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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-14
(54)【発明の名称】エンジニアリングされた免疫細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20220407BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220407BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220407BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220407BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220407BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220407BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N15/85 Z
A61K35/17 Z
A61P35/00
C12N15/09 110
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549233
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(85)【翻訳文提出日】2021-10-20
(86)【国際出願番号】 SG2020050090
(87)【国際公開番号】W WO2020180243
(87)【国際公開日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】10201901875X
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509034605
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ウ,リン
(72)【発明者】
【氏名】ガスコイン,ニコラス ロバート ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ブジョステク,ジョアンナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB25
4B065BC03
4B065BC07
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、一般に免疫学の分野に関する。特に、本開示は、CARを発現する免疫細胞に関し、この免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されている。本開示はまた、対象における疾患を処置するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞であって、
前記CARは、リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK)の非存在下で機能する細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片を含み、
前記免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されている、免疫細胞。
【請求項2】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、LCKの非存在下で機能するCD28タンパク質のシグナル伝達ドメイン又は断片を含む、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項3】
前記免疫細胞がT細胞又はNK細胞である、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項4】
前記免疫細胞が、LCKの阻害剤を含むか、又は前記LCKの阻害剤と接触されている、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項5】
前記LCKの阻害剤が、遺伝子発現をダウンレギュレート若しくは消失させる、又はLCKの機能を改変することができる核酸配列である、請求項4に記載の免疫細胞。
【請求項6】
LCKの遺伝子発現をダウンレギュレートできる前記核酸が、アンチセンスRNA、アンタゴミールRNA、siRNA、shRNA、CRISPR系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ系、及び転写活性化因子様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)系からなる群から選択される、請求項5に記載の免疫細胞。
【請求項7】
前記LCKの阻害剤がLCKタンパク質の阻害剤である、請求項4に記載の免疫細胞。
【請求項8】
前記LCKの阻害剤が、アミノキナゾリン、A-420983、A770041、ダサチニブ、サラクチニブ、及びマサチニブからなる群から選択される、請求項7に記載の免疫細胞。
【請求項9】
前記免疫細胞が、前記CARをコードする核酸を含むベクターを含む、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項10】
前記免疫細胞が、遺伝子発現をダウンレギュレート若しくは消失させる、又はLCKの機能を改変することができるLCKの阻害剤をコードする核酸を含むベクターを含む、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項11】
前記免疫細胞が、前記CARをコードする核酸と、LCKの遺伝子発現をダウンレギュレート若しくは消失させることができるLCKの阻害剤をコードする核酸とを含むベクターを含む、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項12】
前記CARが、細胞外抗原結合ドメインを含む、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項13】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、FcRγ、FcεRIβ、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、又はDAP12から選択されるタンパク質の機能的シグナル伝達ドメインを含む一次シグナル伝達ドメインをさらに含む、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項14】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、DAP10、CD28、CARD11、SLAMF1、LCK1、LCK3、LAT、OX40、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、及び4-1BB(CD137)からなる群から選択されるタンパク質の機能的シグナル伝達ドメインを含む共刺激ドメインをさらに含む、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項15】
LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されていない細胞と比較して、PD-1の発現が低下している、請求項1に記載の免疫細胞。
【請求項16】
CARを発現する免疫細胞であって、LCK遺伝子の発現又は機能が破壊されるように改変されている、免疫細胞。
【請求項17】
請求項1に記載の免疫細胞を製造する方法であって、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で、免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む、方法。
【請求項18】
前記LCKの阻害剤が、LCKの遺伝子発現をダウンレギュレートすることができる核酸配列である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記LCKの阻害剤がCRISPR系である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
CARをコードする核酸を前記免疫細胞に導入することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
1)LCKの阻害剤をコードする核酸配列を含むベクター、及び2)CARをコードする核酸配列を含むベクターを含むベクター系。
【請求項22】
LCKの阻害剤をコードする核酸配列及びCARをコードする核酸配列を含むベクター。
【請求項23】
前記CARをコードする核酸配列がLCKの阻害剤である、請求項22に記載のベクター。
【請求項24】
細胞療法におけるCAR発現免疫細胞の有効性を改善する方法であって、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で、前記CAR発現免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む、方法。
【請求項25】
前記CAR発現免疫細胞がCART細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記CAR発現免疫細胞のオフターゲット効果が減少されている、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記CAR発現細胞における消耗表現型が減少している、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記CAR発現免疫細胞のメモリーが改善されている、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
それを必要とする対象を処置する方法であって、前記対象を処置するのに十分な時間及び条件下で、請求項1~16のいずれか一項に記載の免疫細胞を投与することを含む、方法。
【請求項30】
前記対象が、腫瘍抗原の発現に関連する疾患(例えば、増殖性疾患、前癌状態、癌、及び腫瘍抗原の発現に関連する非癌関連の徴候)を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
それを必要とする対象の処置における使用のための、請求項1~16のいずれか一項に記載の免疫細胞。
【請求項32】
必要とする対象を処置するための薬剤の製造における、請求項1~16のいずれか一項に記載の免疫細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は、一般に免疫学の分野に関する。特に、本開示は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞及び対象の疾患を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
免疫療法は、近年、癌患者の処置において前例のない進歩を遂げた。養子T細胞療法では、単離されたヒトT細胞が、キメラ抗原受容体の発現などによって、特定の腫瘍抗原に対するその特異性を高めるために遺伝子改変される。キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)を必要とする養子T細胞療法は、免疫腫瘍学パイプラインの主要な部分である。現在までに、3世代のCAR-T技術が開発され、B細胞悪性腫瘍及び多発性骨髄腫を含むいくつかの癌の臨床試験で使用されている。
【0003】
癌治療としてのその絶大な有用性にもかかわらず、CAR-T細胞による養子免疫療法は、細胞表面での内因性T細胞受容体の発現によって部分的に制限されている。内因性T細胞受容体を発現するCAR-T細胞は、同種異系患者への投与後に主要及び副組織適合抗原を認識し得る。これは、非特異的な効果を有し、患者に移植片対宿主病(GVHD)の発症をもたらし得る。
【0004】
CAR-T細胞によるT細胞養子免疫療法のもう1つの制限は、患者への再灌流後、CAR-T細胞が、PD-1、LAG-3、及びTIGITなどの阻害性受容体の発現による「消耗」表現型を示し始め、T細胞エフェクター機能が失われる。これは、これらの阻害性受容体のリガンド(PD-1に対するPD-L1及びPD-L2など)を発現することが多い固形腫瘍の特定の問題であり、固形腫瘍に対するCAR-T療法の有用性を制限している。
【0005】
従って、上記言及された問題の1つ又は複数を克服する、又は少なくとも軽減する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞を本明細書で提供する。
【0007】
一態様では、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞が提供され、このCARは、リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK)の非存在下で機能する細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片を含み、この免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されている。
【0008】
一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片は、機能不全LCKの存在下で機能する。
【0009】
一態様では、CARを発現する免疫細胞が提供され、この免疫細胞は、LCK遺伝子の発現又は機能が破壊されるように改変されている。
【0010】
一態様では、本明細書で定義される免疫細胞を製造する方法が提供され、この方法は、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む。
【0011】
一態様では、1)LCKの阻害剤をコードする核酸配列を含むベクター、及び2)CARをコードする核酸配列を含むベクターを含むベクター系が提供される。
【0012】
一態様では、LCKの阻害剤をコードする核酸配列及びCARをコードする核酸配列を含むベクターが提供される。
【0013】
一態様では、細胞療法におけるCAR発現免疫細胞の有効性を改善する方法が提供され、この方法は、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下でCAR発現免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む。
【0014】
一態様では、それを必要とする対象を処置する方法が提供され、この方法は、対象を処置するのに十分な時間及び条件下で、本明細書で定義される免疫細胞を投与することを含む。
【0015】
一態様では、それを必要とする対象の処置における使用のための、本明細書で定義される免疫細胞が提供される。
【0016】
一態様では、必要とする対象を処置するための薬剤の製造における本明細書で定義される免疫細胞の使用が提供される。
【0017】
図面の簡単な説明
ここで、本発明のいくつかの実施形態を、添付の図面を参照して、単なる非限定的な例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】CHO細胞を提示する人工抗原は、CAR及びTCR T細胞刺激のための抗原を提供する。(A)CAR構築物の概略図。MycタグはCARの発現の検出に使用される。(B)Jurkat 76のレンチウイルス形質導入後のLMP2Aペプチド(L2)特異的CAR又はTCRの発現。CAR構築物は、抗Myc抗体を使用して染色され、TCRの発現が抗CD3抗体によって同定された。(C)この研究で使用された3つのT細胞株での内因性TCRの発現。この研究の主要な細胞株としてJurkat 76細胞株が主に使用された。(D)モノペプチド系として共有結合で融合されたペプチド配列を有する一本鎖HLA構築物の概略図が上のパネルに示されている。左下のパネルは、特異的抗原HLA-A2-L2又は非関連抗原HLA-A2-GAGを発現する各CHO-APC上のL2特異的TCR様Abを使用した染色を示す。右下のパネルは、モノペプチド系における特異的ペプチド又は非関連ペプチドに対するL2特異的CAR-Tの応答性を示す。データは、少なくとも3回の実験から得られた、技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている。(E)マルチペプチド系として共有結合で融合されたペプチド配列を含まない一本鎖HLA構築物の概略図が上のパネルに示されている。左下のパネルは、溝が開いたHLA-A2でパルスされ、対応する特異的TCR様Abによって染色された様々なペプチドを示す。右下のパネルは、マルチペプチド系でパルスされた又はパルスされていない各特異的ペプチドに対するEBNA1ペプチド(El)、LMP1ペプチド(L1)、又はLMP2Aペプチド(L2)特異的CAR-Tの応答性を示す。データは、少なくとも3つの独立した実験を表し、技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている。(、p<0.05、有意でない(NS)、p>0.05)
図2】TCR様CARの活性化は、CD8によって増強されず、LCKなしでT細胞シグナル伝達を伝達する。(A)全反射顕微鏡(TIRFM)を使用したCD8の動員。CD8αは、mCherry蛍光タンパク質で標識され、一本鎖HLAは、Clover蛍光タンパク質と共有結合で融合された。左のパネルは、イメージングデータを表している。右のパネルは、バックグラウンド補正された平均蛍光強度の定量化データである。データは、平均±SD、n>80細胞コンジュゲート(****、p<0.0001)としてプロットされ、2つの独立した実験が行われた。(B)CD8を伴う又は伴わないCAR-T及びTCR-Tのカルシウム流出。曲線は、Flowjoの動的プログラムによってシミュレートされる。データは、少なくとも3つの独立した実験を表している。(C)CD8補助受容体を伴う又は伴わないCAR及びTCRの応答性。モノペプチド系で提示されるGAGの特異的ペプチドL2又は非関連ペプチドエピトープはそれぞれ、CHO-L2又はCHO-GAGとして標識されている。データは、少なくとも3回の独立した実験から、技術的な3連の平均±SD(***、p<0.001、有意性なし(NS)、p>0.05)としてプロットされている。(D)CAR又はTCR-Jcam1.6細胞におけるLCK又はFYNの発現のウエスタンブロット検出(左パネル)。LCK欠損細胞株Jcam1.6におけるCAR又はTCRの応答性(右パネル)。データは、少なくとも3つの独立した実験を表し、技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている。(E)CAR-Jcam細胞のカルシウム流出。曲線は、Flowjoの動的プログラムによってシミュレートされる。データは、少なくとも3つの独立した実験を表している。
図3】LCK非依存性CARシグナル伝達には、CD28共刺激ドメインが必要である。(A)抗CD19 scFvの細胞外認識ドメインを含むCAR構築物の概略図。この構築物の応答性が右に示されている。(B)CD3ζドメインが欠失したCAR構築物の概略図。この構築物の応答性が右に示されている。(C)共刺激ドメインが変更されたCAR構築物:CD28欠失(CAR-1)、CD137細胞内領域で置換(CD137-CAR)、及びCD28とCD137の両方からの細胞内シグナル伝達ドメインを含む第3世代CAR構築物(CD28/CD137-CAR)の概略図。構築物の応答性が右に示されている。(D)CD28細胞内ドメインは、YMNM又はPYAPモチーフでの欠失又は変異のいずれかによって突然変異していた。(E)共刺激因子CD80及びCD86と共に特異的抗原HLA-A2-L2を発現する、CHO-L2/CD80-CD86細胞によるJCam1.6T細胞上のCAR1のCD28共刺激の概略図である。Jcam1.6細胞におけるCD28での共刺激に対するCAR1又はTCRの応答性が右に示されている。この図のすべてのデータは、少なくとも3つの独立した実験を表し、技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている。
図4】CD28-CARは、ダウンストリームシグナル伝達を伝達する際にFYNに依存する。(A)SFK阻害剤PP2によるCAR及びTCR-Jurkatの応答性。技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている、少なくとも3回の実験の代表的なデータ。(B)異なる濃度(nM)での特異的LCK又はFYN阻害剤、それぞれA770041又はSU6656の存在下でのCAR及びTCR-Jurkatの応答性。IL-2の産生は、対数(阻害剤濃度)に対する相対応答(%)として制御するように正規化され、データは技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている。(C)異なる時点でのFYNのリン酸化(pY420)。APCは、特異的CHO-L2を意味する。以下に示される数値は、総FYNの強度値に対するpY420バンドの強度値を計算することによって決定されたpY416の相対バンド強度を示す。cCBL又はPLCγ1はそれぞれ、CD28-CAR-Jcam又はTCR-Jcamのローディング対照として示されている。(D)異なる時点でのCAR、TCR、及びCAR-1によるTCRシグナル伝達経路分子PLCγ1、Erk、及びCD3ζのリン酸化。各リン酸化の相対バンド強度は、総PLCγ1、総Erk、又は総Erkの強度値それぞれに対するpPLCγ1、pErk1/2、又はpCD3ζの強度値を計算することによって決定された。(E)CRISPR-Cas9による遺伝子編集後のLCK又はFYNノックアウトJurkatにおけるLCK及びFYNの発現。(F)LCK又はFYNノックアウトJurkatにおけるTCR及びCARのIL-2の産生。データは、少なくとも3つの独立した実験を表し、技術的な3連の平均±SD(、p<0.05、及び****、p<0.0001)としてプロットされている。
図5】LCK欠損CAR-Tは活性化閾値をリセットし、CARとTCRの両方を発現するT細胞でのCARトリガーのみを選択的に可能にする。(A)非パルスHLA-A2 CHO APC又は特異的ペプチドパルスHLA-A2CHO APCに応答するCARの発現量が異なるCAR-Jurkat細胞。左と中央のパネルは、ソーティング後のCAR-Jurkat細胞でのCARの発現を示す。右のパネルは、特異的ペプチドパルス又は非パルスCHO-HLA-A2に対するCARの発現量が異なるCAR-Jurkatの応答性を示す。データは、3つの独立した実験からの技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている。(B)CAR-Jcam、CAR-JE6-1、及びCAR-Jurkat 76のCAR活性化特異性の比較。データは、3つの独立した実験からの技術的な3連の平均±SD(、p<0.05、**、p<0.01、及び****、p<0.0001)としてプロットされている。(C)外因性LCKを含む又は含まないCAR-Jcam細胞の特異性。左のパネルは、ウエスタンブロットによる形質導入後のLCKの発現を示す。FYN染色を対照として使用した。右のパネルは、非パルスHLA-A2 CHO APC又は特異的ペプチドパルスHLA-A2 CHO APCに対するLCK形質導入又は非形質導入CAR-Jcam細胞の応答性を示す。データは、3つの独立した実験からの技術的な3連の平均±SD(**、p<0.01、及び****、p<0.0001)としてプロットされている。(D)LCK十分又は欠損Jurkat T細胞でのTCR及びCAR応答性の選択性。上のパネルは、LCK十分又は欠損Jurkat T細胞で発現したE183ペプチド特異的TCR又はLMP2ペプチド特異的CARの概略図を示す。下のパネルは、CHO-E183又はCHO-L2それぞれに対する各群の応答性を示す。CHO-E183は、E183ペプチドのみを提示するモノペプチドCHO APCである。同様に、CHO-L2は、A2-LMP2ペプチドのみを提示する。データは、少なくとも3つの独立した実験を表し、技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている。
図6】LCK欠損CAR-T細胞は、刺激後に、PD-1の発現が減少し、CARのダウンレギュレーションの低下を示す。(A)CHO-L2によるL2特異的CAR-Tの18時間の刺激後のPD-1アップレギュレーション。CAR又はTCRの量はそれぞれ、抗Mycタグ抗体又は抗CD3抗体によって検出された。下のパネルは、上のドットプロットに対応するPD-1及びCAR又はCD3の発現のヒストグラムである。データは、少なくとも3つの独立した実験を表している。(B)CAR-T及びTCR-Tでの連続刺激実験の概略図。CAR-T及びTCR-Tは、18時間目、42時間目、及び66時間目に分析のために特異的CHO-APCで分離され、サンプリングされた。6時間の静置後、CAR-T及びTCR-Tは、24時間目及び48時間目に再刺激された。(C)連続刺激後のPD-1の発現。PD-1 MFIは、PD-1陽性集団の測定によって決定された。データは、技術的な3連の平均±SD(****、p<0.0001)としてプロットされている。(D)連続刺激後のCAR又はTCRのダウンレギュレーション。パーセンテージは、刺激前の合計CAR又はCD3 MFIに対する刺激後の合計CAR又はCD3MFIの比率によって決定された。データは、技術的な3連の平均±SD(****、p<0.0001)としてプロットされている。
図7】CAR-T及びTCR-TのCD8の動員及び機能的影響。(A)CAR-T及びTCR-TへのCD8α-mCherryの形質導入。(B)蛍光顕微鏡におけるシナプス及びCD8の動員。左のパネルは、代表的な画像グラフ(n≧5)であり、GFPチャネルは、CHO-APCCD19の存在を検出し、mCherryは、CD8α-mCherryの局在を検出した。右のパネルは、外部シナプスのmCherryMFIに対するシナプスのmCherryMFIによって計算された、平均蛍光強度(MFI)比の定量化データである。カットオフ値(1.5)は、青い破線でマークされている。データは、平均±SD、n≧5細胞コンジュゲート(ns、p>0.05)としてプロットされている。(C)CAR-Jurkat又はTCR-Jurkat細胞へのCD8α及びCD8β構築物の同時形質導入。CD8α及びCD8β構築物は、異なるレンチウイルス上にあり、CAR又はTCR-Jurkat細胞に同時形質導入された。(D)CD8α及びCD8βの同時形質導入後のCAR及びTCRの発現。HLA-A2-L2テトラマーが、CAR-T及びTCR-T染色に使用された。TCRの発現は、抗CD3抗体によっても検出された。合計MFIは、各グラフの右側に示されている。
図8】細胞株のCHO-APC-CD80/CD86の発現。(A)Daudi又はJurkat細胞でのCD19の発現。(B)Jurkat又はJcam1.6細胞株でのCD28の発現。(C)CHO-L2APCでのCD80及びCD86の共発現。CD80及びCD86は、P2A切断可能リンカーによって連結されていた。CD80-P2A-CD86構築物は、1つのレンチウイルスベクター上にあった。
図9】CAR-T及びTCR-Tに対するSRCファミリーキナーゼ、LCK及びFYNの影響。(A)SFKPP2を含む又は含まないCAR-Jcam細胞のIL-2の産生。データは、技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている(2回以上の実験の代表)。(B)CAR-Jurkat又はTCR Jurkat細胞に対するLCK又はFYN特異的阻害剤のIC50。左のグラフは、LCK阻害剤を使用したものであり、右のグラフは、FYN阻害剤を使用したものである。(C)特異的HLA-A2-L2テトラマーが培地に添加された後のCAR2-Jcam又はCAR1-Jcamのカルシウム流出。Jcam1.6細胞におけるCD28共刺激ドメインを有する第2世代CARは、CAR2-Jcamとして標識され、Jcam1.6細胞における第1世代CARは、CAR1-Jcamとして標識された(3回以上の実験の代表)。(D)LCK KO及びFYN KO単一クローンの選択。LCK KOにおけるクローン20がJurkat LCK KO細胞として選択され、FYN KOにおけるクローン8がJurkat FYN KO細胞として選択された。(E)CAR-Jurkat FYN KO及びCAR-Jurkat、又はTCR-Jurkat FYN KO及びTCR-JurkatでのCAR又はTCRの発現の検出。CD3が、TCRの発現の指標として使用された。(F)CAR-Jurkat FYN KO及びCAR-Jurkat、又はTCR-Jurkat FYN KO及びTCR-JurkatでのFYN及びLCKの発現。c-CBLが、内部対照として使用された。
図10】LCK欠損CAR-Tの特異性及び受容体の選択。(A)LCKを含む又は含まないCAR-JcamによるIL-2の産生。技術的な3連の平均±SDとしてプロットされている、少なくとも3回の実験からの代表的なデータ。(B)JurkatでのCAR又はTCRの発現。TCRは、HB抗原、E183のペプチドエピトープに特異的である。CARは、上記のような特異性を有し、LMP2Aタンパク質のペプチドエピトープ(L2)であった。
図11】CARシグナル伝達を試験するための系。(A)Jurkat 76、Jcam1.6、及びJE6.1のCD8及びCD4の発現。(B)El-CAR、L1-CAR、及びL2-CARのエレクトロポレーション及び18時間後のそれらの発現(n≧3)。(C)マルチペプチドCHO-APC系におけるHLA-A2及び特異的ペプチドL2の提示。ペプチドは、培地中で異なる濃度で3時間パルスされた。次いで、CHO-APCがトリプシン処理され、抗HLA-A2抗体(BB7.2)又はL2特異的TCR様抗体のいずれかで染色された(n≧3)。
図12】連続刺激後のCAR又はTCRの発現。CAR又はTCRの発現は、抗myc又は抗CD3抗体によって検出された(3回以上の実験の代表)。
図13】CARの標的をLCK遺伝子座にすると、初代CD8+ T細胞がより多くのメモリーT細胞とより少ない消耗表現型に変わり、インビボでの有効性が向上する。(A)CRISPR/Cas9標的CARのLCK遺伝子座への組み込みの概略図。上側、LCK遺伝子座。下側、左右の相同アームの1kbフランキング領域を有するCARカセットを含むDNAドナーのデザイン。(B)LCK-遺伝子座CAR-T、従来のCAR-T、及び対照CD8 T細胞の標的としてのCD19発現Daudi及びRaji細胞の細胞毒性アッセイ。細胞毒性(%)は、式(LDH放出-陰性)/(LDH放出 最大-陰性)によって計算された。データは、3つの独立した実験の代表であり、技術的な3連の平均±SD(NS、p>0.05)としてプロットされている。(C)休止状態(ソーティング及びフィーダー細胞による再刺激後5日目)のT細胞におけるCARマーカー、消耗マーカー、及びメモリーマーカーの発現のFACS分析。2人のドナーの代表。(D)異なるE:T比で標的細胞に接触した後のT細胞における消耗マーカー及びメモリーマーカーの発現のレーダーチャートの概要。軸は、T細胞での発現のパーセンテージである。データは、2つの独立した実験の代表である。(E)インビボ動物モデルの概略図。癌細胞投与は0日目として指定された。(F)マウスの生存のカプランマイヤー分析。N=5匹のマウス/群、ログランクMantel-Cox検定。(G、H)Raji保有マウスは、5×10のCAR-T細胞で処置された。11日目及び18日目にマウスが安楽死させられた。骨髄CAR-T細胞が分析され、11日目及び18日目にメモリーT細胞(CD45RO)の割合がFACSによって検出された。11日目に消耗マーカーの発現が分析された。N=4匹のマウス/群、ドット=1匹のマウス、CAR-T=青い四角形のドット、LCK-遺伝子座CAR-T=赤い丸のドット。すべてのデータは平均±SD(NS、p>0.05、、p<0.05、及び**、p<0.01)である。
図14】LCK遺伝子座CAR標的初代CAR-T細胞。(A)LCK遺伝子座標的CRISPR/Cas9編集後のCD8+CAR+CAR-T細胞のパーセンテージ。少なくとも3回の実験からの代表的なデータ。(B)ソートされたLCK遺伝子座CAR-T細胞のLCKタンパク質の発現。左側、従来のCAR-Tとの比較。右側、LCK遺伝子座CAR-T細胞における切断型LCKの存在。少なくとも3回の実験からの代表的なデータ。(C)LCK遺伝子の標的部位の遺伝子型決定。フォワードプライマー:5’-AGGGAGAGGTGGTGAAACATTA-3’、リバースプライマー:5’-GAATGGAGTAGGGCATTGAAAG-3’(D)LCK遺伝子座CAR-TのCD19 Daudi細胞及びCD19 Jurkat細胞に対する細胞毒性。データは、技術的な3連の平均±SD(****、p<0.0001、NS、p>0.05)としてプロットされている。(E)様々なE:T比で標的細胞に接触した後の従来のCAR-T細胞における消耗マーカー及びメモリーマーカーの発現。データは2つの独立した実験の代表である。(F)5×10のLCK遺伝子座CAR-T細胞群における生存マウスの多臓器における抗ヒトCD20抗体染色。(G)CAR-T細胞(CD8+/生)及び癌(CD20/生)細胞は、FACSによって骨髄で検出されてカウントされた。N=4匹のマウス/群(NS、p>0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
一態様では、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞が提供され、このCARは、リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK)の非存在下で機能する細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片を含み、この免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されている。
【0020】
一実施形態では、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞が提供され、このCARは、LCKの非存在下又は機能不全LCKの存在下で機能する細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片を含み、この免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されている。
【0021】
理論に拘束されることなく、本発明者らは、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達における重要なシグナル伝達キナーゼであるSRCファミリーキナーゼLCKがCARシグナル伝達に重要ではない可能性があることを見出した。LCKは、TCRを介したシグナル伝達に極めて重要であるため、CAR-T細胞におけるLCKを欠失させる又は阻害することにより、CARによる抗原認識のみがT細胞の活性化をもたらすことを確認することができる。これにより、オフターゲット効果が減少し、CAR技術の安全性が向上し得る。これはまた、内因性TCRによって引き起こされる自己免疫の発生を回避し、同種異系CAR-T細胞の移植片対宿主病の可能性を低下させるのに役立ち得る。
【0022】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という語は、免疫エフェクター細胞内にある場合、細胞に標的細胞、典型的には癌細胞に対する特異性、及び細胞内シグナル生成を提供する一連のポリペプチドを指し得る。CARは、少なくとも細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び以下に定義される一次シグナル伝達ドメイン及び/又は共刺激ドメインに由来する機能的シグナル伝達ドメインを含む細胞質シグナル伝達ドメイン(本明細書では「細胞内シグナル伝達ドメイン」とも呼ばれる)を含み得る。一連のポリペプチドは、互いに隣接し得る。いくつかの実施形態では、一連のポリペプチドは、二量化分子が存在すると、ポリペプチドを互いに結合させることができ、例えば、抗原結合ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインに結合させることができる二量化スイッチを含む。
【0023】
一実施形態では、CARは、表1に示されるように核酸又はアミノ酸配列を有する。
【0024】
一実施形態では、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞が提供され、このCARは、LCKの非存在下で機能する細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片を含み、この免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能がノックアウト又はノックダウンされるように改変されている。
【0025】
本明細書で使用される「細胞内シグナル伝達ドメイン」という語は、分子の細胞内部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、CAR含有細胞、例えば、CART細胞の免疫エフェクター機能を促進するシグナルを生成する。例えばCART細胞における免疫エフェクター機能の例には、サイトカインの分泌を含む、細胞溶解活性及びヘルパー活性が含まれる。
【0026】
一実施形態では、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞が提供され、このCARは、LCKの非存在下で機能するCD28又はCD28の断片を含み、この免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能がノックアウト又はノックダウンされるように改変されている。
【0027】
細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片は、LCKの非存在下又は機能不全LCKの存在下で機能するものであり得る。LCKの非存在下又は機能不全LCKの存在下で機能する細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片は、FYNと相互作用し、及び/又はFYNによってリン酸化され、従ってLCK非依存性シグナル伝達を引き起こすことができるものであり得る。細胞内シグナル伝達ドメインは、例えば、ADD2、BCAR1、c-Raf、CBLC、CD28、CD36、CD44、CDH1、CHRNA7、CTNND1、CBL、CSF1R、DLG4、ジストログリカン、EPHA8、FYB、FASLG、GNB2L1、GRIN2A、ITK、ヤーヌスキナーゼ2、KHDRBS1、LKB1、ネフリン、PAG1、PIK3R2、PRKCQ、PTK2B、PTK2、PTPRT、UNC119、RICS、SH2D1A、SKAP1、Syk、TNK2、TRPC6、タウタンパク質、TrkB、TYK2、TUBA3C、WAS、又はZAP-70のシグナル伝達ドメイン又は断片を含み得る。LCKの非存在下又は機能不全LCKの存在下で機能する細胞内シグナル伝達ドメイン又は断片は、LCK非依存性シグナル伝達を誘発することができるCD28又はCD28の断片であり得る。一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、LCKの非存在下又は機能不全LCKの存在下で機能するCD28タンパク質のシグナル伝達ドメイン又は断片を含む。
【0028】
一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、PYAPモチーフを有するCD28タンパク質のシグナル伝達ドメイン又は断片を含む。一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS(配列番号1)の配列を含む。
【0029】
一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、共通FcRγ、FcεRIβ、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、又はDAP12から選択されるタンパク質の機能的シグナル伝達ドメインを含む一次シグナル伝達ドメインをさらに含む。細胞内シグナル伝達ドメインは、以下に定義されるように、少なくとも1つの共刺激ドメインに由来する1つ又は複数の機能的シグナル伝達ドメインをさらに含み得る。一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、DAP10、CD28、CARD11、SLAMF1、LCK1、LCK3、LAT、OX40、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、及び4-1BB(CD137)からなる群から選択されるタンパク質の機能的シグナル伝達ドメインを含む共刺激ドメインを含む。
【0030】
一実施形態では、CARは、細胞外抗原結合ドメインを含む。抗原結合ドメインは、例えば、抗体又は抗体断片であり得る。抗原結合ドメインはまた、Bリンパ球上の自己抗原特異的B細胞受容体によって認識され得る自己抗原であり得、従って、抗体媒介性自己免疫疾患において自己反応性Bリンパ球を特異的に標的化して殺すようにT細胞を誘導する。抗原結合ドメインはまた、ペプチド又はタンパク質リガンドであり得る。
【0031】
本明細書で使用される「抗体」という語は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子に由来するタンパク質又はポリペプチド配列を指し得る。抗体は、ポリクローナル若しくはモノクローナル、多鎖若しくは単鎖、又は無傷の免疫グロブリンであり得、天然源若しくは組換え源に由来し得る。
【0032】
「抗体断片」という語は、抗原のエピトープと特異的に相互作用する能力を保持する抗体の少なくとも一部を指し得る。抗体断片の例には、限定されるものではないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、scFv抗体断片、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、VH及びCHIドメインからなるFd断片、線状抗体、sdAb(VL又はVHのいずれか)などの単一ドメイン抗体、ラクダVHHドメイン、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片などの抗体断片から形成された多重特異的抗体、及び単離されたCDR又は抗体の他のエピトープ結合断片が含まれる。抗原結合断片は、単一ドメイン抗体、マキシボディ、ミニボディ、ナノボディ、イントラボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、v-NAR、及びbis-scFvに組み込むこともできる。
【0033】
一実施形態では、「抗体断片」は、scFVである。
【0034】
「scFv」という語は、軽鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片、及び重鎖の可変領域を含む少なくとも1つの抗体断片を含み、軽鎖及び重鎖の可変領域が、例えば、合成リンカー、例えば、短い柔軟なポリペプチドリンカーを介して隣接して連結され、単鎖ポリペプチドとして発現することができる融合タンパク質を指し、scFvは、それが由来する無傷の抗体の特異性を保持する。特に明記しない限り、本明細書で使用されるscFvは、例えば、ポリペプチドのN末端及びC末端に関して、VL及びVH可変領域をいずれかの順序で有し得、scFvは、VL-リンカー-VHを含んでもよいし、又はVH-リンカー-VLを含んでもよい。
【0035】
CARは、抗原結合ドメインとも呼ばれる標的特異的結合要素を含み得る。部分の選択は、標的細胞の表面を定義するリガンドの種類及び数に依存する。例えば、抗原結合ドメインは、特定の病状に関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用するリガンドを認識するように選択することができる。従って、CARの抗原部分ドメインのリガンドとして作用し得る細胞表面マーカーの例には、ウイルス、細菌、及び寄生虫感染、自己免疫疾患、並びに癌細胞に関連するものが含まれる。
【0036】
CARは、腫瘍細胞上の抗原に特異的に結合する所望の抗原結合ドメインをエンジニアリングすることによって、目的の腫瘍抗原を標的とするようにエンジニアリングすることができる。本発明の文脈において、「腫瘍抗原」又は「過剰増殖性障害抗原」又は「過剰増殖性障害に関連する抗原」は、癌などの特定の過剰増殖性障害に共通する抗原を指す。本明細書で論じられる抗原は、単なる例として含められている。このリストは、排他的であることを意図しておらず、さらなる例は、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0037】
腫瘍抗原は、免疫応答、特にT細胞媒介性免疫応答を誘発する腫瘍細胞によって産生されるタンパク質である。本発明の抗原結合ドメインの選択は、処置される特定の種類の癌に依存する。腫瘍抗原は、当技術分野で周知であり、例えば、神経膠腫関連抗原、癌胎児性抗原(CEA)、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、サイログロブリン、RAGE-1、MN-CA IX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異的抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、p53、プロスタイン、PSMA、Her2/neu、サバイビン及びテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン成長因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体、葉酸受容体(FRa)、及びメソテリンが含まれる。好ましい実施形態では、腫瘍抗原は、葉酸受容体(FRa)、メソテリン、EGFRvIII、IL-13Ra、EGFR、CA-IX、MUC1、HER2、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。一実施形態では、第1のCARは、メソテリンに結合する抗原結合ドメインを含み、第2のCARは、FRaに結合する抗原結合ドメインを含む。一実施形態では、CARは、HER2に結合する抗原結合ドメインを含む。
【0038】
一実施形態では、腫瘍抗原は、悪性腫瘍に関連する1つ又は複数の抗原性癌エピトープを含む。悪性腫瘍は、免疫攻撃の標的抗原として機能し得るいくつかのタンパク質を発現する。これらの分子には、限定されるものではないが、黒色腫におけるMART-1、チロシナーゼ、及びGP 100などの組織特異的抗原、並びに前立腺癌における前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)及び前立腺特異的抗原(PSA)が含まれる。他の標的分子は、癌遺伝子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子の群に属する。標的抗原のさらに別の群は、癌胎児性抗原(CEA)などの腫瘍胎児性抗原である。B細胞リンパ腫では、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンは、個々の腫瘍に特有の真に腫瘍特異的な免疫グロブリン抗原を構成する。CD19、CD20、及びCD37などのB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫の標的抗原の他の候補である。これらの抗原のいくつか(CEA、HER-2、CD19、CD20、イディオタイプ)は、モノクローナル抗体を用いる受動免疫療法の標的として使用されてきたが、成功は限定されている。
【0039】
本発明で言及される腫瘍抗原のタイプはまた、腫瘍特異的抗原(TSA)又は腫瘍関連抗原(TAA)であり得る。TSAは、腫瘍細胞に特有であり、体内の他の細胞では発生しない。TAA関連抗原は、腫瘍細胞に特有ではなく、それどころか、抗原に対する免疫寛容の状態を誘発できない条件下で正常細胞でも発現する。腫瘍上での抗原の発現は、免疫系が抗原に応答することを可能にする条件下で起こり得る。TAAは、免疫系が未成熟で応答できない胎児の発育中に正常細胞に発現する抗原である場合もあるし、又は正常細胞では極端に低いレベルで通常存在するが、腫瘍細胞でははるかに高いレベルで発現する抗原である場合もある。
【0040】
TSA又はTAA抗原の非限定的な例には、以下が含まれる:MART-1/MelanA(MART-I)、gp100(Pmel 17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2などの分化抗原、及びMAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、pl5などの腫瘍特異的多系統抗原;CEAなどの過剰発現した胚性抗原;過剰発現癌遺伝子及びp53、Ras、HER-2/neuなどの変異腫瘍抑制遺伝子;染色体転座に起因する特有の腫瘍抗原;BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなど;並びにエプスタインバーウイルス抗原EBVA、LMP2(例えば、LMP2A又はLMP2B)及びヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6及びE7などのウイルス抗原。他の大きなタンパク質ベースの抗原には、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA 19-9、CA 72-4、CAM 17.1、NuMa、K-ras、β-カテニン、CDK4。Mum-1、p 15、p 16、43-9F、5T4、791Tgp72、α-フェトプロテイン、β-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA I5-3\CA 27.29\BCAA、CA 195、CA 242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP、及びTPSが含まれる。
【0041】
一実施形態では、scFVは、抗CD19 scFVドメインである。抗CD19 scFVドメインは、例えば、(a)
【化1】

の配列を有し得る。
【0042】
一実施形態では、scFVは、LMP2Aタンパク質ペプチドの1つを提示するペプチド-MHC複合体に結合することができるscFVCである。scFVは、例えば、(a)
【化2】

の配列を有し得る。
【0043】
一実施形態では、scFVは、抗LMP2 scFVドメインである。
【0044】
「抗体断片」は、標的とされる抗原に応じて、当技術分野で公知の他の抗体の抗体断片配列を含み得る。
【0045】
一実施形態では、キメラ抗原受容体は、シグナルペプチドをさらに含む。シグナルペプチドは、例えば、MALPVTALLLPLALLLHAARP(配列番号4)の配列を有し得る。
【0046】
CARは、表1に示されるようなタンパク質配列を有するCARであり得る。
【0047】
一実施形態では、免疫細胞は組換え免疫細胞である。「組換え」という語は、異種核酸の導入によって改変された細胞、又はそのような方法で改変されているが、意図的な人的介入なしに発生する事象などの自然に発生する事象(例えば、自発的突然変異、自然形質転換、自然形質導入、自然転位)による細胞の改変を含まない細胞に由来する細胞への言及を含む。組換え免疫細胞は、自然に発生しない細胞であり得る。組換え免疫細胞はまた、エンジニアリングされた細胞であり得る。一実施形態では、組換え免疫細胞は、エンジニアリングされたT細胞又はエンジニアリングされたNK細胞などのエンジニアリングされた免疫細胞である。一実施形態では、組換え免疫細胞は、単離された免疫細胞である。
【0048】
一実施形態では、免疫細胞は、T細胞又はNK細胞である。
【0049】
本明細書で言及される「免疫細胞」という語は、造血起源であり、免疫応答において役割を果たす細胞を含む。免疫細胞には、B細胞やT細胞などのリンパ球;ナチュラルキラー(NK)細胞;単球、マクロファージ、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、好塩基球、及び顆粒球などの骨髄細胞が含まれる。
【0050】
一実施形態では、免疫細胞は、免疫エフェクター細胞である。本明細書で使用される「免疫エフェクター細胞」という語は、免疫応答、例えば、免疫エフェクター応答の促進に関与する細胞を指す。免疫エフェクター細胞の例には、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、肥満細胞、及び骨髄由来食細胞が含まれる。
【0051】
本明細書で使用される「免疫エフェクター機能又は免疫エフェクター応答」という語は、例えば免疫エフェクター細胞の、標的細胞の免疫攻撃を増強又は促進する機能又は応答を指す。例えば、免疫エフェクターの機能又は応答は、標的細胞の死滅又は成長若しくは増殖の阻害を促進するT細胞又はNK細胞の特性を指す。T細胞の場合、一次刺激及び共刺激は、免疫エフェクターの機能又は応答の例である。
【0052】
「刺激」という語は、刺激性分子(例えば、TCR/CD3複合体又はCAR)とその同族リガンド(又はCARの場合は腫瘍抗原)と結合し、それによって、限定されるものではないが、TCR/CD3複合体を介したシグナル伝達、又は適切なNK受容体若しくはCARのシグナル伝達ドメインを介したシグナル伝達などのシグナル伝達事象を媒介することによって誘導される一次応答を指す。刺激は、特定の分子の発現の変化を媒介することができる。
【0053】
本明細書で使用される「T細胞」という語は、CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞を含む。T細胞という語はまた、Tヘルパー1型T細胞及びTヘルパー2型T細胞の両方、並びにTh-IL 17細胞も含む。
【0054】
一実施形態では、免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されている。免疫細胞は、例えば、LCKノックアウト又はノックダウンを得るために改変することができる。「ノックアウト」という語は、遺伝子又は遺伝子の発現の消失を指し得る。例えば、遺伝子は、リーディングフレームの破壊につながるヌクレオチド配列の欠失又は付加のいずれかによってノックアウトすることができる。別の例として、遺伝子は、その一部を非関連配列で置き換えることによってノックアウトすることができる。他方、「ノックダウン」という語は、遺伝子又はその遺伝子産物の発現の低下を指し得る。遺伝子ノックダウンの結果として、タンパク質の活性又は機能が弱められ得るか、タンパク質レベルが低下又は消失し得る。
【0055】
一実施形態では、免疫細胞は、LCKの阻害剤を含むか、又はそれと接触する。
【0056】
LCKの阻害剤は、LCKの遺伝子発現をダウンレギュレート若しくは消失させる、又はLCKの機能を改変することができる核酸配列であり得る。
【0057】
核酸は、LCKの遺伝子発現をダウンレギュレート若しくは消失させる、又はLCKの機能を改変することができる核酸であり得、アンチセンスRNA、アンタゴミールRNA(antagomir RNA)、siRNA、shRNA、CRISPR系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ系、及び転写活性化因子様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)系からなる群から選択される。一実施形態では、核酸は、LCKを分解するか、又は間接的に細胞内のLCKの分解をもたらすプロテアーゼと結合した細胞内抗体をコードする。
【0058】
部位特異的ヌクレアーゼを使用して生細胞のゲノムのDNA切断を行うことが可能であり、そのようなDNA切断が、変異原性非相同末端結合(NHEJ)修復を介して、又はトランスジェニックDNA配列での相同組換えを介して、ゲノムの恒久的な改変をもたらし得ることは当技術分野で公知である。NHEJは、切断部位で突然変異誘発を引き起こして、対立遺伝子の不活性化をもたらし得る。NHEJ関連突然変異誘発は、早期終止コドンの生成、異常な非機能性タンパク質を生成するフレームシフト突然変異を介して対立遺伝子を不活性化し得るか、又はナンセンス媒介mRNA分解などのメカニズムを引き起こし得る。NHEJを介して突然変異誘発を誘導するためのヌクレアーゼの使用は、野生型対立遺伝子に存在する特定の突然変異又は配列を標的にするために利用することができる。標的遺伝子座に二本鎖切断を誘導するためのヌクレアーゼの使用は、相同組換え修復(HDR)、特にゲノム標的に相同な配列に隣接するトランスジェニックDNA配列が刺激されることが知られている。このようにして、外因性の核酸配列を標的遺伝子座に挿入することができる。そのような外因性核酸は、例えば、キメラ抗原受容体、外因性TCR、又は任意の目的の配列若しくはポリペプチドをコードすることができる。
【0059】
異なる実施形態では、様々な異なるタイプのヌクレアーゼが本発明を実施するために有用である。一実施形態では、本発明は、組換えメガヌクレアーゼを使用して実施することができる。別の実施形態では、本発明は、CRISPRヌクレアーゼを使用して実施することができる。所定のDNA部位を認識するCRISPRを作製するための方法は当技術分野で公知である。別の実施形態では、本発明は、TALEN又はCompact TALENを使用して実施することができる。さらなる実施形態では、本発明は、メガTALを使用して実施することができる。
【0060】
CRISPR/Cas9系に基づいてエンジニアリングされたエンドヌクレアーゼも当技術分野で公知である。CRISPRエンドヌクレアーゼは、2つの成分:(1)カスパーゼエフェクターヌクレアーゼ、典型的には微生物Cas9;及び(2)ヌクレアーゼをゲノム内の目的の位置に誘導するヌクレオチド標的配列を含む短い「ガイドRNA」を含む。
【0061】
「CRISPR」という語は、Cas9などのカスパーゼと、ゲノムDNAの認識部位にハイブリダイズすることによってカスパーゼのDNA切断を誘導するガイドRNAとを含むカスパーゼベースのエンドヌクレアーゼを指す。ノックアウト用のガイドRNAは、表2に示されるガイドRNAであり得る。一実施形態では、ガイドRNAは、細胞におけるLCK遺伝子の発現をノックダウンするために配列番号43と共に使用される。一実施形態では、ガイドRNAは配列番号10である。
【0062】
一実施形態では、LCKの阻害剤は、LCKタンパク質の阻害剤である。LCKの阻害剤は、LCKキナーゼ活性の阻害剤であり得る。LCKの阻害剤は、アミノキナゾリン、A-420983、A770041、ダサチニブ、サラクチニブ(Saractinib)、及びマサチニブ(Masatinib)からなる群から選択することができる。
【0063】
一実施形態では、免疫細胞は、LCKの発現及び/又は機能が低下又は消失するように改変されていない細胞と比較して、PD-1の発現が低下している。これにより、T細胞が消耗する傾向が減少し得る。これはまた、固形腫瘍に対するCAR-T細胞応答を改善し得る。
【0064】
一実施形態では、免疫細胞は、CARをコードする核酸を含むベクターを含む。一実施形態では、免疫細胞は、LCKの遺伝子発現をダウンレギュレート又は消失させることができるLCKの阻害剤をコードする核酸を含むベクターを含む。一実施形態では、免疫細胞は、CARをコードする核酸と、LCKの遺伝子発現をダウンレギュレート又は消失させることができるLCKの阻害剤をコードする核酸とを含むベクターを含む。
【0065】
「ベクター」又は「発現構築物」という語は、特定の細胞における動作可能に連結されたコード配列(例えば、産物をコードする挿入配列)の発現に必要な所望のコード配列及び適切な核酸配列を含む核酸分子を指し得る。発現ベクター構築物は、発現のための十分なシス作用要素を含み得;発現のための他の要素は、宿主細胞によって、又はインビトロ発現系において供給することができる。発現ベクター構築物には、コスミド、プラスミド(例えば、裸又はリポソームに含められた)、及び組換えポリヌクレオチドを取り込んだウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)を含む、当技術分野で公知であるすべてのものが含まれる。
【0066】
「ベクター」はまた、単離された核酸を含み、単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用することができる組成物を指す「導入ベクター」であり得る。限定されるものではないが、線状ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、及びウイルスを含む、多数のベクターが当技術分野で公知である。従って、「導入ベクター」という語は、自律的に複製するプラスミド又はウイルスを含む。この語はまた、例えば、ポリリジン化合物及びリポソームなどの、細胞への核酸の導入を容易にする非プラスミド及び非ウイルス化合物をさらに含むと解釈されるべきである。ウイルス導入ベクターの例には、限定されるものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターなどが含まれる。
【0067】
いくつかの実施形態では、CAR配列は、レトロウイルス又はレンチウイルスベクターを使用して細胞に送達される。CAR発現レトロウイルス及びレンチウイルスベクターは、形質導入細胞を担体として使用するか、又はカプセル化、結合、若しくは裸のベクターの無細胞局所若しくは全身送達を使用して、様々なタイプの真核細胞、並びに組織及び生物全体に送達することができる。使用する方法は、安定した発現が必要又は十分であるあらゆる目的に使用することができる。
【0068】
「発現」という語は、プロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を指し得る。
【0069】
「コードする(encode)」又は「コードしている(encoding)」という語は、転写及び/又は翻訳の意味で他のヌクレオチド又はアミノ酸に対応するヌクレオチド及び/又はアミノ酸への言及を含む。
【0070】
「核酸」という語は、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかのデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを含み、特段の限定がない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様の方法で核酸にハイブリダイズする天然ヌクレオチドの既知の類似体を包含する。「核酸」、「核酸分子」、「核酸配列」、及び「ポリヌクレオチド」という語は、文脈が別段の指示をしない限り、本明細書では同義に使用される。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子又は遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、EST、又はSAGEタグ)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、siRNA、shRNA、RNAi剤、及びプライマー。ポリヌクレオチドは、本明細書に記載又は当技術分野で公知の様々な改変又は置換のいずれかを用いて、1つ又は複数の塩基、糖、及び/又はリン酸で改変又は置換することができる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体などの改変ヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造の改変は、ポリマーの構築の前又は後に付与することができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断することができる。ポリヌクレオチドは、標識成分との結合などによって、重合後にさらに改変することができる。この語はまた、二本鎖分子と一本鎖分子の両方を指す。特段の指定又は要求がない限り、ポリヌクレオチドである本発明の任意の実施形態は、二本鎖形態と、二本鎖形態を構成することが公知であるか又は予測される2つの相補的な一本鎖形態のそれぞれとの両方を包含する。いくつかの文脈において、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」などの語は、たとえ厳密にヌクレオチド(糖、塩基、及びリン酸からなる)で構成されていなくても、遺伝情報を伝達するか、又は核酸又はポリヌクレオチドの機能を実行する(例えば、タンパク質に翻訳されるか、又はRNAi剤として作用し得る)任意の物質を包含し;そのような遺伝物質は、非限定的な例として、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、モルホリノヌクレオチド、トレオース核酸(TNA)、グリコール核酸(GNA)、アラビノース核酸(ANA)、2’-フルオロアラビノース核酸(FANA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、アンヒドロヘキシトール核酸(HNA)、及び/又はアンロックド核酸(UNA)を含み得る。
【0071】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」という語は、同義に使用され、ペプチド結合又は改変ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸の任意のポリマー(ジペプチド以上)を指し得る。約10~20個未満のアミノ酸残基のポリペプチドは、一般に「ペプチド」と呼ばれる。本発明のポリペプチドは、炭水化物群などの非ペプチド成分を含み得る。炭水化物及び他の非ペプチド置換基は、ポリペプチドが産生される細胞によってポリペプチドに付加することができ、細胞の種類によって異なる。ポリペプチドは、それらのアミノ酸骨格構造に関して本明細書で定義され;炭水化物群などの置換基は、一般的には特定されないが、それでも存在し得る。
【0072】
CARを発現する免疫細胞が本明細書で提供され、この免疫細胞は、LCK遺伝子が破壊されるように改変されている。CARを発現する免疫細胞が本明細書で提供され、この免疫細胞は、LCK遺伝子の発現又は機能が破壊されるように改変されている。一実施形態では、LCK遺伝子が破壊されているCART細胞が提供される。一実施形態では、LCK遺伝子の発現又は機能が破壊されているCART細胞が提供される。一実施形態では、CART細胞又はCARを発現する免疫細胞においてLCK遺伝子を破壊する方法が提供される。一実施形態では、CART細胞又はCARを発現する免疫細胞におけるLCK遺伝子の発現又は機能を破壊する方法が提供される。
【0073】
「破壊」及び「破壊された」という語は、本明細書では同義に使用され、核酸又はその発現産物の発現及び/又は機能的活性を低下又は消失させる任意の遺伝子改変を指す。例えば、遺伝子の破壊は、その範囲内に、遺伝子の発現及び/又は対応する遺伝子産物(例えば、mRNA及び/又はタンパク質)の機能的活性を低下又は消失させる任意の遺伝子改変を含む。遺伝子改変には、核酸(例えば、遺伝子)の完全又は部分的な不活性化、抑制、欠失、中断、遮断、又はダウンレギュレーションが含まれる。例示的な遺伝子改変には、限定されるものではないが、遺伝子ノックアウト、不活性化、突然変異(例えば、遺伝子産物の発現又は活性を破壊する挿入、欠失、点、又はフレームシフト突然変異)、又は阻害性核酸の使用(例えば、センス又はアンチセンスRNAなどの阻害性RNA、siRNA、shRNA、miRNAなどのRNA干渉を媒介する分子)、阻害性ポリペプチド(例えば、抗体、ポリペプチド結合パートナー、ドミナントネガティブポリペプチド、酵素など)、又はLCK遺伝子の活性若しくはLCK遺伝子の発現産物のレベル若しくは機能的活性を阻害するその他の分子が含まれる。
【0074】
一態様では、本明細書で定義される免疫細胞を製造(又は調製)する方法が提供され、この方法は、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で、免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む。LCKの阻害剤は、遺伝子発現をダウンレギュレート又は消失させる、又はLCKの機能を改変することができる核酸配列であり得る。一実施形態では、LCKの阻害剤はCRISPR系である。この方法は、CARをコードする核酸を免疫細胞に導入することをさらに含み得る。この方法は、患者から免疫細胞を採取する事前の工程を含み得る。
【0075】
一実施形態では、LCKの阻害剤をコードする核酸が提供される。一実施形態では、CARをコードする核酸が提供される。一実施形態では、LCKの阻害剤をコードする核酸及びCARをコードする核酸を含む核酸が提供される。
【0076】
一態様では、1)LCKの阻害剤をコードする核酸配列を含むベクター、及び2)CARをコードする核酸配列を含むベクターを含むベクター系が提供される。
【0077】
一態様では、LCKの阻害剤をコードする核酸配列及びCARをコードする核酸配列を含むベクターが提供される。
【0078】
一実施形態では、CARをコードする核酸配列はLCKの阻害剤でもある。
【0079】
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載の免疫細胞又はベクター、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0080】
「薬学的に許容される担体」とは、動物、好ましくはヒトを含む哺乳動物への局所又は全身投与において安全に使用することができる固体又は液体の充填剤、希釈剤、又は封入物質を意味する。代表的な薬学的に許容される担体には、当業者には公知であろう、ありとあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、染料、このような物質など、及びそれらの組み合わせが含まれる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照されたい)。どの従来の担体も活性成分と不適合である場合を除いて、医薬組成物におけるその使用が企図されている。
【0081】
一態様では、細胞療法におけるCAR発現免疫細胞の有効性を改善する方法が提供され、この方法は、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で、CAR発現免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む。
【0082】
一実施形態では、CAR発現免疫細胞はCART細胞である。
【0083】
一実施形態では、CAR発現免疫細胞のオフターゲット効果が減少する。一実施形態では、CAR発現細胞における消耗表現型が減少している。一実施形態では、CAR発現免疫細胞のメモリーが改善される。
【0084】
細胞療法におけるCAR発現免疫細胞のオフターゲット効果を減少する方法が本明細書で開示され、この方法は、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で、CAR発現免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む。
【0085】
細胞療法においてCAR発現免疫細胞の消耗表現型を減少する方法が本明細書で開示され、この方法は、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で、CAR発現免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む。
【0086】
細胞療法においてCAR発現免疫細胞のメモリーを改善する方法が本明細書で開示され、この方法は、LCKの発現及び/又は機能を低下又は消失させるのに十分な時間及び条件下で、CAR発現免疫細胞をLCKの阻害剤と接触させることを含む。
【0087】
一態様では、それを必要とする対象を処置する方法が提供され、この方法は、対象を処置するのに十分な時間及び条件下で、本明細書で定義される免疫細胞を投与することを含む。
【0088】
一実施形態では、対象は、腫瘍抗原の発現に関連する疾患(例えば、増殖性疾患、前癌状態、癌、及び腫瘍抗原の発現に関連する非癌関連の徴候)を有する。
【0089】
「本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連する疾患」という句は、限定されるものではないが、例えば、癌若しくは悪性腫瘍などの増殖性疾患、又は骨髄異形成、骨髄異形成症候群、若しくは前白血病などの前癌状態;又は本明細書に記載の腫瘍抗原を発現する細胞に関連する非癌関連の徴候を含む、本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連する疾患、又は本明細書に記載の腫瘍抗原を発現する細胞に関連する状態を含む。一態様では、本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連する癌は血液癌である。一態様では、本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連する癌は固形癌である。本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連するさらなる疾患には、限定されるものではないが、例えば、非定型及び/又は非古典的癌、悪性腫瘍、前癌状態、又は本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連する増殖性疾患が含まれる。本明細書に記載の腫瘍抗原の発現に関連する非癌関連の徴候には、限定されるものではないが、例えば、自己免疫疾患(例えば、狼瘡)、炎症性障害(アレルギー及び喘息)、及び移植が含まれる。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原発現細胞は、腫瘍抗原をコードするmRNAを発現する、又はいかなる時も発現した。一実施形態では、腫瘍抗原発現細胞は、腫瘍抗原タンパク質(例えば、野生型又は突然変異体)を産生し、腫瘍抗原タンパク質は、正常レベル又は低下したレベルで存在し得る。一実施形態では、腫瘍抗原発現細胞は、ある時点で検出可能なレベルの腫瘍抗原タンパク質を産生し、その後、検出可能な腫瘍抗原タンパク質を実質的に産生しなかった。一実施形態では、腫瘍抗原発現細胞は、腫瘍抗原タンパク質を過剰発現する。
【0090】
「過剰発現された」腫瘍抗原又は腫瘍抗原の「過剰発現」という語は、患者の特定の組織又は器官の正常細胞における発現のレベルと比較して、その組織又は器官内の固形腫瘍のような疾患領域の細胞における腫瘍抗原の異常なレベルの発現を示すことを意図している。固形腫瘍又は腫瘍抗原の過剰発現を特徴とする血液悪性腫瘍を有する患者は、当技術分野で公知である標準的なアッセイによって決定することができる。
【0091】
一実施形態では、対象は感染症に罹患している。感染症は、本発明の免疫細胞によって標的とされ得る感染細胞の表面上の1つ又は複数の感染マーカー(細菌マーカー又はウイルスマーカーなど)の発現をもたらし得る。感染症は、例えば、エプスタインバーウイルスによる感染症であり得る。
【0092】
一実施形態では、対象は、関節リウマチ、乾癬、又は全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患に罹患している。
【0093】
本明細書で使用される「自己免疫疾患」という語は、自己免疫応答に起因する障害として定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切で過剰な反応の結果である。自己免疫疾患の例には、限定されるものではないが、特に、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、クローン病、糖尿病(I型)、栄養障害型表皮水疱症、精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重力筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎が含まれる。
【0094】
「癌」及び「癌性」という語は、典型的には、部分的に無秩序な細胞成長を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指す、又は説明する。本明細書で使用される「癌」という語は、初期段階及び末期段階の癌を含む、非転移性及び転移性の癌を指す。「前癌性」という語は、典型的には癌に先行するか、又は癌に発展する状態又は成長を指す。「非転移性」とは、良性である癌か、又は原発部位に留まり、リンパ系若しくは血管系若しくは原発部位以外の組織に浸潤していない癌を意味する。一般に、非転移性癌は、ステージ0、I、又はIIの癌であるあらゆる癌であり、場合によってはステージIIIの癌である。「早期癌」とは、侵襲性でも転移性でもない癌、又はステージ0、I、若しくはIIの癌と分類される癌を意味する。「末期癌」という語は、一般に、ステージIII又はステージIVの癌を指すが、ステージIIの癌又はステージIIの癌のサブステージを指す場合もある。当業者であれば、ステージIIの癌の初期段階の癌又は末期段階の癌のいずれかへの分類が特定の癌の種類によって決まることを理解されよう。
【0095】
「癌」という語には、限定されるものではないが、乳癌、大腸癌、肺癌、小細胞肺癌、胃(gastric(stomach))癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部若しくは頸部癌、皮膚若しくは眼内黒色腫、子宮肉腫、卵巣癌、直腸若しくは結腸直腸癌、肛門癌、結腸癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、外陰癌、扁平上皮癌、膣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織腫瘍、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性若しくは急性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓癌、尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、CNS腫瘍、神経膠腫、星状細胞腫、多形性膠芽腫、原発性CNSリンパ腫、骨髄腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、ブドウ膜黒色腫(眼内黒色腫としても知られる)、精巣癌、口腔癌、咽頭癌、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0096】
処置できる癌には、血管新生されていない、又はまだ実質的に血管新生されていない腫瘍、並びに血管新生された腫瘍が含まれる。癌は、非固形腫瘍(例えば、白血病及びリンパ腫などの血液系腫瘍)又は固形腫瘍を含み得る。本発明のCARで処置されるべき癌の種類には、限定されるものではないが、癌腫、芽細胞腫、及び肉腫、並びに特定の白血病又は悪性リンパ腫、良性及び悪性の腫瘍、並びに悪性腫瘍、例えば、肉腫、癌腫、及び黒色腫が含まれる。成人の腫瘍/癌及び小児の腫瘍/癌も含まれる。
【0097】
血液癌は、血液又は骨髄の癌である。血液(又は血行性)癌の例には、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(acute myelocytic leukemia)、急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)、骨髄芽球性、並びに前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、及び赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄性(顆粒球)白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ性白血病など)、バーキットリンパ腫、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性及び高悪性度)、多発性骨髄腫、ウォルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリー細胞白血病、及び骨髄異形成を含む白血病が含まれる。
【0098】
固形腫瘍は、通常は嚢胞や液体領域を含まない異常な組織の塊である。固形腫瘍は、良性又は悪性であり得る。様々な種類の固形腫瘍(肉腫、癌腫、リンパ腫など)は、それらを形成する細胞の種類に因んで名付けられている。肉腫及び癌腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、及び他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、悪性リンパ腫、膵臓癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭状癌、褐色細胞腫皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝細胞腫、胆管癌、絨毛腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、精上皮腫、膀胱癌、黒色腫、及びCNS腫瘍(神経膠腫(脳幹神経膠腫及び混合性神経膠腫など)、膠芽細胞腫(多形性膠芽腫としても知られる)星状細胞腫、CNSリンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、シュワン細胞腫 頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経膠芽腫、網膜芽腫、及び脳転移など)が含まれる。
【0099】
一実施形態では、対象を疾患に対して免疫する方法が提供され、この方法は、対象を免疫するのに十分な時間及び条件下で、本明細書で定義される免疫細胞を投与することを含む。
【0100】
「投与する」という語は、本発明の組成物を対象に接触させる、適用する、注射する、輸血する、又は提供することを指す。
【0101】
本明細書で使用される「処置する」という語は、(1)障害の1つ又は複数の症状の出現を予防又は遅延させること;(2)障害の発症又は障害の1つ又は複数の症状を阻害すること;(3)障害を緩和すること、即ち、障害の退行又は障害の少なくとも1つ又は複数の症状を引き起こすこと;及び/又は(4)障害の1つ又は複数の症状の重症度の低下を引き起こすことを指し得る。
【0102】
本明細書全体で使用される「対象」という語は、ヒトを意味する、又は家畜又はペットであり得ることを理解されたい。本発明の方法は、ヒトの処置のためのものであることが特に企図されているが、このような方法は、イヌ及びネコなどのペット、並びにウマ、ウシ、及びヒツジなどの家畜、又は霊長類、ネコ科の動物、イヌ科の動物、ウシ科の動物、有蹄動物などの動物園の動物の処置を含む獣医療にも適用可能である。「対象」は、人、患者、又は個体を含み得、そして任意の年齢又は性別であり得る。
【0103】
本明細書で定義される方法は、必要とする対象に有効量の免疫細胞を投与することを含み得る。本明細書で定義される「有効量」という語は、単回投与又は一連の投与の一部として、その誘発、処置、又は予防に有効である量の薬剤の、それを必要とする個体への投与を意味する。有効量は、処置を受ける個体の健康及び体調、処置される個体の分類学群、組成物の製剤化、医学的状況の評価、及びその他の関連因子によって異なる。その量は、定期的な試験を通じて決定できる比較的広い範囲に収まると予想される。
【0104】
一態様では、それを必要とする対象の処置における使用のための、本明細書で定義される免疫細胞が提供される。
【0105】
一態様では、必要とする対象を処置するための薬剤の製造における、本明細書で定義される免疫細胞の使用が提供される。
【0106】
本発明の免疫細胞は、単独で、或いは希釈剤及び/又はIL-2又は他のサイトカイン又は細胞集団などの他の成分と組み合わせた医薬組成物として投与することができる。簡単に説明すると、本発明の医薬組成物は、1つ又は複数の薬学的又は生理学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤と組み合わせた、本明細書に記載の標的細胞集団を含み得る。そのような組成物は、中性緩衝生理食塩水及びリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液;グルコース、マンノース、スクロース、又はデキストラン、マンニトールなどの炭水化物;タンパク質;ポリペプチド又はグリシンなどのアミノ酸;抗酸化剤;EDTA又はグルタチオンなどのキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);及び防腐剤を含み得る。本発明の組成物は、好ましくは、静脈内投与用に製剤化される。
【0107】
本発明の医薬組成物は、処置(又は予防)される疾患に適切な方法で投与することができる。投与の量及び頻度は、患者の状態、患者の病気の種類及び重症度などの因子によって決定されるが、適切な投与量は、臨床試験によって決定してもよい。
【0108】
エクスビボ手順は当技術分野で周知であり、以下でより詳しく議論される。簡単に説明すると、細胞が、哺乳動物(例えば、ヒト)から単離され、本明細書に開示されるCARを発現するベクターで遺伝子改変(即ち、インビトロで形質導入又はトランスフェクト)される。CAR改変細胞は、治療上の利益を提供するために哺乳動物レシピエントに投与することができる。哺乳動物レシピエントはヒトであり得、CAR改変細胞は、レシピエントに関して自己由来であり得る。別法では、細胞は、レシピエントに関して同種異系、同系、又は異種であり得る。エクスビボ免疫化に関して細胞ベースのワクチンを使用することに加えて、本明細書に記載の方法には、患者の抗原に対する免疫応答を誘発するインビボ免疫化のための組成物及び方法も含まれる。
【0109】
本明細書で定義される免疫細胞の使用が本明細書で提供される。
【0110】
当業者であれば、本明細書に記載の発明が、具体的に説明されているもの以外の変形及び改変が可能であることを理解されよう。本発明は、精神及び範囲内に収まるそのようなすべての変形及び改変を含むことを理解されたい。本発明はまた、個別に又は集合的に、本明細書で言及又は示されるすべての工程、特徴、組成物、及び化合物、並びに前記工程又は特徴の任意の2つ以上のありとあらゆる組み合わせを含む。
【0111】
本出願で使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」には、文脈で明確に別段の指示がない限り、複数形の参照が含まれる。例えば、「薬剤」という語は、それらの混合物を含む複数の薬剤を含む。
【0112】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通じて、文脈で別段の指示がない限り、「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などの変形は、規定された完全体若しくは工程又は完全体若しくは工程の群を含むが、その他の完全体若しくは工程又は完全体若しくは工程の群を排除しないことを意味すると理解されたい。
【0113】
本明細書におけるあらゆる先行出版物(又はそれから派生した情報)又はあらゆる既知の事項への言及は、その先行出版物(又はそれから派生した情報)又は既知の事項が、本明細書に関連する努力傾注分野における一般的な一般知識の一部を構成することの承認又は了解又はいかなる形式の提案として解釈されるものでも、解釈されるべきものでもない。
【0114】
本発明の特定の実施形態は、単に例示を目的とするものであり、前述の本明細書の一般性の範囲を限定することは意図していない以下の実施例を参照して説明する。
【実施例
【0115】
実施例
材料及び方法
プラスミド及び配列
レンチウイルスベクター及びそれに関連するパッケージングプラスミドをVectorbuilderから購入した。CD28及びCD137共刺激配列を有するキメラ抗原受容体を合成し、Vectorbuilderによってレンチウイルスベクターにクローニングした。ヒトCD8A、CD8B、CD80、CD86、及びLCK遺伝子を、社内のヒトcDNAライブラリーからクローニングした。TCR様抗体のscFv構築物は、Paul A. Macaryの研究室(NUS)で作製され、ペプチドLMP2A426-434(EBVから)を有するHLA-A02:01に特異的なTCR及びペプチドE183-91(HBVから)を有するA02:01に特異的なTCRはそれぞれ、Hans Stauss(University College London)及びAntonio Bertoletti(Duke-NUS Medical School)からの寛大な贈り物であった。一本鎖三量体GAG-HLA-A2は、Keith Gould(Imperial College London)からの贈り物であった。ペプチド突然変異誘発:GAG(SLYNTVATL)からLMP2A426-434(CLGGLLTMV)(L2)、LMP1125-133(YLLEMLWRL)(L1)、EBNA1562-570(FMVFLQTHI)(El)、E183-91(FLLTRILTI)(E183)、又は一本鎖三量体GAG-HLA-A2の欠失;CD28 Y170F、P187、190A、及び細胞内ドメイン欠失突然変異はすべて、Q5変異誘発キット(New England Biolabs)を使用して行った。すべての分子クローニング作業は、In-Fusion HDクローニングキット(Clontech)を使用して行い、人工抗原提示CHO細胞を作製するために、一本鎖三量体MHC構築物をpcDNA3-Clover(Addgene plasmid #40259)にクローニングした。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
細胞株及び細胞培養
ヒトT細胞Jurkat細胞株、内因性TCR、及び補助受容体欠損Jurkat 76は、Dr. Heemskerk MHからの親切な贈り物であり、野生型Jurkat E6-1(TIB-152)、LCK欠損Jurkat cam1.6(CRL-2063)、Daudi細胞(CCL-213)は、American Type Culture Collectionから入手した。細胞を、37℃の加湿5%COインキュベーターにおいて、10%ウシ胎児血清(Hyclone)、2mM L-グルタミン(Gibco)、及びMEM非必須アミノ酸(Gibco)が添加されたRPMI-1640培地(Hyclone)で維持した。ヒト胎児腎臓上皮細胞(HEK293)を、10%ウシ胎児血清(Hyclone)、2mM L-グルタミン(Gibco)、及びMEM非必須アミノ酸(Gibco)が添加されたDMEM(Hyclone)で培養した。テトラサイクリン調節発現(T-REx)CHO細胞株を、Invitrogenから購入し、人工抗原提示細胞株の作製に使用した。CHO細胞を、10%ウシ胎児血清(Hyclone)、2mM L-グルタミン(Gibco)、及びMEM非必須アミノ酸(Gibco)を含むHam’s F-12(Gibco)培地で培養した。一本鎖三量体MHC構築物のCHOへのトランスフェクションは、ポリエチレンイミン(PEI)法を使用して行った。トランスフェクション後、薬物(Hycloneからの1.0mg/mlのG418硫酸塩)の添加によって細胞を選択した。次いで、単一細胞ソーティングを適用して、適切なHLA発現クローンを選択した。pMHC複合体発現を、フローサイトメトリーによって定期的にチェックした。
【0121】
抗体及び化学物質
この研究では、次の抗体を使用した:MycタグマウスmAb Alexa Fluor 647(9B11)、抗pSrcファミリー(pY416)、抗pPLCγ1、抗p44/42 Erk1/2、抗Erk1/2(すべてCell Signaling Technologyから);ウサギ抗ヒトFYN(FYN-59)、抗ヒトCD28 Alexa 488(CD28.2)、抗ヒトCD80 PE(2D10)、抗ヒトCD19 FITC、抗ヒトCD86 Brilliant Violet 421(BU63)、抗-ヒトCD3 APC、抗ヒトCD279(PD-1)PE(すべてBiolegendから);抗pCD3ζ(pY142)、マウス抗ヒトc-CBL、抗PLCγ1(すべてBecton Dickinsonから);抗ヒトHLA-A2 APC(BB7.2)、抗ヒトCD8A APC、抗ヒトCD8B PE-Cy7(すべてeBioscienceから);マウス抗ヒトLCK(3A5、Santa Cruz Biotechnology);ヤギ抗マウスIgG(H+L)二次抗体Alexa Fluor 647(Thermo Fisher Scientific);特定のHLA/A2-L2、HLA/A2-L1。HLA/A2-E1 TCR様抗体は、記載されているように作製した(Sim et al., 2013)。この研究で使用した化学物質について:SRCファミリーキナーゼ(SFK)阻害剤PP2はSigma-Aldrichから購入し;特定のLCK又はFYN阻害剤(それぞれA770041又はSU6656)はそれぞれ、MedChemExpress又はSelleckChemから入手し;カルシウム染料Indo-1、AMは、Thermo Fisher Scientificから入手した。
【0122】
レンチウイルスの生産及び形質導入
ウェル当たり合計6.5×10個のHEK293細胞を、トランスフェクションの前日に6枚のウェルプレートに播種し、5%CO、37℃でインキュベートした。次いで、ポリエチレンイミン(PEI)を使用して、細胞をパッケージングプラスミド及びレンチウイルスベクターでトランスフェクトし、12時間後に培地を交換した。ウイルス上清を、次の2日間に2回回収した。回収したウイルス上清を滴定し、0.45μmメンブレンフィルター(Millipore)でろ過し、超遠心管(Millipore)で100倍に濃縮した。レンチウイルスの形質導入のために、1ml中、ウェル当たり1×10個のJurkat細胞で、ポリブレン及びHEPESをそれぞれ8~10μg/ml及び10mMで添加し、続いて2,500rpmでスピノキュレーション(spinoculation)を2時間行った。CHO細胞の形質導入のために、ウイルス溶液をスピノキュレーションなしで細胞に直接加えた。24時間後、細胞とウイルス溶液を分離し、細胞を維持培地で培養した。さらに48時間の培養期間後、フローサイトメトリー分析を行って、構築物の発現をチェックした。
【0123】
エレクトロポレーション
Amaxa cell line nucleofectorキット(VCA-1003)の指示に基づいてエレクトロポレーションを行った。簡単に説明すると、各試料の10個の細胞を調製し、90×gで10分間スピンダウンした。細胞を100μlのnucleofector溶液で再懸濁し、2μgのDNAと組み合わせた。エレクトロポレーションプログラムX-05(高効率)をNucleofector(登録商標)2b Deviceに適用した。構築物の発現は、18時間後にフローサイトメーターによって検出した。
【0124】
イメージング
全内部反射蛍光顕微鏡(TIRFM)の場合、特定のpMHC及びその他のアンカータンパク質を含む脂質二重層を前述のように調製した。簡単に説明すると、0.2mol%のリポソームを調製し、37℃、N下で蒸発させ、超音波処理して4mMの脂質ストックを得た。ガラス8ウェルチャンバーLabTekIIチャンバースライド(Fisher Scientific)を2時間、6MのNaOHで洗浄し、脂質を加える前にddHOですすいだ。脂質をPBSで10倍に希釈し、きれいなチャンバースライドに加え、30分間インキュベートした。過剰なリポソームを12mlのPBSで洗い流した。二重層を2mg/mlのBSAで30分間ブロックした。5μg/mlのストレプトアビジンを加え、30分間インキュベートした。過剰なストレプトアビジンを洗浄した後、ビオチン化HLA/A2-L2単量体、組換えヒトICAM1タンパク質、hIgG1-Fc.Hisタグ(Thermo Fisher Scientific)を二重層に30分間添加した。洗浄後、二重層を使用する準備が整った。CD8α-mCherryを含む100μl当たり10個のCAR-Jurkat又はTCR-Jurkat細胞を、37℃で10分間チャンバーの1つのウェルに添加した。次いで、100μlの8%パラホルムアルデヒドを加えて細胞を固定し、刺激を停止した。TIRF顕微鏡検査を、後に4レーザーTIRFモジュールを備えたOlympus IX83倒立顕微鏡で行った。40倍/1.49NA油浸レンズを使用して画像を得た。100-nmのエバネッセント場内で励起された蛍光を、Hamamatsu ORCA Flash 4.0カメラで記録した。定期的な蛍光イメージングのために、CD8α-mCherryを含む10個のCAR-Jurkat又はTCR-Jurkat細胞を、チャンバーの1つのウェルの100μlのRPMI培地で、10個の細胞特異的CHO-APCと10分間混合した。これに続いて、100μlの8%パラホルムアルデヒドを添加した。CD8の動員を、後に通常のモジュールのOlympus IX83倒立顕微鏡で検出した。20倍~40倍/1.49NA油浸レンズを使用して画像を得た。
【0125】
カルシウム流出アッセイ
細胞試料を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に1ml当たり10×10個の細胞密度で懸濁し、2μM Indo-1 AMを37℃のインキュベーターで30分間ロードし、続いて培養RPMIで2回洗浄した。分析前に細胞を37℃に10分間予熱し、事象回収中は培養RPMIで37℃に維持した。細胞刺激のために、HLA/A2-L2単量体を事前にリフォールディングし、ビオチン化し、ストレプトアビジンAlexa 647(Thermo Fisher)で架橋して、抗原四量体を形成した。次いで、細胞を四量体で刺激した。Indo-1 high(BUV395)/Indo-1 low(DAPI)の平均蛍光比を、動力学プログラムによってFlowJoを使用して計算した。
【0126】
T細胞刺激アッセイ
人工抗原提示CHO細胞(APC-CHO)を、ウェル当たり2~3×10個で96ウェル平板に1日前に播種した。ペプチドパルスを必要とするAPC-CHOの場合、ペプチドを4μMで3時間添加し、次いでCAR-T又はTCR-T細胞を添加する前に洗い流した。各CAR-T細胞又はTCR T細胞試料をカウントし、RPMI培地の培養で1ml当たり10個の濃度で懸濁した。次いで、ウェル当たり200μlの細胞懸濁液をAPC-CHO事前播種プレートに加えた。阻害剤実験のために、阻害剤を細胞混合物に適宜加えた。すべての実験は、技術的な3連で行った。細胞を37℃、5%COで18時間インキュベートした。インキュベーション後、製造業者のプロトコル(Invitrogen)に従って行ったヒトIL-2ELISAアッセイ用に上清を回収した。T細胞ペレットを、表面染色のために再懸濁するか、又は上記の方法を繰り返すことによって刺激の別の回に使用した。
【0127】
ウエスタンブロッティング
合計10個の細胞試料をNP-40溶解緩衝液で溶解した。細胞残屑をペレット化し、上清を回収し、還元タンパク質ローディング緩衝液(Thermo Fisher Scientific)で加熱した。刺激後のリン酸化を検出するために、ウェル当たり10個のAPC-CHO細胞を、刺激の1日前に24ウェルプレートに播種した。10個のCAR-T又はTCR-T細胞を各ウェルに加え、37℃、5%COで指定された期間インキュベートした。刺激されたCAR-T又はTCR-T細胞を回収し、上記のように調製した。試料を4~12%Bis-Tris勾配ゲル(NuPAGE、Invitrogen)にロードし、PVDF膜(Immobilon-FL Transfer Membrane, Millipore)に転写した。次いで、ブロッキング緩衝液(Odyssey, LI-COR)を使用して、膜を室温で1時間ブロックした。続いて、膜を様々な一次抗体でプローブした。使用した二次抗体は、IRDye 800CWヤギ抗マウスIgG2b(Cat# 926-32352, LI-COR)及びIRDye 680LTヤギ抗ウサギ(Cat#926-68021)であった。LI-COR Odyssey赤外線イメージングシステムによってブロッティングを定量化した。
【0128】
CRISPR-Cas9遺伝子編集
Cas9プラスミドをAddgene(#52961)から入手した。FYN及びLCKのgRNA配列を、http://chopchop.cbu.uib.no/で検索し、表2に示す。Cas9配列を、P2A切断可能リンカーによってmTagBFPに連結し、次いで、gRNA配列と共にレンチウイルスベクターにクローニングした。Jurkat細胞に形質導入した後、単一細胞ソーティングの後にmTagBFP蛍光マーカーを使用した。クローンのスクリーニングのために細胞内染色及びウエスタンブロッティングを行った。
【0129】
【表5】
【0130】
フローサイトメトリー及び細胞ソーティング
フローサイトメトリー実験を、BD LSR Fortessa X-20(Becton Dickinson)で行った。細胞ソーティングは、Flow Cytometry Laboratory, Immunology Programme, National University of Singaporeによって、Mo-flo XDP(Beckman Coulter, Inc.)又はSY3200(Sony Biotechnology Inc.)のいずれかで行った。データ分析をFlowJoで行った。
【0131】
統計情報及びデータ分析
両側スチューデントのt検定又は双方向ANOVA分析を、GraphPad Prism 7を使用して、列データ又は曲線データそれぞれについて行った。データは、検定の前提条件を満たしている。分散は、比較されたグループ間で類似している。
【0132】
実施例1
人工抗原提示CHO細胞は、CAR及びTCR T細胞刺激のための抗原を提供する
CARとTCRとの間の分子認識を詳細に比較するために、同じペプチド-MHC特異性を有するCAR及びTCRを発現するJurkat T細胞を作製した。CAR構築物を、CD28共刺激ドメインが説明された以前のレポートに基づいて作製した(図1A)。CAR上のscFvは、HLA-A2によって提示されたエプスタインバーウイルス(EBV)からの潜在膜タンパク質2A(LMP2A)タンパク質のペプチドエピトープを認識するTCR様抗体から構築した。CARという語は、CD28膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを使用するこの第2世代CARを指し得る。次いで、レンチウイルスを適用して、内因性TCRα及びβ鎖が欠如しているがCD3サブユニットのフルセットを含むJurkat 76T細胞にCARを送達した。レンチウイルス形質導入は、CAR又はCARと同じペプチド-MHC複合体に特異的なTCRの両方で効率的であった(図1B)。CAR又はTCR発現Jurkat細胞をソートして、安定したCAR又はTCR-Jurkat細胞を作製した。T細胞シグナル伝達研究に利用できる様々なヒトJurkat T細胞株がある。ここでは、3つのJurkat由来細胞株、Jurkat 76、JE6.1、及びJcam1.6を使用した。Jurkat 76は、大部分の実験に使用したため、特段の記載がない限り、Jurkatと呼ばれる。Jurkat 76のみがCD3を表面に発現しなかったが、JE6.1及びJcam1.6は異なる量のCD3を発現した(図1C)。これらの3つの細胞株はいずれも、CD8又はCD4を発現しない(図11A)。加えて、異種CHO細胞における一本鎖形態のヒトMHCクラスIの発現に基づく人工抗原提示系もエンジニアリングした。この抗原提示細胞(APC)系は、選択したペプチドがβ2-ミクログロブリンと重鎖に共有結合するモノペプチド系(図1D)と、HLA-A2のペプチド溝が開いており、複数のペプチドを細胞にパルスしてMHC-I分子に結合させることができるマルチペプチド系(図1E)との2つの型に構築した。両方の系は、特異的ペプチド提示が、非関連ペプチド提示とは対照的に特異的なTCR様抗体によってそれぞれ有意に検出されたことが観察されたように、ペプチドを効率的に提示した(図1D図1E)。それにもかかわらず、CAR-T細胞は、図1D及び図1Eに見られるように、これらの系による刺激に対して異なって反応した。LMP2A(L2)ペプチド特異的CAR-Tは、CHO-L2に特異的に応答するが、非関連CHO-GAGには応答しない。しかしながら、TCR様CAR-T細胞は、HLA-A2を発現する非パルスCHO細胞に対していくつかの非特異的な応答を示した(図1E)。この非特異的活性化は、EBNA1ペプチド標的E1-CAR又はLMP1ペプチド標的L1-CARのような他の特異性を有するTCR様CARでも見られた。異なるペプチド濃度での抗HLA-A2(BB7.2)によって検出されるように、HLA-A2構築物は、ペプチドをCHO-APCに意図的にパルスすることなく発現される(図11C)。従って、CHO細胞からの様々な未知のペプチドがマルチペプチド系に提示される。いくつかのペプチド配列は、特異的ペプチドに類似し、非特異的なトリガーを引き起こす可能性がある。
【0133】
TCR様CARの活性化は、CD8によって増強されず、LCKなしでT細胞シグナル伝達を伝達することができる
このTCR様CARは、ペプチドMHCに対してTCRと同じ特異性を有しているため、T細胞活性化に対するCD8補助受容体の寄与を明らかにすることは非常に興味深いことである。CD8補助受容体が、接触面での事象を検出するために使用された全内部反射蛍光顕微鏡(TIRFM)を使用して、TCR-T細胞と同様にCAR-T細胞によって動員できることが最初に示された(図2A)。CD8αは、蛍光タンパク質mCherryでキメラとして標識した。CAR-TとTCR-Tの両方が表面にCD8α-mCherryを発現した(図7A)。TIRFMの場合、支持された脂質二重層をガラスプレート上で調製し、インテグリンリガンドICAM-1を添加してCAR-T又はTCR-Tを検出表面に固定した。CD8α-mCherryを発現するCAR-T又はTCR-T細胞を、特異的なpMHCを含む又は含まない二重層に10分間添加した後、平均蛍光強度(MFI)が、pMHCが追加された両方の群で有意に増加した。CAR-T及びTCR-Tと二重層との接触面内でのCD8α-mCherryのクラスター化は明らかであった。免疫シナプスの内側と外側とのMFI比を、通常の広視野蛍光顕微鏡を使用して計算した(図7B)。CD8α-mCherryを用いたCAR-TとTCR-Tとの間に有意差は検出されず、両方のMFI比が、本発明者らの免疫シナプス形成のカットオフ比の定義1.5を超えており、CD8α-mCherryがCAR-T及びTCR-Tの両方で動員されたことを実証した。次に、CD8を動員できることを前提として、CD8がCAR-Tに機能的に寄与するか否かを明らかにすることが求められた。CD8α及びCD8βをCAR-Jurkat細胞及びTCR-Jurkat細胞の両方に同時形質導入した後、CAR又はTCRの発現量は類似していることが示され(図7C図7D)、予想通り、CD8αβ補助受容体を保有するTCR-Jurkatの反応性が有意に増加したことが分かった。CD8を有するTCR-Tは、CD8を有していないTCR-Tよりも速くて強力なカルシウム流出を示した(図2B)。CD8補助受容体を有するTCR-Tによって産生されたIL-2は、CD8補助受容体を有していない場合よりもほぼ3倍高かった(図2C)。しかしながら、CD8を保有するCAR-Jurkatの反応性は、CD8を欠如している細胞よりも増強されなかった(図2B図2C)。CD8を有するCAR-TとCD8を有していないCAR-Tのカルシウム流出は同等であり、CD8を有するCAR-Tでは、IL-2の産生の有意な増加は検出されなかった。CD8は、LCKを免疫シナプスに導入することによってTCRシグナル伝達を増強する上で重要であると考えられている。次いで、少なくともCD8結合LCKに関しては、LCKはCARシグナル伝達にそれほど重要ではないであろうという仮説が立てられた。驚いたことに、CAR-Tは、LCK欠損Jurkat細胞株Jcam1.6を使用したときに観察されたように(図2D図2E)、LCKが存在しなくてもTCRシグナル伝達を活性化することさえできた。CAR-Jcam細胞は、IL-2を産生することでき、カルシウムを正常に流出させたが、TCR-Jcam細胞は、抗原による刺激時にIL-2を産生できなかった。
【0134】
実施例2
LCK非依存性CARシグナル伝達はCD28共刺激ドメインを必要とする
どのドメインがLCKの非存在下でCARの非標準的なT細胞シグナル伝達をトリガーするかを特定するために、体系的なドメイン置換を、CD28を保有する第2世代CARに対して行った。まず、LCK非依存性シグナル伝達が細胞外ドメインの抗原特異性に起因するか否かを試験した。TCR様scFvをCD19-scFvに交換し、CD19発現Daudi細胞株を標的細胞として使用した(図8A)。CD19特異的CAR-T細胞は、LCKの存在下又は非存在下でCD19発現Daudi細胞によって活性化され、LCK非依存性CARシグナル伝達が、細胞外CARドメインの抗原特異性とは非依存性であることを示唆している(図3A)。CD3ζドメインの重要性を判断するために、CD3ζ細胞内ドメインを欠失させると、IL-2の産生は確認されず、CAR-Tシグナル伝達におけるCD3ζITAMの必要不可欠性を実証している(図3B)。次いで、1)共刺激CD28ドメインを欠失させて第1世代CARを作製すること、2)CD28をCD137(4-1BB)細胞内ドメインに置き換える、又はCD137ドメインを追加して第3世代CARを作製することによって、LCK非依存性CARトリガーの媒介における共刺激シグナル伝達ドメインの役割を決定しようとした(図3C)。共刺激ドメインを含まない第1世代CAR-1はTCRのように振る舞い、CAR-1がLCK欠損Jcam1.6細胞に導入されたときにシグナル伝達が停止した。CD137-CARを構築した。結果は、第2世代CARの場合、CD28共刺激ドメインを含むデザインでのみ、LCK非依存的にシグナル伝達したことを示す。それにもかかわらず、CD28ドメイン及びCD137ドメインの両方を含む第3世代CARでは、抗原に応答したCAR-Tの活性化が、LCK欠損条件下で観察されたが、LCKの非存在下では、CD28細胞内ドメインのみを含むCARほど強くはなかった(図3C)。CD28シグナル伝達経路の関与は、CD28細胞内ドメインの機能的結合モチーフの突然変異によって実証された。PI3K結合モチーフ及びプロリンリッチ領域は、CD28シグナル伝達に極めて重要であると報告されているため試験した(図3D)。3つの突然変異をCAR構築物に生じさせた;細胞内ドメインの欠失;PI3K結合モチーフYMNMがFMNMに突然変異した;プロリンリッチ領域PYAPのプロリンがアラニンに置き換えられた。次いで、これら3つすべての突然変異を、Jcam1.6細胞株に形質導入した。IL-2の産生は、CD28細胞内ドメインなしでは完全に抑制された。IL-2の産生の低下は、FMNM及びAYAA突然変異体の両方で観察され、AYAA突然変異体は、FMNM突然変異体よりも活性化を減少させた。LCK非依存性シグナル伝達におけるCD28シグナル伝達の影響をさらに試験するために、CD80及びCD86をCHO-L2に同時形質導入して、CD28シグナル伝達を活性化した。内因性CD28の発現が、Jurkat及びJcam1.6の両方で確認された(図8B図8C)。驚いたことに、CAR-1-Jcam及びTCR-Jcam細胞は、CD80及びCD86発現CHO-L2細胞を使用してCAR-1-Jcam又はTCR-Jcam細胞を刺激すると、IL-2の産生の回復を示した。これらの結果は、LCK非依存性CARシグナル伝達には、第2世代CARに存在するCD28細胞内ドメイン又は第1世代CAR若しくはTCRを使用したときの内因性CD28分子のいずれかからの、YMNM及びPYAPモチーフを介して少なくとも部分的に媒介されるCD28共刺激シグナルが必要であることを示す。
【0135】
CD28-CARはFYNに依存して下流のシグナル伝達を伝達する
次いで、本発明者らは、LCKの非存在下でのシグナル伝達中にCARのリン酸化に関与するキナーゼを特定しようとした。CAR-Jurkat又はCAR-JcamのIL-2の産生は、SRCファミリーキナーゼ(SFK)阻害剤PP2が添加された後に完全に抑制され(図4A図9A)、CARシグナル伝達がSFKに非常に依存していることを示している。LCK及びFYNがT細胞において最も顕著で関連性のあるSFKであると考えて、LCK及びFYNをそれぞれ標的とする特異的な阻害剤A770041及びSU6656を使用して、CAR及びTCRシグナル伝達におけるこれら2つのSFKの相対的な役割を試験した。図4Bに示すように、TCR-Jurkatは、LCK阻害剤に対してCAR-Jurkatよりも感受性が高かった。逆に、CAR-Jurkatは、FYN阻害剤に対してTCR-Jurkatよりも感受性が高かった(図4B)。CAR-Jurkat又はTCR-Jurkatに対する阻害剤のIC50は、まったく異なる感受性をさらに実証し;LCK阻害剤のIC50は、TCR-Jurkatでは6.6nMであったが、CAR-Jurkatでは47nMであった。FYN阻害剤の場合、CAR-Jurkat(3765nM)でのIC50は、TCR-Jurkatに対するIC50(5583nM)よりも低かった(図9B)。LCKに依存するTCRとは異なり、FYNを優先的に使用するCARのこの傾向は、FYNがCARからの下流シグナル伝達を活性化するキナーゼであり得ることを示唆した。LCK非依存性シグナル伝達におけるFYN活性化の関与をさらに試験するために、ウエスタンブロットを行った。異なる時点でのCAR-JcamのFYNリン酸化の結果は、FYNの活性化部位Y420が、TCR-JcamではなくCAR-Jcamの特異的なAPCへの結合の後にリン酸化されたことを示し(図4C)、30分後にFYN Y420リン酸化がほぼ2倍に増加した。リン酸化強度は、総FYNの強度に対するpY420の強度によって計算した。下流の重要なシグナル伝達分子の活性化を、LCK欠損CAR-Jcamでも調べた(図4D)。PLCγ1、Erk、及びCD3ζのリン酸化は、CAR-Jcamの活性化後に検出されたが、CAR1-JcamではErkのみがリン酸化された。CAR-JcamとCAR1-Jcamとの間の下流シグナル活性化の違いは、カルシウム流出実験にも反映されていた(図9C)。CAR1-Jcam細胞ではなくCAR-Jcam細胞は、同族抗原に応答してカルシウム流入を示した。活性化後の異なる動態パターンは、CAR-JcamとTCR-Jurkatとの間でも見られた。PLCγ1、Erk、及びCD3ζのリン酸化は、TCRのリン酸化よりもCARシグナル伝達後に安定していた。TCRの活性化は、各分子のリン酸化が30分で上昇し、その後弱まったため、比較的短いパルスであった。
【0136】
CAR及びTCRシグナル伝達におけるLCK及びFYNの役割をより適切に検証するために、CRISPR-Cas9遺伝子編集系を、LCK又はFYNをノックアウトするために導入した。gRNAスクリーニング(表2)及びシングルクローンソーティング(図9D)の後、LCKノックアウトクローン20及びFYNノックアウトクローン8を、さらなる実験のためにLCK又はFYNノックアウト系として選択した(図4E)。実験の前に、CAR又はTCR形質導入LCK又はFYNノックアウトT細胞を、TCRとCARの発現が同等であるようにソートした。LCKノックアウトJurkat細胞では、TCRは、シグナル伝達を活性化してIL-2を産生することができなかったが、CARは依然として機能しており、Lck欠損Jcam1.6細胞株を使用して得られた以前の結果と一致していた(図4F)。しかしながら、FYNノックアウトJurkat細胞では、TCRは、野生型TCR-Jurkatよりもわずかに多い量のIL-2を産生した。しかしながら、CAR-Jurkat FYN KO細胞のIL-2の産生は、野生型CAR-Jurkatと比較して劇的に減少した(図4F)。CAR又はTCRの発現は、FYN KO Jurkat細胞で同等であり、FYNの欠如が、ウエスタンブロッティングによってCAR又はTCR-Jurkat FYN KOで確認された(図9E図9F)。
【0137】
実施例3
LCK欠損CAR-Tは活性化閾値をリセットし、CARとTCRの両方を発現するT細胞でのCARトリガーのみを選択的に可能にする
次いで、これらの発見に基づいて、LCK非依存性トリガーメカニズムの潜在的な機能的結果、及びLCK欠損CAR-T細胞が実際に適用できるか否かを調べようとした。CAR活性化閾値に対するLCKの存在又は非存在の効果を最初に試験した。マルチペプチド提示系(図1E)のいくつかの非特異性は既に注記した。TCR様CARのこの非特異的活性化は以前に報告されており、TCR様抗体の親和性が特定の閾値を超えると特異性が低下し得る。TCR様CAR-T細胞を異なる量のCARの発現についてソートした後、非パルスHLA-A2又は特異的ペプチドパルスHLA-A2に対して低発現から高発現のCARに分泌されるIL-2の量の増加がまったく異なることが分かった(図5A)。この違いは、TCR様CARが、非特異的結合と特異的結合に対して異なる親和性を有し得ることを示し、特異的結合の親和性は非特異的結合の親和性よりも高い。活性化キナーゼが各系で異なることを考えると、活性化閾値は、LCK欠損CAR-TとLCK十分CAR-Tとの間で異なる可能性が高いという仮説が立てられた。従って、特異的及び非特異的抗原に対する応答は、LCK欠損CAR-Tにおいて区別することができる。CAR-Jcam、CAR-Jurkat 76、及びCAR-JE6-1の比較に見られるように、CAR-JcamによるIL-2の産生は、陰性対照と同じくらい低く、非関連ペプチドGAGを示したが、CAR-JE6-1は、CAR-Jurkat 76と同じ非特異的活性化を示した(図5B)。特に、JE6-1は、内因性TCR様Jcam1.6を発現し(図1C)、従って、CARによる非特異的活性化への内因性TCRの寄与を排除している。低親和性非特異的抗原に対するTCR様CAR-T細胞の活性化の媒介におけるLCKの役割をさらに検証するために、LCKをJcam1.6細胞に形質導入して、LCK陽性CAR-Jcam細胞を作製した。この場合も、非パルスHLA-A2 APCは、LCK陰性CAR-Jcam細胞ではなく、LCK陽性CAR-Jcam細胞で強力なIL-2の産生を誘導した(図5C)。抗原性CHO-L2に対するIL-2の産生は、LCK陰性CAR-Jcam細胞よりもLCK陽性CAR-Jcamで低いことも観察された(図10A)。さらに、LCK欠損は、CARとTCRの両方を発現するT細胞において、TCRではなくCARの選択的トリガーを可能にすることが予測された。この仮説を試験するために、L2ペプチド特異的CAR及びB型肝炎ウイルス(HBV)由来E183-91(FLLTRILTI)エピトープに対する特異性を有するTCR(従って、E183-TCRと呼ばれる)を、Jurkat細胞又はLCKノックアウトJurkat細胞に同時形質導入した(図10B)。Jurkat-TCR+CARは、CHO-E183又はCHO-L2によってIL-2を産生するように誘導され、CARとTCRの活性化が、デュアルCAR+TCR系で損なわれていないことを示している。しかしながら、CHO-E183ではなくCHO-L2は、CARとTCRを共発現するLCK欠損Jurkat T細胞でIL-2の産生を誘導し、LCK欠損が、TCRではなくCARの選択的トリガーのためのTCRシグナル伝達経路の再構築を可能にすることを示している。
【0138】
LCK欠損CAR-T細胞は、低レベルのPD-1を発現し、刺激後にCARのダウンレギュレーションの低下を示す
遺伝子発現の多くの変化は、TCRシグナル伝達の後に起こる。重要な変化の1つは、癌免疫療法における消耗の重要なマーカーである共阻害分子PD-1のアップレギュレーションである(図6A)。どちらの種類のCAR-T細胞でも、刺激前の細胞表面にはPD-1は発現していなかった。それにもかかわらず、異なるCAR-T細胞の刺激後は、その違いは明らかであった。図6Aに見られるように、LCKで形質導入されたCAR-Jcamは、LCK欠損CAR-Jcamよりも強くPD-1をアップレギュレートした。加えて、PD-1の発現は、CAR-Jurkat細胞よりもCAR-Jurkat LCK KOで低かった。しかしながら、TCR-Jurkatは、これらの群の中で最大量のPD-1を発現した。PD-1のアップレギュレーションにおけるこれらの違いは、数回の刺激が行われると、さらに一層顕著であった(図6B)。CAR-Jcam+LCKは、3回の刺激後にCAR-Jcamよりもほぼ3倍高くPD-1をアップレギュレートした。同じアップレギュレーション傾向がCAR-Jurkat細胞試料で観察された。CAR-Jurkat LCK KOにおけるPD-1の発現は、群の中で最も低く、TCR-JurkatはPD-1を最も強くアップレギュレートした。さらに、以前の研究で示されているように、CAR又はTCRは、LCKの存在下での抗原刺激後にダウンレギュレートされた。CARは、Jcam又はJurkat LCK KOなどのLCK欠損細胞において、抗原依存性の受容体のダウンレギュレーションの低下を示した(図6A図6D)。刺激前のCAR又はTCRの量と比較して、両方ともCAR-Jurkat及びTCR-Jurkatでダウンレギュレートされ、TCRは劇的にダウンレギュレートされた。しかしながら、CARの量は、CAR-Jcam又はCAR-Jurkat LCK KOに見られるように、LCKが存在しない限り、抗原刺激後により安定していた(図12)。このPD-1のアップレギュレーション及びCARのダウンレギュレーションの低下は、LCK欠損CAR-Tが、PD-1を介した抑制性シグナル伝達に抵抗性であり得、LCK十分CAR-Tと比較して「消耗」しにくいことを示唆した。
【0139】
実施例3
方法
CD8 T細胞の活性化及び培養
血液試料を、ボランティアから採取し、ナイーブCD8 T細胞を、RosetteSep(商標)ヒトCD8 T細胞濃縮カクテル(Stemcell)及びFicoll(GE Healthcare Life Sciences)勾配遠心分離を使用して単離した。次いで、ナイーブCD8 T細胞を、100U/ml IL-2(R&D System)を含む4%のヒト血小板溶解物(Ultra-GRO(商標)-Advanced, AventaCell)が添加されたBiotarget培地(Biological Industry)で抗CD3/CD28ビーズ(ThermoFisher)によって刺激して、成熟細胞毒性CD8 T細胞を産生させた。48時間の活性化後、成熟CD8 T細胞を、100U/ml IL-2、10ng/ml IL-15、及び10ng/ml IL-7(R&D System)を含む培地で培養した。培地を2日ごとに交換し、細胞を1ml当たり10個で再プレーティングした。T細胞を、ドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)であるフィーダー細胞によって再刺激した。PBMCを、勾配遠心分離によって血液から新たに単離し、30Gyで照射した。PBMCとT細胞を2:1の比率で同じ培地に再懸濁した。最終濃度100U/mlのIL-2、最終濃度10ng/mlのIL-7、最終濃度10ng/mlのIL-15を培養物に添加した。インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)(Sigma-Aldrich)由来のレクチンを1.5μg/mlの濃度で培養物に添加した。NUS IRBによって承認されたプロトコルの下で、血液を健康なボランティアから採取した。インフォームドコンセントをすべてのドナーから得た。
【0140】
CRISPR-Cas9遺伝子編集
LCKを標的とした相同組換え修復(HDR)は既に説明されている。LCK gRNA2、GCCGGGAAAAGTGATTCGAG(配列番号10)を選択して化学的に改変した。簡単に説明すると、完全なRNA配列は
【化3】

であった。アスタリスク()は、2’-O-メチル3’ホスホロチオエートを表す。Cas9-NLSタンパク質(New England Biology)とLCK gRNA2を1:2の分子比で、37℃で30分間インキュベートして、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成した。二本鎖DNAドナーを、lkbの相同アームが両側のCAR構築物に隣接するようにデザインした。120pmolのRNPと2μgのdsDNAを、プログラムEH115を介してAmaxa 4Dエレクトロポレーションシステム(Lonza)によって100万個の活性化CD8 T細胞にエレクトロポレーションした。
【0141】
細胞毒性アッセイ
ウェル当たり40,000個のDaudi又はRaji細胞をU底96ウェルプレートに播種し、続いてウェル当たり0.1:1~10:1のエフェクターと標的(E:T)の比率でCAR-T又はLCK遺伝子座CAR-T細胞を4,000~400,000個追加した。細胞混合物を37℃、5%COで18時間インキュベートした。次いで、上清を回収し、CytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒性アッセイ(Promega)を使用して、死細胞からのLDHの放出を検出した。細胞ペレットを懸濁し、抗体コンジュゲートで染色して、標的細胞に接触した後のCD62L、PD-1、TIM-3、及びLAG-3の発現を検出した。
【0142】
マウスモデル及びインビボ分析
6~8週齢のNOD/MrkBomT ac-Prkdcscid雌マウス(Taconic)を、NUS Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認されたプロトコルの下で使用した。CAR-T細胞を3日前に再刺激し、フィーダー細胞によって増殖させる。Raji細胞を、マウス1匹当たり400万個の尾静脈注射によって投与した。Raji細胞は、非常に均一な腫瘍負荷を生成し、治療前に除外されたマウスはなかった。5×10、2.5×10、又は1×10の増殖CAR-T細胞を、Raji細胞投与後4日目に尾静脈から投与した。マウスを絶えず監視し、麻痺が観察されたときに安楽死させた。インビボ投与後のCAR-T細胞表現型検査のために、各マウスの骨髄を11日目及び18日目に抽出した。メモリー及び消耗表面マーカーを検出し、FACSによって分析した。
【0143】
フローサイトメトリー及び細胞ソーティング
フローサイトメトリー実験を、BD LSR Fortessa X-20(Becton Dickinson)で行った。細胞ソーティングを、Flow Cytometry Laboratory, Immunology Programme, National University of SingaporeによってMo-Flo XDP(Beckman Coulter, Inc.)又はSY3200(Sony Biotechnology Inc.)のいずれかで行った。データ分析をFlowJoで行った。
【0144】
統計情報及びデータ分析
GraphPad Prism 7を使用して、列データ又は曲線データそれぞれに対して両側スチューデントのt検定又は双方向ANOVA分析を行った。データは試験の前提条件を満たしている。分散は、比較されたグループ間で類似している。
【0145】
結果
次いで、本発明者らは、初代ヒトCD8 T細胞におけるJurkat細胞からの発見の要約を試みた。この目的のために、CRISPR/Cas9系を利用して相同組換え修復(HDR)を実行し、CD28-CAR構築物をLCK遺伝子座に誘導してLCKの196番目のアミノ酸の位置に挿入した(図13A)。HDR後にCARCD8 T細胞の明確な集団を検出した(図14A)。次いで、CARCD8 T細胞をソートしてLCKタンパク質の発現を測定した。図14Bに示されているように、LCKの発現は、従来のCAR-T細胞と比較して劇的に減少した。CD28-CARのN末端にP2A切断可能配列が追加されたため、切断されたLCKも観察された(図14B)。この切断LCKは、アミノ酸196がLCKのSH2ドメインの端部に位置し、触媒ドメインの一部ではないことを考えると、機能不全変異体である。挿入部位での遺伝子型決定により、CAR構築物がLCK遺伝子座に挿入されたことも確認された(図14C)。2つのCD19発現細胞株、DaudiとRajiを使用して、T細胞の細胞毒性を試験した。従来のCAR-T及びLCK遺伝子座CAR-Tはどちらも、同程度の細胞毒性を有していたが、Daudi細胞よりもRaji細胞に対して低い細胞毒性も示した。Raji細胞に対するこの低い細胞毒性は、T細胞の死滅に対するRaji細胞の耐性メカニズムによって引き起こされ得る(図13B)。対照CD8 T細胞はまた、高いE:T比でこれらの癌細胞に対してある程度の細胞毒性を示した。LCK遺伝子座CAR-T細胞は、CD19陰性Jurkat細胞ではなく、CD19発現Daudi細胞のみを死滅させ得るため、LCK遺伝子座CAR-T細胞の特異性は、図14Dに示されているように保持されていた。従来のCAR-TとLCK遺伝子座CAR-Tとの違いを、消耗分子、PD-1、TIM-3、LAG-3、及びメモリーマーカーCD62Lの免疫型決定によって試験した。休止状態では、従来のCAR-T細胞は、LCK遺伝子座CAR-T細胞よりもTIM-3の発現が高く(25%)、CD62Lの発現が低く(49%)、LCK遺伝子座CAR-T細胞は、TIM-3の発現が14%であり、CD62Lの発現が85%である(図13C)。異なるE:T比で標的細胞に接触した後、消耗分子及びメモリー分子の発現が変化した(図14E)。低いE:T比では、消耗分子のより高い発現とより低いCD62Lの発現が観察された。レーダーチャートを使用して表面マーカーの発現を要約して異なる群で比較すると、これら2つのCAR-T細胞の違いがより明らかになった(図13D)。従来のCAR-T細胞は、E:Tが減少するにつれて、より多くの消耗分子を発現し、CD62Lの発現を低下させる傾向があった。しかしながら、LCK遺伝子座CAR-T細胞は、より持続性があり、PD-1、TIM-3、及びLAG-3の発現は高いがCD62Lの発現は低い従来のCAR-T細胞ほど消耗マーカーをアップレギュレートする傾向はなかった。
【0146】
LCK遺伝子座CAR-T細胞のより持続的な表現型、即ちより多くのメモリー表現型及びより少ない消耗表現型は、それらが従来のCAR-T細胞よりも優れたインビボ抗癌有効性を示し得ることを示唆した。次いで、従来のCAR-T細胞及びLCK遺伝子座CAR-T細胞を、マウスモデルでRaji細胞にタックルするように暴露すると、Rajiは、インビトロでDaudi細胞よりもCAR-T細胞毒性に耐性がある(図13B)。これはまた、それらがインビボでより耐性がある可能性があることを示唆した。NOD/SCID免疫不全マウス系統を使用して、CAR-T細胞を異なる用量で静脈内投与し、4日後にRaji細胞を投与した(図13E)。本発明者らの予想と一致して、従来のCAR-T細胞は、CD8 T細胞と比較してインビボでの有効性の有意な改善を示さなかった。しかしながら、LCK遺伝子座CAR-T細胞は、100万~500万個の細胞の3つの用量すべてで有意に増強されたインビボ性能を示した(図13F)。実験の終了時に、500万個のLCK遺伝子座CAR-T細胞で処置された群の1匹のマウスがまだ生存していた。このマウスから抽出された複数の臓器内に癌細胞は発見されなかった(図14F)。Raji細胞及びT細胞は、Raji細胞注射後11日目と18日目にマウスの骨髄からさらに分析して、それらの数、並びにT細胞のメモリー及び消耗状態を確認した。11日目と18日目の従来のCAR-T細胞からのT細胞数及びRaji細胞数とLCK遺伝子座CAR-T細胞の群からのT細胞数及びRaji細胞数は有意差を示さなかった(図14G)。しかしながら、図13Gに示されているように、LCK遺伝子座CAR-T細胞は、従来のCAR-T細胞と比較して、11日目と18日目のメモリーマーカーCD45ROの両方で有意に高い発現を示した。加えて、従来のCAR-T細胞は、LCK遺伝子座CAR-T細胞よりも消耗マーカーPD-1、TIM-3、及びLAG3をアップレギュレートした。これは、これらの消耗マーカーの3つすべてを共発現している細胞で特に顕著であった(図13H)。従来のCAR-T細胞と比較して、LCK遺伝子座CAR-T細胞ではメモリー表現型がより多く、消耗表現型がより少ないため、それらの増強されたインビボ有効性を裏付けた。
図1A-C】
図1D-E】
図2A-B】
図2C-E】
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A-C】
図4D-F】
図5A
図5B-C】
図5D
図6A
図6B-D】
図7A-B】
図7C-D】
図8A-B】
図8C
図9A-C】
図9D-E】
図9F
図10A
図10B
図11A-B】
図11C
図12
図13A-B】
図13C
図13D
図13E-F】
図13G-H】
図14A-B】
図14C-D】
図14E
図14F
図14G
【配列表】
2022522129000001.app
【国際調査報告】