(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-15
(54)【発明の名称】組換え細菌およびその使用法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220408BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220408BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220408BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220408BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20220408BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220408BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220408BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220408BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20220408BHJP
C12N 15/74 20060101ALN20220408BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220408BHJP
C12N 15/24 20060101ALN20220408BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
A61P1/04
A61P29/00
A61P35/00
A61K35/744
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/17
C12N15/31
C12N15/74 Z
C12N15/12
C12N15/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021550152
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(85)【翻訳文提出日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 SG2020050095
(87)【国際公開番号】W WO2020176042
(87)【国際公開日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】10201901828T
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヨンリャン
(72)【発明者】
【氏名】プン チン ウェン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA44
4C084CA18
4C084DC50
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA681
4C084ZA682
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087CA12
4C087MA02
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA68
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本開示は、組換えプロバイオティック乳酸菌を提供し、該菌は、(a)哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された該腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子と、(b)該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結された該アドヘシン遺伝子とを含む非複製プラスミドベクターを含む。本開示はまた、この組換え細菌の使用、および該組換え細菌の構築方法を提供する。本開示はまた、対象において癌を処置する方法を提供し、該方法は、薬学的に有効な量の組換えプロバイオティック乳酸菌を投与することを含み、該菌は、該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令するプロモーターに機能的に連結された該アドヘシン遺伝子を含む非複製プラスミドベクターを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された該腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子と、(b)組換えプロバイオティック乳酸菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結された該アドヘシン遺伝子とを含む、非複製プラスミドベクター
を含む、組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項2】
乳酸産生菌である、請求項1に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項3】
ラクトコッカス(Lactococcus)属の菌である、請求項1または2に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項4】
ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項5】
アドヘシンがフィブロネクチン結合タンパク質またはインターナリンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項6】
前記腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子が、消化管の細胞に対して腫瘍抑制効果または抗炎症効果を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項7】
前記腫瘍抑制遺伝子が、DUSP10、TP53、APC、CD95、PTEN、TRAIL、MDA7、およびPMAIP1からなる群より選択され、かつ/または前記抗炎症遺伝子が、DUSP10、IL10、IL11、IL13、IL1-ra、およびTGFbからなる群より選択される、請求項6に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項8】
前記腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子がDUSP10遺伝子である、請求項7に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌。
【請求項9】
対象において癌を処置するかまたは炎症を軽減する方法であって、該方法が、薬学的に有効な量の、請求項1~9のいずれか一項に記載の組換えプロバイオティック乳酸菌を、該対象の消化管に投与することを含み、かつ該癌または炎症が消化管の癌または炎症である、該方法。
【請求項10】
対象において癌を処置する方法であって、該方法が、薬学的に有効な量の組換えプロバイオティック乳酸菌を投与することを含み、該菌が、該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令するプロモーターに機能的に連結された該アドヘシン遺伝子を含む非複製プラスミドベクターを含む、該方法。
【請求項11】
前記菌が乳酸産生菌である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記菌がラクトコッカス属の菌である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記菌がラクトコッカス・ラクティスである、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
アドヘシンがフィブロネクチン結合タンパク質またはインターナリンである、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、薬学的に有効な量の免疫チェックポイント阻害物質を投与することをさらに含み、任意で、該免疫チェックポイント阻害物質が抗プログラム細胞死リガンド1(PDL-1)である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項16】
前記癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、および肛門癌からなる群より選択される、請求項9~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記癌が大腸癌である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記炎症が、食道、胃、小腸、盲腸(casum)、大腸、または肛門の炎症である、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記組換えプロバイオティック乳酸菌が経口的に投与される、請求項9~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記対象がヒトである、請求項9~19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年2月28日に出願されたシンガポール特許出願第10201901828T号の優先権の恩典を主張するものであり、その内容はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、微生物学および分子生物学に関するものであり、特に、組換え細菌の開発と、癌処置における組換え細菌の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
大腸癌、つまり結腸と直腸の癌は、世界で3番目によく見られる新生物であり、シンガポールでは最も多く診断される癌である。
【0004】
大腸癌の主な治療形態は手術である。しかし、手術は腫瘍の本体を摘出するため、微細な残存病変が残り、最終的には再発につながる。
【0005】
ステージIIおよびIIIでは、癌を死滅させ、腫瘍を縮小させるために、放射線療法を追加することがある。また、放射線は、症状を改善し、寿命を延ばすために、ステージIVでも使用されることがある。しかし、大腸癌の根治的治療での単独療法としての放射線療法の使用は、腫瘍への総線量を増加させ、照射される正常組織の量を減らす努力にもかかわらず、ほとんど成果が出ていない。大腸癌の切除不能の一般的な理由は癌の解剖学的位置を特定できないことにあるため、放射線療法が切除に適さない大腸癌の患者に役立つことはめったにない。放射線療法は、限局性の閉塞、特に噴門の領域での閉塞を緩和するために、かつ、切除できない慢性的な出血を伴う癌の患者のために使用されることがある。放射線治療を受けた患者の生存期間の中央値は約12ヶ月であり、長期生存者はほとんどいない。
【0006】
過去に多くの化学療法剤が単剤として大腸癌の改善のために試されてきたが、その結果は概して期待外れであった。それでもなお、大腸癌の管理における化学療法の役割は、進化し続けている。有効な化学療法剤としては、5-フルオロウラシル、IMC-C225(セツキシマブ)、ロイコボリン、イリノテカン、オキサリプラチン、カンプトサル(Camptosar)(Pharmacia & Upjohn社)、およびセレブレックス(Celebrex)が挙げられる。多くの場合、手術の補助として放射線と共に化学療法が使用される。一般的に、化学療法は、再発性または転移性の疾患を有する患者でさえも、最大15%~20%の長期生存率を達成することができる。残念ながら、ファーストライン化学療法への高い初期応答率は、生存利益(survival benefit)にはつながらないようである。さらに、化学療法に関連する多くの望ましくない副作用があり、例えば、一時的な脱毛、口内炎、貧血(赤血球数が減少し、疲労感、めまい、息切れを起こすことがある)、白血球減少症(白血球数が減少し、感染に対する抵抗性を弱めることがある)、血小板減少症(血小板数が減少し、出血しやすくなったり、あざができやすくなったりすることがある)、および吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状がある。
【0007】
大腸癌の治療には手術、化学療法剤、および放射線が有効であるが、特に臨床腫瘍医が癌患者のクオリティ・オブ・ライフにさらなる関心を払っている場合には、より効果的で毒性の少ない、この疾患を管理するためのより良い治療モダリティおよびアプローチを見つけることが引き続き求められている。
【発明の概要】
【0008】
一局面では、組換えプロバイオティック乳酸菌が提供され、該菌は、(a)哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子と、(b)該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子とを含む非複製プラスミドベクターを含む。
【0009】
別の局面では、対象において癌を処置するかまたは炎症を軽減する方法が提供され、該方法は、薬学的に有効な量の本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌を該対象の消化管に投与することを含み、かつ該癌または炎症は消化管の癌または炎症である。
【0010】
別の局面では、対象において癌を処置する方法が提供され、該方法は、薬学的に有効な量の組換えプロバイオティック乳酸菌を投与することを含み、該菌は、該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令するプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子を含む非複製プラスミドベクターを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明は、非限定的な実施例および添付の図面と併せて考慮する場合、詳細な説明を参照することによって、より一層理解されるであろう。
【
図1】本発明の組換え細菌の例の説明図を提供し、ここで、単一の非複製組換えプラスミドはアドヘシン遺伝子と腫瘍抑制遺伝子/抗炎症遺伝子の両方を含む。
【
図2】Kaplan-Meier法に基づいた、Marisa Lら(
図2A)およびThe Cancer Genome Atlas(
図2B)から入手可能なデータを使用した生存データ解析の結果を示す。各グラフのY軸は無再発生存(relapse-free survival:RFS)の確率を表し、各グラフのX軸は月単位の生存期間を表す。Marisa Lらからの患者コホートにおけるRFS確率は、DUSP10発現が高い腫瘍患者でわずかに高くなる(P=0.1)傾向があった(
図2Aの左パネル)。ERK発現についてサンプルを層別化した後、腫瘍における高いDUSP10は、ERK発現が高い患者の生存確率の約20%改善と関連していることがわかった(
図2Aの右パネル)。患者生存の改善は、TCGAコホートにおいてより顕著であった(
図2B)。DUSP10発現が高い患者の生存は、ERK2の層別化の有無にかかわらず、最長60ヶ月まで、約20%増加した。総合すると、
図2のデータは、DUSP10の発現が腫瘍成長の制御にとって機能的に重要であり、結果的に患者のより良好な生存をもたらす可能性があることを示唆している。
【
図3】Caco2およびDLD1異種移植腫瘍の成長に対するDUSP10過剰発現の効果を示す。
図3Aは、投与の18日後に免疫不全マウスに発生したCaco2およびDLD1異種移植腫瘍を示す代表的な画像である。
図3Bは、それぞれの異種移植片のサイズと重量をまとめた棒グラフを示す。平均値±標準偏差を示す。*および**は、それぞれP<0.05およびP<0.01を表す(Mann-Whitney検定)。これらの結果は、DUSP10の過剰発現がインビボで腫瘍の成長を抑制したことを示している。
【
図4】脾臓内注射マウスモデルにおけるHCT116細胞の肝臓への転移性コロニー形成に対するDUSP10過剰発現の効果を示す。
図4Aは、DUSP10過剰発現HCT116細胞または対照HCT116細胞の脾臓内注射後に免疫不全マウスの肝臓に発生した転移性病変(赤い矢印)を示す代表的な画像(左パネル)およびH&E顕微鏡写真(右パネル)を示す。
図4Bは、肝臓の重量、肝臓あたりの総腫瘍負荷、および最大腫瘍サイズの定量的測定をまとめた棒グラフを示す。平均値±標準偏差を示す。**および***は、それぞれP<0.01およびP<0.001を表す(Mann-Whitney検定)。これらの結果は、DUSP10の過剰発現が脾臓内注射マウスモデルにおけるHCT116細胞の肝臓への転移性コロニー形成を抑制したことを示している。
【
図5】細菌のフィブロネクチン結合タンパク質(黄色ブドウ球菌(S. aureus)由来)とヒトDUSP10を発現させるためにL.ラクティス(L. lactis)への形質転換用に開発されたDNA構築物を示す概略図である(正確な縮尺ではない)。
【
図6】Caco2細胞におけるL.ラクティス-Fnb-DUSP10感染の効果を示す。未感染Caco2細胞および様々なL.ラクティスを感染させたCaco2細胞(MOI=1500)における、
図6AはDUSP10のmRNAレベルを示す棒グラフであり、
図6BはDUSP10のタンパク質レベルを示すウエスタンブロット画像である。
図6Cは、様々なL.ラクティス菌を3日間毎日感染させた後のCaco2増殖のパーセンテージを示す棒グラフである。1=未感染細胞、2=対照ベクターを含むL.ラクティス菌を感染させた細胞、3=Fnbのみを含むL.ラクティス菌を感染させた細胞、4=DUSP10を含むL.ラクティス菌を感染させた細胞。平均値±標準偏差を示す。**および***は、それぞれP<0.01およびP<0.001を表す(一元配置ANOVA)。これらの結果は、L.ラクティス-Fnb-DUSP10を感染させたCaco2細胞がDUSP10発現の増加を示し、細胞増殖の抑制をもたらしたことを示している。
【
図7】マウスの結腸腫瘍負荷に対するL.ラクティス-Fnb-DUSP10の効果を示す。
図7Aは、強制経口投与により様々なL.ラクティスで処置した場合または処置しなかった場合のAOM/DSS誘発CRCマウスに見られた結腸腫瘍の代表的な画像を示す。
図7Bおよび
図7Cの上段および下段のドットプロットは、それぞれ、各群のマウスの結腸あたりの腫瘍数および平均腫瘍サイズを示す。各ドットプロットの下には、未処置の対照と比較した、腫瘍負荷およびサイズの平均減少率を示す。平均値±標準偏差および一元配置ANOVA(*)のP値を示す。これらの結果は、L.ラクティス-Fnb-DUSP10による7週間の処置が、AOM/DSS誘発CRCマウスモデルにおいて腸腫瘍の成長を抑制することに成功したことを示している。
【
図8】盲腸に移植されたLs174T腫瘍の成長に対するL.ラクティス-Fnb-DUSP10の効果を示す。
図8Aは、腫瘍(黒矢印)がある盲腸の代表的な画像を示す。
図8Bは、未処置マウスと処置されたマウスの盲腸の重量を示す棒グラフである。平均値±標準偏差を示す。*P<0.05(スチューデントのT検定)。これらの結果は、L.ラクティス-Fnb-DUSP10で処置されたマウスでは、移植されたLs174T異種移植片のサイズがより小さかったことを示している。
【
図9A】結腸に炎症があるマウスにおけるL.ラクティス-Fnb-DUSP10処置の効果を示す。
図9Aは結腸炎症の代表的なH&E(ヘマトキシリンとエオシン)顕微鏡写真を示す。
【
図9B】結腸に炎症があるマウスにおけるL.ラクティス-Fnb-DUSP10処置の効果を示す。
図9Bは結腸炎症の組織学的スコアを示すドットプロットである。*、**、および***は、それぞれ、P<0.05、P<0.01、およびP<0.001を表す(一元配置ANOVA、Kruskal-Wallis検定)。グラフには平均値±標準偏差を示した。全ての統計的比較は未処置対照群に対して行った。
【
図9C】結腸に炎症があるマウスにおけるL.ラクティス-Fnb-DUSP10処置の効果を示す。
図9Cは、2% DSSおよびL.ラクティス処置の間のマウスの体重変化を示す。*、**、および***は、それぞれ、P<0.05、P<0.01、およびP<0.001を表す(一元配置ANOVA、Kruskal-Wallis検定)。グラフには平均値±標準偏差を示した。全ての統計的比較は未処置対照群に対して行った。
【
図9D】結腸に炎症があるマウスにおけるL.ラクティス-Fnb-DUSP10処置の効果を示す。
図9Dは、炎症に関与する遺伝子のmRNA発現レベルの変化を示す。1=未処置;2=ベクター;3=Fnb;および4=DUSP10。「未処置」、「ベクター」、「Fnb」および「DUSP10」は、未処置群、ラクティス-ベクター処置群、ラクティス-Fnb処置群、およびラクティス-Fnb-DUSP10処置群を表し、「PC」および「DC」は、それぞれ、近位結腸(proximal colon)および遠位結腸(distal colon)を指す。*、**、および***は、それぞれ、P<0.05、P<0.01、およびP<0.001を表す(一元配置ANOVA、Kruskal-Wallis検定)。グラフには平均値±標準偏差を示した。全ての統計的比較は未処置対照群に対して行った。
【
図10】マウスの結腸腫瘍負荷に対するL.ラクティス-Fnb-DUSP10および/または抗PDL-1による処置の効果を示す。
図10Aは、様々なL.ラクティスおよび/または抗PDL-1で処置した場合または処置しなかった場合のAOM/DSS誘発CRCマウスに見られた結腸腫瘍の代表的な画像を示す。
図10Bのドットプロットは、各群のマウスの結腸あたりの腫瘍数を示す。各ドットプロットの下には、未処置の対照と比較した、腫瘍負荷の平均減少率を示す。平均値±標準偏差および一元配置ANOVA(*)のP値を示す。「未処置」、「ベクター」、「ラクティス-DUSP10」、「抗PDL-1」、「抗PDL-1+ベクター」、および「抗PDL-1+ラクティス-DUSP10」は、未処置群、ラクティス-ベクター処置群、ラクティス-Fnb-DUSP10処置群、抗PDL-1処置群、抗PDL-1+ラクティス-ベクター処置群、および抗PDL-1+ラクティス-Fnb-DUSP10処置群を表す。これらの結果は、L.ラクティス-Fnb-DUSP10処置群およびL.ラクティス-Fnb-DUSP10+抗PDL-1処置群が、AOM/DSS誘発CRCマウスモデルにおいて腸腫瘍の成長を抑制することに成功したことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明者らは、非複製プラスミドベクターを宿主細胞に送達することで、プラスミドベクターに含まれる遺伝物質の発現をより適切に制御することができ、その結果、宿主細胞内での遺伝物質の発現を含む治療レジメンの管理が改善されることを見出した。したがって、一局面では、組換えプロバイオティック乳酸菌が提供され、該菌は、(a)哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子と、(b)該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子とを含む非複製プラスミドベクターを含む。
【0013】
本明細書で使用する用語「組換え細菌」は、組換えDNA分子などの組換え遺伝物質を含む細菌を指す。組換えDNA分子は通常、実験室での遺伝子組換え法(分子クローニングなど)によって形成され、これにより、複数のソースからの遺伝物質が一つにつなぎ合わされて、さもなければゲノムには存在しない配列が作成される。大部分の細菌のDNAが細菌染色体と呼ばれる単一の環状分子に含まれていることは、よく理解されている。細菌染色体に加えて、細菌にはプラスミドが含まれていることが多く、このプラスミドは、細菌染色体から物理的に分離された小さな環状DNA分子であり、独立して複製することができる。いくつかの例では、組換え細菌はプラスミド内に組換えDNA分子を含む。
【0014】
本明細書で使用する用語「プロバイオティック」とは、宿主生物にとって有益な機能を果たす、非病原性かつ非毒性の微生物、特に細菌を指す。哺乳動物種の消化管には、数多くの多様な細菌を含む複雑な微生物生態系が存在している。消化管内の常在細菌群は、消化管の機能、ひいては宿主生物の健康と幸福に大きな影響を与えている。これらのうち、一部の細菌は、日和見的であるかまたは有害と考えられて、下痢、感染症、胃腸炎、内毒素症などの有害な病状を引き起こす一方で、一部の細菌種は、宿主生物にとって有益な機能を果たすという点で「プロバイオティック」と考えられている。
【0015】
本明細書で使用する用語「乳酸菌」またはその文法的変異形は、共通の代謝的および生理学的特性を有するグラム陽性、低GC、酸耐性、一般に非胞子形成性、非呼吸性、棒状(桿菌)または球状(球菌)の細菌の目(order)を指す。これらの菌は、通常、分解中の植物および乳製品に見られる菌であり、炭水化物発酵の主要な最終代謝産物として乳酸を産生する。乳酸菌の例には、ラクトコッカス(Lactococcus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、アエロコッカス(Aerococcus)、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、オエノコッカス(Oenococcus)、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)、テトラジェノコッカス(Tetragenococcus)、バゴコッカス(Vagococcus)、およびワイセラ(Weissella)が含まれる。
【0016】
ラクトコッカスは乳酸菌の一つの属である。それらは、グラム陽性、カタラーゼ陰性、非運動性の球菌であり、単独で、対で、または鎖状で見られる。ラクトコッカスはホモ発酵菌(homofermenter)として知られており、それは、グルコース発酵の主産物または唯一の産物として単一の産物、この場合は乳酸を生成することを意味している。現在、ラクトコッカス属には12種類の種が認められている:L.チュンガンゲンシス(L. chungangensis)、L.ホルモセンシス(L. formosensis)、L.フジエンシス(L. fujiensis)、ラクトコッカス・ヒルシラクティス(Lactococcus hircilactis)、L.ガルビエ(L. garvieae)(L.ガルビエ亜種ガルビエ(L. garvieae subsp. garvieae)、L.ガルビエ亜種ボビス(L. garvieae subsp. bovis))、L.ラクティス(L.ラクティス亜種クレモリス(L. lactis subsp. cremoris)、L.ラクティス亜種ホルディニア(L. lactis subsp. hordniae)、L.ラクティス亜種ラクティス(L. lactis subsp. lactis)、L.ラクティス亜種トルクタ(L. lactis subsp. tructae))、L.ラウデンシス(L. laudensis)、L.ナスチテルミティス(L. nasutitermitis)、L.ピスシウム(L. piscium)、L.プランタルム(L. plantarum)、L.ラフィノラクティス(L. raffinolactis)、およびL.タイワネンシス(L. taiwanensis)。
【0017】
一つの具体例では、組換えプロバイオティック乳酸菌は、L.ラクティス種のものである。L.ラクティスは、バターミルクとチーズの製造に広く利用されているグラム陽性菌である。L.ラクティスの細胞は、対になったおよび短鎖状の群れになった球菌であり、成長条件に応じて、典型的な長さ0.5~1.5μmの卵形に見える。L.ラクティスは胞子を作らず(非胞子形成性)、運動性でもない(非運動性)。L.ラクティスは糖から乳酸を生成する。乳酸を生成する能力は、L.ラクティスが乳業において最も重要な微生物の一つとなっている理由の一つである。L.ラクティスは、その食品発酵の歴史に基づいて、GRAS(generally recognized as safe(一般に安全と認められている))ステータスを有し、日和見病原体であるという事例報告はほとんどない。GRASとは、食品に添加される化学薬品または物質が専門家によって安全であると見なされ、そのため通常の連邦食品医薬品化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act:FFDCA)の食品添加物許容要件から除外されるという米国食品医薬品局(FDA)の指定である。いくつかの例では、本明細書で開示される組換えプロバイオティック乳酸菌、または組換え乳酸産生菌、またはラクトコッカス属の菌は、GRAS菌として分類される。
【0018】
本明細書で使用する用語「発現する」またはその文法的変異形は、DNAから、遺伝子の2本の核酸鎖の一方の領域に少なくとも部分的に相補的なRNA核酸分子に転写され、続いて、該RNA核酸分子からタンパク質またはポリペプチドまたはその一部を与えるように翻訳されることを意味する。
【0019】
本明細書で使用する用語「アドヘシン」は、他の細胞または表面への、通常は細菌が感染または生息している宿主細胞への、接着または付着を促進する細菌の細胞表面成分または付属物を指す。付着は、細菌の病原性または感染において不可欠な段階であり、新しい宿主にコロニーを形成するために必要である。一部の細菌では、アドヘシンは、細菌の宿主細胞への侵入に関連するタンパク質のクラスである、インベイシン(invasin)としても機能する。インベイシンは、細菌感染の初期段階で侵入を促進する役割を果たしている。本発明の組換え細菌で発現されるアドヘシンの例には、フィブロネクチン結合タンパク質およびインターナリンが含まれる。
【0020】
フィブロネクチンは、ヒト体液ならびに様々なヒト組織および臓器の細胞外マトリックスに偏在的に見られるマルチドメイン糖タンパク質である。分泌後、フィブロネクチン分子は膜貫通型インテグリンに結合し、それにより二量体化と細胞骨格カップリングが促進される。インテグリンと結合したフィブロネクチンは、コラーゲンおよびラミニンなどのECM成分に結合することが可能である。ヒトフィブロネクチンは、細胞移動、組織修復、および接着の調節において大きな役割を果たす。フィブロネクチンはまた、消化管における細菌アドヘシンの共通の標的でもある。フィブロネクチン結合タンパク質(FnBP)は様々な宿主関連細菌において同定されている。例えば、フィブロネクチン結合タンパク質A(FnBPA)とFnBPBは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染のためのアドヘシンおよび/またはインベイシンとして機能する。
【0021】
インターナリンは、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)に見られる表面タンパク質である。それらは2つの既知の形態InlAおよびInlBとして存在する。それらは、それぞれ、カドヘリン膜貫通型タンパク質およびMet受容体を介して、細菌が哺乳動物細胞に侵入するために使用される。培養細胞では、InlAはリステリアのヒト上皮細胞への侵入を促進するために必要であり、一方InlBは肝細胞、線維芽細胞、類上皮細胞などの他のいくつかの細胞種におけるリステリアの内在化に必要である。本明細書で使用する用語「非複製プラスミドベクター」とは、哺乳動物宿主細胞に送達された後に、哺乳動物宿主細胞内で複製できないプラスミドベクターを指す。本発明の発明者らは、非複製プラスミドベクターの使用によって、哺乳動物宿主細胞へのプラスミドベクターの送達を含む治療レジメンの管理を改善できることを見出した。例えば、プラスミドベクターの送達に起因する有害反応は、治療を中止することで、容易に制御したり、終わらせたりすることができる。その理由は、本発明の組換え細菌を感染させた哺乳動物宿主細胞が、その娘細胞にプラスミドベクターを受け渡すことができないため、有害作用は感染した初代細胞に限定され、感染した細胞の寿命が尽きると自然に停止するからである。また、非複製プラスミドベクターを使用すると、患者ごとに異なる可能性のある最適な臨床効果を達成するために、投与量(すなわち、プラスミドベクターに含まれる遺伝子の発現)を経時的に微調整することもできる。非複製プラスミドベクターは、一般的に細菌の複製起点(ori)を用いて構築され、EBVまたはSV40 oriおよびそれらの対応する抗原成分などの、哺乳動物細胞での複製を促進できる他の因子を含まない。それゆえ、得られた構築物は、本明細書に開示される組換え細菌内で複製することができるが、哺乳動物宿主細胞内では複製することができない。
【0022】
細菌にアドヘシンを発現させると、細菌が宿主生物の消化管に投与された場合に、その細菌は宿主生物の消化管内のその宿主細胞に感染することができる。プロバイオティック乳酸菌は、安全な細菌として一般的に認識されているので、本発明の発明者らは、アドヘシンを発現するプロバイオティック乳酸菌を使用して、宿主生物の細胞に、特に宿主生物の消化管の細胞に該菌を感染させた後で、宿主生物の消化管の細胞に遺伝物質を送達することができる、と考えている。
【0023】
宿主生物の細胞に送達される遺伝物質は宿主生物に有益なものであることが好ましい。例えば、細菌を感染させる宿主生物の細胞が腫瘍細胞であり、その細胞に送達される遺伝物質が腫瘍抑制タンパク質をコードする場合、その細菌は宿主生物の腫瘍を処置するために使用することができる。好ましい態様では、細胞に送達される遺伝物質は、腫瘍細胞の成長を抑制するだけで、健康な非腫瘍細胞の成長を抑制することはない。
【0024】
本明細書で使用する用語「腫瘍抑制遺伝子」またはその文法的変異形は、細胞増殖を制御するのに役立つ腫瘍抑制タンパク質と呼ばれるタンパク質を作るタイプの遺伝子を指す。腫瘍抑制遺伝子の変異は、癌を引き起こす可能性がある。
【0025】
本明細書で使用する用語「抗炎症遺伝子」またはその文法的変異形は、炎症を予防するか、または炎症の症状を軽減するのに役立つタンパク質を作るタイプの遺伝子を指す。
【0026】
いくつかの例では、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子は、消化管の細胞に対して腫瘍抑制効果または抗炎症効果を有する。腫瘍抑制遺伝子の例としては、TP53、APC、CD95、PTEN、TRAIL、MDA7、およびPMAIP1が挙げられる。抗炎症遺伝子の例としては、IL10、IL11、IL13、IL1-ra、およびTGFbが挙げられる。いくつかの例では、宿主細胞に送達される抗炎症遺伝子は、他の抗炎症遺伝子の発現を誘導したり、炎症誘発性遺伝子の発現を抑制したりすることができる。炎症誘発性遺伝子の例としては、IL1b、IL6、IL18、およびTNFαが挙げられる。
【0027】
一具体例では、宿主生物に送達される腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子は、DUSP10遺伝子である。DUSP10は、MAPキナーゼホスファターゼ5(MKP5)としても知られるDUSP10(二重特異性ホスファターゼ10)をコードするタンパク質コード遺伝子である。DUSP10遺伝子の例示的な配列はSEQ ID NO: 1に示され、DUSP10タンパク質の例示的な配列はSEQ ID NO: 10に示される。
【0028】
二重特異性プロテインホスファターゼは、ホスホセリン/スレオニン残基とホスホチロシン残基の両方を脱リン酸化することで、それらの標的キナーゼを不活性化する。それらは、細胞の増殖と分化に関わるMAPキナーゼスーパーファミリーのメンバーを負に制御する。この二重特異性ホスファターゼファミリーの異なるメンバーは、MAPキナーゼに対する基質特異性が明確に区別されており、組織分布と細胞内局在が異なっており、また、細胞外刺激による発現誘導の様式も相違している。
【0029】
DUSP10は、大腸癌で高発現されるEGFR-KRAS-BRAF-MEK-ERK1/2の経路の下流にあるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(mitogen-activated protein kinase:MAPK;ERK1/2を含む)を標的とする。ERK1/2活性の増加をもたらすこの経路内の複数の遺伝子変異は、大腸癌に特徴的である。DUSP10は下流エフェクターであるERK1/2を標的とするため、その治療効果がEGFR-KRAS-BRAF-MEK-ERK1/2経路の上流エフェクターの変異によって影響を受ける可能性は低い。さらに、DUSP10は、免疫反応の発生に関わる主要な中間因子であるMAKP経路の負の調節因子であるため、感染細胞の炎症状態/活性をも制御できる可能性がある。
【0030】
宿主生物の細胞に送達された遺伝物質は、宿主生物の消化管の細胞内での遺伝物質中の関心対象の遺伝子の発現をもたらすと考えられる。これは、関心対象の遺伝子が、好ましくは、宿主生物の消化管の細胞外/管腔コンパートメントでは、本発明の菌において発現されないか、または有意には発現されないことを意味する。むしろ、該菌は宿主生物の細胞に遺伝物質を送達する運搬体(vehicle)として機能しているにすぎない。その利点は、腫瘍抑制タンパク質および/または抗炎症タンパク質などの遺伝子産物が、腫瘍抑制効果および/または抗炎症効果を発揮することになっている細胞内で直接発現されることである。これを達成するためには、送達される遺伝物質中の関心対象の遺伝子が、真核細胞内での関心対象の遺伝子の発現を駆動するプロモーターによって、好ましくは、菌細胞などの原核細胞内での関心対象の遺伝子の発現を駆動しないプロモーターによって、制御される必要がある。本明細書で使用する用語「真核生物」または「真核生物の」は、動物(例えば、哺乳類、昆虫、爬虫類、および鳥類)、繊毛虫、植物(例えば、単子葉、双子葉、および藻類)、真菌、酵母、鞭毛虫、微胞子虫、および原生生物などの系統発生ドメイン真核生物(Eukarya)に属する生物またはそれに由来する細胞もしくは組織を意味する。「原核生物」、「原核細胞」または「非真核生物」という用語は、古細菌(Archaea)ドメインおよび真正細菌(Bacteria)ドメインの生物を含むがそれらに限定されない生物を指す。
【0031】
いくつかの好ましい例では、宿主生物の細胞、特に哺乳類の細胞は、組換え細菌により送達される遺伝物質によって一過性にトランスフェクションされるだけである。したがって、DUSP10遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターは、哺乳動物ウイルス由来のプロモーターであり得る。そのようなプロモーターの例としては、(i)バキュロウイルス由来のポリヘドリンプロモーター(PHプロモーター)、(ii)サイトメガロウイルス由来のエンハンサーおよび前初期プロモーター(CMVプロモーター)、(iii)シミアン空胞化ウイルス40由来の初期プロモーター(SV40プロモーター)、(iv)HSV1由来のチミジンキナーゼプロモーター(TKプロモーター)、および(v)HIV由来の5'LTRプロモーター(LTRプロモーター)が挙げられる。これらの例示的なプロモーターの配列は、表1のSEQ ID NO:2~6に示される。それゆえ、いくつかの例では、哺乳動物細胞内でのDUSP10遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターは、PHプロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーター、TKプロモーター、またはLTRプロモーターである。
【0032】
【0033】
腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子を含むプラスミドベクターをプロバイオティック乳酸菌に挿入することで、該菌は、その宿主生物の細胞に該遺伝子を送達するようになる。腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子が発現して、該細胞または宿主生物に対するその効果を発揮するために、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子は、宿主細胞内、特に哺乳動物細胞内での該遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結される。
【0034】
本明細書で使用する用語「機能的に連結する」またはその文法的変異形は、関心対象の遺伝子と、リンカー(もしあれば)と、プロモーターが同じ核酸分子の一部として接合されて、関心対象の遺伝子の転写がプロモーターから開始されるように適切に配置され、方向づけられることを意味する。いくつかの例では、それは、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子と、第1のプロモーターと、任意でリンカーがプラスミドベクターの一部として接合されて、該遺伝子の転写が第1のプロモーターから開始されるように適切に配置され、方向づけられることを意味する。
【0035】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、外来の遺伝物質を、それが複製および/または発現され得る別の細胞に、人工的に運ぶための運搬体として使用されるDNA分子を指す。種々の宿主細胞には、タンパク質の翻訳後プロセシングおよび翻訳後修飾のための特徴的かつ特異的なメカニズムが備わっている。哺乳動物細胞で使用するための発現ベクターには、通常、複製起点、発現される遺伝子の前に位置するプロモーターが、必要なリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネーター配列と共に含まれる。
【0036】
本明細書で使用する用語「プラスミド」は、染色体DNAから物理的に分離され、独立して複製することができる細胞内の小さなDNA分子を指す。細菌の中では、それらは小さな環状の二本鎖DNA分子として最もよく見られる。自然界では、プラスミドは生物の生存に役立つ可能性のある遺伝子、例えば抗生物質耐性を保有していることが多い。染色体は大きく、通常の条件下で生きていくための不可欠の遺伝情報を全て含むのに対し、プラスミドは通常非常に小さく、一定の状況または特定の条件の下で生物にとって有用であり得る追加的な遺伝子のみを含む。
【0037】
また、外因性の核酸コード配列の効率的な翻訳には、特定の開始シグナルも必要になることがある。これらのシグナルには、ATG開始コドンおよび隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含めて、外因性の翻訳制御シグナルは、ベクター内に提供される必要があり得る。当業者であれば、この必要性を容易に判断して、必要なシグナルを提供できるであろう。開始コドンは、インサート全体の翻訳を確実にするために、所望のコード配列のリーディングフレームとインフレーム(またはインフェーズ)でなければならないことはよく知られている。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然と合成の両方の、様々な起源のものであり得る。適切な転写エンハンサー要素または転写ターミネーターを含めることで、発現の効率を高めることができる。真核生物の発現では、適切なポリアデニル化部位(例えば、5'-AATAAA-3')を、元のクローン化セグメント内に含まれていない場合には、転写ユニットに組み込むこともできる。典型的には、ポリA付加部位は、転写終結前の位置でタンパク質の終結部位の約30~2000ヌクレオチド下流に配置される。
【0038】
組換え細菌中のアドヘシンは、アドヘシン遺伝子、つまりアドヘシンをコードする遺伝子を含むプラスミドベクターから発現させることができ、ここで、アドヘシン遺伝子およびアドヘシンをコードする遺伝子は本開示では交換可能に使用され得る。したがって、いくつかの例では、本明細書に開示される組換え細菌は、該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子を含むプラスミドベクターを含む。別の例では、開示される組換え細菌は、該菌内でのアドヘシンをコードする遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子を含むプラスミドベクターを含む。フィブロネクチン結合タンパク質はアドヘシンの一例である。フィブロネクチン結合タンパク質の非限定的な例としては、フィブロネクチン結合タンパク質A(FnBPA)(SEQ ID NO: 12)およびフィブロネクチン結合タンパク質B(FnBPB)(SEQ ID NO: 13)があり、FnBPAとFnBPBは、フィブロネクチンへのその結合能力の点で同様の機能を有する。フィブロネクチン結合タンパク質A遺伝子の例示的な配列はSEQ ID NO: 7に示され、フィブロネクチン結合タンパク質B遺伝子の例示的な配列はSEQ ID NO: 11に示される。いくつかの好ましい例では、第2のプロモーターは、宿主細胞内、特に哺乳動物宿主細胞内での、アドヘシン遺伝子の発現を指令しない。例えば、第2のプロモーターは原核生物のプロモーターであり得る。原核生物のプロモーターは一般に、転写開始部位から上流の-10位と-35位に2つの短い配列を含む。-10位の配列はプリブノーボックス(Pribnow box)または-10エレメントと呼ばれ、通常は6つのヌクレオチドTATAATで構成される。プリブノーボックスは原核生物で転写を開始するのに不可欠である。-35位のもう一方の配列は-35エレメントと呼ばれ、通常は6つのヌクレオチドTTGACAを含む。一具体例では、アドヘシン遺伝子の発現を駆動するために使用される原核生物プロモーターは、ermプロモーターである。ermプロモーターの例示的な配列はSEQ ID NO: 8に示される。いくつかの例では、誘導性プロモーターが使用される。ラクトコッカスで使用できる誘導性プロモーターの例は、ナイシン(nisin)プロモーターである。ナイシンプロモーターの例示的な配列はSEQ ID NO: 9に示される。
【0039】
腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子を含むプラスミドベクターは、アドヘシン遺伝子を含むプラスミドベクターと同じプラスミドベクターであり得る;ただし、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現とアドヘシン遺伝子の発現とは、異なるプロモーターによって指令され、結果的に、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子は宿主細胞が該菌に感染した後に宿主細胞でのみ発現され、アドヘシン遺伝子は該菌で発現されるようにする必要がある。宿主細胞は哺乳類の細胞であることが好ましい。それゆえ、いくつかの例では、組換え細菌は、哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子と、該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子とを含む、プラスミドベクターを含む。別の例では、組換え細菌は、哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子と、該菌内でのアドヘシンをコードする遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子とを含む、プラスミドベクターを含む。
【0040】
腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子を含むプラスミドベクターは、アドヘシン遺伝子またはアドヘシンをコードする遺伝子を含むプラスミドベクターと異なるプラスミドベクターであり得る;ただし、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現とアドヘシン遺伝子の発現とは、異なるプロモーターによって指令され、結果的に、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子は宿主細胞が該菌に感染した後に宿主細胞でのみ発現され、アドヘシン遺伝子またはアドヘシンをコードする遺伝子は該菌で発現されるようにする必要がある。宿主細胞は哺乳類の細胞であることが好ましい。それゆえ、いくつかの例では、組換え細菌は、哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子を含む第1のプラスミドベクターと、該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子を含む第2のプラスミドベクターとを含む。別の例では、組換え細菌は、哺乳動物細胞内での腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令する第1のプロモーターに機能的に連結された腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子を含む第1のプラスミドベクターと、該菌内でのアドヘシンをコードする遺伝子の発現を指令する第2のプロモーターに機能的に連結されたアドヘシンをコードする遺伝子を含む第2のプラスミドベクターとを含む。
【0041】
使用する用語「第1」および「第2」は、プロモーターおよび/またはプラスミドベクターの相対的な位置または重要性を示唆または暗示するものではないことに留意されたい。プラスミドベクターが第1のプロモーターと第2のプロモーターの両方を含む場合、第1のプロモーターと第2のプロモーターは異なり、これら2つのプロモーターはそれぞれ、アドヘシン遺伝子またはアドヘシンをコードする遺伝子の発現と、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現を指令することが理解される。同様に、組換え細菌が第1のプラスミドベクターと第2のプラスミドベクターの両方を含む場合、第1のプラスミドベクターと第2のプラスミドベクターは異なり、それらはそれぞれ、アドヘシン遺伝子またはアドヘシンをコードする遺伝子の発現カセットと、腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現カセットを含むことが理解される。
【0042】
本発明の組換え細菌は、当技術分野で知られた方法を用いて構築することができ、そうした方法は、一般的に、プラスミドベクターの構築、得られたプラスミドベクターの野生型プロバイオティック乳酸菌への形質転換、形質転換に成功した該菌の同定および/または分離を含む。
【0043】
プラスミドベクターの構築は、プロバイオティック乳酸菌内で複製可能な市販のベクターバックボーン、特にラクトコッカスのベクターバックボーンを改変することで行うことができる。そのようなベクターバックボーンの例としては、pTRKH3-ermGFP(addgene社のPlasmid#27169)、pCD4、pHP003、pSRQ700、pSRQ800、pSRQ900、pK214、pAH90、pAH33、pAH82、pCIS3、pIL105、pWV01、pCI305、pCRL1127、pMN5、pBL1、pDR1-1B、pDR1-1、pS7b、pMRC01、pCRL291.1、pNZ4000、pBM02、pCL2.1、pWV02(FEMS Microbiology Review (2006) 30:243にレビューあり)、pNZ8008、pNZ8148、pNZ8149、pNZ8150、pNZ9530、およびpSH71の誘導体が挙げられる。ベクターバックボーンを制限酵素で消化し、ベクターバックボーンを線状にしてDNAライゲーションのための部位を作る。関心対象の遺伝子のそれぞれ、この場合はアドヘシン遺伝子および/または腫瘍抑制遺伝子もしくは抗炎症遺伝子を、線状化したベクターバックボーンにライゲートして、菌細胞への形質転換のためのプラスミドベクターを形成する。
【0044】
プラスミドベクターの菌細胞への形質転換は、当技術分野で知られた方法を用いて実施することができる。そのような方法は、一般に、自然界では通常存在しない条件に菌細胞をさらすことによって、菌細胞をDNAに対して受動的に透過性にすることを含む。よく使用される方法には、エレクトロポレーション法とヒートショック法が含まれる。エレクトロポレーション法では、通常、菌細胞が10~20kV/cmの電界で短時間のショックを受ける;これにより、細胞膜に穴が開いて、その穴からプラスミドベクターが侵入できると考えられている。電気ショックの後、細胞の膜修復機構によって穴は急速に閉じられる。ヒートショック法では、細胞を低温条件下に2価カチオンを含む溶液中でインキュベートした後、熱パルス(ヒートショック)にさらす。該カチオンは細胞膜を部分的に破壊する;これにより、DNAが宿主細胞に入り込むことができる。細胞を低温状態で2価カチオンにさらすと、細胞の表面構造も変化したり、弱体化したりして、DNAの透過性が高まる可能性があると示唆されている。熱パルスは、細胞膜全体に熱的不均衡を生じさせ、これが細胞孔または損傷した細胞壁から細胞内にDNAを侵入させると考えられている。
【0045】
分子クローニング用に市販されているベクターバックボーンには、一般に、1つまたは複数の抗生物質耐性遺伝子が含まれている。形質転換段階を実施した後、得られた菌を抗生物質含有培養プレート上に置いて、形質転換に成功した細胞を選択する。形質転換に成功しなかった菌細胞は抗生物質耐性遺伝子を獲得していないので、形質転換に成功した菌細胞のみがプレート上で生き残り、コロニーを形成すると考えられる。各コロニーは、同一のプラスミド含有菌のクラスターを含む。通常、数個のコロニーを選択し、それぞれをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による配列決定および/または制限消化で調べて、所望のプラスミドベクターを含むコロニーを特定する。その後、所望のプラスミドベクターを含むことが確認された菌のコロニーを、大量に増殖させることができる。
【0046】
本発明の組換え細菌は、インビボまたはインビトロで真核細胞に外因性の腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子を送達することができる。その送達には、標的細胞による組換え細菌の接触および内在化が必要である。内在化は1つまたは複数の異なるメカニズムを介して起こり得る。組換え細菌と標的細胞との接触は、インビボまたはインビトロで起こるように誘導することができる。一般的には、接触はインビボで行われる。
【0047】
腫瘍抑制遺伝子または抗炎症遺伝子の発現レベルが増加すると、癌細胞の増殖を抑制しかつ/または炎症を軽減することができるので、本発明の組換え細菌は、癌および/または炎症の処置に用いることができる。それゆえ、一局面では、対象において癌を処置するかまたは炎症を軽減する方法が提供され、この方法は、薬学的に有効な量の本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌を対象の消化管に投与することを含み、かつ癌または炎症は消化管の癌または炎症である。
【0048】
いくつかの例では、処置に使用するための、本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌が提供される。いくつかの他の例では、対象における癌の処置または炎症の軽減に使用するための、本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌が提供され癌または炎症は消化管の癌または炎症である。いくつかの他の例では、対象における癌の処置または炎症の軽減のための医薬の製造における、本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌の使用が提供され、癌または炎症は消化管の癌または炎症である。
【0049】
いくつかの例では、対象において癌を処置するかまたは炎症を軽減する方法は、薬学的に有効な量の免疫チェックポイント阻害物質を投与することをさらに含み得る。薬学的に有効な量の免疫チェックポイント阻害物質は、本発明の組換え細菌と一緒に、または別々に投与することができる。「免疫チェックポイント阻害物質」という用語は、チェックポイントタンパク質を遮断または阻害するタイプの薬物を指す。チェックポイントタンパク質は免疫系の調節因子であり、免疫反応が強くなりすぎないようにしており、これにより、免疫細胞が癌細胞を殺すのを妨げることがある。こうしたチェックポイントタンパク質が遮断されると、免疫細胞はより効果的に癌細胞を標的にし、かつ/または撲滅することができる。チェックポイントタンパク質は、癌細胞によって、またはB細胞、T細胞などの免疫細胞によって産生され得る。いくつかの例では、免疫チェックポイント阻害物質は、プログラム細胞死リガンド1(programmed death ligand 1:PDL-1)、プログラム細胞死1(programmed death 1:PD-1)および細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(cytotoxic T lymphocyte-associated antigen-4:CTLA-4)の阻害物質であり得るが、これらに限定されない。
【0050】
いくつかの例では、処置に使用するための、本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌および免疫チェックポイント阻害物質が提供される。いくつかの他の例では、対象における癌の処置または炎症の軽減に使用するための、本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌および免疫チェックポイント阻害物質が提供され、癌または炎症は消化管の癌または炎症である。いくつかの他の例では、対象における癌の処置または炎症の軽減のための医薬の製造における、本発明の組換えプロバイオティック乳酸菌および免疫チェックポイント阻害物質の使用が提供され、癌または炎症は消化管の癌または炎症である。
【0051】
本発明者らはまた、腫瘍抑制遺伝子の非存在下にFnbを発現する組換え細菌で処置されたマウスでも、腫瘍負荷の減少を示すことを見出した。したがって、一局面では、対象において癌を処置する方法が提供され、この方法は、薬学的に有効な量の組換えプロバイオティック乳酸菌を投与することを含み、該菌は、該菌内でのアドヘシン遺伝子の発現を指令するプロモーターに機能的に連結されたアドヘシン遺伝子を含む非複製プラスミドベクターを含む。一例では、対象において癌を処置する方法が提供され、この方法は、薬学的に有効な量の組換えプロバイオティック乳酸菌を投与することを含み、該菌は、該菌内でのアドヘシンをコードする遺伝子の発現を指令するプロモーターに機能的に連結されたアドヘシンをコードする遺伝子を含む非複製プラスミドベクターを含む。
【0052】
用語「処置する」またはその文法的変異形は、望ましくない疾患または病気(例えば、癌)を有する対象またはシステムに組成物を投与することを意味する。対象に組成物を投与することによる効果は、疾患の特定の症状が消失すること、疾患の症状が軽減もしくは防止されること、疾患の重症度が低下すること、疾患が完全に除去(ablation)されること、特定の事象もしくは特性の発生や進行が安定化したり遅延したりすること、または特定の事象もしくは特性の発生する機会が最小化することなどであり得るが、これらに限定されない。
【0053】
用語「軽減する」または「軽減」またはその文法的変異形は、指定されたパラメータが、基準の同じパラメータと比較して、減少(低下)することを意味する。例えば、「炎症を軽減する」という文脈において、「軽減する」とは、未処置の炎症の重症度と比較して、炎症の重症度が低下することを指す。いくつかの例では、炎症の重症度は、未処置の炎症と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%低下する。
【0054】
本明細書で使用する用語「炎症」とは、体内の白血球とそれらが産生する物質が、細菌やウイルスなどの外来生物による感染から体を保護するプロセスを指す。炎症の重症度は、空腹時インスリン濃度、ヘモグロビンA1C(HbA1c)、C反応性タンパク質(CRP)、血清フェリチン、および赤血球分布幅(RDW)を測定する血液検査など、当技術分野で公知の方法により測定することができる。
【0055】
本明細書で使用する用語「薬学的に有効な量」、「有効量」、または「治療的に有効な量」とは、処置される疾患状態の1つまたは複数の症状を処置する、抑制する、または緩和するのに十分な投与量、あるいはその他の方法で所望の薬理学的および/または生理学的効果を提供するのに十分な投与量を意味する。正確な投与量は、対象に依存する変数(例えば、年齢、免疫系の健康状態など)、疾患、投与される治療薬など、様々な要因によって異なっている。薬学的に有効な量の効果は、対照と比較したものであり得る。そのような対照は、当技術分野で知られており、例えば、薬物もしくは薬物の組み合わせを投与する前の、または投与しない場合の、対象の状態とすることができ、薬物の組み合わせの場合には、組み合わせの効果が、薬物の1つだけを投与した場合の効果と比較される。薬学的に有効な量は、本明細書に含まれる教示を考慮して、過度の実験を行うことなく、当技術分野で公知の手段により決定することができる。いくつかの例では、菌量は、対象に対して無毒性でありながら、対象に腫瘍抑制効果を発揮するのに十分であるべきである。いくつかの他の例では、菌量は、対象に対して無毒性でありながら、対象の炎症を軽減するのに十分であるべきである。本明細書で使用する用語「無毒性」とは、以前には毒性の生物が十分な程度にまで弱毒化されていて、その弱毒化された生物を動物宿主に投与しても、検出可能または測定可能な疾患を引き起こさないようにしたものを指す。一般に、そのような無毒性は、LD50、コロニーを形成した臓器の数、またはCFUの数が10分の1、100分の1、1000分の1またはそれ以下に減少することによって示される。
【0056】
薬学的に有効な量は、特定の対象、菌種、関与する癌/炎症のタイプ、ならびに癌/炎症のステージおよび/または重症度によって決まる。用量および/または投与回数も、個々の対象の年齢、体重、および応答に応じて変化する。一般的に、1日の総用量の範囲は、1日あたり約105~1011CFU(コロニー形成単位)の菌、または1日あたり約108~5×1010CFUの菌、または粉末形態で1日あたり約2×109CFUの菌、または液体製剤で1日あたり9×108~1×1010CFUの菌であり、単回でまたは分割して投与される。1コースの処置期間は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも7週間、少なくとも10週間、少なくとも13週間、少なくとも15週間、少なくとも20週間、少なくとも6ヶ月、または少なくとも1年とすべきである。当業者には明らかなように、場合によっては、これらの範囲外の投与量を使用する必要がある可能性がある。特定の例では、組換え細菌は、症状がコントロールされるまで、または疾患が部分的もしくは完全に退行するまで、ある期間にわたって投与することができる。さらに、臨床医または治療担当医師は、個々の患者の応答に併せて、薬剤としての組換え細菌の使用をいつどのように中断、調整、または終了するかを知っていることにも留意されたい。
【0057】
本明細書で使用する用語「CFU」は、コロニー形成単位を指し、これは、サンプル中の生存可能な細菌または真菌の細胞数を推定するために使用される単位である。生存可能とは、制御された条件下で二分裂(binary fission)を経て増殖する能力と定義される。コロニー形成単位でカウントするには、微生物を培養する必要があり、生死にかかわらず全ての細胞をカウントする顕微鏡検査とは対照的に、生存細胞のみがカウントされる。いくつかの例では、1 CFUには約105~107個の細胞が含まれている。
【0058】
癌患者にとっての治療的利益は、対象患者にもよるが、癌の成長および/もしくは癌の他の身体部位への広がり(すなわち、転移)を抑制するまたは遅らせること、癌の症状を緩和すること、癌に罹患した対象の生存確率を改善すること、対象の余命を延長すること、対象の生活の質を向上させること、ならびに/または処置(例えば、手術、化学療法、または放射線)コースが成功した後の再発の確率を低下させることなど、多岐にわたっている。癌の成長および進行に対する本発明の菌の効果は、当業者に知られた任意の方法でモニターすることができ、これには、限定するものではないが、以下の測定が含まれる:a)コンピュータ断層撮影(CT)スキャンまたはソノグラムなどのイメージング技術を用いた腫瘍のサイズと形態の変化;およびb)癌のリスクを予測する生物学的マーカーのレベルの変化。
【0059】
本明細書で使用する用語「阻害する」またはその文法的変異形は、特定の特性を妨げるまたは抑制することを意味する。これは通常、何らかの標準値または期待値に関連している、すなわち、それは相対的であるが、標準値または相対値を参照することは必ずしも必要でないことが理解される。例えば、「発現を阻害する」とは、標準または対照と比較して、遺伝子の発現もしくは活性を妨げる、干渉する、または抑制することを意味する。また、「活性を阻害する」は、標準または対照と比較して、タンパク質などの遺伝子産物の合成、発現もしくは機能を妨げる、または抑制することを意味しうる。
【0060】
本明細書で使用する用語「消化管」(または略して「GI管」)は、食物を取り込み、それを消化してエネルギーと栄養素を抽出および吸収し、残った老廃物を排出する動物の、特に哺乳動物の、器官系を指す。GI管は、口腔、食道、胃、小腸、大腸、盲腸、虫垂、直腸、肛門、肝臓、および胆嚢で構成されている。
【0061】
GI管の癌とは、GI管のあらゆる部位に生じる癌を指す。消化管の癌の例としては、食道癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢・胆道癌、および肛門癌が挙げられる。一具体例では、その癌は大腸癌である。
【0062】
大腸癌は、消化管の最後の部分である結腸と直腸(つまり大腸)にできる癌である。食物が結腸に入ると、水が吸収され、食物の残留物が細菌によって老廃物(糞便)に変換される。直腸は、肛門から排出される前の便を蓄える結腸の末端部分である。結腸と直腸の内壁にはポリープが形成されることがある。それらは、50歳以上の人によく見られる良性の腫瘤である。ところが、ある種のポリープは癌に進展する可能性がある。大腸癌は、多くの場合、初期段階では無症状である。以下の兆候は、大腸癌を示唆している可能性がある:血便、排便習慣の変化、腹痛または腹部不快感、貧血、および腹部のしこりの存在。定期的に検診を受けることで、ポリープまたは大腸癌を早期に発見することができる。早期の大腸癌を発見するために、通常、次のような検査が単独でまたは組み合わせて採用される:免疫学的便潜血検査(FIT)、大腸内視鏡検査、および軟性S状結腸鏡検査。FITは、糞便中の少量の血液の存在を検出する予備検査である。大腸内視鏡検査は、鎮静状態で肛門から挿入される柔軟な光ファイバー器具を用いて、結腸と直腸を検査することを含む。その診断上の使用に加えて、大腸内視鏡検査は、ポリープを除去する、癌性しこりの生検を行う、出血斑の止血を行うなど、処置にも使用することができる。軟性S状結腸鏡検査では、大腸の下端の内膜が検査される。短くて柔軟な照明付きのチューブが直腸に挿入されて、S状結腸へとゆっくり誘導される。
【0063】
本発明の組換え細菌を投与される対象は、任意の脊椎動物、好ましくは哺乳動物、例えば家畜、スポーツ動物、および霊長類、例えばヒトであり得る。
【0064】
本発明の組換え細菌は、経口投与、胃栄養チューブによる投与、十二指腸栄養チューブによる投与、および直腸投与を含むがこれらに限定されない、通常の投与経路を介して対象の消化管に投与することができる。
【0065】
いくつかの例では、経口投与が好ましい投与経路である。本発明の組換え細菌は、単独で経口的に投与され得る。組換え細菌を経口組成物として調製することも可能である。有効量の経口組成物を対象に提供するために、任意の剤形が採用される。剤形としては、錠剤、カプセル剤、分散液剤、懸濁液剤、溶液剤などがある。いくつかの例では、経口投与に適した組成物は、それぞれが所定量の本発明の組換え細菌を含む、カプセル剤、カシェット剤、もしくは錠剤などの個別の単位として、粉末剤もしくは顆粒剤として、または水性液体、非水性液体、水中油型エマルション、もしくは油中水型液体エマルション中の溶液剤もしくは懸濁液剤として提示され得る。一般的に、該組成物は、活性成分を液状担体または微細な固形担体またはその両方と均一かつ緊密に混合し、次いで、必要に応じて、混合物を所望の提示形態に成形することによって調製される。
【0066】
経口組成物はさらに、結合剤(例えば、アルファー化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);バインダーもしくは充填剤(例えば、ラクトース、ペントサン、微結晶性セルロース、またはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン、またはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を含むことができる。錠剤またはカプセル剤には、当技術分野で周知の方法でコーティングを施してもよい。経口組成物は、薬学的に許容される担体もしくは賦形剤、ビタミン、ハーブ(漢方薬製剤を含む)、ハーブエキス、ミネラル、アミノ酸、香味剤、着色剤、および/または防腐剤を含むがこれらに限定されない、追加の成分をさらに含むことができる。組換え細菌を、対象が摂取する食物に添加することも可能である。関連する技術分野の当業者には知られるように、本発明の組換え細菌を、菌細胞が生きたままで、食物と混合するために、多くの方法を使用することができる。いくつかの例では、菌細胞を含む培養ブロスを、摂取の直前に食物に直接加える。また、菌細胞の乾燥粉末を再構成して、摂取の直前に食物に直接加えることもできる。好ましくは、本発明の組換え細菌は、約0℃~4℃の温度などの条件下で製造および保存される。本明細書で使用する用語「食物」は、動物に栄養を与え、かつヒトを含む動物の正常な成長または加速した成長を維持するために使用される、液体または固体のあらゆる種類の材料を広く意味する。フルーツジュース、ハーブエキス、茶系飲料、乳製品、大豆製品、および米製品などであるがこれらに限定されない、多くの種類の食品または飲料を用いて、本発明の組換え細菌を含む栄養組成物を形成することができる。
【0067】
本発明の組換え細菌は経口的に投与されるため、一般的に、菌の投与に関する医療従事者の支援は必須でない。
【0068】
特定の対象においては、本発明の組換え細菌の経口投与が可能でないことがある。そのような状況では、胃栄養チューブによる投与、十二指腸栄養チューブによる投与、および直腸投与などの代替投与経路を使用することができる。そのような代替投与経路を用いる場合、本発明の組換え細菌は液体製剤の形態であることが好ましい。
【0069】
液体製剤は、溶液剤または懸濁液剤の形態をとることもできるし、使用前に水または他の適切なビヒクルで構成される乾燥品として提示することもできる。乾燥品の再構成に使用される液体の温度は、一般に65℃未満とする必要がある。そのような液体製剤は、薬学的に許容される添加剤、例えば、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素添加食用油脂);乳化剤(例えば、レシチン、またはアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、または分留植物油);および防腐剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはp-ヒドロキシ安息香酸プロピル、またはソルビン酸)などを用いて、従来の手段によって調製することができる。本発明の組換え細菌は、手術、化学療法剤、および放射線などの、しかしこれらに限定されない、他の種類の治療法と併用して、またはローテーションで使用することができる。
【0070】
好ましい例では、組換え細菌は、対象の消化管に投与されるときに生きている。いくつかの他の例では、組換え細菌は、対象の消化管に投与されるときに不活性化されているか、または死んでいる。生きた組換え細菌は、弱毒化されたものまたは非弱毒化されたもののいずれかであり得る。本明細書で使用する用語「弱毒化された」およびその文法的変異形は、野生型生物の毒性を弱める、または低減させることを意味する。したがって、本明細書で使用する用語「非弱毒化された」およびその文法的変異形は、野生型生物と比較して、その生物の毒性が弱められていない、または低減されていないことを意味することになる。いくつかの例では、ラクトコッカス属の菌がその宿主生物に対して毒性または害をもたらさない場合、該菌の弱毒化は必要ない。
【0071】
本明細書に例示的に記載されている本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1つの要素または複数の要素、1つの限定または複数の限定の非存在下で、適切に実施することができる。それゆえ、例えば、用語「含む(comprising)」「含む(including)」、「含む(containing)」などは、拡張的にかつ限定なしに解釈されるものとする。さらに、本明細書で使用される用語および表現は、限定の用語としてではなく、説明の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用において、示されたおよび記載された特徴またはその一部の同等物を除外する意図はなく、クレームされた本発明の範囲内で様々な変更が可能であることが認識される。したがって、本発明は、好ましい態様および任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、当業者は、本明細書に開示されそこに具体化された本発明の変更および変形を採用することができ、そのような変更および変形は本発明の範囲内であると見なされることを理解すべきである。
【0072】
本明細書では、本発明が広範かつ一般的に説明されている。一般的な開示の範囲に入る下位の種および亜属のグループのそれぞれも本発明の一部を構成している。これには、属から任意の対象物を除去する但し書きまたは消極的な限定を伴う本発明の一般的記述が含まれ、除去される材料が本明細書に具体的に記載されていようとなかろうと関係ない。
【0073】
他の態様は、以下の特許請求の範囲および非限定的な実施例の範囲内にある。さらに、本発明の特徴または局面がマーカッシュ群の表現で記載されている場合、当業者は、本発明がそれによってマーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループの点からも記載されていることを認識するであろう。
【実施例】
【0074】
実験セクション
以下の実施例は、本発明の局面を実施するための方法、または本発明の特定の態様を実施するのに適した材料を調製するための方法を示す。
【0075】
実施例1 - DUSP10の高発現はCRC患者のより良好な全生存と関連している
近年、DUSP発現の異常調節が複数の癌に関連していることを示す研究が増えており、DUSPの機能変化はしばしば腫瘍におけるMAPK活性の変化に関連して報告されている。DUSP10レベルとCRC患者の生存との間の理にかなった関係を調べるために、Marisa Lら(PLoS Med. 2013. 10, e1001453)および癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas:TCGA)(Nature 2012. 487, 330-337)から公表されたCRC生存データセットの詳細な分析を行った。
図2に示すように、Marisa Lらの患者コホートにおける無再発生存(relapse free survival:RFS)の確率は、DUSP10発現が高い腫瘍の患者でわずかに高い(P=0.1)傾向にあった(
図2A、左パネル)。ERK発現についてのサンプルの層別化後、腫瘍での高いDUSP10は、ERK発現が高い患者の生存確率の約20%の改善と関連していることがわかった(
図2B、右パネル)。患者生存の改善は、TCGAコホートにおいてより顕著であった(
図2B)。DUSP10発現が高い患者の生存は、ERK2の層別化の有無にかかわらず、最長60ヶ月間にわたり約20%増加した。まとめると、これらのデータは、DUSP10の発現が腫瘍の成長を制御するために機能的に重要であり、結果的に患者のより良好な生存をもたらす可能性があることを示唆している。
【0076】
実施例2 - ヒトCRC細胞におけるDUSP10の過剰発現は癌細胞の増殖と転移を抑制した
DUSP10の腫瘍抑制機能を確認するために、DUSP10を安定的に過剰発現するヒトCRC細胞株Caco2およびDLD1を作製し、免疫不全マウスに腫瘍異種移植片として生着させた。その結果は、DUSP10の過剰発現がインビボで腫瘍の成長を抑制することを示した(
図3)。2つの細胞株の決定的な違いは、DLD1ではKRAS変異(G13D)が存在するのに対し、Caco2では野生型KRASが見られることである。このことは、DUSP10の過剰発現が、KRASの状態に関係なく、腫瘍細胞の増殖を抑制するのに有効であり得ることを示唆している。興味深いことに、Kras変異(G13D)を保有するHCT116ヒトCRC細胞でDUSP10を過剰発現させると、肝臓への転移が抑制された(
図4)。この実験では、DUSP10を過剰発現するHCT116細胞または対照ベクターを、免疫不全NSGSマウスの脾臓に注入し、3週間かけて転移を起こさせた。DUSP10を過剰発現させたHCT116細胞を注入されたマウスの肝臓では、より小さなサイズの肉眼で見える転移性病変が約2倍も少なかった。KRASは、薬物療法への耐性と、それに続くERK1/2活性化の増加および細胞増殖をもたらす最も一般的な変異遺伝子の1つである。それゆえ、上記の知見から、KRAS野生型腫瘍とKRAS変異型腫瘍の両方に対するDUSP10過剰発現療法の可能性、ならびに転移性疾患の進行を抑制する可能性が実証された。
【0077】
実施例3 - DUSP10発現プラスミドを送達するためのフィブロネクチン結合タンパク質発現L.ラクティス(L.ラクティス-Fnb-DUSP10)の開発
(1)黄色ブドウ球菌由来のフィブロネクチン結合タンパク質(Fnb)と(2)ヒトDUSP10との遺伝子インサートを含むDNAプラスミドを、ベクターバックボーンpTRKH3-ermGFP(Addgene社)を改変することによって構築した(
図5)。得られたDNAプラスミドをエレクトロポレーションでラクトコッカス・ラクティス(ATCC)に形質転換し、エリスロマイシン耐性に基づいて選択した。続いて、単一の陽性クローンを分離し、使用するまで20%滅菌グリセロール中に保存した。その後の全ての感染実験では、未処置群、ベクターバックボーンを保有するL.ラクティスに感染させた群(「ラクティス-ベクター」)、およびFnb遺伝子インサートのみを含むベクターバックボーンを保有するL.ラクティスに感染させた群(ラクティス-Fnb)を含む3つの異なる対照を組み入れた。
【0078】
実施例4 - L.ラクティス-Fnb-DUSP10による処置後のインビトロおよびインビボでの腫瘍細胞増殖の減少
L.ラクティス-Fnb-DUSP10の機能性をインビトロで確認するために、Caco2(ヒトCRC細胞株)にL.ラクティス-Fnb-DUSP10または対照を感染(MOI:1500)させて使用した。
図6に示すように、感染後24時間で、L.ラクティス-Fnb-DUSP10に感染させたCaco2細胞では、DUSP10のmRNAとタンパク質の両方のレベルが増加した。機能的には、L.ラクティス-Fnb-DUSP10に毎日感染させた3日後に、対照の未感染細胞と比較して、Caco2増殖の20%減少が検出された(
図6C)。さらに重要なことに、L.ラクティス-Fnb-DUSP10(用量=1.5×10
9 CFUの菌)を強制経口投与により7週間毎日処置することで、AOM/DSS誘発CRCマウスモデルにおいて腸腫瘍の成長を抑制することに成功した(
図7)。L.ラクティス-Fnb-DUSP10を投与されたマウスの腫瘍負荷は、未処置マウスおよびラクティス-ベクターで処置されたマウスと比較して、約70%および約60%減少した。興味深いことに、ラクティス-Fnbを投与されたマウスも腫瘍負荷の約41%減少を示したが、これについてはさらなる試験が必要である(これはラクティス-Fnb処置後のDUSP10のわずかな誘導に起因する可能性がある-
図6B参照)。それにしても、L.ラクティス-Fnb-DUSP10は、腫瘍抑制効果をさらに約30%高めた。その上、L.ラクティス-Fnb-DUSP10で処置されたマウスでは、全体的な腫瘍サイズが約56%縮小した。L.ラクティス-Fnb-DUSP10の有効性は、ヒトCRC細胞株の移植モデルを用いても確認された。このパイロット実験では、3×3mm
2のヒトLs174T腫瘍異種移植片を免疫不全マウスの盲腸に移植し、2週間定着させた後、強制経口投与によりL.ラクティス-Fnb-DUSP10で処置した。
図8に示すように、L.ラクティス-Fnb-DUSP10で2週間処置されたマウスでは、移植されたLs174T異種移植片のサイズがより小さかった。これらのインビボの結果から、L.ラクティス-Fnb-DUSP10療法は、非常に有望であって現在のCRC処置と統合できる可能性があり、臨床応用に向けて開発されるべきであることが示された。
【0079】
実施例5 - L.ラクティス-Fnb-DUSP10による処置後のインビボでの結腸炎症の軽減
マウスに2% DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)を投与して結腸の炎症を誘発した後、L.ラクティス-Fnb-DUSP10処置を開始した。異なる処置(ベクター対照を含むL.ラクティス;L.ラクティス-FnbおよびL.ラクティス-Fnb-DUSP10)をマウスに投与した。
図9に示すように、L.ラクティス-Fnb-DUSP10で処置すると、対照群に比べて結腸の炎症が有意に軽減された。
【0080】
実施例6 - L.ラクティス-Fnb-DUSP10と抗PDL-1とによる併用処置後のインビトロおよびインビボでの腫瘍細胞増殖の減少
L.ラクティス-Fnb-DUSP10を免疫チェックポイント阻害物質と併用して癌を処置できるかどうかを調べるために、マウスをL.ラクティス-Fnb-DUSP10と抗PDL-1の組み合わせで処置した。10週齢のマウスに10mg/kgのアゾキシメタン(AOM)(Sigma Aldrich社; MO, USA)を腹腔内注射で単回投与し、結腸腫瘍を誘発させた。そのマウスを1週間休ませた後、1% DSSを5日間投与して2週間休ませるサイクルを3回行った。AOM注射の16週間後に、L.ラクティスおよび/または抗PDL-1(ベクター対照を含むL.ラクティス;L.ラクティス-Fnb-DUSP10、抗PDL-1、抗PDL-1+L.ラクティス-ベクター、および抗PDL-1+ラクティス-Fnb-DUSP10)による毎日の処置を開始し、4週間後にマウスを犠牲にして腫瘍負荷を測定した。抗PDL-1および抗PDL-1+L.ラクティス-ベクターを投与されたマウスの腫瘍負荷は、未処置マウスおよびL.ラクティス-ベクターで処置されたマウスと比較して、約68%および約70%減少した。L.ラクティス-Fnb-DUSP10で処置されたマウスの腫瘍負荷は、約83%減少した。興味深いことに、抗PDL-1+ラクティス-Fnb-DUSP10を投与されたマウスは最大の効果を示し、腫瘍負荷が約90%減少した(
図10B)。このことから、ラクティス-Fnb-DUSP10の抗腫瘍効果は、免疫チェックポイント阻害物質と併用する場合に、さらに増強できることが示される。
【0081】
SEQ IDの説明
以下の表2は、表1に記載されていない、本明細書で参照されるSEQ ID NOおよびそれらの対応する配列を詳細に示している。配列の簡単な説明も提供されている。
(表2)
【配列表】
【国際調査報告】