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特表2022-521768腎機能を評価するための外因性マーカーとしての腎クリアランス可能ナノ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-12
(54)【発明の名称】腎機能を評価するための外因性マーカーとしての腎クリアランス可能ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20220405BHJP
   G01N 33/552 20060101ALI20220405BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220405BHJP
   G01N 21/73 20060101ALI20220405BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G01N33/543 541Z
G01N33/543 541A
G01N33/552
G01N33/543 575
G01N27/62 V
G01N21/73
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549732
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(85)【翻訳文提出日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 US2020019782
(87)【国際公開番号】W WO2020176555
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】62/810,626
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,メンシャオ
(72)【発明者】
【氏名】ニン,シュフイ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G043
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G041EA03
2G041FA12
2G041FA16
2G041LA08
2G043AA01
2G043BA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043EA06
2G043EA08
2G043FA03
2G043GA25
2G043GB28
(57)【要約】
外因性マーカーとして腎臓によって身体から排除され得るナノ粒子を利用して腎機能を評価するための方法。この方法は、ナノ粒子を対象に投与することと、その後一定期間後に血液サンプルまたは尿サンプルを収集することと、血液サンプルまたは尿サンプル中のナノ粒子を特性評価することと、最後に試験対象と正常な腎機能を有する対照群との間で血液サンプルまたは尿サンプル中のナノ粒子の特性パラメータを比較することと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の腎機能を評価する方法であって、
(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を前記対象に投与することと;
(b)前記投与後の第1の期間後に前記対象から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと;
(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、前記尿サンプルおよび/または前記血液サンプル中の前記ナノ粒子を特性評価することと、
(d)前記特性パラメータを、正常な腎機能を有する対照群について測定された対照特性パラメータと比較して、それによって前記腎機能を評価することと、を含む方法。
【請求項2】
対象の腎機能を評価する方法であって、
(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、前記第1の複数のナノ粒子を投与された前記対象から第1の期間後に収集された尿サンプルおよび/または血液サンプル中の前記第1の複数のナノ粒子を特性評価することと、
(d)前記特性パラメータを、正常な腎機能を有する対照群について測定された対照特性パラメータと比較して、それによって前記腎機能を評価することと、を含む方法。
【請求項3】
前記対照特性パラメータが、
(e)第2の用量を有する第2の複数のナノ粒子を前記対照群に投与することと、
(f)前記投与後の前記第1の期間後に、前記対照群から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと、
(g)前記対照特性パラメータを得るための前記測定プロセスを用いて、前記尿サンプルおよび/または前記血液サンプル中の前記ナノ粒子を特性評価することと、によって測定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
対象の腎機能を評価する方法であって、
(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を前記対象に投与することと;
(b)前記投与後の第1の期間後に前記対象から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと;
(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、前記尿サンプルおよび/または前記血液サンプル中の前記ナノ粒子を特性評価することと、
(d)前記特性パラメータを基準値と比較して、それによって前記腎機能を評価することと、を含む方法。
【請求項5】
対象の腎機能を評価する方法であって、
(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、前記第1の複数のナノ粒子を投与された前記対象から第1の期間後に収集された尿サンプルおよび/または血液サンプル中の前記第1の複数のナノ粒子を特性評価することと、
(d)前記特性パラメータを基準値と比較して、それによって前記腎機能を評価することと、を含む方法。
【請求項6】
前記特性パラメータが前記対照特性パラメータまたは参照値と有意に異なる場合に腎機能障害または腎損傷を示すことをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
対象の腎機能を監視する方法であって、
(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を前記対象に投与することと;
(b)ステップ(a)の前記投与後の第1の期間後に前記対象から第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプルを収集することと、
(c)第1の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、前記第1の尿サンプルおよび/または前記第1の血液サンプル中の前記ナノ粒子を特性評価することと、
(d)ステップ(b)後の第2の期間後、前記第1の用量を有する第2の複数のナノ粒子を前記対象に投与することと、
(e)ステップ(d)の前記投与後第3の期間後に前記対象から第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプルを収集することと、
(f)第2の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、前記第2の尿サンプルおよび/または前記第2の血液サンプル中の前記ナノ粒子を特性評価することと、
(g)前記第1の特性パラメータを前記第2の特性パラメータと比較して、それによって経時的に前記腎機能を監視することと、を含む、方法。
【請求項8】
対象の腎機能を監視する方法であって、
(c)第1の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の複数のナノ粒子を投与された前記対象から第1の期間後に収集された第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプル中の前記第1の複数のナノ粒子を特性評価することと、
(d)ステップ(c)後の第2の期間後、第2の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第2の複数のナノ粒子を投与された前記対象から第3の期間後に収集された第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプル中の前記第2の複数のナノ粒子を特性評価することと、
(e)前記第1の特性パラメータを前記第2の特性パラメータと比較して、それによって経時的に前記腎機能を監視することと、を含む、方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子が腎クリアランス可能である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノ粒子が、注射用量の5~100パーセント(ID%)の範囲で1時間または2時間の腎クリアランス効率を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ粒子が、金、銀、銅、白金、パラジウム、シリカ、炭素、シリコン、酸化鉄、FeS、CdSe、CdS、CuS、有機材料、またはそれらの組み合わせを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、グルタチオン、チオール官能化ポリエチレングリコール、システアミン、システイン、ホモシステイン、システインを含むジペプチド、ホモシステインを含むジペプチド、3つを超えるアミノ酸を有するペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるリガンドでコーティングされる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記システインを含むジペプチドが、システイン-グリシンまたはシステイン-グルタミン酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ホモシステインを含むジペプチドが、ホモシステイン-グリシンまたはホモシステイン-グルタミン酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記リガンドが蛍光色素とコンジュゲートしている、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記リガンドがグルタチオンである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノ粒子が500nm~850nmの範囲で蛍光を発する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ粒子が1000nm~1700nmの範囲で蛍光を発する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記尿サンプルの場合、前記第1の期間が約30分~24時間である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記血液サンプルの場合、前記第1の期間が約5分~1時間である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記尿サンプルの場合、前記第3の期間が約30分~24時間である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記血液サンプルの場合、前記第3の期間が約5分~24時間である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記測定プロセスは、前記ナノ粒子の濃度を測定すること、前記ナノ粒子の量を測定すること、クリアランス効率を測定すること、ナノ粒子表面でのリガンドの組成を分析すること、前記ナノ粒子のサイズ分布を測定すること、前記ナノ粒子の吸収スペクトルを測定すること、前記ナノ粒子の発光スペクトルを測定すること、前記ナノ粒子の励起スペクトルを測定すること、前記ナノ粒子の光音響信号を測定すること、前記ナノ粒子の放射能すること、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上のプロセスを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記測定プロセスが、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)または誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記特性パラメータが、前記ナノ粒子の濃度、前記ナノ粒子の量、クリアランス効率、前記ナノ粒子表面上のリガンドの組成、表面リガンドの一種、前記ナノ粒子のサイズ分布、前記ナノ粒子の表面電荷、前記ナノ粒子の吸収スペクトル、前記ナノ粒子の発光スペクトル、前記ナノ粒子の励起スペクトル、前記ナノ粒子の光音響信号、前記ナノ粒子の放射能、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記特性パラメータが、前記対象の前記血液サンプル中の前記ナノ粒子の濃度であり、
前記対照特性パラメータが、前記対照群の前記血液サンプル中の前記ナノ粒子の対照濃度であり、
前記濃度が前記対照濃度と有意に異なる場合、腎機能障害または腎損傷を示す、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記特性パラメータが、前記対象内の前記ナノ粒子の前記クリアランス効率であり、
前記対照特性パラメータが、前記対照群内の前記ナノ粒子の前記対照クリアランス効率であり、
前記クリアランス効率が、前記対照クリアランス効率と有意に異なる場合は、腎機能障害または腎損傷を示す、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記特性パラメータが、前記対象の前記尿サンプル中の前記ナノ粒子の前記発光スペクトルであり、
前記対照特性パラメータが、前記対照群の前記尿サンプル中の前記ナノ粒子の前記対照発光スペクトルであり、
前記発光スペクトルが前記対照発光スペクトルと有意に異なる場合は、腎機能障害または腎損傷を示す、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記腎機能障害が、薬物誘発性腎毒性、自己免疫疾患、腎不全、慢性腎疾患、嚢胞性腎疾患、腎炎症性疾患、腎線維症、常染色体優性多発性嚢胞腎、免疫腫瘍学的治療、またはそれらの組み合わせによって引き起こされる、請求項6に記載の方法。
【請求項30】
前記自己免疫疾患がループスである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記腎臓炎症性疾患がループス腎炎である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記腎損傷が感染によって誘導される、請求項6に記載の方法。
【請求項33】
前記投与が静脈内、腹腔内、皮下、または動脈内である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
急性腎疾患の場合、前記第2の期間が約1時間~30日である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項35】
慢性腎疾患の場合、前記第2の期間が約2週間~12ヶ月である、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年2月26日出願の米国仮出願第62/810,626号の優先権および利益を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
政府の支援
【0002】
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された助成金番号R43DK116368の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、外因性マーカーとして腎臓によって身体から排除され得るナノ粒子を利用する、生きている対象における腎機能障害の早期検出などの腎疾患の評価および診断に関する。
【背景技術】
【0004】
腎疾患は、世界中の人口の10%以上(8億5000万人)に影響を及ぼしており、これは生存している糖尿病患者(4億2200万人)の2倍であり、癌患者数(4200万人)の20倍である。慢性腎疾患(CKD)は、毎年世界中で120万人の死亡を引き起こしており、これは、乳癌および前立腺癌を合わせた数を超える。米国では、約3,000万人(成人の15%)が、糖尿病、高血圧、糸球体腎炎、嚢胞性腎疾患および他の障害によって引き起こされ得るCKDに罹患している。腎機能が数ヶ月または数年かけて徐々に失われるCKDとは異なり、急性腎障害(AKI)は、数時間または数日以内に腎機能が急激に低下することを特徴とする。AKIは、致命的な疾患であり、全入院患者の3.2~20%および集中治療室(ICU)患者の22~67%を含む、世界中で毎年1,330万名の患者に影響を及ぼす一般的な臨床合併症である。腎代替療法などの支持療法にもかかわらず、AKI後の5年死亡率は依然として50%以上である。さらに、シスプラチン(癌治療のための化学療法剤)などの多くの医薬品は、薬物誘発性腎毒性のためにAKIを誘発し得る。さらに、全身性エリテマトーデス(SLE、ループス、慢性自己免疫疾患)の患者は、腎疾患の一種であるループス腎炎のほか、免疫複合体の腎沈着による生命を脅かす合併症を発症する高いリスクを有する。世界中で少なくとも500万人および150万人の米国人がループスに罹患し、そのうちの90%超が15~44歳の女性である。SLEは複数の臓器に影響を与える全身性疾患であるが、腎臓の併発症は、SLEの罹患率および死亡率の主因であり、一般に、ループス患者の約60%が生存中にループス腎炎を発症し、腎臓の併発症がない患者よりも高い死亡率を有する。
【0005】
「サイレントキラー」として、腎疾患は、初期段階では兆候または症状がないことが多く、非常に進行するまで検出されない状態が継続する。例えば、CKD症例の約60%は、末期腎疾患(ESRD、正常な腎機能の85%以上が失われる)でのみ診断される。これは、透析または腎移植を行わない場合には致命的である。診断から15年以内に、ループス腎炎患者の10%~30%が治療を受けてもESRDに進行する。米国において、2013年には、ESRDの治療は、治癒に309億ドルを要し、これは、メディケアが支払った請求費用全体の約7.1%に相当する。
【0006】
腎疾患は、通常進行性疾患であり、腎機能の低下を避けることはできないが、不可逆的な損傷が発生する前の初期段階で診断された場合には、腎疾患を効果的に管理できる。例えば、薬物誘発性AKIは、早期に診断し、治療された場合には、多くの場合治癒可能である。治癒できないCKDの場合、ESRDへの進行を遅らせるかまたは予防するのみでなく、心臓病および脳卒中のリスクを低下させるためにも、早期の診断および管理が必須である。したがって、糖尿病、高血圧、心臓病、肥満、CKDの家族歴など、CKDのリスク因子を有するヒトは、定期的に(例えば、3ヶ月または6ヶ月ごとに)血液検査および尿検査で腎機能を確認することが推奨されている。これらの検査では、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン、および尿タンパクなどの内因性バイオマーカーを測定する。ループス腎炎も治療法を有さない。腎臓の併発症の早期診断およびループス腎炎の治療は、腎不全を延期できるかまたは予防さえできるために、早期に腎障害を停止させるために重要である。したがって、初期段階でループス腎炎を発見するためには、ループス患者の腎機能を(平均して)3ヶ月ごとに血液検査および尿検査で監視する必要がある。タンパク尿は、ループス腎炎の特定において、血清クレアチニンよりも感度が高いため、タンパク尿が検出された場合には、患者は、ループス腎炎を分類し、治療選択肢を誘導するためのゴールドスタンダードである腎生検を受けることになる。
【0007】
腎疾患の早期診断に加えて、腎疾患の治療中に腎機能を正確に監視することも必要である。例えば、ループス腎炎は、通常、免疫抑制剤で治療される。一方で、免疫抑制薬への応答は患者間でかなり異なり、一部の大規模試験では、患者の約50%のみ、治療に応答した。その一方で、免疫抑制薬には、血球数の減少ならびに感染症および癌のリスクの増加など、多くの潜在的な副作用を有する。したがって、ループス腎炎の治療中、医師は患者の腎機能を注意深く監視する必要がある(平均1ヶ月ごと)。これにより、医薬品の使用を最適化して、副作用を減少させながら疾患の寛解を達成できる。さらに、腎機能を監視することにより、食事療法中のCKD患者が意識するようにため、腎臓へのさらなる損傷を防止することができる。
【0008】
臨床的必要性にもかかわらず、腎機能障害の早期診断および腎機能の正確な監視を行うことは、現在の方法では依然として困難である。したがって、当技術分野では、単純で、手頃な価格で、広くアクセス可能であるのみでなく、非常に感度が高く正確に、初期段階で生存している腎臓の機能障害を診断する(または生存している腎臓の機能を評価する)ための方法が依然として必要とされる。本開示は、この必要性に対処し、以前の診断技術によって提供されなかった利点をもたらすように提供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、とりわけ、腎クリアランス可能ナノ粒子を使用して対象の腎機能を評価するかまたは監視する方法を提供する。
【0010】
一態様では、本開示は、対象の腎機能を評価する方法を提供し、本方法は、(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を対象に投与することと;(b)投与後の第1の期間後に対象から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと;(c)尿サンプルおよび/または血液サンプル中のナノ粒子を、特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて特性評価することと;(d)特性パラメータを、正常な腎機能を有する対照群について測定した対照特性パラメータと比較して、それによって腎機能を評価することと、を含む。
【0011】
別の態様では、本開示は、対象の腎機能を評価する方法を提供し、本方法は、(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の複数のナノ粒子を投与された対象から第1の期間後に収集された尿サンプルおよび/または血液サンプル中の第1の複数のナノ粒子を特性評価することと、(d)特性パラメータを、正常な腎機能を有する対照群について測定した対照特性パラメータと比較して、それによって腎機能を評価することと、を含む。
【0012】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、対照特性パラメータは、(e)第2の用量を有する第2の複数のナノ粒子を対照群に投与することと;(f)投与後の第1の期間後に、対照群から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと;(g)対照特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、尿サンプルおよび/または血液サンプル中のナノ粒子を特性評価することと、によって測定する。
【0013】
別の態様では、本開示は、対象の腎機能を評価する方法を提供し、本方法は、(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を対象に投与することと;(b)投与後の第1の期間後に対象から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと;(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、尿サンプルおよび/または血液サンプル中のナノ粒子を特性評価することと;(d)特性パラメータを基準値と比較して、それによって腎機能を評価することと、を含む。
【0014】
別の態様では、本開示は、対象の腎機能を評価する方法を提供し、本方法は、(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の複数のナノ粒子を投与された対象から第1の期間後に収集された尿サンプルおよび/または血液サンプル中の第1の複数のナノ粒子を特性評価することと、(d)特性パラメータを基準値と比較して、それによって腎機能を評価することと、を含む。
【0015】
さらに別の態様では、本開示は、対象の腎機能を監視する方法を提供し、本方法は、(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を対象に投与することと;(b)ステップ(a)の投与後の第1の期間後に対象から第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプルを収集することと;(c)第1の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプル中のナノ粒子を特性評価することと;(d)ステップ(b)後の第2の期間後、第2の用量を有する第2の複数のナノ粒子を対象に投与することと;(e)ステップ(d)の投与後第3の期間後に対象から第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプルを収集することと;(f)第2の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプル中のナノ粒子を特性評価することと;(g)第1の特性パラメータを第2の特性パラメータと比較して、それにより、経時的に腎機能を監視することと、を含む。
【0016】
さらに別の態様では、本開示は、対象の腎機能を監視する方法を提供し、本方法は、(c)第1の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の複数のナノ粒子を投与された対象から第1の期間後に収集された第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプル中の第1の複数のナノ粒子を特性評価することと;(d)ステップ(c)後の第2の期間後、第2の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第2の複数のナノ粒子を投与された対象から第3の期間後に収集された第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプル中の第2の複数のナノ粒子を特性評価することと;(e)第1の特性パラメータを第2の特性パラメータと比較して、それによって経時的に腎機能を監視することと、を含む。
【0017】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、この方法は、特性パラメータが対照特性パラメータまたは参照値と有意に異なる場合に、腎機能障害または腎損傷を示すことをさらに含む。
【0018】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ナノ粒子は腎クリアランス可能である。
【0019】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、注射用量の5~100パーセント(ID%)の範囲で1時間または2時間の腎クリアランス効率を有する。上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、注射用量の5~100パーセント(ID%)の範囲で1時間の腎クリアランス効率を有する。
【0020】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、金、銀、銅、白金、パラジウム、シリカ、炭素、シリコン、酸化鉄、FeS、CdSe、CdS、CuS、有機材料、またはそれらの組み合わせを含む。
【0021】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、グルタチオン、チオール官能化ポリエチレングリコール、システアミン、システイン、ホモシステイン、システインを含むジペプチド、ホモシステインを含むジペプチド、3つを超えるアミノ酸を有するペプチド、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるリガンドでコーティングされる。
【0022】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、システインを含むジペプチドは、システイン-グリシンまたはシステイン-グルタミン酸を含む。
【0023】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ホモシステインを含むジペプチドは、ホモシステイン-グリシンまたはホモシステイン-グルタミン酸を含む。
【0024】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、リガンドは、蛍光色素とコンジュゲートされている。
【0025】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、リガンドはグルタチオンである。
【0026】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、500~850nmの範囲で蛍光を発する。
【0027】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、1000~1700nmの範囲で蛍光を発する。
【0028】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、第1の期間は、尿サンプルの場合は約30分~24時間であるか、または血液サンプルの場合は約5分~1時間である。
【0029】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、第3の期間は、尿サンプルの場合は約30分~24時間であるか、または血液サンプルの場合は約5分~24時間である。
【0030】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、第1の期間および第3の期間は同じである。
【0031】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、第1の期間および第3の期間は異なる。
【0032】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、測定プロセスは、ナノ粒子の濃度を測定すること、ナノ粒子の量を測定すること、クリアランス効率を測定すること、ナノ粒子表面でのリガンドの組成を分析すること、ナノ粒子のサイズ分布を測定すること、ナノ粒子の吸収スペクトルを測定すること、ナノ粒子の発光スペクトルを測定すること、ナノ粒子の励起スペクトルを測定すること、ナノ粒子の光音響信号を測定すること、ナノ粒子の放射能すること、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上のプロセスを含む。
【0033】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、測定プロセスは、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)または誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)を含む。
【0034】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、特性パラメータは、ナノ粒子の濃度、ナノ粒子の量、クリアランス効率、ナノ粒子表面上のリガンドの組成、表面リガンドの一種、ナノ粒子のサイズ分布、ナノ粒子の表面電荷、ナノ粒子の吸収スペクトル、ナノ粒子の発光スペクトル、ナノ粒子の励起スペクトル、ナノ粒子の光音響信号、ナノ粒子の放射能、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、特性パラメータは、対象の血液サンプル中のナノ粒子の濃度である。対照特性パラメータは、対照群の血液サンプル中のナノ粒子の対照濃度であり、濃度が対照濃度と有意に異なる場合は、腎機能障害または腎損傷を示す。
【0036】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、特性パラメータは、対象内のナノ粒子のクリアランス効率である。対照特性パラメータは、対照群内のナノ粒子の対照クリアランス効率である。クリアランス効率が対照クリアランス効率と有意に異なる場合は、腎機能障害または腎損傷を示す。
【0037】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、特性パラメータは、対象の尿サンプル中のナノ粒子の発光スペクトルである。対照特性パラメータは、対照群の尿サンプル中のナノ粒子の対照発光スペクトルである。発光スペクトルが対照発光スペクトルと有意に異なる場合は、腎機能障害または腎損傷を示す。
【0038】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、腎機能障害は、薬物誘発性腎毒性、自己免疫疾患、腎不全、慢性腎疾患、嚢胞性腎疾患、腎炎症性疾患、腎線維症、常染色体優性多発性嚢胞腎、免疫腫瘍学的治療、またはそれらの組み合わせによって引き起こされる。
【0039】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、自己免疫疾患はループスである。
【0040】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、腎臓炎症性疾患はループス腎炎である。
【0041】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、腎損傷はウイルス感染によって誘発される。
【0042】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、投与は、静脈内、腹腔内、皮下、または動脈内である。
【0043】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、第2の期間は、急性腎疾患の場合は約1時間~30日、または慢性腎疾患の場合は約2週間~12ヶ月である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】シスプラチン(15mg/kg、腹腔内注射)またはリン酸緩衝生理食塩水(「対照」)を投与されたマウスから得た、腎組織の末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)アッセイ分析の一連の蛍光画像を示す図である。TUNELアッセイ分析では、シスプラチン誘発性急性腎損傷の2つの異なる段階に対応する、腎臓内での2つの異なるレベルの細胞アポトーシスが明らかになった。FITCで標識されたアポトーシス細胞は矢印で示した。核はDAPIによって染色した。ステージIは、「初期段階」であり、対照群の正常な腎臓においてアポトーシスがわずかであったのとは対照的に、シスプラチンを注射したマウスの腎臓組織でアポトーシスが同定された。ステージIIは、ステージIIよりも有意に増大した細胞アポトーシスを示した。スケールバー、3つの画像すべてにおいて500μm。
図2】シスプラチン誘発性腎損傷の2つの異なる段階および正常な腎機能を有する対照群におけるマウスの血中尿素窒素(BUN)のレベルを示すグラフである。リン酸緩衝生理食塩水を投与されたマウスは対照として機能した。各群N=4、*P<0.05;ns、有意差なし、P>0.05。
図3】シスプラチン誘発性腎損傷の2つの異なる段階および正常な腎機能を有する対照群におけるマウスの血清クレアチニンのレベルを示すグラフである。リン酸緩衝生理食塩水を投与されたマウスは対照として機能した。各群N=4、*P<0.05;ns、有意差なし、P>0.05。
図4】静脈内注射後1時間以内に尿中に排泄された腎クリアランス可能なグルタチオンコート金ナノ粒子(GS-AuNP)の量(すなわち、「1時間の腎クリアランス」)を示すグラフである。シスプラチン誘発性腎損傷の2つの異なる段階にあるマウスを調査した。リン酸緩衝生理食塩水を投与されたマウスは対照として機能した。ID%、注射用量パーセント;各群N=4、*P<0.05。
図5】静脈内注射の1時間後の腎クリアランス可能なグルタチオンコート金ナノ粒子(GS-AuNP)の血中濃度を示すグラフである。シスプラチン誘発性腎損傷の2つの異なる段階にあるマウスを調査した。リン酸緩衝生理食塩水を投与されたマウスは対照として機能した。ID%/g、血液1グラムあたりの注射用量パーセント。各群N=4、*P<0.05。
図6】静脈内注射の1時間後の左および右の腎臓における腎クリアランス可能なグルタチオンコート金ナノ粒子(GS-AuNP)の量を示すグラフである。シスプラチン誘発性腎損傷の2つの異なる段階にあるマウスを調査した。リン酸緩衝生理食塩水を投与されたマウスは対照として機能した。ID%/g、血液1グラムあたりの注射用量パーセント。各群N=4、*P<0.05。
図7】注射される前(「注射前」)およびマウスの尿中に排泄される前のGS-AuNPの代表的な発光スペクトルを示すグラフである。対照群およびシスプラチンモデルを調査した。
図8】10週齢から14週齢までの成長中のMRL-lprループスマウスの尿タンパクレベルの変化を示すグラフである。正常レベル値は、8週齢の4匹の対照MRLマウスから得た。
図9】10週齢から14週齢までの成長中の、MRL-lprループスマウスのGS-AuNP(5mg/kg、静脈内注射後)の1時間腎クリアランス効率の変化を示すグラフである。このループスマウスの尿タンパクレベルの変化を図8に示す。正常レベル値は、8週齢の4匹の対照MRLマウスから得た。
図10】10~14週齢からの成長中の3匹のMRL-lprループスマウスの尿タンパクレベルを示すグラフである。正常レベル値は、8週齢の対照MRLマウスから得た。*P<0.05、T検定。
図11】10~14週齢からの成長中の3匹のMRL-lprループスマウスの静脈内注射後の5mg/kgGS-AuNPの1時間腎クリアランス効率を示すグラフである。これらのループスマウスの尿タンパクレベルの変化を図10に示す。正常レベル値は、8週齢の対照MRLマウスから得た。*P<0.05、T検定。
図12】8週齢におけるループスモデルおよび対照群の尿タンパクのレベルを示すグラフである。ループスモデルは、全身性エリテマトーデス(SLE)の十分に確立したモデルであるMRL/MpJ-Faslpr/Jマウス(MRL-lprとしても公知である)であった。対照群は、MRLとしても公知であるMRL/MpJマウスであった。左、尿サンプルのタンパク尿スコアは、尿タンパク質を分析するためにAlbustix(登録商標)試薬ストリップを使用して測定した。タンパク尿のグレードは次のようにスコア付けした:0=なし、1=微量、1.5=微量~30mg/dl、2=30mg/dl、3=100mg/dl、4=300mg/dl、および5=>2,000mg/dl。ループスモデルの場合はN=11(テスト用の採尿は、1匹のマウスで失敗した)。対照マウスではN=4、ns、有意差なし、P>0.05。
図13】5分の場合と比較した、1時間での腎クリアランス可能なGS-AuNPの血中濃度の減少率における8週齢でのループスモデルと対照群との間の差を示すグラフである(=[(5分での血中濃度-1時間での血中濃度)/5分での血中濃度]x100%)。ループスモデルの場合はN=12;対照マウスではN=4。*P<0.05。
図14】生きている腎臓の機能を評価するための方法の実施形態を示す流れ図であり、この方法は、生きている腎臓の機能障害を診断するためにさらに適用可能である。
図15】正常なマウスおよび静脈内注射後1時間以内に糸球体損傷を有するマウスの尿中に排泄された腎クリアランス可能(すなわち、「1時間腎クリアランス」)なグルタチオンコート金ナノ粒子(GS-AuNP)の量を示すグラフである。ID%、注射用量の割合;対照群ではN=4、糸球体損傷ではN=2、*P<0.05。
図16】正常なマウスおよび糸球体損傷を有するマウスの尿タンパクレベルを示すグラフである。ID%、注射用量の割合;対照群ではN=4、糸球体損傷ではN=2。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本開示は、対象における腎機能を診断、評価、および/または監視するために腎クリアランス可能ナノ粒子を利用する方法に関する。腎クリアランス可能なナノ粒子が対象に投与された後、血流中のナノ粒子の少なくとも一部分が尿の一部として腎臓によって除去される。これらのナノ粒子は、血液サンプルまたは尿サンプル中で、1つ以上の定量化可能な特性パラメータを生成でき、これは、腎機能が正常な対象と腎機能障害または腎損傷を有する対象とでは有意に異なり得る。したがって、これらのナノ粒子は、腎臓の健康状態を示す外因性マーカーとして使用できる。特に、本明細書に記載の方法は、現在の血清バイオマーカーまたは尿バイオマーカーが検出できない状況においてさえ、腎機能障害または腎損傷を検出することができ、それにより、腎機能障害または腎損傷の早期検出が可能になる。
【0046】
ナノ粒子は、1つ以上の材料で作製できる。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、金、銀、銅、白金、パラジウム、シリカ、炭素、シリコン、酸化鉄、FeS、半導体量子ドット、有機材料、またはそれらの組み合わせを含むことができる。半導体量子ドットの例としては、これらに限定されないが、CdTe、CdSe、CdS、およびCuSが挙げられる。
【0047】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、腎臓を介して排出することができ、約0.3nm~10nmの範囲のサイズまたは500~20,000ダルトンの範囲の分子量を有する有機材料を含むことができる。有機ナノ粒子は、染料または他のプローブで標識することができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、PEG化有機色素および双性イオン性有機色素などの、約8nm未満の平均サイズを有する有機材料を含むことができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、コア、および任意によりコアを取り囲む表面コーティングを含むことができる。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、約6nm以下、約5.5nm以下、約5nm以下、約4.5nm以下、約4nm以下、約3.5nm以下、約3nm以下、または約2.5nm以下の平均コアサイズを有する。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも約0.5nm、少なくとも約0.8nm、または少なくとも約1nmの平均コアサイズを有する。
【0050】
平均コアサイズについて上記で参照した範囲の組み合わせも可能であり(例えば、少なくとも約0.5nm~約6nm以下、または少なくとも約0.5nm~約2.5nm以下)、すべての値、およびその間の範囲を含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも約0.5nm~約2.5nm以下の平均コアサイズを有する金ナノ粒子である。
【0051】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、約10nm以下、約9nm以下、約8nm以下、約7nm以下、約6nm以下、約5nm以下、または約4nm以下の平均流体力学的直径を有する。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、少なくとも約1nm、少なくとも約1.5nm、または少なくとも約2nm、少なくとも約2.5nmの平均流体力学的直径を有する。
【0052】
平均流体力学的直径について上記で参照した範囲の組み合わせも可能であり(例えば、少なくとも約1nm~約10nm以下、または少なくとも約1nm~約4nm以下)、すべての値、およびその間の範囲を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、各ナノ粒子のコアは、約41,000原子以下、約35,000原子以下、約30,000原子以下、約25,000原子以下、または約9,000原子以下を含むことができる。いくつかの実施形態では、各ナノ粒子のコアは、少なくとも約2原子、少なくとも約25原子、少なくとも約30原子、少なくとも約35原子、または少なくとも約40原子を含むことができる。
【0054】
各ナノ粒子のコアの原子数に関する上記の範囲の組み合わせも可能であり(例えば、少なくとも約2~約41,000以下、または少なくとも約25~約35,000以下)、それらの間のすべての値および範囲を含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、0.5nm~2.5nmの間の平均コアサイズを有する10~650の間の金属原子を含む。
【0055】
表面コーティングは、1つ以上のタイプのリガンドを含むことができる。いくつかの実施形態では、リガンドは、グルタチオン、チオール官能化ポリエチレングリコール(PEG)、システアミン、システイン、ホモシステイン、システインを含むジペプチド、ホモシステインを含むジペプチド、3つを超えるアミノ酸を有するペプチドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。いくつかの実施形態では、システインを含むジペプチドとしては、システイン-グリシンまたはシステイン-グルタミン酸が挙げられる。いくつかの実施形態では、ホモシステインを含むジペプチドとしては、ホモシステイン-グリシンまたはホモシステイン-グルタミン酸が挙げられる。
【0056】
いくつかの実施形態では、チオール官能化PEGは、約150~10,000ダルトンの範囲の分子量を有する。
【0057】
いくつかの実施形態では、リガンドは、蛍光色素とコンジュゲートすることができる。
【0058】
ナノ粒子は、それ自体で、または蛍光色素のために蛍光を発することができる。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、可視範囲、例えば、500nm~850nmの範囲で蛍光を発することができる。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、近赤外範囲、例えば、1000nm~1700nmの範囲で蛍光を発することができる。
【0059】
ナノ粒子は、水溶液または懸濁液の形態であり得る。水溶液または懸濁液は、ナノ粒子が凝集体を形成するのを防止するための剤をさらに含むことができる。
【0060】
一態様では、本開示は、対象の腎機能を評価する方法を提供し、本方法は、(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を対象に投与することと;(b)投与後の第1の期間後に対象から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと;(c)尿サンプルおよび/または血液サンプル中のナノ粒子を、特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて特性評価することと;(d)特性パラメータを、正常な腎機能を有する対照群について測定した対照特性パラメータと比較して、それによって腎機能を評価することと、を含む。
【0061】
別の態様では、本開示は、対象の腎機能を評価する方法を提供し、本方法は、(c)特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の複数のナノ粒子を投与された対象から第1の期間後に収集された尿サンプルおよび/または血液サンプル中の第1の複数のナノ粒子を特性評価することと、(d)特性パラメータを、正常な腎機能を有する対照群について測定した対照特性パラメータと比較して、それによって腎機能を評価することと、を含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、対照特性パラメータは、(e)第2の用量を有する第2の複数のナノ粒子を対照群に投与することと;(f)投与後の第1の期間後に、対照群から尿サンプルおよび/または血液サンプルを収集することと;(g)対照特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、尿サンプルおよび/または血液サンプル中のナノ粒子を特性評価することと、によって測定することができる。
【0063】
特性パラメータが対象の血液サンプル中で測定される場合、比較目的として、対照特性パラメータは、対照群の1つ以上の血液サンプル中でも測定される。同様に、特性パラメータが対象の尿サンプル中で測定される場合、比較目的として、対照特性パラメータは、対照群の1つ以上の尿サンプル中でも測定される。
【0064】
対照群は、正常な腎機能を有する1名以上の対象を含むことができる。いくつかの実施形態では、対照群は、正常な腎機能を有する約5~20名、約20~100名、約100~250名、約250~500名、約500~1,000名、またはそれらの組み合わせ、または1000名を超える対象を含み得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、投与は、静脈内、腹腔内、皮下、または動脈内である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は静脈内注射される。
【0066】
用量(例えば、第1の用量、第2の用量)は、ナノ粒子のタイプおよび/または特性パラメータを得る際に使用する技術に依存し得る。例えば、誘導結合プラズマ質量分析では、用量は、約10-9mmol/kg~約10-3mmol/kgの範囲であり得、磁気共鳴画像法では、用量は約0.01mmol/kg~約10mmol/kgの範囲であり、放射性検出では、用量は約10-11mmol/kg~約10-6mmol/kgの範囲であり得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、第1の用量は、第2の用量と同じである。いくつかの実施形態では、第1の用量は、第2の用量とは異なる。
【0068】
ナノ粒子は、対象に投与された後、対象の血流に入る。一定期間後、血流中のナノ粒子の少なくとも一部分が尿の一部として腎臓によって除去される。ナノ粒子の腎臓除去は、糸球体濾過、腎尿細管再吸収、腎尿細管分泌、またはそれらの組み合わせによるものであり得る。
【0069】
ナノ粒子は、腎機能障害または腎損傷を有する対象とは異なる方法で、正常な腎機能を有する対象の血液、腎臓、および/または尿と相互作用することができ、それにより、特性パラメータに有意差がもたらされる。したがって、いくつかの実施形態では、この方法は、特性パラメータが対照特性パラメータまたは参照値と有意に異なる場合に、腎機能障害または腎損傷を示すことをさらに含む。いくつかの実施形態では、腎機能障害または腎損傷は初期段階である。いくつかの実施形態では、腎機能障害または腎損傷は後期段階である。
【0070】
特性パラメータまたは対照特性パラメータを得るために使用する測定プロセスは、ナノ粒子の濃度を測定すること、ナノ粒子の量を測定すること、クリアランス効率を測定すること、ナノ粒子表面でのリガンドの組成を分析すること、ナノ粒子のサイズ分布を測定すること、ナノ粒子の吸収スペクトルを測定すること、ナノ粒子の発光スペクトルを測定すること、ナノ粒子の励起スペクトルを測定すること、ナノ粒子の光音響信号を測定すること、ナノ粒子の放射能すること、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上のプロセスを含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、測定プロセスは、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を含む。いくつかの実施形態では、測定プロセスは、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)を含む。
【0072】
測定プロセスに関連して、特性パラメータまたは対照特性パラメータは、ナノ粒子の濃度、ナノ粒子の量、クリアランス効率、ナノ粒子表面上のリガンドの組成、表面リガンドの一種、ナノ粒子のサイズ分布、ナノ粒子の表面電荷、ナノ粒子の吸収スペクトル、ナノ粒子の発光スペクトル、ナノ粒子の励起スペクトル、ナノ粒子の光音響信号、ナノ粒子の放射能、およびそれらの組み合わせからなる群から選択できる。
【0073】
腎機能障害または腎損傷が存在する場合、尿中のナノ粒子のクリアランス効率は、正常な腎機能を有する対照と比較して有意に異なる。例えば、図4および図15を参照されたい。理論によって束縛されることを望むものではないが、これはクリアランス効率が腎機能障害または腎損傷の機構に依存するためである。したがって、いくつかの実施形態では、特性パラメータは、対象の尿サンプル中のナノ粒子のクリアランス効率である。対照特性パラメータは、対照群の尿サンプル中のナノ粒子の対照クリアランス効率である。クリアランス効率が対照クリアランス効率と有意に異なる場合は、腎機能障害または腎障害を示す。
【0074】
いくつかの実施形態では、クリアランス効率は、対照クリアランス効率よりも有意に低い。例えば、クリアランス効率は、対照クリアランス効率の約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%または約10%である。
【0075】
いくつかの実施形態では、クリアランス効率は、対照クリアランス効率よりも有意に高い。例えば、クリアランス効率は、対照クリアランス効率の約105%、約110%、約115%、約120%、約125%、約130%、約135%、約140%、約145%、約150%、約155%、約160%、約165%、約170%、約175%、約180%、約185%または約190%である。
【0076】
腎機能障害または腎損傷が存在する場合、血液中のナノ粒子の濃度は、正常な腎機能を有する対照と比較して有意に異なる。例えば、図5を参照されたい。したがって、いくつかの実施形態では、特性パラメータは、対象の血液サンプル中のナノ粒子の濃度である。対照特性パラメータは、対照群の血液サンプル中のナノ粒子の対照濃度であり、濃度が対照濃度と有意に異なる場合は、腎機能障害または腎損傷を示す。
【0077】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子の濃度は、対照濃度よりも有意に低く、例えば、ナノ粒子の濃度は、対照濃度の約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、または約10%である。
【0078】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子の濃度は、対照濃度よりも有意に高く、例えば、ナノ粒子の濃度は、対照濃度の約105%、約110%、約115%、約120%、約125%、約130%、約135%、約140%、約145%、約150%、約155%、約160%、約165%、約170%、約175%、約180%、約185%、または約190%である。
【0079】
ナノ粒子表面は、血流中の循環中に、正常な腎機能を有する対照と比較して、腎機能障害または腎損傷を有する対象の血液中の異なる量の生物学的チオールを獲得する可能性がある。結果として、機能障害または損傷した腎臓から排泄されるナノ粒子の発光スペクトルは、正常機能を有する腎臓から排泄されるナノ粒子の発光スペクトルとは著しく有意に異なり得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、対照特性パラメータに依存する代わりに、比較の目的で参照値を使用することができる。参照値は、正常な腎機能を有する対照特性パラメータおよびその統計的平均を含むデータベースから取得することができる。いくつかの実施形態では、統計的平均は、算術平均、幾何平均、または調和平均である。いくつかの実施形態では、参照値は範囲であり得る。
【0081】
図14を参照すると、本開示の一実施形態が、腎機能を評価するための方法である方法800に示されている。この方法は、ステップ802において、評価または診断を行うために生きている対象から生きている腎臓を選択することによって始まり、次に、ステップ804において、生きている腎臓に接続している血管を介して生きている対象の血流にナノ粒子を投与し、これにより、生きている腎臓が血流を処理する。ステップ806において、血液サンプルは、第1の期間後、血流(生きている腎臓によって処理される)から収集される。あるいは、ステップ806において、尿サンプル(生きている腎臓によって処理される)が、第2の期間で生きている対象から収集される。採血または尿採取の期間は同じでも異なっていてもよい。
【0082】
収集後、ステップ808では、血液サンプルまたは尿サンプルは、適切な測定プロセスを使用して分析し、テスト中の生きている腎臓の特性パラメータを得る。ステップ803、805、807および809に示すとおり、正常な腎機能を有することが知られている腎臓の対照群の対照特性パラメータを測定する。
【0083】
次に、ステップ810において、測定された特性パラメータは、生きている腎臓の機能を評価し、決定する(または機能障害もしくは損傷を診断する)ために、対照特性パラメータと比較する。
【0084】
対照群については、正常に機能していることが知られている腎臓のセットが選択されることを理解されたい(ステップ803)。次に、ステップ805で、ナノ粒子は、対照群の少なくとも1つの腎臓に接続している血管に投与される。ステップ807において、血液サンプルまたは尿サンプルのうちの少なくとも1つは、ナノ粒子を投与した後の第1の期間(ステップ806と同じ第1の期間)後に収集されるか、またはナノ粒子を投与した後の第2の期間(ステップ806と同じ第2の期間)内の総尿サンプルを収集する。ここで、血液サンプルおよび尿サンプルは、少なくとも1つの腎臓によって処理される。ステップ809では、尿サンプルおよび血液サンプル中のナノ粒子は、ステップ808での同じ種類の測定プロセスを使用して特性評価し、少なくとも1つの腎臓の対照特性パラメータを得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、方法800は、ステップ808で開始してよく、一方、ステップ802、804、および806は、ステップ808および/またはステップ810とは別に実行してもよく、これは、医師もしくは看護師などの医療専門家または対象によって実行することができる。すなわち、本開示の方法は、診断ステップ808および/または810を含み、任意により、ステップ802、804、および806を含み得る。同様に、ステップ803、805、および807は、ステップ809および/またはステップ810とは別に実行することができ、これらのステップは、医師もしくは看護師などの医療専門家、または対象によって実行され得る。
【0086】
生きている腎臓の機能障害または損傷を診断するために適用される方法800は、BUN、血清クレアチニン、および尿タンパク質などの腎機能バイオマーカーが正常範囲にある場合、腎機能障害の初期段階の検出に特に感度が高い。生きている腎臓の機能障害は、薬物誘発性腎毒性などの急性腎疾患に限定されない。本明細書に記載の方法は、腎臓の機能障害が、ループスなどの自己免疫疾患;糖尿病、糸球体腎炎、または高血圧に関連する慢性腎疾患;腎不全;ループス腎炎などの腎臓の炎症性疾患;腎線維化;常染色体優性多発性嚢胞腎;免疫腫瘍学的治療;嚢胞性腎疾患;またはそれらの組み合わせの少なくとも1つによって引き起こされる場合にも適用可能である。
【0087】
いくつかの実施形態では、免疫腫瘍学的治療は免疫療法である。
【0088】
いくつかの実施形態では、腎損傷は、感染症、例えば、ウイルス感染症、細菌感染症、または寄生虫感染症によって誘発される。
【0089】
いくつかの実施形態では、腎損傷は、尿管損傷、ならびに尿管閉塞および尿管不連続性などの他の関連する尿管外傷によって引き起こされる。
【0090】
測定プロセスに加えて、採血は、1つの時点(投与後1時間または24時間など)、2つの時点(投与後5分および1時間など)、または複数の時点(投与後5分、1時間、および24時間など)で実施することができる。いくつかの実施形態では、血液サンプルは、投与の約5分から1時間後に収集される。
【0091】
測定プロセスに加えて、尿サンプルは、投与後約30分~1時間または約30分~24時間などの期間内に収集される。
【0092】
いくつかの実施形態では、尿サンプルは、移植のためにドナー腎臓の尿管から収集され得る。
【0093】
比較のステップでは、統計分析を適用して、2つのデータセット間に統計的に有意差があるか否かを判断する。対照特性パラメータと比較した場合、特性パラメータ(テスト中、生きている腎臓の場合)の統計的有意差は、腎機能障害または腎損傷を示す。
【0094】
本明細書に記載のナノ粒子はまた、特に腎機能障害もしくは腎損傷を有するか、または腎機能障害もしくは腎損傷を受けやすい、対象の腎機能を経時的に監視するために使用できる。
【0095】
したがって、一態様では、本開示は、対象の腎機能を監視する方法を提供し、本方法は、(a)第1の用量を有する第1の複数のナノ粒子を対象に投与することと;(b)ステップ(a)の投与後の第1の期間後に対象から第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプルを収集することと;(c)第1の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプル中のナノ粒子を特性評価することと;(d)ステップ(b)後の第2の期間後、第2の用量を有する第2の複数のナノ粒子を対象に投与することと;(e)ステップ(d)の投与後第3の期間後に対象から第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプルを収集することと;(f)第2の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプル中のナノ粒子を特性評価することと;(g)第1の特性パラメータを第2の特性パラメータと比較して、それにより、経時的に腎機能を監視することと、を含む。
【0096】
いくつかの実施形態では、第1の用量は、第2の用量と同じである。いくつかの実施形態では、第1の用量は、第2の用量とは異なる。
【0097】
さらに別の態様では、本開示は、対象の腎機能を監視する方法を提供し、本方法は、(c)第1の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第1の複数のナノ粒子を投与された対象から第1の期間後に収集された第1の尿サンプルおよび/または第1の血液サンプル中の第1の複数のナノ粒子を特性評価することと;(d)ステップ(c)後の第2の期間後、第2の特性パラメータを得るための測定プロセスを用いて、第2の複数のナノ粒子を投与された対象から第3の期間後に収集された第2の尿サンプルおよび/または第2の血液サンプル中の第2の複数のナノ粒子を特性評価することと;(e)第1の特性パラメータを第2の特性パラメータと比較して、それによって経時的に腎機能を監視することと、を含む。
【0098】
いくつかの実施形態では、第3の期間は、第1の期間と同じである。いくつかの実施形態では、第3の期間は、第1の期間とは異なる。
【0099】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、第1の期間は、尿サンプルの場合は約30分~2時間であるか、または血液サンプルの場合は約5分~1時間である。
【0100】
上記の態様のいずれか1つのいくつかの実施形態では、第3の期間は、尿サンプルの場合は約30分~24時間であるか、または血液サンプルの場合は約5分~24時間である。
【0101】
第2の期間および監視頻度は、腎機能障害または腎損傷の重症度によって異なる。急性腎疾患の場合、第2の期間は、約1時間~数週間、例えば、約1時間~30日、約1時間~4週間、約1時間~3週間、約1時間~14日、約1時間~7日、約4時間~30日、約4時間~14日、または約4時間~7日であり得る。慢性腎疾患の場合、第2の期間は、約数週間~数ヶ月、例えば、約2週間~12ヶ月、約2週間~6ヶ月、約2週間~5ヶ月、約2週間~4ヶ月、約2週間~3ヶ月、または約1ヶ月~3ヶ月であり得る。
【0102】
時間的監視の場合、2つを超える測定時点、例えば、少なくとも3つの時点、少なくとも4つの時点、または少なくとも5つの時点が存在し得る。
【0103】
本開示の様々な実施形態の記載は、例示の目的で提示されているが、網羅的であること、または開示された実施形態に限定されることを意図するものではない。記載された実施形態の範囲および趣旨から逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理、市場で見られる技術に対する実際の適用または技術的改善を最もよく説明するため、または当業者が本明細書に開示される実施形態を理解できるようにするために選択した。
【0104】
様々な実施形態が本明細書に記載され、図示されているが、機能を実行し、かつ/または結果かつ/または本明細書に記載の利点の1つ以上を得るための様々な他の手段および/または構造、ならびにそのような変形および/または修正のそれぞれが可能である。より一般的には、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成は、例であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、本開示が使用される特定の用途(複数可)に依存する。前述の実施形態は、例としてのみ提示されており、他の実施形態は、具体的に記載され、請求されている以外の方法で実施できることを理解されたい。本開示の実施形態は、本明細書に記載のそれぞれの個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法を対象としている。さらに、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に矛盾しない場合、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の2つ以上の任意の組み合わせが、本開示の発明の範囲に含まれる。
【0105】
また、様々な概念が1つ以上の方法として具体化され得、その例が提供されている。本方法の一部として実行される行為は、任意の適切な方法で順序付けることができる。したがって、例示的実施形態において連続的な行為として示されているとしても、行為は、図示とは異なる順序で実施される実施形態を構築することができ、これは、いくつかの行為を同時に実施することを含み得る。
【0106】
本明細書で定義され、使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書内の定義、および/または定義された用語の通常の意味を制御するように理解されるべきである。
【0107】
本明細書および特許請求の範囲で本明細書で使用される不定冠詞「a」および「an」は、反対に明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0108】
本明細書および特許請求の範囲で本明細書で使用される「および/または」という句は、そのように結合された要素、すなわち、ある場合には結合されて存在し、他の場合には分離して存在する要素の「いずれか一方またはその両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」で列挙された複数の要素は、同じ様式で解釈する必要があり、すなわち、そのように結合された要素のうちの「1つ以上」である。「および/または」節によって具体的に識別される要素以外の他の要素が、具体的に識別される要素に関連するか否かにかかわらず、任意により存在し得る。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む(comprising)」などの制限のない言語と組み合わせて使用される場合、一実施形態では、Aのみ(任意により、B以外の要素を含む);別の実施形態では、Bのみ(任意により、A以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、AおよびBの両方(任意により、他の要素を含む)を参照し得る。
【0109】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「または」は、上記で定義された「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を区切る場合、「または」もしくは「および/または」は、包括的であると解釈されるものとする。すなわち、要素の数または要素のリストの少なくとも1つを含むが、複数、および、任意により、列挙されていない追加の項目も含むものと解釈されるものとする。「のうちの1つのみ」または「正確に1つ」などの反対に明確に示される用語のみ、または特許請求の範囲で使用される場合、「からなる(consisting of)」は、要素の数または要素のリストの正確に1つの要素を含むことを指す。一般に、本明細書で使用される「または」という用語は、「いずれか」、「一方」、「の1つのみ」、または「正確に1つ」などの排他的用語が先行している場合、排他的な代替案を示すものとしてのみ解釈されるものとする(すなわち、「一方または他方であって、両方ではない」)。「本質的にからなる(Consisting essentially of)」は、特許請求の範囲で使用される場合、特許法の分野で使用される通常の意味を有するものとする。
【0110】
本明細書の明細書および特許請求の範囲で使用される場合、1つ以上の要素のリストに関連する「少なくとも1つ」という句は、要素のリスト内の要素の任意の1つ以上の要素から選択された少なくとも1つの要素を意味し、必ずしも要素のリスト内に具体的に列挙されているすべての要素の少なくとも1つを含む必要はなく、リスト内の要素の任意の組み合わせを除外するわけではないことが理解されるものとする。この定義はまた、「少なくとも1つ」という句が、具体的に特定された要素に関連するか否かに関わらず、参照する要素のリスト内で具体的に特定される要素以外の要素が、任意により存在し得ることが可能になる。したがって、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同等に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または同等に「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、少なくとも1つ、任意により2つ以上のAを含み、Bが存在しない(および任意によりB以外の要素を含む)、別の実施形態では、少なくとも1つ、任意により2つ以上のBを含み、Aが存在しない(および任意によりA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、少なくとも1つ、任意により2つ以上のAおよび少なくとも1つ、任意により2つ以上のBを含む(および任意により他の要素を含む)ことを指すことができる。
【0111】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、記載された参照値に類似する値の範囲を意味する。特定の実施形態では、「約」という用語は、記載されている参照値の10パーセント以下(例えば、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%)の範囲内にある値の範囲を指す。
【0112】
本明細書で使用される場合、「有意に」という用語は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%を意味する。
【0113】
本明細書で使用される場合、「腎クリアランス可能」という用語は、ナノ粒子またはナノ材料に適用される場合、ナノ粒子またはナノ材料が、注射用量の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%の1時間または2時間腎クリアランス効率を有することを意味する。いくつかの実施形態では、腎クリアランス可能なナノ粒子またはナノ材料は、注射用量の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、または少なくとも50%の1時間腎クリアランス効率を有する。いくつかの実施形態では、腎クリアランス可能なナノ粒子またはナノ材料は、注射用量の約5%~100%の範囲で1時間の腎クリアランス効率を有する。いくつかの実施形態では、腎クリアランス可能なナノ粒子またはナノ材料は、注射用量の約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約100%の1時間または2時間の腎クリアランス効率を有する。いくつかの実施形態では、腎クリアランス可能なナノ粒子またはナノ材料は、注射用量の約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約100%の1時間の腎クリアランス効率を有する。
【0114】
本明細書で使用される場合、「クリアランス効率」という用語は、投与後の特定の時点で尿中に排泄されるナノ粒子の量を、対象に投与されるナノ粒子の量で割ったものを意味する。そのため、クリアランス効率は時間に依存し得る。
【0115】
本明細書で使用される場合、「腎機能」という用語は、一般に、腎臓の機能状態を意味する。「腎機能」という用語は、健康な腎臓の機能(健康な腎機能)、または障害もしくは損傷を受けた腎臓の機能、または疾患もしくは障害を有する腎臓(損傷を受けた腎機能)を説明するために使用できる。一実施形態では、腎機能は、腎臓の排泄能力によって表される。
【0116】
本明細書で使用される場合、「腎機能障害」という用語は、腎臓の機能が健康な腎臓の機能を下回り、健康な腎臓の機能、例えば、対照が健康であるときの腎臓、または健康な対照の群の平均腎機能の約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、または約95%であることを意味する。
【0117】
本明細書で使用される場合、「初期段階」という用語は、腎機能障害、損傷、または疾患に適用される場合、腎機能障害、損傷、または疾患が、血清バイオマーカー(例えば、血中尿素窒素または血清クレアチニン)および尿バイオマーカー(例えば、尿タンパク、尿タンパク対尿クレアチニン比、または尿アルブミン対尿クレアチニン比)などの現在の腎損傷/機能バイオマーカーによって同定され得ないときの段階を意味する。
【0118】
本明細書で使用される場合、「後期段階」という用語は、腎機能障害、損傷、または疾患に適用される場合、腎機能障害、損傷、または疾患が、血清バイオマーカー(例えば、血中尿素窒素または血清クレアチニン)および尿バイオマーカー(例えば、尿タンパク、尿タンパク対尿クレアチニン比、または尿アルブミン対尿クレアチニン比)などの現在の腎損傷/機能バイオマーカーによって同定され得るときの段階を意味する。
【0119】
本明細書で使用される場合、「用量」という用語は、対象に投与されるナノ粒子の量を意味する。用量は、mg/kg(体重1キログラムあたりのナノ粒子のミリグラム)およびmmol/kg(体重1キログラムあたりのナノ粒子のミリモル)など、様々な単位を有し得る。
【0120】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒトまたは他の脊椎動物を意味する。いくつかの実施形態では、対象は、腎機能障害、損傷、または疾患を有するヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、腎機能障害、傷害、または疾患の影響を受けやすいヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、腎機能障害、腎損傷、もしくは疾患、例えば、自己免疫疾患または障害(例えば、関節リウマチ、ループス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、1型真性糖尿病、ギランバレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、乾癬、グレイブス病、橋本甲状腺炎、重力筋無力症、または血管炎)を引き起こしやすい疾患または障害に罹患しているヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、化学療法または免疫腫瘍学的治療など、疾患または障害の治療を受けているヒトである。化学療法薬の例としては、これらに限定されないが、アルキル化剤、ニトロソウレア、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、抗腫瘍抗生物質、ホルモン剤、および生物学的応答修飾剤が挙げられる。いくつかの実施形態では、対象は、免疫腫瘍学的治療を受けているヒトである。
【0121】
特許請求の範囲および上記の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「運ぶ(carrying)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「関与する(involving)」、「保持する(holding)」、「構成する(composed of)」などのすべての移行句は、オープンエンドである、これを含むがこれに限定されないことを意味するものと理解されたい。移行句「からなる(consisting of)」および「本質的にからなる(consisting essentially of)」のみが、United States Patent Office Manual of Patent Examining Procedures, Section 2111.03に記載のとおり、それぞれクローズドまたはセミクローズド移行句であるものとする。
実施例
【0122】
方法の実施形態および特性化データは、このセクションの例として示されている。
実施例1
【0123】
金ナノ材料は、in vivoでの疾患の診断および治療において広く研究されている。これらの材料は、X線イメージング用の造影剤として機能すること、または他の造影剤を罹患した臓器および組織に送達することが可能である。サイズが大きいかまたは血清タンパク質が吸着しているため、従来の金ナノ材料は、多くの場合、注射後、細網内皮系(RES)の臓器(肝臓および脾臓など)内に長時間蓄積する。例えば、金ナノ材料の肝臓への取り込みは、注射後24時間で約15~90ID%であった。金ナノ粒子は、多くの場合、生物学的環境で比較的不活性であるため、生体適合性があると見なされる。FDAは金ベースのナノ医薬品を承認していていないが、多くの種類の金ナノ粒子が現在前臨床開発中であり、2種類の金ナノ粒子CYT-6091およびAuroShellが癌治療の臨床試験でテストされている。
【0124】
金ナノ粒子の長期的な体内蓄積に関連する潜在的な毒性をさらに低下させるために、一連の腎クリアランス可能な金ナノ粒子が開発され、過去10年間に疾患診断への応用が行われた。例えば、腎クリアランス可能なグルタチオンコート金ナノ粒子(GS-AuNP)を合成し、これは、810nmで最大発光を示し、平均コアサイズ2.5nm、流体力学的直径は3.3nmを有する。各2.5nm GS-AuNPは、640の金原子を含む。従来の金ナノ材料とは異なり、これらのGS-AuNPは主に腎臓によって身体から排除された。静脈内注射の24時間後に、マウスまたは非ヒト霊長類の尿中に約50ID%が排泄された。GS-AuNPも生体適合性が高く、これらのナノ粒子の無毒性量(NOAEL)は、CD-1マウスで1000mg/kg超、カニクイザルで250mg/kg超と測定された。
【0125】
GS-AuNPが腎機能評価の外因性マーカーとして機能し得るかをテストするために、薬物誘発性急性腎損傷を理解するために最も広く使用されているモデルの1つであるシスプラチン誘発性急性腎障害モデルを使用した。簡潔に説明すると、16匹の雄CD-1マウス(30~35g、8~10週齢)を無作為に以下の2つの群に分けた:(1)12匹のマウスは0日目に15mg/kgのシスプラチンを単回腹腔内注射を受けた。(2)4匹のマウスは、0日目にリン酸緩衝生理食塩水(PBS、対照群)の単回腹腔内注射を受けた。シスプラチンを投与された4匹のマウスを無作為に選択して、1日目、2日目、3日目のGS-AuNPの腎クリアランスおよび血漿クリアランスをそれぞれ測定した。PBSの投与を受けた4匹のマウスを使用した対照研究は3日目に行った。183mg/kgのGS-AuNPをマウスに静脈内注射した。GS-AuNPの静脈内注射の1時間後に、尿、血液、および腎臓を収集して、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を使用してAuNPの1時間の腎クリアランス、血中濃度、および腎臓蓄積を測定した。さらに、BUNおよび血清クレアチニンの測定のために血清サンプルも収集した。腎臓は、組織の構造変化を同定するために、病理学的分析のためにプロセシングした。尿細管細胞アポトーシスは、シスプラチン誘発性急性腎障害に必須である病原性の役割を果たしているため、細胞アポトーシスは、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介ジゴキシゲニン-デオキシウリジンニック末端標識(TUNEL)染色を使用して調べた。
【0126】
TUNELアッセイを使用して、シスプラチン誘発性急性腎障害の2つの異なる段階を特定した。ステージIは、対照群の正常な腎臓においてアポトーシスがわずかであったのとは対照的に、シスプラチンを注射したマウスの腎臓組織でアポトーシスが同定された「初期段階」であるが(図1)、これらのマウスのBUNレベルおよび血清クレアチニンレベルは、対照群から得た正常範囲であった(図2および図3)。ステージIIは軽度の段階であり、ステージIと比較して腎臓でより顕著なアポトーシスを示し(図1)、正常対照よりもBUNレベルおよび血清クレアチニンレベルの有意な増加を呈した(図2および図3)。
【0127】
初期段階であるステージIでのBUNおよび血清クレアチニンのサイレンスとは対照的に、腎クリアランス可能なGS-AuNPのクリアランスは、シスプラチン誘発急性腎損傷モデルにおける腎臓の機能状態に対して高い感度を示した。対照群と比較して、シスプラチンモデルではGS-AuNPの尿中排泄が減少し、血液保持が延長された。GS-AuNPの1時間尿中排泄は、TUNELアッセイによって評価した腎臓のアポトーシスの程度と十分に相関していた。ICP-MSを使用して、尿中の金の量を測定した。1時間の腎クリアランス効率は、正常な腎機能を有する対照マウスの48.5±6.8ID%から、BUNおよび血清クレアチニンがサイレンシングしたときの初期段階(ステージI)での腎機能障害を有するマウスでは27.2±4.5ID%、軽度の腎機能障害を有するマウス(ステージII)では11.9±4.9ID%まで減少した(図4)。尿検査の結果と一致して、血液検査では、GS-AuNPの血中濃度がシスプラチン誘発性損傷の段階と十分に相関していることが示された。静脈内注射の1時間後、血中の金の量は、正常な腎機能を有する対照マウスの0.8±0.4ID%/gから、BUNおよび血清クレアチニンがサイレンシングしたときの初期段階(ステージI)での腎機能障害を有するマウスでは3.7±1.6ID%/g、および軽度の腎機能障害を有するマウス(ステージII)では3.4±0.5ID%/gまで増加した(図5)。さらに、GS-AuNPの腎臓蓄積の漸増は、腎損傷がより重篤になるにつれて、注射後1時間で見られた(図6)。また静脈内注射の1時間後、腎臓内の金の量は、対照群、ステージIのシスプラチンモデル、およびステージIIのシスプラチンモデルでは、それぞれ、組織1グラムあたり5.6±1.3、21.5±4.6、および29.8±2.6ID%(ID%/g)であった。
【0128】
さらに、尿中に排泄されたGS-AuNPの発光スペクトルには、対照群とシスプラチンモデルとの間の差も観察された。腎クリアランス可能な近赤外発光GS-AuNPは、810nmで最大発光を示し、身体内に導入される前は627nmで非常に弱い発光を示した(「注射前」、図7)。対照マウスに静脈内注射し、身体内で循環させ、尿中に排泄後、GS-AuNPは「注射前」と比較して627nmでの発光強度の6.8倍の増加を示した。これらのGS-AuNPのサイズに依存しない発光に関する以前の理解によれば、この627nmの劇的な増加により、AuNP上のチオールリガンドの表面被覆率の向上が示唆された。その理由は、身体内の循環中に生物学的チオールが金の表面に結合するためであり得る。シスプラチンモデルに関しては、尿中に排泄されたGS-AuNPは、「注射前」と比較して2.4倍増加した627nmの発光のみを示し、これは、シスプラチンモデルでは生物学的チオールのレベルが有意に低下したことを示唆している。
実施例2
【0129】
GS-AuNPの腎クリアランスおよび血漿クリアランスをループスによって引き起こされる腎機能障害の早期診断および監視に使用できるか否かをテストするために、ループスの堅牢な遺伝子マウスモデル-MRL/MpJ-Faslpr/J(MRL-lpr)を選択し、MRL/MpJマウスを対照として使用した。マウスはThe Jackson Laboratoryから購入した。MRL-lprループスマウスモデルは、腎臓の損傷などヒトループスの多くの臨床的特徴を再現しており、前臨床ループス研究で広く使用されている。ループスのこの遺伝的モデルでは、マウスの加齢と共に、腎臓の損傷が増加する。MRL-lprマウスの尿タンパクレベルは、尿タンパクの正常値(10~30mg/dL)と比較して、10週齢で10倍(283mg/dL)増加し、12~14週齢でさらに100倍(2200~2400mg/dL)増加した。これは、ループス腎炎の進行を示すものである(図8)。尿タンパクレベルの増加と一致して、このMRL-lprマウスは、10、12、および14週齢で、静脈内注射後のGS-AuNP(5mg/kg)の1時間腎クリアランスが、注射用量の53.8±1.2パーセントの正常値(ID%、n=4)から45.7、31.8、および9.4ID%まで徐々に減少し、これは、正常値と比較して、1時間腎クリアランスで15.0、40.9、および82.5%の減少に対応する(図9)。これらの結果は、GS-AuNPの腎クリアランスがループス腎炎の進行と共に減少したことを示しており、これは、尿中の金の量がループスによって引き起こされた腎臓の損傷を検出するために使用できることを意味する。興味深いことに、10、12、および14週齢で正常な尿タンパクレベルを有する3匹のMRL-lprループスマウス(図10)では、この期間中の時間と共に56.4±7.5から42.7±14.9および26.4±6.3ID%まで、GS-AuNPの1時間の腎クリアランスの劇的な減少が観察された(図11)。
【0130】
マウスが8週齢の場合、GS-AuNPの血液クリアランスを使用してループスモデルを対照群と区別する可能性もテストした。0日目に、尿タンパク質(タンパク尿)の測定のために尿サンプルを収集した。クレアチニン測定のために血清サンプルも収集した。1日目に、5mg/kg GS-AuNPをマウスに静脈内注射後、各マウスの血液を5分および1時間の時点で採取し、ICP-MSを使用して尿中の金を測定した。図12は、すべてのマウス(MRL-lprループスモデルおよび対照MRL/MpJマウスを含む)がタンパク尿でサイレンシングしていたことを示している。しかし、GS-AuNPの血液保持は、対照のMRL/MpJ群と比較してループスモデルで延長された(図13)。MRL-lprループスモデルと対照MRL/MpJマウスとの間で、5分での血中濃度と比較して1時間での腎クリアランス可能GS-AuNPの血中濃度の減少率(=[(5分での血中濃度-1時間での血中濃度)/5分での血中濃度]x100%)に有意差が見られた。
実施例3
【0131】
糸球体が損傷した場合、GS-AuNPの1時間の腎クリアランスは高い(通常値の53.8±1.2ID%よりも高い60~65ID%が観察された(図15))が、罹患マウスの尿タンパクレベルおよび対照の尿タンパクレベルはすべて60mg/dL未満であり、正常範囲内にある(図16)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】