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特表2022-522167ミラーを製造する方法ならびに反射層、接合層、および構造層を含むミラー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-14
(54)【発明の名称】ミラーを製造する方法ならびに反射層、接合層、および構造層を含むミラー
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/06 20060101AFI20220407BHJP
【FI】
C25D1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549909
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(85)【翻訳文提出日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2020000050
(87)【国際公開番号】W WO2020173601
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】19425008.0
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521375807
【氏名又は名称】ヴァレンズエラ テクノロジーズ エスアールエル
【氏名又は名称原語表記】VALENZUELA TECHNOLOGIES SRL
【住所又は居所原語表記】VALENZUELA TECHNOLOGIES SRL,Via Carlo Cattaneo,62,23900 Lecco (LC) (IT)
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンズエラ,アーノルド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンズエラ,カルロス アルベルト
(57)【要約】
本発明は、ミラーを製造する方法に関する。本発明の目的は、非常に薄く、機械的にも熱的にも安定した、優れた表面特性を持つミラー、およびそのようなミラーの製造プロセスを提案することである。本発明によるミラーを製造する方法は、(a)ミラーの負の形状を有するマンドレルを提供するステップと、(b)マンドレル表面に反射材の反射層を適用するステップと、(c)反射材に接合材の接合層を適用するステップと、(d)接合層に構造材の構造層を適用するステップと、(e)マンドレルからミラーを解放するステップと、を含む。特に、反射材は、金、イリジウム、ロジウムまたはニッケルであり得、接合材は、ニッケル、ニッケルコバルトまたはニッケル合金であり得、構造材は、チタンまたはチタン合金であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラーの製造方法であって、
(a)前記ミラーの負の形状を有するマンドレルを提供するステップと、
(b)前記マンドレル表面に反射材の反射層を適用するステップと、
(c)前記反射材に接合材の接合層を適用するステップと、
(d)前記接合層に構造材の構造層を適用するステップと、
(e)前記マンドレルから前記ミラーを解放するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記マンドレル表面を高度に研磨し、表面粗さを10オングストロームRMS以下、特に4オングストロームRMS以下にすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反射材は、金、イリジウム、ロジウムおよびニッケルからなる群から選択され、0.25μmの厚さまで適用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記接合材は、ニッケル、ニッケルコバルトまたはニッケル合金であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記接合材は、電着法により適用されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記接合層を少なくとも0.2μm、好ましくは0.5μm~3μmの厚さで適用することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記接合層の堆積速度が1.5~180μm/h、好ましくは25μm/h以下、特に10μm/h以下であることを特徴とする、請求項5または5および6に記載の方法。
【請求項8】
前記接合層の堆積プロセス中に前記堆積速度が増加することを特徴とする、請求項5または請求項5および請求項6もしくは7に記載の方法。
【請求項9】
前記接合層の前記堆積プロセスの終了時に前記堆積速度が低下することを特徴とする、請求項5または請求項5および請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記構造材は、チタンおよび/またはチタン合金であり、好ましくは10μm~2mmの厚さであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記構造材は、電着技術または3D印刷法によって適用されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記構造層は、パルス電着法、特に900Hz未満のパルス周波数および/または少なくとも8μm/h、好ましくは80μm/h超の堆積速度で適用されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
反射層と、
接合層と、
構造層と、を含むミラー。
【請求項14】
前記反射層は、金、イリジウム、ロジウムもしくはニッケル層であり、ならびに/または前記接合層は、ニッケル層、ニッケルコバルト層もしくはニッケル合金層であり、ならびに/または前記構造層は、チタンおよび/もしくはチタン合金層であることを特徴とする、請求項13に記載のミラー。
【請求項15】
前記構造層の最小厚さは、10μm、好ましくは2mmまでであることを特徴とする、請求項13または14に記載のミラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーを製造する方法ならびに反射層、接合層、および構造層を含むミラーに関する。また、そのようなミラーの使い方にも関する。
【0002】
特に望遠鏡用の高品質なミラーの製造は困難を極める。表面品質が優れていなければならず、ミラーを支えるシェルは機械的にも熱的にも安定していなければならない。
【0003】
宇宙用ミラーには、ロケット打ち上げ時の大きな機械的ストレスに耐えることが求められる。しかし、ロケットの限られた貨物容量に関しては、重量および容積の制限がある。
【0004】
さらに、ミラーは大きな温度差にさらされる。ミラーシェルが厚いことによる光学的な不都合のほかに、温度変化による熱応力でミラーが一時的に変形し、光学性能が低下する。
【0005】
このようなミラーは、ネスト型設計の望遠鏡および斜入射下の望遠鏡に使用されることが多い。そのため、重量の制限のほかに、ミラーシェルの厚さによっても望遠鏡の有効口径がかなり小さくなってしまう。現在の技術で実現可能なネスト型斜入射望遠鏡の全視野における角度分解能は、約10arcsecHEW(Half-Energy Width)である。しかし、特定の用途においては、全視野における角度分解能が10arcsecHEWよりも優れていることが望ましい。
【0006】
現在のX線望遠鏡のミラーシステムは、ニッケルシェルを複製して作られる。これらのミラーは、それらの高密度の材料を使用しているため、現在では打ち上げロケットの質量制限に達する。
【0007】
上述のような用途のミラーは、マンドレルに金などの反射層を堆積し、続いてニッケルなどのシェル層を堆積する複製プロセスで製造される。上述の用途に適した物理的特性を持つニッケル層の典型的な厚さは、シェルのサイズにもよるが、0.2~1.2mm程度である。月面電波望遠鏡では、反射層としてニッケル層を使用され得る。
【0008】
反射層は、マンドレル上で反射材を蒸発させることにより、真空条件下で堆積される。マンドレルは適切な表面形状を持ち、数回のサイクルで10オングストロームRMS超の表面粗さになるようにスーパーポリッシュされる。
【0009】
優れた光学的品質を達成し、最終的なミラーをマンドレルから分離するために、例えばSPIE Vol.10565 1056558-4に記載されているプロセスが使用され得る。
【0010】
そして金メッキされたマンドレルは、スルファミン酸ニッケルを用いた電鋳槽で十分な厚さのニッケル層でコーティングされる。完成したミラーは、液体窒素でマンドレルを冷却することで、マンドレルから分離される。材料の熱膨張率の違いと、マンドレル表面および電解ニッケルの間の金層の接着力の違いとにより、マンドレルからミラーおよびそのシェルを分離することができる。
【0011】
これで反射層がシェル表面に形成される。反射層の背後にあるニッケル表面の光学的品質は、マンドレル表面に堆積された反射面の表面品質を維持するのに十分なものである。
【0012】
ニッケルシェルは、必要な機械的安定性および表面品質の両方を提供するが、シェルは比較的厚くて重い。このような支持体を持つミラーは、例えばEP 1 085 528 A2に開示されており、ニッケルの支持体が反射層に接着または電鋳されている。
【0013】
US 8,735,844 B1には、ニッケル/コバルト(Ni/Co)製のシェルで支持されたミラーが記載されている。この文献には、比較的薄く、したがって弱いシェルを変形させる不十分なホルダーによって、このようなミラーの光学特性が劣化するという問題が記載されている。
【0014】
US 7,874,060 B2では、安定性を提供するために、ミラーの裏面にプラズマ溶射された金属コーティングされた中空または多孔質セラミック粒子のバッキング層を使用することを教示する。この層は、多孔質バッキング層を周辺環境から密封するためのカバー層で覆われていなければならない。中空粒子または多孔質粒子を使用すると、ミラーが軽くなり得るが、層が比較的厚いため、例えばネスト型設計ミラーの光学的品質、特にそれらの開口部の大幅な改善が達成され得ない。
【0015】
US 6,278,764 B1には、スパッタリング堆積された多層膜とそれに続くスパッタリング堆積された銅層からなる第1の支持層で支持された反射層を有するミラーが記載されている。多層膜は、反射層の光学的品質を維持し、銅層は、例えば、ニッケル、銅、ステンレス鋼、またはそれらの合金からなる、さらなる機械的支持外層の電着を可能にすべきものである。また、このようなミラーは、銅層とニッケル層のために、比較的厚くて重い。
【0016】
例えば、斜入射X線望遠鏡または正入射月面電波望遠鏡のように、ロケットの質量および容積の範囲内でより大きな集光面積を確保するためには、宇宙および惑星をベースにしたミッションのために、軽量で非常に薄いミラー材料ならびに質量単位で最も大きな斜入射および反射ミラーの新世代の必要性が作り出されている。
【0017】
さらに、月面望遠鏡は、通常の入射電波望遠鏡(ミリ波またはサブミリ波望遠鏡)を月面に設置して観測するものであり得るため、重量だけでなくロケット内の必要容積にも制限がある。月面望遠鏡では、月面での運用に必要な支持体を提供するために、ハニカム・サンドイッチ構造を使用し得る。月の重力は地球の1/6程度であるが、それでも望遠鏡の質量を月で支えなければならない。これは、十分な強度を持つサンドイッチ構造にしなければならず、そのため支持構造に必要な容積が大きくなってしまうことを意味する。
【0018】
そのため、このような月面望遠鏡では、支持構造を弱めることなく、その重量を増加させることなく、かつ反射層の光学的品質を劣化させることなく、支持するサンドイッチ構造体の容積を削減する必要がある。
【発明の概要】
【0019】
本発明の目的は、非常に薄く、機械的にも熱的にも安定した、優れた表面特性を持つミラー、およびそのようなミラーの製造プロセスを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の目的は、
(a)ミラーの負の形状を有するマンドレルを提供するステップと、
(b)マンドレル表面に反射材の反射層を適用するステップと、
(c)反射材に接合材の接合層を適用するステップと、
(d)接合層に構造材の構造層を適用するステップと、
(e)マンドレルからミラーを解放するステップと、を含む、ミラーを製造する方法で満たされる。
【0021】
本発明による製造プロセスは、研磨されたマスターからの複製プロセスに基づく。マンドレルは、ネガ型のミラー、好ましくは非常に高い表面品質、10オングストロームRMS以下、好ましくは4オングストロームRMS以下の粗さを持つように高度に研磨されたものでなければならない。マンドレルの表面品質は、反射層の表面品質を規定する。
【0022】
次に、反射材の反射層は、好ましくは一般的に知られている真空蒸着技術によって、マンドレル表面に適用される。反射層は、好ましくは金、イリジウム、またはロジウムから作られる。反射層はまた、例えば、月面電波望遠鏡用にニッケルから作られ得る、また、反射層は多層コーティングであり得る。
【0023】
反射層は、特に0.25μmの厚さまで適用され得る。
【0024】
選択的に、マンドレルに金の薄層をコーティングすることで、ミラーが完成した後にマンドレルからそれが簡単に分離できるようにし、同時に光学的コーティングを提供する。このような既知のプロセスは、例えば、SPIE Vol.10565 1056558-4に記載されている。
【0025】
次のステップでは、反射材に接合材の接合層が適用される。特に、接合材は、ニッケル、ニッケルコバルトまたはニッケル合金であり得る。材料は、電着技術によって適用され得る。
【0026】
前述の材料は、現在、電鋳技術を用いて製造された従来のミラーに使用されている。この材料は、反射層の裏面に適用することで、反射層の高い表面品質を維持できることがわかっている。しかし、この材料は、反射層が比較的厚い場合にしか十分な機械的安定性を提供しないので、この技術で製造されたミラーは重く、このようなミラーを使用した望遠鏡の開口部、特に斜入射下の開口部は小さくなる。
【0027】
本発明によれば、接合層は好ましくは比較的薄い層で、特に0.5μm~3μmの間の厚さで、特に0.2μm以上の厚さで適用される。このような接合層は、キャリアとして、放出された複製された反射層の優れた光学的表面品質を維持するのに十分である。しかし、薄い接合層では、安定したミラーを実現するための十分な機械的安定性を提供しないだろう。
【0028】
特にニッケルからなる電鋳接合層の望ましい厚さは、複製されたマンドレルから反射層への光学的品質の保存性が、分離後もその粗さ品質とその表面形状品質を維持することを保証しなければならないことを考慮して決定される。接合層は、ミラーの総質量を大幅に増加させるため、その厚さを1μm~3μmの間に維持することが推奨される。
【0029】
反射層の粗さの品質と表面形状の品質、すなわち光学的表面品質の維持を保証する接合層の特性を得るために、接合層は、好ましくは1.5~180μm/h、好ましくは25μm/h未満、特に10μm/h未満の堆積速度で反射層に堆積され得る。
【0030】
好ましくは、接合層の必要な特性を得るために、反射層の光学的品質を低下させないプロセスの最初に非常に小さなNi結晶粒を保証するために、非常に遅い堆積速度、例えば1.5μm/hでニッケルを最初に堆積し得る。堆積速度は、接合層の堆積プロセス中に増大し得る。プロセスの後半では、プロセスを加速するために、より速い堆積速度、例えば25μm/hを使用してもよいが、その場合にはより大きなNi結晶粒が生じる。
【0031】
反射層の光学的品質に対する要求がそれほど厳しくない場合、つまり接合層の表面品質が十分良ければ、最初から25μm/hのようなより速い堆積速度を使用してもよい。
【0032】
接合層の堆積プロセスの最後には、堆積速度を低下させ得、より遅い速度を使用して、チタン構造との相互作用を改善するための小さなNi結晶粒を提供してもよい。言い換えると、Niの堆積速度を制御することで、接合層の粒度を制御し、それが反射層の光学的品質をいかに正確に保つかに直接影響を与える。
【0033】
反射層の表面粗さおよび表面形状の品質によって規定されるその光学的品質は、斜入射望遠鏡の視野の角度分解能だけでなく、ネスト型斜入射望遠鏡で達成し得る全視野の角度分解能をも決定する。それは上述のようにNi堆積速度を制御することで、本発明により、斜入射望遠鏡の視野の角度分解能およびネスト型斜入射望遠鏡の視野全体の角度分解能を、10arcsecよりもはるかに優れた、特に5arcsecよりも優れた、好ましくは3arcsecのHEW(Half-Energy Width)を達成することができる。
【0034】
接合層は、複製された反射層の全体的な光学特性、つまり、粗さおよび表面形状の品質を維持するだけでなく、隣接する構造層の電鋳を可能にするためのカソードとしても機能し得る。
【0035】
機械的に安定したミラーを実現するために、本発明は、構造料の構造層を接合層に適用することを提案する。構造層は、比較的薄い層で高い機械的安定性を提供し、接合層に付着する任意の材料からなり得る。構造材は、特に、チタンまたはチタン合金であってもよい。そのような材料は、好ましくは電着技術によって、接合層の裏面に堆積させてもよい。あるいは、そのような材料は、3D印刷法またはその他の堆積法で堆積されてもよい。
【0036】
チタンまたはチタン合金のような構造材は、優れた物理的特性を提供し、すでに薄い層は非常に高い機械的安定性を提供する。チタンまたはチタン合金の構造層は、好ましくは、少なくとも10μm、2mmまでの層厚で適用され得る。
【0037】
構造層の厚さは、ミラーの用途と、複製された反射層の光学的品質を保証するために必要な機械的安定性に応じて選択され得る。月面電波望遠鏡の場合、支持構造としてのハニカム・サンドイッチ構造は、本発明のはるかに薄い構造層で置き換えられ得る。
【0038】
反射層と構造層との間の接合層は、構造層と反射層との間の良好な接合を提供する一方で、構造層の表面特性がミラー表面の品質を妨げ得ない。
【0039】
構造層は、連続電着もしくはパルス電着により、またはそれらの組み合わせにより接合層に堆積され得る。例えば、構造層は、第1ステップではパルス電着により、第2ステップでは連続電着により適用され得る。
【0040】
複製された反射層の光学的品質を維持することにおいて接合層をさらに支持するために、プロセスの初めに、構造層は、接合層を介して放出される複製された反射層の光学的品質を低下させないであろう非常に小さな結晶粒径を保証するために、パルス電着によって接合層に堆積され得る。電着プロセスの後半で、構造的な安定性を高める場合には、構造層を連続電着で堆積してもよく、これにより結晶粒径が大きくなる。また、連続電着を用いることで、プロセスが加速され、そして製造コストの削減になる。
【0041】
上記のように、プロセスの最初にパルス電着を適用することで、本発明により、斜入射望遠鏡の視野の角度分解能およびネスト型斜入射望遠鏡の視野全体の角度分解能が、10arcsecよりもはるかに優れた、特に5arcsecよりも優れた、好ましくは3arcsecのHEWの値を達成するようにさらに改善し得る。
【0042】
構造層は、チタン合金塩、特にチタン酸カリウムを硫酸溶液に溶解した酸性溶液の電解浴中で適用され得る。
【0043】
構造層を適用するために使用される電着プロセスでは、チタンおよび/またはチタン合金からなるアノードを使用してもよい。アノードには、チタンの酸化を促進する触媒として働く白金が含まれていてもよい。
【0044】
ミラーに構造層を適用し、プロセスが完了すると、マスターとシェルの熱伝導係数の違いにより、ミラーを熱的にマンドレルから離し得る。マンドレル表面と電解ニッケルとの間の金層の接着力の違いにより、元のマンドレルの外面できれいな界面分離が行われ、これによりマスターの光学的表面品質がミラーに実質的に再現される。
【0045】
ミラーをマンドレルから離す際には、ミラー表面に例えば、金コーティングまたは多層コーティングなどの追加コーティングを適用し得る。
【0046】
本発明の目的は、反射層、接合層、および構造層を含むミラーでも達成される。従来のミラーは、反射層の裏面に直接適用される構造層のみを含む。このような場合における問題は、特定の材料しか反射層に直接接合できず、多くの材料の表面特性がミラー表面の必要な光学的品質を阻害することである。チタンおよび/またはチタン合金のように、機械的にも熱的にも特定の安定した材料は、それらが反射材と十分に接着しないか、それらの表面品質が十分でないために、反射層に直接適用できないことが多い。
【0047】
本発明は、反射層と構造層との間に適用される追加の接合層によってこの問題を解決する。そのため、構造層の材料としては、例えばチタンまたはチタン合金が使用され得る。このような材料は安定性が高いため、非常に薄くて軽いミラーを製造することができる。このような材料は、例えば金、イリジウムまたはロジウムのような反射層に一般的に使用される材料に直接接着させることは容易ではなかろう。さらに、構造層に使用される材料の特性により、構造層の特性は、複製された反射層で達成され得る高い光学的表面品質、特に10オングストロームRMS未満、特に4オングストロームRMS未満の粗さを維持するのに十分ではない。
【0048】
本発明によれば、従来のミラーで構造要素を形成している材料、例えばニッケル、ニッケルコバルトまたはニッケル合金は、3μm未満の比較的薄い接合層を形成し得る。接合層は、反射層を支持することで、複製された反射層の粗さ品質と表面形状品質、すなわち光学的表面品質の維持を保証し、また、支持構造が例えばニッケルからなる従来の構造よりもはるかに軽量となり得るように、より優れた機械的特性を有するチタンなどの構造材に適切に接着するための支持体として機能する。接合層は、上記のように3μmよりも厚くてもよいと理解されるが、薄い層でなければ、本発明の完全な利点、特に非常に軽くて薄いミラーを提供することはできない。
【0049】
本発明によるミラーは、望遠鏡のアセンブリに有利に使用することができ、特に、斜入射ミラーを用いたネスト型設計、または正入射ミラーを用いた望遠鏡に使用することができる。本発明により、例えば斜入射望遠鏡の視野の角度分解能および例えばネスト型斜入射望遠鏡の視野全体の角度分解能が、10arcsecよりもはるかに優れた、特に5arcsecよりも優れた、好ましくは3arcsecのHEWの値を達成するように改善し得る。本発明により、さらに正入射月面電波望遠鏡の容積要件を削減し得る。
【0050】
以下のセクションで、本発明の実施形態について説明する。値の範囲は、好ましい範囲を例示するものとするが、決して本発明を所定の範囲に限定するものではない。
【0051】
本発明に係るミラーは、以下の方法で製造され得る。
【0052】
製造されるネガ型のミラーを持ち、4オングストロームRMS未満の表面粗さを持つマンドレルが提供される。
【0053】
マンドレル表面に0.25μmの金の反射層が真空蒸着で適用される。あるいは、イリジウムまたはロジウムが使用され得る。
【0054】
反射層に電着で0.5μmのニッケルの接合層が適用される。あるいは、ニッケルコバルトまたはニッケル合金が用いられ得る。この層は最低でも0.2μmの厚さが必要で、3μmまでの厚さでもよい。電着プロセスの堆積速度は10μm/hに調整される。一般的には、1.5~180μm/hの堆積速度が使用され得る。
【0055】
接合層の粒度を制御するために、電着プロセス中でNi堆積速度が制御され得る。反射層における接合層の粒度は、複製された反射層の光学的品質をどれだけ正確に保つことができるかに直接影響する。したがって、反射層の光学的品質を低下させないであろう小さなNi結晶粒を保証するために、プロセスの最初に小さい堆積速度、例えば1.5μm/hが使用され得る。プロセスの後半では、プロセスを加速するために、より大きな堆積速度、例えば25μm/hを使用してもよいが、その場合にはより大きなNi結晶粒が生じる。
【0056】
次のステップでは、2mmのチタンの構造層が電着によって接合層に適用される。あるいは、チタン合金が使用され得る。ミラーの将来の用途と必要な安定性とに応じて、層の厚さは10μmから始めてもよい。
【0057】
構造層は、チタン合金塩、特にチタン酸カリウムを硫酸溶液に溶解した酸性溶液の電解浴中で適用される。
【0058】
構造層の電着プロセスでは、チタン合金からなるアノードを用いる。あるいは、アノードは、さらに、チタンを含み得るまたは完全にチタンからなり得る。さらに、アノードには、チタンの酸化を促進する触媒として働く白金が含まれていてもよい。
【0059】
構造層の電着プロセスで印加される電圧は、1V~4Vであり、および/または、電解槽の温度は、80℃~90℃である。
【0060】
一実施形態では、構造層は、少なくとも40μm/hの堆積速度で、連続的な堆積によって適用される。堆積速度は、材料、所望の厚さ、およびミラーの将来の使用に応じて、100μm/h以上に上げてもよい。このような直接連続堆積により、5000~50000nmオーダーの大きな粒径を持つTi金属合金の結晶堆積を実現する。
【0061】
別の実施形態では、構造層はパルス電着によって適用され、パルス周波数は900Hz未満である。パルス電流は「ON」の時間と「OFF」の時間を含み、電鋳表面にわたる密度とその厚さの均一性の向上が得られる。また、各パルスの再核化により結晶粒数が増加し、結晶粒の強化とナノ構造の構築が可能となる。
【0062】
この場合の堆積速度は少なくとも8μm/hであることがよく、80μm/h以上にまで上げてもよい。電流密度は1.2~1.7A/mである。パルスON時間は0.2~2.0msであり、パルスOFF時間は0.5~2.0msであり、デューティーサイクルは10%~50%の範囲である。このようなパルス電着により、直接連続して堆積した場合に比べて、粒径の小さいナノ結晶堆積のTi金属合金が得られる。
【0063】
第3実施形態では、構造層は、第1ステップではパルス電着により、第2ステップでは連続電着により適用される。上記のパラメータは、それぞれの値に対して使用可能な範囲を示す。
【0064】
すべての層が完成したら、完成したミラーをマンドレルから離し得る。これは、マンドレルのコアを冷却して、コアの熱収縮によって反射層がミラーの接合層および構造層と一緒にマンドレルから外れるようにして行われる。
【国際調査報告】