IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ オブ メリーランド,ボルチモア カウンティの特許一覧

特表2022-522397環状及び線状DNA分子を規則正しく構築する方法
<>
  • 特表-環状及び線状DNA分子を規則正しく構築する方法 図1
  • 特表-環状及び線状DNA分子を規則正しく構築する方法 図2
  • 特表-環状及び線状DNA分子を規則正しく構築する方法 図3
  • 特表-環状及び線状DNA分子を規則正しく構築する方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-19
(54)【発明の名称】環状及び線状DNA分子を規則正しく構築する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20220412BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220412BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20220412BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20220412BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20220412BHJP
   C12P 19/34 20060101ALI20220412BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20220412BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N15/11 Z ZNA
C12N9/00
C12N9/10
C12N9/22
C12P19/34 A
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538374
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(85)【翻訳文提出日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 US2020013587
(87)【国際公開番号】W WO2020150293
(87)【国際公開日】2020-07-23
(31)【優先権主張番号】62/792,532
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502433081
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド,ボルチモア カウンティ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ビーベリッヒ,チャールズ,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】リ,シャン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD01
4B050LL05
4B050LL10
4B063QA05
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B064AF27
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
(57)【要約】
【課題】環状及び線状DNA分子を構築する方法に関する。
【解決手段】本発明は、環状及び線状DNA分子を構築する方法に関し、より詳細には、本発明は、環状DNAベクター及び少なくとも1つの制限酵素を含む、そのような環状DNAベクターを事前に線状化しない、相同性に基づくワンチューブ構築法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチド最終産物の調製に使用するための環状又は線状DNA分子を調製するためのワンポット法であって:
反応容器、環状DNAベクターと増幅された線状化標的DNA分子との組み合わせを提供すること;
前記環状DNAベクターと前記増幅された線状化標的DNA分子を本質的に同時に前記反応容器に導入し、少なくとも1つの制限酵素を、前記環状DNAベクターを線状化する量で前記反応容器に導入すること;
少なくともDNAポリメラーゼ、5’-3’エキソヌクレアーゼ、緩衝剤を含み、任意にDNAリガーゼを含む、緩衝液を前記反応容器に加えること;
前記環状DNAベクター、前記増幅された線状化標的DNA分子、及び緩衝液を、前記環状DNAベクターの線状化に十分な時間及び温度でインキュベートし、環状化又は線状化DNA分子の作製のために、前記増幅された線状化標的DNA分子及び前記線状化環状DNAベクターを結合することを含む、ワンポット法。
【請求項2】
Taq DNAリガーゼ、9N DNAリガーゼ、及びアンプリガーゼ(Ampligase)からなる群から選択されるDNAリガーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
DNAポリメラーゼ酵素が、フュージョン(Phusion)DNAポリメラーゼ、プラチナTaq DNAポリメラーゼハイフィデリティ(High Fidelity)、及びPfu DNAポリメラーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記緩衝液が、少なくともクラウディング剤、dNTP、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ウシ血清アルブミン、及びトリス酢酸緩衝剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記5’-3’エキソヌクレアーゼが、T5エキソヌクレアーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、及びT7エキソヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クラウディング剤がPEG分子である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記緩衝液が、2%~10%のPEG8000、50mM~約150mMのトリス酢酸、pH6.5~8.5、約0.09mM~約0.4mMのdNTP、約25mM~約75mMの酢酸カリウム、約10mM~約40mMの酢酸マグネシウム、及び約50mg/ml~約150mg/mlのウシ血清アルブミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記インキュベーションの十分な時間及び温度が、37℃で15分間+50℃で約15分間;37℃で15分+50℃で45分間、及び37℃で30分+50℃で30分間からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの制限酵素が、BamHIとSalIとの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ヌクレオチド最終産物が、二本鎖DNA、環状若しくは線状DNA分子、環状若しくは線状RNA分子、又は宿主細胞の産生による前記環状化若しくは線状化DNA分子によってコードされるタンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
環状又は線状DNA分子を調製するためのワンポット法であって:
反応容器、環状プラスミド、及び所望の標的タンパク質をコードする線状化標的DNA分子のPCR増幅産物を提供すること;
前記環状プラスミドと前記線状化標的DNAのPCR増幅産物を本質的に同時に前記反応容器に導入し、BamHIとSalIとの組み合わせを含む少なくとも2つの制限酵素を、前記環状プラスミドを線状化する量で前記反応容器に導入すること;
少なくとも、DNAポリメラーゼ、5’-3’エキソヌクレアーゼ、少なくともPEG分子などのクラウディング剤を含む緩衝液、dNTP、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、トリス酢酸緩衝剤、ウシ血清アルブミンを含み、任意にDNAリガーゼを含む、成分を含むインキュベーション溶液を前記反応容器に加えること;
前記環状プラスミドの線状化に十分な時間及び温度で前記成分をインキュベートすること、及び宿主細胞におけるその後の発現のための環状化又は線状化DNA分子を作製するために前記PCR増幅産物と前記線状化環状プラスミドを結合することを含み、前記インキュベーション時間及び温度は、37℃で15分間+50℃で約15分間;50℃で60分間;37℃で15分間+50℃で45分間、及び37℃で30分間+50℃で30分間の群から選択される、方法。
【請求項12】
前記DNAリガーゼが添加され、前記DNAリガーゼは、Taq DNAリガーゼ;9N DNAリガーゼ、及びアンプリガーゼ(Ampligase)からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記DNAポリメラーゼ酵素が、フュージョン(Phusion)DNAポリメラーゼ、プラチナTaq DNAポリメラーゼハイフィデリティ(High Fidelity)、及びPfu DNAポリメラーゼからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記5’-3’エキソヌクレアーゼが、T5エキソヌクレアーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、及びT7エキソヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
環状化又は線状化DNA分子のワンポット合成のための組成物であって:
環状DNAベクター、線状DNA分子、少なくとも1つの制限酵素、少なくともDNAポリメラーゼ、5’-3’エキソヌクレアーゼ、インキュベーション溶液であって少なくともクラウディング剤、dNTP、及びトリス緩衝剤を含み、任意にDNAリガーゼを含む、インキュベーション溶液、を含む、組成物。
【請求項16】
DNAリガーゼを含み、前記DNAリガーゼは、Taq DNAリガーゼ;9N DNAリガーゼ、及びアンプリガーゼ(Ampligase)からなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記DNAポリメラーゼ酵素が、フュージョン(Phusion)DNAポリメラーゼ、プラチナTaq DNAポリメラーゼハイフィデリティ(High Fidelity)、及びPfu DNAポリメラーゼからなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記5’-3’エキソヌクレアーゼが、T5エキソヌクレアーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、及びT7エキソヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記クラウディング剤がPEG分子である、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記インキュベーション溶液が、2%~10%のPEG8000、50mM~約150mMのトリス酢酸、pH6.5~8.5、約0.09mM~約0.4mMのdNTP、約25mM~約75mMの酢酸カリウム、約10mM~約40mMの酢酸マグネシウム、及び約50mg/ml~約150mg/mlのウシ血清アルブミンを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項21】
前記少なくとも1つの制限酵素が、BamHIとSalIとの組み合わせである、請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、2019年1月15日に出願された米国仮特許出願第62/792532号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、環状及び線状DNA分子を構築する(assembling)方法に関し、より詳細には、本発明は、環状及び線状DNA分子を構築するための非線状の環状DNAベクター及び少なくとも1つの制限酵素を含む、相同性に基づくワンチューブ構築法(one-tube assembly method)を提供する。
【0003】
関連技術
特定の遺伝子を環状プラスミドベクターにクローニングすることは、多くの場合、遺伝子機能の研究の最初のステップである。相同性に基づくクローニング戦略が開発される前は、遺伝子クローニングは、標的遺伝子とベクターを制限エンドヌクレアーゼで消化し、続いてDNAリガーゼを使用してそれらを連結することによって達成されていた。このプロセスは、特にクローニングされるべき標的遺伝子がPCRによって作製される場合、技術的に困難であり得る。PCR産物のクローニングの主なハードルは、多くの場合、PCR産物の制限酵素消化の効率が低いことである。
【0004】
相同性に基づくクローニング戦略は、PCR産物のクローニングの効率を大幅に向上させる。複数の相同性に基づく戦略が説明されている。「ギブソン構築」法は、線状化ベクターから始まり、同じ反応で3種類の酵素:T5エキソヌクレアーゼ、フュージョン(Phusion)DNAポリメラーゼ、及びTaqリガーゼを使用する[1]。「In-Fusion」法は、同様の戦略を使用するが、Taqリガーゼは使用しない[2]。これらの戦略は、複数のDNA断片を1つのプラスミドDNAベクターに高効率で構築することができる。構築を行うためにT5エキソヌクレアーゼのみを必要とする別の方法が最近説明された[3]。
【0005】
しかしながら、上記のすべての戦略では、構築反応の前に環状プラスミドDNAの線状化が必要である。さらに、ほとんどのシステムでは、線状化ベクターは、構築前にアガロースゲル電気泳動によって精製する必要がある。このプロセスは、時間がかかり、技術的に困難であり得、且つコストがかかる。従って、従来技術の欠点を克服するために、環状及び線状DNAの両方を構築する方法を提供することは有利であろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、環状又は線状DNA分子を構築する方法を提供し、この方法では、1つの反応容器において、ワンステップで、線状ヌクレオチド産物と共に環状DNAベクターが直接構築される。
【0007】
一態様では、本発明は、ヌクレオチド最終産物の調製に使用するための環状又は線状DNA分子を調製するためのワンポット法を提供し、この方法は:
反応容器、ベクターと相同性を有する配列の領域を両末端に有する環状DNAベクター及び線状化標的DNA分子の組み合わせを提供すること;
環状DNAベクターと増幅された線状化標的DNA分子を本質的に同時に反応容器に導入し、且つ少なくとも1つの制限酵素を、環状DNAベクターを線状化する量で反応容器に導入すること;
少なくともDNAポリメラーゼ、5’-3’エキソヌクレアーゼ、緩衝剤を含む緩衝液であって、任意にDNAリガーゼを含む緩衝液を反応容器に加えること;
環状DNAベクター、線状化標的DNA分子、及び緩衝液を、環状DNAベクターの線状化に十分な時間及び温度でインキュベートして、環状化又は線状化DNA分子を作製するために、増幅された線状化標的DNA分子と線状化環状DNAベクターとを結合すること(joining)、を含み、ヌクレオチド最終産物は、環状又は線状DNA分子、環状又は線状RNA分子、又は宿主細胞の産生を通じて環状化又は線状化DNA分子によってコードされるタンパク質からなる群から選択される。
【0008】
組み合わせの調製において、線状化標的DNA分子を増幅することができ、続いて、線状化標的DNA分子を組み合わせにすぐ使用することができる。さらに、DNA標的分子は、5’及び3’末端の両方に一本鎖ヌクレオチドを含み得、この一本鎖ヌクレオチドは、ワンポットシステム内の切断プロセスで使用される特定の制限酵素によって生じる、線状化環状DNAベクターのDNAヌクレオチド一本鎖に対応する。従って、標的DNA標的分子は、環状DNAベクターが線状化されると、線状化環状DNA分子の重複する相補的な一本鎖DNA領域にハイブリダイズすることができる。
【0009】
線状化標的DNA分子は、いくつかの実施形態では、組み合わせられた複数のDNA断片を含み得、そのような各DNA断片は、次の断片の一本鎖DNA末端と重複する重複一本鎖DNA末端を含み、次いで、断片の組み合わせの末端は、切断された環状ベクターの末端配列と重複するか又は相同性を有する。そのような断片を結合する方法で機能するDNAポリメラーゼは、固有のエキソヌクレアーゼ活性を有すると共に本発明のDNA結合反応を行うことができるDNAポリメラーゼである。このようなポリメラーゼは、相補的なヌクレオチド配列を含む末端を有する2つの線状DNA分子を結合する能力を有する。本発明のDNAポリメラーゼは、市販されたものであってもよいし、又は標準的な組換えDNA技術を使用して調製してもよい。断片の結合に有用なDNAポリメラーゼは、固有の3’-5’エキソヌクレアーゼ活性又は5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を有する。
【0010】
重要なことに、本発明は、システムにおけるリガーゼの使用の有無にかかわらず、この方法の実現可能性を実証した。DNAリガーゼは、Taq DNAリガーゼ(New England Biolabs)、9N DNAリガーゼ(New England Biolabs)、又はアンプリガーゼ(Ampligase(Illumina, San Diego, Calif.))などの熱安定性DNAリガーゼであり、Taqリガーゼを使用することが好ましい。
【0011】
本発明の方法では、任意のDNAポリメラーゼ酵素を、ポリメラーゼサイクリング構築反応に使用することができる。好ましくは、DNAポリメラーゼは、フィデリティの高いDNAポリメラーゼであり、これは、DNAポリメラーゼが、結果として生じるインタクトな核酸分子に配列エラーを導入する可能性が低いような校正機能を有することを意味する。ポリメラーゼサイクリング構築反応に適したDNAポリメラーゼの例には、限定されるものではないが、Phusionポリメラーゼ、プラチナTaq DNAポリメラーゼハイフィデリティ(High Fidelity)(Invitrogen)、Pfu DNAポリメラーゼなどが含まれる。好ましくは、PCRで使用されるDNAポリメラーゼは、Phusion DNAポリメラーゼ(New England Biolabs, Ipswich, Mass)などの熱安定性でフィデリティの高いDNAポリメラーゼである。
【0012】
本発明では、緩衝液は、少なくともPEG分子などのクラウディング剤(crowding agent)、並びに限定されるものではないが、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ウシ血清アルブミン、dNTP、及びトリス緩衝剤などの緩衝剤からなる群から選択される成分を含む、他の成分を含む。一実施形態では、緩衝液は、2%~10%のPEG8000、50mM~約150mMのトリス酢酸(tris acetate)、pH6.5~8.5、約0.09mM~約0.4mMのdNTP、約25mM~約75mMの酢酸カリウム、約10mM~約40mMの酢酸マグネシウム、及び約50mg/ml~約150mg/mlのウシ血清アルブミンを含む。より好ましくは、緩衝液は、約5%のPEG8000、約100mMのトリス酢酸、pH8、約0.2mMのdNTP、約50mMの酢酸カリウム、約20mMの酢酸マグネシウム、及び約100mg/mlのウシ血清アルブミンを含む。
【0013】
インキュベーション時間は、好ましくは、環状プラスミドを線状化して環状化又は線状化DNA分子を作製するために、少なくとも2つの異なる期間及び温度レジームに分けられる。例えば、第1の期間及び温度は、約32℃~約40℃で約10分間~約20分間であり得、より好ましくは、約37℃の温度で約15分間であり得る。次の期間及び温度は、約45℃~約55℃で約10分間~約20分間であり、より好ましくは、約50℃の温度で約15分である。特に、50℃で60分間;37℃で15分間+50℃で45分間、及び37℃で30分間+50℃で30分などの他の温度と期間が効果的であることが分かっている。
【0014】
本発明では、少なくとも1つの制限酵素が使用され、いくつかの状況では、BamHIとSalIとの組み合わせなどの制限酵素の組み合わせが可能である。EcoRI、PstI、及びHindIIIが、本発明及び好ましい緩衝液において効率的に機能することも見出された。さらに、制限酵素(エンドヌクレアーゼ)には、平滑末端(例えば、SmaI、StuI、ScaI、EcoRV)又は3’オーバーハング(例えば、NotI、BamHI、EcoRI、SpeI、XbaI、HaeIII、TaqI、AluI)を生成する酵素が含まれ得ると考えられている。場合によっては、5’オーバーハングを生成する他の制限エンドヌクレアーゼも使用することができる。
【0015】
別の態様では、本発明は、環状又は線状DNA分子を調製するためのワンポット法を提供し、この方法は:
反応容器、既知のヌクレオチド配列を有する環状プラスミド、及び所望の標的タンパク質をコードするための既知のヌクレオチド配列を有する線状化標的DNA分子のPCR増幅産物を提供すること;
環状プラスミドと線状化標的DNAのPCR増幅産物を反応容器に本質的に同時に導入し、且つBamHIとSalIの組み合わせを含む少なくとも2つの制限酵素を、環状プラスミドを線状化する量で反応容器に導入すること;
少なくとも、DNAポリメラーゼ、5’-3’エキソヌクレアーゼ、少なくともPEG分子などのクラウディング剤を含む緩衝液を含む成分、並びに限定されるものではないがdNTP、トリス緩衝剤を含む成分、及び任意にDNAリガーゼを含む、他の成分を含むインキュベーション溶液を反応容器に加えること;
環状プラスミドの線状化のための十分な時間及び温度で成分をインキュベートし、宿主細胞におけるその後の発現のための環状化又は線状化DNA分子の作製のためにPCR増幅産物と線状化環状プラスミドを結合すること、を含み、インキュベーション時間及び温度は、37℃で15分間+50℃で約15分間;50℃で60分間;37℃で15分間+50℃で45分間、及び37℃で30分間+50℃で30分間の群から選択される。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、環状又は線状DNA分子を調製するためのワンポット法を提供し、この方法は:
反応容器、環状プラスミド、及び所望の標的タンパク質をコードする線状化標的DNA分子のPCR増幅産物を提供すること;
環状プラスミドと線状化標的DNAのPCR増幅産物を反応容器に本質的に同時に導入し、且つ少なくとも1つの制限酵素を、環状プラスミドを線状化する量で反応容器に導入すること;
少なくともDNAポリメラーゼ、5’-3’エキソヌクレアーゼ、緩衝剤を含む緩衝液であって、任意にDNAリガーゼを含む緩衝液を反応容器に加えること;
環状プラスミド、線状化標的DNA分子と緩衝液のPCR増幅産物を、環状プラスミドの線状化に十分な時間及び温度でインキュベートし、宿主細胞におけるその後の発現のための環状化又は線状化DNA分子の作製のためにPCR増幅産物と線状化環状プラスミドを結合することを含む。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は、環状化又は線状化DNA分子のワンポット合成のための組成物を提供し、この組成物は:
環状プラスミド、線状化標的DNA分子、少なくとも1つの制限酵素、好ましくは2つの制限酵素、少なくともDNAポリメラーゼ、5’-3’エキソヌクレアーゼ、クラウディング剤としてPEG分子を含むインキュベーション溶液、並びに限定されるものではないがdNTP、トリス緩衝剤を含み、任意にDNAリガーゼを含む、他の成分を含む。線状化DNA標的分子は、組成物に含めるために増幅することができる。
【0018】
さらに別の態様では、本発明はまた、線状化DNA標的産物を環状DNAベクターに一方向にクローニングするのに適したキットを提供する。キットは、単一の反応容器に加えるための別個の容器内に、増幅産物の環状DNAベクターへのDNA結合反応を行うことができる固有のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼのアリコート、反応容器に加えるための別の容器に入れることができる少なくとも1つの制限酵素、及び反応緩衝液のアリコートを含み得る。アリコートは、クローニングの少なくとも1つのプログラムを実行するのに十分な成分の量を指す。DNAポリメラーゼは、他の試薬を含む緩衝液などの既知の濃度の溶液として提供することができ、そのような試薬は、一緒に又は別々の容器に、クラウディング剤としてのPEG分子、並びに限定されるものではないがdNTP、トリス緩衝剤を含み、任意にTaqリガーゼを含む、他の成分を含み得る。
【0019】
本発明の様々な他の態様、特徴、及び実施形態は、以降の開示及び添付の特許請求の範囲からより完全に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図面の簡単な説明
図1図1は、先行技術の方法で使用されるベクターに遺伝子を構築するためのプロセスを示す。
図2図2は、環状ベクターDNAの本発明の標的DNAでのワンステップ構築を示す。
図3図3は、適切なインサートを有するクローンのコロニーPCR画面を示す。
図4図4は、相同性ステッチングオリゴ(stitching oligo)を用いた本発明の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、既存の方法に比べて複数の利点を有する。第1の利点は、時間がかからないことである。従来技術の方法は、事前に線状化したDNA環状ベクターを使用し、ベクターDNAのそのような制限消化は、多くの場合、20分~1時間かかる。特に、図1に示すように、ベクターDNAの制限酵素消化は、多くの場合、不完全である。不完全に消化された微量のベクターDNAは、標的DNA分子を含まない偽陽性クローンを生成する。構築反応中にベクターが分子内でそれ自体に迅速且つ優先的に再ライゲーションされるため、ベクターが単一の制限酵素で消化される場合、ギブソン法を使用して構築を成功させることは技術的に非常に困難である。これは、構築反応が非効率的である場合、例えば、適切なインサートを作製するために複数の断片の結合が必要な場合に特に問題である。
【0022】
次に、従来技術の次のステップは、多くの場合、アガロースゲルを調製する時間を含めると少なくとも1時間かかる可能性があるDNAの電気泳動を必要とする。従来技術の事前に線状化されたベクターDNAをゲルから精製するには、多くの場合、30分以上かかる。他の方法には、制限消化後の沈殿及び再懸濁が含まれる。
【0023】
重要なことに、本発明は、上記のすべての時間のかかるステップを回避し、さらに重要なことに、アガロースゲル電気泳動及びベクターDNAのゲル精製のための試薬のコストなどのそのようなステップの高コストを回避する。さらに、本発明の方法は、事前の制限消化、ゲル電気泳動、及びゲル精製で必要とされる希釈及び再濃縮ステップを排除することによって、反応において高濃度のベクターDNAを達成することをより容易にする。高いベクター濃度は、構築されたDNAが細菌細胞に形質転換されるときに得られる陽性クローンの数を著しく増加させるため望ましい。
【0024】
本発明の最大の利点は、新規且つ発明のシステムにおいて制限酵素が連続して存在することにより達成されるより低いバックグラウンドであり、それにより、自己ライゲーションベクター(self-ligated vector)の動的消化を可能にし、バックグラウンドを大幅に低減する。
【0025】
本明細書で使用される「5’-3’エキソヌクレアーゼ」という用語は、DNAを5’末端から、即ち5’から3’方向に分解するエキソヌクレアーゼを指す。目的の5’-3’エキソヌクレアーゼは、平滑末端で、特定の実施形態では3’及び又は5’オーバーハングで、dsDNA鎖の5’末端からヌクレオチドを除去することができる。T5エキソヌクレアーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、及びT7エキソヌクレアーゼは5’-3’エキソヌクレアーゼの例である。特定の実施形態では、T5エキソヌクレアーゼが好ましい。T5エキソヌクレアーゼは、さらにssエンドヌクレアーゼ活性を有する。
【0026】
本明細書で使用される「リガーゼ」という用語は、特にニックで、DNA分子の3’末端を別のDNA分子の5’末端に共有結合させることができる酵素を指す。リガーゼの例には、T7リガーゼ、T4 DNAリガーゼ、大腸菌(E. coli)DNAリガーゼ、及びTaqリガーゼが含まれるが、他の多くのリガーゼが知られており、本明細書で使用することができる。
【0027】
本明細書で使用される「重複配列」という用語は、2つのポリヌクレオチドにおいて相補的である配列を指し、重複配列がssである場合、重複配列は、あるポリヌクレオチド上で、別のポリヌクレオチド上の別の重複する相補的なss領域にハイブリダイズすることができる。
【0028】
本明細書で使用される「オーバーハング」という用語は、その末端にあるdsDNAの一本鎖領域を指し、DNAの固有の方向性に応じてタイプ5’又は3’のいずれかである。オーバーハングは一般に、dsDNAを制限酵素又はエキソヌクレアーゼで処理することによって、及び/又は適切なdNTP(dATP、dTTP、dCTP、dGTP)を追加することによって様々な長さに生成される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「一本鎖(ss)DNA結合タンパク質」という用語は、ssDNAに結合して早期アニーリングを防止し、ssDNAがヌクレアーゼ及びポリメラーゼによって消化されるのを保護し、及び/又はDNAから二次構造をから除去して他の酵素がそれに対して効果的に機能することを可能にするタンパク質を指す。シントン生成の効率を最適化するために、本明細書に記載の組成物にss結合タンパク質を含めることが好ましい。ssDNA結合タンパク質の例は、T4遺伝子32タンパク質、大腸菌(E. coli)SSB、T7 gp2.5 SSB、及びファージphi29 SSB、及びET SSBであるが、多くの他のDNA結合タンパク質、例えば、ラムダファージのRedB、RacプロファージのRecT、及び以下に列挙される配列も知られており、本明細書で使用することができる。
【0030】
dsDNAの両端を結合するリガーゼに依存しない方法では、最適な長さの5’又は3’オーバーハングを生成することが重要であり、これは、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性又は5’→3’エキソヌクレアーゼをそれぞれ有するDNAポリメラーゼを使用して行われる。
【0031】
本明細書で使用される二本鎖DNA(dsDNA)という用語は、3’オーバーハング、5’オーバーハング、又は平滑末端を有し、そのすべて又は一部が互いに相補的である2つの一本鎖から構成されるオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを指し、従って、dsDNAは、末端に一本鎖領域を含み得、合成起源又は細胞又は組織に由来する天然起源であり得る。一実施形態では、dsDNAは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の産物であるか、又はゲノムDNA若しくはプラスミド若しくはベクターからその物理的若しくは酵素的処理によって作製される断片である。
【0032】
本明細書で使用される「緩衝剤」という用語は、酸又はアルカリが溶液に添加されたときに溶液がpHの変化に抵抗することを可能にする薬剤を指す。本発明の組成物、キット、及び方法で使用することができる適切な天然に存在しない緩衝剤の例には、例えば、トリス、HEPES、TAPS、MOPS、トリシン、又はMESが含まれる。
【0033】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、オリゴヌクレオチドを包含し、任意の長さの核酸を指す。ポリヌクレオチドは、DNA又はRNAであり得る。特に明記しない限り、ポリヌクレオチドはss又はdsであり得る。ポリヌクレオチドは、合成、例えば、DNAシンセサイザーで合成され得るか、或いは天然に存在し得、例えば、天然源から抽出されるか、又はクローニング若しくは増幅された材料に由来し得る。本明細書で言及されるポリヌクレオチドは、修飾された塩基を含み得る。
【0034】
本明細書で利用される標的核酸は、任意の核酸、例えば、ヒト核酸、細菌核酸、又はウイルス核酸であり得る。標的核酸試料は、例えば、1つ又は複数の細胞、組織、若しくは体液、例えば、血液、尿、精液、リンパ液、脳脊髄液、若しくは羊水からの核酸試料、又は他の生物学的試料、例えば、組織培養細胞、頬スワブ、マウスウォッシュ、便、組織切片、生検吸引、及び考古学的試料、例えば、骨若しくはミイラ化組織であり得る。標的核酸は、例えば、DNA、RNA、又は逆転写されたRNAのDNA産物であり得る。標的試料は、限定されるものではないが、真核生物、植物、動物、脊椎動物、魚、哺乳動物、ヒト、非ヒト、細菌、微生物、ウイルス、生物源、血清、血漿、血液、尿、精液、リンパ液、脳脊髄液、羊水、生検、針吸引生検、癌、腫瘍、組織、細胞、細胞溶解物、粗細胞溶解物、組織溶解物、組織培養細胞、頬スワブ、マウスウォッシュ、便、ミイラ化組織、法医学的源(forensic source)、剖検、考古学的源(archeological source)、感染症、院内感染、生産源(production source)、薬物調製物、生体分子生産、タンパク質調製物、脂質調製物、炭水化物調製物、無生物、空気、土壌、樹液、金属、化石、掘削された材料、及び/又は他の地球若しくは地球外の材料及び供給源を含む任意の供給源に由来し得る。
【0035】
試料にはまた、1つの供給源又は異なる供給源からの材料の混合物も含まれ得る。例えば、感染する細菌又はウイルスの核酸は、そのような感染した細胞又は組織からの核酸が開示される方法を使用して増幅されるときにヒトの核酸と共に増幅することができる。有用な標的試料の種類には、真核生物試料、植物試料、動物試料、脊椎動物試料、魚試料、哺乳動物試料、ヒト試料、非ヒト試料、細菌試料、微生物試料、ウイルス試料、生物学的試料、血清試料、血漿試料、血液試料、尿試料、精液試料、リンパ液試料、脳脊髄液試料、羊水試料、生検試料、針吸引生検試料、癌試料、腫瘍試料、組織試料、細胞試料、細胞溶解物試料、粗細胞溶解物試料、組織溶解物試料、組織培養細胞試料、頬スワブ試料、マウスウォッシュ試料、便試料、ミイラ化組織試料、剖検試料、考古学的試料、感染試料、院内感染試料、生産試料、薬物調製物試料、生体分子生産試料、タンパク質調製物試料、脂質調製物試料、炭水化物調製物試料、無生物試料、空気試料、土壌試料、樹液試料、金属試料、化石試料、発掘された材料試料、及び/又は他の地球又は地球外試料が含まれる。法医学試料の種類には、血液、乾燥血液、血痕、頬スワブ、指紋、接触試料(例えば、飲用グラスの唇、野球帽の内縁、又はたばこの吸い殻に残った上皮細胞)、チューインガム、胃内容物、唾液、爪あか、土壌、性的暴行の試料、毛髪、骨、皮膚、及び固形組織が含まれる。環境試料の種類には、ろ過されていない及びろ過された空気と水、土壌、表面、封筒、及び粉末からのスワブ試料が含まれる。
【0036】
本明細書で使用される「重複配列」という用語は、2つのポリヌクレオチドにおいて相補的である配列を指し、重複配列が、あるポリヌクレオチドにおけるssである場合、重複配列は、別のポリヌクレオチドの別の重複する相補的なss領域にハイブリダイズすることができる。例として、重複配列は、ポリヌクレオチドのセットにおける少なくとも5、10、15、又はそれ以上のポリヌクレオチドにおいて相補的であり得る。重複配列は、長さが異なり得、場合によっては、少なくとも12ヌクレオチド長(例えば、少なくとも15、20又はそれ以上のヌクレオチド長)であり得、及び/又は最大100ヌクレオチド長(例えば、最大50、最大30、最大20、又は最大15ヌクレオチド長)であり得る。
【0037】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド構築」という用語は、2つ以上、4つ以上、6つ以上、8つ以上、10以上、12以上、15以上のポリヌクレオチド、例えば、4つ以上のポリヌクレオチドが別のポリヌクレオチドに結合して、より長いポリヌクレオチドを形成する反応を指す。ポリヌクレオチド構築反応の生成物、即ち、多くの実施形態における「構築ポリヌクレオチド」は、重複配列のそれぞれの1つのコピーを含むはずである。
【0038】
本明細書で使用される「適切な反応条件下でインキュベートする」という用語は、所望の結果、即ち、ポリヌクレオチド構築を達成するのに適した温度及び時間にわたって反応を維持することを指す。本方法で使用される酵素及び試薬に適した反応条件は、本明細書に記載されており、従って、本方法に適した反応条件は、容易に決定することができる。これらの反応条件は、使用される酵素によって異なり得る(例えば、至適温度などで決まる)。
【0039】
本明細書で使用される「フュージョン(Phusion)ポリメラーゼ」という用語は、処理能力増強ドメインと融合したピュロコックス(Pyrococcus)様酵素を含む熱安定性DNAポリメラーゼを指し、処理能力増強ドメインとの融合の結果、フィデリティ及び速度が向上し、例えば、エラー率がTag DNAポリメラーゼのエラー率の50分の1未満であり、ピュロコックス・フリオスス(Pyrococcus furiosus)DNAポリメラーゼのエラー率の6分の1である。Phusionポリメラーゼは、5’-3’ポリメラーゼ活性を有し、Phusionポリメラーゼの例は、Phusion(登録商標)ハイフィデリティ(High-Fidelity)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)である。
【0040】
本明細書で使用される「結合」という用語は、2つの配列間の共有結合の形成を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、本明細書で使用される「プライマー」という用語は、二部プライマー(bipartite primer)又は第1及び第2の部分を有するプライマーを指す。プライマーの第1の部分は、標的DNA分子の適切な末端に相補的であるように設計され、プライマーの第2の部分は、本発明の緩衝液中で線状化されると、環状プラスミドの選択された制限部位の一側のヌクレオチド配列に相補的であるように設計されている。二部プライマーは、一般に、約10ヌクレオチドの最小長及び約200ヌクレオチドの最大長、好ましくは約20ヌクレオチド~約100ヌクレオチド長、より好ましくは約30ヌクレオチド~約40ヌクレオチド長を有する。
【0042】
本明細書で使用される「組成物」という用語は、列挙されたものに加えて、他の試薬、例えば、グリセロール、塩、dNTPなどを含み得る試薬の組み合わせを指す。組成物は、任意の形態、例えば、水性形態又は凍結乾燥形態であり得、且つ任意の状態(例えば、凍結又は液体形態)であり得る。
【0043】
本明細書で使用されるタンパク質(例えば、リガーゼ、SSBP、5’-3’エキソヌクレアーゼ、又はポリメラーゼなど)のいずれか1つ又は複数は、温度感受性又は熱安定性であり得、本明細書で使用される「温度感受性」という用語は、65℃の温度で10分後にその活性の少なくとも95%を失う酵素を指し、「耐熱性」という用語は、65℃の温度で10分後にその活性の少なくとも95%を保持する酵素を指す。
【0044】
本発明のステップは、まず、線状化標的ヌクレオチド分子にプライマーを付着させることを含む。線状標的ヌクレオチド分子は、第1及び第2のプライマーとのポリメラーゼ連鎖反応を使用することによって増幅してPCR増幅産物を提供することができる。第1のプライマー分子の3’末端は、標的DNA分子の第1の末端とハイブリダイズするように設計されており、第1のプライマー分子の5’末端は、環状プラスミドが適切な制限酵素と相互作用して選択された挿入部位でこの環状プラスミドを切断した後に、線状化プラスミドDNA分子の第1の末端に相補的な配列を最終的なPCR産物に組み込むように設計された配列を有する。第2のプライマーの3’末端は、標的DNA分子の第2の末端とハイブリダイズするように設計されており、第2のプライマー分子の5’末端は、適切な制限酵素との相互作用後に、線状化プラスミドDNA分子の第2の末端に相補的な配列を最終的なPCR産物に組み込むように設計された配列を有する。次に、2つのプライマーが標的DNA分子にアニーリングされ、次に、標準的な条件を使用してPCR増幅されてPCR増幅産物が生成される。
【0045】
図2に示すように、次に、PCR増幅産物は、適切な制限酵素の存在下で環状プラスミドと同時にインキュベートされ、標準的な条件、適切な反応緩衝液を使用して、DNAポリメラーゼの存在下で、選択された挿入部位で切断され、このDNAポリメラーゼは、本発明のDNA結合反応を約5~約60分間、好ましくは約10~約40分間、最も好ましくは約15~約30分間行うことができる。反応緩衝液は、DNAアニーリング反応で使用される任意の緩衝液であり得る。温度は、約35~40℃の範囲、より好ましくは約37℃であり得る。
【0046】
本発明の方法を使用して、任意の種類又は数の標的DNA分子をクローニングすることができる。サイズの唯一の制限は、宿主細胞での形質転換及び複製においてインサートを運ぶ環状DNAベクターの能力である。原核生物又は真核生物の細胞で複製することができる任意の環状DNAベクターを本発明で使用可能である。キャプシド、コスミド、又は細菌人工染色体などの環状DNAベクターの選択は、所望の機能特性、例えば、タンパク質発現、及び形質転換される宿主細胞に依存する。好ましくは、環状DNAベクターは、選択された制限酵素部位のいずれかの側に、約5~約100、好ましくは約8~約50、最も好ましくは約10~約35ヌクレオチドの既知の配列を有する。
【0047】
別の実施形態では、例えば、プロモーター配列又は図4に示すようなタンパク質のタグをコードするDNA配列を追加することが望ましい場合、一本鎖オリゴヌクレオチドの対を使用して、ベクターと標的DNA分子との間、又はベクター若しくは標的DNAには見られない追加のヌクレオチドを含む2つの標的DNA分子間に配列重複領域を形成することができる。
【0048】
組換えDNA分子の形質転換
任意の環状プラスミドを使用することができる[4]。典型的な環状発現プラスミドには、プロモーター、エンハンサー、コード配列、及びターミネーターが含まれる。プラスミドのプロモーター領域は、転写を開始するために必要なRNAポリメラーゼII、関連酵素、及びその他の因子に結合する。エンハンサー配列の機能は、特定の細胞内転写因子に結合することである。DNAに結合した転写因子は、転写複合体と相互作用し、転写速度を増加させる。通常の内因性転写因子は、DNA結合ドメインと転写活性化ドメインの2つのドメインを含むタンパク質である。DNA結合ドメインは、エンハンサー領域にある、通常は5~10塩基対の特定の二重鎖DNA配列に結合する。DNA結合ドメインにより、転写活性化ドメインが最小プロモーターに近づき、そこで、この転写活性化ドメインがRNAポリメラーゼと相互作用して転写を活性化する。
【0049】
この例は、選択可能なマーカーを有する市販のプラスミドを利用した。任意の選択可能なマーカーを使用することができる。同様に、特定の切断部位が、目的の断片の末端に隣接するエンジニアリングされた位置に加えて目的の断片に生じない場合に、オリゴヌクレオチドの末端で特異的に切断して付着末端又は平滑末端のいずれかを生成することができる任意の制限切断酵素に特異的な認識部位を選択することができる。本発明では、付着末端を生成する制限酵素の認識部位は、DNA合成によって目的のポリヌクレオチドに隣接して導入された。
【0050】
DNAポリメラーゼ及び制限酵素と環状プラスミド及びPCR増幅産物とのインキュベーションから得られた反応混合物を使用し、標準的な形質転換手順を使用して任意の宿主細胞を形質転換することができる。そのような宿主は、特に、細菌又は真核細胞(酵母、動物細胞、植物細胞)などであり得る。細菌の中では、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ストレプトミセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)(P.プチダ(P. putida)、P.エルギノーザ(P. aeruginosa))、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ストレプトミセス・プリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespirais)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、又はクロストリジウム(Clostridium)などを挙げることができる。細菌の中では、大腸菌(E. coli)が一般的に使用される。酵母の中では、クリベロミセス(Kluyveromyces)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia)、及びハンゼヌラ(Hansenula)などを挙げることができる。哺乳動物細胞の中では、CHO、COS、及びNIH3T3などを挙げることができる。
【0051】
使用される宿主に応じて、当業者は、本発明に記載されるプラスミドの選択/複製を合わせる。特に、複製起点及び選択マーカー遺伝子は、選択された宿主細胞に応じて選択される。
【0052】
選択マーカー遺伝子は、例えば、抗生物質(アンピシリン、カナマイシン、ジェネティシン、及びハイグロマイシンなど)に対する耐性を付与する耐性遺伝子、又はもはや有していない機能を細胞に与える任意の遺伝子(例えば、染色体上で欠失しているか又は不活性化された遺伝子)、即ち、この機能を再確立するプラスミド上の遺伝子であり得る。この選択可能なマーカー遺伝子により、最少培地でのプラスミドの選択と生産が可能になる。
【0053】
本発明は、以下の実施例でさらに説明される。しかしながら、この実施例は例示のみを目的としており、いかなる方法であっても本発明の範囲を制限するために使用されるべきではないことを理解されたい。
【実施例
【0054】
実施例1
ヒトSRSF3遺伝子のクローニング
線状DNA分子を構築する方法は数多く開発されているが、環状DNAを環状DNAに、又は環状DNAを線状DNAにワンステップで構築する方法は開発されていない。そこで、本発明者らは、線状PCR産物を用いて環状プラスミドDNAをワンステップで直接構築する方法を説明する。
【0055】
環状DNAは、ベクターpQE80Lを骨格として使用し、ヒトRPS6遺伝子を含むプラスミドである。線状PCR産物は、ヒトSRSF3であり、SRSF3遺伝子を増幅するために使用されるプライマーは:GCATCACCATCACCATCACGtgcatcgtgattcctgtcc(配列番号1)及びTAATTAAGCTTGGCTGCAGGctatttcctttcatttgacc(配列番号2)である。各プライマーは、ベクターと20塩基対の相同性を有する。SRSF3遺伝子は、HeLa細胞のcDNAをテンプレートとして使用して増幅される。線状PCR産物を構築するためには、100ngのプラスミドDNAを300ngのPCR産物と混合し、緩衝液とPhusion Taqポリメラーゼ、Taqリガーゼ、及びT5エキソヌクレアーゼと共に1μlのBamHI及び1μlのSalIと混合する。
【0056】
混合物を37℃で15分間インキュベートしてから50℃で45分間インキュベートしてSRSF3をpQE80Lに構築する。反応混合物をカラムに通して塩を除去し、DNAを使用して大腸菌(E. coli)DH10Bコンピテント細胞を形質転換した。コロニーをコロニーPCRでスクリーニングする。プレートから8個のコロニーを選び、同じプライマーを使用してコロニーPCRでスクリーニングした。8つのコロニーすべてから精製されたプラスミドには正しいインサートが含まれており、図3に示されている。矢印は正しいサイズのインサートを示している。
【0057】
参考文献
以下に示す参考文献は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
1.US Patent No. 7,723,077
2.U.S. Patent No. 7,575,860
3.Yongzhen, Xia et al., T5 exonuclease-dependent assembly offers a low-cost method for efficient cloning and site-directed mutagenesis, Feb. 2019, Nucleic Acids Research, V. 47, Issue 3, Page 15.
4.Masaki Shintani, et al.. 2015, Genomics of microbial plasmids: classification and identification based on replication and transfer systems and host taxonomy, Front. Microbiol., 31 March 2015 |https://doi.org/10.3389/fmicb.2015.00242.
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2022522397000001.app
【国際調査報告】