(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-15
(54)【発明の名称】治療薬又は造影剤を含む細胞外小胞を生産するための流体システム及び方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220408BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220408BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220408BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220408BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220408BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220408BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220408BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220408BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220408BHJP
A61K 31/409 20060101ALI20220408BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20220408BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220408BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20220408BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20220408BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220408BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220408BHJP
A61K 51/02 20060101ALI20220408BHJP
C12M 1/02 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/071
A61P31/00
A61P37/02
A61P29/00
A61P35/00
A61P3/00
A61P17/02
A61P25/28
A61K31/409
A61K31/7048
A61K31/704
A61K31/4745
A61K31/475
A61K31/7068
A61K47/46
A61K51/02 200
C12M1/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538058
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 FR2019053308
(87)【国際公開番号】W WO2020136361
(87)【国際公開日】2020-07-02
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516086358
【氏名又は名称】サントル ナショナル デ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】515061558
【氏名又は名称】ユニバーシティ デ ロライン
(71)【出願人】
【識別番号】520011614
【氏名又は名称】ユニバーシティ デ パリ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マランゴン,アイリス
(72)【発明者】
【氏名】ミラード,マリー
(72)【発明者】
【氏名】ボロティン,リナ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァ,アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】グランジエ,アリス
(72)【発明者】
【氏名】ガゾー,フロレンス
(72)【発明者】
【氏名】ウィルヘルム,クレア
(72)【発明者】
【氏名】ピフォクス,マックス
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB11
4B029FA15
4B065AA93X
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC01
4C076CC05
4C076CC07
4C076CC19
4C076CC21
4C076CC27
4C076EE56
4C076FF68
4C085HH01
4C085HH03
4C085HH07
4C085HH11
4C085KA28
4C085KA29
4C085KB99
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB04
4C086CB21
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4C086MA05
4C086NA13
4C086ZA02
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB32
4C086ZC21
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのコンテナと、コンテナに収容された液体培地と、プロデューサー細胞と、液体培地スターラと、プロデューサー細胞の成長に適したスターラの速度を制御するための手段とを備える、プロデューサー細胞からの細胞外小胞(EV)の内腔に治療薬又は造影剤を搭載するための流体システムであって、スターラの速度を制御するための手段も備え、スターラ及びコンテナの形状及び寸法は、流体システムにより同時に生産された細胞外小胞(EV)の内腔への治療薬又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ内の液体培地に乱流を生じさせてプロデューサー細胞に剪断応力を加えるのに適していることを特徴とする流体システムに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのコンテナ(4)と、前記コンテナ(4)に収容された液体培地(5)と、プロデューサー細胞(6)と、前記プロデューサー細胞(6)の成長に適した液体培地(5)のスターラ(7)とを備える、プロデューサー細胞(6)からの細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載するための流体システム(1)であって、前記スターラ(7)の速度を制御するための手段も備え、前記スターラ(7)及び前記コンテナ(4)の寸法は、流体システム(1)によって同時に生産された細胞外小胞(EV)の膜又は内腔への治療薬又は造影剤の搭載を実施するべく前記コンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流を生じさせて前記プロデューサー細胞(6)に剪断応力を加えるように適合され、前記流れのコルモゴロフの長さは100μm未満であることを特徴とする流体システム(1)。
【請求項2】
前記流れのコルモゴロフの長さが、80μm未満、好ましくは70μm未満、さらにより好ましくは60μm未満である、請求項1に記載の流体システム(1)。
【請求項3】
出口(9)と、前記出口(9)に接続されたコネクタ(13)を備え、前記コネクタ(13)は、液体培地(5)及び細胞外小胞(EV)を含むことができる、請求項1又は請求項2に記載の流体システム(1)。
【請求項4】
前記液体培地のスターラ(7)は、その回転速度、形状、及びサイズが、前記コンテナ内の前記液体培地(5)に乱流を生じさせるために前記コンテナ(4)の形状及び寸法と適合される、回転スターラである、請求項1~請求項3のうちの一項に記載の流体システム(1)。
【請求項5】
細胞外小胞(EV)が枯渇した液体培地(5)を前記コンテナ(4)に再導入することができるように、前記コンテナ(4)に流体接続された細胞外小胞(EV)のセパレータ(15)を備える、請求項1~請求項4のうちの一項に記載の流体システム(1)。
【請求項6】
プロデューサー細胞(6)からの細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法であって、
前記細胞外小胞(EV)の膜又は内腔への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流を生じさせて前記プロデューサー細胞(6)に剪断応力を加えるスターラ(7)の速度を制御することであって、前記流れのコルモゴロフの長さは100μm未満であり、前記コンテナは出口(9)を備え、前記液体培地(5)は、前記治療薬及び/又は造影剤と、プロデューサー細胞(6)を含む、スターラ(7)の速度を制御することと、
前記コンテナ(4)の出口(9)で前記細胞外小胞(EV)を含む前記液体培地(5)を収集することと、
を含む方法。
【請求項7】
細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法であって、
液体培地(5)に細胞外小胞(EV)を提供することと、
前記細胞外小胞(EV)の膜又は内腔への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流を生じさせて小胞に剪断応力を加えるスターラ(7)の速度を制御することと、
を含み、前記流れのコルモゴロフの長さは100μm未満であり、前記液体培地(5)は、前記治療薬及び/又は造影剤を含む、方法。
【請求項8】
プロデューサー細胞(6)の膜又は細胞質に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法であって、
プロデューサー細胞(6)の膜又は細胞質への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流を生じさせてプロデューサー細胞(6)に剪断応力を加えるスターラ(7)の速度を制御することであって、前記コンテナ(4)内の流れのコルモゴロフの長さは100μm未満であり、前記コンテナは出口(9)を備え、前記液体培地(5)は、前記治療薬及び/又は造影剤と、プロデューサー細胞(6)を含む、スターラ(7)の速度を制御することと、
前記コンテナ(4)の出口(9)で細胞外小胞(EV)を含む前記液体培地(5)を収集することと、
随意的に、封入されたプロデューサー細胞の収集と、
を含む、方法。
【請求項9】
前記流れのコルモゴロフの長さが、80μm以下、好ましくは70μm以下、さらにより好ましくは60μm以下である、請求項6~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記液体培地(5)を20分以上攪拌する、請求項6~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
強度が増加又は減少する一定の間欠的な液体培地の流れを生じるように前記スターラを制御する、請求項6~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
セパレータが、前記コンテナ(4)の出口で収集された液体培地(5)の一部を細胞外小胞(EV)に枯渇させ、前記液体培地(5)の一部が前記コンテナ(4)に再導入される、請求項6又は請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の流体システム(1)の実装によって、及び/又は請求項6、請求項7、又は請求項9~請求項12のいずれか一項に記載のプロデューサー細胞(6)からの細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法によって得られる、少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤が搭載された細胞外小胞。
【請求項14】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の流体システム(1)の実装によって、及び/又は請求項8に記載のプロデューサー細胞(6)の膜又は細胞質に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法によって得られる、少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤が搭載されたプロデューサー細胞(6)。
【請求項15】
前記少なくとも1つの造影剤及び/又は少なくとも1つの治療薬の投与のためのベクターとして用いるための請求項13に記載の少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤が搭載された細胞外小胞。
【請求項16】
感染性疾患、炎症性疾患、免疫疾患、代謝性疾患、癌性疾患、遺伝性疾患、変性疾患、又は手術又は外傷に続発する疾患の治療に用いるための請求項15に記載の少なくとも1つの治療薬が搭載された細胞外小胞。
【請求項17】
前記治療薬が、テモポルフィン、アンホテリシンB、ダウノルビシン、イリノテカン、ビンクリスチン、シタラビンから選択されることを特徴とする、請求項6~請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項13に記載の細胞外小胞、請求項14に記載のプロデューサー細胞、又は請求項15又は請求項16に従って用いるための少なくとも1つの治療薬が搭載され、前記治療薬が、テモポルフィン、アンホテリシンB、ダウノルビシン、イリノテカン、ビンクリスチン、シタラビンから選択されることを特徴とする、細胞外小胞。
【請求項19】
蛍光イメージング、発光、又は放射性同位体の検出によるイメージング、磁気、プラズモン、音声、又は放射線不透過性特性をもつ造影剤などの、前記少なくとも1つの医用造影剤の投与のためのベクターとしての、請求項15に記載の少なくとも1つの造影剤が搭載された細胞外小胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、細胞外小胞の生産及び少なくとも1つの治療薬又は造影剤の搭載に関する。より詳細には、本発明は、プロデューサー細胞からの細胞外小胞に治療薬又は造影剤を搭載するためのシステム、このような小胞に治療薬又は造影剤を搭載し、このような小胞を回収するための方法、及びこのようなシステムによって生産された小胞に関し、細胞外小胞は、例えば、治療薬又は造影剤の送達のためのベクターとして、細胞治療の代替として、及び再生医療において関心がもたれている。
【背景技術】
【0002】
細胞は、それらの環境に、例えば、インビボで、生物の生物流体中に、細胞外小胞を放出することが知られている。細胞外小胞は、人体に、個人に合わせた又は標的に向けた様態で、薬剤を送達するための効果的な手段として認識されている。それらは、第1に、固有の生体適合性と免疫寛容を有する。それらはまた、セラノスティックナノ粒子を内包することができ、体の特定の部分の画像化と、治療機能をもつ活性成分の送達との両方を可能にする。細胞外小胞はまた、細胞間コミュニケーション機能をもち、それらは、例えば、脂質、膜及び細胞質タンパク質、及び/又はmRNA、マイクロRNA、又は長鎖ノンコーディングRNAなどの細胞質のヌクレオチドを、異なる細胞間で輸送することを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特に、細胞外小胞の使用により、細胞の複製、分化、血管閉塞、拒絶反応のリスク、保存及び凍結の難しさなどの、細胞の治療的使用で知られている問題を解決することができる。したがって、特に細胞治療の置き換え又はそれに加えて、治療的使用に十分な量の機能化された(すなわち、関心ある化合物が搭載された)細胞小胞に対する産業上の必要性がある。細胞外小胞(EV)のユニークな特性とそれらの生物学的許容性は、体液中を循環する酵素を保護しながら生物活性高分子を送達するための利点であると現在考えられている。
【0004】
治療的使用における2つの主な課題は、(i)臨床使用に十分な量のEVの生成と、(ii)関心ある生物活性化合物の搭載効率である。
【0005】
今日、2つの主要なタイプの搭載技術、すなわち、(i)親細胞の生物学的修飾、又は(ii)物理的手段によるEV生産後の搭載が説明されている。親細胞での搭載に関して、自発的搭載又はトランスフェクションによる技術が説明されている。例えば、細胞が、EVで過剰発現しているlamp2bタンパク質の細胞外部分にRVGペプチドを発現するように設計されている(Alvrez-Erviti et al, 2011)。しかしながら、関心あるペプチドに融合したlamp2bをエンコードするプラスミドによる母細胞のトランスフェクションに関するこのような戦略は、時間がかかり、課題をもたらし、適正取扱い規範(製造管理及び品質管理規則、又はGMP)のスケーラブルなプロセスに準拠するのが難しい可能性がある。並行して、エレクトロポレーション法は、EV生産後の搭載に用いることができる方法である。この方法は、siRNA(Shtam et al, 2013)、DNA(Lamihhane et al, 2015)、及びドキソルビシン(Tian et al, 2014)などの種々の化合物をEVに封入するために用いられている。しかしながら、siRNAの封入は、siRNA凝集体が形成されるので非能率的であることがわかっている。国際出願WO2004/083379も、電荷の印加を含む、外因性の要因を細胞外小胞に導入する方法を説明している。機能化されたEV(すなわち、関心ある化合物が搭載された小胞)を得るための別の方法は、EVを機能化するべく破壊することを含む(Haney et al, 2015)。この方法は、実装が容易であるが、空胞構造を維持することはできず、膜及びタンパク質の非対称性が失われ、膜タンパク質の再配列が不十分になる。Smyth et alは、クリックケミストリーによるEV搭載方法を開示している。この方法は、EVの膜タンパク質に関心ある化合物を結合させるためにこれらのタンパク質に特定の官能基を搭載することに本質がある。しかしながら、この方法では、小胞の内腔に封入することはできない。
【0006】
したがって、小胞のトポロジーと元の特性を保持し、小胞の内腔に封入することができる、機能化された細胞外小胞(EV)を得る方法を提供する必要がある。また、この方法は、EVにあらゆる種類の化合物を任意のサンプルボリュームで封入する必要がある。最後に、この方法は、製造管理及び品質管理規則(GMP)に準拠した又は少ないステップ数で実装が容易な臨床使用のEV搭載を行う必要があり、大量のカーゴなどを含む、多量の封入されたEVが得られる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、細胞外小胞の膜又は内腔に治療薬及び/又は造影剤を搭載し、したがって、GMP標準に準拠した条件下で、公知の方法よりも大量に、より迅速に、且つより効率よく、プロデューサー細胞からの細胞外小胞を機能化する方策を提供することである。本発明の別の目的は、小胞への治療薬及び/又は造影剤の搭載システムの収率、すなわち、治療薬及び/又は造影剤が搭載された小胞の数と搭載されていない小胞の数との比を増加させる方策を提案することである。本発明の別の目的は、治療薬及び/又は造影剤が搭載された細胞外小胞を連続的に又はバッチで搭載、生産、及び回収する方策を提案することである。最後に、本発明の別の目的は、小胞に治療薬及び/又は造影剤を搭載する及び生産するための流体システムの構造を単純化し、その製造コストを削減することである。
【0008】
したがって、本発明は、流体システムによって生産された細胞外小胞に治療薬及び/又は造影剤を搭載する方策を提案する。
【0009】
特に、本発明の目的は、少なくとも1つのコンテナと、コンテナに収容された液体培地と、プロデューサー細胞と、プロデューサー細胞の成長に適した液体培地スターラとを備える、プロデューサー細胞からの細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に治療薬及び/又は造影剤を搭載するための流体システムであって、スターラと、スターラの速度を制御するための手段も備え、コンテナの寸法は、流体システムによる細胞外小胞(EV)の生産と同時に流体システムにより生産された細胞外小胞(EV)の膜又は内腔への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ内の液体培地に乱流を生じさせてプロデューサー細胞に剪断応力を加えるのに適していることを特徴とする流体システムである。
【0010】
このようなシステムにより、治療薬及び/又は造影剤が搭載された小胞をGMP標準に適したシステムで大量に生産することが可能であることが理解される。また、このようなシステムは、細胞外小胞に搭載及び機能化するための公知のシステムよりも製造が簡単で安価であり、流れのコルモゴロフの長さが100μm未満であることも含む。
【0011】
本発明は、個々に又はそれらの技術的に可能な組み合わせのいずれかで採用される以下の特徴により有利に完成される:
- 流れのコルモゴロフの長さは、100μm以下、優先的には70μm以下、より好ましくは60μm以下である、
- 流体システムは、出口と、出口に接続されたコネクタを備え、コネクタは、液体培地及び細胞外小胞を含むことができる、
- 流体システムは、付着性のプロデューサー細胞が付着することになるマイクロキャリアを備える、
- スターラは、好ましくは回転スターラであり、その回転速度又は速度、形状、サイズは、コンテナ内の液体培地に乱流を生成するために、コンテナの形状及び寸法と適合される、
- マイクロキャリアは、マイクロビーズであり、マイクロビーズの直径は、100μmから300μmの間である、
- 流体システムは、細胞外小胞(EV)が枯渇した液体培地をコンテナに再導入することができるようにコンテナに流体接続された、細胞外小胞のセパレータを備える。流体システムは、コネクタを閉じる又は開くためにセパレータの上流に閉鎖手段を備えることができ、したがって、小胞を連続的に又は非連続的に回収するためのシステムが得られる。
【0012】
本発明の別の目的は、プロデューサー細胞からの細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法であって、
・細胞外小胞(EV)の膜又は内腔への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ内の液体培地に乱流を生じさせてプロデューサー細胞に剪断応力を加えるスターラの速度を制御するための手段であって、コンテナ内の流れのコルモゴロフの長さは、100μm未満、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下であり、コンテナは出口を備え、液体培地は、治療薬及び/又は造影剤と、プロデューサー細胞を含む、スターラの速度を制御するための手段と、
・コンテナの出口での細胞外小胞(EV)を含む液体培地の収集と、
を含む方法である。
【0013】
プロセスは、個々に又はそれらの技術的に可能な組み合わせのいずれかで採用される以下の特徴により有利に完成される:
- 液体培地を20分以上攪拌する、
- 強度が増加又は減少する一定の間欠的な液体培地の流れを生じるようにスターラを制御し、流れのコルモゴロフの長さは、100μm未満、優先的には70μm以下、より優先的には60μm以下である、
- コンテナの出口で収集された液体培地の一部は細胞外小胞が枯渇しており、このような枯渇している液体をコンテナ内の液体培地の一部に再導入することを可能にするセパレータ、
- 液体培地中の小胞、プロデューサー細胞、及び治療薬及び/又は造影剤を分離するための、収集後の超遠心分離又はタンジェンシャル濾過ステップ、
- コンテナの出口での細胞外小胞(EV)は、治療薬及び/又は造影剤が搭載された細胞外小胞と搭載されていない細胞外小胞の混合物を含む。
- 流れは、コンテナ内で同時に、細胞外小胞(EV)を生産することと、細胞外小胞(EV)に治療薬を封入することを可能にする。
【0014】
本発明の方法に係る細胞外小胞への搭載は、それらの生産とは独立して実施することもできる。したがって、本発明の1つの目的は、以前に生産された細胞外小胞の懸濁液を直接使用することによって少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法である。したがって、本発明の1つの目的は、細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に搭載する方法であって、
- 液体培地(5)に細胞外小胞を提供することと、
- 細胞外小胞の膜又は内腔への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ内の液体培地に乱流を生じさせて小胞に剪断応力を加えるスターラの速度を制御することと、
を含み、流れのコルモゴロフの長さは100μm未満であり、液体培地は、治療薬及び/又は造影剤を含む、方法である。
【0015】
本発明の別の目的は、プロデューサー細胞の膜又は細胞質に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法であって、
・プロデューサー細胞の膜又は細胞質への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ内の液体培地に乱流を生じさせてプロデューサー細胞に剪断応力を加えるスターラの速度を制御することであって、コンテナ内の流れのコルモゴロフの長さは、100μm以下、好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下であり、コンテナは出口を備え、液体培地は、治療薬及び/又は造影剤と、プロデューサー細胞を含む、スターラの速度を制御することと、
・コンテナの出口で細胞外小胞を含む液体培地を収集することと、
を含む方法である。
【0016】
このプロデューサー細胞に搭載する方法は、個々に又はそれらの技術的に可能な組み合わせのいずれかで採用される以下の特徴により有利に完成される:
- 液体培地を20分以上攪拌する、
- 強度が増加又は減少する一定の間欠的な液体培地の流れを生じるようにスターラを制御し、流れのコルモゴロフの長さは、100μm未満、優先的には70μm以下、より優先的には60μm以下である。
【0017】
実験によって示されるように、本発明のシステム又は方法は、受動的に封入/生産された小胞及び/又は細胞に比べて特により高濃度で(測定された増加は39%から592%まで変化する)、少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤が封入された小胞及び/又はプロデューサー細胞を得ることを可能にする。したがって、前記プロデューサー細胞及び細胞外小胞は、特に興味深いものであり、したがって本発明の目的を構成する。本発明の小胞は、少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤のベクターとして特により興味深い。これらの使用も本発明の目的を構成する。
【0018】
より具体的には、本発明の方法に従って搭載された小胞は、テモポルフィンに関連するデータによって示されるように、リポソーム製剤に比べて向上した薬力学的及び治療的特性を有する。したがって、本発明の特定の目的は、その実施形態のいずれか1つにおける本発明に係る方法、この方法に従って得られた細胞外小胞、プロデューサー細胞であり、前記治療薬は、テモポルフィン、アンホテリシンB、ダウノルビシン、イリノテカン、ビンクリスチン、シタラビンから選択される。
【0019】
定義
「細胞外小胞」という用語は、一般に、プロデューサー細胞によって内因的に放出された小胞を指し、その直径は、30nmから5000nmの間である。細胞外小胞は、特に、エクソソーム及び/又は微小胞及び/又は細胞アポトーシス小体に対応する。細胞外小胞は、プロデューサー細胞からの膜及び/又は細胞質マーカを含むことが当技術分野から知られている。これらのマーカは、これらの小胞を識別する及び特徴付けることを可能にし、そうした機能を担う。実験パートに示すように、本発明に係る小胞は、例えばリポソームよりも効果的であり、それらがベクターとなる分子の薬物動態/薬力学(PK/PD)の向上を可能にする。
【0020】
「プロデューサー細胞」という用語は、一般に、分裂及び増殖することができる、培地に付着しない細胞又は培地に付着する細胞のいずれかを意味する。本発明の別の態様によれば、「プロデューサー細胞」という用語は、ヒト、動物、又は植物由来の、或いは細菌又は他の微生物に由来する、細胞外小胞を分泌することができる細胞を表す。付着細胞の場合、これらは、液体培地に懸濁されたマイクロキャリア自体に付着することができる。本発明の別の態様によれば、「プロデューサー細胞」という用語は、細胞凝集体を表す。「細胞凝集体」という用語は、互いにしっかりと付着している複数のプロデューサー細胞の集合体を表す。スターラによって生じる穏やかな混合は、付着性のプロデューサー細胞が液体培地に懸濁されたままであることを可能にする。
【0021】
「マイクロキャリア」及び「マイクロ支持体」という用語は、球形マトリックスを示し、これは、その表面又は内部に付着したプロデューサー細胞の成長を可能にし、サイズは50μmから500μmの間、好ましくは100μmから300μmの間である。マイクロキャリアは、一般にビーズであり、その密度は、プロデューサー細胞の液体培地の密度に実質的に近いように選択される。したがって、穏やかな混合は、ビーズが液体培地に懸濁されたままであることを可能にする。
【0022】
「治療薬」又は「造影剤」という用語は、一般に、細胞外小胞に搭載する、挿入することができる、関心ある任意の薬剤を指す。これらの薬剤は、治療目的、造影目的の、治療粒子、造影粒子、ナノ粒子などであり得る。実験データが示すように、本発明は、プロデューサー細胞のタイプに関係なく、小分子、ポリマー、タンパク質などの多様なサイズの治療薬又は造影剤の搭載の向上を可能にする。したがって、本発明に係る方法によって組み込まれる、したがって、本発明の細胞外小胞がベクターとなり得る、治療薬の可能な多様性により、また多種多様な使用可能なプロデューサー細胞により、本発明に係る小胞は、任意の種類の治療に使用可能であり、例えば、限定ではない様態で、感染性疾患、炎症性疾患、免疫疾患、代謝性疾患、癌性疾患、遺伝性疾患、変性疾患、又は手術又は外傷に続発する疾患の治療が挙げられる。生物学的利用能が低い分子のベクターとなることが特に好ましい。同様に、多様な造影剤及び/又はトレーサーを、本発明に係る細胞外小胞に搭載することができ、例えば、限定ではない様態で、蛍光剤、発光剤、放射性同位体、磁気、プラズモン、音声、又は放射線不透過性特性をもつ造影剤が挙げられる。これはまた、小胞の生体内分布を変化させるために、標的薬剤を含むこれらの薬剤に結合されたタンパク質又は他の生物学的又は合成分子であり得る。
【0023】
「スターラ」という用語は、一般に、液体を攪拌するための手段を指す。これは、液体の一部と少なくとも部分的に接触し、この液体を動かすことを可能にする機械要素であり得る。これは、例えば回転スターラが当てはまる。液体の動きを誘発する様態で、回転スターラの形状特徴を変化させることによって、又は他のタイプの作用を単独で又は組み合わせて使用することによって、液体の動き及び混合をもたらすために数多くの変形例を使用できることが当業者には分かるであろう。したがって、「シェイクフラッシュ」反応器は、振とう運動を使用して液体の動き及びその混合を誘発し、「エアリフト」反応器は、液体への気泡の注入を使用して液体の動き及びその混合をもたらす。液体の動き及び混合をもたらすための可撓性筐体の変形に関連した、液体を収容するために可撓性筐体を随意的に利用する他の反応器構成が存在する。同様に、混合運動は、重力に対する反応器の傾斜の周期的変化によって得られ、液体に波を生み出し、流れ及び混合を促進する。最後に、反応器内に存在する静的構造、例えばバッフル、又は静的ミキサで用いられるような液体の動きに対する部分的な障壁をなす構造も当然用いることができる。
【0024】
「スターラ」という用語は、極めて一般的な方向で理解されるべきであり、それは、流れ、培地の混合、及び液体培地の乱流の生成の組み合わせを生じるための任意の手段又は任意の手段の組み合わせの方向である。
【0025】
他の特徴及び利点は、単なる例示で非限定的な、添付の図面と併せて読まれるべき、以下の説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】懸濁プロデューサー細胞からの細胞外小胞の膜又は内腔に治療薬及び/又は造影剤を搭載するための流体システムを概略で示す図である。
【
図2】マイクロキャリアを含む、付着性のプロデューサー細胞からの細胞外小胞の膜又は内腔に治療薬及び/又は造影剤を搭載するための流体システムを概略で示す図である。
【
図3A】NTAによって得られたEVのサイズ分布を例示する図である。
【
図3B】クライオTEMによる形態学的分析を例示する図である。
【
図4】mTHPCが搭載された小胞の蛍光分析を例示する図である。
【
図5】HT29腫瘍を有するマウスにおける静脈内注射(関心ある薬剤0.3mg/kg)後の時間の関数としての選択された組織の蛍光強度に従って研究した、mTHPCの市販のリポソーム製剤(foslip(登録商標)、A及びB)と、mTHPCを有する小胞(C及びD)の生体内分布を例示する図である。
【
図6】HT29腫瘍を有するマウスにおける静脈内注射(関心ある薬剤0.3mg/kg)後の時間の関数としての選択された組織の蛍光強度に従って研究した、mTHPCを有する本発明に係る封入された小胞(A及びB)の生体内分布を例示する図である。
【
図7】HT29腫瘍を有するマウスにおけるmTHPCのリポソーム製剤又はmTHPCを有するEV(0.3mg/kg mTHPC)の静脈内注射後の時間の関数として表されるmTHPCの血漿濃度を例示する図である。
【
図8】レーザ活性化なしの同じグループ(対照、点線)と比較した、薬剤のレーザ活性化(光線力学療法)を伴う遊離mTHPC、mTHPCのリポソーム製剤(mTHPCリポソーム)、及びmTHPC小胞での治療後のHT29腫瘍の成長遅延のKaplan-Meier図である。
【
図9】HUVECへのドキソルビシン搭載(細胞のドキソルビシン濃度)に対するコルモゴロフの長さの影響を示す図である。
【
図10】HUVEC細胞外小胞へのドキソルビシン搭載(10
6個の小胞のドキソルビシン濃度)に対するコルモゴロフの長さの影響を示す図である。
【
図11】NTA(灰色のバー)又はルシフェラーゼの任意単位の蛍光で測定した、形成されたHUVEC細胞外小胞の数に対するコルモゴロフの長さの影響を示す図である。カーゴ(FITCデキストラン70kDa)の存在又は存在なしにかかわらず、48μmのL
kで同等の数の小胞が得られる。
【
図12】小胞に含まれるFITCの蛍光(任意単位)で測定した、HUVEC細胞外小胞のFITCデキストラン搭載70kDaに対するコルモゴロフの長さの影響を示す図である。
【
図13】小胞に含まれるFITCの蛍光(任意単位)で測定した、形成されたHUVEC細胞外小胞のサイズの関数としての、FITCデキストラン70kDa(
図13A)又はFITCデキストラン10kDa(
図13B)搭載に対するコルモゴロフの長さの影響を示す図である。黒色のバーは、L
k=245μmでの搭載であり、白色のバーは、L
k=48μmでの搭載である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
理論的要素
コルモゴロフの長さ(又はコルモゴロフの寸法又は渦の長さ)は、流体の粘度がこの流体の流れの運動エネルギーの放散を可能にする長さである。実際には、コルモゴロフの長さは、乱流における最小渦サイズに対応する。この長さL
kは、コルモゴロフの刊行物(Kolmogorov, A. N., 1941, January, The local structure of turbulence in incompressible viscous fluid for very large Reynolds numbers, In Dokl. Akad. Nauk, SSSR, Vol. 30, No. 4, pp. 301-305)で計算されており、次式(I)で表される:
【数1】
式中、νは、流動する液体培地の動粘度であり、εは、単位質量あたりの流体の平均エネルギー散逸率(又は流体のエネルギー注入率)である。
【0028】
Zhouら(Zhou, G., Kresta, S. M., 1996, Impact of tank geometry on the maximum turbulence energy dissipation rate for impellers, AIChE journal, 42(9), 2476-2490)は、液体培地がパドルホイール型のスターラによって攪拌されるコンテナでの、平均εと幾何学的形状の関係性を説明している。この関係性は次式(II)で与えられる:
【数2】
式中、N
pは、液体培地中のスターラのサイズである、動力数(又はニュートン数)であり、Dはスターラの直径(単位はメートル)であり、Nは回転速度(1秒あたりの回転数)であり、Vは液体培地の体積(単位は立方メートル)である。この関係性は、本発明の実施に用いられるコンテナ及びスターラの幾何学的形状に対応する平均εの計算に用いられる。動力数N
pは、式(III)による既知の方法で得られる:
【数3】
式中、Pはスターラによって供給される動力であり、ρは液体培地の密度である。式(III)は、Nienowら(Nienow, A. W., & Miles, D., 1971, Impeller power numbers in closed vessels, Industrial & Engineering Chemistry Process Design and Development, 10(1), 41-43)又はZhouら(Zhou, G., Kresta, S. M., 1996, Impact of tank geometry on the maximum turbulence energy dissipation rate for impellers, AIChE journal, 42(9), 2476-2490)が説明したように、液体培地の流れのレイノルズ数の関数として調整することができる。系のレイノルズ数は、次式(IV)で計算することも可能である:
【数4】
【0029】
代替的に、この一般的知識の当業者は、代替的な計算モードで、単位体積あたりの平均エネルギー散逸率に基づいてコルモゴロフの長さを計算することができる。いずれの状態においても、上記の計算は、コルモゴロフの長さを計算するために当業者に知られている他の方法の中の一例に過ぎず、本発明の範囲を制限することなく本発明の一実施形態を例示する。一般に、選択されたコンテナ及びスターラについて、スターラの製造業者によって提供されたNpを適用すること、したがって、所望のLkをどのようにして求めるかは当業者には公知である。
【0030】
流体システムの一般的なアーキテクチャ
図1及び
図2は、細胞外小胞(EV)を搭載するための流体システム(1)を概略で示す。細胞外小胞(EV)を搭載するための流体システム(1)は、コンテナ(4)内で大量の搭載された細胞外小胞(EV)を生産することを目的としている。しかしながら、本発明はこの実施形態に限定されず、並列又は直列に流体接続された一連のコンテナ(4)を含み得る。
【0031】
コンテナ(4)は液体培地(5)を収容する。コンテナ(4)は、特に、例えばガラス又はプラスチックで作製されたタンク、フランジ、又は液体培地(5)を収容するのに適した任意の他のコンテナであり得る。コンテナ(4)の体積は、細胞外小胞(EV)を大量に生産することを可能にする因子の1つであり、この体積は、50mLから500Lの間、好ましくは100mLから100Lの間、好ましくは300mLから40Lの間であり得る。
図1又は
図2に概略的に示されているコンテナ(4)の体積は、
図1に示された実施形態の限定ではない例では1Lであり、これは、生産された小胞の連続分離を可能にし、液体培地(5)を、第1のポンプ(16)によって、コネクタ(13)を介してコンテナ(4)から抽出し、コレクタ(19)に輸送することができる。別のポンプ(16’)は、別のコネクタを介して、コレクタ(19)に収容された液体培地(5)をセパレータ(15)の入口(10)に供給することを可能にする。セパレータ(15)の第1の出口(11)は、細胞外小胞(EV)が枯渇した液体培地(5)をコンテナ(4)に再導入するために、コネクタを介してコンテナ(4)に接続される。セパレータ(15)の第2の出口(12)は、コネクタを介してコレクタ(19)に接続され、これにより、コレクタ(19)に収容された液体培地(5)は細胞外小胞(EV)に富むことになる。代替的に、セパレータ(15)の入口(10)は、コンテナ(4)の出口(9)に直接(又は第1のポンプ(16)を介して)接続することができる。セパレータ(15)の第1の出口(11)はコンテナ(4)に接続され、セパレータ(15)の第2の出口(12)はコレクタ(19)に接続される。いくつかのセパレータを、液体培地(5)中の細胞外小胞(EV)の分離の度合いを変化させるために直列に、及び/又は各セパレータ(15)内の液体培地(5)の流量を第1のポンプ(16)の流量に適合させるために並列に配置することもできる。フィルタ(18)を出口(9)に配置して、コンテナ(4)から細胞外小胞(EV)を抽出するときにプロデューサー細胞(6)及び細胞残屑をフィルタリングすることができる。
【0032】
コンテナ(4)は、通常、1つ又は複数のガス入口及び1つ又は複数のガス出口を備え、それを通じて、細胞培養に適した濃度の空気、N2、O2、及びCO2を含む、例えば5%のCO2を含む雰囲気が流れることができる。この雰囲気は、適切なガス噴射器/ミキサ又はCO2制御雰囲気炉からのものであり得る。コンテナ(4)内のこのガスの流れを制御するためにポンプ(17)が用いられる。コンテナ(4)はまた、液体培地(5)及び細胞外小胞(EV)のための出口(9)を備える。この出口には、懸濁液中の細胞を分離及び/又はフィルタリングするための手段を補足することができ、これにより、懸濁した細胞がコンテナ(4)外に回収されないようにすることができる。この出口(9)は、生産された細胞外小胞(EV)をコンテナ(4)から抽出することを可能にする。コンテナ(4)はまた、液体培地(5)をコンテナ(4)に導入するように適合された少なくとも1つの入口(8)を備えることができる。
【0033】
液体培地(5)は、一般に、例えば等張性の生理食塩水であり得る。好ましくは、液体培地(5)は、流体システム(1)によって生産された細胞外小胞(EV)が血清に由来するタンパク質又は他の小胞によって汚染されないように、関心ある細胞の培養を可能にする化合物を添加した培養液体培地、又は細胞外小胞から以前に精製された血清又は血小板溶解物を補充した培地、又は無血清培地のいずれかである。無血清DMEM液体培地(5)を用いることができる。液体培地(5)の最大体積は、コンテナ(4)によってある程度決まる。この最大体積はまた、50mLから500Lの間、好ましくは100mLから100Lの間、より好ましくは300mLから40Lの間であり得る。コンテナ(4)に収容される液体培地(5)の最小体積は、液体培地(5)を攪拌できるスターラ(7)の選択によってある程度決まる。
【0034】
流体システム(1)は、特定の実施形態によれば、液体培地(5)に懸濁されたマイクロキャリア(3)を含み得る。マイクロキャリアは、プロデューサー細胞(6)が付着細胞であるときに特に有利である。マイクロキャリア(3)は、マイクロビーズ(14)、例えばデキストランであってよく、各マイクロビーズ(14)は、細胞の培養に必要なコラーゲン又は他の材料の層で覆うことができる。ガラス、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、コラーゲン、及び/又はアルギン酸塩などの他の材料が、マイクロキャリア(3)の製造に用いられ得る。一般に、細胞培養に適しているすべてのマイクロキャリア(3)は、細胞外小胞(EV)の生産に適している。マイクロキャリア(3)の密度は、例えば、液体培地(5)の密度よりもわずかに大きくすることができる。デキストラン中のマイクロビーズ(14)の密度は、例えば1.04である。この密度により、液体培地(5)をわずかに攪拌することでマイクロビーズ(14)を液体培地(5)に懸濁させることができ、液体培地(5)中の各マイクロキャリア(3)の抗力はマイクロキャリア(3)の密度に依存する。マイクロキャリア(3)の最大サイズは、50μmから500μmの間、好ましくは100μmから300μmの間、優先的には130μmから210μmの間であり得る。
【0035】
マイクロキャリア(3)は、例えば、Cytodex 1(登録商標)のタイプのマイクロビーズ(14)であり得る。これらのマイクロビーズ(14)によって形成された粉末は、使用前に再水和及び滅菌することができる。PBSで再水和を用いることができ、次いで、血清を含まない培地(例えばDMEM)に移すことができ、この培地の中で、マイクロビーズは使用前に4℃に保たれる。
【0036】
流体システム(1)はまた、プロデューサー細胞(6)を含む。プロデューサー細胞(6)は、一実施形態によれば、マイクロキャリア(3)上の付着細胞とすることができ、又は別の実施形態では、懸濁液中の細胞とすることができる。細胞外小胞(EV)は、これらのプロデューサー細胞(6)から流体システム(1)によって搭載及び生産される(付着又は懸濁される)。
【0037】
プロデューサー細胞(6)は、流体システム(1)による細胞外小胞(EV)搭載、及搭載された細胞外小胞(EV)の生産の前に、適切な細胞培養培地中の又は懸濁細胞に適した細胞培養培地中に懸濁されたマイクロキャリア(3)の表面上で培養することができる。したがって、プロデューサー細胞(6)の培養と細胞外小胞(EV)の搭載との間で細胞を移す必要がなく、これにより、汚染が回避され、プロセス全体が簡素化される。一実施形態によれば、プロデューサー細胞(6)の大部分は、例えば液体培地(5)を攪拌することによってプロデューサー細胞(6)のごく一部が剥がれ得る場合であっても、マイクロキャリア(3)の表面に付着する。次いで、他のプロデューサー細胞を、液体培地(5)に懸濁させる又はコンテナ(4)の底に沈殿させる。本発明の特定の実施形態によれば、プロデューサー細胞(6)の少なくとも50%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも60%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも70%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも80%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも85%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも90%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも95%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも96%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも97%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも98%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは少なくとも99%がマイクロキャリア(3)の表面に付着しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは100%がマイクロキャリア(3)の表面に付着している。したがって、プロデューサー細胞(6)の50%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは40%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは30%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは20%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは15%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは10%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは5%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは4%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは3%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは2%未満が懸濁しており、プロデューサー細胞(6)の好ましくは1%未満が懸濁しており、好ましくは、プロデューサー細胞(6)は懸濁していない。好ましくは、流体システム(1)は、コンテナ(4)内の液体培地(5)中のプロデューサー細胞(6)を均質化することができる穏やかな攪拌を生じるように適合される。一般に、非付着性のプロデューサー細胞を含む任意のタイプのプロデューサー細胞(6)が用いられ得る。次いで、懸濁プロデューサー細胞を液体培地(5)に懸濁させる又はコンテナ(4)の底に沈殿させる。
【0038】
コンテナ(4)はまた、液体培地(5)を攪拌するためのスターラ(7)を備える。スターラ(7)は、液体培地(5)に少なくとも部分的に浸漬され、磁気又は機械的な力の伝達によって動かされる、インペラなどのブレードであり得る。スターラ(7)はまた、コンテナに収容された液体培地(5)を攪拌するのに十分な流量の液体培地(5)注入システム、又は回転壁システム(例えば、ローラ上に配置される)であり得る。代替的に、スターラ(7)は、ボトル付きのロール型又はボトル付きのボトル型のもの、バッフル付き又は無しのエルレンマイヤー用のオービタルスターラ(シェイクフラッシュ)、トグルスターラ(ウェーブ)、空気圧攪拌付きのバイオリアクタ(エアリフト)、又は船用プロペラ型スターラ、ラシュトンタービン、攪拌アンカー、バリアスターラ、ヘリカルリボンなどの回転ブレードスターラであり得る。好ましい回転スターラは、垂直ブレードタービンである。最後に、コンテナ(4)に存在し得る静的構造、例えばバッフル、又は静的ミキサで用いられる構造などの液体の動きに対する部分的な障壁をなす構造も当然用いられ得る。スターラ(7)とコンテナ(4)の寸法は、コンテナ(4)内の液体培地(5)の乱流を制御するように適合される。各タイプのスターラ(7)に適したコルモゴロフの長さLkを、コンテナ(4)の寸法、スターラ(7)の幾何学的形状、及び攪拌の強さの関数としてどのようにして計算するかは当業者には公知である。「乱流」という用語は、レイノルズ数Reが2000よりも大きい流れを意味する。レイノルズ数は、例えば、式(IV)によって計算され得る。好ましくは、液体培地(5)の流れのレイノルズ数Reは、7000よりも大きい、好ましくは10000、優先的には12000である。
【0039】
本発明に係る乱流を制御するための他のスターラ(7)は、当業者にはよく知られているスターラであり、本発明に係るシステムに組み込むことができる。
【0040】
本発明の例示的な実施形態に用いられるスターラ(7)は、コンテナ(4)内に配置され、磁力伝達システムによって動かされるブレードホイールなどのブレードを備える。液体培地(5)中のブレードの速度により液体培地(5)の流れが生じる。スターラは、コンテナ(4)の寸法を考慮して乱流である流れを制御するように適合される。
図1又は
図2に例示したスターラ(7)の場合、いくつかのパラメータは、液体培地(5)の乱流を表す値、特に、液体培地(5)の動粘度ν、コンテナ(4)の寸法、特に、コンテナ(4)に収容された液体培地(5)の体積v、ブレードの水中部分に対応する動力数N
p、スターラ、特にホイールの直径D、ホイールの回転速度Nを計算することを可能にする。したがって、ユーザは、これらのパラメータの関数として、式(I)、(II)、及び(III)で与えられるように、流れの乱流を表す値、特にコルモゴロフの長さL
kを計算することができる。特に、スターラ(7)は、長さL
kが100μm未満、好ましくは80μm以下である流れを制御するように適合される。より好ましくは、スターラ(7)は、長さL
kが70μm以下、非常に優先的には60μm以下である流れを制御するように適合される。特に好ましい様態では、流れのL
kは、55μm以下、また好ましくは50μm以下である。
【0041】
流体システム(1)の例示的な実施形態では、スターラ(7)の回転速度は、100rpm(回転/分)に制御することができ、例えば、ブレードホイールなどのブレードの直径は10.8cmであり、コンテナ(4)に収容された液体培地の体積は400mLである。式(III)による液体培地(5)中のブレードの測定された動力数Npは、実質的に3.2に等しい。式(II)で計算された単位質量あたりの散逸エネルギーεは、5.44・10-1J・kg-1に等しい。したがって、式(I)で計算されたコルモゴロフの長さLkは、41.8μmに等しい。
【0042】
マイクロキャリア及びプロデューサー細胞の調製
コンテナ(4)は、使い捨てとすることができ、又は液体培地(5)、マイクロキャリア(3)、プロデューサー細胞(6)、及び治療薬又は造影剤を導入する前に滅菌することができる。マイクロキャリア(3)もマイクロビーズ(14)の形成時に滅菌される。マイクロビーズ(14)は、コンテナ(4)内の血清を含むプロデューサー細胞(6)の培地中でインキュベートされる。このインキュベーションは、培地に酸素を与え、少なくとも部分的にタンパク質層のマイクロビーズ(14)の表面を覆うことを可能にし、マイクロビーズ(14)の表面へのプロデューサー細胞(6)の付着を促進する。
【0043】
プロデューサー細胞(6)は、流体システム(1)に導入する前に、トリプシンを含む培地に懸濁される。次いで、それらを300gで5分間遠心分離してチューブの底に濃縮させ、トリプシンを含む培地をDMEM培地に置き換えることができる。次いで、プロデューサー細胞(6)を、培地とマイクロビーズ(14)が入っているコンテナ(4)に、1マイクロビーズ(14)あたり5~20個のプロデューサー細胞(6)に実質的に対応する量で導入する。次いで、プロデューサー細胞(6)とマイクロビーズ(14)を攪拌し、沈降させることにより、マイクロビーズ(14)とプロデューサー細胞(6)が接触し、マイクロビーズ(14)の表面へのプロデューサー細胞(6)の付着が促進される。マイクロビーズ(14)の表面へのプロデューサー細胞(6)の付着の均一性を促進するために、攪拌を定期的に、例えば45分ごとに5~24時間にわたって再開することができる。次いで、培地の低攪拌(例えば、20rpmの速度でのブレードホイールなどのブレードの回転)を伴うプロデューサー細胞の培養と、培地の定期的な交換(例えば、培地の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、又は40%の毎日の交換)を行う。
【0044】
治療薬又は造影剤の搭載
細胞外小胞(EV)の搭載及び生産のための流体システム(1)は、コンテナ(4)内での細胞外小胞(EV)の大量生産を意図している。しかしながら、本発明はこの実施形態に限定されず、本発明に従って生産された細胞外小胞(EV)内の大量の治療薬及び/又は造影剤も可能にする。したがって、プロデューサー細胞(6)と治療薬又は造影剤は、同時に液体培地(5)に懸濁され、コンテナ(4)内で混合される。代替的に、プロデューサー細胞(6)は、液体培地(5)に順次に、すなわち、前記液体培地(5)への治療薬及び/又は造影剤の添加前又は後に添加することができる。一般に、任意のタイプの治療薬及び/又は造影剤を用いることができ、治療薬は、特に、感染性疾患、炎症性疾患、代謝性疾患、変性疾患、外傷性疾患、術後疾患、遺伝性疾患、悪性腫瘍、希少疾患、血管系疾患、リンパ系疾患、運動系疾患、消化器系疾患、神経系疾患、生殖器系疾患、排出系疾患を治療するための分子又は核、磁気、光学、音響の粒子及び/又は薬剤(分子又は粒子)であり得る。コンテナ(4)はまた、懸濁プロデューサー細胞(6)と治療薬又は造影剤を含む液体培地(5)を攪拌するための、前述のスターラ(7)を備える。好ましくは、流体システム(1)は、プロデューサー細胞を損傷することなく培地を均質化するのに十分に穏やかであってプロデューサー細胞(6)及び細胞外小胞に治療薬及び/又は造影剤を効果的に封入するためにコンテナ(4)内の液体培地(5)に剪断応力を誘起するのに十分な攪拌を生じるように適合される。
【0045】
別の目的によれば、本発明はまた、プロデューサー細胞(6)からの細胞外小胞のエクスビボ生産のための方法であって、
・細胞外小胞(EV)の内腔への治療薬及び/又は造影剤の搭載及び生産を実施するべくコンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流を生じさせてプロデューサー細胞(6)に剪断応力を加えるスターラ(7)の速度を制御することであって、コンテナ(4)内の流れのコルモゴロフの長さは100μm未満であり、コンテナは出口(9)を備え、液体培地(5)はプロデューサー細胞(6)を含む、スターラ(7)の速度を制御することと、
・例えばコンテナ(4)の出口(9)での、細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)の収集と、
を含む、方法に関する。代替的に、収集は、コンテナに収容された液体(5)のすべてを別のコンテナに移すことによって実行され得る。随意的に、一方では細胞外小胞を分離し、他方ではプロデューサー細胞及び/又はマイクロキャリア上の付着性のプロデューサー細胞を分離するように速度が適合された遠心分離が適用される。
【0046】
特定の実施形態において、流れのコルモゴロフの長さは、80μm以下、又はさらには70μm以下、好ましくは60μm以下である。特に好ましい態様において、前記コルモゴロフの長さは、55μm以下である。好ましい実施形態において、前記コルモゴロフの長さは、50μm以下である。
【0047】
本発明の目的によれば、本発明に係る方法は、治療薬及び/又は造影剤を搭載するステップを含む。もちろん、このステップは、細胞外小胞を生産するステップの前に実施することもできる。したがって、この特定の実施形態では、細胞外小胞を生産する方法の実施の前に、小胞プロデューサー細胞の膜及び/又はそれらの細胞質に、関心ある治療薬及び/又は造影剤が搭載される。搭載は、例えば受動的搭載などの当該技術分野で公知の方法によって、又はプロデューサー細胞(6)の膜又は細胞質に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法であって、
- プロデューサー細胞(6)の膜又は細胞質への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流を生じさせてプロデューサー細胞(6)に剪断応力を加えるスターラ(7)の速度の制御であって、コンテナ(4)内の流れのコルモゴロフの長さは100μm以下であり、コンテナは出口(9)を備え、液体培地(5)は、治療薬及び/又は造影剤と、プロデューサー細胞(6)を含む、スターラ(7)の速度の制御と、
- コンテナ(4)の出口(9)での細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)の収集と、
- 随意的に、封入されたプロデューサー細胞の収集と、
を含む方法に係る好ましい様態で行われる。
【0048】
特定の実施形態によれば、流れのコルモゴロフの長さは、80μm以下、又はさらには70μm以下、好ましくは60μm以下である。さらにより特定の特徴によれば、Lkは、55μm以下である。別の特定の特徴によれば、Lkは、50μm以下である。
【0049】
代替的に、別の実施形態では、搭載ステップは、細胞外小胞を生産するステップの後に実施され得る。この実施形態は、未搭載の小胞の第1の生産と、それに続く前記治療薬及び/又は造影剤が搭載された細胞外小胞の第2の生産を行うことが望まれる場合に興味深い可能性があり、これは、流体システムで液体培地(5)の連続的な収集を行うことに関連している。この実施形態では、コンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流、従って細胞外小胞が生じるようにスターラ(7)の速度を制御することにより剪断応力を受けることで小胞が生産され、生産されると、その生産から独立した様態で、同じく液体培地(5)に含有される治療薬及び/又は造影剤が細胞外小胞(EV)の膜又は内腔に搭載され、コンテナ(4)内の流れのコルモゴロフの長さは100μm未満である。特定の特徴によれば、流れのコルモゴロフの長さは、80μm以下、又はさらには70μm以下、好ましくは60μm以下である。特に好ましい特徴によれば、Lkは、55μm以下である。さらに好ましい特徴によれば、Lkは、50μm以下である。
【0050】
驚いたことに、実験パートに示すように、プロデューサー細胞(6)が細胞外小胞を生産することを可能にする流れは、同時に、プロデューサー細胞(6)に治療薬又は造影剤を封入すること、したがって、コンテナ(4)内で治療薬及び/又は造影剤が搭載された前記細胞外小胞(EV)を生産することも可能にする。したがって、代替的に、別の実施形態では、前記治療薬及び/又は造影剤を搭載するステップは、細胞外小胞を生産するステップと同時である。したがって、本発明の目的はまた、プロデューサー細胞(6)の膜及び/又は細胞質及び/又は細胞外小胞の膜又は内腔に少なくとも1つの治療薬及び/又は造影剤を搭載する方法であって、
- プロデューサー細胞(6)の膜又は細胞質及び細胞外小胞の膜及び/又は内腔への治療薬及び/又は造影剤の搭載を実施するべくコンテナ(4)内の液体培地(5)に乱流を生じさせてプロデューサー細胞(6)及び細胞外小胞に剪断応力を加えるスターラ(7)の速度の制御であって、コンテナ(4)内の流れのコルモゴロフの長さは100μm以下であり、コンテナは出口(9)を備え、液体培地(5)は、治療薬及び/又は造影剤と、プロデューサー細胞(6)を含む、スターラ(7)の速度の制御と、
- コンテナ(4)の出口(9)での細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)の収集と、
を含む、方法である。
【0051】
特定の実施形態によれば、流れのコルモゴロフの長さは、80μm以下、又はさらには70μm以下、好ましくは60μm以下である。1つのさらにより具体的な特徴によれば、Lkは、55μm以下である。また別の特定の特徴によれば、Lkは、50μm以下である。
【0052】
好ましくは、コンテナ(4)の出口(9)での細胞外小胞(EV)は、治療薬及び/又は造影剤が搭載された細胞外小胞と、治療薬及び/又は造影剤が搭載されていない細胞外小胞の混合物を含む。
【0053】
治療薬及び/又は造影剤が搭載された細胞外小胞(EV)の生産の例
細胞外小胞(EV)は、例えば血清を含まない、プロデューサー細胞(6)の液体培地(5)が入っているコンテナ(4)内で生産される。血清及び治療薬及び/又は造影剤を含む、プロデューサー細胞(6)の培養のための、生産前に用いられる培地は、コンテナ(4)内で、血清を含まないDMEMの液体培地(5)で3~4回洗浄され、各洗浄は、例えばおよそ400mLの体積に対応する。次いで、コンテナ(4)内に乱流を生じさせるべくスターラ(7)による液体培地(5)の攪拌が制御される。攪拌は、液体培地(5)の流れを、そのコルモゴロフの長さLkが好ましくは100μm未満、優先的には60μm以下となるように制御するべく調整される。液体培地(5)の攪拌は、少なくとも20分間、好ましくは1時間以上、好ましくは2時間以上に制御される。特定の態様によれば、攪拌は2時間持続する。細胞外小胞(EV)への搭載及び搭載された細胞外小胞(EV)の生産を、生産中に測定することができる。この目的のために、攪拌を一時的に中断することができる。プロデューサー細胞(6)は、コンテナ(4)の底部に沈降及び/又は遠心分離され、次いで、細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)サンプルが採取される。細胞残屑を除去するために、サンプルの遠心分離が2000gで10分間行われる。細胞外小胞(EV)の数をカウントし、そこからサンプルの細胞外小胞(EV)の濃度を推定するために、粒子を個々に追跡する方法(又はナノ粒子追跡分析、略してNTA)によって上澄みを分析する。攪拌開始時の細胞外小胞(EV)の濃度がゼロに近いか又はごくわずかであることを確認することができる。
【0054】
生産された細胞外小胞(EV)は、透過電子顕微鏡法によって観察及び/又はカウントすることもできる。この目的のために、細胞外小胞(EV)を含む溶液の液滴2.7μLを、クライオ顕微鏡法に適したグリッド上に堆積し、次いで、液体エタンに浸漬し、氷の結晶形成を回避しながら前記液滴をほぼ瞬時に凍結させる。細胞外小胞(EV)を支持するグリッドを顕微鏡に導入し、-170℃程度の温度で細胞外小胞(EV)を観察する。
【0055】
細胞外小胞の分離
コンテナ(4)内で搭載及び生産された細胞外小胞(EV)を、コンテナ(4)の出口(9)によりコンテナ(4)から抽出し、液体培地(5)に懸濁させることができる。コンテナ(4)から細胞外小胞(EV)を抽出する際にプロデューサー細胞(6)及び細胞残屑をフィルタリングするべく出口(9)にフィルタ(18)を配置することができる。コネクタ(13)は、出口(9)に流体接続され、生産された細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)の輸送を可能にする。
【0056】
流体システム(1)は、細胞外小胞(EV)のセパレータ(15)をさらに備えることができる。セパレータ(15)は、セパレータの入口(10)を備え、コンテナ(4)からの細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)を直接又は間接的に供給することができる。セパレータ(15)はまた、セパレータの第1の出口(11)を備えることができ、それを通って、液体培地(5)は、セパレータ(15)の入口(10)よりも細胞外小胞(EV)の濃度が低い又はさらには実質的にゼロの状態でセパレータ(15)を出ることができる。セパレータ(15)はまた、セパレータ(15)の第2の出口(12)を備えることができ、それを通って、液体培地(5)は、セパレータ(15)の入口(10)よりも細胞外小胞(EV)の濃度が高い状態でセパレータ(15)を出ることができる。
【0057】
一般に、細胞外小胞(EV)のセパレータ(15)は、細胞外小胞(EV)が枯渇した液体培地(5)を例えばコンテナ(4)の入口(8)を介してコンテナ(4)に再導入することができるように、コンテナ(4)に流体接続することができる。したがって、コンテナ(4)内の液体培地(5)の体積が実質的に一定の状態で、封入された細胞外小胞(EV)の生産及び/又は抽出を連続的に行うことができる。代替的な実施形態によれば、流体システムは細胞外小胞(EV)のセパレータ(15)を備えない、又は流体システムは、例えば前記セパレータ(15)を閉じるための手段を介して、コンテナ(4)に流体接続された又は流体接続されない、細胞外小胞(EV)のセパレータ(15)を備える。したがって、封入された細胞外小胞(EV)の生産及び/又は抽出は、セパレータ(15)の上流に配置された閉鎖手段の開閉によって不連続又は連続的に行うことができる。
【0058】
図1又は
図2に例示した流体システム(1)の例示的な実施形態では、液体培地(5)は、第1のポンプ(16)によって、コンテナ(4)からコネクタ(13)を介して抽出することができ、液体培地(5)はコレクタ(19)に移送される。別のポンプ(16’)は、別のコネクタを介して、コレクタ(19)に収容された液体培地(5)をセパレータ(15)の入口(10)に供給することを可能にする。セパレータ(15)の第1の出口(11)は、細胞外小胞(EV)が枯渇した液体培地(5)をコンテナ(4)に再導入するために、コネクタを介してコンテナ(4)に接続される。セパレータ(15)の第2の出口(12)は、コネクタを介してコレクタ(19)に接続され、これにより、コレクタ(19)に収容された液体培地(5)は細胞外小胞(EV)に富むことになる。代替的に、セパレータ(15)の入口(10)は、コンテナ(4)の出口(9)に直接(又は第1のポンプ(16)を介して)接続することができる。セパレータ(15)の第1の出口(11)はコンテナ(4)に接続され、セパレータ(15)の第2の出口(12)はコレクタ(19)に接続される。いくつかのセパレータを、液体培地(5)中の細胞外小胞(EV)の分離の度合いを変化させるために直列に、及び/又は各セパレータ(15)内の液体培地(5)の流量を第1のポンプ(16)の流量に適応させるために並列に配置することもできる。
【0059】
細胞外小胞(EV)の搭載に対する攪拌の影響
図3は、NTA(ナノ粒子追跡分析、NS300、Malvern)によって得られたEVのサイズ分布(A)と、クライオTEM(クライオ透過電子顕微鏡法による形態学的分析(B)を例示する。NTA及びクライオTEM(
図3)により、HUVECからの乱流により生成されたEVのサイズ分布を分析し、小胞の形状と多分散EVのサイズ範囲(C)を示した。結果は、35μmのコルモゴロフの長さで得られたEVが、従来のサイズ範囲(100~400nm)を有することを示している。EVの平均サイズは、それぞれ236nm及び200nmであった。単離したEVのフラクション中のmTHPC(メタテトラ(ヒドロキシフェニル)クロリン、INN:tempo、フランス語でテモポルフィン)の存在が、この分子に特徴的な(400~410nmの励起後)650nmまでの発光ピークをもつ蛍光測定によって示される(
図4)。
【0060】
攪拌下で100μmのmTHPCと共にインキュベートしたプロデューサー細胞によって生産されたEVのサンプルについてmTHPCの定量を行った。プロデューサー細胞及びその後放出されたEVに対する関心ある薬剤の内包への乱流の影響を判断するために、コルモゴロフの長さ100及び35μmで搭載実験を行った。等量のEVとの比較を行うために、以下の表1の実験プロトコルに従って、小胞の搭載ステップを、コルモゴロフの長さ100μmで行い、洗浄し、その後、コルモゴロフの長さ35μmで行った。
【表1】
【0061】
コルモゴロフの長さ100及び35μmでの細胞搭載の結果として得られた精製EVサンプル(EV)は、それぞれ1.3mM及び7.8mMの濃度のmTHPCを含有し、これは、EVへのmTHPCの封入の5倍以上の増加を意味する。さらに、35μm~100μmで得られたEVの量を比較したとき、コルモゴロフの長さの影響及び重要性をテストすると10倍の増加であり、一方ではEVの放出がトリガされ、増加し、他方では、それらへの関心あるカーゴ分子の搭載も増加する。
【0062】
同じ実験を、HUVEC(ATCC、
図9及び
図10)、及び異なるL
kを用いるマウス間葉系幹細胞(CSM)(C3HT1/2、ATCC)を使用して実施した。簡単に言えば、細胞を、10%のウシ胎児血清(SVF)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(PenStrep、Gibbco)を含有するDMEM中で、37℃(5%のCO
2)で培養した。それらを、マイクロキャリアスピナーフラッシュ(Bellco)100mL中12gビーズ/LのCydex 1マイクロキャリア(GE Healthcare)に13300細胞/cm
2で播種し、次いで、34rpmで攪拌しながら6gビーズ/Lでコンフルエントになるまで培養した。ドキソルビシンを搭載する前に、微量の血清を除去するために、コンフルエントな細胞を含むマイクロキャリアをDMEMで3回洗浄した。無血清DMEMでバランスをとった後に、ドキソルビシンを5mMの最終濃度で添加した。以下の表2のプロトコルに従って、37℃(5%のCO
2)で搭載及び小胞形成を行った。
【表2】
【0063】
培養の終了時に、細胞をトリプシンにより37℃(5%のCO2)で10分間ビーズから単離し、細胞を70μmのふるいにかけることによりビーズから分離し、次いで、PBSで洗浄して遊離ドキソルビシンを除去した。2000gで10分間の遠心分離の第1のステップ後に、超遠心分離(Beckman Optics MAX XP、150000×gで1時間30分)により小胞を分離、濃縮した。細胞濃度をNC200セルカウンタ(Chemometec)で測定し、小胞の濃度及びサイズ分布をNTAで計算した。小胞又はそれらの膜に存在するマーカを、MACSPlexキット(Miltenyi Biotec)を用いるフローサイトメトリで分析した。次いで、小胞及び細胞を化学的に溶解し(Triton 0.3%)、蛍光分光光度計(Hitachi F7000)で分析した。ドキソルビシンを、励起波長485nm及び発光波長560nmを使用して定量した。
【0064】
図9は、一方ではHUVEC搭載におけるL
kの重要性が確認され、HUVEC細胞搭載において、55μmのL
kを用いると、283μmのL
kを用いたときの2.4倍(+140%)であり、他方では、小胞搭載(
図10)において、55μmのL
kを用いると、細胞又は小胞の受動的搭載(
図10)に対応する283μmのL
kに対して、小胞のドキソルビシン濃度の39%の増加が観察される。
【0065】
マウスMSC(図示せず)でも、55μmのLkを用いると、283μmのLkでの受動的搭載に対して、特にドキソルビシン小胞の濃度の485%の増加を伴う同様の結果が得られる。細胞搭載も592%増加する。
【0066】
生産された小胞の特徴に関して、NTAデータは、搭載条件(受動の場合とLk=55μmの場合)間で同様のサイズ分布を示し、従来のサイズの細胞外小胞に対応するHUVEC小胞(図示せず)では、それぞれ106.9nm及び109.7nmである。フローサイトメトリ分析は、2つの条件に従って得られた小胞が、CD9、CD63、及びCD81を含む細胞外小胞の従来のマーカを有することを示す(図示せず)。したがって、40μm未満のLkでの小胞形成は、小胞のうち従来の小胞の存在に影響を与えず、ゆえに、受動的に生産された小胞と少なくとも同じ高さのベクター機能を期待することができる。
【0067】
結果は、使用される様々なタイプの細胞に対する小胞の生産及び搭載におけるL
kの影響を示す。mTHPC及びドキソルビシンは、小さな治療薬(それぞれ680.7及び543.5kDa)である。本発明者らによって特定された条件は、例えば攪拌なし又は283μmでの非常に低い攪拌での受動的搭載条件よりも効果的である。より大きな薬剤の細胞外小胞の生産に対するL
kの変動の影響もテストした(
図11、
図12、
図13)。10kDa及び70kDaのデキストラン-FITCプローブを使用した。それらは、例えば、13kDaのオーダーの分子量を有するポリマー、siRNAs(Whitehead et al, 2009)などのより高分子量の、又はその分子量が70kDaに近い「小さな」治療用タンパク質(Strohl, 2015)の、造影剤のモデルとして、また、治療薬のモデルとして考えられ得る。同様の結果は、70kDa又は10kDaのデキストラン-FITCプローブでのみ得られる。
【0068】
簡単に言えば、HSP70タンパク質結合ルシフェラーゼ(HSP70は細胞外小胞のマーカである、Thery and al 2018)を発現するように遺伝子操作されたHeLa(ATCC)細胞を、10%のウシ胎児血清(SVF)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(PenStrep、Gibbco)を含有するDMEMで、37℃(5%のCO
2)で培養した。これらの細胞を、スピナーフラッシュ(Bellco)100mLにより6gビーズ/Lに、Cytodex 1マイクロキャリア(GE Healthcare)に6700細胞/cm
2で播種し、次いで、34rpmで攪拌しながら3gビーズ/Lでコンフルエントになるまで培養した。搭載する前に、コンフルエントな細胞を含むマイクロキャリアを無血清DMEMで3回洗浄して微量の血清を除去し、10又は70kDa(それぞれ、FD10Sリファレンス及び90718、Sigma)のFITCデキストランプローブで、245又は48μmのL
kで、1.43mMで2時間インキュベートした(表3)。
【表3】
【0069】
細胞残屑を除去するための最初の遠心分離(2000gで10分間)後に、超遠心分離(Beckman Optics MAX XP、110000gで1時間)を行った。細胞濃度をNC200セルカウンタ(Chemometec)で測定し、小胞の濃度及びサイズ分布をNTA(NS300、Malvern)で計算した。小胞の発光シグナルをプレートリーダ(EnSworst、PerkinElmer)で分析した。次いで、小胞及び細胞を化学的に溶解し(Triton 0.3%)、FITCの量を、FITCの励起波長495nm及び発光波長520nmを使用して蛍光分光光度計(Hitachi F7000)で測定した。得られた細胞外小胞も、抗CD 63 PE及び抗CD 81 APC(Biolegend)抗体を使用したフローサイトメトリイメージング(Amnis(登録商標)ImageStream登録商標)で分析した。合計10万イベントを分析した。次いで、FITC標識に対するポジティブイベントを、それらの相対的な粒度又は内部の複雑さ(「側方散乱光」)の関数として、対応するアポトーシス小体(AB)、大きな小胞(lEV)、及び小さな小胞(sEV)に分類した。
【0070】
70kDaのFITCデキストランプローブを使用して、245μm及び48μmのLkで得られた小胞の発光シグナル(ルシフェラーゼ)及び蛍光シグナル(FITC)を評価した。発光シグナルは、HeLa細胞によって産生された小胞の数を示し、これは、小胞の細胞質ゾルマーカーであるHSP70タンパク質に結合し、母細胞によって産生された、ルシフェラーゼに対応する。FITCの蛍光は、小胞に内包されたFITCデキストランの量を反映し、したがって、小胞へのFITCデキストランの封入を反映する。
【0071】
70kDaのFITCデキストランを有する小胞の生産(
図11)に関して、NTA又は発光シグナル(NTAでカウントされた小胞の数に比例して見られる)のいずれにおいても、48μmのL
kを用いると、245μmのL
kで搭載された細胞に対して、2倍の小胞の生産の増加が観察された。対照条件は、48μmのL
kで準備したが、70kDaのFITCデキストランプローブは存在しない。70kDaのカーゴがない場合でも、小胞の数の同じ増加が観察される。さらに、70kDaのFITCデキストランプローブの存在を示す蛍光シグナルの分析は、同数の小胞で、蛍光シグナルの27%の増加を示し(
図12)、したがって、L
k=48μmのときに、L
k=245μmの条件に対して小胞でののより大きい搭載を示す。
【0072】
細胞によって産生された細胞外小胞のサイズ(小さな小胞、大きな小胞、アポトーシス小体)に関係なく、搭載効率の増加が観察される。様々なタイプの小胞及びそれらのマーキングがフローサイトメトリ(ImageStream(登録商標)、図示せず)でのイメージングによって視覚化され、蛍光マーカCD81及びCD63の存在を示し、NTAデータが細胞残屑の凝集体ではなく細胞外小胞によく対応していることを確認できる。フローサイトメトリ分析(側方散乱の強度及びFITCのマーキングの強度をプロットすることによる)は、FITCデキストランプローブによってそれらの搭載を示す(
図13A及び
図13B)。100mM未満のL
kを用いたときの細胞外小胞搭載が増加した得られた結果を以下の表4に示す:
【表4】
【0073】
一般に、抗CD 63 PE及び抗CD 81 APC抗体での標識に関するフローサイトメトリ分析は、いずれかの抗体で標識されたかなりの数の細胞外小胞を示す(図示せず)。したがって、細胞外小胞の生産の増加が、従来の細胞外小胞マーカの存在に関して小胞の品質を損なうことはない。
【0074】
これらの結果は、本発明に係るコルモゴロフの長さ(Lk)の選択により、細胞小胞産生HeLaの収率を増加させることができ、カーゴはこの収率に影響を及ぼさず、小胞の搭載におけるLkの有意な効果ももたらすことを示す。したがって、細胞のタイプ(初代培養又は不死化細胞、幹細胞、内皮細胞、上皮細胞、ヒト細胞、又は動物細胞)に加えて、広範囲のカーゴサイズでの生産が可能となる。
【0075】
一連の結果から、100μm未満の適切なコルモゴロフの長さを選択することにより、意図されるカーゴのサイズ及び細胞のタイプに関係なく、細胞外小胞の生産及び搭載を大幅に最適化できることがわかる。したがって、本発明に従って生産された細胞外小胞は、受動搭載(攪拌なし又は非常に低い攪拌)などの現在公知の方法に従って生産された細胞外小胞よりも高濃度の造影剤及び/又は治療薬を有する。さらに、本発明に係る方法は、エレクトロポレーション法などの電位差の印加による、細胞への電気的ストレスの適用を含まない。
【0076】
図5及び
図6は、HT29腫瘍を有するマウスにおける静脈内注射(関心ある薬剤0.3mg/kg)後の時間の関数としての選択された組織の蛍光強度の関数としてのmTHPC(
図5)及びmTHPCを有するEV(
図6)のリポソーム製剤の生体内分布を例示する。コルモゴロフの長さ35μmでmTHPCを有するEVとなることがマウス腫瘍モデルで研究された。静脈内投与後の生体内分布を、薬剤の造影特性を利用することにより、mTHPCのリポソーム製剤(リポソーム製剤mTHPC)と比較した。生体内分布データ(
図5及び
図6)は、mTHPCを有するEVが、mTHPCのリポソーム製剤(注射後24~48時間)よりも早く(注射後6~15時間)腫瘍内で最大濃度に達したことを示す。肺吸収は、mTHPCのリポソーム製剤よりもmTHPCを有するEVの方が高かった。mTHPCを有するEV及びmTHPCのリポソーム製剤と同じくらい高い、肝臓での吸収が観察された。
【0077】
図7は、HT29腫瘍を有するマウスにおけるmTHPCのリポソーム製剤又はmTHPCを有するEV(0.3 mg/kg mTHPC)の静脈内注射後の時間の関数として表されるmTHPCの血漿濃度を例示する。薬物動態研究により、mTHPCのリポソーム製剤の注射後の循環中のmTHPCの減少が、注射後30分のピーク後に明らかとなった(
図7)。逆に、mTHPCの血中濃度は驚くほど増加し、注射後6時間でピークに達した。0.2ng/ml付近のmTHPCの血漿濃度の低下は、mTHPCのリポソーム製剤及びmTHPCの、それぞれ注射後6時間及び24時間に達している。
【0078】
図8は、レーザ活性化なしの同じグループ(対照、点線)と比較した、薬剤のレーザ活性化(光線力学療法、三次元療法)を伴う遊離mTHPC、mTHPCのリポソーム製剤、及びmTHPCを有するEVでの治療後の、HT29腫瘍の成長遅延のKaplan-Meier図を示す。本発明者らは、治療の90日後の腫瘍の成長に関して、mTHPCを有するEV、mTHPCのリポソーム製剤、及び遊離mTHPCの治療効果を比較した。Kaplan-Meier図は、レーザ誘発性の薬剤活性化なしのとき、mTHPCを有するEV、mTHPCのリポソーム製剤、及び遊離mTHPCは、同じ治療効果をもっていたことを示す。しかしながら、mTHPCを有するEVの光線力学療法とそれに続くレーザ活性化は、結果的に、レーザにより活性化されたmTHPC及び遊離mTHPCのリポソーム製剤に対して治療効果を向上させる。結果は、対照腫瘍又はmTHPCのリポソーム製剤で光線力学療法によって治療されたグループでは0%、並びにmTHPCに対する光線力学療法によって治療された腫瘍では20%で、10倍以上の成長を呈し、一方、この値は、90日目のmTHPCを有するEVのTDPによって治療されたグループでは33%であったことを示す(
図8)。
【0079】
したがって、リポソームに比べて、本発明の方法に従って得られる活性薬剤が封入された小胞は、薬力学的特性と実施された治療の有効性の両方の観点から非常に有利な代替を構成することができる。リポソームは、酵素、ホルモン、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、タンパク質、又はDNAペプチド、癌分子などの種々の生体分子のベクターとなることが知られている(Farjadian et al 2018)。したがって、このような分子は、mTHPCが存在しない状態で本発明の方法に従って搭載される小胞が有利にベクターとなり得る。実際、脂質製剤中の活性薬剤は、保健当局による市場への投入の認可の対象となる。例えば、
- アンホテリシンB(AmBisome(登録商標)、真菌感染症の治療に使用される)、
- ダウノルビシン(Daunoxome(登録商標)、広範囲又は内臓のカポジ肉腫の治療に使用される)、
- イリノテカン(Oniyde(登録商標)、腺癌の治療に使用される)、
- ビンクリスチン(Marqibo(登録商標)、Φ陰性急性リンパ芽球性白血病又はリンパ芽球性リンパ腫の治療に使用される)、
- シタラビン(DepoCyte(登録商標)、リンパ腫性髄膜炎の治療に使用される)、
が挙げられる。
【0080】
したがって、本発明の特定の目的は、これらの分子のうちの1つを搭載した、その実施形態のいずれか1つで本出願に記載されるような細胞外小胞を生産する方法である。前記方法によってこれらの薬剤を有利に搭載した小胞又は細胞も本発明の目的を構成する。特定の目的は、本発明に係る搭載方法、この方法で使用され、小胞及び/又はプロデューサー細胞に搭載される治療薬が、テモポルフィン、アンホテリシンB、ダウノルビシン、イリノテカン、ビンクリスチン、及びシタラビンから選択されることを特徴とする、この方法に従って搭載された細胞外小胞又は細胞である。
【0081】
【国際調査報告】