(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-13
(54)【発明の名称】機械用シール組立品の等方性仕上げ加工を施したシールリングを作製するための方法および器具
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20220406BHJP
【FI】
F16J15/34 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549480
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(85)【翻訳文提出日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 US2020017816
(87)【国際公開番号】W WO2020176256
(87)【国際公開日】2020-09-03
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391020193
【氏名又は名称】キャタピラー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォン、パオ
(72)【発明者】
【氏名】ハース、コナー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】エヴリー、ジョセフ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルテンテン、ダニエル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】スパングラー、ジョン エム.
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA07
3J041BC02
3J041DA14
3J041DA20
(57)【要約】
【解決手段】 シール組立品(30、36)用のシールリング(111、112)は、本体(240)およびシールフランジ(137)を含む。本体(240)は概して円筒形であり、負荷端部(131)とシール端部(132)との間で長手方向軸(LA)に沿って延在する。シールフランジ(137)は、本体(240)のシール端部(132)に隣接して配置され、本体(240)から包囲する様態で半径方向に突出する。シールフランジ(137)は、篏合するシールリング(111、112)と封止接触するための封止バンド(140)を有する封止面(136)を含む。シールリング(111、112)の耐食性を高めるのに役立つように考案されたコーティング組成物の層(142)が、少なくとも本体(240)に塗布される。マスク(300、400)が、シールリング(111、112)に適用されて、それに塗布されたコーティング組成物の層(142)を有するシールリング(111、112)の少なくとも一部分を、封止バンド(140)が露出したままになるように覆う。封止バンド(140)は、等方性仕上げ加工プロセスによって研磨される。マスク(300、400)は、封止バンド(140)が等方的に研磨された後、取り外される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール組立品(30、36)用のシールリング(111、112)の作製方法であって、
前記シールリング(111、112)を作製することであって、前記シールリング(111、112)が、負荷端部(131)、シール端部(132)、載荷面(134)、および封止面(136)を含み、前記負荷端部(131)および前記シール端部(132)が、長手方向軸(LA)に沿って相互に離隔した関係にあり、前記載荷面(134)が、前記負荷端部(131)と前記シール端部(132)との間で前記長手方向軸(LA)に沿って延在し、前記封止面(136)が、前記シール端部(132)に配置され、かつ環状であり、前記封止面(136)が、前記長手方向軸(LA)に対して半径方向に延在する、作製することと、
前記シールリング(111、112)の外面(143)の少なくとも一部分に、コーティング組成物の層(142)を塗布することと、
前記シールリング(111、112)の前記封止面(136)を機械加工して、封止バンド(140)を画定することと、
コーティング組成物の前記層(142)が塗布された後、前記シールリング(111、112)の前記外面(143)に塗布された前記コーティング組成物の前記層(142)の少なくともある領域上にマスク(300、400)を定置することであって、前記マスク(300、400)が前記封止バンド(140)からずらされて、前記封止バンド(140)が露出したままになるように、前記マスク(300、400)が前記封止バンド(140)に対して位置付けられる、定置することと、
前記マスク(300、400)が定置された後、前記封止バンド(140)を等方性仕上げ加工プロセスに供することによって、前記封止バンド(140)を研磨することと、を含む、作製方法。
【請求項2】
前記シールリング(111、112)が、シールリング材料から作製され、コーティング組成物の前記層(142)が、前記シールリング材料より耐食性が高い、請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
コーティング組成物の前記層(142)がリン酸マンガンを含む、請求項1に記載の作製方法。
【請求項4】
前記マスク(300、400)が、前記シールリング(111、112)をマスキング部材(310、410)内に配置することによって適用され、前記マスキング部材(310、410)が、円周溝(321、322;421、422)を画定し、前記シールリング(111、112)の前記負荷端部(131)が、前記円周溝(321、322;421、422)内に配置される、請求項1または請求項2に記載の作製方法。
【請求項5】
前記マスキング部材(310、410)が、前記等方性仕上げ加工プロセスで使用される研磨媒体と非反応性であり、かつ60ショアA以下のデュロメーター硬度を有する、耐酸性材料から作製される、請求項4に記載の作製方法。
【請求項6】
前記マスキング部材(310、410)によって画定される前記円周溝(321、322;421、422)が、前記載荷面(134)が覆われ、前記封止バンド(140)を含む前記封止面(136)の一部のみが露出する状態で、前記シールリング(111、112)が前記円周溝(321、322;421、422)内に配置されるように構成される、請求項4に記載の作製方法。
【請求項7】
前記マスキング部材(310、410)が、プロトタイプシールリングを逆成形することによって作製される、請求項6に記載の作製方法。
【請求項8】
前記マスキング部材(410)が、第一のマスキング部品(431)および第二のマスキング部品(432)を含み、前記第一のマスキング部品(431)が、内側側壁(437)と、円形凹部(441)を画定する基部(438)とを含み、前記第二のマスキング部品(432)が、外周部(444)を有し、前記第二のマスキング部品(432)は、前記第二のマスキング部品(432)が、前記第一のマスキング部品(431)の前記円形凹部(441)内に位置付け可能に構成され、前記第一のマスキング部品(431)の前記内側側壁(437)と、前記第二のマスキング部品(432)の前記外周部(444)とが一緒に協働して、前記円周溝(421)を画定する、請求項6に記載の作製方法。
【請求項9】
前記マスキング部材(410)が、前記等方性仕上げ加工プロセスで使用される研磨媒体と非反応性であり、かつ100ショアA以下のデュロメーター硬度を有する、耐酸性材料から作製される、請求項8に記載の作製方法。
【請求項10】
シール組立品(30、36)の環状シールリング(111、112)の作製方法で使用するための器具であって、前記環状シールリング(111、112)が負荷端部(131)、シール端部(132)、載荷面(134)、および封止面(136)を有し、前記載荷面(134)が負荷端部(131)とシール端部(132)の間で軸方向に延在し、前記封止面(136)がシール端部(132)において半径方向に延在し、かつ前記封止面(136)が封止バンド(140)を有する、器具であって、
マスキング部材(310、410)であって、円周溝(321、322;421、422)を画定する、前記マスキング部材(310、410)を備え、
前記円周溝(321、322;421、422)が、前記負荷端部(131)が前記円周溝(321、322;421、422)内にあり、前記載荷面(134)が前記マスキング部材(310、410)によって覆われ、かつ前記封止バンド(140)が露出される状態で、前記環状シールリング(111、112)が前記円周溝(321、322;421、422)内に配置可能に構成される、器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許開示は、概して、機械類用のシール組立品のシールリングに関し、より具体的には、等方性仕上げ加工が施された一対のシールリングを介した回転的な面対面接触関係を有するシール組立品のシールリングに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
オフハイウェイトラックなどの機械内のシール環境は、例えば、相対移動可能な構成要素間の高圧、高速、および高度のたわみを含む可能性がある。シールされた空洞内に潤滑剤を保持し、かつシールされた空洞内に配置された相対的に移動している部品間のベアリング表面から異物を排除するために採用される種類のシール組立品は、相対的に回転している硬質材料のシール部品の合せ面によって封止が達成される、面タイプのシールを備えることができる。面対面接触の状態で相対的に回転する2つのリングを採用するシールでは、長時間の苛酷な運用の全期間にわたり耐えてシールを維持する封止面の経済的な製造が大いに望まれる。
【0003】
等方性仕上げ加工は、無方向性仕上げを形成するプロセスであり、機械加工が施された構成要素の表面応力の低減を補助することができる。しかしながら、構成要素に塗布される耐食コーティングは、等方性仕上げ加工プロセス中に除去される傾向を有する可能性がある。
【0004】
共同所有の米国特許出願公報第2017/0335969号は、「Isotropically Finished Seal Ring, Seal Ring Assembly, and Method of Making Seal Ring for Seal Assembly of Machine」(等方性仕上げシールリング、シールリング組立品、および機械のシール組立品用のシールリングの作成方法)という題名である。特許出願公開第’969号は、本体およびシールフランジを含むシール組立品用のシールリングを対象とする。本体は概して円筒形であり、負荷端部とシール端部との間で長手方向軸に沿って延在する。シールフランジは、本体のシール端部に隣接して配置される。シールフランジは、本体からその外周部を包囲する様態で半径方向に突出する。シールフランジは、シールフランジの外周部に隣接して配置される封止バンドを有する封止面、および封止バンドとシールフランジの内周部との間に配置される内側逃げ領域を含む。封止バンドは、コーティング組成物の層が少なくとも本体に塗布された後、等方性仕上げ加工プロセスによって研磨される。コーティング組成物の層は、等方性仕上げ加工プロセスに耐え、かつシールリングの耐食性を高めるのに役立つように考案される。
【0005】
当然のことながら、この背景技術の説明は、発明者によって読者を支援するために作成されたものであり、指示された問題のいずれも、それら自体が当該技術分野で認識されたものであることの表示として受け取られてはならない。記載される原理は、一部の態様および実施形態では、他のシステムに内在する問題を軽減することができるが、当然のことながら保護される革新の範囲は、本明細書に記述されている任意の特定の問題を解決するための任意の開示された特徴の能力ではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0006】
本開示の一態様では、シールリングの作製を含む、シール組立品用のシールリングの作製方法の実施形態が説明されている。シール組立品用のシールリングの作製方法の一実施形態では、作製する方法は、シールリングの作製を含む。シールリングは、負荷端部、シール端部、載荷面、および封止面を含む。負荷端部およびシール端部は、長手方向軸に沿って相互に離隔した関係にある。載荷面は、負荷端部とシール端部との間で長手方向軸に沿って延在する。封止面は、シール端部に配置され、環状である。封止面は、長手方向軸に対して半径方向に延在する。
【0007】
コーティング組成物の層は、シールリングの外面の少なくとも一部分に塗布される。シールリングの封止面は、封止バンドを画定するように機械加工される。封止バンドは、封止面に沿って内側逃げ領域の半径方向外向きに配置される。コーティング組成物の層が塗布された後、マスクが、シールリングの外面に塗布されたコーティング組成物の層の少なくともある領域上に定置される。マスクが封止バンドからずらされて封止バンドが露出したままになるように、マスクは封止バンドに対して位置付けられる。マスクが定置された後、封止バンドに等方性仕上げ加工プロセスを施すことによって、封止バンドを研磨する。
【0008】
別の態様では、本開示は、シール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための器具の実施形態を記載する。一つの実施形態では、環状シールリングが、負荷端部、シール端部、載荷面、および封止面を有する、シール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための、器具が説明されている。載荷面は負荷端部とシール端部との間で軸方向に延在し、封止面はシール端部で半径方向に延在し、封止面は封止バンドを有する。器具は、マスキング部材を含む。
【0009】
マスキング部材は、円周溝を画定する。円周溝は、環状シールリングが円周溝内に配置可能であるように構成され、ここで負荷端部は円周溝内にあり、載荷面はマスキング部材によって覆われ、封止バンドは露出される。
【0010】
開示された原理のさらなるかつ代替的な態様および特徴は、以下の説明および添付図面から理解される。理解されるように、本明細書に開示されるシール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するためのシール組立品および器具のシールリングの作製方法は、その他の異なる実施形態で実施することができ、また様々な点で修正することができる。したがって、前述の一般説明および以下の詳細な説明はどちらも、単に例示的および説明的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲を限定しないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の原理に従って構成されたシール組立品の実施形態を有する機械の実施形態の部分断面概略側面図である。
【
図2】
図2は、
図1の円IIで囲まれた場所に対応する、シール組立品の拡大断面概略図である。
【
図3】
図3は、負荷のかかっていない状態にある、
図2のシール組立品の負荷リングの軸方向端面図である。
【
図4】
図4は、
図3の線IV-IVに沿って取った拡大断面図である。
【
図5】
図5は、
図2のシール組立品のシールリングの軸方向端面図である。
【
図6】
図6は、
図5の楕円VIによって囲まれる場所に対応する、
図5のシールリングの拡大部分図である。
【
図7】
図7は、
図5の線VII-VIIに沿って取った拡大断面図である。
【
図8】
図8は、シール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための器具の実施形態の組立分解図であり、器具は本開示の原理に従って構築されている。
【
図10】
図10は、シール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための器具の別の実施形態の組立分解図であり、器具は本開示の原理に従って構築されている。
【
図12】
図12は、本開示の原理に従った、シール組立品用のシールリングの作製方法の実施形態の工程を図示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
シール組立品、シール組立品用のシールリング、シール組立品用のシールリングの作製方法、およびシール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための器具の実施形態が本明細書に記載されている。実施形態では、シール組立品のシールリングは、その外周部に隣接して配置される封止バンドを有する封止面を含むことができる。封止バンドは、内側半径方向縁部と外周部との間の断面において環状でかつ実質的に平坦とすることができる。実施形態では、封止面は、封止バンドとシールリングの内周部との間に位置する内側逃げ領域を含むことができる。封止バンドには、等方性仕上げ加工を施すことができる。
【0013】
実施形態では、封止面は、任意の適切な等方性仕上げ加工技法を使用して研磨することができる。実施形態では、封止バンドは、封止バンドが、0.3マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有する一貫した表面仕上げを有するように等方性仕上げ加工を施すことができる。実施形態では、シールリングの封止面は、等方性仕上げ加工プロセスに加えて、紙やすり等を使用するものなどのいかなる研磨工程も使用せずに調製することができる。
【0014】
実施形態では、コーティング組成物の層は、シールリングの耐食性の向上を助けるために、シールリングの本体の外面の少なくとも一部分に適用される。実施形態では、封止バンドは、コーティング組成物の層が塗布された後、封止バンドを等方性仕上げ加工プロセスに供することによって研磨される。実施形態では、コーティング組成物の層は、シールリングの本体の外面に塗布されて、コーティング組成物の層の下にある外面の表面計測を等方性仕上げ加工プロセスから保護するのに役立つ。例えば、実施形態では、コーティング組成物の層は、シールリングの耐食性の向上を助けるために、シールリングの外面の少なくとも一部分に塗布される。
【0015】
実施形態では、コーティング組成物の層は、シールリングが等方性仕上げ加工プロセスに供される前に、シールリングに塗布される。実施形態では、コーティング組成物の層は、自動析出プロセス、電着プロセス、またはめっきプロセス(例えば、電気めっきプロセスまたは無電解めっきプロセス)などの任意の適切な技法を使用して、シールリングに塗布される。
【0016】
実施形態では、シールリングが等方性仕上げ加工プロセスに供される前に、シールリングの外面の少なくとも一領域上に、マスクが定置される。実施形態では、シールリングにコーティング組成物の層が塗布され、そしてシールリングが等方性仕上げ加工プロセスに供される前に、シールリングの外面に塗布されるコーティング組成物の層の少なくとも一領域上に、マスクが定置される。
【0017】
実施形態では、マスクは、マスク内に画定されたシールリング溝内でのシールリングの取り付けを容易にするために、比較的軟質かつ可撓性の材料など、任意の適切な材料から作製することができる。例えば、実施形態では、マスクは、デュロメーター硬度が60ショアA以下の材料から作製することができる。実施形態では、マスクは、耐酸性であり、かつ等方性仕上げ加工プロセス中に使用される化学物質や研磨媒体と反応しない材料から作製される。実施形態では、マスクは、任意の適切な技法を使用して作製することができる。実施形態では、マスクは、プロトタイプシールリングを逆成形することによって作製することができる。等方性仕上げ加工が意図されていないシールリングの部分をマスキングすることによって、マスクは、等方性仕上げ加工プロセスが完了した後に残ることが意図されるシールリングに塗布されたコーティング組成物の層を保護するのに役立つ。
【0018】
ここで図面、特に
図1を参照すると、機械10の実施形態が概略的に示されている。機械10は、それと連結されたホイール組立品14を有するハウジングまたはフレーム12を含む。ホイール組立品14は、ハブ16と、ベアリング20を介してハブ16で軸支されるスピンドル18と、ホイール22と、を含む。機械10は、ホイール組立品14と共に配設され、ホイール22の回転を選択的に停止するように構成されたブレーキシステム24を含む。
【0019】
本開示の原理に従って構築されたシール組立品30は、ホイール組立品14のハブ16に取り付けられた第一の部材32と、ブレーキシステム24のブレーキハウジングの形態である第二の部材34との間に連続的シールを提供することができる。ブレーキハウジング34は、ブレーキハウジング34がスピンドル18によって画定される長手方向軸「LA」と整列する回転軸を中心として第一の部材32に対して回転可能となるように、配設される。シール組立品30は、第一の部材32と第二の部材34との間に配置される。
【0020】
本開示の原理に従って構築された第二のシール組立品36は、長手方向軸「LA」を中心として相互に回転可能な、機械10の第一の部材38および第二の部材34の異なる対の間に第二の連続的シールを形成するために提供される。実施形態では、第一のシール組立品30および第二のシール組立品36は、実質的に同一とすることができる。さらに他の実施形態では、第二のシール組立品36は、第一のシール組立品30とは異なることが可能である。
【0021】
金属対金属の面シール組立品の形態である第一のシール組立品30は、第一の部材32と第二の部材34との間で軸方向に延在する第一のシール空洞40内に配置される。ブレーキハウジングの形態の第二の部材34は、第一の部材32に対して長手方向軸「LA」を中心として回転可能であり、第一のシール組立品30はそれらの間に連続的シールを提供する。第二のシール組立品36は、第二のシール空洞42内に同様に配置される。実施形態では、第一のシール組立品30および第二のシール組立品36は、ブレーキ冷却液および/または潤滑剤を保持するために使用することができる。他の実施形態では、本開示の原理に従って構築されたシール組立品は、当業者によって認識されるであろう他の用途で使用することができる。
【0022】
実施形態では、機械10は、ホイールローダー、バックホー、掘削機、材料運搬装置などの任意の適切な機械とすることができる。実施形態では、機械10は、シールリング、シール組立品、および本開示の原理に従って構成されたシール組立品を有する接合部を利用する枢動連結配設を含む、他のタイプの装置を備える。その他のこうした機械の例としては、締固め、採掘、建設、農業、輸送などに使用される機械が挙げられる。本開示は、ホイール組立品の文脈で実施されうるが、それによって限定されない。トラックシール、トラックローラおよびキャリアローラのシールなどのトラックタイプのトラクターの様々な構成要素、ピン継手組立品およびカートリッジ、最終駆動装置配設、オーガ駆動/支持配設、および回転可能なシール組立品が利用されるその他の適切な機械システムを含む、幅広く様々なその他の用途が企図される。
【0023】
第一の部材32および第二の部材34は、第一の部材32および第二の部材34をそれらの間の連続的シールで流体封止するための手段を提供するシール組立品30を用いて、長手方向軸「LA」を中心として回転可能とすることができる。実施形態では、第一の部材32は、フレーム12に取り付けられた、または別の方法でフレーム12に対して静止した構成要素を備えることができ、また第二の部材34は、長手方向軸「LA」を中心として第一の部材32に対して回動可能に移動可能な構成要素を備えることができる。他の実施形態では、第二の部材34は静止することができ、そして第一の部材32はフレーム12に対して回転可能である。しかしながら、当然のことながら、本明細書では用語「第一」、「第二」などの使用は、単に便宜上の参照を目的とするもので、いかなる方法でも制限するものではない。
【0024】
図示した第一のシール組立品30および第二のシール組立品36は、実質的に互いに同一である。したがって、当然のことながら、一方のシール組立品の説明は、他方のシール組立品にも適用可能である。
【0025】
図2を参照すると、第一のシール組立品30が示されている。第一の部材32は、第二の部材34に対して長手方向軸「LA」を中心として回転可能である。第一の部材32および第二の部材34は、長手方向軸「LA」に沿ってシールギャップ距離「SG」だけ分離されるように相互に離隔した関係で配置される。使用中、第一の部材32および第二の部材34は、長手方向軸「LA」に沿って相互に対して軸方向に移動することができ、それによってシールギャップ距離「SG」は変化する。
【0026】
第一のシール組立品30は、第一のシールリング111および第二のシールリング112、および第一の負荷リング121および第二の負荷リング122を含み、それらはすべて環状である。第一のシールリング111および第二のシールリング112、ならびに第一の負荷リング121および第二の負荷リング122は、第一の部材32と第二の部材34との間の第一のシール空洞40内に配置される。第一のシール組立品30の第一のシールリング111および第二のシールリング112は、相互に当接関係で配置される。第一の負荷リング121および第二の負荷リング122はそれぞれ、第一のシールリング111および第二のシールリング112に取り付けられる。第一のシールリング111および第二のシールリング112は、例えば、鉄合金を含む適切な金属などの任意の適切な材料から作製することができる。第一の負荷リング121および第二の負荷リング122は、適切なエラストマー材料(例えば、ニトリル、低温ニトリル、水素化ニトリル(HNBR)、シリコーン、またはバイトン)から作製されることが好ましい。
【0027】
第一のシール組立品30では、第一の負荷リング121はガスケットの役目を果たし、第一の部材32と第一のシールリング111とを封止係合し、それらの間に流体密封シールを提供する。第二の負荷リング122は、ガスケットの役目を果たし、第二の部材34と第二のシールリング112とを封止係合し、それらの間に流体密封シールを提供する。
【0028】
第一の部材32の外向き端部部分124は、第二の部材34の内向き端部部分126に対して近位の関係にある。第一の部材32の外向き端部部分124および第二の部材34の内向き端部部分126はそれぞれ負荷リング係合面130を含む。第一の部材32および第二の部材34の負荷リング係合面130は、少なくとも部分的に第一のシール空洞40を画定し、これは軸方向に延在し、かつ第一の部材32と第二の部材34との間に介在する。部材38、34は、同様に協働して、少なくとも部分的に第二のシール空洞42を画定することが理解される。
【0029】
負荷リング係合面130は、概して環状であり、長手方向軸の「LA」と同軸である。図示した実施形態では、負荷リング係合面130は、長手方向軸「LA」の周りに第一の部材32および第二の部材34によって包囲された全周の周りに実質的に連続的な、
図2に示す断面形状を維持する。
【0030】
第一のシールリング111および第二のシールリング112は、互いに実質的に同一である。第一のシールリング111および第二のシールリング112は、それぞれ環状の形態である。第一のシールリング111および第二のシールリング112は、長手方向軸「LA」を中心として互いに対して回転的に移動可能である。この配設では、第一のシールリング111は、第一の部材32と回転的に連結されるので、静止したシールリングとみなすことができる。第二のシールリング112は、長手方向軸「LA」を中心として第一の部材32に対して回転することができる第二の部材34と連結されているため、回転シールリングとみなすことができる。
【0031】
第一のシールリング111および第二のシールリング112はそれぞれ、長手方向軸「LA」に沿って相互に離隔した関係にある負荷端部131およびシール端部132と、軸方向に延在する勾配または傾斜のある載荷面134と、シール端部132に配置され、かつ長手方向軸「LA」に対して半径方向に延在する封止面136を有する。第一のシールリング111および第二のシールリング112は、第一のシールリング111および第二のシールリング112の封止面136が互いに接触関係にあるように、互いに当接する。
【0032】
封止面136は、半径方向に延在するシールフランジ137によって画定される。第一のシールリング111および第二のシールリング112の封止面136は、半径方向に延在する環状部を形成し、互いに封止関係にある。
【0033】
それぞれの封止面136は、外周部138まで半径方向に延在する。それぞれの封止面136は、外周部138に隣接して配置される封止バンド140を有する。第一のシールリング111および第二のシールリング112は、第一のシールリング111および第二のシールリング112の封止バンド140が互いに接触関係にあるように、互いに当接する。
【0034】
第一の負荷リング121および第二の負荷リング122はそれぞれ、第一のシールリング111および第二のシールリング112に取り付けられる。第一の負荷リング121および第二の負荷リング122は、それぞれ第一のシールリング111および第二のシールリング112を弾性的に支持する。第一の環状負荷リング121は、第一の環状シールリング111の載荷面134と係合し、第二の環状負荷リング122は、第二の環状シールリング112の載荷面134と係合する。
【0035】
第一のシール組立品30は、第一のシールリング111および第二のシールリング112の形態の二重円錐を採用する。第一のシールリング111および第二のシールリング112の長手方向軸「LA」に沿った軸方向の載荷は、第一の負荷リング121および第二の負荷リング122によって達成される。先細の円錐形の、または傾斜した載荷面134は、第一のシールリング111および第二のシールリング112の外側表面に沿って形成され、それぞれ第一の負荷リング121および第二の負荷リング122を受ける。第一の部材32および第二の部材34の負荷リング係合面130は、第一のシールリング111および第二のシールリング112の傾斜した載荷面134と、対応する向かい合った傾斜関係で位置付けられ、これにより、その間にそれぞれ第一の負荷リング121および第二の負荷リング122を包含する。それ故、第一のシールリング111および第二のシールリング112の軸方向の載荷は、それぞれ第一の負荷リング121および第二の負荷リング122の軸方向の載荷によって達成される。
【0036】
第一の負荷リング121は、第一の部材32の負荷リング係合面130および第一のシールリング111の傾斜した載荷面134と係合するように圧縮される。第二の負荷リング122は、第二の部材34の負荷リング係合面130および第二のシールリング112の傾斜した載荷面134と係合するように圧縮される。第一および第二の負荷リング121、122は、それらが第一のシールリング111および第二のシールリング112を弾性的に支持し、かつ第一および第二のシールリング111、112の封止面136を一緒に駆動して、封止バンド140間の接触のバンド141を画定するように位置付けられる。第一の負荷リング121および第二の負荷リング122は、第一のシールリング111および第二のシールリング112の封止面136を、連続的な流体密封シールが形成されるような接触のバンド141に沿った圧力下で、面対面封止接触させるために、長手方向軸「LA」に沿って反対向きの方向に、それぞれ、第一のシールリング111および第二のシールリング112に対して軸荷重をかけるためにばねの様態で作用する。
【0037】
実施形態では、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112の両方の封止バンド140は、等方性仕上げ加工が施される。等方性仕上げは、例えば、機械加工痕など方向性のある欠陥とは対照的に、欠陥が一般的に非方向性であるか、または全方向で不変である仕上げである。実施形態では、第一のシールリング111および第二のシールリング112の封止バンド140は、それぞれの封止バンド140が当業者によって理解されるような、非周期的または無作為な表面テクスチャを有するように、等方性仕上げ加工を施すことができる。実施形態では、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112の両方の封止バンド140は、封止バンド140が、約0.3マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有し、一部の実施形態では約0.2マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有し、さらに他の実施形態では0.15マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有するように等方性仕上げ加工が施される。実施形態では、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112の両方の少なくとも実質的に全封止面136は、等方性仕上げ加工が施される。実施形態では、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112の封止バンド140に等方性仕上げ加工を施して、所望の程度の研磨された表面平滑性を達成するために、任意の適切な技法を使用することができる。
【0038】
実施形態では、第一の環状シールリングおよび第二の環状シールリングは両方とも、載荷面134の少なくとも一部分に塗布されたコーティング組成物の層142を含む。図示した実施形態では、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112のそれぞれのコーティング組成物の層142は、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112の両方の外側の外面143を実質的に覆う。実施形態では、コーティング組成物の層142を、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112のそれぞれの内部円筒面144の少なくとも一部分に塗布することができる。
図2に図示したコーティング組成物の層142は、必ずしも一定の縮尺では示されておらず、単に説明のみを目的としている。
【0039】
任意の適切な技法を使用して、コーティング組成物の層142を塗布することができる。例えば、実施形態では、コーティング組成物の層142は、自動析出プロセス、電着プロセス、およびめっきプロセス(例えば、電気めっきプロセスまたは無電解めっきプロセス)のうちの少なくとも一つを使用して塗布される。
【0040】
実施形態では、第一の環状シールリング111および第二の環状シールリング112の両方のコーティング組成物の層142は、封止バンド140に等方性仕上げ加工が施される前に塗布され、またコーティング組成物は、封止バンド140を研磨するために使用される等方性仕上げ加工プロセスに耐えるように考案されている。実施形態では、コーティング組成物は、シールリングが作製される材料に対して、性質または特性が強化された材料から作製することができる。例えば、実施形態では、第一のシールリング111および第二のシールリング112のそれぞれは、シールリング材料から作製され、コーティング組成物のそれぞれの層142は、シールリング材料よりも耐食性が高い。実施形態では、コーティング組成物は、防錆特性を有する材料を含む。
【0041】
実施形態では、コーティング組成物の層142は、自動析出プロセスを使用して塗布され、コーティング組成物の層142はエポキシを含む。実施形態では、コーティング組成物の層142は、エポキシ-アクリル樹脂を含む。
【0042】
実施形態では、コーティング組成物の層142は、例えば、Henkel Surface Technologiesの、Autophoretic(登録商標)またはAutophoretic Coating Chemicals(登録商標)という商品名で市販されているコーティング組成物を含む、適切な自己析出可能なコーティング組成物を含む。実施形態では、自己析出可能なコーティング組成物は、エポキシアクリル系樹脂を含むAutophoretic(登録商標)コーティング組成物を含む。実施形態では、自己析出可能なコーティング組成物は、Bonderite金属前処理塗装プロセス(BONDERITE M-PP)930として、Henkel Surface Technologiesによって市販されているコーティング組成物を含む。さらに他の実施形態では、コーティング組成物の層142は、他の適切な自己析出可能なコーティング組成物を含みうる。
【0043】
さらに他の実施形態では、コーティング組成物の層142は、適切なリン酸塩コーティングを含む。例えば、実施形態では、コーティング組成物の層142は、リン酸マンガンコーティング材料を含む。実施形態では、任意の適切なリン酸塩コーティングプロセスを使用して、リン酸塩材料を含むコーティング組成物の層を塗布することができる。
【0044】
第一の部材32および第二の部材34の負荷リング係合面130は、鏡像である。第一のシールリング111および第二のシールリング112の載荷面134は、実質的に互いに同一である。したがって、当然のことながら、第一の部材32の負荷リング係合面130および第一のシールリング111の載荷面134についての以下の説明は、それぞれ、第二の部材34の負荷リング係合面130および第二のシールリング112の載荷面134にも同様に適用可能である。また、当然のことながら、載荷面134の前述の説明は、コーティング組成物の層142にそれを適用することができること、および載荷面134の一部であるとみなすことができることを企図する。さらに、第一の部材32、第一の負荷リング121、および第一のシールリング111の間の関係の説明は、第二の部材34、第二の負荷リング122、および第二のシールリング112の間の関係にも適用可能である。
【0045】
第一の部材32の負荷リング係合面130と第一のシールリング111の傾斜した載荷面134は、第一の負荷リング121がその中に配置される環状負荷リング空洞146をそれらが画定するように、向かい合った、離隔した関係にある。第一の部材32の負荷リング係合面130と、第一のシールリング111の傾斜した載荷面134とが一緒に協働して、第一のシールリング111の封止面136に隣接するシール端部制限部148を画定する。シール端部制限部148は、第一の負荷リング121が、第一のシールリング111から第二のシールリング112に向かって軸方向に摺動して外れないようにすることに役立つと共に、第一の負荷リング121がその中の挟み込み点内に延在しないようにすることに役立つように構成される。第一のシールリング111の負荷端部131は、第一の部材32と協働して、負荷端部制限部149を画定する。
【0046】
図3および
図4を参照すると、第一の負荷リング121が示されている。第一の負荷リング121および第二の負荷リング122は、互いに実質的に同一である。したがって、当然のことながら、第一の負荷リング121の説明は、第二の負荷リング122にも適用される。第一の負荷リング121は、円環の形状である。第一の負荷リング121が、負荷がかかっていない、または圧縮されていない状態にある時、
図4に示すように実質的に円形の断面形状235を有する。断面形状235は、負荷がかかっていない状態の時に、所定の断面半径「R」を有する(
図4を参照)。
【0047】
図5~
図7を参照すると、第一のシールリング111が示されている。第一のシールリング111は、本開示の原理に従って構築されたシールリングの実施形態の一例である。第二のシールリング112は、第一のシールリング111と実質的に同一である。したがって、当然のことながら、第一のシールリング111の説明は、第二のシールリング112にも適用される。
【0048】
図5および
図6を参照すると、第一のシールリング111は円環の形状である。シールフランジ137は、封止面136を含む。封止面136は、シールフランジ137の外周部138に隣接して配置される封止バンド140と、封止バンド140(その等方性仕上げは、例示の目的で
図5および
図6のハッチングされた領域として示す)と第一のシールリング111の内周部248との間に配置される内側逃げ領域245とを含む。内側逃げ領域245は、内周部248が封止バンド140から軸方向に変位するように、封止バンド140と内周部248との間で先細にすることができる(
図2を参照)。
【0049】
実施形態では、第一のシールリング111の封止バンド140は、封止バンド140が約0.3マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有するように等方性仕上げ加工が施される。他の実施形態では、第一のシールリング111の封止バンド140は、封止バンド140が約0.3マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有し、一部の実施形態では約0.2マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有し、さらに他の実施形態では約0.15マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有し、なおさらに他の実施形態では約0.1マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有するように等方性仕上げ加工が施される。実施形態では、封止面136の内側逃げ領域245の少なくとも一部分は、封止バンド140と共に等方性仕上げ加工が施される。実施形態では、第一のシールリング111の実質的に封止面136全体に、等方性仕上げ加工が施される。
【0050】
表面粗さ平均は、当業者に公知の任意の適切な技法を使用して計算することができる。例えば、一つの配設では、封止バンド140の表面粗さ平均(Ra)を、0.25mmのカットオフでセットアップされたプロフィロメータを使用して決定し、5つのカットオフ長さについて評価することができる。第一のシールリング111は、所定の場所および/または互いに円周方向に約120°離れた、少なくとも3つの場所でチェックすることができる。測定表面トレースのトラバース横断方向は、任意の初期的な機械加工痕や方向性のある摩耗痕の方向に対して直角をなしすことができる。
【0051】
図7を参照すると、第一のシールリング111は、本体240およびシールフランジ137を含む。本体240は概して円筒形であり、負荷端部131と、負荷端部131とは反対側の関係にあるシール端部132との間で長手方向軸「LA」に沿って延在する。円筒形の本体240は、実質的に円筒形である内周部248および内部円筒面144と、外側において内周部248とは半径方向に離隔した関係にある傾斜した載荷面134の大部分との間で、半径方向に延在することができる。
【0052】
実施形態では、コーティング組成物の層142は、本体240の外面143の少なくとも一部分に塗布される。図示した実施形態では、コーティング組成物の層142は、本体240の外面143の実質的に全体に塗布される。
【0053】
シールフランジ137は、シール端部132に隣接して配置される。シールフランジ137は、本体240を包囲し、円筒形本体240からその外周部138に半径方向に突出する。封止面136は、シールフランジ137上に配置され、かつ長手方向軸「LA」に対して半径方向に延在する。封止バンド140は、内側半径方向縁部257と外周部138との間の断面において実質的に平坦とすることができる(
図6も参照)。実施形態では、封止バンド140は、面取りされた、または先細りにされた外周部138に隣接して配置される、外側逃げ領域を含むことができる。
【0054】
当然のことながら、他の実施形態では、本開示の原理に従って構築されたシールリングは、当業者によって理解されるように、例えば、皿ばねを使用した頑丈な二重面金属面シールや、異なる載荷面および/または封止面を有し、かつ/または異なる形状の負荷リングまたは円環と共に使用されるその他のタイプの二重円錐シールリング、ならびにその他のシール組立品のその他のシールなど、
図2および
図5~
図7で図示したシールリング111、112の構成とは異なる構成を有することができる。
【0055】
本開示の原理に従って構築されたシールリングは、当業者に公知の任意の適切な技法を使用して作製することができる。例えば、シールリングブランクまたはシールリング「ボタン」は、例えば、打抜きおよび成形、または鋳造など、任意の適切な技法によって作製することができる。シールリングボタンは、例えば、旋盤加工用の旋盤および/または研削加工用の研削盤を使用するなどによって、例えば、シールリングに対する所望の構成を達成するために、任意の適切な技法によって機械加工することができる。シールリングは、例えば、シールフランジの厚さが所定の公差内であり、シール傾斜角が所定の公差内であり、かつ他の寸法公差が満たされるように機械加工することができる。当然のことながら、本明細書に記載の本開示の原理に従って構築されたシールリング、およびシール組立品の他の構成要素に関する寸法詳細は、公称値である。当業者によって理解されるとおり、適切な公差のばらつきも、記載される公称値内に含まれることが企図される。
【0056】
図8および
図9を参照すると、シール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための器具(またはマスク)300の実施形態が示されており、これは本開示の原理に従って構築されている。本開示の原理に従って構築された器具の実施形態は、本明細書で論じるように、等方性仕上げ加工が施された封止バンドを有するシールリングを作製するための本開示の原理に従って、シール組立品用のシールリングの作製方法で使用することができる。実施形態では、本明細書で論じた原理による器具の任意の実施形態は、本開示の原理に従って、シール組立品用のシールリングの作製方法で使用することができる。本開示の原理に従って構築された器具は、等方性仕上げ加工中に封止リングの外部表面上に塗布された耐食性コーティングを保護するために、封止リングの外部表面の一部分をマスキングするシールリングを製造する方法で使用することができるが、それでも、等方性仕上げ加工プロセスを介して封止バンドを研磨することが可能である。
【0057】
図8を参照すると、器具300は、マスキング部材310およびコネクタ組立品315を含む。マスキング部材310は、シールリングの外面に塗布されるコーティング組成物の層の少なくとも一領域上に定置することができる。実施形態では、マスキング部材310は、封止バンドを露出したままにするためにマスキング部材310が封止バンドからずらされるように、マスキング部材310をシールリングの封止バンドに対して位置付けることができるように構成することができる。
【0058】
図8および
図9のマスキング部材310は、マスキング部材310内に配置されたシールリング111、112の両方の封止バンド140が露出され、かつ研磨媒体325を使用してプロセスで同時に等方性仕上げ加工を施すことができるように(
図9も参照)、その中にそれぞれ第一のシールリング111および第二のシールリング112を受けるように構成された第一の円周溝321および第二の円周溝322をその内部に画定する。他の実施形態では、マスキング部材310は、所望に応じて、単一の円周溝または三つ以上の円周溝を画定するように構成することができる。
【0059】
図示した実施形態では、第一の円周溝321および第二の円周溝322は、第一のシールリング111および第二のシールリング112がその中に相互交換可能に配置されうるように、実質的に同じ構成を有する。他の実施形態では、第一の円周溝321および第二の円周溝322は、互いに異なる構成を有することができる。
【0060】
実施形態では、マスキング部材310は、シールリングの負荷端部が円周溝内に配置可能であるように構成された少なくとも一つの円周溝を画定する。実施形態では、マスキング部材310は、シールリングが、載荷面が覆われ、かつ封止バンドを包含する封止面の一部のみが露出する、円周溝内に配置可能であるように構成された少なくとも一つの円周溝を画定する。実施形態では、マスキング部材310は、負荷端部が円周溝内にあり、載荷面がマスキング部材によって覆われ、封止バンドが露出された状態で、シールリングが円周溝内に配置可能であるように構成された少なくとも一つの円周溝を画定する。実施形態では、マスキング部材310は、内側逃げ領域245の少なくとも一部分を露出した状態で、シールリングが円周溝内に配置可能であるように構成された、少なくとも一つの円周溝を画定する。図示した実施形態では、マスキング部材310の第一の円周溝321および第二の円周溝322は、負荷端部131がそれぞれの円周溝321、322内にあり、載荷面134がマスキング部材によって覆われ、封止バンド140および内側逃げ領域245の一部が露出する状態で、第一のシールリング111および第二のシールリング112が、それぞれ円周溝321、322内に配置可能であるように構成される。
【0061】
実施形態では、マスキング部材310は、任意の適切な材料から作製することができる。実施形態では、マスキング部材310は、等方性仕上げ加工プロセス用の所定の研磨媒体と非反応性の耐酸性材料から作製される。
【0062】
実施形態では、マスキング部材310は、デュロメーター硬度が60ショアA以下のものなどの軟質材料から作製されて、その中に画定される円周溝(複数可)へのシールリングの挿入を容易にする。実施形態では、マスキング部材310は、20~60ショアAの範囲のデュロメーター硬度を有する材料から作製され、また他の実施形態では、20~45ショアAの範囲のデュロメーター硬度を有する材料から作製される。実施形態では、マスキング部材310は、適切なゴム材料から作製される。実施形態では、マスキング部材310は、高温加硫を受けるシリコーンゴム、または室温加硫を受ける適切なシリコーンゴムなどの適切なシリコーン材料から作製される。実施形態では、マスキング部材310は、室温で加硫する、注入可能な付加硬化性二成分シリコーンゴムであるシリコーン材料(例えば、Elastosil(登録商標)M 4601など、Elastosil(登録商標)の商標名でドイツのWacker Chemie AGから市販されているものなど)から作製される。さらに他の実施形態では、マスキング部材310は、例えば、硬質のプラスチックまたは金属など、60ショアAより大きい硬度を有する材料から作製される。実施形態では、円周溝321、322は、それぞれ、マスキング部材310が、シールリング挿入シーケンス中に、マスキング部材310が作製される材料の許容限界内で曲がる状態で、シールリング111、112をその中に受けるようなやり方で構成することができる。
【0063】
実施形態では、マスキング部材310は、当業者によって理解されるように、任意の適切な技法を使用して作製することができる。実施形態では、マスキング部材310は、その中に画定されるそれぞれの円周溝321、322が、マスクすることが意図されるシールリングの外面と相補的な形状を有するように、プロトタイプシールリング(複数可)の逆成形によって作製することができる。こうした逆成形技法では、完成したマスキング部材は、プロトタイプシールリングがマスキング部材によって画定される篏合する円周溝に挿入される時に、プロトタイプシールリングの封止バンドが露出するように成形することができる。
【0064】
図8を参照すると、図示したマスキング部材310は、第一の部分331および第二の部分332を含む。第一の部分331および第二の部分332は、実質的に同じ構築を有する。第一の部分331および第二の部分332のそれぞれは、基部334および面335を含む。第一の部分331の面335は、第一の円周溝321を画定し、第二の部分332の面335は、第二の円周溝322を画定する(
図9を参照)。
【0065】
コネクタ組立品315は、第一の部分331の基部334と第二の部分332の基部334が互いに当接関係にあり、第一の部分331の面335と第二の部分332の面335が互いに外向きに反対側の関係にあるように、第一の部分331と第二の部分332を一緒に取り外し可能に接続するように構成される。
図8および
図9のコネクタ組立品315は、ねじ付き締結具351、ナット352、および一対のバッキングプレート354、355を含む。第一の部分および第二の部分のそれぞれ、ならびに一対のバッキングプレート354、355は、それらを通してねじ付き締結具351を収容するように構成されたそれぞれの中央開口部357、359をそれらの内部に画定することができる。ナット352は、ねじ付き締結具351にねじで取り付けられて、バッキングプレート354、355および第一の部分331および第二の部分332を一緒に固定することができる。
【0066】
コネクタ組立品315は、第一の部分331と第二の部分332が一対のバッキングプレート354、355の間に介在するように配設することができる。第一の部分331および第二の部分332は、上述のように、当接する関係で配置することができる。バッキングプレート354、355は、可撓性の軟質材料から作製された第一の部分331および第二の部分332に剛性を与えるのに役立つように構成して、それによって、その中に配置されたシールリング111、112を外すことができるようにするために、等方性仕上げ加工プロセス中に、第一の部分331および第二の部分332が、過度に曲がらないようにすることができる。バッキングプレート354、355は、例えば、鋼などの適切な金属から作製することができる。
【0067】
図10および
図11を参照すると、シール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための、器具(またはマスク)400の別の実施形態が示されており、本開示の原理に従って構築されている。器具400は、マスキング部材410およびコネクタ組立品415を含む。マスキング部材410は、シールリングの外面に塗布されるコーティング組成物の層の少なくとも一領域上に定置することができる。実施形態では、マスキング部材410は、封止バンドを露出したままにするためにマスキング部材410が封止バンドからずらされるように、マスキング部材410をシールリングの封止バンドに対して位置付けることができるように構成することができる。
【0068】
図10および
図11のマスキング部材410は、マスキング部材410内に配置されたシールリング111、112の両方の封止バンド140が露出され、かつ研磨媒体425を使用するプロセスで同時に等方性仕上げ加工を施すことができるように(
図11も参照)、その中にそれぞれ第一のシールリング111および第二のシールリング112を受けるように構成された第一の円周溝421および第二の円周溝422をその中に画定する。
図11を参照すると、図示した実施形態では、第一の円周溝421および第二の円周溝422は、第一のシールリング111および第二のシールリング112をその中に相互交換可能に配置することができるように、実質的に同じ構成を有する。図示した実施形態では、マスキング部材410の第一の円周溝421および第二の円周溝422は、負荷端部131がそれぞれの円周溝421、422内にあり、載荷面134がマスキング部材410によって覆われ、封止バンド140および内側逃げ領域245の一部が露出する状態で、第一のシールリング111および第二のシールリング112が、それぞれ円周溝421、422内に配置可能であるように構成される。
【0069】
マスキング部材410は、第一のマスキング部品431、第二のマスキング部品432、および第三のマスキング部品433を含む。第一のマスキング部品431は、第一の円形凹部441および第二の円形凹部442をそれぞれ画定する内側側壁437および基部438をそれぞれ有する、第一の面434および第二の面435を含む。第二のマスキング部品432および第三のマスキング部品433は、実質的に同じ構築を有する。第二のマスキング部品432および第三のマスキング部品434はそれぞれ、第一のマスキング部品431とそれぞれ協働して第一円周溝421および第二の円周溝422を画定する外周部444を有する。マスキング部材410が単一の円周溝を含む実施形態では、第一のマスキング部品431および/または第三のマスキング部品433の第二の円形凹部442は省略することができる。
【0070】
第二のマスキング部品432は、第二のマスキング部品432を第一のマスキング部品431の第一の円形凹部441内に位置付けることができるように構成される。第一のマスキング部品431の第一の面434の内側側壁437と第二のマスキング部品432の外周部444は、一緒に協働して第一の円周溝421を画定する。
【0071】
第三のマスキング部品433は、第三のマスキング部品433を第一のマスキング部品431の第二の円形凹部442内に位置付けることができるように構成される。第一のマスキング部品431の第二の面435の内側側壁437と第三のマスキング部品433の外周部444は、一緒に協働して第二の円周溝422を画定する。
【0072】
コネクタ組立品415は、第一のマスキング部品431が第二のマスキング部品432と第三のマスキング部品433との間に介在するように、第一のマスキング部品431、第二のマスキング部品432、および第三のマスキング部品433を一緒に取り外し可能に接続するために提供される。
図10および
図11のコネクタ組立品415は、ねじ付き締結具451、ナット452、および一対のバッキングプレート454、455を含む。第一の部品431、第二の部品432、第三の部品433のそれぞれ、および一対のバッキングプレート454、455は、それらを通してねじ付き締結具451を収容するように構成されたそれぞれの中央開口部457、458、459をその中に画定することができる。ナット452は、ねじ付き締結具451にねじで取り付けられて、バッキングプレート454、455および第一、第二、および第三のマスキング部品431、432、433をまとめて固定することができる。
【0073】
コネクタ組立品415は、第一のマスキング部品431が第二のマスキング部品432および第三のマスキング部品433の間に介在し、また対のバッキングプレート454、455が第一のマスキング部品431、第二のマスキング部品432、および第三のマスキング部品433をそれらの間に挟み込むように配設することができる。バッキングプレート454、455は、可撓性の軟質材料から作製された第一のマスキング部品431、第二のマスキング部品432、および第三のマスキング部品433に剛性を与えるのに役立つように構成して、それによって、その中に配置されたシールリング111、112を外すことができるようにするために、等方性仕上げ加工プロセス中に、第一のマスキング部品431、第二のマスキング部品432、および第三のマスキング部品433が過度に曲がらないようにすることができる。バッキングプレート454、455は、例えば、鋼などの適切な金属から作製することができる。
【0074】
マスキング部材410は、その中へのそれぞれのシールリング111、112の挿入を容易にするために、複数のマスキング部品を含むことができる。一つの配設では、第一のシールリング111は、第一のマスキング部品の第一の円形凹部内に定置することができ、第二のマスキング部品は、第一のシールリング内に定置して、第一のマスキング部品と第二のマスキング部品の間に第一のシールリング111を閉じ込めることができる。第二のシールリング112は、第一のマスキング部品の第二の円形凹部内に定置することができ、また第三のマスキング部品は、第二のシールリング内に定置して、第一のマスキング部品と第三のマスキング部品の間に第二のシールリング111を閉じ込めることができる。コネクタ組立品415は、第一のシールリング111および第二のシールリング112が第一の円周溝421および第二の円周溝421内に配置され保持されるように、バッキングプレート454、455および第一、第二、および第三のマスキング部品431、432、433を一緒に固定するために使用することができる。
【0075】
マスキング部材410が単一のシールリングの研磨に関連して使用される状況では、シールリングは、第一の円形凹部および第二の円形凹部のうち一つの内部に位置付けることができ、また第二のマスキング部品および第三のマスキング部品のうち一つは、第一のマスキング部品の第一の円形凹部および第二の円形凹部のうちの選択された一つと関連付けることができる。第二のマスキング部品および第三のマスキング部品のうちの他方は省略することができる。シールリングを係合する構成要素を一緒に固定するために、コネクタ組立品415を使用することができる。
【0076】
図示した実施形態では、第一のマスキング部品431の第一の円形凹部434および第二の円形凹部435の内側側壁437は、それぞれの円形凹部434、435内に配置されることが意図されるシールリングの外側部分に対して相補的な形状を有するように構成することができる。実施形態では、第二のマスキング部品432および第三のマスキング部品433の外周部444は、第一のマスキング部品431の関連する内側側壁437と、第二のマスキング部品432および第三のマスキング部品433のそれぞれの外周部444との間に半径方向に配置されることが意図されるシールリングの内側部分に対して相補的な形状を有するように構成することができる。
【0077】
他の実施形態では、第一のマスキング部品431の第一の円形凹部434および第二の円形凹部435の内側側壁437、および第二のマスキング部品432と第三のマスキング部品433の両方の外周部444は、概して円筒形とすることができる。コネクタ組立品415は、第一のマスキング部品431の第一の円形凹部434および第二の円形凹部435の内側側壁437、および第二のマスキング部品432と第三のマスキング部品433の両方の外周部444が、それぞれの部品がそれに対して係合する第一のシールリング111および第二のシールリング112の相補的な形状に実質的に適合するように、第二のマスキング部品432および第三のマスキング部品433を圧縮係合するように使用することができる。
【0078】
実施形態では、マスキング部材410は、任意の適切な材料から作製することができる。実施形態では、マスキング部材410は、等方性仕上げ加工プロセスの用の所定の研磨媒体と非反応性の耐酸性材料から作製される。
【0079】
実施形態では、マスキング部材410は、100ショアA以下のデュロメーター硬度を有するものなど、適切な硬度を有する材料から作製される。実施形態では、マスキング部材410は、20~100ショアAの範囲のデュロメーター硬度を有する材料から作製され、また他の実施形態では、45~100ショアAの範囲のデュロメーター硬度を有する材料から作製される。実施形態では、マスキング部材310は、適切なゴム材料から作製される。実施形態では、マスキング部材310は、高温加硫を受けるシリコーンゴム、または室温加硫を受ける適切なシリコーンゴムなどの適切なシリコーン材料から作製される。実施形態では、マスキング部材310は、室温で加硫する、注入可能な付加硬化性二成分シリコーンゴムであるシリコーン材料(例えば、Elastosil(登録商標)M 4601など、Elastosil(登録商標)の商標名でドイツのWacker Chemie AGから市販されているものなど)から作製される。さらに他の実施形態では、マスキング部材410は、例えば、硬質のプラスチックまたは金属など、100ショアAより大きい硬度を有する材料から作製される。
【0080】
図10および
図11の器具400は、
図8および
図9の器具と他の点において類似とすることができる。
図10および
図11に示す器具400の変形はまた、
図8および
図9の器具300に関連して論じたものと類似した様態でも可能である。前述の考察から、さらに他の実施形態は、シール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための器具であり、かつ本開示の原理に従って構築される器具の実施形態であることが可能であることが理解される。
【0081】
実施形態では、本開示の原理に従うシール組立品用のシールリングの作製方法は、本明細書で論じた原理に従ってシールリングの実施形態を作製するために使用することができる。本開示の原理に従うシール組立品用のシールリングの作製方法の実施形態では、本開示の原理に従って構築された器具は、本明細書で論じるように等方性仕上げ加工を施された封止バンドを有するシールリングを作製するために使用される。実施形態では、本開示の原理に従うシール組立品用のシールリングの作製方法は、本明細書で論じた原理に従う器具の実施形態とともに使用することができる。
【0082】
図12を参照すると、本開示の原理に従うシール組立品用のシールリングの作製方法500の実施形態の工程が示されている。シールリングが製造される(工程510)。実施形態では、シールリングは工程510において、例えば、打抜きおよび成形によって、または鋳造によってなど、任意の適切な技法を使用して製造することができる。例えば、実施形態では、シールリングは、シールリングブランクまたはシールリングボタンを打抜いてシールリングを形成することによって製造される。実施形態では、シールリングは、例えば、静的鋳造プロセスなど、任意の適切な鋳造技法を使用して製造することができる。実施形態では、シールリングは、製造されるその一部として熱処理することができる。
【0083】
シールリングは、負荷端部、シール端部、載荷面、および封止面を含むことができる。負荷端部およびシール端部は、長手方向軸に沿って相互に離隔した関係にある。載荷面は、負荷端部とシール端部との間で長手方向軸に沿って延在する。封止面は、シール端部に配置され、環状である。封止面は、長手方向軸に対して半径方向に延在する。
【0084】
実施形態では、シールリングは、少なくとも一つの所定の公差まで機械加工することができる。シールリングは、例えば、シールフランジの厚さが所定の公差内であり、シール傾斜角が所定の公差内であり、かつ他の寸法公差が満たされるように機械加工することができる。シールリングは、例えば、旋盤加工用の旋盤、および/または研削加工用の研削盤を使用することなどによって、任意の適切な技法によって機械加工することができる。
【0085】
コーティング組成物の層は、シールリングの外面の少なくとも一部分に塗布される(工程520)。任意の適切な技法を使用して、コーティング組成物の層を塗布することができる。例えば、実施形態では、コーティング組成物の層は、自動析出プロセス、電着プロセス、およびめっきプロセス(例えば、電気めっきプロセスまたは無電解めっきプロセス)のうちの少なくとも一つを使用して塗布される。実施形態では、当業者に公知の任意の適切な自動析出プロセス、電着プロセス、またはめっきプロセスを使用して、コーティング組成物の層を塗布することができる。
【0086】
実施形態では、コーティング組成物の層がシールリングに塗布される前に、シールリングを掃除して、コーティング組成物の層が塗布されるシールリングの金属素地の外面上に堆積されたあらゆる異物を除去することができる。こうした異物としては、例えば、グリース、泥、埃、油、またはコーティングプロセスに干渉する場合がある任意の他の物質を含む場合がある。シールリングは、任意の既知の物理的または化学的手段を使用して、掃除および/または脱脂することができる。例えば、任意の市販のアルカリ性洗浄剤または酸性洗浄剤などの洗浄剤を使用してもよい。さらに、シールリングは、適切な研磨媒体を使用するグリットブラストに供して、シールリングの外面へのコーティング組成物の層の接着を強化することができる。
【0087】
実施形態では、コーティング組成物は、任意の適切な材料から作製することができる。例えば、実施形態では、コーティング組成物は、等方性仕上げ加工プロセス中にシールリングから除去されることに抵抗するように、封止バンドを研磨するために使用される等方性仕上げ加工プロセスに耐えるように考案される。実施形態では、コーティング組成物は、シールリングが作製される材料に対して、性質または特性が強化された材料から作製することができる。例えば、実施形態では、シールリングは、シールリング材料(例えば、鉄合金)から作製され、またコーティング組成物の層は、シールリング材料よりも耐食性が高い。実施形態では、コーティング組成物は、防錆特性を有する材料を含む。実施形態では、コーティング組成物は、適切なリン酸塩コーティングを含む。例えば、実施形態では、コーティング組成物は、リン酸マンガンコーティング材料を含む。
【0088】
実施形態では、コーティング組成物の層は、自動析出プロセスを使用して塗布され、コーティング組成物の層はエポキシを含む。実施形態では、コーティング組成物の層は、エポキシ-アクリル樹脂を含む。実施形態では、コーティング組成物の層は、例えば、Henkel Surface Technologiesの、Autophoretic(登録商標)またはAutophoretic Coating Chemicals(登録商標)という商品名で市販されているコーティング組成物を含む、適切な自己析出可能なコーティング組成物を含む。実施形態では、自己析出可能なコーティング組成物は、エポキシアクリル系樹脂を含むAutophoretic(登録商標)コーティング組成物を含む。実施形態では、自己析出可能なコーティング組成物は、Bonderite金属前処理塗装プロセス(BONDERITE M-PP)930として、Henkel Surface Technologiesによって市販されているコーティング組成物を含む。さらに他の実施形態では、コーティング組成物の層142は、他の適切な自己析出可能なコーティング組成物を含みうる。
【0089】
実施形態では、コーティング組成物の層は、水媒性コーティング組成物が化学反応によってシールリングに塗布される任意の適切な自動析出プロセスを使用して塗布される。具体的には、シールリングは、化学薬品浴の中へと浸漬(または液浸)されてもよく、ここで顔料および樹脂粒子は、その外面(または少なくともその一部分)上に堆積されてもよい。
【0090】
当技術分野で公知のように、シールリングは、自己析出可能なコーティング組成物の塗布後に、一つ以上のすすぎ段階を受けることができる。例えば、シールリングは、シールリングの外面に接着していない任意のコーティング組成物材料を除去するために、第一のすすぎを受けることができる。さらに、例えば、耐食性の向上などの新しい特性が、硬化前に自己析出可能なコーティング組成物に導入されるように、反応すすぎが提供されてもよい。すすぎ段階の後、シールリングは、当業者に公知の任意の適切な技法を使用して、自己析出可能なコーティング組成物を硬化させるのに十分な温度まで加熱することができる。具体的には、シールリングは、自己析出可能なコーティング組成物を十分に硬化させるために所定の時間のあいだ標的温度まで加熱することができる。
【0091】
さらに、当然のことながら、実施形態では、コーティング組成物の層は、塗布プロセスにおいてシールリングの意図される適用領域を越えて塗布されてもよい。実施形態では、コーティング材料の塗布層を有するシールリングの一つ以上の部分は、コーティング組成物の塗布された層をそこから除去するための機械加工プロセスによるなどで処理することができる。例えば、コーティング組成物の層は、シールリング全体を化学薬品浴の中へと浸漬することによって、シールリングの外面に塗布することができる。実施形態では、コーティング組成物の層は、封止面および/またはシールリングの内部円筒面に塗布することができる。実施形態では、封止面および/またはシールリングの内部円筒面に塗布されるコーティング組成物の層は、当業者に公知の機械加工技法を使用して除去することができる。他の実施形態では、コーティング組成物の付着が抑制されるように、シールリングの外面の一つ以上の部分を保護するために、マスキング技法を使用することができる。
【0092】
シールリングの封止面は、封止バンドを画定するように機械加工される(工程530)。工程530では、封止面を、例えば、平面ラップ盤でラップ仕上げすることによってなど、任意の適切な技法を使用して機械加工して、封止バンドを画定することができる。
【0093】
実施形態では、シールリングの封止面は、内側逃げ領域を画定するために機械加工することができる。封止バンドは、封止面に沿って内側逃げ領域の半径方向外向きに配置される。実施形態では、封止面は、例えば、球面ラップ盤でラップ仕上げすることによってなど、任意の適切な技法を使用して機械加工して、内側逃げ領域を画定することができる。
【0094】
コーティング組成物の層が塗布された後、マスクが、シールリングの外面に塗布されたコーティング組成物の層の少なくとも一つの領域上に定置される(工程540)。マスクが封止バンドからずらされて封止バンドが露出したままになるように、マスクは封止バンドに対して位置付けられる。
【0095】
実施形態では、マスクは、シールリングをマスキング部材内に配置することによって適用される。マスキング部材は、円周溝を画定する。シールリングの負荷端部は、円周溝内に配置される。実施形態では、マスキング部材によって画定される円周溝は、シールリングが、載荷面が覆われた円周溝内に配置され、そして封止バンドを包含する封止面の一部のみが露出されるように構成される。
【0096】
実施形態では、マスキング部材は、第一のマスキング部品および第二のマスキング部品を含む。第一のマスキング部品は、内側側壁および円形凹部を画定する基部を含む。第二のマスキング部品は、外周部を有する。第二のマスキング部品は、第二のマスキング部品を第一のマスキング部品の第一の円形凹部内に位置付けることができるように構成される。第一のマスキング部品の内側側壁と第二のマスキング部品の外周部は、一緒に協働して円周溝を画定する。
【0097】
実施形態では、マスキング部材は、任意の適切な材料から作製することができる。実施形態では、マスキング部材は、等方性仕上げ加工プロセスで使用される研磨媒体と非反応性の耐酸性材料から作製される。実施形態では、マスキング部材は、60ショアA以下のデュロメーター硬度を有する材料から作製される。実施形態では、マスキング部材は、25~55ショアAの範囲のデュロメーター硬度を有する材料から作製される。
【0098】
実施形態では、マスキング部材は、当業者によって理解されるように、任意の適切な技法を使用して作製することができる。実施形態では、マスキング部材は、プロトタイプシールリングを逆成形することによって作製される。
【0099】
マスクが定置された後、封止バンドを等方性仕上げ加工プロセスに供することによって、封止バンドを研磨する(工程550)。実施形態では、封止バンドは、封止バンドが、他の実施形態では約0.3マイクロメートルRa以下、約0.2マイクロメートルRa以下、さらに他の実施形態では約0.15マwイクロメートルRa以下、なおさらに他の実施形態では約0.1マイクロメートルRa以下の表面粗さ平均を有するように、封止バンドを等方性仕上げ加工に供することによって研磨される。
【0100】
実施形態では、封止バンドが工程550で研磨されると、封止面の内側逃げ領域および封止バンドは、それに塗布されたコーティング組成物の層を実質的に有しない。言い換えれば、封止バンドが研磨されると、封止面の封止バンドは、それに塗布されたコーティング組成物の層を実質的に有しない。コーティング組成物の層が封止面に塗布される程度まで、封止バンドに等方性仕上げ加工を施すことができるように、機械加工工程の間および/または他の機械加工作業によって除去することができる。
【0101】
実施形態では、任意の適切な等方性仕上げ加工プロセスを使用して、封止バンドを研磨することができる。実施形態では、等方性仕上げのための加工手順には、二つのサイクル、すなわち、切削サイクルおよび艶出しサイクルが関与する可能性がある。サイクル時間は、初期表面仕上げおよび部品形状公差に応じて変化させることができる。実施形態では、サイクルタイムは、シールリング部品形状、例えば、角、丸み、傾斜、開口部などが公差内に留まるように決定することができる。
【0102】
実施形態では、封止バンドを等方性仕上げ加工に供することは、切削液を構成要素の表面に塗布して、等方性表面仕上げを得ることを含む。実施形態では、切削液は、約5~約6のpHを有する。例えば、実施形態では、切削サイクルで使用される酸は、約5~約6の間のpH値を有するリン酸およびシュウ酸のうちの一つである。
【0103】
例えば、実施形態では、シールリングは酸再表面加工に供され、シールリングは、上述したように、約5~約6のpH値で、リン酸またはシュウ酸などの適切な酸の切削液混合物中に浸漬される。酸再表面加工は、加工タンク内で実施されてもよい。切削液は、再仕上げプロセッサによって操作される電子制御式切削液弁を介して、切削液リザーバから加工タンクの中へと導入することができる。再仕上げプロセッサは、再仕上げプロセッサの動作を制御するためのコンピュータ実行可能コードを含む、非一時的コンピュータ可読デジタルメモリに関連付けられたデジタルマイクロコンピュータまたはマイクロプロセッサを含むことができる。攪拌器または他の流れ強化手段を使用して、加工タンク内のシールリングの加工をスピードアップすることもできる。
【0104】
切削プロセスは、シールリングの封止バンドの表面の隆起(すなわち高点)を除去することによって進行することができ、一方で溶液中の要素は低点を保護する。このようにして、隆起は、不規則性が最終的に十分に小さく等方的になる程度まで広げられかつ低くされる。
【0105】
実施形態では、封止バンドを等方性仕上げ加工に供することは、構成要素の表面に艶出し液を塗布することをさらに含む。実施形態では、艶出し液は、約7~約9のpHを有する。例えば、実施形態では、艶出しサイクルで使用される溶液は、約7~約9のpHのスリップ剤である。実施形態では、切削液または艶出し液は、艶出しサイクル用の流体を加える前に、または流体のpHを維持するために流体を加える前に、除去される必要はない。艶出し後、加工したシールリングを完全にすすいで、さらなる腐食または浸食を防ぐことができる。
【0106】
例えば、実施形態では、表面切削段階が完了すると、一実施形態では封止バンドは艶出しされる。艶出し液、例えば、約7~約9のpHを有するスリップ剤が、シールリングの封止バンド上に流される。実施形態では、切削液は、艶出し液の導入の前に排出される。他の実施形態では、艶出し液自体が切削液を置き換えるために使用される。切削液リザーバからの電子制御式切削液弁を閉鎖し、電子制御式排出弁を開いて加工タンクを排出することができる。同時に、艶出し液タンクを有して配設された電子制御式艶出し液弁を開いて、艶出し液を加工タンクに入れることができる。
【0107】
艶出し液は、シールリングの封止バンドをさらに滑らかにし、また切削液を中和して、切削の継続を回避する役目を果たすことができる。研磨サイクルの後、シールリングをすすぎ、等方性仕上げサイクルを停止することができる。
【0108】
産業上の利用可能性 説明したシールリング用の合金、シール組立品用のシールリング、シールリングの作製方法、および本明細書のシール組立品の環状シールリングの作製方法で使用するための器具についての実施形態の産業上の利用可能性は、前述の考察から容易に理解される。記載の原理は、一方の部材が他方の部材に対して回動可能なような、ホイール組立品を含む機械および装置に適用可能である。ホイール組立品は、本原理に従って構築された少なくとも一つのシール組立品を含むことができる。他の実施形態では、本開示の原理に従って構成されたシールリングは、例えば、スラリーポンプオーガーまたはリンク機構組立品用のピン継手組立品などの異なる用途で使用されるシール組立品で使用することができる。
【0109】
使用中に、第一のシールリング111および第二のシールリング112は、潤滑剤(図示せず)などの流体が、例えば、内部空洞から漏出するのを防止するのに役立つ可能性がある。第一のシールリング111および第二のシールリング112は、それらの間に連続的シールを提供する。具体的には、第一のシールリング111および第二のシールリング112は、封止係合した状態で互いに対して相対的に回転する。第一の負荷リング121および第二の負荷リング122は、第一のシールリング111および第二のシールリング112の封止バンド140を、連続的な流体密封シールが形成されるように、圧力下で面対面封止接触させるために、長手方向軸「LA」に沿って対向する方向で、それぞれ、第一のシールリング111および第二のシールリング112に対して軸方向荷重をかけるようにばねの様態で作用する。シール空洞40の構造は、第一の負荷リング121および第二の負荷リング122を、第一のシールリング111および第二のシールリング112とそれぞれ近位関係に維持して、第一のシールリング111および第二のシールリング112が相互に対して及ぼす対向する軸方向力を促進するのに役立つ可能性がある。したがって、流体が、苛酷な載荷条件下でシール空洞40から漏れないよう抑制することができる。
【0110】
封止バンド140の構築は、第一のシールリング111および第二のシールリング112を接合部内に取り付けた時に、効果的な流体密封シールを容易に生成することができるようなものである。封止バンド140は、等方性仕上げ加工プロセスを使用して生成される一貫した表面仕上げを有することができる。等方性仕上げは、封止バンドの表面仕上げおよび/またはテクスチャを修正して、相対的摺動が発生したときの摩損または摩耗を低減することによって、その性能を向上させることができる。封止バンドを等方性仕上げ加工に供することは、ピッチング疲労を低減し、シールリングの耐用年数を延長するのに役立つ可能性がある。
【0111】
さらに、等方性仕上げ加工プロセスが実施される前に、コーティング組成物の層をシールリングの外面に塗布して、例えば、その耐食性および/または防錆性を強化することができる。封止バンド以外の封止リングの領域に塗布されるコーティング組成物の層は、本開示の原理に従って構築されたマスクによって等方性仕上げ加工プロセス中に保護することができる。
【0112】
実施形態では、マスクは、複数の等方性仕上げ加工プロセスサイクルにおける異なるシールリングの研磨時のマスクとして複数回使用するために、マスクの使用期間を延長するのに役立つ軟質材料から作製することができる。軟質材料は、等方性仕上げ加工プロセスで使用されるセラミック研磨媒体に対する摩擦において非常に摩耗が小さいため、複数のサイクルにわたって使用することができる。
【0113】
当然のことながら、前述の説明は、開示されたシステムおよび技法の例を提供する。しかしながら、本開示の他の実施は、前述の実施例から詳細な点で異なってもよいことが企図される。本開示またはその実施例へのすべての参照は、その点で考察される特定の実施例を参照することを意図しており、より一般的に開示の範囲に対するいかなる限定も暗示するものではない。特定の特徴に関する区別および否定的見解のすべての文言は、対象の特徴に対する選好性の欠如を示すことを意図しているが、別段の明確な指示がない限り、本開示の範囲からそのようなものを完全に除外するものではない。
【0114】
本明細書の値の範囲の列記は、本明細書中で特に示さない限り、該範囲内の個々の値を個別に参照する簡略な方法として機能することが単に意図されるものであり、個々の値はそれぞれあたかも本明細書に個別に記載されるかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書中に特に示される、または明らかに文脈と矛盾しない限り、本明細書に記載されるすべての方法は、任意の適切な順序で実施することができる。
【国際調査報告】