(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-19
(54)【発明の名称】尿素製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
C07C 273/04 20060101AFI20220412BHJP
C07C 275/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C07C273/04
C07C275/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021550054
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(85)【翻訳文提出日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019010610
(87)【国際公開番号】W WO2020183717
(87)【国際公開日】2020-09-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓伍
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC57
4H006AD15
4H006BC10
4H006BD33
4H006BD52
4H006BE14
4H006BE41
(57)【要約】
尿素合成方法においてサブマージ凝縮器内の温度分布を小さくする。NH3とCO2から尿素を合成し、尿素合成液を生成する合成工程、尿素合成液を加熱することによってアンモニウムカーバメイトを分解し、かつNH3とCO2を含む混合ガスを尿素合成液から分離して合成工程で得られる尿素合成液よりも尿素濃度が高い尿素合成液を得る分解工程、Uチューブを含むシェルアンドチューブ型熱交換構造を含むサブマージ凝縮器を用い、シェル側にて前記混合ガスの少なくとも一部を吸収媒体に吸収させて凝縮させ、この凝縮の際に生じる熱を用いてチューブ側にてスチームを発生させる凝縮工程、並びに前記シェル側から得られる液の少なくとも一部を合成工程に循環させる循環工程を含む尿素製造方法であって、前記スチームの発生量に対して3倍以上の質量流量の水を前記凝縮器のチューブ側に供給する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成し、尿素合成液を生成する合成工程と、
前記合成工程で生成した尿素合成液を加熱することによって、アンモニウムカーバメイトを分解し、かつアンモニアと二酸化炭素を含む混合ガスを前記尿素合成液から分離して、合成工程で得られる尿素合成液よりも尿素濃度が高い尿素合成液を得る分解工程と、
Uチューブを含むシェルアンドチューブ型熱交換構造を含むサブマージ凝縮器を用い、シェル側にて、前記分解工程で得られる前記混合ガスの少なくとも一部を吸収媒体に吸収させて凝縮させ、この凝縮の際に生じる熱を用いてチューブ側にてスチームを発生させる凝縮工程と、
前記凝縮工程でシェル側から得られる液の少なくとも一部を前記合成工程に循環させる循環工程と、
を含む尿素製造方法であって、
前記サブマージ凝縮器で発生するスチームの発生量に対して3倍以上の質量流量の水を前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水供給工程を含む、尿素製造方法。
【請求項2】
前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水の、前記Uチューブの入口における流速を、0.3m/s以上とする、請求項1に記載の尿素製造方法。
【請求項3】
前記水供給工程が、ポンプを用いて、前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水を昇圧する工程を含む、請求項1または2に記載の尿素製造方法。
【請求項4】
前記水供給工程が、前記サブマージ凝縮器のチューブ側から得られる流体を気液分離してスチームと水を得る気液分離工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の尿素合成方法。
【請求項5】
前記水供給工程が、前記気液分離工程から得られる水を、前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する工程を含む、請求項4に記載の尿素合成方法。
【請求項6】
前記サブマージ凝縮器が縦型サブマージ凝縮器である、請求項1~5のいずれか一項に記載の尿素製造方法。
【請求項7】
前記縦型サブマージ凝縮器が、前記Uチューブの下側に設けられたチューブシートを有する、請求項6に記載の尿素製造方法。
【請求項8】
前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水の質量流量を、前記サブマージ凝縮器で発生するスチームの発生量に対して8倍以上とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の尿素製造方法。
【請求項9】
前記合成工程と前記凝縮工程を単一の圧力容器の中で行う、請求項1~8のいずれか一項に記載の尿素製造方法。
【請求項10】
アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成し、尿素合成液を生成する合成器と、
前記合成器で生成した尿素合成液を加熱することによって、アンモニウムカーバメイトを分解し、かつアンモニアと二酸化炭素を含む混合ガスを前記尿素合成液から分離して、合成器で得られる尿素合成液よりも尿素濃度が高い尿素合成液を得るよう構成された分解器と、
Uチューブを含むシェルアンドチューブ型熱交換構造を含むサブマージ凝縮器であって、シェル側にて、前記分解器で得られる前記混合ガスの少なくとも一部を吸収媒体に吸収させて凝縮させ、この凝縮の際に生じる熱を用いてチューブ側にてスチームを発生させるよう構成されたサブマージ凝縮器と、
前記サブマージ凝縮器のシェル側から得られる液の少なくとも一部を前記合成器に循環させる循環手段と、
を含む尿素製造装置であって、
前記サブマージ凝縮器で発生するスチームの発生量に対して3倍以上の質量流量の水を前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水供給手段を含む、尿素製造装置。
【請求項11】
前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水の、前記Uチューブの入口における流速が0.3m/s以上である、請求項10に記載の尿素製造装置。
【請求項12】
前記水供給手段が、前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水を昇圧するためのポンプを含む、請求項10または11に記載の尿素製造装置。
【請求項13】
前記水供給手段が、前記サブマージ凝縮器のチューブ側から得られる流体を気液分離してスチームと水を得る気液分離器を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の尿素合成装置。
【請求項14】
前記水供給手段が、前記気液分離器から得られる水を、前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する手段を含む、請求項13に記載の尿素合成装置。
【請求項15】
前記サブマージ凝縮器が縦型サブマージ凝縮器である、請求項10~14のいずれか一項に記載の尿素製造装置。
【請求項16】
前記縦型サブマージ凝縮器が、前記Uチューブの下側に設けられたチューブシートを有する、請求項15に記載の尿素製造装置。
【請求項17】
前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水の質量流量が、前記サブマージ凝縮器で発生するスチームの発生量に対して8倍以上である、請求項10~16のいずれか一項に記載の尿素製造装置。
【請求項18】
前記合成器と前記サブマージ凝縮器とが一体化された単一の圧力容器を含む、請求項10~17のいずれか一項に記載の尿素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアと二酸化炭素から尿素を製造する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
尿素製造方法は、典型的には、合成工程、分解工程および凝縮工程を含む。合成工程では、アンモニア(NH3)と二酸化炭素(CO2)とから、尿素を合成し、尿素合成液を生成させる。詳しくは、式(1)で示すように、アンモニア(NH3)と二酸化炭素(CO2)との反応により、アンモニウムカーバメイト(NH2COONH4)が生成される。さらに、式(2)で示すように、アンモニウムカーバメイトの脱水反応により尿素(NH2CONH2)と水(H2O)とが生成される。
2NH3+CO2 → NH2COONH4 (1)
NH2COONH4 → NH2CONH2+H2O (2)
いずれの反応も平衡反応であるが、(1)の反応に比べて、(2)の反応が遅く、律速となる。
【0003】
分解工程では、合成工程で得られた尿素合成液を加熱して、当該尿素合成液に含まれるアンモニウムカーバメイトをアンモニアと二酸化炭素に分解し、アンモニアと二酸化炭素を含む混合ガスと、より高尿素濃度の尿素合成液を得る。凝縮工程では、分解工程で得られた混合ガスを冷却下に吸収媒体中に凝縮させる。この冷却に用いられる冷却媒体には水が使われることが多く、主に水の蒸発潜熱によって当該混合ガスを冷却する。
【0004】
特開平10-182587号公報(EP 0834501 A2, EP 1035111 A1, EP 1035112 A1, US 5936122 A、US 6200540 B1に対応)に、凝縮工程において、冷却管としてUチューブを備える縦型サブマージ凝縮器(vertical submerged condenser)を用い、そのチューブ側に冷却媒体を流すことが開示される。サブマージ凝縮器とは、シェル側にプロセス流体が流れ、すなわち分解工程で得られた混合ガスがプロセス側に供給され、チューブ側に冷却媒体が流れる凝縮器をいう。シェル側にプロセス流体を流すことにより、凝縮器におけるプロセス流体の滞留時間を長くすることができる。これは、凝縮器において尿素の生成反応を進行させるために有効である。
【0005】
特開2003-104949号公報(EP 1279663 A1、US 6518457 B1に対応)にも、冷却管としてUチューブを備える縦型サブマージ凝縮器が開示される。この文献には、一部のUチューブ内で低圧スチームを発生させ、残りのUチューブではストリッパー(分解工程)から得られる尿素合成液を加熱することにより、凝縮熱を回収することが開示される。国際公開第2013/165246号にも同様の開示があるが、この文献には横型サブマージ凝縮器が開示される。国際公開第2006/118071号(EP 1876171 A1、US 2009/062566 A1に対応)にもUチューブを備える縦型サブマージ凝縮器が開示される。この文献には、ボイラ水とスチームの混合流体がUチューブから排出されることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-182587号公報
【特許文献2】特開2003-104949号公報
【特許文献3】国際公開第2013/165246号
【特許文献4】国際公開第2006/118071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来からサブマージ凝縮器における熱回収について検討されてきたが、プロセス流体を流す方法およびその装置に注目が集められており、冷却媒体を流す方法およびその装置に関しては注目されてこなかった。
【0008】
サブマージ凝縮器においては、分解工程で得られる混合ガスの凝縮だけでなく、尿素の生成反応も進行させることが望まれる。サブマージ凝縮器の運転温度は、サブマージ凝縮器内での尿素生成を促進する観点からは高いほうが良いが、ガスの吸収を促進する観点からは低いほうが良い。したがって、サブマージ凝縮器の内部を全体にわたって最適な運転温度に保つことが望まれ、そのためにサブマージ凝縮器内の温度分布を小さくすることが望まれる。
【0009】
サブマージ凝縮器のチューブ側に、ここで発生するスチームと同程度の量(質量流量)の水を冷却媒体として供給する場合、チューブの入口では水(液体)が流れ、出口では主にスチーム(気体)が流れる。この場合、チューブ入口に比べてチューブ出口では水の蒸発潜熱による冷却効果が小さくなり、チューブ入口近傍とチューブ出口近傍との間で熱交換量が異なり、その結果、これらの領域の間で温度差が生じ、サブマージ凝縮器内の温度分布が大きくなる。
【0010】
本発明の目的は、サブマージ凝縮器内の温度分布を小さくすることのできる、尿素合成方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、
アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成し、尿素合成液を生成する合成工程と、
前記合成工程で生成した尿素合成液を加熱することによって、アンモニウムカーバメイトを分解し、かつアンモニアと二酸化炭素を含む混合ガスを前記尿素合成液から分離して、合成工程で得られる尿素合成液よりも尿素濃度が高い尿素合成液を得る分解工程と、
Uチューブを含むシェルアンドチューブ型熱交換構造を含むサブマージ凝縮器を用い、シェル側にて、前記分解工程で得られる前記混合ガスの少なくとも一部を吸収媒体に吸収させて凝縮させ、この凝縮の際に生じる熱を用いてチューブ側にてスチームを発生させる凝縮工程と、
前記凝縮工程でシェル側から得られる液の少なくとも一部を前記合成工程に循環させる循環工程と、
を含む尿素製造方法であって、
前記スチームの発生量に対して3倍以上の質量流量の水を前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水供給工程を含む、尿素製造方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様によれば、
アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成し、尿素合成液を生成する合成器と、
前記合成器で生成した尿素合成液を加熱することによって、アンモニウムカーバメイトを分解し、かつアンモニアと二酸化炭素を含む混合ガスを前記尿素合成液から分離して、合成器で得られる尿素合成液よりも尿素濃度が高い尿素合成液を得るよう構成された分解器と、
Uチューブを含むシェルアンドチューブ型熱交換構造を含むサブマージ凝縮器であって、シェル側にて、前記分解器で得られる前記混合ガスの少なくとも一部を吸収媒体に吸収させて凝縮させ、この凝縮の際に生じる熱を用いてチューブ側にてスチームを発生させるよう構成されたサブマージ凝縮器と、
前記サブマージ凝縮器のシェル側から得られる液の少なくとも一部を前記合成器に循環させる循環手段と、
を含む尿素製造装置であって、
前記スチームの発生量に対して3倍以上の質量流量の水を前記サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水供給手段を含む、尿素製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サブマージ凝縮器内の温度分布を小さくすることのできる、尿素合成方法および装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】尿素製造装置の概略構成例を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図2】サブマージ凝縮器の冷却系(スチーム系)の概略構成例を示すプロセスフローダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る尿素製造方法は、合成工程、分解工程、凝縮工程および循環工程を含む。原料としてのアンモニアおよび二酸化炭素は、適宜の一つもしくは複数の工程に、外部から供給することができる。尿素製造方法は、さらに水供給工程を含む。
【0016】
〔合成工程〕
合成工程において、アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成し、尿素合成液を生成する。合成工程において、後述する凝縮工程からの循環液に含まれるアンモニウムカーバメイトからも、尿素が合成される。
【0017】
合成工程の運転圧力は一般的に130バール(絶対圧。以下においても同様)から250バール、好ましくは140バールから200バールであり、運転温度は一般的に160℃から200℃、好ましくは170℃から190℃である。
【0018】
〔分解工程〕
分解工程では、合成工程で生成した尿素合成液を加熱する。これによって、合成工程から得られる尿素合成液に含まれるアンモニウムカーバメイトを分解し、アンモニアと二酸化炭素を含む混合ガスを尿素合成液から分離し、合成工程で得られる尿素合成液よりも尿素濃度が高い尿素合成液を得る。分解工程から得られるこの混合ガスを、以下、「分解器出口ガス」と呼ぶことがある。
【0019】
分解工程における加熱には、比較的温度が高い加熱媒体、例えば中圧スチームを利用することができる。この場合、加熱源として用いた中圧スチームが凝縮することによって、スチームコンデンセートが生じる。
【0020】
中圧スチームの圧力は一般的に12バールから40バール、好ましくは14バールから25バールである。中圧スチームは、尿素製造装置内でスチームタービンの背圧スチームとして適宜発生させる場合が多い。あるいは、尿素製造装置の外部から供給することができる。
【0021】
分解工程の運転温度は一般的に150℃から220℃、好ましくは160℃から200℃である。
【0022】
詳しくは、合成工程で得られた尿素合成液は、尿素、アンモニア、二酸化炭素、アンモニウムカーバメイトおよび水を含む。この尿素合成液は、通常、合成工程の圧力と実質的にほぼ等しい圧力下で加熱され、これにより、アンモニア、二酸化炭素およびアンモニウムカーバメイトが、アンモニア、二酸化炭素および水(スチーム)を含む混合ガスとして分離される。
【0023】
分解工程として、加熱のみによる分解法を採用することができる。しかし、分解を促進するために、加熱に加えて、二酸化炭素のガスを供給して尿素合成液と接触させるストリッピング法を採用することもできる。
【0024】
〔凝縮工程〕
凝縮工程では、シェルアンドチューブ型熱交換構造を含むサブマージ凝縮器を用いる。このシェルアンドチューブ型熱交換構造はUチューブを含む。通常、Uチューブは複数個存在し、いわゆる多管式の熱交換構造を形成する。そのシェル側にて、分解工程で得られる混合ガス(分解器出口ガス)の少なくとも一部(すなわち一部もしくは全部)を吸収媒体に吸収させて凝縮させる。この凝縮の際に生じる熱を用いて、チューブ側にてスチームを発生させる。
【0025】
ここでスチーム、例えば低圧スチームを発生させることができる。凝縮温度を考慮すると、この低圧スチームの圧力は、凝縮工程におけるプロセス流体の温度よりもその圧力における水の飽和温度が低くなるような圧力である。一方、発生させた低圧スチームを尿素製造方法の別の工程で利用することを考慮すると、その圧力はある程度高い方が良い。このような観点から、低圧スチームの圧力は一般的に3バールから9バール、好ましくは4バールから7バールである。なお、低圧スチームを、他の流体を加熱する加熱源として用いたとき、低圧スチームが凝縮することによって、スチームコンデンセートが生じる。
【0026】
吸収媒体としては、水(尿素、アンモニア、二酸化炭素及びアンモニウムカーバメイトを含んでいてもよい)など、尿素製造方法の分野で公知の吸収媒体を適宜使用できる。
【0027】
凝縮工程でシェル側から得られる液の温度は一般的に100℃から210℃、特に反応と凝縮のバランスを考慮すると、好ましくは160℃から190℃である。なお、尿素製造における高圧プロセス(合成工程、分解工程及び凝縮工程を含む)には、圧力損失以外に圧力を減じるものが無いので(後述する循環のためにエジェクター等による昇圧は行う)、合成工程、分解工程及び凝縮工程は、ほぼ同等の圧力となる。
【0028】
詳しくは、分解工程において分離された混合ガス(分解器出口ガス)は、凝縮工程に導入されて、冷却下に水を含む吸収媒体と接触し、この混合ガスが凝縮する。凝縮工程において、一部のアンモニアと二酸化炭素はアンモニウムカーバメイトとなり(上記式(1)参照)、また、尿素合成反応(上記式(2)参照)も進む。
【0029】
凝縮工程で混合ガスが凝縮する際には大量の熱を発生するが、この熱を有効活用するために熱回収を行う。すなわち、この凝縮の際に生じる熱を用いてチューブ側にてスチームを発生させる。このために尿素製造方法は、水(液体)をサブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水供給工程を持つ。
【0030】
なお、サブマージ凝縮器のシェル側で凝縮しなかったガスを、適宜減圧した後に、吸収媒体(液体)中に吸収および凝縮させながら、この吸収媒体を冷却して、アンモニアおよび二酸化炭素を含む回収液を得ることができる。この回収液を、適宜昇圧した後に、再び高圧プロセス(合成工程、分解工程及び凝縮工程を含む)、通常は凝縮工程に返送することによって、未反応アンモニアおよび未反応二酸化炭素を回収できる。吸収媒体としては、水(尿素、アンモニア、二酸化炭素及びアンモニウムカーバメイトを含んでいてもよい)など、尿素製造方法の分野で公知の吸収媒体を適宜使用できる。
【0031】
〔水供給工程〕
水供給工程では、水(液体)をサブマージ凝縮器のチューブ側に供給する。このとき、供給する水の質量流量を、サブマージ凝縮器のチューブ側で発生するスチームの量(質量基準のスチーム発生量)に対して、3倍以上、好ましくは8倍以上とする。これにより、Uチューブの出口を流れる冷却媒体(水とスチームの気液二相流)中の水(液体)の比率を比較的高く保つことができ、その結果、Uチューブの入口近傍における熱交換量と、Uチューブの出口近傍における熱交換量との差を、小さくすることができる。したがって、サブマージ凝縮器内の温度分布を小さくすることができる。なお、供給する水の質量流量が、サブマージ凝縮器のチューブ側で発生するスチームの量に対して25倍を超えると、さらに水の質量流量を多くしても、温度分布をさらに小さくする効果は期待できなくなる。
【0032】
熱交換を効率的に行う観点から、サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水の、Uチューブの入口における流速を、0.3m/s以上とすることが好ましく、0.8m/s以上とすることがより好ましい。ただし、流速を高くするとチューブ内での圧力損失が大きくなり、チューブ入口近傍の水の圧力が出口近傍に比べて高くなり、入口近傍と出口近傍の熱交換量に差が出やすくなることがある。そのため、当該流速は4.0m/s以下とすることが好ましい。
【0033】
また、ポンプを用いて、サブマージ凝縮器のチューブ側に供給する水を昇圧することが好ましい。これによって、チューブ側に大量の水(出口では気液二相流)を流すことが容易となる。また、Uチューブに好適な圧力損失を持たせて、複数のUチューブに均一に水を分配すること(偏流防止)が容易となる。特に、縦型サブマージ凝縮器においては、Uチューブが鉛直に延在し、したがって気液二相流を下向きに流す必要が生じる。このような場合に、ポンプによる昇圧が有効である。
【0034】
サブマージ凝縮器のチューブ側から得られる流体を気液分離してスチーム(スチームの流れ)と水(水の流れ)を得る気液分離工程を行うことができる。さらに、気液分離工程から得られる水を、サブマージ凝縮器のチューブ側に供給することができる。つまり、Uチューブから排出される流体から水を分離し、その水をUチューブに返送することができる。この返送のために、上述のポンプを用いることができる。
【0035】
スチーム発生のためにサブマージ凝縮器のUチューブに供給する水として、スチームコンデンセート、特には低圧スチームコンデンセートを用いることができる。このスチームコンデンセートとして、尿素製造装置内で適宜のスチームが凝縮したスチームコンデンセートを、必要に応じて減圧もしくは昇圧して、使用することができる。Uチューブに供給する低圧スチームコンデンセートの圧力は、凝縮工程で発生させる低圧スチームと同程度である。またその低圧スチームコンデンセートの温度は、凝縮工程で発生させる低圧スチームの温度と同程度であり、一般的に134℃から175℃、好ましくは、144℃から165℃である。
【0036】
〔循環工程〕
凝縮工程でシェル側から得られる液(分解器出口ガスの少なくとも一部を吸収した吸収媒体)が再度合成工程に送られる。このようにして、尿素に転化しなかった未反応アンモニアと未反応二酸化炭素に、合成工程、分解工程および凝縮工程の間を循環させる。凝縮工程で得られた凝縮液を循環させる方法としては下方に合成器(合成工程を行う)を配置し、その上方にサブマージ凝縮器(凝縮工程を行う)を設置して、重力を用いて凝縮液を循環させる方法がある。また、別の循環方法として、合成器に供給する原料アンモニアを駆動流体として、凝縮工程で得られた凝縮液をエジェクターによって昇圧して循環させる方法がある。また、重力を用いて循環する方法とエジェクターを用いて循環する方法を組み合わせてもよい。
【0037】
〔その他〕
本発明は、特に、縦型サブマージ凝縮器を用いる場合に有効である。Uチューブを用いた縦型サブマージ凝縮器では、Uチューブの往路(入口からU字部までの流路)と、Uチューブの復路(U字部から出口までの流路)とが、同一水平面内に存在する。冷却媒体中のスチームの比率は、往路よりも復路のほうが高い。したがって、水平方向に温度差が生じ、サブマージ凝縮器内の温度分布が大きくなる傾向がある。本発明によってこのような温度分布を低減することができる。
【0038】
Uチューブを用いると、サブマージ凝縮器のチューブシートは1つだけでよいので経済的である。さらに、縦型サブマージ凝縮器においては、メンテナンスの容易さ等の観点から、チューブシートをUチューブの上側ではなく、下側に設けることが好ましい。
【0039】
なお、凝縮工程でも尿素合成反応は進行するため、凝縮工程と合成工程を単一の圧力容器の中で行うこともできる。つまり、サブマージ凝縮器と合成器とが一体化された単一の圧力容器を用いることができる。
【0040】
〔プロセス例〕
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されない。
【0041】
図1に示すように、不図示のポンプにより適宜昇圧された原料アンモニアが、ライン101、102、および103を経て、合成器Aに供給される。原料二酸化炭素がライン105、106を経て合成器Aに供給される。原料アンモニア(ライン101)を、熱交換器(アンモニア予熱器)Eにおいて加熱媒体を用いて加熱する。この加熱媒体としては、スチームやスチームコンデンセートなどの適宜の流体を用いることができる。例えば、サブマージ凝縮器から得られるスチーム(ライン202)を熱交換器Eに加熱媒体として供給し、熱交換器Eからそのスチームが凝縮したスチームコンデンセートを得ることができる。このようにして加熱した原料アンモニア(ライン102)を、エジェクターDの駆動流体として利用することができる。
【0042】
合成器Aから、尿素合成液がライン110を経て、分解器Bに送られる。分解器Bでは、尿素合成液が、加熱媒体による加熱部(熱交換構造)において加熱される。この加熱媒体として、スチームやスチームコンデンセートなどの適宜の流体を用いることができる。典型的には、加熱媒体として中圧スチームを用いることができ、中圧スチームが凝縮した中圧スチームコンデンセートを、当該加熱部から抜き出すことができる。分解器Bの底部には、ライン105および107を経て二酸化炭素がストリッピングガスとして供給される。
【0043】
分解器Bから、ライン112を経て、分解器出口ガスがサブマージ凝縮器Cに導入される。また、分解器出口ガスが分離された尿素合成液が、ライン111から抜き出される。ライン111の液を、精製、濃縮、造粒などの尿素製造の分野で公知の工程で適宜処理することにより、製品尿素を得ることができる。
【0044】
サブマージ凝縮器Cに導入された分解器出口ガスは、ライン120から導入される吸収液(吸収媒体)によって吸収されて凝縮する。得られた液はライン121を経て、エジェクターDで昇圧され、ライン103から合成器Aに循環される。凝縮しなかったガスは、ライン122から抜き出される。ライン122のガスを吸収媒体に吸収させながらその吸収媒体を冷却すること(不図示)によって、回収液として回収することができる。この吸収媒体としては、水(尿素、アンモニア、二酸化炭素及びアンモニウムカーバメイトを含んでいてもよい)など、尿素製造方法の分野で公知の吸収媒体を適宜使用できる。この回収液は、適宜昇圧して、凝縮器Cにおいて吸収媒体として利用することができる。
【0045】
サブマージ凝縮器Cのチューブ側には、ライン201から冷却媒体(水)としてスチームコンデンセートが導入される。スチームコンデンセートが、サブマージ凝縮器Cのシェル側の流体との熱交換によって加熱されて、スチームが発生する。
【0046】
サブマージ凝縮器Cのシェル側から得られる液の少なくとも一部を合成器Aに循環させる循環手段は、ライン121および103、ならびにエジェクターDを含む。
【0047】
図2を用いて、サブマージ凝縮器の冷却系に関して説明する。水がライン201からサブマージ凝縮器Cのチューブ側に供給され、その一部がスチームとなり、ライン202から気液二相流が抜き出される。気液二相流は気液分離器Fで気液分離され、スチームコンデンセート(ライン203)と、スチーム(ライン204)とに分離される。ライン203のスチームコンデンセートは、ポンプGによって昇圧されてライン201に返送される。ライン204からスチームが抜き出されるので、この冷却系にライン205から水を補給する。
図2では気液分離器Fに補給水を供給している。
0048
【0048】
スチーム発生量に対して3倍以上の質量流量の水をサブマージ凝縮器Cのチューブ側に供給する水供給手段は、ライン201、202、203および205、ならびに気液分離器FおよびポンプGを含む。これらのラインおよび機器を、スチーム発生量に対して3倍以上の質量流量の水がサブマージ凝縮器Cのチューブ側に供給できるように設計しておく。
【0049】
ライン204のスチームは、例えばスチームタービンHあるいはスチームを消費する他の機器Iに供給することができ、あるいは大気に放出することができる。その際、必要に応じてスチームを減圧することができる。また、ライン204に、スチームを発生する他の機器Jからスチームを供給することもできる。スチームを消費する他の機器Iおよびスチームを発生する他の機器Jは、尿素製造装置内にあっても、尿素製造装置の外にあってもよい。尿素製造装置内に存在する、スチームを消費する他の機器Iの一例として、アンモニア予熱器Eを挙げることができる。尿素製造装置の外に存在する、スチームを発生する他の機器Jの例としては、アンモニアプラントを挙げることができる。
【0050】
サブマージ凝縮器Cのチューブ側に過剰のスチームコンデンセートを供給しながらも、尿素製造装置の負荷(プラントロード)に合わせて、サブマージ凝縮器Cにおける熱交換量を調節できるように、つまり、シェル側の温度を調整できるように、サブマージ凝縮器Cのチューブ側で発生するスチームの圧力をコントロールすることができる。そのための具体的な方法は、例えば以下の通りである。
・スチームを発生する他の機器Jからライン204に受領するスチーム量を増減させる。
・ライン204からスチームを消費する他の機器Iに供給するスチーム量を増減させる。
・スチームのライン204からスチームタービンHへの供給量を増減させる。
・スチームをライン204から大気に放出する量を増減させる。
【0051】
例えば
図2に示すように、サブマージ凝縮器のチューブ側に水を供給するために専用のポンプGを設置することが好ましい。その場合、通常運転時にサブマージ凝縮器以外のスチームコンデンセートの供給先がないので、サブマージ凝縮器に供給するスチームコンデンセート(ライン201)の流量が一定になる。つまり、サブマージ凝縮器以外に供給するスチームコンデンセートの流量が変動することに起因してサブマージ凝縮器へのスチームコンデンセートの流量が変動することを防止することができる。したがって、サブマージ凝縮器から確実に熱を除去することができる。サブマージ凝縮器において尿素合成反応を促進するために、サブマージ凝縮器の温度は尿素プロセスにおいて重要なパラメータである。サブマージ凝縮器に冷却媒体として供給するスチームコンデンセートの流量が一定になることにより、サブマージ凝縮器の温度を一定に保つことが容易となる。ただし、ライン201、202および203を含む水供給手段に一部の成分が蓄積することを防ぐためにブローダウンを行うことはできる。また、非定常運転においては、ブローダウン以外にも、水をサブマージ凝縮器以外の機器に送ることもありうる。
【符号の説明】
【0052】
A 合成器
B 分解器
C サブマージ凝縮器
D エジェクター
E 熱交換器(アンモニア予熱器)
F 気液分離器
G ポンプ
H スチームタービン
I スチームを消費する他の機器
J スチームを発生する他の機器
【国際調査報告】