル基で置換されている。
【0076】
アミン化合物は、任意選択でフェノール型抗酸化性添加剤と組み合わせて用い得る別のクラスの抗酸化性添加剤である。
【0077】
アミン化合物の例としては、芳香族アミン、たとえば式NR4R5R6の芳香族アミンがあり、ここでR4は任意選択で置換された脂肪族基又は芳香族基を表わし、R5は任意選択で置換された芳香族基を表わし、R6は水素原子、アルキル基、アリール基、又は式R7S(O)zR8の基を表わし、ここでR7はアルキレン基又はアルケニレン基を表わし、R8はアルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表わし、zは0、1、又は2を表わす。
【0078】
硫黄化アルキルフェノール類又はそのアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩も、抗酸化性添加剤として用い得る。
【0079】
別のクラスの抗酸化性添加剤としては、銅化合物の添加剤、たとえば銅チオホスフェート若しくは銅ジチオホスフェート、カルボン酸の銅塩、並びに銅のジチオカーバメート、スルホネート、フェネート、及びアセチルアセトネートがある。銅のI塩及びII塩、並びにコハク酸又は無水物の塩も用いてよい。
【0080】
本発明による潤滑組成物は、当業者には既知の任意の種類の抗酸化性添加剤を含んでよい。
【0081】
有利には、本発明による潤滑組成物は、ジフェニルアミン、フェノール、フェノールエステル、及びこれらの混合物から選択される、少なくとも1つの抗酸化性添加剤を含む。
【0082】
本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に対して0.05質量%~2質量%、好ましくは0.5質量%~1質量%の、少なくとも1つの抗酸化性添加剤を含んでよい。
【0083】
別の実施形態によると、本発明による組成物は、少なくとも1つの洗浄性添加剤を含んでもよい。
【0084】
洗浄性添加剤は一般に、酸化及び燃焼の副生成物を溶解することによって、金属部品の表面における堆積物の形成を低減することを可能にする。
【0085】
本発明により使用される組成物に用い得る洗浄性添加剤は、当業者には一般に知られている。洗浄性添加剤は、長い親油性炭化水素系の鎖と親水性の頭部とを含むアニオン性化合物であってよい。会合したカチオンはアルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンであってよい。
【0086】
洗浄性添加剤は、優先的にはカルボン酸のアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩、スルホネート、サリシレート、及びナフテネート、並びにまたフェネートの塩から選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、優先的にはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウムである。
【0087】
これらの金属塩は一般に、化学量論量で、又は過剰、即ち化学量論量より多い量で、金属を含む。したがって、これらは塩基過剰の洗浄性添加剤であり、洗浄性添加剤に塩基過剰の性質を与える過剰の金属は一般に、油に不溶の金属塩の形態であり、たとえば炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、又はグルタミン酸塩、優先的には炭酸塩である。
【0088】
本発明による潤滑組成物は、当業者には既知の任意の種類の洗浄性添加剤を含んでよい。
【0089】
有利には、本発明による潤滑組成物は、アルカリ土類金属塩から、好ましくはカルシウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物から選択された、少なくとも1つの洗浄性添加剤を含む。
【0090】
特に、洗浄剤がアルカリ土類金属塩から選択された場合、洗浄性添加剤は、150ppm~2000ppm、好ましくは250ppm~1500ppmの範囲の金属元素の含有量が提供されるように、組成物に添加され得る。
【0091】
さらに別の実施形態によると、本発明による潤滑組成物は、粘度指数向上剤を含むこともできる。
【0092】
粘度指数向上剤の例として、ポリマーエステル、スチレン、ブタジエン及びイソプレンの水素化若しくは非水素化ホモポリマー又はコポリマー、ポリアクリレート、ポリメタクリレート(PMA)又はオレフィンコポリマー、とりわけエチレン/プロピレンコポリマーが挙げられ得る。
【0093】
有利には、本発明による潤滑組成物は、スチレン、ブタジエン及びイソプレンの水素化若しくは非水素化ホモポリマー又はコポリマーから選択される、少なくとも1つの粘度指数向上剤を含む。好ましくは、それは水素化スチレン/イソプレンコポリマーである。
【0094】
本発明による潤滑組成物は、例えば組成物の総質量に対して2質量%~15質量%の粘度指数向上剤を含んでもよい。
【0095】
耐摩耗性添加剤及び極圧添加剤は、摩擦面上に吸着した保護膜を形成することにより、摩擦面を保護する。
【0096】
幅広い種類の耐摩耗性添加剤が存在する。好ましくは、本発明による潤滑組成物について、耐摩耗性添加剤は、リン-硫黄系添加剤、例えば金属アルキルチオホスフェート、特に亜鉛アルキルチオホスフェート、及びより具体的には亜鉛ジアルキルジチオホスフェート又はZnDTPから選択される。好ましい化合物は、式Zn((SP(S)(OR2)(OR3))2の化合物であり、式中R2及びR3は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、アルキル基、優先的には1~18個の炭素原子を含むアルキル基を表す。
【0097】
アミンホスフェートもまた、本発明による組成物に用いられ得る耐摩耗性添加剤である。しかしながら、これらの添加剤は灰分発生剤であるため、これらの添加剤により導入されるリンは、自動車の触媒システムにとって毒として作用することがある。これらの影響は、アミンホスフェートをリンが導入されていない添加剤、例えばポリスルフィド、とりわけ硫黄系オレフィンと部分的に置き換えることにより、最小化され得る。
【0098】
本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~6質量%、優先的には0.05質量%~4質量%、より優先的には0.1質量%~2質量%の、耐摩耗性添加剤及び極圧添加剤を含んでもよい。
【0099】
本発明による潤滑組成物は、好ましくは耐摩耗性添加剤及び極圧添加剤を含まない。特に、本発明による潤滑組成物は、リン酸塩系の添加剤を含まなくてもよい。
【0100】
本発明による潤滑組成物は、少なくとも1つの摩擦調整剤を含んでもよい。摩擦調整剤は、金属元素を提供する化合物及び灰分を含まない化合物から選択されてもよい。金属元素を提供する化合物の中でも、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、又はZn等の遷移金属の錯体が挙げられ得、その配位子は、酸素、窒素、硫黄又はリン原子を含む炭化水素系化合物であってもよい。例えば、モリブデンジチオカルバメートタイプの、摩擦調整剤が挙げられ得る。灰分を含まない摩擦調整剤は、一般に有機起源のものであり、ポリオールの脂肪酸モノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪族エポキシド(fatty epoxide)、ホウ酸塩脂肪族エポキシド、脂肪族アミン又はグリセロールの脂肪酸エステルから選択されてもよい。本発明によると、脂肪族化合物は、少なくとも1つ、10~24個の炭素原子を含む炭化水素系の基を含む。
【0101】
本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に対して、0.01質量%~2質量%、又は0.01質量%~5質量%、優先的には0.1質量%~1.5質量%又は0.1質量%~2質量%の、摩擦調整剤を含んでもよい。
【0102】
本発明による潤滑組成物は、少なくとも1つの流動点降下添加剤を含んでもよい。
【0103】
パラフィン結晶の形成を遅延させることによって、流動点降下添加剤は一般に、組成物の低温挙動を改善する。
【0104】
言及され得る流動点降下添加剤の例には、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、及びポリアルキルスチレンが含まれる。
【0105】
本発明による潤滑組成物はまた、少なくとも1つの分散剤を含んでよい。
【0106】
分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミド、及びそれらの誘導体から選択してよい。
【0107】
本発明による潤滑組成物は、組成物の総質量に対して、例えば0.2質量%~10質量%の分散剤を含む。
【0108】
好ましくは、上述で詳しく説明した添加剤は、混合物、又は添加剤パッケージの形態で、本発明により使用される潤滑組成物中に導入される。
【0109】
この実施形態によると、添加剤パッケージは、組成物の総質量に対して、1質量%~30質量%、特に1質量%~20質量%、好ましくは5質量%~15質量%の範囲の含有量で、本発明により使用される組成物に存在し得る。
【0110】
本発明の一実施形態によると、潤滑組成物は潤滑組成物の総質量に対して:
- 60質量%~99.5質量%の基油、好ましくは70質量%~95質量%の基油;
- 0.2質量%~5質量%、好ましくは0.5質量%~2.5質量%のホルムアルデヒド前駆体化合物、例えば1,3,5-トリオキサン;
- 任意選択で、1質量%~30質量%、好ましくは5質量%~20質量%の、耐摩耗性添加剤、酸化防止剤、洗剤、分散剤、粘度指数向上剤、及びこれらの混合物から、好ましくは耐摩耗性添加剤、酸化防止剤、洗剤、分散剤、粘度指数向上剤、及びこれらの混合物から選択される添加剤
を含む。
【0111】
本発明による潤滑組成物は、様々な形態で提供されてもよい。それは、特に無水組成物であってもよい。好ましくは、本発明による潤滑組成物は、エマルジョンでない。
【0112】
用途
上で述べたように、本発明による潤滑組成物は、エンジンにおいて、特に車両エンジンにおいて使用されることが意図されている。
【0113】
したがって、それは有利には、とりわけ粘度、粘度指数、硫黄含有量、及び耐酸化性に関して、エンジンでの、特に車両エンジンでの使用に好適である特性を有する。
【0114】
有利には、本発明による潤滑組成物は、エンジンにおけるプレイグニッション、特に低速プレイグニッションの現象を防止する及び/又は低減することができる。
【0115】
本発明による用語「エンジン」は、より詳細には車両エンジン、例えばガソリンエンジン、ガスで動くエンジン、ガス及びガソリンで動くエンジン、並びにガス及びディーゼル燃料で動くエンジンを意味すると理解される。
【0116】
より詳細には、それは;
- ガソリンエンジン、ガス及びディーゼルエンジンで動くエンジン、さらにはガス及びガソリンで動くエンジン(ガス/ガソリンデュアルフューエル(dual-fuel)エンジン)、さらにはガス及びディーゼル燃料で動くエンジン(ガス/ディーゼル燃料デュアルフューエルエンジン)を含む、自動車エンジン;
- 重量車(heavy-duty vehicle)エンジン、及びより具体的にはガスで動く重量車エンジン
に関連し得る。
【0117】
また、用語「エンジン」は、4ストロークエンジン、及びより具体的には、船用4ストロークエンジン、優先的にはガスで動く船用4ストロークエンジンを含む。
【0118】
本発明の好ましい実施形態において、潤滑組成物は、車両エンジン、好ましくは自動車エンジンにおけるプレイグニッションを防止する及び/又は低減するために使用される。
【0119】
本発明による用語「プレイグニッション」は、ランブル効果音(rumble sound effect)を生成する低周波振動現象を含む。
【0120】
より詳細には、用語「プレイグニッション」は、低速プレイグニッション(LSPI)を意味する。
【0121】
特に、低速プレイグニッション現象は、直接噴射エンジンにおいて、特に「小型化した」エンジンにおいて悪化し得る。
【0122】
上述で記載されたホルムアルデヒド前駆体化合物及び潤滑組成物に関する全ての特徴及び特定の実施形態は、本発明により対象とされている使用にも適用される。
【0123】
本発明は以下に続く実施例により記載され、それらは、言うまでもなく、本発明の非限定的な例として与えられる。
【実施例】
【0124】
実施例1:潤滑組成物の調製
ホルムアルデヒド前駆体化合物を含まない、参照組成物A0、及び本発明により要求されるホルムアルデヒド前駆体化合物を含む、本発明による組成物A1を、以下の表2で与えられる量で様々な成分を混合することにより調製した。
【0125】
異なる化合物の割合は、質量パーセントで示されている。
【0126】
【0127】
実施例2:潤滑組成物のプレイグニッション低減特性の評価
評価プロトコル
潤滑組成物のプレイグニッション低減特性は、低速プレイグニッション(LSPI)に対するそれぞれの潤滑組成物の影響を評価することによって評価した。
【0128】
このために、LSPI現象を、総排気量2.0lの4つの直列4気筒で構成されるGMエコテックモデルのターボチャージャー付き火花点火エンジンを使用して定量化する。
【0129】
2000rpmのエンジン速度及び平均有効圧力(MEP)4×105パスカルのエンジン負荷で20分間のウォームアップ期間の後、試験手順は「セグメント(segments)」と呼ばれる24の高負荷シーケンス(2000rpmの速度で18×105パスカルMEP)で構成される。それぞれのセグメントは、25000のエンジンサイクルを含み、研究対象となる現象の優れた統計的表示を保証する。
【0130】
それぞれのシリンダーにはセンサーが装備されており、エンジン運転中の燃焼室内に広がる圧力の測定を可能にする。高周波レコーダーは圧力信号を記録し、燃焼の詳細な分析を可能にする。
【0131】
以下の2つの基準のうち1つが満たされた場合、燃焼はLSPI事象とみなされる:
- サイクルの最大圧力が、 考慮されるシーケンス全体の最大圧力の平均+シーケンスで測定された最大圧力の標準偏差の4.7倍 よりも大きい場合;又は
- 与えられたサイクルで燃焼性混合物の2質量%が燃焼した時のクランク軸角度が、考慮されるシーケンス全体で燃焼性混合物の2質量%が燃焼した時のクランク軸角度の平均+シーケンス全体で燃焼性混合物の2質量%が燃焼した時のクランク軸角度の標準偏差の4.7倍 よりも小さい場合。
【0132】
試験されたそれぞれの潤滑組成物に対して、LSPI事象の合計をセグメントの期間にわたってカウントし、続いて全24セグメントにわたるLSPI事象の平均を計算する。この平均から、LSPI事象の平均に0.5を加えた合計の平方根を適用することによってLSPI指数を計算する。LSPIパラメータに対する潤滑組成物の効果は、この組成物に関連するLSPI指数を比較し、24エンジンセグメントで計算された標準偏差を考慮することにより評価される。
【0133】
結果
参照組成物A0及び本発明による組成物A1のそれぞれに対して、LSPI現象の数を上述で規定した方法によりカウントした。結果は、以下の表3で与えられる。
【0134】
【0135】
結果は、燃焼室内にホルムアルデヒドを放出することができる化合物を含む、本発明による潤滑組成物A1は、そのようなホルムアルデヒド前駆体化合物を含まない参照潤滑組成物A0と比較して改善されたLSPI低減特性を有することを示す。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の基油並びにエンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを放出することができる少なくとも一種の化合物を含む、エンジンのため
の潤滑組成物であって、
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は、前記組成物の総質量に対して0.2質量%から5質量%の範囲の含有量で存在する、潤滑組成物。
【請求項2】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は
、N-メチロール化合物
、1,3,5,5-テトラメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン;グアニジン酢酸;ホルムアルデヒド亜硫酸水素ナトリウム;メテナミン
;ホルムアルデヒドの重合形態;
及びトリオキサ
ンから選択される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は、トリオキサ
ンである、請求項1又は2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物は、前記組成物の総質量に対して0.5質量%から2質量%の範囲の含有
量で存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
API分類のグループIIIの油及びグループIVの油、並びにこれらの混合物から選択される少なくとも一種の基
油を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
酸化防止剤、洗剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、耐摩耗性添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点向上剤、消泡剤、増粘剤、及びこれらの混合物から選択される少なくとも一種の追加の添加剤をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
エンジンを対象とする潤滑組成物における、エンジンの燃焼室の温度及び圧力条件下でホルムアルデヒドを放出することができる化合物の、プレイグニッショ
ンを防止する及び/又は低減させるための添加剤としての、使用。
【請求項8】
ホルムアルデヒドを放出することができる前記化合物が、請求項1から4のいずれか一項に規定するものである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記潤滑組成物が、
API分類のグループIIIの油及びグループIVの油、並びにこれらの混合物から選択される少なくとも一種の基油及び/又は
酸化防止剤、洗剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、耐摩耗性添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点向上剤、消泡剤、増粘剤、及びこれらの混合物から選択される少なくとも一種の追加の添加剤を含む、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
車両エンジンにおけ
るプレイグニッショ
ンを防止する及び/又は低減するための、請求項7から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
エンジンにおけ
るプレイグニッショ
ンを防止する及び/又は低減するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の潤滑組成物の使用。
【請求項12】
前記エンジンが、ガソリン自動車エンジン、ガスで動くエンジン、ガス及びガソリンで動くエンジン、又はガス及びディーゼル燃料で動くエンジンである、請求項11に記載の使用。
【国際調査報告】