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特表2022-522519鉄道ブレーキシステムの滑止装置の動作を監視する監視装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-19
(54)【発明の名称】鉄道ブレーキシステムの滑止装置の動作を監視する監視装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20220412BHJP
   B60T 8/96 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/96
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021552182
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(85)【翻訳文提出日】2021-11-01
(86)【国際出願番号】 IB2020051960
(87)【国際公開番号】W WO2020183320
(87)【国際公開日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】102019000003423
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516351289
【氏名又は名称】フェヴレ・トランスポール・イタリア・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】FAIVELEY TRANSPORT ITALIA S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ティオネ ロベルト
【テーマコード(参考)】
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D049AA04
3D049BB02
3D049BB04
3D049BB08
3D049CC03
3D049HH20
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049HH53
3D049QQ04
3D049RR01
3D049RR04
3D049RR09
3D246AA17
3D246BA03
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB01
3D246HA43A
3D246HA44A
3D246HA48A
3D246HA64A
3D246JB12
3D246JB43
3D246KA11
3D246KA15
3D246KA19
3D246LA32Z
3D246MA04
3D246MA07
3D246MA17
(57)【要約】
鉄道ブレーキシステムの滑止装置(703,803)の動作を監視する監視装置(701,801)が記載されている。監視装置(701,801)は、滑止装置(703,803)によって制御される車軸(102、105)に関連する推定瞬間線形速度を取得し、車軸(102...105)に関連する推定瞬間線形速度(301,...,304)と、鉄道車両の線形的な基準速度(306)とを比較し、ブレーキシリンダ(111,...,114)への圧力の状態を監視し、滑り状態の各車軸について、車軸(102...105)に関連するブレーキシリンダ(111,...,114)への各圧力と、鉄道車両の基準線形速度(306)に関し、滑り状態の車軸(102...105)に関連する推定瞬間線形速度(301...304)の個別の既定の傾向を含む既定の動作条件に基づいて、滑止装置(703,803)が正常に動作しているか否か判定し、監視装置(701,801)が、滑止装置(703,803)が正常に動作していないと判定した場合、タイミング装置(726,727,826,827)の少なくとも1つの予めロードされた時間値(T1,T2)の減少又はキャンセルを維持するように構成される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道ブレーキシステムの滑止装置(703,803)の動作を監視する監視装置(701,801)であって、
前記滑止装置は、
少なくとも2つの車軸(102,...,105)の瞬間速度信号を受信し、
電気バルブユニット(117,...,120)を用いて、前記車軸(102,...,105)に関連するブレーキシリンダ(111,...,114)への圧力を制御し、
前記車軸(102,...,105)に関連するブレーキシリンダ(111,...,114)への圧力を制御することにより、前記車軸(102,...,105)の停止を防ぎ、かつ、車軸(102,...,105)の滑りを制御するように構成されており、
前記電気バルブユニット(117,...,120)はそれぞれ、2つの空気電磁弁(220,221)を備え、
各空気電磁弁(220,221)はそれぞれ、タイミング装置(210,212,726,727,826,827)を備えており、タイミング装置は、個別の空気電磁弁(220,221)の供給時間を測定するように構成され、また、測定された前記個別の空気電磁弁(220,221)の供給時間が予めロードされた既定の時間値(T1,T2)を超える場合、それぞれが、前記個別の空気電磁弁(220,221)への電力供給を停止する信号を生成するように構成されており、
前記監視装置(701,801)は、
前記滑止装置(703,803)によって制御される前記車軸(102,...,105)に関連する推定瞬間線形速度(301,...,304)を取得し、
車軸(102...105)に関連する推定瞬間線形速度(301,...,304)と、鉄道車両の線形的な基準速度(306)とを比較し、
前記ブレーキシリンダ(111,...,114)への圧力の状態を監視し、
滑り状態の各車軸について、前記車軸(102...105)に関連する前記ブレーキシリンダ(111,...,114)への各圧力と、前記鉄道車両の線形的な基準速度(306)に関し、滑り状態の前記車軸(102...105)に関連する前記推定瞬間線形速度(301...304)それぞれの既定の傾向を含む既定の動作条件に応じて、前記滑止装置(703,803)が正常に動作しているか否か判定し、
前記監視装置(701,801)が、前記滑止装置(703,803)が正常に動作していないと判定した場合、前記タイミング装置(726,727,826,827)が、前記予めロードされた時間(T1,T2)を計測する間、滑り状態の前記車軸(102...105)に関連するタイミング装置(726,727,826,827)の少なくとも1つにおいて、前記予めロードされた時間値(T1,T2)を維持し、減らし、又はキャンセルするように構成された、監視装置(701,801)。
【請求項2】
前記監視装置が、滑止装置(703,803)が正常に動作していると判定した場合、滑り状態の前記車軸(102)に関連する前記タイミング装置(726,727,826,827)が、前記予めロードされた時間(T1,T2)を計測する間、前記タイミング装置(726,727,826,827)の少なくとも1つにおいて、前記予めロードされた時間(T1,T2)を維持し、又は増やすように構成された、請求項1に記載の監視装置(701,801)。
【請求項3】
滑り状態の前記車軸が、以下の既定の動作条件、すなわち、
前記車軸の推定瞬間線形速度(401)が、少なくとも1つの既定の時間(TP1)、許容範囲(405)内である場合、
前記車軸の推定瞬間線形速度(501)が、少なくとも1つの既定の時間(TP2)、所定の加速度閾値(As)よりも高い瞬間加速度を有することよって特徴付けられる場合
のいずれかであると想定される場合、
前記滑止装置(703,803)が正常に動作していると判定される、請求項1又は2に記載の監視装置(701,801)。
【請求項4】
滑り状態の少なくとも1つの前記車軸が、以下の既定の動作条件、すなわち、
滑り状態の少なくとも1つの車軸に関連する前記ブレーキシリンダの瞬間圧力(604)の値が、前記ブレーキシリンダへの圧力値が一定に保たれる「維持」状態、又は、前記ブレーキシリンダへの圧力値がゼロである「空」状態を示すと共に、前記瞬間圧力(604)に関連する瞬間線形速度値(606)が、既定の時間(TP3)、車両(602)の線形的な基準速度に実質的に等しいことによって特徴付けられる場合、
滑り状態の少なくとも1つの前記車軸に関連する前記ブレーキシリンダの瞬間圧力(604)の値が、前記「維持」又は前記「空」状態を示すと共に、前記瞬間圧力(604)に関連する瞬間線形速度値(607)が、既定の時間(TP3)、既定値(As)よりも低い加速度で許容範囲(605)外に生ずることによって特徴付けられる場合
のいずれかであると想定される場合、
前記滑止装置(703,803)が正常に動作していないと判定される、請求項1~3のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項5】
前記監視装置(701,801)と前記滑止装置(703,803)との間の連続した制御処理が正しく設定されていない場合、前記滑止装置(703,803)が正常に動作していないと判定される、請求項1~4のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項6】
前記連続した制御処理は、前記監視装置(701,801)によって生成され、かつ、前記滑止装置(703,803)によって受信される第1のマスター信号(901)と、前記滑止装置(703,803)で生成され、かつ、前記監視装置(701,801)によって受信される第2のスレーブ信号(902)との交換を含み、
前記マスター信号(901)は、前記監視装置(701,801)によって決定された連続的な論理状態の遷移(S1,...,Sn)を有し、前記スレーブ信号は、前記マスター信号(901)の前記遷移(S1,...,Sn)に応答して前記滑止装置(703,803)によって生成された、応答に基づく論理状態の遷移(A1,...,An)を有し、
前記応答に基づく論理状態の遷移(A1,...,An)は、前記マスター信号(901)の対応する遷移(S1,...,S3)から始まる時間TOK内に生じる必要があり、その結果、前記滑止装置(703,803)が正常に動作していると見なされる、請求項5に記載の監視装置(701,801)。
【請求項7】
前記連続した制御処理は、
前記監視装置(701,801)によって生成され、かつ、前記滑止装置(703,803)によって受信された情報の要求(1030)と、
前記情報の要求(1030)に対する応答(1031)と
の連続的な生成を含み、
前記応答(1031)は、前記滑止装置(703,803)によって生成され、かつ、前記監視装置(701,801)によって受信され、
前記情報の要求は、前記監視装置(801,803)の不揮発性メモリに予めロードされた既定のリスト(1020)からランダムに前記監視装置(801,803)によって取得され、
前記応答(1031)は、前記滑止装置(703,803)及び前記監視装置(701,801)によって独立して算出され、
前記監視装置が、前記監視装置によって算出された応答と、前記滑止装置によって送信された前記応答(1031)とが一致すると判定する場合、前記滑止装置(703,803)は、正常に動作していると見なされる、請求項5に記載の監視装置(701,801)。
【請求項8】
前記ブレーキシリンダ(111,...,114)の圧力状態の監視は、各ブレーキシリンダ(111,...,114)に関連する各滑止バルブユニット(117,...,120)の固有の圧力センサ(222,223)によって直接行われ、
2つの空気電磁弁(220,221)の一方は、空気充填式電磁弁(220)であり、
前記圧力センサ(222,223)はそれぞれ、前記滑止バルブユニット(117,...,120)の各空気充填式電磁弁(220)の上流のブレーキ圧と、各ブレーキシリンダ(111,...,114)の圧力とを示す、請求項1~7のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項9】
前記ブレーキシリンダ(111,...,114)の圧力状態の監視は、各ブレーキシリンダ(111,...,114)に関連する各滑止バルブユニット(117,...,120)に関する制御信号(208,209)の状態を監視することによって間接的に行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項10】
前記予めロードされた時間値(T1,T2)は、0秒以上10秒未満の値である、請求項1~9のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項11】
前記車軸(102...105)の前記推定瞬間線形速度値(301,...,304)と、少なくとも1つの導出された仮想速度(305)とを処理することにより、前記鉄道車両の線形的な基準速度(306,402,502,602)を算出するように構成された、請求項1~10のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項12】
同じ鉄道列車に関連する他の監視装置又は滑止装置に関連する車軸の他の瞬間速度値を処理することにより、関連する鉄道車両の線形的な基準速度(306,402,502,602)を算出するように構成され、
前記他の監視装置及び滑止装置は、通信ネットワークを介して前記監視装置(701,801)に接続される、請求項11に記載の監視装置(701,801)。
【請求項13】
許容範囲(405,505,605)は、前記線形的な基準速度(402,502,602)の関数である、請求項3~12のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項14】
前記他の速度値は、前記監視装置の開発(701,801)に用いられるセキュリティレベルと等しい、又は、前記セキュリティレベル以上のセキュリティレベルに従う通信ネットワークを介して、EN50159の基準に準拠した他の生成装置によって送信される、請求項13に記載の監視装置(701,801)。
【請求項15】
前記滑止装置(703,803)にコマンドを送信するように構成されており、
前記コマンドは、制御出力(208,209)への論理遷移を必要とするコマンドであり、接続手段(750,850)を介して送信され、
前記接続手段(750,850)は、1以上のデジタル信号又は通信チャネルを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項16】
計測対象の残り時間を延長する場合、各滑止バルブユニット(117,...,120)のタイミング装置(726,727)から現在の残りの時間値を再び読み取り、再び読み取られた値よりも高い値を、前記タイミング装置(726,727)に再びロードするように構成され、又は、
計測対象の残り時間を削減し、又はヌル値にする場合、再び読み取られた値よりも低い値又は0で、前記タイミング装置(726,727)を再設定する、請求項1~15のいずれか1項に記載の監視装置(701)。
【請求項17】
各滑止バルブユニット(117...120)のタイミング装置(826,827)に関連する内部カウンタ(828,829)の現在の残りの時間値を再び読み取り、
計測対象の残り時間を延長する場合、関連する車軸(112,...,115)に関連するタイミング装置(826,827)を「再びトリガー」し、前記タイミング装置(826,827)に適切な予めロードされた時間値(T1,T2)を用いて、前記タイミング装置(826,827)に関連する内部カウンタ(828,829)を再設定し、
計測対象の残り時間をゼロにする場合、関連する車軸(112,...,115)に関連するタイミング装置(826,827)を「リセット」し、前記タイミング装置(826,827)に関連する内部カウンタ(828,829)をゼロにするように構成された、請求項1~16のいずれか1項に記載の監視装置(801)。
【請求項18】
前記タイミング装置(726,727,826,827)を間接的に「再びトリガー」して、瞬間推定線形速度(401)が許容範囲(405)から出るのに十分な圧力変化(404)を引き起こすように構成され、
前記圧力変化(404)は、適切な信号(720,721,820,821)に作用することによって得られる、請求項1~17のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項19】
滑止バルブユニット(117,...,120)を直接駆動するための適切な信号(720,721,820,821)を用いて滑止装置(703,803)を抑制し、他の信号(732,733,832,833)を用いて、滑止アルゴリズムを処理するように構成された、請求項1~18のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項20】
適切な信号(720,721,820,821)を用いて滑止装置(703,803)を抑制し、かつ、他の信号(732,733,832,833)を用いて滑止バルブユニット(117,...,120)を直接制御して、アンチロックアルゴリズムを処理するように構成された、請求項1~19のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項21】
前記監視装置(701,801)の正常な動作を監視するように構成された「ウォッチドッグ」回路(706,806)であって、滑止バルブユニット(117,...,120)に適切なソレノイド(714,715,814,815)の供給分岐に直列に配置されたスイッチング素子(710,810)を備えた「ウォッチドッグ」回路を備え、
前記「ウォッチドッグ」回路(706,806)が、前記監視装置(701,801)の動作が正常と判定した場合、前記スイッチング素子(710,810)は、前記「ウォッチドッグ」回路(706,806)によって閉状態にされ、
前記「ウォッチドッグ」回路(706,806)が、前記監視装置(701,801)の動作が異常と判定した場合、前記スイッチング素子(710,810)は、前記「ウォッチドッグ」回路(706,806)によって開状態にされる、請求項1~20のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項22】
緊急スイッチング素子(704,804)が、前記スイッチング素子(710,810)に並列に配置されており、
前記緊急スイッチング素子(704,804)は、緊急要求信号(705,805)が「非アクティブ」状態のときに閉状態であり、
前記緊急スイッチング素子(704,804)は、緊急要求信号(705,805)が「アクティブ」状態のときに開状態である、請求項21に記載の監視装置(701,801)。
【請求項23】
規格EN50128及びEN50129に関するSILが3以上のレベルに従って開発された、請求項1~22のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項24】
前記他の速度値は、前記監視装置(701,801)の開発に使用された安全レベル以上のレベルに従い、規格EN50128、EN50129に準拠した生成装置によって生成される、請求項12~23のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項25】
冗長マイクロプロセッサ回路、プログラム可能な冗長論理回路、又は少なくとも1つのマイクロプロセッサ回路及び少なくとも1つのプログラム可能な論理回路によって実現される、請求項1~24のいずれか1項に記載の監視装置(701,801)。
【請求項26】
前記タイミング装置(726,727)及び付属の論理機能(722,723,734,735)が、監視装置内において実現される、請求項1~25のいずれか1項に記載の監視装置(701)。
【請求項27】
前記タイミング装置(726,727)及び前記付属の論理機能(722,723,734,735)と同等の機能が、ソフトウェアコードによって実現され、又はプログラム可能な論理回路内に実装される、請求項26に記載の監視装置(701)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、鉄道ブレーキシステムの分野に関する。特に、本発明は、鉄道ブレーキシステムの滑止装置の動作を監視する監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道輸送システムでは、車軸の車輪が漸進的な滑り状態を始めない場合、車輪とレールの瞬間的な摩擦抵抗値(adhesion value)は、その時点で車軸に加わり得る最大のブレーキ力の限界を表す。
【0003】
車軸が滑り状態に入った場合に、加えられたブレーキ力が、迅速かつ適切に低減されないと、車軸は徐々に角速度を失って完全にロックされ、その結果、車輪とレールの接触点において、車軸の車輪の表面の過熱が原因で、過熱及び損傷が直ぐに生じる。これと、摩擦係数がさらに低下することが原因で制動距離が大幅に長くなることにより、車両が高速運転時に脱線を引き起こす可能性があることが知られている。
【0004】
上述した問題を解決すべく、空気式鉄道ブレーキシステムは、滑止システムとして知られている保護システムを備える。
【0005】
図1には、4つの車軸の車両102,103,104,105についての既知の滑止システムが示されている。ブレーキシステム110は、ブレーキシリンダ111,112,113,114に供給することにより、図1には示していないが、ブレーキ圧又はブレーキ力の要求に応じて、空気ブレーキ圧を生成する。これらのブレーキシリンダはそれぞれ、空気導管115,116を用いて、それぞれ車軸102,103,104,105にブレーキをかける。滑止装置101によって制御される4つの滑止バルブユニット117,118,119,120は、空気導管115,116と、個別のブレーキシリンダ111,122,113,114との間に配置される。角速度センサ106,107,108,109は、それぞれ車軸102,103,104,105の角速度を検出する。この角速度センサ106,107,108,109は、滑止装置101に電気的に接続されており、各車軸102,103,104,105の瞬間角速度情報を表す電気信号を継続的に供給する。滑止装置101は、測定された相対的な角速度から導出される車軸102,103,104,105の推定瞬間線形速度の情報を処理することにより、車両の瞬間線形速度を継続的に推定する。これらの処理は、当業者に知られており、限定ではないが、例えば、車軸102,103,104,105の4つの速度の平均の算出、若しくは、4つの瞬間線形速度の瞬間最大値の算出、又は、図3に示すように、車軸102,103,104,105に関連する4つの瞬間速度302,302,303,304と第5の値のうちの最大値の算出が含まれ、第5の値は、導出された仮想速度305であり、サンプリング期間が乗算された対象の車両の最大許容値によって減少されたシステムの先のサンプリング周期において取得された速度を減らすことによって得られる。
【0006】
単一の車軸の推定瞬間線形速度と、車両の推定瞬間線形速度との間の差ΔVを継続的に評価することにより、滑止装置101は、1以上の車軸の滑り状態が開始したか否か検出する。1以上の車軸の滑り状態が開始した場合、滑止装置は、滑り状態の車軸に関連するブレーキシリンダへの圧力を適切に低減及び調整することによって車軸の滑りを制御し、例えば、EP3393873、WO2017175108に記載されている既知のアルゴリズムを用いて、滑り状態の車軸に関連するバルブユニットを制御し、この車軸が停止(ブロック)状態になることを防ぎ、滑り状態を維持しながら最良のブレーキ力を得ようとする。
【0007】
この滑止バルブユニット117,118,119,120はそれぞれ、図2に示す一対の空気電磁弁220,221によって表される詳細な形状を有する。
【0008】
空気電磁弁220,221は、個別のスイッチング素子202,203を用いて滑止装置201によって電力が供給される。そのようなスイッチング素子202,203は、通常、固体電子部品である。
【0009】
説明を簡略化するために、図2は、ソレノイド、すなわち電気コイル204,205の接地を示していない。
【0010】
滑止バルブユニット117,118,119,120は、全部で4つの状態を取り得る。
【0011】
第1の状態は「充填」と定義され、図2に示すように、双方の電空弁がオフになっている状態に相当する。電空弁220により、図1の空気導管115,116に相当する空気導管215内の圧力へのアクセス、図1のブレーキシリンダ111,112,113,114に相当するブレーキシリンダ211へのアクセスが可能になり、一方、空気電磁弁221により、ブレーキシリンダ211及び空気導管215が空になるのを防ぐ。この状態は、実際にはブレーキシリンダ211と空気導管215とを直接的に接続するため、滑止装置の休止状態又は非介入状態を表し、これにより、ブレーキシステムが、ブレーキシリンダ211への圧力を、ヌル値から最大値まで直接的に制御する。
【0012】
第2の状態は「保持」と定義され、空気電磁弁220に電力が供給されている状態に相当する。この場合、ブレーキシリンダ211内の圧力は、空気導管215内の圧力の変化によって変更できない。空気電磁弁221は、ブレーキシリンダ211を大気から隔離し続ける。全体として、ブレーキシリンダ211の圧力は、ブレーキシリンダから漏れがない限り、その値を無期限に維持する。
【0013】
第3の状態は「放出」と定義され、空気電磁弁220,221の双方に電力が供給されている状態に相当する。この場合、ブレーキシリンダ211内の圧力は、空気導管215内の圧力の変化によって変更することができない。電力が供給された空気電磁弁221は、ブレーキシリンダ211を大気に接続し、ブレーキシリンダの圧力を減らし、できる限りヌル値にする。
【0014】
第4の状態は「抑制(prohibited)」と定義され、空気電磁弁221のみに電力が供給されている状態に相当する。この場合、空気電磁弁は、ブレーキシリンダ211及び空気導管215の双方を大気に直接接続し、ブレーキシステムによって生成された圧力を大気へ過度に放出する。
【0015】
システムによって「抑制」状態を回避するために、スイッチング素子203が、スイッチング素子202の下流のノード206に接続される。このように、スイッチング素子203が、上流の回路の不適切な制御又はその短絡によって閉じられた場合、スイッチング素子203は、スイッチング素子202も閉じられない限り、空気電磁弁221に電力を供給できず、この場合、空気電磁弁220に電力が供給され、ブレーキシリンダ211を効果的に「放出」状態にするが、空気導管215から大気への過度な放出を回避する。
【0016】
空気電磁弁の様々なパイロット回路が知られており、電源又は接地として参照されるが、「抑制」状態をシステムによって回避できる。
【0017】
通常、滑止システムは、その機能的な動作において、必然的にブレーキ力を減少させる。特定のハードウェア又はソフトウェアの故障モードでは、滑止装置が、空気電磁弁220,221に電力が継続的に供給された状態を維持し、その結果、ブレーキ力を完全に失わせ得ることは明らかである。継続的に電力が供給されたバルブの状態を制限するために、ヨーロッパの鉄道規則「UIC541-05「ブレーキ-様々なブレーキ部品の構造に関する仕様-ホイールスライド保護装置(WSP)」セクション1.1.7。-EN15595「鉄道アプリケーション-ブレーキ-ホイールスライド保護」セクション4.2.2、タイムアウトを生成するハードウェアタイマー装置の導入の要求210,212(UIC541-05 “BRAKES - SPECIFICATIONS FOR THE CONSTRUCTION OF VARIOUS BRAKE PARTS - WHEEL SLIDE PROTECTION DEVICE (WSP),” §1.1.7. - EN15595“Railway applications - Braking - Wheel slide protection” § 4.2.2, require the introduction of timeout-generating hardware timer devices 210,212.)」がある。
【0018】
これらのタイミング装置は、空気電磁弁210,212の連続的な動作を一時的に制限するために導入される。特に、上記規則は、10秒の時間制限を課しており、通常、多くの鉄道事業者によって守られている。しかしながら、上記規則によって推奨されている時間以外の時間を設けることが適切であると考える鉄道事業者もいる。
【0019】
図2は、滑止システムの制御システムの機能の実装を示している。マイクロプロセッサ207は、例えば、限定するものではないが、EP3393873、WO2017175108に記載されている、車軸を認識して制御するアルゴリズムを実行し、スイッチング素子202,203のための個別の制御信号208,209を生成する。
【0020】
マイクロプロセッサ207が制御信号208を論理レベル「1」にする場合、すなわち、スイッチング素子202をアクティブにする場合、制御信号208が0から1に遷移することにより、タイマー装置210がアクティブになり、次いで、タイマー装置210が、例えば、限定ではないが10秒等の時間T1、その出力213を論理レベル「1」にする。論理ゲート216は、制御信号208及び出力信号213に対してAND関数を実行し、実際にスイッチング素子202を閉じるように命令する信号214を生成し、その結果、空気電磁弁220に電力が継続して供給される。
【0021】
時間T1が経過する前に、マイクロプロセッサ207が、制御信号208を論理レベル「0」にして、空気電磁弁220への電力供給を停止すると、マイクロプロセッサ207は、ローアクティブ入力Rを介して、タイマー装置210をリセット状態にし、後続の0→1の遷移のために、タイマーを準備する。
【0022】
マイクロプロセッサ207のハードウェアの障害、又は滑止制御アルゴリズムのソフトウェアのエラーが原因で、コマンド信号208が、論理レベル「1」で恒久的にブロックされた状態が続くと、タイマー装置210によって計測された時間T1が過ぎ、それにより、信号213,214が論理レベル「0」に戻り、その結果、空気電磁弁220に恒久的に電力が供給されない。
【0023】
空気電磁弁221に関連するタイマー装置212についても、同じ挙動が生じる。
【0024】
空気電磁弁220の上流の圧力を、接続部224を介してマイクロプロセッサ回路207に通知する圧力変換器222と、ブレーキシリンダ211への圧力を、接続部225を介してマイクロプロセッサ回路207に通知する圧力変換器223が存在する場合もある。
【0025】
空気電磁弁220,221の電力供給コマンドのタイミング及び停止の機能を実行するための回路の変形例が知られている。
【0026】
図2に示すタイミング回路は、滑止バルブユニット111,112,113,114毎に複製されている。
【0027】
上記の解決策は、ハードウェアの故障又はソフトウェアの問題によってブレーキングの間に空気圧が恒久的に過度に低下するリスクを低減する方法として、全ての鉄道事業者及び鉄道安全機関によって認識されている従来技術である。
【0028】
動作が正しい場合、ブレーキの状態が摩擦力の低い状態を維持する限り、1以上の車軸102...105を、制御された滑り状態に保つために、滑止システムは、1以上のブレーキシリンダ111,...,114への圧力を継続的に補正し、これにより、タイマー装置210,212をリセットする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、滑止装置がその機能を正しく実行しているにも関わらず、上述した従来技術によるタイミング回路を使用することは不所望の結果をもたらす。
【0030】
第1のケースを図4に示す。ブレーキシステム110は、ブレーキ要求に応じて、ブレーキシリンダ211への圧力404を増加させる。車輪202とレール240との摩擦の低下が原因で、圧力404によって生成された車軸のブレーキ力が、利用可能な摩擦力を超えると、車輪202が滑り始める。車軸の推定線形速度401は、瞬間403において列車の線形速度402から外れる。その直後に、滑止装置201は、独自のアルゴリズムを用いて「放出」状態を有効にし、制御信号208,209を0から1に遷移させ、空気電磁弁220,221にそれぞれ電力を供給する。瞬間403から圧力が低下し始め、0から1への遷移によって駆動されたタイミング装置210,212が、時間T1,T2の計測をそれぞれ開始する。車軸の瞬間推定線形速度401が許容範囲405に入ると、滑止装置201が、「放出」状態から「維持」状態に切り替わり、信号209を論理レベル「0」にし、空気電磁弁221への電力供給を停止する。このようにして、タイミング装置212がリセットされる。瞬間推定線形速度401が許容範囲405内に維持される場合、滑止装置201は、「維持」状態を維持する。この場合、タイミング装置210は、値T1に到達して放出を続け、その出力213を論理状態「0」にし、スイッチング素子202への電力供給を停止し、システムを充填状態に戻し、その結果、車輪が確実にロックされる。
【0031】
図5に示す第2のケースは、摩擦力が非常に低く、車軸の慣性モーメントが非常に大きい場合、例えば、車軸がギア減速機を介して駆動モータに接続されている場合に生じる。
【0032】
ブレーキシステム110は、ブレーキ要求に応答して、ブレーキシリンダ211への圧力504を増加させる。車輪202とレールとの摩擦状態が原因で、圧力504によって生成された車軸のブレーキ力が、利用可能な摩擦力を超えると、車輪が滑り始める。車軸の瞬間推定線形速度501は、瞬間503において列車の線形速度502から離れる。その直後、滑止装置201は、「放出」状態を有効にし、制御信号208,209を0から1に遷移させ、空気電磁弁220,221にそれぞれ電力を供給する。瞬間503から、圧力が低下し始め、0から1への遷移によって駆動されたタイミング装置210,212は、時間T1,T2の計測を、それぞれ開始する。摩擦力が非常に低いため、圧力504が、放出状態の有効化に反して減少するが、瞬間推定線形速度501は減少し続け、許容範囲505よりもかなり低くなり、圧力504によって生成されたブレーキ力が、低い摩擦力未満になったときに減少が止まる。
【0033】
この場合、滑止装置201は「放出」状態に留まり続け、車軸の瞬間推定線形速度501が許容範囲内に入るのを待つ。摩擦力が低く、慣性モーメントが大きいため、車軸の瞬間推定線形速度501は、加速度dv/dt>0で非常にゆっくりと開始するが、非常に低い。
【0034】
この場合、タイミング装置210,212は変化し続け、それぞれ値T1,T2に到達する。特に、タイミング装置210は、その出力213を論理状態「0」にし、スイッチング素子202への電力供給を停止し、ソレノイド204,205への電力供給を停止し、システムを「充填」状態に戻し、その結果、車輪を確実にロックする。
【0035】
図5に示す例では、瞬間推定線形速度501は、非常に小さい摩擦と空気電磁弁(220,221)の応答時間が遅いことが原因で、又は、図5には示していない摩擦力の突然の変化が原因で、許容範囲505から外れ得ることに留意すべきである。いずれの場合も、滑止システムは、当該瞬間推定線形速度501に関連するブレーキシリンダへの圧力を調整し、それを許容範囲405内に戻す。これは正常な事象であり、許容範囲505外の瞬間推定線形速度501が連続及び恒久的に時間TBを超えたままとならない限り、許容される。
【0036】
図6に示す第3のケースは、アルゴリズムのソフトウェア障害の問題又はマイクロコントローラ207のハードウェア障害の場合に生じる。
【0037】
ブレーキシステム110は、ブレーキ要求に応答して、ブレーキシリンダ211への圧力604を増加させる。車輪202とレール240との摩擦状態が低いことが原因で、圧力604によって生成された車軸のブレーキ力が、利用可能な摩擦力を超えると、車輪が滑り始める。車軸の推定線形速度601は、瞬間603において列車の線形速度602から離れる。その直後、滑止装置201は、「放出」状態を有効にし、制御信号208,208を、0から1に遷移させ、空気電磁弁220,221に、それぞれ電力を供給する。瞬間603から、圧力が低下し始め、0から1へ遷移によって駆動されたタイミング装置210,212は、それぞれ時間T1,T2の計測を開始する。圧力の低下604により、車輪202の瞬間推定線形速度601は、正の傾きで回復し始め、許容範囲605を横切る。同時に、マイクロプロセッサ207の予期しないソフトウェア又はハードウェアの問題により、滑止装置が反応せず、車輪202の瞬間推定線形速度601は、車両の瞬間線形速度602を完全に回復し、圧力は、初期値、又は制御された滑り状態に車輪202を保つのに必要な少なくとも1つの値を回復しない。この場合、タイミング装置210,212がそれぞれ値T1,T2に達したときのみ、特に、タイミング装置210が、その出力213を論理状態「0」にし、スイッチング素子202への電力供給を停止し、ソレノイド204,205への電力供給を停止し、システムを「充填」状態に戻し、その結果、車輪がロックした場合でもブレーキをする。この場合、ブレーキシリンダは、時間T1,T2の間、ブレーキ圧が加わることなく、不必要にそのままであり、代替的に、安全上の理由から、時間T1,T2が経過するのを待たずにブレーキ圧を回復することが適切である。
【0038】
説明した第1の2つのケースを解決する1つの方法は、時間T1,T2の満了前にタイミング装置をリセットし、時間T1,T2を効果的及び強制的に延長し、制御信号208,209の1→0→1のソフトウェアの遷移を生じさせて、タイミング装置をリセットさせるが、空気電磁弁220,221の機械的な慣性によってマスクされるのに十分に速い。第1のケースでは、滑止装置は、その正常な動作モードを継続でき、第2のケースでは、車輪202は、瞬間速度を回復して、許容範囲405に到達でき、これにより、滑止装置が、最小の圧力を再び適用できる。いくつかのケースでは、鉄道事業者は、実際の事例に基づいて時間T1,T2を増やすように要求し、典型的には、長い間レールに積もった腐った葉や雪が原因で摩擦力が非常に低くなる秋や冬に起こった。
【0039】
一方、第3のケースでは、特に、滑止装置が故障した状態でブレーキシリンダに圧力が加えられずに、緊急ブレーキ状態が長時間続くのを回避するために、時間T1,T2を非常に短くすることが推奨される。
【0040】
いずれの解決手段を採用するか決定する際には、ヨーロッパの規制、すなわち、
EN50126「車両アプリケーション。信頼性、可用性、保守性、及び安全性(RAMS)の仕様及びデモンストレーション。基本的な要件及び一般的なプロセス(Railway applications. The specification and demonstration of reliability, availability, maintainability and safety (RAMS). Basic requirements and generic process)」、
EN50128「鉄道アプリケーション-通信、信号伝達及び処理システム-鉄道制御及び保護システム用のソフトウェア(Railway applications - Communications, signaling and processing systems - Software for railway control and protection systems)」、
EN50129「鉄道アプリケーション。通信、信号及び処理システム。信号伝達のための安全に関する電子システム(Railway applications. Communication, signaling and processing systems. Safety related electronic systems for signaling)」
を考慮する必要がある。
【0041】
特に、規格EN50126(2019年3月8日に公開された最新版に基づく)は、安全性の分析の結果に基づき、SIL0/1/2/3/4の安全性レベルをサブシステムに割り当てる方法を規定する一方、規格EN50128及びEN50129(2019年3月8日に公開された最新版に基づく)は、割り当てられたSILレベルに基づき、ソフトウェア及びハードウェアコンポーネントにそれぞれ適用される設計基準を規定する。上述した規格の適用に基づいて、次の声明及び概念が表現され得る。
サービスブレーキ機能の実現に用いられる電子システムは、一般に、上述した規格で定められた規定に従って作成でき、その実現をSIL2以下の安全レベルに制限する。
緊急ブレーキ機能の実現に用いられる電子システムは、上記規則で定められた規定に従って作成でき、その実現をSIL3以上の安全レベルに制限する。
【0042】
現在の滑止システムは、通常、規格EN50128、EN50129のSIL2レベルに従って製造されている。1→0→1の素早い遷移によってタイミング装置をリセットし得る解決方法は、タイミング装置が導入されたのと同じ安全上の理由に反する。完全な滑止システムの適切な寸法の観察と、その結果としての合理的な反応に基づいて、規格EN50128,EN50129に関するSILが3以上のレベルに従う構造のみが、緊急ブレーキの際にタイミング装置を、適切かつ安全に再びトリガーすることができる。
【0043】
滑止アルゴリズムの複雑さと、それに伴う適応基準を使用することが増えているため、EN50128,EN50129規格に従うSILが3以上の安全レベルに準拠した滑止システムの開発は、非常に複雑であり、費用がかかる。2以下のSILシステムと3以上のSILシステムについて、開発の複雑さと認証に対するコストの比率は、通常1:20から1:40の範囲であることが知られている。大量のパラメータ化と、滑止アルゴリズム、ブレーキ制御アルゴリズム、及び駆動モータの使用によって得られる空気圧ブレーキと回生ブレーキの間の同期アルゴリズムの間にインターフェースを採用する複雑さにより、滑止アルゴリズムを部分的かつ連続的に書き換える必要があるため、EN50128のSIL4の再認証に費用がかかる。
【0044】
さらに、実際には一定期間ブレーキ力を低減するために用いられる、EN50128,EN50129のSIL2レベルに従って開発された装置の使用は、規格EN50126に従って行わる緊急ブレーキの通常の安全性分析に反する。実際、鉄道事業者や安全機関が、緊急ブレーキ時に滑止装置の抑制を要求することがよくあり、特に緊急ブレーキ中に滑止装置をアクティブにする必要性と矛盾し、この状況のように、摩擦力の回復と最短の制動距離の実現を支援するあらゆる手段を備えている必要がある。
【0045】
したがって、滑止装置自体を用いてタイミング装置の自発的な再びトリガー動作の実行を回避すると共に、国際鉄道連合(UIC)及び欧州規格(EN)によって提供される時間T1,T2のみを適用すること、さらに緊急ブレーキ時の滑止装置を抑制することに同意することは従来技術である。
【課題を解決するための手段】
【0046】
したがって、本発明の目的は、複雑さ及び開発コストを低減する解決手段を用いて、従来の滑止装置による不所望の結果がもたらされるのを未然に防ぐことである。
【0047】
要約すると、本特許は、鉄道滑止システムのための監視装置の使用について記載している。監視装置は、関連する滑止システムの動作を監視し、当該滑止システムのタイミング装置に対する直接的又は間接的なアクションを通じて、その安全レベルを全体的に引き上げて、緊急ブレーキ時のブレーキシステムに必要な安全レベルに到達するように構成される。さらに、タイミング装置に対する監視装置の介入が改善される。
【0048】
さらに、監視装置は、当該滑止システムに問題が発生した場合、滑止システムに代替することができる。
【0049】
上述した目的及び利点並びに他の目的及び利点は、本発明の一態様に従い、請求項1に規定された特徴を有する監視装置によって実現される。本発明の好適な実施形態は、従属請求項に規定されており、その内容は、本説明の不可欠な部分として理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
ここで、本発明に係る電子的な緊急及びサービスブレーキ制御システムのいくつかの好適な実施形態の機能の特徴及び構造の特徴について説明する。添付の図面を参照されたい。
図1図1は、従来の滑止システムを示す。
図2図2は、滑止システムの制御システムの機能的な実施形態を示す。
図3図3は、車軸の瞬間速度時間と導出された仮想速度の傾向を示す。
図4図4は、先行技術のタイミング回路の第1の不所望な状態を説明するグラフである。
図5図5は、先行技術のタイミング回路の第2の不所望な状態を説明するグラフである。
図6図6は、先行技術のタイミング回路の第3の不所望な状態を説明するグラフである。
図7図7は、監視装置の実施形態を示す。
図8図8は、監視装置の実施形態を示す。
図9図9は、滑止装置の正しい応答を検証するための監視装置と滑止システムとのハンドシェイクの連続的な交換を示す。
図10図10は、接続手段が通信チャネルで構成された場合における、監視装置と滑止システムとの間の情報の交換を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の複数の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その応用例における構造の詳細、及び以下の説明又は図面に示す構成要素の構成に限定されないことに留意されたい。本発明は、他の実施形態を採用することができ、また、異なる方法で実施又は実際に実行できる。また、表現及び用語は、説明を目的とするものであり、限定するものとして解釈すべきではないことも理解すべきである。「含む」及び「備える」及びそれらの変形例の使用は、後述する構成要素及びそれらの同等物と共に、他の構成要素及びそれらの同等物を含むことを意図している。
【0052】
以下、鉄道ブレーキシステムの滑止装置703,803の動作を監視する監視装置701,801の第1の実施形態について説明する。
【0053】
滑止装置は、少なくとも2つの車軸102,...,105の瞬間速度信号を受信し、電気バルブユニット(117,...,120)を用いて、車軸102,...,105に関連するブレーキシリンダ111,...,114への圧力を制御し、電気バルブユニット117,...,120を用いて、車軸(102...105)のブロックを防ぎ、車軸102,...,105に関連するブレーキシリンダ111,...,114への圧力を制御するように設計されている。
【0054】
電気バルブユニット117,...,120はそれぞれ、2つの空気電磁弁220,221を備える。各空気電磁弁220,221は、個別の空気電磁弁220,221の供給時間を測定するように構成されたタイミング装置210,212,726,727,826,827を備え、各タイミング装置は、測定された個別の空気電磁弁220,221の供給時間が予めロードされた既定の時間値T1,T2を超える場合に、個別の空気電磁弁220,221の電力供給を停止する信号を生成するように構成される。
【0055】
監視装置701,801は、滑止装置703,803によって制御される車軸102,...,105に関連する瞬間推定線形速度301,...,304を取得し、車軸102,...,105に関連する瞬間推定線形速度301,...,304と鉄道車両の線形的な基準速度(306)とを比較し、ブレーキシリンダ111,...,114への圧力の状態を監視するように構成される。
【0056】
監視装置701,801はさらに、滑り状態の各車軸について、鉄道車両の基準線形速度306と、車軸102,...,105に関連するブレーキシリンダ111,...,114への各圧力に関連して、滑り状態の車軸102,...,105に関連する推定瞬間線形速度301,...,304の個別の既定の傾向を含む既定の動作条件に応じて、滑止装置703,803が正常に動作しているか、又はそれが正常に動作していないかを決定するように構成される。
【0057】
さらに、監視装置701,801が、滑止装置703,803が正常に動作していないと判定した場合、監視装置701,801は、タイミング装置726,727,826,827が予めロードされた時間T1,T2を計測する間、滑り状態の車軸102,...105に関連するタイミング装置726,727,826,827のうちの少なくとも1つにおいて、予めロードされた時間値T1,T2を維持、低減、又はキャンセルするように構成される。
【0058】
したがって、監視装置701,801は、タイミング装置に直接的又は間接的に作用することを目的として提供される。
【0059】
監視装置が、滑止装置703,803が正常に動作していると判定した場合、監視装置701,801はさらに、滑り状態の車軸102...105に関連するタイミング装置726,727,826,827が予めロードされた時間T1,T2を計測する間、少なくとも1つのタイミング装置726,727,826,827において、予めロードされた時間値T1,T2を維持又は増やすように構成されることが好ましい。
【0060】
滑り状態の車軸が、以下の既定の動作条件の1つとみなされる場合、すなわち、
車軸の推定瞬間線形速度401が、少なくとも既定の時間TP1、許容範囲405内である場合、
車軸の推定瞬間線形速度501が、少なくとも既定の時間TP2、所定の加速度閾値Asよりも高い瞬間加速度を有することを特徴とする場合、
滑止装置703,803が正常に動作していると判定され得ることが好ましい。
【0061】
許容範囲405,505,605は、線形的な基準速度402,502,602の関数(function)とし得る。
【0062】
滑り状態の少なくとも1つの車軸が、以下の既定の動作条件の1つとみなされる場合、すなわち、
滑り状態の少なくとも1つの車軸に関連するブレーキシリンダの瞬間圧力604の値が、ブレーキシリンダへの圧力値が一定に保たれる「維持」状態、又は、ブレーキシリンダへの圧力値がゼロである「空」状態を表すと共に、当該瞬間圧力604に関連する瞬間線形速度値606が、既定の時間TP3、車両602の線形的な基準速度に実質的に等しいことを特徴とする場合、
滑り状態の少なくとも1つの車軸に関連するブレーキシリンダの瞬間圧力604の値が「維持」状態又は「空」状態を表すと共に、当該瞬間圧力604に関連する瞬間線形速度値607が、既定の時間TP3、既定値Asよりも低い加速度で許容範囲605から外れることを特徴とする場合、
滑止装置703,803が正常に動作していないと判定され得ることが好ましい。
【0063】
監視装置701,801と滑止装置703,803との間の連続した制御処理が正しく設定されていない場合、滑止装置703,803が正常に動作していないと判定され得ることが好ましい。
【0064】
連続した制御処理は、監視装置701,801によって生成され、かつ、滑止装置703,803によって受信される第1のマスター信号901と、滑止装置703,803で生成され、かつ、監視装置701,801によって受信される第2のスレーブ信号902との交換を含み得る。
【0065】
マスター信号901は、監視装置701,801によって決定された連続的な論理状態の遷移S1,...,Snを有し、スレーブ信号は、マスター信号901の遷移S1,...,Snに応じて、滑止装置703,803によって生成された、応答に基づく論理状態の遷移A1,...,Anを有する。
【0066】
応答に基づく論理状態の遷移A1,...,Anは、マスター信号901の対応する遷移S1,...,S3から始まる時間TOK内に生じる必要があり、その結果、当該滑止装置703,803は正常に動作していると見なされる。
【0067】
または、連続した制御処理は、監視装置701,801によって生成され、かつ、滑止装置703,803によって受信される情報の要求1030と、情報の要求1030に対する応答1031の連続的な生成を含み得る。
【0068】
応答1031は、滑止装置703,803によって生成され、監視装置701,801によって受信される。情報の要求は、ランダムに監視装置801,803により、監視装置801,803の不揮発性メモリに予めロードされた既定のリスト1020から取得される。
【0069】
応答1031は、滑止装置703,803及び監視装置701,801によって独立して算出される。
【0070】
監視装置が、監視装置自体によって算出された応答と、滑止装置によって送信された応答1031が一致すると判断する場合、滑止装置703,803は正常に動作していると見なされる。
【0071】
他の態様では、ブレーキシリンダ111,...,114の圧力状態の監視は、各ブレーキシリンダ111,...,114に関連する各滑止バルブユニット117,...,120に固有の圧力センサ222,223によって直接行うことができる。2つの空気電磁弁220,221の一方は、空気充填式電磁弁220とし得る。圧力センサ222,223はそれぞれ、滑止バルブユニット117,...,120の各空気充填式電磁弁220の上流のブレーキ圧と、各ブレーキシリンダ111,...,114における圧力を示し得る。
【0072】
ブレーキシリンダ111,...,114の圧力状態の監視は、各ブレーキシリンダ111,...,114に関連する各滑止バルブユニット117,...,120に関連する制御信号208,209の状態を監視することにより、間接的に行われることが好ましい。
【0073】
他の態様では、予めロードされた時間値T1,T2は、0秒以上10秒未満の値とし得る。
【0074】
監視装置701,801は、車軸102,... ,105の瞬間速度301,...,304と、少なくとも1つの導出された仮想速度305とを処理することにより、鉄道車両の線形的な基準速度306,402,502,602を算出するように構成され得ることが好ましい。
【0075】
監視装置701,801はさらに、同じ鉄道列車に関連する他の監視装置又は滑止装置に関連する車軸の他の瞬間速度値を処理することにより、関連する鉄道車両の線形的な基準速度306,402,502,602を算出するように構成され得る。他の監視装置及び滑止装置は、通信ネットワークを介して監視装置701,801に接続することができる。
【0076】
上述した他の速度値は、監視装置701,801の開発に用いられるセキュリティレベル以上のセキュリティレベルに従って、当該通信ネットワークを介して、規格EN50159に従う生成装置によって送信することができる。
【0077】
さらに別の態様では、監視装置701,801は、コマンドを滑止装置703,803に送信するように構成できる。このコマンドは、制御出力208,209への論理遷移を必要とするコマンドであり、接続手段750,850を介して送信される。したがって、接続手段750,850は、監視装置701,801を滑止装置703,803に接続できる。接続手段750,850は、1以上のデジタル信号又は通信チャネルを含み得る。複数のデジタルハードウェア信号により、簡単なハンドシェイクの交換が可能になる。通信チャネルは、限定ではないが、例えば、RS232、RS485、CANとし得る。
【0078】
計測対象の残り時間を延長する場合、監視装置701は、各滑止バルブユニット117,...,120のタイミング装置726,727から、現在の残りの時間値を再び読み取り、再び読み取られた値よりも高い値を当該タイミング装置726,727にリロードするように構成されることが好ましい。または、計測対象の残りの時間を減らし、又はゼロにする場合、監視装置701は、再び読み取られた値よりも低い値又はヌル値で当該タイミング装置726,727を再設定するように構成することができる。
【0079】
監視装置は、
各滑止バルブユニット117,...,120のタイミング装置826,827に関連する内部カウンタ828,829の現在の残りの時間値を再び読み取り、
計測対象の残り時間を延長する場合、関連する車軸112,...,115に関連するタイミング装置826,827を「再びトリガ」し、タイミング装置826,827に適切な予めロードされた時間値T1,T2を用いて、タイミング装置826,827に関連する内部カウンタ828,829を再設定し、
計測対象の残り時間をゼロにする場合、関連する車軸112,...,115に関連するタイミング装置826,827を「リセット」し、タイミング装置826,827に関連する内部カウンタ828,829をゼロにするように構成できる。
【0080】
監視装置701,801は、タイミング装置726,727,826,827を間接的に「再びトリガー」して、瞬間推定線形速度401が許容範囲405から外れるのに十分な圧力変化404を引き起こすように構成することが好ましい。圧力変化401は、適切な信号720,721,820,821に作用することによって得ることができる。
【0081】
監視装置701,801は、適切な信号720,721,820,821を用いて滑止装置703,803を抑制し、他の信号732,733,832,833を用いて滑止バルブユニット117,...,120を直接的に駆動して、滑止アルゴリズムを処理するように構成することが好ましい。
【0082】
監視装置701,801は、適切な信号720,721,820,821を用いて滑止装置703,803を抑制し、他の信号732,733,832,833を用いて、滑止バルブユニット117,...,120を直接制御し、アンチロックアルゴリズムを処理するように構成することが好ましい。
【0083】
監視装置701,801は、監視装置701,801の正常な動作を監視するように構成されたウォッチドッグ回路706,806を備えることが好ましい。ウォッチドッグ回路706,806は、滑止バルブユニット117,...,120に適切なソレノイド714,715,814,815の供給分岐に直列に配置されたスイッチング素子710,810を備える。ウォッチドッグ回路706,806が当該監視装置701,801の動作が正常であると判断した場合、スイッチング素子710,810は、ウォッチドッグ回路706,806によって閉状態にすることができる。ウォッチドッグ回路706,806が、監視装置701,801の動作が正常でないと判断した場合、スイッチング素子710,810は、ウォッチドッグ回路706,806によって開状態にすることができる。
【0084】
監視装置は、スイッチング素子710,810と並列に配置された緊急スイッチング素子704,804をさらに備え得る。緊急スイッチング素子704,804は、緊急要求信号705,805が「非アクティブ」状態のときに閉状態となり、緊急要求信号705,805が「アクティブ」状態のときに開状態となり得る。
【0085】
監視装置701,801は、規格EN50128及びEN50129に関するSILが3以上のレベルに従って開発されることが好ましい。さらに、上述した他の速度値は、監視装置701,801の開発に用いられる安全なレベル以上のレベルに従って、規格EN50128,EN50129に準拠した生成装置によって生成されるであろう。
【0086】
他の態様では、監視装置701,801は、冗長マイクロプロセッサ回路により、プログラム可能な冗長論理回路により、又は少なくとも1つのマイクロプロセッサ回路及び少なくとも1つのプログラム可能な論理回路によって実現できる。
【0087】
タイミング装置726,727及び付属の論理機能722,723,734,735は、監視装置内に実装されることが好ましい。タイミング装置726,727及び付属の論理機能722,723,734,735と同等の機能は、ソフトウェアコードによって実装でき、又はプログラム可能な論理回路内に実装できる。
【0088】
図7及び図8は、いくつかの排他的でない実施形態の例を示す。
【0089】
一実施形態について以下に詳細に説明する。
【0090】
監視装置701,801は、速度センサ106,107,108,109から送信された、車軸102,103,104,105の2以上の瞬間速度信号702,802を受信する。例えば、限定するものではないが、上述した方法及び図4に示す方法により、監視装置701,801は、車両の瞬間線形速度をリアルタイムで算出する。さらに、図7,8には示していないが、監視装置701,801は、通信バスを介して、他の車載システム、例えば、限定するものではないが、他の車軸の速度情報を受信可能な他の監視装置又は滑止装置等に接続される。
【0091】
車両の算出された瞬間線形速度は、監視対象の滑止システムの状態の分析に直接的な役割を果たすため、相対算出機能は、監視装置701,801が従うべきレベルと同じレベルの安全性を有する。このため、他の車載システムに属する車軸の速度情報の転送も、監視装置701,801に適用される安全レベルと同じ安全レベルのために、欧州規格EN50159、鉄道アプリケーション-通信、信号及び処理システム-通信システムにおける安全に関する通信(Rail way applications - Communication, signaling and processing systems - Safety-related communication in transmission systems)に従って、後述する処理に従って実行される必要がある。
【0092】
滑止アルゴリズムを実行するために、車軸102,103,104,105の同じ2以上の瞬間速度信号752,852が、滑止装置703,803によって受信される。代替的に、瞬間速度信号752,852は、滑止装置703,803のために、瞬間速度信号702,802の複製として、監視装置701,801によって生成及び送信してもよい。他の代替例として、瞬間速度信号752,852は、監視装置701,801によって生成され、接続手段750,850を介して滑止装置703,803に送信され得る。
【0093】
緊急ブレーキ信号705,805は、緊急ブレーキ要求が無いことを示す「非アクティブ」状態となり、緊急ブレーキ要求が存在することを示す「アクティブ」状態となり得る。
【0094】
緊急ブレーキ信号705,805が「非アクティブ」の場合、スイッチング素子704,804は閉状態となる。緊急ブレーキ信号705,805が「アクティブ」の場合、スイッチング素子704,804は開状態となる。
【0095】
ウォッチドッグ機能706,806は、監視装置701,801の動作が正常であると判断した場合、ウォッチドッグ機能706,806の出力711、811を論理レベル「1」に維持し、また、ウォッチドッグ回路706,806が、監視装置701,801の動作が異常であると判断した場合、ウォッチドッグ機能706,806の出力711、811を論理レベル「0」に切り替える。
【0096】
正常な動作状態では、出力711、811の信号は論理レベル「1」であるため、監視装置701,801は、スイッチング素子710,810を閉じて、内部信号708,808を論理レベル「1」にすることができる。内部信号708,808が監視装置701,801によって論理レベル「0」にされた場合、又は、ウォッチドッグ回路706,806が、監視装置701,801の処理におけるエラーを検出した場合、スイッチング素子710,810が信号709,809によって開かれる。
【0097】
規格EN50126に従って設計された安全システムは、「安全な状態」、すなわち、安全システム自体が完全に非効率になる障害が存在する場合に、プロジェクトの目標安全レベルが保証される状態が要求される。
【0098】
より安全性の高いシステムによって制御される滑止システムでは、「安全な状態」は、例えば、これに限定されないが、緊急ブレーキ中にシステムが抑制された状態である。
【0099】
スイッチング素子710,704又は810,804の並列は、システムの「安全な状態」を構成し、監視装置701,801が、緊急ブレーキ中における滑止システム703,803の動作を可能にする安全な監視活動を実行できない障害による影響を受けた場合、ウォッチドッグ回路は、スイッチング素子710を開状態にし、アクティブな緊急ブレーキ状態の緊急ブレーキ信号705,805を許可し、ソレノイド714,715又は814、815への電源供給を停止し、スイッチ704,804を開き、システム全体を、緊急ブレーキ中の滑止機能を抑制する状態にする。サービスブレーキ中であっても滑止機能を抑制する必要がある場合において、監視装置701,801が、安全な監視活動の実行ができない障害の影響を受けると、信号730,830は、それぞれ信号709,809に接続される。このように、ウォッチドッグ装置706,806は、監視装置701,801に障害が検出された場合、スイッチング素子731,831を開くことにより、サービスブレーキ中にも滑止装置703,803を抑制する。
【0100】
スイッチング素子712,812は、スイッチング素子202に機能的に対応し、空気電磁弁220のソレノイド204に対応するソレノイド715,815に電力を供給するために用いられる。スイッチング素子713,813は、スイッチング素子203に機能的に対応し、空気電磁弁221のソレノイド205に対応するソレノイド714,814に電力を供給するために用いられる。
【0101】
タイミング装置726,727は、図示していないクロックによって計測されるデジタルカウンタである。それらの内容は、それぞれ双方向バス724,725を介して監視装置701によって読み取られ、又は修正され得る。
【0102】
タイミング装置826,827は、アナログタイプの単安定である。2つのタイミング装置826,827によって計測される残り時間を知るために、監視装置801は、2つのソフトウェアカウンタ828,829を用いて、当該タイミング装置826,827の動作をエミュレートする。2つのソフトウェアカウンタ826,827には、個別のタイミング装置826,827の計測時間T1,T2に実質的に対応する時間が予めロードされる。制御信号208,209は、監視装置801によって読み取られる。コマンド信号208,818及び209,819の組み合わせが、個別の論理ゲート824,825を介して、個別のタイミング装置826,827を開始又はリセットすることによって処理される場合、監視装置801は、2つの個別のソフトウェアカウンタ826,827に対して同じ動作を実行し、これにより、個別のタイミング装置826,827の時間の計測状態の連続的でリアルタイムな情報を有する。
【0103】
監視装置701,801は、通常、信号732,733又は832,833を論理レベル「0」に維持し、論理ゲート「OR」734,735又は834,835を論理ゲート「AND」722,723又は822,823の出力信号のために透過的にする。
【0104】
監視装置701,801は、通常、信号720,721又は820,821を論理レベル「1」に維持し、論理ゲート「AND」722,723又は822,823がそれぞれ、当該論理ゲート722,723又は822,823への他の入力信号の状態に従って動作できるようにする。監視装置701,801によって信号720,721又は820,821が論理レベル「1」に保たれ、信号732,733又は832,833が論理レベル「0」に維持される場合、滑止装置703,803は、図2の回路について説明したのと同様に、タイミング装置726,727又は826,827に作用し、スイッチング素子712,713又は812,813に作用する。
【0105】
いつでも、例えば、監視装置701,801が滑止装置703,803の障害を検出したとき、監視回路701,801は、第1の解決方法として、信号730,830を用いて接点731,831を開くことにより、又は、信号818,819又は720,721又は820,821を論理レベル「0」にすることにより、滑止システムを抑制するように決定できる。さらに、監視装置701,801は、滑止装置703,803に代替することを決定でき、信号720,721又は820,821を論理レベル「0」にする滑止装置703,803を抑制し、個別の信号733,732又は833,832を用いてスイッチング素子712,713又は812,813を直接駆動することにより、ソレノイド715,714又は815,814の状態を直接制御する。この場合、監視装置701,801が使用するアルゴリズムは、非常に簡単な種類とすることができ、EN50128のSILが3以上の認証を簡素化し、例えば、車軸の瞬間速度の変化に敏感で、車軸の瞬間速度の閾値を有する簡単な微分アルゴリズムとすることができ、閾値以下では、滑止バルブユニットは、車輪のロック状態を避けるのに十分な時間、「空」状態にされる。
【0106】
監視装置701,801は、滑止装置703,803の動作を恒久的に監視し、各車軸102,103,104,105の瞬間線形速度の個々の挙動を、車両の線形的な基準速度と比較すると共に、各車軸102,103,104,105に固有のブレーキシリンダに対する各空気圧の状態を監視できる。
【0107】
さらに、監視装置701,801は、滑止装置703,803の出力208,209の状態を監視することができる。
【0108】
ブレーキシリンダ211への圧力の状態は、センサ222によって読み取られるブレーキ圧215と、圧力センサ223によって読み取られるブレーキシリンダ211への圧力との間の差として監視できる。
【0109】
完全なブレーキを示す「充填」状態は、ブレーキ圧215に実質的に等しいブレーキシリンダ211への圧力値に対応する。
【0110】
「保持」状態は、一定でブレーキ圧215よりも低いブレーキシリンダ211への圧力値に対応する。特に、当業者には、ブレーキ圧215とブレーキシリンダ211への圧力との差が、車軸とレールとの接触点における摩擦抵抗値を示すことが知られており、すなわち、この差が大きいほど、摩擦係数が小さくなる。
【0111】
ブレーキが完全に解放されたことを示す「空」状態は、ブレーキシリンダ211へのヌル圧力値に対応する。
【0112】
圧力センサ222,223がない場合、ブレーキシリンダ211への圧力の状態は、初めに提供した定義に従って制御信号208,209の状態から導出でき、すなわち、「充填」状態は、双方の空気電磁弁に電力が供給されていない状態に対応し、「維持」状態は、空気電磁弁220のみに電力が供給されている状態に対応し、「放出」状態は、空気電磁弁220,221に同時に電力が供給されている状態に対応する。
【0113】
各車軸102...105について、車両の基準速度に対する各車軸102,...,105の瞬間速度の個別の挙動と、各車軸102,...,105に固有のブレーキシリンダ111,...,114に対する各空気圧の状態に基づき、監視装置701,801は、正常な動作又は特定された障害の状況に応じて、各バルブユニット117,...,120に関連する時間T1,T2を処理しないことを決定し、又は延長し、短縮し、リセットすることを決定できる。
【0114】
監視装置が時間T1,T2を処理しないと決定する事例、又は、当該時間を延長することを決定する事例は、例えば、図4及び図5に示されているが、これらに限定されない。
【0115】
瞬間線形速度607が、TBより長い時間、許容範囲604の外側に留まる場合、監視装置は、処理しないと決定できる。
【0116】
監視装置が時間T1,T2の短縮又はリセットを決定する事例は、例えば、図6に示されているが、これに限定されない。
【0117】
監視装置701は、例えば、これらに限定されないが、バス724,725を介して、それぞれタイミング装置726,727の残りの時間を読み取ることにより、また、残り時間よりも大きい時間値を当該タイミング装置726,727にリロードすることにより、タイミング装置726,727の時間T1,T2をそれぞれ延長できる。監視装置701は、例えば、これに限定されないが、バス724,725を介して、タイミング装置726,727の残り時間を、それぞれ読み取ることにより、また、残り時間よりも短い時間値又はヌル値を当該タイミング装置726,727にリロードすることにより、タイミング装置726,727の時間T1,T2を短縮できる。
【0118】
監視装置801は、例えば、信号818,819に対して行われる高速の遷移1→0→1によってタイミング装置を、直接、再びトリガーすることにより、タイミング装置826,827の時間T1,T2をそれぞれ延長することができる。この場合、タイミング装置は、時間T1,T2をそれぞれリロードする。
【0119】
監視装置801は、例えば、信号818,819に対して行われる恒久的な遷移1→0によってタイミング装置826,827を恒久的に直接リセットすることにより、タイミング装置826,827の時間T1,T2を、それぞれリセットできる。
【0120】
第2のモードでは、監視装置701,801は、時間T1,T2を間接的に再びトリガーして、システムが不安定になるのを最小化することができ、その結果、滑止回路703,803自体が、タイミング装置726,727又は826,827を、直接、再びトリガーする。監視装置701,801は、ブレーキシリンダ221への圧力の低下を引き起こすのに十分な時間、信号732,733又は832,833にエネルギを与えることにより、「空」状態とすることにより、システムを不安定にでき、当該圧力の低下は、推定線形速度401を、許容範囲405の上側にするのに十分である。この点に関し、滑止装置は、アクティブで正常に動作している場合、信号208,209に作用してシステムを「充填」状態にすることにより、また、タイミング装置726,727又は826,827を再びトリガーすることによって反応する。さらに、滑止装置は、推定線形速度401を許容範囲405内にする。監視装置701,801は、滑止装置703,803の出力208,209を監視することにより、滑止装置703,803の正しい反応を検出する。
【0121】
さらに、監視装置701,801は、滑止装置701,801自体に要求することにより、滑止装置703,803に対し、通信手段750,850を介して行われた要求によって出力208,209を1→0→1に遷移させることができる。この方法は、図5に示す事例において特に有用であり、滑止装置は、車軸の推定線形速度501が許容範囲505内に入らない限り、その出力208,209を論理状態「1」に常に維持する傾向がある。上述した他の方法は、タイミング装置726,727又は826,826を再びトリガーし、時間を延長する目的を達成するが、出力208,209が遷移しないため、監視装置701,801が、滑止装置703,803の「寿命」の状態を確認できる。
【0122】
図7に示す事例では、監視装置701,801は、システムの障害を発見すると、タイミング装置726,727又は826,827が、時間T1,T2が経過するのを待たずに、利用可能な信号に作用することにより、即座にかつ恒久的にブレーキ圧を再び加えることを決定できる。
【0123】
さらに、監視装置は、上述したように滑止装置に代替することができ、滑止装置703,803を抑制して、信号720,721又は820,821を論理レベル「0」にし、信号733,732又は833,832を用いて、スイッチング素子712,713又は812,813をそれぞれ直接駆動することにより、ソレノイド715,714又は815,814の状態を直接制御する。
【0124】
図7又は図8の回路は、滑止装置101,703,803及び監視装置701,801に関連する各バルブユニット117,118,119,120に固有である。
【0125】
監視装置701,801が、滑止システム703,803の動作が正常である判断する基準を強化する1つの方法は、監視装置701,801が、接続手段750,850を介して、滑止システム703,803と、ハンドシェイクを連続して交換し、滑止装置の正常な反応を確認することである。
【0126】
接続手段750,850がハードワイヤード離散信号で構成される場合、例示的な方法であり、排他的でない方法が、図9に示されている。一組の離散信号750,850に属するデジタル信号901が、監視装置701,801によって生成され、滑止装置703,803によって受信される。一組の離散信号750,850に属するデジタル信号902が、滑止装置703,803によって生成され、監視装置701,801によって受信される。信号901は、例えば、様々な頻度で生成されるが、これに限定されない。信号902は、信号901に応答して生成され、すなわち、滑止装置703,803は、信号901の論理状態の各変化S1,S2,...Snについて信号902の論理状態の変化A1,A2,...Anで応答する。滑止装置703,803は、信号901を監視し、変化A1,A2,...を実行する。専ら滑止機能に関するプログラムフローに統合されたソフトウェア機能により、割り込み呼び出しによる実行から完全に解放される。最大時間TOK内において、信号902の論理状態A1,A2,...A2nの変化が、信号901の状態S1,S2,...Snの変化に応じて検出された場合、監視装置701,801は、滑止装置703,803の状態が正常であると判断する。
【0127】
接続手段750,850が通信チャネルで構成される場合、例示的であり、排他的ではない方法が、図10に示す情報の交換によって表されている。
【0128】
監視装置701,801は、滑止装置703,803に送信可能な情報のためのn個の要求のリスト1020を有する。情報の要求は、例えば、限定ではないが、システムの変化し得る状態に関連する情報のための要求を提供し、そのシステムの応答は、予め分からないが、監視装置701,801及び滑止装置703,803の双方からリアルタイムで取得できる。
【0129】
監視装置701,801は、フロー1001を周期的、例えば、排他的ではないが、様々な頻度で実行し、1002では、0÷nの範囲で乱数が生成され、ここで、nは、予定される情報の要求の最大数に対応し、情報の要求は、情報の要求のリスト1020から取得される。
【0130】
1003では、監視装置701,801が、接続手段750,850を構成する通信チャネルを介して、情報の要求を滑止装置703,803に送信する。
【0131】
1012では、滑止装置703,803が、受信した情報の要求に対する応答を処理する。
【0132】
1013では、滑止装置703,803は、処理された応答を監視装置701,801に送信する。
【0133】
次に、1004では、監視装置701,801が、1002において情報の要求1020のリストから取得された情報のための要求に対する応答を処理する。
【0134】
1005では、監視装置701,801は、監視装置が処理した応答と、滑止装置703,803が処理した応答が一致するか検証する。
【0135】
説明した双方の場合において、監視装置701,801は、滑止装置703,803による誤った反応を発見した場合、時間T1,T2を直ちにリセットし、スイッチング素子701,801を開くことにより、又は信号720,721,820,821を強制的に論理状態「0」にすることにより、滑止装置703,803の動作を停止することを決定できる。
【0136】
図7及び図8に記載されている機能は、様々な代替的な実施形態で実施することができる。
【0137】
監視回路701,801は、監視回路701,801を滑止システムと統合することによって滑止機能の全体の安全レベルをEN50126のSIL≧3とするアーキテクチャに従って、1以上のマイクロプロセッサにより、1以上のFPGA回路により、又はマイクロプロセッサ及びFPGA回路によって形成されたアセンブリにより、実装することができる。
【0138】
点線760内に含まれる回路部分に対応する機能は、任意で、監視装置701を構成するマイクロプロセッサ又はFPGA内のソフトウェアモードで完全に実装することができる。
【0139】
スイッチング素子704,710,731又は804,810,831は、リレー又はソリッドステート装置とし得る。
【0140】
上述した実施形態の限定は、現時点で好適な実施形態を構成するが、主要な請求項に規定された広範な範囲から逸脱することなく変更できる。
【0141】
このようにして得られる利点は、複雑でコストが削減された解決手段を通じて、既知の滑止装置による不所望の結果がもたらされるのを未然に防ぐ解決手段を得られることである。
【0142】
本発明に係る監視装置を実施するための方法の様々な態様及び実施形態について説明した。各実施形態は、他の任意の実施形態と組み合わせることができることが理解される。さらに、本発明は、説明した実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲内で変更できる。
図1
図2
図3
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図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】