IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タイジェニックス、ソシエダッド、アノニマ、ウニペルソナルの特許一覧

特表2022-522187同種異系療法のための改良された幹細胞集団
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-14
(54)【発明の名称】同種異系療法のための改良された幹細胞集団
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20220407BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220407BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220407BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220407BHJP
   C07K 14/57 20060101ALN20220407BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P1/04
A61P9/00
A61P15/00
A61P17/02
A61P19/00
A61P19/02
A61P19/08
A61P21/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P29/00
A61P1/18
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61K35/28
C07K14/57
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021550077
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2020055017
(87)【国際公開番号】W WO2020174002
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】19382141.0
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507421463
【氏名又は名称】タイジェニックス、ソシエダッド、アノニマ、ウニペルソナル
【氏名又は名称原語表記】TIGENIX S.A.U.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】オルガ、デ、ラ、ローサ、モラレス
(72)【発明者】
【氏名】アルバロ、アビバル-バルデラス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC12
4B065AC20
4B065BA24
4B065BA25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA05
4C087ZA01
4C087ZA02
4C087ZA33
4C087ZA36
4C087ZA66
4C087ZA68
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA30
4H045DA18
(57)【要約】
本発明は、特に、前感作された患者の治療および再治療のための、同種異系幹細胞療法のための改良された幹細胞集団に関する。さらに、前記幹細胞集団を得る方法が提供される。さらに、本発明は、前記幹細胞集団を含んでなる医薬組成物および同種異系幹細胞療法におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による患者の再治療のための、同種異系療法に好適な幹細胞(SC)集団を選択するin vitro方法であって、以下の工程:
a)SC集団のサンプルを、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度の存在下で培養し(試験サンプル)、かつSC集団のサンプルをIFN-γの非存在下で別に培養すること(対照サンプル);
b)HLA-クラスI抗体が試験サンプルおよび対照サンプルにおいて発現したHLA-クラスIに結合するような条件下で、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲で試験サンプルと対照サンプルとを接触させること;
c)結合したHLA-クラスI抗体が補体で飽和し、かつ補体依存性細胞傷害(CDC)が誘導されるように、補体を試験サンプルおよび対照サンプルに加えること;
d)試験サンプルおよび対照サンプルにおいて誘導された細胞溶解を測定することにより、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲に関してCDCを決定すること;
e)試験サンプルおよび対照サンプルにおける最大のCDCの50%(EC50値)を誘導するHLA-クラスI抗体の濃度を決定すること;ならびに
f1)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満;特に好ましくは、0.25未満である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること;または
f2)試験サンプルのEC50値が、HLA-クラスI抗体の少なくとも3.5ng/ml、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/mlである場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記方法が、試験サンプルおよび対照サンプルにおけるCD46発現レベルを決定する工程;ならびに対照サンプルにおけるCD46発現に対する試験サンプルにおけるCD46発現の比が、2.0超、好ましくは、2.5超、特に好ましくは、3.0超である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載のin vitro方法。
【請求項3】
前記SC集団が間葉系幹細胞(MSC)集団、好ましくは、ヒトMSC集団であり、より好ましくは、前記間葉系幹細胞集団が骨髄由来幹細胞(BM-MSC)集団であり、または前記間葉系幹細胞集団が脂肪組織由来幹細胞(ASC)集団であり、さらにより好ましくは、前記ASC集団がCD29、CD73、CD90および/もしくはCD105を発現する、請求項1または2に記載のin vitro方法。
【請求項4】
前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができる前記IFN-γ濃度が、約0.5~約30ng/ml、好ましくは、約1~約15ng/ml、より好ましくは、約2~約4ng/mlであり、好ましくは、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができる前記IFN-γ濃度が、好ましくは、48時間の期間にわたり適用される、3ng IFN-γ/mlである、請求項1~3のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【請求項5】
前記HLA-クラスI抗体が、HLA-A、HLA-Bおよび/またはHLA-Cに特異的に結合し、好ましくは、前記HLA-クラスI抗体が、HLA-A、HLA-BおよびHLA-Cに特異的に結合し、より好ましくは、前記HLA-クラスI抗体がマウスモノクローナル抗体であり、さらにより好ましくは、前記HLA-クラスI抗体が、ATCC(指定番号:HB-95)またはECACC(番号:84112003)から入手可能なハイブリドーマクローンw6/32により産生される抗体と本質的に同じHLA-Aに対する結合親和性を有し、最も好ましくは、前記抗体が、ATCC(指定番号:HB-95)またはECACC(番号:84112003)から入手可能なハイブリドーマクローンw6/32により産生される、請求項1~4のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【請求項6】
約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の2種類または3種類の異なる濃度が使用され、好ましくは、約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の4種類または5種類の異なる濃度が使用され、より好ましくは、約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の6種類または7種類の異なる濃度が使用され、さらにより好ましくは、約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の8種類または9種類の異なる濃度が使用され、最も好ましくは、前記HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲が、1ng/ml、3ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/mlおよび50ng/mlである、請求項1~5のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【請求項7】
請求項1の工程(c)において使用される補体が血清由来であり、好ましくは、前記血清が熱で処理されておらず、より好ましくは、前記血清がウサギ、ヤギまたはヒツジ由来であり、最も好ましくは、前記血清がウサギ由来である、請求項1~6のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【請求項8】
前記補体が血清由来であり、得られた血清濃度が50~83.33%(v/v)であり、好ましくは、得られた血清濃度が66.66~83.33%(v/v)である、請求項1~7のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【請求項9】
前記細胞溶解が、生細胞もしくは溶解細胞または溶解細胞から放出された放射性物質に対して選択的である化学発光色素または蛍光色素を測定することにより決定される、請求項1~8のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【請求項10】
特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による再治療のための、同種異系療法に好適なSC集団であって、以下の特性:
i)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満、特に好ましくは、0.25未満であり、ここで、前記EC50値は、請求項1に示されるように決定される;
ii)試験サンプルのEC50値が、少なくとも3.5ng/ml HLA-クラスI抗体、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/ml HLA-クラスI抗体であり、ここで、前記EC50値は、請求項1に示されるように決定される;および/または
iii)対照サンプルにおけるCD46発現に対する試験サンプルにおけるCD46発現の比が、2.0超、好ましくは、2.5超、特に好ましくは、3.0超であり、ここで、前記CD46発現は、請求項2に示されるように決定される、
のうちいずれかを有する、SC集団。
【請求項11】
前記SC集団が、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により選択され、好ましくは、前記SC集団が間葉系幹細胞(MSC)集団であり、より好ましくは、前記SC集団がBM-MSC集団またはASC集団であり、さらにより好ましくは、前記SC集団がヒトBM-MSC集団またはヒトASC集団である、請求項10に記載のSC集団。
【請求項12】
請求項10または11に記載のSC集団と場合により薬学上許容可能な担体とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項13】
医薬組成物を調製する方法であって、以下の工程:
a)請求項1~9のいずれか一項に記載の方法を行うこと;ならびに
b)少なくとも1つの薬学上許容可能な担体とともに選択されたSC集団を処方すること
を含んでなる、方法。
【請求項14】
それを必要とする患者における、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者における、同種異系幹細胞療法における使用のための請求項10または11に記載のSC集団であって、好ましくは、それを必要とする前記患者が、瘻孔、白血病、リンパ腫、神経変性疾患、脳損傷および脊髄損傷、心疾患、盲目および視力障害、膵ベータ細胞機能喪失、軟骨修復、変形性関節症、筋骨格系疾患、創傷、不妊症、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患から選択される疾患に罹患しており、より好ましくは、前記疾患が瘻孔であり、さらにより好ましくは、前記疾患が複雑肛門周囲瘻である、SC集団。
【請求項15】
それを必要とする患者に対して、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者において、請求項10または11に記載のSC集団を投与することを含んでなる同種異系幹細胞療法の方法であって、好ましくは、それを必要とする前記患者が、白血病、リンパ腫、神経変性疾患、脳損傷および脊髄損傷、心疾患、盲目および視力障害、膵ベータ細胞機能喪失、軟骨修復、変形性関節症、筋骨格系疾患、創傷、不妊症、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患から選択される疾患に罹患しており、より好ましくは、前記疾患が瘻孔であり、さらにより好ましくは、前記疾患が複雑肛門周囲瘻である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、前感作された患者の治療および再治療のための、同種異系幹細胞療法のための改良された幹細胞集団に関する。さらに、前記幹細胞集団を得る方法が提供される。さらに、本発明は、前記幹細胞集団を含んでなる医薬組成物および同種異系幹細胞療法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
研究および医学的適用における使用のための幹細胞は、胚性組織、胎児組織または成体組織に由来し得、胚性幹細胞(ESC)、臍帯幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)および異なる源からの成体幹細胞が含まれる。瘻孔、白血病、リンパ腫、神経変性疾患、脳損傷および脊髄損傷、心疾患、盲目および視力障害、膵ベータ細胞機能喪失、軟骨修復、変形性関節症、筋骨格系疾患、創傷、不妊症、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患の治療に関して、多数の臨床試験が現在進行中であるか、または成功裏に完了している。異なる種類の幹細胞に関する現在の医学的適用の概要は、Mahla RS, International Journal of Cell Biology. 2016 (7): 1-24において見出され得る。
【0003】
間葉系幹細胞(MSC)は、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞および脂肪細胞を含む種々の細胞型に分化することができる多能性間質細胞である。
【0004】
種々の病態を治療するための自己MSCおよび同種異系MSCの使用が、数件の臨床試験において評価されており(Galipeau and Sensebe, (2018), Cell Stem Cell 22, 824-833、特に表S1)、損傷した消化管、敗血症および移植片対宿主病ならびにいくつかの自己免疫疾患および炎症性疾患の治療に焦点を当てたものが含まれる。
【0005】
成体MSCは、ほぼ総ての組織において認められ得、主に血管周囲微小環境に位置している。大多数の臨床試験が骨髄MSC(BM-MSC)を使用して実施されているが、脂肪組織などの他の源からのMSCを使用する試験の数が増加している。BM-MSCおよび脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)は、類似した潜在能力および複製比を共有する。しかしながら、ASCは、より容易に回収され、培養のためのサンプル中に大量に存在する(BM組織と比較して、脂肪組織1グラム中に100倍多く存在する)という利点を有する。
【0006】
標準的な免疫学のドグマは、いかなる異組織も生物体において免疫反応を誘発するということを抱えている。この概念は、積極的な免疫抑制が同種移植片を拒絶反応から保護するために標準である実質臓器移植および造血移植において明らかに顕著である。移植片拒絶反応における抗体の役割に関する最も強力な証拠は、主に血管柄付きの臓器、例えば、腎臓および心臓の超急性拒絶反応である。これらの反応を示すレシピエントにおいて、高力価の抗ドナー抗体が示され得る。これらの抗体は、内皮細胞上のHLA抗原と結合し、その後、補体結合および多形核細胞の蓄積が生じる。次に、おそらく多形核白血球から放出された酵素の結果として、内皮損傷が生じ、次いで血小板が蓄積し、血栓が生じ、その結果、腎皮質壊死または心筋梗塞が生じる。この抗HLA抗体媒介反応を回避するために、ドナーとレシピエントとを移植拒絶反応を回避するためにできる限り密接に適合させるために、HLAタイピングが臨床臓器および組織移植において行われる。
【0007】
細胞ベースの療法の分野が発展するにつれ、種々の細胞型(間葉系幹細胞(MSC)が原型である)が、免疫系を回避および/または抑制する能力を有し得ることが明らかとなってきており、その結果、いくつかの試験において、MSCが免疫抑制を伴うことなく適用されている。
【0008】
Griffin et al., Immunol. & Cell Biol. (2012), 1-12は、アロMSCの「免疫特権」状態を支持する良好なin vivoの証拠が存在するかどうかを決定するために、実験データをレビューしている。この著者らは、炎症刺激による活性化の後または分化の後のアロMSCの免疫原性に関する公表済みの試験を検討した。この著者らは、これらの試験の大部分が、非操作IFN-γ活性化および分化アロMSCの投与後のドナー抗原に対する特異的な細胞性(T細胞)免疫応答および液性(B細胞/抗体)免疫応答を考証しており、その後の同種異系移植の急速拒絶反応が認められ、ドナー特異的寛容が明らかに促進されることを要約している。これらの試験のいくつかにおいて、移植片または投与されたMSCの急速拒絶反応(Griffin et al.の表1および2参照)が認められた。この著者らは、アロMSCの免疫特権の性質の概念を再検討すること、およびアロMSCにより誘発される抗ドナー免疫応答の臨床的意味の範囲をより正確に検討することを推奨した。したがって、抗ドナー免疫応答は、ヒトおよび動物の同種異系療法におけるアロMSCのクリアランスの改善に起因する有効性および/または有害作用に対する意味を有し得る。
【0009】
この点を考慮して、患者の同種異系療法に好適な手段であって、前記手段が、前感作された患者におけるおよび/または再治療のための同種異系療法において低減した免疫原性および/または向上した適合性を示す、手段の必要性が存在する。さらに、それらを得る方法およびそれらの医学的使用も提供されるものとする。
【発明の概要】
【0010】
本発明の根底にある技術的課題は、特許請求の範囲において定義される主題の提供により解決される。
【0011】
第1の側面によれば、特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による患者の再治療のための、同種異系療法に好適な幹細胞(SC)集団を選択するin vitro方法であって、以下の工程:
a)SC集団のサンプルを、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度の存在下で培養し(試験サンプル)、かつSC集団のサンプルをIFN-γの非存在下で別に培養すること(対照サンプル);
b)HLA-クラスI抗体が試験サンプルおよび対照サンプルにおいて発現したHLA-クラスIに結合するような条件下で、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲で試験サンプルと対照サンプルとを接触させること;
c)結合したHLA-クラスI抗体が補体で飽和し、かつ補体依存性細胞傷害(CDC)が誘導されるように、補体を試験サンプルおよび対照サンプルに加えること;
d)試験サンプルおよび対照サンプルにおいて誘導された細胞溶解を測定することにより、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲に関してCDCを決定すること;
e)最大のCDCの50%(EC50値)を誘導する試験サンプルおよび対照サンプルにおけるHLA-クラスI抗体の濃度を決定すること;ならびに
f1)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満;特に好ましくは、0.25未満である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること;または
f2)試験サンプルのEC50値が、HLA-クラスI抗体の少なくとも3.5ng/ml、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/mlである場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること
を含んでなる方法が提供される。
【0012】
第2の側面によれば、特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による再治療のための、同種異系療法に好適なSC集団であって、以下の特性:
i)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満、特に好ましくは、0.25未満であり、ここで、前記EC50値は、本発明に係る方法に示されるように決定される;
ii)試験サンプルのEC50値が、少なくとも3.5ng/ml HLA-クラスI抗体、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/ml HLA-クラスI抗体であり、ここで、前記EC50値は、本発明に係る方法に示されるように決定される;および/または
iii)対照サンプルにおけるCD46発現に対する試験サンプルにおけるCD46発現の比が、2.0超、好ましくは、2.5超、特に好ましくは、3.0超であり、ここで、前記CD46発現は、本発明の方法に示されるように決定される、
のうちいずれかを有するSC集団が提供される。
【0013】
第3の側面によれば、本発明に係るSC集団と場合により薬学上許容可能な担体とを含んでなる医薬組成物が提供される。
【0014】
第4の側面によれば、医薬組成物を調製する方法であって、以下の工程:
a)本発明に係る方法を行うこと;ならびに
b)少なくとも1つの薬学上許容可能な担体とともに選択されたSC集団を処方すること
を含んでなる方法が提供される。
【0015】
第5の側面によれば、それを必要とする患者における、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者における、同種異系幹細胞療法における本発明に係るSC集団の使用が提供される。
【0016】
第6の側面によれば、それを必要とする患者に対して、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者において、本発明に係るSC集団を投与することを含んでなる同種異系幹細胞療法の方法が提供される。
【0017】
本発明者らは、ASC集団が、クローン病および治療抵抗性の排液性複雑肛門周囲瘻に罹患している患者に投与された場合(ここで、ASC集団は同種異系非HLA適合レシピエントに病変内投与される)、アロ感作が生じるかどうかを検討した。時点0では、4例の患者のみがHLA-クラスI分子に対する抗体反応性を示したが、治療の12週後は、22例の患者がこの抗体反応性を示したことが認められた。対照群では、6例の患者(時点0)から12週後の9例の患者への反応性の増大のみが認められた。その後、異なるドナー由来のASC細胞集団を検討した。前感作された患者および抗HLAクラスI反応性を示す患者由来の血漿サンプルは、異なるドナー由来のIFN-γ誘導ASC集団におけるそれらの結合挙動およびそれらの補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導する能力において有意に異なっていたことが認められた。これらの所見に基づき、本発明者らは、異なるドナー由来のSC集団は、それらのHLA-クラスI結合、および古典的補体経路の活性化(抗体/補体複合体の形成)に起因する細胞溶解に対するそれらの感受性において有意に異なっており、ここで、in vitroにおいてアロ反応性に対してより抵抗性であるSC集団が、同種異系療法の目的では好ましい、ということをさらに決定した。このことは、特に、患者が、例えば早期妊娠によりHLA-クラスI抗原に前感作されている状況、または同じドナーSC集団が同じ患者に複数回投与される再治療の場合の状況に当てはまる。本発明者らは、アロ反応性に対する抵抗性の増大はCD46発現により媒介されること、およびASC細胞におけるCD46発現の阻害はCDC感受性の亢進と相関することをさらに決定した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、ADMIRE CD1におけるDSA産生のキャラクタリゼーションを示す。A.試験のプラセボ(下のチャート)群およびCx601(上のチャート)群の両方における指定の来院:治療前(ベースライン)、W12およびW52に関するLabscreen Mixed/Labscreen Single Antigen(LSM/LSA)(Tait et al. (2013), Transplantation 95: 19-47)の結果の分布。計5例(Cx601群)および12例(プラセボ群)の患者が試験中止となったため、LSM/LSAデータを入手できなかった。B.指定の時点においてLSMアッセイで測定された各マイクロスフェアからの平均蛍光強度の和(ΣMFI)として表された抗HLA Ab力価を示す動態曲線。各グラフにおける点線は、陽性を判定するために使用したMFI 3,000超の閾値を示す。右上のパネルにおける円は、患者92(Pat92)を示す。C.各患者とASCとの間のHLA不適合を表すグラフ。不適合の相関に関して、DSAを産生した者のパーセンテージを、ミスマッチエプレット(座位において認められる多型残基の非共有の独特の鎖)(Duquesnoy (2002) Hum. Immunol. 63: 339-352)の数(範囲)に対してプロットした。線形回帰に関して、ピアソン検定(r)を適用した。P値は、スチューデントのt検定により決定した。
図2図2は、ASCにおけるHLA発現およびin vitroでの抗HLA Ab結合を示す。A.MFI増加と、未処理(黒色の円)ASCおよびIFNγによる前活性化(白色の四角)ASCに対して指向するクラスI HLA(W6/32)AbおよびクラスII HLA(L243)Abの各濃度との間の相関を示すグラフ。B.陰性対照(アイソタイプ)、陽性対照(過免疫サンプル、HIプール)および患者92(Pat92、新規DSAを産生した未治療患者)血清を表すFcTox(フローサイトメトリーアッセイによる補体依存性細胞傷害)のプロット。左下のパネルは、アイソタイプ対照(淡灰色)、過免疫血清(暗灰色)またはPat92血清(中暗灰色)を使用したFACS結合強度定量化(IgG+細胞の総数)を示す。右下のパネルは、対照条件(ウサギ補体なし、淡灰色)、過免疫血清またはPat92血清(中暗灰色)におけるFACS細胞死定量化(7-AAD+細胞の総数)を示す。P値はスチューデントのt検定により決定し、rはピアソン検定により決定した。
図3図3は、ADMIRE CD1血漿サンプルが、in vitroでASCにおいて低い細胞傷害死を誘導することを示す。A.指定の時点(W0治療前およびW12治療後)での10例の前感作された患者(上のパネル)および17例の新規DSA+患者(下のパネル)のHLA-I結合の正規化パーセント値を示すグラフ。結合アッセイの前に、DonA(ADMIRE CD1試験において投与されたドナー)およびDonBのASCを通常の(基本)条件または3ng/mL IFNγの存在下で48時間成長させた。B.指定の時点での10例の前感作された患者(上のパネル)および17例の新規DSA+患者(下のパネル)の7-AAD陽性ASCの正規化パーセント値を示すグラフ。P値は、スチューデントのt検定により決定した。
図4図4は、ASCが高レベルのmCRPを発現することを示す。A.FACS分析による7例のASCドナー(黒色のバー)および1例のBM-MSCドナー(白色のバー)におけるCD46、CD55およびCD59のMFI値を示すグラフ。細胞は、3ng/mL(IFNγ)の存在下で48時間成長させたか、または未処理のままとした(基本)。B.FACS分析により決定された7例のASCドナーにおけるCD46、CD55およびCD59の異なるMFI値を示すグラフ。細胞は、3ng/mL IFNγの存在下で48時間成長させたか(IFNγ)、または未処理のままとした(基本)。C.基本条件下(左側のパネル)およびIFNγとともに(右側のパネル)培養したドナーDonA、DonB、DonC、DonD、DonE、DonFおよびDonG由来のASCに関する抗体濃度に依存した抗体結合(上のパネル)および細胞死(下のパネル)を示すグラフ。P値は、スチューデントのt検定により決定した。右下のパネルから、EC50値を決定することができる。
図5図5は、CD46がASCにおいて補体細胞傷害性を媒介することを示す。A.W6/32 Abの増加した濃度レベルに対する7-AAD陽性親ASCおよびCD46KO DonB ASCのパーセンテージを示すグラフ。分析の前に、親ASCおよびCD46KO DonB ASCを、3ng/mL IFNγの存在下で48時間成長させたか(IFNγ)、または未処理のままとした(基本)。B.W6/32 Abの濃度(線形からlog10に変換)に対する7-AAD陽性親ASCおよびCD46KO ASCのパーセンテージを示すシグモイド曲線。P値は、二元配置分散分析検定から決定した。
図6図6A~Bは、3ng/mL IFNγの存在下で48時間成長させた(白色の四角)、または基本条件下で成長させた(黒色の円)ASCドナーのW6/32(A)ならびにCD46、CD55およびCD59(B)のMFI値の相関に関する。P値は、線形回帰からの傾きの有意性を示す。CD46およびCD55(B)に関するIFNγ条件における傾きの有意性に関するR-2乗値は、それぞれ0.74および0.71であった。C.親(白色のバー)ASCならびにCD46KO(黒色および灰色のバー)ASCにおけるCD46 MFI値を示すグラフ。分析の前に、親ASCおよびCD46KO ASCを、3ng/mL IFNγで48時間成長させたか(IFNγ)、または未処理とした(基本)。P値は、スチューデントのt検定により決定した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
用語「含んでなる(comprise)」または「含んでなる(comprising)」が本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、それは、他の要素または工程を排除しない。本発明の目的で、用語「からなる」は、用語「含んでなる(comprising of)」の任意選択の実施形態であるとみなされる。以下で群が少なくとも特定の数の実施形態を含んでなるように定義される場合、これは、任意選択でこれらの実施形態のみからなる群を開示するものとも理解されるべきである。
【0020】
単数名詞に言及する際に、不定冠詞または定冠詞、例えば、「a」または「an」、「the」が使用される場合、これは、特に断りのない限り、その名詞の複数形を含む。逆に、名詞の複数形が使用される場合、それは単数形も指す。
【0021】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における第1、第2、第3または(a)、(b)、(c)などの用語は、類似した要素を区別するために使用され、必ずしも逐次的または経時的な順序を記載するために使用されるわけではない。そのように使用される用語は、適当な状況下で互換的であり、本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載されるまたは示される順序以外の順序において作用できるものと理解されるべきである。
【0022】
本発明の文脈において、示されるいずれの数値も、当業者が問題の特徴の技術的効果が依然として保証されると理解する正確度の間隔と一般に関連する。本明細書で使用する場合、示される数値からの偏差は、±10%、好ましくは、±5%の範囲である。±10%、好ましくは、±5%という示された数値間隔からの前述の偏差は、数値に関して本明細書で使用される「約」および「およそ」という用語によっても示される。
【0023】
第1の側面によれば、特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による患者の再治療のための、同種異系療法に好適な幹細胞(SC)集団を選択するin vitro方法であって、以下の工程:
a)SC集団のサンプルを、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度の存在下で培養し(試験サンプル)、かつSC集団のサンプルをIFN-γの非存在下で別に培養すること(対照サンプル);
b)HLA-クラスI抗体が試験サンプルおよび対照サンプルにおいて発現したHLA-クラスIに結合するような条件下で、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲で試験サンプルと対照サンプルとを接触させること;
c)結合したHLA-クラスI抗体が補体で飽和し、かつ補体依存性細胞傷害(CDC)が誘導されるように、補体を試験サンプルおよび対照サンプルに加えること;
d)試験サンプルおよび対照サンプルにおいて誘導された細胞溶解を測定することにより、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲に関してCDCを決定すること;
e)最大のCDCの50%(EC50値)を誘導する試験サンプルおよび対照サンプルにおけるHLA-クラスI抗体の濃度を決定すること;ならびに
f1)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満;特に好ましくは、0.25未満である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること;または
f2)試験サンプルのEC50値が、HLA-クラスI抗体の少なくとも3.5ng/ml、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/mlである場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること
を含んでなる方法が提供される。
【0024】
「幹細胞(SC)集団」は、本明細書において、胚性多能性幹細胞(ESC)、胎児幹細胞および成体幹細胞を含む任意の幹細胞を意味する。前記集団は、初代細胞培養物、細胞株またはクローン由来のいずれかであり得る。
【0025】
前記幹細胞の集団は、多能性幹細胞の集団であってもよいし、または間葉系幹細胞(MSC)、例えば、骨髄由来、臍帯組織由来、血液由来(臍帯血由来を含む)、月経血由来、歯髄由来、胎盤由来または脂肪由来MSCの集団であってもよい(Huang et al., J Dent. Res. (2009) 88(9): 792-806; Carvalho et al., Curr. Stem Cell Res. Ther. (2011) 6(3): 221-8; Harris et al., Curr Stem Cell Res Ther. (2013) 8(5): 394-9; Li et al., Ann. N YAcad. Sci. (2016) 1370(1): 109-18)。好ましい実施形態において、前記幹細胞はヒト幹細胞(例えば、ヒトASC)である。本発明の好ましい複数の実施形態において、前記幹細胞の集団は脂肪由来間質幹細胞(ASC)である。前記ASCは、ASCの拡大集団であってもよい。
【0026】
幹細胞の集団を作製および培養する方法は、周知である。
【0027】
前記幹細胞の集団は、実質的に純粋であり得る。幹細胞の集団(例えば、ASCの集団などのMSC集団)に関連した用語「実質的に純粋」は、少なくとも約75%、一般に、少なくとも約85%、より一般に、少なくとも約90%、最も一般に、少なくとも約95%均一である幹細胞集団を指す。均一性は、形態および/または細胞表面マーカープロファイルにより評価することができる。形態および細胞表面マーカープロファイルを評価するための技法は、本明細書に開示されている。
【0028】
前記幹細胞は、未分化状態におけるそれらの自己再生能力および特殊化された細胞型に分化するそれらの能力を特徴とする。ESCは、クローンから公的に入手可能である。成体幹細胞は、造血幹細胞、乳腺幹細胞、腸幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、嗅覚成体幹細胞、神経堤幹細胞および精巣細胞を含む未分化細胞である。好ましくは、前記SC集団は、間葉系幹細胞(MSC)、より好ましくは、ヒトMSC集団である。
【0029】
多能性幹細胞
多能性幹細胞の源は2つ存在する。第1に、胚性幹細胞(ESC)は、着床前胚盤胞の内部細胞塊に由来し、多能性は、コア転写因子であるオクタマー結合転写因子4(OCT4)、性決定領域Y-box2(SOX2)、およびNanogホメオボックス(NANOG)の内因性調節ネットワークにより制御される。第2に、人工多能性幹細胞(iPSC)は、体細胞における多能性の誘導に必須の4つの転写因子、OCT4、SOX2、クルッペル様因子4(KLF4)、およびMYC癌原遺伝子(C-MYC)の異所性発現または高度発現により誘導される。
【0030】
ヒト胚性幹細胞などの胚性幹細胞の安定(未分化)培養物を単離するための技法は、十分確立されている(例えば、US 5,843,780; Thomson et al., Science (1998) 282: 1145-1147; Turksen K. (編) Human Embryonic Stem Cell Protocols. Methods in Molecular Biology, 第331巻, Humana PressにおけるTurksen & Troy (2006) Human Embryonic Stem Cells; Sevilla et al., Stem Cell Research (2017) 25: 217-220; およびTurksen K. (編) Human Embryonic Stem Cell Protocols. Methods in Molecular Biology, 第331巻, Humana PressにおけるMitalipova & Palmarini (2006) Isolation and Characterization of Human Embryonic Stem Cells)。
【0031】
iPSCを作製するための技法は、2007年に山中のグループによりそれらが発見されて以降、十分確立されている(例えば、Takahashi et al., Cell (2007) 131(5): 861-72)。それ以降、非組込みおよびフィーダーフリーの方法ならびに自動ハイスループット誘導を含む、iPSC作製のための新たな改善された方法が開発されている(Paull et al., Nature Methods (2015) 12(9): 885 892)。
【0032】
iPSCは、一連の多能性マーカー:NANOG、SOX2、SSEA4、TRA1-81、TRA1-60の発現、および系列特異的マーカーの欠如を特徴とする。iPSCの多能性は、免疫組織化学による三胚葉由来分化マーカーTuj1(外胚葉マーカー)、SMA(中胚葉マーカー)およびSOX17(内胚葉マーカー)の事後分析を用いた胚様体アッセイにおける三胚葉に分化するそれらの能力により示される(Paull et al., Nature Methods (2015) 12(9): 885 892)。
【0033】
人工多能性幹細胞(iPSC)は、体細胞における多能性の誘導に必須の4つの転写因子、OCT4、SOX2、クルッペル様因子4(KLF4)、およびMYC癌原遺伝子(C-MYC)の異所性発現または高度発現により誘導される。
【0034】
MSC
「間葉系幹細胞」(本明細書において「MSC」ともいう)は、多能性間質細胞である。それらは、一般に結合組織に由来し、非造血細胞である。MSCの集団は(Dominici et al. (2006), Cytotherapy 8(4): 315-317によれば)、(1)標準的な培養条件下(例えば、最小必須培地+20%ウシ胎仔血清)でプラスチックに接着し得;(2)CD105、CD90、CD73およびCD44を発現し得(すなわち、MSCの集団の80%以上);(3)CD45、CD14またはCD11b、CD790LまたはCD19、およびHLA-DR(HLAクラスII)の発現を欠如し得(例えば、MSC集団の5%以下);(4)骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞に分化する能力を有し得る。
【0035】
MSCは、例えば、骨髄、臍帯組織および血液、月経血、歯髄、臍帯血、胎盤および脂肪組織から、標準的な方法を使用して得ることができる。異なる組織から得られるMSCは類似しているが、それらは表現型的特徴および機能的特徴にいくつかの違いを有する。例えば、細胞表面マーカーCD54およびCD106の発現レベルは、MSCの源/起源に応じて異なり得る。これらは、フローサイトメトリーにより測定することができる。SOX2、IL1アルファ、IL1ベータ、IL6およびIL8などのいくつかの遺伝子のmRNAレベルは、異なる組織由来のMSCにより差次的に発現し得、常法により測定することができる。IL6およびPGE2分泌も、異なる起源のMSC間で異なり得、このため、細胞は異なる調節能を有し得る(例えば、Yang et al. PLoS ONE (2013) 8(3) e59354参照)。
【0036】
骨髄由来MSC(BMSC)
骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)は、他の組織源からのMSCと類似している。しかしながら、それらは、他の組織起源のMSC、例えば、臍帯MSC、胎盤MSC、歯髄MSC、および月経血MSCと比較して、表現型的特徴および機能的特徴においていくつかの違いを有する。プラスチックに接着するそれらの能力、最小限の表面同一性マーカーならびに骨、軟骨、腱および脂肪組織に分化する能力を含め、それらの最小限のキャラクタリゼーション基準は共通であるが、それらは総て、いくつかのわずかな違いを有する。これらの特性には、CD105などのいくつかの表面マーカーの異なる発現レベル、それらの免疫調節能および再生能に関連付けられる分泌可溶性因子の異なるレベル、ならびに一般に、それぞれの源または起源を特定の治療適応症にさらに好適とし得るわずかに異なる機能特性が含まれる(Miura et al., Int J Hematology (2016) 103(2): 122-128; Wuchter et al., Cytotherapy (2015) 17(2): 128-139; Wright et al., Stem Cells (2011) 29(2): 169-178)。
【0037】
臍帯由来および歯髄由来MSC
Huang et al. (J. Dent. Res. (2009) 88(9): 792-806)は、歯髄由来MSCを考察し、それらの特徴を他の源からのMSCと比較している。Carvalho et al. (Curr Stem Cell Res Ther. (2011) 6(3): 221-228)およびHarris et al. (Curr Stem Cell Res Ther. (2013) 8(5): 394-399)は、臍帯由来MSC、それらのキャラクタリゼーション(表現型およびセクレトームを含む)ならびにそれらの適用を考察している。
【0038】
ASC
脂肪由来MSC(ASC)は、通常、皮下脂肪組織から単離され、それにより、ASCを多数獲得することが可能となる。ASCは、高い細胞活性をもって急速に増殖し、その結果、ASCがMSCを得るための理想的な源となる。
【0039】
「脂肪組織」とは、任意の脂肪組織を意味する。脂肪組織は、皮下組織、大網/内臓組織、乳腺組織、生殖腺組織、または他の脂肪組織部位に由来する褐色または白色の脂肪組織であり得る。一般に、脂肪組織は、皮下白色脂肪組織である。このような細胞は、初代細胞培養物または不死化細胞株を含んでなってもよい。脂肪組織は、脂肪組織を有する任意の生物体由来であってもよい。一般に、脂肪組織は哺乳動物のものであり、最も一般に、脂肪組織はヒトのものである。脂肪組織の好都合な源は、脂肪吸引術からのものであるが、脂肪組織の源または脂肪組織の単離の方法は、本発明にとって重要なものではない。
【0040】
好ましいASCは、製品「Darvadstrocel」(商品名「Alofisel(登録商標))において認可されているヒト同種異系脂肪由来幹細胞(ヒトeASC)である。これらの拡大ASCは、細胞表面マーカーCD29、CD73、CD90およびCD105を発現する。前記細胞は、血管内皮成長因子(VEGF)、トランスフォーミング成長因子-ベータ1(TGF-β1)、インターロイキン6(IL-6)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤-1(TIMP-1)およびインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)および誘導性インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)などの因子を発現することができる。このため、ASCの集団は、少なくとも約50%、少なくとも約60%;少なくとも約70%;少なくとも約80%;少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%以上が、CD29、CD73、CD90および/またはCD105のうち1つ以上を発現することを特徴とし得る。前記ASCの集団は、前記細胞の集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%;少なくとも約70%;少なくとも約80%;少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%が、CD29、CD73、CD90およびCD105の総てを発現することを特徴とし得る。一般に、前記ASCの集団は、前記細胞の集団の少なくとも約80%が、CD29、CD73、CD90およびCD105の総てを発現することを特徴とし得る。
【0041】
Bourin et al. (Cytotherapy (2013) 15(6): 641-648)によれば、ASCの集団は、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90およびCD105の発現に対して陽性であり、かつCD31およびCD45の発現に対して陰性であると定義され得る。前記ASCの集団において、前記細胞の集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%;少なくとも約70%;少なくとも約80%;少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%が、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90およびCD105を発現し得、前記ASCの集団の約5%、約4%、約3%または約2%未満が、CD31およびCD45を発現し得る。一般に、前記ASCの集団において、前記細胞の集団の少なくとも約80%が、CD13、CD29、CD44、CD73、CD90およびCD105を発現し得、前記ASCの集団の約5%未満が、CD31およびCD45を発現し得る。
【0042】
ASCは、標準的な培養条件下でプラスチックに接着し得る。拡大ASC(eASC)は、培養下で線維芽細胞様の形態を示す。具体的には、これらの細胞は巨大であり、長く薄い細胞突起がほとんどない浅い細胞体という形態的特徴を有する。核は、巨大かつ円形であり、顕著な核小体を有し、これが核を鮮明な外観にしている。eASCのほとんどはこの紡錘形の形態を示すが、前記細胞のいくつかは多角形の形態を獲得することが通常である(Zuk et al. Tissue Eng (2001) 7(2): 211-228)。
【0043】
ASCは、表面マーカーHLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105に対して陽性であり得る。いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、前記ASCの集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%が、表面マーカーHLA-I、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105を発現することを特徴とし得る。一般に、eASCの少なくとも約80%が、表面マーカーHLA1、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105を発現する。
【0044】
ASCは、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86に対して陰性であり得る。いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、前記ASCの集団の約5%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現することを特徴とし得る。より一般に、前記ASCの集団の約4%、3%または2%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現する。一つの実施形態において、前記ASCの集団の約1%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現する。
【0045】
いくつかの例において、ASCの集団において、前記細胞の集団の少なくとも約80%が、CD29、CD73、CD90およびCD105の総てを発現し、前記ASCの集団の約5%未満が、表面マーカーHLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80およびCD86を発現する。
【0046】
いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、HLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個または7個)を発現し得る。いくつかの実施形態において、eASCは、HLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個または8個)を発現しなくてもよい。いくつかの実施形態において、eASCは、HLAI、CD29、CD44、CD59、CD73、CD90、およびCD105のうち4個以上を発現し、HLAII、CD11b、CD11c、CD14、CD45、CD31、CD80のうち4個以上を発現しない。
【0047】
CD34の発現は、陰性または低レベルであり得、例えば、前記ASCの集団の0~約30%により発現され得る。このため、いくつかの例において、上記のASCは、低レベルで、例えば、前記集団の約5~約30%においてCD34を発現し得る。あるいは、他の例において、上記のASCはCD34を発現せず、例えば、前記ASCの集団の約5%未満が、CD34を発現する。
【0048】
いくつかの実施形態において、前記ASCの集団(例えば、前記細胞の集団の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%;少なくとも約90%または少なくとも約95%)は、マーカーCD9、CD10、CD13、CD29、CD44、CD49A、CD51、CD54、CD55、CD58、CD59、CD90およびCD105のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、または10個以上(例えば、最大13個))を発現し得る。例えば、ASCは、マーカーCD29、CD59、CD90およびCD105のうち1個以上(例えば、2個、3個または総て)、例えば、CD59および/またはCD90を発現し得る。
【0049】
いくつかの実施形態において、前記ASCの集団は、マーカー第VIII因子、アルファ-アクチン、デスミン、S-100、ケラチン、CD11b、CD11c、CD14、CD45、HLAII、CD31、CD45、STRO-1およびCD133のうち1個以上(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、または10個以上(例えば、最大15個))を発現しなくてもよく、例えば、ASCは、マーカーCD45、CD31およびCD14のうち1個以上(例えば、2個、3個または総て)、例えば、CD31および/またはCD45を発現しない。
【0050】
特定の複数の実施形態において、上記のASCは、(i)抗原提示細胞(APC)に特異的なマーカーを発現せず;(ii)IDOを構成的に発現せず;かつ/または(iii)MHCIIを構成的に有意に発現しない。一般に、IDOまたはMHCIIの発現は、IFN-γによる刺激により誘導され得る。特定の複数の実施形態において、上記のASCは、Oct4を発現しない。
【0051】
ASCの集団を調製する方法
eASCおよび本発明の幹細胞の集団を提供するためのASCの単離および培養の方法、ならびに本発明の幹細胞の集団を含んでなる組成物は、当技術分野で公知である。ASCは、一般に、脂肪組織の間質画分から調製され、好適な表面、例えば、プラスチックへの接着性により選択される。このため、本明細書に開示される幹細胞の凍結保存の方法は、(i)患者から得られた脂肪組織の間質画分からASCの集団を単離すること、および(ii)前記ASCの集団を培養すること、という初期工程(前記方法のいずれか1つの工程(a)の前)を含んでなってもよい。ASCは、場合により、好適な表面、例えば、プラスチックへの接着性に関する工程(i)において選択することができる。場合により、ASCの表現型は、培養工程(ii)の間および/またはその後に評価してもよい。
【0052】
ASCの集団を調製する方法
eASCおよび本発明の幹細胞の集団を提供するためのASCの単離および培養の方法、ならびに本発明の幹細胞の集団を含んでなる組成物は、当技術分野で公知である。ASCは、一般に、脂肪組織の間質画分から調製され、好適な表面、例えば、プラスチックへの接着性により選択される。このため、本明細書に開示される幹細胞の凍結保存の方法は、(i)患者から得られた脂肪組織の間質画分からASCの集団を単離すること、および(ii)前記ASCの集団を培養すること、という初期工程(前記方法のいずれか1つの工程(a)の前)を含んでなってもよい。ASCは、場合により、好適な表面、例えば、プラスチックへの接着性に関する工程(i)において選択することができる。場合により、ASCの表現型は、培養工程(ii)の間および/またはその後に評価してもよい。
【0053】
ASCは、当技術分野において標準的な任意の手段により得ることができる。一般に、前記細胞は、源の組織(例えば、脂肪吸引組織または脂肪組織)から、一般に、前記組織をコラゲナーゼなどの消化酵素で処理することにより、前記細胞を分離することにより得られる。次いで、消化された組織物質は、一般に、約20ミクロン~1mmのフィルターで濾過される。次いで、細胞を単離し(一般に、遠心分離により)、接着表面(一般に、組織培養プレートまたはフラスコ)で培養する。このような方法は、当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第6,777,231号に開示されている。
【0054】
この方法によれば、脂肪吸引組織は脂肪組織から得られ、細胞はそれに由来する。この方法の最中に、細胞を、好ましくはPBSで洗浄して、汚染デブリおよび赤血球を除去してもよい。細胞を、PBS中のコラゲナーゼで消化する(例えば、37℃で30分間、0.075%コラゲナーゼ;I型、Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)。残存する赤血球を除去するために、消化サンプルを洗浄し(例えば、10%ウシ胎仔血清で)、160mmol/L NH4Clで処理し、最後にDMEM完全培地(10%FBS、2mMグルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM)に懸濁させることができる。細胞は、40μmナイロンメッシュで濾過することができる。
【0055】
培養ヒトASCは、DelaRosa et al. (Tissue Eng Part A. (2009) 15(10): 2795-806), Lopez-Santalla et al. (Stem cells (2015) 33: 3493-3503)において記載されている。一つの実施形態において(上記で引用したLopez-Santalla et al. (2015)に記載の通りに)、健常ドナー由来のヒト脂肪吸引組織を、リン酸緩衝食塩水で2回洗浄し、0.075%コラゲナーゼ(I型;Invitrogen社)で消化した。消化サンプルを10%ウシ胎仔血清(FBS)で洗浄し、160mM NHClで処理して残存する赤血球を除去し、培養培地(10%FBSを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))に懸濁させた。細胞を組織培養フラスコに播種し(2~3×10個/cm)、3~4日毎に培養培地を交換しながら培養した(37℃、5%CO)。細胞が90%コンフルエンスに達した場合、細胞を新しいフラスコに移した(10個/cm)。細胞を最大12~14回重複して拡大し、凍結させた。
【0056】
別の実施形態において(DelaRosa et al. (2009), Tissue Eng Part A 15(10): 2795-806による記載の通りに)、健常成人ドナー由来のヒト脂肪組織から得られた脂肪吸引組織をPBSで2回洗浄し、18U/mLのPBS中I型コラゲナーゼで37℃にて30分間消化した。1単位のコラゲナーゼが、37℃、pH7.5にて5時間でコラーゲンから1mMのL-ロイシン当量を遊離させた(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)。消化サンプルを10%のウシ胎仔血清(FBS)で洗浄し、160mM NHClで処理し、培養培地(10%FBSを含有するDMEM)に懸濁させ、40mmナイロンメッシュで濾過した。細胞を組織培養フラスコに播種し(2~3×10個/cm)、7日毎に培養培地を交換しながら、37℃および5%COで拡大した。培養物が90%のコンフルエンスに達した場合、細胞を新しい培養フラスコに移した。細胞は、軟骨形成系列、骨形成系列、および脂肪生成系列に分化するそれらの能力により表現型的に特徴付けられた。
【0057】
ASCを、ASCの接着に好適な表面、例えば、プラスチックを含んでなる好適な組織培養容器中で培養する。非接着細胞は、例えば、好適な緩衝液中で洗浄することにより除去して、接着間質細胞(例えば、ASC)の単離集団を得る。このように単離した細胞は、組織培養フラスコに播種し(好ましくは、2~3×10個/cm)、3~4日毎に培養培地を交換しながら、37℃および5%COで拡大することができる。培養物がおよそ90%のコンフルエンスに達した場合、細胞を好ましくは接着表面から剥がし(例えば、トリプシンにより)、新しい培養フラスコ(1,000個/cm)に移す(「継代する」)。
【0058】
ASCは、少なくとも約15日間、少なくとも約20日間、少なくとも約25日間、または少なくとも約30日間培養され得る。一般に、培養下での細胞の拡大は、実質的に純粋な集団が得られるように、集団における細胞表現型の均一性を改善する。
【0059】
いくつかの実施形態において、ASCは、少なくとも3培養継代、培養下で拡大される、または「少なくとも3回継代される」。他の複数の実施形態において、前記細胞は、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、または少なくとも10回継代される。細胞は、細胞集団における細胞表現型の均一性を改善するために、3回超継代されることが好ましい。実際に、前記細胞は、細胞表現型の均一性が改善され、分化能が維持される限り、無期限に培養下で拡大され得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、ASCは、少なくとも3回集団倍加させるために培養下で増殖され、例えば、前記細胞は、少なくとも4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、15回または20回集団倍加させるために、培養下で拡大される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、7回、8回、9回、10回、15回または20回未満集団倍加させるために、培養下で拡大される。特定の複数の実施形態において、前記細胞は、約5~10回集団倍加させるために、培養下で拡大される。特定の複数の実施形態において、前記細胞は、約10~15回集団倍加させるために、培養下で拡大される。特定の複数の実施形態において、前記細胞は、約15~20回集団倍加、例えば、約16回集団倍加させるために、培養下で拡大される。ASCの単離は、好ましくは、無菌条件下またはGMP条件下で行われる。
【0061】
「同種異系療法」は、本明細書において、ドナーが細胞のレシピエントと異なる者である、細胞ベースの療法を意味する。好ましくは、同種異系療法は、ドナーとレシピエントとの間のHLA適合が関与しない。医薬品の製造において、HLA不適合同種異系療法は「既製」製品の基礎を形成し得るため、同種異系方法は有望である。
【0062】
「前感作」は、本明細書において、患者が、SC集団の実際の投与前に特定のSC集団に対して既存免疫を示すことを意味する。既存免疫は、ドナー特異的抗体(DSA)、特に、HLA-クラスI分子に対して特異的であるDSAの存在と関連し得る。これは、当技術分野で公知の方法、例えば、分光光度フローサイトメトリークロスマッチ(FCXM)、蛍光または発光アッセイ(例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法))(ここで、HLA-クラスI分子はプレートに結合する)により決定することができる。既存免疫は、例えば、早期輸血に起因し得るか、または女性においては早期妊娠に起因し得る。
【0063】
「再治療」は、本明細書において、患者に対する第1のドナー由来の第1のSC集団の第1の用量の投与後、前記患者が、第1のドナー由来の第1のSC集団の別の用量または第2のドナー由来の第2のSC集団の用量のいずれかの投与を受けることを意味する。再治療は、単一用量投与後と比較して治療有効性を増大させるために必要であり得る。
【0064】
「SC集団のサンプルを培養すること」は、本明細書において、SC集団が、SC集団の生存率を維持するために好適な細胞培養培地に含まれることを意味する。好適な細胞培養培地は、SC集団にとって必須の栄養素、例えば、アミノ酸、炭水化物、ビタミンおよび/または塩を含有し得る。pHは、緩衝液の使用により好適な条件に適合される。好ましくは、細胞培養培地は、RPMI(Gibco社から入手可能)またはDMEM(例えば、Sigma-Aldrich社から入手可能)から選択される。
【0065】
「前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度」は、本明細書において、前記SC集団の表面上のHLA-クラスI分子の最大の量を提供することができるIFN-γ濃度を意味する。前記SC集団の表面上のHLA-クラスI分子の量は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)により、または発色団もしくはフルオロフォアに直接結合する、もしくは標識二次抗体に間接的に結合するHLA-クラスI抗体を使用したサンドイッチアッセイ形式などのELISAアッセイ形式において、決定することができる。
【0066】
細胞がより高いIFN-γ濃度で処理される際にHLA-クラスIの発現がさらに増大しない場合、最大のHLA-クラスI発現が誘導される。
【0067】
IFN-γは、HLA-クラスI分子の発現および提示を増大させることで知られる。好ましい実施形態によれば、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度は、約0.5~約30ng/ml、好ましくは、約1~約15ng/ml、より好ましくは、約2~約4ng/ml、最も好ましくは、3ng/mlである。好ましくは、IFN-γは、12~72時間の期間、好ましくは、24~60時間の期間、より好ましくは、30~54時間の期間、最も好ましくは、48時間の期間、SC集団とインキュベートされる。最も好ましくは、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度は、3ng IFN-γ/mlであり、IFN-γは、48時間の期間、SC集団とインキュベートされる。
【0068】
「HLA-クラスI抗体」は、本明細書において、HLA-A、HLA-Bおよび/またはHLA-Cに特異的に結合することができる抗体を意味する。この文脈における「特異的に」は、結合が非特異的ではないことを意味するものとする。用語「特異的に」は、関連抗原に対する抗体の交差反応性も可能にするエピトープを共有する抗原に対する結合を含む。前記抗体は、IgGおよびIgMを含む任意のサブタイプであり得る。前記抗体は、任意の源からのものであってもよく、好ましくは、前記抗体は、マウス、ウサギ、ヒツジまたはヤギ抗体、好ましくは、マウス抗体である。前記抗体は、好ましくは、補体系のタンパク質と相互作用することができる定常領域(Fc領域)を含む。
【0069】
好ましい実施形態において、前記HLA-クラスI抗体は、HLA-A、HLA-BおよびHLA-Cに特異的に結合する。したがって、前記抗体が、HLA-A、HLA-BおよびHLA-C重鎖において保存されるエピトープを認識するpan-HLA-クラスI抗体であることが好ましい。
【0070】
さらに好ましい実施形態において、前記HLA-クラスI抗体は、ATCC(指定番号:HB-95)またはECACC(番号:84112003)から入手可能なハイブリドーマクローンw6/32により産生される抗体と本質的に同じHLA-A、好ましくは、HLA-A2、最も好ましくは、HLA-A*0201に対する結合親和性を有する。好ましくは、結合親和性は、ELISA法を使用することにより決定される。「本質的に同じ結合親和性」は、ハイブリドーマクローンw6/32により産生される抗体の結合親和性と10%未満、好ましくは、8%未満、より好ましくは、5%未満異なるHLA-クラスI抗体の結合親和性を意味する。
【0071】
さらにより好ましい実施形態において、前記抗体は、ハイブリドーマクローンw6/32により産生される。このハイブリドーマクローンは、ATCC(指定番号:HB-95)またはECACC(番号:84112003)から入手可能である。
【0072】
「HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲」は、本明細書において、試験サンプルおよび対照サンプルを異なる濃度のHLA-クラスI抗体で処理して、細胞溶解により決定される異なるCDC値が得られることを意味する。前記異なるCDC値は、HLA-クラスI抗体の濃度に依存した試験曲線において示され得る。
【0073】
一つの実施形態において、HLA-クラスI抗体の異なる濃度は、約1~約50ng/mlの範囲内である。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のHLA-クラスI抗体の2種類または3種類の異なる濃度が使用される。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のHLA-クラスI抗体の4種類または5種類の異なる濃度が使用される。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のHLA-クラスI抗体の6種類または7種類の異なる濃度が使用される。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のHLA-クラスI抗体の8種類または9種類の異なる濃度が使用される。
【0074】
一つの実施形態において、ハイブリドーマクローンw6/32により産生されるHLA-クラスI抗体の異なる濃度は、約1~約50ng/mlの範囲内である。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のハイブリドーマクローンw6/32により産生されるHLA-クラスI抗体の2種類または3種類の異なる濃度が使用される。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のハイブリドーマクローンw6/32により産生されるHLA-クラスI抗体の4種類または5種類の異なる濃度が使用される。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のハイブリドーマクローンw6/32により産生されるHLA-クラスI抗体の6種類または7種類の異なる濃度が使用される。一つの実施形態において、約1~約50ng/mlの範囲内のハイブリドーマクローンw6/32により産生されるHLA-クラスI抗体の8種類または9種類の異なる濃度が使用される。
【0075】
さらに好ましい実施形態において、前記HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲は、1ng/ml、3ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/mlおよび50ng/mlから選択される少なくとも2種類または3種類、好ましくは、4種類または5種類、より好ましくは、6種類または7種類、最も好ましくは、7種類または8種類の濃度である。
【0076】
「HLA-クラスI抗体が試験サンプルおよび対照サンプルにおいて発現したHLA-クラスIに結合するような条件下」は、本明細書において、試験サンプルおよび対照サンプルのSC集団が、幹細胞に対する抗体の結合を可能にする好適な培地に含まれることを意味する。したがって、培地は、抗体および/または細胞を変性させないpHおよび塩濃度を有する。好ましくは、培地は、ヒト血液中の生理的pH(pH7.35~7.45)と類似したpHを提供するための好適な緩衝系を含有する。より好ましくは、培地は、pH7.4を有し、かつ137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM NaHPO、1.8mM KHPOを含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液である。
【0077】
「補体」は、本明細書で使用する場合、血漿または血清を含む血液の任意の源に由来する補体を意味する。補体は、精製または合成された補体タンパク質の混合物しても使用され得る。補体系は、肝臓により合成され、不活性前駆体として循環する血液中に認められる多数の低分子タンパク質からなる。いくつかのトリガーのうちの1つにより刺激されると、系におけるプロテアーゼが特異タンパク質を切断して、サイトカインを放出し、さらなる切断の増幅カスケードを開始させる。この補体活性化または補体結合カスケードの最終結果は、異物および損傷物質を除去するための食細胞の刺激、さらなる食細胞を誘引するための炎症、ならびに攻撃された細胞の細胞溶解をもたらす細胞を死滅させる膜侵襲複合体(MAC)の活性化である。同種異系認識中、古典的経路の開始メディエーターであるC1qが、HLAクラス-I抗原結合抗体のFc部分に結合し、C1qの活性化およびその後の補体カスケードシグナル伝達が生じた場合に、補体依存性細胞傷害(CDC)が開始される。
【0078】
「補体で飽和した」は、本明細書において、本発明に係る方法において加えられる補体の量が、IFN-γ誘導SC集団(試験サンプル)の表面に結合したHLA-クラスI抗体の量に対してモル過剰であることを意味する。補体での飽和は、異なる濃度の補体を使用したアッセイを行うことにより、実験的に決定することができる。一度CDC活性がその最大に達し、より高濃度の補体の添加によりもはや増加することができなくなると、飽和が達成される。
【0079】
好ましい実施形態において、請求項1の工程(c)において使用される補体は、血清由来である。好ましくは、前記血清は、熱で処理されていない。熱不活化は、補体タンパク質を変性させ得、それにより、それらがMAC複合体を形成することをできなくさせる。また、好ましくは、前記血清は、ウシ胎仔血清ではない。より好ましくは、前記血清は、ウサギ、ヤギまたはヒツジ由来である。最も好ましくは、前記血清は、ウサギ由来である。このような血清は、One Lambda社から入手可能である。
【0080】
好ましい実施形態において、補体での結合HLA-I抗体の飽和をもたらす血清濃度は、50~83.33%(v/v)であり、好ましくは、補体での結合HLA-I抗体の飽和をもたらす血清濃度は、66.66~83.33%(v/v)であり、より好ましくは、補体での結合HLA-I抗体の飽和をもたらす血清濃度は、75~83.33%(v/v)であり、最も好ましくは、補体での結合HLA-I抗体の飽和をもたらす血清濃度は、83.33%(v/v)である。
【0081】
「補体依存性細胞傷害(CDC)」は、IgGおよびIgM抗体のエフェクター機能である。それらが表面抗原に結合すると、古典的補体経路が惹起され、膜侵襲複合体(MAC)の形成および標的の細胞溶解がもたらされる。本発明の文脈において、CDCは、SC集団上に発現したHLAクラスI分子に対するHLA-クラスI抗体の結合によりSC集団において誘導された細胞溶解を測定することにより、決定される。
【0082】
好ましい実施形態において、前記細胞溶解は、生細胞もしくは溶解細胞または溶解細胞から放出された放射性物質に対して選択的である化学発光色素または蛍光色素を測定することにより決定される。インタクトな細胞膜を有する生細胞は、異なる種類の剤を使用した当技術分野で公知の方法により、溶解細胞と区別され得る。
【0083】
生細胞を死細胞と区別するための放射性方法として、クロムリリースアッセイが確立されている。放射性アッセイの代替として、蛍光色素が開発されている。例えば、ヨウ化プロピジウム、DAPI、7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)、TO-PRO-3などのDNA結合に対する非固定可能生存率色素が使用され得る。サンプルの固定が必要な場合、固定前に生細胞と死細胞とを識別するために、Invitrogen社のアミン反応性色素またはeBioscience社のFixable Viability Dyes(eFluor450、eFluor660、eFluor780)またはBecton Dickinson社のViolet固定可能色素(BD Horizon VD450)をサンプルに加えることができる。エステラーゼ活性を必要とする色素(例えば、eBioscience社/Invitrogen社のCalcein AM)またはミトコンドリアにおいて蓄積する色素(JC-1、Rhodamine 123)など、細胞の機能性による細胞生存率の評価に好適なさらなる色素が利用可能である。
【0084】
さらなる代替として、化学発光ベースのアッセイまたは生物発光ベースのアッセイが開発されている(例えば、メナジオン触媒H産生)。それらの総てが、細胞溶解を測定することによりCDCを決定するために、本発明により企図される。好ましい実施形態において、CDC活性は、実施例においてさらに説明するように、FACS分析における色素としての7-アミノアクチノマイシンDを使用することにより、決定される。
【0085】
特許請求の範囲において定義される「EC50値」は、試験サンプルおよび対照サンプルにおける最大のCDCの50%(EC50値)を誘導するHLA-クラスI抗体の濃度である。「EC50値を決定すること」は、異なるHLA-クラスI抗体濃度に関する決定されたCDC値を使用して、視覚的に行ってもよいし、または生物学的データ分析用の市販のソフトウェアを用いて行ってもよい。線形回帰分析が可能なソフトウェアを使用してもよい。好適なソフトウェアは、FCS Express Version 5(DeNovo Software社)であり得る。
【0086】
好ましい実施形態において、同種異系療法のためのSC集団は、試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、約0.1~約1.25、好ましくは、約0.1~約1.0、より好ましくは、約0.1~約0.5、特に好ましくは、約0.1~約0.25である場合、工程f1)に従って選択される。
【0087】
さらに好ましい実施形態において、同種異系療法のためのSC集団は、試験サンプルのEC50値が、HLA-クラスI抗体の約3.5ng/ml~約30ng/ml、好ましくは、約9ng/ml~約25ng/ml、より好ましくは、約10ng/ml~約20ng/mlである場合、工程f2)に従って選択される。
【0088】
「CD46発現レベル」は、ノーザンブロットおよびRT-qPCRなどの当技術分野における標準的な技法により、核酸レベルに対して決定され得る。CD46 mRNA配列は、公開データベースから入手可能である(NCBI参照配列:NM_002389.4)。好適なプライマーは、当技術分野において公知の方法により調製され得る。CD46発現レベルは、タンパク質レベルに対しても決定され得る。好適な方法としては、標識HLA-クラスI抗体分子を使用したウエスタンブロットおよびFACS分析が挙げられる。
【0089】
さらなる側面によれば、特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による再治療のための、同種異系療法に好適なSC集団であって、以下の特性:
i)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満、特に好ましくは、0.25未満であり、ここで、前記EC50値は、本発明に従って決定される;
ii)試験サンプルのEC50値が、少なくとも3.5ng/ml HLA-クラスI抗体、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/ml HLA-クラスI抗体であり、ここで、前記EC50値は、本発明に従って決定される;または
iii)対照サンプルにおけるCD46発現に対する試験サンプルにおけるCD46発現の比が、2.0超、好ましくは、2.5超、特に好ましくは、3.0超であり、ここで、前記CD46発現は、本発明に従って決定される、
のうちいずれかを有するSC集団が提供される。
【0090】
好ましい実施形態において、前記SC集団は、本発明に係る方法により選択される。また、好ましくは、前記SC集団は、間葉系幹細胞(MSC)集団、好ましくは、BM-MSC集団またはASC集団、好ましくは、ヒトBM-MSCまたはヒトASCである。
【0091】
さらなる側面によれば、本発明に係るSC集団と場合により薬学上許容可能な担体とを含んでなる医薬組成物が提供される。
【0092】
用語「薬学上許容可能な担体」は、本明細書において、SC細胞集団の生存率または有効性に悪影響を及ぼさない当技術分野で公知の任意の薬学上許容可能な担体を意味する。前記薬学上許容可能な担体は、アミノ酸、塩およびビタミンを含有する細胞培養培地であり得る。好ましくは、前記細胞培養培地は、RPMIまたはDMEMであり、より好ましくは、前記細胞培養培地はDMEMである。前記細胞培養培地は、約5%(v/v)~約30%(v/v)の濃度のヒト血清アルブミン(HSA)を補充してもよく、より好ましくは、HSA濃度は20%(v/v)であり得る。一つの実施形態において、前記薬学上許容可能な担体は、20%(v/v)HSAを含有するDMEMである。
【0093】
前記医薬組成物は、注射用懸濁液の形態であり得る。前記懸濁液中のSC集団の濃度は、1×10~8×10個/ml、好ましくは、1×10~6×10個/mlの範囲であり得る。最も好ましくは、前記濃度は5×10個/mlである。前記医薬組成物は、注射により投与してもよい。
【0094】
さらなる側面によれば、医薬組成物を調製する方法であって、以下の工程:
a)本発明に係る方法を行うこと;並びに
b)少なくとも1つの薬学上許容可能な担体とともに選択されたSC集団を処方すること
を含んでなる方法が提供される。
【0095】
さらなる側面において、本発明に係るSC集団は、それを必要とする患者における、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者における、同種異系幹細胞療法における使用のために提供される。さらに好ましい実施形態において、それを必要とする前記患者は、瘻孔、白血病、リンパ腫、神経変性疾患、脳損傷および脊髄損傷、心疾患、盲目および視力障害、膵ベータ細胞機能喪失、軟骨修復、変形性関節症、筋骨格系疾患、創傷、不妊症、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患から選択される疾患に罹患しており、好ましくは、前記疾患は瘻孔であり、より好ましくは、前記疾患は複雑肛門周囲瘻である。
【0096】
さらなる側面によれば、それを必要とする患者に対して、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者において、本発明に係るSC集団を投与することを含んでなる同種異系幹細胞療法の方法が提供される。前記患者は、上記の疾患のいずれかに罹患し得る。
【0097】
一つの実施形態において、本発明は、特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による患者の再治療のための、同種異系療法に好適な幹細胞(SC)集団を選択するin vitro方法であって、以下の工程:
a)SC集団のサンプルを、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度の存在下で培養し(試験サンプル)、かつSC集団のサンプルをIFN-γの非存在下で別に培養すること(対照サンプル)、ここで、前記SC集団はASC集団であり、前記IFN-γ濃度は、48時間の期間にわたり適用される3ng/mlである;
b)HLA-クラスI抗体が試験サンプルおよび対照サンプルにおいて発現したHLA-クラスIに結合するような条件下で、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲で試験サンプルと対照サンプルとを接触させること、ここで、前記HLA-クラスI抗体はw6/32であり、ここで、抗体濃度は、1ng/ml、3ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/mlおよび50ng/mlである;
c)結合したHLA-クラスI抗体が補体で飽和し、かつ補体依存性細胞傷害(CDC)が誘導されるように、補体を試験サンプルおよび対照サンプルに加えること、ここで、前記補体は、ウサギ血清の形態で加えられる;
d)試験サンプルおよび対照サンプルにおいて誘導された細胞溶解を測定することにより、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲に関してCDCを決定すること;
e)試験サンプルおよび対照サンプルにおける最大のCDCの50%(EC50値)を誘導するHLA-クラスI抗体の濃度を決定すること;ならびに
f1)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満;特に好ましくは、0.25未満である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること;または
f2)試験サンプルのEC50値が、HLA-クラスI抗体の少なくとも3.5ng/ml、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/mlである場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること
を含んでなる方法に関する。
【0098】
一つの実施形態において、本発明は、特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による患者の再治療のための、同種異系療法に好適な幹細胞(SC)集団を選択するin vitro方法であって、以下の工程:
a)SC集団のサンプルを、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度の存在下で培養し(試験サンプル)、かつSC集団のサンプルをIFN-γの非存在下で別に培養すること(対照サンプル)、ここで、前記SC集団はASC集団であり、前記IFN-γ濃度は、48時間の期間にわたり適用される3ng/mlである;
b)HLA-クラスI抗体が試験サンプルおよび対照サンプルにおいて発現したHLA-クラスIに結合するような条件下で、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲で試験サンプルと対照サンプルとを接触させること、ここで、前記HLA-クラスI抗体はw6/32であり、ここで、抗体濃度は、1ng/ml、3ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/mlおよび50ng/mlである;
c)結合したHLA-クラスI抗体が補体で飽和し、かつ補体依存性細胞傷害(CDC)が誘導されるように、補体を試験サンプルおよび対照サンプルに加えること、ここで、前記補体は、ウサギ血清の形態で加えられる;
d)試験サンプルおよび対照サンプルにおいて誘導された細胞溶解を測定することにより、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲に関してCDCを決定すること;
e)試験サンプルおよび対照サンプルにおける最大のCDCの50%(EC50値)を誘導するHLA-クラスI抗体の濃度を決定すること;ならびに
f1)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、約0.1~約1.25、好ましくは、約0.1~約1.0、より好ましくは、約0.1~約0.5、特に好ましくは、約0.1~約0.25である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること;または
f2)試験サンプルのEC50値が、HLA-クラスI抗体の約3.5ng/ml~約30ng/ml、好ましくは、約9ng/ml~約25ng/ml、より好ましくは、約10ng/ml~約20ng/mlである場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること
を含んでなる方法に関する。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態は、以下に関する:
1.特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による患者の再治療のための、同種異系療法に好適な幹細胞(SC)集団を選択するin vitro方法であって、以下の工程:
a)SC集団のサンプルを、前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度の存在下で培養し(試験サンプル)、かつSC集団のサンプルをIFN-γの非存在下で別に培養すること(対照サンプル);
b)HLA-クラスI抗体が試験サンプルおよび対照サンプルにおいて発現したHLA-クラスIに結合するような条件下で、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲で試験サンプルと対照サンプルとを接触させること;
c)結合したHLA-クラスI抗体が補体で飽和し、かつ補体依存性細胞傷害(CDC)が誘導されるように、補体を試験サンプルおよび対照サンプルに加えること;
d)試験サンプルおよび対照サンプルにおいて誘導された細胞溶解を測定することにより、HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲に関してCDCを決定すること;
e)試験サンプルおよび対照サンプルにおける最大のCDCの50%(EC50値)を誘導するHLA-クラスI抗体の濃度を決定すること;ならびに
f1)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満;特に好ましくは、0.25未満である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること;または
f2)試験サンプルのEC50値が、HLA-クラスI抗体の少なくとも3.5ng/ml、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/mlである場合、同種異系療法のためのSC集団を選択すること
を含んでなる、方法。
【0100】
2.前記方法が、試験サンプルおよび対照サンプルにおけるCD46発現レベルを決定する工程;ならびに対照サンプルにおけるCD46発現に対する試験サンプルにおけるCD46発現の比が、2.0超、好ましくは、2.5超、特に好ましくは、3.0超である場合、同種異系療法のためのSC集団を選択する工程をさらに含んでなる、項目1に記載のin vitro方法。
【0101】
3.前記SC集団が、間葉系幹細胞(MSC)集団、好ましくは、ヒトMSC集団である、項目1または2に記載のin vitro方法。
【0102】
4.前記間葉系幹細胞集団が骨髄由来幹細胞(BM-MSC)集団である、項目3に記載のin vitro方法。
【0103】
5.前記間葉系幹細胞集団が脂肪組織由来幹細胞(ASC)集団である、項目3に記載のin vitro方法。
【0104】
6.前記ASC集団が、CD29、CD73、CD90および/またはCD105を発現する、項目5に記載のin vitro方法。
【0105】
7.前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度が、約0.5~約30ng/ml、好ましくは、約1~約15ng/ml、より好ましくは、約2~約4ng/mlである、項目1~6のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【0106】
8.前記SC集団において最大のHLA-クラスI発現を誘導することができるIFN-γ濃度が、好ましくは、48時間の期間にわたり適用される、3ng IFN-γ/mlである、項目7に記載のin vitro方法。
【0107】
9.前記HLAクラスI抗体が、HLA-A、HLA-Bおよび/またはHLA-Cに特異的に結合する、項目1~8のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【0108】
10.前記HLAクラスI抗体が、HLA-A、HLA-BおよびHLA-Cに特異的に結合し、好ましくは、前記HLAクラスI抗体がマウスモノクローナル抗体である、項目9に記載のin vitro方法。
【0109】
11.前記HLA-クラスI抗体が、ATCC(指定番号:HB-95)またはECACC(番号:84112003)から入手可能なハイブリドーマクローンw6/32により産生される抗体と本質的に同じHLA-Aに対する結合親和性を有する、項目9または10に記載のin vitro方法。
【0110】
12.前記抗体が、ATCC(指定番号:HB-95)またはECACC(番号:84112003)から入手可能なハイブリドーマクローンw6/32により産生される、項目9~11のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【0111】
13.約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の2種類または3種類の異なる濃度が使用され、好ましくは、約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の4種類または5種類の異なる濃度が使用され、より好ましくは、約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の6種類または7種類の異なる濃度が使用され、さらにより好ましくは、約1~約50ng/mlの範囲内の前記HLA-クラスI抗体の8種類または9種類の異なる濃度が使用される、項目1~12のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【0112】
14.前記HLA-クラスI抗体の異なる濃度の範囲が、1ng/ml、3ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/mlおよび50ng/mlである、項目13に記載のin vitro方法。
【0113】
15.請求項1の工程(c)において使用される補体が、血清由来である、項目1~14のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【0114】
16.前記血清が、熱で処理されていない、請求項15に記載のin vitro方法。
【0115】
17.前記血清が、ウサギ、ヤギまたはヒツジ由来、好ましくは、ウサギ由来である、請求項15または16に記載のin vitro方法。
【0116】
18.血清濃度が50~83.33%(v/v)であり、好ましくは、血清濃度が66.66~83.33%(v/v)である、請求項15~17のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【0117】
19.前記細胞溶解が、生細胞もしくは溶解細胞または溶解細胞から放出された放射性物質に対して選択的である化学発光色素または蛍光色素を測定することにより決定される、項目1~18のいずれか一項に記載のin vitro方法。
【0118】
20.特に、前感作された患者の治療または同種異系療法による再治療のための、同種異系療法に好適なSC集団であって、以下の特性:
i)試験サンプルのEC50値に対する対照サンプルのEC50値の比が、1.25未満、好ましくは、1.0未満、より好ましくは、0.5未満、特に好ましくは、0.25未満であり、ここで、前記EC50値は、項目1に示されるように決定される;
ii)試験サンプルのEC50値が、少なくとも3.5ng/ml HLA-クラスI抗体、好ましくは、少なくとも9ng/ml、より好ましくは、少なくとも15ng/ml、特に好ましくは、少なくとも20ng/ml HLA-クラスI抗体であり、ここで、前記EC50値は、項目1に示されるように決定される;および/または
iii)対照サンプルにおけるCD46発現に対する試験サンプルにおけるCD46発現の比が、2.0超、好ましくは、2.5超、特に好ましくは、3.0超であり、ここで、前記CD46発現は、項目2に示されるように決定される、
のうちいずれかを有する、SC集団。
【0119】
21.前記SC集団が、項目1~19のいずれか一項に記載の方法により選択される、項目20に記載のSC集団。
【0120】
22.前記SC集団が、間葉系幹細胞(MSC)集団、好ましくは、BM-MSC集団またはASC集団、好ましくは、ヒトBM-MSCまたはヒトASCである、項目21または22に記載のSC集団。
【0121】
23.項目20~22のいずれか一項に記載のSC集団と場合により薬学上許容可能な担体とを含んでなる、医薬組成物。
【0122】
24.医薬組成物を調製する方法であって、以下の工程:
a)項目1~19のいずれか一項に記載の方法を行うこと;ならびに
b)少なくとも1つの薬学上許容可能な担体とともに選択されたSC集団を処方すること
を含んでなる、方法。
【0123】
25.それを必要とする患者における、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者における、同種異系幹細胞療法における使用のための、項目20~22のいずれか一項に記載のSC集団。
【0124】
26.それを必要とする前記患者が、瘻孔、白血病、リンパ腫、神経変性疾患、脳損傷および脊髄損傷、心疾患、盲目および視力障害、膵ベータ細胞機能喪失、軟骨修復、変形性関節症、筋骨格系疾患、創傷、不妊症、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患から選択される疾患に罹患しており、好ましくは、前記疾患が瘻孔であり、より好ましくは、前記疾患が複雑肛門周囲瘻である、項目25に記載の使用のためのSC集団。
【0125】
27.それを必要とする患者に対して、好ましくは、前感作された患者または再治療を受けている患者において、項目20~22のいずれか一項に記載のSC集団を投与することを含んでなる、同種異系幹細胞療法の方法。
【0126】
28.それを必要とする前記患者が、白血病、リンパ腫、神経変性疾患、脳損傷および脊髄損傷、心疾患、盲目および視力障害、膵ベータ細胞機能喪失、軟骨修復、変形性関節症、筋骨格系疾患、創傷、不妊症、自己免疫疾患および炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患から選択される疾患に罹患しており、好ましくは、前記疾患が瘻孔であり、より好ましくは、前記疾患が複雑肛門周囲瘻である、項目27に記載の同種異系幹細胞療法の方法。
【0127】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例は、単に本発明の特定の実施形態を説明する目的のものであり、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきでものでもない。
【実施例
【0128】
材料と方法
ADMIRE CD1におけるDSA産生のモニタリング
患者
無作為化二重盲検並行群間プラセボ対照試験ADMIRE CD1からの123例の患者のサブグループ(Panes et al. (2016), Lancet 388, 1281-1290)。簡単に述べれば、全例が、CDおよび治療抵抗性の排液性複雑肛門周囲瘻を有する成人患者(18歳以上)であり、1億2,000万個のASCまたは24mL生理食塩水(プラセボ)の単回病変内注射を受けるように選択された。計60例および63例の患者が、それぞれプラセボまたはASCの注入を受け、そのうち105例(ASC58例、プラセボ47例)が、投与後最大52週まで追跡に成功した。
【0129】
ASCドナー
健常ドナー由来のヒト脂肪吸引組織を、他所に記載の通りに処理した(上記で引用したLopez-Santalla et al., 2015)。本試験では、7例の異なるドナー由来のASCを使用し、DonAが、ADMIRE CD1臨床試験で使用されたドナーであった。DonAおよびDonBは、ADMIRE CD2臨床試験(NCT03279081)(この試験は、2例の異なるドナーを使用した)からのものであった。さらに、ドナーDonC、DonD、DonE、DonFおよびDonG由来のASCを分析した。総てのASCドナーが、International Federation for Adipose Therapeuticsおよび国際細胞治療学会(International Society for Cellular Therapy)により設定された同一性および純度基準に適合した(Bourin et al., (2013), Cytotherapy (2013) 15(6): 641-648)。ASCの培養は、他所に記載されている(上記で引用したDelaRosa et al., 2009)。
【0130】
抗HLAの検出
ベースライン時ならびにプラセボまたはASCの投与後12および52週において全患者から採取した、エチレンジアミン四酢酸を含有する末梢血チューブ(Vacutainer(登録商標)スプレーコートK2EDTAチューブ、BD社)の遠心分離により、血漿サンプルを得た。製造業者の説明書に従ってLabscreenMixed(商標)キット(One Lambda Inc.(登録商標)カノガパーク、カリフォルニア州、米国)を使用して、Luminexプラットフォームにおいて抗HLA抗体を検出した。蛍光強度(MFI)の中央値の800単位超のシグナルを有する全サンプルを陽性とみなし、HLA抗体の特異性を、Labscreen Single Antigen(商標)キット(One Lambda Inc.(登録商標)カノガパーク、カリフォルニア州、米国)を使用して決定した。全シグナルをQuantiplex(商標)ビーズ蛍光に従って正規化し、20,000超の標準蛍光強度単位を関連ありとみなした。定性的に、HLA抗体価を、Labscreen Mixedキットに含まれるHLAクラスI分子からの全決定因子ビーズの得られたMFI和と定義した。これにより、提示された抗HLA特異性とは独立に、液性応答の生じたレベルを比較することが可能となった。
【0131】
HLAタイピング
各患者において発現したHLAアレルの割り当てを、chemagic DNA Blood250 KIT(PerkinElmer社)を使用して、末梢血サンプルから得たDNAサンプルから決定した。A260/280吸光度比を調べることにより純度を確認した後、20ng/μL以上のDNA濃度を有する全サンプルを、製造業者の説明書に従って、HLAの座位A、BおよびCに対して特異的なLABType(登録商標)SSOアッセイ(One Lambda社、カノガパーク、カリフォルニア州)を使用して試験した。患者ASCとドナーASCとの間の不適合のキャラクタリゼーションを、アルゴリズムHLAマッチメーカーを使用して、多型残基の非共有の独特の鎖と定義した(以下、エプレットという)(Duquesnoy (2002), Hum Immunol 63, 339-352)。
【0132】
組換え抗HLA抗体(rHLA)とのフローサイトメトリークロスマッチ(FCXM)結合の標準化
標準曲線
クラスIおよびクラスII HLA発現のレベルを、基本条件下でDonAおよびDonB(クラスI)、ならびにDonA(クラスII)由来のASCにおいて決定し、ASCを、インターフェロンIFNγ(3ng/mLで48時間)を使用して前活性化した。50,000個のASCを、増加させた濃度(クローンW6/32は0~15ng/mL、クローンL243は0~3ng/mL)のPE(フィコエリトリン)標識抗ヒトクラスI HLA Ab(クローンW6/32)およびPerCP(ペリジニン-クロロフィル-タンパク質)標識抗ヒトクラスII HLA Ab(クローンL243)(Becton Dickinson社、フランクリン・レイクス、ニュージャージー州、米国)で染色し、暗所にて室温で30分間インキュベートした。
【0133】
血漿サンプルのFCXM結合強度
先に56℃で30分間非働化し、磁気活性化セルソーティング(MACS)緩衝液で1回洗浄したASCを投与された全患者からの治療前12週(W12)および52週(W52)の血漿サンプルを試験した。50μLの非働化血漿を、50,000個のASC(最終容量は100μL)と室温にて30分間インキュベートした。FACS-Fortessa X20セルアナライザーを使用して、サンプルあたりP1ゲート(ASCの総集団)における10,000イベントを取得することにより、HLA-クラスIおよびHLA-クラスIIのMFIを決定した。分析には、BD FacsDiva(商標)ソフトウェア(BD社)を使用した。
【0134】
血漿サンプルのCDCアッセイ
細胞傷害性の測定のために、補体抗ヒトクラスI HLA(CABC-1D、One Lambda Inc(登録商標)カノガパーク、カリフォルニア州、米国)の源としての250μLのウサギ血清を細胞に1時間加えた。次いで、細胞を2回洗浄し、20分以内に20μL FITC抗ヒトIgGとインキュベートした。最後に、洗浄後、LSR Fortessaフローサイトメーター(BD社)における取得による5μLの7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)生存率色素の添加後、細胞傷害性を決定した。
【0135】
FACSによるmCRP定量化
ASCを、通常条件または3ng/mLIFNγ条件のいずれかで48時間成長させた。次いで、ASCをトリプシン処理し、計数した。計50,000個の細胞を100μL MACS緩衝液に再懸濁させた。染色のために、本発明者らは、CD46(カタログ番号564253、BD社)、CD55(MCA1614PE、Serotec社)およびCD59(BRA-10G、Novus Biologicals社)Ab、ならびに対照としてのそれらのそれぞれのアイソタイプ(BD社のIgG2a-APC、IgG1-PEおよびIgG2b-PE)を使用した。20分間の氷上でのインキュベーション後、ASCをMACSで洗浄し、1,500rpmで4分間遠心分離した。最後に、ASCを100μL MACSに再懸濁させ、サイトメトリーチューブに移し、LSR Fortessaフローサイトメーター(BD社)において取得し、BD FacsDiva(商標)(BD社)を使用して分析した。
【0136】
CD46ノックアウト細胞株の産生
以下の公開ゲノムツール:www.genome.ucsc.eduおよびwww.www.ncbi.nlm.nih.gov/geneを使用して、ガイドRNAを、CD46エクソン3を標的とするように設計した。CRISPR RNA(crRNA)送達のために、Alt-R(登録商標)CRISPR-Cas9 System(IDT Integrated DNA Technologies社)を製造業者の説明書に従って使用した。簡単に述べれば、ASCを解凍し、一晩放置した。この後、リボ核タンパク質複合体混合物を調製し、Lipofectamine(商標)RNAiMAX(Thermo-Fisher社)を使用して送達した。crRNAおよびトランス活性化crRNA(tracrRNA)を、最終オリゴ二本鎖作業濃度1μMの無菌微量遠心管内にて等モル濃度で混合した。混合物を、室温で20分間インキュベートした。この後、トランスフェクション複合体を培養プレートに加えた後、ASC懸濁液を加えた。24時間後、ASC培地を交換し、蛍光tracrRNA-ATTO550を使用して顕微鏡下でリポフェクションの有効性を確認した。
【0137】
結果
ADMIRE CD1治療患者における長期のDSAの存在
ベースライン時および治療投与後12週において、Panes, J. et al. (2016), Lancet 388, 1281-1290において報告されたADMIRE CD1試験の123例の患者から血液サンプルを採取し、そのうち63例がASC、60例がプラセボであった。治療投与後52週において、105例の患者(ASC58例およびプラセボ47例)が、血液サンプルを提供した(図1A)。Luminex技術を使用した固相アッセイによる分析で、23例の患者が治療後12週にDSAを産生したことが明らかにされた。予想されたように、プラセボの投与を受けた患者は、DSAを含有するサンプルを産生しなかった(図1A、右のチャート)。さらに、結果は、ASC患者の16%(10/63例)およびプラセボ患者の15%(9/60例)が、ベースライン時に前感作されたことを示した。53例の未治療患者のうち、17例がW12においてASC DSAを産生し、10例の前感作された患者のうち6例が、W12においてASC DSAを産生した(図1A、左のチャート)。全例において、DSAの特異性は、HLAクラスI分子に対してのみ検出され、HLAクラスII分子に対しては検出されなかった。長期追跡調査により、W52においてDSAのさらなる産生は検出されず、この時点において患者の30%(7/23例)がDSAを除去していたことが明らかにされた。興味深いことに、W12においてDSAを産生した未治療患者の群は、35%(6/17例)のクリアランス率を示したのに対し、W12においてDSAを産生した前感作された患者は、W52において17%(1/6例)のクリアランス率を示した。興味深いことに、前感作された患者は、W52において持続した液性応答を示す傾向があった。対照的に、DSAを産生した未治療患者は、それらの基礎DSAレベルに戻る傾向を示した。要約すると、上記の観察所見は、これらのADMIRE CD1患者におけるASCに対する応答は、一次免疫応答動態に従うことを示唆するものである。
【0138】
方法(抗HLAの検出の項)において述べたように、特定のサンプルに対するDSA陽性のレベルは、単一抗原結果の最も制限的な閾値を使用して、すなわち、カテゴリー値(特定のカットオフより上か下か)に従って選択した。しかしながら、精製HLAコートビーズ(Luminex(登録商標)技術において使用されるマイクロスフェア)上に存在する総抗原と比較した結合した抗体の量は、MFI HLAクラスI LSM(最小二乗平均)マイクロスフェアの和として定量化することもできる。期間(治療前および治療後12~52週)を通じて血漿DSA力価を測定した経時的曲線を算出し、応答動態を示し、減少するDSAレベルの尤度を決定した(図1B)。患者を、DSAの存在に基づいて以下の群にクラスター化した:DSAを産生しなかった未治療患者(これらの患者からのベースラインレベルを比較に使用した);アロASC投与後にDSAを産生した未治療患者;投与されたドナーASCの特異性を有する前感作された患者;および使用されたドナー細胞に対する特異性を有さない前感作された患者。予想されたように、DSAを産生しなかった未治療患者は、試験の全過程を通じてHLAクラスI抗体を示さなかった(図1B、左上のパネル)。対照的に、DSAを産生した未治療患者は、増加した抗体価を示した。さらに、ベースラインからW12のMFIの変化は、全患者間で類似しておらず、実際に、特定の患者において、応答は他者よりも強力であるように思われ、患者92(Pat92)が最もアロ応答性であった(図1B、円)。しかしながら、W52においてMFIは全例において減少したことが明らかとなり、これは、ブースター効果後に抗体価の増加が減少する古典的一次応答の抗体プロファイルと一致している。ASCと特異性を共有する前感作された患者の群において、二次応答または記憶応答に一致するプロファイルが認められ、抗体価は、W12およびW52の両方でベースラインレベルを上回っていた(図1B、左下のパネル)。これらの患者は、この場合、持続時間および強度が制限される傾向にあるブースター応答のプロファイルを有する。興味深いことに、未治療患者群、および非応答プロファイルを意味するベースライン時にASC特異性を示さなかった前感作された患者(図1B、右下のパネル)において、類似した動態が確認された。
【0139】
ドナー-患者HLA適合グレードとDSAを産生する確率との間の関連性の可能性を検討した。患者において欠いていたASCドナーのHLA型(エプレット)に存在する多型残基を同定することにより、同種異系認識の前駆体を同定することを目的とした。各患者のエプレットを、ミスマッチ定量化のためにASCドナーのHLAアレルと整列させた。本試験では、アロ感作は、主にHLAクラスIに対して生じ、したがって、HLAクラスIの座位AおよびBを特徴付けることに焦点を当てた。エプレットの総数は、DSAを産生する患者の感受性と相関していた(図1C)。線形回帰分析は、エプレットミスマッチと投与後12週における患者のDSA産生との間の有意な相関を示さなかった。
【0140】
ASCに対する抗HLA抗体のin vitro結合
異なる組織に認められるMSCは、免疫調節特性または同一性マーカーを含む共通の特徴を共有するが、異なる免疫原性応答がin vivoモデルにおいて報告されている。ASCの免疫原性応答を特徴付けるためのFACS分析を使用して、ASC上のHLA-クラスIおよびHLA-クラスII分子の発現、ならびに患者の抗HLA Abに結合するそれらの能力を定量化することを目的とした(図2A)。蛍光標識HLA-クラスI(6週および32週)またはHLA-クラスII(L243)組換えAbの濃度を増加させながら、IFNγによる予備刺激ありまたはなしで、ASCをインキュベートし、染色後のMFIを定量化した。予想されたように、ASCは、基礎レベルでHLA-クラスIを発現し、IFNγ刺激後に強力な過剰発現を示した(図2A)。逆に、HLA-クラスIIレベルは、ベースライン時に陰性であり、IFNγ刺激後に中程度に増加した。
【0141】
血漿サンプル、Pat92(図1B、円)は、治療後の最大のDSA力価を有していた。基本条件において、DSAの結合強度、または補体依存性毒性アッセイにおける有意な増大は検出されなかった。しかしながら、ASCをIFNγで刺激した場合、陽性対照(過免疫サンプルのプール、HIプール)およびPat92サンプル(図2B、左下のパネル)の両方におけるASC結合強度の有意なアップレギュレーションが認められた。結合の増大は、Pat92において高いパーセンテージの細胞傷害死(34%)を伴った(図2B、淡灰色)。このパーセンテージは、試験した他の22例の患者において定量化された死滅のパーセンテージ(3.3~9.3%の範囲)より有意に高く、Pat92が最もアロ応答性であるサンプルであったことが確認された。興味深いことに、Pat92は、投与されたASCとの最高レベルのミスマッチを示した1つのサンプルであったが、W52において抗体クリアランスを示した。同種異系ASC療法の安全性および免疫原性毒性を理解することは、再治療の実現可能性を評価する助けとなるであろう。さらに、それは、前感作された患者および/または新規DSA産生が悪化した患者(例えば、Pat92)におけるそれらの潜在的な影響を決定する助けとなるであろう。
【0142】
血漿DSAはASCに結合し、in vitroにおいて中等度の死滅を誘導する
上記の結果において、63例のADMIRE CD1患者のコホートのうち、10例が既存のHLA-クラスI Abを有し、17例が新規DSAを産生したことが示された。ASCは、HLA-クラスI抗原を発現し、rHLA-クラスI Abに結合することも実証されたが、しかしながら、患者のDSAが、結合し、引き続きASCの細胞傷害死を誘導する能力を有するかどうかは不明である。このことを試験するために、in vitroにおけるASCに対するHLAクラスI抗原の結合に関する前感作群および新規DSA陽性(DSA+)群の異なる親和性を定量化することを目的とした。最初のドナーDonA(ADMIRE CD1試験において投与された)に加え、追加のドナーDonBを、それが患者に投与されなかったため、DSA特異性に関する対照として機能するように含めた(図3A)。ベースラインおよびW12におけるサンプルを、基本条件下で培養された、またはIFNγで予備刺激されたASCに対するHLA-I結合強度に関して、FCXMにより測定した(図3A、上のパネル)。ドナーASCにおける前感作された患者または新規DSA+患者のいずれかに由来するサンプルにおいて、高い結合能は基本条件下で認められなかった。ASCをIFNγで予備刺激した場合、前感作された患者は、DonAのみで、0週(W0)および12週(W12)の両方の来院時に高い同等の結合親和性を有していたことが認められた(図3A、上のパネル)。基本条件およびしたがってASCドナーの膜における低いHLA-I抗原発現は、DonAおよびDonBの両方における低い結合親和性と相関していた(図3A、下のパネル)。注目すべきことに、新規DSA+サンプルにおけるW12とベースラインとの間のDonAに由来する患者のサンプルの比較において、結合親和性の有意な増大が認められた(図3A、下のパネル)。上記のデータは、基本ASCにおけるHLAの濃度は、in vitroにおけるDSAの有意な結合を示すのに十分ではないことを示唆している。さらに、大部分の患者におけるDSAの濃度は、非活性化ASCまたは活性化ASCの両方において、有意な結合強度を示すのに十分であるとは思えない。これらの結果は、ドナーと免疫特異性も共有する高いDSAレベルを有する患者のみが、有意なHLA-クラスI結合をもたらした、臓器移植試験の実質臓器移植フローサイトメトリークロスマッチング観察所見と一致している。
【0143】
次に、既存のHLA-I抗体および同種異系投与後に産生されたDSAが、補体を固定し、したがって、in vitro CDCを惹起することができたかどうかを理解することを目的とした。フローサイトメトリー分析(FCtox)によるCDCアッセイを最適化し、7-AADの取り込みを細胞死の読み出し情報として確立した。DonAおよびDonB ASCを含有する前感作された患者および新規DSA+患者(ベースライン~W12)由来の血漿サンプルを、基本条件下またはIFNγ刺激前のいずれかで、ウサギC3補体の存在下でインキュベートした。前感作された患者のコホートにおいて、W12サンプルは、基本条件およびIFNγ条件の両方において、DonBにおける中程度の細胞傷害死(0~5% 7-ADD+細胞)を誘導した。DonA ASCにおいて認められるように、同じサンプルのインキュベーションは、基本(2例の患者)条件およびIFNγ(3例の患者)条件においてより高い細胞傷害死を誘導した(図3B)。新規DSA+W12サンプルは、基本条件下で補体を固定し、細胞傷害死を誘導することもできた。予想されたように、IFNγで刺激した場合、より高いパーセンテージの細胞死がDonA ASCにおいてのみ得られた(図3B)。これらのデータは、既存のHLA-クラスI AbおよびDSAは、ASCに結合し、DonA ASCにおいて特異的に中程度のCDCを誘導することができることを示唆している。興味深いことに、前感作コホートまたは新規DSA+コホートのいずれにおいても、DonBは、有意な細胞傷害性のパーセンテージを誘導しなかったが、ベースラインと比較してW12において細胞死が増加する傾向が認められた。このことに対する1つの考えられる説明は、この試験において使用された2例のドナー間で共有されたHLA多型アレルの存在であり得る。HLAタイピングを行い、DonBがDonAと共通のアレルを共有することが見出された。
【0144】
DonAおよびDonB由来のDNAを精製し、HLAアレルキャラクタリゼーションのためにLABType(登録商標)SSOアッセイにより試験した。太字で、DonAおよびDonBにより共有されるHLA-Aアレルを示す(表1参照)。
【0145】
【表1】
【0146】
この共有されたHLAアレルは、DonBにおけるW12サンプルにおける細胞傷害性レベルが増大する傾向の原因である可能性がある。
【0147】
ASCにおけるmCRPの高発現
DSAにより影響されるASCの中等度の死滅を理解するために、ASCが細胞傷害死に対処する、かつ/またはそれを回避することを可能にし得る補体阻害戦略を同定することを目的とした。補体シグナル伝達阻害に関する1つの古典的機序は、mCRP CD46、CD55およびCD59の誘導である(Gancz and Fishelson, 2009;Ricklin et al., 2010;Tegla et al., 2011)。MSCは低レベルのCD46およびCD55、ならびに高レベルのCD59を発現することを示している著者らがいる一方で、MSCは中レベルの全mCRPを発現することを示唆している著者らもいる。この論争に立ち向かうために、CD46、CD55およびCD59の発現レベルを、IFNγで刺激したASCまたは刺激しなかったASCのパネルにおいて分析し、市販のBM-MSCと発現レベルを比較した(図4A)。CD46、CD55およびCD59の基礎レベルは、BM-MSCと比較してASCにおいて高かったことが認められた。この生理学的に意義のあるシナリオを反復するために、mCRPレベルを、ASC免疫調節応答の重要なメディエーターであるIFNγの存在下(炎症促進環境)で試験した。BM-MSCにおけるmCRPの有意な調節は認められなかったが、ASCは、IFNγ刺激後に強力にmCRPを誘導するように思われた。CD46誘導は、ASCにおいて特に顕著であり、BM-MSCと比較しておよそ2.14倍であった。上記の結果は、ASCは基本条件下でmCRPを強力に発現し、発現はIFNγの存在下でさらに増強されることを示唆するものである。このことは、CDCの負の調節におけるmCRPの重要な役割を示唆するものであり、DSA誘導細胞傷害性に対処するためのASCにおける細胞保護機序をほのめかすものであろう。このことは、DSAにより課せられる中等度の死滅レベルを説明できる可能性がある。
【0148】
異なるASCドナーにおけるmCRPの発現パターンは同等であったが、一部のドナーは、特定のmCRPの特異的発現を示した(図4B)。具体的には、DonCは、他のドナーと比較して高いCD46およびCD55レベルを示し、DonEおよびDonFは、CD55を優先的に過剰発現した。mCRPの差次的発現がCDCに対する感受性差に影響を及ぼし得るかどうかをさらに検討した。この答えを出すために、HLA-I抗原発現の動態およびこのパネルのASCドナー間のその結合親和性を検討した。これを試験するために、ASCドナーを増加した濃度のrHLA-クラスI W6/32に供した。次に、それらの結合親和性をFACSにより測定した(図4C)。基本条件下でのドナー間の異なる結合親和性(すなわち、10ng/mL W6/32でDonCをDonGと比較した場合、12倍の差)が認められた。IFNγ刺激後、W6/32結合の増大により示されるように、HLA-I抗原がASCドナーにおいて誘導された(図4C)。また、ドナー間の異なる結合親和性(DonBをDonGと比較した場合、10ng/mLで6.25倍の差)が認められた。並行して、CDCアッセイに対する異なるASCドナーの感受性を試験した。基本条件下で、DonEは最高W6/32濃度において約25%の細胞死を示し、残りのドナーにおいては、これはおよそ15%であったが、DonDおよびDonGは例外で、より低いパーセンテージを示した(図4C)。予測されたように、IFNγ刺激後、CDC感受性レベルは全ASCドナーにおいて劇的に増加したが、CDC媒介細胞死に対して比較的抵抗性のままであったDonBおよびDonCにおいてはより少ない程度で増加した(図4C)。
【0149】
次に、高いW6/32結合親和性がCDC感受性の亢進と相関したかどうかを決定することを目的とした。この相関分析を行うために、W6/32濃度を10ng/mLに設定したが、その理由は、この値は、(指数関数後およびプラトー前の)曲線の移行相を誘発するAb量であったからである。基本条件またはIFNγ刺激シナリオのいずれにおいても有意な相関は認められなかった(図6A)。注目すべきことに、本発明者らは、比較的低いW6/32 Ab MFIレベル(低結合)を発現しているにもかかわらず、CDCに対する高い感受性を示したASCドナーの群を同定した。このことは、W6/32 Ab結合とCDCに対する感受性との間には絶対的な相関はないことを示唆するものである。3つのmCRPのうちどれがASCのCDC阻害に対する寄与因子であるかを決定するために、本発明者らは、10ng/mLのW6/32で達成された細胞死レベルを、基本条件およびIFNγ条件の両方におけるMFI発現レベルと相関させた(図6B)。試験したmCRP分子のいずれでも、基本条件下で正の相関は認められなかった。しかしながら、IFNγ刺激後、より低いCD46およびCD55レベルが、より高い細胞死レベルと有意に相関していたことが認められた。最後に、CD46の傾きの有意性は、CD55と比較してわずかに高かった。
【0150】
CD46枯渇はin vitroにおいてASCのCDC感受性を増加させる
CD55またはCD59と比較したIFNγ刺激後のCD46の頑強な誘導、およびCD55と比較したCD46のドナー間変動の減少とともに細胞傷害性相関の高い有意性により促され、本発明者らは、CD46およびASCにおけるCDC感受性におけるその潜在的影響の徹底的な分析を行った。公開ゲノムブラウザを使用して、CD46をノックダウンするためのトップgRNA配列(ncbi.nlm.nih.gov/gene and crispr.mit.edu)を同定した。最適なガイドRNA(gRNA)配列を、2つのパラメーター:高特異性および低いオフターゲットスコアに基づいて選択した。エクソン3を標的とする2つの最適なcrRNA(crRNA1およびcrRNA2)を、有効性スクリーニングのために選択した。crRNA:tracrRNA-ATTO550:Cas9複合体の送達を、顕微鏡下で調べた。リポトランスフェクションの24時間後、大多数のASCが、高いCas9媒介二本鎖切断事象と相関していたリボ核タンパク質複合体を取り込んでいたことが認められた(図6C)。CRISPR媒介ノックダウンの有効性を確認するために、ASCをIFNγの存在下または非存在下で培養し、FACSによりCD46発現を分析した。crRNA1の有効性は、通常条件下およびIFNγ条件下の両方でcrRNA2と同等であり、このため、本発明者らは、ASCs-CD46KOクローンの産生のためにcrRNA1を選択した(図6D)。
【0151】
ノックダウン特異性を確認した後、低いCDC感受性を有する1例のドナーを選択し、CD46の選択的枯渇がそれを細胞傷害死に対して感作させ得るかどうかを試験した。DonBを選択し、基本条件およびIFNγ条件におけるW6/32媒介細胞傷害性アッセイ(図5A)を行った。CD46ノックダウンは、基本条件下で細胞傷害死の中程度の増大を誘導し(図5A、左のグラフ)、これはおそらく、低いHLA-I結合およびその後の補体結合に起因するものであった。IFNγ刺激後、親ASCにおける細胞傷害死のパーセンテージの有意な増加が認められ、これは、CD46KO ASCにおいてさらに増強された(図5A、右のグラフ)。10ng/mL W6/32の生理学的用量において、親ASCにおいて約50%の7-AAD陽性細胞が認められ、CD46ノックダウンは、最大約95%まで死滅のパーセンテージを増加させ、CD46は、少なくともDonBにおいて、細胞傷害死の予防における重要な機能を果たすことが示唆された。
【0152】
CD46細胞傷害性阻害機能が他のASCドナーにおいて有効であるかどうかを試験するため、細胞傷害性分析を7例のドナーのパネルにおいて行い、基本条件(図5B、左のグラフ)からASC IFNγ刺激前(図5B、右のグラフ)の平均曲線をプロットした。両方の試験条件下で、CD46KO ASCドナーは、親対照と比較してCDCに対する感受性の亢進を示した。半数効果濃度(EC50)曲線の左側へのシフトは、W6/32 Abの濃度の減少がCDCを誘導するために必要であることを意味し、これは、CDCに対する感受性の亢進と相関している。次に、曲線のシフトを定量化するために、本発明者らは、W6/32 AbのEC50を計算した(図5C)。
【0153】
以下の表2は、基本条件およびIFNγ条件における7例の親ASCおよび対応するCD46KO ASCのW6/32 Ab(ng/mL)の半数効果濃度を示す。列4および7において、倍率変化の差(CD46KO EC50/親EC50)を計算した。
【0154】
【表2】
【0155】
基本条件下で、CD46KOドナーは、親ドナーと比較して減少したEC50を示し、W6/32に対するより高い感受性が示唆された(図5C、4番目の列)。IFNγ条件下で同様の効果が認められ(図5C、7番目の列)、CD46発現はin vitroにおいてASCに対してCDC抵抗性を与えることが確認された。このデータは、CD46はCDCを媒介し、ASCにおけるその枯渇は、CDC感受性の亢進と相関することを確認するものである。
図1A-1】
図1A-2】
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
【国際調査報告】