(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-13
(54)【発明の名称】ブロックコポリマーを含んでなる組成物、およびそれを用いたシリカ質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/312 20060101AFI20220406BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20220406BHJP
【FI】
H01L21/312 C
C01B33/02 Z
C01B33/02 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021554370
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(85)【翻訳文提出日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 EP2020059723
(87)【国際公開番号】W WO2020207950
(87)【国際公開日】2020-10-15
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 嵩士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦彦
【テーマコード(参考)】
4G072
5F058
【Fターム(参考)】
4G072AA06
4G072BB09
4G072BB20
4G072EE07
4G072GG02
4G072HH07
4G072HH28
4G072MM22
4G072RR30
4G072UU01
5F058AA03
5F058AA06
5F058AA10
5F058AB06
5F058AB07
5F058AC03
5F058AD01
5F058AF04
5F058AG01
(57)【要約】
【課題】幅が狭く、高アスペクト比の溝を充填することができ、かつ厚いシリカ質膜を製造することができるシリカ質膜製造組成物を提供する。[解決手段]本発明は、(a)ケイ素原子を5以上有する、直鎖状および/または環状の、ポリシラン骨格のブロックと、ケイ素原子を15以上有するポリカルボシラン骨格のブロックとを有るブロックコポリマー、および(b)溶媒を含んでなる、シリカ質膜製造組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ケイ素原子を5以上有する、直鎖状および/または環状の、ポリシラン骨格のブロックAと、ケイ素原子を15以上有するポリカルボシラン骨格のブロックBとを有しており、
ブロックAの少なくとも1つのケイ素原子と、ブロックBの少なくとも1つのケイ素原子とが、単結合および/またはケイ素原子を含む架橋剤によって連結されている、ブロックコポリマー、および
(b)溶媒
を含んでなる、シリカ質膜製造組成物。
【請求項2】
ブロックAが、以下の式(I-1)~(I-3)で表される単位からなる群のうちの少なくとも1つから選択される、5以上の繰り返し単位を含んでなり、ブロックBが、以下の式(II-1)~(II-4)で表される単位からなる群のうちの少なくとも1つから選択される、15以上の繰り返し単位を含んでなる、請求項1に記載のシリカ質膜製造組成物。
【化1】
(式中、
R
Ia、R
IbおよびR
Icは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C
1~C
6のアルキル、またはC
6~C
10のアリールである)
【化2】
(式中、
R
IIa~R
IIfは、それぞれ独立に、水素、C
1~C
6のアルキル、またはC
6~C
10のアリールである)
【請求項3】
ブロックコポリマーの質量平均分子量が1,200~25,000である、請求項1または2に記載のシリカ質膜製造組成物。
【請求項4】
ブロックBの繰り返し単位の総数に対するブロックAの繰り返し単位の総数の比率が、20~230%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物。
【請求項5】
ブロックA中の、R
Ia、R
IbおよびR
Icのうちの少なくとも1つが、単結合であり、残りが水素である、請求項1~4のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物。
【請求項6】
ブロックB中のR
IIa~R
IIfのうちの少なくとも1つが、単結合であり、残りが水素である、請求項1~5のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物。
【請求項7】
ブロックコポリマーは、ブロックBを含んでなる主鎖と、ブロックAを含んでなる側鎖とで構成されるブロックコポリマーである、請求項1~6のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物。
【請求項8】
ブロックAの少なくとも1つが(I-4)である、請求項1~7のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物。
【化3】
(式中、
R
IdおよびR
Ieは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C
1~C
6のアルキル、C
6~C
10のアリール、または単結合であり、但し、R
IdまたはR
Ieのうちの少なくとも1つが単結合であり、pが5以上の整数である)
【請求項9】
ブロックコポリマーが、ケイ素原子を含む架橋剤によって、別のブロックAに結合したブロックA、別のブロックBに結合したブロックB、および/またはブロックBに結合したブロックAを含んでなる、請求項1~8のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物。
【請求項10】
溶媒が、3.0以下の比誘電率を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のシリカ質膜製造組成物を、基板に適用して被膜を形成すること、および
被膜を酸化雰囲気下で硬化させること
を含んでなるシリカ質膜の製造方法。
【請求項12】
酸化雰囲気が、20~101kPaの酸素分圧および/または0.5~101kPaの水蒸気分圧である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
硬化の前に、被膜上への波長245~438nmの光照射をさらに含んでなる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
硬化が200~1,000℃で行われる、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか一項に記載のシリカ質膜の製造方法により得られるシリカ質膜。
【請求項16】
請求項11~14のいずれか一項に記載のシリカ質膜の製造方法を含んでなる、電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラン骨格のブロックおよびポリカルボシラン骨格のブロックを有するブロックコポリマーを含んでなる、シリカ質膜を製造するための組成物に関する。さらに、本発明は、それを用いたシリカ質膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、とりわけ半導体デバイスの製造において、トランジスタ素子とビットラインとの間、ビットラインとキャパシターとの間、キャパシターと金属配線との間、複数の金属配線の間等に層間絶縁膜が形成されている。また、基板表面等に設けられたアイソレーション溝には、絶縁材料が充填されている。さらに、基板表面に半導体素子を形成した後、封止材料を用いて被覆層を形成してパッケージを形成する。このような層間絶縁膜および被覆層は、シリカ質材料で形成されていることが多い。
【0003】
シリカ質膜の形成方法には、化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、ケイ素含有ポリマーを含んでなる組成物を適用および焼成する方法等が用いられている。これらの中で、比較的簡単であるため、組成物を用いたシリカ質膜の形成方法が用いられることが多い。シリカ質膜を形成するには、基板等の表面にポリシラザン、ポリシロキサン、ポリシロキサゾラン、またはポリシラン等のケイ素含有ポリマーを含んでなる組成物を適用し、焼成することでこのポリマー中に含まれるケイ素を酸化してシリカ質膜を形成する。
【0004】
半導体デバイスの、幅が狭く、高アスペクト比の溝を充填することができ、硬化により高密度の膜に変えることができる材料が求められている。さらに、3D NAND技術の開発によって、従来よりもさらに厚いシリカ質膜が求められている。
【0005】
米国特許第5,602,060号は、溶媒中のポリカルボシラン溶液を基板上に適用し、酸化雰囲気中でポリカルボシラン層を硬化させて酸化シリコン層に変換する工程を含んでなる半導体デバイスの製造方法を開示している。
【0006】
特開2008-210929号公報は、酸素分圧50~3,000ppmの雰囲気下でポリカルボシラン層を固体化する方法であって、熱処理、紫外線照射および電子線照射からなる群から選択される少なくとも1種の方法を開示している。
【0007】
ポリシラン/ポリカルボシランコポリマーの合成方法は、米国特許第8,466,076号により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,602,060号
【特許文献2】特開2008-210929号公報
【特許文献3】米国特許第8,466,076号
【発明の概要】
【0009】
本発明の1つの形態は、幅が狭く、高アスペクト比の溝を充填することができ、かつ厚いシリカ質膜を製造することができるシリカ質膜製造組成物を提供する。
【0010】
本発明の別の形態は、優れた電気特性を有するシリカ質膜を製造する方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに別の形態は、優れた電気特性を有するシリカ質膜を有する電子デバイスを製造する方法を提供する。
【0012】
本発明の1つの形態は、(a)ケイ素原子を5以上有する、直鎖状および/または環状の、ポリシラン骨格のブロックA(以下、「ブロックA」という)と、ケイ素原子を15以上有するポリカルボシラン骨格のブロックB(以下、「ブロックB」という)とを有しており、ブロックAの少なくとも1つのケイ素原子と、ブロックBの少なくとも1つのケイ素原子とが、単結合および/またはケイ素原子を含む架橋剤によって連結されている、ブロックコポリマー、および(b)溶媒を含んでなる、シリカ質膜製造組成物を提供する。
【0013】
ブロックAは、一般式(I-1)~(I-3)で表される単位からなる群のうちの少なくとも1つから選択される、5以上の繰り返し単位を含んでなる:
【化1】
式中、R
Ia、R
IbおよびR
Icは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C
1~C
6のアルキル、またはC
6~C
10のアリールである。
【0014】
ブロックBは、一般式(II-1)~(II-4)で表される単位からなる群のうちの少なくとも1つから選択される、15以上の繰り返し単位を含んでなる:
【化2】
式中、R
IIa~R
IIfは、それぞれ独立に、水素、C
1~C
6のアルキル、またはC
6~C
10のアリールである。
【0015】
ブロックコポリマーは、1,200~25,000の質量平均分子量を有する。
【0016】
溶媒は、3.0以下の比誘電率を有する。
【0017】
本発明の別の形態は、上記のシリカ質膜製造組成物を基板に適用して被膜を形成すること、および200~1,000℃で、酸素分圧20~101kPaおよび/または水蒸気分圧0.5~101kPaでこの被膜を硬化させることを含むシリカ質膜の製造方法を提供する。
【0018】
本発明のさらに別の形態は、上記のシリカ質膜製造組成物を基板に適用して被膜を形成すること、および酸化雰囲気下でこの被膜を硬化させることを含んでなる方法によって製造されたシリカ質膜を有する電子デバイスを製造する方法を提供する。
【0019】
本発明のシリカ質膜製造組成物は、幅が狭く、高アスペクト比の溝を充填することが可能である。さらに、得られたシリカ質膜はまた、硬化時の収縮が小さく、かつその電気特性が優れているという特徴を有する。この組成物を用いることにより、電子デバイスの歩留まりを向上させることができる。
[定義]
【0020】
特に断らない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される以下の用語は、本明細書の目的のための以下の意味を有するものとする。
【0021】
本明細書では、単数形の使用は、複数のものを含み、単語「a」、「an」および「the」は、特に断らない限り、「少なくとも1つの」を意味する。さらに、用語「含む(including)」および「含む(includes)」並びに「含まれる(included)」等の他の形態の使用は、限定的ではない。また、「要素(element)」または「成分(component)」等の用語は、特に断らない限り、1つのユニットを含んでなる要素または成分と、1つより多くのユニットを含んでなる要素または成分の両方を包含する。本明細書で使用されるように、特に断らない限り、接続詞「および」は包括的であることを意図しており、接続詞「または」は、排他的であることを意図していない。例えば、「または、代わりに」という語句は、排他的であることを意図している。本明細書で使用されるように、用語「および/または」は、単一の要素を使用することを含む前述の要素の任意の組み合わせを指す。
【0022】
用語「約(about)」または「約(approximately)」は、測定可能な数値変数に関連して使用される場合、変数の指示値を指し、かつ指示値の実験誤差内(例えば、95%の平均信頼限界内)または指示値の±10%内の、いずれか大きい方である変数のすべての値を指す。
【0023】
本明細書において、「Cx~y」、「Cx~Cy」および「Cx」等の記載は、分子または置換基中の炭素原子の数を意味する。例えば、C1~6のアルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
【0024】
本明細書において、特に記載しない限り、「アルキル」は、直鎖状または分岐状アルキルを意味し、そして「シクロアルキル」は、環状構造を含むアルキルを意味する。環状構造が直鎖状または分岐状アルキルで置換されているものもシクロアルキルと呼ばれる。また、シクロアルキルには、ビシクロアルキル等の多環構造を有するものも含まれる。「ヘテロアルキル」は、特に記載しない限り、主鎖または側鎖中に酸素または窒素を含むアルキルを意味し、例えば、オキシ、ヒドロキシ、アミノ、カルボニル等を含むアルキルを意味する。さらに、「ヒドロカルビル基」は、炭素と水素を含んでなり、必要に応じて酸素または窒素を含む、1価、2価またはそれ以上の基を意味する。さらに、本明細書において、特に記載しない限り、「アルキレン」は、前記アルキルに対応する2価の基を意味し、例えば、直鎖状アルキレンまたは側鎖を有する分岐状アルキレンを含む。
【0025】
数値範囲が、「to」、「-」や「~」を用いて記載されている場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
【0026】
本明細書において、ポリマーが特定の定義なしに複数種類の繰り返し単位を含む場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。
【0027】
本明細書において、特に記載しない限り、摂氏(Celsius)を温度の単位として使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
【0028】
本明細書において、特に記載しない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0029】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成上の目的のためであり、記載された主題を限定するものとして解釈されるべきではない。これらに限定されないが、特許、特許出願、記事、書籍および論文を含む、この出願において引用される全ての文献または文献の部分は、任意の目的においてその全体を参照して本明細書に明示的に組み込まれる。この組み込まれた文献および類似の資料のうちの1つ以上が、本出願においてある用語の定義と矛盾するような方法でその用語を定義している場合、本出願が支配する。
【発明の詳細な説明】
【0030】
以下に、本発明の形態を詳細に説明する。
【0031】
[シリカ質膜製造組成物]
本発明のシリカ質膜製造組成物は、特定のブロックコポリマー(a)と、溶媒(b)とを含んでなる。
【0032】
(a)ブロックコポリマー
本発明のブロックコポリマーは、ケイ素原子を5以上有する、直鎖状および/または環状の、ポリシラン骨格のブロックAと、ケイ素原子を15以上有するポリカルボシラン骨格のブロックBとを含んでなり、ここで、ブロックAの少なくとも1つのケイ素原子と、ブロックBの少なくとも1つのケイ素原子とが、単結合および/またはケイ素原子を含む架橋剤によって連結されている。
【0033】
本発明において、ブロックコポリマーが複数のブロックを含む場合には、ブロックAまたはブロックBのうちの異なる構造を有するブロックコポリマーを使用してもよい。ブロックコポリマー中のブロックAおよびブロックBは、ランダムにまたは交互に結合されていてもよい。ブロックAおよびブロックBは、骨格としてのブロックBに側鎖としてブロックAが結合するグラフトコポリマーとして結合されていてもよい。ブロックコポリマーの分子では、ブロックAがブロックBまたは別のブロックAに結合されていてもよく、またはブロックBが別のブロックBに結合されていてもよい。
【0034】
本発明において、ポリシラン骨格は、Si-Si結合からなる骨格を意味し、ポリカルボシラン骨格は、Si-C結合の繰り返し単位からなる骨格を意味する。
【0035】
好ましくは、ブロックAは、一般式(I-1)~(I-3)で表される単位からなる群のうちの少なくとも1つから選択される、5以上の繰り返し単位を含んでなる:
【化3】
式中、R
Ia、R
IbおよびR
Icは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C
1~C
6のアルキル、またはC
6~C
10のアリールであり、そしてブロックBは、一般式(II-1)~(II-4)で表される単位からなる群のうちの少なくとも1つから選択される、15以上の繰り返し単位を含んでなる:
【化4】
式中、R
IIa~R
IIfは、それぞれ独立に、水素、C
1~C
6のアルキル、またはC
6~C
10のアリールである。
【0036】
ブロックA中のRIa、RIbおよびRIcの例には、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、フェニル、トリル、キシリルが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、RIa、RIbおよびRIcは、全て水素である。
【0037】
繰り返し単位(I-1)~(I-3)の組み合わせは限定されないが、(I-2)または(I-3)のうちの少なくとも1つの単位を含むことが好ましい。1つのブロックコポリマー中のブロックAの数は、好ましくは1~95であり、より好ましくは3~90である。
【0038】
ブロックAが直鎖状ポリシラン骨格である限り、1つのブロックAの含有する、単位(I-1)~(I-3)の数は、好ましくは5~20であり、より好ましくは5~15である。含有する単位は、好ましくは互いに結合してSi-Si結合を形成する。
【0039】
好ましくは、ブロックAの少なくとも1つは、一般式(I-4)で表される:
【化5】
式中、R
IdおよびR
Ieは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C
1~C
6のアルキル、C
6~C
10のアリール、または単結合であり、但し、R
IdまたはR
Ieのうちの少なくとも1つが単結合であり、pが5以上の整数である。好ましくは、pは5または6である。前記単結合は、好ましくは、別のブロックAまたはブロックBに結合される。好ましくは、R
IdまたはR
Ieのうちの少なくとも1つは、単結合であり、他のすべては、水素である。
【0040】
ブロックB中のRIIa~RIIfの例には、水素、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチルが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、全てのRIIa~RIIfは、水素である。
【0041】
繰り返し単位(II-3)-(II-4)の組み合わせは限定されないが、(II-3)または(II-4)のうちの少なくとも1つの単位を含むことが好ましい。1つのブロックB中の繰り返し単位の数は、15以上、好ましくは15~250であり、より好ましくは15~130である。繰り返し単位(II-1)~(II-4)は互いに結合していることが好ましい。1つのブロックコポリマー分子におけるブロックBの数は、好ましくは1~24であり、より好ましくは1~6である。
【0042】
本発明において、ブロックコポリマーは、好ましくは、ブロックAどうし、ブロックBどうし、またはブロックAとブロックBとの間を架橋させるために、ケイ素原子を含む架橋剤をさらに含んでなる。ケイ素原子を含む架橋剤の例としては、-Si2R4-(式中、Rは、独立して、水素、ハロゲン、アルキルまたはアルコキシであり、好ましくは水素またはC1のアルキルもしくはアルコキシである)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
ブロックAとブロックBとの組み合わせは、限定されるものではないが、式(II-1)~(II-4)の繰り返し単位の総数に対する式(I-1)~(I-3)の繰り返し単位の総数の比率(以下、「繰り返し単位比率」という)は、好ましくは20~230%であり、より好ましくは20~200%である。
【0044】
繰り返し単位比率は、インバースゲートデカップリング法に基づき得られる29Si-NMRスペクトルの積分値から計算することができる。繰り返し単位比率は、ポリカルボシラン骨格のケイ素に割り当てられる-40~20ppmの積分値に対する、ポリシリコン骨格のケイ素に割り当てられる-115~-95ppmの積分値の比率である。
【0045】
29Si-NMRの測定は以下のように行うことができる。ブロックコポリマー溶液の溶媒をロータリーエバポレーターで除去する。0.4gのブロックコポリマーを1.2gの重クロロホルムのような重溶媒に溶解する。この試料溶液をJNM-ECS400(日本電子株式会社)で1,000回測定し、29Si-NMRスペクトルを得る。
【0046】
ブロックコポリマーの溶媒溶解性、ブロックコポリマー膜の平坦性、およびブロックコポリマーフィルムの基板への粘着性に対する要求から、本発明によるブロックコポリマーの質量平均分子量は1,100~25,000であることが好ましく、2,000~20,000であることがより好ましく、2,500~10,000であることが最も好ましい。ポリスチレン換算の質量平均分子量は、ポリスチレンを基準としてゲル透過クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0047】
本発明のブロックコポリマーの製造方法は、特に限定されるものではないが、以下のものを含んでなる:
(A)ケイ素原子を5以上有する環状ポリシランに光照射する工程、
(B)光照射された、ケイ素原子を5以上有する環状ポリシランと、ケイ素原子を15以上有するポリカルボシランとを含んでなる混合物を調製する工程、および
(C)前記混合物に光照射する工程。
以下、本発明のブロックコポリマーの製造方法を工程ごとに例示する。
【0048】
(A)ケイ素原子を5以上有する環状ポリシランに光照射する工程
本発明の製造方法に用いる環状ポリシランは、本発明の効果を損なわない限り、任意に選択することができる。このような環状ポリシランは、無機材料または有機材料のいずれであってもよく、分子内に直鎖状構造、分岐状構造または部分的に環状構造を含んでなるものである。
【0049】
好ましくは、環状ポリシランは、以下の式(I-5)で表される:
【化6】
式中、R
IfおよびR
Igは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C
1~6のアルキルまたはC
6~10のアリールであり、qは5以上の整数である。
好ましくは、qは、5~8であり、より好ましくは5または6である。
好ましい環状ポリシランの例としては、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシラン、ジシリルシクロヘキサシラン、シクロペンタシランおよびシクロヘキサシランが挙げられ、より好ましくは、シクロペンタシランまたはシクロヘキサシランである。
【0050】
工程(A)の好ましい露光波長は、少なくとも、172~405nm、より好ましくは、282~405nmの波長を含む。照射強度は、好ましくは10~250mW/cm2であり、より好ましくは50~150mW/cm2である。照射時間は、好ましくは30~300秒間であり、より好ましくは50~200秒間である。シクロペンタシランまたはシクロヘキサシランは、室温で液体であるので、撹拌しながら光照射することができる。固体の環状ポリシランの場合には適当な溶媒に溶解させて、溶液を撹拌しながら光照射することができる。この光照射工程中に、環状ポリシランの一部または全てが開環すると考えられる。
【0051】
(B)光照射された、ケイ素原子を5以上有する環状ポリシランと、ケイ素原子を15以上有するポリカルボシランとを含んでなる混合物を調製する工程
この工程では、工程(A)で光照射された、ケイ素原子を5以上有する環状ポリシランと、ケイ素を15以上有するポリカルボシランを含んでなる混合物を調製する。この混合物は、ケイ素原子を含む架橋剤をさらに含んでなることが好ましい。
【0052】
本発明の製造方法に用いられるポリカルボシランは、本発明の効果を損なわない限り、任意に選択することができる。このようなポリカルボシランは、無機材料または有機材料のいずれであってもよく、また分子内に直鎖状構造、分岐状構造または部分的に環状構造を有するものであってもよい。
【0053】
好ましくは、ブロックBは、以下の式(II-1)~(II-4)で表される単位からなる群のうちの少なくとも1つから選択される、15以上の繰り返し単位を含んでなる:
【化7】
式中、R
IIa~R
IIfは、それぞれ独立に、水素、C
1~C
6のアルキル、またはC
6~C
10のアリールである。
【0054】
さらに好ましくは、本発明の製造方法に用いられるポリカルボシランは、ポリ(ペルヒドロカルボシラン)(以下、「PHPC」という)である。PHPCは、Si-C結合の繰り返し単位を有し、Si、CおよびHからなるケイ素含有ポリマーである。PHPCは、Si-C結合を除いて、Hに結合するSiおよびCからなる。PHPCは、OおよびNのような他の元素を実質的に含まない。
【0055】
本発明において、分子内に直鎖状構造、分岐状構造または部分的に環状構造を有するPHPCを用いることができる。PHPCの例は、以下の式(II-b)~(Il-d)で表される繰り返し単位と、以下の式(II-a)で表される末端単位とを含んでなる:
【化8】
【0056】
ポリカルボシランの溶媒溶解性に対する要求から、本発明の製造方法に用いられるポリカルボシランの質量平均分子量は800~15,000であることが好ましく、800~10,000であることがより好ましく、800~8,000であることが最も好ましい。ポリスチレン換算の質量平均分子量は、ポリスチレンを基準としてゲル透過クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0057】
本発明の製造方法に用いられる架橋剤は、ケイ素原子を含んでなる。架橋剤は、特に限定されるものではなく、例えば、ヘキサクロロジシラン、1,1,2,2-テトラクロロ-1,2-ジメチルジシラン、1,2-ジクロロジシラン、1,1-ジクロロジシラン、1,2-ジクロロテトラメチルジシラン、オクタクロロトリシラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロ-2,2-ジメチルトリシラン、ジクロロシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ヘキサクロロジシラザン、テトラクロロジシラザン、ヘキサクロロジシロキサン、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジメチルジシロキサン、1,3-ジクロロ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジクロロジシロキサン、ビス(トリクロロシリル)アセチレン、1,2-ビス(トリクロロシリル)エテン、1,2-ビス(ジクロロメチルシリル)エテン等のハロゲン化シラン化合物;トリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリエトキシシラン、ジエトキシシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン等のアルコキシシラン化合物等が挙げられる。この架橋剤は、ポリシランとポリカルボシラン、ポリシランどうし、またはポリカルボシランどうしを架橋する。架橋剤により架橋されたブロックコポリマーは、膜形成プロセス中のブロックAとブロックBとの相分離を抑制し、均一な膜を形成することを可能にする。
【0058】
本発明の製造方法に用いられる架橋剤の質量平均分子量は、好ましくは100~350であり、より好ましくは125~270である。
【0059】
(C)前記混合物に光照射する工程
ブロックAとブロックBとの間の縮合反応は、光照射工程中に起こると考えられる。工程(C)の好ましい照射波長は、少なくとも172~405nm、より好ましくは282~405nmの波長を含む。照射強度は、好ましくは10~250mW/cm2であり、より好ましくは50~150mW/cm2である。照射時間は、好ましくは5~100分であり、より好ましくは5~60分である。照射エネルギーは、好ましくは3~1,500Jであり、より好ましくは25~500Jである。上記工程(A)~(C)は、不活性雰囲気下で行われることが好ましい。
【0060】
工程(C)の後、生成物をシクロオクタン等の溶媒に溶解する。この溶液を濾過して副生成物を除去し、本発明のブロックコポリマーを得る。この生成物は、2種類のブロック構造を有するブロックコポリマーである。
【0061】
(b)溶媒
本発明のシリカ質膜製造組成物は、上記ブロックコポリマーと溶媒とを含んでなる。溶媒としては、成分を溶解することができる限り特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、およびエチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、およびジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル;メチルセロソルブアセテート、およびエチルセロソルブアセテート等のエチレングリコールアルキルエーテルアセテート;プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびプロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、およびプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メシチレン、およびトリエチルベンゼン等の芳香族化合物;n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、およびi-デカン等の飽和炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン、およびp-メンタン等の脂環式炭化水素;シクロヘキセン、およびジペンテン等の不飽和炭化水素;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、およびアニソール等のエーテルが挙げられる。好ましい溶媒は、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン、トルエン、およびメシチレンである。溶媒は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
溶媒の比誘電率は、ブロックコポリマーを均一に溶解するために、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.5以下である。
【0063】
シリカ質膜製造組成物の溶媒含有量は、塗布方法および被膜の膜厚に依存する。溶媒を除いて、組成物の固形分は、組成物の全質量に対して、好ましくは1~96質量%であり、より好ましくは2~60質量%である。
【0064】
成分(a)および(b)は、シリカ質膜製造組成物に必須であるが、この組成物は、任意に他の成分を含んでいてもよい。他の構成要素は、以下に記載される。(a)および(b)を除いた他の成分の固形分の含有量は、組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0065】
(c)他の成分
他の任意の成分は、例えば、界面活性剤等である。
【0066】
界面活性剤は塗布性を向上させることができるので、使用することが好ましい。本発明のシリカ質膜製造組成物に用いることができる界面活性剤としては、例えば、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0067】
上記非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、およびポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル;ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル;ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー;アセチレンアルコール;アセチレングリコール;アセチレンアルコールのポリエトキシレート等のアセチレンアルコール誘導体;アセチレングリコールのポリエトキシレート等のアセチレングリコール誘導体;フッ素含有界面活性剤、例えば、フロラード(商品名、スリーエムジャパン株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製);または有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。前記アセチレングリコールの例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0068】
また、アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸のアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキル硫酸のアンモニウム塩または有機アミン塩等が挙げられる。
【0069】
さらに、両性界面活性剤としては、例えば、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタイン等が挙げられる。
【0070】
これら界面活性剤は、単独でまたは2種以上混合して使用することができ、その配合比は、シリカ質膜製造組成物の全質量に対して、通常50~10,000ppmであり、好ましくは100~5,000ppmである。
【0071】
[シリカ質膜の製造方法]
本発明のシリカ質膜の製造方法は、上記のシリカ質膜製造組成物を、基板に適用して被膜を形成すること、およびこの被膜を酸化雰囲気下で硬化させることを含んでなる。
【0072】
このような基板にシリカ質膜製造組成物を適用する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スピン塗布、ディップ塗布、スプレー塗布、転写法、ロール塗布、バー塗布、ドクター塗布、ブラシ塗布、フロー塗布、スリット塗布等の通常の方法が挙げられる。シリカ質膜製造組成物が適用される好適な基板としては、シリコン基板、ガラス基板および樹脂フィルム等が用いられる。これらの基板には、必要に応じて半導体素子等が形成される。
【0073】
シリカ質膜製造組成物を適用した後、塗膜を乾燥または予備硬化させるために、好ましくはプリベーク工程を行われる。プリベーク工程は例えば、50~400℃で、ホットプレート上で10秒~30分、またはオーブン中で1~30分間の処理条件下、不活性ガスまたは酸素ガスの雰囲気中で行われる。プリベーク工程は、窒素雰囲気中で行うことが好ましい。
【0074】
本発明によれば、プレベークされた膜は、酸化雰囲気下で加熱される。このプリベークされた膜は、加熱によりシリカ質膜に変換される。
【0075】
本明細書中では、シリカ質膜は、酸素原子およびケイ素原子を含んでなり、ケイ素原子に対する酸素原子の比(O/Si)が1.20~2.50であり、好ましくは1.40~2.50であり、より好ましくは1.60~2.45である膜を意味する。シリカ質膜は、水素、窒素および炭素等の他の原子を含んでいてもよい。
【0076】
酸化雰囲気は、酸素分圧が20~101kPa、好ましくは40~101kPaであり、さらに好ましくは全圧が101kpaである場合に水蒸気分圧1.5~80kpaを含む雰囲気である。
【0077】
水蒸気を含む雰囲気下で加熱することが好ましい。水蒸気を含む雰囲気は、水蒸気分圧が0.5~101kPa、好ましくは1~90kPa、より好ましくは1.5~80kpaの範囲内である。加熱は、200~1,000℃の温度範囲内で行うことができる。
【0078】
なお、高温で水蒸気を含む雰囲気中での加熱、例えば600℃を超える温度での加熱は、同時に加熱処理に曝される電子デバイス等の他の素子に影響を及ぼすことが懸念される。このような場合には、シリカ変換工程を3段階以上に分割することができる。加熱は、まず、低温、例えば、200~400℃の酸化雰囲気中で、次いで、比較的低温、例えば、300~600℃の、水蒸気を含む雰囲気中で、そして続いて、高温、例えば、500~1,000℃の、水蒸気を含まない雰囲気中で加熱することができる。
【0079】
水蒸気を含む雰囲気中の水蒸気以外の他の成分(以下、「希釈ガス」という)は、任意のガスでよく、その具体的な例は、空気、酸素、窒素、亜酸化窒素、オゾン、ヘリウム、アルゴン等である。得られたシリカ質材料の品質の見地から、希釈ガスとして酸素を使用することが好ましい。しかしながら、希釈ガスは、加熱処理に曝される電子デバイス等の他の素子への影響も考慮して、適切に選択される。上記3段階の加熱方法における、水蒸気を含まない雰囲気としては、窒素等の上記希釈ガスのいずれか、および1.0kPa未満の減圧雰囲気もしくは真空雰囲気を採用することができる。
【0080】
加熱時の、目標温度への加熱速度および冷却速度は、特に制限されず、一般に、1℃~100℃/分の範囲内でよい。また、目標温度に到達した後の保持時間も特に限定されるものではなく、一般に1分~10時間の範囲内でよい。
【0081】
シリカ質膜製造組成物を基板上に適用した後、プリベーク工程の前に、被膜に光照射を行うことができる。硬化工程中の被膜の膜厚の減少は、被膜への光照射によって抑制することができる。好ましい照射波長は、248~436nmであり、より好ましくは282~405nmである。照射強度は、好ましくは10~700mW/cm2であり、より好ましくは40~500mW/cm2である。照射時間は、好ましくは30~3,000秒であり、より好ましくは50~2,500秒である。
【0082】
得られたシリカ質膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1~10μmであり、より好ましくは1~8μmである。
【0083】
本発明の電子デバイスの製造方法は、上記方法を含んでなる。好ましくは、デバイスは、半導体デバイス、太陽電池チップ、有機発光ダイオードおよび無機発光ダイオードである。本発明のデバイスの1つの好ましい形態は、半導体デバイスである。
[実施例]
【0084】
以下、本発明を実施例により説明する。これらの実施例は、例示的な目的のためにのみ示されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
[合成例1:ポリカルボシラン(A)]
【0085】
390gの金属ナトリウムを、窒素気流下に2.5Lのキシレン中で100℃~120℃に加熱し、攪拌し、溶融させた。そこに1,100gのジクロロジメチルシランを滴下し、この混合物を還流下に120~140℃で12時間攪拌した。その結果、紫色の沈殿物が得られた。キシレンを濾別した後、この沈殿物にメタノールを添加し、混合物を攪拌し、残留金属ナトリウムを不活化する処理を行った。さらに、3Lの純水を添加し、攪拌と濾過を12回繰り返して、副生成物の塩化ナトリウムを除去した。生成物を真空乾燥機中で90℃および5mmHgで24時間乾燥させて、420gの白色粉末状のポリジメチルシランを得た。
【0086】
上記で得られた300gのポリジメチルシランを磁器るつぼに入れ、これを加圧雰囲気炉に置いた。空気を窒素ガスで置換した後、750℃、0.5MPaで12時間の加圧反応を行った。210g(収率:70%)の加圧反応生成物を得た。この加圧反応生成物を500mLのn-ヘキサンに溶解し、濾過した。得られた溶液を、攪拌されているエタノールl,000mlに滴下した。沈殿物を濾別し、溶媒を減圧下で留去して、96gの淡黄色固体を得た。収率は、ポリジメチルシランに基づいて32%であった。質量平均分子量は1,870であった。
【0087】
[合成例2:ポリカルボシラン(B)]
【0088】
窒素雰囲気中で粉砕した、15gのマグネシウム粉末および500mLの乾燥ジエチルエーテルを、還流冷却器、機械的攪拌機、1,000mLの滴下漏斗および窒素注入口を備えた2Lの4口フラスコに入れた。184gのクロロメチルトリクロロシランを500mLの乾燥ジエチルエーテルに溶解し、1,000mLの滴下漏斗に入れた。マグネシウム粉末懸濁液にクロロメチルトリクロロシラン溶液を、激しく攪拌しながら滴下した。添加が完了した後、油浴を用いて混合物を50℃で加熱し、窒素気流下で72時間攪拌し続けた。混合物を窒素雰囲気中で濾過して固体を分離した。濾液の溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、52gの褐色の粘性液体を得た。この褐色の粘性液体は、FT-IR、1H-NMRおよび29Si-NMRの測定によりポリ(クロロカルボシラン)であった。
【0089】
50gのポリ(クロロカルボシラン)を500mLの乾燥ジエチルエーテルに溶解し、還流冷却器、機械的攪拌機、500mLの滴下漏斗および窒素注入口を備えた2Lの4口フラスコに入れた。12.3gのLiAlH4を200mLの乾燥ジエチルエーテルに溶解し、500mLの滴下漏斗に入れた。ポリ(クロロカルボシラン)溶液を氷浴で冷却した。LiAlH4溶液をポリ(クロロカルボシラン)溶液に約1時間滴下した。添加が完了した後、混合物を油浴で加熱し、窒素気流下で12時間還流させた。
【0090】
3モル/LのHCl水溶液1Lを激しく攪拌しながら混合物に添加した。ジエチルエーテル層を分離し、純水で洗浄した。溶液の溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、42gの淡黄色の粘性液体を得た。生成物は、FT-IR、1H-NMRおよび29Si-NMRの測定によりポリ(ペルヒドロカルボシラン)であった。質量平均分子量は950であった。
【0091】
以下の実施例および比較例におけるブロックコポリマーの合成および組成物の調製は、酸素濃度が1.0ppm以下に制御され、かつ露点が-76.0℃以下に制御されたグローブボックス中で実施した。
[実施例1]
【0092】
0.35g(2.03mmol)のヘキサシクロシランを、スターラーチップを有する6mLのガラス瓶に入れた。ヘキサシクロシランを、水銀キセノンランプから発生される365nmの波長を有する紫外線で、攪拌しながら照射した。照射強度は120秒間、82mW/cm2であった。ポリカルボシラン(A)(12.5mmol)の50質量%トルエン溶液1.45gおよび架橋剤として0.15g(1.13mmol)のトリクロロシランを、紫外線照射したヘキサシクロシランに添加した。この混合物に、水銀キセノンランプから発生した365nmの波長を有する紫外線を60分間、攪拌しながら照射した。生成物をトルエンで希釈して25質量%の溶液を得た。この溶液を、孔径5.0μmのPTFEフィルター、次いで、孔径0.2μmのPTFEフィルターを通して濾過して副生物を除去し、シリカ質膜製造組成物Aを得た。ポリカルボシランの繰り返し単位の総数に対するポリシランの繰り返し単位の総数の比率は、29Si-NMR測定により90%であった。質量平均分子量は、2,460であった。
【0093】
シリカ質膜製造組成物Aを、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いてシリコンウエハ上にスピン塗布した。この被膜に、波長405nmの可視光を照射強度50mW/cm2で照射した。この照射した被膜を窒素雰囲気下、ホットプレート上で1分間、150℃でプリベークした。このプリベークした膜を、酸素雰囲気(101kPa)下で、250℃で30分間、次いで、水蒸気(40kPa)を含む雰囲気下で、350℃で120分間硬化させた。硬化した膜を950℃で30分間アニールしてシリカ質膜を得た。ケイ素原子に対する酸素原子の比(O/Si)およびケイ素原子に対する炭素原子の比(C/Si)は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。O/Siは1.80であり、また、C/Siは0.12であった。
【0094】
[実施例2]
0.40g(2.20mmol)のヘキサシクロシランを、スターラーチップを有する20mLのガラス瓶に入れた。ヘキサシクロシランを、低圧水銀ランプから発生される254nmの波長を有する紫外線で、攪拌しながら照射した。照射強度は、150秒間、12mW/cm2であった。ポリカルボシラン(B)(60.5mmol)の50質量%トルエン溶液(7.02g)および架橋剤として0.15g(1.13mmol)のトリクロロシランを、紫外線照射したヘキサシクロシランに添加した。この混合物に、低圧水銀ランプから発生される254nmの波長を有する紫外線を60分間、照射した。生成物をトルエンで希釈して25質量%の溶液を得た。この溶液を、孔径5.0μmのPTFEフィルター、次いで、孔径0.2μmのPTFEフィルターを通して濾過して副生物を除去し、シリカ質膜製造組成物Bを得た。ポリカルボシランの繰り返し単位の総数に対するポリシランの繰り返し単位の総数の比率は、29Si-NMR測定により25%であった。質量平均分子量は、1,520であった。
【0095】
シリカ質膜製造組成物Bを、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いてシリコンウエハ上にスピン塗布した。この被膜に、波長405nmの光を照射強度50mW/cm2で照射した。この照射した被膜を窒素雰囲気下、ホットプレート上で1分間、150℃でプリベークした。このプリベークした膜を、酸素雰囲気(101kPa)下で、250℃で30分間、次いで、水蒸気(40kPa)を含む雰囲気下で、350℃で120分間硬化させた。硬化した膜を950℃で30分間アニールしてシリカ質膜を得た。ケイ素原子に対する酸素原子の比(O/Si)およびケイ素原子に対する炭素原子の比(C/Si)は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。O/Siは1.80であり、また、C/Siは0.12であった。
【0096】
[実施例3]
0.68g(3.80mmol)のヘキサシクロシランを、スターラーチップを有する20mLのガラス瓶に入れた。ヘキサシクロシランを、低圧水銀ランプから発生される254nmの波長を有する紫外線で、攪拌しながら照射した。照射強度は180秒間、12mW/cm2であった。ポリカルボシラン(B)(12.7mmol)の50質量%トルエン溶液1.47gおよび架橋剤として0.32g(1.20mmol)のヘキサクロロジシランを、紫外線照射したヘキサシクロシランに添加した。この混合物に、低圧水銀ランプから発生される254nmの波長を有する紫外線を60分間、照射した。生成物をトルエンで希釈して25質量%の溶液を得た。この溶液を、孔径5.0μmのPTFEフィルター、次いで、孔径0.2μmのPTFEフィルターを通して濾過して副生物を除去し、シリカ質膜製造組成物Cを得た。ポリカルボシランの繰り返し単位の総数に対するポリシランの繰り返し単位の総数の比率は、29Si-NMR測定により170%であった。質量平均分子量は、2,440であった。
【0097】
実施例2に記載の手順により、組成物Cを用いてシリカ質膜を製造した。O/Siは1.93であり、また、C/Siは0.06であった。
【0098】
[比較例1]
0.52g(2.89mmol)のヘキサシクロシランを、スターラーチップを有する6mLのガラス瓶に入れた。ヘキサシクロシランを、水銀キセノンランプから発生される365nmの波長を有する紫外線で、攪拌しながら照射した。照射強度は120秒間、82mW/cm2であった。この照射されたヘキサシクロシランをトルエンで希釈して25質量%の溶液を得た。この溶液を、水銀キセノンランプから発生させた365nmの波長を有する紫外線で、攪拌しながらさらに60分間照射した。引き続き、この溶液を、孔径5.0μmのPTFEフィルター、次いで、孔径0.2μmのPTFEフィルターを通して濾過して副生物を除去し、シリカ質膜製造組成物Dを得た。質量平均分子量は、760であった。
【0099】
組成物Dを、1HDX2(ミカサ株式会社)を用いてシリコンウエハ上にスピン塗布した。しかしながら、ウエハとの低粘着性のため被膜形成は不成功であった。
【0100】
[比較例2]
ポリカルボシラン(A)をトルエンで希釈して25質量%の溶液を得た。この溶液を、孔径5.0μmのPTFEフィルター、次いで、孔径0.2μmのPTFEフィルターを通して濾過して不純物を除去し、シリカ質膜製造組成物Eを得た。実施例1に記載の手順により、組成物Eを用いてシリカ質膜を製造した。
【0101】
[充填特性]
シリコンウエハ上に、スピンコーター1HDX2(ミカサ株式会社)を用いて、シリカ質膜製造組成物を1,000rpmで塗布した。シリコンウエハは、矩形の垂直断面と、深さ1,000nm、幅10nmの溝とを有していた。上記のように硬化手順を実施し、シリカ質膜を塗布したシリコンウエハを得た。溝パターン部を溝方向に垂直に切断し、電子走査型顕微鏡でウエハ試料を観察した。シリカ質膜が実施例1~3から得られた溝内にボイドは存在しなかった。実施例1~3は良好な充填特性を示した。
【0102】
[膜厚]
膜厚が2μm以下の場合には、反射分光膜厚測定機FE-3000(大塚電子株式会社)によりシリカ質膜の膜厚を測定した。膜厚が2μmを超える場合は、シリカ質膜の一部をフッ酸溶液で除去し、膜厚を表面粗さ測定機サーフコムTOUCH550(東京精密株式会社)で測定した。
【0103】
[屈折率]
シリカ質膜の屈折率を、633nmで、分光エリプソメータM-44(ジェー・エー・ウーラム社)により測定した。
【0104】
[電気特性]
膜厚を0.3mmに調整したシリカ質膜上で破壊電界と比誘電率を測定した。比誘電率は、水銀プローブ測定装置MCV-530(セミラボ社)で測定した。破壊電界は、SSM495 272A-M100(日本エス・エス・エム株式会社)で測定した。電流密度が1E-6(A/cm
2)を超えた電界を、破壊電界Fbd(MV/cm)と定義した。結果を表1に記載する。
【表1】
【国際調査報告】