IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フンダシオ インスティテュート ディンベスティガシオ エン シエンシエス デ ラ サリュ ジャーマンス トライアス アイ プジョルの特許一覧 ▶ フンダシオ セントレ デ レグラシオ ヘノミカの特許一覧 ▶ ウニベルシタ ポンペウ ファブラの特許一覧

特表2022-522125ショックを患う患者における死亡リスクを予測するin vitroでの方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ショックを患う患者における死亡リスクを予測するin vitroでの方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549164
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(85)【翻訳文提出日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2020054516
(87)【国際公開番号】W WO2020169751
(87)【国際公開日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】19382126.1
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519023754
【氏名又は名称】フンダシオ インスティテュート ディンベスティガシオ エン シエンシエス デ ラ サリュ ジャーマンス トライアス アイ プジョル
(71)【出願人】
【識別番号】521364982
【氏名又は名称】フンダシオ セントレ デ レグラシオ ヘノミカ
(71)【出願人】
【識別番号】521364993
【氏名又は名称】ウニベルシタ ポンペウ ファブラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サビド アグアデ エドゥアルド
(72)【発明者】
【氏名】ボルラス ラミレス エバ
(72)【発明者】
【氏名】ルエダ ソベジャ フェルラン
(72)【発明者】
【氏名】バジェス ヘニス アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】イボルラ エヘア オリオル
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ガルシア コスメ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
(57)【要約】
ショックを患う患者における死亡リスクを予測するin vitroでの方法。本発明は、医療分野に関する。特に、本発明は、ショックを患う患者間の死亡リスクを予測するin vitroでの方法であって、患者から得られた生体試料において、特定のタンパク質の濃度レベルを決定することを含む、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心原性ショックを患う患者間の死亡リスクを予測するin vitroでの方法であって、前記患者から得られた生体試料において、少なくともB2MGの濃度レベルを決定することを含み、ここで、心原性ショックを患うコントロール生存患者において決定された濃度レベルに対する、少なくとも前記タンパク質B2MGのレベルの増加が死亡リスクの指標である、方法。
【請求項2】
前記方法は、タンパク質L-FABP、及び/又はALDOB、及び/又はIC1の濃度レベルを決定することを更に含み、ここで、ショックを患う生存患者において決定された濃度レベルに対する、タンパク質L-FABP若しくはALDOBのレベルの増加、又はタンパク質IC1のレベルの減少が死亡リスクの指標である、請求項1に記載のin vitroでの方法。
【請求項3】
前記方法は、タンパク質B2MG及びL-FABP及びALDOB及びIC1の濃度レベルを決定することを含み、ここで、ショックを患う生存患者において決定された濃度レベルに対する、タンパク質B2MG及びL-FABP及びALDOBのレベルの増加、並びにタンパク質IC1のレベルの減少が死亡リスクの指標である、請求項1又は2に記載のin vitroでの方法。
【請求項4】
前記方法は、タンパク質:FABPL、及び/又はALDOB、及び/又はIC1、及び/又はF13A、及び/又はHPTR、及び/又はPLMN、及び/又はAACT、及び/又はANGT、及び/又はFIBA、及び/又はFIBB、及び/又はFIBG、及び/又はCRP、及び/又はRET4、及び/又はS10A8、及び/又はHEP2、及び/又はIBP2、及び/又はMUC18、及び/又はSEPP1、及び/又はILRL1、及び/又はFHR4、及び/又はCELR1、及び/又はMYO5A、及び/又はCATA、及び/又はALDOA、及び/又はAPOBの濃度レベルを決定することを更に含む、請求項1又は2に記載のin vitroでの方法。
【請求項5】
75歳超、診察時の混乱、以前の心筋梗塞又は冠状動脈バイパスグラフト術、急性冠症候群の病因、及び40%未満の左室駆出率に該当する患者において乳酸塩及び推算糸球体濾過量(eGFRCKD-EPI)を決定することを更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のin vitroでの方法。
【請求項6】
前記方法は、患者の入院から24時間以内に実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載のin vitroでの方法。
【請求項7】
前記死亡リスクは、90日の期間内で評価される、請求項1~6のいずれか一項に記載のin vitroでの方法。
【請求項8】
前記生体試料は、血清又は血漿である、請求項1~7のいずれか一項に記載のin vitroでの方法。
【請求項9】
前記タンパク質の前記濃度レベルの決定は、ELISA又は質量分析によって実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載のin vitroでの方法。
【請求項10】
心原性ショックを患う患者間の死亡リスクを予測するための、B2MGのin vitroでの使用。
【請求項11】
タンパク質L-FABP、ALDOB、及び/又はIC1の少なくとも1種の濃度レベルを決定することを更に含む、請求項10に記載のin vitroでの使用。
【請求項12】
タンパク質B2MG、L-FABP、ALDOB、及びIC1の濃度レベルを決定することを含む、請求項10又は11に記載のin vitroでの使用。
【請求項13】
75歳超、診察時の混乱、以前の心筋梗塞又は冠状動脈バイパスグラフト術、急性冠症候群の病因、及び40%未満の左室駆出率に該当する患者において乳酸塩及び推算糸球体濾過量(eGFRCKD-EPI)を決定することを更に含む、請求項10~12のいずれか一項に記載のin vitroでの使用。
【請求項14】
a.患者から血清試料又は血漿試料を得るツール又は媒体と、
b.少なくともB2MGの濃度レベルを測定するツール又は媒体と、
を含む、心原性ショックを患う患者間の死亡リスクを予測するのに適合されたキット。
【請求項15】
a.患者から血清試料又は血漿試料を得るツール又は媒体と、
b.B2MG及びL-FABP及びALDOB及びIC1の濃度レベルを測定するツール又は媒体と、
を含む、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に関する。特に、本発明は、ショックを患う患者間の死亡リスクを予測するin vitroでの方法であって、患者から得られた生体試料において、特定のタンパク質の濃度レベルを決定することを含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
早期血行再建術の一般化及び現代の集中治療にもかかわらず、ショック、特に心原性ショック(CS)の管理は未だ困難であり、死亡率は約40%である。先進的治療の恩恵を受けることができる最も症状が重い患者を速やかに特定するには、早期かつ正確なリスク層別化が極めて重要である。有害転帰の臨床予測因子は数十年前からよく知られているが、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)前の臨床試験からのそれらの導出及び外部検証の欠如により、それらの日常的な使用は妨げられ、より最新のリスク分類器の開発が促された。最近、2つのスコアが報告された。CardShockリスクスコアは、3分の2がST上昇型心筋梗塞(STEMI)を伴う幅広い病因を有する非選択のCS患者の大規模前向き多施設ヨーロッパ登録から開発された。IABP-SHOCK IIリスクスコアは、IABP-SHOCK II試験の参加者から開発されたものであり、PCI治療を受けたSTEMI関連CSに特異性が高い。これらの2つのスコアは外部検証されており、短期のリスク層別化のための古典的な臨床的変数及び生化学的変数を含む。
【0003】
特に、これらのリスクスコアに含まれる検査値は、数十年にわたって診療所で日常的に使用されている基本的な生化学的試験(グルコース及び乳酸塩)であるが、幾つかの臨床的洞察力のパラメーターも含んでいる。より最近の研究では、CSにおける心臓性及び心外性の予測バイオマーカーが調査されている。しかしながら、これらの研究のほとんどは、小規模であるか、又は外部コホートによって検証されていないか、又はそのようなバイオマーカーの増分予測値を現在の臨床診療と組み合わせて評価していなかった。特に、シスタチンC、血漿好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、及び腎障害分子-1を含む新規の腎バイオマーカーは、従来のクレアチニンよりも優れた性能を発揮しなかった。他の心血管病理学の文脈におけるプロテオミクスデータに関しては、最近、安定した冠状動脈疾患の状況でプロテオミクスアプローチが報告され、そこでは、9タンパク質リスクスコアが0.74のC統計量で報告された。
【0004】
したがって、21世紀に入っても、一般にショック、特にCSは依然として、受け入れがたいほど高い死亡率、かなりの罹患率、及び資源利用を伴う。早期冠動脈再灌流が広く使用されているにもかかわらず、CSはSTEMIにおいておよそ5%の有病率で起こり、それは院内死亡の主な原因である。
【0005】
したがって、上記のように、CardShockリスクスコア及びIABP-SHOCK IIリスクスコアを含む幾つかの最新のリスクスコアが利用可能であるが、ショック患者における死亡リスクを効果的に予測するには、より正確なリスク層別化戦略が必要とされる。
【0006】
一方で、CSが心力不全の問題であるだけでなく、むしろ多臓器不全の状況の中での全身性炎症状態であることを示すエビデンスが増えてきている。したがって、包括的プロテオミクスにより、病態生理学的知識を獲得し、リスク層別化の精度を改善し、そして治療標的を特定するのに使用することができる新規のタンパク質バイオマーカーの偏りのない発見が可能となり得る。
【0007】
本発明は、実際に上記の問題を解決することに焦点を合わせており、ショック、特にCSを伴う患者間の短期死亡リスクを予測するタンパク質ベースのスコアに基づいている。したがって、短期死亡リスクに応じたショック患者(特にCSを患う患者)のこの正確な層別化を効果的に使用して、主に高い死亡リスクを伴う場合の治療を予見又は予期することができることから、ショックを患う患者の治療の成功の可能性、したがって平均余命が高められる。
【発明の概要】
【0008】
本発明において、CSバイオマーカーの発見及び検証のための2つの独立したCSコホートにおける定量的プロテオミクス分析を実施した。さらに、敗血症性ショック(SS)バイオマーカーの発見及び検証のためのコホートを実施した。
【0009】
CSを患う患者間の死亡リスクを予測するバイオマーカーとして、表1に列記される26種のタンパク質が最初に特定された。
【0010】
上記の26種のタンパク質の中で、以下に記載される4種のタンパク質がCS及びSSの両方で好ましい候補として特定され、これらについては、測定されたレベルが、確立された最新の臨床リスクスコアを超えて死亡リスク予測を大幅に改善した:
L-FABP.UniProtリファレンスP07148
B2MG.UniProtリファレンスP61769
ALDOB.UniProtリファレンスP05062
IC1.UniProtリファレンスP05155。
【0011】
したがって、これらの結果に基づいてタンパク質ベースの分類器を開発し、この分類器を質量分析及びELISAによっても試験した。この分類器はショック患者を短期死亡リスクに応じて正確に判別する。
【0012】
特に、本発明者らは、低い死亡リスクを伴うショックを患う患者又はショックを患っている患者と、高い死亡リスクを伴うショックを患う患者又はショックを患っている患者とを判別するin vitroでの方法を開発した。具体的には、CS又はSSを伴う患者の短期死亡リスクを予測する循環タンパク質ベースのスコアが開発された。特に好ましい実施の形態において、この方法はCSに焦点を合わせており、4種の特定のタンパク質(CS4Pモデル)、すなわちL-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1の濃度レベルを組み合わせて測定することを含む。このCS4Pモデルについての曲線下面積(AUC)は0.83である(図8を参照)。(標準的なリスクスコアである)CardShockについてのAUCは0.78である。両方のモデルの組合せ(CS4P+CardShock)により、0.84の改善されたAUCがもたらされる(図6を参照)。
【0013】
一方で、表1に列記される26種のタンパク質の組合せに基づくモデルでは、このモデルをCardShockと組み合わせない場合に、CSにおいて0.921の改善されたAUCがもたらされることに留意することが重要である(図10を参照)。さらに、表1に列記される26種のタンパク質をまたCardShockと組み合わせると、0.970の改善されたAUCが得られた(図9を参照)。
【0014】
さらに、上記の26種のタンパク質、より具体的には、上記の4種のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1を本発明において個別に分析した(図5図6図7、及び図8を参照)。L-FABP、B2MG、及びALDOBのレベルは、生存者と比べて非生存者のCS患者の方が高い。反対に、IC1のレベルは、生存者と比べて非生存者のCS患者の方が低い(図4を参照)。
【0015】
本発明のタンパク質は、好ましくは、患者の入院から24時間以内に測定された。一方で、この方法は特に、CS患者間の「短期」死亡リスクを決定することを目的としている。本発明によれば、「短期」は90日を意味する。こうして、好ましい実施の形態において、本発明の方法は、実際には、90日の期間内のショック患者間の死亡リスクを評価することである。
【0016】
一方で、本発明の方法は、好ましくは患者から得られた血清試料又は血漿試料において実施されるので、非侵襲的技術又は最小限の侵襲的技術とみなすことができる。
【0017】
特に好ましい実施の形態において、本発明の方法は、上記の26種のタンパク質の組合せ、好ましくは4種のタンパク質B2MG、L-FABP、ALDOB、及びIC1の組合せの濃度レベルを決定することに基づくが、本発明は、上記の26種から数を減らしたタンパク質、又はそれどころか上記の4種から数を減らしたタンパク質の濃度レベルを決定することによっても実施され得ると考えることが重要である。言い換えれば、本発明は、上記に列記された個別の26種のタンパク質のいずれか、特にB2MG、L-FABP、ALDOB、及びIC1の1種、2種、3種、又は4種のタンパク質を使用することによって実施され得る。
【0018】
一方で、本明細書において、本発明を実施するのに好ましい個別のタンパク質としてB2MGが挙げられる。それというのも、B2MGは、表2で認められ得るように、ELISA(日常的な臨床使用にとってより容易に適した方法)によって決定される場合に、CardShockと組み合わせる必要なく、CSにおいて最良の個別結果をもたらすからである。しかしながら、本発明は、表1に列記される26種のタンパク質のいずれか、好ましくは以下のタンパク質B2MG、L-FABP、ALDOB、若しくはIC1のいずれかを個別のバイオマーカーとして又はそれらの任意の組合せを使用して、ショック、好ましくはCS又はSSを患う患者間の死亡リスクを予測する科学的裏付けを提供する(図5図6図7、及び図8を参照)。したがって、本発明はまた、ショック、好ましくはCS又はSSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、上記に列記された26種のタンパク質のいずれか又はそれらの任意の組合せの使用に関する。好ましい実施の形態において、タンパク質の上記の組合せは、タンパク質:B2MG、L-FABP、ALDOB、又はIC1の少なくとも2種、少なくとも3種、又は少なくとも4種を含む。したがって、B2MG又は代替的に上記に列記された26種のタンパク質のいずれか、好ましくは以下のタンパク質:L-FABP、ALDOB、若しくはIC1のいずれか又はそれらの任意の組合せが、本発明においてショック、好ましくはCS又はSSを患う患者間の死亡リスクを予測するのに適したバイオマーカーとして特定される。したがって、本発明は、高い感度及び感受性を示すバイオマーカーとして上記のタンパク質のいずれか又はそれらの任意の組合せを使用して、ショック、好ましくはCS又はSSを患う患者間の死亡リスクを予測することについてのエビデンスを提供する。
【0019】
こうして、本発明の第1の実施の形態は、ショックを患う患者間の死亡リスクを予測するin vitroでの方法であって、患者から得られた生体試料において、少なくとも上記に列記された任意の個別のタンパク質、好ましくは少なくともB2MG、又は少なくともL-FABP、又は少なくともALDOB、又は少なくともIC1の濃度レベルを決定することを含み、ここで、ショックを患う生存患者において決定された上記タンパク質の濃度レベルに対する、少なくともタンパク質B2MG、若しくは少なくともL-FABP、若しくは少なくともALDOBのレベルの増加、又は少なくともIC1のレベルの減少が死亡リスクの指標である、方法に関する。好ましい実施の形態において、本発明の方法は、タンパク質B2MG、L-FABP、ALDOB、及びIC1の濃度レベルを決定することを含み、ここで、ショックを患う生存患者において決定された濃度レベルに対する、タンパク質B2MG、L-FABP、及びALDOBのレベルの増加、並びにタンパク質IC1のレベルの減少が死亡リスクの指標である。好ましい実施の形態において、本発明の方法は、CardShockを実施することを更に含む。CardShockは、以下の変項を含む:75歳超の年齢、診察時の混乱、以前の心筋梗塞又は冠状動脈バイパスグラフト術(CABG)、急性冠症候群(ACS)の病因、40%未満の左室駆出率、血中乳酸塩、及びeGFRCKD-EPI。好ましい実施の形態において、本発明の方法は、患者の入院から24時間以内に実施される。好ましい実施の形態において、死亡リスクは、90日の期間内に評価される。好ましい実施の形態において、生体試料は、血清又は血漿である。好ましい実施の形態において、本発明においては、CS、循環血液量減少性ショック、アナフィラキシーショック、SS、又は神経原性ショックを伴う患者、好ましくはCS又はSSを伴う患者、より好ましくはCSを伴う患者で死亡リスクが予測される。この意味では、SSを伴う患者における死亡リスクを予測するための、別個のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについてのAUCを示しているROC曲線を示す図11図13を参照されたい。
【0020】
本発明の第2の実施の形態は、ショック、好ましくはCS又はSSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、上記に列記された26種のタンパク質のいずれか、好ましくは少なくともB2MG、又は少なくともL-FABP、又は少なくともALDOB、又は少なくともIC1のin vitroでの使用に関する。好ましい実施の形態において、上記使用は、B2MG、L-FABP、ALDOB、及びIC1の濃度レベルを決定することを含む。好ましい実施の形態において、上記使用は、CardShockを実施することを更に含む。CardShockは、以下の変項を含む:75歳超の年齢、診察時の混乱、以前の心筋梗塞又は冠状動脈バイパスグラフト術(CABG)、急性冠症候群(ACS)の病因、40%未満の左室駆出率、血中乳酸塩、及びeGFRCKD-EPI
【0021】
本発明の方法がバイオマーカーの組合せの濃度レベルを測定することを含む場合に、そのシグネチャーについてスコア値が得られ、このスコア値は、診断規則を規定する閾値と比較される。閾値に対してスコア値の偏差が認められる場合に、対応する試料は陽性試料として分類され、これはCSを患う患者の高まった死亡リスクの指標である。閾値は、感度値及び特異度値を最適化するように規定されている。したがって、好ましい実施の形態において、本発明の方法は、a)被験体から得られた生体試料において、バイオマーカーの上記の組合せのいずれかの濃度レベルを測定することと、b)濃度値を処理してリスクスコアを得ることとを含み、ここで、c)参照値と比較して、バイオマーカーの上記の組合せのいずれかについて得られたリスクスコア値の逸脱又は偏差が認められる場合に、これはCSを患う患者の高まった死亡リスクの指標である。
【0022】
本発明の第3の実施の形態は、ショックを患う患者又はショックを患っている患者を治療する方法であって、上記の方法によってそれらの死亡リスクを決定した後に、上記患者を適切な治療で治療することを含む、方法に関する。したがって、短期死亡リスクに応じたショック患者(特にCS又はSSを患う患者)のこの正確な層別化を効果的に使用して、主に高い死亡リスクを伴う場合の治療を予見又は予期することができることから、ショックを患う患者の治療の成功の可能性、したがって平均余命が高められる。好ましい実施の形態において、患者は、CS、循環血液量減少性ショック、アナフィラキシーショック、SS、又は神経原性ショック、好ましくはCS又は敗血症性ショック、より好ましくはCSを患う又は患っている。
【0023】
好ましい実施の形態において、本発明の方法は、ELISA又は質量分析によって実施される。好ましい実施の形態において、タンパク質の測定は、それらの前駆体(もしあれば)又は中間領域部分で実施される。
【0024】
本発明の第4の実施の形態は、心原性ショックを患う患者間の死亡リスクを予測するのに適合されたキットであって、a)患者から血清試料又は血漿試料を得るツール又は媒体と、b)少なくともB2MGの濃度レベルを測定するツール又は媒体とを含む、キットに関する。好ましい実施の形態において、このキットは、a)患者から血清試料又は血漿試料を得るツール又は媒体と、b)B2MG及びL-FABP及びALDOB及びIC1の濃度レベルを測定するツール又は媒体とを含む。
【0025】
一方で、患者がCSを患う場合には確立された治療戦略が存在する。早期血行再建術(主に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)による)は、心筋梗塞後のCSにおける現在の最も重要な治療戦略であり、6ヶ月後、1年後、及び6年後の死亡率が大幅に低下する。臨床診療では、血行再建術は責任病変に限定されるべきであり、後の時点で他の病変の段階的な血行再建術を行うことが可能である。緊急冠状動脈バイパスグラフト術(CABG)血行再建術の役目もあるかもしれないが、PCI血行再建術に対して外科的血行再建術を先導するエビデンスはほとんどない。この点について、抗血小板薬及び抗血栓治療薬(限定されるものではないが、糖タンパク質IIb/IIIa阻害剤及びカングレロールを含む)は、PCIの成功の重要な特徴の1つである。CSにおいては、抗血小板薬又は抗凝固薬についての具体的な試験は存在しない。CSでは経腸吸収が損なわれ、しばしばオピオイドが同時投与されて、経腸バイオアベイラビリティに対して更に影響が及ぼされる。
【0026】
集中治療室では、CSの治療には、増量、昇圧薬及び変力薬による初期の血行動態の安定化に加えて、多臓器不全(MODS)の予防又は治療のための追加療法が必要とされる。変力薬及び昇圧薬は、CSにおいて患者のおよそ90%に投与される。心拍の律動異常の場合に、直ちに同期下カルディオバージョンが施され得るか、又は抗不整脈剤、例えばアデノシンが投与され得る。心臓の拍出能力を高める陽性変力剤(ドブタミン又はミルリノン等)は、収縮性を改善し、低血圧を正すのに使用される。また、心臓のβ1受容体に作用して収縮性及び心拍数を増加させるノルエピネフリンと同時の静脈内ドブタミンによりCSを治療することもできる。レボシメンダン又はホスホジエステラーゼ阻害剤等の他の変力薬は、それらの心筋収縮性の改善、及び酸素必要量を増やすことなく血管拡張する可能性に基づいて関心が持たれている。しかしながら、CSにおける強心性血管拡張薬についての現在のエビデンスは非常に限られている。もし十分でなければ、機械的循環補助を適用する必要がある。大動脈内バルーンポンプは、心臓の負担を軽減し、冠状動脈の灌流を改善する。心室補助装置(VAD)は、心臓のポンプ機能を強化する。VADの新たな開発としては、右心房又は下大静脈から肺動脈への送血を伴うImpella RP(Abiomed、米国マサチューセッツ州ダンバース)及びTandemHeart RA-PA(LivaNova、英国ロンドン)等の右心室支援装置が挙げられる。より新しい左心室VADとしては、Impellaファミリーと同様に大動脈弁にまたがって展開され、左心室から大動脈へと送血するHeartMate PHP(Abbott、米国イリノイ州レイクブラフ)が挙げられる。別の調査試験用装置は、体外設置型拍動流iVAC 2L(PulseCath BV、オランダ国アルンヘム)である。小型化されたシステム及び経皮的カニューレ挿入を用いた最近の開発は、CS患者を補助するために最近提案された体外生命維持システム(ECMO)を使用したCSの治療のためのインターベンショナル心臓内科医によるより幅広い採用につながった。ECMOの不可欠な機能は血液ポンプ、熱交換器、及び人工肺である。機械的循環補助についての一般的な所見として、IABP-SHOCK IIにより、CS生存者の大部分が装置を一切用いずに生存し得ることが分かった。これらの患者における装置の挿入は生存に影響しないか、又は装置自体による何らかの合併症を引き起こし得ることで、死に至る可能性さえもある。生存しない40%~50%の中には、利用可能な最良の装置でさえ臨床転帰を変えることができないという無益な状況もあり得る。重度のCSを伴う患者、又は無酸素性脳傷害若しくは重度の敗血症を伴う患者の場合には、この無益な状況は25%~35%の範囲で起こる可能性がある。これらにおいて、機械的循環補助は、治療方針決定までの橋渡し戦略として使用され得るが、患者中心の意思決定のための親族との話し合いは、そのような意思決定を検証する予後測定を必要とし、それが現在この分野で欠如している。最終的には、最後の手段として、その人が十分に安定していて、それ以外に適格である場合は、心臓移植を推奨することができ、又は心臓移植に適格でない場合は、人工心臓を配置することができる。好ましい治療戦略の1つは心室補助装置である。この意味で、本発明に記載されるバイオマーカー、主にB2MG、L-FABP、ALDOB、及び/又はIC1を使用して、CSを患う特定の人に対する上述の治療、例えば心室補助装置の適用可能性を決定するコンパニオン診断キット又は試験を設計することができる。したがって、これらのコンパニオン診断キット又は試験は、臨床医が、例えば心室補助装置を用いた特定の治療のために患者群を選択又は除外し、その療法に対するレスポンダー及びノンレスポンダーを決定するのを補助することができる。こうして、B2MG、L-FABP、ALDOB、及び/又はIC1の濃度レベルを測定することによって、臨床医は、特定の患者が、例えば心室補助装置を用いた治療に奏効を示すかどうかを予測することができる。一方で、臨床医は、B2MG、L-FABP、ALDOB、及び/又はIC1の濃度レベルを測定することによって、例えば心室補助装置を用いた治療に対する特定の患者の奏効を監視及び追跡することができる。
【0027】
本発明の目的上、以下の用語が定義される。
【0028】
「ショックを患うコントロール生存患者において決定された濃度レベル」という表現は、タンパク質の濃度レベルの「参照値」を指す。「参照値」として使用される上記「ショックを患うコントロール生存患者において決定された濃度レベル」と比較して、L-FABP、B2MG、及び/又はALDOBの濃度レベルがより高い場合に、及び/又はIC1の濃度レベルがより低い場合に、これは死亡リスクの指標である。
【0029】
「参照値」は、閾値又はカットオフ値であり得る。典型的には、「閾値」又は「カットオフ値」は、実験的、経験的、又は理論的に決定され得る。閾値はまた、当業者によって認識されるように、既存の実験条件及び/又は臨床条件に基づいて任意に選択され得る。試験の機能及びベネフィット/リスクバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床的帰結)に応じて最適な感度及び特異度を得るのに、閾値を決定する必要がある。好ましくは、当業者は、本発明の方法に従って得られたバイオマーカーレベル(すなわちスコア)を、規定された閾値と比較することができる。典型的には、最適な感度及び特異度(したがって閾値)を、実験データに基づく受信者動作特性(ROC)曲線を使用して決定することができる。例えば、参照群におけるバイオマーカーのレベルを決定した後に、試験対象の生体試料中のバイオマーカーの測定濃度の統計的処理にアルゴリズム解析を使用して、こうして試料分類のための有意性を有する分類基準を得ることができる。ROC曲線の正式名称は受信者動作特性曲線であり、これは受信者操作特性曲線としても知られている。ROC曲線は、主に臨床生化学的診断試験に使用される。ROC曲線は、真陽性率(感度)及び偽陽性率(1-特異度)の連続変数を反映する包括的なインジケーターである。ROC曲線は、画像合成法により感度と特異度との間の関係を明らかにする。一連の異なるカットオフ値(閾値又は臨界値、すなわち、診断試験の正常な結果と異常な結果との間の境界値)は、一連の感度値及び特異度値を計算する連続変数として設定される。次に、感度を垂直座標として使用し、特異度を水平座標として使用して曲線を描く。曲線下面積(AUC)が大きいほど、診断の精度が高くなる。ROC曲線では、座標図の左上端に最も近い点が、高感度及び高特異度の両方の値を有する臨界点である。ROC曲線のAUC値は1.0から0.5の間である。AUCが0.5より大きい場合に、AUCが1に近づくにつれて、診断結果はますます良くなる。AUCが0.5から0.7の間にある場合に、精度は低い。AUCが0.7から0.9の間にある場合に、精度は良好である。AUCが0.9より高い場合に、精度はかなり高い。このアルゴリズム的方法は、好ましくはコンピューターを用いて行われる。当該技術分野における既存のソフトウェア又はシステム、例えばMedCalc 9.2.0.1医療統計ソフトウェア、SPSS 9.0がROC曲線を描くのに使用され得る。
【0030】
「死亡リスク」という用語は、患者についての院内死亡の可能性の推定を指す。本発明によれば、「参照値」として使用される上記「ショックを患うコントロール生存患者において決定された濃度レベル」と比較して、L-FABP、B2MG、及び/又はALDOBの濃度レベルがより高い場合に、及び/又はIC1の濃度レベルがより低い場合に、死亡リスクが存在する。
【0031】
「ショック」という用語は、身体が十分な血流を得ていないときに起こる生命を脅かす状態を指す。血行不足は、細胞及び臓器が適切に機能するのに十分な酸素及び栄養素を得ていないことを意味する。結果として、多くの臓器が損傷を受ける可能性がある。ショックは早急な治療を必要とし、急激に悪化する可能性がある。ショックの主なタイプとしては、心原性ショック(心臓の問題に起因する)、循環血液量減少性ショック(血液量が少なすぎることにより引き起こされる)、アナフィラキシーショック(アレルギー反応により引き起こされる)、敗血症性ショック(感染に起因する)、及び神経原性ショック(神経系の損傷により引き起こされる)が挙げられる。
【0032】
「含む(comprising)」という用語は、「含む」という語の前にある(follows)ものを含み、これに限定されないことを意味する。このため、「含む」という用語の使用は、列挙される要素が所要又は必須であるが、他の要素が任意であり、存在していても又は存在していなくてもよいことを示す。
【0033】
「のみからなる(consisting of)」は、「のみからなる」という句の前にあるもの「を含み、これに限定される」ことを意味する。このため、「のみからなる」という句は、列挙される要素が所要又は必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】CS患者における本研究の一般的なワークフローを示す図である。
図2】CS患者における標的化プロテオミクスの結果を示す図である。A)タンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1の内因性ペプチド及びそれらの同位体標識された内部標準(すなわち参照MS2スペクトル)に対応する標的化質量分析クロマトグラフィープロファイル(PRM)。B)分析された全ての患者についてのパネルAに示される内因性ペプチドの保持時間ドリフト。L-FABP(肝臓型脂肪酸結合タンパク質)、ALDOB(フルクトース-ビスリン酸アルドラーゼB)、B2MG(β2-マイクログロブリン)、IC1(セルピンG1)。
図3】CS患者における各モデルによる90日死亡リスクの予測のための判別の改善を示す図である。CardShockは、75歳超の年齢、診察時の混乱、以前のMI又はCABG、ACSの病因、40%未満のLVEF、血中乳酸塩、及びeGFRCKD-EPIを含む。CS4Pスコアは、肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、フルクトース-ビスリン酸アルドラーゼB(ALDOB)、β2-マイクログロブリン(B2MG)、及びセルピンG1(IC1)の並行反応モニタリングによって測定された循環タンパク質の存在量を含む。CardShock+CS4Pは、CardShockリスクスコアに加えてCS4Pスコアを含む。
図4】CS患者におけるELISAによって測定されたCS4Pの4種のタンパク質の90日生存者対非生存者に対する箱ひげ図である。L-FABP(肝臓型脂肪酸結合タンパク質)、ALDOB(フルクトース-ビスリン酸アルドラーゼB)、B2MG(β2-マイクログロブリン)、IC1(セルピンG1)。
図5】CSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、個別のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについての、上記タンパク質をCardShockと組み合わせてELISAで測定する場合の、AUCを示しているROC曲線である。
図6】CSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、個別のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについての、上記タンパク質をCardShockと組み合わせて質量分析で測定する場合の、AUCを示しているROC曲線である。
図7】CSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、個別のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについての、上記タンパク質をCardShockと組み合わせないでELISAで測定する場合の、AUCを示しているROC曲線である。
図8】CSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、個別のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについての、上記タンパク質をCardShockと組み合わせないで質量分析で測定する場合の、AUCを示しているROC曲線である。
図9】CSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、表1に列記される26種のタンパク質の組合せに基づくモデルについての、上記タンパク質をCardShockと組み合わせる場合の、AUCを示しているROC曲線である。
図10】CSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、表1に列記される26種のタンパク質の組合せに基づくモデルについての、上記タンパク質をCardShockと組み合わせない場合の、AUCを示しているROC曲線である。
図11】SSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、30日の期間内での、個別のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについての、AUCを示しているROC曲線である。実験はELISAによって実施された。
図12】SSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、90日の期間内での、個別のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについての、AUCを示しているROC曲線である。実験はELISAによって実施された。
図13】SSを患う患者間の死亡リスクを予測するための、365日の期間内での、個別のタンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1、並びにそれらの組合せについての、AUCを示しているROC曲線である。実験はELISAによって実施された。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0035】
実施例1.材料及び方法
実施例1.1.患者コホート
バルセロナ発見コホート(Barcelona discovery cohort)は、2011年3月から2015年3月までの間のSTEMIに由来するCSを伴う患者の前向き単施設全体集団研究である。STEMIは心筋梗塞に関する国際定義IIIに従って定義された。患者の管理は医師によってガイドラインの推奨に従って決定された(Steg PG, James SK, Atar D, et al. ESC Guidelines for the management of acute myocardial infarction in patients presenting with ST-segment elevation. Eur Heart J 2012; 33(20):2569-619)及び(O'Gara PT, Kushner FG, Ascheim DD, et al. 2013 ACCF/AHA guideline for the management of ST-elevation myocardial infarction: a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. J Am Coll Cardiol 2013;61(4): e78-140)。
【0036】
全ての患者(n=48)から静脈穿刺により2つの試料(入院時及び24時間)を採取し、-80℃で貯蔵した。臨床的エンドポイントは90日死亡率であった。CardShock検証コホートは、2010年10月から2012年12月までの間の虚血起源又は非虚血起源のヨーロッパの前向き多施設多国籍CS研究である。コホートの臨床的特徴並びに選択基準及び除外基準は他の場所で報告されている(Harjola VP, Lassus J, Sionis A, et al; CardShock Study Investigators; GREAT network. Clinical picture and risk prediction of short-term mortality in cardiogenic shock. Eur J Heart Fail 2015;17(5):501-9)。
【0037】
本研究では、入院から24時間以内に採取され、直ちに凍結され、-80℃で貯蔵された1つだけの試料を使用した(n=97)。追跡調査の間に、生命状態は、患者若しくはその近親者と直接連絡を取ることによって又は住民登録及び病院登録から決定された。臨床的エンドポイントは90日死亡率であった。
【0038】
両方のコホートは参加施設の地域倫理委員会によって承認され、研究はヘルシンキ宣言に従って実施された。同意書は患者又はその近親者から得られた。
【0039】
分析された敗血症性ショックコホートは、フランスのパリにあるサン=ルイ-ラリボワジエール組合病院(GH St-Louis-Lariboisiere)の麻酔科学救命救急熱傷ユニット部門(Department of Anesthesiology and Critical Care and Burn Unit)から提供された200人の患者から構成された。
【0040】
敗血症救命キャンペーンガイドラインを送り出した米国集中治療医学会(SCCM)及び欧州集中治療医学会(ESICM)によって定義されるように敗血症性ショックと診断された各患者について血清試料を収集した:敗血症性ショックは、より高い死亡リスクと関連した循環機能障害及び細胞/代謝機能障害を伴う敗血症のサブセットとして定義される(Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315(8):801-810. doi:10.1001/jama.2016.0287)。試料を-80℃で貯蔵し、更なる分析のためにバルセロナに送った。追跡調査の間に、生命状態は、患者若しくはその近親者と直接連絡を取ることによって又は住民登録及び病院登録から決定された。200人の患者のうち、追跡調査中に104人(52%)が生存し、96人(48%)が死亡した。臨床的エンドポイントは90日死亡率であった。このコホートは参加施設の地域倫理委員会によって承認され、研究はヘルシンキ宣言に従って実施された。同意書は患者又はその近親者から得られた。
【0041】
実施例1.2.スクリーニングプロテオミクスによるバイオマーカーの発見
質量分析(nLC-MS/MS)を使用して定量的プロテオミクス解析を実施して、90日生存者と非生存者との間で存在量が異なるタンパク質の中から潜在的なタンパク質バイオマーカーの候補を特定した。バルセロナコホートの48人の患者(90日で21人の非生存者及び27人の生存者)からの血清試料(入院時及び24時間)をトリプシン消化してペプチドにし、非標識スクリーニングプロテオミクス(nLC-MS/MS)を使用して解析した。
【0042】
実施例1.3.標的化プロテオミクスによるバイオマーカーの検証
発見フェーズで特定された候補バイオマーカータンパク質を、並行反応モニタリング(PRM)を使用した標的化プロテオミクス定量化により、CardShock検証コホートにおいて分類力の点で評価した。CardShockコホートからの97人の患者(90日で36人の非生存者及び61人の生存者)に対応する血漿試料をトリプシン消化し、標的化nLC-PRM及び内部参照としての同位体標識された標準ペプチドを使用して解析した。全ての標的化された前駆体ペプチドのフラグメントイオンクロマトグラフィートレースを評価し、対数変換し、内部参照ペプチドを使用して正規化した。タンパク質の存在量を推定し、生存者と非生存者との間でタンパク質の相対的定量化を評価した。
【0043】
実施例1.4.検証されたタンパク質の酵素結合免疫吸着アッセイ
検証されたタンパク質ごとに、4種の市販のELISAキットを製造業者の使用説明書に従って使用した。
【0044】
L-FABPは、ヒトL-FABP ELISAキットによって定量的に測定した。測定することができる最小濃度は102pg/mLであり、測定可能な濃度範囲は102pg/ml~25000pg/mlであった。試料は使用前に少なくとも20倍に希釈する必要があり、測定前に希釈バッファー(1×)中で1/100に希釈した。分析の方法は、供給元のマニュアルに従った。ヒトH-FABP及びヒトI-FABPとの交差反応性は存在しない。
【0045】
ALDOBは、酵素結合免疫吸着アッセイキットによって測定した。使用される標準曲線の範囲は2.5ng/ml~160ng/mlであり、検出可能な最小濃度は0.9ng/mlであった。アッセイ内精度及びアッセイ間精度は、それぞれ10%未満及び12%未満であった。測定前にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(1×)中で試料を1/8に希釈した。ALDOBと類似体との間に有意な交差反応性又は干渉は観察されなかった。
【0046】
B2MGは、酵素イムノアッセイによって測定した。このELISAの計算範囲は0μg/ml~12μg/mlであり、実効感度は0.1μg/mlで決定された。アッセイ内精度及びアッセイ間精度は、それぞれ3.5%未満及び4.5%未満であった。測定前にサンプルバッファーPU(1×)中で試料を1/100に希釈した。溶血性血清(最大1000mg/dl)又は脂肪血症血清(最大3g/dl)による干渉は観察されなかった。分析をマニュアルに従って実施した。
【0047】
セルピンG1は、ヒトSERPING1 ELISAによって測定した。感度又は最小検出可能用量は10pg/mLであり、検出範囲は156pg/mL~10000pg/mLであった。アッセイ内精度及びアッセイ間精度は、それぞれ5.6%未満及び5.9%未満であった。測定前に試料希釈剤中で試料を1/50000に希釈した。このアッセイは、天然ヒトセルピンG1及び組換えヒトセルピンG1に対して高い特異性を有し、他の関連タンパク質との検出可能な交差反応性は存在しない。
【0048】
実施例1.5.統計分析
臨床的変数は、カテゴリー変数については人数(n)及びパーセンテージ(%)として、正規分布変数については平均及び標準偏差(SD)として、又は歪んだ変数については中央値及び四分位範囲(IQR)として表される。群間の比較は、適宜、カイ2乗検定、スチューデントのt検定、又はマン-ホイットニーのU検定を使用して実施した。
【0049】
プロテオミクスデータからの群間(生存者対非生存者)のタンパク質存在量の推定及び相対的なタンパク質の定量化を、ソフトウェアパッケージSkyline 3.7及びMSstats 3.8.2を使用して実施した。訓練セット(2/3)及び検証セット(1/3)に分けられたCardShockコホート内で、CSを伴う患者における90日死亡リスクを分類するのに最良のタンパク質の組合せを調べた。訓練セット内で、各タンパク質の存在量を生存者と非生存者との間でロジスティック回帰モデルに適合させ、各タンパク質及びタンパク質の組合せの分類能力を、先に記載された受信者動作特性(ROC)曲線の曲線下面積(AUC)によって評価した。特定された4種のタンパク質を連続変数として試験した。
【0050】
ベースラインモデルとして使用されるCardShockリスクスコアは、75歳超の年齢、診察時の混乱、以前の心筋梗塞又は冠状動脈バイパスグラフト術(CABG)、急性冠症候群(ACS)の病因、40%未満の左室駆出率、血中乳酸塩、及びeGFRCKD-EPIを含む。モデル較正をホスマー・レメショー(HL)検定を使用して計算し、患者の判別及び再分類をハレルC統計量(AUC)及び連続的純再分類改善度(cNRI)を使用して評価した。C統計量及びNRIについての信頼区間を1000回のブートストラップ再標本化によって得た。
【0051】
STATA V.13.0(StataCorp、テキサス州カレッジステーション)、PredictABEL Rパッケージv1.2、及びSPSS V.20.0(IBM Corp、ニューヨーク州アーモンク)を使用して分析を行った。
【0052】
実施例2.結果
実施例2.1.タンパク質バイオマーカー候補の偏りのない発見(バルセロナコホート)
表3は、バルセロナ発見コホートからの臨床データ、生化学的データ、及び追跡データを示している。平均年齢は69±13歳であり、35%が女性であり、94%が初回経皮的冠動脈インターベンションで治療されていた。90日死亡率は45.8%であった。
【0053】
データセットにおいて合計2662種のタンパク質が特定され、そのうち488種が患者の30%超に存在していた。種々の変数(患者の転帰(生存者、非生存者)及び試料採取時間(入院時、24時間))間でのタンパク質の相対的な定量化の後に、独立したCardShockコホートにおける検証フェーズについて合計51種のタンパク質が選択された。簡潔には、生存患者と非生存患者との間、又は入院後最初の24時間以内(入院、24時間)のいずれかで存在量が変化した32種のタンパク質を更なる検証のために検討した。さらに、以前の知識及び臨床的関連性に基づいて19種のタンパク質を研究に含めた。
【0054】
実施例2.2.循環バイオマーカー候補の標的化プロテオミクス検証(CardShockコホート)
選択された51種のタンパク質のうち26種の分類力を、並行反応モニタリングによる標的化プロテオミクス定量化を使用してCardShockコホートにおいて更に検証した。表3はCardShock検証コホートの特性を示す。平均年齢は66±14歳であり、25%は女性であり、90日死亡率は37.1%であった。CSの最も多い原因はACS(71%)であり、これは主にSTEMIによって引き起こされた(52%)。バルセロナコホートと比べて、CardShock患者は、より高いヘモグロビンレベル、並びにより低いクレアチニンレベル、乳酸塩レベル、及びグルコースレベルを示した。
【0055】
測定された全てのタンパク質について、標的化質量分析クロマトグラフィープロファイルを得て、相対的なタンパク質定量化のために対応する内部参照と比較した。全ての患者において測定された肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、フルクトース-ビスリン酸アルドラーゼB(ALDOB)、β2-マイクログロブリン(B2MG)、及びセルピンG1(IC1)のタンパク質について得られた質量分析シグナルの一例としては、図2を参照のこと。CS患者における90日生存者及び非生存者を分類するのに最良のタンパク質の組合せを、以前に記載された予測因子選択と交差検証とを組み合わせて実施することによって特定した(Borras E, Canto E, Choi M, et al. Protein-Based Classifier to Predict Conversion from Clinically Isolated Syndrome to Multiple Sclerosis. Mol Cell Proteomics. 2016; 15(1):318-28)。図2によれば、以下の配列を使用して、各タンパク質についての質量分析クロマトグラフィープロファイルが得られた:B2MGについては配列番号1及び配列番号2、ALDOBについては配列番号3及び配列番号4、FABPLについては配列番号5、そしてID1については配列番号6。タンパク質の特定のために本発明ではこの方法を使用したが、タンパク質のあらゆる他の部分、又はタンパク質全体でさえもこの目的のために使用され得ることに留意されたい。
【0056】
この評価の結果、0.83のAUC(95%CI 0.74~0.89)を有する短期死亡リスクを特定する最良のタンパク質分類器として、タンパク質L-FABP、B2MG、ALDOB、及びIC1を含む4種のタンパク質の組合せが特定された(表4及び図3)。
【0057】
CardShockリスクスコアと新しいCS4Pモデルとを組み合わせることにより(CardShock+CS4P)、追加のモデルを構成した。CardShock+CS4Pは、CardShockリスクスコア単独と比較して、死亡率予測についてのC統計量を大幅に改善した(AUC0.78に対してAUC0.84;P=0.033;表4及び図3)。さらに、CardShock+CS4Pは、患者の再分類において顕著な利益を示し、NRIは0.49(P=0.020)であった(表4)。全体として、CardShock+CS4Pにより、CardShockリスクスコアと比較して、患者の32%の再分類の改善がもたらされた。
【0058】
また、探索的解析において、CS4Pモデルを別の最新のリスクスコアであるIABP-SHOCK IIと組み合わせて、IABP-SHOCK II+CS4Pを作成した。IABP-SHOCK II+CS4Pはまた、IABP-SHOCK IIと比較してより良好な予測尺度をもたらし、NRIは0.57(P=0.032)であった。
【0059】
実施例2.3.CSにおけるCS4Pの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)への橋渡し
標的化プロテオミクスによって規定されたCS4Pモデルを、日常的な臨床診療へのその迅速な橋渡しに対応するためにELISAによって試験した。研究されたタンパク質の中央値(IQR)循環濃度は、それぞれL-FABP、160pg/mL(42pg/mL~1720pg/mL);B2MG、482μg/mL(276μg/mL~752μg/mL);ALDOB、101ng/mL(70ng/mL~209ng/mL);及びIC1、218pg/mL(169pg/mL~259pg/mL)であった。循環L-FABP(94pg/mLに対して453pg/mL、p=0.02)、B2MG(344μg/mLに対して709μg/mL、p<0.001)、及びALDOB(84ng/mLに対して156ng/mL、p=0.05)は、生存者と比べて非生存者の方が高かった。それに対して、IC1濃度は、生存者と比べて非生存者の方が有意に低かった(226pg/mLに対して205pg/mL、p=0.02)(図4)。
【0060】
ELISAをCardShockリスクスコアと組み合わせることによって得られたCS4Pのタンパク質濃度により、0.82のAUC(95%CI 0.73~0.90)がもたらされ、標的化プロテオミクスによって得られたものと有意差はなかった(p=0.123)。
【0061】
実施例2.4.SSにおけるCS4Pの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)への橋渡し
標的化プロテオミクスによって規定されたCS4Pモデルを、日常的な臨床診療へのその迅速な橋渡しに対応するためにELISAによって試験した。研究されたタンパク質の中央値(IQR)循環濃度は、それぞれL-FABP、34.29pg/mL(0.6pg/mL~2500pg/mL);B2MG、1034μg/mL(204μg/mL~4637μg/mL);ALDOB、91.43ng/mL(38ng/mL~637ng/mL);及びIC1、217pg/mL(19pg/mL~500pg/mL)であった。循環L-FABP(p=0.002、OR 1.47、95%CI 1.18~1.44)、B2MG(p<0.001、OR 1.42、95%CI 1.14~1.77)、及びALDOB(p=0.007、OR 1.34、95%CI 1.08~1.65)は、単変量解析において30日での全ての死因を解析した後に、生存者と比べて非生存者の方が高かった。多変量解析では、L-FABP(p=0.004、HR 1.38、95%CI 1.10~1.69)及びB2MG(p=0.001、HR 1.44、95%CI 1.16~1.80)は、30日での全ての死因を解析した後に、生存者と比べて非生存者の方が高かった。
【0062】
ELISAによって得られたCS4Pのタンパク質濃度により、0.68のAUC(95%CI 0.60~0.76)がもたらされた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】
【配列表】
2022522125000001.app
【国際調査報告】