(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-13
(54)【発明の名称】精製された凝固ジャガイモタンパク質製品、それを提供する方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20220406BHJP
【FI】
A23J3/14
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021549378
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 NL2020050104
(87)【国際公開番号】W WO2020171708
(87)【国際公開日】2020-08-27
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500561528
【氏名又は名称】コオペラティ・コーニンクレッカ・アヴェベ・ユー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マールテン・ホトセ・ウイルブリンク
(72)【発明者】
【氏名】ロビン・エリック・ヤコーブス・スペルブリンク
(72)【発明者】
【氏名】ニコラオス・ヴォギアジス
(57)【要約】
本発明は食品成分の分野に関する。特に、本発明は、好都合には食品製品の強化に使用される、望ましい味を有する高度精製された凝固ジャガイモタンパク質を提供する方法に関する。精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を提供する方法であって、(i)熱凝固ジャガイモタンパク質を、前記熱凝固ジャガイモタンパク質組成物からのグリコアルカロイド及び脂質の抽出を可能にする条件下で、(a)エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又は(b) プロパノール及び水を90:10から40:60(v/v)の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHのアルコール性抽出溶媒による1つ又は複数の抽出工程に供する工程と、それに続いて、(ii)抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質を水で洗浄して、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得る工程と、それに続いて、(iii)精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を乾燥させる工程とを含む、方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
150ppm未満のTGA及び(DSで)1.5%未満の脂質を含む、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を提供する方法であって
(i)熱凝固ジャガイモタンパク質を、前記熱凝固ジャガイモタンパク質組成物からのグリコアルカロイド及び脂質の抽出を可能にする条件下で、(a)エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又は(b)プロパノール及び水を90:10から40:60(v/v)の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHのアルコール性抽出溶媒による1つ又は複数の抽出工程に供する工程と、それに続いて
(ii)前記抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質を水で洗浄して、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得る工程と、それに続いて
(iii)前記精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を乾燥させる工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒が、(a)エタノール及び水又は(b)プロパノール及び水を、85:15から60:40(v/v)の範囲の比で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出溶媒が、エタノール及び水を、90:10から60:40(v/v)、好ましくは85:15から70:30(v/v)の範囲の比で含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出溶媒が、イソプロパノール(IPA)及び水を、90:10から40:60(v/v)、好ましくは90:10から50:50(v/v)の範囲の比で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
抽出が、4から5の範囲のpHで実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抽出工程(i)が、前記熱凝固ジャガイモタンパク質組成物を、抽出溶媒と、約30~200g/L、好ましくは80~150g/L、より好ましくは90~110g/Lの濃度で混合することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
抽出工程(i)が、前記アルコール/水混合物の沸点未満の温度、より好ましくは20から70℃の範囲、最も好ましくは20から60℃の範囲で実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
60~85体積%のエタノールを含む抽出溶媒が、4~6の範囲のpHで、好ましくは20から50℃の温度で使用される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
50~70体積%のIPAを含む抽出溶媒が、4~6の範囲のpHで、好ましくは20から50℃の温度で使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記アルコール性抽出溶媒を使用する、少なくとも2つの連続した抽出工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ又は複数の抽出工程が、連続プロセス又はバッチ式プロセスで実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(i)、(ii)、及び(iii)が、乾燥製品に対して測定して、20から300μmの間、好ましくは25から250μmの間、より好ましくは30から200μmの間の平均粒径分布(d50)を有する熱凝固ジャガイモタンパク質に対して実施される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質のpHを6.5以上の値に調整することを含まない、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
乾燥固形分に対して100ppm未満のトリグリコアルカロイド(TGA)、好ましくは80ppm未満のTGA、より好ましくは50ppm未満のTGA、及び乾燥固形分に対して0.3%未満の脂質、好ましくは0.2%以下の脂質、より好ましくは0.1%以下の脂質を含む、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品。
【請求項15】
ケルダールにより測定して少なくとも88%のタンパク質濃度を有する、請求項14に記載の精製された凝固ジャガイモタンパク質製品。
【請求項16】
- 乾燥製品に対して測定して5から70μmの間、好ましくは10から60μmの間、より好ましくは12から50μmの間のd10;
- 乾燥製品に対して測定して20から300μmの間、好ましくは25から250μmの間、より好ましくは30から200μmの間のd50;及び/又は
- 乾燥製品に対して測定して60から600μmの間、好ましくは150から500μmの間、より好ましくは200から450μmの間のd90
を有する、請求項14又は15に記載の精製された凝固ジャガイモタンパク質製品。
【請求項17】
食品、好ましくはヒトの食品、より好ましくは飲料又は組織化タンパク質製品の製造における、請求項14から16のいずれか一項に記載の精製された凝固ジャガイモタンパク質製品の使用。
【請求項18】
熱凝固ジャガイモタンパク質調製物の風味を改善するための、エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又はプロパノール及び水を90:10から40:60(v/v)の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHを有する溶媒混合物の使用。
【請求項19】
熱凝固ジャガイモタンパク質調製物の苦味及び/又は渋味を減少させるための、請求項18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品製品の強化を可能にする栄養タンパク質(nutritional protein)のような食品成分の分野に関する。特に、本発明は、望ましい(すなわち、ニュートラルな(neutral))味を有する、高度精製された凝固ジャガイモタンパク質粉末を提供する方法に関する。凝固ジャガイモタンパク質調製物及びその使用も提供される。
【背景技術】
【0002】
機能性タンパク質とは対照的に、栄養タンパク質は、広い適応性を可能にするために、それが使用される製品の食品化学及びレオロジーに最低限の影響を有するべきである。水結合以外の機能特性は望ましくない。発泡は、特に回避されるべきである。理想的には、このタンパク質は、非タンパク質成分を実質的に含まず、味がない (ニュートラルな味を有する)。
【0003】
ジャガイモタンパク質の固有の味覚印象は、それをもたらす4つの異なる成分:におい、基本的な味、食感、及び風味に関して最もよく記載される。においは、嗅覚により認識され得る、製品の揮発性成分を指す。基本的な味は、5つの基本的な味:甘味、酸味、塩味、苦味、及びうまみに区別できる、舌及び軟口蓋上の味覚受容体により検出される口の中の物質を指す。食感は、刺激、質感、及び温度を含む、製品により喚起される体性感覚シグナルを指す。製品が食べられると、製品の味、匂い、及び体性感覚シグナル(刺激、質感、温度)が一緒になって製品の風味を決定する。したがって、ヒトがこれらの別々な因子を区別することは困難である。ほとんどのヒトにとって、製品の味は、実際には、全体的な風味を指す。食品材料のよりきめ細かい評価には、特定の官能評価が必要である。
【0004】
製品の官能評価は、2種類の試験:分析試験及び快楽(hedonic)試験に分けられ得る。分析試験において、製品の官能的属性は、選択された、又は訓練されたパネルにより評価される。そのような分析は、製品の風味の異なる属性を、絶対的に又は参照製品に対してのいずれかで定量化しようとする。これらの属性は、におい、味覚、又は食感のレベルで存在し得る。ジャガイモタンパク質の風味におけるそのような属性の一般的な例は、基本な味のレベルでの苦味及び塩味;においレベルでの土臭さ、段ボール、ジャガイモ、及び干し草、並びに食感レベルでのザラザラ感(grittiness)、砂っぽさ、硬さ、及び粘着性である。快楽試験において、感覚特性に対する消費者の反応は、好きか嫌いかという点で測定される。官能分析の指針は、「Sensory Evaluation of Food, Principles and Practices」等の関連するハンドブックに見出され得る。
【0005】
ジャガイモは、栄養タンパク質を製造するための重要な源である。収穫直後に、ジャガイモは、約80パーセントの水及び20パーセントの乾物を含む。乾物の約60から80パーセントはデンプンである。乾燥質量基準では、ジャガイモのタンパク質含量は、穀類のタンパク質含量に類似し、他の根及び塊茎と比べて非常に高い。ジャガイモタンパク質は特にリジンに富むが、硫黄を含有するヒスチジンは小児にとってのタンパク質の質の制限因子である。3つの主なタンパク質の種類は、パタチンファミリー、43kDa糖タンパク質(ジャガイモタンパク質の38質量%まで)、5~25kDaタンパク質ファミリーのプロテアーゼ阻害因子(全ジャガイモタンパク質の50質量%まで)、並びに酸化酵素及び一般的により高い分子量を有する他の酵素である(Pouvreau, L.ら、J. Agric. Food Chem., 2001, 49, 2864-2874)。
【0006】
ジャガイモタンパク質は、デンプン工場廃水の可溶性乾物量の最大25%を占め、したがって、主要な汚染源である。通常使用される、廃水からのジャガイモタンパク質の回収は、pH調整を伴うか又は伴わない熱凝固である。凝固ジャガイモタンパク質は、フィルター、セパレーター、又はデカンターを使用して液相から分離でき、40~80%の水分を含むウェットケーキを与える。その後に、ウェットケーキを乾燥して、5~15%の含水量を有する非水溶性ジャガイモタンパク質を与えることができる。乾燥物質基準で計算して、熱凝固ジャガイモタンパク質製品は、約70~90質量%のタンパク質(N×6.25として計算)、約3~10質量%の脂質、約2~4質量%の炭水化物、及び1~3質量%の無機成分を含む。
【0007】
分離された湿潤熱凝固ジャガイモタンパク質及びそれから得られる乾燥された製品は、上述の栄養素に加えて、亜硫酸塩、グリコアルカロイド、水不溶性ポリフェノール、有機酸、糖、及び脂質の形態の混在物を含む。結果として、熱凝固ジャガイモタンパク質は、不快な味を欠点として有する傾向がある。いくつかの場合において、これらの混在物は、未精製のジャガイモタンパク質製品が成分として含まれている動物飼料組成物の用途において問題を呈し得る。
【0008】
グリコアルカロイドは、塩基性アグリコンにグリコシド結合した炭水化物からなる。ジャガイモタンパク質製品において、ソラニン及びチャコニンは、最も重要なグリコアルカロイドである。熱凝固された未精製のジャガイモタンパク質製品中のトリグリコアルカロイド(TGA)の総量は、(乾燥物質に対して)500から5000mg/kgの間で変わり得る。グリコアルカロイドが、ヒト又は動物により摂取されると中毒症状を起こし得ることは公知である。ソラニンは、中枢神経系におけるそのコリン-エステラーゼ阻害作用のために直接的な毒性を有する。動物飼料中のグリコアルカロイド含量が高過ぎる場合、飼料の拒絶及び成長の遅延等、望ましくない現象が起こり得る。更に、ソラニンは苦味を有し、摂取時に灼熱感を与える。
【0009】
ジャガイモ脂質は、ほとんどリン脂質及び糖脂質と関係する。脂肪酸は、圧倒的にリノール酸及びリノレン酸である。ジャガイモ中の正確な脂質測定は、脂質の急速な分解を考慮すると技術的に困難である。Punら(Potato Res. 1980, 23, 57-74)は、ジャガイモ脂質の概要を提供している。脂質分解を防ぐ予防的措置がない状態で、ジャガイモ脂質は、63.4%のリン脂質、21.3%の糖脂質、7.8%のトリグリセリド、及び9.1%の遊離脂肪酸を含むことが見出されている。ジャガイモ汁中にはリパーゼとオキシダーゼが一緒に存在しているので、典型的には、相当な程度の脂質分解及び酸化が引き起こされる。生じた分解及び酸化産物は、凝固ジャガイモタンパク質製品の不快な味及びにおいを発生させる「混在物」の少なくとも一部に相当すると考えられる。
【0010】
混在物の少なくとも一部を凝固ジャガイモタンパク質から除去する試みが当技術分野でなされてきた。例えば、出願人の名義のWO2017/142406は、凝固ジャガイモタンパク質が低電導度水により大規模に洗浄されて、糖、有機酸、及びアミノ酸等の「粘着性成分」が除去され、それほど「角化(keratinized)」されていない又は「角状(horny)」でない材料を得る方法を開示している。しかし、この方法は、熱凝固ジャガイモタンパク質の苦い異味及び/又は不快なにおいをもたらす成分を除去しない。
【0011】
洗浄工程を含む他の試みはDE2814922C2及びEP0700641A2に開示されており、それぞれ、凝固ジャガイモタンパク質からの脂質の除去における固有の困難さを克服する異なる手法を使用している。DE2814922C2の発明者らは、これらの困難さを、タンパク質粒子の周囲の硬化した、「角化」又は「角様」層の形成のためとしているが、それは、溶媒の大気圧沸点より高い温度で脂質をタンパク質から抽出しなければ克服できず、その沸騰は加圧により妨げられている。
【0012】
EP0700641A2は、タンパク質粒子が極めて微細な粉末に粉砕される異なる手順に従う。有機溶媒の存在下で、第1の抽出工程に50%までのEtOHを適用し、第2の抽出工程で中性からアルカリ性の水性アルコール溶媒の存在下で粒径を減少させて、微細な粉末は脂質抽出を改善し、不溶性タンパク質の水溶性ペプチドへの加水分解のための微細に分散した基質を形成する。しかし、ペプチドは苦いと認識されるので、加水分解されたタンパク質が味に対して悪影響を有する傾向があるため、可溶性ペプチドの形成は望まれない。更に、大規模な処理はコストの増加をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO2017/142406
【特許文献2】DE2814922C2
【特許文献3】EP0700641A2
【特許文献4】NL7612684
【特許文献5】NL7500083
【特許文献6】EP0839003
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Sensory Evaluation of Food, Principles and Practices
【非特許文献2】Pouvreau, L.ら、J. Agric. Food Chem., 2001, 49, 2864-2874
【非特許文献3】Punら、Potato Res. 1980, 23, 57-74
【非特許文献4】Straetkvernら、Bioseparation 1999, 7 (1), 333-345
【非特許文献5】Lausら、Food Anal. Methods 2017, 10, 845-853; Improved extraction and sample clean up of tri-glycoalkaloids α-solanine and α-chaconine in non-denatured potato protein isolates, https://doi.org/10.1007/sl2161-016-0631-2
【非特許文献6】EG 152-2009
【非特許文献7】ISO 3188:1978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明者らは、凝固ジャガイモタンパク質を精製する改善された方法を開発することに着手した。特に、本発明者は、少なくともTGA及び脂質を凝固ジャガイモタンパク質から経済的に実現可能な方法で除去することを目指した。例えば、方法は、最低限の工程を含み、それは周囲条件(温度、圧力等)下で実施でき、粉状化及び/又は発癌性の溶媒ヘキサン等の有害な溶媒の使用を伴わない。理想的には、生じるジャガイモタンパク質製品は、快い味を有し、タンパク質(例えば>87%)が多く、TGA(例えば、DSで100ppm未満)及び脂質(例えば、DSで1%未満)が非常に少ない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、これらの目標の少なくとも一部が、凝固ジャガイモタンパク質を、酸性条件下で水中の脂肪族アルコールの特定の水性混合物により洗浄又は抽出することにより満たされ得ることが見出された。より特定すると、グリコアルカロイドレベルと粗脂肪レベルの両方が、水中60~90体積%エタノール又は40~90体積%(イソ)プロパノールによる抽出時に、150ppm未満のTGA及び1.5%未満(DSで)の脂質に効率よく減少した。
【0017】
したがって、一実施形態において、本発明は、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を提供する方法であって、(i)熱凝固ジャガイモタンパク質組成物を、前記熱凝固ジャガイモタンパク質組成物からのグリコアルカロイド及び脂質の抽出を可能にする条件下で、エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又はプロパノール及び水を90:10から40:60の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHを有するアルコール性抽出溶媒による1つ又は複数の抽出工程に供する工程、それに続いて(ii)抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質組成物を水で洗浄して、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得る工程、それに続いて(iii)精製された製品を乾燥させて、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得る工程を含む、方法を提供する。
【0018】
本発明は、グリコアルカロイド及び脂質を凝固ジャガイモタンパク質製品から除去する方法であって、(i)熱凝固ジャガイモタンパク質組成物を、前記熱凝固ジャガイモタンパク質組成物からのグリコアルカロイド及び脂質の抽出を可能にする条件下で、エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又はプロパノール及び水を90:10から40:60の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHのアルコール性抽出溶媒による1つ又は複数の抽出工程に供する工程、それに続いて(ii)抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質組成物を水で洗浄して、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得る工程、それに続いて(iii)精製された製品を乾燥させて、精製された凝固ジャガイモタンパク質を得る工程を含む方法にも関する。
【0019】
一態様において、本発明は、150ppm未満のTGA及び(DSで)1.5%未満の脂質を含む、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を提供する。
【0020】
本発明の方法は、当技術分野においては教示も示唆もされていない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
NL7612684は、ジャガイモ汁から、及び凝固ジャガイモタンパク質から脂質を除去するための脂質溶媒の使用に関する。脂質溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、及びC1~C5脂肪族アルコールがある。抽出溶媒又は抽出混合物をpH3~6に調整することについては何も言及されていない。更に、NL7612684はTGA除去について言及していない。それどころか、それは、脂質を失ったジャガイモタンパク質を製造するのではなくジャガイモ脂質の抽出物を製造することを目指すので、ジャガイモタンパク質からのTGA抽出は望ましくないだろう。
【0022】
DE2814922C2は、不快な味を有する脂質様化合物を抽出するために、少なくとも70質量%の有機極性溶媒、例えばエタノール中のジャガイモタンパク質凝固物の懸濁液を高圧下で沸騰させることを開示している。NL7612684と同様に、凝固物は、「それ自体で」処理され、pH3~6の範囲で抽出を実施することについて何も言及されていない。Straetkvernら(Bioseparation 1999, 7 (1), 333-345)は、粗ジャガイモ塊茎汁に関して6.4のpHを報告している。ジャガイモタンパク質の熱凝固は、本質的に、同じ又は非常に類似したpHを有する凝固ジャガイモタンパク質を与えるだろう。
【0023】
NL7500083は、ジャガイモ汁から、当技術分野で公知であるタンパク質と比べて純粋で、改善された性質を有する凝固ジャガイモタンパク質を得る方法を提供する。タンパク質の凝集はpH4.6~5.1で行われ、温度はSO2の存在下で80~140℃である。ソラニンは、TGAであり、0.05~5%の酸を含む水溶液に凝固ジャガイモタンパク質を再懸濁させることにより、又は有機溶媒、例えばイソプロパノールを、その溶媒の沸点で使用することにより抽出される。アルコールと水との水性混合物は教示も示唆もされていない。NL7500083による方法により得られるジャガイモタンパク質製品の最終脂肪含量は約2質量%である。
【0024】
好ましくは、本発明による方法の工程(i)、(ii)、及び(iii)は、乾燥製品に対して測定して、少なくとも20μmの平均粒径分布(d50)を有する熱凝固ジャガイモタンパク質に対して、好ましくは20から300μmの間、より好ましくは25から250μmの間、更により好ましくは30から200μmの間のd50を有する凝固ジャガイモタンパク質に対して実施される。特に、乾燥工程を含めそれまでの本発明の方法は、好ましくは、(機械的)粒径減少、パルベレーション(pulveration)、つき砕き(pounding)、粉砕等を含まない。
【0025】
d10、d50、及びd90値は、粒径分布を表す一般的なパラメーターである。d50(Dv50とも称される)は体積メジアン粒径であり、粒子体積の半分がメジアン径を超える直径を有し、粒径体積の半分がメジアン径未満の直径を有する、分布を二等分するμmでの直径を示す。同様に、d10は、粒子体積の10%がd10未満の直径を有し、粒子体積の90%がd10を超える直径を有する、粒径分布を2つの(体積)部分に分けるμmでの直径を示す。d90は同様に定義され、粒子体積の90%がd90未満の直径を有し、粒子体積の10%がd90を超える直径を有する、粒径分布を2つの(体積)部分に分ける直径を示す。
【0026】
したがって、一実施形態において、本発明の方法により提供される精製された凝固タンパク質製品は、乾燥製品に対して測定して、5から70μmの間、好ましくは10から60μmの間、より好ましくは12から50μmの間のd10を特徴とする。それは、乾燥製品に対して測定して、20から300μmの間、好ましくは25から250μmの間、より好ましくは30から200μmの間のd50を更に特徴とする。タンパク質材料は、乾燥製品に対して測定して、60から600μmの間、好ましくは150から500μmの間、より好ましくは200から450μmの間のd90を更に特徴とする。
【0027】
なお更に、本明細書に提供される精製方法は、凝固ジャガイモタンパク質製品のpHをアルカリ性範囲、例えばpH6.5以上に調整することを含まない。これは、恐らくは、タンパク質と糖の間のメイラード反応、高pHでのフェノール酸の酸化、及び9を超えるpHで、ペプチド形成につながるタンパク質の加水分解、並びに/又はリジノ-アラニンの形成、糖の熱分解、及び脱アミノ化反応による異臭の形成による不快な味を最終生成物に与える成分の形成を回避する。
【0028】
これは、多数の抽出工程を含み、その一部が小さい(1~14μm)粒子に対してアルカリ性pHで実施される、EP0700641等の当技術分野で開示されているジャガイモタンパク質精製方法とは対照的である。
【0029】
本発明によると、ジャガイモタンパク質出発原料は、あらゆる種類の熱凝固ジャガイモタンパク質調製物でよい。典型的には、ジャガイモタンパク質は、ジャガイモからのジャガイモデンプンの回収における副生成物として得られる。機械的分離技法を使用するジャガイモデンプン製造において、ジャガイモは、ジャガイモデンプン、ジャガイモパルプ、及びジャガイモ果汁(PFJ)とも称されるジャガイモ汁、ジャガイモリカー(potato liquor)、又は屑に加工される。ジャガイモ汁中で、ジャガイモタンパク質分子は溶解した状態で存在する。ジャガイモタンパク質をジャガイモ汁から多少純粋な状態で単離する種々の可能性が存在する。通常、ジャガイモ汁は熱処理に供され、その結果としてジャガイモタンパク質分子は凝固し始める。この方法は、熱凝固(heat coagulation)又は熱凝固(thermal coagulation)と呼ばれる。
【0030】
典型的には、熱凝固ジャガイモタンパク質は、タンパク質が凝固するのに充分に長い時間、ジャガイモ(廃)汁を熱に曝露することを含む、当技術分野で公知である方法により得られる。これは、タンパク質を、少なくとも70℃、好ましくは少なくとも80℃、より好ましくは少なくとも90℃の温度に、又は更に100℃以上の温度に、数分間、好ましくは少なくとも30分間、より好ましくは少なくとも1時間、更により好ましくは少なくとも2時間、例えば30分~5時間又は1~4時間等の期間曝露することにより達成され得る。温度が高いほど、凝固に要する時間は短い。好ましい実施形態において、凝固は、100~110℃の温度で、1~60秒の期間、例えば4.5~6のpHで達成される。
【0031】
このように凝固された綿状のジャガイモタンパク質材料は、フィルター、セパレーター、又はデカンターにより液相から分離されて、ウェットケーキの形態の分離された湿潤ジャガイモタンパク質製品が生じ得る。この製品は、まだ40~80質量%の水分を含み、その後に5~15質量%の水分まで乾燥され得る。タンパク質凝固に続き、ジャガイモタンパク質は好ましくは乾燥されて、15質量%までの水分、より好ましくは10質量%までの水分を含む凝固ジャガイモタンパク質組成物が生じる。特定の態様において、熱凝固ジャガイモタンパク質出発原料は粉末である。
【0032】
乾燥物質基準で計算すると、熱凝固ジャガイモタンパク質製品は、一般的に、約70~90質量%のタンパク質(N×6.25として計算)、約3~10質量%の脂質、約2~4質量%の炭水化物、及び1~3質量%の無機成分を含む。
【0033】
特定の実施形態において、本発明の方法は、EP0839003に従って得られる熱凝固ジャガイモタンパク質製品を出発原料として使用する。その中で、ジャガイモ汁が分離された熱凝固ジャガイモタンパク質又はそれから得られる乾燥された製品は、1種又は複数の無機酸の1種又は複数の水溶液により処理される。好ましい無機酸として、リン酸、塩化水素酸、硫酸、又はこれらの酸の組合せがある。
【0034】
本発明の方法において、熱凝固ジャガイモタンパク質は、前記熱凝固ジャガイモタンパク質からのグリコアルカロイド並びに脂質の抽出を可能にする条件下で、エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又はプロパノール及び水を90:10から40:60の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHを有する抽出溶媒による1つ又は複数の抽出工程に供される。そのために、タンパク質凝固物は、好適には、本発明により定義されたアルコール性抽出溶媒に懸濁される。例えば、熱凝固ジャガイモタンパク質は、約30~200g/L、好ましくは80~150g/L、最も好ましくは90~110g/Lの濃度で抽出溶媒と混合される。
【0035】
抽出溶媒は、水及びC2~C3アルコール、すなわち水及びエタノール又はプロパノール(イソプロパノール又はn-プロパノール)を含む。2種以上のアルコールの組合せも包含される。
【0036】
一実施形態において、抽出溶媒は、(a)エタノール及び水又は(b)プロパノール及び水を、90:10から40:60(v/v)、好ましくは90:10から50:50(v/v)、より好ましくは85:15から60:40(v/v)の範囲のアルコール/水比で含む。
【0037】
エタノール(EtOH)、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール;IPA)、又はこれらの混合物を含む抽出溶媒により良好な結果が得られる。好ましい実施形態において、抽出溶媒は、エタノール及び水を含み、エタノール及び水を好ましくは90:10から60:40(v/v)、好ましくは85:10から60:40(v/v)、好ましくは85:15から70:30(v/v)の範囲の比で含む。例えば、抽出溶媒は、水中60%、65%、70%、75%、80%、又は85%のEtOHである。
【0038】
別の実施形態において、抽出溶媒は、IPAを、アルコールとして、好ましくは唯一のアルコールとして含む。好ましい実施形態において、抽出溶媒は、IPA及び水を、90:10から40:60(v/v)、好ましくは80:10から50:50(v/v)、好ましくは70:30から50:50(v/v)の範囲の比で含む。例えば、抽出溶媒は、水中40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、又は85%のIPAである。
【0039】
或いは、抽出溶媒は、水中40~90%の1-プロパノールである。例えば、抽出溶媒は、水中40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、又は85%の1-プロパノールである。
【0040】
更に別の実施形態において、抽出溶媒は、IPAとEtOHの両方を含み、全アルコール濃度は水中40~90%である。例えば、抽出溶媒は、水中40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、又は85%の(IPA+EtOH)である。
【0041】
次いで、ジャガイモタンパク質凝固物の抽出溶媒中の懸濁液は、3から6の範囲の所望のpHにされる。良好な抽出結果は、pH4~6、好ましくはpH4~5で得られる。pHを調整するための好適な酸としては、塩化水素酸、硫酸、リン酸、クエン酸、乳酸、酢酸、及びギ酸がある。
【0042】
pHを要求される値に設定した後、懸濁液は所望の抽出温度に加熱され得る。一実施形態において、抽出は、アルコール/水混合物の沸点未満の温度で実施される。好ましくは、それは、20から70℃の範囲、より好ましくは20から60℃の範囲で実施される。特に好ましい実施形態において、本発明の方法は、穏やかな温度、例えば室温で実施されるが、その理由は、これが最も簡単で費用対効果が高いからである。しかし、抽出は、特に比較的短い抽出期間を利用する場合、一般的に高温でより効果的である。好ましくは、抽出は、20~50℃で、pH4~5の水中60~90%(v/v)、好ましくは60~85%(v/v)のアルコールにより実施される。
【0043】
少なくとも1つの抽出工程は、指定される期間、好ましくは撹拌されながら実施される。本明細書に提供される方法は、少なくとも2つの連続した抽出工程を含み得る。2つ以上の連続した抽出工程が望まれる場合、第1の抽出工程は、好適には、遠心分離及び第1体積の抽出溶媒の除去により完了する。次いで、残渣は、同じ濃度の同じ溶媒混合物である必要はないが同じであってもよい第2の体積の抽出溶媒に再懸濁され、同じ条件で抽出される。このプロセスを、所望の程度の精製が得られるまで反復できる。本発明によると、抽出工程は、連続プロセスでも、バッチ式プロセスでも実施できる。一実施形態において、抽出は、並流、直交流、又は対向流で実施される。
【0044】
抽出段階の後には、抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質組成物を水で洗浄して、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得ることが続き、その後には、精製された製品を乾燥させて、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得ることが続く。
【0045】
例えば、懸濁液は再び遠心分離されて、最終体積の抽出溶媒が除去され、その後に、精製されたジャガイモタンパク質は、(水道)水への再懸濁により洗浄されて、全ての残存するアルコールが除去され、例えば少なくとも1時間撹拌され、遠心分離され、乾燥される。
【0046】
本発明の更なる実施形態は、本発明による精製方法により得ることが可能な又は得られる、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品に関する。そのような製品は、とりわけ、低いトリグリコアルカロイド(TGA)含量及びごく少量の脂質の存在を特徴とする。例えば、乾燥固形分で、100ppm未満のトリグリコアルカロイド(TGA)、好ましくは80ppm未満のTGA、より好ましくは50ppm未満のTGAを含む精製された凝固ジャガイモタンパク質製品が提供される。精製された凝固ジャガイモタンパク質製品は、1.5%未満の脂質、好ましくは1.0%未満の脂質、より好ましくは0.5%未満の脂質を含むことを更に特徴とする。一態様において、それは、0.3%未満の脂質、好ましくは0.2%未満の脂質、より好ましくは0.1%未満の脂質を含む。精製された凝固ジャガイモタンパク質製品は、水への低い溶解度を更に特徴とする。結果として、本明細書に提供される精製された凝固ジャガイモタンパク質製品は、快く、ニュートラルな味を有する。
【0047】
したがって、本発明は、熱凝固ジャガイモタンパク質調製物の風味又は味を改善するための、(a) エタノール及び水90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又は(b)プロパノール及び水を90:10から40:60(v/v)の範囲の比で含むアルコール性抽出溶媒の使用も提供する。一実施形態において、アルコール性抽出溶媒は、熱凝固ジャガイモタンパク質調製物の苦味及び/又は渋味を減少させるために使用される。本明細書において上記に開示されたアルコール性溶媒混合物の選択は、そのような使用に適用可能である。
【0048】
凝固ジャガイモタンパク質から脂質材料を除去する固有の困難さが、脂質残渣の定量化に適用できる方法の範囲を限定している。脂質材料の量の信頼できる分析は、脂質のグリセロール部分と脂肪酸鎖のカルボキシル基の間のエステル結合を加水分解し、それに続いて無極性抽出及び遊離した脂肪酸の重量分析により実施できる。
【0049】
本発明の精製されたジャガイモタンパク質製品は、高タンパク質含量を更に特徴とし、そのため、例えば食品の製造におけるタンパク質源としての良好な適応性を確実にする。一実施形態において、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品は、ケルダールにより測定して、少なくとも88%、好ましくは少なくとも89%、より好ましくは少なくとも90%の(乾燥固形分に対する)タンパク質濃度を有する。
【0050】
一実施形態において、本発明による精製された凝固ジャガイモタンパク質製品は、(乾燥製品に対して測定して)以下の粒径分布を特徴とする:
- 5から70μmの間、好ましくは10から60μmの間、より好ましくは12から50μmの間のd10、
- 20から300μmの間、好ましくは25から250μmの間、より好ましくは30から200μmの間のd50、及び/又は
- 60から600μmの間、好ましくは150から500μmの間、より好ましくは200から450μmの間のd90。
【0051】
当業者は、本発明の精製された凝固ジャガイモタンパク質製品が、様々な工業用途を有することを認識するだろう。本明細書で上記に示された通り、それは、好都合には、食品、好ましくはヒトの食品、より好ましくは飲料又は組織化(texturized)タンパク質製品の製造に使用される。
【0052】
食品の調製において、本発明の精製されたタンパク質製品は、粒径又は粒径分布を更に調節せずに使用できる。典型的には、d-50は20μmを超え、75μm未満である。押出技法は、この形態の処理を受けやすくするために充分に大きい粒径を要するので、本発明のジャガイモタンパク質凝固物は、例えば、テクスチャード(textured)食品を調製するために、押出に先立って集塊され得る。一実施形態において、組織化製品における用途のための精製されたジャガイモタンパク質凝固物は、100から250μmの範囲のd50を有する粒径を有する。例えば、精製されたジャガイモタンパク質製品は、スナック、例えばプロテインクリスプを含む、組織化タンパク質を含む食品に組み込まれる。
【0053】
他の用途向けには、粒径は、熱凝固タンパク質の摂取によりしばしば起こるザラザラした感覚を避けるために、好ましくはより小さい。規定された粒径分布を有するジャガイモタンパク質粉末は、精製されたジャガイモタンパク質凝固物を、ふるい分け又はウィンドシフティングを含む、当技術分野における他の公知の(分別)技法に供することによっても得られ得る。
【0054】
飲料用途では、本発明の精製されたジャガイモタンパク質は粉砕されて、約20から30μmの範囲の粒径d-50が得られ得る。したがって、本明細書に開示された精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を含む食品も提供される。
【0055】
実験セクション
方法:実験室規模で凝固ジャガイモタンパク質をアルコールにより洗浄する
【0056】
単一のバッチに由来する典型的な熱凝固ジャガイモタンパク質製品を、種々の異なる抽出状況を含む精製方法における出発原料として使用した。このバッチは、基本的にEP0839003Bl、1ページ、22~31行に記載される通り製造され、Avebe社により商品名Protamylで飼料用のジャガイモタンパク質として販売された。実験に使用した特定のバッチは、91.5%の乾燥固形(DS)含量、DSで83.4%のタンパク質含量、1774ppmのTGA含量、及びDSで3.0%の脂質含量を特徴とした。
【0057】
全てのタンパク質抽出及び洗浄工程は、他に示されない限り、0.5Lガラスボトル内で、400mlの試料体積を使用し、90~120g/Lのタンパク質固形含量で実施した。各実験は、1又は2つの連続した洗浄工程を含み、アルコールと水の比はvol:volで示された。懸濁液のpH値を、直前に較正したpHメーター(WTW社Inolab)により記録して、5M HClかNaOHかを使用して適切なレベルに調整した。
【0058】
アルコールは、イソプロパノール(GPR RECTAPUR(登録商標)、VWR Chemicals社)、1-プロパノール(EMPLURA(登録商標)、Merck社)、又はエタノール(Technisolv、VWR社)のいずれかであった。
【0059】
抽出の温度は、温度制御された振とう水槽中で制御した。1又は2つのアルコール/水洗浄工程の後で、1又は2つのいずれかの最終洗浄工程を、脱塩水中10質量%のタンパク質濃度で水により実施し、次いで、それを、アルコール/水洗浄工程と同じ温度で の間インキュベートして、全体として3つの洗浄工程とした。各洗浄工程の後に、タンパク質固形物を、Heraeus Multifuge 1S-Rでの遠心分離(室温で4,000rpmで10分)により回収し、液体を、デキャンティングにより除去した。洗浄したタンパク質製品を、10%以下の含水量に達するまで、炉内で2~3日間50℃で乾燥させた。得られたタンパク質粉末を、方法のセクションに記載の通り、粗脂質、TGA、及びタンパク質分析に供した。報告する分析値は全て、乾物量に対するパーセンテージ又はmg/kg(ppm)として計算する。
【0060】
タンパク質製品の組成の分析は、標準的手順に従って実施した。
【0061】
TGAレベルは、Lausら(Laus et al, Food Anal. Methods 2017, 10, 845-853; Improved extraction and sample clean up of tri-glycoalkaloids α-solanine and α-chaconine in non-denatured potato protein isolates, https://doi.org/10.1007/sl2161-016-0631-2)により記載される通りオンラインSPE-HPLCにより、α-ソラニン(Sigma-Aldrich社、Germany)及びα-チャコニン(Carl Roth GmbH社、Germany)の市販の標準品を使用して測定した。
【0062】
粗脂肪(脂質)含量は、酸加水分解の後で、石油エーテルを使用するソックスレー抽出及び重量検出(EG 152-2009に準拠)により測定した。
【0063】
乾燥固形含量は、Mettler Toledo HR83 Moisture Analyzer装置を使用して熱重量分析により測定した。
【0064】
タンパク質含量は、基本的にISO 3188:1978に記載される通り、L-トリプトファンを標準としてケルダール窒素分析により測定した。使用した換算係数はN×6.25であった。
【0065】
実験条件及び得られた組成を以下の実施例に示す。
【0066】
(実施例1)
抽出効率に対するpHの影響
この実施例は、NL7500083に従って室温での精製方法に100%IPAを使用することにより、脂質が部分的にしか除去されず、TGAレベルがまだ高過ぎることを示す。それは、本発明に従ってIPAと水との混合物を使用し、抽出溶媒のpHを改変することにより、脂質とTGAの両方の抽出が最適化され得ることを更に示す。結果をTable 1(表1)に示す。60%IPAで、最適化された条件がpH4~5で見出された。
【0067】
【0068】
(実施例2)
抽出有効性に対するアルコール/水比の影響
Table 2a(表2)は、抽出をpH3で実施する場合の抽出溶媒のアルコール/水比の影響を示す。30%IPAで、TGAが効率よく除去されるが、脂質はそうではない。60%IPAで、TGAと脂質の両方が効率よく抽出される。90%IPAで、TGA除去の有効性は再び減少する。
【0069】
【0070】
Table 2b(表3)は、抽出をpH6で実施する場合のアルコール/水比の影響を示す。40%IPAを超えると、TGA抽出と脂質抽出の両方が効率よく実施される。90%IPAで、TGAの効率のよい除去に関する上限が達成される。
【0071】
【0072】
Table 2c(表4)は、抽出を最適化されたpH4で実施する場合のアルコール/水比の影響を示す。pH6と同様に、少なくとも40%のIPAを含む抽出混合物が、脂質とTGAの両方の効率のよい除去に好都合に使用される。
【0073】
【0074】
(実施例3)
抽出有効性に対する温度の影響
Table 3(表5)は、高温で類似の結果が得られ、pH4から5で60%IPAでのIPAと水との混合物を使用する場合のTGA及び脂質をジャガイモタンパク質から除去するための優れた抽出条件を確認したことを示す。
【0075】
【0076】
Table 3(表5)から導き出すことができるように、高温にもかかわらず、100%IPAは、依然として、TGA及び脂質を所望のレベルまで除去しない。さらに、30%IPA溶媒は、より低い濃度範囲を示し、これは、より高い温度でも、これが、TGA及びより具体的には脂質を所望のレベルまで除去しないからである。
【0077】
(実施例4)
抽出有効性に対する他のC1~C4アルコールの影響
Table 4(表6)は、IPA以外のC1~C3アルコールとの水性混合物も、TGA含量と脂質含量の両方の所望の減少をもたらすことを表す。
【0078】
【0079】
(実施例5)
EtOH/水抽出溶媒を使用する抽出
脂肪(脂質)及びTGAの除去に対する、水中60、70、80、又は90体積%からなる抽出溶媒による単一の抽出の影響を評価した。また、EtOH/水(体積比で50:50%)による単一及び2回の抽出を実施した(比較例)。全試験は、pH6で、室温で実施した。1176ppmのTGA及び2.2質量%の脂質(脂肪)を含むProtamylを出発原料として使用した。結果をTable 5(表7)に示す。
【0080】
【0081】
水中50体積%エタノールによる抽出後に、脂肪除去は全く測定されなかった。60体積%では、性能は増加し、70体積%以上では、単一の抽出工程が、0.2%以下の所望のレベルへの脂肪の除去に充分であった。脂肪除去の効率は、エタノール濃度と共に増加し、80%で最適であった。
【0082】
TGA除去に関して、エタノール濃度は、50~80%の範囲で非常に似た性能を有し、全てはTGAの89~90%を除去したが、90体積%エタノールによる洗浄は、わずかに悪い性能を与えた。50~80体積%での単一のエタノール洗浄が、150ppm未満のTGAレベルに達するのに充分であったが、90:10から60:40の範囲のEtOHと水の比でのみ、TGA含量と脂質含量の両方が望ましいレベルに減少した。
【0083】
(実施例6)
代表的な出発原料及び精製されたジャガイモタンパク質凝固物の粒径分布
この実施例は、代表的な出発原料の典型的な粒径分布並びに本発明の抽出方法により得ることができる精製されたジャガイモタンパク質凝固物の粒径分布を表す。
【0084】
抽出は、本明細書の上記の実験セクションに記載の通りアルコール性抽出溶媒を使用して実施したが、全抽出を、2.5Lの試料体積及び100g/Lのタンパク質固形含量で、スターラーを備えた5Lガラスビーカー内で大規模に実施した点が異なった。pH6及び室温でアルコール/水抽出溶媒を使用するそれぞれ1時間の2つの連続した抽出工程の後、100g/Lのタンパク質固形濃度での1時間の間の水による最終洗浄工程を実施した。
【0085】
洗浄したタンパク質製品を、10質量%の乾燥固形濃度まで水道水に再懸濁させ、その後に、ロータリーディスクノズルを30.000rpmの回転速度で使用してAnhydro Compactスプレードライヤー(Copenhagen、Denmark)により乾燥させた。入口温度は175℃であり、出口温度は75℃であった。最終的な乾燥粉末の粒径分布(PSD)を乾燥状態及び湿潤状態で評価した。以下の表中に示されるPSD値はいずれも2回の測定の結果である。
【0086】
出発原料、中間体、又は最終生成物の粒径分布は、レーザー回折を利用して測定し、粒径データをフラウエンホーファー(Frauenhofer)法により計算した。この計算を実施するために使用したソフトウェアは、WINDOX 5.6.2.0、HRLDである。
【0087】
湿潤粒径分布を、Quixelウェットディスペンサーを備えたSympatec HELOSでレーザー回折により測定した。そのために、乾燥試料を、10から25%の範囲のレーザー掩蔽(laser obscuration)レベルが得られるまで、水で満たした試料チャンバーに加えた。測定を、25℃±2℃で、およそ20秒の継続期間で実施した。キュベットは6mmのサイズを有した。
【0088】
乾燥ジャガイモタンパク質試料の粒径分布を、振動フィーダーが付いたRODOSドライディスペンサーを備えたSympatec HELIOSを使用して、レーザー回折により測定した。RODOSディスパーシングライン(disersing line)は、4mmの内径を有する。
【0089】
【0090】
【手続補正書】
【提出日】2020-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
150ppm未満の
トリグリコアルカロイド(TGA)及び(DSで)1.5%未満の脂質を含
有する、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を提供する方法であって、
(i)熱凝固ジャガイモタンパク質を
、熱凝固ジャガイモタンパク質組成物からのグリコアルカロイド及び脂質の抽出を可能にする条件下で、
約30~200g/Lの濃度の熱凝固ジャガイモタンパク質を、(a) エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又は(b)プロパノール及び水を90:10から40:60(v/v)の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHのアルコール性抽出溶媒と
混合することを含む1つ又は複数の抽出工程に供する工
程、それに続いて
(ii)前記抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質を水で洗浄して、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を得る工
程、それに続いて
(iii)前記精製された凝固ジャガイモタンパク質製品を乾燥させる工
程
を含む、方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒が、(a)エタノール及び水又は(b)プロパノール及び水を、85:15から60:40(v/v)の範囲の比で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出溶媒が、エタノール及び水を、90:10から60:40(v/v)、好ましくは
90:10から70:30(v/v)の範囲の比で含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出溶媒が、イソプロパノール(IPA)及び水を、90:10から40:60(v/v)、好ましくは90:10から50:50(v/v)の範囲の比で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
抽出が、4から5の範囲のpHで実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抽出工程(i)が、前記熱凝固ジャガイモタンパク質組成物を、抽出溶媒と
、80~150g/L
、好ましくは90~110g/Lの濃度で混合することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
抽出工程(i)が
、アルコール/水混合物の沸点未
満の、より好ましくは20から70℃の範囲
の、最も好ましくは20から60℃の範囲
の温度で実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
50~70体積%のIPAを含む抽出溶媒が、4~6の範囲のpHで、好ましくは20から50℃の温度で使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
60~85体積%のエタノールを含む抽出溶媒が、4~6の範囲のpHで、好ましくは20から50℃の温度で使用される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記アルコール性抽出溶媒を使用する、少なくとも2つの連続した抽出工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ又は複数の抽出工程が、連続プロセス又はバッチ式プロセスで実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(i)、(ii)、及び(iii)が、乾燥製品に対して測定して、20から300μmの間
の、好ましくは25から250μmの間
の、より好ましくは30から200μmの間の平均粒径分布(d50)を有する熱凝固ジャガイモタンパク質に対して実施される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、前記抽出された熱凝固ジャガイモタンパク質のpHを6.5以上の値に調整することを含まない、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
乾燥固形分に対して100ppm未満のトリグリコアルカロイド(TGA)、好ましくは80ppm未満のTGA、より好ましくは50ppm未満のTGA、及び乾燥固形分に対して0.3%未満の脂質、好ましくは0.2%以下の脂質、より好ましくは0.1%以下の脂質を含む、精製された凝固ジャガイモタンパク質製品。
【請求項15】
ケルダールにより測定して少なくとも88%のタンパク質濃度を有する、請求項14に記載の精製された凝固ジャガイモタンパク質製品。
【請求項16】
- 乾燥製品に対して測定して5から70μmの間
の、好ましくは10から60μmの間
の、より好ましくは12から50μmの間のd10;
- 乾燥製品に対して測定して20から300μmの間
の、好ましくは25から250μmの間
の、より好ましくは30から200μmの間のd50;及び/又は
- 乾燥製品に対して測定して60から600μmの間
の、好ましくは150から500μmの間
の、より好ましくは200から450μmの間のd90
を有する、請求項14又は15に記載の精製された凝固ジャガイモタンパク質製品。
【請求項17】
食品、好ましくはヒトの食品、より好ましくは飲料又は組織化タンパク質製品の製造における、請求項14から16のいずれか一項に記載の精製された凝固ジャガイモタンパク質製品の使用。
【請求項18】
熱凝固ジャガイモタンパク質調製物の風味を改善するための、エタノール及び水を90:10から60:40(v/v)の範囲の比で又はプロパノール及び水を90:10から40:60(v/v)の範囲の比で含む、3から6の範囲のpHを有する溶媒混合物の使用。
【請求項19】
熱凝固ジャガイモタンパク質調製物の苦味及び/又は渋味を減少させるための、請求項18に記載の使用。
【国際調査報告】